krns-linkのブログ

まだ仮公開で、今後も本公開までドタバタします。コメント欄は有りません。ちなみに、拙ブログ作成者は医療関係者ではありません。拙ブログは訪問者の方々がお読みになるためのものですが、鵜呑みにしない等、自己責任でお読み下さい(念のため記述)。

化学物質過敏症における原因物質の曝露濃度について

① 本エントリ内の医学、脳科学及び仏教思想関係の様々な用語のリンク
(化学物質過敏症)診断のゴールド・スタンダード  Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医)の定義  嗅覚の過敏(※2[ご参考1][ご参考2]及び[ご参考3]参照)*1
扁桃体と前頭前野の結合性 *2  馴化(消去学習を含む)*3ここここここ及びここ参照)  プラセボ及びノセボ反応の無意識活性化  ストレス反応
記憶(ここここ及びここここここここここ及びここ参照)  嗅覚の生理・心理学  各種疾患・障害における脳科学 *4
脳幹、視床下部、扁桃体、海馬、大脳辺縁系、前頭葉、前頭前皮質、内側前頭前皮質 *5  情動と理性 *6  闘争/逃走モード(ここの「ストレス反応を制御する――監視塔」項参照)
マインドフルネス瞑想、ヨガ(ここの「ストレス反応を制御する――監視塔」項参照)  辺縁系セラピー  PTSD と臭気との関連 *7
香気物質 *8  カビ臭  人体から発生するにおい物質  森林浴・森林セラピー
メディカル・アロマセラピー、精油の成分  アロマセラピーにおけるシステマティック・レビュー(ここ及びここ)  においの快不快(ここ及びここ
プルースト現象 *9  嗅覚の学習記憶  味覚と嗅覚の連合学習  臭い想起記憶  
におい物質の嗅覚閾値ここ及びここ)  低濃度と高濃度で匂いの質の異なる香気物質(分子)があること
日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体  香気物質の揮発性と分子量の小ささとの関係  ニューロ・ガストロノミー  悪臭苦情件数
一つ一つの現象をありのままに見て、イメージを作らない(ここここ)  瞑想における「ラべリング技法」の問題点(「たかが言葉」、「されど言葉」)  放逸
欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知の仕方から身を離す  ありのままの現象を認知する  如実知見  「状態と意味に対する微細な囚われ」が瞑想の罠
ルール支配行動  認知行動療法におけるセルフモニタリングによる気づきの必要性  「二次感情」である怒りを伴う状態でのコミュニケーション
匂いは嗅覚受容体と結合した匂い物質によって形成されているものに過ぎない  雑音過敏  MCS と雑音過敏及び聴覚過敏との関連  聴覚過敏

② 他の拙エントリにおける仏教思想関係用語のリンク
「言葉の世界全体から距離を取る」  「音は現実ですが、言葉と意味は私たちが作り出したもの」

ご参考:他の拙エントリのリンク集(ここ及びここ参照)にも、一部ですが本エントリに関連した用語のリンクがあります。

はじめに

ご参考:ちなみに、本エントリ作成のプロセスは他の拙エントリのここで示すものと似ている点があります。

化学物質過敏症における原因物質(以下原因物質と略する)の曝露濃度については、「NATROMの日記」のコメント欄(旧id)に一部を紹介済みですが、yutanpo1984様による次のツイートに関連して、本エントリを作成しました。https://twitter.com/yutanpo1984/status/590782621862461440又はここ参照。ただし、「香料」ではなく、原因物質*10の「臭い」についてですが。ちなみに、i) 1ppm=1000ppb、1%=10000ppm です。 ii) 本エントリにおいて、a) 用語「MCS」は Multiple chemical sensitivity[多種化学物質過敏状態]の略です。 b) 用語「IEI」は Idiopathic Environmental Intolerance[突発性環境不耐症又は本態性環境不耐症]の略です。他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 本エントリに関連する「嗅覚」についての動画がツイートに紹介されています。

≪主な改訂の履歴≫
2015年6月11日、12日、14日、16日、8月26日、2016年1月9日、7月1日、4日、10日、15日、23日、2016年10月3日、2017年1月28日、30日、3月26日、29日、4月10日、20日、5月3日、6月4日、7月2日、9日、13日、17日、27日、31日、8月4日、10日、14日、21日、27日、30日、9月8日、11日、16日、11月2日、12日、12月13日、27日、2018年1月28日、2月5日、8日、18日、3月14日、5月18日、25日、6月20日、7月10日、26日:項目の追加、文章の追記をはじめとした改訂を実施しました。

背景

William J Rea 医師をはじめとする Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医、以下臨床環境医と称する※1)は、MCS、CS、化学物質過敏症(以下まとめて化学物質過敏症と称する)を提唱しました。疾患概念である化学物質過敏症の存在を立証する責任は臨床環境医側にあります。そこで彼らは立証のための盲検法による誘発試験(負荷試験、チャレンジテストとも称する、例えば、次の複数の引用参照)を考案し、複数実践しましたが、誘発試験のシステマテック・レビューにより化学物質過敏症の存在を否定されています。

原因物質の曝露濃度

臨床環境医が考案した上記誘発試験で適用した代表的な原因物質(ホルムアルデヒド及びトルエン)の曝露濃度等*11を以下の引用等で示し、次にまとめました。原因物質の曝露濃度のレベルについての考察を以下に試みます。

曝露濃度のまとめと結論

(ア)ホルムアルデヒド

嗅覚や刺激閾値0.5ppm (500ppb)又は200~300ppb
室内濃度指針値:80ppb
誘発試験での曝露濃度:8ppb、40ppb、80ppb又は40ppb、80ppb *12

(イ)トルエン

嗅覚や刺激閾値0.9ppm (900ppb)又は0.33ppm (330ppb)
室内濃度指針値:70ppb
誘発試験での曝露濃度:5ppb、10ppb、25ppb又は35ppb、70ppb

(ウ)結論

これらのまとめより、化学物質過敏症おける原因物質*13の曝露濃度は、嗅覚や刺激閾値よりさらに低い室内濃度指針値以下の濃度*14であると本エントリ作者は考えます。これに従うならば、臭う※2 *15原因物質に反応するのは(臨床環境医が提唱した)化学物質過敏症とは異なる状態である可能性が高いと本エントリ作者は考えます*16

ちなみに、日本臨床環境医学会編の本「シックハウス症候群マニュアル 日常診療のガイドブック」からの引用由来のもので、次に示す記述があります。MCS及び化学物質過敏症「医学的な定義はまだ確立されておらず,社会的な関心が先行し言葉が独り歩きし,混乱が生じている.」

(エ) 引用等

一方、臨床環境医が提唱した原因物質の曝露濃度及びその関連情報については上記コメントと一部重なるかもしれませんが、以下に引用等により説明します。

(1) 一般論
a) 柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第二章 化学物質過敏症の症状 (この章は石川氏と宮田氏が解説)の 「在来型の中毒とは違う」項の記述の一部(P128~P129)を次に引用します。

ところがいまや、内分泌攪乱物質=環境ホルモンにしても、化学物質過敏症にしても、またアレルギーにしても、体重1キログラム当たり1ナノグラム(10億分の1グラム)から10ナノグラム、あるいはさらに微量の化学物質の刺激に反応することが問題になっている。古典的な中毒はミリグラム、つまり1000分の1グラムの世界である。現在の問題は、それからさらに低い100万分の1以下の世界なのである。

b) 宮田幹夫著の本「化学物質過敏症 忍び寄る現在病の早期発見と治療」(2001年発行)の「Part3 発症のしくみ」 における記述の一部(P21)を次に引用します。

化学物質過敏症の場合、ppb、つまり約1ミリリットル当たり1ナノグラム(10億分の1グラム)から、ppt、つまり約1ミリリットル当たり1ピコグラム(1兆分の1グラム)という、日常生活で使う単位とはかけ離れたごくわずかな量でも発症するようになってしまうのです。

c) 米山啓一郎*17著の文書「シックハウス症候群・化学物質過敏症・シックスクール症候群の現況」の「医学的考察」項における記述の一部(P160)を次に引用します。

2. 化学物質過敏症
化学物質過敏症厚生労働省の室内濃度指針の1/10から1/20など,通常の人なら適応できるような極めて微量でも症状が出てきてしまう場合で,したがって居住空間だけでなくあらゆる場所や,日常品に対して症状がでるため,社会生活になんらかの制限を持つもの.」と定義している.

d) 公的なWEBページ「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会 中間報告書-第1回~第3回のまとめについて」の「シックハウス(室内空気汚染)問題に関連する用語の理解について」項における記述の一部を次に引用します。

化学物質過敏症

「快適で健康的な住宅に関する検討会議」報告書(平成11年1月)、厚生科学研究「化学物質過敏症に関する研究(主任研究者 石川 哲)」(平成8年度)によれば、下記のとおり。
最初にある程度の量の化学物質に暴露されるか、あるいは低濃度の化学物質に長期間反復暴露されて、一旦過敏状態になると、その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来す者があり、化学物質過敏症と呼ばれている。化学物質との因果関係や発生機序については未解明な部分が多く、今後の研究の進展が期待される。

(2) 有力な原因物質とその室内濃度指針値
a) 有力な原因物質
柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第四章 誰もが化学物質過敏症になりうる (この章は石川氏、宮田氏及び柳沢氏の議論)の「まず空気から汚れをとる」項の記述の一部(P186)

柳沢 患者がこれ以上増えないようにするには、いま、一番、何が必要ですか。(中略)
宮田 一番大事なのは、やはり空気の汚れの除去ですね。
柳沢 具体的に、物質として言うと何でしょう。
石川 ホルムアルデヒドが一、有機リンが二、トルエンが三、その他が四、総量規制でVOC(揮発性有機化学物質類)を抑えるというのが五、という順番ですね。

注:本エントリでは主に有力な原因物質であるホルムアルデヒドトルエンについて言及します。

b) 化学物質の室内濃度指針値
シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会(検討会)」(座長:林裕造元国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長)の中間報告書に基づき、策定した化学物質の室内濃度指針値は、ホルムアルデヒドトルエンでそれぞれ 0.08ppm (80ppb)、0.07ppm (70ppb) です。次のWEBページ参照及び科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)の「巻末資料 表-2」(P239)を参照して下さい。

(3) ホルムアルデヒドの曝露濃度
a) 柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第四章 誰もが化学物質過敏症になりうる (この章は石川氏、宮田氏及び柳沢氏の議論)の「どのようにして病気を知るか」項の記述の一部(P176~P177)を次に引用します。

石川 (中略)宮田先生たちが大変な努力をして調べたところ、ホルムアルデヒド濃度が八〇ppb以下でも反応する患者がいる。四〇ppbでも反応する。さらに、八ppbでも反応する患者がいました。ホルムアルデヒドの臭いは、通常の人間の臭覚では、二〇〇ppbから三〇〇ppbにならないと感じません。

注:i) 引用中の「八ppb」は、資料「特発性環境不耐症(いわゆる「化学物質過敏症」)患者に対する単盲検法による化学物質曝露負荷試験」でも次に引用するように話題となっています。 ii) さらに、この資料におけるホルムアルデヒドの嗅覚や刺激閾値の記述について次に引用します。

一方,宮田らは,環境省研究班の 2001 年度分データの大部分を用いた論文において,8ppb という「極めて微量のホルムアルデヒド曝露で自律神経機能が変動する」結果を得たとし,「多種化学物質過敏症患者は極めて微量な化学物質に反応することを,客観的に明らかとなし得た」と結論づけている.

(中略)

FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppmと言われている(中略)

注:i) 引用中の「FA」はホルムアルデヒドのことです。 ii) 引用中の文献番号の表示は省略しています。 iii) 引用中の「FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppm」についてはここを参照して下さい。

(4) トルエンの曝露濃度
a) 日本化学工業協会 研究支援自主活動 Annual Report 2006 (P79) の表題「化学物質過敏症診断体系確立の試み:問診票、匂い認知・情動検査、脳画像検査を用いた総合的診断」の研究概要*18(注:現在リンク不能になっています)の【方法】項の一部を次に引用します。

MCSと診断された患者13名(男性7名、女性6名)と対照群11名(男性5名、女性6名)の合計24名に対して、微量発生装置で発生させた低濃度トルエン(5ppb、10ppb、25ppb)と純空気、フェニルエチルアルコール(PEA)10ppmを、被験者がfMRIに臥した状態で鼻部に送気した。曝露は各濃度につき5回繰り返して行った。

注:i) フェニルエチルアルコールは芳香物質として臭いを知覚させるためにこの濃度を採用したようです。ちなみに、上記「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用

b) 資料「特発性環境不耐症(いわゆる「化学物質過敏症」)患者に対する単盲検法による化学物質曝露負荷試験*19では、次に曝露濃度を引用するように、トルエン負荷試験ついて報告されています。

曝露濃度は,先行研究を参考にして,厚労省の室内環境汚染物質の指針値,その半量,および空気曝露,すなわちプラセボとした.したがって,FA濃度は0・40・80ppb,T濃度は 0・35・70ppb であった.Tのヒトにおける嗅覚閾値濃度は3,343μg/m3(0.9ppm),FAの嗅覚や刺激閾値は 0.5ppmと言われていることから,これらの曝露濃度はいずれも臭いや刺激を感じない程度の濃度である.

注:i) 引用中の「FA」と「T」は、それぞれホルムアルデヒドトルエンのことです。 ii) 引用中の「厚労省の室内環境汚染物質の指針値」は、「室内濃度指針値」のことです。 iii) 都合によりホルムアルデヒドの引用も含めています。 iv) 引用中の文献番号の表示は省略しています。 v) 引用中の「T のヒトにおける嗅覚閾値濃度は3,343μg/m3(0.9ppm)」に関連して、これとは異なるトルエンのヒトにおける嗅覚閾値濃度(0.33ppm)はここを参照して下さい。 vi) 引用中の「FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppm」についてはここを参照して下さい。

(5) 他の誘発試験における曝露濃度(参考)
a) 資料「化学物質過敏症」の「MCS診断と検査の実際」項における記述の一部を次に引用します。

たとえば、Rea によると、①都市ガス、②エチルアルコール、③フェノール、④塩素ガス、⑤フォルマリン、⑥有機塩素系殺虫剤(たとえばBHC等)、⑦フェノキシ系除草剤(2,4-Dなど)、⑧水蒸気(都市水道、井戸水、ミネラルウォーター)、などの物質と接触させて患者の反応を外から見る。その量はたとえば農薬では、0.003ppm以下で、他は0.025ppm前後でチャレンジを行っている。このテストにより MCS とそうでない psychogenic な患者とは完全に識別され、診断を設定し治療が行われることとなる。

注:i) 引用中の「Rea」は、William J Rea 医師(参照)のことです。 ii) 引用中の「チャレンジを行っている」は、「チャレンジテストを行っている」という意味です。ちなみに、チャレンジテストは誘発(負荷)試験の別名です。同資料の「環境チャレンジテスト(負荷テスト)」項を参照して下さい。 iii) 引用中の「psychogenic な」は、「心因性の」と訳すようです。 iv) 文献番号の引用は省略しています。 v) 引用中の「MCS とそうでない psychogenic な患者とは完全に識別」に関連する、 a) 「化学物質の負荷検査で確認されれば、確実な証拠になります」については、他の拙エントリのここを、 b) 一方「条件付けによる病態を除外する方法が二重盲検法以外にはない」ことについては、他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。

b) 資料「化学物質過敏症の診断 -化学物質負荷試験51症例のまとめ*20の抄録を次に引用します。

【背景・目的】化学物質過敏症は診断の決め手となるような客観的な検査所見が無く,病歴,QEESI点数、臨床検査(他疾患の除外)等から総合判断として診断している.診断のゴールド・スタンダードは負荷試験であるが,これも自覚症状の変化を判定の目安として使わざるを得ない.そういう制約はあるが,我々の施設ではこれまで化学物質負荷試験を,確定診断の目的で施行してきた.
【方法】当院内の負荷ブースを用い,ホルムアルデヒド,あるいはトルエンを負荷した.負荷濃度は最高でも居住環境指針値とした.また負荷方法は従前はオープン試験によったが,最近はシングル・ブラインド試験を施行している.
【結果】これまで51名の患者に延べ59回の負荷試験を行った.オープン試験を行った40名のうち,陽性例は18名,陰性例は22名であった.陰性判定理由は症状が誘発されなかった例が11名,実際の負荷が始まる前に(モニター上負荷物質濃度上昇が検出される前に)症状が出た例が11名であった.ブラインド試験は11名に施行し,陽性が4名,陰性が7名であった.
【結語】化学物質負荷試験は現時点でもっとも有力な化学物質過敏症の診断法であり,共通のプロトコールを作成し行われるべきである.

注:i) 引用中の「居住環境指針値」は、「室内濃度指針値」のことです。 ii) 引用中の「オープン試験」は、「ブラインド試験」とは異なり盲検化していない試験のようです。 iii) 引用中の「ゴールド・スタンダード」は、診断の精度が高いものとして広く容認された手法のようです。

※1:本エントリにおける Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医) の定義について
1994年の報告書、正確には、
Indoor Air Pollution: An Introduction for Health Professionals の Who are "clinical ecologists"? において、clinical ecologists に関する、次に引用する記述があります。

Who are "clinical ecologists"?

"Clinical ecology", while not a recognized conventional medical specialty, has drawn the attention of health care professionals as well as laypersons. The organization of clinical ecologists-physicians who treat individuals believed to be suffering from "total allergy" or "multiple chemical sensitivity" -- was founded as the Society for Clinical Ecology and is now known as the American Academy of Environmental Medicine. Its ranks have attracted allergists and physicians from other traditional medical specialties.


[拙訳]
”臨床環境医”("clinical ecologists")は誰か?

”臨床環境医学”("Clinical ecology")は、主流医学の専門分野とは認識されていないが、非専門家はもちろんヘルスケア専門家の注目を引いている。"total allergy" 又は”MCS”("multiple chemical sensitivity")を患っていると信じられている個人を治療する臨床環境医-医師[訳注]の組織が臨床環境医学会(Society for Clinical Ecology)として設立され、現在では、米国環境医学アカデミー(American Academy of Environmental Medicine)として知られる。そのランクにより、他の伝統医学の専門分野から、アレルギー医や医師[訳注]を引きつけてきた。

訳注:特に内科医を指すこともあるようです。

すなわち、この報告書によれば、clinical ecologists とは、米国環境医学アカデミー(American Academy of Environmental Medicine)に所属している方々です。ただし、本エントリにおいては、このアカデミーの元 President(1978年)であった William J Rea 医師の流れを汲む石川医師宮田医師を含めて Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医)と呼ぶこととします。

一方、William J Rea 医師と石川医師、宮田医師との関係を示す例は、他の拙エントリのここを参照して下さい。

ちなみに、冗長かもしれませんが、日本における「臨床環境医」の区別に関しては、別の拙エントリの【余談1】【余談2】【余談3】【余談4】及び【余談5】を参照して下さい。

※2:ここは次の脳機能の説明、調節と調整との使い分け[ご参考1][ご参考2]及び[ご参考3]から構成されています。

脳機能の説明
以下の[ご参考1]~[ご参考3]で、脳科学に関連する様々な論文の一部又は要旨を引用しています。これらの論文をよりよく理解するための参考として、脳科学における様々な説明を以下に紹介します。*21 ストレスによる前頭前皮質及び大脳辺縁系への影響については、例えば拙エントリのここを参照して下さい。 ADHDにおける臨床症状と脳内神経回路の関連については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 愛着障害の視点からの報酬系についてについては、例えば次の資料を参照して下さい。 『研究成果「愛着障害児における報酬系機能の低下を解明」』 パニック症(パニック障害)又は「Stress-induced fear circuitry disorders」における Stress-induced fear circuit については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「パニック症 - 脳科学辞典」の「病態仮説」項 加えて、パニック症における情動の特徴については他の拙エントリのここを参照して下さい。 さらに、パニック障害のリスク因子としてのストレスについてついては他の拙エントリのここを参照して下さい。 社交不安症における脳活動に関する研究についてはここを、加えて、「パニック症、社交不安症、特定の恐怖症等は扁桃体の過活動を前頭前野が抑制できなくなった状態であると考えることができること」については他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。 強迫症(強迫性障害)における OCD-loop については、他の拙エントリのここここを参照して下さい。加えて、強迫症状の誘発における機能神経画像法の研究のメタアナリシスについては、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 PTSD又は複雑性PTSDの視点からの大脳辺縁系と前頭葉との関連等について、a) べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第4章 命からがら逃げる――サバイバルの分析 の「脳――下から上へ」、「互いを真似る――対人関係の神経生物学」、「危険を突き止める――料理人と煙探知機」、「ストレス反応を制御する――監視塔」、「騎手と馬」における記述の一部(P093~P122) b) 友田明美、藤澤玲子著の本、「虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ」及び友田明美著の本、「子どもの親を傷つける親たち」からの記述(詳細はここ参照)をそれぞれ以下に引用します。加えて、PTSD と臭気との関連については、ここを参照して下さい。 プラセボ及びノセボ反応における無意識活性化又は信号の変化、及び脳科学については、それぞれ他の拙エントリのここここ及びここ(注:ここで紹介した論文の一部は嫌悪を伴う臭いのノセボ効果に関するものです)を参照して下さい。加えて、マニュアル「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「3.4.4. 化学物質過敏状態が引き起こされるメカニズム」項(P53)を参照して下さい。さらに、条件付けに関しては、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 嗅覚の生理・心理学に関しては、例えば資料「五感情報通信技術に関する調査研究会 報 告 書」の 2-5 嗅覚 の「2-5-1 生理学・心理学」(P60~P65)を参照して下さい。 ストレス反応における重要な脳部位については、例えばWEBページ「ストレス - 脳科学辞典」の「ストレス神経系」項を参照して下さい。 シックハウス症候群と見紛うような条件付けについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 化学物質過敏症(本態性環境不耐症)又は MCS における、脳科学と関連する化学物質が刺激となって生じる感覚モデルの注目点について、マニュアル「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「11.3. MCS における臭いに対する脳の反応と症状の出現」項における記述の一部(P205~P206)を以下に引用します。 治療・対処法の視点からは、a) 心身医学でのマインドフルネスにおける前部帯状回皮質、前頭前野、側頭頭頂接合部の役割に関しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。*22 b) コーピングにおける内側前頭前皮質の役割に関しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) ヨーガにおける内側前頭前皮質と島の役割に関しては、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 ちなみに、においによって誘発される頭痛については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「においによって誘発される頭痛は片頭痛と片頭痛以外の一次性頭痛の鑑別要因になるか?

脳――下から上へ

脳の最重要課題は、最も悲惨な状況下にあってさえ、生存を確保することだ。それ以外はすべて二の次となる。脳は生存を確保するために、以下のことをする必要がある。(1)食物、休養、保護、生殖、住みかといった、体が必要とするものを示す内部信号を生み出す。(2)そうした必要性を満たすためにどこへ行くべきかを示す、周りの世界の地図を制作する。(3)そこへ行き着くために必要なエネルギーと行動を生じさせる。(4)途中で遭遇する危険や好機について注意を促す。(5)その時々の必要に応じて行動を調節する(4)。私たち人間は哺乳動物、つまり、集団でしか生存も繁栄もできない生き物なので、これらの必要のどれを満たすのにも、協調と協働が欠かせない。精神的な問題は、内部信号がうまく働かないときや、自分の地図をたどっても行くべき場所に行き着けないとき、体が麻痺してしまって動けないとき、行動が必要性と一致しないとき、あるいは、人間関係が破綻したときに起こる。私が論じる脳組織はどれも、こうした不可欠の機能の実行に果たす役割があり、これから見るように、トラウマはそれらのどれをも妨害しうる。
私たちの理性的で認知的な脳は、じつは脳の最も新しい部位で、頭蓋骨内の領域の三割程度しか占めていない。理性脳はおもに私たちの外の世界とかかわっており、物事や人々がどのように機能するかを理解したり、自分の目標の達成法や、時間の管理法、行動の順序立ての仕方を考え出したりする。この理性脳の下には、進化上もっと古く、ある意味で別個の脳が二つあり、それ以外のことをすべて受け持っている。そのときそのときの体の生理的作用を認識したり管理したり、快適さや安全、脅威、空腹、疲労、欲望、熱望、興奮、喜び、痛みなどを識別したりする。
脳は下から上へと構築されている。進化の間に起こったのとちょうど同じように、どの子供でも、子宮の中で一層ずつ発達していく。最も原始的な部分、すなわち私たちが生まれたときにはすでに稼働している部分は、古い動物脳で、しばしば「爬虫類脳」と呼ばれる。脳幹にあり、脊髄が頭蓋骨に入る場所のすぐ上に位置する。新生児ができること――食べ、眠り、目覚め、泣き、呼吸をすることも、温度や空腹、おむつの湿り気、痛みを感じることも、排尿や排便で毒素を体外に出すことも――は、すべてこの爬虫類脳が受け持っている。脳幹とそのすぐ上にある視床下部は、いっしょに体のエネルギー水準を制御する。両者は心臓と肺の機能を協調させ、また内分泌系と免疫系の機能も協調させ、これらの基本的な生命維持システムが、「ホメオスタシス」と呼ばれる比較的安定した体内の均衡の範囲に確実に維持されるようにする。
呼吸、食事、睡眠、排便、排尿はあまりにも根本的なので、私たちは心と行動の複雑さについて考えているときにその重要性をあっさり無視してしまう。だが、睡眠が妨げられたり、腸が機能しなかったり、つねに空腹感があったり、(トラウマを負った子供や大人がしばしばそうであるように)触れられただけで思わず悲鳴を上げたくなったりすると、生体全体が平衡を失う。精神の問題のじつに多くが、睡眠や食欲、接触、消化、覚醒の困難を伴うのには驚かされる。トラウマの効果的な治療法はどんなものであれ、こうした体の基本的な「維持管理業務」に取り組む必要がある。
爬虫類脳のすぐ上には、大脳辺縁系が位置している。大脳辺縁系は「哺乳類脳」とも呼ばれる。集団で生活し、子供を養育する動物は、すべて大脳辺縁系を持っているからだ。脳のこの部位の発達は、私たちが生まれたあとに本格化する。そこは情動の座であり、危険の監視装置であり、何が楽しくて何が恐ろしいかの判断者であり、生命の維持にとって何が重要で何が重要でないかの裁定者だ。また、複雑な社会的ネットワークの中で生きていくうえで生じる難題に対処するための中央指令所でもある。
大脳辺縁系は、私たち自身の遺伝的構成と持って生まれた気質と協働しなから、経験に応じて形作られる(複数の子供を持つ親なら誰もがたちまち気づくように、赤ん坊は誕生時から、同じような出来事に対する反応の度合いと性質が異なる)。赤ん坊の身に起こることは何であれ、発達中の脳が生み出す、周りの世界の情動的・知覚的地図に反映される。私の同業者のブルース・ペリーが説明しているように、脳は「使用依存(使用するほど発達する)様式」で形成される(5)。これは神経可塑性の言い換えに等しい。神経可塑性は比較的新しい発見で、「いっしょに発火する」ニューロンは「つながる」というものだ。ある回路が繰り返し発火すると、それがデフォルト設定、すなわち、最も起こりそうな反応になりうる。もしあなたが安全で愛されていると感じれば、あなたの脳は探検や遊び、協力が得意になるが、あなたがおびえていて、望まれていないと感じれば、脳は恐れや遺棄されたという感情を管理するのが専門になる。
私たちは赤ん坊や幼児のころ、動いたり、つかんだり、這ったりすることで、また、泣いたり、微笑んだり、抗議したりすると何が起こるかを発見することで、周りの世界について学ぶ。私たちは絶えず環境を相手に実験している。環境と私たちの相互作用によって、体の感じ方がどう変わるか。二歳児の誕生会に出席すれば、嫌でも気づくだろう。その幼い子は、言葉などまったく必要とせずに、あなたの注意を惹き、あなたと遊び、戯れる。幼いころのこうした探検によって、情動と記憶を専門とする大脳辺縁系が形作られるが、この部位は、のちの経験によっても大幅に改変されうる。たとえば、緊密な交友関係あるいは美しい初恋によって良い方へ、また、暴行、容赦のないいじめ、あるいはネグレクトによって悪い方へ、という具合に。
爬虫類脳と大脳辺縁系とがいっしょになって、本書を通して私が「情動脳」と呼ぶものを形成している(6)。情動脳は中枢神経系の核心にあり、その主要な任務は、人が健康で快適な暮らしを送れるように気を配ることだ。情動脳は、危険、あるいは特別な機会(たとえば、伴侶の候補)を感知すると、ホルモンを放出して知らせる。その結果生じる、内臓感覚(軽いむかつきから、胸に湧き起こる逃れようのないパニックまで)のせいで、何であれ今あなたの心が注意を集中していることに差し障りが出て、身体的にも精神的にも、異なる方向にあなたを向かわせる。そのような感覚は、たとえどれほどかすかであっても、私たちが人生を通して下す大小の決定に対してじつに大きな影響力を持っており、たとえば、何を食べることにするか、どこで誰と寝たいか、どんな音楽を好むか、庭仕事をしたいか、それとも合唱隊で歌いたいか、誰と友達になり、誰を嫌うか、などを左右する。
私たちの理性脳である新皮質と比べると、情動脳は分子的構成と生化学的作用が単純で、入ってくる情報をより全体的なかたちで評価する。そのため、理性脳とは対照的に、情動脳はおおまかな類似性に基づいて速断するが、理性脳は多種多様な選択肢を篩にかけるように構成されている(ヘビを目にして恐怖で飛びのいたら、ロープがとぐろのように巻いてあるだけだったというのが典型的な例だ)。情動脳は、闘争/逃走反応のような、あらかじめプログラムされた避難計画を開始する。そのような筋肉の反応や生理的な反応は自動的で、私たちが何も考えたり計画したりしなくても始動し、意識ある理性的な能力はあとから追い着くかたちになり、そのころにはとうの昔に脅威が過ぎ去っていることも多い。
ここでようやく私たちは脳の最上層である新皮質にたどり着く。他の哺乳動物もこの脳の外側の層を持っているが、私たち人間の新皮質のほうがはるかに厚い。人間は生まれて二年目になると、新皮質のかなりの部分を占める前頭葉が急速に発達し始める。古代の哲学者たちは七歳を、善悪をわきまえる時期としている。私たちにとって小学校の第一学年は、来るべきもの、すなわち、前頭葉の能力を中心に構成された生活の準備期間にあたる。じっと座っている、括約筋の動きを調節する、行動に訴える代わりに言葉を使えるようになる、抽象的な考えや象徴的な考えを理解する、明日に備えて計画を立てる、教師やクラスメイトと協調するといったことをこの間に学ぶのた。
私たちが動物界で唯一無二の存在であるのは、この前頭葉が与えてくれる資質のおかげだ(7)。前頭葉があるから私たちは言語が使えるし、抽象的な思考ができる。また、厖大な量の情報を吸収・統合し、それに意味を与えることも可能になる。チンパンジーやアカゲザルが言語を使って成し遂げる偉業に私たちは胸を躍らせているとはいえ、私たちの生活を形作る、共同社会の状況や、精神的状況、歴史的背景を生み出すのに必要な単語や記号を使いこなせるのは、人間だけだ。
前頭葉のおかげで私たちは計画を立てたり、反省したり、未来のシナリオを思い描いてたどったりできる。また、ある行動をとったり(たとえば、新たに求人に応募する)、とるのを怠ったり(たとえば、家賃を払わない)すればどうなるかを予想しやすくもなる。前頭葉は選択を可能にし、私たちの驚異的な創造力の基礎となる。幾世代もの前頭葉が緊密に協働することで、文化が生み出され、私たちは丸木舟や馬車、手紙から、ジェット機やハイブリッド車、電子メールへと行き着いた。(中略)

互いを真似る――対人関係の神経生物学(中略)

脳に損傷を負った人を相手にしたり、認知症の親の世話をしたりした経験のある人なら誰もが思い知らされたことだろうが、人間どうしが仲良くやっていくためには、前頭葉が正常に機能していることが決定的に重要だ。他者は自分とは違う考え方や感じ方をしうるのに気づくことが、二歳児や三歳児にとって発達上の大きな進歩となる。彼らは他者の動機を理解することを学び、さまざまな認識や期待、価値観を持つ集団に適応し、その中で安全でいられるようになる。人は、柔軟で活発な前頭葉がなければ、惰性で動く生き物と化し、人間関係が皮相的で型にはまったものになる。そこには、発明やイノベーション、発見や驚異が、すべて欠けている。
私たちの前頭葉はまた、きまり悪い思いをするようなことや他者を傷つけるようなことを私たちがするのを(いつもではないがときおり)、止めてくれる。私たちは、空腹を覚えたときにいつでも食べたり、欲望を掻き立てる人なら誰にでもキスしたり、腹が立ったときにいつでも怒りを爆発させたりする必要はない。だが、厄介事のほとんどは、衝動と許容できる行動との間の、まさにこの境界で始まる。内臓で経験する情動脳からの感覚入力が強烈であればあるほど、それに水を差す理性脳の能力が弱まる。

危険を突き止める――料理人と煙探知機

危険は人生にはつきもので、その危険を感知して反応を構成する役割は脳が担当している。外の世界についての感覚情報は、目や鼻、耳、肌を通して入ってくる。こうした感覚は視床に集まる。視床というのは、大脳辺縁系内にある領域で、脳の中で「料理人」の役割を果たす。視床は知覚からの入力をすべて掻き回して、すっかり混ざり合った自伝的スープ、すなわち「これが私に起こっていることだ」という、統合され、首尾一貫した経験に変える(10)。次に感覚は二手に分かれ、一方は下に向かって、大脳辺縁系の無意識の脳の奥深くにある、扁桃体(アーモンド形をした二つの小さな組織)へ伝えられ、もう一方は上へ向かって前頭葉へ伝えられ、そこで私たちの意識的自覚に達する。神経科学者のジョセフ・ルドゥーは、扁桃体への道筋を「低い道」、前頭皮質への道筋を「高い道」と呼んでいる。前者は非常に速く、後者は圧倒的な脅威を与える体験のさなかで、数ミリ秒長くかかる。だが、視床での処理は破綻を来しうる。その場合、光景や音、声、匂い、触感は、それぞれ孤立し、解離した断片としてコード化され、正常な記憶処理が崩壊する。時間が凍りつくので、現在の危険が永遠に続くように感じられる。
扁桃体の中心的な機能は、入ってくる情報が生命の維持に関係があるかどうかを識別することで(11)、私は扁桃体を脳の「煙探知機」と呼んでいる。この識別は、迅速かつ自動的に行なわれ、それを助けるのが海馬からのフィードバックだ。海馬は扁桃体の近くにある組織で、新しい情報を過去の経験と関連づける。扁桃体は、迫ってくる自動車との衝突の可能性や、恐ろしげな通りがかりの人といった脅威を感知すると、視床下部と脳幹へただちにメッセージを送り、ストレスホルモン系と自律神経系を動員して、全身の反応をまとめ上げる。扁桃体は前頭葉よりも速く視床からの情報を処理するので、私たちが危険について意識的に自覚しないうちに、入ってくる情報が生命の維持にとって脅威になるかどうかを判断する。何が起こっているかに私たちが気づいたときには、体がすでに動きだしている場合がある。
扁桃体が危険信号を発すると、コルチゾールやアドレナリンなど、強力なストレスホルモンの分泌が引き起こされ、それによって心搏数と呼吸数が増え、血圧が上がり、反撃したり逃げ出したりする準備が整う。危険が過ぎ去ると、体はかなり素早く通常の状態に戻る。だが、この回復が妨げられると、そのせいで体は自らを防御する態勢に入り、人は興奮や覚醒を感じる。
煙探知機は普通、危険の手掛かりを捉えるのが非常に得意だが、トラウマを負うと、状況が危険か安全かの解釈を誤る可能性が増す。人は、相手の意図が親切なものか危険なものかを正確に判断できて初めて、他者と仲良くやっていける。少しでも解釈を誤れば、家庭や職場の人間関係における不快な誤解につながりうる。複雑な職場環境ややんちゃな子供だらけの家庭でてきぱきと物事を処理するには、人がどのように感じているかを素早く評価し、それに即して絶えず自分の行動を調節する能力が必要とされる。だが、警報システムに欠陥があると、何でもない言葉や表情に反応して感情を爆発させたり、機能停止に陥ったりしてしまう。

ストレス反応を制御する――監視塔

もし扁桃体が脳の煙探知機なら、前頭葉(それもとくに、目のすぐ上に位置する内側前頭前皮質(12))は、高い場所から現場の眺めを提供してくれる監視塔と考えればいい。あなたが嗅ぎつけたあの煙は、家が火事になってさっさと逃げ出す必要があるという合図なのか、それとも、コンロの火が強過ぎてステーキが焦げているのか。扁桃体はそのような判断は下さず、前頭葉が自らの評価を引っ提げて関与してくる間もないうちに、あなたに反撃したり逃げ出したりする準備をさせる。だが、あまりに気が動転していないかぎり、前頭葉の助けで、あなたは誤警報に反応していることに気づき、ストレス反応を中止し、均衡を取り戻せる。
通常、人は前頭前皮質の実行能力のおかげで、何が起こっているかを観察し、ある行動をとれば何が起こるかを予想し、意識的な選択ができる。思考や感情や情動を冷静かつ客観的に観察し(この能力のことを、私は本書を通じて「マインドフルネス」と呼ぶ)、それからじっくり反応できれば、実行脳は、情動脳にあらかじめプログラムされていて行動様式を固定する自動的な反応を、抑制したり、まとめたり、調節したりすることが可能になる。この能力は、他人との関係を維持するうえできわめて重要だ。私たちは前頭葉が適切に機能しているかぎり、ウェイターがなかなか注文した品を持ってこないときや、保険会社の代理人に電話で待たされたときに、毎回腹を立てる可能性は低い(私たちの監視塔は、他者の怒りや脅威も、彼らの情動の状態の結果であることを教えてくれもする)。そのシステムが故障すると、私たちは条件付けされた動物のようになり、危険を感知した途端に、自動的に闘争/逃走モードに入る。
PTSDでは、扁桃体(煙探知機)と内側前頭前皮質(監視塔)との間のきわめて重要な均衡が根本的に変化し、その結果、情動と衝動の制御がはるかに難しくなる。非常に情動的な状態にある人間の神経画像研究からわかったのだが、強烈な恐れや悲しみ、怒りはみな、情動に関与する大脳皮質下の脳領域をより活性化させ、前頭葉のさまざまな領域、とくに内側前頭前皮質の活動を大幅に低下させる。そうなると、前頭葉の抑制能力が損なわれ、人は正気を失う。何であれ大きな音に反応して驚いたり、些細な欲求不満で激怒したり、誰かに触れられると凍りついたりする(13)。
ストレスに効果的に対処するためには、煙探知器と監視塔との間の均衡を達成する必要がある。自分の情動をもっとうまく管理したければ、脳は二つの選択肢を与えてくれる。トップダウンあるいはボトムアップで情動を調節する方法を学習することができるのだ。
トップダウンとボトムアップの調節の違いを知ることは、トラウマ性ストレスの理解と治療の要だ。トップダウンの調節を行なうには、体の感覚を監視する監視塔の能力を強化しなくてはならない。マインドフルネス瞑想やヨーガはその役に立つ。ボトムアップの調節を行なうには、自律神経系(すでに見たとおり、脳幹に端を発する)の再調整を必要とする。自律神経系には、呼吸や動き、接触を通してアクセスできる。呼吸は、意識的な制御と自律神経系の制御の両方の支配下にある、数少ない身体機能の一つだ。(中略)

騎手と馬

さしあたりは、情動と理性が対立するものではないことを強調しておきたい。情動は経験に価値を割り当てるので、理性の土台と言える。自己の経験は、理性脳と情動脳の均衡から生まれる。これら二つのシステムが均衡していると、私たちは「本来の自分である気がする」。だが、生命がかかっているときには、両システムはかなり独立して機能しうる。
たとえば、友人とおしゃべりをしながら自動車を運転しているとき、突然トラックが迫ってくるのを目の隅で捉えたら、あなたはただちに話をやめ、急ブレーキを踏み、ハンドルを切って危地を脱しようとする。もし本能的な行動で衝突を免れられたら、中断した会話を再開するかもしれない。そうできるかどうかは、脅威に対して内臓の反応がどれだけ速く治まるか次第だ。
私が本書で採用した、脳の三層構造の説明を考え出した神経科学者のポール・マクリーンは、理性脳と情動脳の関係を、おおむね有能な騎手と荒馬の関係になぞらえている(14)。天気が穏やかで道が平坦であるかぎり、騎手は見事に馬を御していると感じられる。だが、予想もしていなかった音がしたり、他の動物に脅かされたりしたら、馬が駆けだし、騎手は必死でしがみつく羽目になる。同様に、人は自分の生命がかかっていると感じたり、憤激や熱望、恐れ、性的欲望などの虜となったりしたときには、理性の声に耳を傾けるのをやめるので、そういう人と議論をしても無駄だ。何かが生死の問題であると大脳辺縁系が判断したときにはいつも、前頭葉と大脳辺縁系の間の経路ははなはだか細くなってしまう。
精神療法家はたいてい、人が洞察と理解に頼って自分の行動を管理するのを手伝おうとする。だが、神経科学の研究で明らかになっているように、理解の不足から生じる精神的問題はほとんどない。問題の大半は、知覚と注意を司る、脳のもっと奥の領域からのプレッシャーに端を発する。危険な状態にあることを知らせる情動脳の警報ベルが鳴り続けると、どれほどの洞察をもってしてもそれを黙らせることはできない。こんなコメディが頭に浮かぶ。怒りの管理プログラムに七度も参加した人が、自分の習った技法を絶賛する。「見事といったらない。素晴らしい効き目がある――本当に頭にきていないかぎりは」
情動脳と理性脳が対立しているとき(たとえば、愛する人に激怒しているときや、養ってくれている人に怖い思いをさせられたり、手を出してはならない人に対する欲情に駆られたりしたとき)には、激しい主導権争いが起こる。この争いはおもに、消化管や心臓、肺など、内臓を舞台に行なわれ、身体的な不快感や精神的な苦悩につながる。脳と内臓が、安全なときや危険なときにどう相互作用するかについては、第6章で論じる。この相互作用は、トラウマの身体的な表れの多くを理解するうえでカギを握っている。(後略)

注:i) 引用中の原注「(5)」~「(12)」及び「(14)」の紹介及び「第6章で論じる」における「第6章」の引用は共に省略します。この本をご利用下さい。ただし、 a) 引用中の「内側前頭前皮質」についての、原注 (12) における説明(P669)は次に引用します(『 』内)。 『内側前頭前皮質は脳の中央の部位だ(神経科学者は、「正中線構造」と呼ぶ)。脳のこの領域は、眼窩前頭皮質や下内側前頭前皮質、背内側前頭前皮質、前帯状皮質と呼ばれる大きな構造という、関連した組織の集合体から成り、これらの組織はすべて、生体の内部状態を監視し、適切な反応を選ぶことに関与している。』 ちなみに、1) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 2) この引用中の「下内側前頭前皮質」、「背内側前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 3) この引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 b) 引用中の原注「(13)」に示された論文については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「煙探知機」と「監視塔」の関係について、より簡単に説明するWEBページは次に紹介します。 『人はどうやって「トラウマ」を克服するのか]』の(P2)及び(P3)の『「煙探知機」と「監視塔」の均衡』項。 加えて、引用中の「PTSDでは、扁桃体(煙探知機)と内側前頭前皮質(監視塔)との間のきわめて重要な均衡が根本的に変化」することに関連する、「PTSDにおける扁桃体と内側前頭前野との活性の相反関係」について、友田明美、藤澤玲子著の本、「虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ」(2018年発行)の 9章 精神疾患と脳の画像診断 の「2 PTSD患者の脳画像解析」における記述の一部(P104)を次に引用(『 』内)します。 『2000年以降のPTSD成人患者を対象とした研究では、内側前頭前野と扁桃体は、一方の活性が高いと他方の活性が低いという相反関係にあることが示唆されている。扁桃体は恐怖条件付け反応を司っており、内側前頭前野は恐怖の消去に関与する。』 iii) 引用中の「扁桃体」についてはここを参照して下さい。 iv) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「トップダウン」に関しては、例えば次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項 vii) 一方、参考及び比較対象としてのパニック症の関連については、「脳機能の説明」における③項を参照して下さい。 viii) 引用中の「洞察」に関連するかもしれない「メタ認知」については、次のWEBページを参照して下さい。 「メタ認知 - 脳科学辞典*23 加えて、学習の視点からの「メタ認知」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「メタ認知の概要」 ix) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。 x) 引用中の「煙探知機は普通、危険の手掛かりを捉えるのが非常に得意だが、トラウマを負うと、状況が危険か安全かの解釈を誤る可能性が増す」に関連するかもしれない、 a) 『「対人過敏」が刺激されてしまうと、少しでも「怪しい」と思えばすぐに「脅威のセンサー」が作動してしまい、「少し様子を見る」などということができなくなってしまう』ことについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 b) 『鋭敏な感受性を持った人にはいろいろな出来事が「警告システム」発動のきっかけになる』ことについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) 「扁桃体(煙探知機)は、深刻なマルトリートメントを経験したほど過活動になる」ことについて、友田明美著の本、「子どもの脳を傷つける親たち」(2017年発行)の 第二章 マルトリートメントによる脳へのダメージとその影響 の「マルトリートメント経験のあるなしによる脳の違い」における記述の一部(P105)を次に引用(『 』内)します。 『たとえば恐怖をつかさどる扁桃体は、深刻なマルトリートメントを経験した人ほど過活動になりますが、これは、常に警戒して危険に備えておくための措置、防衛本能といえるでしょう。』(注: 1) 引用中の「マルトリートメント」についてはここを参照して下さい。 2) この引用に類似した記述は次の資料を参照して下さい。 「被虐待者の脳科学研究」の「Ⅲ.児童虐待による局所脳の感受性期」項)  xi) 引用中の「情動脳の警報ベルが鳴り続ける」のを変えるための「辺縁系セラピー」について、べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第13章 トラウマからの回復――自己を支配する の「辺縁系セラピー」における記述の一部(P336~P337)を以下に引用します。 x) トラウマの精神的処理には、脳の二つのシステムが関与しており、すなわち、上記引用のように情動の強さにかかわるもの以外の前後関係にかかわるものについて、べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第4章 命からがら逃げる――サバイバルの分析 の「時間管理者の機能停止」における記述の一部(P115~P116)を以下に引用します。

辺縁系セラピー

トラウマ性ストレスを解消するうえでの根本的な課題は、理性脳と情動脳との適切な均衡を取り戻して、自分がどう反応し、どう人生を送るかを自分で取り仕切っていると感じられるようにすることだ。私たちは、何かのきっかけで過覚醒や低覚醒の状態になるときには、「耐性領域」(最適なかたちで機能できる範囲)の外に押しやられている(4)。過覚醒の場合には、私たちは反応しやすくなり、混乱に陥る。フィルターが働かなくなるので、音や光に悩まされ、望みもしない過去の光景が心に侵入し、パニックになったり逆上したりする。低覚醒の状態で機能停止に陥ると、心も体も麻痺しているように感じ、頭の働きが鈍り、椅子から立ち上がることも難しくなる。
過覚醒になったり機能停止に陥ったりしているかぎり、人は経験から学ぶことができない。どうにか主導権を握り続けていたとしても、極度の緊張状態になっているので(アルコホーリクス・アノニマス[中略]ではこれを、「指の関節が白くなるほど手をきつく握りしめながら保つ、しらふの状態」という)、柔軟性を欠き、頑なになり、気分が落ち込んでいる。トラウマからの回復には、実行機能を回復し、それとともに自信と、遊び戯れたり創造したりするための能力を取り戻すことが必要となる。
心的外傷後の反応を変えたいのなら、情動脳にアクセスして、「辺縁系セラピー」をしなければならない。壊れた警報システムを修理し、情動脳を通常業務(体の維持管理をする静かで目立たない存在)に戻して、食べ、眠り、親密なパートナーと結びつき、子供たちを保護し、危険から身を守ることがきちんとできるようにするのだ。
神経科学者のジョセフ・ルドゥーとその共同研究者たちは、情動脳に意識的にアクセスできる唯一の方法は、自己認識を通してであることを示した。つまり、自分の内部で何が起こっているかに気づいて、自分が感じているものを感じること(専門用語では、「内部を見る」というラテン語に由来する「interoception(内受容)」)を可能にする脳領域である内側前頭前皮質を活性化するのだ(5)。意識ある脳のほとんどは、もっぱら外の世界に向けられており、他者と仲良くやったり、将来のための計画立案をしたりすることに専念している。だがそれは、自分自身を管理する助けにはならない。神経科学的な研究から明らかなとおり、私たちの感じ方を変えられる唯一の方法は、内部の経験を自覚して、自分の内部で起こっている出来事と仲良くなれるようにすることなのだ。

注:i) 引用中の「interoception(内受容)」については他の拙エントリのここここ及びここここ及びここを参照して下さい。 ii) 引用中の「情動脳」「警報システム」「内側前頭前皮質」については共にここを参照して下さい。 iii) 引用中の原注(4)の参照は省略します。原注をご参照下さい。 iv) 引用中の原注(5)に関連する3つの論文のうち、2つは次を参照して下さい。残りは原注をご参照下さい。 「Emotion circuits in the brain.」、「Active avoidance learning requires prefrontal suppression of amygdala-mediated defensive reactions.」 v) 引用中の「辺縁系セラピー」に関連する「トラウマに対する治療法」について、ピーター・A・ラヴィーン著、ベッセル・A・ヴァン・デア・コーク序文、花丘ちぐさ翻訳の本、「トラウマと記憶 脳・身体に刻まれた過去からの回復」(2017年発行)の「序文」における二つの記述の一部(Pix~Pxii)をそれぞれ以下に引用します。これらの引用部の著者は、ベッセル・A・ヴァン・デア・コークです。

(前略)ピーター・ラヴィーンは、トラウマの記憶は潜在的であり、感覚、感情および行動のパッチワークとして身体と脳に刻まれていると説明している。トラウマの痕跡は、物語や意識的な記憶とは異なり、感情、感覚および心理的な自動反応のように、身体が勝手に行っていく「手続き」の形をとって、密かに私たちを支配している。トラウマが手続き的な無意識行為として現れているとき、アドバイスや薬物、理解、治療ではどうすることもできない。私は、「生来の生命力」と呼んでおり、ピーターは、「耐え抜き勝利するための生来の衝動」と呼んでいる、その力にアクセスして治療するしかない。
これは何からできているのだろうか? これは、自分自身を知ること、自分の身体的な衝動を感じること、自分の身体がいかに固くなり萎縮しているかに気づくことであり、また、内面の意識が高まるにつれて、感情、記憶および衝動がどのように沸き起こってくるのかに気づくことである。トラウマの感覚の痕跡は、その後の反応、行動および感情や気分に強い影響を及ぼす。われわれは、過去から忍び寄る悪魔を寄せつけまいと絶えず見張ることに慣れてしまっているが、これからは、この悪魔を裁くことなく、それは何なのか観察することが必要だ。これは、本能的な運動行動プログラムを賦活させる信号なのだ。自然が導くままに従うことによって、われわれは自身との関係性を再構築することができる。(後略)

注:i) この引用の続きとしての、引用中の「観察」が簡単に圧倒されうることについては次に引用(『 』内)します。 『しかし、このマインドフルな自己観察は簡単に庄倒されうる。そして、パニックや爆発的な行動、凍りつき、崩れ落ちが引き起こされる。』 ちなみに、この引用中の「マインドフル」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。

(前略)よいセラピーとは、内面に潜んで咆哮を放っているものに庄倒されることなく、フェルトセンスを感じることを学ぶということだ。あらゆるセラピーで一番重要な表現は、「気づいてください」および「次に起こることに気づいてください」という言葉である。内側のプロセスを観察できるようになると、脳の論理的な部分と情緒的な部分をつなげる回路が活性化する。これは、人が意識的に脳の知覚システムを再構成することができる、現在知られている唯一の回路である。「自己」とコンタクトするためには、自分の身体と自己を感じることをつかさどる重要な脳の領域である前島を活性化しなければならない。多くの霊性開発の伝統においては、深い感情的、感覚的状態に耐え、それを統合させていくために、呼吸、動き、および瞑想法を発達させてきたとラヴィーンは指摘している。(後略)

注:i) 引用中の「フェルトセンス」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「前島」に関連する「島」については、次のWEBページを参照して下さい。「島 - 脳科学辞典

時間管理者の機能停止(中略)

トラウマの精神的処理には、脳の二つのシステムが関与している。情動の強さにかかわるものと、前後関係にかかわるものだ。情動の強さは、煙探知機(扁桃体)と、それと拮抗する監視塔(内側前頭前皮質)によって定められる。ある体験の前後関係と意味は、背外側前頭前皮質と海馬を含むシステムが判断する。背外側前頭前皮質は脳の前部の側面にあり、内側前頭前皮質は中央にある。脳の正中線沿いの組織は、自己の内部経験をもっぱら司り、側面の組織は、環境との関係により深くかかわっている。
私たちは背外側前頭前皮質のおかげで、現在の経験が過去とどう関係しているかや、将来にどう影響するかもしれないかがわかる。したがって、背外側前頭前皮質は、脳の時間管理者と考えてもいい。何が起こっていようと、それには自ずと限界があり、遅かれ早かれ終わりが来ることがわかっていれば、たいていの経験には耐えられる。その逆も正しい。すなわち、状況は、いつ果てるとも知れぬように感じられれば耐え難くなる。ほとんどの人が悲しい個人的体験から知っているとおり、ひどく悲嘆に暮れているときには、この惨めな状態が永遠に続き、喪失感からけっして立ち直れないような気がするものだ。トラウマは、「これが永遠に続く」という究極の体験と言える。(後略)

注:引用中の「煙探知機」及び「監視塔」については、共にここを参照して下さい。

注:次の引用はここ項で紹介したものです。

11.3. MCS における臭いに対する脳の反応と症状の出現(中略)

MCS を呈する患者は、特に、臭いに対する反応が過敏であるのが特徴です。MCS が化学物質のばく露強度の高さなどの特性では評価できないとする報告もありますが、臭い負荷(臭いの閾値以上の濃度の化学物質を嗅覚にばく露)による脳機能イメージング評価が近年行われてきました。Orriols らは臭いの閾値以上の濃度の塗料、香水、ガソリン、グルタルアルデヒドをチャンバー室内で MCS 患者が症状を訴えるまで全身ばく露させ、MCS 患者の症状が持続している間に脳機能イメージング評価を行ったところ、神経認知の問題がとりわけ脳の臭いの処理領域で観察されており、MCS では病因には脳神経が関与している可能性が示唆されました。Hillert らはバニリン、アセトン、ブタノールと植物油の混合物、Azuma らは香水、ヒノキやメントールによる臭い負荷試験を行い、MCS を呈する患者の前帯状皮質や前頭前皮質における神経の活性化を観察しました。前帯状皮質は、前頭前皮質等と接続して刺激のトップダウンとボトムアップの処理や他の脳領域への適切な制御の役割を担っています。従って、過去の臭い刺激による記憶が前頭前皮質や前帯状皮質等に認識され、その後の臭い負荷では、そこからのトップダウン制御が中枢神経系等に作用し化学物質過敏症患者でさまざまな症状を引き起こしているのではないかと推測されています。このような臭い処理プロセスでの反応は、脳における認識や記憶にも関連しており、臭いを嗅いだときに作用する物質とそうでない物質の違いを区別できると生じると考えられています。このことは、このような反応の作用機序が何らかの化学物質そのものに特有なものというよりも、化学物質ばく露などの過去の出来事などに基づくものに関連しており、多種類の化学物質に反応することも、このような作用機序が関係しているかもしれないと考えられています。このことに関連して、近年、Nordin らのスウェーデン等の北欧と日本の Azuma らは、化学物質が刺激となって生じる感覚モデルに注目しています。このモデルでは、有害と認識された物質に対する大脳辺縁系を介した作用機序に着目しています。

注:i) 引用部の著者は東賢一(Azuma K)です。加えて引用中の「Azuma ら」による「化学物質が刺激となって生じる感覚モデル」についての論文はここ及びここを参照して下さい。 ii) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「大脳辺縁系」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からここ及びここの引用を参照して下さい。ちなみに、化学物質過敏症と精神的なトラウマの関係については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「過去の臭い刺激による記憶が前頭前皮質や前帯状皮質等に認識され、その後の臭い負荷では、そこからのトップダウン制御が中枢神経系等に作用し化学物質過敏症患者でさまざまな症状を引き起こしているのではないかと推測されています。」に関連する、「嗅覚嫌悪条件づけ」(注:これは仮説ですがラットによる実験では成立するようです)については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい*24。 vi) 引用中の「多種類の化学物質に反応することも」に関連するかもしれない、強迫性障害(強迫症)における「目に見えないものまでが恐怖の対象となります」(注:対象が拡大することが共通しています)については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。ちなみに、WEBページ「情動的記憶 - 脳科学辞典」中には、記憶されやすさについての次に引用(『 』内)する記述があります。『情動的記憶とは情動的な出来事に関する記憶のことであり、情動を伴わない出来事よりも情動を伴う出来事のほうが記憶されやすいことが知られている。』 一方、上記「情動的記憶」は、非陳述記憶(参照)に含まれますが、陳述記憶(参照)に属する日常の出来事の記憶(エピソード記憶)が、どのようにして海馬から大脳新皮質へ転送され、固定化されるのかの仕組みについてのWEBページを次に紹介します。 「海馬から大脳皮質への記憶の転送の新しい仕組みの発見」加えて、記憶を関連づける神経細胞集団の仕組みについてのWEBページを次に紹介します。 「記憶を関連づける神経細胞集団の仕組みを解明」 このように、記憶に関する研究は進展しているようです。 viii) さらに、化学物質過敏症と情動反応との関連を示す資料を次に紹介します。 「化学物質過敏症」の P29。

トラウマの視点からの大脳辺縁系について、友田明美、藤澤玲子著の本、「虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ」(2018年発行)の 8章 脳の役割と発達 の「1 主な脳領域の役割」における記述の一部(P97~P98)を次に引用します。

(前略)大脳辺縁系は、側頭葉の内側に存在する。大脳辺縁系の中で、特に重要な領域が、基本的な欲求や動機の調節に特化している視床下部、記憶に特化している海馬、情動的な学習や反応に特化している扁桃体である。相互に連結した細胞核の集まりで、個体の生命維持と種族維持に関する重要な中核として働き、情動や記憶をコントロールしている。生き延びるために、外界がいかに安全か? または危険か? などを判断する役割をになうため、行動や感情に深く関与している。
大脳辺縁系に損傷を受けた場合、部位によって様々な症状が出る。攻撃的になる部位、おとなしくなる部位、性行動の異常を示す部位などがあることがわかっている。
海馬は、言語記憶や情動記憶を作成し、思い出すことに関与すると考えられている。特に強い情動のバイアスがかかっている出来事の記憶に重要な領域と言われる。視覚、聴覚、体性感覚、味覚などといった情報は、大脳皮質連合野で処理された後、海馬の傍にある海馬傍回、嗅内野といった皮質領域を経由して海馬に入ってくる。
扁桃体は記憶の情動成分(例えば恐怖条件付けや攻撃反応に関係する感情)を作り出すことに関わっており、外からの情報に快・不快などの本能的な感情での価値判断をすると言われている。目から入った情報の通り道である視床のすぐ下に位置し、視床を通って流れてくる未処理の情報の中から、危険と結びついたパターンに反応する。以前に恐怖を感じたパターンを見つけると、体に非常警報を発令する。自律神経にも関与し、心臓血管、呼吸、消化器系の動きを修飾していることが動物実験で示されている。だから、ホラー映画で犯人が近づいて来るシーンを見ていたら、作り物とわかっているのに冷や汗が出て、心臓がばくばく言い始めるのた。また、扁桃体の神経細胞が異常発火すると脳波異常に結びつきやすいといわれている。強い精神的ストレスにより扁桃体の細胞レベルでの異常興奮が一度起こると、小さな電気的刺激を長時間受け続けるような電気発火という現象が起こり、実際の行動や脳波上でもてんかん性反応が起こりやすくなるといわれている。

注:i) 引用中の「電気発火」に関連する「キンドリング」について、同の 12章 癒されない傷 の「2 脳の変化はなぜ起きたのか」における記述の一部(P139)を次に引用(『 』内)します。 『また、扁桃体が興奮し続けると、キンドリング現象と呼ばれるものが起きる。これは、神経細胞が何度も刺激にさらされることで、少しの刺激でも反応が起きるようになっていくしくみだ。こうして繰り返しストレスを体験することによって、ストレスに弱い脳になっていく。また、このキンドリング現象は、幼い脳ほど起こりやすい。』[注:a) 引用中の「キンドリング」(Kindling)についての論文要旨は次を参照して下さい。 「Kindling versus quenching. Implications for the evolution and treatment of posttraumatic stress disorder.」 加えて、この要旨に関連する論文「Kindling: separate vs. shared mechanisms in affective disorders and epilepsy.」があります(全文はここを参照して下さい)。 b) 引用中の「キンドリング」の他の説明例は、次の資料を参照して下さい。 「被虐待者の脳科学研究」の「Ⅲ.児童虐待による局所脳の感受性期」項 c) ちなみに、MCS における辺縁系の kindling については、他の拙エントリのここを参照して下さい。] ii) 引用中の「情動記憶」に相当する「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動的記憶 - 脳科学辞典」 加えて、引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を、引用中の「情動」については次のWEBページを それぞれ参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 さらにメンタライジングの視点からの情動については他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「恐怖条件づけ」については、次のWEBページを参照して下さい。「恐怖条件づけ - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「快・不快」については、次のWEBページを参照して下さい。「快・不快 - 脳科学辞典」  v) 標記「海馬」及び「扁桃体」について、前頭前野との関連を含めて友田明美著の本、「子どもの脳を傷つける親たち」(2017年発行)の 第二章 マルトリートメントによる脳へのダメージとその影響 の「体罰によって委縮する前頭前野」における記述の一部(P73~P76)を次に引用します。

体罰によって委縮する前頭前野(中略)

マルトリートメントにかかわらず、脳に関する従来の研究では、ストレスの影響を受けやすい場所として、「海馬」(図2-1)や「扁桃体」(図2-1)、「前頭葉」(図2-2)という部位が注目されています。(中略)

「海馬」は、わたしたちの両耳のずっと奥に入ったあたりにある左右一対の器官で、断面の細長い形がタツノオトシゴのようにも見えることから、「海馬(タツノオトシゴの別名)」という名がついたといわれています。大脳から送られてくるさまざ
まな情報を処理し、それらをもとに記憶をつくり上げるほか、その保管にもかかわっています。特に、感動や興奮がもたらされるときなど、強い情動が関係する出来事の記憶と深く関連した領域です。
「扁桃体」は、側頭部の内側にある一対のアーモンド(扁桃)のような形をした、情動に関する器官です。わかりやすく言うと、過去の体験や記憶をもとにした好き嫌いや、目の前にいる相手が敵か味方かなどの価値判断に関与し、特に危険と結びつく情報に対して敏感に反応します。「前頭葉」は文字どおり大脳の前部に位置し、特に、「前頭前野」(図2-2)は学びや記憶にかかわっています。この前頭前野は、海馬や扁桃体の働きをコントロールするという重要な役目も担っています。危険や恐怖をつかさどる扁桃体が過剰に反応しないよう、適度にブレーキをかけて制御しているのもこの部分です。(後略)

注:i) 引用中の「図2-1」及び「図2-1」の引用は省略します。 ii) 引用中の「マルトリートメント」の説明例としては、同本の P31 における『行為が軽かろうが弱かろうが、子どものためだと思ってした行為であろうがなかろうが、傷つける意思があろうがなかろうが、子どもが傷つく行為は、すべて「マルトリートメント」です。』があります。加えて、次のWEBページも参照して下さい。 『大声の叱責で5歳児がPTSDに 「しつけだから当たり前」という大人の「常識」が覆る最新の脳科学』の『●子どもの脳を傷つける「マルトリートメント」とは?』項 iii) 引用中の「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典

調節と調整との使い分け
以下の脳科学に関連する論文、論文の要旨、本等の拙訳を含む引用による紹介をはじめとした、拙ブログのエントリにおける脳科学に関連する紹介では「regulation」の訳語として基本的に「調節」を使用します。一方「regulate」の訳語は基本的に「調節する」を使用します。例えば「emotion regulation」、「dysregulation」の訳語としてそれぞれ「情動調節」、「調節不全」を使用します。ただし、引用においては原文を優先します。例えば、一部の引用においては、「情動調節」ではなく「情動調整」が用いられています。

[ご参考1]臭いに反応するアンケート結果例及び本、資料、論文の紹介について
先ず、資料「アスペルガー症候群・高機能自閉症における「感覚過敏・鈍麻」の実態と支援に関する研究 ── 本人へのニーズ調査から ──」中の 図7 嗅覚の過敏・鈍麻の結果 (P291)及び 図18 嗅覚面の理解・支援 (P293)において嗅覚に関するアンケート結果が示されています。

ちなみに、i) 自閉スペクトラム症*25の DSM-5 による診断基準の和訳例は次の資料「発達障害から発達凸凹へ」の表2を参照して下さい。表2の B 4. 項には次に引用する記述があります。 ii) 加えて、加藤進昌著の本、「あの人はなぜ相手の気持ちがわからないのか もしかしてアスペルガー症候群!?」(2011年発行)の 第2章 アスペルガー症候群の特性を理解しよう の『「におい」が気になって仕事に身が入らない場合』における記述の一部(P109)を以下に引用します。

感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性,あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心

「におい」が気になって仕事に身が入らない場合(中略)

人によって差はありますが、アスペルガー症候群の人の中には、嗅覚がとても敏感な人がいます。プールを消毒する塩素の臭い、香水のにおい、体臭や口臭、特定の料理のにおいなどで気分が悪くなることがあるようです。

加えて、自閉スペクトラム症を伴う子どもにおける嗅覚過敏に関する次の論文が発表されています。「Assessment of olfactory detection thresholds in children with autism spectrum disorders using a pulse ejection system.[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う子どもにおけるパルス射出システムを使用した嗅覚検知閾値の評価」(全文はここを参照して下さい)。この論文の要旨を次に引用します。この分野の発展が本エントリ作者には楽しみです*26。この論文の要旨をカバーするかもしれない日本語の資料については次を参照して下さい。 「自閉スペクトラム症児の香料過敏についての調査」 加えて、これに関連する次の資料もあります。 「自閉スペクトラム症の嗅覚特性

BACKGROUND:
Atypical responsiveness to olfactory stimuli has been reported as the strongest predictor of social impairment in children with autism spectrum disorders (ASD). However, previous laboratory-based sensory psychophysical studies that have aimed to investigate olfactory sensitivity in children with ASD have produced inconsistent results. The methodology of these studies is limited by several factors, and more sophisticated approaches are required to produce consistent results.

METHODS:
We measured olfactory detection thresholds in children with ASD and typical development (TD) using a pulse ejection system - a newly developed methodology designed to resolve problems encountered in previous studies. The two odorants used as stimuli were isoamyl acetate and allyl caproate.

RESULTS:
Forty-three participants took part in this study: 23 (6 females, 17 males) children with ASD and 20 with TD (6 females, 14 males). Olfactory detection thresholds of children with ASD were significantly higher than those of TD children with both isoamyl acetate (2.85 ± 0.28 vs 1.57 ± 0.15; p < 0.001) and allyl caproate ( 3.30 ± 0.23 vs 1.17 ± 0.08; p < 0.001).

CONCLUSIONS:
We found impaired olfactory detection thresholds in children with ASD. Our results contribute to a better understanding of the olfactory abnormalities that children with ASD experience. Considering the role and effect that odors play in our daily lives, insensitivity to some odorants might have a tremendous impact on children with ASD. Future studies of olfactory processing in ASD may reveal important links between brain function, clinically relevant behavior, and treatment.


[拙訳]
背景:
嗅覚刺激に対する非定型応答性は、自閉スペクトラム症(ASD)を伴う子どもにおける社会的障害の最強の予測因子として報告されている。しかし、ASD を伴う子どもにおける嗅覚感度の調査を目的とした、以前の実験室ベースの感覚の精神物理学的研究では、一貫性のない結果を生んできた。これらの研究の方法論は、いくつかの要因によって制限され、そして、より洗練されたアプローチは、一貫性のある結果を生むために必要とされる。

方法:
以前の研究で直面した問題を解決するために設計された新開発の方法論、パルス噴射システムを使用して、ASD を伴う子ども及び定型発達(TD)の子どもにおける嗅覚検知閾値を我々は測定した。刺激として使用した2つの臭気物質は、酢酸イソアミルとカプロン酸アリルであった。

結果:
この研究に43人の被験者が参加した:このうち、23人が ASD を伴う子ども(女性6人、男性17人)、20人が TD の子ども(女性6人、男性14人)であった。両臭気物質において、ASD を伴う子どもの嗅覚検出閾値は TD の子どもの閾値よりも有意に高かった。酢酸イソアミル (2.85 ± 0.28 vs 1.57 ± 0.15; p < 0.001)、カプロン酸アリル (3.30 ± 0.23 vs 1.17 ± 0.08; p < 0.001)

結論:
我々は、ASD を伴う子どもにおいて、障害された嗅覚検出閾値を発見した。ASD を伴う子どもが経験する嗅覚異常のより良い理解に我々の結果は寄与する。臭いが日常生活に果たす役割及び与える効果を考慮すれば、いくつかの臭気物質に対する非感受性は、ひょっとすると、ASD を伴う子どもに多大な影響があるかもしれない。 ASD における嗅覚処理の今後の研究は、脳機能、臨床的に関連する行動及び治療間の重要な関連を明らかにするかもしれない。

加えて、大人の自閉スペクトラム症における臭い処理に関する次の論文が発表されています。「Olfactory processing in adults with autism spectrum disorders.[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う大人の臭い処理」。この論文の要旨を次に引用します。

BACKGROUND:
As evidenced in the DSM-V, autism spectrum disorders (ASD) are often characterized by atypical sensory behavior (hyper- or hypo-reactivity), but very few studies have evaluated olfactory abilities in individuals with ASD.

METHODS:
Fifteen adults with ASD and 15 typically developing participants underwent olfactory tests focused on superficial (suprathreshold detection task), perceptual (intensity and pleasantness judgment tasks), and semantic (identification task) odor processing.

RESULTS:
In terms of suprathreshold detection performance, decreased discrimination scores and increased bias scores were observed in the ASD group. Furthermore, the participants with ASD exhibited increased intensity judgment scores and impaired scores for pleasantness judgments of unpleasant odorants. Decreased identification performance was also observed in the participants with ASD compared with the typically developing participants. This decrease was partly attributed to a higher number of near misses (a category close to veridical labels) among the participants with ASD than was observed among the typically developing participants.

CONCLUSIONS:
The changes in discrimination and bias scores were the result of a high number of false alarms among the participants with ASD, which suggests the adoption of a liberal attitude in their responses. Atypical intensity and pleasantness ratings were associated with hyperresponsiveness and flattened emotional reactions, respectively, which are typical of participants with ASD. The high number of near misses as non-veridical labels suggested that categorical processing is functional in individuals with ASD and could be explained by attention-deficit/hyperactivity disorder. These findings are discussed in terms of dysfunction of the olfactory system.


[拙訳]
背景:
DSM-V において明らかなように、自閉スペクトラム症(ASD)は、しばしば非定型感覚行動(過大又は過少反応性)を特徴とするが、ASD を伴う個々人において嗅覚能力を評価する研究は非常に少ない。

方法:
15人の ASD を伴う大人と、15人の定型発達者は、表面的(閾値上の検知タスク)、知覚的(強度と快度判定タスク)及び意味的(識別タスク)臭い処理に焦点をあてた嗅覚試験を受けた。

結果:
閾値上の検知能力の見地から、減少した識別スコア及び増加したバイアススコアが ASD グループで観察された。さらに、ASD を伴う参加者は不快な臭いの快度判定のための増加した強度の判定スコア及び障害があるスコアを示した。定型発達の参加者に比較して ASD を伴う参加者において、減少した同定実績も観察された。この減少は定型発達の参加者の中で観察されたよりもむしろ、ASD を伴う参加者の中で多くのニアミス(真実のラベルに近いカテゴリー)に部分的に起因した。

結論:
識別及びバイアススコアの変化は、ASD を伴う参加者中の多くの誤警報の結果であり、これはそれらの応答における寛容な態度の採用を示唆する。非定型強度と快度評価は、それぞれ過敏性と情動反応の平板化に関連し、これらは ASD を伴う参加者の典型的である。ASD を伴う個々人において、非真実のラベルとしてのニアミスの大きい数は、カテゴリー処理が実用的であること及び ADHD(注意欠如・多動症)により説明できるだろうことを示唆する。これらの知見は嗅覚系の機能不全の見地より議論された。

注:i) 引用中の「真実のラベル」、「ニアミス」に関連して、芳香のラベリングおける成績は次の3種類に分類できるようです。真実のラベル(芳香の真の名前[例:サクランボに対しサクランボと識別する])、ニアミス(真の名前とかなり近い名前[例:いちごに対しサクランボと識別する])、ファーミス(真の名前と非常に遠い名前[例:コーヒーに対しサクランボと識別する])。 ii) 引用中の「DSM-V」については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「ADHD」については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

ちなみに、嗅覚過敏ではありませんが、自閉スペクトラム症を伴う青年の触覚と聴覚過敏に関する次の論文が発表されています。 「Neurobiology of Sensory Overresponsivity in Youth With Autism Spectrum Disorders[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う青年における感覚過敏の神経生物学」。この論文の要旨を次に引用します。

IMPORTANCE:
More than half of youth with autism spectrum disorders (ASDs) have sensory overresponsivity (SOR), an extreme negative reaction to sensory stimuli. However, little is known about the neurobiological basis of SOR, and there are few effective treatments. Understanding whether SOR is due to an initial heightened sensory response or to deficits in regulating emotional reactions to stimuli has important implications for intervention.

OBJECTIVE:
To determine differences in brain responses, habituation, and connectivity during exposure to mildly aversive sensory stimuli in youth with ASDs and SOR compared with youth with ASDs without SOR and compared with typically developing control subjects.

DESIGN, SETTING, AND PARTICIPANTS:
Functional magnetic resonance imaging was used to examine brain responses and habituation to mildly aversive auditory and tactile stimuli in 19 high-functioning youths with ASDs and 19 age- and IQ-matched, typically developing youths (age range, 9-17 years). Brain activity was related to parents' ratings of children's SOR symptoms. Functional connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex was compared between ASDs subgroups with and without SOR and typically developing controls without SOR. The study dates were March 2012 through February 2014.

MAIN OUTCOMES AND MEASURES:
Relative increases in blood oxygen level-dependent signal response across the whole brain and within the amygdala during exposure to sensory stimuli compared with fixation, as well as correlation between blood oxygen level-dependent signal change in the amygdala and orbitofrontal cortex.

RESULTS:
The mean age in both groups was 14 years and the majority in both groups (16 of 19 each) were male. Compared with neurotypical control participants, participants with ASDs displayed stronger activation in primary sensory cortices and the amygdala (P < .05, corrected). This activity was positively correlated with SOR symptoms after controlling for anxiety. The ASDs with SOR subgroup had decreased neural habituation to stimuli in sensory cortices and the amygdala compared with groups without SOR. Youth with ASDs without SOR showed a pattern of amygdala downregulation, with negative connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex (thresholded at z > 1.70, P < .05).

CONCLUSIONS AND RELEVANCE:
Results demonstrate that youth with ASDs and SOR show sensorilimbic hyperresponsivity to mildly aversive tactile and auditory stimuli, particularly to multiple modalities presented simultaneously, and show that this hyperresponsivity is due to failure to habituate. In addition, findings suggest that a subset of youth with ASDs can regulate their responses through prefrontal downregulation of amygdala activity. Implications for intervention include minimizing exposure to multiple sensory modalities and building coping strategies for regulating emotional response to stimuli.


[拙訳]
重要性:
自閉スペクトラム症(ASD)を伴う青年の半分以上は、感覚過度応答性(SOR)、感覚刺激への極端な負の反応を有する。しかし、SOR の神経生物学的基礎についてはほとんど知られていなく、有効な治療法が少ししかない。SOR が最初に高められた感覚の応答、又は刺激への情動反応の調節の欠陥によるものかどうかの理解は、介入のための重要な意味を持つ。

目的:
SOR を伴わないが ASD を伴う青年、及び対照被験者としての定型発達者と比較した、SOR と ASD を伴う青年において、穏やかな嫌悪感覚刺激曝露中の脳の応答、馴化及び結合性における差を決定する。

デザイン、設定、被験者:
19人の ASD を伴う高機能な青年、19人の年齢と IQ をマッチさせた定型発達者の青年(年齢幅:9-17歳)において、穏やかな嫌悪聴覚刺激及び触覚刺激への脳の応答及び馴化を調査するために機能的磁気共鳴画像法が使用された。脳活動は子どもたちの SOR 症状の両親の評価に関連していた。扁桃体と眼窩前頭皮質との間の機能的結合性は、SOR を伴う、伴わない ASD のサブグループ及び SOR を伴わない定型発達者間で比較された。研究の日付けは2012年3月から2014年2月であった。

主なアウトカム及び測定:
BOLD(blood oxygen level-dependent)信号における相対的な増加は、扁桃体と眼窩前頭皮質における BOLD 信号の変化の相関はもちろん、fixation(注:固視点を注視すること)と比較した感覚刺激の曝露中の全脳に渡って及び扁桃体内で応答する。

結果:
両群の平均年齢は14歳で、両グループの大多数(19人中の16人)が男性だった。定型発達の対照被験者に比較して、ASD を伴う被験者は一次感覚皮質及び扁桃体においてより強い活性化を示した(P < .05, 補正後)。この活動は不安を制御後の SOR 症状と正に相関していた。SOR を伴う ASD サブグループは、SOR を伴わないグループと比較して、一次感覚皮質及び扁桃体において刺激への神経的馴化が減少した。SOR を伴わないが ASD を伴う青年は、扁​​桃体と眼窩前頭皮質の間の負の結合性を伴う扁桃体のダウンレギュレーションのパターンを示した(閾値:z> 1.70、P <0.05)。

結論と関連性:
これらの結果により、SOR と ASD を伴う青年は、穏やかな嫌悪触覚刺激及び聴覚刺激、特に同時に存在する複数のモダリティへの感覚大脳辺縁系の過剰応答が示され、そして、この過剰応答は馴化の失敗によることが示された。加えて、ASD を伴う若者のサブセットは、扁桃体の活動の前頭前野によるダウンレギュレーションを通して、応答を調節可能なことを示唆した。介入のための意味付けは、複数のモダリティへの曝露の最小化及び刺激への情動応答を調節するための対処戦略の構築を含む。

注:i) 引用中の「BOLD」信号は血中酸素濃度依存信号のことです。ちなみに、神経細胞が活動すると、その細胞に酸素を運ぶために血流が増加します。酸素を運んでいる血液が流れ込んだ部位では、BOLD 信号が増加します。 ii) 引用中の「モダリティ」は特定の感覚のことのようです。 iii) 引用中の「ダウンレギュレーション」は機能の下向き調節のことのようです。 iv) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。  v) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えば次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 vi) ちなみに、引用中の「情動応答を調節する」に関連する「情動調節」について、ADHDにおける「情動調節」に関連する論文例は他の拙エントリのここに示します。

一方、自閉スペクトラム症関係でも、感覚過敏でもありませんが、馴化及び/又は消去学習に関連して、a) 社交不安症(SAD)における脳活動に関する研究を紹介する次の資料における記述の一部を以下に引用します。「社交不安症に関する脳画像研究の最前線」 b) 加えて、PTSD における恐怖消去に関する研究の論文の要旨を以下に引用します。 c) さらに、境界性及び回避性パーソナリティ障害の患者における馴化に関する研究の論文の要旨を以下に引用します。

4.馴化と消去学習
Sladky et al. (2012)は,実験パラダイムに おいて,顔写真を呈示し続けた後に(恐怖条件づけ),風景画を呈示し続ける手続きを行い(馴化と消去学習),馴化と消去学習に関わる SAD 患者の脳活動を検討した。その結果,顔写真が呈示されているときには,健常群と比べて SAD 群の扁桃体,視床,OFC 領域の賦活量が大きかった。しかしながら,SAD 群は,風景画が呈示され続けるにつれて,これらの領域の賦活量が次第に減少して,消失した。つまり,馴化と消去学習に扁桃体を中心とした辺縁系領域と OFC が関与する。この結果は,健常者を対象とした消去学習に関する先行研究の結果と一致している(Morgan et al., 1993; Phelps et al., 2004)。この結果を踏まえると,SAD に対する認知行動療法(cognitive behavioral therapy; CBT)で用いられるエクスポージャー技法は辺縁系領域と OFC の機能に変化を生じさせると推察できる。

注:i) 引用中の「OFC」は眼窩前頭皮質のことです。眼窩前頭皮質に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「Sladky et al. (2012)」、「Morgan et al., 1993」及び「Phelps et al., 2004」はそれぞれ「Increased neural habituation in the amygdala and orbitofrontal cortex in social anxiety disorder revealed by FMRI.*27、「Extinction of emotional learning: contribution of medial prefrontal cortex.」及び「Extinction learning in humans: role of the amygdala and vmPFC.」のことです。 iii) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 iv) 引用中の「辺縁系領域」に関連する「大脳辺縁系」については、例えば次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 iv) ちなみに、上記「OFC」に関連するかもしれない、OCD(強迫性障害又は強迫症)における生物学的病態については、例えば次の資料を参照して下さい。「OCDの生物学的病態からみた難治性」、「次元評価を用いたボクセル単位形態計測による強迫性障害の多様性についての検討

上記論文「Avoidant symptoms in PTSD predict fear circuit activation during multimodal fear extinction.[拙訳]PTSD における回避症状はマルチモーダルの恐怖消去中の恐怖回路の活性を予測する」の要旨を次に引用します。

Convergent evidence suggests that individuals with posttraumatic stress disorder (PTSD) exhibit exaggerated avoidance behaviors as well as abnormalities in Pavlonian fear conditioning. However, the link between the two features of this disorder is not well understood. In order to probe the brain basis of aberrant extinction learning in PTSD, we administered a multimodal classical fear conditioning/extinction paradigm that incorporated affectively relevant information from two sensory channels (visual and tactile) while participants underwent fMRI scanning. The sample consisted of fifteen OEF/OIF veterans with PTSD. In response to conditioned cues and contextual information, greater avoidance symptomatology was associated with greater activation in amygdala, hippocampus, vmPFC, dmPFC, and insula, during both fear acquisition and fear extinction. Heightened responses to previously conditioned stimuli in individuals with more severe PTSD could indicate a deficiency in safety learning, consistent with PTSD symptomatology. The close link between avoidance symptoms and fear circuit activation suggests that this symptom cluster may be a key component of fear extinction deficits in PTSD and/or may be particularly amenable to change through extinction-based therapies.


[拙訳]
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を伴う個々人はパブロフの恐怖条件付けにおける異常はもちろん、際立った回避行動を示すことを収束するエビデンスは示唆する。しかし、この障害の2つの特徴間の関連が十分に理解されていない。 PTSD における異常な消去学習の脳の基礎を探査するために、被験者が fMRI スキャンを受けている間に、2つの感覚チャンネル(視覚及び触覚)からの感情的な関連情報を組み入れたマルチモーダルの古典的な恐怖条件付け/消去パラダイムを我々は実施した。サンプル(被験者)は、15人の ​​PTSD を伴う OEF/OIF 退役軍人から構成された。恐怖の獲得及び消去中に、条件付けられた手がかり及び文脈的な情報に応答して、より大きな回避の症候学は扁桃体、海馬、腹内側前頭前皮質、背内側前頭前皮質及び島におけるより大きな活性化と関連した。より重い PTSD を伴う個々人において、前もって条件付けられた刺激への高応答は PTSD の症候学と一致して安全学習における不足を示すことができるだろう。この症状群は ​PTSD における恐怖消去の不足の主要な要素である、及び/又は特に消去に基づいた治療法を通した変化に従うかもしれないことを回避症状と恐怖回路の活性化との間の密接な関連は示唆する。

注:i) 引用中の「心的外傷後ストレス障害」については次のWEBページを参照して下さい。「外傷後ストレス障害 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「恐怖条件付け」については次のWEBページを参照して下さい。「恐怖条件づけ - 脳科学辞典」、「情動系神経回路 - 脳科学辞典」の「後天的に獲得された情動系神経回路」項 iii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iv) 引用中の「マルチモーダル」に関連する「マルチモーダル情報処理」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「マルチモーダル情報処理」の「マルチモーダル情報処理とは?」項 v) 引用中の「OEF」及び「OIF」はそれぞれ「Operation Enduring Freedom」(不朽の自由作戦)、「Operation Iraqi Freedom」(イラクの自由作戦)の略です。 vi) 引用中の「扁桃体」「海馬」に関連する「大脳辺縁系」については、例えばここ及び次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 vii) 引用中の「腹内側前頭前皮質」「背内側前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「島」については、次のWEBページを参照して下さい。「島 - 脳科学辞典」 加えて、引用中の「島におけるより大きな活性化」については、他の拙エントリのここを参照すると良いかもしれません。

上記論文「The neural correlates of anomalous habituation to negative emotional pictures in borderline and avoidant personality disorder patients.[拙訳]境界性及び回避性パーソナリティ障害の患者におけるネガティブな情動の画像への異常な馴化の神経的な相関」の要旨を次に引用します。

OBJECTIVE:
Extreme emotional reactivity is a defining feature of borderline personality disorder, yet the neural-behavioral mechanisms underlying this affective instability are poorly understood. One possible contributor is diminished ability to engage the mechanism of emotional habituation. The authors tested this hypothesis by examining behavioral and neural correlates of habituation in borderline patients, healthy comparison subjects, and a psychopathological comparison group of patients with avoidant personality disorder.

METHOD:
During fMRI scanning, borderline patients, healthy subjects, and avoidant personality disorder patients viewed novel and repeated pictures, providing valence ratings at each presentation. Statistical parametric maps of the contrasts of activation during repeated versus novel negative picture viewing were compared between groups. Psychophysiological interaction analysis was employed to examine functional connectivity differences between groups.

RESULTS:
Unlike healthy subjects, neither borderline nor avoidant personality disorder patients exhibited increased activity in the dorsal anterior cingulate cortex when viewing repeated versus novel pictures. This lack of an increase in dorsal anterior cingulate activity was associated with greater affective instability in borderline patients. In addition, borderline and avoidant patients exhibited smaller increases in insula-amygdala functional connectivity than healthy subjects and, unlike healthy subjects, did not show habituation in ratings of the emotional intensity of the images. Borderline patients differed from avoidant patients in insula-ventral anterior cingulate functional connectivity during habituation.

CONCLUSIONS:
Unlike healthy subjects, borderline patients fail to habituate to negative pictures, and they differ from both healthy subjects and avoidant patients in neural activity during habituation. A failure to effectively engage emotional habituation processes may contribute to affective instability in borderline patients.


[拙訳]
目的:
極端な情動的反応性は、境界性パーソナリティ障害の決定的な特徴であり、未だこの感情不安定の根底にある神経行動的なメカニズムはよく理解されていない。可能​​性のある一因は、情動的な馴化のメカニズムを関与させる能力の減少である。境界性パーソナリティ障害の患者、健康な比較対照者及び回避性パーソナリティ障害を伴う患者の精神病理学的な比較グループにおける馴化の行動及び神経的な相関の調査により、この仮説を著者らは試してみた。

方法:
fMRI スキャン中に、境界性パーソナリティ障害の患者、健常者及び回避性パーソナリティ障害の患者は新たな及び繰り返しの画像を見て、各々の提示で価値の評価を提供した。繰り返しの対新たなネガティブな画像を見ている時の活性化の対比の統計的パラメトリックマップはそれぞれのグループ間で比較された。グループ間の機能的結合性の差異を調査するために精神心理学的な相互作用分析が採用された。

結果:
繰り返し対新たな画像を見た時に、健常者とは異なり、背側前帯状皮質において、境界性パーソナリティ障害の患者も回避性パーソナリティ障害の患者も増加した活性を示さなかった。背側前帯状皮質の活性における増加の欠如は、境界性パーソナリティ障害の患者においてより大きな感情の不安定に関連した。加えて、島-扁桃体の機能的結合性において、境界性パーソナリティ障害の患者及び回避性パーソナリティ障害の患者は健常者と比較してより小さな増加を示し、そして、画像の情動強度の評価において馴化を示さなかった。馴化中の島-腹側前帯状回の機能的結合性において境界性パーソナリティ障害は回避性パーソナリティ障害の患者とは異なった。

結論:
健常者とは異なり、境界性パーソナリティ障害の患者はネガティブな画像の馴化に失敗し、そして、彼らは馴化の神経活動において健常者及び回避性パーソナリティ障害の患者の両方とは異なる。効果的に情動の馴化処理に従事することへの失敗は、境界性パーソナリティ障害の患者において、感情の不安定に寄与するかもしれない。

注:i) 引用中の「極端な情動的反応性」に関しては、他の拙エントリの「ここ」を参照して下さい。 ii) 引用中の「insula-amygdala functional connectivity」(島-扁桃体機能的結合性)については、次の論文の要旨を参照して下さい。「Insula-amygdala functional connectivity is correlated with habituation to repeated negative images.」 iii) 引用中の「背側前帯状皮質」に関連する「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「島」については、次のWEBページを参照して下さい。「島 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 vi) 引用中の「境界性パーソナリティ障害」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

また、感覚過敏([ご参考1]の上部参照)に関連する強烈世界症候群については、他の拙エントリの(a)項を参照して下さい。

ご参考1におけるご参考:ちなみに、i) 嗅覚過敏についての疑問点は他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用における扁桃体と眼窩前頭皮質の結合性*28に関しては、感覚過敏以外の視点(例えばノセボ効果、不安)から、ここ及び他の拙エントリのここここを参照すると良いかもしれません。

[ご参考2]MCS を伴う患者の脳科学的アプローチ
ここでは、主に MCS を伴う患者と対照群における嗅覚刺激中の NIRS イメージングに関連する以下の3つの論文の要旨を紹介します。ちなみに、これらの論文は全て全文公開され、その一部とこれらの論文における参照元の一部の論文の要旨を以下に紹介しています。*29

①「Changes in Cerebral Blood Flow during Olfactory Stimulation in Patients with Multiple Chemical Sensitivity: A Multi-Channel Near-Infrared Spectroscopic Study[拙訳]MCSを伴う患者における嗅覚刺激中の脳血流の変化:多チャンネル近赤外分光法による研究」(注:全文はここを参照して下さい)

この論文(2013年発表)の要旨を、以下に引用します。

Multiple chemical sensitivity (MCS) is characterized by somatic distress upon exposure to odors. Patients with MCS process odors differently from controls. This odor-processing may be associated with activation in the prefrontal area connecting to the anterior cingulate cortex, which has been suggested as an area of odorant-related activation in MCS patients. In this study, activation was defined as a significant increase in regional cerebral blood flow (rCBF) because of odorant stimulation. Using the well-designed card-type olfactory test kit, changes in rCBF in the prefrontal cortex (PFC) were investigated after olfactory stimulation with several different odorants. Near-infrared spectroscopic (NIRS) imaging was performed in 12 MCS patients and 11 controls. The olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. The study also included subjective assessment of physical and psychological status and the perception of irritating and hedonic odors. Significant changes in rCBF were observed in the PFC of MCS patients on both the right and left sides, as distinct from the center of the PFC, compared with controls. MCS patients adequately distinguished the non-odorant in 10 odor repetitions during the early stage of the olfactory stimulation test, but not in the late stage. In comparison to controls, autonomic perception and negative affectivity were poorer in MCS patients. These results suggest that prefrontal information processing associated with odor-processing neuronal circuits and memory and cognition processes from past experience of chemical exposure play significant roles in the pathology of this disorder.


[拙訳]
多種化学物質過敏状態(MCS)は、臭気への曝露による身体の苦痛で特徴づけられる。MCS を伴う患者は対照群と異なった臭気処理を行う。この臭気処理は、MCS 患者における臭気物質に関連する活性化の領域として示唆されている前帯状皮質に結合する前頭前野における活性化と関連づけられるかもしれない。この研究において活性化は臭気物質刺激による局所的な脳血流量(rCBF)の有意な増加と定義した。よく設計されたカード型嗅覚検査キットを使用して、いくつかの異なる臭気物質刺激後の前頭前皮質(PFC)における rCBF 変化を調査した。12人の MCS 患者と11人の対照群において近赤外分光法(NIRS)イメージングが行われた。臭気物質刺激試験は連続的に10回繰り返した。被験者の身体的、心理的状態及び匂いの刺激度と快・不快度の知覚の評価もこの研究に含まれた。対照群と比較して、MCS 患者において PFC の中心ではなく、左右両側において rCBF の有意な変化が観察された。MCS 患者は嗅覚刺激試験の10回繰り返しにおいて、後期ではなく早期の段階で非臭気物質を十分に区別した。MCS 患者における自律的な知覚及びネガティブな感情は対照群と比較して劣っていた。これらの結果により、化学物質暴露の過去の体験からの臭気処理神経回路、記憶及び認知処理に関連する前頭前野の情報処理が、この障害(disorder)の病理に重要な役割を果たしていることを示唆する。

注:i) 引用中の「前頭前野」については次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「快・不快」については次のWEBページを参照して下さい。「快・不快 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」については次のWEBページを参照して下さい。 「記憶の分類 - 脳科学辞典」 加えて、これに関連する「陳述記憶・非陳述記憶」「情動的記憶」及び「手続き記憶」については、それぞれ次のWEBページを参照して下さい。「陳述記憶・非陳述記憶 - 脳科学辞典」[注:加えてWEBページ「陳述記憶,非陳述記憶」には、非陳述記憶についての次に引用(『 』内)する記述があります。『非陳述記憶には,手続き記憶や情動記憶がある.「手続き記憶」というのは,技巧や運動技能などに関する記憶であり,大脳皮質・基底核・小脳などがかかわる.情動記憶はパブロフ型の条件付けに代表されるような,特定のキューや文脈と情動を結びつけるタイプの記憶である.』]、「情動的記憶 - 脳科学辞典」[注:情動記憶についてはここも参照して下さい]、「手続き記憶 - 脳科学辞典」 ちなみに、化学物質過敏症と精神的なトラウマの関連については次の資料を参照して下さい。「平成27年度 環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務 報告書」の「1.概念」項 加えて、不適応な手続き記憶や情動記憶とトラウマとの関連について、ピーター・A・ラヴィーン著、ベッセル・A・ヴァン・デア・コーク序文、花丘ちぐさ翻訳の本、「トラウマと記憶 脳・身体に刻まれた過去からの回復」(2017年発行)の「第4章 情動記憶、手続き記憶およびトラウマの構造」における記述の一部(P60)を次に引用(『 』内)します。『不適応な手続き記憶と情動記憶が長期にわたって存続することが、社会的な、あるいは人間関係の問題の根幹となっており、すべてのトラウマのもとにある中心的な作用機序を形成しているといってよいだろう。』 一方、「トラウマの痕跡は手続きの形をとって密かに私たちを支配している」ことについては、ここを参照して下さい。 vi) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 vii) 臭気(ニオイ)に関する引用中の「化学物質暴露の過去の体験からの臭気処理神経回路、記憶及び認知処理に関連する前頭前野の情報処理」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 さらに、においの文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」についてはここを、「イソ吉草酸のにおいに対する日本人とイヌイットとの好みの違い」についてはここを それぞれ参照して下さい。 viii) 加えて、上記全文 *30の「Introduction」において、fMRI を用いた日本の化学物質過敏症の研究に言及しています。この部分を以下に引用します。 ix) 一方、大脳辺縁系に関連してこの続報となる論文及び論文の一部をそれぞれ以下に引用します。 x) 引用中の「近赤外分光法(NIRS)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

In functional magnetic resonance imaging (fMRI) studies involving exposure to odorants, a strong signal-intensity reaction was seen in the limbic system of MCS patients [18].


[拙訳]
臭気物質の曝露に関係した機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の研究において、強い信号強度の反応が MCS 患者の大脳辺縁系で見られた[18]。

注:i) 引用中の文献番号「[18]」については次に示します。ちなみに、PubMed では検索されません。「Miki T, lnoue Y, Miyajima E, Kudo Y, Tsunoda M (2010) Enhanced brain images in the limbic system by functional magnetic resonance imaging (fMRI) during chemical exposures to patients with multiple chemical sensitivities. Kitasato Medical Journal 40: 27–34」 ii) 引用中の「機能的磁気共鳴画像法(fMRI)」については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iii) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えば次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項

Andersson et al furthermore suggested the involvement of a limbic hyperreactivity and speculatively described the sensitivity with MCS as an inability to inhibit salient external stimuli in MCS [46].(中略)

Further research regarding the mode of action of chemical sensitivity through the cerebral limbic system due to chemicals that were recognized as harmful or hazardous during the past exposure event is needed.


[拙訳]
Andersson らはさらに、辺縁系の過剰反応性の関与を示唆し、MCS におけるサリエント(顕著)な外部刺激の抑制不能としての MCS を伴う過敏性を推論的に記述した[46]。(中略)

過去の曝露イベント中に有害又は危険と認識された化学物質による大脳辺縁系を通した化学物質過敏の作用機序に関するさらなる研究が必要である。

注:i) 引用中の文献番号「[46]」の論文要旨はここを参照して下さい。 ii) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えば次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項

②「Assessment of cerebral blood flow in patients with multiple chemical sensitivity using near-infrared spectroscopy--recovery after olfactory stimulation: a case-control study.[拙訳]近赤外分光法を使用した MCS を伴う患者の脳血流量の評価 - 嗅覚刺激後の回復:症例対照研究」(注:全文はここを参照して下さい)

この論文(2015年発表)の要旨を以下に引用します。これは上記論文の続報です。*31 

OBJECTIVES:
Multiple chemical sensitivity (MCS) is a chronic acquired disorder characterized by non-specific symptoms in multiple organ systems associated with exposure to odorous chemicals. We previously observed significant activations in the prefrontal cortex (PFC) during olfactory stimulation using several different odorants in patients with MCS by near-infrared spectroscopy (NIRS) imaging. We also observed that the patients with MCS did not adequately distinguish non-odorant in the late stage of the repeated olfactory stimulation test. The sensory recovery of the olfactory system in the patients with MCS may process odors differently from healthy subjects after olfactory stimulation.

METHODS:
We examined the recovery process of regional cerebral blood flow (rCBF) after olfactory stimulation in patients with MCS. NIRS imaging was performed in 6 patients with MCS and in 6 controls. The olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. The study also included a subjective assessment of the physical and psychological status and of the perception of irritating and hedonic odors.

RESULTS:
After olfactory stimulation, significant activations were observed in the PFC of patients with MCS on both the right and left sides compared with controls. The activations were specifically strong in the orbitofrontal cortex (OFC). Compared with controls, autonomic perception and feelings identification were poorer in patients with MCS. OFC is associated with stimuli response and the representation of preferences.

CONCLUSIONS:
These results suggest that a past strong exposure to hazardous chemicals activates the PFC during olfactory stimuli in patients with MCS, and a strong activation in the OFC remains after the stimuli.


[拙訳]
目的:
多種化学物質過敏状態(MCS)は、臭気化学物質への曝露に関連する複数の器官系における非特異的な症状を特徴とする後天性の慢性障害(disorder)である。以前に我々は近赤外分光(NIRS)イメージングにより、MCS を伴う患者において、いくつかの異なる臭気物質を使用した嗅覚刺激中の前頭前皮質(PFC)における有意な活性化を観察した。MCS を伴う患者は繰り返した嗅覚刺激試験の後期段階において非臭気物質を十分に区別していなかったことも我々は観察した。MCS を伴う患者における嗅覚刺激後の嗅覚系の感覚の回復は、健常な被験者とは異なる臭気の処理を行っているかもしれない。

方法:
我々は、MCS を伴う患者における嗅覚刺激後の局所脳血流量(rCBF)の回復過程を調べた。NIRS イメージングは MCS を伴う患者6人及び対照群6人で実施した。嗅覚刺激試験は連続的に 10 回繰り返した。本研究には身体的及び心理的状態、及び臭いの刺激性と快・不快の知覚の主観的な評価が含まれていた。

結果:
嗅覚刺激後、対照群と比較して、MCS を伴う患者の PFC の左右両側で有意な活性化が観察された。この活性化は特に眼窩前頭皮質(OFC)おいて特異的に強かった。対照群と比較して MCS を伴う患者では、自律的な知覚と感情の弁別はより貧弱であった。OFC は刺激応答や好みの表現に関連している。

結論:
有害な化学物質への過去の強い曝露により、MCS を伴う患者の嗅覚刺激中の PFC が活性化され、そして OFC において刺激後に強い活性化が残存することをこれらの結果は示唆する。

注:i) 引用中の「近赤外分光(NIRS)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) この論文が発表されたジャーナル「Environmental Health and Preventive Medicine」のインパクトファクターについては、次のWEBを参照して下さい。「Environmental Health and Preventive Medicine」の「EHPMのWeb of Scienceへの掲載決定!」項。 iii) さらに、引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 一方、この論文(全文)における脳の領域について記述した二つの部分、すなわち前者の「Introduction」及び後者の「Discussion」における記述の一部をそれぞれ以下に引用します。ちなみに、後者の引用における「ACC」、「PFC」、「OFC」はそれぞれ、「前帯状皮質」(Anterior Cingulate Cortex)、「前頭前皮質」(Prefrontal Cortex)、「眼窩前頭皮質」(Orbitofrontal Cortex)のことです。 v) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 vii) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 一方、上記「眼窩前頭皮質」に関連する用語「前頭連合野眼窩部」については、意思決定に及ぼす影響の視点より、渡邊正孝、船橋新太郎編の本、「情動と意思決定 -感情と理性の統合-」(2015年発行)の 6 意思決定に及ぼす情動の影響 -前頭連合野眼窩部の機能を中心に-[著者は船橋新太郎] の「おわりに」項に示されており、この部分の記述(P192)を以下に引用します。

We previously conducted a near-infrared spectroscopy (NIRS) activation study on olfactory stimulation in patients with MCS [14]. Activation was defined as a significant increase in the regional cerebral blood flow (rCBF) following odorant stimulation. Changes in the blood flow and oxygenation to the brain are closely linked to neural activity [15]. NIRS has been commonly applied in studies of prefrontal activity [16, 17] and is suitable for detecting oxygenation changes in higher cortical regions. Our previous study identified acute activation in the prefrontal cortex (PFC) during olfactory stimulation with several different odorants in patients with MCS [14]. The prefrontal area connects to the anterior cingulate cortex (ACC), an area of odorant-related activation in patients with MCS [18]. The results of challenge tests by exposure to odorous chemicals indicated a neuro-cognitive impairment in patients with MCS, and using single photon-emission computed tomography, brain dysfunction was found particularly in odor-processing areas, thereby suggesting a neurogenic origin of MCS [19]. One possibility is that patients with MCS may have an enhanced top–down regulation of odor response via the cingulate cortex. These findings also suggest that prefrontal information processing associated with the odor-processing neuronal circuits and memory from a past experience of chemical exposure may play significant roles in the pathology of this disorder.

Our previous study also showed that the patients with MCS adequately distinguished non-odorant in 10 odor repetitions during the early stage but not in the late stage of the olfactory stimulation test when the olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. Repeated or prolonged exposure to an odorant typically leads to a stimulus-specific decrease in olfactory sensitivity to that odorant, but sensitivity recovers over time in the absence of further exposure [20]. Thus, we postulate that prefrontal information processing in patients with MCS is activated by an emotional response to a repeated olfactory stimulation in the late stage of the test, and that the processing system in the PFC cannot respond adequately. Further, the sensory recovery of the olfactory system in patients with MCS may process odors differently from healthy subjects after olfactory stimulation. Although recovery is generally evident after short olfactory stimulation on the several tens of second time scale [21, 22], the recovery process of patients with MCS may differ from that of healthy subjects. In this study, we examined the recovery process after short olfactory stimulation in patients with MCS, using NIRS imaging.


[拙訳]
MCS を伴う患者における嗅覚刺激に関する近赤外分光法(NIRS)による活性化の研究を我々は以前に実施した[14]。活性化は臭気物質刺激に続く局所脳血流量(rCBF)の有意な増加として定義された。脳への血流と酸素化における変化は神経活動と密接に関連する[15]。 NIRS は、一般的に前頭前野の活動の研究に適用され[16, 17]、より高い皮質領域における酸素化の変化の検出に適している。我々の以前の研究では、MCS を伴う患者において、いくつかの異なる臭気物質を伴った嗅覚刺激中に前頭前皮質(PFC)における急激な活性化が同定された[14] 。前頭前野領域は前帯状皮質(ACC)、MCS を伴う患者における臭気物質関連の活性化領域と結合する[18]。臭気化学物質への曝露による負荷試験の結果は、MCS を伴う患者における神経認知障害を示し、そして単一光子放射型コンピュータ断層撮影法を使用した、脳の機能障害は臭い処理領域で発見され、それにより、MCS の神経原性の起源を示唆する[19]。一つの可能​​性は、MCS を伴う患者は、帯状皮質を介して増強された臭気応答のトップダウン調節を有するかもしれない。これらの知見は、臭気処理神経回路に関連した前頭前野の情報処理及び化学物質曝露の過去の体験からの記憶はこの障害(disorder)の病理に重要な役割を果たすかもしれないことを示唆する。

嗅覚刺激試験を連続して10回繰り返した時、この10回繰り返しの初期には、MCS を伴う患者は非臭気物質を見分けられたが、後期には見分けられなかったことも我々の前の研究で示した。臭気物質への反復した又は延長した曝露は典型的に、この刺激への臭気感度における刺激特異的な減少をもたらすが、さらなる曝露の欠如において感度は経時的に回復する[20]。このように、MCS を伴う患者における前頭前野の情報処理は後期の試験における反復した嗅覚刺激への情動の応答により活性化され、そして PFC における処理システムは適切に応答できないことを我々は前提とする。さらに、MCS を伴う患者における嗅覚システムの感覚回復は、嗅覚刺激後の健康な被験者と異なる臭いの処理をしているかもしれない。数十秒の時間スケールでの短い嗅覚刺激後の回復は一般的に明白である[21, 22]が、MCS を伴う患者の回復過程は健常な被験者と異なるかもしれない。本研究では、NIRS イメージングを使用して、MCS を伴う患者の短い嗅覚刺激後の回復過程を我々は調査した。

注:i) これは上記「Introduction」における記述の一部の引用です。 ii) 引用中の文献番号「[14]」、「[15]」、「 [16, 17] 」、「[18]」はそれぞれ次の論文です。「Changes in cerebral blood flow during olfactory stimulation in patients with multiple chemical sensitivity: a multi-channel near-infrared spectroscopic study.*32、「Age dependency of changes in cerebral hemoglobin oxygenation during brain activation: a near-infrared spectroscopy study.」、「Beyond the visible--imaging the human brain with light.」、「Prefrontal activity during taste encoding: an fNIRS study.」、「Odor processing in multiple chemical sensitivity.」 iii) 引用中の文献番号「[19]」、「[20]」はそれぞれ次の論文です。「Brain dysfunction in multiple chemical sensitivity.」、「Psychophysical and behavioral characteristics of olfactory adaptation.」 iv) 引用中の「近赤外分光法(NIRS)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。加えて引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 さらにメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 vii) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「トップダウン」に関しては、例えば次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項 ix) 臭気(ニオイ)に関する引用中の「化学物質曝露の過去の体験からの記憶」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 さらに、においの文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」についてはここを、「イソ吉草酸のにおいに対する日本人とイヌイットとの好みの違い」についてはここを それぞれ参照して下さい。

An odorant-related increase in activation in the ACC has been observed in patients with MCS [18]. The ACC is involved in adequate control of top–down or bottom–up modulation of stimuli and is connected to the PFC. Past exposures to hazardous chemicals are stored as memories in the PFC through olfactory nerve circuits, causing various physical or psychological responses such as emotional, visceral, or autonomic responses during the processing of top–down stimuli when exposed to odorants later in life [14]. In the present study, we found that recovery from activation in the PFC after an olfactory stimulation is delayed in patients with MCS compared with controls. These findings support the current understanding of the pathology of this disorder: compared to healthy subjects, patients with MCS strongly respond to odorants that they encounter in daily life, the repeated daily exposure to the odorants keeps them in a reactive state. Due to their physical and psychological intolerance to odorants, the patients try to avoid exposure to the odorants. In this study, 4 patients with MCS had episodes of initial exposure to chemicals that triggered the first symptoms. These included organic solvents or incense at the workplace, exhaust gas from diesel machines in the neighborhood, odors from pesticides, or fragrance from a neighbor. Two patients had episodes of repeated exposure to solvents emitted from a neighboring industrial plant or a neighboring paint store, respectively. Patients with MCS complained about a chemical-sensitive condition thereafter. The psychological evaluations in our study support the theory of a strong response in patients with MCS.

In the recovery stage after the stimulation, the activation was especially strong in the OFC. The olfactory neuroanatomy is intertwined, via extensive reciprocal axonal connections, with primary emotion areas including the amygdala, hippocampus, and OFC [39, 40]. Olfactory stimulation directly activates amygdala neurons, innervating a region in the OFC. The olfactory sense has a unique intimacy with the emotion system, and the perception of smell is known to be dominated by emotion [41]. Strong activation in the OFC might remain as potent affective experiences following olfactory stimuli in patients with MCS compared with controls. In this study, lateral orbitofrontal regions were specifically activated in the patients with MCS. The valence of odors is represented in particular in the OFC [42]. Nearly all odors were evaluated as unpleasant by the MCS patients in the subjective evaluation after the stimulation. Pleasant odors preferentially activate medial orbitofrontal regions, whereas unpleasant odors activate more lateral regions [43–46]. The strong activations of the lateral OFC in the patients with MCS suggest that these odors were extremely unpleasant for the MCS patients.

Both the ACC and OFC are implicated in decision-making, emotion, and social behavior. Recent evidence suggests that the ACC and OFC make distinct contributions to each of these aspects of decision-making [47]. The OFC is involved in the cognitive processing of stimuli and the representation of preferences. The ACC may mediate the relationship between a past experience and the choice of the next action. Thus, our results suggest that a past strong exposure to hazardous chemicals activates the ACC (and the connected PFC) during olfactory stimuli in the patients with MCS, and a strong activation in the OFC remains after the stimuli. In particular, the lateral OFC is specifically activated when the odor is unpleasant for the patients with MCS. However, the OFC and ACC are anatomically interconnected, and their interaction stimulates decision-making. Their individual function independent of each other remains unclear. Further research is required to understand the recovery process in MCS and the pathology of this disorder.


[拙訳]
ACC での活性化における臭気物質関連の増加は、MCS を伴う患者において観察されている[18]。 ACC は、刺激のトップダウン又はボトムアップ調節の適切な制御に関与し、PFC に結合されている。危険な化学物質への過去の暴露は、嗅覚神経回路を介して、PFC において記憶として貯蔵され、その後の人生において臭気物質に曝露された時に、トップダウンの刺激処理中に、情動的、直感的又は自律的な応答を引き起こす[14]。本研究においては、対照群と比較して MCS を伴う患者は、PFC において嗅覚刺激後の回復が遅れることを我々は発見した。これらの知見はこの障害(disorder)の病理の現在の理解を支持する:健康な被験者と比較して MCS を伴う患者は日常生活で遭遇する臭気物質に強く応答し、毎日の臭気物質への反復曝露により、反応状態を維持する。臭気物質への身体的及び心理的不耐により、患者の方々は臭気物質への暴露を回避するように試みる。この研究において、4人の患者には最初の症状のきっかけとなった初期の化学物質曝露のエピソードがあった。これらには、職場における有機溶剤又は香料、近隣におけるディーゼル機械からの排気ガス、殺虫剤の臭い、又は近隣からの芳香を含んでいた。2人の患者は近隣の工業プラント又は塗料店から放出される溶剤にそれぞれ反復曝露していた。その後、MCS を伴う患者は化学物質に過敏な状況を訴えた。我々の研究における心理的な評価は、MCS を伴う患者の強い応答の理論を支持する。

刺激後の回復ステージにおいて、OFC における活性化は特に強かった。嗅覚の神経解剖学は扁桃体、海馬及び OFC [39, 40]を含む一次的な情動領域を伴う広範囲で相互的な軸索結合を通して絡みあう。嗅覚刺激は直接的に扁桃体神経を活性化し、OFC を神経支配する。嗅覚は情動システムと独自の密接さを有し、そして匂いの知覚は情動により支配されることが知られている[41]。対照群に比較した MCS を伴う患者において、嗅覚刺激後の潜在的な感情体験として、ひょっとすると、OFC における強い活性化が残っているかもしれない。本研究では、MCS を伴う患者において外側眼窩前頭領域が特に活性化した。臭いの感情価(valence)は特に眼窩前頭皮質において表象される[42]。刺激後の主観的評価において、MCS を伴う患者によりほぼ全ての臭いは不快と評価された。不快な臭いは外側領域をより活性化する[43–46]のに対し、快な臭いは優先的に内側眼窩前頭領域を活性化する。MCS を伴う患者における外側 OFC の強い活性化は、これらの臭いが MCS 患者にとって極めて不快であることを示唆する。

ACC と OFC の両方は、意思決定、情動及び社会行動に関係する。ACC と OFC は意思決定のこれらの側面の各々に明確に寄与することを最近のエビデンスは示唆する[47]。 OFC は刺激の認知処理及び好みの表象に関係する。ACC は過去の経験と次の選択との間をメディエイトするかもしれない。このように、MCS を伴う患者における嗅覚刺激中に、危険な化学物質への過去の強い曝露は ACC(及び結合された PFC)を活性化する、そして刺激後に OFC において強い活性化が残る。特に、臭いが MCS を伴う患者にとって不快な時は、特に外側 OFC が活性化される。しかし、OFC と ACC は自律的に相互結合し、そしてこれらの相互作用は意思決定を刺激する。お互いに独立したこれらの各々の機能は不明確のままである。MCS における回復過程及びこの障害(disorder)の病理を理解するためのさらなる研究が要求される。

注:i) これは上記「Discussion」における記述の一部の引用です。 ii) 引用中の文献番号「[14]」、「[18]」はそれぞれ次の論文です。「Changes in cerebral blood flow during olfactory stimulation in patients with multiple chemical sensitivity: a multi-channel near-infrared spectroscopic study.*33、「Odor processing in multiple chemical sensitivity.」 iii) 引用中の文献番号「[39]」、「[40]」、「[41]」、「[42]」は次の論文です。「Parallel-distributed processing in olfactory cortex: new insights from morphological and physiological analysis of neuronal circuitry.」、「Central mechanisms of odour object perception.」、「When the sense of smell meets emotion: anxiety-state-dependent olfactory processing and neural circuitry adaptation.」、「Cognitive modulation of olfactory processing.」 iv) 引用中の文献番号「[43]」、「[44]」、「[45]」、「[46]」は次の論文です。「Dissociated neural representations of intensity and valence in human olfaction.」、「The nose smells what the eye sees: crossmodal visual facilitation of human olfactory perception.」、「Different representations of pleasant and unpleasant odours in the human brain.」、「Emotion, olfaction, and the human amygdala: amygdala activation during aversive olfactory stimulation.」 v) 引用中の文献番号「[47]」は次の論文です。「Contrasting roles for cingulate and orbitofrontal cortex in decisions and social behaviour.」 vi) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。加えて引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 さらにメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 ix) 引用中の「不快な臭いは外側領域をより活性化する[43–46]のに対し、快な臭いは優先的に内側眼窩前頭領域を活性化する」に関連して、ゴードン・M・ジェファード著、小松淳子訳の本、「美味しさの脳科学 NEUROGASTRONOMY においが味わいを決めている」(2014年発行)の 第12章 嗅覚と風味 の「においの創出」における記述の一部(P351)を次に引用(『 』内)します。 『好ましいにおいと不快なにおいに選択的に応答する細胞がそれぞれ存在する。神経細胞活動電位記録とfMRIによって示されているところによると、好ましいにおいに応答する細胞は眼窩前頭皮質の内側に、不快なにおいに応答するそれは外側に位置している傾向がある。』(注:a) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 b) 引用中の「好ましいにおいに応答する細胞は眼窩前頭皮質の内側に、不快なにおいに応答するそれは外側に位置している傾向がある」に関連するにおいの報酬価値について、同本の P165 における記述の一部を次に引用[『 』内]します。 『眼窩前頭皮質とACC(前部帯状回)が表象するのは、両領域の活性化がにおいの主観的快感覚と相関することから考えて、においの報酬価値である』) x) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 xi) 引用中の「感情価」は情動価とも称され、ネガティブ、ポジティブ又はニュートラルといった感情の方向性を示すものです。 xii) 引用中の「表象」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 xiii) 引用中の「意思決定」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ivx) 引用中の「トップダウン」及び「ボトムアップ」に関しては、例えば次のWEBページを参照して下さい。「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項

おわりに
われわれがふだん行う意思決定には,様々な情報を利用した論理的な推論が重要な役割を演じている.その情報の一つは,意思決定によって得られた結果の評価に関する情報である.それによる意思決定ではいくつかの選択肢のなかからある選択をしたときにどのような結果が得られるか,あるいは,どの程度の有益な結果が得られるかを,過去の経験をもとに論理的に評価し,一番評価の高い選択肢を選択する.そして,その選択で得られた結果が,期待どおりの好ましいものであれば評価を高め,期待に反して好ましくないものであれば評価を下げる.そして,この評価を次の意思決定のための情報として使用する.しかし,どの選択肢をとるかの意思決定は,選択によって得られると期待される結果の評価ばかりではなく,その選択にどれだけのコストが必要か,そして,コストに見合った結果を得ることができるかにも依存する.
選択によって得られると期待される結果の評価や,その選択に必要なコスト,さらに,選択で被るかもしれないリスクなどの情報をもとにした論理的な推論で意思決定が行われるだけではなく,その方向に大きな影響を与える感情という要因が加わる.感情は,ダマシオらが唱えるソマティック・マーカーという形で,いくつかの選択肢のなかからある選択肢をポジティブにもネガティブにも際立たせ,その結果,その選択肢を選択しやすくさせたり,選択しにくくさせたりする一種のバイアス装置として,多くの場合は無意識下で機能する.そして,感情のこのような働きにより,意思決定を個体にとって有利な方向に向かわせることができると考えられている.そして,われわれの意思決定が感情によって影轡されるような場面で,前頭連合野の一部分である前頭連合野眼窩部が重要な役割を演じていることが明らかにされてきている.

注:i) 上記項目タイトル中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えて、メンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「ソマティック・マーカー」については、次のWEBページを参照して下さい。「ソマティック・マーカー仮説 - 脳科学辞典

③「Association of Odor Thresholds and Responses in Cerebral Blood Flow of the Prefrontal Area during Olfactory Stimulation in Patients with Multiple Chemical Sensitivity.[拙訳]MCS を伴う患者における臭気閾値と嗅覚刺激中の前頭葉の脳血流量での応答との関連」(注:全文はここを参照して下さい)

この論文(2016年発表)の要旨を以下に引用します。これは上記論文(全文)の続報です。

Multiple chemical sensitivity (MCS) is a disorder characterized by nonspecific and recurrent symptoms from various organ systems associated with exposure to low levels of chemicals. Patients with MCS process odors differently than controls do. Previously, we suggested that this odor processing was associated with increased regional cerebral blood flow (rCBF) in the prefrontal area during olfactory stimulation using near-infrared spectroscopic (NIRS) imaging. The aim of this study was to investigate the association of odor thresholds and changes in rCBF during olfactory stimulation at odor threshold levels in patients with MCS. We investigated changes in the prefrontal area using NIRS imaging and a T&T olfactometer during olfactory stimulation with two different odorants (sweet and fecal) at three concentrations (zero, odor recognition threshold, and normal perceived odor level) in 10 patients with MCS and six controls. The T&T olfactometer threshold test and subjective assessment of irritating and hedonic odors were also performed. The results indicated that the scores for both unpleasant and pungent odors were significantly higher for those for sweet odors at the normal perceived level in patients with MCS than in controls. The brain responses at the recognition threshold (fecal odor) and normal perceived levels (sweet and fecal odors) were stronger in patients with MCS than in controls. However, significant differences in the odor detection and recognition thresholds and odor intensity score between the two groups were not observed. These brain responses may involve cognitive and memory processing systems during past exposure to chemicals. Further research regarding the cognitive features of sensory perception and memory due to past exposure to chemicals and their associations with MCS symptoms is needed.


[拙訳]
多種化学物質過敏状態(MCS)は低レベルの化学物質の曝露に関連する様々な臓器系からの非特異的かつ再発する症状により特徴づけられる障害(disorder)である。MCS を伴う患者は対照群と異なる臭気処理をする。以前に、近赤外線分光法(NIRS)イメージングを使用した嗅覚刺激中の前頭前野における増加した局所脳血流(rCBF)に関連したことを、我々は示唆した。この研究の目的は、臭気閾値と MCS を伴う患者における臭気閾値レベルの嗅覚刺激中の rCBF における変化との関連を調査することである。10人の MCS を伴う患者と 6人の対照群において、2つの異なるニオイ物質(あまいニオイ、糞臭)を用いた、3種類の濃度(ゼロ、臭気認知閾値、普通に知覚される臭気レベル)での嗅覚刺激中の NIRS イメージングとT&Tオルファクトメーターを使用した前頭前野における変化を調査した。T&Tオルファクトメーター閾値試験及び刺激性及び快なニオイの主観的な評価も実施された。これらの結果では、不快かつ刺激の強い臭いのスコアは普通に知覚されたレベルで、対照群よりも MCS を伴う患者において、あまいニオイのスコアよりも有意に高かったことが示された。臭気認知閾値(糞臭)及び普通に知覚されるレベル(あまいニオイ、糞臭)での脳の応答は、対照群よりも MCS を伴う患者の方が強かった。しかしながら、臭いの検知と認知の閾値及び臭い強度スコアにおける 2つのグループ間での有意な差は観察されなかった。これらの脳の応答には、過去の化学物質曝露中の認知及び記憶処理系が関与しているかもしれない。過去の化学物質曝露による感覚の知覚と記憶及び MCS の症状に関連する認知的な特徴に関する、さらなる研究が必要である。

注:i) 参考として、引用中の「T&Tオルファクトメーター」を紹介する資料を次に示します。 「T&Tオルファクトメーター」 ii) 引用中の「検知と認知の閾値」に関連する、「検知閾値」、「認知閾値」については、共に次の資料を参照して下さい。 「T&Tオルファクトメーター」 iii) 引用中の「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「近赤外線分光法(NIRS)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) ちなみに、嗅覚閾値に関連する論文は、 a) 自閉スペクトラム症を伴う子どもを症例群としたものはここの v) 項を参照して下さい。 vii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「以前に、近赤外線分光法(NIRS)イメージングを使用した嗅覚刺激中の前頭前野における増加した局所脳血流(rCBF)に関連したことを、我々は示唆した」に該当する論文要旨はここを参照して下さい。 ix) 臭気(ニオイ)に関する引用中の「過去の化学物質曝露による感覚の知覚と記憶」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 さらに、においの文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 x) 一方、この論文の「Discussion」における記述の一部を以下に引用します。ちなみに、この引用における「PFC」、「OFC」はそれぞれ「前頭前皮質」(Prefrontal Cortex)、「眼窩前頭皮質」(Orbitofrontal Cortex)のことです。

The dorsal part of the anterior cingulate cortex (ACC) is connected to the PFC, and it plays an important role in processing top-down and bottom-up stimuli and assigning appropriate control to other areas in the brain [45]. Thus, the past exposure event was stored as memories in these cortices through olfactory nerve circuits, the processing of top-down stimuli from these cortices involves the central system related to emotional and autonomic nervous system, and various physical or psychological symptoms would be induced in patients with MCS. The psychological evaluations in the present study indicated that scores in MCS patients were significantly higher than those in controls on the APQ and TAS-20 DIF scales. These results also may support the theory of response regulation by memory in the PFC. Andersson et al furthermore suggested the involvement of a limbic hyperreactivity and speculatively described the sensitivity with MCS as an inability to inhibit salient external stimuli in MCS [46].
Near-infrared rays sent out from the NIRS device can provide visual access to the cerebral cortex within approximately 20 mm from the scalp, but cannot access the deep portion of a cerebral limbic system. The NIRS has the advantage of a high time resolution and the feasibility of being performed under natural conditions compared with other functional neuroimaging methodologies such as fMRI, PET, and SPECT, which can access the cerebral limbic system. However, the connections between the cerebral cortex and cerebral limbic system, their odor information processing, and their associations with MCS symptoms are important to clarify the pathology of this disorder. Further research is necessary regarding these connections and their associations with the symptoms using the NIRS and these other methodologies during olfactory stimulation.
Our study had some limitations. First, the small sample size makes the results vulnerable to selection bias. This could be alleviated by including a larger study population. However, differences between the patients with MCS and the controls regarding the NIRS imaging data were evident and supported by similar findings in the ACC [13], PFC [16], and OFC [17] in previous studies. Second, to the best of our knowledge, this is the first case-control study investigating the association of odor thresholds and changes in rCBF in prefrontal areas during olfactory stimulation at the odor threshold level in patients with MCS using NIRS imaging. Further evaluation using several odorants associated with a wide range of levels of comfort/discomfort or weak/strong irritation for MCS would provide valuable information for understanding the pathology of this disorder. A third limitation was the lack of standardized objective measures to identify and define MCS. Most definitions of MCS are entirely qualitative, relying on subjective reports of distressing symptoms and environmental exposure from patients and physicians. Therefore, several participants were excluded on the basis of QEESI scores, hematological data, and the discretion of the clinic physician due to conditions such as mental or chronic disorders.
In conclusion, despite the small sample size, this experimental case-control study demonstrated that significant differences between patients with MCS and controls regarding odor thresholds were not observed, and larger increases in rCBF in the PFC and OFC were observed in patients with MCS than in controls in response to the olfactory stimuli at the odor recognition threshold or normally perceived odor level. These brain responses may involve cognitive and memory processing systems during past exposure to hazardous chemicals. Further research regarding the mode of action of chemical sensitivity through the cerebral limbic system due to chemicals that were recognized as harmful or hazardous during the past exposure event is needed.


[拙訳]
前帯状皮質(ACC)の背面部は PFC に結合され、トップダウンとボトムアップの刺激処理及び脳内の他の領域に適切な制御の割り当ての重要な役割を果たす[45]。従って、過去の暴露イベントは、嗅神経回路を介してこれらの皮質に記憶として貯蔵され、これらの皮質からのトップダウン刺激の処理には、情動及び自律神経系に関連する中枢系が関与し、そして、MCS を伴う患者において、様々な身体的又は心理的な症状が引き起こされるのであろう。本研究における心理的な評価では、APQ 及び TAS-20 DIF 尺度に関して、対称群よりも MCS 患者の方が有意により高いスコアであることを示した。これらの結果は PFC における記憶による応答調節の理論も支持するかもしれない。Andersson らはさらに、辺縁系の過剰反応性の関与を示唆し、MCS における顕著な外部刺激の抑制不能としての MCS を伴う過敏性を推論的に記述した[46]。
NIRS 装置から放たれた近赤外線は頭皮から約20mm以内の大脳皮質まで視覚的アクセスを提供する。しかし、大脳辺縁系の深い部分までアクセスできない。NIRS は高い時間解像及び fMRI、PET 及び SPECT 、これらは大脳辺縁系までアクセス可能、等の他の機能イメージング方法論と比較して、自然な状態での実行の可能性の利点を有する。しかしながら、大脳皮質と大脳辺縁系の結合、臭気情報処理及び MCS 症状との関連はこの障害(disorder)の病理の明確化に重要である。これらの結合及び症状との関連に関した、NIRS 及び他の方法論を使用した嗅覚刺激中のさらなる研究が必要である。
我々の研究にはいくつかの限界がある。第一に、小さなサンプルサイズ(被験者数)により選択バイアスに対し脆弱となる。これはより大きな被験者数を含めることにより緩和しうる。しかしながら、NIRS イメージングデータに関して、MCS を伴う患者と対照群の差は明確であり、以前の研究、ACC [13], PFC [16] 及び OFC [17] における類似した知見により支持される。第二に、我々の知る限り、これが NIRS イメージングを使用した MCS を伴う患者における臭気閾値レベルでの嗅覚刺激中の前頭前野での臭気閾値と rCBF における変化との関連を調査する最初の症例-対照研究である。MCS にとって幅広い範囲の快/不快又は弱い/強い刺激に関連したいくつかの臭気物質を使用したさらなる評価は、この障害の病理の理解に向けた貴重な情報を提供するだろう。第三の限界は、MCS を同定及び定義する標準化された客観的な基準の欠如である。ほとんどの MCS の定義はもっぱら定性的であり、患者及び医師からの苦痛の症状及び環境曝露の主観的な報告に頼っている。従って、数人の被験者は、問診票(QEESI)のスコア、血液検査のデータ及び精神又は慢性の障害等の状態により臨床医の裁量に基づき除外した。
結論として、小さなサンプルサイズにもかかわらず、この実験的な症例-対照研究は、臭気閾値に関する MCS を伴う患者と対照群との有意な差は観察されなかった、そして、臭気認識閾値又は普通に知覚される臭気レベルでの嗅覚刺激に応じて、対照群よりも MCS を伴う患者で、PFC 及び OFC における rCBF のより大きな増加が観察されたことを実証した。これらの脳の応答は、過去の危険な化学物質への曝露中の認知及び記憶処理システムが関与するかもしれない。過去の曝露イベント中に有害又は危険と認識された化学物質による大脳辺縁系を通した化学物質過敏の作用機序に関するさらなる研究が必要である。

注:i) 引用中の文献番号「[45]」は次に示す論文です。 「Emotional processing in anterior cingulate and medial prefrontal cortex」 ii) 引用中の文献番号「[13]」、「[16]」はそれぞれ次に示す論文です。 「Functional Neuroimaging of Anxiety: A Meta-Analysis of Emotional Processing in PTSD, Social Anxiety Disorder, and Specific Phobia」、「On the relationship between emotion and cognition. 一方、引用中の文献番号「[17]」の論文は紹介しません。論文をご参照下さい。 iii) 引用中の「PFC」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「OFC」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えばここ及び次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 viii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 ix) 引用中の「APQ」、「TAS-20 DIF」は、それぞれ「Autonomic Perception Questionnaire」[拙訳:自律知覚アンケート]、「トロント・アレキサイミア尺度(TAS-20)とその下位尺度の感情同定の困難さ (DIF:difficulty in identifying feelings)」のようです。ちなみに、a) 上記 TAS-20 については例えば次の資料を参照して下さい。 「日本語版 The 20-item Toronto Alexithymia Scale(TAS-20)の信頼性,因子的妥当性の検討」 b) 化学物質過敏症と TAS-20 を含む失感情症の関連については拙エントリのここを参照して下さい。 x) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。加えて、これに関連する臭気の文脈における「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 xi) 引用中の「NIRS」(近赤外線分光法)については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 xii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 xiii) 引用中の「PET」(陽電子放射断層撮影)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「MR画像を利用した脳PET画像解析」 ivx) 引用中の「SPECT」(スペクト又は単一光子放射断層撮影)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「SPECTの定量化と標準化」 vx) 引用中の文献番号「[46]」の論文の要旨は次に紹介します。

論文「Brain responses to olfactory and trigeminal exposure in idiopathic environmental illness (IEI) attributed to smells -- an fMRI study.[拙訳]特発性環境不耐症(IEI)における嗅覚及び三叉神経の匂いによる曝露への脳の応答-機能的磁気共鳴画像法の研究」の要旨を次に引用します。

OBJECTIVE:
Idiopathic environmental intolerance (IEI) to smells is a prevalent medically unexplained illness. Sufferers attribute severe symptoms to low doses of non-toxic chemicals. Despite the label, IEI is not characterized by acute chemical senses. Theoretical models suggest that sensitized responses in the limbic system of the brain constitute an important mechanism behind the symptoms. The aim was to investigate whether and how brain reactions to low-levels of olfactory and trigeminal stimuli differ in individuals with and without IEI.

METHODS:
Brain responses to intranasally delivered isoamyl acetate and carbon dioxide were assessed in 25 women with IEI and 26 non-ill controls using functional magnetic resonance imaging.

RESULTS:
The IEI group had higher blood-oxygenated-level-dependent (BOLD) signal than controls in the thalamus and a number of, mainly, parietal areas, and lower BOLD signal in the superior frontal gyrus. The IEI group did not rate the exposures as more intense than the control group did, and there were no BOLD signal differences between groups in the piriform cortex or olfactory regions of the orbitofrontal cortex.

CONCLUSIONS:
The IEI reactions were not characterized by hyper-responsiveness in sensory areas. The results can be interpreted as a limbic hyperreactivity and speculatively as an inability to inhibit salient external stimuli.


[拙訳]
目的:
匂いに対する特発性環境不耐症(IEI)は、一般的な医学的に説明できない病気である。罹患者は重篤な症状を低用量の非毒性化学物質に帰する。ラベリングにもかかわらず、IEI は、急性の化学感覚により特徴づけれない。理論モデルは、脳の大脳辺縁系で感作された応答は、症状の背後にある重要な機構を構成することを示唆する。本研究の目的は、IEI を伴う個々人と伴わない個々人で低レベルの嗅覚及び三叉神経刺激への脳の反応が異なるのかどうか、そしてどのように異なるのかを調査することであった。

方法:
25人の IEI を伴う女性(IEI グループ)及び26人の病気でない対照群において、鼻腔内に送達した酢酸イソアミル及び二酸化炭素への脳の反応を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて評価した。

結果:
IEI グループは、視床野及びいくつかの主に頭頂野において、対照群よりも高い血中酸素濃度依存(BOLD)シグナルを有し、上前頭回において低い BOLD シグナルを有した。IEI グループは、これらの曝露が対照群よりもより強烈であると評価しなく、梨状皮質又は眼窩前頭皮質の嗅覚領域において BOLD シグナルの差はなかった。

結論:
IEI 反応は感覚野における過剰応答によって特徴づけれなかった。これらの結果は辺縁系の過剰反応性及び推論的にサリエント(顕著)な外部刺激の抑制不能として解釈することができる。

注:i) 引用中の「辺縁系」に関連する「大脳辺縁系」については、例えばここ及び次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 ii) 引用中の「辺縁系の過剰反応性」に対するセラピーに関連するかもしれない「辺縁系セラピー」についてはリンク集を参照して下さい。ただし、MCS 又は化学物質過敏症の文脈ではありませんが。加えて引用中の「辺縁系の過剰反応性」に関連するかもしれない、ストレスの影響の視点からの辺縁系の一部である「扁桃体が過剰に反応しない」よう、適度にブレーキをかけて制御する前頭前野についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の「機能的磁気共鳴画像法」及び「血中酸素濃度依存(BOLD)シグナル」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iv) 引用中の「サリエント」に関連する「セイリエンス」又は「サリエンシー」について、a) 情動又はセイリエンス・ネットワークの視点からの前者について、 ①資料「情動」における記述の一部(P102)を次に引用(『 』内)します。 『この「セイリエンス」という用語は,内臓を含む身体に「顕著な」変化が生じており,身体の恒常状態であるホメオスタシスが乱されている状態という意味で用いられている。』 ②貝谷久宜、熊野宏昭、越川房子編著の本、「マインドフルネス -基礎と実践-」(2016年発行)中の古賀美恵、金山祐介、灰谷知純、杉山風輝子、熊野宏昭著の文書「マインドフルネス瞑想の構成要素としての注意訓練による脳内変化」の マインドフルネス瞑想と関連する脳内ネットワーク の「(3)セイリエンス・ネットワーク(SN)」における記述の一部(P9)を次に引用(『 』内)します。 『セイリエンス・ネットワークは、島(Insula)、とくに前島部(Anterior Insula; AI)と ACC からなり、個人内部(自己関連認知、身体感覚など)および外界の刺激のなかから、適切な行動に導くために最も関連性の高い刺激を識別する役割を担っている。』(注:i) 引用中の「島」については次のWEBページを参照して下さい。 「島 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「ACC」は前部帯状回皮質[Anterior Cingulate Cortex]のことです。) 加えて引用はしませんが、pdfファイル中の熊野宏昭著の文書「マインドフルネス瞑想のメカニズムに脳科学はどこまで迫ったか」(P30~P37)の「マインドフルネス瞑想と脳の変化」項を参照して下さい。 b) 一方、後者については次のWEBページを参照して下さい。 「サリエンシー - 脳科学辞典」 v) ちなみに、この論文に関連するかもしれない嗅覚と化学物質不耐症との関連についての論文の要旨を次に紹介します。

論文「Short-term olfactory sensitization involves brain networks relevant for pain, and indicates chemical intolerance.[拙訳]短期間の嗅覚感作は、痛みに関連する脳ネットワークが関与し、そして化学物質不耐症を示す」の要旨を次に引用します。

Chemical intolerance is a medically unexplained affliction that implies deleterious reactions to non-toxic everyday chemical exposure. Sensitization (i.e. increased reactivity to repeated, invariant stimulation) to odorous stimulation is an important component in theoretical explanations of chemical intolerance, but empirical evidence is scarce. We hypothesized that (1) individuals who sensitize to repeated olfactory stimulation, compared with those who habituate, would express a lower blood oxygenated level dependent (BOLD) response in key inhibitory areas such as the rACC, and higher signal in pain/saliency detection regions, as well as primary and/or secondary olfactory projection areas; and (2) olfactory sensitization, compared with habituation, would be associated with greater self-reported chemical intolerance. Moreover, we assessed whether olfactory sensitization was paralleled by comparable trigeminal processing - in terms of perceptual ratings and BOLD responses. We grouped women from a previous functional magnetic imaging study based on intensity ratings of repeated amyl acetate exposure over time. Fourteen women sensitized to the exposure, 15 habituated, and 20 were considered "intermediate" (i.e. neither sensitizers nor habituaters). Olfactory sensitizers, compared with habituaters, displayed a BOLD-pattern in line with the hypothesis, and reported greater problems with odours in everyday life. They also expressed greater reactions to CO2 in terms of both perceived intensity and BOLD signal. The similarities with pain are discussed.


[拙訳]
化学物質不耐症は、非毒性のありふれた化学物質の暴露に対する有害な反応を含意する医学的に解明されていない苦痛である。悪臭刺激に対する感作(すなわち、反復不変刺激に対する反応性の増大)は、化学物質不耐症の理論的説明において重要な要素であるが、経験的なエビデンスはほとんどない。我々は次を仮定した。(1)馴化された人と比較して、反復嗅覚刺激に対する感作を示す個体は、吻側前帯状皮質等の重要な阻害領域において低い酸素レベル依存性(BOLD)応答を示し、そして一次及び/又は二次嗅覚投影領域はもちろん、痛み/サリエンシー検出領域において、高い信号を示すだろう そして、(2)馴化と比較した嗅覚感作は、より大きな自己報告された化学物質不耐症に関連する。 さらに、知覚評価および BOLD 応答の観点から、嗅覚感作が同程度の三叉神経処理と並行しているかどうかを評価した。時間の経過とともに酢酸アミルの反復暴露の強度評価に基づいた、以前の機能的磁気イメージング研究から女性を我々はグループ化した。14人の女性が暴露に対して感作し、15人は馴化し、そして20人を「中間」(すなわち、感作も馴化もない)と思われた。嗅覚感作した人は、馴化した人と比較して、この仮説に沿った BOLD パターンを示し、そして日常生活におけるより大きな悪臭の問題を報告した。知覚強度と BOLD 信号の両方の観点から、CO2 に対するより大きな反応も彼女らは示した。痛みとの類似点が議論された。

注:i) 引用中の「BOLD」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 ii) 引用中の「吻側前帯状皮質」に関連する「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「サリエンシー」については、次のWEBページを参照して下さい。 「サリエンシー - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「CO2」は、二酸化炭素のことです。 vi) 引用中の「痛み」に関連する、受容ベースのセラピーの文脈における「痛みの定義」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 引用中の「馴化」とは、ある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 viii) この論文では、感作(sensitization)と馴化(habituation)とで対比しているのが、本エントリ作者にとっては興味深いです。

なお、上記①~③の論文(ここここ及びここ参照)や上記論文(ここ参照)においては、嗅覚過敏に関して記述されていますが、次の論文はアロマセラピーの耐容性に関して記述されています。

④「The feasibility of aromatherapy massage to reduce symptoms of Idiopathic Environmental Intolerance: a pilot study.[拙訳]特発性環境不耐症(IEI)の症状を減少させるためのアロマセラピーマッサージの実現可能性:パイロット研究」の要旨を次に引用します。ちなみに、この要旨において本エントリ作者が強調するのは、「特発性環境不耐症を伴う被験者に対し、アロマセラピーは十分に耐容性があること」です。

OBJECTIVES:
Idiopathic Environmental Intolerance (IEI) is an acquired disorder with multiple recurrent symptoms, which is associated with diverse environmental factors that are tolerated by the majority of people. IEI is an illness of uncertain aetiology, making it difficult to treat using conventional medicine. Therefore, there is a need for novel therapies to control the symptoms of IEI. The objective of this study was to evaluate the feasibility and impact of aromatherapy massage for individuals with IEI.

DESIGN:
Non-blinded crossover trial.

SETTING:
IEI patients who attended a clinic in Sapporo city were recruited, and sixteen patients were enrolled. Participants were clinically examined by an experienced medical doctor and met the criteria included in the working definition of IEI disorder.

INTERVENTIONS:
During the active period, participants received four one-hour aromatherapy massage sessions every two weeks. During the control period, the participants did not receive any massages.

MAIN OUTCOME MEASUREMENTS:
Scores on the IEI-scales trigger checklist, symptoms, life impact, and the State Anxiety Inventory were assessed before and after each period. Short-term mood enhancement was evaluated using the Profiles of Mood Status (POMS) before and after sessions.

RESULTS:
Due to period effects, evaluation of the results had to be restricted to the first period, and the result showed no effect of intervention. All six sub-scales of the POMS improved after each session (mean score differences: 4.89-1.33, P<0.05).

CONCLUSIONS:
Aromatherapy was well tolerated by subjects with IEI; however, aromatherapy, as applied in this study, did not suggest any specific effects on IEI condition.


[拙訳]
目的:
特発性環境不耐性(IEI)は、多数の再発症状を有する後天性障害(disorder)であり、これは大多数の人々が許容する多様な環境要因に関連する。 IEI は不確実な病因の病気であり、従来の薬を使用して治療することを困難にしている。従って、IEI の症状を制御するための新規治療法が必要である。この研究の目的は、IEI を伴う個々人のアロマセラピーマッサージの実現可能性と影響を評価することであった。

設計:
非盲検のクロスオーバー試験。

設定:
札幌市内の診療所に通院した IEI 患者を募集し、16人の患者が登録された。参加者は、経験豊富な医師によって臨床的に検査され、IEI 障害の作業定義に含まれる基準を満たした。

介入:
活動期間中、被験者は 2 週間ごとに 1 回 4 時間のアロマセラピーマッサージを受けた。対照期間中、被験者はマッサージを受けなかった。

主なアウトカム測定:
IEI 尺度トリガーのチェックリスト、症状、生活への影響、及び状態不安インベントリのスコアは、各期間の前後で評価された。短期間の気分の改善は、セッション前後の気分状況のプロファイル(POMS)を用いて評価した。

結果:
期間効果のため、結果の評価は最初の期間に制限されなければならず、その結果は介入の効果を示さなかった。 POMS の 6 つのサブスケールは全て、各セッション後に改善した(平均スコアの差:4.89-1.33、P <0.05)。

結論:
アロマセラピーは IEI を伴う被験者には十分に耐容性を示した。しかしながら、この研究で適用されたアロマセラピーは、IEI 状態に特異的な効果を示唆しなかった。

注:i) 標記「パイロット研究」は、研究の初期段階で、研究計画が適切かどうかを確かめたり、修正の必要がないかを調べるために行なう、小人数の被験者を対象とした研究のことです。 ii) 引用中の「アロマセラピー」は「アロマテラピー」とも呼ばれます。

論文要旨に関連して、「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「3.4.4. 化学物質過敏状態が引き起こされるメカニズム」項における記述の一部(P53)を次に引用します。

興味深いことに、Araki らが行った介入研究では、 多くの化学物質過敏症の患者さんは香水や芳香剤の臭いを不快としているにもかかわらず、天然の植物から得られる精油の香りには寛容でした39)。精油が受け入れられたのは、天然(自然)な香りであるという受け止めがその背景にあったからではないかと考えられます40)。

注:i) 引用中の文献番号「39)」、「40)」はそれぞれ上記論文(ここ参照)、次の資料です。 「荒木敦子、岸玲子, いわゆる化学物質過敏症 その国際的動向とアロマテラピーを使った症状緩和研究. Aroma Research, 2013. 14(2): 111-115. 」 ii) この引用に関連して同項において、化学物質過敏症における「臭い刺激によるノシーボ効果で身体症状を呈する可能性」についての記述があります。引用はしないので、一次情報である同項を参照して下さい。ちなみに、a) 「ノシーボ効果」は「ノセボ効果」とも称されます。 b) 上記「臭い刺激によるノセボ効果」に関連する「におい研究におけるノセボ効果」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。 iii) 一方、 引用中の「天然の植物から得られる精油の香りには寛容でした」(アロマセラピーにおける寛容さ)に関連したアロマセラピーに関するシステマティックレビューの一例(2011年発行)及び標記「アロマセラピーは十分に耐容性があること」に関連する「室内空気中の豊富な芳香剤の吸入による影響」についての論文要旨をそれぞれ以下に引用します。

⑤「A systematic review on the anxiolytic effects of aromatherapy in people with anxiety symptoms.[拙訳]不安症状を伴う人々におけるアロマセラピーの抗不安効果についてのシステマティックレビュー」

PURPOSE:
We reviewed studies from 1990 to 2010 on using aromatherapy for people with anxiety or anxiety symptoms and examined their clinical effects.

METHODS:
The review was conducted on available electronic databases to extract journal articles that evaluated the anxiolytic effects of aromatherapy for people with anxiety symptoms.

RESULTS:
The results were based on 16 randomized controlled trials examining the anxiolytic effects of aromatherapy among people with anxiety symptoms. Most of the studies indicated positive effects to quell anxiety. No adverse events were reported.

CONCLUSIONS:
It is recommended that aromatherapy could be applied as a complementary therapy for people with anxiety symptoms. Further studies with better quality on methodology should be conducted to identify its clinical effects and the underlying biologic mechanisms.


[拙訳]
目的:
不安又は不安症状を伴う人々にアロマセラピーを使用することについての 1990年から 2010年までの研究を我々はレビューし、その臨床効果を調査した。

方法:
本レビューは、不安症状を伴う人々へのアロマテラピーの抗不安効果を評価するジャーナル記事を抽出するための利用可能な電子データベース上で実施された。

結果:
不安症状を伴う人々の間でのアロマセラピーの抗不安効果を調査する 16 のランダム化比較試験に結果は基づいた。ほとんどの研究は、不安を抑えるポジティブな効果を示した。有害事象は報告されなかった。

結論:
アロマセラピーは、不安症状を伴う人々のための補完的な治療として適用できるだろうことが推奨される。その臨床効果とその基礎となる生物学的メカニズムの明確化のために、方法論に関するより良い品質のさらなる研究が実施されるべきである。

注:i) ちなみに、メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。加えて、抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性については次項を参照して下さい。 ii) 「アロマセラピー」は「アロマテラピー」とも呼ばれます。 iii) 引用中の「ランダム化比較試験」については、次のWEBページを参照して下さい。 『「ランダム化比較試験」を知っていますか? - apital

⑥「The Effectiveness of Aromatherapy for Depressive Symptoms: A Systematic Review.[拙訳]抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性:システマティック・レビュー」 ちなみに、全文はここを参照して下さい。

Background. Depression is one of the greatest health concerns affecting 350 million people globally. Aromatherapy is a popular CAM intervention chosen by people with depression. Due to the growing popularity of aromatherapy for alleviating depressive symptoms, in-depth evaluation of the evidence-based clinical efficacy of aromatherapy is urgently needed.

Purpose. This systematic review aims to provide an analysis of the clinical evidence on the efficacy of aromatherapy for depressive symptoms on any type of patients.

Methods. A systematic database search was carried out using predefined search terms in 5 databases: AMED, CINHAL, CCRCT, MEDLINE, and PsycINFO. Outcome measures included scales measuring depressive symptoms levels.

Results. Twelve randomized controlled trials were included and two administration methods for the aromatherapy intervention including inhaled aromatherapy (5 studies) and massage aromatherapy (7 studies) were identified. Seven studies showed improvement in depressive symptoms.

Limitations. The quality of half of the studies included is low, and the administration protocols among the studies varied considerably. Different assessment tools were also employed among the studies.

Conclusions. Aromatherapy showed potential to be used as an effective therapeutic option for the relief of depressive symptoms in a wide variety of subjects. Particularly, aromatherapy massage showed to have more beneficial effects than inhalation aromatherapy.


[拙訳]
背景。抑うつは世界的に3億5千万の人々に影響を及ぼす最大の健康関心事の1つである。アロマセラピーは、抑うつを伴う人々によって選択される人気のある CAM(補完代替療法)の介入である。抑うつ症状を緩和するためのアロマセラピーの人気が高まっているため、アロマセラピーのエビデンスに基づく臨床効果の詳細な評価が急務である。

目的。このシステマティック・レビューは、あらゆるタイプの患者における抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性に関する臨床的エビデンスの分析を提供することを目的とする。

方法。AMED、CINHAL、CCRCT、MEDLINE 及び PsycINFO の5つのデータベースにおいて、あらかじめ定義された検索用語を使用して、体系的なデータベース検索を実施した。アウトカム基準には、抑うつ症状のレベルを測定する尺度が含まれた。

結果。12のランダム化比較試験が含まれ、吸入アロマセラピー(5試験)及びマッサージアロマセラピー(7試験)を含むアロマセラピー介入の2つの投与方法が同定された。 7件の研究が抑うつ症状における改善を示した。

制限。含まれた試験の半分の質は低く、そして試験間の投与プロトコールはかなり異なった。これらの研究の中で、異なる評価ツールも採用された。

結論。アロマセラピーは、幅広い種類の被験者において抑うつ症状の軽減のための有効な治療選択肢として使用される可能性を示した。特に、アロマセラピーマッサージは、吸入アロマセラピーよりも有益な効果を有することが示された。

注:i) 表示形式を変更して引用しています。 ii) ちなみに、メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。加えて、アロマセラピーの抗不安効果についてはここを参照して下さい。 iii) 「アロマセラピー」は「アロマテラピー」とも呼ばれます。 iv) 引用中の「ランダム化比較試験」については、次のWEBページを参照して下さい。 『「ランダム化比較試験」を知っていますか? - apital

⑦「Recognizing odors associated with meaningful places.[拙訳]意味のある場所に関連した臭いの認識」 ちなみに、全文はここを参照して下さい。

Thirty-two undergraduates inhaled odors while outlining episodes, set in 8 living rooms, involving either themselves or the actual inhabitants. They rated odors, rooms, and episodes on 7-point scales and were tested for odor recognition. Episodes were content analyzed, and the frequency of categories was assessed. Separate factor analyses determined relationships between rating scales and content analysis categories. Regression analysis showed greater odor recognition when participants judged the odor to fit the imagined episode but less recognition when an unpleasant odor was incongruously paired with a warm episode. Odor recognition also was greater when the narrative outlines described familiar characters figuring out the scenes. Results supported the congruity hypothesis, whereby odors become markers for meaningful scenes with which they fit.


[拙訳]
自分自身又は実際の住民が関与する 8 つのエピソードを概説しながら、リビングルームにセットされた臭いを 32人の学部生が吸入した。彼らは臭い、部屋、及びエピソードを 7 点スケールで評価し、そして臭気の認識を調査された。エピソードは内容が分析され、カテゴリーの頻度が評価された。評価スケールと内容分析カテゴリーとの間の関係を分離された要因の分析は決定した。想像したエピソードに合う臭いを彼らが判定した時により大きな臭いの認識を、しかし、不快な臭いが心温まるエピソードと不釣り合いで対になった時により小さい認識を回帰分析は示した。ナラティブの輪郭でありふれた人物が場面に登場すると説明した時に臭いの認識がより大きくなった。これらの結果は適合性仮説を支持し、これにより、臭いが彼らが合う有意義な場面のマーカーとなる。

注:i) 引用中の「ナラティブ」(物語)に該当する「ナラティヴ」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) この論文の解説について、渡邉映理著の本、『「香り」の文化と癒やし -いのる、くらす、あそぶ。古代から現代まで-』(2016年発行)の 第7章 高齢化社会と「香り」 の『7.2 「香り」と感情、記憶の結びつき』における記述の一部(P093~P094)を次に引用します。

(前略)嗅覚というのは、他の感覚と情報の伝達経路が異なっている。私たちが鼻で香りを受け取ると、鼻腔の奥にある嗅細胞に存在する「嗅覚レセプター(受容体)」が信号を受け取り、香り物質は、電気信号に変換される。その後、嗅球を通って、直接、感情を司る扁桃体、記憶を司る海馬など、大脳辺縁系に到達することが分かっている。
この、大脳にある「大脳辺縁系(海馬・扁桃体など)」は、“情動脳”とも呼ばれ、記憶や感情を司る脳として知られている。つまり、においの情報を処理する場所と、感情を司る場所が同じ「大脳辺縁系」なので、「においによって記憶や感情が呼び覚まされる」ということが起こるのである。
最近、実際に、32名の大学生が試験対象者になり、実際に居住者がいる 8 つのリビングのにおいをかぎながら、ある物語を聞くという実験がカナダで行われている15)。対象者はにおい、物語、リビングルームに、快、不快などの感情に関する評価をつけたあと、もう一度同じにおいをかいだ。その結果、においが物語から想像される出来事と合っている場合は、対象者は後でそのにおいを区別することができたが、「不愉快なにおい」が「心温まるような出来事」の話とセットになっていて、生じる感情と合っていない場合は、対象者はにおいを区別することができなかった。例えば、私たちは、おいしそうなパンのにおいが漂っている部屋で、「この部屋に住んでいる若い奥様はパン作りが上手である」というような話を聞いた場合は、そのパンのにおいを話の内容とともに記憶することができるが、不快な、かびのにおいがするような部屋で同じ話を聞いても、そのにおいと話の内容が結びつかないので、そのにおいを記憶することが難しいのである。
また、対象者らは、聞いた物語の内容が「その場面を理解しやすいような、ありふれた場面の描写」である場合は、そのとき嗅いだリビングルームのにおいをもう一度嘆いたときに、そのにおいをより明確に区別することができた。このことは、物語を聞いて場面を想像したり記憶したりすることと、においを認識することに結びつきがあることを示している。この実験により、においは、そのにおいがよくマッチしている、「意味のある場面」を思い出すための「目印」になる、ということが示された15)。(後略)

注:i) 引用中の文献番号「15)」は上記論文です。 ii) 引用中の「においによって記憶や感情が呼び覚まされる」ことに関連する「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 iii) 引用中の「大脳辺縁系」、「情動脳」、「扁桃体」については、トラウマの視点からは共にここここを参照して下さい。 iv) 一方、引用中の「大脳辺縁系」、「海馬」、「扁桃体」については、トラウマの視点からは共にここを参照して下さい。 v) 引用中の「快、不快」については、次のWEBページを参照して下さい。 「快・不快 - 脳科学辞典

⑧「Effects by inhalation of abundant fragrances in indoor air - An overview.[拙訳]室内空気中の豊富な芳香剤の吸入による影響 - 概要」 ちなみに、全文はここを参照して下さい。

Odorous compounds (odors) like fragrances may cause adverse health effects. To assess their importance by inhalation, we have reviewed how the four major abundant and common airborne fragrances (α-pinene (APN), limonene (LIM), linalool (LIL), and eugenol (EUG)) impact the perceived indoor air quality as odor annoyance, sensory irritation and sensitization in the airways. Breathing and cardiovascular effects, and work performance, and the impact in the airways of ozone-initiated gas- and particle phase reactions products have also been assessed. Measured maximum indoor concentrations for APN, LIM and LIL are close to or above their odor thresholds, but far below their thresholds for sensory irritation in the eyes and upper airways; no information could be traced for EUG. Likewise, reported risk values for long-term effects are far above reported indoor concentrations. Human exposure studies with mixtures of APN and LIM and supported by animal inhalation models do not support sensitization of the airways at indoor levels by inhalation that include other selected fragrances. Human exposure studies, in general, indicate that reported lung function effects are likely due to the perception rather than toxic effects of the fragrances. In general, effects on the breathing rate and mood by exposure to the fragrances are inconclusive. The fragrances may increase the high-frequency heart rate variability, but aerosol exposure during cleaning activities may result in a reduction. Distractive effects influencing the work performance by fragrance/odor exposure are consistently reported, but their persistence over time is unknown. Mice inhalation studies indicate that LIM or its reaction mixture may possess anti-inflammatory properties. There is insufficient information that ozone-initiated reactions with APN or LIM at typical indoor levels cause airway effects in humans. Limited experimental information is available on long-term effects of ozone-initiated reaction products of APN and LIM at typical indoor levels.


[拙訳]
芳香のような臭いのする化合物(odors)は、健康に悪影響を及ぼすかもしれない。吸入によるその重要性を評価するために、4つの主要な豊富で一般的な空気媒介の芳香[α-ピネン(APN)、リモネン(LIM)、リナロール(LYL)、オイゲノール(EUG)]が、気道における臭いの不快さ、感覚刺激及び感作としての知覚された室内空気品質に、いかに影響するかを評価した。呼吸及び心臓血管への影響、作業のパフォーマンス及び気道におけるオゾンにより開始する気相及び粒子反応生成物の影響も評価している。測定された最大の APN、LIM 及び LIL 室内濃度は、臭い閾値に近い又は閾値を超えた。しかし、目及び上気道における感覚刺激閾値をはるかに下回っていた。EUG の情報は調べることができなかった。同様に、報告された長期的影響のリスク値は報告された屋内濃度よりはるかに上回っていた。APN と LIM の混合物の研究及び動物吸入モデルで支持される研究は、他の選択された芳香を含む室内レベルでの吸入による気道の感作を支持しなかった。ヒトへの曝露研究では、一般的に、報告された肺機能効果は芳香の毒性効果よりも知覚によるものらしいことを示した。一般的に、芳香曝露による呼吸数と気分に与える影響は結論がでていない。芳香は高周波心拍変動性を増加させるかもしれないが、清掃活動中のエアロゾルの曝露は減少をもたらすかもしれない。作業のパフォーマンスに影響を与える芳香/臭い曝露による気を散らせる効果は一貫して報告されたが、経時的な持続性は不明である。マウスでの吸入研究は LIM 又はその反応混合物には抗炎症特性があるかもしれないことを示す。典型的な室内レベルでの APN 又は LIM のオゾンによる開始反応はヒトにおいて気道効果を引き起こすという情報は不十分である。典型的な屋内レベルでの APN 及び LIM のオゾン開始反応生成物の長期間の影響に関する、限定された実験情報は利用可能である。

注:引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

⑨「The Influence of Olfactory Contexts on the Sequential Rating of Odor Pleasantness.[拙訳]連続した臭いの快評価に及ぼす嗅覚文脈の影響」

When we sequentially evaluate the characteristics of sensory stimuli, our evaluation of a current stimulus is influenced by those preceding it. One such effect is called hedonic contrast, whereby stimuli are rated more negatively (negative contrast) or positively (positive contrast) if they are preceded by more or less pleasant stimuli. The present study investigated the characteristics of hedonic contrast for olfaction and compared these characteristics with those of a more oft-studied modality, vision. The results from two experiments indicated that both positive and negative contrasts occurred in the sequential rating of picture pleasantness, whereas only negative contrast occurred for olfactory ratings. Notably, overrating of hedonically negative odors following a positive olfactory context was observed even when participants had already rated these same negative odors beforehand; conversely, this did not occur for positive contrast for either sense. These findings indicate that negative odors are more strongly influenced than positive ones, and the rating of positive stimuli may be adjusted to the preceding rating independent of stimulus context. The findings of this study revealed the unique characteristics of hedonic contrast for the olfactory senses.


[拙訳]
我々が感覚刺激の特徴を連続的に評価するとき、我々の現在の刺激の評価は、それに先立つ評価によって影響される。そのような効果の1つは快・不快対比と呼ばれ、より多くの又は少なくの快刺激が先行した時に、これにより、刺激がよりネガティブ(ネガティブの対比)又はよりポジティブ(ポジティブの対比)と評価された。本研究では、嗅覚に対する快・不快対比の特徴を調査し、これらの特徴をより頻繁に研究されたモダリティ、視覚と比較した。連続的な画像の快・不快度の評価においてポジティブ及びネガティブの対比の両方が生じたのに対し、嗅覚の評価に対しては、ネガティブの対比のみが生じたことを、2つの実験から得られた結果は示した。特に参加者が既にこれらのネガティブな臭いを予め評価していた時も、ポジティブな臭いの文脈に続く、快・不快度的にネガティブな臭いの過剰評価が観察され、逆に言えば、どちらの感覚でのポジティブの対比に対しては生じなかった。ネガティブな臭いがポジティブな臭いよりも強く影響を受け、そしてポジティブな刺激の評価は、刺激文脈に独立した先行する評価に合わせて調節されるかもしれないことを、これらの知見は示す。この知見は嗅覚に対する快・不快度対比の独特な特徴を明らかにした。

注:i) この引用全体に関連して、次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「快不快の対比における嗅覚と視覚の比較」 ii) 本論文の著者である綾部早穂(Ayabe-Kanamura S)氏が代表を務める科学研究費助成事業として実施していた、においのトラウマ記憶に関する研究課題については次のWEBページを参照して下さい。 「においのトラウマ記憶に関する実態調査ならびに実験的検討

[ご参考3]SHS患者の脳科学的アプローチ
次の 資料「シックハウス症候群の診断基準の検証に関する研究(P28)」の P28~P30 に、標題に関する記述があります。その一部(P30)を次に引用します。

・症例群は、匂い(特に自覚的により強い刺激を感じる匂い)による負荷に対して嗅覚中枢が過剰に反応しやすくなっている可能性を示唆した。患者では嗅覚過敏が特徴の一つとしてみられるが、その現象が脳血流変動でも示唆された。[中略]

・また、上記の結果から、シックハウス症状の要因を室内空気汚染のみに求めることには、臨床上大きな問題があると考えられた。

注:i) 標題中の「SHS」はシックハウス症候群のことです。また、引用中の「症例群」は患者である被験者の方々に相当するようです。 ii) この資料の作成者は坂部医師のようです。 iii) シックハウス症候群については、他の拙エントリの(8)項参照。 iv) [ご参考2]と本項の引用における実験の重なりの例として、この pdfファイル P30 のマップは、[ご参考2]で要旨を引用した前者の論文の Figure 4 における JC(7) のマップと一致するようです。 iv) 臭いとシックハウス症候群との関係については、日本臨床環境医学会編の本、「シックハウス症候群マニュアル 日常診療のガイドブック」(2013年発行)の Ⅲ.対応 の 3.環境学的対応 の 3-2 環境改善型予防医学の実践-「ケミレスタウン・プロジェクト」 の「3)臭いと SHS」項における一部の記述(P61)を次に引用します。

臭いと SHS とは密接な関係がある.SHS の苦情の際,患者は多くの場合臭いも訴えるからである.

注:上記3項の執筆者は森千里、戸高恵美子です。

(※2の範囲はここまでです)

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[ご参考]日本臨床環境医学会役員名簿
2014年10月1日現在の日本臨床環境医学会役員名簿は、第24回日本臨床環境医学会学術集会 ご案内の P63 に示されています。

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【追記1】
葵東様のブログのエントリ「化学物質過敏症患者を苦しめる有害な気体」を拝見したところ、i) 有害な気体の曝露濃度をどのようにお考えになっているのか? ii) 少なくとも、一部の有害な気体では、臭い※2に反応しているのではないか? 等が、本エントリ作者には気になります。

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【追記2】
葵東様のブログのエントリ「化学物質過敏症の急性症状」を拝見したところ、次に引用する記述を発見しました。

大量の有害物質に暴露すると急性症状に襲われます。

本エントリ作者の見解によると、一般的に「大量の有害物質に暴露すると生じる急性症状」は(化学物質過敏症ではなく)中毒症状と称するのではないでしょうか?

例えば、ホルムアルデヒド(ホルマリン)の吸入による曝露濃度と中毒症状の関係例がWEBページ「消毒剤の毒性、副作用、中毒 4.ホルマリン(Formalin,Formaldehyde)」の「ホルマリンガス濃度と症状」において示されるように、ホルムアルデヒドでは濃度 5ppm 以上で中毒症状がでるようです。

加えて、一酸化炭素の濃度と毒性の関係例として、資料「一酸化炭素 - 日本中毒情報センター」の「[毒性]」項における記述の一部を次に引用します。

300 ppm 以下では軽度の頭痛程度であるが、400 ppm 以上で数時間曝露されると循環・呼吸系にも影響が出始め、1000 ppm を超えると重篤な症状が現れる。5000 ppm では 5 分で死に至る。(後略)

注:ちなみにこの資料によると、一酸化炭素は無味無臭の気体とのこと。

さらに、硫化水素中毒における曝露濃度については、例えば次の資料を参照して下さい。「なくそう! 酸素欠乏症・硫化水素中毒

一方、標記追記において示された(中毒の)曝露濃度と、上記化学物質過敏症における誘発試験の曝露濃度を比較すると良いかもしれません[特にホルムアルデヒド(ホルマリン)]。ちなみに、化学物質過敏症又は MCS の誘発試験において適用されるホルムアルデヒドの濃度例についてはここを参照して下さい。

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【追記3】
WEBページ「現場にアタック 良い香りには裏がある? 化学物質過敏症の危険」を拝見したところ、タイトルにもあるように、このページには、「主に香りに反応するのが化学物質過敏症である」ともとれる内容が示されていると本エントリ作者は考えます。

本エントリにおいて上記にご説明したように、(臭わない)超微量の化学物質には反応せずに、香り(又は臭い※2参照)のみに反応するのは、臨床環境医が提唱するMCSでも化学物質過敏症でもないと本エントリ作者は考えます。ただし、本エントリ作者がこの臨床環境医に相当しないと考える医師又は医学研究者の方々の一部が、化学物質が刺激となって生じる感覚モデルに注目しています。ここ項を参照して下さい。加えて、香りと記憶の結びつきに関連する「プルースト現象」及び「嗅覚の学習記憶」については共にここを参照して下さい。

ちなみに、a) MCSに対する日本臨床環境医学会を含む世界の医学会等の見解は拙エントリのここを参照して下さい。 b) 一方、「香水の自粛のお願いに化学物質過敏症を持ち出さないほうがいい」をタイトルとするエントリはここを参照して下さい。

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【追記4】
【追記3】に関連して、2017年6~7月にかけてミニ情報に記載した香気物質に関連する記事において、表示形式及び文章の追加を含んで改訂したものを以下に示します。さらに、自然界由来の揮発性有機化合物、情動記憶、「プルースト現象」、PTSD と臭気との関連、「ルール支配行動」、感覚の認知、「放逸」等についても以下に記述します。最初に自然界由来の揮発性有機化合物(VOC)については、次の資料を参照して下さい。 「VOCと地球環境 大気中揮発性有機化合物の実態解明を目指して」の「自然界由来のVOCの実態を次々に明らかに」項

(1)柚子ジュースと柔軟剤との関連についての一考察について
日本には柚子ジュースがあります。例えば、果汁の使用割合が 5~10%のものです。加えて、ポン酢にも柚子果汁入りの商品が複数あります。ちなみに、柚子果汁中のリモネン分析結果例は資料の「5. 食品の分析結果例」を参照して下さい。この資料には、柚子果汁のみならず、温州みかん、スダチ等の分析結果例があります。なお、柑橘類香気成分についての簡単な説明は、例えばここの「02 柑橘類香気成分とは」を参照して下さい。一方、一部の柔軟剤において香り成分として、d - リモネンが分析により検出されることがあります(参照)。天然由来のリモネンについては※1も参照して下さい。加えて、リナロール(参照)や、ゲラニオール(天然由来のゲラニオールについては※3も参照)も一部の柔軟剤における香り成分として検出されることがあります(参照)。
仮に、おいしく柚子ジュースを飲めるのに、柔軟剤を用いて洗濯した他人の服から放出されるリモネンに対して、「柔軟剤中のリモネンガー」とおっしゃる方々がいるのならば、能動喫煙は平気なのに、受動禁煙(参照)に対して、「副流煙ガー」とおっしゃる方々と同程度に、不可解なことをおっしゃる方々がいるもんだという感想を拙ブログ作者は持ちます。
なお、 a) 資料の図1において、香辛料に含まれる主な香気成分が紹介されており、リモネンもこの中に含まれます。加えて、渡邉映理著の本、『「香り」の文化と癒やし -いのる、くらす、あそぶ。古代から現代まで-』(2016年発行)の 第5章 食品の「香り」と癒やし の『5.4 香辛料と「香り」』における記述の一部(P073)を次に引用(『 』内)します。 『どこの家庭にもあると思われる黒コショウ(ブラックペッパー)はスパイスの代表であるが、香り成分はリモネン、サビネン、ピネン、ミルセンなどモノテルペン化合物であり(後略)』 さらに、カレー粉からもリモネンが検出されています(参照) b) オレンジジュースをはじめとした、複数のジュースに対するヘッドスペース-GC-MSを用いた香気成分分析結果例はここを参照して下さい。これによると、オレンジジュースからはリモネン(limonene)のみならず、リナロール(linalool)も検出されているようです。加えて、レモン精油成分の組成については例えば資料を参照して下さい。 c) 例えばここの資料(b)の表-1によると、カビからリモネン(limonene)が発生するようです。従って、上記「柔軟剤中のリモネンガー」と主張する人は、柔軟剤由来のリモネンとカビ由来のリモネンとを区別する必要があるかもしれません。加えて、薔薇やチューリップの香気成分としてリモネンが検出されることがあります。次項の⑬及び⑭を参照して下さい。

(2)①かつおだし、②コーヒー、③紅茶、④ジャスミン茶、⑤発酵乳、⑥味噌、⑦醤油、⑧カレー粉、⑨清酒、⑩ホップ由来(ビール)、⑪甲州種ワイン、⑫海藻、⑬薔薇、⑭チューリップ、⑮ラベンダー の香気成分及び⑯大気中フィトンチッドの成分についてのご紹介*34
例えばそれぞれ、①参照、②参照、③参照、④参照、⑤参照、⑥参照、⑦参照、⑧参照、⑨参照、⑩参照、⑪参照、⑫参照、⑬参照、⑭参照、⑮参照及び⑯資料の「表 2-1」~「表 2-3」を参照。(注:一部の柔軟剤から検出されることもあるリナロール[linalool、参照]が、上記資料によると③紅茶、④ジャスミン茶、⑧カレー粉、⑩ビール、⑬薔薇、⑭チューリップ、⑮ラベンダー、そしてオレンジジュースからも検出されることがあるようです、ちなみに、天然由来のリナロールについては※2も参照して下さい。)

一方、一部の柔軟剤に含有するリナロールに関連する報告があります。この報告は細胞株を用いたものですが、この報告が該当するヒトの細胞にも適用できて、かつ柔軟剤を用いて洗濯した他人の服から放出されるリナロールの吸引により、TRPA1チャネル(参照参照)が活性化するのであれば(注:仮定の話です)、上記、③紅茶~⑮ラベンダー、そしてオレンジジュースによりTRPA1チャネルが活性化しても不思議ではないと拙ブログ作者は考えます。

※1:天然由来のリモネンについて、平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第8章 天然由来の香りの分子 の ●柑橘系の香り(シトラス系の分子) の「(+)-リモネン (+)-limonene」における記述の一部(P152)を次に引用(【 】内)します。 【オレンジ(スイート)、ジュニパーべリー、ティーツリー、ペパーミント、ユーカリ、レモン、ローズマリー、ベルガモット、フランスキンセンス、ネロリ等に広く含まれるシトラス系の代表的な香りの分子です。柑橘類から採れるアロマ精油の主成分です。】(注:引用中の「(+)-リモネン」は「d-リモネン」とも呼ばれます。これは光学異性体を踏まえた表記です。例えば次の資料を参照して下さい。 「リモネン」) 加えて、塩田清二監修の本、「アロマセラピー学」(2017年発行)の 第Ⅱ章・アロマセラピーを使う の 第2節 精油の種類、芳香の嗅ぎ方、ブレンドオイルの作り方(著者は長島司) の 1.精油の種類 の (1) 精油各種 」の「② 柑橘精油」(P145~P146)で、次に示すリモネンの割合の高い精油が紹介されています。 a) (表13)において、精油【オレンジ】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:果皮)の成分分析において、リモネンの含有量が 94% とのデータがあります。 b) (表14)において、精油【ベルガモット】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:果皮)の成分分析において、リモネンの含有量が 40% とのデータがあります。 c) (表15)において、精油【レモン】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:果皮)の成分分析において、リモネンの含有量が 65% とのデータがあります。 さらに、次のWEBページにおいては、ユズ(柚子)及びカボスに、リモネンが含まれていることが示されています。 「ユズ、スダチ、カボス」の「ユズ」項及び「カボス」項

※2:天然由来のリナロールについて、平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第8章 天然由来の香りの分子 の ●花の香り(フローラル系の分子) の「リナロール linalool」における記述の一部(P155)を次に引用(【 】内)します。 【リナロールは、イランイラン、ゼラニウム、ジャスミン、ネロリ、バラなどの花だけでなく、ラベンダー、ローズマリー、ベルガモット、フランキンセンスなどにも広く存在する香りの分子です。】 加えて、上記以外にも塩田清二監修の本、「アロマセラピー学」(2017年発行)の 第Ⅱ章・アロマセラピーを使う の 第2節 精油の種類、芳香の嗅ぎ方、ブレンドオイルの作り方(著者は長島司) の 1.精油の種類 の「(1) 精油各種」(P141~P153)の、 a) (表2)において、精油【コリアンダーシード】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:果実)の成分分析において、リナロールの含有量が 64% とのデータがあります。 b) (表8)において、精油【マジョラム】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:葉)の成分分析において、リナロールの含有量が 27% とのデータがあります。 c) (表28)において、精油【カルダモン】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:草実)の成分分析において、リナロールの含有量が 5% とのデータがあります。 一方、上記と重なりますが、リナロールの含有量が 5% 以上のものとして、 i) (表3)において、精油【ゼラニウム】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:葉)の成分分析において、含有量が 7% とのデータがあります。 ii) (表10)において、精油【ラベンダー】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:葉)の成分分析において、含有量が 25% とのデータがあります。 iii) (表14)において、精油【ベルガモット】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:果皮)の成分分析において、含有量が 40% とのデータがあります。 iv) (表16)において、精油【イランイラン】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:花)の成分分析において、含有量が 9% とのデータがあります。 v) (表19)において、精油【ジャスミン】(抽出方法:溶剤抽出、抽出部位:花)の成分分析において、含有量が 5% とのデータがあります。 vi) (表20)において、精油【ネロリ】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:花)の成分分析において、含有量が 29% とのデータがあります。

※3:天然由来のゲラニオールについて、 平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第8章 天然由来の香りの分子 の ●柑橘系の香り(シトラス系の分子) の「ゲラニオール geraniol とネロール nerol」における記述の一部(P157)を次に引用(【 】内)します。 【ゲラニオールとネロールは右上の二重結合に関して幾何異性体の関係にあります。ゲラニオールはトランス体でネロールはシス体です。(中略)ゲラニオールは、甘くバラのようなフローラルで幾分シトラスな香りを持ちます。ネロールも甘いバラの香りですがネロリやモクレンを思わせます。ゲラニオールはゼラニウム、バラ、ネロリなどに含まれます。ネロールはバラやネロリなどに含まれます。】(注:引用中の「トランス体」及び「シス体」に関連する「シスとトランス異性体」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「資料」の「シスとトランス異性体とは?」項[P492])。

(3)「カビ臭の原因物質」、「香料の化学」及び「人体から発生するにおい物質」のご紹介
標記「カビ臭の原因物質」に関しては、例えば(a)資料、(b)資料、(c)資料、(d)資料及び(e)WEBページを参照して下さい。加えて標記「香料の化学」についてはWEBページを参照して下さい。ちなみに、後者のWEBページにおいては、ニオイのある化学種について次に引用(『 』内)する記述があります。 『ニオイのある化学種は約40万種以上あるといわれています。さまざまな分子構造の違いがニオイというものを形作っています。』 さらに、標記「人体から発生するにおい物質」について、斉藤幸子、小早川達編の本、「味嗅覚の科学 人の受容体遺伝子から製品設計まで」(2018年発行)の 第2章 味・におい物質とその受容機構 の 2.1 味物質とにおい物質 の「d. 人体から発生するにおい物質」における記述(P59)を以下に引用します。ただし、引用中の化学構造式における下付き文字は半角文字を代用します。

d. 人体から発生するにおい物質
不快な口臭の原因となるにおい物質は,食べかすなどを細菌が分解することで生成するメチルメルカプタン,硫化水素,ジメチルスルフィド(表2.4)などの含硫化合物である.また,40代以降で脂臭いような不快臭(加齢臭とも呼ばれる)が認められるようになるのは trans-2-ノネナール(CH3(CH2)5CH=CHCHO,18829-56-6)が体臭中に増加するためである(Haze et al., 2001).疾病によって人体から発生するにおい物質もある.糖尿病性ケトアシドーシスではアセトン(CH3COCH3,67-64-1)などのケトン類が呼気に検出されるが,疾病により体外へ排出される汗,呼気.尿などに生じる揮発性物質の中でにおいが強いものは 主にトリメチルアミン(表2.4)などの含窒素化合物,ジメチルスルフィドなどの含硫化合物,揮発性のカルボン酸である(Shirasu & Touhara, 2011).

注:i) この引用部の著者は吉井文子です。 ii) 引用中の「表2.4」の引用は省略します。ただし、引用中の「ジメチルスルフィド」の CAS No. は「75-18-3」であり、引用中の「トリメチルアミン」の CAS No. は「75-50-3」です。なお、上記「CAS No.」(CAS 登録番号)については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「CAS 登録番号 (CAS RN®) とは - 化学情報協会 よくあるご質問」 iii) 引用中の「Haze et al., 2001」は次の論文です。 「2-Nonenal newly found in human body odor tends to increase with aging.」 iv) 引用中の「Shirasu & Touhara, 2011」は次の論文です。 「The scent of disease: volatile organic compounds of the human body related to disease and disorder.」 v) 引用中の「糖尿病性ケトアシドーシス」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「糖尿病の急性合併症のはなし」の「糖尿病ケトアシドーシス」項 vi) ちなみに、 a) 悪臭防止法に基づく悪臭物質の規制基準については、例えば次の資料を参照して下さい。 「悪臭防止法に基づく悪臭物質の規制基準」 なお、この資料中にリストアップされている悪臭物質には、引用中の「メチルメルカプタン」、「硫化水素」、「トリメチルアミン」が含まれます。一方、これらの物質の嗅覚閾値濃度の例は共にここを参照して下さい。 b) 上記「硫化水素」の中毒における曝露濃度についてはここを参照して下さい。 c) 引用中の「人体から発生するにおい物質」に関連するかもしれない「ヒト皮膚から放散する微量生体ガス」については次の資料を参照して下さい。 「ヒト皮膚から放散する微量生体ガスと臨床環境

(4)「森林浴」及び「森林セラピー」に関連する様々な資料のご紹介
参照参照参照参照参照 ちなみに、大気中フィトンチッドの成分についてはここの⑭を参照して下さい。

(5)メディカル・アロマセラピー及びアロマセラピー精油の成分に関連する様々な資料のご紹介*35
標記前者の資料を次に紹介します。 「アロマセラピーによる医療」、「ベルガモット精油の蒸気が自律神経系および情動に及ぼす効果」 加えて、メディカル・アロマセラピーに関連する論文例はここを参照して下さい。

加えて、後者の資料を次に紹介します。 「アロマテラピーに関する研究第一報 慣用精油10種類の成分と作用に関する知見

(6)「プルースト現象」、「味覚と嗅覚の連合学習」、「ニューロ・ガストロノミー」(NEUROGASTRONOMY、参照)、PTSD と臭気との関連、「ルール支配行動」、感覚の認知、瞑想における問題、「放逸」についての様々なご紹介
ちなみに、「プルースト現象」(又は「プルースト効果」)とは、においとの遭遇を契機として、過去に経験した出来事があたかもそれを追体験しているかのように、ありありと思い出されることを言うようです。この「プルースト効果」について、三品昌美編の本、「分子脳科学 分子から脳機能と心に迫る」(2015年発行)の 7章 嗅覚系:感覚入力から行動に至る分子基盤と神経回路 の「7.7 嗅覚の学習記憶と嗅覚神経回路の可塑性」における記述の一部(P83)を次に引用します。

7.7 嗅覚の学習記憶と嗅覚神経回路の可塑性
匂いの感覚は決して固定されたものではない.たとえば,匂いの感度や弁別能は訓練によって向上する.ワインのソムリエ,化粧品会社や香料会社の調香師などの専門家は,訓練を通じてわずかな匂いを検出でき,匂いの微妙な違いを区別できるようになった人である.また,匂いに対する情動・行動応答も状況によって変化する.ある匂いを報酬(甘い水など)と関連づけると,動物はその匂いが好きになって匂いに対して誘引行動をとるようになる.反対に,同じ匂いを侵害刺激(電気ショックなど)と関連づけると,動物はその匂いを嫌いになって匂いに対して忌避行動をとるようになる.食べ物の好き嫌いも,小さいころの嗅覚味覚体験によって大きく左右されると考えられている.嗅覚行動は生物の生存に直結しているので,匂い環境の変化に応じて適切な嗅覚行動を新たに獲得していくことは生物にとって必須の能力であり,嗅覚神経回路には高い可塑性が求められる.
また,匂いの記憶は強い記憶として残る.言語材料による記憶に比べ,匂いの記憶は長期間持続し,忘れにくいことが知られている.さらに,古い記憶を呼び起こすきっかけとしての匂い記憶の役割も大きい21).有名な例は,フランスの作家プルーストの『失われた時を求めて』の,マドレーヌを紅茶にひたして口の中に入れたときに幼い日々の記憶がまざまざとよみがえったというくだりである.以来,匂いをきっかけとした強力な記憶想起は「プルースト効果」と呼ばれている.視覚,触覚などさまざまな感覚が古い記憶を呼び起こすきっかけとなるが,匂いによる想起は情動的,つまり物事のディテールとともにそのときの感情も一緒に思い起こし,あたかも過去のことを追体験したように感じる,ということが多いようである.匂いによる記憶想起の際には扁桃体-海馬複合体が強く活性化されるという観察がある.
これらのことから,嗅覚系はその学習記憶機構,神経回路の可塑性,情動記憶との結びつきなど,多くの興味深い題材を含んでいる.(後略)

注:i) この引用部の著者は山口正洋です。 ii) 「プルースト効果」と類似した「プルースト現象」については、例えば、次のWEBページ及び資料を参照して下さい。 「においは、本能的な感情と直結 - apital」、「プルースト現象における記憶想起の特徴について」、「においによる自伝的記憶の無意識的想起の特性:プルースト現象の日誌法的検討」、「半構造化面接法によるプルースト現象の特徴の検討」、「嗅覚刺激による自伝的記憶の無意図的想起:匂いの同定率・感情価・接触頻度の影響」、「匂い手がかりによって喚起される自発的記憶特性質問紙(OEAMQ)の開発」、「嗅覚と自伝的記憶に関する研究の展望 ――想起過程の再考を中心として――の「2. 自伝的記憶における匂い手がかりの有効性を検討した研究」項 ちなみに、 a) 酒の匂いに関連するフラッシュバックについては、他の拙エントリのここにおけるリンク先の資料の <症例3> の ③ i. 項(P5)において、「酒の匂いでフラッシュバックしやすい。」との記述があります。 b) 上記プルースト効果とフラッシュ・バックのような症状との関連について、平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第1章 生活を彩る香り の「1-2 香りの持つ不思議な力」における記述の一部(P18)を次下に引用(『 』内)します。 『よく記憶のフラッシュ・バックということが言われますが、「香り」が引き金になり、フラッシュ・バックを起こすのがプルースト効果です。これまでに筆者が周囲の人達に聞いたところ、皆さん類似した経験を持っているようです。後でも述べますが、他の感覚と嗅覚は大きく異なり、「におい」は大脳新皮質を経ないで、記憶を支配する海馬領域や感情を支配する扁桃体に直接的に伝わるため、いわゆるフラッシュ・バックのような症状を示すと考えられています。』 c) においとトラウマ記憶との関連については、次の資料を参照して下さい。 「においのトラウマ記憶に関する実態調査ならびに実験的検討」 iii) 引用中の「扁桃体」、「海馬」については、トラウマの視点からは共にここを参照して下さい。 iv) 引用中の「ある匂いを報酬(甘い水など)と関連づけると,動物はその匂いが好きになって匂いに対して誘引行動をとるようになる.反対に,同じ匂いを侵害刺激(電気ショックなど)と関連づけると,動物はその匂いを嫌いになって匂いに対して忌避行動をとるようになる.」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 v) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「情動記憶が想起」に関連する「記憶想起」については、次のWEBページを参照して下さい。 「記憶想起 - 脳科学辞典」 vii) 引用中の「情動記憶」に関連する「匂いなどに遭遇することによって,情動記憶が想起される」ことについて、三品昌美編の本、「分子脳科学 分子から脳機能と心に迫る」(2015年発行)の 10章 扁桃体を中心とした前脳領域による恐怖記憶制御 の「10.1 情動記憶とは」における記述の一部(P111)及び「10.2 恐怖記憶モデル系」における記述の一部(P111)を以下に引用します。加えて、これに関連するかもしれない「匂いの知覚は情動により支配される」についてはここここを参照して下さい。さらに、これに相当する「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。 「情動的記憶 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「嗅覚」について、髙木繁治監修の本、「病気を見きわめる 脳のしくみ事典」(2017年発行)の 第1部 脳のしくみ事典 第5章 五感が伝わるしくみ の「嗅覚のしくみ」における記述の一部(P69)を次に引用(『 』内)します。 『「におい」を感知する嗅覚は、五感の中で唯一、大脳新皮質ではなく、大脳辺縁系と直接つながっています。大脳辺縁系は感情や欲など本能的なことを担当する部位だけに、一度不快と感じたにおいはその後も理屈抜きに嫌いになったり、においで昔の出来事を思い出したりするという現象につながります。』 ix) 引用中の「嗅覚の学習記憶」に関連するかもしれない、 a) 「育まれるにおいの快不快」については、北岡明佳編著の本、「いちばんはじめに読む心理学の本5 知覚心理学 心の入り口を科学する」(2011年発行)の 10章 嗅覚 の 4 においの快不快 の「(1) 育まれるにおいの快不快」における記述の一部(P170~P171)を以下に引用します。 b) 「においの好み」について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第2章 人間のにおいの感じ方 の「2-7 カナダ、イヌイットの嗅力」における記述の一部(P40)を次に引用(『 』内)します。 『②においの好みについて イヌイットの人びとのにおいの好みについても興味深い結果が得られた。日本人が特に不快と感じている「イソ吉草酸」のにおいについて、イヌイットは意外とそうではない結果が得られている。』(注:a) 同本の P40~P41 によると、日本におけるイソ吉草酸のにおいは「靴下の蒸れたにおい」と表現され、代表的な悪臭物質として扱われているようです。これに対し、イヌイットにおいては、好物であるクジラの皮に近いマクタックという食べ物のにおいに近いことが関係しているようです。 b) 「イソ吉草酸」の嗅覚閾値濃度についてはここを参照して下さい。)

10.1 情動記憶とは(中略)

情動記憶とは,情動の変化を伴った体験の記憶である.情動記憶とは一種の条件づけ記憶であり,情動体験した際の「情動」と体験時に五感で感じた「状況(文脈)」とが関連づけられた記憶である.情動体験した場所を再訪する,あるいは情動体験時の音や匂いなど(cue)に遭遇することによって,情動記憶が想起される.本章では,情動記憶の中でも最も研究が進んでいる「恐怖記憶」にフォーカスして,恐怖記憶制御のメカニズムと,恐怖記憶制御において中心的な役割を果たしている扁桃体,海馬,前頭前野皮質の役割を解説する.

10.2 恐怖記憶モデル系
恐怖記憶制御は昆虫から高等生物に至る生物に備わる本能的行動の一つである.恐怖体験を記憶することで,一種の防御反応として,危険を回避することが可能となる.恐怖記憶は,恐怖体験時の「恐怖」とそのときの「文脈」とが関連づけられた条件づけ記憶である.恐怖体験した文脈や,文脈中の手がかり(音や匂い)に遭遇すると,恐怖記憶が想起され,恐怖反応を表出する.

注:i) この引用部の著者は喜田聡です。 ii) 引用中の「扁桃体」、「海馬」については、トラウマの視点からは共にここを参照して下さい。 iii) 引用中の「前頭前野皮質」に関連した「前頭皮質」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からここを参照して下さい。 iv) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「情動記憶が想起」に関連する、 a)「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。 「情動的記憶 - 脳科学辞典」 ちなみに、「情動記憶」又は「情動的記憶」は非陳述記憶に分類されることについては、次のWEBページを参照して下さい。 「陳述記憶,非陳述記憶」 b) 加えて、これに関連する「記憶想起」については、次のWEBページを参照して下さい。 「記憶想起 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「恐怖記憶」及び「条件づけ記憶」に関連する「恐怖条件づけ」については、次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖条件づけ - 脳科学辞典

(1) 育まれるにおいの快不快(中略)

においに対する快不快反応に大きな個人差が見られることは,生育環境や食生活の中でにおいの知覚学習が行われている結果と考えられる。新川ら(1988)は,ワカサギと茎ワカメを切って水に浸し濾過して作った溶液のにおいに対して,海辺で育った人は「磯や海苔のにおい」と受けとめ,さほど不快ではないと感じたのに対して,育った環境の近くに海岸がなかった人は「腐敗,下水のにおい」と受け止め,不快と感じるケースが多かったと報告している。日常的なにおいに対する反応を日本人とドイツ人で比較した研究(Ayabe-Kanamura et al., 1998)では,18種類のにおいの強さ,馴染みの程度,快不快度,そのにおいのするものが食べられると思うか,何のにおいか(同定)について回答を求めた。日本人とドイツ人の間で見られた反応の差異は,快不快度と食べられるかの評定において顕著だった。たとえば,かつおぶしのにおいに対して,日本人の68%は「かつおぶし」と同定し,快不快度については,平均的には快でも不快でもない程度と評定し,95%の人が「このにおいのするものは食べられる」と回答した。一方,ドイツ人の60%は「何かが腐ったにおい」と同定し,非常に不快と評定し,41%の人しか「食べられる」と回答しなかった。そのにおいが「何」のにおいかという情報はにおいに対する嗜好判断に影響し,そのにおいが「何」のにおいかという受け止め方や好き嫌いは後天的要因の影響を強く受けることがわかる。
身体に無害という観点から,アメリカで国防省がサポートした「におい爆弾」開発プロジェクトがあり,普遍的に嫌われるにおい物質を探し出す研究が行われた(Science Observer, 2002)。腐敗した有機体のにおいがもっとも嫌われる傾向があったが,文化・地域・人種に共通な絶対的な悪臭の発見には至らなかった。自分にとって利益のあるものはそのにおいまでもがいいにおいであり,不利益をもたらすものであればそのにおいは悪いにおいなのである。自分にとって利益のあるものが他の人にとっても利のあるものとは限らないので,必然的ににおいに対する嗜好もバラエティーに富む。人間以外の動物では,生体に不利益もしくは危害をもたらすものは,人間のように個体によって異なるというケースはほとんどなく,生得的な反応が観察されるであろう。人間にもこのような要素がないと否定はできないが,学習的要因の影響が強く,生得的反応は遮蔽されてしまっていると考えられる。

注:i) この引用部の著者は綾部早穂です。 ii) 引用中の「Ayabe-Kanamura et al., 1998」は次の論文です(PubMedでは検索できないようです)「Ayabe-Kanamura, S., Schicker, I., Laska, M., Hudson, R., Distel, H., Kobayakawa, T., & Saito, S. 1998 Differences in perception of everyday odors: A Japanese-German cross-cultural study. Chemical Senses, 23,31-38.」。 iii) 引用中の「Science Observer, 2002」は次の雑誌のコラムです「Science Observer(雑誌中のコラム)2002 Science that stinks. American Scientist, 90(3), 225.」 iv) 引用中の「知覚」については、次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「快不快」については、次のWEBページを参照して下さい。「快・不快 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「学習的要因」に関連して、同章における記述の一部(P176)を次に引用(『 』内)します。 『嗅覚は「原始的な感覚」であると言われ,生得的に決定されている要素が強いと考えられていることが多いが,実際には,経験や学習によって後天的に形成されるトップダウン的要因も大きいことがわかるであろう。』 vii) 上記綾部早穂が実施したにおいのトラウマ記憶に関する研究課題例については、次のWEBページを参照して下さい。 「においのトラウマ記憶に関する実態調査ならびに実験的検討」 viii) 引用中の「においに対する嗜好」に関連するかもしれない、魚のソースを好むか好まないのかについては、ここを参照して下さい。 ix) 引用中の(においに対する嗜好は)「学習的要因の影響が強く」に関連する「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 加えて、これに関連するかもしれない、味覚と嗅覚の連合学習について、斉藤幸子、小早川達編の本、「味嗅覚の科学 人の受容体遺伝子から製品設計まで」(2018年発行)の 第1章 味・においの知覚と認知 の「1.4.3 味覚と嗅覚の連合学習」における記述(P48~P49)を次に引用します。

1.4.3 味覚と嗅覚の連合学習
味覚が嗅覚に影響を与える場合にも,嗅覚が味覚に影響を与える場合にも,それらの間に一致(調和)が重要であることはすでに述べたとおりである.この一致(調和)は化学的な要因というよりも,日常の食経験によって学習されるものであると考えられている(Frank & Byram, 1988 など).そこで,Stevenson らは,学習心理学の観点から行った種々の実験から,嗅覚が味覚の特性を獲得するのは古典的条件づけに基づくものであることを明らかにした(レビューとして Stevenson, 2009).簡単に述べると,味覚と嗅覚間の学習は 意識しない対提示によって獲得されること,要素の事前提示によって学習は遅延することなどの古典的条件づけに典型的な特性を備えながら,比較的少ない対提示数で獲得できる,消去抵抗が強いなどの特徴も備えている.後者の特徴は,食物嫌悪学習や PTSD など 生体の生存に重要な学習においてもみられるため,味覚と嗅覚の間の学習は生物学的に重要な学習であることが示唆される(坂井, 2009).また味覚と嗅覚の連合の結果生じる知覚は,感覚モダリティの違いを超越して統合されるため,「学習された共感覚(learned synesthesia)」と名づけられた(Stevenson & Tomiczek, 2007).
最近 Stevenson らはこのような学習を認知心理学の概念を使って,「再統合性の学習(redintegrative learning)」とも呼んでいる(Stevenson, 2009 ; Prescott & Stevenson, 2015).嗅覚の一手がかりから,その食物のもつ風味全体の記憶を再統合し,脳内に再生するという考えである.たとえば嗅覚の場合.鼻孔から吸気に伴って届けられた化学物質によって生起する前鼻腔性嗅覚は外界の認知,口腔から呼気に伴って届けられた化
学物質によって生起する後鼻腔性嗅覚は食物の認知にそれぞれ関連すると考えられてきた(たとえば Rozin, 1982)が,前鼻腔性嗅覚も味覚と交互作用を示すことを明らかにする研究も多い(たとえば Sakai et al., 2001 ; 最近のレビューは鈴木, 2016 を参照).このような矛盾こついても,再統合性の学習という概念から解釈できる.つまり,前鼻腔性に喚起されたにおい表象が,そのにおい表象を含む風味の記憶を再統合させることによって,風味表象を活性化し,その結果味覚が増強されて感じられるのである.
さらに.この概念には単に感覚モダリティ間の統合という意味だけでなく.先に述べた注意や食物イメージの喚起という機能も含まれるため.これまでは他の研究とされてきた,風味と栄養間の学習,風味と薬効間の学習,食物嫌悪学習.食物安全学習など広い現象も含有できる.つまり,風味知覚は食物のもつ感覚特徴というよりも,食物そのものを表すものであるともいえるだろう.再統合性の学習という観点からの味覚と嗅覚の連合に関する研究は、この節のはじめの部分に述べたギブソンのアフォーダンスにもつながる分野へと発展している.

注:i) 次項を含めてこの引用部の著者は坂井信之です。 ii) 同章の「1.4 味覚・嗅覚の相互作用」において、引用中の「ギブソンのアフォーダンス」を説明する次に引用(『 』内)する記述(P44)があります。 『ギブソンは,本節で述べるような味覚・嗅覚の相互作用によって形成される風味知覚は,単に味覚や嗅覚などの化学感覚ではなく,人の味わうという能動的な能力の表れで,それ自体にアフォードされた(あるいは食物をアフォードする)ものであると考えた(Gibson, 1966).』[注:引用中の「Gibson, 1966」は次の本です。 「Gibson, J.J. (1966). The senses considered as perceptual systems. Houghton Mifflin.(ギブソン, J. J. 佐々木 正人・古山 宣洋・三嶋 博之(監訳)(2011). 生態学的知覚システム――感性をとらえなおす―― 東京大学出版会」] 加えて、引用中の「アフォーダンス」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「ギブソン生態心理学の基礎」 iii) 引用中の「Frank & Byram, 1988」は次の論文です。 「Taste-smell interactions are tastant and odorant dependent」 iii) 引用中の「Stevenson, 2009」は次の本です。 「Stevenson, R. J. (2009). The psychology of flavour. Oxford : Oxford University Press.」 iv) 引用中の「坂井, 2009」は次の資料です。 「坂井信之 (2009). 食における学習性の共感覚 日本味と匂学会誌, 16, 171-178.」 v) 引用中の「Stevenson & Tomiczek, 2007」は次の論文です。 「Olfactory-induced synesthesias: a review and model.」 vi) 引用中の「Prescott & Stevenson, 2015」は次の本です。 「Prescott, J., Stevenson, R. (2015). Chemosensory integration and the perception of flavor. In R. L. Doty (Ed.), Handbook of olfaction and gustation (3rd ed., pp. 1007-1026). New Jersey : Wiley blackwell.」 vii) 引用中の「Rozin, 1982」は次の論文です。 「"Taste-smell confusions" and the duality of the olfactory sense.」 viii) 引用中の「Sakai et al., 2001」は次の論文です。 「Enhancement of sweetness ratings of aspartame by a vanilla odor presented either by orthonasal or retronasal routes.」 ix) 引用中の「鈴木, 2016」は次の資料です。 「鈴木 隆 (2016). 嗜好品と香り/嗜好品の香り 嗜好品文化研究, 1, 2-10.」 x) 引用中の「風味」については、次の資料を参照すると良いかもしれません。 「風味の快楽」 xi) 引用中の(味覚と嗅覚の連合学習)における「古典的条件づけ」に関連する、「嗅覚嫌悪条件付け」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

一方、上記プルースト現象(Proust phenomenon)に関連する、 a) 新しい風味の科学である標記「ニューロ・ガストロノミー」(NEUROGASTRONOMY)における嗅覚路での、想起できる記憶に再フォーマットすることを含む「においイメージの処理」について、ゴードン・M・ジェファード著、小松淳子訳の本、「美味しさの脳科学 NEUROGASTRONOMY においが味わいを決めている」(2014年発行)の 第9章 においのイメージは点描画 の「においのイメージから知覚へ」における記述の一部(P131)を以下に引用します。 b) 臭い想起記憶(odor-evoked memory)についての論文の要旨を以下に紹介します。

においのイメージから知覚へ

嗅覚以外のどの感覚でも、脳は経時的な処理段階によって、刺激を検出・識別し、緊急の要求を満たすために最も重要な情報を抽出する。嗅覚路でも同様に、「においのイメージは」一連の段階を経て処理される。(中略)
第一段階は嗅球におけるにおいの初期イメージの処理だ。糸球体モジュールの層でイメージが形成される。次いで、側方抑制を行う微少回路の強力なシステムがこのイメージを強調する。強調されたイメージは嗅皮質に送られる。嗅皮質では、広範囲にわたる神経結合を持つ微少回路がイメージを内容参照可能記憶、つまり事物の内容そのものを想起できる記憶に再フォーマットする。この記憶表象が新皮質の最高次の中枢に送られ、そこで複雑な皮質微少回路が意識的知覚を生じさせる。これが最終段階だ。
要約して言えば、点描イメージを形成し、局所で処理し、全体的にフォーマットし、記憶に表象し、情動によって強調し、意識的に知覚するわけだ。(後略)

注:i) 引用中の「嗅球」及び「糸球体」については、マウスにおいてですが例えば次の資料を参照して下さい。 「味とにおいの奏でる食のハーモニー(味わいの脳科学)」の「図3 マウスの嗅覚系」 加えて、上記以外にも引用中の「嗅皮質」を含めて例えば次のWEBページを参照して下さい。 「嗅球 - 脳科学」 ii) マウスでのにおいにおける引用中の「イメージ」「記憶」及び「情動」については、共に例えば次の資料を参照して下さい。 「嗅覚の匂い受容メカニズム」の「図4 マウスの嗅覚における脳へのシグナル伝達部位」 iii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

①「The Role of Odor-Evoked Memory in Psychological and Physiological Health.[拙訳]心理的及び生理的な健康における臭い想起記憶の役割」(全文はここを参照して下さい)

This article discusses the special features of odor-evoked memory and the current state-of-the-art in odor-evoked memory research to show how these unique experiences may be able to influence and benefit psychological and physiological health. A review of the literature leads to the conclusion that odors that evoke positive autobiographical memories have the potential to increase positive emotions, decrease negative mood states, disrupt cravings, and reduce physiological indices of stress, including systemic markers of inflammation. Olfactory perception factors and individual difference characteristics that would need to be considered in therapeutic applications of odor-evoked-memory are also discussed. This article illustrates how through the experimentally validated mechanisms of odor-associative learning and the privileged neuroanatomical relationship that exists between olfaction and the neural substrates of emotion, odors can be harnessed to induce emotional and physiological responses that can improve human health and wellbeing.


[拙訳]
この記事では、臭い想起記憶の特別な特徴、そしてこれらのユニークな体験がいかにして心理的及び生理学的健康に影響を及ぼし、恩恵を受ける可能性があるかもしれない臭気想起記憶研究における現在の最高技術について論ずる。ポジティブな自伝的記憶を想起する臭いは、ポジティブな情動を増強し、ネガティブな気分状態を低下させ、渇望を崩壊させ、炎症の全身性マーカーを含むストレスの生理学的指標を低下させる可能性を有する結論を、文献のレビューは導く。治療的適用において考慮する必要があるだろう嗅覚知覚要因及び個体差特性も論じる。嗅覚連合学習の実験的に確認されたメカニズム及び嗅覚と情動の神経基盤との間に存在する特権を与えられた神経解剖学的な関係を通して、いかにして臭いをヒトの健康及びウェルビーイングを改善しうる情動的及び生理的な応答の誘発に利用することが可能かを、この記事は説明する。

注:i) 引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「ウェルビーイング」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「Well-being 研究」 加えて、これに関連する「主観的ウェルビーイング」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「大学病院におけるマインドフルネス認知療法の取り組み 不安障害,ウェルビーイングを中心に」 iv) ちなみに、引用はしませんが、論文の「1. Introduction」において、Proust phenomenon は odor-evoked memory でもあることが示されています。

加えて、PTSD と臭気との関連についての論文の要旨を次に紹介します。
①「Odor-induced recall of emotional memories in PTSD-Review and new paradigm for research.[拙訳]PTSD の評価及び研究の新パラダイムにおける情動的記憶の臭気誘発回想」

It is clinically well known that olfactory intrusions in PTSD can be a disabling phenomena due to the involuntary recall of odor memories. Odorants can trigger involuntary recall of emotional memories as well have the potential to help diminishing emotional arousal as grounding stimuli. Despite major advances in our understanding of the function of olfactory system, the study of the relation of olfaction and emotional memory is still relatively scarce. Odor memory is long thought to be different than other types of memories such as verbal or visual memories, being more strongly engraved and more closely related to strong emotions. Brain areas mediating smell memory including orbitofrontal cortex and other parts of medial prefrontal cortex, hippocampus and amygdala, have been implicated in learning and memory and are part of a neural circuitry that is involved in PTSD. The olfactory cortex itself also plays an important role in emotional processing. Clinical observations support the notion that odor-evoked memories can play a role in the symptomatology of PTSD. This paper reviews a re-emerging body of science linking odor processing to emotional processing in PTSD using the calming and grounding effect of odors as well as the use of odors in augmented exposure therapy. This results in converging evidence that olfaction is an excellent model for studying many questions germane to the field of human emotional memory processing.


[拙訳]
PTSD における嗅覚の侵入は、臭気記憶の非自発的回想による不自由な現象であり得ることは臨床的に周知である。臭気は情動的記憶の非自発的回想を誘発することができ、また、グラウンディング刺激としての情動的覚醒を減少させるのを助ける可能性がある。嗅覚系の機能の理解に大きな進歩があったにもかかわらず、嗅覚と情動記憶との関係の研究は未だ比較的少ない。臭気記憶は、強く刻み込まれ、強い情動に密接に関連しており、言語記憶又は視覚記憶等の他の種類の記憶とは異なると長い間考えられている。眼窩前頭皮質及び内側前頭前皮質、海馬及び扁桃体の他の部分を含むにおい記憶をメディエイトする脳領域は、学習及び記憶に関与しており、そして PTSD において関与する神経回路の一部である。嗅覚皮質自体も、情動的な処理において重要な役割を果たす。PTSD の症候学において、臭気誘発記憶が役割を果たし得るという考えを、臨床観察は支持する。増強された曝露療法における臭気の使用のみならず、臭気の落ち着き及びグラウンディング効果を利用した PTSD における情動処理と臭気処理とが結びついた科学の再興する主体を本論文はレビューする。嗅覚がヒトの情動的記憶の処理の分野に密接に関連した多くの疑問の研究にとって優れたモデルであることのエビデンスの収束をこの結果がもたらす。

注:i) 引用中の「PTSD」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 ii) 引用中の「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動的記憶 - 脳科学辞典」 加えて、引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、PTSD又は複雑性PTSDの視点からは、ここここを参照して下さい。 iii) 引用中の「グラウンディング」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「内側前頭前皮質」については、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 vi) 引用中の「海馬」及び「扁桃体」については、共にここを参照して下さい。

②「Odour as a determinant of persistent symptoms after a chemical explosion, a longitudinal study.[拙訳]化学爆発後の持続性症状の決定的要因としての臭気、縦断研究」

Foul-smelling environmental pollution was a major concern following a chemical workplace explosion. Malodorous pollution has previously been associated with aggravated physical and psychological health, and in persons affected by a trauma, an incidence-related odour can act as a traumatic reminder. Olfaction may even be of significance in the development and persistence of post-traumatic stress symptoms (PTSS). The present longitudinal study assessed whether perceived smell related to malodorous environmental pollution in the aftermath of the explosion was a determinant of subjective health complaints (SHC) and PTSS among gainfully employed adults, when the malodorous pollution was present, and after pollution clean-up. Questionnaire data from validated instruments were analysed using mixed effects models. Individual odour scores were computed, and the participants (n=486) were divided into high and low odour score groups, respectively. Participants in the high odour score group (n=233) reported more SHC and PTSS than those in the low odour score group (n=253), before and even after the pollution was eliminated. These associations lasted for at least three years after the pollution was removed, and might indicate that prompt clean-up is important to avoid persistent health effects after malodorous chemical spills.


[拙訳]
悪臭のする環境汚染は、化学職場の爆発の後での大きな懸念事項だった。悪臭のする汚染は、以前の身体的及び心理的な健康状態の悪化に関連しており、そして心的外傷の影響を受けた人では、(事故)発生関連の臭いが心的外傷性のリマインダー(訳注:思い出させるもの)として働く可能性がある。嗅覚は、心的外傷後ストレス症状(PTSS)の発症及び持続において本当に重要であるかもしれない。本縦断研究では、爆発後における悪臭のする環境汚染に関連する知覚された匂いが、悪臭のする汚染が存在した時、そして汚染の清掃の後に、有給で雇用された成人の間での主観的健康苦情(SHC)及び PTSS の決定的要因であるかどうかを評価した。検証された機器からのアンケートデータは、混合効果モデルを用いて解析された。個々人の臭気スコアは計算され、そして被験者(n=486)は、高い臭気スコアグループと低いグループにそれぞれ分類された。高い臭気スコアグループの被験者(n=253)は、汚染除去前そして除去後でさえも、低い臭気スコアグループの被験者(n=233)よりも、より多くの SHC 及び PTSS を報告した。これらの関連は、汚染が除去されてから少なくとも3年間持続し、そして悪臭のする化学物質放出後の持続性の健康影響を避けるために迅速な清掃が重要であることをひょっとして示しているかもしれない。

注:i) 引用中の「n=486」、「n=233」及び「n=253」は共に人数を示します。 ii) 「心的外傷後ストレス症状」に関連する「PTSD」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 iii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

一方、「ルール支配行動」について、熊野宏昭著の本、「マインドフルネスそしてACTへ」(2011年発行)の 第二章 言葉が自分を作り上げる の「バーチャルな現実によるコントロール」における記述の一部(P40~P42)を次に引用します。

バーチャルな現実によるコントロール(中略)

一方でわれわれは、人から聞いた話や、自分で考えた予想によって行動をコントロールすることができます。例えば、「おばあちゃんが、あの辺りは危ないから近づかないほうがいいと言っていたから、一度も行ったことがない」といった場合です。これは予め見通しを与えるフィードフォワードによるコントロールと言ってもよく、自分で経験したことがない状況にも対応できますので、とても効率のよいものです。このように、「ある状況で特定の行動をすると、それに応じた結果が得られる」という言葉による見通しのことを「ルール」と呼び、これによってコントロールされた行動のことを「ルール支配行動」といいます。
しかし、ちょっと考えてみれば、この方法がいつもうまくいくとは限らないことも分かるでしょう。自分で経験していないから、本当に正しいのかどうか実は分からないからです。この事情を説明したのが「百聞は一見にしかず」という有名な言葉で、実際にやってみるのと考えていたのとはまったく違った結果になることがあるということを意味しています。しかし、このような言葉があること自体、一度思い込むとなかなか修正できないということも意味しているのです。
例えば、高いところはダメだと思い込んでしまった高所恐怖症の患者さんのように、です。言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出されるので、行動の制御が可能になるのですが、その同じ理由で、修正することも難しくなるわけです。
その上、先に説明したように、ちょっと違った情報が入ってくるだけで、「ルール」そのものがガラッと変わってしまうということも大きな問題です。例えば、素晴らしい自然が満喫できて、休みの日などによく出かける山があったとしましょう。そこには滝などもあり、マイナスイオンが身体によいということも聞いて知っており、とてもリラックスできる気がしていつも立ち寄るようにしていました。ところが、ある日、その滝の近くにはマムシがいるという情報を得てしまいました。そうなると、それからは怖くて滝に近づくことができなくなり、その山に行くのも嫌になってしまうかもしれません。その山や滝自体は何も変わっていないのに、です。
このように、「ルール支配行動」は、大変効率のよい行動のコントロールの仕方ですが、事実と一致していないことがあったり、間違っている場合でもなかなか修正が難しかったり、逆にちょっとしたことで「ルール」自体が大きく変わってしまうといった問題点があるといえるでしょう。

注:i) 引用中の「言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出される」ことによる問題を少なくするための「コンプリヘンシブ・ディスタンシング」(言葉の世界全体から距離を取ること)については、他の拙エントリのここを、 加えて「脱フュ―ジョン」については、他の拙エントリのリンク集を それぞれ参照して下さい。 ii) 引用中の「バーチャルな現実によるコントロール」に関連する「バーチャルな現実をつくり出す」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 加えて、「バーチャルな世界と現実の世界の区別がつかない状況に人間を陥れることになった」については、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスはなぜ効果を持つのか」の「マインドレスになる基盤とは?」項 iii) 引用中の「高いところはダメだと思い込んでしまった高所恐怖症の患者さんのように、です。言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出される(後略)」に関連するかもしれない、『「怒り、怒り」「痛み、痛み」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます怒りや痛みが増幅する』ことについて、プラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第二章 慈悲の章 の『感覚に言葉でラべルを貼る、「ラべリング技法」の問題点』における記述(P138~P141)を次に引用します。

感覚に言葉でラべルを貼る、「ラべリング技法」の問題点
魚川 なるほど。「現実をありのままに見る(如実知見する)」はずの瞑想が、過度の集中によって、むしろ日常的な現実の否認に繋がってしまうわけですね。この「解離」や「回避」の症状については、ウィパッサナー瞑想においてしばしば推奨される、「言語によるラベリング」という技法の問題点も、プラユキ先生は指摘されていましたね。
プラユキ 痛みを感じたら「痛み、痛み」、怒りを感じたら「怒り、怒り」などと、生じてきた感覚に言葉でぺタぺタとラベルを貼っていく(ラベリングする)瞑想技法のことね。もちろん、この瞑想技法で効果を上げている人もたくさんいるから、それを否定するつもりはありません。ただ、私のところに、このラベリング瞑想をすることで身心の調子を崩してしまった方が、少なからず相談にいらしているのは事実です。
なぜ問題が生じてしまうのかというと、一般に私たちにとって言葉というのが、単なる記号表現である「シニフィアン」(“ネ・コ”という音の連鎖や文字の集まり)としてだけではなくて、記号内容であるところの「シニフィエ」(“ネコ”という音声や文字から浮かぶイメージや概念)と分かち難く結びついた、「シーニュ(記号)」(シニフィアンとシニフィエの複合体)として用いられるものだからです。
つまり、多くの人にとって、シニフィアンは発話された時点でシニフィエを巻き込んで認知されるわけですね。例えば、「怒り」というシニフィアンを「ラベル」として心の中でも発話すれば、同時に腹立たしい感情にまつわる記憶イメージといったようなシニフィエが、喚起されることは自然であるわけです。そうすると、怒りに囚われたくないからラベリング瞑想をしているのに、「怒り、怒り」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます憎悪の感情や立腹した記憶などが、心に満ちてくることも起こり得る。
魚川 それはよくわかります。この瞑想の前提としては、「怒り」や「痛み」などを言葉で同定して明晰に捉えることで、そこから距離をとって観察すれば、無常なる怒りや痛みといった感覚は、時間が経てば自然に消えることが知られる、ということになっているわけですが、実際には必ずしもそうはいかないことがある。「怒り、怒り」「痛み、痛み」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます怒りや痛みが増幅する、という経験をしたことのある瞑想者は、少なからず存在するでしょう。
プラユキ もちろん、シニフィアンをあくまでシニフィアンとしてのみ使うことができて、そこで同時に喚起されるシニフィエに囚われないような人であれば、ラベリング瞑想が前提どおりに上手く機能するでしょう。この対談の文脈で言えば、言葉をあくまで「たかが言葉」として理解・使用することができて、そこに付随する「されど言葉」の側面には囚われずにいられるような人のことですね。ただ、これは非常に難しいと思います。
魚川 私たちが生きている「現実」の物語の世界において、シニフィアン(「たかが言葉」)とシニフィエ(「されど言葉」)は不可分ですからね。ラベリング瞑想で効果を上げられる人というのは、「怒り」というシニフィアンを発しても、それを「たかが言葉」として扱い、同時に喚起される怒りの感情というシニフィエ、即ち、「されど言葉」の作用には囚われずにいられる人、ということになりますから、これはなかなか難しい。
プラユキ はい。そして、そのようなラベリング瞑想の陥葬に落ちてしまった人が、結果として呈することになるのが、解離や回避といった状態なんです。つまり、怒りや痛みをラベリングすればするほど、その認知が際立っていくことになるので、対象を何とか抑圧しようとして、経験を否認したり回避したりしてしまう。あるいは現実に生起するネガティブな感覚をラベリングによって「客観視」しようとするあまり、そこから自己を疎外してしまい、離人症などの病的な解離現象を生ずることもあります。
魚川 ラベリングによって怒りや痛みといったネガティブな感覚を「客観視」しようとして、言語による対象化を進めると、その言わば反作用として、「客観視する自己」の疎外が生じてしまうことがある。「仏教瞑想の本質は『無我性』の直観にある」という話が前章で出ましたけれども、こうなってくると、瞑想がむしろ一種の「我の強化」に貢献してしまうことにもなりますね。
プラユキ そういうことも起こり得ます。

注:i) この本の著者の一人である魚川祐司氏が表現する引用中の「物語の世界」について、同本の序章における記述の一部(P21)を次に引用(『 』内)します。 『魚川 はい。ミャンマーの瞑想センターでは、ウィパッサナー(観察・気づき)の瞑想を行うことで、欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知の仕方――私の言葉で表現すれば、「物語の世界」――から身を離して、欲望によって条件づけられることのない、ありのままの現象を認知する(如実知見する)ことを、まずは目指します。』(注:a) 引用中の「物語の世界」に関連する『心の観察とは言うなれば「私」や「物語」の仮想性(虚構性)を看破していく作業』についてのツイートは次を参照して下さい。 「ツイート」 b) 引用中の『「物語の世界」――から身を離して』に関連する「物語を作り出さない」ことについては次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「マインドフルネスと生活」項 c) 引用中の[仏教思想の視点からの]「条件づけ」について、ウ・ジョーティカ著、魚川祐司訳の本、『自由への旅 「マインドフルネス瞑想」実践講義』(2016年発行)の 第五章 第一と第二の洞察智 の【Q&A】における記述の一部(P246~P247)を以下に引用します。 d) 引用中の「欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知」に関連するかもしれない、アドラー心理学の視点からの『人は誰もが同じ世界に生きているのではなく、自分が「意味づけ」した世界に生きている』ことについて、WEBページ「意味づけを変えれば未来は変えられる」における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『アドラー心理学の特徴として挙げられるのが、人は誰もが同じ世界に生きているのではなく、自分が「意味づけ」した世界に生きていると考えることです。同じ経験をしても、意味づけ次第で世界はまったく違ったものに見え、行動も違ってきます。』 e) 一方、引用中の「欲望」に関連する「欲」の裏返しが「嫌悪」であることについて、ジョン・カバットジン著、貝谷久宜監訳、鈴木孝信訳の本、「マインドフルネスのはじめ方 今この瞬間とあなたの人生を取り戻すために」(2017発行)の P122~P124 に示されています。この中の記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『嫌悪は,物事はこうあったらいいのに,という望みの裏返しです。』) ii) 引用中の『「怒り」というシニフィアンを発しても、それを「たかが言葉」として扱い、同時に喚起される怒りの感情というシニフィエ、即ち、「されど言葉」の作用には囚われずにいられる』に関連する「コンプリヘンシブ・ディスタンシング」(言葉の世界全体から距離を取ること)については、他の拙エントリのここを、 加えて「脱フュ―ジョン」については、他の拙エントリのリンク集を それぞれ参照して下さい。 iii) 引用中の「ウィパッサナー瞑想」の別名である「ヴィパッサナー瞑想」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネス認知療法」の「マインドフルネス実践の方法論上の特徴」項 加えて、これに関連する「本来のウィパッサナーのヴィジョン」について、同本の P143 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『即ち、「怒り」や「痛み」という「対象」を「私」が観察するのではなくて、「怒り」や「痛み」のみならず、「私」までも含まれた、現象の流れが生成消滅しているプロセスの全体を、平等に観察する気づき(sati)の目から見るというのが、本来のウィパッサナーのヴィジョンであるということです。』 iv) 引用中の「距離をとって観察すれば」、「客観視する自己」及び上記 iii) 項における引用中の「プロセスの全体を、平等に観察する気づき」に関連するかもしれない、「観察する(観察者としての)自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。加えて、上記「観察する(観察者としての)自己」が機能し、マインドフルな状態と密接に関連する「あることモード」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。一方、「あることモード」と対比される「することモード」で(マインドフルネス)瞑想を行うことはいかがなものかと、本エントリ作者は考えます。 v) 引用中の「現実をありのままに見る」に関連する「あるがままに物事を見る」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「我」及び上記 iii) 項における引用中の「私」に関連する「経験我」については、魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の P90 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『つまり、覚者であれ一般の凡夫衆生であれ、そこで感官からの情報が認知されることによって経験が成立する場としての「個体性」であれば、それぞれが有している。それがここで言う「経験我」だが、ただしそれは、原因・条件によって生成消滅する(縁生の)感官からの情報によって形成されているものであるから、もちろん無常・苦・無我という三相の性質を有しており、時々刻々と変化・流動している。』(注:引用中の「無常・苦・無我」については、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「法則性: 無常・苦・無我ということ」項) 加えて、これらに関連する「プロセスとしての自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vii) 引用中の『言葉をあくまで「たかが言葉」として理解・使用する』に関連するかもしれない、a) マインドフルネス認知療法の視点からの「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」及び/又は「思考は解釈や価値判断を含むが,解釈や価値判断はそれ自体が事実というわけではない」については、共に次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの促進困難への対応方法とは何か」の「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」項 b)「全ての感情や自己イメージは、心の中の一過性の出来事にすぎない」ことについては、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「心理臨床への示唆」項 viii) 引用で示されている「瞑想での問題点」における他の一例について、プラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第三章 自由の章 の「智慧へと上って慈悲に下る、大切なのはこの循環」における記述の一部及び『「状態と意味に対する微細な囚われ」が瞑想の罠』における記述(P194~P200)を以下に引用します。 ix) 引用中の「されど言葉」に関連するかもしれない「妄想と現実の区別がつかなくなる」ことへの対策例については、次のWEBページを参照して下さい。 「ストレスに負けない! 自分を客観視する方法」 ちなみに「されど言葉」は良くない意味で使用されていますが、良い意味でも使用されます。この例について、プラユキ・ナラテボー著の本、「苦しまなくて、いいんだよ。 心やすらかに生きるためのブッダの知恵」(2011年発行)の 第4章 言葉の力で、苦しみを超える の『言葉の影響力に配慮する「慈悲」』における記述の一部(P148~P149)を以下に引用します。ちなみに、同本の P144 には、言葉は、「凶器」又は「包丁」にもなる「刃物」と同じ二面的な性質を持っているとの主旨の記述があります。

注:次の引用はウ・ジョーティカ著、魚川祐司訳の本、『自由への旅 「マインドフルネス瞑想」実践講義』(2016年発行)の 第五章 第一と第二の洞察智 の【Q&A】における記述の一部(P246~P247)です。

(前略)眼に関しては中立的な感覚、不苦不楽受だけを感じます。それは快でも不快でもありませんが、あなたがそれを快か不快として解釈すると、それは別のプロセス、つまり精神的プロセスになります。自分が見たものを好む時、それはもはや眼の意識(眼識)ではありません。この繋がりは別の意識です。あなたが何かを見る時、純粋に見るのが眼識で、その時には、あなたは自分が何を見ているのかすら知りません。ただ純粋に見ることがあるだけなのです。自分が見ているものを確認するのは別の段階で、それからあなたは、自分がそれを好むかどうかを決定するのです。(中略)

見る時に、私たちはただ色だけを見る。眼識とは色だけなのです。それは男や女や、その他のものを見たりはしない。ただ色だけを見るのです。次の段階は心で起こる。つまりは解釈です。心が解釈をする時、それはもはや見る意識ではなく、心の意識なのです。過去の経験ゆえに、何かを見ると、あなたは自分が何を見ているかわかります。以前にそれを好きだったから、あなたはいまそれが好きなのです。何か全く新しいものを見たら、あなたにはそれが何だかわかりませんし、好きも嫌いもありません。ただ、「これは何だ?」と考えるだけです。ですから、それは過去の条件付けなのです。例えば、ミャンマーでは多くの人たちが、この魚のソース、底魚のペーストを好んでいます。べたべたして、とても臭い。人々はこれが大好きですが、私はこれが大嫌いです。つまりこれが条件付けです。(中略)

あなたが何かを見てそれを好む時、それは過去の条件付けによるものです。何かを見ても、それが何だかわからなければ、あなたはただ「これは何だ?」という意識をもつだけですね。(後略)

注:引用中の「精神的プロセス」、「心が解釈をする」に拙ブログ的に対応するかもしれない「情動」については、リンク集(用語:「情動と理性」、すぐ右の脚注も参照)及び次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えて、メンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。

智慧へと上って慈悲に下る、大切なのはこの循環(中略)

魚川 (中略)「マインドフルネス」に関して申しますと、『グーグルのマインドフルネス革命――グーグル社員5万人の「10人に1人」が実践する最先端のプラクティス』(サンガ)という本に、グーグルでの「マインドフルネス」の実践をリードするビル・ドウェイン氏と、アンディー・ブディコム氏との対談が収録されているのですが、そこでは「マインドフルネス」を仕事のパフォーマンスや認知能力のためだけに実践するのではなくて、慈悲や思いやりといった、他人に対する共感の力も同時に育むことの重要性が語られています。
ブディコム氏は、「ぼくにとって、マインドフルネスは温かい気持ちをもたらすものです。その温かい気持ちは、皆さんの人生において、人と人とのつながりをがらりと変えるものです。ぼくが重要だと思っているのはそのことです」(p163)と言っていますが、彼は瞑想のそうした側面が、現在の西洋における「マインドフルネス」ムーブメントにおいては、ちょっとなおざりにされているのではないかと、懸念も示していますね。
プラユキ そうですね。「仕事に役立つ」ことはもちろん悪くないんだけど、そこだけを考えてしまった時に出てくる弊害というのも、やはり念頭に置いておかなくてはならないと思います。

「状態と意味に対する微細な囚われ」が瞑想の罠
プラユキ それに関連してもう一つ申しますと、この対談で何度も指摘してきた「集中力重視」の問題点が、「気づさの実践」であるはずの「マインドフルネス」にも、同様に見られる場合があります。例えば、二〇一四年十一月六日のNHK「おはよう日本」で「マインドフルネス」が特集されて、そこに第一章でも言及した熊野宏昭先生も登場されたんですが、その番組について熊野先生は、「取材時には何度も、観察すること、注意を分割することの重要性を説明したが、ほとんど触れられず、『集中する』という言葉が目立った。マインドフルネスが集中瞑想よりも観察瞑想との関連が深いことを、紹介してもらえなかったのはとても残念」と、ツィッターで感想を投稿されていたんですね(https://twitter.com/hikumano1/status/530329533778366464)。「マインドフルである」ということは、「集中している」というよりは「覚醒している」ということで、気づきの自覚的な意識を保ち、心を開いてあるがままに see する感じなんだけど、まだまだ心をコントロールして look at する「集中」のニュアンスが強いようですね。
魚川 「マインドフルネス」が単に「集中すること」ではなくで、「現象をありのままに、価値判断を差し挟まずに観察すること」であるというのは、前出のビル・ドウェインさんにせよ、その他の「ブーム」を牽引する英文仏教書の著者たちにせよ、きちんと言っていることだとは思うのですが、それが「集中すること」だけに還元されがちなのは、どうしてなんでしょう?
プラユキ 一つには、日本には元々、観察とか気づさの意識というのは、瞑想技法として、あまり入ってこなかったという可能性はあるかもしれない。もちろん、ないわけではないのだけれども、「集中系」の瞑想というのは、三昧好きな日本人に好まれがちな傾向がある。
ただ、日本だけの問題でもやはりないと私は思っていて、例えば、「マインドフルネス」ブームの一つのきっかけとなった『マインドフルネスストレス低減法』(春木豊訳、北大路書房)の著者である、ジョン・カバットジンさんという方がいらっしゃいますね。彼はマインドフルネスについて、英語で“paying attention in a particular way; on purpose in the present moment, nonjudgementally”と説明しているんです。「現在の瞬間において判断せずに、特定の仕方で意図的に注意を払うこと」というわけだけど、ここで「意図的に(on purpose)」と言うのが、私としては問題だと思うんです。
私だったら、ここで「意図的に」という言葉は使わずに、「自覚的に」と表現します。というのは、「自覚的に」であれば、ただそこで目覚めているというか、ありのままに見るという感じになるけれども、「意図的に」と言ってしまうと、観察に何かしらの方向性というか、まさに「意図」が、不可避的に加わることになってしまう。
もちろん、言っている本人としてはそういうつもりはなく、単に「散漫な意識では駄目だよ」ということに注意を促したいのかもしれないけれども、そこにやはり、状態と意味に対する、すごく微細な囚われがあると思う。つまり、「通常の意識」ではいけなくて、何かしらの瞑想的な意識、意味のある特定の状態をつくらなければならない、という方向づけの「意図」がそこにある。それが、「対象にきちんと集中して心を制御しなきゃ」という態度に帰結するんじゃないかと、私としては思うんですね。
魚川 それはわかります。本来的な瞑想のヴィジョンは「状態に左右されないこと」であるにもかかわらず、ついつい瞑想によって「特定の状態」や「意味のある境地」を目指してしまうんですよね。とはいえ、ならば意識的には何もせずに、ただ生きていればそれでいいのかというと、もちろんそんなことはなくて、やはり「瞑想をする」わけですから、この「状態と意味に対する微細な囚われ」を避けるのは、たいへん難しいことになる。
プラユキ そうですね。オープン・ハートでかつオープン・エンド(open-end)でいるのはなかなか難しい。そこはやはり、瞑想者の様子をきちんと見て、適切なアドバイスを与える指導者の力量が問われるところかと思います。

注:i) 引用中の「オープン・エンド」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「オープンエンド」 ii) 引用中の『「通常の意識」ではいけなくて、何かしらの瞑想的な意識、意味のある特定の状態をつくらなければならない、という方向づけの「意図」がそこにある。』に関連するかもしれない、『「することモード」から「あることモード」へ』については、拙エントリのここを参照して下さい。加えて、これに関連するかもしれない、「「無心(第二の心)のマインドフルネス」及び『「シンキング・マインド」又は「日常の心」や「見聞覚知の主体」を手放したマインドフルネス』については、例えば拙エントリのここを参照して下さい。

言葉の影響力に配慮する「慈悲」(中略)

現実は、「たかが……にすぎない」では実際済まないものです。言葉の世界を共有している私たちは、その一つひとつの言葉に絶えず影響を受け、傷つき、傷つけ、気分はアップ&ダウンを繰り返しています。そうした現実を無視して言葉をおざなりに用いていては、自分も相手も傷つけ、苦しませ、この世を苦しみで満たすことに加担することになるでしょう。(中略)

そうした言葉の威力、強大を影響力をまざまざと感じ、相手への気配りを忘れず、細心の注意と思いやりを持って、一つひとつ適切な言葉を選んで丁寧に発していく。それが「されど言葉」の意味するところであり、慈悲の心で感じ、活用すべきものとした根拠です。(後略)

注:引用中の「慈悲」については、例えばツイートを参照して下さい。

「言葉」の問題についての引用に加えて、「六根六境」(一二処)等によるヒト(衆生)の「認知」の問題について、魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の 第五章 「世界」の終わり――現法涅槃とそこへの道 の『執著による苦と「世界」の形成』における記述の一部(P114~P115)及び『我が「世界」像の焦点になる』における記述の一部(P119~P121)をそれぞれ以下に引用します。

執著による苦と「世界」の形成(中略)

そして、「世界」がそうであるように、苦も六根六境への執著を原因として生じていることは、経典の各所で語られている。
例えば相応部の 『プンナ経(中略)』には、次のような記述がある。

プンナよ、眼によって認知される諸々の色で、好ましく、求められていて、意に適う、可愛の諸形態で、欲を伴い貪りに染まったものがある。もし比丘が、それを歓喜して迎え入れ、執著していると、そのように歓喜して迎え入れ、執著している彼に喜悦が生じる。そしてプンナよ、この喜悦が集起することから苦が集起するのだと、私は言う。

同様のことが、眼によって認知される色以外の、耳・鼻・舌・身・意によって認知される声・香・味・触・法についても言われており、つまり六根によって認知される六境に、執著して喜悦することが苦の原因であるという趣旨が説かれている。そして次に、苦を滅する方法はその逆であって、六根によって認知される六境を歓喜して迎え入れ、執著するということをやめれば、喜悦も滅するから、そうすれば苦は滅尽するのだとも説かれる。
このように、六根六境への執著によって苦は生起し、そしてそれと同時に「世界」も生起することになるわけだが(後略)

注:i) 引用中の「世界」の説明例としては、煩悩を伴う認知によって形成されるもののようです。(同本の P114 参照)加えて、これに関連する「物語の世界」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「執著」は「固執」や「とらわれ」を意味しているようです。 iii) 引用中の「比丘」は修行者のことのようです。 iv) 引用中の「六根」における「意」(思考)については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「苦」(dukkha)についての文章が、同本の P51 にあり、その部分を次に引用(『 』内)します。 『dukkha という言葉を訳す時、現在の英訳では、しばしば unsatisfactoriness という単語が使われる。日本語に訳せば「不満足」ということになるが、これは dukkha のニュアンスを正しく汲み取った適訳だと思う。というのも、[中略]dukkha(苦)はしばしば anicca(無常)と関連付けられながら語られるが、このことは、「苦」という用語が単に苦痛のみを意味しているわけではなくて、むしろ欲望の対象にせよその享受にせよ、因縁によって形成された無常のものである以上、欲望の充足を求める衆生の営みは、常に不満足に終わるしかないという事態をこそ意味することを、示しているからである。例えば空腹の絶頂にある時に、美味しい食事を出されれば、私たちは喜んでそれを享受する。しかし、どんなに美味しい料理であっても、一時間も食べ続ければ見るのも厭になってくるし、にもかかわらず、それで半日もすれば私たちはまた空腹になる。(中略)美人にも三日で飽きてしまう。』(注:引用中の「因縁」については、例えば他の拙エントリのここにおける引用の「第3項 縁起について」を参照して下さい) 加えて、資料「無心(no mind)とマインドフルネス(mindfulness)」の【「四つの課題」の現代的解釈】において、dukkha(ドゥッカ)についての説明があり、次に引用(『 』内)します。 『原語の「ドゥッカ」という言葉は「思いどおりにならないこの人生の現実」と理解するべきだと思います。』 さらに、精神医学的な視点を加味した「苦」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

我が「世界」像の焦点になる[中略]

かつて私が、ミャンマーの瞑想センターでウィパッサナーの実践を行っていた時に、指導する僧侶からしつこく言われたのは、「一つ一つの現象のありのままを見よ、イメージを作るな」ということであった。
例えば、私たちは日常生活でごく自然に「異性」を認識し、それに執著することがあるけれども、その「異性」というのは実際のところ、感覚入力を素材として捏ね上げられたイメージなのであって、比喩的に言い換えれば「物語」に過ぎないものである。
実際、私たちが認識している「美しい顔」は、よく分析してみれば眼に入っている色の組み合わせに過ぎないし、その「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない。つまり、私たちが持つ「美しい異性」という認識は、そのような感覚入力を素材として構成された単なるイメージ、もしくは物語に過ぎないわけだ。だから、ちょっと構成の仕方を変えてみれば、第一章で紹介したように、マーガンディヤの美しい娘を「糞尿に満ちたもの」というイメージで捉えることもできてしまう。
では、なぜ私たちは、そのような「ありのまま(如実)」でないイメージを形成し、物語の「世界」を立ち上げてしまうのか。それは、本章で引用した経典に繰り返し語られていたように、私たちが、五蘊・十二処・十八界といった認知を形成する諸要素に欲望を抱き、それに執著して実体視する(「我」だとみなす)からである。
感覚入力によって生じる認知は、それを「ありのまま」にしておくならば、無常の現象がただ継起しているだけのことで、そこに実体や概念は存在せず、したがって「ある」とか「ない」とかいうカテゴリカルな判断も無効になっていて、だから(それ自体が分別である)六根六境も、その風光においては「滅尽」している。つまり、そこでは「世界」が立ち上がっていない。これは既に言語表現の困難なところだが、敢えて短く言い表せば、「ただ現象のみ」というのが、「如実」の指し示すところなのである。
ただ、私たち衆生はその生来の傾向として、対象を希求する渇愛[中略]を有しており、そこから対象を好んだり嫌ったりする「癖」(貪欲[中略]と瞋恚[中略])もついてしまっていて、そして何よりそのことに無自覚(愚痴[中略],あるいは無明[中略])だ。
だから私たちは、ただ継起しているだけの現象に欲望を抱き、それを好んだり嫌ったりする執著(嫌うこともまた、逆方向の執著の形である)をして、それを起点に物語を作る。欲望なしの認知であればただの「色」であるものが、欲望によって、「美しい顔」のイメージに形成しあげられてしまうわけだ。
そして、そのような欲望によって織り上げられた様々なイメージの中にあって、それらが「世界」という像を結ぶ際の焦点として機能するのは、もちろん「我」という仮象である。五蘊も十二処も十八界も、それらが「私の」認知だと捉えられた時に、はじめて統合の中心を得て、「世界」という物語を形成する要素として機能する。六根六境が生成する個々の認知を、「それは私のものであり、それは私であって、それは私の我である」と捉えることがなかったならば、それらは統合の中心を失って、ただ継起していくだけになり、「世界」という像を結ぶことはない。そこに残るのは、「ただ現象のみ」なのである。
このような、渇愛・煩悩・我執に基づいてイメージを形成し、それによって現象を分別して多様化・複雑化させ、「物語」を形成する作用のことを、さきほど紹介した言葉で papañca と言ってもよいだろう。そして、この papañca の滅尽ないし寂滅が、「世界の終わり」であり、また「現法涅槃」の境地であるということも、さきほど述べたとおりである。
実際、パーリ経典に基づいた実践を行っている上座部圏の瞑想センターで、修行者たちの一つの目標になるのもこの境地である。「一つ一つの現象のありのままを見よ、イメージを作るな」と、私がしつこく言われたのも、この papañca という物語形成の作用を止めて、苦なる「世界」に繋縛され続けることを終了させるための、親切な指導だったわけだ。

注:i) 引用中の「脚注番号」の引用は省略します。 ii) 引用中の「単なるイメージ、もしくは物語に過ぎない」ことに関連する、マインドフルネスの視点からの a) 「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」及び/又は「思考は解釈や価値判断を含むが,解釈や価値判断はそれ自体が事実というわけではない」については、共に例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの促進困難への対応方法とは何か」の「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」項 b) 加えて「全ての感情や自己イメージは、心の中の一過性の出来事にすぎない」ことについては、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「心理臨床への示唆」項 iii) 引用中の「papañca」についての説明例として、同本の P118 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『ただ、papañca は原義としては拡大・拡散することであり、そこから分化や多様化といった事態も示す。英語で言えば、expansion, diffuseness, manifoldedness といったニュアンスである。要するに、本来は分別されていないものを分別して境界づげ、そこに多様性を持ち込んで、拡散・複雑化させるはたらきを papañca と呼ぶものだと、とりあえずは考えておいてよい。そして、本来は分別されていないものに分別を与えて複雑化するのであるから、それは妄想、幻想(illusion)、迷執(obsession)といった含みも持つことになる。』 iv) 引用中の「貪欲」、「瞋恚」、「愚痴」(これらは「三毒」と呼ばれます)については、共に例えば次のWEBページを参照して下さい。 『「貪欲」』 v) 引用中の「無明」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 『「癡によりて愛あれば、すなわち我が病生ず。」』 vi) 引用中の「執著」は「固執」や「とらわれ」を意味しているようです。例えば、上記 v) 項も参照して下さい。 vii) 引用中の「十二処」は「六根」と「六境」を合せたものです。これらはここを参照して下さい。加えて、引用中の「十八界」は、「十二処」に六識(眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識)を加えたものを言うようです。 viii) 引用中の「五蘊」については、同本の P220 の脚注(18)に説明があり、次に引用(『 』内)します。 『仏教では、人間(衆生)を「色(物体・身体)、受(感覚・感受)、想(表象作用)、行(意志・欲求)、識(認識・判断)」という五つの要素に分析して述べることがあり、それらをまとめて「五蘊」と呼んでいる。』 すなわち、上記五蘊・十二処・十八界は、人間(衆生)の認知の方法をそれぞれ分類したもののようです。 ix) 引用中の「渇愛」についてはプラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第二章 慈悲の章 の「渇愛は滅尽させるべきものか、させなくていいのか」における記述の一部(P115)を次に引用(『 』内)します。 『プラユキ 渇愛というのは、喉が渇いた人が水を求めるような、欲望の対象を希求する根源的な煩悩のことだよね。』 この「渇愛」は「欲愛」、「有愛」、「無有愛」の3つから構成されます。これに関連する、四聖諦中の集諦における「感覚的快楽への渇愛」、「存在への渇愛」「非存在への渇愛」については、次の資料を参照して下さい。 「仏教瞑想と幸福感」の「涅槃という幸福」項 x) 引用中の「マーガンディヤの美しい娘」については、同本の P27 における記述の一部を次に引用(【 】内)します。 【さて、再び『スッタニパータ』に戻ろう。次は第四章の「マーガンディヤ」である。この経はゴータマ・ブッダの「この糞尿に満ちた(女が)何だというのだ。私はそれに足さえも触れたくない」という過激な言葉を含む偈ではじまる。経の本文には文脈が記されていないので少し戸惑うが、註釈によれば、これはマーガンディヤというバラモンが美人の娘を連れてゴータマ・ブッダに婿になってくれるよう頼んだ際に、彼がそのように語って拒絶したということらしい。】(注:a) 引用中の脚注は省略しています。 b) 引用中の『スッタニパータ』は経典の名称です。) xi) 引用中の「ウィパッサナー瞑想」の別名である「ヴィパッサナー瞑想」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネス認知療法」の「マインドフルネス実践の方法論上の特徴」項 xii) 引用中の「我」に関連する「経験我」については、魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の P90 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『つまり、覚者であれ一般の凡夫衆生であれ、そこで感官からの情報が認知されることによって経験が成立する場としての「個体性」であれば、それぞれが有している。それがここで言う「経験我」だが、ただしそれは、原因・条件によって生成消滅する(縁生の)感官からの情報によって形成されているものであるから、もちろん無常・苦・無我という三相の性質を有しており、時々刻々と変化・流動している。』(注:引用中の脚注の引用は省略しています) 加えて、これらに関連する「プロセスとしての自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 xiii) 引用中の『その「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』に関連する a) 「言葉は心が作ったもの」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 b) 認知心理学の視点からの聴覚の知覚について、服部雅史、小島治幸、北神慎司著の本、「基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議」(2015年発行)の CHAPTER2 感じる の 3 いろいろな感覚 の「QUICK REVIEW」における記述の一部(P43)を次に引用(『 』内)します。 『聴覚は空気振動による音波の知覚である。音の意味や,雑音か騒音かといった評価,音色や音楽の好みは主観的要因に大きく左右される。』(注:引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」) xiv) 引用中の『私たちが認識している「美しい顔」は、よく分析してみれば眼に入っている色の組み合わせに過ぎない』に関連する「見る時に、私たちはただ色だけを見る。眼識とは色だけなのです。それは男や女や、その他のものを見たりはしない。ただ色だけを見るのです。次の段階は心で起こる。つまりは解釈です。」についてはここを参照して下さい。加えて、引用中の『私たちが認識している「美しい顔」は、よく分析してみれば眼に入っている色の組み合わせに過ぎないし、その「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』に関連して、嗅覚の匂い受容メカニズムとしての「匂い物質は,(中略)嗅覚受容体と結合する」については、次の資料を参照して下さい。 「嗅覚の匂い受容メカニズム」の「2.嗅覚受容体の情報伝達メカニズム」項 (すなわち、「匂いは嗅覚受容体と結合した匂い物質によって形成されているものに過ぎない」[イメージを作るな]と言えるかもしれません) 加えて、匂いに関連するプルースト現象及び嗅覚の学習記憶については、共にここを参照して下さい。さらに、味わいと脳のかかわりにおける、におい分子が脳で空間的なパターンとして「においイメージ」に変換されることについて、ゴードン・M・ジェファード著、小松淳子訳の本、「美味しさの脳科学 NEUROGASTRONOMY においが味わいを決めている」(2014年発行)の「解説」における記述の一部(P351)を次に引用(『 』内)します。 『「第Ⅱ部 においを描く」では、著者の専門分野である、においと味わい、脳とのかかわりが解き明かされる。具体的には、食物のにおい分子→鼻のにおい(嗅覚)受容体→嗅球(糸球体モジュール)→嗅皮質→眼窩前頭皮質という経路である。このプロセスで注目すべきは、におい分子が脳で空間パターンとして「においのイメージ」に変換される仕組みにある。さまざまなにおい分子の組み合わせが、まるで点描画の顔のように、パターンとして知覚される。但し、三原色・一次元の光の波長で表される色とは異なり、においは何百種類の受容体・多次元ときわめて複雑だ。』(注:a) この引用部の著者は、この本の出版プロデューサーの真柴隆弘です。加えてこの引用に関連するここを参照して下さい。 b) 引用中の「一次元の光の波長」の補足説明として、同本の P89 に次に引用(『 』内)する記述があります。『色を知覚させる光の波長は一次元で変化する』 c) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」) 一方、引用中の『「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』に対比されるかもしれない、「音を苦痛な邪魔なものとして感知する」についてはここここを参照して下さい。 xv) 引用中の「無常」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「法則性: 無常・苦・無我ということ」項 xv) 引用中の『苦なる「世界」に繋縛され続ける』に関連するかもしれない、『「外的な強制」に隷属』について、プラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第三章 自由の章 の『「思いどおりに振る舞うこと」が自由ではない』における記述の一部(P177~P179)を次に引用します。

「思いどおりに振る舞うこと」が自由ではない(中略)

魚川 そうですね。ただ、この I want to というのは曲物で、「こうしたい」と言う時に、それが本当に「自分がしたい」ことなのかというのは、仏教的に考えると、なかなか判断の難しいところでしょう?
プラユキ それはたしかに。そもそも仏教は無我説だからね。
魚川 ええ。『仏教思想のゼロポイント』では、「カレーが食べたい」とか「あの異性とデートをしたい」とか、そんな例を出しましたけれども、何であれ私たちの心に浮かぶ「こうしたい」という欲望は、少し時間をとって内観してみればわかるように、「私がコントロールして浮かばせた」ものではなくで、「勝手に浮かんでくる」ものであるわけです。そして、それが「勝手に浮かんでくる」からには、それなりの原因や条件(因縁)があるというのが仏教的な考え方ですね。
したがって、私たちが「自分のもの」だと考えて、そのままナイーヴに従ってしまいがちな思いや欲望というのも、それが浮かんでくる背景には、「自分のもの」ではない原因や条件が存在している。例えば「あのバッグが欲しい」とか、「この人と付き合いたい」などと考えた時に、その背景には、テレビなどのメディアによる情報や、過去の家族関係からくるトラウマなどが、原因や条件として、作用していたりするわけです。そうなると、「私がこうしたい」ということの実相は、本当に「内的な欲求」であるのか、あるいはむしろ一種の「外的な強制」に当たるのかは、区別がつけにくくなってくる。
プラユキ 何が I have to であって、何が I want to であるかということは、実は見極めにくいということだよね。そこで大切になるのが、やはり気づきの視点であると思います。
先ほどの仏教的な自由の理解に、「内的な思考パターン、感情や記憶、心のクセ等に支配されていないこと」と書きましたけれども、原因や条件に従って「勝手に浮かんでくる」欲望に対して、気づきの視点を持たないまま「これが私のしたいことだ!」とナイーヴに従ってしまったら、それはたしかに「外的な強制」にむしろ隷属していることになる。つまり、「煩悩(我)に支配されている」状態になるわけですね。仏教用語では、こういうのを「放逸」と言います。
しかし、そこで気づきの力が育っていれば、そこで縁によって生じた煩悩の命ずるところに、そのまま従ってしまうことはない。「あのバッグを買わないと我慢できない」とか、「あの人と付き合えなければ死んでしまう」とか、そういう強烈な衝動の支配力にストップをかけて、「これは本当に私を幸福にしてくれるのか」と、冷静に判断して選択する心のスペースができるわけです。仏教的な意味での自由というのは、基本的にこの「選択できる余地」をつくるものなんだと思いますね。

注:i) 引用中の「I have to」及び「I want to」の前提について、同章の P177 における記述の一部(P177~P179)を次に引用(【 】内)します。 【現代の女性というのは、I have to(こうすべき)と I want to(こうしたい)のあいだで、言わば引き裂かれた状態になっている。『何歳までにこれをしなきゃ』『仕事はこうだ』『結婚はこうだ』と、意識の上では様々な I have to に雁字溺めになって、そこで頑張っているのだけど、心の底にはきちんと I want to も持っていて、それが満たされないことで苦しみも抱えている。】 ii) 引用中の「因縁」については、例えば他の拙エントリのここにおける引用の「第3項 縁起について」を参照して下さい。 iii) 引用中の「放逸」に関連するかもしれない「信念システム」については、他の拙エントリのここ及びここを参照して下さい。

一方、仏教思想又はマインドフルネス以外の認知行動療法(CBT)の視点からも、セルフモニタリングによる気づきが必要なことについて、伊藤絵美著の本、「つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。」(2017年発行)の Lecture 認知行動療法とは何か の「認知行動療法(CBT)とは」及び「セルフモニタリング――CBTで最も重要なスキル」における記述の一部(P051~P059)を次に引用します。

認知行動療法(CBT)とは(中略)

CBTでは、その人の体験(特にストレス体験)を理解するための枠組みとして、上図のようなモデルを用います。まずはその人のストレス体験を、環境(ストレッサー)と個人(ストレス反応)の相互作用としてとらえます。
ストレッサーとストレス反応は循環的に影響しあっています。さらにその人の反応を、〈認知〉〈気分・感情〉〈身体反応〉〈行動〉の四つに分けて、それらの循環的な相互作用もとらえていきます。
〈認知〉とは頭のなかの思考やイメージのことを言います。
〈気分・感情〉とは、たとえば「うれしい」「悲しい」「さびしい」「むかつく」「イライラする」といった心のなかの気持ちのことです。
〈身体反応〉は身体に生じる生理的な反応のことです。
〈行動〉は、外から見てわかるその人の動作や振る舞いのことです。
ごく簡単な例を挙げます。

▼環境(ストレッサー)

道を歩いていたら、見知らぬ男性がすれ違いざまに「チッ!」と舌打ちをした。

▼個人(ストレス反応:Aさん)

〈認知〉…………「え? 何、この人?」「私、この人に何かした?」「こ、こわい!」
〈気分・感情〉…びっくり、不安、こわい
〈身体反応〉……胸がドキッとする、手のひらに汗をかく
〈行動〉…………歩くスピードを上げ、男性から離れる。男性を見ないようにする

私たちは一人ひとり異なる存在です。同じ環境(ストレッサー)に対して、皆が同じ反応をするわけではありません。同じ舌打ちの例で考えてみましょう。

▼環境(ストレッサー)

道を歩いていたら、見知らぬ男性がすれ違いざまに「チッ!」と舌打ちをした。

▼個人(ストレス反応:Bさん)

〈認知〉…………「なんだこいつ!」「俺に喧嘩を売ってんのか!」「ふざけんなよ!」
〈気分・感情〉…むかつく、カッとなる、挑発的な気分
〈身体反応〉……頭にカッと血がのぼる、こめかみがピクンとする、全身に力が入る
〈行動〉…………男性に近づき、「何だよ、てめえ!」と怒鳴りつける

このように同じ環境でも、人によって(あるいは同じ人でもその時々の気分や体調によって)、反応は大きく異なります。これがCBTで用いる基本モデルです。(中略)

セルフモニタリング――CBTでもっとも重要なスキル

CBTで最初に取り組むのは、「セルフモニタリング」の練習です。セルフモニタリングとは、CBTの基本モデルに沿って自分の体験(特にストレス体験)を自己観察することです。(中略)

◎CBTに不可欠

このようにストレス体験にその場で気づき、それをCBTのモデルに沿って観察し、具体的に細かく気づいていくというセルフモニタリングの練習を、CBTの初期段階ではクライアントに集中的に取り組んでもらいます。そしてその後もずっとセルフモニタリングを続けてもらいます。
CBTを進めていくうえでセルフモニタリングのスキルは不可欠です。セルフモニタリングによって「自分は今どうなっちゃっているのかな」という気づさを得ることができます。ストレス体験において「自分は今どうなっているのか」という気づきがあって初めて、私たちはその体験を乗り越えたり自分を助けたりすることができるのです。

◎内的な反応には気づきにくい

CBTの基本モデルのなかでも、モニタリングしやすい要素としにくい要素があります。たいていの人は、ストレッサー(「すれ違いざまに男性に舌打ちされた」)には容易に気づくことができます。ストレッサーは自分の外側のことだから気づきやすいのです。また〈行動〉も観察することが容易です。自分が舌打ちする男性から遠ざかったのか、それとも近づいて怒鳴りつけたのか、酩酊や解離でもしていなければ自分で気がつくことができますよね。行動もストレッサーと同様に、外側に現れる現象だからキャッチしやすいです。
一方、〈認知(自動思考)〉、〈気分・感情〉〈身体反応〉の三つははっきりと外側に現れるのではなく、頭のなか、心のなか、身体のなかに現れる、いわゆる「内的な反応」です。この三つについては比較的速やかにモニタリングができるようになる人もいれば、時間をかけて練習を重ねに重ねてようやくモニタリングできるようになる人もいます。
そしてCBTの進行にセルフモニタリングが不可欠なのであれば、内的な反応への気づきがどんなに苦手でも、そしてどんなに時間がかかってでも、それができるようになる必要が絶対にあります。上記のとおりセルフモニタリングによる気づきがあって初めて、ストレス体験の乗り越え方は見えてくるものですし、本書で後に紹介するマインドフルネス(七五頁参照)も、自らの体験に対する気づきが不可欠だからです。(後略)

注:i) 引用中の「上図」(認知行動療法の基本モデル)の引用は省略しますが、類似の図については例えばWEBページ「認知療法・認知行動療法とは」の図1 及び次の資料を参照して下さい。 「認知行動療法の紹介」の図1 ii) 引用中の「ストレッサー」、「ストレス反応」については、共に次のWEBページを参照して下さい。 「ストレス - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「自動思考」については、例えば拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「マインドフルネス」については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。ちなみに、引用中の「七五頁参照」に対する七五頁の引用は省略します。 v) 標記「セルフモニタリング」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「入門!認知行動療法 生活をふり返ろう」 vi) 引用中の「セルフモニタリングのスキル」を応用した例としての、「二次感情」である怒りを伴う状態でのコミュニケーションについて、中島美鈴著の本、『「認知行動療法」のプロフェッショナルが教える いちいち“他人”に振り回されない心のつくり方』(2016年発行)の 4章 こうして人づきあいが「苦」から「ラク」に変わっていく の「期待しすぎるから腹が立つ!?」における記述の一部(P143~P145)を次に引用します。

(前略)こたえのカギは怒る感情の前にある

また、怒りを理解するうえで、知っておくと役立つことがあります。
怒りは、数ある感情の中でも「二次感情」といわれます。二次感情とは、出来事を経験して最初に生まれた別の感情があり、その次に二次的に生まれた感情という意味です。
たとえば、思春期の子どもの帰宅が遅くなってしまったときの母親の心境はこんな感じです。子どもが遅い時間に帰宅すると母親は怒ります。
「何時だと思っているの! 早く帰ってきなさい」
こうして沸き起こる怒りの、もう一歩手前にはどんな感情があったと思いますか。
つまり、怒りを感じる前に、どんな感情を持っていたかということです。母親はきっと、
「あの子、こんな時間までどこで何をしているのかしら。変な犯罪に巻き込まれたのではないかしら。受験生なのに、こんなに毎晩遊び歩いて、将来はどうなるのかしら」
こう心配して、不安な気持ちになっていたのです。我が子の身が安全か、将来のことも考えていないように見える、遊んでばかりの子どもの将来に不安を持ったのです。
この場合、先に「不安」という一次感情があり、その不安が高じて、自分が受け入れやすい、もしくは表現しやすい形になったのが「怒り」でした。
こうして、怒りの一歩手前にどんな感情を持っていたかを明確にすると、怒りの原因がわかるだけでなく、本当に相手に伝えたい感情に気づくことができるのです。

もうすこし他の例も挙げましょう。
たとえば、彼女が他の男性と仲良くしていて、浮気しているのではないかとイライラしている男性の場合を思い浮かべてください。この場合、先に「彼女が浮気しているのではないか」という「不安」や「嫉妬」が一次感情です。しかしこの「不安」や「嫉妬」は自分が弱いとかみじめとか劣っているとか、そんな印象を持つ感情で、到底自分では受け入れがたい感情なのです。特に、プライドの高い方や、「強くあらねば」という信念の持ち主ならば、
「オレは、嫉妬なんかしていない!」             .
と躍起になることでしょう。それで、そんな一次感情を隠すように、怒りを爆発させるのです。
「他の男といちゃついてオレを怒らせる気か!」
こうなると、大きな喧嘩になるとか、最悪の場合には暴力に発展するかもしれません。そうではなくで、一次感情を素直に伝えることができていたらどうでしょうか。
「他の男性と仲良くしているのを見て、つらかっだ。浮気してるんじゃないかと不安だった」
先ほどのやりとりよりは、もう少し穏やかな話し合いができそうです。
怒りは、実にやっかいな感情ですが、「怒り」という形をとらなければならないほど認めがたかった、背景の一次感情に目を向けてみると、自己分析にも役立ちますし、コミュニケーションが円滑になっていきますよ。

注:引用中の「信念」については、例えば拙エントリのここを参照して下さい。

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【追記5】
におい物質の嗅覚閾値、日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること及び低濃度と高濃度でにおいの質の異なるにおい物質(分子)があること等について以下に記述します。

(1)におい物質の嗅覚閾値濃度の例
岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の表2(P25~P26)から標記例の抜粋を次にリストアップします。ちなみに、この表の元となった文献を次に示します。 「永田好男、竹内教文:三点比較式臭袋法による臭気物質の閾値測定、大気汚染学会講演要旨集、p.528, (1988)」 加えて、嗅覚閾値のリストの例は次のWEBページに示します。 「技術資料 嗅覚閾値

・ホルムアルデヒド:0.5ppm(500ppb)
・トルエン:0.33ppm(330ppb)
・リモネン:0.038ppm(38ppb)
・メチルメルカプタン:0.00007ppm(70ppt)
・トリメチルアミン:0.000032ppm(32ppt)
・ジオスミン(カビ臭):0.0000065ppm(6.5ppt)
・スカトール(糞便臭):0.0000056ppm(5.6ppt)
・イソ吉草酸:0.000078ppm(78ppt)
・硫化水素:0.00041ppm(410ppt)
・塩素:0.049ppm(49ppb)
・アンモニア:1.5ppm
・ベンゼン:2.7ppm
・アセトン:42ppm
・酢酸エチル:0.87ppm(870ppb)

注:リナロールの嗅覚閾値濃度例について、塩田清二監修の本、「アロマセラピー学」(2017年発行)の 第Ⅱ章・アロマセラピーを使う の 第2節 精油の種類、芳香の嗅ぎ方、ブレンドオイルの作り方(著者は長島司) の「2.芳香の嗅ぎ方」における記述の一部(P153)を次に引用します。 『精油成分の「香り閾値」は、香りの専門家パネラーによる検定結果から、リナロールでおよそ 6ppb(parts per billion)、ゲラニオールで 40ppb と、香りを知覚できる濃度は極めて低く、極微量の分子が空間を漂っていても、香りを感じることができる。』 加えて、金木犀の香りであるα-ヨノンの嗅覚閾値濃度例について、上記引用の直下の記述の一部(P153)を次に引用します。 『金木犀の香りであるα-ヨノンはリナロールよりも30倍低い 0.2ppb であり、一般の精油に比べて金木犀は、花が咲いている場所からかなり離れていても香りを感じることができることの理由である。』

(2)香りとは何か? に対する答えについて
標記について、藤森嶺編著の本、「香りが見える理由」(2012年発行)の 1. 香りを見るためには の「1. 香りとは」における記述の一部(P8~P9)を次に引用します。

1. 香りとは
香りとは何かと問われてどのような答をすることができますか?という問いかけに対して、以下のような答えが考えられる。
①空気中に漂っている物質であるから揮発性の物質(分子)の筈である。
②揮発性というのはその分子が軽いということであるから、分子量は小さい。実際には分子量300以下、炭素数で見れば15個以下程度である。
③香気物質に含まれている元素は炭素、水素、酸素、窒素、硫黄であり、多くの香気物質は炭素、水素、酸素から構成されている。炭素結合では当然単結合、二重結合、三重結合が存在する。官能基は水酸基、カルボニル基など多種類である。鏡像異性体は匂いが異なることが知られている。
④食品に含まれている香料の量は微量であり、10ppm以下であることが多い。
⑤花の精油、コーヒー、茶などどのような天然の香りも非常に多くの香気成分(500~1000種類)が混合して一つの香気になったものである。
⑥香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである。(後略)

注:i) この引用部の著者は藤森嶺です。 ii) 引用中の「香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである」に関連する、 a) 香気物質の匂いの閾値例についてはここを参照して下さい。 b) 「人間の嗅覚は大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残していること」についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の「香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである」に関連する、「日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること」についてはここを参照して下さい。

(3)におい物質の嗅覚閾値濃度の視点からの、人間の嗅覚は大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残していること
標記について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第1章 においとは何か の「1-6 化学物質がにおい始める濃度(現代人にも残っている大昔の嗅力」における記述の一部(P23~P24)を次に引用します。

(前略)表2に記載した永田氏の嗅覚閾値のデータをみると、化合物の種類により嗅覚閾値の値が高かったり低かったり、大きく異なっていることがわかる。その中で、嗅覚閾値が比較的低濃度の物質は、薄いにおいでも人間が感じるにおいであり、人間にとって鋭敏なにおい化合物といえる。
表のデータを見ると、非常に面白いことがわかる。表中の嗅覚閾値が低濃度の化合物は、どれも大昔に人間が生きていくために、必要なにおいであったといえる。
例えば、表2の中の嗅覚閾値が低濃度の物質は、アルデヒド類、メルカプタン類、アミン類、ジオスミン、スカトールなどだが、アルデヒド類はいわば焦げ臭の代表といわれるにおいであり、大昔の人びとにとってほ山火事が発生したとき、このにおいに早く気が付き、逃げなくてはならなかったのである。また、メルカプタン類は腐敗した食べ物から発散するにおいであり、消費期限が、記載されていなかった大昔には、食べ物が腐っているかどうかは自分の鼻でくんくん嗅ぎ分けなくてはならなかった。アミン類は魚の腐敗臭であり、ジオスミンほカビ臭である。スカトールは糞便臭であり、狩猟の際には人間はこのにおいを嗅ぎながら、動物を追いかけたのである。このように現代の人間においても、人間が生きていくために必要な嗅覚の能力の余韻を残しているとみることもできる。
これに対し、表2の中のベンゼン(嗅覚閾値 2.7ppm)トルエン(嗅覚閾値 0.33ppm)、アセトン(嗅覚閾値 42ppm)などは比較的嗅覚閾値が高い化学物質である。言い換えれば、人間にとっては濃度が高くなければ感じない物質であり、感度が低い物質である。大昔の人間は、これらの化合物に感度が低くても、生きていくことには支障が少なかったのである。このように、人間の嗅覚は、大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残しているといえる。(後略)

注:引用中の「表2」についてはここを参照して下さい。

(4)日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること
標記について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第1章 においとは何か の「1-1 においは低濃度多成分の混合体」における記述の一部(P14~P15)を次に引用します。

(前略)焼き肉のにおいでも、タバコのにおいでも、花のかおりでも、私たちが日常生活で嗅いでいるにおいは、これらの化合物の混合物といえる。単一の化合物で構成されるにおいは、私たちの身の回りではほとんどない。学校の理科の教室で嗅ぐ試薬のにおいか、工場で使う薬品臭ぐらいのものかもしれない。
このように、においとは多成分の混合体であることが、においの第一の特徴である。

注:i) 標記「日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること」に関連する「花の精油、コーヒー、茶などどのような天然の香りも非常に多くの香気成分(500~1000種類)が混合して一つの香気になったものである」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「これらの化合物」に相当する、「ニオイのある化学種が約40万種以上ある」ことについてはここを参照して下さい。加えて、同本の P14 にも、次に引用(『 』内)する同様な記述があります。 『約40万種類の化合物はにおいを持っているといわれている』

(5)低濃度と高濃度で匂いの質の異なる香気物質(分子)があること
標記について、平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第7章 匂いを測る の「7-1 匂い物質の量と匂いの強さ」における記述の一部(P137~P138)を次に引用します。

(前略)私達は複数の嗅覚受容体を持っていますが、それぞれに対して特定の匂い分子が結合する親和性は異なります。すなわち、特定の匂い分子と受容体が相互作用し、その匂いが認識されるためには、最小の濃度(閾値)以上の匂い分子が必要になります。匂い分子の濃度が低い状態では、結合できる受容体の種類が少なくなり、濃度が高くなると結合できる受容体の種類が多くなります。その結果、低濃度では感じなかった質の匂いを高濃度では感じることになります。このように低濃度と高濃度で匂いの質の異なる分子はいくつも知られています(表7-1)。最も有名なものはインドールです。インドールは濃度が高いと糞臭のような嫌な臭いですが、薄くすると一変して白い花を思わせる甘い香りになります。実はジャスミンの花の中にはインドールが含まれ、ジャスミンの個性を出す上で重要な役割を果たしています。

注:引用中の「表7-1」を形式を変えて次に引用します。

表7-1 濃度によって香りの質が大きく変化する分子

ジメチルサルファイド 濃い:磯の香り 薄い:磯の香りを残しながら、ストロベリージャム、コンデンス・ミルクのような香り、野菜を料理している匂い
インドール 濃い:不快な糞臭 薄い:ジャスミンやクチナシの花のような香り
フルフリルメルカプタン 濃い:悪臭 薄い:ナッツを焦がした匂い、コーヒー豆を炒った時の匂い
デカナール 濃い:油臭い悪臭 薄い:オレンジの果実の匂い
アルデヒド C-11 濃い:脂肪臭 薄い:バラの花のような香り
α-イオノン 濃い:木の匂い 薄い:スミレの花のような香り
スカトール 濃い:糞臭 薄い:清涼感のある香り
γ-ノナラクトン 濃い:ココナツの匂い 薄い:フルーティ、フローラルそしてムスクのような香り

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【追記6】
悪臭苦情等について本の引用等により以下に紹介します。ちなみに、悪臭苦情の統計データについては次のWEBページを参照して下さい。 「悪臭防止法施行状況調査(悪臭苦情の統計データ)

(1)コーヒーのかおりに対する悪臭苦情について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第3章 悪臭公害の現状 の「3-3 コーヒーのかおりでも悪臭苦情」における記述の一部(P49)を次に引用します。

私たちが生活している中で、一見快いかおりと思われている、コーヒーの焙煎のかおり、ほうじ茶を煎るかおり、パンを焼く香ばしいかおりなども悪臭苦情の対象になっている。私はコーヒーのかおりもほうじ茶のかおりも大好きで、お店の前を歩くのは楽しいと思っているが、それでも悪臭苦情が発生する。ときどき嗅ぐときは快くても、毎日かがされると、不快になることもあるらしい。図14にコーヒー製造工場に対する悪臭苦情件数の経年変化を示した。毎年10件以上の思臭苦情が寄せられる。(後略)

注:引用中の「図14」の引用は省略しますが、1996年~2008年において、10~27件のコーヒー製造工場に対する悪臭苦情があります。

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【追記7】
聴覚過敏及び/又は雑音過敏等について論文要旨等により以下に紹介します。

(1)雑音過敏についての論文要旨「Noise sensitivity, rather than noise level, predicts the non-auditory effects of noise in community samples: a population-based survey.[拙訳]雑音レベルというよりも雑音過敏性が地域サンプルにおける雑音の非聴覚的効果を予測する:集団ベースの調査」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

BACKGROUND:
Excessive noise affects human health and interferes with daily activities. Although environmental noise may not directly cause mental illness, it may accelerate and intensify the development of latent mental disorders. Noise sensitivity (NS) is considered a moderator of non-auditory noise effects. In the present study, we aimed to assess whether NS is associated with non-auditory effects.

METHODS:
We recruited a community sample of 1836 residents residing in Ulsan and Seoul, South Korea. From July to November 2015, participants were interviewed regarding their demographic characteristics, socioeconomic status, medical history, and NS. The non-auditory effects of noise were assessed using the Center of Epidemiologic Studies Depression, Insomnia Severity index, State Trait Anxiety Inventory state subscale, and Stress Response Inventory-Modified Form. Individual noise levels were recorded from noise maps. A three-model multivariate logistic regression analysis was performed to identify factors that might affect psychiatric illnesses.

RESULTS:
Participants ranged in age from 19 to 91 years (mean: 47.0 ± 16.1 years), and 37.9% (n = 696) were male. Participants with high NS were more likely to have been diagnosed with diabetes and hyperlipidemia and to use psychiatric medication. The multivariable analysis indicated that even after adjusting for noise-related variables, sociodemographic factors, medical illness, and duration of residence, subjects in the high NS group were more than 2 times more likely to experience depression and insomnia and 1.9 times more likely to have anxiety, compared with those in the low NS group. Noise exposure level was not identified as an explanatory value.

CONCLUSIONS:
NS increases the susceptibility and hence moderates there actions of individuals to noise. NS, rather than noise itself, is associated with an elevated susceptibility to non-auditory effects.


[拙訳]
背景:
過度な雑音はヒトの健康に影響を及ぼし、日々の活動を妨害する。環境雑音は精神の病気を直接引き起こさないかもしれないが、潜伏性の精神障害の発症を加速させ、激化させるかもしれない。雑音過敏(NS)は、非聴覚的な雑音効果のモデレータ(調節するもの)であると考えられている。本研究では、NS が非聴覚効果と関連しているかどうかを評価することを我々は目的とした。

方法:
我々は、韓国のソウルおよびウルサンに住む1836人の住民の地域サンプルを募集した。2015年7月から11月にかけて、参加者は、その人口統計学的特徴、社会経済的地位、病歴、及び NS に関するインタビューを受けた。雑音の非聴覚的効果は、 Center of Epidemiologic Studies Depression(CES-D 抑うつ尺度)、Insomnia Severity index(不眠重症度指標)、State Trait Anxiety Inventory(状態-特性不安尺度)の状態サブ尺度及び Stress Response Inventory(ストレス反応尺度)の変更形式を用いて評価した。雑音マップから個々の雑音レベルを記録した。 ひょっとして精神疾患に影響を及ぼすかもしれない因子を同定するために、3モデルの多変量ロジスティック回帰分析を実施した。

結果:
参加者は、19~91歳(平均:47.0±16.1歳)で、そして 37.9%(n = 696)は男性であった。高い NS を伴う参加者は、糖尿病及び高脂血症と診断され、そして向精神薬を使用する可能性がより高かった。

多変量解析では、雑音関連変数、人口統計学的要因、病気、及び在住期間を調整した後でさえ、高 NS グループにおける被験者はうつ病及び不眠症を経験する可能性が 2倍以上であり、そして低 NS グループにおける被験者と比較して不安を有する可能性が 1.9倍であった。雑音曝露レベルは説明的な値として同定されなかった。

結論:
NS は感受性を高め、それゆえに雑音に対する個人の行動をモデレート(調節)する。 NS は雑音そのものというよりも、非聴覚的効果に対する上昇した感受性と関連する。

注:i) 引用中の「CES-D 抑うつ尺度」については、次の資料を参照して下さい。 「CES-D 抑うつ尺度の心理測定法的特性」 ii) 引用中の「不眠重症度指標」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「睡眠障害に対するプロトコールに基づく薬物治療管理」 iii) 引用中の「状態-特性不安尺度」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「自律訓練法の習得と完全主義傾向との関連」 iv) この論文に関して、岡田尊司著の本、「過敏で傷つきやすい人たち HSPの真実と克服への道」(2017年発行)の 第一章 「過敏性」とは何か の「過敏性は心身の不調にどう影響するか」における記述の一部(P28~P29)を以下に引用します。 v) ちなみに、音に対する過敏性の説明例として、同本(上記 iv) 項参照)の 第三章 過敏性のメカニズムと特性を知る の「過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ」における記述の一部(P73~P74)を以下に引用します。

過敏性は心身の不調にどう影響するか(中略)

先ほども少し紹介しましたが、韓国のソウルおよびウルサンの二つの都市の住人二千人(最終回答者数一八三六人)を対象にした大規模な調査によると、音への敏感さを0~10の11段階
で評価して6以上だと答えた人は、44%に上っていたのですが、実は、この調査結果には、その先があるのです。
6以上と答えた、過敏な傾向があると感じている人と、5以下と答えた、あまり過敏でないと感じている人を比較すると、驚くべきことが判明したのです。
過敏な傾向があると感じている人はそうでない人に比べて、糖尿病の罹患率が1.54倍、脂質異常症が1.62倍、向精神薬を服用したことがある人の割合が1.78倍、うつ病と診断されている人の割合が2.24倍にも上ったのです。
また、強いストレスを感じていると判定される割合は1.89倍、不眠に悩まされている人は2.05倍、不安に苦しんでいると答えた人は1.93倍でした。これらの結果はすべて、統計学的にも有意差が認められたのです。
さらに、音に過敏な傾向が強いスコア8以上の人では、平均レベルの人に比べて、うつ病のリスクが2.64倍、不安が2.41倍、ストレスが2.61倍であるという結果になりました。(後略)

注:i) 同本のタイトルにおける「HSP」は Highly Sensitive Person(敏感すぎる人)の略語です。

過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ(中略)

音に対して過敏な人は、そうでない人よりも、音に対して過剰なまでに注意を払い、音を苦痛な邪魔なものとして感知する傾向があります。しかも、音に敏感な人は、騒音や雑音に馴れるということが難しく、逆にどんどん過敏になっていきます。音を意識し始めると、騒音とは言えないレベルのかすかな音までも苦痛の種と感じてしまうのです。
ある女性の方が、こんな体験を語ってくれました。その方も長年、過敏な聴覚に苦しんでいるのですが、あるとき、旅行をしてホテルに滞在したのです。
ところが、どこからともなく聞こえてくる音が耳について眠れません。たまりかねて、ホテルの従業員に連絡したのですが、駆けつけてきた従業員は、部屋の中に立ち尽くしたまま、首をかしげ、こう言ったというのです。「お客様、私には何の音も聞こえませんが」と。
確かに、その音は、とても低い音域のものでした。長い時間耳を澄まして、従業員の方は、やっと、「何か振動のようなものが感じられます」と言ってくれたそうです。
この女性は音楽方面で活躍されていて、その意味で聴覚過敏な傾向を生かしているとも言えますが、一般の人には聞こえないような音まで聞こえてしまうのですから、苦労も絶えないのです。(後略)

注:i) 引用中の「音に対して過敏」に関連する「聴覚過敏」の論文例についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「敏感」及び「馴れる」に関連する『「感作」と「馴化」の対比』についてはここを参照して下さい。ちなみに、馴化についてはリンク集を参照して下さい。 iii) 引用中の「音を苦痛な邪魔なものとして感知する」に対比されるかもしれない、『「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』及びこれに関連するに認知心理学の視点からの聴覚の知覚については、共にここここを参照して下さい。 iv) 引用中の「音に対して過敏な人」に関連する、「音に対して過敏な傾向をもつ人におけるストレス全般に過敏な傾向」について、同章(ここの v) 項参照)の「過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ」における記述の一部(P74)を以下に引用(『 』内)します。 『先にも触れたように、音に過敏な傾向をもつ人では、精神疾患だけではなく身体疾患の罹患リスクも上昇してしまいます。そのことは、音に過敏な人は交感神経が興奮しやすく、ストレスホルモン(副腎皮質ホルモン)であるコーチゾルの分泌が亢進していることとも関係し、ストレス全般に過敏な傾向を表していると言えるでしょう。』(注: a) 引用中の「先にも触れた」についてはここを参照して下さい。 b) 引用中の「交感神経が興奮しやすく」に関連する交感神経系が亢進する時の経路については他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) 引用中の「コーチゾル」(コルチゾール)については次のWEBページを参照して下さい。 「ストレス - 脳科学辞典」の「視床下部-下垂体-副腎系」項)

(2)MCS と雑音過敏及び聴覚過敏との関連についての論文要旨「Noise sensitivity and hyperacusis in patients affected by multiple chemical sensitivity.[拙訳]多種化学物質過敏状態(MCS)により影響を受けた患者における雑音過敏及び聴覚過敏」を次に引用します。

PURPOSE:
The aim of this study was to investigate the presence of noise sensitivity and hyperacusis in patients suffering from multiple chemical sensitivity (MCS), a chronic condition characterized by several symptoms following low-level chemical exposure. Moreover, distortion product otoacoustic emissions (DPOAE) were performed to further study cochlear function.

METHODS:
A questionnaire-based survey was performed. Eighteen MCS patients, selected with strict diagnostic criteria, and 20 healthy age- and gender-matched subjects filled Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire (WNS) and Khalfa's Hyperacusis Questionnaire (HQ). Results were compared with scores from the quick Environmental Exposure Sensitivity Index (qEESI), a routinarily used questionnaire to screen MCS symptoms, and with DPOAE values. An analysis of variance (ANOVA) was performed between MCS and control subjects scores; moreover, Spearman's rank correlation test was performed between questionnaire results.

RESULTS:
ANOVA testing on DPOAE values showed any significant difference between groups, while WNS, HQ and qEESI scores were significantly higher in MCS group compared to controls. Correlation analysis showed strong positive correlation between WNS, HQ and qEESI in MCS subjects.

CONCLUSIONS:
For the first time, auditory-related perceptual disorders were studied in MCS. A strong association between WNS, HQ results and MCS symptoms severity has been highlighted. These findings suggest that decreased sound tolerance and noise sensitivity could be considered as possible new aspects of this syndrome, contributing to its peculiar phenotype. Furthermore, as DPOAE values did not differ from healthy subjects, present findings might suggest a 'central' source for such disorders in this group of patients.


[拙訳]
目的:
この研究の目的は、低レベルの化学物質曝露後のいくつかの症状により特徴づけられる慢性疾患である、多種化学物質過敏状態(MCS)を患う患者における雑音過敏及び聴覚過敏の存在を調査することであった。それに加えて、蝸牛機能をさらに研究するために、歪成分耳音響放射(DPOAE)を実施した。

方法:
アンケートに基づく調査を実施した。厳格な診断基準で選択された18人の MCS 患者、及び20人の年齢と性別がマッチする健康な被験者が、Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire (WNS)及び Khalfa's Hyperacusis Questionnaire(HQ)(訳注:両方アンケートです)に記入した。結果は、MCS 症状をスクリーニングするために通常使用される問診表 quick Environmental Exposure Sensitivity Index(qEESI)と DPOAE 値とのスコアが比較された。分散分析(ANOVA)を、MCS と対照被験者とのスコア間で実施した。さらに、アンケート結果間でスピアマンの順位相関試験を実施した。

結果:
DPOAE 値に関する ANOVA 試験は、グループ間に有意差を示したが、WNS、HQ 及び qEESI スコアは、対照グループと比較した MCS グループにおいて有意に高かった。MCS 被験者における WNS、HQ 及び qEESI 間に強い正の相関を相関分析は示した。

結論:
初めて聴覚関連の知覚障害が MCS において研究された。WNS、HQ の結果と MCS 症状の重症度との間に強い関連性が強調されている。これらの知見は、低下した耐音性及び雑音感受性が、この症候群の潜在的な新しい側面として考えることができ、その特有な表現型に寄与することを示唆している。さらに、DPOAE 値が健康な被験者と異ならないので、本知見は、このグループの患者におけるこのような障害の「中枢性」の原因をひょっとして示唆するかもしれない。

注:i) 引用中の「Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire」については、次の資料を参照して下さい。 「新幹線騒音・振動による主観的健康の低下」 加えて、引用中の「Khalfa's Hyperacusis Questionnaire」については、次の資料を参照して下さい。 「一般大学生における聴覚過敏の実態とリスク要因」 ii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

(3)聴覚過敏について
①標記に関する論文要旨「Characteristics of hyperacusis in the general population.[拙訳]一般集団における聴覚過敏の特徴」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

There is a need for better understanding of various characteristics in hyperacusis in the general population. The objectives of the present study were to investigate individuals in the general population with hyperacusis regarding demographics, lifestyle, perceived general health and hearing ability, hyperacusis-specific characteristics and behavior, and comorbidity. Using data from a large-scale population-based questionnaire study, we investigated individuals with physician-diagnosed (n = 66) and self-reported (n = 313) hyperacusis in comparison to individuals without hyperacusis (n = 2995). High age, female sex, and high education were associated with hyperacusis, and that trying to avoid sound sources, being able to affect the sound environment, and having sought medical attention were common reactions and behaviors. Posttraumatic stress disorder, chronic fatigue syndrome, generalized anxiety disorder, depression, exhaustion, fibromyalgia, irritable bowel syndrome, migraine, hearing impairment, tinnitus, and back/joint/muscle disorders were comorbid with hyperacusis. The results provide ground for future study of these characteristic features being risk factors for development of hyperacusis and/or consequences of hyperacusis.


[拙訳]
一般集団での聴覚過敏における様々な特徴をより良く理解する必要がある。本研究の目的は、人口統計、生活習慣、知覚された一般的な健康や聴力、聴覚過敏に特異的な特徴及び行動、そして合併症に関する聴覚過敏を伴う一般集団における個々人の調査であった。大規模な集団ベースのアンケート調査からのデータを用いて、聴覚過敏のない人(n = 2995)と比較した、医師診断(n = 66)及び自己報告(n = 313)の聴覚過敏を伴う個々人を調査した。高齢、性別が女性、及び高等教育は聴覚過敏と関連し、そして音源を回避しようとし、音の環境に影響を及ぼすことができ、そして医療を求めていることは共通の反応と行動であった。心的外傷後ストレス障害、慢性疲労症候群、全般不安症、うつ病、疲労困憊、線維筋痛症、過敏性腸症候群、片頭痛、聴覚障害、耳鳴り、そして背部/関節/筋肉障害には、聴覚過敏が合併していた。聴覚過敏の発症のリスク要因及び/又は聴覚過敏の帰結であるこれらの特徴の主要点の将来研究に対する根拠をこれらの結果は与える。

注:i) 引用中の「n = 2995」、「n = 66」及び「n = 313」は共に人数を示します。 ii) この全文の「Introduction」項における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『Hyperacusis has also shown comorbidity with other medically unexplained symptoms, including fibromyalgia,[23,24,25] chronic fatigue syndrome (CFS),[24,26] as well as other environmental intolerances such as multiple chemical sensitivity, nonspecific building-related symptoms, and symptoms attributed to electromagnetic fields.[27,28,29,30][拙訳]聴覚過敏は、線維筋痛症、慢性疲労症候群(CFS)はもちろん多種化学物質過敏状態(MCS)、非特異的なシックビルディング関連症状、そして電磁界に帰する症状等の他の環境不耐性を含む他の医学的に説明できない症状との合併も示している。』(注:i) 拙訳では文献番号の記述を省略しました。文献番号の詳細はこの論文を参照して下さい。 ii) 引用中の「医学的に説明できない症状」については、次のWEBページを参照して下さい。 『「医学的に説明できない症状」って?』) iii) 引用中の「心的外傷後ストレス障害については、他の拙エントリのリンク集を(用語:「PTSD」)参照して下さい。 iv) 引用中の「慢性疲労症候群」については、例えばWEBページを参照して下さい。 v) 引用中の「全般不安症」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vi) 引用中の「うつ病」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vii) 引用中の「線維筋痛症」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 viii) 引用中の「過敏性腸症候群」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「ここ一番で襲ってくる腹痛 過敏性腸症候群の対処法」 ix) 引用中の「片頭痛」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「Ⅱ 片頭痛」 x) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 xi) 引用中の「音の環境に影響を及ぼすこと」の例について、この全文の「Figure 1」において、次に引用する(『 』内)記述があります。 『by closing a door to a noisy environment[拙訳]雑音環境に対しドアを閉めることによる』

②標記における治療法に関する論文要旨「Tinnitus and hyperacusis therapy in a UK National Health Service audiology department: Patients' evaluations of the effectiveness of treatments.[拙訳]英国の国民健康保険サービス聴覚学部門における耳鳴り及び聴覚過敏の治療法:治療法の効果の患者の評価」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

OBJECTIVE:
To assess patients' judgements of the effectiveness of the tinnitus and hyperacusis therapies offered in a specialist UK National Health Service audiology department.

DESIGN:
Cross-sectional service evaluation questionnaire survey. Patients were asked to rank the effectiveness of the treatment they received on a scale from 1 to 5 (1 = no effect, 5 = very effective).

STUDY SAMPLE:
The questionnaire was sent to all patients who received treatment between January and March 2014 (n = 200) and 92 questionnaires were returned.

RESULTS:
The mean score was greatest for counselling (Mean = 4.7, SD = 0.6), followed by education (Mean = 4.5, SD = 0.8), cognitive behavioural therapy - CBT (Mean = 4.4, SD = 0.7), and hearing tests (Mean = 4.4, SD = 0.9). Only 6% of responders rated counselling as 3 or below. In contrast, bedside sound generators, hearing aids, and wideband noise generators were rated as 3 or below by 25%, 36%, and 47% of participants, respectively.

CONCLUSION:
The most effective components of the tinnitus and hyperacusis therapy interventions were judged by the patients to be counselling, education, and CBT.


[拙訳]
目的:
専門家の英国の国民健康保険サービス聴覚学部門において提供されている耳鳴り及び聴覚過敏の治療法の効果の患者の判断を評価する。

設計:
横断的サービス評価アンケート調査。患者は、受けた治療の効果を 1~5 のスケールでランク付けするよう求められた(1 = 効果なし、5 = 非常に効果的)。

学習サンプル:
このアンケートは、2014年1月から3月にかけて治療を受けたすべての患者(n = 200)に送付され、92のアンケートが返送された。

結果:
平均スコアが最も高かったのはカウンセリング(平均 = 4.5、標準偏差 = 0.6)であり、教育(平均 = 4.5、標準偏差 = 0.8)、認知行動療法[CBT](平均= 4.4、標準偏差 = 0.7)、そして聴力検査(平均= 4.4、標準偏差 = 0.9)と続いた。回答者の 6%のみがカウンセリングを 3以下として評価した。対照的に、ベッドサイドサウンドジェネレータ、補聴器、及び広帯域のノイズジェネレータは、それぞれ参加者の25%、36%及び47%が 3以下として評価した。

結論:
患者により判断された耳鳴り及び聴覚過敏の治療の介入の最も有効な要素はカウンセリング、教育及び CBT であった。

注:i) 引用中の「n = 200」は人数を示します。 ii) 引用中の「サウンドジェネレータ」及び「ノイズジェネレータ」に関連するかもしれない「TRT(tinnitus retraining therapy;耳鳴り順応療法)療法」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「TRT(tinnitus retraining therapy)療法

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***** 臨時の記事 *****
スペースの関係上、ミニ情報においては書ききれない記事等をあえてここに記述します。掲載期間は数日~数カ月を予定していますが、状況に応じてさらに延びるかもしれません。

(1)右眼窩前頭皮質の損傷により嗅覚を失った男について(2018-01-28 に公開)
標記について、ゴードン・M・ジェファード著、小松淳子訳の本、「美味しさの脳科学 NEUROGASTRONOMY においが味わいを決めている」(2014年発行)の 第25章 意識・無意識とのかかわり の「嗅覚を失った男」における記述の一部(P304~306)を次に引用します。

嗅覚を失った男

ソベルらがヒト被験者において得たこの所見は、ノースウェスタン大学のジェイ・ゴットフリートが二〇一〇年に報告した珍しい症例によって裏付けられた。患者の名前はSとしておこう。年齢は三六歳。階段から転げ落ちて右頭部を強打し、病院に運ばれた。頭を打ったせいで右前頭葉に出血があったものの、順調に回復した。ただひとつ、問題が残った。嗅覚を完全に失ってしまったのだ。「無嗅覚症」と呼ばれる嗅覚障害である。fMRIで検査したところ、損傷を受けたのは右眼窩前頭皮質だけで、他の嗅覚系の構造物は無傷だった。この患者の話を聞きつけたゴットフリートは、においの意識的知覚に右眼窩前頭皮質がどのような役割を担っているか調べられる、まれに見る機会だと気づいた。そこでSを研究室に呼んで検査したのである。
心理アセスメントでSの心理状態は正常と判定されたため、ゴットフリートらは「においスティック」を使う標準検査法で(オルソネイザル経路の)嗅知覚を調べた。においスティックというのは、においのビーズでコーティングした小さなへラのことだ。検査の結果、Sは左右どちらの鼻孔でも、高濃度のにおいでさえ、いっさい嗅ぎ取れないと分かった。損傷を受けたのは右眼窩前頭皮質だけであったため、この検査で、新皮質レベルでの意識的なにおい情報の処理は右眼窩前頭皮質がほぼ一手に引き受けているという考えが裏付けられたわけである。こうした「側性化」(脳の特定の機能が左右いずれかの脳に偏在している状態)は、感覚系では異例のことだ。
ところが、無臭の対照試料との比較検査では、S自身はにおいを意識していなかったにもかかわらず、左側(損傷していない側)に、におい検知能力があるという結果になった。ならば、右側の嗅覚路は機能していなくても、左側は正常ということではないか。この結果と重なり合うように、脳スキャンでは、左側の嗅覚路、つまり嗅皮質および眼窩前頭皮質と、においの高次処理にかかわっているとされる扁桃体の賦活が認められた。しかも、右側嗅覚路も、右眼窩前頭皮質にこそ活動は見られなかったものの、嗅皮質のレベルまでは賦活すると分かった。仕上げに行ったのが、皮膚電気反射を調べる、いわゆる「うそ発見器」による検査である。結果、左右いずれの鼻孔に刺激を与えた場合にも、情動反応が認められた。これもまた、意識して知覚していなくとも左側が応答している証拠である。
対照実験として、脳に損傷がなく、左右の鼻孔でにおいを正常に感知できる健常被験者の脳スキャンを行ったところ、右側嗅覚路にいっそう活発な活動が見られた。におい処理は右脳に側性化する傾向にあるという見方の裏付けが取れたわけだ。ご存じのとおり、右脳は論理的思考よりも芸術的創造性に優れていると言われているのだから、これは興味深い。右脳こそ、におい知覚の精緻化にふさわしい存在なのではないか。ゴットフリートらは次のように結論している。

患者Sの左側鼻孔ににおい刺激を与えるとしかるべき末梢および中枢の応答が誘発された。この所見は、左側嗅覚系はほぼ温存されていて、においの知覚・情動的内容の処理を支えられる状態にあるものの、そのにおいに意識的な気づきや感情を持たせることはできないことを示唆するものである。本研究で得られたデータを総合的に捉えるならば、上流へ向かう嗅覚メッセージの意識的知覚への変換を円滑に進めるうえで右OFC(眼窩前頭皮質)が中心的な役割を担っていることを裏付ける初めての証拠らしきものが得られたと言えよう。(後略)

注: i) 引用中の「オルソネイザル経路」(Orthonasal 経路)については、次の資料を参照して下さい。 「味とにおいの奏でる食のハーモニー(味わいの脳科学)」の図1 ii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用

(2)自己愛に関する問題について(2018-02-05 に公開)
標記に関連する資料又はWEBページの例を以下に紹介します。

・「Kohutの自己愛性パーソナリティ障害論の批判的検討
・「青年期の自己愛的脆弱性に関する研究の動向と展望
・「自己愛に関する研究の概観
・「【3574】華美で、仕事もできる人にみえていた女性」、「【3642】嘘つきで無責任な教授」、「【3656】彼氏が過呼吸を起こし、口調が幼くなり、その間の記憶をなくす」(注:ホームページはここ
・報告書「青年期・成人期発達障害の対応困難ケースへの危機介入と治療・支援に関する研究報告書」(WEBページ「報告書」から pdfファイルがダウンロードできます)中の報告「精神科臨床症例において、発達障害に併存する、精神障害の病態の解明と診断方法に関する精神病理学的研究に関する研究」の C.結果 および 考察 の「2)症例調査」項には、長期経過の分かる ASD 患者における、抽出されたパーソナリティ障害併存の有る 4 例についての記述があります。

ちなみに、a) 「自己愛的怒り」については、他の拙エントリのここを、パーソナリティ障害については、他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。 b) 自己愛に関連するスキーマモード(これに関連するスキーマ療法における「モードモデル」については他の拙エントリのここを参照)の一種である「自己誇大化モード」について、編者、監訳者及び訳者は※※を参照の本、「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」(2017年発行)の 第2章 スキーマ,コーピングスタイル,そしてモード の表 2.2 における記述の一部(P51)を形式を変更して次にそれぞれ引用(『 』内)します。 『自己誇大化モード:このモードにある人は,自分は他者より優れており特権が与えられていると信じている。他者の考えにはおかまいなしにに,自分だけはやりたいことができ,ほしいものを手に入れるべきだと主張する。自尊心の増大のために,自分を誇示したり他者を中傷したりする。』(注:この部分の著者はハニー・ヴァン・ジェンダレン,マーリーン・レーケボア,アーノウド・アーンツです。) c) スキーマ療法の治療的ターゲットとして、NPD(自己愛性パーソナリティ障害)が注目されていることについては、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。」の 序文 の「BPDの次はNPD」項 加えて、精神医学的には「自己愛性パーソナリティ障害 Narcissistic Personality Disorder :NPD」と診断される可能性があるヨウスケさん(同WEBページの「つらいと言えない“オレ様”、医師のヨウスケさん」項を参照)に対する、マインドフルネスのワーク及びスキーマ療法への取り組み(同WEBページの「上から目線のややこしい人」項を参照)については、引用はしませんが、伊藤絵美著の本、「つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。」(2017年発行)の第1章及び第2章を参照して下さい。

加えて、自己愛性パーソナリティ障害の克服について、岡田尊司著の本、『パーソナリティ障害がわかる本 「障害」を「個性」に変えるために』(2014年発行)の 第2編 パーソナリティ障害のタイプ 特徴、診断、背景、対処と克服など の治療と克服 の (2)自己愛性パーソナリティ障害 の「目先の利益より、長く大きな視野を」における記述及び「自分にとらわれを脱する」における記述の一部(P175~P177)を次に引用します。

目先の利益より、長く大きな視野を

自己愛性パーソナリティ障害と成熟した自己愛性パーソナリティ・スタイルの本質的な違いは何でしょうか。
自己変性パーソナリティ障害として行き詰まるのではなく、パーソナリティ・スタィル、個性として開花するためには何が必要なのでしょうか。両者を比べてみると、その答えがおぼろげながら見えてきます。
まず一つは、自己愛性パーソナリティ障害の人は自分しか見えていないということです。相手の立場や気持ちに配慮が及んでいないのです。自分のことを自慢し、偉く見せ、賞賛やお世辞の言葉を聞くことは心地よいことでしょう。
しかし、その心地よさだけにとらわれ、相手がどう思っているかに注意が及ばないのです。相手は興味深そうに相づちを打ち、賞賛の言葉を並べながらも、心の中では「また、自慢話か。もう聞き飽きた。何て幼稚な人なんだろう」と思っているかもしれません。
成熟した自己愛性パーソナリティ・スタイルの人は、自分の思いや都合だけでなく、相手がどう思うかを同時に考えることができます。そうすることで、自ずと行動に一定のブレーキがかかってくるのです。
また、自己変性パーソナリティ障害の人は短いスパンや狭い視野でしか、満足や利益を考えられない傾向があります。すべてのパーソナリティ障害に共通することですが、自己愛性パーソナリティ障害の人も、今この瞬間の満足・不満足というものにとらわれてしまうのです。
それに対して、成熟した自己愛性パーソナリティ・スタイルの人では、この瞬間の損得だけでなく、長期的な損得を計算することができます。今この瞬間の満足を我慢しても、あとでもっと大きな満足を得られれば、そちらを選択できるのです。
それによって周囲との余分な摩擦を避けることができますし、人望が高まり尊敬や信頼を勝ち取ることもできます。長期的に見れば、ずっと大きな利得が得られるのです。

自分へのとらわれを脱する

自己愛性パーソナリティ障害の克服は、結局、自分にとらわれない大きな視野を持てる人間になるということに行き着きます。これはまさに、多くの宗教や思想がテーマとしてきた課題でもあります。(後略)

注:引用中の「自分にとらわれない大きな視野を持てる」に関連するかもしれないマインドフルネスの視点からの「自分が望むようにではなく、あるがままに物事を見ること」については他の拙エントリのここを、仏教思想の視点からの「如実知見」については他の拙エントリのここを、それぞれ参照して下さい。

加えて、大学生おける特に誇大性に偏る自己愛の障害と自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)との関連については、上地雄一郎著の本、「メンタライジング・アプローチ入門 愛着理論を生かす心理療法」(2015年発行)の「第7章 自己愛の障への対応モデル 大学生の事例における試論」における記述の一部(P247)を次に引用します。

(前略)なお,本章で「自己愛の障害」(disorders of narcissism)という包括語を使用するのはなぜかというと,DSM-Ⅲ,DSM-Ⅳ,DSM-5 の診断基準から思い浮かぶ自己愛性パーソナリティ障害の臨床像との相違を強調したいからです。本章で念頭においているパーソナリティは,仮に誇大性が見られるとしても,それと同時に対人的に過敏で傷つきやすいという特徴を持ち,むしろ後者が優位なパーソナリティです。これは,Gabbard が「周囲を過剰に気にするナルシスト」(hypervigilant narcissist)と呼ぶタイプ,つまり,わが国では「過敏型」という通称で呼ばれるタイプの人たちを指しています。筆者が臨床場面で出会うことが多いのは,このような過敏性・脆弱性が優位な人たちです。特徴が誇大性に偏る人たちには同時に顕著なマインドブラインドネス(mindblindness)〔第2章で解説〕が見られることから,この人たちを自閉症スペクトラム障害の軽症例とみなす見解がありますが(Bleiberg, 2001),筆者もこれと似た印象も持っています。

注:i) 引用中の「周囲を過剰に気にするナルシスト」については次の資料を参照して下さい。 「Kohutの自己愛性パーソナリティ障害論の批判的検討」の「4. 自己愛性パーソナリティ障害の二類型論とKohutの見解」項 ii) 引用中の「誇大性」については次の資料を参照して下さい。 「Kohutの自己愛性パーソナリティ障害論の批判的検討」の「(2)自己愛性パーソナリティ障害についてのKernbergの見解」項 iii) 引用中の「マインドブラインドネス」については、拙エントリのここを参照して下さい。一方、引用中の〔第2章で解説〕において、この解説のための引用は省略します。 iv) 標記「自閉スペクトラム症」については拙エントリを参照して下さい。 v) 引用中の「DSM-Ⅳ」に関連して、自己愛性パーソナリティ障害の DSM-Ⅳ による診断基準については次の資料を参照して下さい。 「Kohutの自己愛性パーソナリティ障害論の批判的検討」の表1 ちなみに、DSM-Ⅲはこの DSM-Ⅳ の前バージョンであり、DSM-5 はこの DSM-Ⅳ の改訂版です。 vi) 引用中の「この人たちを自閉症スペクトラム障害の軽症例とみなす見解」(注:この人たちは引用中の「過敏型」の人たちのことです)に関連する、「自己愛性パーソナリティ障害は診断基準を満たさない程度のごく軽度の自閉スペクトラム症と合併していることが少なくない」ことについては、市橋秀夫監修の本、「パーソナリティ障害 正しい知識と治し方」(2017年発行)の 2 パーソナリティ障害の要因は何か の「背景にあるもの③ 発達障害が隠れている場合も」における記述の一部(P35)を次に引用(『 』内)します。 『自己愛性パーソナリティ障害 診断基準を満たさない程度のごく軽度の自閉スペクトラム症と合併していることが少なくない』

一方、バランスの悪い自己愛と騙されやすさとの関連について、岡田尊師著の本、「マインド・コントロール 増補改訂版」(2016年発行)の 第三章 なぜ、あなたは騙されやすいのか の「③バランスの悪い自己愛」における記述(P85~P88)を次に引用します。

③バランスの悪い自己愛
パーソナリティの特性として、近年重要性を増しているのか、自己愛の問題である。不安定で歪に肥大した自己愛は、マインド・コントロールする側の問題として指摘したが、実は、マインド・コントロールされる側の問題としても関与が深まっている。かつて、強力な存在感を放つ他者に従属することで安心感を抱く人が多数を占めた時代には、他者本位で人に影響されやすい依存性パーソナリティの人が、マインド・コントロールの餌食となりやすい典型的なタイプであった。ところが、一見するとまったく逆に、非常に自己本位で、しっかりとした自己主張をもつかに見えた人が、マインド・コントロールされてしまうというケースが増えている。
そうしたケースで認められるのは、自己愛のバランスが悪いということである。彼らは、一方では、心のうちに誇大な願望をもち、偉大な成功を夢見ているが、同時に、他方では、自信のなさや劣等感を抱えており、ありのままの自分を愛することができない。誇大な理想を膨らませることで、どうにかバランスをとろうとしている。現実生活の中で、ある程度の成功をおさめ、輝いていられるうちは、そうしたバランスの悪さもあまり顕在化しないが、現実の暮らしかうまくいかなくなるにつれ、両者のギャップが急速に目立ち始める。
儒教的社会や伝統的なイスラム社会もそうであったが、忍耐と従属を重視する旧来の社会においては、自己というものは、それほど大きな存在感をもたなかった。日本を含めた東洋の封建的社会や伝統的なカトリック社会と同様、イスラム社会でも、定められた運命という考え方が大きな支配力をもつ。個人は、神や天が定めた運命に従うべきものであった。
ところが、プロテスタンティズムと結びついた個人主義では、個人の意思や主体性に重きを置く。運命さえも、その人の意思と努力によって左右できるものという考え方が生まれたのだ。こうした個人主義が、伝統的社会にも波及するにつれて、いわゆる「社会の近代化」と呼ばれる状況がもたらされた。それは、社会の成員が、自分の意思をもった個人として覚醒することでもあった。かくして、自己に重きを置く価値観が、伝統的社会をも浸食し始めたのである。
二つの価値観のギャップを、もっとも強烈な形で味わうことになったのは、両方の社会の狭間に身を置いた者たちだ。田舎から大都会に出てきた若者も、移民のイスラム教徒も、伝統的な価値観を背負いながら、同時に、個人主義的な価値観と接触することで、痛みを伴った自己の目覚めを味わうこととなった。
もはや彼らは、伝統的な価値観に、ただ忍従するだけでは、心のバランスをとれなくなったのである。もっと自己の価値を追求し、華々しく活躍し、輝くことを願望せずにはいられなくなった。そんな彼らに、自分たちを取り巻く現実はさらに冷たく不当に感じられ、自分がないがしろにされている状況を、これまで以上に強く意識するようになる。彼らは、そうした現実を真っ向から否定する、もっと偉大な目的に身を捧げることで、自己の存在価値を取り戻そうとする。
そこで掲げられるスローガンは、近代的な欧米型社会の否定としての理想郷の建設であったり、伝統的な社会の復活であったりする。つまり、西欧的な個人主義社会へのアンチテーゼが基調にあるのだが、皮肉にも、彼らを根底で衝き動かしているものは、敬虔な信仰や伝統的価値観に従うことではなく、むしろ自己に目覚めたがゆえに、平凡で、控えめな生き方では満たされない、肥大化した自己愛の願望なのである。
精神医学者のハインツ・コフートが指摘した通り、自己愛には二つの様相がある。一つは、自らが神のような偉大な存在でありたいという願望であり、幼く未熟な自己顕示性や万能感を特徴とし、誇大自己と呼ばれる。グルやカリスマと呼ばれる人たちは、この誇大自己が現人神のごとく顕現したものだと言えるだろう。
だが、自己愛にはもう一つの様相があり、コフートは、「理想化された親のイマーゴ」と呼んだ。つまり、自らが神のような存在となることはできないが、神のような偉大な存在を崇拝し、その存在に自らの偉大な存在でありたいという願望を投影することで、間接的に満たされる自己愛の形である。歪な自己愛を抱え、自分を評価してくれない不当な現実に、憤りや不満を感じている存在にとって、理想化された存在に対する絶対的な崇拝は、生きる意味を与え、救いとなるのである。一見強制されたわけでもなく、自ら進んでカリスマ指導者や組織に身をささげようとする場合、こうした自己愛の病理が絡んでいることが多い。
優れた知力や批判能力を備えていても、自己愛にバランスの悪さを抱えていると、知らずしらず理想化された存在を求めようとし、いかがわしいリーダーさえも、理想の存在に祭り上げてしまう。自らマインド・コントロールを求めているようなものであり、こうした存在を取り込み、操ることは容易だと言えるだろう。知的能力や弁舌に自信がある人ほど、論理的に説得されてしまうと、もはや抗えないということも起きる。現実の生活に不満を抱え、同時に、偉大な目的を求めているという心理構造を抱えている限り、自分にも聖なる使命が与えられるという誘いは、強力な殺し文句となる。
こうした歪で未熟な自己愛を抱えている人の特徴は、どこか子どものような幼さである。それは、純粋さや理想主義的な形でも現れるし、極端さや過激さともなって表れる。テロリストやカルトの信者たちに、観察された特徴は、彼らがバランスの悪い自己愛を抱えていることを、まさに示していると言えるだろう。

加えて、a) 自己愛性パーソナリティ障害における三つの大きな特徴について、市橋秀夫監修の本、「パーソナリティ障害 正しい知識と治し方」(2017年発行)の 4 自己愛性パーソナリティ障害 の「自己愛性パーソナリティ障害とは 三つの大きな特徴が生きづらさに結びつく」における記述の一部(P66~P67)を形式を変えて以下に引用します。 b) 自己愛性パーソナリティ障害では、自己が二つに分裂していることについて、同章の「特徴① 強い自尊心の陰に弱い自分が隠れている」における記述の一部(P68)を以下に引用します。 c) 等身大の自分について、同章の「自分でもできること① 等身大の自分はどんな自分か考えてみよう」における記述の一部(P76)を以下に引用します。

三つの大きな特徴が生きづらさに結びつく(中略)

自己愛性パーソナリティ障害の患者さんには、さまざまな特徴が見られますが、左記のDSM-5では大きく3つに集約しています。

誇大性
自分は万能で、特別な人間であり、人より優れていると、自分自身を大きく理想化しています。一方で、そのような理想の自分はいないとも感じています。

共感の欠如
健全な自己愛がないため、他人への愛や共感をもてません。他人は自分より劣った人間で利用するだけの存在。自分こそ頂上にいるべき人間だと考えます。

賛美されたい
自尊心が大きく、強迫的なほどに賞賛を求めます。目に見える結果がすべて。そのため、人の評価を気にします。失敗や挫折に弱く、抑うつに結びつくこともあります。

本人は、こんなふうに考えている
・いつも自分が自分以上でないといけないという強迫観念
・プロセスよりも、結果を出すことだけが重要
・外的価値しか信じない、内的価値は無意味
・自分は人と違った特別な存在だ
・地道な努力はしない
・他人は敵か家族か使用人。自分と家族は王族で、あとは家来
・対人関係は勝つか負けるか、見下すか見下されるか
・他人は信じられない、自分だって信じられない
・愛するという言葉は知っているが、愛するとはどういうことかわからない
・挫折や批判に弱く、自尊心が傷つきやすい
・他人が自分をどう見ているか、いつも気になる
・愛されたいが、自分が愛されるためには、条件が必要だ(中略)

強迫的な観念が根幹にある
自己愛性パーソナリティ障害というと、うぬぼれやナルシスト、自己中心的というイメージがあるかもしれませんが、違います。現実の自分ではなく、思い描いている自分しか愛せないのです。(後略)

注:引用中の「左記のDSM-5」の引用は省略します。代わりとなる、DSM-Ⅳ-TR における自己愛性パーソナリティ障害の診断基準については次の資料を参照して下さい。 「Kohutの自己愛性パーソナリティ障害論の批判的検討」の表1

(前略)自己が二つに分裂している

自己愛性パーソナリティ障害では、自己が「思い描いている自分」と「とりえのない自分」の二つに分裂しています。思い描いているのですから、これは偽の自分。とりえのない自分は、思い描いている自分と対象関係ですから、やはり偽の自分です。一方で、等身大の自分は育っていません。
そのため、うまくいっているときは万能感にあふれますが、少しの失敗に過剰に反応して極端に落ち込むという問題が出てきます。(後略)

(前略)等身大の自分はどんな自分か考えてみよう
自己愛性パーソナリティ障害のいちばん大きな問題は、等身大の自分がないこと。
「これこそ自分だ」と思い込んでいる姿は、思い描いているだけの姿かもしれません。(中略)

等身大の自分がないと気づいて
自己愛性パーソナリティ障害のある人が生きづらいのは、いつも自分が自分以上でないといけないという強迫観念があるからです。「理想的で万能な自分でないと生きる意味などない存在だ」と思い込んでいるのです。
理想の自分でもなく、ダメな自分でもない、等身大の自分がいないことにまず気づきましょう。

スペシャルでなくユニークでいい
人間にはスペシャルとユニークという二つの存在のしかたがあります。スペシャルとは、標準とは違う、特別な存在であろうとすること。つねに他者を意識して、比較の世界に生きています。
一方、ユニークとは、自分が生まれて存在し、同じ人間はおらず、死んだら自分と同じ人間はいないという意識です。ユニークの意味をもう一度考えてみましょう。

さらに、自分を外から見る力が乏しいと自己愛的な印象を与えることについて、岡野憲一郎著の本、「自己愛的な人たち」(2017年発行)の 第5章 アスペルガー的な自己愛者 の「◇自分を外から見る力が乏しい人」における記述の一部(P94~P99)を次に引用します。

◇自分を外から見る力が乏しい人(中略)

この面談は彼女の体験する職場での理不尽さを辛抱強く受身的に聞くことの繰り返しとなったが、私にとってかなり辛い体験だった。「Jさん、でもそれは……」と相手方に少しでも理解を示すようなことを私が言おうものなら、Jさんは烈火のごとく怒るのである。「先生の意見なんか聞いていません! 余計な口は挟まないでください」。
やがて私はJさんにぞんざいに扱われているという感じがしてきた。Jさんの一週間の予定表のひとコマにされたという感じである。Jさんの不満を吐き出すゴミ箱にでもなったかのような気持ちにもなった。彼女は面接時間の開始が少しでも遅れると私を糾弾し、また私に書かせた診断書の文言の細かい点について、何度も訂正を要求した。私の英語の問題もあり、これには相当苦労した。(中略)

私はあれほど面接の際に緊張し、ヘビに睨まれたカエルのような心境になったことはない。そしてやはりJさんはある意味でナルシシストだったと感じるのだ。

それ以来、私はアスペルガー傾向のある人たちに何人も出会ったが、みなある特徴を持っていた。彼らはある種独特の世界観を有していて、そこから物事を見る。そこには一種の達観があり、「人はこのようなものだ」という開き直りがある。でもそれが一方的であり、物事の一面しか見ていないという印象を与える。周囲はそれを伝えようとするのだが、彼らは動じない。むしろ「どうしてこんなこともわからないのか?」という視線を一般人に向ける。それが時にはひどく傲慢な、あるいは自己愛的な印象を与えるのである。
もちろん彼らとて苦しさを抱え、満たされない愛情欲求を持つことがある。彼らだって人とわいわい騒いだり、友達や恋人と楽しいときを過ごしたい。しかし人といてどうしようもない壁を感じる。自分を異質と感じ、それ以上に周囲が自分を異質に感じていると感じる。どのように異質なのかはわからない。彼らには「周囲に引かれている、遠ざけられている」という感覚しかない。自分たちの振る舞いが、他人のように「自然」ではないということは感じる。しかし、どのように振る舞ったら「自然」になれるのかは見当がつかない。彼らは「ふつう」になりたいと思う。自分を「異星人」のように感じる人たちもいる。
見方によっては、アスペルガーの人たちは気が弱く、臆病なのだ。事実、非常に引っ込み思案でいつも隅っこにいる人たちもいる。しかし、中にはある一芸に秀で、それを通して自分が優れているという感覚を過剰に持つ人もいる。すると変な目信がついて傲慢に振る舞うようになる。彼らの能力からすれば、周囲はあまりに平凡でバカみたいに見えるのかもしれない。そのような一部の人たちが、確かにナルシシストの一部を形成しているのである。
アスペルガーの当事者は、どのようなことを思っているのか。権田真吾『ぼくはアスペルガー症候群』(彩図社、二〇一四年)は、機能が高く社会適応を果たしている当事者が内側からアスペルガーの世界を描いた著作であるが、とても参考になる。そこにはアスペルガー型自己愛を理解する上でのヒントが多く書かれている。
著者は同僚の高機能自閉症と思われる女性社員Iさんについて描く。

Iさんは仕事の腕は確かなのだが、言動に少々問題がある。会社が推奨している目標管理について「気に入らない」といった発言を社内で平気でするのだ。本人に悪気はないらしく、言った後もあっけらかんとしている。
ある日、ぼくがトラブル対応で他部署に行ったときのことだ。そこの部署の女性社員からこんなことを言われた。
「Iさんっておたくの社員? ちょっと気にさわる発言があったのだけど……」

こんなエピソードを語りつつ、権田さんは自分の体験に触れる。

かく言うぼくも、暴言を吐いてしまって苦い思いをした経験がある。
ある日、ぼくは業務が立て込んでいて不機嫌だった。そこへ、他拠点から業務依頼があり、ぼくは「まあいいけど、なんでそんなこと引き受けなあかんの?」と文句を言ってしまったのだ。すぐに「しまった!」と思ったが、後の祭り。上司に呼び出されてこっぴどく叱られた。
たとえ虫の居所が悪かったとしても暴言はいただけない。ビジネスマンなら感情のコントロールを的確に行う必要がある。

権田さんもIさんも、これらのエピソードを通して会社で相手に「なんて傲慢で自己チューなナルなんだろう?」と思われている可能性がある。人の評価は恐ろしい。一度出会っただけでも、あるいはそれだからこそ、そこでの一言、態度は決定的な印象を与え、周囲にも伝わる。
もちろんこれだけで両者をアルペルガー的なナルシシストと決めつけるつもりはない。しかし彼らは時に自己愛的と思われる際の一つの特徴を表している。それは自分の姿を外側から見る力が、最初から、つまり生まれつき乏しいということだ。(後略)

注:i) 引用中の「この面談」とは「著者のクライアントであったJさんとの面談」のことです。 ii) 引用中の「彼らはある種独特の世界観を有していて、そこから物事を見る。(中略)でもそれが一方的であり、物事の一面しか見ていないという印象を与える。周囲はそれを伝えようとするのだが、彼らは動じない。」に関連するかもしれない、「自分と環境の関連に対する理解が決定的に不得手な患者の場合、本人の中で本人なりの理解が強固に作り上げられている」ことについては他の拙エントリのここを参照して下さい。

(3)「光の中のマインドフルネス」について(2018-02-15 に公開)
標記について、山下良道著の本、「光の中のマインドフルネス 悲しみの存在しない場所へ」(2018年発行)の「おわりに」における記述の一部(P288~P293)を次に引用します。

『光の中のマインドフルネス』をお読みいただき有り難うございました。今、皆さまは「光の中」にいますか? そうはっきり断言できなくても、うっすらとであっても「光の存在」だけは感じているかと思います。どうぞ、そのご自分の直感を大事にされてください。「そんなの気のせいだ!」というエゴの声も聞こえてくるでしょうが、それには耳を傾けないほうがいいかと思います。エゴは皆さまが光の中へ入ってもらっては困るのです。エゴが生存できない領域なので、必死に引き留めるでしょう。
もうひとつ、皆さまが素直に「光の中」に入って行くのを妨げるのは「認知的不協和」と言われるものでしょう。「認知的不協和」とは以下のようにまとめられます。
①人は情報を取得する際、それまでに築き続けた信念に合致しないものは選択しない。
②信念を崩そうとすると、膨大な時間を浪費したことが認識され、多大なストレスがかかる。
新しい世界が目の前に開かれているのに、そこに入って行くのを引き留めるのが、今まで持ち続けてきた自分自身の「信念」。そのことを、まず自己認識してみましょう。本書は、「マインドフルネスに宗教性を取り戻そう」というのか基本的な方向性なので、自分自身を縛ってしまうのは、宗教を巡る信念になります。そのなかでも以下の対照的な二つでしょう。
ひとつは「アンチ宗教」という信念、というか心情。それがあるために、「宗教」という言葉を聞いただけで、あ、もうだめ。危険だ。近づかないようにしよう、という条件反射を起こしてしまいます。私自身は、いわゆる「宗教界」の内部で生きてきた人間なので、正直ぴんとこないのですが、ある方はこう言ってました。「人の恐怖心をあおって効果のあるなしを検証せず、一方的に自分の思い付いた道徳観を押し付けてくる姿勢が垣間見られたときに、大きな拒否反応が起こります」。確かにそんなのが宗教だったら私も真っ平ごめんです(笑)。ただ、私が経験した「禅の世界」にも「テーラワーダ仏教の世界」にも、この要素は微塵もなかったことを付け加えておきます。
もうひとつは、すでに宗教的伝統の中にいる人が、これまで勉強してきたことに対してもつ強固な「信念」です。自分が現在もっている理解と、新しく出会ったものが齟齬をきたしそうになると、無理矢理自分の認識の体系の中に入れ込んで、そこで強引に解釈しようとする。その結果、見事に誤解してしまう。たとえば、この本の中ではほとんど使いませんでしたが、私は「青空」という言葉を、「第五図」の象徴として長年にわたって使用してきました。その「青空」という言葉が、どれほど多くの誤解にさらされてきたことか。その誤解を解くというのが、実はこの本の隠れた目的でもあったのですが、これは達成できたでしょうか。
「青空」に対する誤解を分析すると、そもそも拠って立つ世界観そのものが違っていることがわかりました。いうなれば「第四図」の中での「青空の解釈」だったのです。第四図の世界を、飛行機に乗ったときのように、どんどん上昇していき雨雲を抜けて、上空にあるのが「青空」だというのですが、すみません、その青空の定義は、私のとはまったく違います。「第四図の中の上空」ではなく、次元がまったく違う「第五図」のことを「青空」だと呼んでいることが、どうしても伝わりませんでした。
以上の二種類の信念に由来する「認知的不協和」を、まずきちんと認識したうえでそれを手放したとき、どれほど自由な世界が広がることでしょうか。
アンチ宗教的心情をお持ちの方も、その気持ちは一旦棚上げして「光の中のマインドフルネス」を実践してみてください。実践によって見えてくる世界こそ、実は宗教が伝えようとしてきた世界なのです。そこは怪しさが一切ない世界だとおわかりいただけましたか。抑圧からほど遠い、それとは真反対の解放の世界ですね。これまで宗教の世界が発する言葉は、確かめようのない、根拠のない概念としか聞こえなかったかもしれませんが、今はそれがリアルな事実を指す言葉であり、そのリアルな事実を誰もが直接体験できることを、深くご理解いただけたかと思います。
これまで宗教的伝統の中に生きてきた方も、「第五図」という世界観を持たれると、今まで謎としか思えなかったさまざまな「宗教用語」が、一切の矛盾を含まない、非常にクリアな事実の表現だったことがわかるかと思います。
たとえば 「気づきなさい。気づきなさい。いつも気づきを持ち続けなさい。気づきで自分の感情や心を見ると、それらから解放されるでしょう」。瞑想指導者は繰り返しこう主張されます。その瞑想指導者は確かに素晴らしい人格で、その方自身はすべての感情から解放されているのは明らかなのだけど、残念ながら、その瞑想インストラクションをいくら忠実に実践しようとしても、どうしてもできない。なぜ、なぜ、なぜ?
これが、いま、世界の瞑想の現場で起こっている現状ですね。でも、そこに「第五図」という世界観を入れればその謎は一瞬で解けるでしょう。
その瞑想指導者は素晴らしい資質と努力によって、実は、第五図に、すでにいつも、安住されているのです。そこからすべてに「気づいて」いらっしゃる。自分の心、感情、呼吸、身体、すべてのものを対象として。気づいた瞬間に、気づきの対象は浄化され、自分もそこから解放されて、安らぎと喜びに満ちた世界がそこで広がる。その経験に基づき、自分のまわりの苦しんでいる人たちを、この安らぎと喜びに満ちた世界に救いあげようと、「いつも気づいていなさい」と口を酸っぱくして勧めておられる。心からの慈悲と、誠実さでもって。
でも、それが伝わらないという悲劇。なぜかというと、我々は「第五図」にはいないから。第四図のただ中にいて、「第五図がある」という発想すら持っていないから。我々がいる第四図の中では、気づきは成り立たない。第四図を生きる主体は「モンキー・マインド」であって、枝から枝へ移り続けるのが本来的な性質であって、何かの対象に数秒以上気づき続けるのは、原理的にできないのです。だから、安らぎと喜びに満ちた先生に心から憧れ、尊敬し、その先生のように自分もなりたいと思いながら、その先生から与えられた瞑想インストラクションが、どうしてもできないという悲しさ。
その悲しみにようやく終止符を打つときがきました。「第四図」と「第五図」をしっかり理解して、その線にそってこの「光の中のマインドフルネス」の瞑想メソッドを実践してみてください。最初は、第四図から第五図へ転換するのをまず目指します。そのうえで、さらに深く入っていってください。第五図に立って、そこからすべてを見つめると、見つめた瞬間にその対象は浄化されて、皆さんはそこから解放されるのを経験するでしょう。あ、あの先生が言われた通りのことが自分にも起こった! と、そう驚かれると思います。
第四図と第五図という次元の違いの認識を、まず最初になされなければいけなかったのです。マインドフルネスの秘密はすべて「第五図」に最初から備わっているものであって、「第四図」の中で、無理に努力して獲得するものではなかったのです。第五図の存在を認識し、そして自分の本質はもともと第五図だと自覚したとき、自分の瞑想の先生たちが言われていることは、すべて事実の描写だったことに気づきます。(後略)

注:i) この本に対する熊野宏昭による推薦文(WEBページの「新刊『光の中のマインドフルネス 悲しみの存在しない場所へ』のご紹介です!」項を参照)を次に引用(『 』内)します。 『自分が抜け落ち、気づきだけが続くとき、いったい誰が観ているのか? その明快な答えがここにある!』[注:本エントリ作者の解釈による説明、「第四図」に属する(すなわち、シンキングマインド〔参照〕や上記モンキーマインドを有する)「自分」が抜け落ちると(すなわち、「第四図」から〔これとはまったく次元の違う、自分の本籍〈参照〉である〕「第五図」へ転換すると)、「気づきだけが続く」ようになる] ii) 引用中の「第四図から第五図へ転換する」に関連する『「エゴ」から「根元的意識」への転換』(注:「根元的意識」は第五図に相当するもののようです。この本の P62 を参照して下さい。)については、次のWEBページを参照して下さい。 『なぜ「宗教性」が大事なのか。いま改めて、マインドフルネスのオリジンを理解しよう』の『キリスト教的ヴィパッサナーと「霊操」』項(注:ちなみにこのWEBページでは、マインドフルネス瞑想において「主体」と「客体」が分かれているかどうかにも言及しています) 加えて、この本の P99 には、これに関連する次に引用(『 』内)する記述があります。 『本気でマインドフルネスをする人は、第四図から第五図へ飛びます。』 さらに、「エゴ」(第四図の人の中にいるエゴ)が「第四図」では生存できるが、「第五図」に行けないことについて、この本の P155 における次に引用(『 』内)する記述があります。 『エゴは第五図には行けませんから。エゴは第四図だけが生存できる場所なのです。』 iii) 一方、この本の P71 及び P82 には、「第四図」を「映画の世界」と喩えている次に引用(『 』内)する記述がそれぞれあります。 『私が第四図を「映画の世界」と言っているゆえんです。不安の映画をつくっていて、それを映画だと思わずに、現実だと信じ込んでしまうのが第四図の特徴です。我々が不安になるのは、過去や未来のどんな材料でも使って、いくらでも不安を作れるからです。(中略)どんな材料からも、不安の映画をつくることができて、いったん出来上がった映画を、我々はもうそれを信じてしまい、不安が止まらなくなってしまいます。』(注:a) 引用中の「映画の世界」に相当するかもしれない 1)「物語の世界」についてはここ及びここここを 2)「バーチャルな現実」については拙エントリのここを、 b) 引用中の「映画の世界」に関連する「脅威をいくらでも考えて,思い出して,鮮やかに想像できてしまう」については他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい)*36、『第四図の世界は、客観的に存在しているように見えるけど、第四図の人は「思い」という不安製造装置を最大限に活動させて、未来についてや過去について不安を材料に映画を製作し、上映し、その中に入り込み、それを現実と取り違えている。』 iv) 引用中の「第四図」及び「第五図」の引用は省略します。一方で、「第四図」、「第五図」及び上記「映画の世界」(仮想現実)については、例えば pdfファイル「マインドフルネス瞑想と日本社会 ─仏教の突破口?─」中の資料『「本来の自己」とマインドフルネス』(著者:山下良道、P72~P76)を参照して下さい。 v) 引用中の「マインドフルネス」については、例えば他の拙エントリのここ及びここを参照して下さい。 vi) 引用中の「認知的不協和」について、竹村和久著の本、「経済心理学 行動経済学の心理的基礎」(2015年発行)の 6章 経済行動における意思決定過程 の 6-7 消費者の決定後の過程 の「(1) 認知的不協和理論」における記述の一部(P203)を次に引用(『 』内)します。 『消費者の購買意思決定過程の後には,後悔が起こったり,認知の変化が起こったりすることがある。フェスティンガー(Festinger, 1957)は,認知的不協和理論(cognitive dissonance theory)と呼ばれる理論を提案し,意思決定後の心理的変化の特徴を説明しようとした。彼は,自己または自己の環境についてのあらゆる知識,意見,信念あるいは感情を認知という術語でまとめ,この認知単位間の不協和が生じると,人はこの不協和を解消しようとすると仮定した。彼によると,不協和の状態は不快な状態であり,この不快状態を低減させるために,認知の変化,行動の変化,新たな認知の付加,新たな情報への選択的接触などが生じるとしたのである。フェスティンガーは,意思決定後の状況では,行動はすでになされていることが多いので,不協和が生じやすく,不協和の解消の手段がとられやすいと考えた。このことから,選んだ後の選択肢の魅力は,選ぶ直前より上昇することが予測されるのである。』 ちなみに、上記「認知的不協和」に関連するかもしれない「サンクコストバイアス」については次のWEBページを参照して下さい。 「意思決定での勘や経験の落とし穴」の「サンクコストバイアス(別名コンコルド効果)」項 vii) ちなみに、a) この本に関するツイートがあります。 b) ツイートの一部に対し、拙ブログ作者の解釈(≪ ≫内)を次に試みます。 ≪「目覚めた意識で(認知的)フュージョン(リンク集参照、用語:「認知的フュージョン」)」できれば、「ただあるがままの世界」(すなわち、上記第5図)と「物語の世界」[参照](すなわち、上記第4図)とを融通むげに行き来できる、というのは、まさにその通りと思う。(セルフモニタリング[参照]に関連する)メタ認知(参照)を上手く使えばできないことではない。≫

一方、アクセプタンス(受容)の視点からの「第四図から第五図へ転換する」ことについては、同の 第4章 アクセプタンスが効く理由 の「状態を変えるのではなく、本質へ戻ろうよ」における記述の一部(P88~P89)を次に引用します。

第四図の中にはアクセプタンスは存在しない。アクセプタンスが大事だとがんばることが、すでにアクセプタンスから遠い場所に行くこと。そういう矛盾を抱えているのが第四図。
でも実は、「私」というのは第四図には存在していなくて、第四図の外に存在している。つまり第五図に。この第五図こそが「アクセプタンス」が自然と備わっている場所。このことがわかれば、今までの誤解も、不毛な努力も、これから何をすればいいかもわかるでしょう。
お釈迦さまなどが「好き嫌いを捨てなさい」とか「アクセプタンス(忍辱)が大事」とか言われたのは、今の状態を改善してそうなれと言っているのではなく、「ある場所に行けよ」という話……いやいや、それも実は本当ではなくて、「本当の私はここだよ」という話なのです。
今までは第四図にいると思っていたけれど、実はそうではないんだよ、と。
私はそれを「本籍」と「現住所」という言い方で説明したりします。第四図を実際の現住所としてずっと住み続けてきたけれど、そして自分には「現住所しかない」と思っていたけれど、実は今まで知らないでいた本籍があった。本籍はずっと生まれたときから同じ本籍だった。
現住所ではどうしても好き嫌いがあって、アクセプタンスできないし、どうしても慈悲を持つことができない。それなのに、慈悲を持てよ、アクセプタンスしろよ、好き嫌いを超えろよというのは何を言っているかというと、現住所でそうなるようにがんばれということではなくて、「自分の本籍を思い出せ」という話だったのです。(後略)

注:i) 引用中の「第四図」及び「第五図」については共にここを参照して下さい。 ii) 引用中の「第五図」、「アクセプタンス」及び「慈悲」に関連して、「第五図」では、一〇〇%完全なアクセプタンス及び慈悲があることについて、同の P95~P96 において次に引用(『 』内)する記述があります。 『第五図では、好き嫌いは意味を持ちません。一〇〇%完全なアクセプタンスがあり、一〇〇%完全な慈悲があります。そういう転換なのです。』 iii) 引用中の「アクセプタンス」に関連して、「徹底的受容」(参照)を含む弁証法的行動療法(参照)や「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」(参照)をうまく実践するには、もしかするとこの引用にコツがあるのかもしれません。

(4)虐待による脳における神経ネットワークへの影響について(2018-02-25 に公開)
標記について、友田明美、藤澤玲子著の本、「虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ」(2018年発行)の「12章 癒されない傷」における記述の一部(P137~P149)を次に引用します。

1 虐待による神経回路への影響

タイチャーらは、虐待を受けて育った人と、そうでない人との、神経回路の違いを調べた。すると、身体感覚の想起にかかわる「楔前部」(ここには感覚情報をもとにした自分の身体マップがあると言われる)から伸びる神経ネットワークは、虐待を受けた人のほうが非常に密になっていた。同様に、痛み・不快・恐怖などの体験や、食べ物や薬物への衝動にも関係する「前島部」も密になっていた。つまり、こうした情報が伝わりやすい脳になっているということだろう。
一方で、意思決定や共感などの認知機能にかかわる「前帯状回」からの神経回路は、被虐待歴の無い人ではたくさん伸びているのに対し、虐待を受けた人はスカスカの状態であった。
はじめにも記したように、これらの調査は病院で行ったのではなくて、社会で普通に暮らしている人たちを対象としたものである。どの人も、18歳から25歳の調査時点ではPTSDを発症しているわけではなく、うつ病と診断されているわけでもない。大学に通ったり仕事をしていたりと、一般社会に適応している人たちである。つまり、これらの脳の変化は、疾患や障害の影響で起きた変化ではない。それなのに、トラウマの痕跡が脳に刻まれているのだ。虐待自体がもたらした変化と考えて間違いない。

2 脳の変化はなぜ起きたのか

それでは、このような脳の変化はなぜ起きたのだろうか?
解析結果を見たとき、最初は「ひどい目にあってきたから、脳がこわされてしまった!」と思った。つらい経験がこころを壊し、脳を壊してしまったのだ!
過酷な時代に適応して生き延びるためには、大きな対価を払うこととなる。生物は、その時の生命を維持することを第一優先とする。強い副作用を伴うが効果の高い薬があるとしよう。風邪を引いたときにその薬を飲むだろうか? ほとんどの人は、少々風邪が長引くとわかっていても、薬は飲まないという選択をするだろう。しかし、命の危険がある病、たとえばガンに冒された場合に使用をためらうだろうか? 副作用が伴うことがわかっていても、多くの人がまずは命の維持を最優先するであろう。
脳も同様の選択をする。非常に危険な状態におかれた場合、生存の維持を最優先し、長期的な作用は考慮しない。副作用が強くとも、薬を服用することを選択する。その薬がコルチゾルである。前の章でも述べたが、虐待などをはじめとしたストレスを受けると、そのダメージから回復するためにコルチゾルを分泌する。そして、コルチゾルは非常に優秀な働きをする。実際、人間は一度きりの過酷な体験に対しては高い回復力を持っているといわれる。しかし、虐待のような長く継続して続くストレスには、コルチゾルはむしろ毒となる。長期的に多量に分泌すれば、海馬を破壊してしまうという副作用を伴うのだ。
また、扁桃体が興奮し続けると、キンドリング現象と呼ばれるものが起きる。これは、神経細胞が何度も刺激にさらされることで、少しの刺激でも反応が起きるようになっていくしくみだ。こうして繰り返しストレスを体験することによって、ストレスに弱い脳になっていく。また、このキンドリング現象は、幼い脳ほど起こりやすい。
このような影響はとてもゆっくりで、時間が経ってから現れてくる。
10章でも紹介したが、子どものラットを生後2日から20日目まで毎日4時間、母ラットから隔離するという実験がある。母ラットから隔離されたストレスによって、ラットの海馬の発達が阻害される。しかし、その影響はすぐには出て来ず、ラットが「成人」する頃になって、初めて明らかになる。
つまり、短期的に見れば生きのびるために不可欠な反応が、長期的にはさまざまな困難や不都合を引き起こす。成人してからのアルコール・薬物依存や、うつ病、摂食障害、自傷、自殺企図などの精神的な問題の原因の少なくとも一部は、脳の発達段階で高い負荷がかけられたことであろう。実際、依存症でもうつ病でも、背景にトラウマがあるケースは、そうでないケースに比べて発症年齢が低く、多重の診断が多く、初期治療への反応がよくないのである。
しかし、研究を進めるにしたがって、脳の変化の理由は、このような脳への負荷による傷だけでは無いと考えるようになった。脳の変化は「過酷な状況の中でもなんとか適応して生きてきた、そのあかし」でもあるのではなかろうか。
深刻な虐待を体験した人では、恐怖をつかさどる扁桃体が過活動になる。いってみれば、常に危険に対して警戒態勢にあるということだ。
視覚、聴覚、身体感覚などにかかわる部分が過剰に活動しているのは、外界の刺激に対して敏感になっていることを示す。たとえば、周囲の人間がみんな敵だとしたら? いつ爆弾が落ちてきてもおかしくない世界だとしたら? 小さな音に反応し、少しの動きを察知し、空気の変化を敏感に肌で感じ取る… こうした敏感さは、生き残るためにもっとも重要な能力であろう。
逆に、身体的虐待を受けて育った人の「痛みの伝導路」が細くなっているのもうなずける。痛みを感じにくくすることで自分を守ろうとしたのに違いない。
人間のみならず、地球上の生物は、環境の変化に自分自身を適応させることで過酷な世界を生き抜いてきた。魚や爬虫類の中には、環境が苛酷になると生き残りのために性別が変わるものもある。平和な環境から苛酷な環境に変化した時、同じ生活をしていたらすぐに死んでしまう。生物は、今の環境にもっともふさわしい遺伝子だけが勝ち残ることによって現在の環境に適応するように進化してきた。そして、そうやって勝ち残るためには、そもそも「変化に強い」ということこそ、大きな強みである。その時その時の環境にあわせて、それに適した戦術を使うことができれば、どんな環境でも有利に生き残ることができる。(後略)

注:i) 引用中の「前帯状回」に関連する「前帯状皮質」については次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「前島部」に関連する「島」については次のWEBページを参照して下さい。 「島 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「扁桃体」についてはここここ及びここを参照して下さい。 iv) 引用中の「キンドリング」についてはここも参照して下さい。 v) 引用中の「虐待を受けて育った人と、そうでない人との、神経回路の違い」の具体的な図については、論文における次に紹介する図を参照して下さい。 「Childhood Maltreatment: Altered Network Centrality of Cingulate, Precuneus, Temporal Pole and Insula」の Figure 1 又は 「The effects of childhood maltreatment on brain structure, function and connectivity」の Figure 6 ちなみに、a) Left anterior cingulate は 左前帯状回、Right anterior insula は右前島部、Right precuneus は右楔前部、Maltreated はマルトリートされた(これに関連する「マルトリートメント」についてはここを参照して下さい)、Unexposed は曝露されない です。 b) 後者の論文要旨について次に引用します。

The effects of childhood maltreatment on brain structure, function and connectivity.[拙訳]子ども時代のマルトリートメントが脳の構造、機能及び接続性に及ぼす影響(全文はここを参照して下さい)

Maltreatment-related childhood adversity is the leading preventable risk factor for mental illness and substance abuse. Although the association between maltreatment and psychopathology is compelling, there is a pressing need to understand how maltreatment increases the risk of psychiatric disorders. Emerging evidence suggests that maltreatment alters trajectories of brain development to affect sensory systems, network architecture and circuits involved in threat detection, emotional regulation and reward anticipation. This Review explores whether these alterations reflect toxic effects of early-life stress or potentially adaptive modifications, the relationship between psychopathology and brain changes, and the distinction between resilience, susceptibility and compensation.


[拙訳]
マルトリートメントに関連する子ども時代の逆境は、精神疾患及び薬物乱用に対する主要で予防可能なリスク因子である。マルトリートメントと精神病理との間の関連は説得力があるが、マルトリートメントが精神障害のリスクをどのように高めるのかを理解する切迫した必要がある。新たな証拠は、マルトリートメントが、脅威の検出、情動調節、報酬の予測に関与する感覚系、(神経)ネットワークアーキテクチャと回路に影響を及ぼす脳の発達の軌道を変えることを示唆する。これらの変化が、幼少期ストレス又は潜在的な適応性改変の毒性効果、そして精神病理や脳の変化と、レジリエンス、感受性や補償との間の関係を反映するかどうかを本レビューは探究する。

注:i) マルトリートメントについては他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「ストレス」については次のWEBページを参照して下さい。 「ストレス - 脳科学事典」 iii) 引用中の「報酬」に関連する「報酬系回路」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「行動嗜癖 - 脳科学事典」の「報酬系回路」項 iv) 引用中の「レジリエンス」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「レジリエンス ~多様な回復を尊重する視点~

(5)双極Ⅱ型障害において軽躁のプラス・マイナスの計算をきちんとすることについて(2018-03-08 に公開)
標記について、青木省三著の本、「精神科治療の進め方」(2014年発行)の 第9章 躁うつと人生 の「1 頑張ろうという気持ちが気分をもちあげる」における記述の一部(P121~P122)を次に引用します。

1 頑張ろうという気持ちが気分をもちあげる

頑張ろうと思う気持ちをもったり、仕事が忙しくなり集中したりすると、気分が高揚し躁状態になる人がいる。頑張りや集中が気分をもちあげるのである。

〔症例1〕エンジニアの中年男性
ある40代の男性エンジニアは、期限の区切られた注文が入り、「よし頑張るぞ」と気合いを入れて張り切って仕事に臨むと、気分が高揚し、仕事のスピードと質も上がるのだが、同僚や家族に対して怒りっぽくもなるのであった。仕事が終わった後に、やって来る抑うつ状態は苦しいものであるが、その時期に仕事が入っていなければ何とかしのいでいくことができるということであった。

〔症例2〕管理職の中年男性
ある50代後半の男性は、外洋船舶による貨物輸送の準備や調整をする仕事をしていた。嵐や台風などで、積荷の到着時間が遅れることがあると、大量の貨物の遅延の連絡や国内での配送の手配などで忙しくなる。その時、「これは大変」と連絡や手配を頑張り始めると、気分が高揚し、その期間が過ぎた後しばらく高揚が続き、毎晩、飲み屋に出かけ高額なお金を使うことが続くのであった。

このようなタイプの躁うつの波をもつ人は、軽躁状態がなくなると仕事ができなくなる。あるいは、軽躁状態が抑えられると不全感が強く、抑うつ状態が強くなることが多い。前述した2人の場合は、「あなたの仕事では、短期間に集中しなければならないのはしょうがない。その時、気分がいくらか高揚するのもしょうがないでしょう。だから、気分の高揚をうまく利用しながら、職場でのトラブルや浪費などをいかに少なくしていくかが課題ですね」などと助言した。なお、二人の男性には、ともに気分安定薬を処方している。
このように仕事が忙しくなり、その際の頑張りや集中が気分を持ち上げる人の場合には、頑張りや集中とその結果の軽躁状態について話し合う必要がある。頑張りや集中が質の高い仕事というプラスになって現われている場合には、仕事以外の面に軽躁状態の及ぼすマイナスや、その後に来る抑うつ状態のマイナスなどを含めて、プラス・マイナスの計算をきちんとする。マイナスの方ばかりに目を向けて治療を開始すると、プラスを失う結果を招くことがある。マイナスが抑えられないだけでなく、プラスも失うという、結果としてマイナスを増やしてしまう治療となることもある。(中略)

加藤敏が職場結合性気分障害と言うように、このような軽躁状態は私たちの社会が求めているものと言うことができるかもしれない。このようなケースの場合も、神田橋條治が言うように、うまく「波にのる」ことのほうが、躁うつの波をおだやかなものにすると、私も考えている。双極性障害を躁うつ的な「生き方」の失調と考え、発症した双極性障害を躁うつ的な「生き方」に変えていくことはできないかと考えている。

注:標記「双極Ⅱ型障害」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために

(6)反証の拒否(自分のネガティブな思考と矛盾する証拠や考えをひとつも受け入れようとしないこと)に対する認知療法の技法について(2018-03-14 に公開)

標記について、ロバート・L・リーヒイ著、伊藤絵美、佐藤美奈子訳の本、「認知療法全技法ガイド -対話とツールによる臨床実践のために-」(2006年発行)の 第9章 認知的歪曲を検討し,それに挑戦する の「16. 反証の拒否」における記述(P512)を次に引用します。

16. 反証の拒否:自分のネガティブな思考と矛盾する証拠や考えをひとつも受け入れようとしないこと。例:「私は愛されない」と信じる人は,誰かがその人を好いているというどのような証拠も受けつけず,その結果その人は,「私は愛されない」と信じ続ける。別の例:「そんなことは本当の問題じゃない。もっと根深い問題があるはずだ。そしてもっと重大な原因があるに違いない」

《技法》

1. この信念の確信度はどれぐらいですか? またこの信念に関連する感情を同定し,その強度も評定してください。
2. 自分の信念を具体的に同定してください。
3. 損益分析を実施しましょう。
a. このように定義の難しい漠然とした思考をしていたら,どのようなことになると思いますか?
b. 「自分の考えを完全にわかってくれる人などいない」と信じることによって,どのような結果が引き起こされるでしょうか?
c. あなたは,定義の難しい漠然とした思考が,物事を深く考えている証拠だと考えているのでしょうか? そのような思考は,むしろ思考が混乱している証拠だという可能性もあるのではありませんか?
4. あなたの考えを支持する根拠,そして支持しない根拠(反証)をリスト化し,各根拠について検討してください。
5. 4に挙げた根拠について,その質についてもそれぞれ検討してください。
6. あなたの信念には,どのような認知的歪曲がみられますか? 例:感情的理由づけ,ポジティブな側面の割引き,ネガティブなフィルタ一,など。
7. あなたの考えの正否は,どのようにして証明できますか? あなたの考えは検証することができるでしょうか? もし検証できないとしたら,すなわち,仮にあなたの考えが間違っているとして,それを証明する手立てがないとしたら,そもそも元の考え自体に意味がないということになるのではありませんか?
8. 二重の基準法を用いて,自問してみましょう。もし誰か他の人がこのような考え方をしていたら,あなたはその人に対して,どのようにアドバイスしてあげますか?
9. あなたの考えが非常に漠然としていて検証ができないとしたら,むしろそのせいで,あなたは物事を変えていくことに無力感を抱くことがあるのではありませんか?
10. 自分の考えと逆の行動をあえてとってみることにしたら,どうなるでしょうか? どのような逆の行動がありえますか?
11. 自分の考えを検証するために実験を行なうことをイメージしてください。あなたはこの実験のために,どのように情報収集を行ないますか? この実験のことをどのように第三者に説明しますか?

注:i) 引用中の「ポジティブな側面の割引き」は、「自分や他人が努力して成し遂げたポジティブな結果を,些細でつまらないことであると決めつけること」です(同本の P490 より)。 ii) 引用中の「ネガティブなフィルタ一」は、「物事のネガティブな側面ばかりに注目し,ポジティブな側面にはほとんど目をむけないこと」です(同本の P492 より)。 iii) 引用中の「信念」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、これに関連する「信念の強化」については他の拙エントリのここを参照して下さい。さらに、MCS における信念システムの導入については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「損益分析」については、(この本からではありませんが)次のWEBページを参照して下さい。 「認知行動療法でセルフ・カウンセリング・・損益を分岐するシート」 加えて、これに関連する(消費者の)「インフォームド・ディシジョン」(全ての選択肢について、そのメリットとリスクの情報を全て得た上で、消費者が主体的に意思決定して選択を行うこと)については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「食事中のカロリーを気にするのは時代遅れです(ページ2)」 v) ちなみに、a) 標記「認知的歪曲」の一種である「レッテル貼り」の短い説明について、同章の P489 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『レッテル貼り:自分や他人に対して,大雑把でネガティブな特性をラベルづけしてしまうこと』 b) 疾患概念「MCS 又は化学物質過敏症」及び「電磁波過敏症」の存在に対する反証例に関連して、前者は他の拙エントリのここ、マニュアル「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「3.4.2. どのような化学物質のばく露に起因するのか?を調べるために」項[P51~P52]、ここを、後者は他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。

MCS 又は化学物質過敏症に対する反証例に関連して、これまでミニ情報において紹介してきた記事を形式と一部の文章を変更して次に示します。ただし、内容はミニ情報時代と同様です。ちなみに、資料の日本語要約によると、MCS 又は化学物質過敏症は、1950年代では環境病(Environmental illness)の一つとして、概念的に捉えられていたようです。

・立証責任について[2017年6月19日]
医療における標記責任について、MCS を例にとって、本エントリ作者の考察と立証に向けての経過の概略を含めて次に示します。
①Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医、※1)が疾患概念 MCS を提唱(下記要約参照)した。
②この概念の存在を立証するために、彼らは二重盲検法による誘発(負荷)試験[又はチャレンジテスト]を考案した(例として参照 ※2)。
③これらの試験は悉く成功しなかった(参照及びマニュアルの「3.4.2. どのような化学物質のばく露に起因するのか?を調べるために」項[P51~P52]を参照)。
④2016年に日本において、化学物質過敏症の存在の証明に対する事実上の見解が発表された(すなわち、『環境中の大量ではなく, 極めて微量な化学物質との因果関係の証明が非常に困難であることがあげられる。』 これは資料の日本語要約からの引用であります。加えてこの資料の第一著者は坂部医師ですが、石川医師と宮田医師も著者に含まれています。←今ここ

要約:本質は「臨床環境医が提唱した MCS の存在を立証する責任は臨床環境医にある」(例えばここにおけるリンク「●説明責任(立証責任)」先のWEBページを参照)ことです。そして、これが立証されない限り、MCS が存在しないものとして通常見なされることです。それどころか、MCS の存在は否定されています(参照)。

※1:William J Rea 医師の流れを汲む日本の医師を含みます。

※2:二重盲検法による誘発(負荷)試験により、極めて微量な化学物質の直接的な作用(化学的ストレス)により急性症状が引き起こされる病態生理の解明なしに、MCS の存在が証明できると考えます。

一方、2018年2月に実施された厚生労働省による「平成29年度生活衛生関係技術担当者研修会」(WEBページ「平成29年度生活衛生関係技術担当者研修会」を参照)において、化学物質過敏症を含むシックハウス症候群に関連する研修も行われたようです。その際に使用された資料(参照)が上記WEBページにリンクされています。

(7)破局視(すでに起きてしまったこと,またはこれから起きそうなことが,あまりにも悲惨で自分はそれに耐えられないだろうと考えること)に対する認知療法の技法について(2018-03-15 に公開)
標記について、ロバート・L・リーヒイ著、伊藤絵美、佐藤美奈子訳の本、「認知療法全技法ガイド -対話とツールによる臨床実践のために-」(2006年発行)の 第9章 認知的歪曲を検討し,それに挑戦する の「3. 破局視」における記述(P487~P488)を次に引用します。

3.破局視:すでに起きてしまったこと,またはこれから起きそうなことが,あまりにも悲惨で自分はそれに耐えられないだろうと考えること。例:「もし私がそれに失敗したら,大変なことになるだろう」

《技法》

1. この信念の確信度はどれぐらいですか? またこの信念に関連する感情を同定し,その強度も評定してください。
2. あなたが予測していることを具体的に挙げてください。いつ,どこで,何が起きると予測しているのでしょうか?
3. 損益分析を実施しましょう。
a. 未来を予測し,心配することで,あなたは自分を守ろうとしているのですか? 心配することで,何か悪いことが起きるのを防ぐことができるのでしょうか?
b. 心配な考え自体をコントロールできなくなってしまうことを,あなたは恐れているのですか?
4. あなたの“破局視”的な考えを支持する根拠,そして支持しない根拠(反証)をリスト化し,各根拠について検討してください。
5. 4に挙げた根拠について,その質についてもそれぞれ検討してください。
6. あなたの信念には,どのような認知的歪曲がみられますか? 例:運命の先読み,ポジティブな側面の割引き,べき思考,ネガティブなフィルター,など。
7. あなたの考えの正否は,どのようにして証明できますか? あなたの考えは検証することができるでしょうか?
8. 下向き矢印法を実施しましょう。仮にあなたの考えがその通りだったとしたら,それは何を意味するのですか? なぜそれがあなたを悩ますのでしょう? どのようなことが本当に起こりうると思いますか?
9. 毎日20分間,次の文を繰り返し唱えてみてください。「自分が何をしようと,何か悲惨なことが起きる可能性は常にあるものだ」
10. あなたの予測が間違っていたことが,これまでに何回ありましたか?
11. 恐ろしくて悲惨な出来事とは,何が原因で実際に引き起こされるのでしょうか?
12. 1ヵ月後,1年後,そして2年後のあなたは,この出来事についてどのように感じているでしょうか?
13. 悲惨な体験をしたにもかかわらず,その後,それをポジティブな体験に変えることができた人もいるのではないでしょうか? その人たちは,どのようにしてネガティブな体験を克服し,それをポジティブなものへと転化することができたのでしょうか?
14. 仮に破局的な出来事が起きたとしても,あなたが引き続き体験できるポジティブなことには,どんなことがありますか?
15. 他の人たちが「恐ろしくて悲惨だ」と考えている出来事には,どのようなものがありますか? 他の人があなたとは違った見方をしているとしたら,それはなぜでしょうか?
16. たとえ悲惨な出来事が起きだとしても,そこから何かポジティブなことが生まれることもあるのではないでしょうか? 私たちは悲惨な出来事から何を学ぶことができるでしょうか? それはたとえば,新たな機会に目を向けられるようになることですか? 自分の価値観を再検討してみようと思えることですか?

注:i) 標記「破局視」に関連する、 a) 身体感覚に対する破局的解釈については他の拙エントリのここここを、 b) 破局的思考、身体感覚及び身体症状の間の関係については、他の拙エントリのここを、 c) 慢性疼痛における破局的思考については、他の拙エントリのここを、 d) 電磁場に起因する特発性環境不耐症(電磁波過敏症)における破局的思考については、他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。加えて、これに関連するスキーマ療法(参照)の視点からの早期不適応的スキーマの一種である「損害や疾病に対する脆弱性スキーマ」については他の拙エントリのここここを参照して下さい。 e) 痛みの破局的思考については、他の拙エントリのここにおける引用部の「7. 痛みの破局的思考」項を参照して下さい。 ii) 引用中の「ポジティブな側面の割引き」は、「自分や他人が努力して成し遂げたポジティブな結果を,些細でつまらないことであると決めつけること」です(同本の P490 より)。 iii) 引用中の「ネガティブなフィルタ一」は、「物事のネガティブな側面ばかりに注目し,ポジティブな側面にはほとんど目をむけないこと」です(同本の P492 より)。 iv) 引用中の「べき思考」は、「物事を,単に“どうであるか”という視点からとらえるのではなく,“どうであるべきか”という視点から考えること」です(同本の P497 より)。 v) 引用中の「信念」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、これに関連する「信念の強化」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「損益分析」については、(この本からではありませんが)次のWEBページを参照して下さい。 「認知行動療法でセルフ・カウンセリング・・損益を分岐するシート」 加えて、これに関連する(消費者の)「インフォームド・ディシジョン」(全ての選択肢について、そのメリットとリスクの情報を全て得た上で、消費者が主体的に意思決定して選択を行うこと)については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「食事中のカロリーを気にするのは時代遅れです(ページ2)」 vii) 標記破局視への対応例としての「根源的な問題を日常生活の問題におきかえる」ことについて、青木省三著の本、「こころの病を診るということ 私の伝えたい精神科診療の基本」(2017年発行)の 第17章 精神療法 の「日常生活に焦点を当てる-根源的な問題を日常生活の問題におきかえる」における記述(P261~P263)を次に引用します。

理解としては、その人の悩みや苦しみをできるだけ深くとらえようとするが、治療はできるだけ「浅い介入」を心がける〔「関与はコンサーバティブに、理解はラディカルに-この二重性とバランスとが支持的心理療法の生命線ではないかと思う」(滝川一廣『心理療法の基底をなすもの』)4)〕。日常生活に焦点を当てて、それに伴う悩みや苦しみに対応する。根源的な問題と日常生活の問題は表裏一体であり、根源的な問題が提起されたとしても、その日常生活上の困難を取り扱う。これをていねいに繰り返しているうちに、より根源的、より本質的な悩み苦しみを、その人なりに解決していくことが少なくない。
根源的な問いを、日常生活の問題へと変換するという例を挙げてみよう。ある青年とのやりとりである。

青年:先生、僕のような人間が生きていて、いいんですか?
医師:僕は生きている価値があると思うし、生きていてほしいと思うよ。
青年:でも、自分みたいな人間はいなくなったほうがいいんです。
医師:そのようなことをいつも考えているの?
青年:いつも考えています。
医師:それはとても苦しいね。でも時にふっと忘れているときはないの?
青年:…犬と散歩をしているときくらいかな、時に忘れていることがあるのは…。
医師:犬と散歩? 結構歩くの?
青年:1時間くらい。
医師:すごいね! 楽しい?
青年:犬が可愛いから…。(このようなポジティブな言葉を大切にしたい)
医師:近くの公園とか?
青年:川沿いを散歩することもあります。
医師:犬も喜ぶでしょ?
青年:はい。
医師:苦しいけど、散歩でしのいでいこうか?
青年:はい。
医師:最近は寒いから、風邪をひかないようにね。
青年:ありがとうございます。

やりとりだけを読むと、青年の根源的な問いをそらしているように感じられるかもしれない。筆者は、「生きる・死ぬ」という根源的な問題を正面から面接の主題にする場合も時にはあるが、それよりも青年のなかにほっとする時間や空間はないか、それを見つけて話題にするほうが青年を生きていく方向に押していくのではないか、と思うのである。たとえば この青年の場合には「犬と散歩する」というほっとする時間があった。もちろん、青年が根源的な問いを抱いているということは頭のなかに留めておくのだが、そのような大きな問いは、生きていくなかで悩みながらその人なりの答えを見つけていくものであろう。根源的な大きな問いの前で立ち止まるよりも、ちょっとした楽しみをふくらませていくように生きていくほうが、その人なりの答えを見つけることができるように思う。
これはたとえば うつ病の回復過程にある患者さんに「最近どうですか?」とたずねて、「ちっとも変わりません。しんどいです」という答えが返ってきたときに、もう少し具体的な日常生活のこと、たとえば「食事の味はどうですか?」などとたずねると「時に、美味しいなと思うことがあります」という返事が返ってくる、といった状況に似ている。抽象的、総論的には、「死にたい気持ちでいっぱい」であっても、日常生活において「ふと、死ぬことを忘れている瞬間」がある。われわれ精神科医は患者さんのそうした瞬間を見つけ、それをふくらませていくことが大切なのではないかと思う。

(8)認知療法の技法「思考と事実を区別する」について(2018-03-19 に公開)
標記について、ロバート・L・リーヒイ著、伊藤絵美、佐藤美奈子訳の本、「認知療法全技法ガイド -対話とツールによる臨床実践のために-」(2006年発行)の 第1章 思考と思い込みを同定する の「技法:思考と事実を区別する」における記述の一部(P19)を次に引用します。

技法:思考と事実を区別する

解説
我々は怒ったり落ち込んだりすると,自分の考えをあたかも事実であるかのように受け止めてしまうことが多い。たとえばある人が,「彼は私を利用している」と思うとき,その人はそれ(彼に利用されていること)が事実であるかのように判断しているのである。しかしその考えは実は間違いで,彼はその人を利用してなどいないのかもしれない。また,たとえば私は,「この発表は失敗に終わるに違いない」と考えて不安を感じることがあるが,実際には“失敗する”と“失敗しない”の両方の可能性があるのである。(後略)

注:引用中の「自分の考えをあたかも事実であるかのように受け止めてしまう(中略)しかしその考えは実は間違い」に関連するマインドフルネスの視点からの、 a) 「考えと事実とを区別する」ことについては次のWEBページを参照して下さい。 「マインドフルネスとOCDの治療」の「§4 OCDでのマインドフルネス」項 b) 「思考は解釈や価値判断を含むが,解釈や価値判断はそれ自体が事実というわけではない」ことについては次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの促進困難への対応方法とは何か」の「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」項

(9)認知療法の技法「バルコニーから眺めてみる」について(2018-03-21 に公開)
標記について、ロバート・L・リーヒイ著、伊藤絵美、佐藤美奈子訳の本、「認知療法全技法ガイド -対話とツールによる臨床実践のために-」(2006年発行)の 第6章 全体像を見渡す の「バルコニーから眺めてみる」における記述の一部(P319)を次に引用します。

技法:バルコニーから眺めてみる

解説
フィッシャーらは,自分に距離をおいて,少し離れた場所から自分と他者との相互作用を把握するよう患者に求める際の技法について解説している(Fisher & Ury, 1991)。セルマンはこのような技法を,自分の役割を系統的に作り上げていくツールとして解説している(Selman, 1980)。患者はこのような技法を活用することで,自分と他者との相互関係を第三者的な視点から検証することができる。私たちは,他者との相互関係にがんじがらめになって,そこから脱け出せず,そのような自分に失望してしまうことがある。この技法の目的は,現状をより超越的で広範な視点からとらえられるよう,患者を手助けすることである。

検討と介入のための問い
「現状から少し距離をおいて,自分自身を眺めてみてはどうでしょうか? ちょうどバルコニーから見下ろすようにです。あなたの目には何が見えるでしょうか? あなたの頭には,どんな考えが浮かぶでしょうか?」(後略)

注:i) 引用中の「Selman, 1980」は次の資料です。 「Selman, R. L. (1980). The growth of interpersonal understanding. New York: Academic Press.」 ii) 引用中の「現状から少し距離をおいて,自分自身を眺めてみる」ことに関連するかもしれない、「コンプリヘンシブ・ディスタンシング(言葉の世界全体から距離を取ること)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「現状をより超越的で広範な視点からとらえる」ことに関連するかもしれない、 a) 「あるがままに物事を見る」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 b) 過敏性を有する方々に対する「観照」(自分の視点にとらわれず、自由で大きな視野から物事を見ること)について、岡田尊司著の本、「過敏で傷つきやすい人たち HSPの真実と克服への道」(2017年発行)の 第八章 過敏性を克服する の 第二節 振り返りの力を養う の「第三者の視点を持つ」における記述の一部(P212~P213)を次に引用します。

(前略)自分から距離をとる技術を身に付け、第三者のように自分や周囲の状況を見つめることができるようになって初めて、自分を苛んでいる苦痛から自由になり、もっと客観的に物事を眺めることも可能になるのです。
その際にも、大きく二つの段階があるとされています。一つは、メタ認知を鍛える段階です。メタ認知とは、認知(物事の見方)の認知です。何かを感じたり考えたりしている自分の感情や思考を、第三者のように見て、感じたり考えることです。振り返りと言ってもいいでしょう。「この絵の道化師の顔は悲しそうね」というのは、一つの物事の見方であり、一つの認知だと言えます。それに対して「自分がこの道化師の絵を見て悲しそうだと感じるのは、もしかしたら、そこに自分自身の姿を見ているからかもしれない」と思うことは、自分の認知についての認知であり、メタ認知によるものだと言えます。
メタ認知によって、人は自分をある程度客観視することができるわけです。それによって自分の視点から少し離れて、他者視点で物事が見えるようになり、さらには世界を俯瞰するように、自分に起きていることを理解し、受け止めることにもつながっていきます。
信頼している上司の厳しい一言に傷ついてしまったときも、自分の視点を離れて、その状況を客観的に見ることができれば、上司はただ仕事のことで真剣に注意してくれただけで、自分を傷つけようとしたわけではないのだと受け止めることもできるでしょう。
メタ認知の能力を高めることによって、状況に飲み込まれて傷ついてしまうことを防ぐことにもつながるのです。メタ認知の代表的な訓練の方法が、認知(行動)療法です。
メタ認知の訓練によって、ある程度自分を客観視することができるようになったとき、最終的に目指す境地が「観照」の段階です。観照とは、自分の視点にとらわれず、自由で大きな視野から物事を見ることです。それは容易にたどり着ける境地ではありませんが、そこまでいかなければ、抱えている苦しみを乗り越えられないという場合もあります。
それは、かつては宗教的な方法でしかたどり着けない境地だったわけですが、一般の人でも取り組みやすい方法として近年普及しているのが「マインドフルネス」です。(後略)

注:引用中「メタ認知」に関連する、脳疲労防止の視点からのメタ認知については他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「マインドフルネス」については他の拙エントリのここを、加えて、マインドフルネスにおける「自分が望むようにではなく、あるがままに物事を見ること」については他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。 iii) 引用中の「観照」にも関連する、 a) 「自分が相手と入れ替わるエクササイズ」について、同の 「自分が相手と入れ替わるエクササイズ」における記述(P218)を次に引用(『 』内)します。 『苦痛から自由になるために本当に必要なのは、自分の視点にとらわれるのではなく、そこを脱し、自分のことを、第三者的な目で眺められるようになることです。その訓練として効果的なのが、自分が相手だったらどうか、想像してみるというエクササイズです。最初は簡単ではないですが、そうした視点の切り替えができると、あなたも禅師のような自由闊達な視座に一歩近づけるでしょう。』 b) 加えて、「よいところ探しのエクササイズ」について、岡田尊司著の本、「愛着アプローチ 医学モデルを超える新しい回復法」(2018年発行)の 第三部 両価型愛着・二分法的認知改善プログラム の プログラムの特徴 の「⑤全部よいも全部悪いもないという逆転の発想を大切にする」における記述の一部(P196)を次に引用します。

(前略)よいところ探しのエクササイズは、悪い出来事の中にもよい点を見つけ出すという作業を、訓練として行うというものである。ネガティブな感情に押し流されやすい場面で、物事をある程度客観的に、別の視点から眺める訓練をするわけだ。感情に圧倒されやすい両価型の人にとって、自分の苦痛や不快さに共感してもらう代わりに、別の見方をしなければならないというのは、過酷に思える面もあるが、これこそがよい訓練になるのだと励ましながら、視点を変える練習をしていくわけだ。
最初は、いやいやであっても、実際にやってみると、視点を変えて、自分の苦痛や不快さではなく、ほかの面について考えたり話したりしているうちに、気分がよくなったり、苦痛や不快さが薄れていくということが起きる。そこから、視点を切り替えて、よい面を考えるということの意味が、少しずつ実感されるようになるわけだ。
両価型で、二分法的認知にとらわれやすい人では、物事は全部よい完璧な状態か、それ以外の不完全で、悪い状態しかないように受け止めがちである。よい状態でなくなると、一気に百点から零点どころか、マイナス百点になってしまいやすい。
しかし、現実の物事はすべて完璧なことなど、あり得ないし、メリットとデメリットというものは、どんなものにも混在している。逆に言えば、どんな悪いことにもよい面があり、実際、最悪に思えたことが、大きなチャンスにつながるということも、しばしば経験される。
悪いことにもよい面を見つけられるようになれば、それだけ適応力が高まるし、ピンチをチャンスに変えていくことも上手になる。
このプログラムでは、そうした逆転の発想を大事にして、物事のよい面を見つけ出す練習を積み、それが自然にできるように定着をはかっていく。
この逆転の発想が身についていくにつれ、物事を達観するということもできるようになっていく。どちらも自分の視点を離れ、とらわれを脱することにより、高い視点を手に入れるということなのである。

注:i) 上記「愛着アプローチ」に関連して、スキーマ療法においても愛着(又はアタッチメント)を考慮した「治療的再養育法」(他の拙エントリのここを参照)があります。ちなみに、上記「愛着」に関連する「愛着障害」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「両価型」及び「二分法的認知」の解説としての次に引用する(『 』内)記述が同本の P94~P95 にあります。 『ただ、親の不安定な愛着の問題が深刻な場合には、「両価的」(本心では愛情やかかわりを求めながら、拒絶や攻撃といった正反対な態度をとるなど、二律背反的な感情や行動が見られること)で二分法的(全肯定か全否定かといった両極端で中間のないこと)な考えにとらわれやすいため[後略]』(注:引用中の「二分法的」に関連する「両極端で二分法的な認知」については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい) iii) 標記「悪い出来事の中にもよい点を見つけ出すという作業を、訓練として行う」に関連する、弁証法的行動療法における承認(又はヴァリデーション、認証)について、 a) 岡田尊司著の本、「過敏で傷つきやすい人たち HSPの真実と克服への道」(2017年発行)の 第八章 過敏性を克服する の 第一節 肯定的でバランスの良い認知 の「良いところ探しのエクササイズ」 における記述(P208~P209)を以下に引用します。 b) 他の拙エントリのここ及び次の資料を参照して下さい。 「心身医学領域で出会う“感情調節困難”患者への心理的アプローチ -弁証法的行動療法,特に承認から学ぶ-」 iv) 標記「自分の視点を離れ、とらわれを脱することにより、高い視点を手に入れる」に関連する、 a) 「愛着が安定とリフレクティブ・ファンクションとの関連及びリフレクティブ・ファンクションを高めることが自己超越につながる」ことについて、岡田尊司著の本、「愛着アプローチ 医学モデルを超える新しい回復法」(2018年発行)の 第一部 医学モデルの限界と愛着モデル の「克服のために必要なこと」における記述の一部(P98~P99)を以下に引用します。 b) 「自分の視点にとらわれるのではなく、そこを脱し、自分のことを、第三者的な目で眺められるようになる」ための「自分が相手と入れ替わるエクササイズ」について、同章 過敏性を克服する の 第二節 振り返りの力を養う の「自分が相手と入れ替わるエクササイズ」における記述(P217~P218)を以下に引用します。

良いところ探しのエクササイズ
強い自己否定や生きづらさを抱え、死にたいという気持ちにつきまとわれ、自傷や自殺企図を繰り返す状態に、境界性パーソナリティ障害があります。その治療に有効な数少ない心理療法として知られているのが弁証法的行動療法で、その治療法の一つの柱となっているのが「ヴァリデーション戦略」です。
ヴァリデーション(認証)の考え方や方法はとても有効なので、他の領域にも広く取り入れられています。たとえは、認知症の人の介護や支援においても、病状の進行を遅らせたり、生活機能の維持やメンタル面の安定に有効とされます。
ヴァリデーションとはどういう考え方かと言うと、ありのままの現状を受け入れ、肯定するということです。そのために、できない点や悪化した点にばかり目を向けるのではなく、良い点やできることに目を向け、そこを肯定的に評価するようにするのです。
良いところ探しのエクササイズは、困ったことや悪いことが起きたときこそ取り組むチャンスです。物事がうまくいっているときは、誰でも肯定的な感情や考え方をもちやすいものです。その真価が問われるのは、うまくいかないことに遭遇したときです。その意味で、良くないことが起きたときこそ、訓練の絶好の機会なのです。

注:i) 引用中の「他の領域」に関連する、慢性痛における上記「ヴァリデーション」(validation)については、次の資料を参照して下さい。 「慢性痛患者の心理アセスメントのキーポイント -慢性痛と怒り-」の Ⅳ 感情調整 の「4. 弁証法的行動療法における承認(validation:妥当化)戦略」項 加えて、引用中の「ヴァリデーション戦略」に相当する「承認戦略」については、他の拙エントリのここにおける引用の「2 ●承認戦略」項を参照して下さい。 ii) 引用中の「境界性パーソナリティ障害」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 iii) 引用中の「良いところ探し」としての例である a) 「うつ病は、警告信号でもある」ことについて、青木省三著の本、「精神科治療の進め方」(2014年発行)の 第7章 うつ病・抑うつ状態 の「1 うつ病は、警告信号でもある」における記述の一部(P104)を、 b) 「躁うつ的な波はマイナスばかりでない」ことについては、「こころの科学 200号(2018年7月)」中の青木省三著の文書「最終講義――私の歩んだ精神科臨床の道」の「それまでに抱いていた疑問」における記述の一部(P158)を、 c) 「ADHDにおいて短所と長所は表裏一体である」ことについて、岩波明著の本、「ウルトラ図解 ADHD」(2018年発行)の 第4章 生活の中でできる工夫 の「周囲の人ができること」における記述の一部(P145)を それぞれ以下に引用します(注:c) の引用は形式を変えています)。

1 うつ病は、警告信号でもある

〔症例1〕自営業の50代の男性――「うつ病になってよかった」
ある50代前半のうつ病の男性は、抑うつ気分、意欲の減退が持続しており、2回の入院治療を行ったが、なかなかすっきりとしない状態が続いていた。仕事が手につかない、考えがひらめかない、決断できない、すぐに疲れてしまう、などの症状のため、自営の工務店を閉じるというところまで話が進んでいた。抗うつ薬も充分量を処方したが改善せず、3回目の入院治療をしようかという話も出ていた。男性は40代のとき、早朝から夜12時頃まで働くという毎日で、40代の終わりには、仕事のトラブルや景気の悪さがきっかけで、うつ病になったのである。
治療を始めて、2年あまりがたったある日、男性は突然、「先生、私はうつ病になって命を救われました」と言い出した。40代の頃、自営で頑張っていた仲間が、このところ相次いで倒れた。一人は心筋梗塞で亡くなり、一人は脳出血で亡くなり、もう一人も脳出血後、一命は取り留めたものの重い後遺症が残った。仲間のお葬式に参列し、若くして亡くなった友人の無念さを思い、残された家族の悲しみを思うととてもつらくたまらない気持ちになったという。その時、ふっとうつ病が自分を救ってくれたと感じたのだという。そして男性は「このごろ、女房と、『うつ病にならんかったら、ワシも死んでいたよなー』と話し、うつ病になったことを感謝しているんです」と言うのであった。うつ病に感謝しはじめてから、不思議なほど男性は回復しはじめ、閉じる方向に進んでいた自営業を再開するまでに至った。「○○さんはやりだしたらブレーキがきかないから、これからはうつ病の代わりに自分でブレーキをかけないとね」といつも自制を促しているのが、ここ10年余りの外来診療である。時に疲れがでることはあるが、元気に仕事を続けている。(後略)

注:i) 引用中の「うつ病」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 ii) 引用中の「心筋梗塞」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「[http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph92.html:title=[92] 心筋梗塞が起こったら]」

それまでに抱いていた疑問(中略)

たとえば双極性障害の薬物療法を勧めた時に、「先生、軽躁がなくなったら、私は生きていかれません。私は人前でパリッとしていないと、仕事にならないのです」と、ある企業の経営者の方から言われたのです。自分から軽躁状態をとったら、経営者の仕事ができなくなると、私はその人に説得されて、「ああ、そうだよね」と(笑)。たしかにその人がパリッとしていなかったら、トップとしてやっていかれない。「でも躁状態の時だけ仕事するのでいいのですか?」とお聞きしたら、「いいんです」と言われたので、「軽躁状態の時だけ仕事をする」という方針にした人がいました。
うつ状態の時は、会社では「社長はハワイに行っている」ということになっていました。(中略)

躁とか軽躁の治療をしていると、もちろんその治療が、躁やうつによりいろいろなものを失うことを防ぎ、その人生の質を高めるという場合もあるのですが、生き生きしたところがなくなったり、生きる元気がなくなったりする場合もあるように思うのです。躁うつ的な波はマイナスばかりでない。こういう場合はどうしたらいいかなと思っていました。

注:i) 引用中の「双極性障害」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 ii) トレードオフの視点からの引用中の「双極性障害の薬物療法」に関連する、「ADHD治療薬の服用」については次のエントリを参照して下さい。 「内海健『ADDの精神病理』から考える。その②」の「ADHD症状とクリエイティビティのトレードオフ」項

(前略)長所と短所は表裏一体[引用者による注:左側の記述は「短所だと思う」場合であるのに対し、右側の記述は「長所としてみる」場合です](中略)

●綿密さが足りない ⇒ 直感的で柔軟な考え方ができる
●集中力が続かない、注意散漫 ⇒ 切り替えが早く、次の局面にすぐ適応できる
●毎日くり返ししなければならないことを忘れる ⇒ 決まった流れにしばられない、独創的
●落ちつきがなく、じっとしてられない ⇒ フットワークが軽く、エネルギッシュ
●他人の話に割り込んだり、じゃまをしたりする ⇒ ためらわずに介入できる、新しい局面を切り開く
●しゃべりすぎる ⇒ 積極的にコミュニケーションを取ろうとする(後略)

注:引用中の「独創的」と関連するかもしれない、「ADHDのひとはクリエイティビティを発揮できる舞台があれば活躍できる」ことについては、次のエントリを参照して下さい。 「内海健『ADDの精神病理』から考える。その② 」の「ADHD症状とクリエイティビティのトレードオフ」項

注:次はここにおける「愛着が安定とリフレクティブ・ファンクションとの関連及びリフレクティブ・ファンクションを高めることが自己超越につながる」ことについての引用です。

克服のために必要なこと

これまでの研究で、恵まれない境遇にもかかわらず愛着が安定している人では、振り返る力であるリフレクティブ・ファンクションが高いことが指摘されている*31。また、不安定な愛着の人が、安定型の愛着に変わっていくとき、リフレクティブ・ファンクションが高まり、自分の状況を客観的に振り返ったり、相手の立場に立って考えたりすることができるようになることも知られている*32。
こうしたことから、リフレクティブ・ファンクションを高めるような取り組みが、愛着の安定化につながることが期待される。
リフレクティブ・ファンクションには、反省とか振り返りといった機能だけでなく、相手の立場に立って考えるという共感的な機能も含まれる。自分を振り返る能力と、相手の立場に立って相手を思いやる能力は、自分の感情や利害といった狭い視点を超えて別の視点で事態を見るという意味において、どちらも自己超越の営みだと言える。自分の痛みや恨みといったとらわれを脱するためには、自己超越することが、最終的な課題になるのである。(後略)

注:i) 引用中の「*31」及び「*32」はそれぞれ次の論文です。 「Maternal reflective functioning among mothers with childhood maltreatment histories: links to sensitive parenting and infant attachment security.」、「Change in attachment patterns and reflective function in a randomized control trial of transference-focused psychotherapy for borderline personality disorder.」 ii) 引用中の「不安定な愛着」に関連する「愛着障害」については、例えば拙エントリのここを参照して下さい。

注:次はここにおける「自分の視点にとらわれるのではなく、そこを脱し、自分のことを、第三者的な目で眺められるようになる」ための「自分が相手と入れ替わるエクササイズ」についての引用です。

自分が相手と入れ替わるエクササイズ
人から傷つけられるような体験をしたとき、その痛みゆえに、誰でも怒りや悲しみにとらわれ、傷つけられたという自分の状況しか見えなくなってしまいます。しかし、自分の視点にとらわれることで、よけいにそこから脱しにくくなるのです。
苦痛から自由になるために本当に必要なのは、自分の視点にとらわれるのではなく、そこを脱し、自分のことを、第三者的な目で眺められるようになることです。
その訓練として効果的なのが、自分が相手だったらどうか、想像してみるというエクササイズです。最初は簡単ではないのですが、そうした視点の切り替えができると、あなたも禅師のような自由闊達な視座に一歩近づけるでしょう。

(10)社交不安症(社交不安障害)に対する認知行動療法のSTEP『注意の偏り(バイアス)「自己注目」に気づく』について(2018-03-22 に公開)
標記について、清水栄司著の本、『自分で治す「社交不安症」』(2014年発行)の 第3章 人がコワイを自分で治すための12STEP の『STEP③注意の偏り(バイアス)「自己注目」に気づく』における記述の一部(P68)を次に引用します。

(前略)自分に注意が向きすぎるために、余計に不安になったり、緊張してしまったりします(中略)

このSTEPの目当て
・注意の偏りに気づく
・注意がシフトできるように練習する
・注意のバランスに配慮できるようにする(後略)

注:i) 引用中の「自分に注意が向きすぎる」に関連する、 a) 「周囲を気にしているようで、じつは自分に注目している」について、貝谷久宜監修の本、「社交不安症がよくわかる本」(2017年発行)の 3 医療機関でおこなう治療法を知っておこう の「不安を知る② 不安を大きくするパターンに気づこう」における記述の一部(P53)を次に引用(『 』内)します。 『周囲からの評価が不安でたまらない、というと、周囲を意識しているようですが、実際には、「自分の挙動が相手にどう見られているか」が心配で、意識は自分に向いています。自分を気にしすぎて、周りを冷静に見られなくなっています。』 b) 『自分自身に注目しすぎる「自己注目」と他者の否定的な反応に注目しすぎる「注意バイアス」』については、次の資料を参照して下さい。 「社交不安症における注意制御不全への介入方法の最適化」 ii) 引用中の「注意のバランス」に関連するかもしれない「注意制御機能」については、例えば資料「社交不安と不安感受性および注意制御と抑うつ症状の関係性」があり、資料「社交不安と注意制御機能, 解釈バイアスの関連」は、次のWEBページから pdfファイルとしてダウンロードできます。「社交不安と注意制御機能, 解釈バイアスの関連」 加えて、トラウマ経験者における認知注意症候群については、例えば資料「トラウマ経験者における認知注意症候群に対するメタ認知的信念尺度の作成」は、次のWEBページから pdfファイルとしてダウンロードできます。「トラウマ経験者における認知注意症候群に対するメタ認知的信念尺度の作成」 iii) 引用中の「注意がシフトできるように練習する」に関連するかもしれない、 a) 「注意シフトトレーニング」については次の資料を参照して下さい。 「社交不安障害(社交不安症)の認知行動マニュアル(治療者用)」の「注意シフトトレーニング」項 b) 社交不安症やうつ病等における「注意訓練」については、例えば、 1) 資料「注意訓練法が注意機能及びメタ認知的信念・ネガティブ感情に与える影響」は、次のWEBページから pdfファイルとしてダウンロードできます。「注意訓練法が注意機能及びメタ認知的信念・ネガティブ感情に与える影響」 2) 次の資料を参照して下さい。 「うつ病の病態維持に関わる前頭葉機能異常と注意制御機能訓練の治療効果」 3) 資料「注意訓練がマインドワンダリング及び抑うつ・不安へ及ぼす影響」は、次のWEBページから pdfファイルとしてダウンロードできます。「注意訓練がマインドワンダリング及び抑うつ・不安へ及ぼす影響」(注:上記「マインドワンダリング」については、他の拙エントリのここを参照して下さい) c) ヴィパッサナー(マインドフルネス)瞑想における注意の分割については、例えば次の資料やWEBページを参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「マインドフルネス実践の方法論上の特徴」項、『「心の省エネ」を実現し、「個の力」を高める“マインドフルネス”療法とは?』(ちなみに、上記ヴィパッサナー瞑想における注意の分割にも関連した「距離ゼロの俯瞰」についてのツイート[参照参照]があります) iv) 引用中の「注意の偏り」に相当する「注意バイアス」については例えば次の資料を参照して下さい。 「高不安者の脅威語への注意バイアスが記憶バイアスに及ぼす影響」 iv) 引用中の「注意が向きすぎる」に関連するかもしれない「精神交互作用」(神経症において症状に注意を向ければ向けるほど症状が強まる悪循環)については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「不安」及び「緊張」に関連するかもしれない「感情」と上記注意との関係について、 a) 「不安の苦しい感情があると,注意の視野が狭くなり,自己批判的になったり何かと評価したりしやすくなる」ことについては他の拙エントリのここを、 b) 「感情は、その刺激が継続して起こる時と注意を集中する時に強くなる」ことについてはWEBページ「森田療法を理解するためのキーワード」の「感情の法則とは」項を それぞれ参照して下さい。 vi) 引用中の「注意がシフトできる」に関連する、過敏性を有する方々に対する「注意の切り替え」について、岡田尊司著の本、「過敏で傷つきやすい人たち HSPの真実と克服への道」(2017年発行)の 第四章 発達障害と感覚処理障害 の「注意力と過敏性」における記述の一部(P120)を次に引用(『 』内)します。 『注意の切り替えは、一つの視点から別の視点へ切り替える機能で、これが弱いと、一つの見方しかできなかったり、一つの視点にとらわれやすくなります。異変や間違いに気づくのにも、注意の切り替えが必要です。』 加えてこれに関連するかもしれない「気になっていることばかり頭に浮かんでしまう」について、同本の 第八章 過敏性を克服する の 第二節 振り返りの力を養う の「マインドフルネスはなぜ有効なのか」における記述の一部(P222~P223)を次に引用(『 』内)します。 『しかし、実際のところ、過敏になっている状態のときには、気になっていることばかり頭に浮かんでしまうという悪循環に陥りがちです。流そうと思っても、そこにじっと動かずにあって、その人を苦しめ続けていることが頭を離れてくれません。放っておこうとしても、気が付いたらまた考えてしまい、堂々巡りが続いてしまうこともしばしばです。この無間地獄のような状態から、どうしたら抜け出せるのでしょうか。そこで役に立つ強い武器が、呼吸と身体感覚への注目なのです。マインドフルネスがとても有効な方法となり得たのも、この武器があったからです。』(注:引用中の「マインドフルネス」については他の拙エントリのここを参照して下さい) vi) 自閉スペクトラムの身体症状において、引用中の「注意の偏り」に関連するかもしれない「興味の焦点化」については他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、感覚に注意が集中していると、些細な変化を身体の異常と捉え、心気的となることがあることについて、青木省三著の本、「精神科治療の進め方」(2014年発行)の 第3章 経過を読む の 1 どのような時間単位で変化するか の「(1) 1日の中で変化する」における記述の一部(P42)を次に引用します。

(1) 1日の中で変化する
ある自閉症スペクトラムの人に、気分の変化を図に描いてもらうと、1日の中で線が上に行ったり下に行ったりを頻繁に繰り返す、ギザギザとしたものであった。それは、細部にとらわれ全体を捉えることが苦手で、気分を大きく捉えることができず、細部をきわめて敏感に捉えているからだとわかった。
注意の集中やこだわりは、心身の不調や心配事などの具体的なものに向かいやすく、たとえば、便秘や不眠へのこだわりとなって現れたりする。
感覚に注意が集中していると、些細な変化を身体の異常と捉え、心気的となることがある。本来であれば閾値下の身体の動揺をキャッチするようになる。(後略)

注:自閉症スペクトラムにおける引用中の「感覚に注意が集中していると、些細な変化を身体の異常と捉え、心気的となることがある。」に関連する、 a) 自閉症スペクトラムにおいて『ストレスが強まると,この「感覚過敏」や「興味」の対象の狭さがより際立ってきて,それに伴ってさまざまな症状が出ることがある』ことについては、拙エントリのここを参照して下さい。 b) 身体的苦痛症(Bodily distress disorder - ICD-11)において「注意の度合いは過度」なことについては、例えば次のブログ記事を参照して下さい。 「10 Disorders of bodily distress or bodily experience 10身体的苦痛症群または身体的体験症群 ICD-11」の「10.1 Bodily distress disorder 身体的苦痛症」項 c) 身体表現性障害において「常に身体に注意が向いていて,ささいな病状でも病気ではないかと不安になる」ことについて、近藤直司、田中康雄、本田秀夫編集の本、「こころの医学入門 医療・保健・福祉・心理専門職をめざす人のために」(2017年発行)の 講義08 神経症とその周辺 の 3. 身体についての症状を示す神経症 の「(2) 身体表現性障害」における記述の一部(P091)を次に引用します。

(2) 身体表現性障害

身体症状を執拗に訴えて,病院で検査をして異常がないことがわかっても,何度も病院を受診するような行動を示す人で,社会生活にも支障を来している場合に,身体症状症と診断します。身体化症(身体症状症)と診断される人は,痛み,吐き気,おくび,しびれ,月経不順などいくつかの身体症状を訴えて,複数の医療機関を受け続けます。こういう人たちは,常に身体に注意が向いていて,ささいな症状でも病気ではないかと不安になり,不必要な薬物療法や複数の不必要な手術を受けていることもあります。(後略)

注:この引用部の著者は生地新です。 ii) 引用中の「身体表現性障害」については次のWEBページを参照して下さい。 「身体表現性障害 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「身体症状症」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「身体症状症(旧:身体表現性障害)

(11)脳が脅威を感じることにおける「低位回路」について(2018-09-18 に公開)
標記について、ウェンディ・ビヘイリー著、伊藤絵美、吉村由未監訳の本、「病的な自己愛者を身近にもつ人のために あなたを困らせるナルシシストとのつき合い方」(2018年発行)の 第4章 障壁を乗り越える の「定位回路」における記述の一部(P123)を次に引用します。

低位回路
ダニエル・シーゲルは、脳が脅威を感じると、皮質下の下部領域の一部(脳幹と辺縁系の領域)が活性化することを私に教えてくれました。これらの皮質下領域が「脅威」の判断を受け取ると(この領域には扁桃体として知られる部分が含まれています)、人はストレスを感じ、脅威に対する行動を準備させるためのメッセージが身体に送られます。それには、アドレナリンのような興奮作用のあるホルモンの分泌も含まれます。これらの反応は非常に素早く生じます。その仕組みは脳にしっかりと組み込まれており、それが「闘争-逃走-麻痺」の反応を引き起こします。これは、人間を含むほとんどの動物がもつ、真の危険や致命的な状況に直面した際に活性化される、生存のための重要な戦略なのです。
シーゲルによれば、脅威を感じる状況においては、脳は時に前頭前野の高次機能を遮断することがあり、彼はこれを脳の機能の「低位回路(low road)」と名づけました。前頭前野は、人間の脳のいわば「最高経営責任者」のような部分で、私たちが自らの心を落ち着かせたり、身体の動きを調整したり、推論を行ったり、外部の状況をモニターしたり理解したりすることと深く関わっています。脳の低位回路が機能するということは、これらの高次機能を失うことを意味します。前頭前野の機能が遮断されてしまうと、夜中に聞こえた物音が、侵入者がコソコソと階段を上る音ではなく、水道管の中を単にお湯が流れている音であるということを判断できなくなってしまいます。シーゲルの研究は、生活の中で見られる低位回路の働きを理解したり制御したりする方法に関する知見を提供してくれています(Siegel, 2001, 2007; Siegel & Hartzel, 2004)。(後略)

注:i) 引用中の「Siegel, 2001」は次の本です。 「Siegel, D. J. 2001. The Developing Mind: How Relationships and the Brain Interact to Shape Who We Are. New York: Guilford Press.」 ii) 引用中の「Siegel, (中略)2007」は次の本です。 「Siegel, D. J. 2007. The Mindful Brain: Reflection and Attunement in the Cultivation of Well-Being. New York: W. W. Norton.」 iii) 引用中の「Siegel & Hartzel, 2004)」は次の本です。 「Siegel, D. J., and M. Hartzell. 2004. Parenting from the Inside Out. New York: Jeremy. P. Tarcher.」は次の論文です。 iv) 引用中の「扁桃体」については、引用中の「前頭前野」に関連する「内側前頭前皮質」を含めて、トラウマの視点から拙エントリのここここを参照して下さい(特にここにおける引用の「ストレス反応を制御する――監視塔」項)。 加えて、引用中の「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「低位回路(low road)」に関連する「低い道」については、他の拙エントリの拙エントリのここここを参照して下さい(特にここにおける引用の「危険を突き止める――料理人と煙探知機」項)。 vi) 引用中の「闘争-逃走-麻痺」に関連する「闘争-逃走反応」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vii) 引用中の「アドレナリン」については、上記「闘争-逃走反応」の視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。

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注:本エントリは仮公開です。予告のない改訂(削除、修正、追加、公開日や修飾の変更等)を行うことがあります。

*1:注:[ご参考1]~[ご参考3]を参照する前に、特に脳機能の説明を参照した方が良いかもしれません。

*2:前頭前野には眼窩前頭皮質が含まれます

*3:馴化はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。一方、他の拙エントリにおいては、ここここここ及びここを参照して下さい

*4:対象となる疾患・障害例:化学物質過敏症、シックハウス症候群、PTSD、複雑性PTSD[含愛着障害]、強迫症(強迫性障害)、社交不安症、パニック症(パニック障害)、ADHD 注:これらの疾患・障害と見紛う場合やグレーゾーンを含むことがあります

*5:これら以外の次のキーワードもこのリンクを参照して下さい。「爬虫類脳」、「哺乳類脳」、「情動脳」、「理性脳」、「煙探知機」、「監視塔」、「洞察」

*6:ちなみに、「情動」又は情動関連キーワードについては、ここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここ及びここを参照して下さい

*7:ちなみに、「PTSD」を含む引用はここを参照して下さい

*8:「ニオイのある化学種数」についてはここを参照して下さい

*9:「プルースト現象」は「プルースト効果」とも称されます

*10:存在することを仮定した場合の話です

*11:嗅覚や刺激閾値及び室内濃度指針値を含みます

*12:ちなみに、中毒症状がでるホルムアルデヒドの曝露濃度についてはここを参照して下さい

*13:本エントリでは代表的なホルムアルデヒド及びトルエンを紹介しました

*14:すなわち、超微量のことです

*15:すなわち、臭うのは上記超微量より多い量(濃度)だからです

*16:すなわち本エントリ作者の見解として、例えば室内において、「(臭わない超微量)8ppbのホルムアルデヒドに反応する人がいる」との主張は不思議で、立証が必要と思います。一方、「室内濃度指針値80ppbを大幅に超える、臭う800ppbのホルムアルデヒドに反応する人がいる」との主張は特に不思議とは思いませんが、(臭い※2に反応していないならば)これは化学物質過敏症ではなく、シックハウス症候群の症状とするのが妥当ではないかと思います。ただし、※2[ご参考3]で引用した意見があります。ちなみに、ホルムアルデヒドの曝露濃度のまとめはこちらを参照して下さい。

*17:この著者が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*18:この著者の方々が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*19:この著者の方々は臨床環境医ではないようですが、先行研究を参考にして誘発試験を実施したようなので、本エントリで言及します。ちなみに、この負荷試験では、疾患概念である化学物質過敏症の存在に対するエビデンス積み上げに失敗しています。

*20:この資料の著者の方々が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*21:加えて、記憶や経験に基づく認知処理を伴う又は個人差を伴う嗅覚を主とした、嗅覚における一般的な説明は次を参照すれば良いかもしれません。 a) 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」 b) 「におい刺激に対する感覚強度に及ぼす認知的要因の影響:短時間・断続的に提示されるにおい刺激に対して」 c) 「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」 d) 「嗅覚のメカニズム ~ヒトはどのように匂いを感知するのか~」の「3.匂いの感じ方の個人差」項 e) 「食行動やにおいに関わる感情-nature-nurture 問題の新たな地平を探る」の 綾部早穂先生による話題提供の報告部

*22:ちなみに、医学分野を特定しないマインドフルネスの背後にある心理神経的メカニズムについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、マインドフルネスによる脳の機能と構造への効果についてのシステマティックレビュー例については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

*23:ちなみに、a) 「自己洞察」の視点から「メタ認知」を紹介しています。 b) WEBページ「メタ認知 - 脳科学辞典」中の「神経基盤」項において、次に引用する(『 』内)記述があります。 『(前略)内側前頭前野とメタ認知の関連が指摘されている[19]。 』 ただし、引用中の文献番号「[19]」は次の論文です。 「Metacognition: computation, biology and function.

*24:特に、リンクされている pdfファイル「低用量の有機溶剤を条件刺激とする嗅覚嫌悪条件づけ手続き」の「1 はじめに」項を参照して下さい

*25:自閉症スペクトラム障害、ASD:Autistic Spectrum Disorder とも称され、アスペルガー症候群とも一部が重なります。他の拙エントリのここを参照して下さい。

*26:一方、化学物質過敏症関連として、科学研究費助成事業に次の研究が採択されています。期間は2016~2018年度、研究代表者は内山巌雄です。この分野の発展も本エントリ作者には楽しみです「化学物質に対する非特異的な過敏状態の解明とその改善方法に関する研究

*27:続報は次の論文のようです。「Disrupted effective connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex in social anxiety disorder during emotion discrimination revealed by dynamic causal modeling for FMRI.

*28:ただし、扁桃体と前頭前野の結合性を含みます

*29:一方、論文にはなっていないようですが、「いわゆる化学物質過敏症」患者を対象として、心地よい匂いと不快な臭いを嗅いでいる時の安静時脳活動を測定し、不快な臭いが安静時の脳活動に与える影響について、資料『「化学物質過敏症」を訴える集団における微量化学物質影響のリアルタイムモニタリング』の「4. 研究結果」における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『(3) 心地よい匂いと不快な臭いを嗅いでいる時の安静時脳活動を測定し、不快な臭いが安静時の脳活動に与える影響を調べた結果、不快条件で背外側前頭前野(DLPFC)の活動が有意に高くなっていた。また fMRI 画像の各 voxel に存在する低周波領域(0.01-0.1Hz)の信号を定量化した ALFF を用いて評価した場合、両側の前島皮質(anterior insula)の活動が認められた。前島皮質は、痛みなどの情動反応と関連している領域であり、嫌いな臭いが有訴者の不快な持続的情動反応として生じていることが示唆された。』(注:i) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 ii) 引用中の「前島皮質」に関連する、 a) 「セイリエンス・ネットワーク」についてはここを参照して下さい。 b)「島」については、次のWEBページを参照して下さい。「島 - 脳科学辞典」)

*30:ちなみに、この論文が発表されたジャーナルのインパクトファクターについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。

*31:ちなみに、次の資料(他の拙エントリのここ参照)の「6.臨床検査」において、この論文についての短い説明があります。この部分を次に引用します(『 』内)。 『Azuma ら14) は、一般的な嗅覚検査キットを用いていわゆる化学物質過敏症患者での嗅素反応時の脳血流量の変動を、近赤外分光法(NIRS: Near-Infrared Spectroscopy)を用いて健常者と比較している。いわゆる化学物質過敏症患者では、嗅素負荷時と回復時における脳血流の活性化部位について、負荷時は前頭前皮質(prefrontal cortex: PFC)、回復時は眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex: OFC)の領域が健常人に比して強く活性化していることが証明されている。』 注:a) 文献番号「14)」は、もちろんこの論文です。 b) 論文の「Discussion」の最後に結論が記述されています。参考までに次に引用します(『 』内、拙訳を含む)。『In conclusion, despite the small sample size, this experimental study detected an activation that remained even after olfactory stimulation, specifically in the PFC of patients with MCS. We propose that recovery from such activation is delayed in patients with MCS and that their chemical-sensitive state remains due to the repeated daily exposure, leading them eventually to develop intolerance to these odorants. Our study demonstrates that NIRS imaging objectively reflects the status of patients with MCS.[拙訳]結論として、小さなサンプルサイズ(被験者数)にもかかわらず、この実験的研究は、特に MCS を伴う患者の PFC において、嗅覚刺激後さえも残存する活性化を検出した。MCS を伴う患者におけるこのような活性化からの回復が遅れ、そしてこれらの臭気物質への不耐に最終的に導く日常の繰り返し曝露による化学物質過敏状態の存続を我々は提案する。NIRS イメージングは MCS を伴う患者の状態を客観的に反映することを我々の研究は実証する。』

*32:要旨はここで引用しています

*33:要旨はここで引用しています

*34:加えて、様々なフルーツの香気成分の概略については次の資料を参照すると良いかもしれません。 「水溶性フルーツ香料の開発」の「1.7 各果実について」項(P.5~P.6)

*35:アロマセラピーはアロマテラピーとも呼ばれます

*36:加えて、引用中の『「映画の世界」だと思わずに、現実だと信じ込んでしまう』ことに関連する、マインドフルネス(認知療法)の視点からの、 1) 『「現実」には、自分の思考、感情、身体感覚、記憶などの私的出来事も含まれるが、公的・私的出来事を問わない対象と「観察する自分」との間に、さらに解釈や評価をする思考・イメージ・感情などが入り込んできて、それらを現実や自分と取り違えることで、あるがままに知覚できなくなり、「妄想」の世界が広がってしまう』ことについては、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネス認知療法」の「マインドフルネスとは」項 2) 「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」及び/又は「思考は解釈や価値判断を含むが,解釈や価値判断はそれ自体が事実というわけではない」については、共に次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの促進困難への対応方法とは何か」の「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」項 3)「全ての感情や自己イメージは、心の中の一過性の出来事にすぎない」ことについては、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「心理臨床への示唆」項