krns-linkのブログ

まだ仮公開で、今後も本公開までドタバタします。コメント欄は有りません。ちなみに、拙ブログ作成者は医療関係者ではありません。拙ブログは訪問者の方々がお読みになるためのものですが、自己責任でお読み下さい(念のため記述)。

化学物質過敏症における原因物質の曝露濃度について

① 本エントリ内の様々な医学・脳科学関係用語のリンク
(化学物質過敏症)診断のゴールド・スタンダード  Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医)の定義  嗅覚の過敏(※2[ご参考1][ご参考2]及び[ご参考3]参照)*1
扁桃体と前頭前野の結合性 *2  馴化(消去学習を含む)*3ここここここ及びここ参照)  プラセボ及びノセボ反応の無意識活性化  ストレス反応
記憶(ここここ及びここここここここここ及びここ参照)  嗅覚の生理・心理学  各種疾患・障害における脳科学 *4
脳幹、視床下部、扁桃体、海馬、大脳辺縁系、前頭葉、前頭前皮質、内側前頭前皮質 *5  情動と理性 *6  闘争/逃走モード(ここの「ストレス反応を制御する――監視塔」項参照)
マインドフルネス瞑想、ヨガ(ここの「ストレス反応を制御する――監視塔」項参照)  辺縁系セラピー  PTSDと臭気との関連
香気物質  カビ臭  メディカル・アロマセラピー、精油の成分  アロマセラピーにおけるシステマティック・レビュー(ここ及びここ
プルースト現象  嗅覚の学習記憶  臭い想起記憶  におい物質の嗅覚閾値ここ及びここ
日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体  香気物質の揮発性と分子量の小ささとの関係  悪臭苦情件数  ルール支配行動
一つ一つの現象をありのままに見て、イメージを作らない(ここここ)  欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知の仕方から身を離す  ありのままの現象を認知する  放逸
騒音過敏  MCS と騒音過敏及び聴覚過敏との関連  聴覚過敏

ご参考:他の拙エントリのリンク集(ここ及びここ参照)にも、一部ですが本エントリに関連した用語のリンクがあります。

はじめに

ご参考:ちなみに、本エントリ作成のプロセスは他の拙エントリのここで示すものと似ている点があります。

化学物質過敏症における原因物質(以下原因物質と略する)の曝露濃度については、「NATROMの日記」のコメント欄(旧id)に一部を紹介済みですが、yutanpo1984様による次のツイートに関連して、本エントリを作成しました。https://twitter.com/yutanpo1984/status/590782621862461440又はここ参照。ただし、「香料」ではなく、原因物質*7の「臭い」についてですが。ちなみに、i) 1ppm=1000ppb、1%=10000ppm です。 ii) 本エントリにおいて、a) 用語「MCS」は Multiple chemical sensitivity[多種化学物質過敏状態]の略です。 b) 用語「IEI」は Idiopathic Environmental Intolerance[本態性環境不耐症]の略です。他の拙エントリのここを参照して下さい。

≪主な改訂の履歴≫
2015年6月11日、12日、14日、16日、8月26日、2016年1月9日、7月1日、4日、10日、15日、23日、2016年10月3日、2017年1月28日、30日、3月26日、29日、4月10日、20日、5月3日、6月4日、7月2日、9日、13日、17日、27日、31日、8月4日、10日、14日、21日、27日、30日、9月8日、11日、16日:項目の追加、文章の追記をはじめとした改訂を実施しました。

背景

William J Rea 医師をはじめとする Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医、以下臨床環境医と称する※1)は、MCS、CS、化学物質過敏症(以下まとめて化学物質過敏症と称する)を提唱しました。疾患概念である化学物質過敏症の存在を立証する責任は臨床環境医側にあります。そこで彼らは立証のための盲検法による誘発試験(負荷試験、チャレンジテストとも称する、例えば、次の複数の引用参照)を考案し、複数実践しましたが、誘発試験のシステマテック・レビューにより化学物質過敏症の存在を否定されています。

原因物質の曝露濃度

臨床環境医が考案した上記誘発試験で適用した代表的な原因物質(ホルムアルデヒド及びトルエン)の曝露濃度等*8を以下の引用等で示し、次にまとめました。原因物質の曝露濃度のレベルについての考察を以下に試みます。

曝露濃度のまとめと結論

(ア)ホルムアルデヒド

嗅覚や刺激閾値0.5ppm (500ppb)又は200~300ppb
室内濃度指針値:80ppb
誘発試験での曝露濃度:8ppb、40ppb、80ppb又は40ppb、80ppb

(イ)トルエン

嗅覚や刺激閾値0.9ppm (900ppb)又は0.33ppm (330ppb)
室内濃度指針値:70ppb
誘発試験での曝露濃度:5ppb、10ppb、25ppb又は35ppb、70ppb

(ウ)結論

これらのまとめより、化学物質過敏症おける原因物質*9の曝露濃度は、嗅覚や刺激閾値よりさらに低い室内濃度指針値以下の濃度*10であると本エントリ作者は考えます。これに従うならば、臭う※2 *11原因物質に反応するのは(臨床環境医が提唱した)化学物質過敏症とは異なる状態である可能性が高いと本エントリ作者は考えます*12

ちなみに、日本臨床環境医学会編の本「シックハウス症候群マニュアル 日常診療のガイドブック」からの引用由来のもので、次に示す記述があります。MCS及び化学物質過敏症「医学的な定義はまだ確立されておらず,社会的な関心が先行し言葉が独り歩きし,混乱が生じている.」

(エ) 引用等

一方、臨床環境医が提唱した原因物質の曝露濃度及びその関連情報については上記コメントと一部重なるかもしれませんが、以下に引用等により説明します。

(1) 一般論
a) 柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第二章 化学物質過敏症の症状 (この章は石川氏と宮田氏が解説)の 「在来型の中毒とは違う」項の記述の一部(P128~P129)を次に引用します。

ところがいまや、内分泌攪乱物質=環境ホルモンにしても、化学物質過敏症にしても、またアレルギーにしても、体重1キログラム当たり1ナノグラム(10億分の1グラム)から10ナノグラム、あるいはさらに微量の化学物質の刺激に反応することが問題になっている。古典的な中毒はミリグラム、つまり1000分の1グラムの世界である。現在の問題は、それからさらに低い100万分の1以下の世界なのである。

b) 宮田幹夫著の本「化学物質過敏症 忍び寄る現在病の早期発見と治療」(2001年発行)の「Part3 発症のしくみ」 における記述の一部(P21)を次に引用します。

化学物質過敏症の場合、ppb、つまり約1ミリリットル当たり1ナノグラム(10億分の1グラム)から、ppt、つまり約1ミリリットル当たり1ピコグラム(1兆分の1グラム)という、日常生活で使う単位とはかけ離れたごくわずかな量でも発症するようになってしまうのです。

c) 米山啓一郎*13著の文書「シックハウス症候群・化学物質過敏症・シックスクール症候群の現況」の「医学的考察」項における記述の一部(P160)を次に引用します。

2. 化学物質過敏症
化学物質過敏症厚生労働省の室内濃度指針の1/10から1/20など,通常の人なら適応できるような極めて微量でも症状が出てきてしまう場合で,したがって居住空間だけでなくあらゆる場所や,日常品に対して症状がでるため,社会生活になんらかの制限を持つもの.」と定義している.

d) 公的なWEBページ「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会 中間報告書-第1回~第3回のまとめについて」の「シックハウス(室内空気汚染)問題に関連する用語の理解について」項における記述の一部を次に引用します。

化学物質過敏症

「快適で健康的な住宅に関する検討会議」報告書(平成11年1月)、厚生科学研究「化学物質過敏症に関する研究(主任研究者 石川 哲)」(平成8年度)によれば、下記のとおり。
最初にある程度の量の化学物質に暴露されるか、あるいは低濃度の化学物質に長期間反復暴露されて、一旦過敏状態になると、その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来す者があり、化学物質過敏症と呼ばれている。化学物質との因果関係や発生機序については未解明な部分が多く、今後の研究の進展が期待される。

(2) 有力な原因物質とその室内濃度指針値
a) 有力な原因物質
柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第四章 誰もが化学物質過敏症になりうる (この章は石川氏、宮田氏及び柳沢氏の議論)の「まず空気から汚れをとる」項の記述の一部(P186)

柳沢 患者がこれ以上増えないようにするには、いま、一番、何が必要ですか。(中略)
宮田 一番大事なのは、やはり空気の汚れの除去ですね。
柳沢 具体的に、物質として言うと何でしょう。
石川 ホルムアルデヒドが一、有機リンが二、トルエンが三、その他が四、総量規制でVOC(揮発性有機化学物質類)を抑えるというのが五、という順番ですね。

注:本エントリでは主に有力な原因物質であるホルムアルデヒドトルエンについて言及します。

b) 化学物質の室内濃度指針値
シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会(検討会)」(座長:林裕造元国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長)の中間報告書に基づき、策定した化学物質の室内濃度指針値は、ホルムアルデヒドトルエンでそれぞれ 0.08ppm (80ppb)、0.07ppm (70ppb) です。次のWEBページ参照及び科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)の「巻末資料 表-2」(P239)を参照して下さい。

(3) ホルムアルデヒドの曝露濃度
a) 柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第四章 誰もが化学物質過敏症になりうる (この章は石川氏、宮田氏及び柳沢氏の議論)の「どのようにして病気を知るか」項の記述の一部(P176~P177)を次に引用します。

石川 (中略)宮田先生たちが大変な努力をして調べたところ、ホルムアルデヒド濃度が八〇ppb以下でも反応する患者がいる。四〇ppbでも反応する。さらに、八ppbでも反応する患者がいました。ホルムアルデヒドの臭いは、通常の人間の臭覚では、二〇〇ppbから三〇〇ppbにならないと感じません。

注:i) 引用中の「八ppb」は、資料「特発性環境不耐症(いわゆる「化学物質過敏症」)患者に対する単盲検法による化学物質曝露負荷試験」でも次に引用するように話題となっています。 ii) さらに、この資料におけるホルムアルデヒドの嗅覚や刺激閾値の記述について次に引用します。

一方,宮田らは,環境省研究班の 2001 年度分データの大部分を用いた論文において,8ppb という「極めて微量のホルムアルデヒド曝露で自律神経機能が変動する」結果を得たとし,「多種化学物質過敏症患者は極めて微量な化学物質に反応することを,客観的に明らかとなし得た」と結論づけている.

(中略)

FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppmと言われている(中略)

注:i) 引用中の「FA」はホルムアルデヒドのことです。 ii) 引用中の文献番号の表示は省略しています。 iii) 引用中の「FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppm」についてはここを参照して下さい。

(4) トルエンの曝露濃度
a) 日本化学工業協会 研究支援自主活動 Annual Report 2006 (P79) の表題「化学物質過敏症診断体系確立の試み:問診票、匂い認知・情動検査、脳画像検査を用いた総合的診断」の研究概要*14(注:現在リンク不能になっています)の【方法】項の一部を次に引用します。

MCSと診断された患者13名(男性7名、女性6名)と対照群11名(男性5名、女性6名)の合計24名に対して、微量発生装置で発生させた低濃度トルエン(5ppb、10ppb、25ppb)と純空気、フェニルエチルアルコール(PEA)10ppmを、被験者がfMRIに臥した状態で鼻部に送気した。曝露は各濃度につき5回繰り返して行った。

注:i) フェニルエチルアルコールは芳香物質として臭いを知覚させるためにこの濃度を採用したようです。 ii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用

b) 資料「特発性環境不耐症(いわゆる「化学物質過敏症」)患者に対する単盲検法による化学物質曝露負荷試験*15では、次に曝露濃度を引用するように、トルエンの負荷試験ついて報告されています。

曝露濃度は,先行研究を参考にして,厚労省の室内環境汚染物質の指針値,その半量,および空気曝露,すなわちプラセボとした.したがって,FA濃度は0・40・80ppb,T濃度は 0・35・70ppb であった.T のヒトにおける嗅覚閾値濃度は3,343μg/m3(0.9ppm),FAの嗅覚や刺激閾値は 0.5ppmと言われていることから,これらの曝露濃度はいずれも臭いや刺激を感じない程度の濃度である.

注:i) 引用中の「FA」と「T」は、それぞれホルムアルデヒドトルエンのことです。 ii) 引用中の「厚労省の室内環境汚染物質の指針値」は、「室内濃度指針値」のことです。 iii) 都合によりホルムアルデヒドの引用も含めています。 iv) 引用中の文献番号の表示は省略しています。 v) 引用中の「T のヒトにおける嗅覚閾値濃度は3,343μg/m3(0.9ppm)」に関連して、これとは異なるトルエンのヒトにおける嗅覚閾値濃度(0.33ppm)はここを参照して下さい。 vi) 引用中の「FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppm」についてはここを参照して下さい。

(5) 他の誘発試験における曝露濃度(参考)
a) 資料「化学物質過敏症」のMCS診断と検査の実際における記述の一部を次に引用します。

たとえば、Rea によると、①都市ガス、②エチルアルコール、③フェノール、④塩素ガス、⑤フォルマリン、⑥有機塩素系殺虫剤(たとえばBHC等)、⑦フェノキシ系除草剤(2,4-Dなど)、⑧水蒸気(都市水道、井戸水、ミネラルウォーター)、などの物質と接触させて患者の反応を外から見る。その量はたとえば農薬では、0.003ppm以下で、他は0.025ppm前後でチャレンジを行っている。このテストにより MCS とそうでない psychogenic な患者とは完全に識別され、診断を設定し治療が行われることとなる。

注:i) 引用中の「Rea」は、William J Rea 医師のことです。 ii) 引用中の「チャレンジを行っている」は、「チャレンジテストを行っている」という意味です。 iii) 引用中の「psychogenic な」は、「心因性の」と訳すようです。 iv) 引用中の文献番号は省略しています。 v) 引用中の「MCS とそうでない psychogenic な患者とは完全に識別」に関連する「化学物質の負荷検査で確認されれば、確実な証拠になります」については、他の拙エントリのここを、同じく関連する「条件付けによる病態を除外する方法が二重盲検法以外にはない」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

b) 資料「化学物質過敏症の診断 -化学物質負荷試験51症例のまとめ*16の抄録を次に引用します。

【背景・目的】化学物質過敏症は診断の決め手となるような客観的な検査所見が無く,病歴,QEESI点数、臨床検査(他疾患の除外)等から総合判断として診断している.診断のゴールド・スタンダードは負荷試験であるが,これも自覚症状の変化を判定の目安として使わざるを得ない.そういう制約はあるが,我々の施設ではこれまで化学物質負荷試験を,確定診断の目的で施行してきた.
【方法】当院内の負荷ブースを用い,ホルムアルデヒド,あるいはトルエンを負荷した.負荷濃度は最高でも居住環境指針値とした.また負荷方法は従前はオープン試験によったが,最近はシングル・ブラインド試験を施行している.
【結果】これまで51名の患者に延べ59回の負荷試験を行った.オープン試験を行った40名のうち,陽性例は18名,陰性例は22名であった.陰性判定理由は症状が誘発されなかった例が11名,実際の負荷が始まる前に(モニター上負荷物質濃度上昇が検出される前に)症状が出た例が11名であった.ブラインド試験は11名に施行し,陽性が4名,陰性が7名であった.
【結語】化学物質負荷試験は現時点でもっとも有力な化学物質過敏症の診断法であり,共通のプロトコールを作成し行われるべきである.

注:i) 引用中の「居住環境指針値」は、「室内濃度指針値」のことです。 ii) 引用中の「オープン試験」は、「ブラインド試験」とは異なり盲検化していない試験のようです。 iii) 引用中の「ゴールド・スタンダード」は、診断の精度が高いものとして広く容認された手法のようです。

※1:本エントリにおける Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医) の定義について
1994年の報告書、正確には、
Indoor Air Pollution: An Introduction for Health Professionals の Who are "clinical ecologists"? において、clinical ecologists に関する、次に引用する記述があります。

Who are "clinical ecologists"?

"Clinical ecology", while not a recognized conventional medical specialty, has drawn the attention of health care professionals as well as laypersons. The organization of clinical ecologists-physicians who treat individuals believed to be suffering from "total allergy" or "multiple chemical sensitivity" -- was founded as the Society for Clinical Ecology and is now known as the American Academy of Environmental Medicine. Its ranks have attracted allergists and physicians from other traditional medical specialties.


[拙訳]
”臨床環境医”("clinical ecologists")は誰か?

”臨床環境医学”("Clinical ecology")は、主流医学の専門分野とは認識されていないが、非専門家はもちろんヘルスケア専門家の注目を引いている。"total allergy" 又は”MCS”("multiple chemical sensitivity")を患っていると信じられている個人を治療する臨床環境医-医師[訳注]の組織が臨床環境医学会(Society for Clinical Ecology)として設立され、現在では、米国環境医学アカデミー(American Academy of Environmental Medicine)として知られる。そのランクにより、他の伝統医学の専門分野から、アレルギー医や医師[訳注]を引きつけてきた。

訳注:特に内科医を指すこともあるようです。

すなわち、この報告書によれば、clinical ecologists とは、米国環境医学アカデミー(American Academy of Environmental Medicine)に所属している方々です。ただし、本エントリにおいては、このアカデミーの元 President(1978年)であった William J Rea 医師の流れを汲む石川医師宮田医師を含めて Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医)と呼ぶこととします。

一方、William J Rea 医師と石川医師、宮田医師との関係を示す例は、他の拙エントリのここを参照して下さい。

ちなみに、冗長かもしれませんが、日本における「臨床環境医」の区別に関しては、別の拙エントリの【余談1】【余談2】【余談3】【余談4】及び【余談5】を参照して下さい。

※2:ここは次の脳機能の説明、調節と調整との使い分け[ご参考1][ご参考2]及び[ご参考3]から構成されています。

脳機能の説明
以下の[ご参考1]~[ご参考3]で、脳科学に関連する様々な論文の一部又は要旨を引用しています。これらの論文をよりよく理解するための参考として、脳科学における様々な説明を以下に紹介します。*17 ストレスによる前頭前皮質及び大脳辺縁系への影響については、例えば拙エントリのここを参照して下さい。 ADHDにおける臨床症状と脳内神経回路の関連については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 愛着障害の視点からの報酬系についてについては、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。 『研究成果「愛着障害児における報酬系機能の低下を解明」』 パニック症(パニック障害)又は「Stress-induced fear circuitry disorders」における Stress-induced fear circuit については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「パニック症 - 脳科学辞典」の「病態仮説」項 加えて、パニック症における情動の特徴については他の拙エントリのここを参照して下さい。 さらに、パニック障害のリスク因子としてのストレスについてついては他の拙エントリのここを参照して下さい。 社交不安症における脳活動に関する研究についてはここを参照して下さい。 強迫症(強迫性障害)における OCD-loop については、他の拙エントリのここここを参照して下さい。加えて、強迫症状の誘発における機能神経画像法の研究のメタアナリシスについては、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 PTSD又は複雑性PTSDの視点からの大脳辺縁系と前頭葉との関連等について、a) べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第4章 命からがら逃げる――サバイバルの分析 の「脳――下から上へ」、「互いを真似る――対人関係の神経生物学」、「危険を突き止める――料理人と煙探知機」、「ストレス反応を制御する――監視塔」、「騎手と馬」における記述の一部(P093~P122) b) 友田明美著の本、「新版 いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳」(2012年発行)より複数(詳細はここ参照)をそれぞれ以下に引用します。加えて、PTSDと臭気との関連については、ここを参照して下さい。 プラセボ及びノセボ反応の無意識活性化及び脳科学については、それぞれ他の拙エントリのここ及びここ(注:嫌悪を伴う臭いのノセボ効果に関するものです)を参照して下さい。加えて、マニュアル「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「3.4.4. 化学物質過敏状態が引き起こされるメカニズム」項(P53)を参照して下さい。さらに、条件付けに関しては、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 嗅覚の生理・心理学に関しては、例えば資料「五感情報通信技術に関する調査研究会 報 告 書」の 2-5 嗅覚 の「2-5-1 生理学・心理学」(P60~P65)を参照して下さい。 ストレス反応における重要な脳部位については、例えばWEBページ「ストレス - 脳科学辞典」の「ストレス神経系」項を参照して下さい。 シックハウス症候群と見紛うような条件付けについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 化学物質過敏症(本態性環境不耐症)又は MCS における、脳科学と関連する化学物質が刺激となって生じる感覚モデルの注目点について、マニュアル「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「11.3. MCS における臭いに対する脳の反応と症状の出現」項における記述の一部(P205~P206)を以下に引用します。 治療・対処法の視点からは、a) 心身医学でのマインドフルネスにおける前部帯状回皮質、前頭前野、側頭頭頂接合部の役割に関しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。*18 b) コーピングにおける内側前頭前皮質の役割に関しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) ヨーガにおける内側前頭前皮質と島の役割に関しては、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 ちなみに、においによって誘発される頭痛については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「においによって誘発される頭痛は片頭痛と片頭痛以外の一次性頭痛の鑑別要因になるか?

脳――下から上へ

脳の最重要課題は、最も悲惨な状況下にあってさえ、生存を確保することだ。それ以外はすべて二の次となる。脳は生存を確保するために、以下のことをする必要がある。(1)食物、休養、保護、生殖、住みかといった、体が必要とするものを示す内部信号を生み出す。(2)そうした必要性を満たすためにどこへ行くべきかを示す、周りの世界の地図を制作する。(3)そこへ行き着くために必要なエネルギーと行動を生じさせる。(4)途中で遭遇する危険や好機について注意を促す。(5)その時々の必要に応じて行動を調節する(4)。私たち人間は哺乳動物、つまり、集団でしか生存も繁栄もできない生き物なので、これらの必要のどれを満たすのにも、協調と協働が欠かせない。精神的な問題は、内部信号がうまく働かないときや、自分の地図をたどっても行くべき場所に行き着けないとき、体が麻痺してしまって動けないとき、行動が必要性と一致しないとき、あるいは、人間関係が破綻したときに起こる。私が論じる脳組織はどれも、こうした不可欠の機能の実行に果たす役割があり、これから見るように、トラウマはそれらのどれをも妨害しうる。
私たちの理性的で認知的な脳は、じつは脳の最も新しい部位で、頭蓋骨内の領域の三割程度しか占めていない。理性脳はおもに私たちの外の世界とかかわっており、物事や人々がどのように機能するかを理解したり、自分の目標の達成法や、時間の管理法、行動の順序立ての仕方を考え出したりする。この理性脳の下には、進化上もっと古く、ある意味で別個の脳が二つあり、それ以外のことをすべて受け持っている。そのときそのときの体の生理的作用を認識したり管理したり、快適さや安全、脅威、空腹、疲労、欲望、熱望、興奮、喜び、痛みなどを識別したりする。
脳は下から上へと構築されている。進化の間に起こったのとちょうど同じように、どの子供でも、子宮の中で一層ずつ発達していく。最も原始的な部分、すなわち私たちが生まれたときにはすでに稼働している部分は、古い動物脳で、しばしば「爬虫類脳」と呼ばれる。脳幹にあり、脊髄が頭蓋骨に入る場所のすぐ上に位置する。新生児ができること――食べ、眠り、目覚め、泣き、呼吸をすることも、温度や空腹、おむつの湿り気、痛みを感じることも、排尿や排便で毒素を体外に出すことも――は、すべてこの爬虫類脳が受け持っている。脳幹とそのすぐ上にある視床下部は、いっしょに体のエネルギー水準を制御する。両者は心臓と肺の機能を協調させ、また内分泌系と免疫系の機能も協調させ、これらの基本的な生命維持システムが、「ホメオスタシス」と呼ばれる比較的安定した体内の均衡の範囲に確実に維持されるようにする。
呼吸、食事、睡眠、排便、排尿はあまりにも根本的なので、私たちは心と行動の複雑さについて考えているときにその重要性をあっさり無視してしまう。だが、睡眠が妨げられたり、腸が機能しなかったり、つねに空腹感があったり、(トラウマを負った子供や大人がしばしばそうであるように)触れられただけで思わず悲鳴を上げたくなったりすると、生体全体が平衡を失う。精神の問題のじつに多くが、睡眠や食欲、接触、消化、覚醒の困難を伴うのには驚かされる。トラウマの効果的な治療法はどんなものであれ、こうした体の基本的な「維持管理業務」に取り組む必要がある。
爬虫類脳のすぐ上には、大脳辺縁系が位置している。大脳辺縁系は「哺乳類脳」とも呼ばれる。集団で生活し、子供を養育する動物は、すべて大脳辺縁系を持っているからだ。脳のこの部位の発達は、私たちが生まれたあとに本格化する。そこは情動の座であり、危険の監視装置であり、何が楽しくて何が恐ろしいかの判断者であり、生命の維持にとって何が重要で何が重要でないかの裁定者だ。また、複雑な社会的ネットワークの中で生きていくうえで生じる難題に対処するための中央指令所でもある。
大脳辺縁系は、私たち自身の遺伝的構成と持って生まれた気質と協働しなから、経験に応じて形作られる(複数の子供を持つ親なら誰もがたちまち気づくように、赤ん坊は誕生時から、同じような出来事に対する反応の度合いと性質が異なる)。赤ん坊の身に起こることは何であれ、発達中の脳が生み出す、周りの世界の情動的・知覚的地図に反映される。私の同業者のブルース・ペリーが説明しているように、脳は「使用依存(使用するほど発達する)様式」で形成される(5)。これは神経可塑性の言い換えに等しい。神経可塑性は比較的新しい発見で、「いっしょに発火する」ニューロンは「つながる」というものだ。ある回路が繰り返し発火すると、それがデフォルト設定、すなわち、最も起こりそうな反応になりうる。もしあなたが安全で愛されていると感じれば、あなたの脳は探検や遊び、協力が得意になるが、あなたがおびえていて、望まれていないと感じれば、脳は恐れや遺棄されたという感情を管理するのが専門になる。
私たちは赤ん坊や幼児のころ、動いたり、つかんだり、這ったりすることで、また、泣いたり、微笑んだり、抗議したりすると何が起こるかを発見することで、周りの世界について学ぶ。私たちは絶えず環境を相手に実験している。環境と私たちの相互作用によって、体の感じ方がどう変わるか。二歳児の誕生会に出席すれば、嫌でも気づくだろう。その幼い子は、言葉などまったく必要とせずに、あなたの注意を惹き、あなたと遊び、戯れる。幼いころのこうした探検によって、情動と記憶を専門とする大脳辺縁系が形作られるが、この部位は、のちの経験によっても大幅に改変されうる。たとえば、緊密な交友関係あるいは美しい初恋によって良い方へ、また、暴行、容赦のないいじめ、あるいはネグレクトによって悪い方へ、という具合に。
爬虫類脳と大脳辺縁系とがいっしょになって、本書を通して私が「情動脳」と呼ぶものを形成している(6)。情動脳は中枢神経系の核心にあり、その主要な任務は、人が健康で快適な暮らしを送れるように気を配ることだ。情動脳は、危険、あるいは特別な機会(たとえば、伴侶の候補)を感知すると、ホルモンを放出して知らせる。その結果生じる、内臓感覚(軽いむかつきから、胸に湧き起こる逃れようのないパニックまで)のせいで、何であれ今あなたの心が注意を集中していることに差し障りが出て、身体的にも精神的にも、異なる方向にあなたを向かわせる。そのような感覚は、たとえどれほどかすかであっても、私たちが人生を通して下す大小の決定に対してじつに大きな影響力を持っており、たとえば、何を食べることにするか、どこで誰と寝たいか、どんな音楽を好むか、庭仕事をしたいか、それとも合唱隊で歌いたいか、誰と友達になり、誰を嫌うか、などを左右する。
私たちの理性脳である新皮質と比べると、情動脳は分子的構成と生化学的作用が単純で、入ってくる情報をより全体的なかたちで評価する。そのため、理性脳とは対照的に、情動脳はおおまかな類似性に基づいて速断するが、理性脳は多種多様な選択肢を篩にかけるように構成されている(ヘビを目にして恐怖で飛びのいたら、ロープがとぐろのように巻いてあるだけだったというのが典型的な例だ)。情動脳は、闘争/逃走反応のような、あらかじめプログラムされた避難計画を開始する。そのような筋肉の反応や生理的な反応は自動的で、私たちが何も考えたり計画したりしなくても始動し、意識ある理性的な能力はあとから追い着くかたちになり、そのころにはとうの昔に脅威が過ぎ去っていることも多い。
ここでようやく私たちは脳の最上層である新皮質にたどり着く。他の哺乳動物もこの脳の外側の層を持っているが、私たち人間の新皮質のほうがはるかに厚い。人間は生まれて二年目になると、新皮質のかなりの部分を占める前頭葉が急速に発達し始める。古代の哲学者たちは七歳を、善悪をわきまえる時期としている。私たちにとって小学校の第一学年は、来るべきもの、すなわち、前頭葉の能力を中心に構成された生活の準備期間にあたる。じっと座っている、括約筋の動きを調節する、行動に訴える代わりに言葉を使えるようになる、抽象的な考えや象徴的な考えを理解する、明日に備えて計画を立てる、教師やクラスメイトと協調するといったことをこの間に学ぶのた。
私たちが動物界で唯一無二の存在であるのは、この前頭葉が与えてくれる資質のおかげだ(7)。前頭葉があるから私たちは言語が使えるし、抽象的な思考ができる。また、厖大な量の情報を吸収・統合し、それに意味を与えることも可能になる。チンパンジーやアカゲザルが言語を使って成し遂げる偉業に私たちは胸を躍らせているとはいえ、私たちの生活を形作る、共同社会の状況や、精神的状況、歴史的背景を生み出すのに必要な単語や記号を使いこなせるのは、人間だけだ。
前頭葉のおかげで私たちは計画を立てたり、反省したり、未来のシナリオを思い描いてたどったりできる。また、ある行動をとったり(たとえば、新たに求人に応募する)、とるのを怠ったり(たとえば、家賃を払わない)すればどうなるかを予想しやすくもなる。前頭葉は選択を可能にし、私たちの驚異的な創造力の基礎となる。幾世代もの前頭葉が緊密に協働することで、文化が生み出され、私たちは丸木舟や馬車、手紙から、ジェット機やハイブリッド車、電子メールへと行き着いた。(中略)

互いを真似る――対人関係の神経生物学(中略)

脳に損傷を負った人を相手にしたり、認知症の親の世話をしたりした経験のある人なら誰もが思い知らされたことだろうが、人間どうしが仲良くやっていくためには、前頭葉が正常に機能していることが決定的に重要だ。他者は自分とは違う考え方や感じ方をしうるのに気づくことが、二歳児や三歳児にとって発達上の大きな進歩となる。彼らは他者の動機を理解することを学び、さまざまな認識や期待、価値観を持つ集団に適応し、その中で安全でいられるようになる。人は、柔軟で活発な前頭葉がなければ、惰性で動く生き物と化し、人間関係が皮相的で型にはまったものになる。そこには、発明やイノベーション、発見や驚異が、すべて欠けている。
私たちの前頭葉はまた、きまり悪い思いをするようなことや他者を傷つけるようなことを私たちがするのを(いつもではないがときおり)、止めてくれる。私たちは、空腹を覚えたときにいつでも食べたり、欲望を掻き立てる人なら誰にでもキスしたり、腹が立ったときにいつでも怒りを爆発させたりする必要はない。だが、厄介事のほとんどは、衝動と許容できる行動との間の、まさにこの境界で始まる。内臓で経験する情動脳からの感覚入力が強烈であればあるほど、それに水を差す理性脳の能力が弱まる。

危険を突き止める――料理人と煙探知機

危険は人生にはつきもので、その危険を感知して反応を構成する役割は脳が担当している。外の世界についての感覚情報は、目や鼻、耳、肌を通して入ってくる。こうした感覚は視床に集まる。視床というのは、大脳辺縁系内にある領域で、脳の中で「料理人」の役割を果たす。視床は知覚からの入力をすべて掻き回して、すっかり混ざり合った自伝的スープ、すなわち「これが私に起こっていることだ」という、統合され、首尾一貫した経験に変える(10)。次に感覚は二手に分かれ、一方は下に向かって、大脳辺縁系の無意識の脳の奥深くにある、扁桃体(アーモンド形をした二つの小さな組織)へ伝えられ、もう一方は上へ向かって前頭葉へ伝えられ、そこで私たちの意識的自覚に達する。神経科学者のジョセフ・ルドゥーは、扁桃体への道筋を「低い道」、前頭皮質への道筋を「高い道」と呼んでいる。前者は非常に速く、後者は圧倒的な脅威を与える体験のさなかで、数ミリ秒長くかかる。だが、視床での処理は破綻を来しうる。その場合、光景や音、声、匂い、触感は、それぞれ孤立し、解離した断片としてコード化され、正常な記憶処理が崩壊する。時間が凍りつくので、現在の危険が永遠に続くように感じられる。
扁桃体の中心的な機能は、入ってくる情報が生命の維持に関係があるかどうかを識別することで(11)、私は扁桃体を脳の「煙探知機」と呼んでいる。この識別は、迅速かつ自動的に行なわれ、それを助けるのが海馬からのフィードバックだ。海馬は扁桃体の近くにある組織で、新しい情報を過去の経験と関連づける。扁桃体は、迫ってくる自動車との衝突の可能性や、恐ろしげな通りがかりの人といった脅威を感知すると、視床下部と脳幹へただちにメッセージを送り、ストレスホルモン系と自律神経系を動員して、全身の反応をまとめ上げる。扁桃体は前頭葉よりも速く視床からの情報を処理するので、私たちが危険について意識的に自覚しないうちに、入ってくる情報が生命の維持にとって脅威になるかどうかを判断する。何が起こっているかに私たちが気づいたときには、体がすでに動きだしている場合がある。
扁桃体が危険信号を発すると、コルチゾールやアドレナリンなど、強力なストレスホルモンの分泌が引き起こされ、それによって心搏数と呼吸数が増え、血圧が上がり、反撃したり逃げ出したりする準備が整う。危険が過ぎ去ると、体はかなり素早く通常の状態に戻る。だが、この回復が妨げられると、そのせいで体は自らを防御する態勢に入り、人は興奮や覚醒を感じる。
煙探知機は普通、危険の手掛かりを捉えるのが非常に得意だが、トラウマを負うと、状況が危険か安全かの解釈を誤る可能性が増す。人は、相手の意図が親切なものか危険なものかを正確に判断できて初めて、他者と仲良くやっていける。少しでも解釈を誤れば、家庭や職場の人間関係における不快な誤解につながりうる。複雑な職場環境ややんちゃな子供だらけの家庭でてきぱきと物事を処理するには、人がどのように感じているかを素早く評価し、それに即して絶えず自分の行動を調節する能力が必要とされる。だが、警報システムに欠陥があると、何でもない言葉や表情に反応して感情を爆発させたり、機能停止に陥ったりしてしまう。

ストレス反応を制御する――監視塔

もし扁桃体が脳の煙探知機なら、前頭葉(それもとくに、目のすぐ上に位置する内側前頭前皮質(12))は、高い場所から現場の眺めを提供してくれる監視塔と考えればいい。あなたが嗅ぎつけたあの煙は、家が火事になってさっさと逃げ出す必要があるという合図なのか、それとも、コンロの火が強過ぎてステーキが焦げているのか。扁桃体はそのような判断は下さず、前頭葉が自らの評価を引っ提げて関与してくる間もないうちに、あなたに反撃したり逃げ出したりする準備をさせる。だが、あまりに気が動転していないかぎり、前頭葉の助けで、あなたは誤警報に反応していることに気づき、ストレス反応を中止し、均衡を取り戻せる。
通常、人は前頭前皮質の実行能力のおかげで、何が起こっているかを観察し、ある行動をとれば何が起こるかを予想し、意識的な選択ができる。思考や感情や情動を冷静かつ客観的に観察し(この能力のことを、私は本書を通じて「マインドフルネス」と呼ぶ)、それからじっくり反応できれば、実行脳は、情動脳にあらかじめプログラムされていて行動様式を固定する自動的な反応を、抑制したり、まとめたり、調節したりすることが可能になる。この能力は、他人との関係を維持するうえできわめて重要だ。私たちは前頭葉が適切に機能しているかぎり、ウェイターがなかなか注文した品を持ってこないときや、保険会社の代理人に電話で待たされたときに、毎回腹を立てる可能性は低い(私たちの監視塔は、他者の怒りや脅威も、彼らの情動の状態の結果であることを教えてくれもする)。そのシステムが故障すると、私たちは条件付けされた動物のようになり、危険を感知した途端に、自動的に闘争/逃走モードに入る。
PTSDでは、扁桃体(煙探知機)と内側前頭前皮質(監視塔)との間のきわめて重要な均衡が根本的に変化し、その結果、情動と衝動の制御がはるかに難しくなる。非常に情動的な状態にある人間の神経画像研究からわかったのだが、強烈な恐れや悲しみ、怒りはみな、情動に関与する大脳皮質下の脳領域をより活性化させ、前頭葉のさまざまな領域、とくに内側前頭前皮質の活動を大幅に低下させる。そうなると、前頭葉の抑制能力が損なわれ、人は正気を失う。何であれ大きな音に反応して驚いたり、些細な欲求不満で激怒したり、誰かに触れられると凍りついたりする(13)。
ストレスに効果的に対処するためには、煙探知器と監視塔との間の均衡を達成する必要がある。自分の情動をもっとうまく管理したければ、脳は二つの選択肢を与えてくれる。トップダウンあるいはボトムアップで情動を調節する方法を学習することができるのだ。
トップダウンとボトムアップの調節の違いを知ることは、トラウマ性ストレスの理解と治療の要だ。トップダウンの調節を行なうには、体の感覚を監視する監視塔の能力を強化しなくてはならない。マインドフルネス瞑想やヨーガはその役に立つ。ボトムアップの調節を行なうには、自律神経系(すでに見たとおり、脳幹に端を発する)の再調整を必要とする。自律神経系には、呼吸や動き、接触を通してアクセスできる。呼吸は、意識的な制御と自律神経系の制御の両方の支配下にある、数少ない身体機能の一つだ。(中略)

騎手と馬

さしあたりは、情動と理性が対立するものではないことを強調しておきたい。情動は経験に価値を割り当てるので、理性の土台と言える。自己の経験は、理性脳と情動脳の均衡から生まれる。これら二つのシステムが均衡していると、私たちは「本来の自分である気がする」。だが、生命がかかっているときには、両システムはかなり独立して機能しうる。
たとえば、友人とおしゃべりをしながら自動車を運転しているとき、突然トラックが迫ってくるのを目の隅で捉えたら、あなたはただちに話をやめ、急ブレーキを踏み、ハンドルを切って危地を脱しようとする。もし本能的な行動で衝突を免れられたら、中断した会話を再開するかもしれない。そうできるかどうかは、脅威に対して内臓の反応がどれだけ速く治まるか次第だ。
私が本書で採用した、脳の三層構造の説明を考え出した神経科学者のポール・マクリーンは、理性脳と情動脳の関係を、おおむね有能な騎手と荒馬の関係になぞらえている(14)。天気が穏やかで道が平坦であるかぎり、騎手は見事に馬を御していると感じられる。だが、予想もしていなかった音がしたり、他の動物に脅かされたりしたら、馬が駆けだし、騎手は必死でしがみつく羽目になる。同様に、人は自分の生命がかかっていると感じたり、憤激や熱望、恐れ、性的欲望などの虜となったりしたときには、理性の声に耳を傾けるのをやめるので、そういう人と議論をしても無駄だ。何かが生死の問題であると大脳辺縁系が判断したときにはいつも、前頭葉と大脳辺縁系の間の経路ははなはだか細くなってしまう。
精神療法家はたいてい、人が洞察と理解に頼って自分の行動を管理するのを手伝おうとする。だが、神経科学の研究で明らかになっているように、理解の不足から生じる精神的問題はほとんどない。問題の大半は、知覚と注意を司る、脳のもっと奥の領域からのプレッシャーに端を発する。危険な状態にあることを知らせる情動脳の警報ベルが鳴り続けると、どれほどの洞察をもってしてもそれを黙らせることはできない。こんなコメディが頭に浮かぶ。怒りの管理プログラムに七度も参加した人が、自分の習った技法を絶賛する。「見事といったらない。素晴らしい効き目がある――本当に頭にきていないかぎりは」
情動脳と理性脳が対立しているとき(たとえば、愛する人に激怒しているときや、養ってくれている人に怖い思いをさせられたり、手を出してはならない人に対する欲情に駆られたりしたとき)には、激しい主導権争いが起こる。この争いはおもに、消化管や心臓、肺など、内臓を舞台に行なわれ、身体的な不快感や精神的な苦悩につながる。脳と内臓が、安全なときや危険なときにどう相互作用するかについては、第6章で論じる。この相互作用は、トラウマの身体的な表れの多くを理解するうえでカギを握っている。(後略)

注:i) 引用中の原注「(5)」~「(12)」及び「(14)」の紹介及び「第6章で論じる」における「第6章」の引用は共に省略します。この本をご利用下さい。ただし、 a) 引用中の「内側前頭前皮質」についての、原注 (12) における説明(P669)は次に引用します(『 』内)。 『内側前頭前皮質は脳の中央の部位だ(神経科学者は、「正中線構造」と呼ぶ)。脳のこの領域は、眼窩前頭皮質や下内側前頭前皮質、背内側前頭前皮質、前帯状皮質と呼ばれる大きな構造という、関連した組織の集合体から成り、これらの組織はすべて、生体の内部状態を監視し、適切な反応を選ぶことに関与している。』 ちなみに、1) この引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 2) この引用中の「下内側前頭前皮質」、「背内側前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 3) この引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 b) 引用中の原注「(13)」に示された論文については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「煙探知機」と「監視塔」の関係について、より簡単に説明するWEBページは次に紹介します。 『人はどうやって「トラウマ」を克服するのか]』の(P2)及び(P3)の『「煙探知機」と「監視塔」の均衡』項。 iii) 引用中の「扁桃体」についてはここを参照して下さい。 iv) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「トップダウン」に関しては、例えば次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項 vi) 一方、参考として、比較対象としてのパニック症関連は、「脳機能の説明」における③項を参照して下さい。  vi) 引用中の「洞察」に関連するかもしれない「メタ認知」については、次のWEBページを参照して下さい。 「メタ認知 - 脳科学辞典*19 vii) 引用中の「情動脳の警報ベルが鳴り続ける」のを変えるための「辺縁系セラピー」について、べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第13章 トラウマからの回復――自己を支配する の「辺縁系セラピー」における記述の一部(P336~P337)を次に引用します。

辺縁系セラピー(中略)

心的外傷後の反応を変えたいのなら、情動脳にアクセスして、「辺縁系セラピー」をしなければならない。壊れた警報システムを修理し、情動脳を通常業務(体の維持管理をする静かで目立たない存在)に戻して、食べ、眠り、親密なパートナーと結びつき、子供たちを保護し、危険から身を守ることがきちんとできるようにするのだ。
神経科学者のジョセフ・ルドゥーとその共同研究者たちは、情動脳に意識的にアクセスできる唯一の方法は、自己認識を通してであることを示した。つまり、自分の内部で何が起こっているかに気づいて、自分が感じているものを感じること(専門用語では、「内部を見る」というラテン語に由来する「interoception(内受容)」)を可能にする脳領域である内側前頭前皮質を活性化するのだ(5)。意識ある脳のほとんどは、もっぱら外の世界に向けられており、他者と仲良くやったり、将来のための計画立案をしたりすることに専念している。だがそれは、自分自身を管理する助けにはならない。神経科学的な研究から明らかなとおり、私たちの感じ方を変えられる唯一の方法は、内部の経験を自覚して、自分の内部で起こっている出来事と仲良くなれるようにすることなのだ。

注:i) 引用中の「interoception(内受容)」については他の拙エントリのここここ及びここここ及びここを参照して下さい。 ii) 引用中の「情動脳」「警報システム」「内側前頭前皮質」については共にここを参照して下さい。 iii) 引用中の原注(5)に関連する3つの論文のうち、2つは次を参照して下さい。残りは原注をご参照下さい。 「Emotion circuits in the brain.」、「Active avoidance learning requires prefrontal suppression of amygdala-mediated defensive reactions.

11.3. MCS における臭いに対する脳の反応と症状の出現(中略)

MCS を呈する患者は、特に、臭いに対する反応が過敏であるのが特徴です。MCS が化学物質のばく露強度の高さなどの特性では評価できないとする報告もありますが、臭い負荷(臭いの閾値以上の濃度の化学物質を嗅覚にばく露)による脳機能イメージング評価が近年行われてきました。Orriols らは臭いの閾値以上の濃度の塗料、香水、ガソリン、グルタルアルデヒドをチャンバー室内で MCS 患者が症状を訴えるまで全身ばく露させ、MCS 患者の症状が持続している間に脳機能イメージング評価を行っ たところ、神経認知の問題がとりわけ脳の臭いの処理領域で観察されており、MCS では病因には脳神経が関与している可能性が示唆されました。 Hillert らはバニリン、アセトン、ブタノールと植物油の混合物、Azuma らは香水、ヒノキやメントールによる臭い負荷試験を行い、MCS を呈する患者の前帯状皮質や前頭前皮質における神経の活性化を観察しました。前帯状皮質は、前頭前皮質等と接続して刺激のトップダウンとボトムアップの処理や他の脳領域への適切な制御の役割を担っています。従って、過去の臭い刺激による記憶が前頭前皮質や前帯状皮質等に認識され、その後の臭い負荷では、そこからのトップダウン制御が中枢神経系等に作用し化学物質過敏症患者でさまざまな症状を引き起こしているのではないかと推測されています。このような臭い処理プロセスでの反応は、脳における認識や記憶にも関連しており、臭いを嗅いだときに作用する物質とそうでない物質の違いを区別できると生じると考えられています。このことは、このような反応の作用機序が何らかの化学物質そのものに特有なものというよりも、化学物質ばく露などの過去の出来事などに基づくものに関連しており、多種類の化学物質に反応することも、このような作用機序が関係しているかもしれないと考えられています。このことに関連して、近年、Nordin らのスウェーデン等の北欧と日本の Azuma らは、化学物質が刺激となって生じる感覚モデルに注目しています。このモデルでは、有害と認識された物質に対する大脳辺縁系を介した作用機序に着目しています。

注:i) 引用部の著者は東賢一(Azuma K)です。 ii) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「大脳辺縁系」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からここ及びここの引用を参照して下さい。ちなみに、化学物質過敏症と精神的なトラウマの関係については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「過去の臭い刺激による記憶が前頭前皮質や前帯状皮質等に認識され、その後の臭い負荷では、そこからのトップダウン制御が中枢神経系等に作用し化学物質過敏症患者でさまざまな症状を引き起こしているのではないかと推測されています。」に関連する、「嗅覚嫌悪条件づけ」(注:これは仮説ですがラットによる実験では成立するようです)については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい*20。 vi) 引用中の「多種類の化学物質に反応することも」に関連するかもしれない、強迫性障害(強迫症)における「目に見えないものまでが恐怖の対象となります」(注:対象が拡大することが共通しています)については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 引用中の「記憶」に関連して、「情動を伴わない出来事よりも情動を伴う出来事のほうが記憶されやすい」ことについては次のWEBページを参照して下さい。 「情動的記憶 - 脳科学辞典」 ちなみに、a) 陳述記憶及び非陳述記憶について、以下のWEBページに説明があります。この説明によると、情動記憶は非陳述記憶に含まれ、さらに「情動記憶はパブロフ型の条件付けに代表される」ようです。 「陳述記憶,非陳述記憶」 加えて、陳述記憶及び非陳述記憶については、次のWEBがあります。 「陳述記憶・非陳述記憶 - 脳科学辞典」 b) 日常の出来事の記憶(エピソード記憶)が、どのようにして海馬から大脳新皮質へ転送され、固定化されるのかの仕組みについてのWEBページを次に紹介します。 「海馬から大脳皮質への記憶の転送の新しい仕組みの発見」 c) 記憶を関連づける神経細胞集団の仕組みについてのWEBページを次に紹介します。 「記憶を関連づける神経細胞集団の仕組みを解明」 このように、記憶に関する研究は進展しているようです。なお、b) 及び c) の資料を読む前に、次のWEBページに示される「記憶の分類」についての知識が必要かもしれません。 「記憶の分類 - 脳科学辞典」 viii) 一方、化学物質過敏症と情動反応との関連を示す資料を次に紹介します。 「化学物質過敏症」の P29。

PTSD又は複雑性PTSDの視点からの大脳辺縁系と前頭葉との関連等(ここ参照)について、友田明美著の本、「新版 いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳」(2012年発行)の「第Ⅲ章 虐待によって生じる脳の変化」より a) 主な脳領域の役割 の「4.大脳辺縁系」、「5.海馬」及び「6.扁桃体」における記述の一部(P50) b) その他の脳領域の形態的変化 の「前頭葉,とくに前頭前野への影響」における記述の一部(P62) をそれぞれ以下に引用します。

4.大脳辺縁系
大脳辺縁系とは主に“海馬”と“扁桃体”などから構成され(図2a),その場所は側頭葉の内側に存在する.相互に連結した細胞核の集まりで,個体の生命維持と種族維持に関する重要な中枢として働き,情動や記憶をコントロールし,個体が外界をどう解釈するか,ということに深くかかわっている.大脳辺縁系は種々の感情(emotion),行動(behavior)に関係している重要な部分である.個体が生き延びられるように,“外界がいかに安全か?”または,“いかに危険で脅威となりうるか?”などを判断する役割を担っている.辺緑系内でも障害の部位の差により,攻撃的になったり,おとなしくなったり,性行動の異常などを示す場所があることが明らかになってきた.(中略)

5.海馬
海馬は言語記憶や情動記憶を作ったり,思い出したりするのに重要と考えられている.とくに強い情動のバイアスがかかっている出来事の記憶に重要な領域といわれている.視覚,聴覚,体性感覚,味覚などのさまざまな情報は,大脳皮質連合野で処理されたのち,海馬の傍にある海馬傍回,嗅内野といった皮質領野を経由して海馬に入ってくる.

6.扁桃体
扁桃体は記憶の情動成分(たとえば恐怖条件づけや攻撃反応に関係する感情)を作り出すことにかかわっており,外からの情報に快・不快など本能的な感情での価値判断をするといわれている.また自律神経系にも関与し,心臓血管,呼吸,消化器系の動きを修飾していることが動物実験で示されている.また扁桃体の神経細胞が異常発火すると脳波異常に結びつきやすいといわれている1).強い精神的ストレスにより扁桃体の細胞レベルでの異常興奮が一度起こると,小さな電気的刺激を長時間受け続けるような電気発火(kindling)という現象が起こり,実際の行動や脳波上でもてんかん性反応が起こりやすくなるといわれている2).

注:引用中の「図2a」の引用は省略します。 ii) 引用中の文献番号「1)」は次の資料です。 「伊藤ゆたか. 被虐待児の脳障害――脳波を中心に. 小児科 2003; 44: 392-400.」 iii) 引用中の文献番号「2)」は次の論文です。 「Kindling versus quenching. Implications for the evolution and treatment of posttraumatic stress disorder.」 ちなみに、a) この論文の最初のページや次のWEBページで読むことができます。 「Kindling versus quenching. Implications for the evolution and treatment of posttraumatic stress disorder.」 b) この論文に関連した論文「Kindling: separate vs. shared mechanisms in affective disorders and epilepsy.」の全文は次の pdfファイルで読めます。 iv) 引用中の「情動記憶」に関連する「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動的記憶 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「快・不快」については、次のWEBページを参照して下さい。「快・不快 - 脳科学辞典」 vi) ちなみに、MCS における辺縁系の kindling については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

前頭葉,とくに前頭前野への影響(中略)

犯罪抑制力には前頭前野が重要な役目を果たす.つまり前頭前野は古い脳に対して,抑制信号を出して暴走しないように常にブレーキをかけているといわれる.新しい大脳皮質の下にある古い脳である辺緑系(海馬・扁桃体・前帯牲回など)に対して前頭前野が抑制信号をかけることで,本能的な欲求や衝動が抑制される仕組みになっている.

注:i) 両引用に関連する引用はここここを参照して下さい。 ii) 引用中の「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典

調節と調整との使い分け
以下の脳科学に関連する論文、論文の要旨、本等の拙訳を含む引用による紹介をはじめとした、拙ブログのエントリにおける脳科学に関連する紹介では「regulation」の訳語として基本的に「調節」を使用します。一方「regulate」の訳語は基本的に「調節する」を使用します。例えば「emotion regulation」、「dysregulation」の訳語としてそれぞれ「情動調節」、「調節不全」を使用します。ただし、引用においては原文を優先します。例えば、一部の引用においては、「情動調節」ではなく「情動調整」が用いられています。

[ご参考1]臭いに反応するアンケート結果例及び本、pdfファイル、論文の紹介について
先ず、資料「アスペルガー症候群・高機能自閉症における「感覚過敏・鈍麻」の実態と支援に関する研究 ── 本人へのニーズ調査から ──」中の 図7 嗅覚の過敏・鈍麻の結果 (P291)及び 図18 嗅覚面の理解・支援 (P293)において嗅覚に関するアンケート結果が示されています。

ちなみに、i) 自閉スペクトラム症*21の DSM-5 による診断基準の和訳例は次の資料「発達障害から発達凸凹へ」の表2を参照して下さい。表2の B 4. 項には次に引用する記述があります。 ii) 加えて、加藤進昌著の本、「あの人はなぜ相手の気持ちがわからないのか もしかしてアスペルガー症候群!?」(2011年発行)の 第2章 アスペルガー症候群の特性を理解しよう の『「におい」が気になって仕事に身が入らない場合』における記述の一部(P109)を以下に引用します。

感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性,あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心

「におい」が気になって仕事に身が入らない場合(中略)

人によって差はありますが、アスペルガー症候群の人の中には、嗅覚がとても敏感な人がいます。プールを消毒する塩素の臭い、香水のにおい、体臭や口臭、特定の料理のにおいなどで気分が悪くなることがあるようです。

加えて、自閉スペクトラム症を伴う子どもにおける嗅覚過敏に関する次の論文が発表されています。「Assessment of olfactory detection thresholds in children with autism spectrum disorders using a pulse ejection system.[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う子どもにおけるパルス射出システムを使用した嗅覚検知閾値の評価」。この論文の要旨を次に引用します。この分野の発展が本エントリ作者には楽しみです*22。この論文の要旨をカバーする日本語の資料については次の pdfファイルを参照して下さい。 「自閉スペクトラム症児の香料過敏についての調査

BACKGROUND:
Atypical responsiveness to olfactory stimuli has been reported as the strongest predictor of social impairment in children with autism spectrum disorders (ASD). However, previous laboratory-based sensory psychophysical studies that have aimed to investigate olfactory sensitivity in children with ASD have produced inconsistent results. The methodology of these studies is limited by several factors, and more sophisticated approaches are required to produce consistent results.

METHODS:
We measured olfactory detection thresholds in children with ASD and typical development (TD) using a pulse ejection system - a newly developed methodology designed to resolve problems encountered in previous studies. The two odorants used as stimuli were isoamyl acetate and allyl caproate.

RESULTS:
Forty-three participants took part in this study: 23 (6 females, 17 males) children with ASD and 20 with TD (6 females, 14 males). Olfactory detection thresholds of children with ASD were significantly higher than those of TD children with both isoamyl acetate (2.85 ± 0.28 vs 1.57 ± 0.15; p < 0.001) and allyl caproate ( 3.30 ± 0.23 vs 1.17 ± 0.08; p < 0.001).

CONCLUSIONS:
We found impaired olfactory detection thresholds in children with ASD. Our results contribute to a better understanding of the olfactory abnormalities that children with ASD experience. Considering the role and effect that odors play in our daily lives, insensitivity to some odorants might have a tremendous impact on children with ASD. Future studies of olfactory processing in ASD may reveal important links between brain function, clinically relevant behavior, and treatment.


[拙訳]
背景:
嗅覚刺激に対する非定型応答性は、自閉スペクトラム症(ASD)を伴う子どもにおける社会的障害の最強の予測因子として報告されている。しかし、ASD を伴う子どもにおける嗅覚感度の調査を目的とした、以前の実験室ベースの感覚の精神物理学的研究では、一貫性のない結果を生んできた。これらの研究の方法論は、いくつかの要因によって制限され、そして、より洗練されたアプローチは、一貫性のある結果を生むために必要とされる。

方法:
以前の研究で直面した問題を解決するために設計された新開発の方法論、パルス噴射システムを使用して、ASD を伴う子ども及び定型発達(TD)の子どもにおける嗅覚検知閾値を我々は測定した。刺激として使用した2つの臭気物質は、酢酸イソアミルとカプロン酸アリルであった。

結果:
この研究に43人の被験者が参加した:このうち、23人が ASD を伴う子ども(女性6人、男性17人)、20人が TD の子ども(女性6人、男性14人)であった。両臭気物質において、ASD を伴う子どもの嗅覚検出閾値は TD の子どもの閾値よりも有意に高かった。酢酸イソアミル (2.85 ± 0.28 vs 1.57 ± 0.15; p < 0.001)、カプロン酸アリル (3.30 ± 0.23 vs 1.17 ± 0.08; p < 0.001)

結論:
我々は、ASD を伴う子どもにおいて、障害された嗅覚検出閾値を発見した。ASD を伴う子どもが経験する嗅覚異常のより良い理解に我々の結果は寄与する。臭いが日常生活に果たす役割及び与える効果を考慮すれば、いくつかの臭気物質に対する非感受性は、ひょっとすると、ASD を伴う子どもに多大な影響があるかもしれない。 ASD における嗅覚処理の今後の研究は、脳機能、臨床的に関連する行動及び治療間の重要な関連を明らかにするかもしれない。

加えて、大人の自閉スペクトラム症における臭い処理に関する次の論文が発表されています。「Olfactory processing in adults with autism spectrum disorders.[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う大人の臭い処理」。この論文の要旨を次に引用します。

BACKGROUND:
As evidenced in the DSM-V, autism spectrum disorders (ASD) are often characterized by atypical sensory behavior (hyper- or hypo-reactivity), but very few studies have evaluated olfactory abilities in individuals with ASD.

METHODS:
Fifteen adults with ASD and 15 typically developing participants underwent olfactory tests focused on superficial (suprathreshold detection task), perceptual (intensity and pleasantness judgment tasks), and semantic (identification task) odor processing.

RESULTS:
In terms of suprathreshold detection performance, decreased discrimination scores and increased bias scores were observed in the ASD group. Furthermore, the participants with ASD exhibited increased intensity judgment scores and impaired scores for pleasantness judgments of unpleasant odorants. Decreased identification performance was also observed in the participants with ASD compared with the typically developing participants. This decrease was partly attributed to a higher number of near misses (a category close to veridical labels) among the participants with ASD than was observed among the typically developing participants.

CONCLUSIONS:
The changes in discrimination and bias scores were the result of a high number of false alarms among the participants with ASD, which suggests the adoption of a liberal attitude in their responses. Atypical intensity and pleasantness ratings were associated with hyperresponsiveness and flattened emotional reactions, respectively, which are typical of participants with ASD. The high number of near misses as non-veridical labels suggested that categorical processing is functional in individuals with ASD and could be explained by attention-deficit/hyperactivity disorder. These findings are discussed in terms of dysfunction of the olfactory system.


[拙訳]
背景:
DSM-V において明らかなように、自閉スペクトラム症(ASD)は、しばしば非定型感覚行動(過大又は過少反応性)を特徴とするが、ASD を伴う個々人において嗅覚能力を評価する研究は非常に少ない。

方法:
15人の ASD を伴う大人と、15人の定型発達者は、表面的(閾値上の検知タスク)、知覚的(強度と快度判定タスク)及び意味的(識別タスク)臭い処理に焦点をあてた嗅覚試験を受けた。

結果:
閾値上の検知能力の見地から、減少した識別スコア及び増加したバイアススコアが ASD グループで観察された。さらに、ASD を伴う参加者は不快な臭いの快度判定のための増加した強度の判定スコア及び障害があるスコアを示した。定型発達の参加者に比較して ASD を伴う参加者において、減少した同定実績も観察された。この減少は定型発達の参加者の中で観察されたよりもむしろ、ASD を伴う参加者の中で多くのニアミス(真実のラベルに近いカテゴリー)に部分的に起因した。

結論:
識別及びバイアススコアの変化は、ASD を伴う参加者中の多くの誤警報の結果であり、これはそれらの応答における寛容な態度の採用を示唆する。非定型強度と快度評価は、それぞれ過敏性と情動反応の平板化に関連し、これらは ASD を伴う参加者の典型的である。ASD を伴う個々人において、非真実のラベルとしてのニアミスの大きい数は、カテゴリー処理が実用的であること及び ADHD(注意欠如・多動症)により説明できるだろうことを示唆する。これらの知見は嗅覚系の機能不全の見地より議論された。

注:i) 引用中の「真実のラベル」、「ニアミス」に関連して、芳香のラベリングおける成績は次の3種類に分類できるようです。真実のラベル(芳香の真の名前[例:サクランボに対しサクランボと識別する])、ニアミス(真の名前とかなり近い名前[例:いちごに対しサクランボと識別する])、ファーミス(真の名前と非常に遠い名前[例:コーヒーに対しサクランボと識別する])。 ii) 引用中の「DSM-V」については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「ADHD」については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。

ちなみに、嗅覚過敏ではありませんが、自閉スペクトラム症を伴う青年の触覚と聴覚過敏に関する次の論文が発表されています。 「Neurobiology of Sensory Overresponsivity in Youth With Autism Spectrum Disorders[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う青年における感覚過敏の神経生物学」。この論文の要旨を次に引用します。

IMPORTANCE:
More than half of youth with autism spectrum disorders (ASDs) have sensory overresponsivity (SOR), an extreme negative reaction to sensory stimuli. However, little is known about the neurobiological basis of SOR, and there are few effective treatments. Understanding whether SOR is due to an initial heightened sensory response or to deficits in regulating emotional reactions to stimuli has important implications for intervention.

OBJECTIVE:
To determine differences in brain responses, habituation, and connectivity during exposure to mildly aversive sensory stimuli in youth with ASDs and SOR compared with youth with ASDs without SOR and compared with typically developing control subjects.

DESIGN, SETTING, AND PARTICIPANTS:
Functional magnetic resonance imaging was used to examine brain responses and habituation to mildly aversive auditory and tactile stimuli in 19 high-functioning youths with ASDs and 19 age- and IQ-matched, typically developing youths (age range, 9-17 years). Brain activity was related to parents' ratings of children's SOR symptoms. Functional connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex was compared between ASDs subgroups with and without SOR and typically developing controls without SOR. The study dates were March 2012 through February 2014.

MAIN OUTCOMES AND MEASURES:
Relative increases in blood oxygen level-dependent signal response across the whole brain and within the amygdala during exposure to sensory stimuli compared with fixation, as well as correlation between blood oxygen level-dependent signal change in the amygdala and orbitofrontal cortex.

RESULTS:
The mean age in both groups was 14 years and the majority in both groups (16 of 19 each) were male. Compared with neurotypical control participants, participants with ASDs displayed stronger activation in primary sensory cortices and the amygdala (P < .05, corrected). This activity was positively correlated with SOR symptoms after controlling for anxiety. The ASDs with SOR subgroup had decreased neural habituation to stimuli in sensory cortices and the amygdala compared with groups without SOR. Youth with ASDs without SOR showed a pattern of amygdala downregulation, with negative connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex (thresholded at z > 1.70, P < .05).

CONCLUSIONS AND RELEVANCE:
Results demonstrate that youth with ASDs and SOR show sensorilimbic hyperresponsivity to mildly aversive tactile and auditory stimuli, particularly to multiple modalities presented simultaneously, and show that this hyperresponsivity is due to failure to habituate. In addition, findings suggest that a subset of youth with ASDs can regulate their responses through prefrontal downregulation of amygdala activity. Implications for intervention include minimizing exposure to multiple sensory modalities and building coping strategies for regulating emotional response to stimuli.


[拙訳]
重要性:
自閉スペクトラム症(ASD)を伴う青年の半分以上は、感覚過度応答性(SOR)、感覚刺激への極端な負の反応を有する。しかし、SOR の神経生物学的基礎についてはほとんど知られていなく、有効な治療法が少ししかない。SOR が最初に高められた感覚の応答、又は刺激への情動反応の調節の欠陥によるものかどうかの理解は、介入のための重要な意味を持つ。

目的:
SOR を伴わないが ASD を伴う青年、及び対照被験者としての定型発達者と比較した、SOR と ASD を伴う青年において、穏やかな嫌悪感覚刺激曝露中の脳の応答、馴化及び結合性における差を決定する。

デザイン、設定、被験者:
19人の ASD を伴う高機能な青年、19人の年齢と IQ をマッチさせた定型発達者の青年(年齢幅:9-17歳)において、穏やかな嫌悪聴覚刺激及び触覚刺激への脳の応答及び馴化を調査するために機能的磁気共鳴画像法が使用された。脳活動は子どもたちの SOR 症状の両親の評価に関連していた。扁桃体と眼窩前頭皮質との間の機能的結合性は、SOR を伴う、伴わない ASD のサブグループ及び SOR を伴わない定型発達者間で比較された。研究の日付けは2012年3月から2014年2月であった。

主なアウトカム及び測定:
BOLD(blood oxygen level-dependent)信号における相対的な増加は、扁桃体と眼窩前頭皮質における BOLD 信号の変化の相関はもちろん、fixation(注:固視点を注視すること)と比較した感覚刺激の曝露中の全脳に渡って及び扁桃体内で応答する。

結果:
両群の平均年齢は14歳で、両グループの大多数(19人中の16人)が男性だった。定型発達の対照被験者に比較して、ASD を伴う被験者は一次感覚皮質及び扁桃体においてより強い活性化を示した(P < .05, 補正後)。この活動は不安を制御後の SOR 症状と正に相関していた。SOR を伴う ASD サブグループは、SOR を伴わないグループと比較して、一次感覚皮質及び扁桃体において刺激への神経的馴化が減少した。SOR を伴わないが ASD を伴う青年は、扁​​桃体と眼窩前頭皮質の間の負の結合性を伴う扁桃体のダウンレギュレーションのパターンを示した(閾値:z> 1.70、P <0.05)。

結論と関連性:
これらの結果により、SOR と ASD を伴う青年は、穏やかな嫌悪触覚刺激及び聴覚刺激、特に同時に存在する複数のモダリティへの感覚大脳辺縁系の過剰応答が示され、そして、この過剰応答は馴化の失敗によることが示された。加えて、ASD を伴う若者のサブセットは、扁桃体の活動の前頭前野によるダウンレギュレーションを通して、応答を調節可能なことを示唆した。介入のための意味付けは、複数のモダリティへの曝露の最小化及び刺激への情動応答を調節するための対処戦略の構築を含む。

注:i) 引用中の「BOLD」信号は血中酸素濃度依存信号のことです。ちなみに、神経細胞が活動すると、その細胞に酸素を運ぶために血流が増加します。酸素を運んでいる血液が流れ込んだ部位では、BOLD 信号が増加します。 ii) 引用中の「モダリティ」は特定の感覚のことのようです。 iii) 引用中の「ダウンレギュレーション」は機能の下向き調節のことのようです。 iv) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。  v) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 vi) ちなみに、引用中の「情動応答を調節する」に関連する「情動調節」について、ADHDにおける「情動調節」に関連する論文例は他の拙エントリのここに示します。

一方、自閉スペクトラム症関係でも、感覚過敏でもありませんが、馴化及び/又は消去学習に関連して、a) 社交不安症(SAD)における脳活動に関する研究を紹介する次の資料における記述の一部を以下に引用します。「社交不安症に関する脳画像研究の最前線」 b) 加えて、PTSD における恐怖消去に関する研究の論文の要旨を以下に引用します。 c) さらに、境界性及び回避性パーソナリティ障害の患者における馴化に関する研究の論文の要旨を以下に引用します。

4.馴化と消去学習
Sladky et al. (2012)は,実験パラダイムに おいて,顔写真を呈示し続けた後に(恐怖条件づけ),風景画を呈示し続ける手続きを行い(馴化と消去学習),馴化と消去学習に関わる SAD 患者の脳活動を検討した。その結果,顔写真が呈示されているときには,健常群と比べて SAD 群の扁桃体,視床,OFC 領域の賦活量が大きかった。しかしながら,SAD 群は,風景画が呈示され続けるにつれて,これらの領域の賦活量が次第に減少して,消失した。つまり,馴化と消去学習に扁桃体を中心とした辺縁系領域と OFC が関与する。この結果は,健常者を対象とした消去学習に関する先行研究の結果と一致している(Morgan et al., 1993; Phelps et al., 2004)。この結果を踏まえると,SAD に対する認知行動療法(cognitive behavioral therapy; CBT)で用いられるエクスポージャー技法は辺縁系領域と OFC の機能に変化を生じさせると推察できる。

注:i) 引用中の「OFC」は眼窩前頭皮質のことです。眼窩前頭皮質に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「Sladky et al. (2012)」、「Morgan et al., 1993」及び「Phelps et al., 2004」はそれぞれ「Increased neural habituation in the amygdala and orbitofrontal cortex in social anxiety disorder revealed by FMRI.*23、「Extinction of emotional learning: contribution of medial prefrontal cortex.」及び「Extinction learning in humans: role of the amygdala and vmPFC.」のことです。 iii) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 iv) 引用中の「辺縁系領域」に関連する「大脳辺縁系」については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 iv) ちなみに、上記「OFC」に関連するかもしれない、OCD(強迫性障害又は強迫症)における生物学的病態についての資料例は、次の pdfファイルを参照して下さい。「OCDの生物学的病態からみた難治性」、「次元評価を用いたボクセル単位形態計測による強迫性障害の多様性についての検討

上記論文「Avoidant symptoms in PTSD predict fear circuit activation during multimodal fear extinction.[拙訳]PTSD における回避症状はマルチモーダルの恐怖消去中の恐怖回路の活性を予測する」の要旨を次に引用します。

Convergent evidence suggests that individuals with posttraumatic stress disorder (PTSD) exhibit exaggerated avoidance behaviors as well as abnormalities in Pavlonian fear conditioning. However, the link between the two features of this disorder is not well understood. In order to probe the brain basis of aberrant extinction learning in PTSD, we administered a multimodal classical fear conditioning/extinction paradigm that incorporated affectively relevant information from two sensory channels (visual and tactile) while participants underwent fMRI scanning. The sample consisted of fifteen OEF/OIF veterans with PTSD. In response to conditioned cues and contextual information, greater avoidance symptomatology was associated with greater activation in amygdala, hippocampus, vmPFC, dmPFC, and insula, during both fear acquisition and fear extinction. Heightened responses to previously conditioned stimuli in individuals with more severe PTSD could indicate a deficiency in safety learning, consistent with PTSD symptomatology. The close link between avoidance symptoms and fear circuit activation suggests that this symptom cluster may be a key component of fear extinction deficits in PTSD and/or may be particularly amenable to change through extinction-based therapies.


[拙訳]
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を伴う個々人はパブロフの恐怖条件付けにおける異常はもちろん、際立った回避行動を示すことを収束するエビデンスは示唆する。しかし、この障害の2つの特徴間の関連が十分に理解されていない。 PTSD における異常な消去学習の脳の基礎を探査するために、被験者が fMRI スキャンを受けている間に、2つの感覚チャンネル(視覚及び触覚)からの感情的な関連情報を組み入れたマルチモーダルの古典的な恐怖条件付け/消去パラダイムを我々は実施した。サンプル(被験者)は、15人の ​​PTSD を伴う OEF/OIF 退役軍人から構成された。恐怖の獲得及び消去中に、条件付けられた手がかり及び文脈的な情報に応答して、より大きな回避の症候学は扁桃体、海馬、腹内側前頭前皮質、背内側前頭前皮質及び島におけるより大きな活性化と関連した。より重い PTSD を伴う個々人において、前もって条件付けられた刺激への高応答は PTSD の症候学と一致して安全学習における不足を示すことができるだろう。この症状群は ​​PTSD における恐怖消去の不足の主要な要素である、及び/又は特に消去に基づいた治療法を通した変化に従うかもしれないことを回避症状と恐怖回路の活性化との間の密接な関連は示唆する。

注:i) 引用中の「心的外傷後ストレス障害」については次のWEBページを参照して下さい。「外傷後ストレス障害 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「恐怖条件付け」については次のWEBページを参照して下さい。「恐怖条件づけ - 脳科学辞典」、「情動系神経回路 - 脳科学辞典」の「後天的に獲得された情動系神経回路」項 iii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iv) 引用中の「マルチモーダル」に関連する「マルチモーダル情報処理」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「マルチモーダル情報処理」の「マルチモーダル情報処理とは?」項 v) 引用中の「OEF」及び「OIF」はそれぞれ「Operation Enduring Freedom」(不朽の自由作戦)、「Operation Iraqi Freedom」(イラクの自由作戦)の略です。 vi) 引用中の「扁桃体」「海馬」に関連する「大脳辺縁系」については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 vii) 引用中の「腹内側前頭前皮質」「背内側前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「島」については、次のWEBページを参照して下さい。「島 - 脳科学辞典

上記論文「The neural correlates of anomalous habituation to negative emotional pictures in borderline and avoidant personality disorder patients.[拙訳]境界性及び回避性パーソナリティ障害の患者におけるネガティブな情動の画像への異常な馴化の神経的な相関」の要旨を次に引用します。

OBJECTIVE:
Extreme emotional reactivity is a defining feature of borderline personality disorder, yet the neural-behavioral mechanisms underlying this affective instability are poorly understood. One possible contributor is diminished ability to engage the mechanism of emotional habituation. The authors tested this hypothesis by examining behavioral and neural correlates of habituation in borderline patients, healthy comparison subjects, and a psychopathological comparison group of patients with avoidant personality disorder.

METHOD:
During fMRI scanning, borderline patients, healthy subjects, and avoidant personality disorder patients viewed novel and repeated pictures, providing valence ratings at each presentation. Statistical parametric maps of the contrasts of activation during repeated versus novel negative picture viewing were compared between groups. Psychophysiological interaction analysis was employed to examine functional connectivity differences between groups.

RESULTS:
Unlike healthy subjects, neither borderline nor avoidant personality disorder patients exhibited increased activity in the dorsal anterior cingulate cortex when viewing repeated versus novel pictures. This lack of an increase in dorsal anterior cingulate activity was associated with greater affective instability in borderline patients. In addition, borderline and avoidant patients exhibited smaller increases in insula-amygdala functional connectivity than healthy subjects and, unlike healthy subjects, did not show habituation in ratings of the emotional intensity of the images. Borderline patients differed from avoidant patients in insula-ventral anterior cingulate functional connectivity during habituation.

CONCLUSIONS:
Unlike healthy subjects, borderline patients fail to habituate to negative pictures, and they differ from both healthy subjects and avoidant patients in neural activity during habituation. A failure to effectively engage emotional habituation processes may contribute to affective instability in borderline patients.


[拙訳]
目的:
極端な情動的反応性は、境界性パーソナリティ障害の決定的な特徴であり、未だこの感情不安定の根底にある神経行動的なメカニズムはよく理解されていない。可能​​性のある一因は、情動的な馴化のメカニズムを関与させる能力の減少である。境界性パーソナリティ障害の患者、健康な比較対照者及び回避性パーソナリティ障害を伴う患者の精神病理学的な比較グループにおける馴化の行動及び神経的な相関の調査により、この仮説を著者らは試してみた。

方法:
fMRI スキャン中に、境界性パーソナリティ障害の患者、健常者及び回避性パーソナリティ障害の患者は新たな及び繰り返しの画像を見て、各々の提示で価値の評価を提供した。繰り返しの対新たなネガティブな画像を見ている時の活性化の対比の統計的パラメトリックマップはそれぞれのグループ間で比較された。グループ間の機能的結合性の差異を調査するために精神心理学的な相互作用分析が採用された。

結果:
繰り返し対新たな画像を見た時に、健常者とは異なり、背側前帯状皮質において、境界性パーソナリティ障害の患者も回避性パーソナリティ障害の患者も増加した活性を示さなかった。背側前帯状皮質の活性における増加の欠如は、境界性パーソナリティ障害の患者においてより大きな感情の不安定に関連した。加えて、島-扁桃体の機能的結合性において、境界性パーソナリティ障害の患者及び回避性パーソナリティ障害の患者は健常者と比較してより小さな増加を示し、そして、画像の情動強度の評価において馴化を示さなかった。馴化中の島-腹側前帯状回の機能的結合性において境界性パーソナリティ障害は回避性パーソナリティ障害の患者とは異なった。

結論:
健常者とは異なり、境界性パーソナリティ障害の患者はネガティブな画像の馴化に失敗し、そして、彼らは馴化の神経活動において健常者及び回避性パーソナリティ障害の患者の両方とは異なる。効果的に情動の馴化処理に従事することへの失敗は、境界性パーソナリティ障害の患者において、感情の不安定に寄与するかもしれない。

注:i) 引用中の「極端な情動的反応性」に関しては、他の拙エントリの「ここ」を参照して下さい。 ii) 引用中の「insula-amygdala functional connectivity」(島-扁桃体機能的結合性)については、次の論文の要旨を参照して下さい。「Insula-amygdala functional connectivity is correlated with habituation to repeated negative images.」 iii) 引用中の「背側前帯状皮質」に関連する「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「島」については、次のWEBページを参照して下さい。「島 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 vi) 引用中の「境界性パーソナリティ障害」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

また、感覚過敏([ご参考1]の上部参照)に関連する強烈世界症候群については、他の拙エントリの(a)項を参照して下さい。

ご参考1におけるご参考:ちなみに、i) 嗅覚過敏についての疑問点は他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用における扁桃体と眼窩前頭皮質の結合性*24に関しては、感覚過敏以外の視点(例えばノセボ効果、不安)から、ここ及び他の拙エントリのここここを参照すると良いかもしれません。

[ご参考2]MCS を伴う患者の脳科学的アプローチ
ここでは、主に MCS を伴う患者と対照群における嗅覚刺激中の NIRS イメージングに関連する以下の3つの論文の要旨を紹介します。ちなみに、これらの論文は全て全文公開され、その一部とこれらの論文における参照元の一部の論文の要旨を以下に紹介しています。

①「Changes in Cerebral Blood Flow during Olfactory Stimulation in Patients with Multiple Chemical Sensitivity: A Multi-Channel Near-Infrared Spectroscopic Study[拙訳]MCSを伴う患者における嗅覚刺激中の脳血流の変化:多チャンネル近赤外分光法による研究」

この論文(2013年発表)の要旨を、以下に引用します。

Multiple chemical sensitivity (MCS) is characterized by somatic distress upon exposure to odors. Patients with MCS process odors differently from controls. This odor-processing may be associated with activation in the prefrontal area connecting to the anterior cingulate cortex, which has been suggested as an area of odorant-related activation in MCS patients. In this study, activation was defined as a significant increase in regional cerebral blood flow (rCBF) because of odorant stimulation. Using the well-designed card-type olfactory test kit, changes in rCBF in the prefrontal cortex (PFC) were investigated after olfactory stimulation with several different odorants. Near-infrared spectroscopic (NIRS) imaging was performed in 12 MCS patients and 11 controls. The olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. The study also included subjective assessment of physical and psychological status and the perception of irritating and hedonic odors. Significant changes in rCBF were observed in the PFC of MCS patients on both the right and left sides, as distinct from the center of the PFC, compared with controls. MCS patients adequately distinguished the non-odorant in 10 odor repetitions during the early stage of the olfactory stimulation test, but not in the late stage. In comparison to controls, autonomic perception and negative affectivity were poorer in MCS patients. These results suggest that prefrontal information processing associated with odor-processing neuronal circuits and memory and cognition processes from past experience of chemical exposure play significant roles in the pathology of this disorder.


[拙訳]
多種化学物質過敏状態(MCS)は、臭気への曝露による身体の苦痛で特徴づけられる。MCS を伴う患者は対照群と異なった臭気処理を行う。この臭気処理は、MCS 患者における臭気物質に関連する活性化の領域として示唆されている前帯状皮質に結合する前頭前野における活性化と関連づけられるかもしれない。この研究において活性化は臭気物質刺激による局所的な脳血流量(rCBF)の有意な増加と定義した。よく設計されたカード型嗅覚検査キットを使用して、いくつかの異なる臭気物質刺激後の前頭前皮質(PFC)における rCBF 変化を調査した。12人の MCS 患者と11人の対照群において近赤外分光法(NIRS)イメージングが行われた。臭気物質刺激試験は連続的に10回繰り返した。被験者の身体的、心理的状態及び匂いの刺激度と快・不快度の知覚の評価もこの研究に含まれた。対照群と比較して、MCS 患者において PFC の中心ではなく、左右両側において rCBF の有意な変化が観察された。MCS 患者は嗅覚刺激試験の10回繰り返しにおいて、後期ではなく早期の段階で非臭気物質を十分に区別した。MCS 患者における自律的な知覚及びネガティブな感情は対照群と比較して劣っていた。これらの結果により、化学物質暴露の過去の体験からの臭気処理神経回路、記憶及び認知処理に関連する前頭前野の情報処理が、この障害(disorder)の病理に重要な役割を果たしていることを示唆する。

注:i) 引用中の「前頭前野」については次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「快・不快」については次のWEBページを参照して下さい。「快・不快 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 臭気(ニオイ)に関する引用中の「化学物質暴露の過去の体験からの臭気処理神経回路、記憶及び認知処理に関連する前頭前野の情報処理」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 加えて、これに関連するかもしれない、『「香り」と感情、記憶の結びつき』についての本の引用例はここを参照して下さい。さらに、においの文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」についてはここを、「イソ吉草酸のにおいに対する日本人とイヌイットとの好みの違い」についてはここを それぞれ参照して下さい。 vi) 加えて、この論文*25の「Introduction」において、fMRI を用いた日本の化学物質過敏症の研究に言及しています。この部分を以下に引用します。 vii) 一方、大脳辺縁系に関連してこの続報となる論文及び論文の一部をそれぞれ以下に引用します。

In functional magnetic resonance imaging (fMRI) studies involving exposure to odorants, a strong signal-intensity reaction was seen in the limbic system of MCS patients [18].


[拙訳]
臭気物質の曝露に関係した機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の研究において、強い信号強度の反応が MCS 患者の大脳辺縁系で見られた[18]。

注:i) 引用中の文献番号「[18]」については次に示します。ちなみに、PubMed では検索されません。「Miki T, lnoue Y, Miyajima E, Kudo Y, Tsunoda M (2010) Enhanced brain images in the limbic system by functional magnetic resonance imaging (fMRI) during chemical exposures to patients with multiple chemical sensitivities. Kitasato Medical Journal 40: 27–34」 ii) 引用中の「機能的磁気共鳴画像法(fMRI)」については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iii) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項

Andersson et al furthermore suggested the involvement of a limbic hyperreactivity and speculatively described the sensitivity with MCS as an inability to inhibit salient external stimuli in MCS [46].(中略)

Further research regarding the mode of action of chemical sensitivity through the cerebral limbic system due to chemicals that were recognized as harmful or hazardous during the past exposure event is needed.


[拙訳]
Andersson らはさらに、辺縁系の過剰反応性の関与を示唆し、MCS における顕著な外部刺激の抑制不能としての MCS を伴う過敏性を推論的に記述した[46]。(中略)

過去の曝露イベント中に有害又は危険と認識された化学物質による大脳辺縁系を通した化学物質過敏の作用機序に関するさらなる研究が必要である。

注:i) 引用中の文献番号「[46]」の論文の要旨はここを参照して下さい。 ii) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項

②「Assessment of cerebral blood flow in patients with multiple chemical sensitivity using near-infrared spectroscopy--recovery after olfactory stimulation: a case-control study.[拙訳]近赤外分光法を使用した MCS を伴う患者の脳血流量の評価 - 嗅覚刺激後の回復:症例対照研究」

この論文(2015年発表)の要旨を以下に引用します。これは上記論文の続報です。*26 

OBJECTIVES:
Multiple chemical sensitivity (MCS) is a chronic acquired disorder characterized by non-specific symptoms in multiple organ systems associated with exposure to odorous chemicals. We previously observed significant activations in the prefrontal cortex (PFC) during olfactory stimulation using several different odorants in patients with MCS by near-infrared spectroscopy (NIRS) imaging. We also observed that the patients with MCS did not adequately distinguish non-odorant in the late stage of the repeated olfactory stimulation test. The sensory recovery of the olfactory system in the patients with MCS may process odors differently from healthy subjects after olfactory stimulation.

METHODS:
We examined the recovery process of regional cerebral blood flow (rCBF) after olfactory stimulation in patients with MCS. NIRS imaging was performed in 6 patients with MCS and in 6 controls. The olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. The study also included a subjective assessment of the physical and psychological status and of the perception of irritating and hedonic odors.

RESULTS:
After olfactory stimulation, significant activations were observed in the PFC of patients with MCS on both the right and left sides compared with controls. The activations were specifically strong in the orbitofrontal cortex (OFC). Compared with controls, autonomic perception and feelings identification were poorer in patients with MCS. OFC is associated with stimuli response and the representation of preferences.

CONCLUSIONS:
These results suggest that a past strong exposure to hazardous chemicals activates the PFC during olfactory stimuli in patients with MCS, and a strong activation in the OFC remains after the stimuli.


[拙訳]
目的:
多種化学物質過敏状態(MCS)は、臭気化学物質への曝露に関連する複数の器官系における非特異的な症状を特徴とする後天性の慢性障害(disorder)である。以前に我々は近赤外分光(NIRS)イメージングにより、MCS を伴う患者において、いくつかの異なる臭気物質を使用した嗅覚刺激中の前頭前皮質(PFC)における有意な活性化を観察した。MCS を伴う患者は繰り返した嗅覚刺激試験の後期段階において非臭気物質を十分に区別していなかったことも我々は観察した。MCS を伴う患者における嗅覚刺激後の嗅覚系の感覚の回復は、健常な被験者とは異なる臭気の処理を行っているかもしれない。

方法:
我々は、MCS を伴う患者における嗅覚刺激後の局所脳血流量(rCBF)の回復過程を調べた。NIRS イメージングは MCS を伴う患者6人及び対照群6人で実施した。嗅覚刺激試験は連続的に10回繰り返した。本研究には身体的及び心理的状態、及び臭いの刺激性と快・不快の知覚の主観的な評価が含まれていた。

結果:
嗅覚刺激後、対照群と比較して、MCS を伴う患者の PFC の左右両側で有意な活性化が観察された。この活性化は特に眼窩前頭皮質(OFC)おいて特異的に強かった。対照群と比較して MCS を伴う患者では、自律的な知覚と感情の弁別はより貧弱であった。OFC は刺激応答や好みの表現に関連している。

結論:
有害な化学物質への過去の強い曝露により、MCS を伴う患者の嗅覚刺激中の PFC が活性化され、そして OFC において刺激後に強い活性化が残存することをこれらの結果は示唆する。

注:i) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) この論文が発表されたジャーナル「Environmental Health and Preventive Medicine」のインパクトファクターについては、次のWEBを参照して下さい。「Environmental Health and Preventive Medicine」の「EHPMのWeb of Scienceへの掲載決定!」項。 iii) さらに、この論文における脳の領域について記述した二つの部分、すなわち前者の「Introduction」及び後者の「Discussion」における記述の一部をそれぞれ以下に引用します。ちなみに、後者の引用における「ACC」、「PFC」、「OFC」はそれぞれ、「前帯状皮質」(Anterior Cingulate Cortex)、「前頭前皮質」(Prefrontal Cortex)、「眼窩前頭皮質」(Orbitofrontal Cortex)のことです。 iv) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 一方、上記「眼窩前頭皮質」に関連する用語「前頭連合野眼窩部」については、意思決定に及ぼす影響の視点より、渡邊正孝、船橋新太郎編の本、「情動と意思決定 -感情と理性の統合-」(2015年発行)の 6 意思決定に及ぼす情動の影響 -前頭連合野眼窩部の機能を中心に-[著者は船橋新太郎] の「おわりに」項に示されており、この部分の記述(P192)を以下に引用します。

We previously conducted a near-infrared spectroscopy (NIRS) activation study on olfactory stimulation in patients with MCS [14]. Activation was defined as a significant increase in the regional cerebral blood flow (rCBF) following odorant stimulation. Changes in the blood flow and oxygenation to the brain are closely linked to neural activity [15]. NIRS has been commonly applied in studies of prefrontal activity [16, 17] and is suitable for detecting oxygenation changes in higher cortical regions. Our previous study identified acute activation in the prefrontal cortex (PFC) during olfactory stimulation with several different odorants in patients with MCS [14]. The prefrontal area connects to the anterior cingulate cortex (ACC), an area of odorant-related activation in patients with MCS [18]. The results of challenge tests by exposure to odorous chemicals indicated a neuro-cognitive impairment in patients with MCS, and using single photon-emission computed tomography, brain dysfunction was found particularly in odor-processing areas, thereby suggesting a neurogenic origin of MCS [19]. One possibility is that patients with MCS may have an enhanced top–down regulation of odor response via the cingulate cortex. These findings also suggest that prefrontal information processing associated with the odor-processing neuronal circuits and memory from a past experience of chemical exposure may play significant roles in the pathology of this disorder.

Our previous study also showed that the patients with MCS adequately distinguished non-odorant in 10 odor repetitions during the early stage but not in the late stage of the olfactory stimulation test when the olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. Repeated or prolonged exposure to an odorant typically leads to a stimulus-specific decrease in olfactory sensitivity to that odorant, but sensitivity recovers over time in the absence of further exposure [20]. Thus, we postulate that prefrontal information processing in patients with MCS is activated by an emotional response to a repeated olfactory stimulation in the late stage of the test, and that the processing system in the PFC cannot respond adequately. Further, the sensory recovery of the olfactory system in patients with MCS may process odors differently from healthy subjects after olfactory stimulation. Although recovery is generally evident after short olfactory stimulation on the several tens of second time scale [21, 22], the recovery process of patients with MCS may differ from that of healthy subjects. In this study, we examined the recovery process after short olfactory stimulation in patients with MCS, using NIRS imaging.


[拙訳]
MCS を伴う患者における嗅覚刺激に関する近赤外分光法(NIRS)による活性化の研究を我々は以前に実施した[14]。活性化は臭気物質刺激に続く局所脳血流量(rCBF)の有意な増加として定義された。脳への血流と酸素化における変化は神経活動と密接に関連する[15]。 NIRS は、一般的に前頭前野の活動の研究に適用され[16, 17]、より高い皮質領域における酸素化の変化の検出に適している。我々の以前の研究では、MCS を伴う患者において、いくつかの異なる臭気物質を伴った嗅覚刺激中に前頭前皮質(PFC)における急激な活性化が同定された[14] 。前頭前野領域は前帯状皮質(ACC)、MCS を伴う患者における臭気物質関連の活性化領域と結合する[18]。臭気化学物質への曝露による負荷試験の結果は、MCS を伴う患者における神経認知障害を示し、そして単一光子放射型コンピュータ断層撮影法を使用した、脳の機能障害は臭い処理領域で発見され、それにより、MCS の神経原性の起源を示唆する[19]。一つの可能​​性は、MCS を伴う患者は、帯状皮質を介して増強された臭気応答のトップダウン調節を有するかもしれない。これらの知見は、臭気処理神経回路に関連した前頭前野の情報処理及び化学物質曝露の過去の体験からの記憶はこの障害(disorder)の病理に重要な役割を果たすかもしれないことを示唆する。

嗅覚刺激試験を連続して10回繰り返した時、この10回繰り返しの初期には、MCS を伴う患者は非臭気物質を見分けられたが、後期には見分けられなかったことも我々の前の研究で示した。臭気物質への反復した又は延長した曝露は典型的に、この刺激への臭気感度における刺激特異的な減少をもたらすが、さらなる曝露の欠如において感度は経時的に回復する[20]。このように、MCS を伴う患者における前頭前野の情報処理は後期の試験における反復した嗅覚刺激への情動応答により活性化され、そして PFC における処理システムは適切に応答できないことを我々は前提とする。さらに、MCS を伴う患者における嗅覚システムの感覚回復は、嗅覚刺激後の健康な被験者と異なる臭いの処理をしているかもしれない。数十秒の時間スケールでの短い嗅覚刺激後の回復は一般的に明白である[21, 22]が、MCS を伴う患者の回復過程は健常な被験者と異なるかもしれない。本研究では、NIRS イメージングを使用して、MCS を伴う患者の短い嗅覚刺激後の回復過程を我々は調査した。

注:i) これは上記「Introduction」における記述の一部の引用です。 ii) 引用中の文献番号「[14]」、「[15]」、「 [16, 17] 」、「[18]」はそれぞれ次の論文です。「Changes in cerebral blood flow during olfactory stimulation in patients with multiple chemical sensitivity: a multi-channel near-infrared spectroscopic study.*27、「Age dependency of changes in cerebral hemoglobin oxygenation during brain activation: a near-infrared spectroscopy study.」、「Beyond the visible--imaging the human brain with light.」、「Prefrontal activity during taste encoding: an fNIRS study.」、「Odor processing in multiple chemical sensitivity.」 iii) 引用中の文献番号「[19]」、「[20]」はそれぞれ次の論文です。「Brain dysfunction in multiple chemical sensitivity.」、「Psychophysical and behavioral characteristics of olfactory adaptation.」 iv) 引用中の「記憶」に関連するかもしれない「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動的記憶 - 脳科学辞典」 さらに、引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 vii) 引用中の「トップダウン」に関しては、例えば次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項 viii) 臭気(ニオイ)に関する引用中の「化学物質曝露の過去の体験からの記憶」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 加えて、これに関連するかもしれない、『「香り」と感情、記憶の結びつき』についての本の引用例はここを参照して下さい。さらに、においの文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」についてはここを、「イソ吉草酸のにおいに対する日本人とイヌイットとの好みの違い」についてはここを それぞれ参照して下さい。

An odorant-related increase in activation in the ACC has been observed in patients with MCS [18]. The ACC is involved in adequate control of top–down or bottom–up modulation of stimuli and is connected to the PFC. Past exposures to hazardous chemicals are stored as memories in the PFC through olfactory nerve circuits, causing various physical or psychological responses such as emotional, visceral, or autonomic responses during the processing of top–down stimuli when exposed to odorants later in life [14]. In the present study, we found that recovery from activation in the PFC after an olfactory stimulation is delayed in patients with MCS compared with controls. These findings support the current understanding of the pathology of this disorder: compared to healthy subjects, patients with MCS strongly respond to odorants that they encounter in daily life, the repeated daily exposure to the odorants keeps them in a reactive state. Due to their physical and psychological intolerance to odorants, the patients try to avoid exposure to the odorants. In this study, 4 patients with MCS had episodes of initial exposure to chemicals that triggered the first symptoms. These included organic solvents or incense at the workplace, exhaust gas from diesel machines in the neighborhood, odors from pesticides, or fragrance from a neighbor. Two patients had episodes of repeated exposure to solvents emitted from a neighboring industrial plant or a neighboring paint store, respectively. Patients with MCS complained about a chemical-sensitive condition thereafter. The psychological evaluations in our study support the theory of a strong response in patients with MCS.

In the recovery stage after the stimulation, the activation was especially strong in the OFC. The olfactory neuroanatomy is intertwined, via extensive reciprocal axonal connections, with primary emotion areas including the amygdala, hippocampus, and OFC [39, 40]. Olfactory stimulation directly activates amygdala neurons, innervating a region in the OFC. The olfactory sense has a unique intimacy with the emotion system, and the perception of smell is known to be dominated by emotion [41]. Strong activation in the OFC might remain as potent affective experiences following olfactory stimuli in patients with MCS compared with controls. In this study, lateral orbitofrontal regions were specifically activated in the patients with MCS. The valence of odors is represented in particular in the OFC [42]. Nearly all odors were evaluated as unpleasant by the MCS patients in the subjective evaluation after the stimulation. Pleasant odors preferentially activate medial orbitofrontal regions, whereas unpleasant odors activate more lateral regions [43–46]. The strong activations of the lateral OFC in the patients with MCS suggest that these odors were extremely unpleasant for the MCS patients.

Both the ACC and OFC are implicated in decision-making, emotion, and social behavior. Recent evidence suggests that the ACC and OFC make distinct contributions to each of these aspects of decision-making [47]. The OFC is involved in the cognitive processing of stimuli and the representation of preferences. The ACC may mediate the relationship between a past experience and the choice of the next action. Thus, our results suggest that a past strong exposure to hazardous chemicals activates the ACC (and the connected PFC) during olfactory stimuli in the patients with MCS, and a strong activation in the OFC remains after the stimuli. In particular, the lateral OFC is specifically activated when the odor is unpleasant for the patients with MCS. However, the OFC and ACC are anatomically interconnected, and their interaction stimulates decision-making. Their individual function independent of each other remains unclear. Further research is required to understand the recovery process in MCS and the pathology of this disorder.


[拙訳]
ACC での活性化における臭気物質関連の増加は、MCS を伴う患者において観察されている[18]。 ACC は、刺激のトップダウン又はボトムアップ調節の適切な制御に関与し、PFC に結合されている。危険な化学物質への過去の暴露は、嗅覚神経回路を介して、PFC において記憶として貯蔵され、その後の人生において臭気物質に曝露された時に、トップダウンの刺激処理中に、情動的、直感的又は自律的な応答を引き起こす[14]。本研究においては、対照群と比較して MCS を伴う患者は、PFC において嗅覚刺激後の回復が遅れることを我々は発見した。これらの知見はこの障害(disorder)の病理の現在の理解を支持する:健康な被験者と比較して MCS を伴う患者は日常生活で遭遇する臭気物質に強く応答し、毎日の臭気物質への反復暴露により、反応状態を維持する。臭気物質への身体的及び心理的不耐により、患者の方々は臭気物質への暴露を回避するように試みる。この研究において、4人の患者には最初の症状のきっかけとなった初期の化学物質曝露のエピソードがあった。これらには、職場における有機溶剤又は香料、近隣におけるディーゼル機械からの排気ガス、殺虫剤の臭い、又は近隣からの芳香を含んでいた。2人の患者は近隣の工業プラント又は塗料店から放出される溶剤にそれぞれ反復曝露していた。その後、MCS を伴う患者は化学物質に過敏な状況を訴えた。我々の研究における心理的な評価は、MCS を伴う患者の強い応答の理論を支持する。

刺激後の回復ステージにおいて、OFC における活性化は特に強かった。嗅覚の神経解剖学は扁桃体、海馬及び OFC [39, 40]を含む一次的な情動領域を伴う広範囲で相互的な軸索結合を通して絡みあう。嗅覚刺激は直接的に扁桃体神経を活性化し、OFC を神経支配する。嗅覚は情動システムと独自の密接さを有し、匂いの知覚は情動により支配されることが知られている[41]。対照群に比較した MCS を伴う患者において、嗅覚刺激後の潜在的な感情体験として、ひょっとすると、OFC における強い活性化が残っているかもしれない。本研究では、MCS を伴う患者において外側眼窩前頭領域が特に活性化した。臭いの感情価(valence)は特に眼窩前頭皮質において表象される[42]。刺激後の主観的評価において、MCS を伴う患者によりほぼ全ての臭いは不快と評価された。不快な臭いは外側領域をより活性化する[43–46]のに対し、快な臭いは優先的に内側眼窩前頭領域を活性化する。MCS を伴う患者における外側 OFC の強い活性化は、これらの臭いが MCS 患者にとって極めて不快であることを示唆する。

ACC と OFC の両方は、意思決定、情動及び社会行動に関係する。ACC と OFC は意思決定のこれらの側面の各々に明確に寄与することを最近のエビデンスは示唆する[47]。 OFC は刺激の認知処理及び好みの表象に関係する。ACC は過去の経験と次の選択との間をメディエイトするかもしれない。このように、MCS を伴う患者における嗅覚刺激中に、危険な化学物質への過去の強い曝露は ACC(及び結合された PFC)を活性化する、そして刺激後に OFC において強い活性化が残る。特に、臭いが MCS を伴う患者にとって不快な時は、特に外側 OFC が活性化される。しかし、OFC と ACC は自律的に相互結合し、そしてこれらの相互作用は意思決定を刺激する。お互いに独立したこれらの各々の機能は不明確のままである。MCS における回復過程及びこの障害(disorder)の病理を理解するためのさらなる研究が要求される。

注:i) これは上記「Discussion」における記述の一部の引用です。 ii) 引用中の文献番号「[14]」、「[18]」はそれぞれ次の論文です。「Changes in cerebral blood flow during olfactory stimulation in patients with multiple chemical sensitivity: a multi-channel near-infrared spectroscopic study.*28、「Odor processing in multiple chemical sensitivity.」 iii) 引用中の文献番号「[39]」、「[40]」、「[41]」、「[42]」は次の論文です。「Parallel-distributed processing in olfactory cortex: new insights from morphological and physiological analysis of neuronal circuitry.」、「Central mechanisms of odour object perception.」、「When the sense of smell meets emotion: anxiety-state-dependent olfactory processing and neural circuitry adaptation.」、「Cognitive modulation of olfactory processing.」 iv) 引用中の文献番号「[43]」、「[44]」、「[45]」、「[46]」は次の論文です。「Dissociated neural representations of intensity and valence in human olfaction.」、「The nose smells what the eye sees: crossmodal visual facilitation of human olfactory perception.」、「Different representations of pleasant and unpleasant odours in the human brain.」、「Emotion, olfaction, and the human amygdala: amygdala activation during aversive olfactory stimulation.」 v) 引用中の文献番号「[47]」は次の論文です。「Contrasting roles for cingulate and orbitofrontal cortex in decisions and social behaviour.」 vi) 引用中の「記憶」に関連するかもしれない「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動的記憶 - 脳科学辞典」 さらに、引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 ix) 引用中の「感情価」は情動価とも称され、ネガティブ、ポジティブ又はニュートラルといった感情の方向性を示すものです。 x) 引用中の「表象」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 xi) 引用中の「意思決定」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 xii) 引用中の「トップダウン」及び「ボトムアップ」に関しては、例えば次のWEBページを参照して下さい。「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項

おわりに
われわれがふだん行う意思決定には,様々な情報を利用した論理的な推論が重要な役割を演じている.その情報の一つは,意思決定によって得られた結果の評価に関する情報である.それによる意思決定ではいくつかの選択肢のなかからある選択をしたときにどのような結果が得られるか,あるいは,どの程度の有益な結果が得られるかを,過去の経験をもとに論理的に評価し,一番評価の高い選択肢を選択する.そして,その選択で得られた結果が,期待どおりの好ましいものであれば評価を高め,期待に反して好ましくないものであれば評価を下げる.そして,この評価を次の意思決定のための情報として使用する.しかし,どの選択肢をとるかの意思決定は,選択によって得られると期待される結果の評価ばかりではなく,その選択にどれだけのコストが必要か,そして,コストに見合った結果を得ることができるかにも依存する.
選択によって得られると期待される結果の評価や,その選択に必要なコスト,さらに,選択で被るかもしれないリスクなどの情報をもとにした論理的な推論で意思決定が行われるだけではなく,その方向に大きな影響を与える感情という要因が加わる.感情は,ダマシオらが唱えるソマティック・マーカーという形で,いくつかの選択肢のなかからある選択肢をポジティブにもネガティブにも際立たせ,その結果,その選択肢を選択しやすくさせたり,選択しにくくさせたりする一種のバイアス装置として,多くの場合は無意識下で機能する.そして,感情のこのような働きにより,意思決定を個体にとって有利な方向に向かわせることができると考えられている.そして,われわれの意思決定が感情によって影轡されるような場面で,前頭連合野の一部分である前頭連合野眼窩部が重要な役割を演じていることが明らかにされてきている.

注:i) 上記項目タイトル中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えて、メンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「ソマティック・マーカー」については、次のWEBページを参照して下さい。「ソマティック・マーカー仮説 - 脳科学辞典

③「Association of Odor Thresholds and Responses in Cerebral Blood Flow of the Prefrontal Area during Olfactory Stimulation in Patients with Multiple Chemical Sensitivity.[拙訳]MCS を伴う患者における臭気閾値と嗅覚刺激中の前頭葉の脳血流量での応答との関連」

この論文(2016年発表)の要旨を以下に引用します。これは上記論文の続報です。

Multiple chemical sensitivity (MCS) is a disorder characterized by nonspecific and recurrent symptoms from various organ systems associated with exposure to low levels of chemicals. Patients with MCS process odors differently than controls do. Previously, we suggested that this odor processing was associated with increased regional cerebral blood flow (rCBF) in the prefrontal area during olfactory stimulation using near-infrared spectroscopic (NIRS) imaging. The aim of this study was to investigate the association of odor thresholds and changes in rCBF during olfactory stimulation at odor threshold levels in patients with MCS. We investigated changes in the prefrontal area using NIRS imaging and a T&T olfactometer during olfactory stimulation with two different odorants (sweet and fecal) at three concentrations (zero, odor recognition threshold, and normal perceived odor level) in 10 patients with MCS and six controls. The T&T olfactometer threshold test and subjective assessment of irritating and hedonic odors were also performed. The results indicated that the scores for both unpleasant and pungent odors were significantly higher for those for sweet odors at the normal perceived level in patients with MCS than in controls. The brain responses at the recognition threshold (fecal odor) and normal perceived levels (sweet and fecal odors) were stronger in patients with MCS than in controls. However, significant differences in the odor detection and recognition thresholds and odor intensity score between the two groups were not observed. These brain responses may involve cognitive and memory processing systems during past exposure to chemicals. Further research regarding the cognitive features of sensory perception and memory due to past exposure to chemicals and their associations with MCS symptoms is needed.


[拙訳]
多種化学物質過敏状態(MCS)は低レベルの化学物質の曝露に関連する様々な臓器系からの非特異的かつ再発する症状により特徴づけられる障害(disorder)である。MCS を伴う患者は対照群と異なる臭気処理をする。以前に、近赤外線分光法(NIRS)イメージングを使用した嗅覚刺激中の前頭前野における増加した局所脳血流(rCBF)に関連したことを、我々は示唆した。この研究の目的は、臭気閾値と MCS を伴う患者における臭気閾値レベルの嗅覚刺激中の rCBF における変化との関連を調査することである。10人の MCS を伴う患者と 6人の対照群において、2つの異なるニオイ物質(あまいニオイ、糞臭)を用いた、3種類の濃度(ゼロ、臭気認知閾値、普通に知覚される臭気レベル)での嗅覚刺激中の NIRS イメージングとT&Tオルファクトメーターを使用した前頭前野における変化を調査した。T&Tオルファクトメーター閾値試験及び刺激性及び快なニオイの主観的な評価も実施された。これらの結果では、不快かつ刺激の強い臭いのスコアは普通に知覚されたレベルで、対照群よりも MCS を伴う患者において、あまいニオイのスコアよりも有意に高かったことが示された。臭気認知閾値(糞臭)及び普通に知覚されるレベル(あまいニオイ、糞臭)での脳の応答は、対照群よりも MCS を伴う患者の方が強かった。しかしながら、臭いの検知と認知の閾値及び臭い強度スコアにおける 2つのグループ間での有意な差は観察されなかった。これらの脳の応答には、過去の化学物質曝露中の認知及び記憶処理系が関与しているかもしれない。過去の化学物質曝露による感覚の知覚と記憶及び MCS の症状に関連する認知的な特徴に関する、さらなる研究が必要である。

注:i) 参考として、引用中の「T&Tオルファクトメーター」を紹介する pdfファイルを次に示します。 「T&Tオルファクトメーター」 ii) 引用中の「検知と認知の閾値」に関連する、「検知閾値」、「認知閾値」については、共に次のpdfファイルを参照して下さい。 「T&Tオルファクトメーター」 iii) 引用中の「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) ちなみに、嗅覚閾値に関連する論文は、 a) 自閉スペクトラム症を伴う子どもを症例群としたものはここを参照して下さい。 vi) 臭気(ニオイ)に関する引用中の「過去の化学物質曝露による感覚の知覚と記憶」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 加えて、これに関連するかもしれない、『「香り」と感情、記憶の結びつき』についての本の引用例はここを参照して下さい。さらに、においの文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 vii) 一方、この論文の「Discussion」における記述の一部を以下に引用します。ちなみに、この引用における「PFC」、「OFC」はそれぞれ「前頭前皮質」(Prefrontal Cortex)、「眼窩前頭皮質」(Orbitofrontal Cortex)のことです。 

The dorsal part of the anterior cingulate cortex (ACC) is connected to the PFC, and it plays an important role in processing top-down and bottom-up stimuli and assigning appropriate control to other areas in the brain [45]. Thus, the past exposure event was stored as memories in these cortices through olfactory nerve circuits, the processing of top-down stimuli from these cortices involves the central system related to emotional and autonomic nervous system, and various physical or psychological symptoms would be induced in patients with MCS. The psychological evaluations in the present study indicated that scores in MCS patients were significantly higher than those in controls on the APQ and TAS-20 DIF scales. These results also may support the theory of response regulation by memory in the PFC. Andersson et al furthermore suggested the involvement of a limbic hyperreactivity and speculatively described the sensitivity with MCS as an inability to inhibit salient external stimuli in MCS [46].
Near-infrared rays sent out from the NIRS device can provide visual access to the cerebral cortex within approximately 20 mm from the scalp, but cannot access the deep portion of a cerebral limbic system. The NIRS has the advantage of a high time resolution and the feasibility of being performed under natural conditions compared with other functional neuroimaging methodologies such as fMRI, PET, and SPECT, which can access the cerebral limbic system. However, the connections between the cerebral cortex and cerebral limbic system, their odor information processing, and their associations with MCS symptoms are important to clarify the pathology of this disorder. Further research is necessary regarding these connections and their associations with the symptoms using the NIRS and these other methodologies during olfactory stimulation.
Our study had some limitations. First, the small sample size makes the results vulnerable to selection bias. This could be alleviated by including a larger study population. However, differences between the patients with MCS and the controls regarding the NIRS imaging data were evident and supported by similar findings in the ACC [13], PFC [16], and OFC [17] in previous studies. Second, to the best of our knowledge, this is the first case-control study investigating the association of odor thresholds and changes in rCBF in prefrontal areas during olfactory stimulation at the odor threshold level in patients with MCS using NIRS imaging. Further evaluation using several odorants associated with a wide range of levels of comfort/discomfort or weak/strong irritation for MCS would provide valuable information for understanding the pathology of this disorder. A third limitation was the lack of standardized objective measures to identify and define MCS. Most definitions of MCS are entirely qualitative, relying on subjective reports of distressing symptoms and environmental exposure from patients and physicians. Therefore, several participants were excluded on the basis of QEESI scores, hematological data, and the discretion of the clinic physician due to conditions such as mental or chronic disorders.
In conclusion, despite the small sample size, this experimental case-control study demonstrated that significant differences between patients with MCS and controls regarding odor thresholds were not observed, and larger increases in rCBF in the PFC and OFC were observed in patients with MCS than in controls in response to the olfactory stimuli at the odor recognition threshold or normally perceived odor level. These brain responses may involve cognitive and memory processing systems during past exposure to hazardous chemicals. Further research regarding the mode of action of chemical sensitivity through the cerebral limbic system due to chemicals that were recognized as harmful or hazardous during the past exposure event is needed.


[拙訳]
前帯状皮質(ACC)の背面部は PFC に結合され、トップダウンとボトムアップの刺激処理及び脳内の他の領域に適切な制御の割り当ての重要な役割を果たす[45]。従って、過去の暴露イベントは、嗅神経回路を介してこれらの皮質に記憶として貯蔵され、これらの皮質からのトップダウン刺激の処理には、情動及び自律神経系に関連する中枢系が関与し、そして、MCS を伴う患者において、様々な身体的又は心理的な症状が引き起こされるのであろう。本研究における心理的な評価では、APQ 及び TAS-20 DIF 尺度に関して、対称群よりも MCS 患者の方が有意により高いスコアであることを示した。これらの結果は PFC における記憶による応答調節の理論も支持するかもしれない。Andersson らはさらに、辺縁系の過剰反応性の関与を示唆し、MCS における顕著な外部刺激の抑制不能としての MCS を伴う過敏性を推論的に記述した[46]。
NIRS 装置から放たれた近赤外線は頭皮から約20mm以内の大脳皮質まで視覚的アクセスを提供する。しかし、大脳辺縁系の深い部分までアクセスできない。NIRS は高い時間解像及び fMRI、PET 及び SPECT 、これらは大脳辺縁系までアクセス可能、等の他の機能イメージング方法論と比較して、自然な状態での実行の可能性の利点を有する。しかしながら、大脳皮質と大脳辺縁系の結合、臭気情報処理及び MCS 症状との関連はこの障害(disorder)の病理の明確化に重要である。これらの結合及び症状との関連に関した、NIRS 及び他の方法論を使用した嗅覚刺激中のさらなる研究が必要である。
我々の研究にはいくつかの限界がある。第一に、小さなサンプルサイズ(被験者数)により選択バイアスに対し脆弱となる。これはより大きな被験者数を含めることにより緩和しうる。しかしながら、NIRS イメージングデータに関して、MCS を伴う患者と対照群の差は明確であり、以前の研究、ACC [13], PFC [16] 及び OFC [17] における類似した知見により支持される。第二に、我々の知る限り、これが NIRS イメージングを使用した MCS を伴う患者における臭気閾値レベルでの嗅覚刺激中の前頭前野での臭気閾値と rCBF における変化との関連を調査する最初の症例-対照研究である。MCS にとって幅広い範囲の快/不快又は弱い/強い刺激に関連したいくつかの臭気物質を使用したさらなる評価は、この障害の病理の理解に向けた貴重な情報を提供するだろう。第三の限界は、MCS を同定及び定義する標準化された客観的な基準の欠如である。ほとんどの MCS の定義はもっぱら定性的であり、患者及び医師からの苦痛の症状及び環境曝露の主観的な報告に頼っている。従って、数人の被験者は、問診票(QEESI)のスコア、血液検査のデータ及び精神又は慢性の障害等の状態により臨床医の裁量に基づき除外した。
結論として、小さなサンプルサイズにもかかわらず、この実験的な症例-対照研究は、臭気閾値に関する MCS を伴う患者と対照群との有意な差は観察されなかった、そして、臭気認識閾値又は普通に知覚される臭気レベルでの嗅覚刺激に応じて、対照群よりも MCS を伴う患者で、PFC 及び OFC における rCBF のより大きな増加が観察されたことを実証した。これらの脳の応答は、過去の危険な化学物質への曝露中の認知及び記憶処理システムが関与するかもしれない。過去の曝露イベント中に有害又は危険と認識された化学物質による大脳辺縁系を通した化学物質過敏の作用機序に関するさらなる研究が必要である。

注:i) 引用中の文献番号「[45]」は次に示す論文です。 「Emotional processing in anterior cingulate and medial prefrontal cortex」 ii) 引用中の文献番号「[13]」、「[16]」はそれぞれ次に示す論文です。 「Functional Neuroimaging of Anxiety: A Meta-Analysis of Emotional Processing in PTSD, Social Anxiety Disorder, and Specific Phobia」、「On the relationship between emotion and cognition. 一方、引用中の文献番号「[17]」の論文は紹介しません。論文をご参照下さい。 iii) 引用中の「PFC」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「OFC」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典 v) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照すると良いかもしれません。 vii) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 viii) 引用中の「APQ」、「TAS-20 DIF」は、それぞれ「Autonomic Perception Questionnaire」[拙訳:自律知覚アンケート]、「トロント・アレキサイミア尺度(TAS-20)とその下位尺度の感情同定の困難さ (DIF:difficulty in identifying feelings)」のようです。 ix) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 x) 臭気の文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 xi) 引用中の文献番号「[46]」の論文の要旨は次に紹介します。

論文「Brain responses to olfactory and trigeminal exposure in idiopathic environmental illness (IEI) attributed to smells -- an fMRI study.[拙訳]特発性環境不耐症(IEI)における嗅覚及び三叉神経の匂いによる曝露への脳の応答-機能的磁気共鳴画像法の研究」の要旨を次に引用します。

OBJECTIVE:
Idiopathic environmental intolerance (IEI) to smells is a prevalent medically unexplained illness. Sufferers attribute severe symptoms to low doses of non-toxic chemicals. Despite the label, IEI is not characterized by acute chemical senses. Theoretical models suggest that sensitized responses in the limbic system of the brain constitute an important mechanism behind the symptoms. The aim was to investigate whether and how brain reactions to low-levels of olfactory and trigeminal stimuli differ in individuals with and without IEI.

METHODS:
Brain responses to intranasally delivered isoamyl acetate and carbon dioxide were assessed in 25 women with IEI and 26 non-ill controls using functional magnetic resonance imaging.

RESULTS:
The IEI group had higher blood-oxygenated-level-dependent (BOLD) signal than controls in the thalamus and a number of, mainly, parietal areas, and lower BOLD signal in the superior frontal gyrus. The IEI group did not rate the exposures as more intense than the control group did, and there were no BOLD signal differences between groups in the piriform cortex or olfactory regions of the orbitofrontal cortex.

CONCLUSIONS:
The IEI reactions were not characterized by hyper-responsiveness in sensory areas. The results can be interpreted as a limbic hyperreactivity and speculatively as an inability to inhibit salient external stimuli.


[拙訳]
目的:
匂いに対する特発性環境不耐症(IEI)は、一般的な医学的に説明できない病気である。被害者は重篤な症状を低用量の非毒性化学物質に帰する。ラベリングにもかかわらず、IEI は、急性の化学感覚により特徴づけれない。理論モデルは、脳の大脳辺縁系で感作された応答は、症状の背後にある重要な機構を構成することを示唆する。本研究の目的は、IEI を伴う各人と伴わない各人で低レベルの嗅覚及び三叉神経刺激への脳の反応が異なるのかどうか、及びどのように異なるのかを調査することであった。

方法:
25人の IEI を伴う女性(IEI グループ)及び26人の病気でない対照群において、鼻腔内に送達した酢酸イソアミル及び二酸化炭素への脳の反応を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて評価した。

結果:
IEI グループは、視床野及びいくつかの、主に頭頂野において対照群よりも高い血中酸素濃度依存(BOLD)シグナルを有し、上前頭回において低い BOLD シグナルを有した。IEI グループは、これらの曝露が対照群よりもより強烈であると評価しなく、梨状皮質又は眼窩前頭皮質の嗅覚領域において BOLD シグナルの差はなかった。

結論:
IEI 反応は感覚野における過剰応答によって特徴づけれなかった。これらの結果は辺縁系の過剰反応性及び推論的に顕著な外部刺激の抑制不能として解釈することができる。

注:i) 引用中の「辺縁系」に関連する「大脳辺縁系」については、例えば次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 ii) 引用中の「辺縁系の過剰反応性」に対するセラピーに関連するかもしれない「辺縁系セラピー」についてはリンク集を参照して下さい。ただし、MCS 又は化学物質過敏症の文脈ではありませんが。 iii) 引用中の「機能的磁気共鳴画像法」及び「血中酸素濃度依存(BOLD)シグナル」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iv) ちなみに、この論文に関連するかもしれない嗅覚と化学物質不耐症との関連についての論文の要旨を次に紹介します。

論文「Short-term olfactory sensitization involves brain networks relevant for pain, and indicates chemical intolerance.[拙訳]短期間の嗅覚感作は、痛みに関連する脳ネットワークが関与し、そして化学物質不耐症を示す。」の要旨を次に引用します。

Chemical intolerance is a medically unexplained affliction that implies deleterious reactions to non-toxic everyday chemical exposure. Sensitization (i.e. increased reactivity to repeated, invariant stimulation) to odorous stimulation is an important component in theoretical explanations of chemical intolerance, but empirical evidence is scarce. We hypothesized that (1) individuals who sensitize to repeated olfactory stimulation, compared with those who habituate, would express a lower blood oxygenated level dependent (BOLD) response in key inhibitory areas such as the rACC, and higher signal in pain/saliency detection regions, as well as primary and/or secondary olfactory projection areas; and (2) olfactory sensitization, compared with habituation, would be associated with greater self-reported chemical intolerance. Moreover, we assessed whether olfactory sensitization was paralleled by comparable trigeminal processing - in terms of perceptual ratings and BOLD responses. We grouped women from a previous functional magnetic imaging study based on intensity ratings of repeated amyl acetate exposure over time. Fourteen women sensitized to the exposure, 15 habituated, and 20 were considered "intermediate" (i.e. neither sensitizers nor habituaters). Olfactory sensitizers, compared with habituaters, displayed a BOLD-pattern in line with the hypothesis, and reported greater problems with odours in everyday life. They also expressed greater reactions to CO2 in terms of both perceived intensity and BOLD signal. The similarities with pain are discussed.


[拙訳]
化学物質不耐症は、非毒性のありふれた化学物質の暴露に対する有害な反応を含意する医学的に解明されていない苦痛である。悪臭刺激に対する感作(すなわち、反復不変刺激に対する反応性の増大)は、化学物質不耐症の理論的説明において重要な要素であるが、経験的なエビデンスはほとんどない。我々は次を仮定した。(1)馴化された人と比較して、反復嗅覚刺激に対する感作を示す個体は、吻側前帯状皮質等の重要な阻害領域において低い酸素レベル依存性(BOLD)応答を示し、そして一次及び/又は二次嗅覚投影領域はもちろん、痛み/サリエンシー検出領域において、高い信号を示すだろう そして、(2)馴化と比較した嗅覚感作は、より大きな自己報告された化学物質不耐症に関連する。 さらに、知覚評価および BOLD 応答の観点から、嗅覚感作が同程度の三叉神経処理と並行しているかどうかを評価した。時間の経過とともに酢酸アミルの反復暴露の強度評価に基づいた、以前の機能的磁気イメージング研究から女性を我々はグループ化した。14人の女性が暴露に対して感作し、15人は馴化し、そして20人を「中間」(すなわち、感作も馴化もない)と思われた。嗅覚感作した人は、馴化した人と比較して、この仮説に沿った BOLD パターンを示し、そして日常生活におけるより大きな悪臭の問題を報告した。知覚強度と BOLD 信号の両方の観点から、CO2 に対するより大きな反応も彼女らは示した。痛みとの類似点が議論された。

注:i) 引用中の「BOLD」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 ii) 引用中の「吻側前帯状皮質」に関連する「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「サリエンシー」については、次のWEBページを参照して下さい。 「サリエンシー - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「CO2」は、二酸化炭素のことです。 v) 引用中の「痛み」に関連する、受容ベースのセラピーの文脈における「痛みの定義」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「馴化」とは、ある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 vii) この論文では、感作(sensitization)と馴化(habituation)とで対比しているのが、本エントリ作者にとっては興味深いです。

なお、上記①~③の論文(ここここ及びここ参照)や上記論文(ここ参照)においては、嗅覚過敏に関して記述されていますが、次の論文はアロマセラピーの耐容性に関して記述されています。

④「The feasibility of aromatherapy massage to reduce symptoms of Idiopathic Environmental Intolerance: a pilot study.[拙訳]特発性環境不耐症(IEI)の症状を減少させるためのアロマセラピーマッサージの実現可能性:パイロット研究」の要旨を次に引用します。ちなみに、この要旨において本エントリ作者が強調するのは、「特発性環境不耐症を伴う被験者に対し、アロマセラピーは十分に耐容性があること」です。

OBJECTIVES:
Idiopathic Environmental Intolerance (IEI) is an acquired disorder with multiple recurrent symptoms, which is associated with diverse environmental factors that are tolerated by the majority of people. IEI is an illness of uncertain aetiology, making it difficult to treat using conventional medicine. Therefore, there is a need for novel therapies to control the symptoms of IEI. The objective of this study was to evaluate the feasibility and impact of aromatherapy massage for individuals with IEI.

DESIGN:
Non-blinded crossover trial.

SETTING:
IEI patients who attended a clinic in Sapporo city were recruited, and sixteen patients were enrolled. Participants were clinically examined by an experienced medical doctor and met the criteria included in the working definition of IEI disorder.

INTERVENTIONS:
During the active period, participants received four one-hour aromatherapy massage sessions every two weeks. During the control period, the participants did not receive any massages.

MAIN OUTCOME MEASUREMENTS:
Scores on the IEI-scales trigger checklist, symptoms, life impact, and the State Anxiety Inventory were assessed before and after each period. Short-term mood enhancement was evaluated using the Profiles of Mood Status (POMS) before and after sessions.

RESULTS:
Due to period effects, evaluation of the results had to be restricted to the first period, and the result showed no effect of intervention. All six sub-scales of the POMS improved after each session (mean score differences: 4.89-1.33, P<0.05).

CONCLUSIONS:
Aromatherapy was well tolerated by subjects with IEI; however, aromatherapy, as applied in this study, did not suggest any specific effects on IEI condition.


[拙訳]
目的:
特発性環境不耐性(IEI)は、多数の再発症状を有する後天性障害(disorder)であり、これは大多数の人々が許容する多様な環境要因に関連する。 IEI は不確実な病因の病気であり、従来の薬を使用して治療することを困難にしている。従って、IEI の症状を制御するための新規治療法が必要である。この研究の目的は、IEI を伴う個々人のアロマセラピーマッサージの実現可能性と影響を評価することであった。

設計:
非盲検のクロスオーバー試験。

設定:
札幌市内の診療所に通院した IEI 患者を募集し、16人の患者が登録された。参加者は、経験豊富な医師によって臨床的に検査され、IEI 障害の作業定義に含まれる基準を満たした。

介入:
活動期間中、被験者は 2 週間ごとに 1 回 4 時間のアロマセラピーマッサージを受けた。対照期間中、被験者はマッサージを受けなかった。

主なアウトカム測定:
IEI 尺度トリガーのチェックリスト、症状、生活への影響、及び状態不安インベントリのスコアは、各期間の前後で評価された。短期間の気分の改善は、セッション前後の気分状況のプロファイル(POMS)を用いて評価した。

結果:
期間効果のため、結果の評価は最初の期間に制限されなければならず、その結果は介入の効果を示さなかった。 POMS の 6 つのサブスケールは全て、各セッション後に改善した(平均スコアの差:4.89-1.33、P <0.05)。

結論:
アロマセラピーは IEI を伴う被験者には十分に耐容性を示した。しかしながら、この研究で適用されたアロマセラピーは、IEI 状態に特異的な効果を示唆しなかった。

注:i) 標記「パイロット研究」は、研究の初期段階で、研究計画が適切かどうかを確かめたり、修正の必要がないかを調べるために行なう、小人数の被験者を対象とした研究のことです。 ii) 引用中の「アロマセラピー」は「アロマテラピー」とも呼ばれます。

論文要旨に関連して、「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「3.4.4. 化学物質過敏状態が引き起こされるメカニズム」項における記述の一部(P53)を次に引用します。

興味深いことに、Araki らが行った介入研究では、 多くの化学物質過敏症の患者さんは香水や芳香剤の臭いを不快としているにもかかわらず、天然の植物から得られる精油の香りには寛容でした39)。精油が受け入れられたのは、天然(自然)な香りであるという受け止めがその背景にあったからではないかと考えられます40)。

注:i) 引用中の文献番号「39)」、「40)」はそれぞれ上記論文(ここ参照)、次の資料です。 「荒木敦子、岸玲子, いわゆる化学物質過敏症 その国際的動向とアロマテラピーを使った症状緩和研究. Aroma Research, 2013. 14(2): 111-115. 」 ii) この引用に関連して同項において、化学物質過敏症における「臭い刺激によるノシーボ効果で身体症状を呈する可能性」についての記述があります。引用はしないので、一次情報である同項を参照して下さい。ちなみに、a) 「ノシーボ効果」は「ノセボ効果」とも称されます。 b) 上記「臭い刺激によるノセボ効果」に関連する「におい研究におけるノセボ効果」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。 iii) 一方、 引用中の「天然の植物から得られる精油の香りには寛容でした」(アロマセラピーにおける寛容さ)に関連したアロマセラピーに関するシステマティックレビューの一例(2011年発行)及び標記「アロマセラピーは十分に耐容性があること」に関連する「室内空気中の豊富な芳香剤の吸入による影響」についての論文要旨をそれぞれ以下に引用します。

⑤ 「A systematic review on the anxiolytic effects of aromatherapy in people with anxiety symptoms.[拙訳]不安症状を伴う人々におけるアロマセラピーの抗不安効果についてのシステマティックレビュー」

PURPOSE:
We reviewed studies from 1990 to 2010 on using aromatherapy for people with anxiety or anxiety symptoms and examined their clinical effects.

METHODS:
The review was conducted on available electronic databases to extract journal articles that evaluated the anxiolytic effects of aromatherapy for people with anxiety symptoms.

RESULTS:
The results were based on 16 randomized controlled trials examining the anxiolytic effects of aromatherapy among people with anxiety symptoms. Most of the studies indicated positive effects to quell anxiety. No adverse events were reported.

CONCLUSIONS:
It is recommended that aromatherapy could be applied as a complementary therapy for people with anxiety symptoms. Further studies with better quality on methodology should be conducted to identify its clinical effects and the underlying biologic mechanisms.


[拙訳]
目的:
不安又は不安症状を伴う人々にアロマセラピーを使用することについての 1990年から 2010年までの研究を我々はレビューし、その臨床効果を調査した。

方法:
本レビューは、不安症状を伴う人々へのアロマテラピーの抗不安効果を評価するジャーナル記事を抽出するための利用可能な電子データベース上で実施された。

結果:
不安症状を伴う人々の間でのアロマセラピーの抗不安効果を調査する 16 のランダム化比較試験に結果は基づいた。ほとんどの研究は、不安を抑えるポジティブな効果を示した。有害事象は報告されなかった。

結論:
アロマセラピーは、不安症状を伴う人々のための補完的な治療として適用できるだろうことが推奨される。その臨床効果とその基礎となる生物学的メカニズムの明確化のために、方法論に関するより良い品質のさらなる研究が実施されるべきである。

注:i) ちなみに、メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。加えて、抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性については次項を参照して下さい。 ii) 「アロマセラピー」は「アロマテラピー」とも呼ばれます。

⑥ 「The Effectiveness of Aromatherapy for Depressive Symptoms: A Systematic Review.[拙訳]抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性:システマティック・レビュー」 ちなみに、全文はここを参照して下さい。

Background. Depression is one of the greatest health concerns affecting 350 million people globally. Aromatherapy is a popular CAM intervention chosen by people with depression. Due to the growing popularity of aromatherapy for alleviating depressive symptoms, in-depth evaluation of the evidence-based clinical efficacy of aromatherapy is urgently needed.

Purpose. This systematic review aims to provide an analysis of the clinical evidence on the efficacy of aromatherapy for depressive symptoms on any type of patients.

Methods. A systematic database search was carried out using predefined search terms in 5 databases: AMED, CINHAL, CCRCT, MEDLINE, and PsycINFO. Outcome measures included scales measuring depressive symptoms levels.

Results. Twelve randomized controlled trials were included and two administration methods for the aromatherapy intervention including inhaled aromatherapy (5 studies) and massage aromatherapy (7 studies) were identified. Seven studies showed improvement in depressive symptoms.

Limitations. The quality of half of the studies included is low, and the administration protocols among the studies varied considerably. Different assessment tools were also employed among the studies.

Conclusions. Aromatherapy showed potential to be used as an effective therapeutic option for the relief of depressive symptoms in a wide variety of subjects. Particularly, aromatherapy massage showed to have more beneficial effects than inhalation aromatherapy.


[拙訳]
背景。抑うつは世界的に3億5千万の人々に影響を及ぼす最大の健康関心事の1つである。アロマセラピーは、抑うつを伴う人々によって選択される人気のある CAM(補完代替療法)の介入である。抑うつ症状を緩和するためのアロマセラピーの人気が高まっているため、アロマセラピーのエビデンスに基づく臨床効果の詳細な評価が急務である。

目的。このシステマティック・レビューは、あらゆるタイプの患者における抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性に関する臨床的エビデンスの分析を提供することを目的とする。

方法。AMED、CINHAL、CCRCT、MEDLINE 及び PsycINFO の5つのデータベースにおいて、あらかじめ定義された検索用語を使用して、体系的なデータベース検索を実施した。アウトカム基準には、抑うつ症状のレベルを測定する尺度が含まれた。

結果。12のランダム化比較試験が含まれ、吸入アロマセラピー(5試験)及びマッサージアロマセラピー(7試験)を含むアロマセラピー介入の2つの投与方法が同定された。 7件の研究が抑うつ症状における改善を示した。

制限。含まれた試験の半分の質は低く、そして試験間の投与プロトコールはかなり異なった。これらの研究の中で、異なる評価ツールも採用された。

結論。アロマセラピーは、幅広い種類の被験者において抑うつ症状の軽減のための有効な治療選択肢として使用される可能性を示した。特に、アロマセラピーマッサージは、吸入アロマセラピーよりも有益な効果を有することが示された。

注:i) 表示形式を変更して引用しています。 ii) ちなみに、メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。加えて、アロマセラピーの抗不安効果についてはここを参照して下さい。 iii) 「アロマセラピー」は「アロマテラピー」とも呼ばれます

⑦ 「Recognizing odors associated with meaningful places.[拙訳]意味のある場所に関連した臭いの認識」 ちなみに、全文はここを参照して下さい。

Thirty-two undergraduates inhaled odors while outlining episodes, set in 8 living rooms, involving either themselves or the actual inhabitants. They rated odors, rooms, and episodes on 7-point scales and were tested for odor recognition. Episodes were content analyzed, and the frequency of categories was assessed. Separate factor analyses determined relationships between rating scales and content analysis categories. Regression analysis showed greater odor recognition when participants judged the odor to fit the imagined episode but less recognition when an unpleasant odor was incongruously paired with a warm episode. Odor recognition also was greater when the narrative outlines described familiar characters figuring out the scenes. Results supported the congruity hypothesis, whereby odors become markers for meaningful scenes with which they fit.


[拙訳]
自分自身又は実際の住民が関与する 8 つのエピソードを概説しながら、リビングルームにセットされた臭いを 32人の学部生が吸入した。彼らは臭い、部屋、及びエピソードを 7 点スケールで評価し、そして臭気の認識を調査された。エピソードは内容が分析され、カテゴリーの頻度が評価された。評価スケールと内容分析カテゴリーとの間の関係を分離された要因の分析は決定した。想像したエピソードに合う臭いを彼らが判定した時により大きな臭いの認識を、しかし、不快な臭いが心温まるエピソードと不釣り合いで対になった時により小さい認識を回帰分析は示した。ナラティブの輪郭でありふれた人物が場面に登場すると説明した時に臭いの認識がより大きくなった。これらの結果は適合性仮説を支持し、これにより、臭いが彼らが合う有意義な場面のマーカーとなる。

注:i) 引用中の「ナラティブ」(物語)に該当する「ナラティヴ」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) この論文の解説について、渡邉映理著の本、『「香り」の文化と癒やし -いのる、くらす、あそぶ。古代から現代まで-』(2016年発行)の 第7章 高齢化社会と「香り」 の『7.2 「香り」と感情、記憶の結びつき』における記述の一部(P093~P094)を次に引用します。

(前略)嗅覚というのは、他の感覚と情報の伝達経路が異なっている。私たちが鼻で香りを受け取ると、鼻腔の奥にある嗅細胞に存在する「嗅覚レセプター(受容体)」が信号を受け取り、香り物質は、電気信号に変換される。その後、嗅球を通って、直接、感情を司る扁桃体、記憶を司る海馬など、大脳辺縁系に到達することが分かっている。
この、大脳にある「大脳辺縁系(海馬・扁桃体など)」は、“情動脳”とも呼ばれ、記憶や感情を司る脳として知られている。つまり、においの情報を処理する場所と、感情を司る場所が同じ「大脳辺縁系」なので、「においによって記憶や感情が呼び覚まされる」ということが起こるのである。
最近、実際に、32名の大学生が試験対象者になり、実際に居住者がいる 8 つのリビングのにおいをかぎながら、ある物語を聞くという実験がカナダで行われている15)。対象者はにおい、物語、リビングルームに、快、不快などの感情に関する評価をつけたあと、もう一度同じにおいをかいだ。その結果、においが物語から想像される出来事と合っている場合は、対象者は後でそのにおいを区別することができたが、「不愉快なにおい」が「心温まるような出来事」の話とセットになっていて、生じる感情と合っていない場合は、対象者はにおいを区別することができなかった。例えば、私たちは、おいしそうなパンのにおいが漂っている部屋で、「この部屋に住んでいる若い奥様はパン作りが上手である」というような話を聞いた場合は、そのパンのにおいを話の内容とともに記憶することができるが、不快な、かびのにおいがするような部屋で同じ話を聞いても、そのにおいと話の内容が結びつかないので、そのにおいを記憶することが難しいのである。
また、対象者らは、聞いた物語の内容が「その場面を理解しやすいような、ありふれた場面の描写」である場合は、そのとき嗅いだリビングルームのにおいをもう一度嘆いたときに、そのにおいをより明確に区別することができた。このことは、物語を聞いて場面を想像したり記憶したりすることと、においを認識することに結びつきがあることを示している。この実験により、においは、そのにおいがよくマッチしている、「意味のある場面」を思い出すための「目印」になる、ということが示された15)。(後略)

注:i) 引用中の文献番号「15)」は上記論文です。 ii) 引用中の「においによって記憶や感情が呼び覚まされる」ことに関連する「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 iii) 引用中の「大脳辺縁系」、「情動脳」、「扁桃体」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からは共にここここを参照して下さい。 iv) 一方、引用中の「大脳辺縁系」、「海馬」、「扁桃体」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からは共にここを参照して下さい。 v) 引用中の「快、不快」については、次のWEBページを参照して下さい。 「快・不快 - 脳科学辞典

⑧ 「Effects by inhalation of abundant fragrances in indoor air - An overview.[拙訳]室内空気中の豊富な芳香剤の吸入による影響 - 概要」 ちなみに、全文はここを参照して下さい。

Odorous compounds (odors) like fragrances may cause adverse health effects. To assess their importance by inhalation, we have reviewed how the four major abundant and common airborne fragrances (α-pinene (APN), limonene (LIM), linalool (LIL), and eugenol (EUG)) impact the perceived indoor air quality as odor annoyance, sensory irritation and sensitization in the airways. Breathing and cardiovascular effects, and work performance, and the impact in the airways of ozone-initiated gas- and particle phase reactions products have also been assessed. Measured maximum indoor concentrations for APN, LIM and LIL are close to or above their odor thresholds, but far below their thresholds for sensory irritation in the eyes and upper airways; no information could be traced for EUG. Likewise, reported risk values for long-term effects are far above reported indoor concentrations. Human exposure studies with mixtures of APN and LIM and supported by animal inhalation models do not support sensitization of the airways at indoor levels by inhalation that include other selected fragrances. Human exposure studies, in general, indicate that reported lung function effects are likely due to the perception rather than toxic effects of the fragrances. In general, effects on the breathing rate and mood by exposure to the fragrances are inconclusive. The fragrances may increase the high-frequency heart rate variability, but aerosol exposure during cleaning activities may result in a reduction. Distractive effects influencing the work performance by fragrance/odor exposure are consistently reported, but their persistence over time is unknown. Mice inhalation studies indicate that LIM or its reaction mixture may possess anti-inflammatory properties. There is insufficient information that ozone-initiated reactions with APN or LIM at typical indoor levels cause airway effects in humans. Limited experimental information is available on long-term effects of ozone-initiated reaction products of APN and LIM at typical indoor levels.


[拙訳]
芳香のような臭いのする化合物(odors)は、健康に悪影響を及ぼすかもしれない。吸入によるその重要性を評価するために、4つの主要な豊富で一般的な空気媒介の芳香[α-ピネン(APN)、リモネン(LIM)、リナロール(LYL)、オイゲノール(EUG)]が、気道における臭いの不快さ、感覚刺激及び感作としての知覚された室内空気品質に、いかに影響するかを評価した。呼吸及び心臓血管への影響、作業のパフォーマンス及び気道におけるオゾンにより開始する気相及び粒子反応生成物の影響も評価している。測定された最大の APN、LIM 及び LIL 室内濃度は、臭い閾値に近い又は閾値を超えた。しかし、目及び上気道における感覚刺激閾値をはるかに下回っていた。EUG の情報は調べることができなかった。同様に、報告された長期的影響のリスク値は報告された屋内濃度よりはるかに上回っていた。APN と LIM の混合物の研究及び動物吸入モデルで支持される研究は、他の選択された芳香を含む室内レベルでの吸入による気道の感作を支持しなかった。ヒトへの曝露研究では、一般的に、報告された肺機能効果は芳香の毒性効果よりも知覚によるものらしいことを示した。一般的に、芳香曝露による呼吸数と気分に与える影響は結論がでていない。芳香は高周波心拍変動性を増加させるかもしれないが、清掃活動中のエアロゾルの曝露は減少をもたらすかもしれない。作業のパフォーマンスに影響を与える芳香/臭い曝露による気を散らせる効果は一貫して報告されたが、経時的な持続性は不明である。マウスでの吸入研究は LIM 又はその反応混合物には抗炎症特性があるかもしれないことを示す。典型的な室内レベルでの APN 又は LIM のオゾンによる開始反応はヒトにおいて気道効果を引き起こすという情報は不十分である。典型的な屋内レベルでの APN 及び LIM のオゾン開始反応生成物の長期間の影響に関する、限定された実験情報は利用可能である。

⑨「The Influence of Olfactory Contexts on the Sequential Rating of Odor Pleasantness.[拙訳]連続した臭いの快評価に及ぼす嗅覚文脈の影響」

When we sequentially evaluate the characteristics of sensory stimuli, our evaluation of a current stimulus is influenced by those preceding it. One such effect is called hedonic contrast, whereby stimuli are rated more negatively (negative contrast) or positively (positive contrast) if they are preceded by more or less pleasant stimuli. The present study investigated the characteristics of hedonic contrast for olfaction and compared these characteristics with those of a more oft-studied modality, vision. The results from two experiments indicated that both positive and negative contrasts occurred in the sequential rating of picture pleasantness, whereas only negative contrast occurred for olfactory ratings. Notably, overrating of hedonically negative odors following a positive olfactory context was observed even when participants had already rated these same negative odors beforehand; conversely, this did not occur for positive contrast for either sense. These findings indicate that negative odors are more strongly influenced than positive ones, and the rating of positive stimuli may be adjusted to the preceding rating independent of stimulus context. The findings of this study revealed the unique characteristics of hedonic contrast for the olfactory senses.


[拙訳]
我々が感覚刺激の特徴を連続的に評価するとき、我々の現在の刺激の評価は、それに先立つ評価によって影響される。そのような効果の1つは快・不快対比と呼ばれ、より多くの又は少なくの快刺激が先行した時に、これにより、刺激がよりネガティブ(ネガティブの対比)又はよりポジティブ(ポジティブの対比)と評価された。本研究では、嗅覚に対する快・不快対比の特徴を調査し、これらの特徴をより頻繁に研究されたモダリティ、視覚と比較した。連続的な画像の快・不快度の評価においてポジティブ及びネガティブの対比の両方が生じたのに対し、嗅覚の評価に対しては、ネガティブの対比のみが生じたことを、2つの実験から得られた結果は示した。特に参加者が既にこれらのネガティブな臭いを予め評価していた時も、ポジティブな臭いの文脈に続く、快・不快度的にネガティブな臭いの過剰評価が観察され、逆に言えば、どちらの感覚でのポジティブの対比に対しては生じなかった。ネガティブな臭いがポジティブな臭いよりも強く影響を受け、そしてポジティブな刺激の評価は、刺激文脈に独立した先行する評価に合わせて調節されるかもしれないことを、これらの知見は示す。この知見は嗅覚に対する快・不快度対比の独特な特徴を明らかにした。

注:i) この引用全体に関連して、次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「快不快の対比における嗅覚と視覚の比較」 ii) 本論文の著者である綾部早穂(Ayabe-Kanamura S)氏が代表を務める科学研究費助成事業として実施していた、においのトラウマ記憶に関する研究課題については次のWEBページを参照して下さい。 「においのトラウマ記憶に関する実態調査ならびに実験的検討

[ご参考3]SHS患者の脳科学的アプローチ
次の 資料「シックハウス症候群の診断基準の検証に関する研究(P28)」の P28~P30 に、標題に関する記述があります。その一部(P30)を次に引用します。

・症例群は、匂い(特に自覚的により強い刺激を感じる匂い)による負荷に対して嗅覚中枢が過剰に反応しやすくなっている可能性を示唆した。患者では嗅覚過敏が特徴の一つとしてみられるが、その現象が脳血流変動でも示唆された。[中略]

・また、上記の結果から、シックハウス症状の要因を室内空気汚染のみに求めることには、臨床上大きな問題があると考えられた。

注:i) 標題中の「SHS」はシックハウス症候群のことです。また、引用中の「症例群」は患者である被験者の方々に相当するようです。 ii) この資料の作成者は坂部医師のようです。 iii) シックハウス症候群については、他の拙エントリの(8)項参照。 iv) [ご参考2]と本項の引用における実験の重なりの例として、この pdfファイル P30 のマップは、[ご参考2]で要旨を引用した前者の論文の Figure 4 における JC(7) のマップと一致するようです。 iv) 臭いとシックハウス症候群との関係については、日本臨床環境医学会編の本、「シックハウス症候群マニュアル 日常診療のガイドブック」(2013年発行)の Ⅲ.対応 の 3.環境学的対応 の 3-2 環境改善型予防医学の実践-「ケミレスタウン・プロジェクト」 の「3)臭いと SHS」項における一部の記述(P61)を次に引用します。

臭いと SHS とは密接な関係がある.SHS の苦情の際,患者は多くの場合臭いも訴えるからである.

注:上記3項の執筆者は森千里、戸高恵美子です。

(※2の範囲はここまでです)

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[ご参考]日本臨床環境医学会役員名簿
2014年10月1日現在の日本臨床環境医学会役員名簿は、第24回日本臨床環境医学会学術集会 ご案内の P63 に示されています。

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【追記1】
葵東様のブログのエントリ「化学物質過敏症患者を苦しめる有害な気体」を拝見したところ、i) 有害な気体の曝露濃度をどのようにお考えになっているのか? ii) 少なくとも、一部の有害な気体では、臭い※2に反応しているのではないか? 等が、本エントリ作者には気になります。

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【追記2】
葵東様のブログのエントリ「化学物質過敏症の急性症状」を拝見したところ、次に引用する記述を発見しました。

大量の有害物質に暴露すると急性症状に襲われます。

本エントリ作者の見解によると、一般的に「大量の有害物質に暴露すると生じる急性症状」は(化学物質過敏症ではなく)中毒症状と称するのではないでしょうか?

例えば、一酸化炭素中毒(例えば、「ウィキペディア - 一酸化炭素」の 一酸化炭素中毒 項参照)による急性症状が生じる場合の一酸化炭素曝露濃度例として、このウィキペディアの 急性症状 項の一部の記述を次に引用します。

1時間の暴露では、500ppmで症状が現れはじめ、1000ppmでは顕著な症状、1500ppmで死に至るとされている。

注:上記ウィキペディアの記述によると、一酸化炭素は無色・無臭の気体であるようです。

加えて、硫化水素中毒の曝露濃度については、次の pdfファイルを参照して下さい。「なくそう! 酸素欠乏症・硫化水素中毒

追記2で示された(中毒の)曝露濃度と、上記化学物質過敏症における誘発試験の曝露濃度を比較すると良いかもしれません。

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【追記3】
WEBページ「現場にアタック 良い香りには裏がある? 化学物質過敏症の危険」を拝見したところ、タイトルにもあるように、このページには、「主に香りに反応するのが化学物質過敏症である」ともとれる内容が示されていると本エントリ作者は考えます。

本エントリにおいて上記にご説明したように、(臭わない)超微量の化学物質には反応せずに、香り(又は臭い※2参照)のみに反応するのは、臨床環境医が提唱するMCSでも化学物質過敏症でもないと本エントリ作者は考えます。ただし、本エントリ作者がこの臨床環境医に相当しないと考える医師又は医学研究者の方々の一部が、化学物質が刺激となって生じる感覚モデルに注目しています。ここ項を参照して下さい。加えて、香りと記憶の結びつきに関連する「プルースト現象」及び「嗅覚の学習記憶」については共にここを参照して下さい。

ちなみに、a) MCSに対する日本臨床環境医学会を含む世界の医学会等の見解は拙エントリのここを参照して下さい。 b) 一方、「香水の自粛のお願いに化学物質過敏症を持ち出さないほうがいい」をタイトルとするエントリはここを参照して下さい。

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【追記4】
【追記3】に関連して、2017年6~7月にかけてミニ情報に記載した香気物質に関連する記事において、表示形式及び文章の追加を含んで改訂したものを以下に示します。さらに、情動記憶、「プルースト現象」、PTSDと臭気との関連、「ルール支配行動」、感覚の認知、「放逸」等についても以下に記述します。

(1)柚子ジュースと柔軟剤との関連についての一考察について
日本には柚子ジュースがあります。例えば、果汁の使用割合が 5~10%のものです。加えて、ポン酢にも柚子果汁入りの商品が複数あります。ちなみに、柚子果汁中のリモネン分析結果例は資料の「5. 食品の分析結果例」を参照して下さい。この資料には、柚子果汁のみならず、温州みかん、スダチ等の分析結果例があります。なお、柑橘類香気成分についての簡単な説明は、例えばここの「02 柑橘類香気成分とは」を参照して下さい。一方、一部の柔軟剤において香り成分として、d - リモネンが分析により検出されることがあります(参照)。
仮に、おいしく柚子ジュースを飲めるのに、柔軟剤を用いて洗濯した他人の服から放出されるリモネンに対して、「柔軟剤中のリモネンガー」とおっしゃる方々がいるのならば、能動喫煙は平気なのに、受動禁煙(参照)に対して、「副流煙ガー」とおっしゃる方々と同程度に、不可解なことをおっしゃる方々がいるもんだという感想を拙ブログ作者は持ちます。
なお、 a) 資料の図1において、香辛料に含まれる主な香気成分が紹介されており、リモネンもこの中に含まれます。加えて、渡邉映理著の本、『「香り」の文化と癒やし -いのる、くらす、あそぶ。古代から現代まで-』(2016年発行)の 第5章 食品の「香り」と癒やし の『5.4 香辛料と「香り」』における記述の一部(P073)を次に引用(『 』内)します。 『どこの家庭にもあると思われる黒コショウ(ブラックペッパー)はスパイスの代表であるが、香り成分はリモネン、サビネン、ピネン、ミルセンなどモノテルペン化合物であり(後略)』 さらに、カレー粉からもリモネンが検出されています(参照) b) オレンジジュースをはじめとした、複数のジュースに対するヘッドスペース-GC-MSを用いた香気成分分析結果例はここを参照して下さい。これによると、オレンジジュースからはリモネン(limonene)のみならず、リナロール(linalool)も検出されているようです。 c) 例えばここの資料③の表-1によると、カビからリモネン(limonene)が発生するようです。従って、上記「柔軟剤中のリモネンガー」と主張する人は、柔軟剤由来のリモネンとカビ由来のリモネンとを区別する必要があるかもしれません。加えて、薔薇やチューリップの香気成分としてリモネンが検出されることがあります。次項の⑪及び⑫を参照して下さい。

(2)①かつおだし、②コーヒー、③紅茶、④発酵乳、⑤味噌、⑥醤油、⑦カレー粉、⑧清酒、⑨ホップ由来(ビール)、⑩甲州種ワイン、⑪薔薇の香気成分、⑫チューリップの香気成分及び⑬大気中フィトンチッドの成分についてのご紹介
例えばそれぞれ、①参照、②参照、③参照、④参照、⑤参照、⑥参照、⑦参照、⑧参照、⑨参照、⑩参照、⑪参照、⑫参照及び⑬資料の「表 2-1」~「表 2-3」を参照。(注:一部の柔軟剤から検出されることもあるリナロール[linalool、参照]が、上記資料によると③紅茶、⑦カレー粉、⑨ビール、⑪薔薇や⑫チューリップ、そしてオレンジジュースからも検出されることがあるようです)

一方、一部の柔軟剤に含有するリナロールに関連する報告があります。この報告が正しくて、かつ当該柔軟剤を用いて洗濯した他人の服から放出されるリナロールの吸引により、TRPA1チャネル(参照参照)が活性化するのであれば(注:仮定の話です)、上記紅茶、カレー粉、ビール、薔薇又はオレンジジュースによりTRPA1チャネルが活性化しても不思議ではないと拙ブログ作者は考えます。

(3)「カビ臭の原因物質」及び「香料の化学」のご紹介
前者に関しては、例えば①資料、②資料、③資料、④資料及び⑤WEBページを、後者についてはWEBページをそれぞれ参照して下さい。ちなみに、後者のWEBページにおいては、ニオイのある化学種について次に引用(『 』内)する記述があります。 『ニオイのある化学種は約40万種以上あるといわれています。さまざまな分子構造の違いがニオイというものを形作っています。』

(4)「森林浴」及び「森林セラピー」に関連する様々な資料のご紹介
参照参照参照参照参照 ちなみに、大気中フィトンチッドの成分についてはここの⑬を参照して下さい。

(5)メディカル・アロマセラピー及びアロマセラピー精油の成分に関連する様々な資料のご紹介*29
標記前者の資料を次に紹介します。 「アロマセラピーによる医療」、「ベルガモット精油の蒸気が自律神経系および情動に及ぼす効果」 加えて、メディカル・アロマセラピーに関連する論文例はここを参照して下さい。

加えて、後者の資料を次に紹介します。 「アロマテラピーに関する研究第一報 慣用精油10種類の成分と作用に関する知見

(6)「プルースト現象」、PTSDと臭気との関連、「ルール支配行動」、感覚の認知、「放逸」についての様々なご紹介
ちなみに、「プルースト現象」(又は「プルースト効果」)とは、においとの遭遇を契機として、過去に経験した出来事があたかもそれを追体験しているかのように、ありありと思い出されることを言うようです。この「プルースト効果」について、三品昌美編の本、「分子脳科学 分子から脳機能と心に迫る」(2015年発行)の 7章 嗅覚系:感覚入力から行動に至る分子基盤と神経回路 の「7.7 嗅覚の学習記憶と嗅覚神経回路の可塑性」における記述の一部(P83)を次に引用します。

7.7 嗅覚の学習記憶と嗅覚神経回路の可塑性
匂いの感覚は決して固定されたものではない.たとえば,匂いの感度や弁別能は訓練によって向上する.ワインのソムリエ,化粧品会社や香料会社の調香師などの専門家は,訓練を通じてわずかな匂いを検出でき,匂いの微妙な違いを区別できるようになった人である.また,匂いに対する情動・行動応答も状況によって変化する.ある匂いを報酬(甘い水など)と関連づけると,動物はその匂いが好きになって匂いに対して誘引行動をとるようになる.反対に,同じ匂いを侵害刺激(電気ショックなど)と関連づけると,動物はその匂いを嫌いになって匂いに対して忌避行動をとるようになる.食べ物の好き嫌いも,小さいころの嗅覚味覚体験によって大きく左右されると考えられている.嗅覚行動は生物の生存に直結しているので,匂い環境の変化に応じて適切な嗅覚行動を新たに獲得していくことは生物にとって必須の能力であり,嗅覚神経回路には高い可塑性が求められる.
また,匂いの記憶は強い記憶として残る.言語材料による記憶に比べ,匂いの記憶は長期間持続し,忘れにくいことが知られている.さらに,古い記憶を呼び起こすきっかけとしての匂い記憶の役割も大きい21).有名な例は,フランスの作家プルーストの『失われた時を求めて』の,マドレーヌを紅茶にひたして口の中に入れたときに幼い日々の記憶がまざまざとよみがえったというくだりである.以来,匂いをきっかけとした強力な記憶想起は「プルースト効果」と呼ばれている.視覚,触覚などさまざまな感覚が古い記憶を呼び起こすきっかけとなるが,匂いによる想起は情動的,つまり物事のディテールとともにそのときの感情も一緒に思い起こし,あたかも過去のことを追体験したように感じる,ということが多いようである.匂いによる記憶想起の際には扁桃体-海馬複合体が強く活性化されるという観察がある.
これらのことから,嗅覚系はその学習記憶機構,神経回路の可塑性,情動記憶との結びつきなど,多くの興味深い題材を含んでいる.(後略)

注:i) この引用部の著者は山口正洋です。 ii) 「プルースト効果」と類似した「プルースト現象」については、例えば、次のWEBページ及び資料を参照して下さい。 「においは、本能的な感情と直結 - apital」、「プルースト現象における記憶想起の特徴について」、「においによる自伝的記憶の無意識的想起の特性:プルースト現象の日誌法的検討」、「半構造化面接法によるプルースト現象の特徴の検討」、「嗅覚刺激による自伝的記憶の無意図的想起:匂いの同定率・感情価・接触頻度の影響」 加えて、この現象に関連する引用はここを参照して下さい。ちなみに、酒の匂いに関連するフラッシュバックについては、他の拙エントリのここにおけるリンク先の資料の <症例3> の ③ i. 項(P5)において、「酒の匂いでフラッシュバックしやすい。」との記述があります。 iii) 引用中の「扁桃体」、「海馬」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からは共にここを参照して下さい。 iv) 引用中の「ある匂いを報酬(甘い水など)と関連づけると,動物はその匂いが好きになって匂いに対して誘引行動をとるようになる.反対に,同じ匂いを侵害刺激(電気ショックなど)と関連づけると,動物はその匂いを嫌いになって匂いに対して忌避行動をとるようになる.」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 加えて、これに関連するかもしれない、『「香り」と感情、記憶の結びつき』についての本の引用例はここを参照して下さい。 v) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「情動記憶が想起」に関連する「記憶想起」については、次のWEBページを参照して下さい。 「記憶想起 - 脳科学辞典」 vii) 引用中の「情動記憶」に関連する「匂いなどに遭遇することによって,情動記憶が想起される」ことについて、三品昌美編の本、「分子脳科学 分子から脳機能と心に迫る」(2015年発行)の 10章 扁桃体を中心とした前脳領域による恐怖記憶制御 の「10.1 情動記憶とは」における記述の一部(P111)及び10.2 恐怖記憶モデル系」における記述の一部(P111)を以下に引用します。加えて、これに関連するかもしれない「匂いの知覚は情動により支配される」についてはここここを参照して下さい。さらに、これに類似する「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。 「情動的記憶 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「嗅覚の学習記憶」に関連するかもしれない、「においの好み」について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第2章 人間のにおいの感じ方 の「2-7 カナダ、イヌイットの嗅力」における記述の一部(P40)を次に引用(『 』内)します。 『②においの好みについて イヌイットの人びとのにおいの好みについても興味深い結果が得られた。日本人が特に不快と感じている「イソ吉草酸」のにおいについて、イヌイットは意外とそうではない結果が得られている。』(注: i) 同本の P40~P41 によると、日本におけるイソ吉草酸のにおいは「靴下の蒸れたにおい」と表現され、代表的な悪臭物質として扱われているようです。これに対し、イヌイットにおいては、好物であるクジラの皮に近いマクタックという食べ物のにおいに近いことが関係しているようです。 ii) 「イソ吉草酸」の嗅覚閾値濃度についてはここを参照して下さい。)

10.1 情動記憶とは(中略)

情動記憶とは,情動の変化を伴った体験の記憶である.情動記憶とは一種の条件づけ記憶であり,情動体験した際の「情動」と体験時に五感で感じた「状況(文脈)」とが関連づけられた記憶である.情動体験した場所を再訪する,あるいは情動体験時の音や匂いなど(cue)に遭遇することによって,情動記憶が想起される.本章では,情動記憶の中でも最も研究が進んでいる「恐怖記憶」にフォーカスして,恐怖記憶制御のメカニズムと,恐怖記憶制御において中心的な役割を果たしている扁桃体,海馬,前頭前野皮質の役割を解説する.

10.2 恐怖記憶モデル系
恐怖記憶制御は昆虫から高等生物に至る生物に備わる本能的行動の一つである.恐怖体験を記憶することで,一種の防御反応として,危険を回避することが可能となる.恐怖記憶は,恐怖体験時の「恐怖」とそのときの「文脈」とが関連づけられた条件づけ記憶である.恐怖体験した文脈や,文脈中の手がかり(音や匂い)に遭遇すると,恐怖記憶が想起され,恐怖反応を表出する.

注:i) この引用部の著者は喜田聡です。 ii) 引用中の「扁桃体」、「海馬」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からは共にここを参照して下さい。 iii) 引用中の「前頭前野皮質」に関連した「前頭皮質」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からここを参照して下さい。 iv) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「情動記憶が想起」に関連する a)「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。 「情動的記憶 - 脳科学辞典」 b) 加えて、「記憶想起」については、次のWEBページを参照して下さい。 「記憶想起 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「恐怖記憶」及び「条件づけ記憶」に関連する「恐怖条件づけ」については、次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖条件づけ - 脳科学辞典

一方、上記プルースト現象(Proust phenomenon)に関連する臭い想起記憶(odor-evoked memory)についての論文の要旨を次に紹介します。
① 「The Role of Odor-Evoked Memory in Psychological and Physiological Health.[拙訳]心理的及び生理的な健康における臭い想起記憶の役割」(全文はここを参照して下さい)

This article discusses the special features of odor-evoked memory and the current state-of-the-art in odor-evoked memory research to show how these unique experiences may be able to influence and benefit psychological and physiological health. A review of the literature leads to the conclusion that odors that evoke positive autobiographical memories have the potential to increase positive emotions, decrease negative mood states, disrupt cravings, and reduce physiological indices of stress, including systemic markers of inflammation. Olfactory perception factors and individual difference characteristics that would need to be considered in therapeutic applications of odor-evoked-memory are also discussed. This article illustrates how through the experimentally validated mechanisms of odor-associative learning and the privileged neuroanatomical relationship that exists between olfaction and the neural substrates of emotion, odors can be harnessed to induce emotional and physiological responses that can improve human health and wellbeing.


[拙訳]
この記事では、臭い想起記憶の特別な特徴、そしてこれらのユニークな体験がいかにして心理的及び生理学的健康に影響を及ぼし、恩恵を受ける可能性があるかもしれない臭気想起記憶研究における現在の最高技術について論ずる。ポジティブな自伝的記憶を想起する臭いは、ポジティブな情動を増強し、ネガティブな気分状態を低下させ、渇望を崩壊させ、炎症の全身性マーカーを含むストレスの生理学的指標を低下させる可能性を有する結論を、文献のレビューは導く。治療的適用において考慮する必要があるだろう嗅覚知覚要因及び個体差特性も論じる。嗅覚連合学習の実験的に確認されたメカニズム及び嗅覚と情動の神経基盤との間に存在する特権を与えられた神経解剖学的な関係を通して、いかにして臭いをヒトの健康及びウェルビーイングを改善しうる情動的及び生理的な応答の誘発に利用することが可能かを、この記事は説明する。

注:i) 引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) ちなみに、引用はしませんが、論文の「1. Introduction」において、Proust phenomenon は odor-evoked memory でもあることが示されています。

加えて、PTSDと臭気との関連についての論文の要旨を次に紹介します。
① 「Odor-induced recall of emotional memories in PTSD-Review and new paradigm for research.[拙訳]PTSD の評価及び研究の新パラダイムにおける情動的記憶の臭気誘発回想」

It is clinically well known that olfactory intrusions in PTSD can be a disabling phenomena due to the involuntary recall of odor memories. Odorants can trigger involuntary recall of emotional memories as well have the potential to help diminishing emotional arousal as grounding stimuli. Despite major advances in our understanding of the function of olfactory system, the study of the relation of olfaction and emotional memory is still relatively scarce. Odor memory is long thought to be different than other types of memories such as verbal or visual memories, being more strongly engraved and more closely related to strong emotions. Brain areas mediating smell memory including orbitofrontal cortex and other parts of medial prefrontal cortex, hippocampus and amygdala, have been implicated in learning and memory and are part of a neural circuitry that is involved in PTSD. The olfactory cortex itself also plays an important role in emotional processing. Clinical observations support the notion that odor-evoked memories can play a role in the symptomatology of PTSD. This paper reviews a re-emerging body of science linking odor processing to emotional processing in PTSD using the calming and grounding effect of odors as well as the use of odors in augmented exposure therapy. This results in converging evidence that olfaction is an excellent model for studying many questions germane to the field of human emotional memory processing.


[拙訳]
PTSD における嗅覚の侵入は、臭気記憶の非自発的回想による不自由な現象であり得ることは臨床的に周知である。臭気は情動的記憶の非自発的回想を誘発することができ、また、グラウンディング刺激としての情動的覚醒を減少させるのを助ける可能性がある。嗅覚系の機能の理解に大きな進歩があったにもかかわらず、嗅覚と情動記憶との関係の研究は未だ比較的少ない。臭気記憶は、強く刻み込まれ、強い情動に密接に関連しており、言語記憶又は視覚記憶等の他の種類の記憶とは異なると長い間考えられている。眼窩前頭皮質及び内側前頭前皮質、海馬及び扁桃体の他の部分を含むにおい記憶をメディエイトする脳領域は、学習及び記憶に関与しており、そして PTSD において関与する神経回路の一部である。嗅覚皮質自体も、情動的な処理において重要な役割を果たす。PTSD の症候学において、臭気誘発記憶が役割を果たし得るという考えを、臨床観察は支持する。増強された曝露療法における臭気の使用のみならず、臭気の落ち着き及びグラウンディング効果を利用した PTSD における情動処理と臭気処理とが結びついた科学の再興する主体を本論文はレビューする。嗅覚がヒトの情動的記憶の処理の分野に密接に関連した多くの疑問の研究にとって優れたモデルであることのエビデンスの収束をこの結果がもたらす。

注:i) 引用中の「PTSD」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 ii) 引用中の「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動的記憶 - 脳科学辞典」 加えて、引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、PTSD又は複雑性PTSDの視点からは、ここここを参照して下さい。 iii) 引用中の「グラウンディング」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「内側前頭前皮質」については、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 vi) 引用中の「海馬」及び「扁桃体」については、共にここを参照して下さい。

② 「Odour as a determinant of persistent symptoms after a chemical explosion, a longitudinal study.[拙訳]化学爆発後の持続性症状の決定的要因としての臭気、縦断研究」

Foul-smelling environmental pollution was a major concern following a chemical workplace explosion. Malodorous pollution has previously been associated with aggravated physical and psychological health, and in persons affected by a trauma, an incidence-related odour can act as a traumatic reminder. Olfaction may even be of significance in the development and persistence of post-traumatic stress symptoms (PTSS). The present longitudinal study assessed whether perceived smell related to malodorous environmental pollution in the aftermath of the explosion was a determinant of subjective health complaints (SHC) and PTSS among gainfully employed adults, when the malodorous pollution was present, and after pollution clean-up. Questionnaire data from validated instruments were analysed using mixed effects models. Individual odour scores were computed, and the participants (n=486) were divided into high and low odour score groups, respectively. Participants in the high odour score group (n=233) reported more SHC and PTSS than those in the low odour score group (n=253), before and even after the pollution was eliminated. These associations lasted for at least three years after the pollution was removed, and might indicate that prompt clean-up is important to avoid persistent health effects after malodorous chemical spills.


[拙訳]
悪臭のする環境汚染は、化学職場の爆発の後での大きな懸念事項だった。悪臭のする汚染は、以前の身体的及び心理的な健康状態の悪化に関連しており、そして心的外傷の影響を受けた人では、(事故)発生関連の臭いが心的外傷性のリマインダー(思い出させるもの)として働く可能性がある。嗅覚は、心的外傷後ストレス症状(PTSS)の発症及び持続において本当に重要であるかもしれない。本縦断研究では、爆発後における悪臭のする環境汚染に関連する知覚された匂いが、悪臭のする汚染が存在した時、そして汚染の清掃の後に、有給で雇用された成人の間での主観的健康苦情(SHC)及び PTSS の決定的要因であるかどうかを評価した。検証された機器からのアンケートデータは、混合効果モデルを用いて解析された。個々人の臭気スコアは計算され、そして486人の被験者は、高い臭気スコアグループと低いグループにそれぞれ分類された。高い臭気スコアグループの被験者(253人)は、汚染除去前そして除去後でさえも、低い臭気スコアグループの被験者(233人)よりも、より多くの SHC 及び PTSS を報告した。これらの関連は、汚染が除去されてから少なくとも3年間持続し、そしてこれらの関連は、悪臭のする化学物質放出後の持続性の健康影響を避けるために迅速な清掃が重要であることをひょっとして示しているかもしれない。

注:i) 引用中の「心的外傷後ストレス症状」に関連する「PTSD」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

一方、「ルール支配行動」について、熊野宏昭著の本、「マインドフルネスそしてACTへ」(2011年発行)の 第二章 言葉が自分を作り上げる の「バーチャルな現実によるコントロール」における記述の一部(P40~P42)を次に引用します。

バーチャルな現実によるコントロール(中略)

一方でわれわれは、人から聞いた話や、自分で考えた予想によって行動をコントロールすることができます。例えば、「おばあちゃんが、あの辺りは危ないから近づかないほうがいいと言っていたから、一度も行ったことがない」といった場合です。これは予め見通しを与えるフィードフォワードによるコントロールと言ってもよく、自分で経験したことがない状況にも対応できますので、とても効率のよいものです。このように、「ある状況で特定の行動をすると、それに応じた結果が得られる」という言葉による見通しのことを「ルール」と呼び、これによってコントロールされた行動のことを「ルール支配行動」といいます。
しかし、ちょっと考えてみれば、この方法がいつもうまくいくとは限らないことも分かるでしょう。自分で経験していないから、本当に正しいのかどうか実は分からないからです。この事情を説明したのが「百聞は一見にしかず」という有名な言葉で、実際にやってみるのと考えていたのとはまったく違った結果になることがあるということを意味しています。しかし、このような言葉があること自体、一度思い込むとなかなか修正できないということも意味しているのです。
例えば、高いところはダメだと思い込んでしまった高所恐怖症の患者さんのように、です。言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出されるので、行動の制御が可能になるのですが、その同じ理由で、修正することも難しくなるわけです。
その上、先に説明したように、ちょっと違った情報が入ってくるだけで、「ルール」そのものがガラッと変わってしまうということも大きな問題です。例えば、素晴らしい自然が満喫できて、休みの日などによく出かける山があったとしましょう。そこには滝などもあり、マイナスイオンが身体によいということも聞いて知っており、とてもリラックスできる気がしていつも立ち寄るようにしていました。ところが、ある日、その滝の近くにはマムシがいるという情報を得てしまいました。そうなると、それからは怖くて滝に近づくことができなくなり、その山に行くのも嫌になってしまうかもしれません。その山や滝自体は何も変わっていないのに、です。
このように、「ルール支配行動」は、大変効率のよい行動のコントロールの仕方ですが、事実と一致していないことがあったり、間違っている場合でもなかなか修正が難しかったり、逆にちょっとしたことで「ルール」自体が大きく変わってしまうといった問題点があるといえるでしょう。

注:i) 引用中の「言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出される」ことによる問題を少なくするための「コンプリヘンシブ・ディスタンシング」(言葉の世界全体から距離を取ること)については、他の拙エントリのここを、 加えて「脱フュ―ジョン」については、他の拙エントリのリンク集を それぞれ参照して下さい。 ii) 引用中の「バーチャルな現実によるコントロール」に関連する「バーチャルな現実をつくり出す」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 加えて、「バーチャルな世界と現実の世界の区別がつかない状況に人間を陥れることになった」については、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスはなぜ効果を持つのか」の「マインドレスになる基盤とは?」項 iii) 引用中の「高いところはダメだと思い込んでしまった高所恐怖症の患者さんのように、です。言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出される(後略)」に関連するかもしれない、『「怒り、怒り」「痛み、痛み」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます怒りや痛みが増幅する』ことについて、プラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第二章 慈悲の章 の『感覚に言葉でラべルを貼る、「ラべリング技法」の問題点』における記述(P138~P141)を次に引用します。

感覚に言葉でラべルを貼る、「ラべリング技法」の問題点
魚川 なるほど。「現実をありのままに見る(如実知見する)」はずの瞑想が、過度の集中によって、むしろ日常的な現実の否認に繋がってしまうわけですね。この「解離」や「回避」の症状については、ウィパッサナー瞑想においてしばしば推奨される、「言語によるラベリング」という技法の問題点も、プラユキ先生は指摘されていましたね。
プラユキ 痛みを感じたら「痛み、痛み」、怒りを感じたら「怒り、怒り」などと、生じてきた感覚に言葉でぺタぺタとラベルを貼っていく(ラベリングする)瞑想技法のことね。もちろん、この瞑想技法で効果を上げている人もたくさんいるから、それを否定するつもりはありません。ただ、私のところに、このラベリング瞑想をすることで身心の調子を崩してしまった方が、少なからず相談にいらしているのは事実です。
なぜ問題が生じてしまうのかというと、一般に私たちにとって言葉というのが、単なる記号表現である「シニフィアン」(“ネ・コ”という音の連鎖や文字の集まり)としてだけではなくて、記号内容であるところの「シニフィエ」(“ネコ”という音声や文字から浮かぶイメージや概念)と分かち難く結びついた、「シーニュ(記号)」(シニフィアンとシニフィエの複合体)として用いられるものだからです。
つまり、多くの人にとって、シニフィアンは発話された時点でシニフィエを巻き込んで認知されるわけですね。例えば、「怒り」というシニフィアンを「ラベル」として心の中でも発話すれば、同時に腹立たしい感情にまつわる記憶イメージといったようなシニフィエが、喚起されることは自然であるわけです。そうすると、怒りに囚われたくないからラベリング瞑想をしているのに、「怒り、怒り」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます憎悪の感情や立腹した記憶などが、心に満ちてくることも起こり得る。
魚川 それはよくわかります。この瞑想の前提としては、「怒り」や「痛み」などを言葉で同定して明晰に捉えることで、そこから距離をとって観察すれば、無常なる怒りや痛みといった感覚は、時間が経てば自然に消えることが知られる、ということになっているわけですが、実際には必ずしもそうはいかないことがある。「怒り、怒り」「痛み、痛み」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます怒りや痛みが増幅する、という経験をしたことのある瞑想者は、少なからず存在するでしょう。
プラユキ もちろん、シニフィアンをあくまでシニフィアンとしてのみ使うことができて、そこで同時に喚起されるシニフィエに囚われないような人であれば、ラベリング瞑想が前提どおりに上手く機能するでしょう。この対談の文脈で言えば、言葉をあくまで「たかが言葉」として理解・使用することができて、そこに付随する「されど言葉」の側面には囚われずにいられるような人のことですね。ただ、これは非常に難しいと思います。
魚川 私たちが生きている「現実」の物語の世界において、シニフィアン(「たかが言葉」)とシニフィエ(「されど言葉」)は不可分ですからね。ラベリング瞑想で効果を上げられる人というのは、「怒り」というシニフィアンを発しても、それを「たかが言葉」として扱い、同時に喚起される怒りの感情というシニフィエ、即ち、「されど言葉」の作用には囚われずにいられる人、ということになりますから、これはなかなか難しい。
プラユキ はい。そして、そのようなラベリング瞑想の陥葬に落ちてしまった人が、結果として呈することになるのが、解離や回避といった状態なんです。つまり、怒りや痛みをラベリングすればするほど、その認知が際立っていくことになるので、対象を何とか抑圧しようとして、経験を否認したり回避したりしてしまう。あるいは現実に生起するネガティブな感覚をラベリングによって「客観視」しようとするあまり、そこから自己を疎外してしまい、離人症などの病的な解離現象を生ずることもあります。
魚川 ラベリングによって怒りや痛みといったネガティブな感覚を「客観視」しようとして、言語による対象化を進めると、その言わば反作用として、「客観視する自己」の疎外が生じてしまうことがある。「仏教瞑想の本質は『無我性』の直観にある」という話が前章で出ましたけれども、こうなってくると、瞑想がむしろ一種の「我の強化」に貢献してしまうことにもなりますね。
プラユキ そういうことも起こり得ます。

注:i) この本の著者の一人である魚川祐司氏が表現する引用中の「物語の世界」について、同本の序章における記述の一部(P21)を次に引用(『 』内)します。 『魚川 はい。ミャンマーの瞑想センターでは、ウィパッサナー(観察・気づき)の瞑想を行うことで、欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知の仕方――私の言葉で表現すれば、「物語の世界」――から身を離して、欲望によって条件づけられることのない、ありのままの現象を認知する(如実知見する)ことを、まずは目指します。』 ii) 引用中の『「怒り」というシニフィアンを発しても、それを「たかが言葉」として扱い、同時に喚起される怒りの感情というシニフィエ、即ち、「されど言葉」の作用には囚われずにいられる』に関連する「コンプリヘンシブ・ディスタンシング」(言葉の世界全体から距離を取ること)については、他の拙エントリのここを、 加えて「脱フュ―ジョン」については、他の拙エントリのリンク集を それぞれ参照して下さい。 iii) 引用中の「ウィパッサナー瞑想」の別名である「ヴィパッサナー瞑想」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネス認知療法」の「マインドフルネス実践の方法論上の特徴」項 加えて、これに関連する「本来のウィパッサナーのヴィジョン」について、同本の P143 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『即ち、「怒り」や「痛み」という「対象」を「私」が観察するのではなくて、「怒り」や「痛み」のみならず、「私」までも含まれた、現象の流れが生成消滅しているプロセスの全体を、平等に観察する気づき(sati)の目から見るというのが、本来のウィパッサナーのヴィジョンであるということです。』 iv) 引用中の「距離をとって観察すれば」及び上記 iii) 項における引用中の「プロセスの全体を、平等に観察する気づき」に関連するかもしれない、「観察する(観察者としての)自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 v) 引用中の「現実をありのままに見る」に関連する「あるがままに物事を見る」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「我」及び上記 iii) 項における引用中の「私」に関連する「経験我」については、魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の P90 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『つまり、覚者であれ一般の凡夫衆生であれ、そこで感官からの情報が認知されることによって経験が成立する場としての「個体性」であれば、それぞれが有している。それがここで言う「経験我」だが、ただしそれは、原因・条件によって生成消滅する(縁生の)感官からの情報によって形成されているものであるから、もちろん無常・苦・無我という三相の性質を有しており、時々刻々と変化・流動している。』 加えて、これらに関連する「プロセスとしての自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vii) 引用中の『言葉をあくまで「たかが言葉」として理解・使用する』に関連するかもしれない、マインドフルネス認知療法の視点からの「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」及び/又は「思考は解釈や価値判断を含むが,解釈や価値判断はそれ自体が事実というわけではない」については、共に次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの促進困難への対応方法とは何か」の「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」項

上記は「言葉」の問題についての引用ですが、加えて、「六根六境」(一二処)等によるヒト(衆生)の「認知」の問題について魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の 第五章 「世界」の終わり――現法涅槃とそこへの道 の『執著による苦と「世界」の形成』における記述の一部(P114~P115)及び『我が「世界」像の焦点になる』における記述の一部(P119~P121)をそれぞれ以下に引用します。

執著による苦と「世界」の形成(中略)

そして、「世界」がそうであるように、苦も六根六境への執著を原因として生じていることは、経典の各所で語られている。
例えば相応部の 『プンナ経(中略)』には、次のような記述がある。

プンナよ、眼によって認知される諸々の色で、好ましく、求められていて、意に適う、可愛の諸形態で、欲を伴い貪りに染まったものがある。もし比丘が、それを歓喜して迎え入れ、執著していると、そのように歓喜して迎え入れ、執著している彼に喜悦が生じる。そしてプンナよ、この喜悦が集起することから苦が集起するのだと、私は言う。

同様のことが、眼によって認知される色以外の、耳・鼻・舌・身・意によって認知される声・香・味・触・法についても言われており、つまり六根によって認知される六境に、執著して喜悦することが苦の原因であるという趣旨が説かれている。そして次に、苦を滅する方法はその逆であって、六根によって認知される六境を歓喜して迎え入れ、執著するということをやめれば、喜悦も滅するから、そうすれば苦は滅尽するのだとも説かれる。
このように、六根六境への執著によって苦は生起し、そしてそれと同時に「世界」も生起することになるわけだが(後略)

注:i) 引用中の「世界」の説明例としては、煩悩を伴う認知によって形成されるもののようです。(同本の P114 参照)加えて、これに関連する「物語の世界」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「執著」は「固執」や「とらわれ」を意味しているようです。 iii) 引用中の「比丘」は修行者のことのようです。 iv) 引用中の「六根」における「意」(思考)については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「苦」(dukkha)についての文章が、同本の P51 にあり、その部分を次に引用(『 』内)します。 『dukkha という言葉を訳す時、現在の英訳では、しばしば unsatisfactoriness という単語が使われる。日本語に訳せば「不満足」ということになるが、これは dukkha のニュアンスを正しく汲み取った適訳だと思う。というのも、[中略]dukkha(苦)はしばしば anicca(無常)と関連付けられながら語られるが、このことは、「苦」という用語が単に苦痛のみを意味しているわけではなくて、むしろ欲望の対象にせよその享受にせよ、因縁によって形成された無常のものである以上、欲望の充足を求める衆生の営みは、常に不満足に終わるしかないという事態をこそ意味することを、示しているからである。例えば空腹の絶頂にある時に、美味しい食事を出されれば、私たちは喜んでそれを享受する。しかし、どんなに美味しい料理であっても、一時間も食べ続ければ見るのも厭になってくるし、にもかかわらず、それで半日もすれば私たちはまた空腹になる。(中略)美人にも三日で飽きてしまう。』(注:引用中の「因縁」については、例えば他の拙エントリのここにおける引用の「第3項 縁起について」を参照して下さい) 加えて、精神医学的な視点を加味した「苦」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

我が「世界」像の焦点になる[中略]

かつて私が、ミャンマーの瞑想センターでウィパッサナーの実践を行っていた時に、指導する僧侶からしつこく言われたのは、「一つ一つの現象のありのままを見よ、イメージを作るな」ということであった。
例えば、私たちは日常生活でごく自然に「異性」を認識し、それに執著することがあるけれども、その「異性」というのは実際のところ、感覚入力を素材として捏ね上げられたイメージなのであって、比喩的に言い換えれば「物語」に過ぎないものである。
実際、私たちが認識している「美しい顔」は、よく分析してみれば眼に入っている色の組み合わせに過ぎないし、その「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない。つまり、私たちが持つ「美しい異性」という認識は、そのような感覚入力を素材として構成された単なるイメージ、もしくは物語に過ぎないわけだ。だから、ちょっと構成の仕方を変えてみれば、第一章で紹介したように、マーガンディヤの美しい娘を「糞尿に満ちたもの」というイメージで捉えることもできてしまう。
では、なぜ私たちは、そのような「ありのまま(如実)」でないイメージを形成し、物語の「世界」を立ち上げてしまうのか。それは、本章で引用した経典に繰り返し語られていたように、私たちが、五蘊・十二処・十八界といった認知を形成する諸要素に欲望を抱き、それに執著して実体視する(「我」だとみなす)からである。
感覚入力によって生じる認知は、それを「ありのまま」にしておくならば、無常の現象がただ継起しているだけのことで、そこに実体や概念は存在せず、したがって「ある」とか「ない」とかいうカテゴリカルな判断も無効になっていて、だから(それ自体が分別である)六根六境も、その風光においては「滅尽」している。つまり、そこでは「世界」が立ち上がっていない。これは既に言語表現の困難なところだが、敢えて短く言い表せば、「ただ現象のみ」というのが、「如実」の指し示すところなのである。
ただ、私たち衆生はその生来の傾向として、対象を希求する渇愛[中略]を有しており、そこから対象を好んだり嫌ったりする「癖」(貪欲[中略]と瞋恚[中略])もついてしまっていて、そして何よりそのことに無自覚(愚痴[中略],あるいは無明[中略])だ。
だから私たちは、ただ継起しているだけの現象に欲望を抱き、それを好んだり嫌ったりする執著(嫌うこともまた、逆方向の執著の形である)をして、それを起点に物語を作る。欲望なしの認知であればただの「色」であるものが、欲望によって、「美しい顔」のイメージに形成しあげられてしまうわけだ。
そして、そのような欲望によって織り上げられた様々なイメージの中にあって、それらが「世界」という像を結ぶ際の焦点として機能するのは、もちろん「我」という仮象である。五蘊も十二処も十八界も、それらが「私の」認知だと捉えられた時に、はじめて統合の中心を得て、「世界」という物語を形成する要素として機能する。六根六境が生成する個々の認知を、「それは私のものであり、それは私であって、それは私の我である」と捉えることがなかったならば、それらは統合の中心を失って、ただ継起していくだけになり、「世界」という像を結ぶことはない。そこに残るのは、「ただ現象のみ」なのである。
このような、渇愛・煩悩・我執に基づいてイメージを形成し、それによって現象を分別して多様化・複雑化させ、「物語」を形成する作用のことを、さきほど紹介した言葉で papañca と言ってもよいだろう。そして、この papañca の滅尽ないし寂滅が、「世界の終わり」であり、また「現法涅槃」の境地であるということも、さきほど述べたとおりである。
実際、パーリ経典に基づいた実践を行っている上座部圏の瞑想センターで、修行者たちの一つの目標になるのもこの境地である。「一つ一つの現象のありのままを見よ、イメージを作るな」と、私がしつこく言われたのも、この papañca という物語形成の作用を止めて、苦なる「世界」に繋縛され続けることを終了させるための、親切な指導だったわけだ。

注:i) 引用中の「脚注番号」の引用は省略しています。 ii) 引用中の「papañca」についての説明例として、同本の P118 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『ただ、papañca は原義としては拡大・拡散することであり、そこから分化や多様化といった事態も示す。英語で言えば、expansion, diffuseness, manifoldedness といったニュアンスである。要するに、本来は分別されていないものを分別して境界づげ、そこに多様性を持ち込んで、拡散・複雑化させるはたらきを papañca と呼ぶものだと、とりあえずは考えておいてよい。そして、本来は分別されていないものに分別を与えて複雑化するのであるから、それは妄想、幻想(illusion)、迷執(obsession)といった含みも持つことになる。』 iii) 引用中の「貪欲」、「瞋恚」、「愚痴」(これらは「三毒」と呼ばれます)については、共に例えば次のWEBページを参照して下さい。 『「貪欲」』 iv) 引用中の「無明」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 『「癡によりて愛あれば、すなわち我が病生ず。」』 v) 引用中の「執著」は「固執」や「とらわれ」を意味しているようです。例えば、上記 iv) 項も参照して下さい。 vi) 引用中の「十二処」は「六根」と「六境」を合せたものです。これらはここを参照して下さい。加えて、引用中の「十八界」は、「十二処」に六識(眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識)を加えたものを言うようです。 vii) 引用中の「五蘊」については、同本の P220 の脚注(18)に説明があり、次に引用(『 』内)します。 『仏教では、人間(衆生)を「色(物体・身体)、受(感覚・感受)、想(表象作用)、行(意志・欲求)、識(認識・判断)」という五つの要素に分析して述べることがあり、それらをまとめて「五蘊」と呼んでいる。』 すなわち、上記五蘊・十二処・十八界は、人間(衆生)の認知の方法をそれぞれ分類したもののようです。 viii) 引用中の「渇愛」についてはプラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第二章 慈悲の章 の「渇愛は滅尽させるべきものか、させなくていいのか」における記述の一部(P115)を次に引用(『 』内)します。 『プラユキ 渇愛というのは、喉が渇いた人が水を求めるような、欲望の対象を希求する根源的な煩悩のことだよね。』 この「渇愛」は「欲愛」、「有愛」、「無有愛」の3つから構成されます。これに関連する、四聖諦中の集諦における「感覚的快楽への渇愛」、「存在への渇愛」「非存在への渇愛」については、次の資料を参照して下さい。 「仏教瞑想と幸福感」の「涅槃という幸福」項 ix) 引用中の「マーガンディヤの美しい娘」については、同本の P27 における記述の一部を次に引用(【 】内)します。 【さて、再び『スッタニパータ』に戻ろう。次は第四章の「マーガンディヤ」である。この経はゴータマ・ブッダの「この糞尿に満ちた(女が)何だというのだ。私はそれに足さえも触れたくない」という過激な言葉を含む偈ではじまる。経の本文には文脈が記されていないので少し戸惑うが、註釈によれば、これはマーガンディヤというバラモンが美人の娘を連れてゴータマ・ブッダに婿になってくれるよう頼んだ際に、彼がそのように語って拒絶したということらしい。】(注:a) 引用中の脚注は省略しています。 b) 引用中の『スッタニパータ』は経典の名称です。) x) 引用中の「ウィパッサナー瞑想」の別名である「ヴィパッサナー瞑想」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネス認知療法」の「マインドフルネス実践の方法論上の特徴」項 xi) 引用中の「我」に関連する「経験我」については、魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の P90 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『つまり、覚者であれ一般の凡夫衆生であれ、そこで感官からの情報が認知されることによって経験が成立する場としての「個体性」であれば、それぞれが有している。それがここで言う「経験我」だが、ただしそれは、原因・条件によって生成消滅する(縁生の)感官からの情報によって形成されているものであるから、もちろん無常・苦・無我という三相の性質を有しており、時々刻々と変化・流動している。』(注:引用中の脚注の引用は省略しています) 加えて、これらに関連する「プロセスとしての自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 xii) 引用中の『私たちが認識している「美しい顔」は、よく分析してみれば眼に入っている色の組み合わせに過ぎないし、その「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』に関連して、嗅覚の匂い受容メカニズムとしての「匂い物質は,(中略)嗅覚受容体と結合する」については、次の資料を参照して下さい。 「嗅覚の匂い受容メカニズム」の「2.嗅覚受容体の情報伝達メカニズム」項 (すなわち、「匂いは嗅覚受容体と結合した匂い物質によって形成されているものに過ぎない」[イメージを作るな]と言えるかもしれません) 加えて、匂いに関連するプルースト現象及び嗅覚の学習記憶については、共にここを参照して下さい。さらに、引用中の『「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』に対比されるかもしれない、「音を苦痛な邪魔なものとして感知する」についてはここここを参照して下さい。 xiii) 引用中の『苦なる「世界」に繋縛され続ける』に関連するかもしれない、『「外的な強制」に隷属』について、プラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第三章 自由の章 の『「思いどおりに振る舞うこと」が自由ではない』における記述の一部(P177~P179)を次に引用します。

「思いどおりに振る舞うこと」が自由ではない(中略)

魚川 そうですね。ただ、この I want to というのは曲物で、「こうしたい」と言う時に、それが本当に「自分がしたい」ことなのかというのは、仏教的に考えると、なかなか判断の難しいところでしょう?
プラユキ それはたしかに。そもそも仏教は無我説だからね。
魚川 ええ。『仏教思想のゼロポイント』では、「カレーが食べたい」とか「あの異性とデートをしたい」とか、そんな例を出しましたけれども、何であれ私たちの心に浮かぶ「こうしたい」という欲望は、少し時間をとって内観してみればわかるように、「私がコントロールして浮かばせた」ものではなくで、「勝手に浮かんでくる」ものであるわけです。そして、それが「勝手に浮かんでくる」からには、それなりの原因や条件(因縁)があるというのが仏教的な考え方ですね。
したがって、私たちが「自分のもの」だと考えて、そのままナイーヴに従ってしまいがちな思いや欲望というのも、それが浮かんでくる背景には、「自分のもの」ではない原因や条件が存在している。例えば「あのバッグが欲しい」とか、「この人と付き合いたい」などと考えた時に、その背景には、テレビなどのメディアによる情報や、過去の家族関係からくるトラウマなどが、原因や条件として、作用していたりするわけです。そうなると、「私がこうしたい」ということの実相は、本当に「内的な欲求」であるのか、あるいはむしろ一種の「外的な強制」に当たるのかは、区別がつけにくくなってくる。
プラユキ 何が I have to であって、何が I want to であるかということは、実は見極めにくいということだよね。そこで大切になるのが、やはり気づきの視点であると思います。
先ほどの仏教的な自由の理解に、「内的な思考パターン、感情や記憶、心のクセ等に支配されていないこと」と書きましたけれども、原因や条件に従って「勝手に浮かんでくる」欲望に対して、気づきの視点を持たないまま「これが私のしたいことだ!」とナイーヴに従ってしまったら、それはたしかに「外的な強制」にむしろ隷属していることになる。つまり、「煩悩(我)に支配されている」状態になるわけですね。仏教用語では、こういうのを「放逸」と言います。
しかし、そこで気づきの力が育っていれば、そこで縁によって生じた煩悩の命ずるところに、そのまま従ってしまうことはない。「あのバッグを買わないと我慢できない」とか、「あの人と付き合えなければ死んでしまう」とか、そういう強烈な衝動の支配力にストップをかけて、「これは本当に私を幸福にしてくれるのか」と、冷静に判断して選択する心のスペースができるわけです。仏教的な意味での自由というのは、基本的にこの「選択できる余地」をつくるものなんだと思いますね。

注:i) 引用中の「I have to」及び「I want to」の前提について、同章の P177 における記述の一部(P177~P179)を次に引用(【 】内)します。 【現代の女性というのは、I have to(こうすべき)と I want to(こうしたい)のあいだで、言わば引き裂かれた状態になっている。『何歳までにこれをしなきゃ』『仕事はこうだ』『結婚はこうだ』と、意識の上では様々な I have to に雁字溺めになって、そこで頑張っているのだけど、心の底にはきちんと I want to も持っていて、それが満たされないことで苦しみも抱えている。】 ii) 引用中の「因縁」については、例えば他の拙エントリのここにおける引用の「第3項 縁起について」を参照して下さい。 iii) 引用中の「放逸」に関連するかもしれない「信念システム」については、他の拙エントリのここ及びここを参照して下さい。

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【追記5】
におい物質の嗅覚閾値について次に記述します。

(1)におい物質の嗅覚閾値濃度の例
岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の表2(P25~P26)から標記例を次に抜粋します。ちなみに、この表の元となった文献を次に示します。 「永田好男、竹内教文:三点比較式臭袋法による臭気物質の閾値測定、大気汚染学会講演要旨集、p.528, (1988)」 加えて、嗅覚閾値のリストの例は次のWEBページに示します。 「技術資料 嗅覚閾値

・ホルムアルデヒド:0.5ppm(500ppb)
・トルエン:0.33ppm(330ppb)
・リモネン:0.038ppm(38ppb)
・ジオスミン(カビ臭):0.0000065ppm(6.5ppt)
・スカトール(糞便臭):0.0000056ppm(5.6ppt)
・イソ吉草酸:0.000078ppm(78ppt)
・塩素:0.049ppm(49ppb)
・硫化水素:0.00041ppm(410ppt)
・アンモニア:1.5ppm
・ベンゼン:2.7ppm
・アセトン:42ppm

注:リナロールの嗅覚閾値濃度は見つけだせませんでした。次の資料を参照して下さい。 「リナロ-ル」の「9.物理的及び化学的性質」項

(2)香りとは何か? に対する答えについて
標記について、藤森嶺編著の本、「香りが見える理由」(2012年発行)の 1. 香りを見るためには の「1. 香りとは」における記述の一部(P8~P9)を次に引用します。

1. 香りとは
香りとは何かと問われてどのような答をすることができますか?という問いかけに対して、以下のような答えが考えられる。
①空気中に漂っている物質であるから揮発性の物質(分子)の筈である。
②揮発性というのはその分子が軽いということであるから、分子量は小さい。実際には分子量300以下、炭素数で見れば15個以下程度である。
③香気物質に含まれている元素は炭素、水素、酸素、窒素、硫黄であり、多くの香気物質は炭素、水素、酸素から構成されている。炭素結合では当然単結合、二重結合、三重結合が存在する。官能基は水酸基、カルボニル基など多種類である。鏡像異性体は匂いが異なることが知られている。
④食品に含まれている香料の量は微量であり、10ppm以下であることが多い。
⑤花の精油、コーヒー、茶などどのような天然の香りも非常に多くの香気成分(500~1000種類)が混合して一つの香気になったものである。
⑥香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである。(後略)

注: i) この引用部の著者は藤森嶺です。 ii) 引用中の「香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである」に関連する、 a) 香気物質の匂いの閾値例についてはここを参照して下さい。 b) 「人間の嗅覚は大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残していること」についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の「香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである」に関連する、「日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること」についてはここを参照して下さい。

(3)におい物質の嗅覚閾値濃度の視点からの、人間の嗅覚は大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残していること
標記について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第1章 においとは何か の「1-6 化学物質がにおい始める濃度(現代人にも残っている大昔の嗅力」における記述の一部(P23~P24)を次に引用します。

(前略)表2に記載した永田氏の嗅覚閾値のデータをみると、化合物の種類により嗅覚閾値の値が高かったり低かったり、大きく異なっていることがわかる。その中で、嗅覚閾値が比較的低濃度の物質は、薄いにおいでも人間が感じるにおいであり、人間にとって鋭敏なにおい化合物といえる。
表のデータを見ると、非常に面白いことがわかる。表中の嗅覚閾値が低濃度の化合物は、どれも大昔に人間が生きていくために、必要なにおいであったといえる。
例えば、表2の中の嗅覚閾値が低濃度の物質は、アルデヒド類、メルカプタン類、アミン類、ジオスミン、スカトールなどだが、アルデヒド類はいわば焦げ臭の代表といわれるにおいであり、大昔の人びとにとってほ山火事が発生したとき、このにおいに早く気が付き、逃げなくてはならなかったのである。また、メルカプタン類は腐敗した食べ物から発散するにおいであり、消費期限が、記載されていなかった大昔には、食べ物が腐っているかどうかは自分の鼻でくんくん嗅ぎ分けなくてはならなかった。アミン類は魚の腐敗臭であり、ジオスミンほカビ臭である。スカトールは糞便臭であり、狩猟の際には人間はこのにおいを嗅ぎながら、動物を追いかけたのである。このように現代の人間においても、人間が生きていくために必要な嗅覚の能力の余韻を残しているとみることもできる。
これに対し、表2の中のベンゼン(嗅覚閾値 2.7ppm)トルエン(嗅覚閾値 0.33ppm)、アセトン(嗅覚閾値 42ppm)などは比較的嗅覚閾値が高い化学物質である。言い換えれば、人間にとっては濃度が高くなければ感じない物質であり、感度が低い物質である。大昔の人間は、これらの化合物に感度が低くても、生きていくことには支障が少なかったのである。このように、人間の嗅覚は、大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残しているといえる。(後略)

注:引用中の「表2」についてはここを参照して下さい。

(4)日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること
標記について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第1章 においとは何か の「1-1 においは低濃度多成分の混合体」における記述の一部(P14~P15)を次に引用します。

(前略)焼き肉のにおいでも、タバコのにおいでも、花のかおりでも、私たちが日常生活で嗅いでいるにおいは、これらの化合物の混合物といえる。単一の化合物で構成されるにおいは、私たちの身の回りではほとんどない。学校の理科の教室で嗅ぐ試薬のにおいか、工場で使う薬品臭ぐらいのものかもしれない。
このように、においとは多成分の混合体であることが、においの第一の特徴である。

注: i) 標記「日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること」に関連する「花の精油、コーヒー、茶などどのような天然の香りも非常に多くの香気成分(500~1000種類)が混合して一つの香気になったものである」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「これらの化合物」に相当する、「ニオイのある化学種が約40万種以上ある」ことについてはここを参照して下さい。加えて、同本の P14 にも、次に引用(『 』内)する同様な記述があります。 『約40万種類の化合物はにおいを持っているといわれている』

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【追記6】
悪臭苦情等について本の引用等により以下に紹介します。ちなみに、悪臭苦情の統計データについては次のWEBページを参照して下さい。 「悪臭防止法施行状況調査(悪臭苦情の統計データ)

(1)コーヒーのかおりに対する悪臭苦情について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第3章 悪臭公害の現状 の「3-3 コーヒーのかおりでも悪臭苦情」における記述の一部(P49)を次に引用します。

私たちが生活している中で、一見快いかおりと思われている、コーヒーの焙煎のかおり、ほうじ茶を煎るかおり、パンを焼く香ばしいかおりなども悪臭苦情の対象になっている。私はコーヒーのかおりもほうじ茶のかおりも大好きで、お店の前を歩くのは楽しいと思っているが、それでも悪臭苦情が発生する。ときどき嗅ぐときは快くても、毎日かがされると、不快になることもあるらしい。図14にコーヒー製造工場に対する悪臭苦情件数の経年変化を示した。毎年10件以上の思臭苦情が寄せられる。(後略)

注:引用中の「図14」の引用は省略しますが、1996年~2008年において、10~27件のコーヒー製造工場に対する悪臭苦情があります。

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【追記7】
聴覚過敏及び/又は騒音過敏等について論文要旨等により以下に紹介します。

(1)騒音過敏についての論文要旨「Noise sensitivity, rather than noise level, predicts the non-auditory effects of noise in community samples: a population-based survey.[拙訳]騒音レベルというよりも騒音過敏性が地域サンプルにおける騒音の非聴覚的効果を予測する:集団ベースの調査」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

BACKGROUND:
Excessive noise affects human health and interferes with daily activities. Although environmental noise may not directly cause mental illness, it may accelerate and intensify the development of latent mental disorders. Noise sensitivity (NS) is considered a moderator of non-auditory noise effects. In the present study, we aimed to assess whether NS is associated with non-auditory effects.

METHODS:
We recruited a community sample of 1836 residents residing in Ulsan and Seoul, South Korea. From July to November 2015, participants were interviewed regarding their demographic characteristics, socioeconomic status, medical history, and NS. The non-auditory effects of noise were assessed using the Center of Epidemiologic Studies Depression, Insomnia Severity index, State Trait Anxiety Inventory state subscale, and Stress Response Inventory-Modified Form. Individual noise levels were recorded from noise maps. A three-model multivariate logistic regression analysis was performed to identify factors that might affect psychiatric illnesses.

RESULTS:
Participants ranged in age from 19 to 91 years (mean: 47.0 ± 16.1 years), and 37.9% (n = 696) were male. Participants with high NS were more likely to have been diagnosed with diabetes and hyperlipidemia and to use psychiatric medication. The multivariable analysis indicated that even after adjusting for noise-related variables, sociodemographic factors, medical illness, and duration of residence, subjects in the high NS group were more than 2 times more likely to experience depression and insomnia and 1.9 times more likely to have anxiety, compared with those in the low NS group. Noise exposure level was not identified as an explanatory value.

CONCLUSIONS:
NS increases the susceptibility and hence moderates there actions of individuals to noise. NS, rather than noise itself, is associated with an elevated susceptibility to non-auditory effects.


[拙訳]
背景:
過度な騒音はヒトの健康に影響を及ぼし、日々の活動を妨害する。環境騒音は精神の病気を直接引き起こさないかもしれないが、潜伏性の精神障害の発症を加速させ、激化させるかもしれない。騒音過敏(NS)は、非聴覚的な騒音効果のモデレータ(調節するもの)であると考えられている。本研究では、NS が非聴覚効果と関連しているかどうかを評価することを我々は目的とした。

方法:
我々は、韓国のソウルおよびウルサンに住む1836人の住民の地域サンプルを募集した。2015年7月から11月にかけて、参加者は、その人口統計学的特徴、社会経済的地位、病歴、及び NS に関するインタビューを受けた。騒音の非聴覚的効果は、 Center of Epidemiologic Studies Depression(CES-D 抑うつ尺度)、Insomnia Severity index(不眠重症度指標)、State Trait Anxiety Inventory(状態-特性不安尺度)の状態サブ尺度及び Stress Response Inventory(ストレス反応尺度)の変更形式を用いて評価した。騒音マップから個々の騒音レベルを記録した。 ひょっとして精神疾患に影響を及ぼすかもしれない因子を同定するために、3モデルの多変量ロジスティック回帰分析を実施した。

結果:
参加者は、19~91歳(平均:47.0±16.1歳)で、そして 37.9%(n = 696)は男性であった。高い NS を伴う参加者は、糖尿病及び高脂血症と診断され、そして向精神薬を使用する可能性がより高かった。

多変量解析では、騒音関連変数、人口統計学的要因、病気、及び在住期間を調整した後でさえ、高 NS グループにおける被験者はうつ病及び不眠症を経験する可能性が 2倍以上であり、そして低 NS グループにおける被験者と比較して不安を有する可能性が 1.9倍であった。騒音曝露レベルは説明的な値として同定されなかった。

結論:
NS は感受性を高め、それゆえに騒音に対する個人の行動をモデレート(調節)する。 NS は騒音そのものというよりも、非聴覚的効果に対する上昇した感受性と関連する。

注:i) 引用中の「CES-D 抑うつ尺度」については、次の資料を参照して下さい。 「CES-D 抑うつ尺度の心理測定法的特性」 ii) 引用中の「不眠重症度指標」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「睡眠障害に対するプロトコールに基づく薬物治療管理」 iii) 引用中の「状態-特性不安尺度」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「自律訓練法の習得と完全主義傾向との関連」 iv) この論文に関して、岡田尊司著の本、「過敏で傷つきやすい人たち HSPの真実と克服への道」(2017年発行)の 第一章 「過敏性」とは何か の「過敏性は心身の不調にどう影響するか」における記述の一部(P28~P29)を以下に引用します。 v) ちなみに、音に対する過敏性の説明例として、同本(上記 iv) 項参照)の 第三章 過敏性のメカニズムと特性を知る の「過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ」における記述の一部(P73~P74)を以下に引用します。

過敏性は心身の不調にどう影響するか(中略)

先ほども少し紹介しましたが、韓国のソウルおよびウルサンの二つの都市の住人二千人(最終回答者数一八三六人)を対象にした大規模な調査によると、音への敏感さを0~10の11段階
で評価して6以上だと答えた人は、44%に上っていたのですが、実は、この調査結果には、その先があるのです。
6以上と答えた、過敏な傾向があると感じている人と、5以下と答えた、あまり過敏でないと感じている人を比較すると、驚くべきことが判明したのです。
過敏な傾向があると感じている人はそうでない人に比べて、糖尿病の罹患率が1.54倍、脂質異常症が1.62倍、向精神薬を服用したことがある人の割合が1.78倍、うつ病と診断されている人の割合が2.24倍にも上ったのです。
また、強いストレスを感じていると判定される割合は1.89倍、不眠に悩まされている人は2.05倍、不安に苦しんでいると答えた人は1.93倍でした。これらの結果はすべて、統計学的にも有意差が認められたのです。
さらに、音に過敏な傾向が強いスコア8以上の人では、平均レベルの人に比べて、うつ病のリスクが2.64倍、不安が2.41倍、ストレスが2.61倍であるという結果になりました。(後略)

注: i) 同本のタイトルにおける「HSP」は Highly Sensitive Person(敏感すぎる人)の略語です。

過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ(中略)

音に対して過敏な人は、そうでない人よりも、音に対して過剰なまでに注意を払い、音を苦痛な邪魔なものとして感知する傾向があります。しかも、音に敏感な人は、騒音や雑音に馴れるということが難しく、逆にどんどん過敏になっていきます。音を意識し始めると、騒音とは言えないレベルのかすかな音までも苦痛の種と感じてしまうのです。
ある女性の方が、こんな体験を語ってくれました。その方も長年、過敏な聴覚に苦しんでいるのですが、あるとき、旅行をしてホテルに滞在したのです。
ところが、どこからともなく聞こえてくる音が耳について眠れません。たまりかねて、ホテルの従業員に連絡したのですが、駆けつけてきた従業員は、部屋の中に立ち尽くしたまま、首をかしげ、こう言ったというのです。「お客様、私には何の音も聞こえませんが」と。
確かに、その音は、とても低い音域のものでした。長い時間耳を澄まして、従業員の方は、やっと、「何か振動のようなものが感じられます」と言ってくれたそうです。
この女性は音楽方面で活躍されていて、その意味で聴覚過敏な傾向を生かしているとも言えますが、一般の人には聞こえないような音まで聞こえてしまうのですから、苦労も絶えないのです。(後略)

注:i) 引用中の「音に対して過敏」に関連する「聴覚過敏」の論文例についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「敏感」及び「馴れる」に関連する『「感作」と「馴化」の対比』についてはここを参照して下さい。ちなみに、馴化についてはリンク集を参照して下さい。 iii) 引用中の「音を苦痛な邪魔なものとして感知する」に対比されるかもしれない、『「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』についてはここここを参照して下さい。 iv) 引用中の「音に対して過敏な人」に関連する、「音に対して過敏な傾向をもつ人におけるストレス全般に過敏な傾向」について、同章(ここの v) 項参照)の「過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ」における記述の一部(P74)を以下に引用(『 』内)します。 『先にも触れたように、音に過敏な傾向をもつ人では、精神疾患だけではなく身体疾患の罹患リスクも上昇してしまいます。そのことは、音に過敏な人は交感神経が興奮しやすく、ストレスホルモン(副腎皮質ホルモン)であるコーチゾルの分泌が亢進していることとも関係し、ストレス全般に過敏な傾向を表していると言えるでしょう。』(注: a) 引用中の「先にも触れた」についてはここを参照して下さい。 b) 引用中の「交感神経が興奮しやすく」に関連する交感神経系が亢進する時の経路については他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) 引用中の「コーチゾル」(コルチゾール)については次のWEBページを参照して下さい。 「ストレス - 脳科学辞典」の「視床下部-下垂体-副腎系」項)

(2)MCS と騒音過敏及び聴覚過敏との関連についての論文要旨「Noise sensitivity and hyperacusis in patients affected by multiple chemical sensitivity.[拙訳]多種化学物質過敏状態(MCS)により影響を受けた患者における騒音過敏及び聴覚過敏」を次に引用します。

PURPOSE:
The aim of this study was to investigate the presence of noise sensitivity and hyperacusis in patients suffering from multiple chemical sensitivity (MCS), a chronic condition characterized by several symptoms following low-level chemical exposure. Moreover, distortion product otoacoustic emissions (DPOAE) were performed to further study cochlear function.

METHODS:
A questionnaire-based survey was performed. Eighteen MCS patients, selected with strict diagnostic criteria, and 20 healthy age- and gender-matched subjects filled Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire (WNS) and Khalfa's Hyperacusis Questionnaire (HQ). Results were compared with scores from the quick Environmental Exposure Sensitivity Index (qEESI), a routinarily used questionnaire to screen MCS symptoms, and with DPOAE values. An analysis of variance (ANOVA) was performed between MCS and control subjects scores; moreover, Spearman's rank correlation test was performed between questionnaire results.

RESULTS:
ANOVA testing on DPOAE values showed any significant difference between groups, while WNS, HQ and qEESI scores were significantly higher in MCS group compared to controls. Correlation analysis showed strong positive correlation between WNS, HQ and qEESI in MCS subjects.

CONCLUSIONS:
For the first time, auditory-related perceptual disorders were studied in MCS. A strong association between WNS, HQ results and MCS symptoms severity has been highlighted. These findings suggest that decreased sound tolerance and noise sensitivity could be considered as possible new aspects of this syndrome, contributing to its peculiar phenotype. Furthermore, as DPOAE values did not differ from healthy subjects, present findings might suggest a 'central' source for such disorders in this group of patients.


[拙訳]
目的:
この研究の目的は、低レベルの化学物質曝露後のいくつかの症状により特徴づけられる慢性疾患である、多種化学物質過敏状態(MCS)を患う患者における騒音過敏及び聴覚過敏の存在を調査することであった。それに加えて、蝸牛機能をさらに研究するために、歪成分耳音響放射(DPOAE)を実施した。

方法:
アンケートに基づく調査を実施した。厳格な診断基準で選択された18人の MCS 患者、及び20人の年齢と性別がマッチする健康な被験者が、Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire (WNS)及び Khalfa's Hyperacusis Questionnaire(HQ)(訳注:両方アンケートです)に記入した。結果は、MCS 症状をスクリーニングするために通常使用される問診表 quick Environmental Exposure Sensitivity Index(qEESI)と DPOAE 値とのスコアが比較された。分散分析(ANOVA)を、MCS と対照被験者とのスコア間で実施した。さらに、アンケート結果間でスピアマンの順位相関試験を実施した。

結果:
DPOAE 値に関する ANOVA 試験は、グループ間に有意差を示したが、WNS、HQ 及び qEESI スコアは、対照グループと比較した MCS グループにおいて有意に高かった。MCS 被験者における WNS、HQ 及び qEESI 間に強い正の相関を相関分析は示した。

結論:
初めて聴覚関連の知覚障害が MCS において研究された。WNS、HQ の結果と MCS 症状の重症度との間に強い関連性が強調されている。これらの知見は、低下した耐音性及び騒音感受性が、この症候群の潜在的な新しい側面として考えることができ、その特有な表現型に寄与することを示唆している。さらに、DPOAE 値が健康な被験者と異ならないので、本知見は、このグループの患者におけるこのような障害の「中枢性」の原因をひょっとして示唆するかもしれない。

注:引用中の「Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire」については、次の資料を参照して下さい。 「新幹線騒音・振動による主観的健康の低下」 加えて、引用中の「Khalfa's Hyperacusis Questionnaire」については、次の資料を参照して下さい。 「一般大学生における聴覚過敏の実態とリスク要因

(3)聴覚過敏について
①標記に関する論文要旨「Characteristics of hyperacusis in the general population.[拙訳]一般集団における聴覚過敏の特徴」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

There is a need for better understanding of various characteristics in hyperacusis in the general population. The objectives of the present study were to investigate individuals in the general population with hyperacusis regarding demographics, lifestyle, perceived general health and hearing ability, hyperacusis-specific characteristics and behavior, and comorbidity. Using data from a large-scale population-based questionnaire study, we investigated individuals with physician-diagnosed (n = 66) and self-reported (n = 313) hyperacusis in comparison to individuals without hyperacusis (n = 2995). High age, female sex, and high education were associated with hyperacusis, and that trying to avoid sound sources, being able to affect the sound environment, and having sought medical attention were common reactions and behaviors. Posttraumatic stress disorder, chronic fatigue syndrome, generalized anxiety disorder, depression, exhaustion, fibromyalgia, irritable bowel syndrome, migraine, hearing impairment, tinnitus, and back/joint/muscle disorders were comorbid with hyperacusis. The results provide ground for future study of these characteristic features being risk factors for development of hyperacusis and/or consequences of hyperacusis.


[拙訳]
一般集団での聴覚過敏における様々な特徴をより良く理解する必要がある。本研究の目的は、人口統計、生活習慣、知覚された一般的な健康や聴力、聴覚過敏に特異的な特徴及び行動、そして合併症に関する聴覚過敏を伴う一般集団における個々人の調査であった。大規模な集団ベースのアンケート調査からのデータを用いて、聴覚過敏のない人(n = 2995)と比較した、医師診断(n = 66)及び自己報告(n = 313)の聴覚過敏を伴う個々人を調査した。高齢、性別が女性、及び高等教育は聴覚過敏と関連し、そして音源を回避しようとし、音の環境に影響を及ぼすことができ、そして医療を求めていることは共通の反応と行動であった。心的外傷後ストレス障害、慢性疲労症候群、全般不安症、うつ病、疲労困憊、線維筋痛症、過敏性腸症候群、片頭痛、聴覚障害、耳鳴り、そして背部/関節/筋肉障害には、聴覚過敏が合併していた。聴覚過敏の発症のリスク要因及び/又は聴覚過敏の帰結であるこれらの特徴の主要点の将来研究に対する根拠をこれらの結果は与える。

注:i) 引用中の「n = 2995」、「n = 66」及び「n = 313」は共に人数を示します。 ii) この全文の「Introduction」項における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『Hyperacusis has also shown comorbidity with other medically unexplained symptoms, including fibromyalgia,[23,24,25] chronic fatigue syndrome (CFS),[24,26] as well as other environmental intolerances such as multiple chemical sensitivity, nonspecific building-related symptoms, and symptoms attributed to electromagnetic fields.[27,28,29,30][拙訳]聴覚過敏は、線維筋痛症、慢性疲労症候群(CFS)はもちろん多種化学物質過敏状態(MCS)、非特異的なシックビルディング関連症状、そして電磁界に帰する症状等の他の環境不耐性を含む他の医学的に説明できない症状との合併も示している。』(注:i) 拙訳では文献番号の記述を省略しました。文献番号の詳細はこの論文を参照して下さい。 ii) 引用中の「医学的に説明できない症状」については、次のWEBページを参照して下さい。 『「医学的に説明できない症状」って?』) iii) 引用中の「心的外傷後ストレス障害については、他の拙エントリのリンク集を(用語:「PTSD」)参照して下さい。 iv) 引用中の「慢性疲労症候群」については、例えばWEBページを参照して下さい。 v) 引用中の「全般不安症」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vi) 引用中の「うつ病」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vii) 引用中の「線維筋痛症」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 viii) 引用中の「過敏性腸症候群」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「ここ一番で襲ってくる腹痛 過敏性腸症候群の対処法」 ix) 引用中の「片頭痛」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「Ⅱ 片頭痛」 x) 引用中の「音の環境に影響を及ぼすこと」の例について、この全文の「Figure 1」において、次に引用する(『 』内)記述があります。 『by closing a door to a noisy environment[拙訳]騒音環境に対しドアを閉めることによる』

②標記における治療法に関する論文要旨「Tinnitus and hyperacusis therapy in a UK National Health Service audiology department: Patients' evaluations of the effectiveness of treatments.[拙訳]英国の国民健康保険サービス聴覚学部門における耳鳴り及び聴覚過敏の治療法:治療法の効果の患者の評価」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

OBJECTIVE:
To assess patients' judgements of the effectiveness of the tinnitus and hyperacusis therapies offered in a specialist UK National Health Service audiology department.

DESIGN:
Cross-sectional service evaluation questionnaire survey. Patients were asked to rank the effectiveness of the treatment they received on a scale from 1 to 5 (1 = no effect, 5 = very effective).

STUDY SAMPLE:
The questionnaire was sent to all patients who received treatment between January and March 2014 (n = 200) and 92 questionnaires were returned.

RESULTS:
The mean score was greatest for counselling (Mean = 4.7, SD = 0.6), followed by education (Mean = 4.5, SD = 0.8), cognitive behavioural therapy - CBT (Mean = 4.4, SD = 0.7), and hearing tests (Mean = 4.4, SD = 0.9). Only 6% of responders rated counselling as 3 or below. In contrast, bedside sound generators, hearing aids, and wideband noise generators were rated as 3 or below by 25%, 36%, and 47% of participants, respectively.

CONCLUSION:
The most effective components of the tinnitus and hyperacusis therapy interventions were judged by the patients to be counselling, education, and CBT.


[拙訳]
目的:
専門家の英国の国民健康保険サービス聴覚学部門において提供されている耳鳴り及び聴覚過敏の治療法の効果の患者の判断を評価する。

設計:
横断的サービス評価アンケート調査。患者は、受けた治療の効果を 1~5 のスケールでランク付けするよう求められた(1 = 効果なし、5 = 非常に効果的)。

学習サンプル:
このアンケートは、2014年1月から3月にかけて治療を受けたすべての患者(n = 200)に送付され、92のアンケートが返送された。

結果:
平均スコアが最も高かったのはカウンセリング(平均 = 4.5、標準偏差 = 0.8)であり、教育(平均 = 4.5、標準偏差 = 0.8)、認知行動療法[CBT](平均= 4.4、標準偏差 = 0.7)、そして聴力検査(平均= 4.4、標準偏差 = 0.9)と続いた。回答者の 6%のみがカウンセリングを 3以下として評価した。対照的に、ベッドサイドサウンドジェネレータ、補聴器、及び広帯域のノイズジェネレータは、それぞれ参加者の25%、36%及び47%が 3以下として評価した。

結論:
患者により判断された耳鳴り及び聴覚過敏の治療の介入の最も有効な要素はカウンセリング、教育及び CBT であった。

注:i) 引用中の「n = 200」は人数を示します。 ii) 引用中の「サウンドジェネレータ」及び「ノイズジェネレータ」に関連するかもしれない「TRT(tinnitus retraining therapy;耳鳴り順応療法)療法」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「TRT(tinnitus retraining therapy)療法

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注:本エントリは仮公開です。予告のない改訂(削除、修正、追加、公開日や修飾の変更等)を行うことがあります。

*1:注:[ご参考1]~[ご参考3]を参照する前に、特に脳機能の説明を参照した方が良いかもしれません。

*2:前頭前野には眼窩前頭皮質が含まれます

*3:馴化はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。一方、他の拙エントリにおいては、ここここここ及びここを参照して下さい

*4:対象となる疾患・障害例:化学物質過敏症、シックハウス症候群、PTSD、複雑性PTSD[含愛着障害]、強迫症(強迫性障害)、社交不安症、パニック症(パニック障害、ADHD 注:これらの疾患・障害と見紛う場合を含みます

*5:これら以外の次のキーワードもこのリンクを参照して下さい。「爬虫類脳」、「哺乳類脳」、「情動脳」、「理性脳」、「煙探知機」、「監視塔」、「洞察」

*6:ちなみに、「情動」又は情動関連キーワードについては、ここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここ及びここを参照して下さい

*7:存在することを仮定した場合の話です

*8:嗅覚や刺激閾値及び室内濃度指針値を含みます

*9:本エントリでは代表的なホルムアルデヒド及びトルエンを紹介しました

*10:すなわち、超微量のことです

*11:すなわち、臭うのは上記超微量より多い量(濃度)だからです

*12:すなわち本エントリ作者の見解として、例えば室内において、「(臭わない超微量)8ppbのホルムアルデヒドに反応する人がいる」との主張は不思議で、立証が必要と思います。一方、「室内濃度指針値80ppbを大幅に超える、臭う800ppbのホルムアルデヒドに反応する人がいる」との主張は特に不思議とは思いませんが、(臭い※2に反応していないならば)これは化学物質過敏症ではなく、シックハウス症候群の症状とするのが妥当ではないかと思います。ただし、※2[ご参考3]で引用した意見があります。ちなみに、ホルムアルデヒドの曝露濃度のまとめはこちらを参照して下さい。

*13:この著者が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*14:この著者の方々が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*15:この著者の方々は臨床環境医ではないようですが、先行研究を参考にして誘発試験を実施したようなので、本エントリで言及します。ちなみに、この負荷試験では、疾患概念である化学物質過敏症の存在に対するエビデンス積み上げに失敗しています。

*16:この資料の著者の方々が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*17:加えて、記憶や経験に基づく認知処理を伴う又は個人差を伴う嗅覚を主とした、嗅覚における一般的な説明は次を参照すれば良いかもしれません。 a) 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」 b) 「におい刺激に対する感覚強度に及ぼす認知的要因の影響:短時間・断続的に提示されるにおい刺激に対して」 c) 「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」 d) 「嗅覚のメカニズム ~ヒトはどのように匂いを感知するのか~」の「3.匂いの感じ方の個人差」項 e) 「食行動やにおいに関わる感情-nature-nurture 問題の新たな地平を探る」の 綾部早穂先生による話題提供の報告部

*18:ちなみに、医学分野を特定しないマインドフルネスの背後にある心理神経的メカニズムについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、マインドフルネスによる脳の機能と構造への効果についてのシステマティックレビュー例については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

*19:ちなみに、a) 「自己洞察」の視点から「メタ認知」を紹介しています。 b) WEBページ「メタ認知 - 脳科学辞典」中の「神経基盤」項において、次に引用する(『 』内)記述があります。 『(前略)内側前頭前野とメタ認知の関連が指摘されている[19]。 』 ただし、引用中の文献番号「[19]」は次の論文です。 「Metacognition: computation, biology and function.

*20:特に、リンクされている pdfファイル「低用量の有機溶剤を条件刺激とする嗅覚嫌悪条件づけ手続き」の「1 はじめに」項を参照して下さい

*21:自閉症スペクトラム障害、ASD:Autistic Spectrum Disorder とも称され、アスペルガー症候群とも一部が重なります。他の拙エントリのここを参照して下さい。

*22:一方、化学物質過敏症関連として、科学研究費助成事業に次の研究が採択されています。期間は2016~2018年度、研究代表者は内山巌雄です。この分野の発展も本エントリ作者には楽しみです「化学物質に対する非特異的な過敏状態の解明とその改善方法に関する研究

*23:続報は次の論文のようです。「Disrupted effective connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex in social anxiety disorder during emotion discrimination revealed by dynamic causal modeling for FMRI.

*24:ただし、扁桃体と前頭前野の結合性を含みます

*25:ちなみに、この論文が発表されたジャーナルのインパクトファクターについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。

*26:ちなみに、次の pdfファイル(他の拙エントリのここ参照)の「6.臨床検査」において、この論文についての短い説明があります。この部分を次に引用します(『 』内)。 『Azuma ら14) は、一般的な嗅覚検査キットを用いていわゆる化学物質過敏症患者での嗅素反応時の脳血流量の変動を、近赤外分光法(NIRS: Near-Infrared Spectroscopy)を用いて健常者と比較している。いわゆる化学物質過敏症患者では、嗅素負荷時と回復時における脳血流の活性化部位について、負荷時は前頭前皮質(prefrontal cortex: PFC)、回復時は眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex: OFC)の領域が健常人に比して強く活性化していることが証明されている。』 注:a) 文献番号「14)」は、もちろんこの論文です。 b) 論文の「Discussion」の最後に結論が記述されています。参考までに次に引用します(『 』内、拙訳を含む)。『In conclusion, despite the small sample size, this experimental study detected an activation that remained even after olfactory stimulation, specifically in the PFC of patients with MCS. We propose that recovery from such activation is delayed in patients with MCS and that their chemical-sensitive state remains due to the repeated daily exposure, leading them eventually to develop intolerance to these odorants. Our study demonstrates that NIRS imaging objectively reflects the status of patients with MCS.[拙訳]結論として、小さなサンプルサイズ(被験者数)にもかかわらず、この実験的研究は、特に MCS を伴う患者の PFC において、嗅覚刺激後さえも残存する活性化を検出した。MCS を伴う患者におけるこのような活性化からの回復が遅れ、そしてこれらの臭気物質への不耐に最終的に導く日常の繰り返し曝露による化学物質過敏状態の存続を我々は提案する。NIRS イメージングは MCS を伴う患者の状態を客観的に反映することを我々の研究は実証する。』

*27:要旨はここで引用しています

*28:要旨はここで引用しています

*29:アロマセラピーはアロマテラピーとも呼ばれます