krns-linkのブログ

まだ仮公開で、今後も本公開までドタバタします。コメント欄は有りません。ちなみに、拙ブログ作成者は医療関係者ではありません。拙ブログは訪問者の方々がお読みになるためのものですが、鵜呑みにしない等、自己責任でお読み下さい(念のため記述)。

化学物質過敏症における原因物質の曝露濃度について

① 本エントリ内の医学、脳科学及び仏教思想関係の様々な用語のリンク
(化学物質過敏症)診断のゴールド・スタンダード  Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医)の定義  嗅覚の過敏(※2[ご参考1][ご参考2]及び[ご参考3]参照)*1
扁桃体と前頭前野の結合性 *2  馴化(消去学習を含む)*3ここここここ及びここ参照)  プラセボ及びノセボ反応の無意識活性化  ストレス反応
記憶(ここここ及びここここここここここ及びここ参照)  嗅覚の生理・心理学  各種疾患・障害における脳科学 *4
脳幹、視床下部、扁桃体、海馬、大脳辺縁系、前頭葉、前頭前皮質、内側前頭前皮質 *5  情動と理性 *6  闘争/逃走モード(ここの「ストレス反応を制御する――監視塔」項参照)
マインドフルネス瞑想、ヨーガ(ここの「ストレス反応を制御する――監視塔」項参照)  神経生理学(ここ及びここ)  PTSD と臭気との関連 *7
香気物質 *8  カビ臭  人体から発生するにおい物質  森林浴・森林セラピー
メディカル・アロマセラピー、精油の成分  アロマセラピーにおけるシステマティック・レビュー(ここここここ及びここ)  においの快不快(ここ及びここ
プルースト現象 *9  嗅覚の学習記憶  味覚と嗅覚の連合学習  臭い想起記憶
におい物質の嗅覚閾値ここ及びここ)  低濃度と高濃度で匂いの質の異なる香気物質(分子)があること
日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体  香気物質の揮発性と分子量の小ささとの関係  ニューロ・ガストロノミー  悪臭苦情件数
一つ一つの現象をありのままに見て、イメージを作らない(ここここ)  瞑想における「ラべリング技法」の問題点(「たかが言葉」、「されど言葉」)  放逸
欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知の仕方から身を離す  ありのままの現象を認知する  如実知見  「状態と意味に対する微細な囚われ」が瞑想の罠
ルール支配行動  匂いは嗅覚受容体と結合した匂い物質によって形成されているものに過ぎない
雑音過敏  MCS と雑音過敏及び聴覚過敏との関連  聴覚過敏

② 他の拙エントリにおける仏教思想関係用語のリンク
「言葉の世界全体から距離を取る」  「音は現実ですが、言葉と意味は私たちが作り出したもの」

ご参考:他の拙エントリのリンク集(ここ及びここ参照)にも、一部ですが本エントリに関連した用語のリンクがあります。

はじめに

ご参考:ちなみに、本エントリ作成のプロセスは他の拙エントリのここで示すものと似ている点があります。

化学物質過敏症における原因物質(以下原因物質と略する)の曝露濃度については、yutanpo1984様による次のツイートも考慮して、本エントリを作成しました。https://twitter.com/yutanpo1984/status/590782621862461440又はここ参照。ただし、「香料」ではなく、原因物質*10の「臭い」についてですが。ちなみに、i) 1ppm=1000ppb、1%=10000ppm です。 ii) 本エントリにおいて、 a) 用語「MCS」は Multiple chemical sensitivity[多種化学物質過敏状態]の略です。 b) 用語「IEI」は Idiopathic Environmental Intolerance[突発性環境不耐症又は本態性環境不耐症]の略です。他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 本エントリに関連する「嗅覚」についての動画がツイートに紹介されています。

≪主な改訂の履歴≫
2019年10月26日:文章の追記、変更及び削除を含む大幅な改訂を行いました(また本改訂日より前の主な改訂の履歴は削除しました)。
2019年12月20日:文章の追記を含めてさらに改訂しました。

背景

William J Rea 医師をはじめとする Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医、以下臨床環境医と称する※1)は、MCS、CS、化学物質過敏症(以下まとめて化学物質過敏症と称する)を提唱しました。疾患概念である化学物質過敏症の存在を立証する責任は臨床環境医側にあります。そこで彼らは立証のための盲検法による誘発試験(負荷試験、チャレンジテストとも称する、例えば、次の複数の引用参照)を考案し、複数実践しましたが、誘発試験のシステマテック・レビューにより化学物質過敏症の存在を否定されています。

原因物質の曝露濃度

臨床環境医が考案した上記誘発試験で適用した代表的な原因物質(ホルムアルデヒド及びトルエン参照])の曝露濃度等*11を以下の引用等で示し、次にまとめました。加えて、原因物質の曝露濃度のレベルについての考察を以下に試みます。

曝露濃度のまとめと結論

(ア)ホルムアルデヒド

嗅覚や刺激閾値0.5ppm (500ppb)又は200~300ppb
室内濃度指針値:80ppb
誘発試験での曝露濃度:8ppb、40ppb、80ppb又は40ppb、80ppb *12

(イ)トルエン

嗅覚や刺激閾値0.9ppm (900ppb)又は0.33ppm (330ppb)
室内濃度指針値:70ppb
誘発試験での曝露濃度:5ppb、10ppb、25ppb又は35ppb、70ppb

(ウ)結論

これらのまとめより、化学物質過敏症における上記代表的な原因物質の曝露濃度は、嗅覚や刺激閾値よりさらに低い室内濃度指針値以下の濃度*13であると本エントリ作者は考えます。これに従うならば、臭う※2 *14原因物質に反応するのは(臨床環境医が提唱した)化学物質過敏症とは異なる状態である可能性が高いと本エントリ作者は考えます*15

ちなみに、日本臨床環境医学会編の本「シックハウス症候群マニュアル 日常診療のガイドブック」からの引用由来のもので、次に示す記述があります。MCS及び化学物質過敏症「医学的な定義はまだ確立されておらず,社会的な関心が先行し言葉が独り歩きし,混乱が生じている.」

(エ) 引用等

一方、臨床環境医が提唱した原因物質の曝露濃度及びその関連情報については上記コメントと一部重なるかもしれませんが、以下に引用等により説明します。

(1) 一般論
a) 柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第二章 化学物質過敏症の症状 (この章は石川氏と宮田氏が解説)の 「在来型の中毒とは違う」項の記述の一部(P128~P129)を次に引用します。

ところがいまや、内分泌攪乱物質=環境ホルモンにしても、化学物質過敏症にしても、またアレルギーにしても、体重1キログラム当たり1ナノグラム(10億分の1グラム)から10ナノグラム、あるいはさらに微量の化学物質の刺激に反応することが問題になっている。古典的な中毒はミリグラム、つまり1000分の1グラムの世界である。現在の問題は、それからさらに低い100万分の1以下の世界なのである。

b) 宮田幹夫著の本「化学物質過敏症 忍び寄る現在病の早期発見と治療」(2001年発行)の「Part3 発症のしくみ」 における記述の一部(P21)を次に引用します。

化学物質過敏症の場合、ppb、つまり約1ミリリットル当たり1ナノグラム(10億分の1グラム)から、ppt、つまり約1ミリリットル当たり1ピコグラム(1兆分の1グラム)という、日常生活で使う単位とはかけ離れたごくわずかな量でも発症するようになってしまうのです。

c) 米山啓一郎*16著の文書「シックハウス症候群・化学物質過敏症・シックスクール症候群の現況」の「医学的考察」項における記述の一部(P160)を次に引用します。

2. 化学物質過敏症
化学物質過敏症厚生労働省の室内濃度指針の1/10から1/20など,通常の人なら適応できるような極めて微量でも症状が出てきてしまう場合で,したがって居住空間だけでなくあらゆる場所や,日常品に対して症状がでるため,社会生活になんらかの制限を持つもの.」と定義している.

d) 公的なWEBページ「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会 中間報告書-第1回~第3回のまとめについて」の「シックハウス(室内空気汚染)問題に関連する用語の理解について」項における記述の一部を次に引用します。

化学物質過敏症

「快適で健康的な住宅に関する検討会議」報告書(平成11年1月)、厚生科学研究「化学物質過敏症に関する研究(主任研究者 石川 哲)」(平成8年度)によれば、下記のとおり。
最初にある程度の量の化学物質に暴露されるか、あるいは低濃度の化学物質に長期間反復暴露されて、一旦過敏状態になると、その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来す者があり、化学物質過敏症と呼ばれている。化学物質との因果関係や発生機序については未解明な部分が多く、今後の研究の進展が期待される。

(2) 有力な原因物質とその室内濃度指針値
a) 有力な原因物質
柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第四章 誰もが化学物質過敏症になりうる (この章は石川氏、宮田氏及び柳沢氏の議論)の「まず空気から汚れをとる」項の記述の一部(P186)

柳沢 患者がこれ以上増えないようにするには、いま、一番、何が必要ですか。(中略)
宮田 一番大事なのは、やはり空気の汚れの除去ですね。
柳沢 具体的に、物質として言うと何でしょう。
石川 ホルムアルデヒドが一、有機リンが二、トルエンが三、その他が四、総量規制でVOC(揮発性有機化学物質類)を抑えるというのが五、という順番ですね。

注:本エントリでは主に有力な原因物質であるホルムアルデヒドトルエンについて以下に言及します。

b) 化学物質の室内濃度指針値
シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会(検討会)」(座長:林裕造元国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長)の中間報告書に基づき、策定した化学物質の室内濃度指針値は、ホルムアルデヒドトルエンでそれぞれ 0.08ppm (80ppb)、0.07ppm (70ppb) です。例えばマニュアル「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「巻末資料 表-2」(P239)を参照して下さい。ちなみにより簡単には、WEBページ「シックハウス対策」におけるリンク「室内濃度指針値一覧表」を利用して下さい。

(3) ホルムアルデヒドの曝露濃度
a) 柳沢幸雄、石川哲、宮田幹夫著の本「化学物質過敏症」(2002年発行)の 第四章 誰もが化学物質過敏症になりうる (この章は石川氏、宮田氏及び柳沢氏の議論)の「どのようにして病気を知るか」項の記述の一部(P176~P177)を次に引用します。

石川 (中略)宮田先生たちが大変な努力をして調べたところ、ホルムアルデヒド濃度が八〇ppb以下でも反応する患者がいる。四〇ppbでも反応する。さらに、八ppbでも反応する患者がいました。ホルムアルデヒドの臭いは、通常の人間の臭覚では、二〇〇ppbから三〇〇ppbにならないと感じません。

注:i) 引用中の「八ppb」は、資料「特発性環境不耐症(いわゆる「化学物質過敏症」)患者に対する単盲検法による化学物質曝露負荷試験」でも次に引用するように話題となっています。 ii) さらに、この資料におけるホルムアルデヒドの嗅覚や刺激閾値の記述について次に引用します。

一方,宮田らは,環境省研究班の 2001 年度分データの大部分を用いた論文において,8ppb という「極めて微量のホルムアルデヒド曝露で自律神経機能が変動する」結果を得たとし,「多種化学物質過敏症患者は極めて微量な化学物質に反応することを,客観的に明らかとなし得た」と結論づけている.

(中略)

FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppmと言われている(中略)

注:i) 引用中の「FA」はホルムアルデヒドのことです。 ii) 引用中の文献番号の表示は省略しています。上記資料を参照して下さい。 iii) 引用中の「FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppm」についてはここを参照して下さい。

(4) トルエンの曝露濃度
a) 日本化学工業協会 研究支援自主活動 Annual Report 2006 (P79) の表題「化学物質過敏症診断体系確立の試み:問診票、匂い認知・情動検査、脳画像検査を用いた総合的診断」の研究概要*17(注:現在リンク不能になっています)の【方法】項の一部を次に引用します。

MCSと診断された患者13名(男性7名、女性6名)と対照群11名(男性5名、女性6名)の合計24名に対して、微量発生装置で発生させた低濃度トルエン(5ppb、10ppb、25ppb)と純空気、フェニルエチルアルコール(PEA)10ppmを、被験者がfMRIに臥した状態で鼻部に送気した。曝露は各濃度につき5回繰り返して行った。

注:i) フェニルエチルアルコールは芳香物質として臭いを知覚させるためにこの濃度を採用したようです。ちなみに、上記「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用

b) 資料「特発性環境不耐症(いわゆる「化学物質過敏症」)患者に対する単盲検法による化学物質曝露負荷試験*18では、次に曝露濃度を引用するように、トルエン負荷試験ついて報告されています。

曝露濃度は,先行研究を参考にして,厚労省の室内環境汚染物質の指針値,その半量,および空気曝露,すなわちプラセボとした.したがって,FA濃度は0・40・80ppb,T濃度は 0・35・70ppb であった.Tのヒトにおける嗅覚閾値濃度は3,343μg/m3(0.9ppm),FAの嗅覚や刺激閾値は 0.5ppmと言われていることから,これらの曝露濃度はいずれも臭いや刺激を感じない程度の濃度である.

注:i) 引用中の「FA」と「T」は、それぞれホルムアルデヒドトルエンのことです。 ii) 引用中の「厚労省の室内環境汚染物質の指針値」は、「室内濃度指針値」のことです。 iii) 都合によりホルムアルデヒドの引用も含めています。 iv) 引用中の文献番号の表示は省略しています。 v) 引用中の「T のヒトにおける嗅覚閾値濃度は3,343μg/m3(0.9ppm)」に関連して、これとは異なるトルエンのヒトにおける嗅覚閾値濃度(0.33ppm)はここを参照して下さい。 vi) 引用中の「FAの嗅覚や刺激閾値は0.5ppm」についてはここを参照して下さい。

(5) 他の誘発試験における曝露濃度(参考)
a) 資料「化学物質過敏症」の「MCS診断と検査の実際」項における記述の一部を次に引用します。

たとえば、Rea によると、①都市ガス、②エチルアルコール、③フェノール、④塩素ガス、⑤フォルマリン、⑥有機塩素系殺虫剤(たとえばBHC等)、⑦フェノキシ系除草剤(2,4-Dなど)、⑧水蒸気(都市水道、井戸水、ミネラルウォーター)、などの物質と接触させて患者の反応を外から見る。その量はたとえば農薬では、0.003ppm以下で、他は0.025ppm前後でチャレンジを行っている。このテストにより MCS とそうでない psychogenic な患者とは完全に識別され、診断を設定し治療が行われることとなる。

注:i) 引用中の「Rea」は、William J Rea 医師(参照)のことです。 ii) 引用中の「チャレンジを行っている」は、「チャレンジテストを行っている」という意味です。ちなみに、チャレンジテストは誘発(負荷)試験の別名です。同資料の「環境チャレンジテスト(負荷テスト)」項を参照して下さい。 iii) 引用中の「psychogenic な」は、「心因性の」と訳すようです。 iv) 文献番号の引用は省略しています。 v) 引用中の「MCS とそうでない psychogenic な患者とは完全に識別」に関連する、 a) 「化学物質の負荷検査で確認されれば、確実な証拠になる」ことについては、他の拙エントリのここを、 b) 一方、「条件付けによる病態を除外する方法が二重盲検法以外にはない」ことについては、他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。また、「化学物質負荷試験は,化学物質と症状との関連性を確認できる誘発試験なので,シックハウス症候群化学物質過敏症診断の根拠になると期待されている」ことについては、資料「化学物質負荷試験に用いるクリーンルームにおける化学物質濃度とその負荷濃度の安定性に関する検討」の「目的」項を参照して下さい*19。加えて、『化学物質過敏症の症状と低濃度の化学物質ばく露との因果関係を検証する目的で実施される研究で、その因果関係証明に一番説得力がある研究とされているのは「二重盲検(ダブルブラインド)法」で割りつけた疫学研究である』ことについては、次の資料を参照して下さい。 「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「3.4.2. どのような化学物質のばく露に起因するのか?を調べるために」項(P51)

b) 資料「化学物質過敏症の診断 -化学物質負荷試験51症例のまとめ*20の抄録を次に引用します。

【背景・目的】化学物質過敏症は診断の決め手となるような客観的な検査所見が無く,病歴,QEESI点数、臨床検査(他疾患の除外)等から総合判断として診断している.診断のゴールド・スタンダードは負荷試験であるが,これも自覚症状の変化を判定の目安として使わざるを得ない.そういう制約はあるが,我々の施設ではこれまで化学物質負荷試験を,確定診断の目的で施行してきた.
【方法】当院内の負荷ブースを用い,ホルムアルデヒド,あるいはトルエンを負荷した.負荷濃度は最高でも居住環境指針値とした.また負荷方法は従前はオープン試験によったが,最近はシングル・ブラインド試験を施行している.
【結果】これまで51名の患者に延べ59回の負荷試験を行った.オープン試験を行った40名のうち,陽性例は18名,陰性例は22名であった.陰性判定理由は症状が誘発されなかった例が11名,実際の負荷が始まる前に(モニター上負荷物質濃度上昇が検出される前に)症状が出た例が11名であった.ブラインド試験は11名に施行し,陽性が4名,陰性が7名であった.
【結語】化学物質負荷試験は現時点でもっとも有力な化学物質過敏症の診断法であり,共通のプロトコールを作成し行われるべきである.

注:i) 引用中の「居住環境指針値」は「室内濃度指針値」のことです。 ii) 引用中の「オープン試験」は、「ブラインド試験」とは異なり盲検化していない試験のようです。 iii) 引用中の「ゴールド・スタンダード」は、診断の精度が高いものとして広く容認された手法のようです。

※1:本エントリにおける Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医) の定義について
1994年の報告書、正確には資料「[https://www.epa.gov/sites/production/files/2015-01/documents/indoor_air_pollution.pdf:title=Indoor Air Pollution: An Introduction for Health Professionals]」の「Questions That May Be Asked」項[P20~P21]において、clinical ecologists に関する、次に引用する記述があります。

Who are "clinical ecologists"?

"Clinical ecology", while not a recognized conventional medical specialty, has drawn the attention of health care professionals as well as laypersons. The organization of clinical ecologists-physicians who treat individuals believed to be suffering from "total allergy" or "multiple chemical sensitivity" -- was founded as the Society for Clinical Ecology and is now known as the American Academy of Environmental Medicine. Its ranks have attracted allergists and physicians from other traditional medical specialties.


[拙訳]
”臨床環境医”("clinical ecologists")は誰か?

”臨床環境医学”("Clinical ecology")は、主流医学の専門分野とは認識されていないが、非専門家はもちろんヘルスケア専門家の注目を引いている。"total allergy" 又は”MCS”("multiple chemical sensitivity")を患っていると信じられている個人を治療する臨床環境医-医師[訳注]の組織が臨床環境医学会(Society for Clinical Ecology)として設立され、現在では、米国環境医学アカデミー(American Academy of Environmental Medicine)として知られる。そのランクにより、他の伝統医学の専門分野から、アレルギー医や医師[訳注]を引きつけてきた。

訳注:特に内科医を指すこともあるようです。

すなわち、この報告書によれば、clinical ecologists とは、米国環境医学アカデミー(American Academy of Environmental Medicine)に所属している方々です。ただし、本エントリにおいては、このアカデミーの元 President(1978年)であった William J Rea 医師の流れを汲む石川医師宮田医師を含めて(参照)Clinical Ecologists(和訳:臨床環境医)と呼ぶこととします。

一方、William J Rea 医師と石川医師、宮田医師との関係を示す例は、他の拙エントリのここを参照して下さい。

ちなみに、冗長かもしれませんが、日本における「臨床環境医」の区別に関しては、他の拙エントリの【余談1】【余談2】【余談3】【余談4】及び【余談5】を参照して下さい。

※2:ここは次の脳機能の説明、調節と調整との使い分け[ご参考1][ご参考2]及び[ご参考3]から構成されています。

脳機能の説明
以下の[ご参考1]~[ご参考3]で、脳科学に関連する様々な論文の一部又は要旨を引用しています。これらの論文をよりよく理解するための参考として、脳科学における様々な説明を以下に紹介します。*21 ストレスによる前頭前皮質及び大脳辺縁系への影響については、例えば拙エントリのここを参照して下さい。 ADHDにおける臨床症状と脳内神経回路の関連については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 愛着障害の視点からの報酬系についてについては、例えば次の資料を参照して下さい。 『研究成果「愛着障害児における報酬系機能の低下を解明」』 パニック症(パニック障害)又は「Stress-induced fear circuitry disorders」における Stress-induced fear circuit については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「パニック症 - 脳科学辞典」の「病態仮説」項 加えて、パニック症における情動の特徴については他の拙エントリのここを参照して下さい。 さらに、パニック障害のリスク因子としてのストレスについてついては他の拙エントリのここを参照して下さい。 社交不安症における脳活動に関する研究についてはここを、加えて、「パニック症、社交不安症、特定の恐怖症等は扁桃体の過活動を前頭前野が抑制できなくなった状態であると考えることができること」については他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。 強迫症(強迫性障害)における OCD-loop については、他の拙エントリのここここを参照して下さい。加えて、強迫症状の誘発における機能神経画像法の研究のメタアナリシスについては、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 PTSD又は複雑性PTSDの視点からの大脳辺縁系と前頭葉との関連等について、 a) べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第4章 命からがら逃げる――サバイバルの分析 の「脳――下から上へ」、「互いを真似る――対人関係の神経生物学」、「危険を突き止める――料理人と煙探知機」、「ストレス反応を制御する――監視塔」、「騎手と馬」における記述の一部(P093~P122)を以下に、 b) 加えて、友田明美、藤澤玲子著の本、「虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ」及び友田明美著の本、「子どもの親を傷つける親たち」からの記述(詳細はここ参照)を以下に それぞれ引用します。さらに、PTSD と臭気との関連については、ここを参照して下さい。 プラセボ及びノセボ反応における無意識活性化又は信号の変化、及び脳科学については、それぞれ他の拙エントリのここここ及びここ(注:ここで紹介した論文の一部は嫌悪を伴う臭いのノセボ効果に関するものです)を参照して下さい。加えて、マニュアル「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「3.4.4. 化学物質過敏状態が引き起こされるメカニズム」項(P53)を参照して下さい。さらに、条件付けに関しては、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 嗅覚の生理・心理学に関しては、例えば資料「五感情報通信技術に関する調査研究会 報 告 書」の 2-5 嗅覚 の「2-5-1 生理学・心理学」(P60~P65)を参照して下さい。 ストレス反応における重要な脳部位については、例えばWEBページ「ストレス - 脳科学辞典」の「ストレス神経系」項を参照して下さい。 シックハウス症候群と見紛うような条件付けについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 化学物質過敏症(本態性環境不耐症)又は MCS における、脳科学と関連する化学物質が刺激となって生じる感覚モデルの注目点について、マニュアル「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「11.3. MCS における臭いに対する脳の反応と症状の出現」項における記述の一部(P205~P206)を以下に引用します。 治療・対処法の視点からは、a) 心身医学でのマインドフルネスにおける前部帯状回皮質、前頭前野、側頭頭頂接合部の役割に関しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。*22 b) コーピングにおける内側前頭前皮質の役割に関しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) ヨーガにおける内側前頭前皮質と島の役割に関しては、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 ちなみに、においによって誘発される頭痛については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「においによって誘発される頭痛は片頭痛と片頭痛以外の一次性頭痛の鑑別要因になるか?
[注:ここ項で紹介された次の引用の内容に関連するかもしれない、心理学的構成主義の視点からの「情動」や「いかに思考が感情を調節するか」の視点からの『爬虫類脳、情動脳、理性脳から構成される「三位一体脳」(triune brain)はフィクションである』との主張があります。例えば次のWEBページ「Barb Finlay on the triune brain」中には次に引用(【 】)する記述があります。 【it's silly to map emotion onto just the middle part of the brain and reason and logic onto the cortex.[拙訳]情動を単に脳の中間部に、そして理性や論理を皮質にマッピングするのはばかげている。】 なお「情動」についての注は他の拙エントリのここを参照して下さい。]

脳――下から上へ

脳の最重要課題は、最も悲惨な状況下にあってさえ、生存を確保することだ。それ以外はすべて二の次となる。脳は生存を確保するために、以下のことをする必要がある。(1)食物、休養、保護、生殖、住みかといった、体が必要とするものを示す内部信号を生み出す。(2)そうした必要性を満たすためにどこへ行くべきかを示す、周りの世界の地図を制作する。(3)そこへ行き着くために必要なエネルギーと行動を生じさせる。(4)途中で遭遇する危険や好機について注意を促す。(5)その時々の必要に応じて行動を調節する(4)。私たち人間は哺乳動物、つまり、集団でしか生存も繁栄もできない生き物なので、これらの必要のどれを満たすのにも、協調と協働が欠かせない。精神的な問題は、内部信号がうまく働かないときや、自分の地図をたどっても行くべき場所に行き着けないとき、体が麻痺してしまって動けないとき、行動が必要性と一致しないとき、あるいは、人間関係が破綻したときに起こる。私が論じる脳組織はどれも、こうした不可欠の機能の実行に果たす役割があり、これから見るように、トラウマはそれらのどれをも妨害しうる。
私たちの理性的で認知的な脳は、じつは脳の最も新しい部位で、頭蓋骨内の領域の三割程度しか占めていない。理性脳はおもに私たちの外の世界とかかわっており、物事や人々がどのように機能するかを理解したり、自分の目標の達成法や、時間の管理法、行動の順序立ての仕方を考え出したりする。この理性脳の下には、進化上もっと古く、ある意味で別個の脳が二つあり、それ以外のことをすべて受け持っている。そのときそのときの体の生理的作用を認識したり管理したり、快適さや安全、脅威、空腹、疲労、欲望、熱望、興奮、喜び、痛みなどを識別したりする。
脳は下から上へと構築されている。進化の間に起こったのとちょうど同じように、どの子供でも、子宮の中で一層ずつ発達していく。最も原始的な部分、すなわち私たちが生まれたときにはすでに稼働している部分は、古い動物脳で、しばしば「爬虫類脳」と呼ばれる。脳幹にあり、脊髄が頭蓋骨に入る場所のすぐ上に位置する。新生児ができること――食べ、眠り、目覚め、泣き、呼吸をすることも、温度や空腹、おむつの湿り気、痛みを感じることも、排尿や排便で毒素を体外に出すことも――は、すべてこの爬虫類脳が受け持っている。脳幹とそのすぐ上にある視床下部は、いっしょに体のエネルギー水準を制御する。両者は心臓と肺の機能を協調させ、また内分泌系と免疫系の機能も協調させ、これらの基本的な生命維持システムが、「ホメオスタシス」と呼ばれる比較的安定した体内の均衡の範囲に確実に維持されるようにする。
呼吸、食事、睡眠、排便、排尿はあまりにも根本的なので、私たちは心と行動の複雑さについて考えているときにその重要性をあっさり無視してしまう。だが、睡眠が妨げられたり、腸が機能しなかったり、つねに空腹感があったり、(トラウマを負った子供や大人がしばしばそうであるように)触れられただけで思わず悲鳴を上げたくなったりすると、生体全体が平衡を失う。精神の問題のじつに多くが、睡眠や食欲、接触、消化、覚醒の困難を伴うのには驚かされる。トラウマの効果的な治療法はどんなものであれ、こうした体の基本的な「維持管理業務」に取り組む必要がある。
爬虫類脳のすぐ上には、大脳辺縁系が位置している。大脳辺縁系は「哺乳類脳」とも呼ばれる。集団で生活し、子供を養育する動物は、すべて大脳辺縁系を持っているからだ。脳のこの部位の発達は、私たちが生まれたあとに本格化する。そこは情動の座であり、危険の監視装置であり、何が楽しくて何が恐ろしいかの判断者であり、生命の維持にとって何が重要で何が重要でないかの裁定者だ。また、複雑な社会的ネットワークの中で生きていくうえで生じる難題に対処するための中央指令所でもある。
大脳辺縁系は、私たち自身の遺伝的構成と持って生まれた気質と協働しなから、経験に応じて形作られる(複数の子供を持つ親なら誰もがたちまち気づくように、赤ん坊は誕生時から、同じような出来事に対する反応の度合いと性質が異なる)。赤ん坊の身に起こることは何であれ、発達中の脳が生み出す、周りの世界の情動的・知覚的地図に反映される。私の同業者のブルース・ペリーが説明しているように、脳は「使用依存(使用するほど発達する)様式」で形成される(5)。これは神経可塑性の言い換えに等しい。神経可塑性は比較的新しい発見で、「いっしょに発火する」ニューロンは「つながる」というものだ。ある回路が繰り返し発火すると、それがデフォルト設定、すなわち、最も起こりそうな反応になりうる。もしあなたが安全で愛されていると感じれば、あなたの脳は探検や遊び、協力が得意になるが、あなたがおびえていて、望まれていないと感じれば、脳は恐れや遺棄されたという感情を管理するのが専門になる。
私たちは赤ん坊や幼児のころ、動いたり、つかんだり、這ったりすることで、また、泣いたり、微笑んだり、抗議したりすると何が起こるかを発見することで、周りの世界について学ぶ。私たちは絶えず環境を相手に実験している。環境と私たちの相互作用によって、体の感じ方がどう変わるか。二歳児の誕生会に出席すれば、嫌でも気づくだろう。その幼い子は、言葉などまったく必要とせずに、あなたの注意を惹き、あなたと遊び、戯れる。幼いころのこうした探検によって、情動と記憶を専門とする大脳辺縁系が形作られるが、この部位は、のちの経験によっても大幅に改変されうる。たとえば、緊密な交友関係あるいは美しい初恋によって良い方へ、また、暴行、容赦のないいじめ、あるいはネグレクトによって悪い方へ、という具合に。
爬虫類脳と大脳辺縁系とがいっしょになって、本書を通して私が「情動脳」と呼ぶものを形成している(6)。情動脳は中枢神経系の核心にあり、その主要な任務は、人が健康で快適な暮らしを送れるように気を配ることだ。情動脳は、危険、あるいは特別な機会(たとえば、伴侶の候補)を感知すると、ホルモンを放出して知らせる。その結果生じる、内臓感覚(軽いむかつきから、胸に湧き起こる逃れようのないパニックまで)のせいで、何であれ今あなたの心が注意を集中していることに差し障りが出て、身体的にも精神的にも、異なる方向にあなたを向かわせる。そのような感覚は、たとえどれほどかすかであっても、私たちが人生を通して下す大小の決定に対してじつに大きな影響力を持っており、たとえば、何を食べることにするか、どこで誰と寝たいか、どんな音楽を好むか、庭仕事をしたいか、それとも合唱隊で歌いたいか、誰と友達になり、誰を嫌うか、などを左右する。
私たちの理性脳である新皮質と比べると、情動脳は分子的構成と生化学的作用が単純で、入ってくる情報をより全体的なかたちで評価する。そのため、理性脳とは対照的に、情動脳はおおまかな類似性に基づいて速断するが、理性脳は多種多様な選択肢を篩にかけるように構成されている(ヘビを目にして恐怖で飛びのいたら、ロープがとぐろのように巻いてあるだけだったというのが典型的な例だ)。情動脳は、闘争/逃走反応のような、あらかじめプログラムされた避難計画を開始する。そのような筋肉の反応や生理的な反応は自動的で、私たちが何も考えたり計画したりしなくても始動し、意識ある理性的な能力はあとから追い着くかたちになり、そのころにはとうの昔に脅威が過ぎ去っていることも多い。
ここでようやく私たちは脳の最上層である新皮質にたどり着く。他の哺乳動物もこの脳の外側の層を持っているが、私たち人間の新皮質のほうがはるかに厚い。人間は生まれて二年目になると、新皮質のかなりの部分を占める前頭葉が急速に発達し始める。古代の哲学者たちは七歳を、善悪をわきまえる時期としている。私たちにとって小学校の第一学年は、来るべきもの、すなわち、前頭葉の能力を中心に構成された生活の準備期間にあたる。じっと座っている、括約筋の動きを調節する、行動に訴える代わりに言葉を使えるようになる、抽象的な考えや象徴的な考えを理解する、明日に備えて計画を立てる、教師やクラスメイトと協調するといったことをこの間に学ぶのた。
私たちが動物界で唯一無二の存在であるのは、この前頭葉が与えてくれる資質のおかげだ(7)。前頭葉があるから私たちは言語が使えるし、抽象的な思考ができる。また、厖大な量の情報を吸収・統合し、それに意味を与えることも可能になる。チンパンジーやアカゲザルが言語を使って成し遂げる偉業に私たちは胸を躍らせているとはいえ、私たちの生活を形作る、共同社会の状況や、精神的状況、歴史的背景を生み出すのに必要な単語や記号を使いこなせるのは、人間だけだ。
前頭葉のおかげで私たちは計画を立てたり、反省したり、未来のシナリオを思い描いてたどったりできる。また、ある行動をとったり(たとえば、新たに求人に応募する)、とるのを怠ったり(たとえば、家賃を払わない)すればどうなるかを予想しやすくもなる。前頭葉は選択を可能にし、私たちの驚異的な創造力の基礎となる。幾世代もの前頭葉が緊密に協働することで、文化が生み出され、私たちは丸木舟や馬車、手紙から、ジェット機やハイブリッド車、電子メールへと行き着いた。(中略)

互いを真似る――対人関係の神経生物学(中略)

脳に損傷を負った人を相手にしたり、認知症の親の世話をしたりした経験のある人なら誰もが思い知らされたことだろうが、人間どうしが仲良くやっていくためには、前頭葉が正常に機能していることが決定的に重要だ。他者は自分とは違う考え方や感じ方をしうるのに気づくことが、二歳児や三歳児にとって発達上の大きな進歩となる。彼らは他者の動機を理解することを学び、さまざまな認識や期待、価値観を持つ集団に適応し、その中で安全でいられるようになる。人は、柔軟で活発な前頭葉がなければ、惰性で動く生き物と化し、人間関係が皮相的で型にはまったものになる。そこには、発明やイノベーション、発見や驚異が、すべて欠けている。
私たちの前頭葉はまた、きまり悪い思いをするようなことや他者を傷つけるようなことを私たちがするのを(いつもではないがときおり)、止めてくれる。私たちは、空腹を覚えたときにいつでも食べたり、欲望を掻き立てる人なら誰にでもキスしたり、腹が立ったときにいつでも怒りを爆発させたりする必要はない。だが、厄介事のほとんどは、衝動と許容できる行動との間の、まさにこの境界で始まる。内臓で経験する情動脳からの感覚入力が強烈であればあるほど、それに水を差す理性脳の能力が弱まる。

危険を突き止める――料理人と煙探知機

危険は人生にはつきもので、その危険を感知して反応を構成する役割は脳が担当している。外の世界についての感覚情報は、目や鼻、耳、肌を通して入ってくる。こうした感覚は視床に集まる。視床というのは、大脳辺縁系内にある領域で、脳の中で「料理人」の役割を果たす。視床は知覚からの入力をすべて掻き回して、すっかり混ざり合った自伝的スープ、すなわち「これが私に起こっていることだ」という、統合され、首尾一貫した経験に変える(10)。次に感覚は二手に分かれ、一方は下に向かって、大脳辺縁系の無意識の脳の奥深くにある、扁桃体(アーモンド形をした二つの小さな組織)へ伝えられ、もう一方は上へ向かって前頭葉へ伝えられ、そこで私たちの意識的自覚に達する。神経科学者のジョセフ・ルドゥーは、扁桃体への道筋を「低い道」、前頭皮質への道筋を「高い道」と呼んでいる。前者は非常に速く、後者は圧倒的な脅威を与える体験のさなかで、数ミリ秒長くかかる。だが、視床での処理は破綻を来しうる。その場合、光景や音、声、匂い、触感は、それぞれ孤立し、解離した断片としてコード化され、正常な記憶処理が崩壊する。時間が凍りつくので、現在の危険が永遠に続くように感じられる。
扁桃体の中心的な機能は、入ってくる情報が生命の維持に関係があるかどうかを識別することで(11)、私は扁桃体を脳の「煙探知機」と呼んでいる。この識別は、迅速かつ自動的に行なわれ、それを助けるのが海馬からのフィードバックだ。海馬は扁桃体の近くにある組織で、新しい情報を過去の経験と関連づける。扁桃体は、迫ってくる自動車との衝突の可能性や、恐ろしげな通りがかりの人といった脅威を感知すると、視床下部と脳幹へただちにメッセージを送り、ストレスホルモン系と自律神経系を動員して、全身の反応をまとめ上げる。扁桃体は前頭葉よりも速く視床からの情報を処理するので、私たちが危険について意識的に自覚しないうちに、入ってくる情報が生命の維持にとって脅威になるかどうかを判断する。何が起こっているかに私たちが気づいたときには、体がすでに動きだしている場合がある。
扁桃体が危険信号を発すると、コルチゾールやアドレナリンなど、強力なストレスホルモンの分泌が引き起こされ、それによって心搏数と呼吸数が増え、血圧が上がり、反撃したり逃げ出したりする準備が整う。危険が過ぎ去ると、体はかなり素早く通常の状態に戻る。だが、この回復が妨げられると、そのせいで体は自らを防御する態勢に入り、人は興奮や覚醒を感じる。
煙探知機は普通、危険の手掛かりを捉えるのが非常に得意だが、トラウマを負うと、状況が危険か安全かの解釈を誤る可能性が増す。人は、相手の意図が親切なものか危険なものかを正確に判断できて初めて、他者と仲良くやっていける。少しでも解釈を誤れば、家庭や職場の人間関係における不快な誤解につながりうる。複雑な職場環境ややんちゃな子供だらけの家庭でてきぱきと物事を処理するには、人がどのように感じているかを素早く評価し、それに即して絶えず自分の行動を調節する能力が必要とされる。だが、警報システムに欠陥があると、何でもない言葉や表情に反応して感情を爆発させたり、機能停止に陥ったりしてしまう。

ストレス反応を制御する――監視塔

もし扁桃体が脳の煙探知機なら、前頭葉(それもとくに、目のすぐ上に位置する内側前頭前皮質(12))は、高い場所から現場の眺めを提供してくれる監視塔と考えればいい。あなたが嗅ぎつけたあの煙は、家が火事になってさっさと逃げ出す必要があるという合図なのか、それとも、コンロの火が強過ぎてステーキが焦げているのか。扁桃体はそのような判断は下さず、前頭葉が自らの評価を引っ提げて関与してくる間もないうちに、あなたに反撃したり逃げ出したりする準備をさせる。だが、あまりに気が動転していないかぎり、前頭葉の助けで、あなたは誤警報に反応していることに気づき、ストレス反応を中止し、均衡を取り戻せる。
通常、人は前頭前皮質の実行能力のおかげで、何が起こっているかを観察し、ある行動をとれば何が起こるかを予想し、意識的な選択ができる。思考や感情や情動を冷静かつ客観的に観察し(この能力のことを、私は本書を通じて「マインドフルネス」と呼ぶ)、それからじっくり反応できれば、実行脳は、情動脳にあらかじめプログラムされていて行動様式を固定する自動的な反応を、抑制したり、まとめたり、調節したりすることが可能になる。この能力は、他人との関係を維持するうえできわめて重要だ。私たちは前頭葉が適切に機能しているかぎり、ウェイターがなかなか注文した品を持ってこないときや、保険会社の代理人に電話で待たされたときに、毎回腹を立てる可能性は低い(私たちの監視塔は、他者の怒りや脅威も、彼らの情動の状態の結果であることを教えてくれもする)。そのシステムが故障すると、私たちは条件付けされた動物のようになり、危険を感知した途端に、自動的に闘争/逃走モードに入る。
PTSDでは、扁桃体(煙探知機)と内側前頭前皮質(監視塔)との間のきわめて重要な均衡が根本的に変化し、その結果、情動と衝動の制御がはるかに難しくなる。非常に情動的な状態にある人間の神経画像研究からわかったのだが、強烈な恐れや悲しみ、怒りはみな、情動に関与する大脳皮質下の脳領域をより活性化させ、前頭葉のさまざまな領域、とくに内側前頭前皮質の活動を大幅に低下させる。そうなると、前頭葉の抑制能力が損なわれ、人は正気を失う。何であれ大きな音に反応して驚いたり、些細な欲求不満で激怒したり、誰かに触れられると凍りついたりする(13)。
ストレスに効果的に対処するためには、煙探知器と監視塔との間の均衡を達成する必要がある。自分の情動をもっとうまく管理したければ、脳は二つの選択肢を与えてくれる。トップダウンあるいはボトムアップで情動を調節する方法を学習することができるのだ。
トップダウンとボトムアップの調節の違いを知ることは、トラウマ性ストレスの理解と治療の要だ。トップダウンの調節を行なうには、体の感覚を監視する監視塔の能力を強化しなくてはならない。マインドフルネス瞑想やヨーガはその役に立つ。ボトムアップの調節を行なうには、自律神経系(すでに見たとおり、脳幹に端を発する)の再調整を必要とする。自律神経系には、呼吸や動き、接触を通してアクセスできる。呼吸は、意識的な制御と自律神経系の制御の両方の支配下にある、数少ない身体機能の一つだ。(中略)

騎手と馬

さしあたりは、情動と理性が対立するものではないことを強調しておきたい。情動は経験に価値を割り当てるので、理性の土台と言える。自己の経験は、理性脳と情動脳の均衡から生まれる。これら二つのシステムが均衡していると、私たちは「本来の自分である気がする」。だが、生命がかかっているときには、両システムはかなり独立して機能しうる。
たとえば、友人とおしゃべりをしながら自動車を運転しているとき、突然トラックが迫ってくるのを目の隅で捉えたら、あなたはただちに話をやめ、急ブレーキを踏み、ハンドルを切って危地を脱しようとする。もし本能的な行動で衝突を免れられたら、中断した会話を再開するかもしれない。そうできるかどうかは、脅威に対して内臓の反応がどれだけ速く治まるか次第だ。
私が本書で採用した、脳の三層構造の説明を考え出した神経科学者のポール・マクリーンは、理性脳と情動脳の関係を、おおむね有能な騎手と荒馬の関係になぞらえている(14)。天気が穏やかで道が平坦であるかぎり、騎手は見事に馬を御していると感じられる。だが、予想もしていなかった音がしたり、他の動物に脅かされたりしたら、馬が駆けだし、騎手は必死でしがみつく羽目になる。同様に、人は自分の生命がかかっていると感じたり、憤激や熱望、恐れ、性的欲望などの虜となったりしたときには、理性の声に耳を傾けるのをやめるので、そういう人と議論をしても無駄だ。何かが生死の問題であると大脳辺縁系が判断したときにはいつも、前頭葉と大脳辺縁系の間の経路ははなはだか細くなってしまう。
精神療法家はたいてい、人が洞察と理解に頼って自分の行動を管理するのを手伝おうとする。だが、神経科学の研究で明らかになっているように、理解の不足から生じる精神的問題はほとんどない。問題の大半は、知覚と注意を司る、脳のもっと奥の領域からのプレッシャーに端を発する。危険な状態にあることを知らせる情動脳の警報ベルが鳴り続けると、どれほどの洞察をもってしてもそれを黙らせることはできない。こんなコメディが頭に浮かぶ。怒りの管理プログラムに七度も参加した人が、自分の習った技法を絶賛する。「見事といったらない。素晴らしい効き目がある――本当に頭にきていないかぎりは」
情動脳と理性脳が対立しているとき(たとえば、愛する人に激怒しているときや、養ってくれている人に怖い思いをさせられたり、手を出してはならない人に対する欲情に駆られたりしたとき)には、激しい主導権争いが起こる。この争いはおもに、消化管や心臓、肺など、内臓を舞台に行なわれ、身体的な不快感や精神的な苦悩につながる。脳と内臓が、安全なときや危険なときにどう相互作用するかについては、第6章で論じる。この相互作用は、トラウマの身体的な表れの多くを理解するうえでカギを握っている。(後略)

注:(i) 引用中の原注「(5)」~「(12)」及び「(14)」の紹介及び「第6章で論じる」における「第6章」の引用は共に省略します。この本をご利用下さい。ただし、 a) 引用中の「内側前頭前皮質」についての、原注 (12) における説明(P669)は次に引用します(『 』内)。 『内側前頭前皮質は脳の中央の部位だ(神経科学者は、「正中線構造」と呼ぶ)。脳のこの領域は、眼窩前頭皮質や下内側前頭前皮質、背内側前頭前皮質、前帯状皮質と呼ばれる大きな構造という、関連した組織の集合体から成り、これらの組織はすべて、生体の内部状態を監視し、適切な反応を選ぶことに関与している。』 ちなみに、 1) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 2) この引用中の「下内側前頭前皮質」、「背内側前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 3) この引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 b) 引用中の原注「(13)」に示された論文については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 (ii) 引用中の「視床下部」については、次のWEBページを参照して下さい。「視床下部 - 脳科学辞典」 (iii) 引用中の「煙探知機」と「監視塔」の関係について、より簡単に説明するWEBページは次に紹介します。 『人はどうやって「トラウマ」を克服するのか]』の(P2)及び(P3)の『「煙探知機」と「監視塔」の均衡』項。 加えて、引用中の「PTSDでは、扁桃体(煙探知機)と内側前頭前皮質(監視塔)との間のきわめて重要な均衡が根本的に変化」することに関連する、「PTSDにおける扁桃体と内側前頭前野との活性の相反関係」について、友田明美、藤澤玲子著の本、「虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ」(2018年発行)の 9章 精神疾患と脳の画像診断 の「2 PTSD患者の脳画像解析」における記述の一部(P104)を次に引用(『 』内)します。 『2000年以降のPTSD成人患者を対象とした研究では、内側前頭前野と扁桃体は、一方の活性が高いと他方の活性が低いという相反関係にあることが示唆されている。扁桃体は恐怖条件付け反応を司っており、内側前頭前野は恐怖の消去に関与する。』 (iv) 引用中の「扁桃体」についてはここを参照して下さい。 (v) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 (vi) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 (vii) 脅威監視システムを変える方法としての引用中の「トップダウン」及び「ボトムアップ」について、引用元の本の図4-6(P106)における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『脅威監視システムを変える方法は2つある。(単に前頭前皮質ではなく)内側前頭前皮質からのメッセージの調節を通しての、トップダウンの方法、そして、呼吸や動き、触感による、爬虫類脳を通しての、ボトムアップの方法だ。』 加えて上記「トップダウン」に関しては、例えば次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項 (viii) 引用中の「低い道」には「ロー・ロード」と、「高い道」には「ハイ・ロード」とそれぞれルビが振られていますが、本引用では省略しています。加えて、拙訳はありませんが引用中の『神経科学者のジョセフ・ルドゥーは、扁桃体への道筋を「低い道」、前頭皮質への道筋を「高い道」と呼んでいる』ことに該当する論文(全文)は次を参照して下さい。 「EMOTION CIRCUITS IN THE BRAIN」 さらに、引用中の「低い道」に相当する「低位回路」についてはここを参照して下さい。 (ix) 一方、参考及び比較対象としてのパニック症の関連については「脳機能の説明」における③項を参照して下さい。 (x) 引用中の「洞察」に関連するかもしれない「メタ認知」については、次のWEBページを参照して下さい。 「メタ認知 - 脳科学辞典*23 加えて、学習の視点からの「メタ認知」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「メタ認知の概要」 (xi) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。 (xii) 引用中の「煙探知機は普通、危険の手掛かりを捉えるのが非常に得意だが、トラウマを負うと、状況が危険か安全かの解釈を誤る可能性が増す」に関連するかもしれない、 a) 『「対人過敏」が刺激されてしまうと、少しでも「怪しい」と思えばすぐに「脅威のセンサー」が作動してしまい、「少し様子を見る」などということができなくなってしまう』ことについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 b) 『鋭敏な感受性を持った人にはいろいろな出来事が「警告システム」発動のきっかけになる』ことについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) 「扁桃体(煙探知機)は、深刻なマルトリートメントを経験したほど過活動になる」ことについて、友田明美著の本、「子どもの脳を傷つける親たち」(2017年発行)の 第二章 マルトリートメントによる脳へのダメージとその影響 の「マルトリートメント経験のあるなしによる脳の違い」における記述の一部(P105)を次に引用(『 』内)します。 『たとえば恐怖をつかさどる扁桃体は、深刻なマルトリートメントを経験した人ほど過活動になりますが、これは、常に警戒して危険に備えておくための措置、防衛本能といえるでしょう。』(注: 1) 引用中の「マルトリートメント」については、資料「シンポジウム 子どもに対する体罰等の禁止に向けて」中の友田明美氏による基調講演「厳格な体罰や暴言などが子どもの脳の発達に与える影響」(P4~P5)を参照して下さい。 2) この引用に類似した記述は次の資料を参照して下さい。 「被虐待者の脳科学研究」の「Ⅲ.児童虐待による局所脳の感受性期」項) (xiii) 引用中の「視床」が無関係な情報をうまく除外できないことについて、べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第19章 脳を配線し直す――ニューロフィードバック の「トラウマは脳波をどう変えるか」における記述の一部(P540)を次に引用(『 』内)します。 『また、音と光に過剰反応する人もいる。これは無関係な情報を視床がうまく除外できていないしるしだ。』 (xiv) 引用中の「危険な状態にあることを知らせる情動脳の警報ベルが鳴り続けると、どれほどの洞察をもってしてもそれを黙らせることはできない」ことに関連する「制御を失った扁桃体の興奮は強烈で、普段は冷静な人も激しい不安と恐怖の渦に飲み込まれてしまい、どうすることもできない」ことについて、岡田尊司著の本、「過敏で傷つきやすい人たち HSPの真実と克服への道」(2017年発行)の 第三章 過敏性のメカニズムと特性を知る の「過敏状態のスイッチを切るには」における記述の一部(P80)を次に引用(『 』内)します。 『コントロールできない不安や恐怖といったものに圧倒され、パニックになってしまうのは、些細な刺激で扁桃体が勝手に興奮し、暴走を始めるのです。制御を失った扁桃体の興奮は強烈で、普段は冷静な人も激しい不安と恐怖の渦に飲み込まれてしまい、どうすることもできません。』 (xv) 引用中の「情動脳の警報ベルが鳴り続ける」のを変えるための「辺縁系セラピー」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 (xvi) 引用中の「ストレス反応を制御する」に関連するかもしれないトラウマの視点からの〈引き金〉について、デイヴィッド・エマーソン、エリザベス・ホッパー著、伊藤久子訳の本、「トラウマをヨーガで克服する」(2011年発行)の「はじめに」における記述の一部(P27)を次に引用します。

(前略)トラウマを負うことでもっとも難しいと思われるのは、内に住み着いている〈引き金〉をどうするかということである。トラウマは過去のものであるのに、体が、あたかも切迫した危険の中にいるかのように反応し続ける。こうした内なる〈引き金〉は、内面世界を地雷原へと変えてしまう。少なくともトラウマそのものには、始まりと、途中と、終わりがある。しかしこれらの〈引き金〉は、いつでも、こっそりと、一番間の悪いときに現れるのだ。「こんな風に感じるべきではない」と分かっているのに、体が乗っ取られ、耐え難い感覚・感情に陥ってしまう。そして気持ちが滅茶苦茶になる。あるレベルでは「危機は過ぎ去った」と認識しているのに、内側にあるもの、すなわち体中で沸き立つ感覚が、″破局が差し迫っている″と警鐘を鳴らし続けるのだ。そして、またしても罠にはまり、恐怖と怒りと無力感をもって反応してしまうことになるのである。(後略)

注:この引用部の著者はベッセル・A・ヴァン・デア・コークです。

注:次の引用はここ項で紹介したものです。

11.3. MCS における臭いに対する脳の反応と症状の出現(中略)

MCS を呈する患者は、特に、臭いに対する反応が過敏であるのが特徴です。MCS が化学物質のばく露強度の高さなどの特性では評価できないとする報告もありますが、臭い負荷(臭いの閾値以上の濃度の化学物質を嗅覚にばく露)による脳機能イメージング評価が近年行われてきました。Orriols らは臭いの閾値以上の濃度の塗料、香水、ガソリン、グルタルアルデヒドをチャンバー室内で MCS 患者が症状を訴えるまで全身ばく露させ、MCS 患者の症状が持続している間に脳機能イメージング評価を行ったところ、神経認知の問題がとりわけ脳の臭いの処理領域で観察されており、MCS では病因には脳神経が関与している可能性が示唆されました。Hillert らはバニリン、アセトン、ブタノールと植物油の混合物、Azuma らは香水、ヒノキやメントールによる臭い負荷試験を行い、MCS を呈する患者の前帯状皮質や前頭前皮質における神経の活性化を観察しました。前帯状皮質は、前頭前皮質等と接続して刺激のトップダウンとボトムアップの処理や他の脳領域への適切な制御の役割を担っています。従って、過去の臭い刺激による記憶が前頭前皮質や前帯状皮質等に認識され、その後の臭い負荷では、そこからのトップダウン制御が中枢神経系等に作用し化学物質過敏症患者でさまざまな症状を引き起こしているのではないかと推測されています。このような臭い処理プロセスでの反応は、脳における認識や記憶にも関連しており、臭いを嗅いだときに作用する物質とそうでない物質の違いを区別できると生じると考えられています。このことは、このような反応の作用機序が何らかの化学物質そのものに特有なものというよりも、化学物質ばく露などの過去の出来事などに基づくものに関連しており、多種類の化学物質に反応することも、このような作用機序が関係しているかもしれないと考えられています。このことに関連して、近年、Nordin らのスウェーデン等の北欧と日本の Azuma らは、化学物質が刺激となって生じる感覚モデルに注目しています。このモデルでは、有害と認識された物質に対する大脳辺縁系を介した作用機序に着目しています。

注:(i) 引用部の著者は東賢一(Azuma K)です。加えて引用中の「Azuma ら」による「化学物質が刺激となって生じる感覚モデル」についての、 a) 嗅覚刺激試験における論文はここ及びここを、 b) 文献調査における論文はここを参照して下さい。 (ii) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 (iii) 引用中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 (iv) 引用中の「大脳辺縁系」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からここ及びここの引用を参照して下さい。ちなみに、化学物質過敏症と精神的なトラウマの関係については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 (v) 引用中の「過去の臭い刺激による記憶が前頭前皮質や前帯状皮質等に認識され、その後の臭い負荷では、そこからのトップダウン制御が中枢神経系等に作用し化学物質過敏症患者でさまざまな症状を引き起こしているのではないかと推測されています。」に関連する、「嗅覚嫌悪条件づけ」(注:これは仮説ですがラットによる実験では成立するようです)については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい*24。 (vi) 引用中の「多種類の化学物質に反応することも」に関連するかもしれない、強迫性障害(強迫症)における「目に見えないものまでが恐怖の対象となります」(注:対象が拡大することが共通しています)については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 (vii) 引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの (v) 項を参照して下さい。ちなみに、WEBページ「情動的記憶 - 脳科学辞典」中には、記憶されやすさについての次に引用(『 』内)する記述があります。『情動的記憶とは情動的な出来事に関する記憶のことであり、情動を伴わない出来事よりも情動を伴う出来事のほうが記憶されやすいことが知られている。』 一方、上記「情動的記憶」は、非陳述記憶(参照)に含まれますが、陳述記憶(参照)に属する日常の出来事の記憶(エピソード記憶)が、どのようにして海馬から大脳新皮質へ転送され、固定化されるのかの仕組みについてのWEBページを次に紹介します。 「海馬から大脳皮質への記憶の転送の新しい仕組みの発見」加えて、記憶を関連づける神経細胞集団の仕組みについてのWEBページを次に紹介します。 「記憶を関連づける神経細胞集団の仕組みを解明」 このように、記憶に関する研究は進展しているようです。 (viii) さらに、化学物質過敏症と情動反応との関連を示す資料を次に紹介します。 「化学物質過敏症」の P29

トラウマの視点からの大脳辺縁系について、友田明美、藤澤玲子著の本、「虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ」(2018年発行)の 8章 脳の役割と発達 の「1 主な脳領域の役割」における記述の一部(P97~P98)を次に引用します。

(前略)大脳辺縁系は、側頭葉の内側に存在する。大脳辺縁系の中で、特に重要な領域が、基本的な欲求や動機の調節に特化している視床下部、記憶に特化している海馬、情動的な学習や反応に特化している扁桃体である。相互に連結した細胞核の集まりで、個体の生命維持と種族維持に関する重要な中核として働き、情動や記憶をコントロールしている。生き延びるために、外界がいかに安全か? または危険か? などを判断する役割をになうため、行動や感情に深く関与している。(中略)

海馬は、言語記憶や情動記憶を作成し、思い出すことに関与すると考えられている。特に強い情動のバイアスがかかっている出来事の記憶に重要な領域と言われる。視覚、聴覚、体性感覚、味覚などといった情報は、大脳皮質連合野で処理された後、海馬の傍にある海馬傍回、嗅内野といった皮質領域を経由して海馬に入ってくる。
扁桃体は記憶の情動成分(例えば恐怖条件付けや攻撃反応に関係する感情)を作り出すことに関わっており、外からの情報に快・不快などの本能的な感情での価値判断をすると言われている。目から入った情報の通り道である視床のすぐ下に位置し、視床を通って流れてくる未処理の情報の中から、危険と結びついたパターンに反応する。以前に恐怖を感じたパターンを見つけると、体に非常警報を発令する。自律神経にも関与し、心臓血管、呼吸、消化器系の動きを修飾していることが動物実験で示されている。だから、ホラー映画で犯人が近づいて来るシーンを見ていたら、作り物とわかっているのに冷や汗が出て、心臓がばくばく言い始めるのた。また、扁桃体の神経細胞が異常発火すると脳波異常に結びつきやすいといわれている。強い精神的ストレスにより扁桃体の細胞レベルでの異常興奮が一度起こると、小さな電気的刺激を長時間受け続けるような電気発火という現象が起こり、実際の行動や脳波上でもてんかん性反応が起こりやすくなるといわれている。

注:(i) 引用中の「電気発火」に関連する「キンドリング」について、同の 12章 癒されない傷 の「2 脳の変化はなぜ起きたのか」における記述の一部(P139)を次に引用(『 』内)します。 『また、扁桃体が興奮し続けると、キンドリング現象と呼ばれるものが起きる。これは、神経細胞が何度も刺激にさらされることで、少しの刺激でも反応が起きるようになっていくしくみだ。こうして繰り返しストレスを体験することによって、ストレスに弱い脳になっていく。また、このキンドリング現象は、幼い脳ほど起こりやすい。』[注:a) 引用中の「キンドリング」(Kindling)についての論文要旨は次を参照して下さい。 「Kindling versus quenching. Implications for the evolution and treatment of posttraumatic stress disorder.」 加えて、この要旨に関連する論文「Kindling: separate vs. shared mechanisms in affective disorders and epilepsy.」があります(全文はここを参照して下さい)。 b) 引用中の「キンドリング」の他の説明例は、次の資料を参照して下さい。 「被虐待者の脳科学研究」の「Ⅲ.児童虐待による局所脳の感受性期」項 c) ちなみに、MCS の視点からの、Bell らが提唱するキンドリング(kindling)についてはここを参照して下さい。 (ii) 引用中の「情動記憶」に相当する「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動的記憶 - 脳科学辞典」 加えて、引用中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を、引用中の「情動」については次のWEBページを それぞれ参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 さらにメンタライジングの視点からの情動については他の拙エントリのここを参照して下さい。 (iii) 引用中の「恐怖条件づけ」については、次のWEBページを参照して下さい。「恐怖条件づけ - 脳科学辞典」 (iv) 引用中の「快・不快」については、次のWEBページを参照して下さい。「快・不快 - 脳科学辞典」  (v) 引用中の「視床下部」については、次のWEBページを参照して下さい。「視床下部 - 脳科学辞典」 (vi) 標記「扁桃体」と「ストレスホルモンなどの分泌」や「戦うか回避か又はすくみ,失神などの反応」との関連について、虫明元著の本、「前頭葉のしくみ からだ・心・社会をつなぐネットワーク」(2019年発行)の 第7章 基底核,扁桃体,小脳と前頭葉-手続き的学習と認知的柔軟性 の「7.3 前頭葉と扁桃体による脅威,恐怖からの学習」における記述の一部(P208)を以下に引用します。 (vii) 標記「海馬」及び「扁桃体」について、前頭前野との関連を含めて友田明美著の本、「子どもの脳を傷つける親たち」(2017年発行)の 第二章 マルトリートメントによる脳へのダメージとその影響 の「体罰によって委縮する前頭前野」における記述の一部(P73~P76)を以下に引用します。

(前略)神経結合としては扁桃体から視床下部室傍核への出力があり,いわゆるストレスホルモンなどの分泌,さらに交感神経系の活性化に関わります.また脳幹の中脳中心灰白質に出力して,いわゆる“fight or flight”response(戦うか回避か)または“freeze or faint”というすくみ,失神などの反応が起こります.前者は交感神経系がおもに関わり,後者では副交感神経系が関わります.(後略)

注:i) 引用中の「視床下部室傍核」に関連する「視床下部」については次のWEBページを参照して下さい。 「視床下部 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「中脳中心灰白質」と同義である「水道周囲灰白質」については、次のWEBページを参照して下さい。「水道周囲灰白質 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「ストレスホルモンなどの分泌」に関連する「視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)を介した内分泌反応」については次のWEBページを参照して下さい。 「ストレス - 脳科学辞典」の「視床下部-下垂体-副腎系」項 iv) 引用中の「戦うか回避か」、「すくみ,失神」に関連する「闘争/逃避」、「凍りつき(硬直)」については、ソマティック・エクスペリエンシングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「交感神経系」については例えば資料「多重迷走神経理論による神経性過食症理解の可能性について」の「2.交感神経系」項[P350~P351]を参照して下さい。加えて引用中の「交感神経系の活性化」のために働く「SAM系」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「副交感神経系」はより正確には「背側迷走神経系」(例えば資料「多重迷走神経理論による神経性過食症理解の可能性について」の「1.背側迷走神経系」項[P350]や他の拙エントリのここを参照)であると考えます

体罰によって委縮する前頭前野(中略)

マルトリートメントにかかわらず、脳に関する従来の研究では、ストレスの影響を受けやすい場所として、「海馬」(図2-1)や「扁桃体」(図2-1)、「前頭葉」(図2-2)という部位が注目されています。(中略)

「海馬」は、わたしたちの両耳のずっと奥に入ったあたりにある左右一対の器官で、断面の細長い形がタツノオトシゴのようにも見えることから、「海馬(タツノオトシゴの別名)」という名がついたといわれています。大脳から送られてくるさまざ
まな情報を処理し、それらをもとに記憶をつくり上げるほか、その保管にもかかわっています。特に、感動や興奮がもたらされるときなど、強い情動が関係する出来事の記憶と深く関連した領域です。
「扁桃体」は、側頭部の内側にある一対のアーモンド(扁桃)のような形をした、情動に関する器官です。わかりやすく言うと、過去の体験や記憶をもとにした好き嫌いや、目の前にいる相手が敵か味方かなどの価値判断に関与し、特に危険と結びつく情報に対して敏感に反応します。「前頭葉」は文字どおり大脳の前部に位置し、特に、「前頭前野」(図2-2)は学びや記憶にかかわっています。この前頭前野は、海馬や扁桃体の働きをコントロールするという重要な役目も担っています。危険や恐怖をつかさどる扁桃体が過剰に反応しないよう、適度にブレーキをかけて制御しているのもこの部分です。(後略)

注:i) 引用中の「図2-1」及び「図2-1」の引用は省略します。 ii) 引用中の「マルトリートメント」については、資料「シンポジウム 子どもに対する体罰等の禁止に向けて」中の友田明美氏による基調講演「厳格な体罰や暴言などが子どもの脳の発達に与える影響」(P4~P5)を参照して下さい。 iii) 引用中の「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典

脳が脅威を感じることにおける「低位回路」について、ウェンディ・ビヘイリー著、伊藤絵美、吉村由未監訳の本、「病的な自己愛者を身近にもつ人のために あなたを困らせるナルシシストとのつき合い方」(2018年発行)の 第4章 障壁を乗り越える の「低位回路」における記述の一部(P123)を次に引用します。

低位回路
ダニエル・シーゲルは、脳が脅威を感じると、皮質下の下部領域の一部(脳幹と辺縁系の領域)が活性化することを私に教えてくれました。これらの皮質下領域が「脅威」の判断を受け取ると(この領域には扁桃体として知られる部分が含まれています)、人はストレスを感じ、脅威に対する行動を準備させるためのメッセージが身体に送られます。それには、アドレナリンのような興奮作用のあるホルモンの分泌も含まれます。これらの反応は非常に素早く生じます。その仕組みは脳にしっかりと組み込まれており、それが「闘争-逃走-麻痺」の反応を引き起こします。これは、人間を含むほとんどの動物がもつ、真の危険や致命的な状況に直面した際に活性化される、生存のための重要な戦略なのです。
シーゲルによれば、脅威を感じる状況においては、脳は時に前頭前野の高次機能を遮断することがあり、彼はこれを脳の機能の「低位回路(low road)」と名づけました。前頭前野は、人間の脳のいわば「最高経営責任者」のような部分で、私たちが自らの心を落ち着かせたり、身体の動きを調整したり、推論を行ったり、外部の状況をモニターしたり理解したりすることと深く関わっています。脳の低位回路が機能するということは、これらの高次機能を失うことを意味します。前頭前野の機能が遮断されてしまうと、夜中に聞こえた物音が、侵入者がコソコソと階段を上る音ではなく、水道管の中を単にお湯が流れている音であるということを判断できなくなってしまいます。シーゲルの研究は、生活の中で見られる低位回路の働きを理解したり制御したりする方法に関する知見を提供してくれています(Siegel, 2001, 2007; Siegel & Hartzel, 2004)。(後略)

注:(i) 引用中の「Siegel, 2001」は次の本です。 「Siegel, D. J. 2001. The Developing Mind: How Relationships and the Brain Interact to Shape Who We Are. New York: Guilford Press.」 (ii) 引用中の「Siegel, (中略)2007」は次の本です。 「Siegel, D. J. 2007. The Mindful Brain: Reflection and Attunement in the Cultivation of Well-Being. New York: W. W. Norton.」 (iii) 引用中の「Siegel & Hartzel, 2004)」は次の本です。 「Siegel, D. J., and M. Hartzell. 2004. Parenting from the Inside Out. New York: Jeremy. P. Tarcher.」 (iv) 引用中の「扁桃体」については、扁桃体を含む引用中の「辺縁系」と類似した「大脳辺縁系」及び引用中の「前頭前野」に関連する「内側前頭前皮質」を含めて、トラウマの視点から拙エントリのここここを参照して下さい(特に後者における引用の「ストレス反応を制御する――監視塔」項)。加えて、引用中の「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 (v) 引用中の「低位回路(low road)」に相当する「低い道」については他の拙エントリの拙エントリのここここを参照して下さい(特に後者における引用の「危険を突き止める――料理人と煙探知機」項)。加えて、次のエントリも参照して下さい。 「刻印 推敲の推敲 1」 (vi) 引用中の「闘争-逃走-麻痺」に関連する、 a) 「闘争/逃走/凍結反応」については他の拙エントリのここを、 b) 「闘争-逃走反応」については他の拙エントリのリンク集を それぞれ参照して下さい。 (vii) 引用中の「アドレナリン」については上記「闘争-逃走反応」の視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 (viii) 引用中の「脳が脅威を感じる」ことに関連する「脅威に直面する」ことについてはここを参照して下さい。 (ix) 引用中の「脅威を感じる状況においては、脳は時に前頭前野の高次機能を遮断することがあり」に関連するトラウマの再発における「前頭葉が機能停止に陥る」及び「海馬や視床など他の脳領域との接続も断たれる」ことについて、べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第11章 秘密を暴く――トラウマ記憶を巡る問題 の「通常の記憶とトラウマ記憶の違い」における記述の一部(P291)を次に引用します。

(前略)もちろん、トラウマ体験の最中に何が起こるのか監視することはできないが、(中略)研究室でトラウマを再発させることはできる。もともとの音や声、光景、感覚の記憶の痕跡が再活性化すると、すでに見たように、感情を言葉に表すのに必要な領域(4)や、時間の感覚にかかわる領域、入ってくる感覚の生データを統合する視床を含め、前頭葉が機能停止に陥る。そして、意識的な制御が効かず、言葉での意思疎通が不可能な情動脳が、この時点で主導権を握る。情動脳(大脳辺縁系領域と脳幹)は、情動的覚醒や、体の生理的作用、筋肉の活動の変化を通じて、活性化の変化を表現する。通常の条件下では、理性的なものと情動的なものという、この二つの記憶のシステムは協働し、統合された反応を生み出す。だが、覚醒の度合いが高まれば、両システム間の均衡が変化するだけでなく、入ってくる情報を適切に保存したり統合したりするのに必要な、海馬や視床など他の脳領域との接続も断たれる(5)。その結果、トラウマ体験の痕跡は、筋の通った、一貫した物語としてではなく、断片化された感覚的痕跡や情動的痕跡、すなわち光景、音、声、身体的感覚として構成される(6)。(後略)

注:i) 引用中の原注「(4)」、「(5)」、「(6)」の引用は省略します。 ii) 引用中の「前頭葉」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭葉 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「情動」、「情動脳」、「視床」、「海馬」については、共にここここを参照して下さい。加えて、引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 さらに、メンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。

調節と調整との使い分け
以下の脳科学に関連する論文、論文の要旨、本等の拙訳を含む引用による紹介をはじめとした、拙ブログのエントリにおける脳科学に関連する紹介では「regulation」の訳語として基本的に「調節」を使用します。一方「regulate」の訳語は基本的に「調節する」を使用します。例えば「emotion regulation」、「dysregulation」の訳語としてそれぞれ「情動調節」、「調節不全」を使用します。ただし、引用においては原文を優先します。例えば、一部の引用においては、「情動調節」ではなく「情動調整」が用いられています。

[ご参考1]臭いに反応するアンケート結果例及び本、資料、論文の紹介について
先ず、資料「アスペルガー症候群・高機能自閉症における「感覚過敏・鈍麻」の実態と支援に関する研究 ── 本人へのニーズ調査から ──」中の 図7 嗅覚の過敏・鈍麻の結果 (P291)及び 図18 嗅覚面の理解・支援 (P293)において嗅覚に関するアンケート結果が示されています。

ちなみに、自閉スペクトラム症*25の DSM-5 による診断基準の和訳例は次の資料「発達障害から発達凸凹へ」の表2を参照して下さい。表2の B 4. 項には以下に引用する記述があります。一方、自閉スペクトラム症(ASD)における嗅覚過敏については他の拙エントリのここを参照して下さい。

感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性,あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心

加えて、自閉スペクトラム症を伴う子どもにおける嗅覚過敏に関する次の論文が発表されています。「Assessment of olfactory detection thresholds in children with autism spectrum disorders using a pulse ejection system.[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う子どもにおけるパルス射出システムを使用した嗅覚検知閾値の評価」(全文はここを参照して下さい)。この論文の要旨を次に引用します。この分野の発展が本エントリ作者には楽しみです*26。この論文の要旨をカバーするかもしれない日本語の資料については次を参照して下さい。 「自閉スペクトラム症児の香料過敏についての調査」 加えて、これに関連する次の資料もあります。 「自閉スペクトラム症の嗅覚特性

BACKGROUND:
Atypical responsiveness to olfactory stimuli has been reported as the strongest predictor of social impairment in children with autism spectrum disorders (ASD). However, previous laboratory-based sensory psychophysical studies that have aimed to investigate olfactory sensitivity in children with ASD have produced inconsistent results. The methodology of these studies is limited by several factors, and more sophisticated approaches are required to produce consistent results.

METHODS:
We measured olfactory detection thresholds in children with ASD and typical development (TD) using a pulse ejection system - a newly developed methodology designed to resolve problems encountered in previous studies. The two odorants used as stimuli were isoamyl acetate and allyl caproate.

RESULTS:
Forty-three participants took part in this study: 23 (6 females, 17 males) children with ASD and 20 with TD (6 females, 14 males). Olfactory detection thresholds of children with ASD were significantly higher than those of TD children with both isoamyl acetate (2.85 ± 0.28 vs 1.57 ± 0.15; p < 0.001) and allyl caproate ( 3.30 ± 0.23 vs 1.17 ± 0.08; p < 0.001).

CONCLUSIONS:
We found impaired olfactory detection thresholds in children with ASD. Our results contribute to a better understanding of the olfactory abnormalities that children with ASD experience. Considering the role and effect that odors play in our daily lives, insensitivity to some odorants might have a tremendous impact on children with ASD. Future studies of olfactory processing in ASD may reveal important links between brain function, clinically relevant behavior, and treatment.


[拙訳]
背景:
嗅覚刺激に対する非定型応答性は、自閉スペクトラム症(ASD)を伴う子どもにおける社会的障害の最強の予測因子として報告されている。しかし、ASD を伴う子どもにおける嗅覚感度の調査を目的とした、以前の実験室ベースの感覚の精神物理学的研究では、一貫性のない結果を生んできた。これらの研究の方法論は、いくつかの要因によって制限され、そして、より洗練されたアプローチは、一貫性のある結果を生むために必要とされる。

方法:
以前の研究で直面した問題を解決するために設計された新開発の方法論、パルス噴射システムを使用して、ASD を伴う子ども及び定型発達(TD)の子どもにおける嗅覚検知閾値を我々は測定した。刺激として使用した2つの臭気物質は、酢酸イソアミルとカプロン酸アリルであった。

結果:
この研究に43人の被験者が参加した:このうち、23人が ASD を伴う子ども(女性6人、男性17人)、20人が TD の子ども(女性6人、男性14人)であった。両臭気物質において、ASD を伴う子どもの嗅覚検出閾値は TD の子どもの閾値よりも有意に高かった。酢酸イソアミル (2.85 ± 0.28 vs 1.57 ± 0.15; p < 0.001)、カプロン酸アリル (3.30 ± 0.23 vs 1.17 ± 0.08; p < 0.001)

結論:
我々は、ASD を伴う子どもにおいて、障害された嗅覚検出閾値を発見した。ASD を伴う子どもが経験する嗅覚異常のより良い理解に我々の結果は寄与する。臭いが日常生活に果たす役割及び与える効果を考慮すれば、いくつかの臭気物質に対する非感受性は、ひょっとすると、ASD を伴う子どもに多大な影響があるかもしれない。 ASD における嗅覚処理の今後の研究は、脳機能、臨床的に関連する行動及び治療間の重要な関連を明らかにするかもしれない。

加えて、大人の自閉スペクトラム症における臭い処理に関する次の論文が発表されています。「Olfactory processing in adults with autism spectrum disorders.[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う大人の臭い処理」。この論文の要旨を次に引用します。

BACKGROUND:
As evidenced in the DSM-V, autism spectrum disorders (ASD) are often characterized by atypical sensory behavior (hyper- or hypo-reactivity), but very few studies have evaluated olfactory abilities in individuals with ASD.

METHODS:
Fifteen adults with ASD and 15 typically developing participants underwent olfactory tests focused on superficial (suprathreshold detection task), perceptual (intensity and pleasantness judgment tasks), and semantic (identification task) odor processing.

RESULTS:
In terms of suprathreshold detection performance, decreased discrimination scores and increased bias scores were observed in the ASD group. Furthermore, the participants with ASD exhibited increased intensity judgment scores and impaired scores for pleasantness judgments of unpleasant odorants. Decreased identification performance was also observed in the participants with ASD compared with the typically developing participants. This decrease was partly attributed to a higher number of near misses (a category close to veridical labels) among the participants with ASD than was observed among the typically developing participants.

CONCLUSIONS:
The changes in discrimination and bias scores were the result of a high number of false alarms among the participants with ASD, which suggests the adoption of a liberal attitude in their responses. Atypical intensity and pleasantness ratings were associated with hyperresponsiveness and flattened emotional reactions, respectively, which are typical of participants with ASD. The high number of near misses as non-veridical labels suggested that categorical processing is functional in individuals with ASD and could be explained by attention-deficit/hyperactivity disorder. These findings are discussed in terms of dysfunction of the olfactory system.


[拙訳]
背景:
DSM-V において明らかなように、自閉スペクトラム症(ASD)は、しばしば非定型感覚行動(過大又は過少反応性)を特徴とするが、ASD を伴う個々人において嗅覚能力を評価する研究は非常に少ない。

方法:
15人の ASD を伴う大人と、15人の定型発達者は、表面的(閾値上の検知タスク)、知覚的(強度と快度判定タスク)及び意味的(識別タスク)臭い処理に焦点をあてた嗅覚試験を受けた。

結果:
閾値上の検知能力の見地から、減少した識別スコア及び増加したバイアススコアが ASD グループで観察された。さらに、ASD を伴う参加者は不快な臭いの快度判定のための増加した強度の判定スコア及び障害があるスコアを示した。定型発達の参加者に比較して ASD を伴う参加者において、減少した同定実績も観察された。この減少は定型発達の参加者の中で観察されたよりもむしろ、ASD を伴う参加者の中で多くのニアミス(真実のラベルに近いカテゴリー)に部分的に起因した。

結論:
識別及びバイアススコアの変化は、ASD を伴う参加者中の多くの誤警報の結果であり、これはそれらの応答における寛容な態度の採用を示唆する。非定型強度と快度評価は、それぞれ過敏性と情動反応の平板化に関連し、これらは ASD を伴う参加者の典型的である。ASD を伴う個々人において、非真実のラベルとしてのニアミスの大きい数は、カテゴリー処理が実用的であること及び ADHD(注意欠如・多動症)により説明できるだろうことを示唆する。これらの知見は嗅覚系の機能不全の見地より議論された。

注:i) 引用中の「真実のラベル」、「ニアミス」に関連して、芳香のラベリングおける成績は次の3種類に分類できるようです。真実のラベル(芳香の真の名前[例:サクランボに対しサクランボと識別する])、ニアミス(真の名前とかなり近い名前[例:いちごに対しサクランボと識別する])、ファーミス(真の名前と非常に遠い名前[例:コーヒーに対しサクランボと識別する])。 ii) 引用中の「DSM-V」については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「ADHD」については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

ちなみに、嗅覚過敏ではありませんが、自閉スペクトラム症を伴う青年の触覚と聴覚過敏に関する次の論文が発表されています。 「Neurobiology of Sensory Overresponsivity in Youth With Autism Spectrum Disorders[拙訳]自閉スペクトラム症を伴う青年における感覚過敏の神経生物学」。この論文の要旨を次に引用します。

IMPORTANCE:
More than half of youth with autism spectrum disorders (ASDs) have sensory overresponsivity (SOR), an extreme negative reaction to sensory stimuli. However, little is known about the neurobiological basis of SOR, and there are few effective treatments. Understanding whether SOR is due to an initial heightened sensory response or to deficits in regulating emotional reactions to stimuli has important implications for intervention.

OBJECTIVE:
To determine differences in brain responses, habituation, and connectivity during exposure to mildly aversive sensory stimuli in youth with ASDs and SOR compared with youth with ASDs without SOR and compared with typically developing control subjects.

DESIGN, SETTING, AND PARTICIPANTS:
Functional magnetic resonance imaging was used to examine brain responses and habituation to mildly aversive auditory and tactile stimuli in 19 high-functioning youths with ASDs and 19 age- and IQ-matched, typically developing youths (age range, 9-17 years). Brain activity was related to parents' ratings of children's SOR symptoms. Functional connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex was compared between ASDs subgroups with and without SOR and typically developing controls without SOR. The study dates were March 2012 through February 2014.

MAIN OUTCOMES AND MEASURES:
Relative increases in blood oxygen level-dependent signal response across the whole brain and within the amygdala during exposure to sensory stimuli compared with fixation, as well as correlation between blood oxygen level-dependent signal change in the amygdala and orbitofrontal cortex.

RESULTS:
The mean age in both groups was 14 years and the majority in both groups (16 of 19 each) were male. Compared with neurotypical control participants, participants with ASDs displayed stronger activation in primary sensory cortices and the amygdala (P < .05, corrected). This activity was positively correlated with SOR symptoms after controlling for anxiety. The ASDs with SOR subgroup had decreased neural habituation to stimuli in sensory cortices and the amygdala compared with groups without SOR. Youth with ASDs without SOR showed a pattern of amygdala downregulation, with negative connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex (thresholded at z > 1.70, P < .05).

CONCLUSIONS AND RELEVANCE:
Results demonstrate that youth with ASDs and SOR show sensorilimbic hyperresponsivity to mildly aversive tactile and auditory stimuli, particularly to multiple modalities presented simultaneously, and show that this hyperresponsivity is due to failure to habituate. In addition, findings suggest that a subset of youth with ASDs can regulate their responses through prefrontal downregulation of amygdala activity. Implications for intervention include minimizing exposure to multiple sensory modalities and building coping strategies for regulating emotional response to stimuli.


[拙訳]
重要性:
自閉スペクトラム症(ASD)を伴う青年の半分以上は、感覚過度応答性(SOR)、感覚刺激への極端な負の反応を有する。しかし、SOR の神経生物学的基礎についてはほとんど知られていなく、有効な治療法が少ししかない。SOR が最初に高められた感覚の応答、又は刺激への情動反応の調節の欠陥によるものかどうかの理解は、介入のための重要な意味を持つ。

目的:
SOR を伴わないが ASD を伴う青年、及び対照被験者としての定型発達者と比較した、SOR と ASD を伴う青年において、穏やかな嫌悪感覚刺激曝露中の脳の応答、馴化及び結合性における差を決定する。

デザイン、設定、被験者:
19人の ASD を伴う高機能な青年、19人の年齢と IQ をマッチさせた定型発達者の青年(年齢幅:9-17歳)において、穏やかな嫌悪聴覚刺激及び触覚刺激への脳の応答及び馴化を調査するために機能的磁気共鳴画像法が使用された。脳活動は子どもたちの SOR 症状の両親の評価に関連していた。扁桃体と眼窩前頭皮質との間の機能的結合性は、SOR を伴う、伴わない ASD のサブグループ及び SOR を伴わない定型発達者間で比較された。研究の日付けは2012年3月から2014年2月であった。

主なアウトカム及び測定:
BOLD(blood oxygen level-dependent)信号における相対的な増加は、扁桃体と眼窩前頭皮質における BOLD 信号の変化の相関はもちろん、fixation(注:固視点を注視すること)と比較した感覚刺激の曝露中の全脳に渡って及び扁桃体内で応答する。

結果:
両群の平均年齢は14歳で、両グループの大多数(19人中の16人)が男性だった。定型発達の対照被験者に比較して、ASD を伴う被験者は一次感覚皮質及び扁桃体においてより強い活性化を示した(P < .05, 補正後)。この活動は不安を制御後の SOR 症状と正に相関していた。SOR を伴う ASD サブグループは、SOR を伴わないグループと比較して、一次感覚皮質及び扁桃体において刺激への神経的馴化が減少した。SOR を伴わないが ASD を伴う青年は、扁​​桃体と眼窩前頭皮質の間の負の結合性を伴う扁桃体のダウンレギュレーションのパターンを示した(閾値:z> 1.70、P <0.05)。

結論と関連性:
これらの結果により、SOR と ASD を伴う青年は、穏やかな嫌悪触覚刺激及び聴覚刺激、特に同時に存在する複数のモダリティへの感覚大脳辺縁系の過剰応答が示され、そして、この過剰応答は馴化の失敗によることが示された。加えて、ASD を伴う若者のサブセットは、扁桃体の活動の前頭前野によるダウンレギュレーションを通して、応答を調節可能なことを示唆した。介入のための意味付けは、複数のモダリティへの曝露の最小化及び刺激への情動応答を調節するための対処戦略の構築を含む。

注:i) 引用中の「BOLD」信号は血中酸素濃度依存信号のことです。ちなみに、神経細胞が活動すると、その細胞に酸素を運ぶために血流が増加します。酸素を運んでいる血液が流れ込んだ部位では、BOLD 信号が増加します。 ii) 引用中の「モダリティ」は特定の感覚のことのようです。 iii) 引用中の「ダウンレギュレーション」は機能の下向き調節のことのようです。 iv) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。  v) 引用中の「大脳辺縁系」については、例えば次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 vi) ちなみに、引用中の「情動応答を調節する」に関連する「情動調節」について、ADHDにおける「情動調節」に関連する論文例は他の拙エントリのここに示します。

一方、自閉スペクトラム症関係でも、感覚過敏でもありませんが、馴化及び/又は消去学習に関連して、a) 社交不安症(SAD)における脳活動に関する研究を紹介する次の資料における記述の一部を以下に引用します。「社交不安症に関する脳画像研究の最前線」 b) 加えて、PTSD における恐怖消去に関する研究の論文の要旨を以下に引用します。 c) さらに、境界性及び回避性パーソナリティ障害の患者における馴化に関する研究の論文の要旨を以下に引用します。

4.馴化と消去学習
Sladky et al. (2012)は,実験パラダイムに おいて,顔写真を呈示し続けた後に(恐怖条件づけ),風景画を呈示し続ける手続きを行い(馴化と消去学習),馴化と消去学習に関わる SAD 患者の脳活動を検討した。その結果,顔写真が呈示されているときには,健常群と比べて SAD 群の扁桃体,視床,OFC 領域の賦活量が大きかった。しかしながら,SAD 群は,風景画が呈示され続けるにつれて,これらの領域の賦活量が次第に減少して,消失した。つまり,馴化と消去学習に扁桃体を中心とした辺縁系領域と OFC が関与する。この結果は,健常者を対象とした消去学習に関する先行研究の結果と一致している(Morgan et al., 1993; Phelps et al., 2004)。この結果を踏まえると,SAD に対する認知行動療法(cognitive behavioral therapy; CBT)で用いられるエクスポージャー技法は辺縁系領域と OFC の機能に変化を生じさせると推察できる。

注:i) 引用中の「OFC」は眼窩前頭皮質のことです。眼窩前頭皮質に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「Sladky et al. (2012)」、「Morgan et al., 1993」及び「Phelps et al., 2004」はそれぞれ「Increased neural habituation in the amygdala and orbitofrontal cortex in social anxiety disorder revealed by FMRI.*27、「Extinction of emotional learning: contribution of medial prefrontal cortex.」及び「Extinction learning in humans: role of the amygdala and vmPFC.」のことです。 iii) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 iv) 引用中の「辺縁系領域」に関連する「大脳辺縁系」については、例えば次の資料を参照して下さい。「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 iv) ちなみに、上記「OFC」に関連するかもしれない、OCD(強迫性障害又は強迫症)における生物学的病態については、例えば次の資料を参照して下さい。「OCDの生物学的病態からみた難治性」、「次元評価を用いたボクセル単位形態計測による強迫性障害の多様性についての検討

上記論文「Avoidant symptoms in PTSD predict fear circuit activation during multimodal fear extinction.[拙訳]PTSD における回避症状はマルチモーダルの恐怖消去中の恐怖回路の活性を予測する」の要旨を次に引用します。

Convergent evidence suggests that individuals with posttraumatic stress disorder (PTSD) exhibit exaggerated avoidance behaviors as well as abnormalities in Pavlonian fear conditioning. However, the link between the two features of this disorder is not well understood. In order to probe the brain basis of aberrant extinction learning in PTSD, we administered a multimodal classical fear conditioning/extinction paradigm that incorporated affectively relevant information from two sensory channels (visual and tactile) while participants underwent fMRI scanning. The sample consisted of fifteen OEF/OIF veterans with PTSD. In response to conditioned cues and contextual information, greater avoidance symptomatology was associated with greater activation in amygdala, hippocampus, vmPFC, dmPFC, and insula, during both fear acquisition and fear extinction. Heightened responses to previously conditioned stimuli in individuals with more severe PTSD could indicate a deficiency in safety learning, consistent with PTSD symptomatology. The close link between avoidance symptoms and fear circuit activation suggests that this symptom cluster may be a key component of fear extinction deficits in PTSD and/or may be particularly amenable to change through extinction-based therapies.


[拙訳]
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を伴う個々人はパブロフの恐怖条件付けにおける異常はもちろん、際立った回避行動を示すことを収束するエビデンスは示唆する。しかし、この障害の2つの特徴間の関連が十分に理解されていない。 PTSD における異常な消去学習の脳の基礎を探査するために、被験者が fMRI スキャンを受けている間に、2つの感覚チャンネル(視覚及び触覚)からの感情的な関連情報を組み入れたマルチモーダルの古典的な恐怖条件付け/消去パラダイムを我々は実施した。サンプル(被験者)は、15人の ​PTSD を伴う OEF/OIF 退役軍人から構成された。恐怖の獲得及び消去中に、条件付けられた手がかり及び文脈的な情報に応答して、より大きな回避の症候学は扁桃体、海馬、腹内側前頭前皮質、背内側前頭前皮質及び島におけるより大きな活性化と関連した。より重い PTSD を伴う個々人において、前もって条件付けられた刺激への高応答は PTSD の症候学と一致して安全学習における不足を示すことができるだろう。この症状群は ​PTSD における恐怖消去の不足の主要な要素である、及び/又は特に消去に基づいた治療法を通した変化に従うかもしれないことを回避症状と恐怖回路の活性化との間の密接な関連は示唆する。

注:i) 引用中の「心的外傷後ストレス障害」については次のWEBページを参照して下さい。 「外傷後ストレス障害 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「恐怖条件付け」については次のWEBページを参照して下さい。「恐怖条件づけ - 脳科学辞典」、「情動系神経回路 - 脳科学辞典」の「後天的に獲得された情動系神経回路」項 iii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iv) 引用中の「マルチモーダル」に関連する「マルチモーダル情報処理」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「マルチモーダル情報処理」の「マルチモーダル情報処理とは?」項 v) 引用中の「OEF」及び「OIF」はそれぞれ「Operation Enduring Freedom」(不朽の自由作戦)、「Operation Iraqi Freedom」(イラクの自由作戦)の略です。 vi) 引用中の「扁桃体」「海馬」に関連する「大脳辺縁系」については、例えばここ及び次の資料を参照して下さい。 「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 vii) 引用中の「腹内側前頭前皮質」「背内側前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「島」については、次のWEBページを参照して下さい。 「島 - 脳科学辞典」 加えて、引用中の「島におけるより大きな活性化」については、他の拙エントリのここを参照すると良いかもしれません。

上記論文「The neural correlates of anomalous habituation to negative emotional pictures in borderline and avoidant personality disorder patients.[拙訳]境界性及び回避性パーソナリティ障害の患者におけるネガティブな情動の画像への異常な馴化の神経的な相関」の要旨を次に引用します。

OBJECTIVE:
Extreme emotional reactivity is a defining feature of borderline personality disorder, yet the neural-behavioral mechanisms underlying this affective instability are poorly understood. One possible contributor is diminished ability to engage the mechanism of emotional habituation. The authors tested this hypothesis by examining behavioral and neural correlates of habituation in borderline patients, healthy comparison subjects, and a psychopathological comparison group of patients with avoidant personality disorder.

METHOD:
During fMRI scanning, borderline patients, healthy subjects, and avoidant personality disorder patients viewed novel and repeated pictures, providing valence ratings at each presentation. Statistical parametric maps of the contrasts of activation during repeated versus novel negative picture viewing were compared between groups. Psychophysiological interaction analysis was employed to examine functional connectivity differences between groups.

RESULTS:
Unlike healthy subjects, neither borderline nor avoidant personality disorder patients exhibited increased activity in the dorsal anterior cingulate cortex when viewing repeated versus novel pictures. This lack of an increase in dorsal anterior cingulate activity was associated with greater affective instability in borderline patients. In addition, borderline and avoidant patients exhibited smaller increases in insula-amygdala functional connectivity than healthy subjects and, unlike healthy subjects, did not show habituation in ratings of the emotional intensity of the images. Borderline patients differed from avoidant patients in insula-ventral anterior cingulate functional connectivity during habituation.

CONCLUSIONS:
Unlike healthy subjects, borderline patients fail to habituate to negative pictures, and they differ from both healthy subjects and avoidant patients in neural activity during habituation. A failure to effectively engage emotional habituation processes may contribute to affective instability in borderline patients.


[拙訳]
目的:
極端な情動的反応性は、境界性パーソナリティ障害の決定的な特徴であり、未だこの感情不安定の根底にある神経行動的なメカニズムはよく理解されていない。可能​​性のある一因は、情動的な馴化のメカニズムを関与させる能力の減少である。境界性パーソナリティ障害の患者、健康な比較対照者及び回避性パーソナリティ障害を伴う患者の精神病理学的な比較グループにおける馴化の行動及び神経的な相関の調査により、この仮説を著者らは試してみた。

方法:
fMRI スキャン中に、境界性パーソナリティ障害の患者、健常者及び回避性パーソナリティ障害の患者は新たな及び繰り返しの画像を見て、各々の提示で価値の評価を提供した。繰り返しの対新たなネガティブな画像を見ている時の活性化の対比の統計的パラメトリックマップはそれぞれのグループ間で比較された。グループ間の機能的結合性の差異を調査するために精神心理学的な相互作用分析が採用された。

結果:
繰り返し対新たな画像を見た時に、健常者とは異なり、背側前帯状皮質において、境界性パーソナリティ障害の患者も回避性パーソナリティ障害の患者も増加した活性を示さなかった。背側前帯状皮質の活性における増加の欠如は、境界性パーソナリティ障害の患者においてより大きな感情の不安定に関連した。加えて、島-扁桃体の機能的結合性において、境界性パーソナリティ障害の患者及び回避性パーソナリティ障害の患者は健常者と比較してより小さな増加を示し、そして、画像の情動強度の評価において馴化を示さなかった。馴化中の島-腹側前帯状回の機能的結合性において境界性パーソナリティ障害は回避性パーソナリティ障害の患者とは異なった。

結論:
健常者とは異なり、境界性パーソナリティ障害の患者はネガティブな画像の馴化に失敗し、そして、彼らは馴化の神経活動において健常者及び回避性パーソナリティ障害の患者の両方とは異なる。効果的に情動の馴化処理に従事することへの失敗は、境界性パーソナリティ障害の患者において、感情の不安定に寄与するかもしれない。

注:i) 引用中の「極端な情動的反応性」に関しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「insula-amygdala functional connectivity」(島-扁桃体機能的結合性)については、次の論文の要旨を参照して下さい。 「Insula-amygdala functional connectivity is correlated with habituation to repeated negative images.」 iii) 引用中の「背側前帯状皮質」に関連する「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「島」については、次のWEBページを参照して下さい。 「島 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「馴化」はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 vi) 引用中の「境界性パーソナリティ障害」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

また、感覚過敏([ご参考1]の上部参照)に関連する強烈世界症候群については、他の拙エントリの(a)項を参照して下さい。

ご参考1におけるご参考:ちなみに、i) 嗅覚過敏についての疑問点は他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用における扁桃体と眼窩前頭皮質の結合性*28に関しては、感覚過敏以外の視点(例えばノセボ効果、不安)から、ここ及び他の拙エントリのここここを参照すると良いかもしれません。

[ご参考2]MCS を伴う患者の脳科学的アプローチ
ここでは、主に MCS を伴う患者と対照群における嗅覚刺激中の NIRS イメージングに関連する以下の日本の著者の方々による4つの論文の要旨(参照参照参照参照)をはじめとして、fMRI イメージングに関連する他の1つの論文の要旨(参照)を加えて標記アプローチを中心として紹介します。ちなみに、これらの論文は全て全文が公開されており、一部の論文を除いては、(ほんの一部分ですが)全文を部分的に、加えてこれら全ての論文要旨を 上記参照でリンクされているようにそれぞれ以下に紹介しています。*29

①論文要旨「Changes in Cerebral Blood Flow during Olfactory Stimulation in Patients with Multiple Chemical Sensitivity: A Multi-Channel Near-Infrared Spectroscopic Study[拙訳]MCSを伴う患者における嗅覚刺激中の脳血流の変化:多チャンネル近赤外分光法による研究」(注:全文はここを参照して下さい)

この論文(2013年発表)の要旨を次に引用します。

Multiple chemical sensitivity (MCS) is characterized by somatic distress upon exposure to odors. Patients with MCS process odors differently from controls. This odor-processing may be associated with activation in the prefrontal area connecting to the anterior cingulate cortex, which has been suggested as an area of odorant-related activation in MCS patients. In this study, activation was defined as a significant increase in regional cerebral blood flow (rCBF) because of odorant stimulation. Using the well-designed card-type olfactory test kit, changes in rCBF in the prefrontal cortex (PFC) were investigated after olfactory stimulation with several different odorants. Near-infrared spectroscopic (NIRS) imaging was performed in 12 MCS patients and 11 controls. The olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. The study also included subjective assessment of physical and psychological status and the perception of irritating and hedonic odors. Significant changes in rCBF were observed in the PFC of MCS patients on both the right and left sides, as distinct from the center of the PFC, compared with controls. MCS patients adequately distinguished the non-odorant in 10 odor repetitions during the early stage of the olfactory stimulation test, but not in the late stage. In comparison to controls, autonomic perception and negative affectivity were poorer in MCS patients. These results suggest that prefrontal information processing associated with odor-processing neuronal circuits and memory and cognition processes from past experience of chemical exposure play significant roles in the pathology of this disorder.


[拙訳]
多種化学物質過敏状態(MCS)は、臭気への曝露による身体の苦痛で特徴づけられる。MCS を伴う患者は対照群と異なった臭気処理を行う。この臭気処理は、MCS 患者における臭気物質に関連する活性化の領域として示唆されている前帯状皮質に結合する前頭前野における活性化と関連づけられるかもしれない。この研究において活性化は臭気物質刺激による局所的な脳血流量(rCBF)の有意な増加と定義した。よく設計されたカード型嗅覚検査キットを使用して、いくつかの異なる臭気物質刺激後の前頭前皮質(PFC)における rCBF 変化を調査した。12人の MCS 患者と11人の対照群において近赤外分光法(NIRS)イメージングが行われた。臭気物質刺激試験は連続的に10回繰り返した。被験者の身体的、心理的状態及び匂いの刺激度と快・不快度の知覚の評価もこの研究に含まれた。対照群と比較して、MCS 患者において PFC の中心ではなく、左右両側において rCBF の有意な変化が観察された。MCS 患者は嗅覚刺激試験の10回繰り返しにおいて、後期ではなく早期の段階で非臭気物質を十分に区別した。MCS 患者における自律的な知覚及びネガティブな感情は対照群と比較して劣っていた。これらの結果により、化学物質暴露の過去の体験からの臭気処理神経回路、記憶及び認知処理に関連する前頭前野の情報処理が、この障害(disorder)の病理に重要な役割を果たしていることを示唆する。

注:i) 拙訳中の「前頭前野」については次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 ii) 拙訳中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iii) 拙訳中の「快・不快」については次のWEBページを参照して下さい。「快・不快 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 拙訳中の「記憶」に関連する「記憶の分類」については次のWEBページを参照して下さい。 「記憶の分類 - 脳科学辞典」 加えて、これに関連する「陳述記憶・非陳述記憶」「情動的記憶」及び「手続き記憶」については、それぞれ次のWEBページを参照して下さい。「陳述記憶・非陳述記憶 - 脳科学辞典」[注:加えてWEBページ「陳述記憶,非陳述記憶」には、非陳述記憶についての次に引用(『 』内)する記述があります。『非陳述記憶には,手続き記憶や情動記憶がある.「手続き記憶」というのは,技巧や運動技能などに関する記憶であり,大脳皮質・基底核・小脳などがかかわる.情動記憶はパブロフ型の条件付けに代表されるような,特定のキューや文脈と情動を結びつけるタイプの記憶である.』]、「情動的記憶 - 脳科学辞典」[注:情動記憶についてはここも参照して下さい]、「手続き記憶 - 脳科学辞典」 ちなみに、化学物質過敏症と精神的なトラウマの関連については次の資料を参照して下さい。「平成27年度 環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務 報告書」の「1.概念」項 加えて、不適応な手続き記憶や情動記憶とトラウマとの関連について、ピーター・A・ラヴィーン著、ベッセル・A・ヴァン・デア・コーク序文、花丘ちぐさ翻訳の本、「トラウマと記憶 脳・身体に刻まれた過去からの回復」(2017年発行)の「第4章 情動記憶、手続き記憶およびトラウマの構造」における記述の一部(P60)を次に引用(『 』内)します。『不適応な手続き記憶と情動記憶が長期にわたって存続することが、社会的な、あるいは人間関係の問題の根幹となっており、すべてのトラウマのもとにある中心的な作用機序を形成しているといってよいだろう。』 一方、「トラウマの痕跡は手続きの形をとって密かに私たちを支配している」ことについては、ここを参照して下さい。 vi) 拙訳中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 vii) 臭気(ニオイ)に関する拙訳中の「化学物質暴露の過去の体験からの臭気処理神経回路、記憶及び認知処理に関連する前頭前野の情報処理」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 さらに、においの文脈における拙訳中の「記憶」に関連する「プルースト現象」についてはここを、「イソ吉草酸のにおいに対する日本人とイヌイットとの好みの違い」についてはここを それぞれ参照して下さい。 viii) 加えて、上記全文 *30の「Introduction」において、fMRI を用いた日本の化学物質過敏症の研究に言及しています。この部分を以下に引用します。 ix) 拙訳中の「近赤外分光法(NIRS)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 x) 一方、上記大脳辺縁系に関連して、上記論文(全文)の「Introduction」項及びこの後報との位置づけの論文(全文)の「Discussion」項における記述の一部をそれぞれ以下に引用します。

In functional magnetic resonance imaging (fMRI) studies involving exposure to odorants, a strong signal-intensity reaction was seen in the limbic system of MCS patients [18].


[拙訳]
臭気物質の曝露に関係した機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の研究において、強い信号強度の反応が MCS 患者の大脳辺縁系で見られた[18]。

注:i) 引用中の文献番号「[18]」については次に示します。ちなみに、PubMed では検索されません。「Miki T, lnoue Y, Miyajima E, Kudo Y, Tsunoda M (2010) Enhanced brain images in the limbic system by functional magnetic resonance imaging (fMRI) during chemical exposures to patients with multiple chemical sensitivities. Kitasato Medical Journal 40: 27–34」 ii) 引用中の「機能的磁気共鳴画像法(fMRI)」については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iii) 拙訳中の「大脳辺縁系」についてはトラウマの視点からここを参照して下さい。加えて次の資料を参照して下さい。 「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項

Andersson et al furthermore suggested the involvement of a limbic hyperreactivity and speculatively described the sensitivity with MCS as an inability to inhibit salient external stimuli in MCS [46].(中略)

Further research regarding the mode of action of chemical sensitivity through the cerebral limbic system due to chemicals that were recognized as harmful or hazardous during the past exposure event is needed.


[拙訳]
Andersson らはさらに、辺縁系の過剰反応性の関与を示唆し、MCS におけるサリエント(顕著)な外部刺激の抑制不能としての MCS を伴う過敏性を推論的に記述した[46]。(中略)

過去の曝露イベント中に有害又は危険と認識された化学物質による大脳辺縁系を通した化学物質過敏の作用機序に関するさらなる研究が必要である。

注:i) 引用中の文献番号「[46]」の論文要旨はここを参照して下さい。 ii) 拙訳中の「大脳辺縁系」についてはトラウマの視点からここを参照して下さい。加えて次の資料を参照して下さい。 「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項

②論文要旨「Assessment of cerebral blood flow in patients with multiple chemical sensitivity using near-infrared spectroscopy--recovery after olfactory stimulation: a case-control study.[拙訳]近赤外分光法を使用した MCS を伴う患者の脳血流量の評価 - 嗅覚刺激後の回復:症例対照研究」(注:全文はここを参照して下さい)

この論文(2015年発表)の要旨を以下に引用します。これは上記論文の続報です。*31 

OBJECTIVES:
Multiple chemical sensitivity (MCS) is a chronic acquired disorder characterized by non-specific symptoms in multiple organ systems associated with exposure to odorous chemicals. We previously observed significant activations in the prefrontal cortex (PFC) during olfactory stimulation using several different odorants in patients with MCS by near-infrared spectroscopy (NIRS) imaging. We also observed that the patients with MCS did not adequately distinguish non-odorant in the late stage of the repeated olfactory stimulation test. The sensory recovery of the olfactory system in the patients with MCS may process odors differently from healthy subjects after olfactory stimulation.

METHODS:
We examined the recovery process of regional cerebral blood flow (rCBF) after olfactory stimulation in patients with MCS. NIRS imaging was performed in 6 patients with MCS and in 6 controls. The olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. The study also included a subjective assessment of the physical and psychological status and of the perception of irritating and hedonic odors.

RESULTS:
After olfactory stimulation, significant activations were observed in the PFC of patients with MCS on both the right and left sides compared with controls. The activations were specifically strong in the orbitofrontal cortex (OFC). Compared with controls, autonomic perception and feelings identification were poorer in patients with MCS. OFC is associated with stimuli response and the representation of preferences.

CONCLUSIONS:
These results suggest that a past strong exposure to hazardous chemicals activates the PFC during olfactory stimuli in patients with MCS, and a strong activation in the OFC remains after the stimuli.


[拙訳]
目的:
多種化学物質過敏状態(MCS)は、臭気化学物質への曝露に関連する複数の器官系における非特異的な症状を特徴とする後天性の慢性障害(disorder)である。以前に我々は近赤外分光(NIRS)イメージングにより、MCS を伴う患者において、いくつかの異なる臭気物質を使用した嗅覚刺激中の前頭前皮質(PFC)における有意な活性化を観察した。MCS を伴う患者は繰り返した嗅覚刺激試験の後期段階において非臭気物質を十分に区別していなかったことも我々は観察した。MCS を伴う患者における嗅覚刺激後の嗅覚系の感覚の回復は、健常な被験者とは異なる臭気の処理を行っているかもしれない。

方法:
我々は、MCS を伴う患者における嗅覚刺激後の局所脳血流量(rCBF)の回復過程を調べた。NIRS イメージングは MCS を伴う患者6人及び対照群6人で実施した。嗅覚刺激試験は連続的に 10 回繰り返した。本研究には身体的及び心理的状態、及び臭いの刺激性と快・不快の知覚の主観的な評価が含まれていた。

結果:
嗅覚刺激後、対照群と比較して、MCS を伴う患者の PFC の左右両側で有意な活性化が観察された。この活性化は特に眼窩前頭皮質(OFC)おいて特異的に強かった。対照群と比較して MCS を伴う患者では、自律的な知覚と感情の弁別はより貧弱であった。OFC は刺激応答や好みの表現に関連している。

結論:
有害な化学物質への過去の強い曝露により、MCS を伴う患者の嗅覚刺激中の PFC が活性化され、そして OFC において刺激後に強い活性化が残存することをこれらの結果は示唆する。

注:i) 拙訳中の「近赤外分光(NIRS)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) この論文が発表されたジャーナル「Environmental Health and Preventive Medicine」のインパクトファクターについては、次のWEBを参照して下さい。「Environmental Health and Preventive Medicine」の「EHPMのWeb of Scienceへの掲載決定!」項。 iii) さらに、引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 一方、この論文(全文)における脳の領域について記述した二つの部分、すなわち前者の「Introduction」及び後者の「Discussion」における記述の一部をそれぞれ以下に引用します。ちなみに、後者の引用における「ACC」、「PFC」、「OFC」はそれぞれ、「前帯状皮質」(Anterior Cingulate Cortex)、「前頭前皮質」(Prefrontal Cortex)、「眼窩前頭皮質」(Orbitofrontal Cortex)のことです。 v) 拙訳中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 vi) 拙訳中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 vii) 拙訳中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 一方、上記「眼窩前頭皮質」に関連する用語「前頭連合野眼窩部」については、意思決定に及ぼす影響の視点より、渡邊正孝、船橋新太郎編の本、「情動と意思決定 -感情と理性の統合-」(2015年発行)の 6 意思決定に及ぼす情動の影響 -前頭連合野眼窩部の機能を中心に-[著者は船橋新太郎] の「おわりに」項に示されており、この部分の記述(P192)を以下に引用します。

We previously conducted a near-infrared spectroscopy (NIRS) activation study on olfactory stimulation in patients with MCS [14]. Activation was defined as a significant increase in the regional cerebral blood flow (rCBF) following odorant stimulation. Changes in the blood flow and oxygenation to the brain are closely linked to neural activity [15]. NIRS has been commonly applied in studies of prefrontal activity [16, 17] and is suitable for detecting oxygenation changes in higher cortical regions. Our previous study identified acute activation in the prefrontal cortex (PFC) during olfactory stimulation with several different odorants in patients with MCS [14]. The prefrontal area connects to the anterior cingulate cortex (ACC), an area of odorant-related activation in patients with MCS [18]. The results of challenge tests by exposure to odorous chemicals indicated a neuro-cognitive impairment in patients with MCS, and using single photon-emission computed tomography, brain dysfunction was found particularly in odor-processing areas, thereby suggesting a neurogenic origin of MCS [19]. One possibility is that patients with MCS may have an enhanced top–down regulation of odor response via the cingulate cortex. These findings also suggest that prefrontal information processing associated with the odor-processing neuronal circuits and memory from a past experience of chemical exposure may play significant roles in the pathology of this disorder.

Our previous study also showed that the patients with MCS adequately distinguished non-odorant in 10 odor repetitions during the early stage but not in the late stage of the olfactory stimulation test when the olfactory stimulation test was continuously repeated 10 times. Repeated or prolonged exposure to an odorant typically leads to a stimulus-specific decrease in olfactory sensitivity to that odorant, but sensitivity recovers over time in the absence of further exposure [20]. Thus, we postulate that prefrontal information processing in patients with MCS is activated by an emotional response to a repeated olfactory stimulation in the late stage of the test, and that the processing system in the PFC cannot respond adequately. Further, the sensory recovery of the olfactory system in patients with MCS may process odors differently from healthy subjects after olfactory stimulation. Although recovery is generally evident after short olfactory stimulation on the several tens of second time scale [21, 22], the recovery process of patients with MCS may differ from that of healthy subjects. In this study, we examined the recovery process after short olfactory stimulation in patients with MCS, using NIRS imaging.


[拙訳]
MCS を伴う患者における嗅覚刺激に関する近赤外分光法(NIRS)による活性化の研究を我々は以前に実施した[14]。活性化は臭気物質刺激に続く局所脳血流量(rCBF)の有意な増加として定義された。脳への血流と酸素化における変化は神経活動と密接に関連する[15]。 NIRS は、一般的に前頭前野の活動の研究に適用され[16, 17]、より高い皮質領域における酸素化の変化の検出に適している。我々の以前の研究では、MCS を伴う患者において、いくつかの異なる臭気物質を伴った嗅覚刺激中に前頭前皮質(PFC)における急激な活性化が同定された[14] 。前頭前野領域は前帯状皮質(ACC)、MCS を伴う患者における臭気物質関連の活性化領域と結合する[18]。臭気化学物質への曝露による負荷試験の結果は、MCS を伴う患者における神経認知障害を示し、そして単一光子放射型コンピュータ断層撮影法を使用した、脳の機能障害は臭い処理領域で発見され、それにより、MCS の神経原性の起源を示唆する[19]。一つの可能​​性は、MCS を伴う患者は、帯状皮質を介して増強された臭気応答のトップダウン調節を有するかもしれない。これらの知見は、臭気処理神経回路に関連した前頭前野の情報処理及び化学物質曝露の過去の体験からの記憶はこの障害(disorder)の病理に重要な役割を果たすかもしれないことを示唆する。

嗅覚刺激試験を連続して10回繰り返した時、この10回繰り返しの初期には、MCS を伴う患者は非臭気物質を見分けられたが、後期には見分けられなかったことも我々の前の研究で示した。臭気物質への反復した又は延長した曝露は典型的に、この刺激への臭気感度における刺激特異的な減少をもたらすが、さらなる曝露の欠如において感度は経時的に回復する[20]。このように、MCS を伴う患者における前頭前野の情報処理は後期の試験における反復した嗅覚刺激への情動の応答により活性化され、そして PFC における処理システムは適切に応答できないことを我々は前提とする。さらに、MCS を伴う患者における嗅覚システムの感覚回復は、嗅覚刺激後の健康な被験者と異なる臭いの処理をしているかもしれない。数十秒の時間スケールでの短い嗅覚刺激後の回復は一般的に明白である[21, 22]が、MCS を伴う患者の回復過程は健常な被験者と異なるかもしれない。本研究では、NIRS イメージングを使用して、MCS を伴う患者の短い嗅覚刺激後の回復過程を我々は調査した。

注:i) これは上記「Introduction」における記述の一部の引用です。 ii) 引用中の文献番号「[14]」、「[15]」、「 [16, 17] 」、「[18]」はそれぞれ次の論文です。「Changes in cerebral blood flow during olfactory stimulation in patients with multiple chemical sensitivity: a multi-channel near-infrared spectroscopic study.*32、「Age dependency of changes in cerebral hemoglobin oxygenation during brain activation: a near-infrared spectroscopy study.」、「Beyond the visible--imaging the human brain with light.」、「Prefrontal activity during taste encoding: an fNIRS study.」、「Odor processing in multiple chemical sensitivity.」 iii) 引用中の文献番号「[19]」、「[20]」はそれぞれ次の論文です。「Brain dysfunction in multiple chemical sensitivity.」、「Psychophysical and behavioral characteristics of olfactory adaptation.」 iv) 拙訳中の「近赤外分光法(NIRS)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 拙訳中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。加えて拙訳中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 さらにメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 拙訳中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 vii) 拙訳中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 viii) 拙訳中の「トップダウン」に関しては、例えば次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項 ix) 臭気(ニオイ)に関する引用中の「化学物質曝露の過去の体験からの記憶」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 さらに、においの文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」についてはここを、「イソ吉草酸のにおいに対する日本人とイヌイットとの好みの違い」についてはここを それぞれ参照して下さい。

An odorant-related increase in activation in the ACC has been observed in patients with MCS [18]. The ACC is involved in adequate control of top–down or bottom–up modulation of stimuli and is connected to the PFC. Past exposures to hazardous chemicals are stored as memories in the PFC through olfactory nerve circuits, causing various physical or psychological responses such as emotional, visceral, or autonomic responses during the processing of top–down stimuli when exposed to odorants later in life [14]. In the present study, we found that recovery from activation in the PFC after an olfactory stimulation is delayed in patients with MCS compared with controls. These findings support the current understanding of the pathology of this disorder: compared to healthy subjects, patients with MCS strongly respond to odorants that they encounter in daily life, the repeated daily exposure to the odorants keeps them in a reactive state. Due to their physical and psychological intolerance to odorants, the patients try to avoid exposure to the odorants. In this study, 4 patients with MCS had episodes of initial exposure to chemicals that triggered the first symptoms. These included organic solvents or incense at the workplace, exhaust gas from diesel machines in the neighborhood, odors from pesticides, or fragrance from a neighbor. Two patients had episodes of repeated exposure to solvents emitted from a neighboring industrial plant or a neighboring paint store, respectively. Patients with MCS complained about a chemical-sensitive condition thereafter. The psychological evaluations in our study support the theory of a strong response in patients with MCS.

In the recovery stage after the stimulation, the activation was especially strong in the OFC. The olfactory neuroanatomy is intertwined, via extensive reciprocal axonal connections, with primary emotion areas including the amygdala, hippocampus, and OFC [39, 40]. Olfactory stimulation directly activates amygdala neurons, innervating a region in the OFC. The olfactory sense has a unique intimacy with the emotion system, and the perception of smell is known to be dominated by emotion [41]. Strong activation in the OFC might remain as potent affective experiences following olfactory stimuli in patients with MCS compared with controls. In this study, lateral orbitofrontal regions were specifically activated in the patients with MCS. The valence of odors is represented in particular in the OFC [42]. Nearly all odors were evaluated as unpleasant by the MCS patients in the subjective evaluation after the stimulation. Pleasant odors preferentially activate medial orbitofrontal regions, whereas unpleasant odors activate more lateral regions [43–46]. The strong activations of the lateral OFC in the patients with MCS suggest that these odors were extremely unpleasant for the MCS patients.

Both the ACC and OFC are implicated in decision-making, emotion, and social behavior. Recent evidence suggests that the ACC and OFC make distinct contributions to each of these aspects of decision-making [47]. The OFC is involved in the cognitive processing of stimuli and the representation of preferences. The ACC may mediate the relationship between a past experience and the choice of the next action. Thus, our results suggest that a past strong exposure to hazardous chemicals activates the ACC (and the connected PFC) during olfactory stimuli in the patients with MCS, and a strong activation in the OFC remains after the stimuli. In particular, the lateral OFC is specifically activated when the odor is unpleasant for the patients with MCS. However, the OFC and ACC are anatomically interconnected, and their interaction stimulates decision-making. Their individual function independent of each other remains unclear. Further research is required to understand the recovery process in MCS and the pathology of this disorder.


[拙訳]
ACC での活性化における臭気物質関連の増加は、MCS を伴う患者において観察されている[18]。 ACC は、刺激のトップダウン又はボトムアップ調節の適切な制御に関与し、PFC に結合されている。危険な化学物質への過去の曝露は、嗅覚神経回路を介して、PFC において記憶として貯蔵され、その後の人生において臭気物質に曝露された時に、トップダウンの刺激処理中に、情動的、直感的又は自律的な応答を引き起こす[14]。本研究においては、対照群と比較して MCS を伴う患者は、PFC において嗅覚刺激後の回復が遅れることを我々は発見した。これらの知見はこの障害(disorder)の病理の現在の理解を支持する:健康な被験者と比較して MCS を伴う患者は日常生活で遭遇する臭気物質に強く応答し、毎日の臭気物質への反復曝露により、反応状態を維持する。臭気物質への身体的及び心理的不耐により、患者の方々は臭気物質への曝露を回避するように試みる。この研究において、4人の患者には最初の症状のきっかけとなった初期の化学物質曝露のエピソードがあった。これらには、職場における有機溶剤又は香料、近隣におけるディーゼル機械からの排気ガス、殺虫剤の臭い、又は近隣からの芳香を含んでいた。2人の患者は近隣の工業プラント又は塗料店から放出される溶剤にそれぞれ反復曝露していた。その後、MCS を伴う患者は化学物質に過敏な状況を訴えた。我々の研究における心理的な評価は、MCS を伴う患者の強い応答の理論を支持する。

刺激後の回復ステージにおいて、OFC における活性化は特に強かった。嗅覚の神経解剖学は扁桃体、海馬及び OFC [39, 40]を含む一次的な情動領域を伴う広範囲で相互的な軸索結合を通して絡みあう。嗅覚刺激は直接的に扁桃体神経を活性化し、OFC を神経支配する。嗅覚は情動システムと独自の密接さを有し、そして匂いの知覚は情動により支配されることが知られている[41]。対照群と比較した MCS を伴う患者において、嗅覚刺激後の潜在的な感情体験として、ひょっとすると、OFC における強い活性化が残っているかもしれない。本研究では、MCS を伴う患者において外側眼窩前頭領域が特に活性化した。臭いの感情価(valence)は特に眼窩前頭皮質において表象される[42]。刺激後の主観的評価において、MCS を伴う患者によりほぼ全ての臭いは不快と評価された。不快な臭いは外側領域をより活性化する[43–46]のに対し、快な臭いは優先的に内側眼窩前頭領域を活性化する。MCS を伴う患者における外側 OFC の強い活性化は、これらの臭いが MCS 患者にとって極めて不快であることを示唆する。

ACC と OFC の両方は、意思決定、情動及び社会行動に関係する。ACC と OFC は意思決定のこれらの側面の各々に明確に寄与することを最近のエビデンスは示唆する[47]。 OFC は刺激の認知処理及び好みの表象に関係する。ACC は過去の経験と次の選択との間をメディエイトするかもしれない。このように、MCS を伴う患者における嗅覚刺激中に、危険な化学物質への過去の強い曝露は ACC(及び結合された PFC)を活性化する、そして刺激後に OFC において強い活性化が残る。特に、臭いが MCS を伴う患者にとって不快な時は、特に外側 OFC が活性化される。しかし、OFC と ACC は自律的に相互結合し、そしてこれらの相互作用は意思決定を刺激する。お互いに独立したこれらの各々の機能は不明確のままである。MCS における回復過程及びこの障害(disorder)の病理を理解するためのさらなる研究が要求される。

注:i) これは上記「Discussion」における記述の一部の引用です。 ii) 引用中の文献番号「[14]」、「[18]」はそれぞれ次の論文です。「Changes in cerebral blood flow during olfactory stimulation in patients with multiple chemical sensitivity: a multi-channel near-infrared spectroscopic study.*33、「Odor processing in multiple chemical sensitivity.」 iii) 引用中の文献番号「[39]」、「[40]」、「[41]」、「[42]」は次の論文です。「Parallel-distributed processing in olfactory cortex: new insights from morphological and physiological analysis of neuronal circuitry.」、「Central mechanisms of odour object perception.」、「When the sense of smell meets emotion: anxiety-state-dependent olfactory processing and neural circuitry adaptation.」、「Cognitive modulation of olfactory processing.」 iv) 引用中の文献番号「[43]」、「[44]」、「[45]」、「[46]」は次の論文です。「Dissociated neural representations of intensity and valence in human olfaction.」、「The nose smells what the eye sees: crossmodal visual facilitation of human olfactory perception.」、「Different representations of pleasant and unpleasant odours in the human brain.」、「Emotion, olfaction, and the human amygdala: amygdala activation during aversive olfactory stimulation.」 v) 引用中の文献番号「[47]」は次の論文です。「Contrasting roles for cingulate and orbitofrontal cortex in decisions and social behaviour.」 vi) 拙訳中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。加えて拙訳中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 さらにメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 拙訳中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 viii) 拙訳中の「前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 ix) 拙訳中の「不快な臭いは外側領域をより活性化する[43–46]のに対し、快な臭いは優先的に内側眼窩前頭領域を活性化する」に関連して、ゴードン・M・ジェファード著、小松淳子訳の本、「美味しさの脳科学 NEUROGASTRONOMY においが味わいを決めている」(2014年発行)の 第12章 嗅覚と風味 の「においの創出」における記述の一部(P351)を次に引用(『 』内)します。 『好ましいにおいと不快なにおいに選択的に応答する細胞がそれぞれ存在する。神経細胞活動電位記録とfMRIによって示されているところによると、好ましいにおいに応答する細胞は眼窩前頭皮質の内側に、不快なにおいに応答するそれは外側に位置している傾向がある。』(注:a) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 b) 引用中の「好ましいにおいに応答する細胞は眼窩前頭皮質の内側に、不快なにおいに応答するそれは外側に位置している傾向がある」に関連するにおいの報酬価値について、同本の P165 における記述の一部を次に引用[『 』内]します。 『眼窩前頭皮質とACC(前部帯状回)が表象するのは、両領域の活性化がにおいの主観的快感覚と相関することから考えて、においの報酬価値である』) x) 拙訳中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 xi) 引用中の「感情価」は情動価とも称され、ネガティブ、ポジティブ又はニュートラルといった感情の方向性を示すものです。 xii) 拙訳中の「表象」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 xiii) 拙訳中の「意思決定」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ivx) 引用中の「トップダウン」及び「ボトムアップ」に関しては、例えば次のWEBページを参照して下さい。「“感じる脳”のメカニズムを解明 -皮膚感覚を司る神経回路の発見-」の「背景」項

おわりに
われわれがふだん行う意思決定には,様々な情報を利用した論理的な推論が重要な役割を演じている.その情報の一つは,意思決定によって得られた結果の評価に関する情報である.それによる意思決定ではいくつかの選択肢のなかからある選択をしたときにどのような結果が得られるか,あるいは,どの程度の有益な結果が得られるかを,過去の経験をもとに論理的に評価し,一番評価の高い選択肢を選択する.そして,その選択で得られた結果が,期待どおりの好ましいものであれば評価を高め,期待に反して好ましくないものであれば評価を下げる.そして,この評価を次の意思決定のための情報として使用する.しかし,どの選択肢をとるかの意思決定は,選択によって得られると期待される結果の評価ばかりではなく,その選択にどれだけのコストが必要か,そして,コストに見合った結果を得ることができるかにも依存する.
選択によって得られると期待される結果の評価や,その選択に必要なコスト,さらに,選択で被るかもしれないリスクなどの情報をもとにした論理的な推論で意思決定が行われるだけではなく,その方向に大きな影響を与える感情という要因が加わる.感情は,ダマシオらが唱えるソマティック・マーカーという形で,いくつかの選択肢のなかからある選択肢をポジティブにもネガティブにも際立たせ,その結果,その選択肢を選択しやすくさせたり,選択しにくくさせたりする一種のバイアス装置として,多くの場合は無意識下で機能する.そして,感情のこのような働きにより,意思決定を個体にとって有利な方向に向かわせることができると考えられている.そして,われわれの意思決定が感情によって影轡されるような場面で,前頭連合野の一部分である前頭連合野眼窩部が重要な役割を演じていることが明らかにされてきている.

注:i) 上記項目タイトル中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えて、メンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「ソマティック・マーカー」については、次のWEBページを参照して下さい。「ソマティック・マーカー仮説 - 脳科学辞典

③論文要旨「Association of Odor Thresholds and Responses in Cerebral Blood Flow of the Prefrontal Area during Olfactory Stimulation in Patients with Multiple Chemical Sensitivity.[拙訳]MCS を伴う患者における臭気閾値と嗅覚刺激中の前頭葉の脳血流量での応答との関連」(注:全文はここを参照して下さい)

この論文(2016年発表)の要旨を以下に引用します。これは上記論文(全文)の続報です。

Multiple chemical sensitivity (MCS) is a disorder characterized by nonspecific and recurrent symptoms from various organ systems associated with exposure to low levels of chemicals. Patients with MCS process odors differently than controls do. Previously, we suggested that this odor processing was associated with increased regional cerebral blood flow (rCBF) in the prefrontal area during olfactory stimulation using near-infrared spectroscopic (NIRS) imaging. The aim of this study was to investigate the association of odor thresholds and changes in rCBF during olfactory stimulation at odor threshold levels in patients with MCS. We investigated changes in the prefrontal area using NIRS imaging and a T&T olfactometer during olfactory stimulation with two different odorants (sweet and fecal) at three concentrations (zero, odor recognition threshold, and normal perceived odor level) in 10 patients with MCS and six controls. The T&T olfactometer threshold test and subjective assessment of irritating and hedonic odors were also performed. The results indicated that the scores for both unpleasant and pungent odors were significantly higher for those for sweet odors at the normal perceived level in patients with MCS than in controls. The brain responses at the recognition threshold (fecal odor) and normal perceived levels (sweet and fecal odors) were stronger in patients with MCS than in controls. However, significant differences in the odor detection and recognition thresholds and odor intensity score between the two groups were not observed. These brain responses may involve cognitive and memory processing systems during past exposure to chemicals. Further research regarding the cognitive features of sensory perception and memory due to past exposure to chemicals and their associations with MCS symptoms is needed.


[拙訳]
多種化学物質過敏状態(MCS)は低レベルの化学物質の曝露に関連する様々な臓器系からの非特異的かつ再発する症状により特徴づけられる障害(disorder)である。MCS を伴う患者は対照群と異なる臭気処理をする。以前に、近赤外線分光法(NIRS)イメージングを使用した嗅覚刺激中の前頭前野における増加した局所脳血流(rCBF)に関連したことを、我々は示唆した。この研究の目的は、臭気閾値と MCS を伴う患者における臭気閾値レベルの嗅覚刺激中の rCBF における変化との関連を調査することである。10人の MCS を伴う患者と 6人の対照群において、2つの異なるニオイ物質(あまいニオイ、糞臭)を用いた、3種類の濃度(ゼロ、臭気認知閾値、普通に知覚される臭気レベル)での嗅覚刺激中の NIRS イメージングとT&Tオルファクトメーターを使用した前頭前野における変化を調査した。T&Tオルファクトメーター閾値試験及び刺激性及び快なニオイの主観的な評価も実施された。これらの結果では、不快かつ刺激の強い臭いのスコアは普通に知覚されたレベルで、対照群よりも MCS を伴う患者において、あまいニオイのスコアよりも有意に高かったことが示された。臭気認知閾値(糞臭)及び普通に知覚されるレベル(あまいニオイ、糞臭)での脳の応答は、対照群よりも MCS を伴う患者の方が強かった。しかしながら、臭いの検知と認知の閾値及び臭い強度スコアにおける 2つのグループ間での有意な差は観察されなかった。これらの脳の応答には、過去の化学物質曝露中の認知及び記憶処理系が関与しているかもしれない。過去の化学物質曝露による感覚の知覚と記憶及び MCS の症状に関連する認知的な特徴に関する、さらなる研究が必要である。

注:i) 参考として、拙訳中の「T&Tオルファクトメーター」を紹介する資料を次に示します。 「T&Tオルファクトメーター」 ii) 拙訳中の「検知と認知の閾値」に関連する、「検知閾値」、「認知閾値」については、共に次の資料を参照して下さい。 「T&Tオルファクトメーター」 iii) 拙訳中の「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 iv) 拙訳中の「近赤外線分光法(NIRS)」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) ちなみに、嗅覚閾値に関連する論文は、 a) 自閉スペクトラム症を伴う子どもを症例群としたものはここの v) 項を参照して下さい。 vii) 拙訳中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「以前に、近赤外線分光法(NIRS)イメージングを使用した嗅覚刺激中の前頭前野における増加した局所脳血流(rCBF)に関連したことを、我々は示唆した」に該当する論文要旨はここを参照して下さい。 ix) 臭気(ニオイ)に関する拙訳中の「過去の化学物質曝露による感覚の知覚と記憶」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 さらに、においの文脈における引用中の「記憶」に関連する「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 x) 一方、この論文の「Discussion」における記述の一部を以下に引用します。ちなみに、この引用における「PFC」、「OFC」はそれぞれ「前頭前皮質」(Prefrontal Cortex)、「眼窩前頭皮質」(Orbitofrontal Cortex)のことです。

The dorsal part of the anterior cingulate cortex (ACC) is connected to the PFC, and it plays an important role in processing top-down and bottom-up stimuli and assigning appropriate control to other areas in the brain [45]. Thus, the past exposure event was stored as memories in these cortices through olfactory nerve circuits, the processing of top-down stimuli from these cortices involves the central system related to emotional and autonomic nervous system, and various physical or psychological symptoms would be induced in patients with MCS. The psychological evaluations in the present study indicated that scores in MCS patients were significantly higher than those in controls on the APQ and TAS-20 DIF scales. These results also may support the theory of response regulation by memory in the PFC. Andersson et al furthermore suggested the involvement of a limbic hyperreactivity and speculatively described the sensitivity with MCS as an inability to inhibit salient external stimuli in MCS [46].
Near-infrared rays sent out from the NIRS device can provide visual access to the cerebral cortex within approximately 20 mm from the scalp, but cannot access the deep portion of a cerebral limbic system. The NIRS has the advantage of a high time resolution and the feasibility of being performed under natural conditions compared with other functional neuroimaging methodologies such as fMRI, PET, and SPECT, which can access the cerebral limbic system. However, the connections between the cerebral cortex and cerebral limbic system, their odor information processing, and their associations with MCS symptoms are important to clarify the pathology of this disorder. Further research is necessary regarding these connections and their associations with the symptoms using the NIRS and these other methodologies during olfactory stimulation.
Our study had some limitations. First, the small sample size makes the results vulnerable to selection bias. This could be alleviated by including a larger study population. However, differences between the patients with MCS and the controls regarding the NIRS imaging data were evident and supported by similar findings in the ACC [13], PFC [16], and OFC [17] in previous studies. Second, to the best of our knowledge, this is the first case-control study investigating the association of odor thresholds and changes in rCBF in prefrontal areas during olfactory stimulation at the odor threshold level in patients with MCS using NIRS imaging. Further evaluation using several odorants associated with a wide range of levels of comfort/discomfort or weak/strong irritation for MCS would provide valuable information for understanding the pathology of this disorder. A third limitation was the lack of standardized objective measures to identify and define MCS. Most definitions of MCS are entirely qualitative, relying on subjective reports of distressing symptoms and environmental exposure from patients and physicians. Therefore, several participants were excluded on the basis of QEESI scores, hematological data, and the discretion of the clinic physician due to conditions such as mental or chronic disorders.
In conclusion, despite the small sample size, this experimental case-control study demonstrated that significant differences between patients with MCS and controls regarding odor thresholds were not observed, and larger increases in rCBF in the PFC and OFC were observed in patients with MCS than in controls in response to the olfactory stimuli at the odor recognition threshold or normally perceived odor level. These brain responses may involve cognitive and memory processing systems during past exposure to hazardous chemicals. Further research regarding the mode of action of chemical sensitivity through the cerebral limbic system due to chemicals that were recognized as harmful or hazardous during the past exposure event is needed.


[拙訳]
前帯状皮質(ACC)の背面部は PFC に結合され、トップダウンとボトムアップの刺激処理及び脳内の他の領域に適切な制御の割り当ての重要な役割を果たす[45]。従って、過去の曝露イベントは、嗅神経回路を介してこれらの皮質に記憶として貯蔵され、これらの皮質からのトップダウン刺激の処理には、情動及び自律神経系に関連する中枢系が関与し、そして、MCS を伴う患者において、様々な身体的又は心理的な症状が引き起こされるのであろう。本研究における心理的な評価では、APQ 及び TAS-20 DIF 尺度に関して、対照群よりも MCS 患者の方が有意により高いスコアであることを示した。これらの結果は PFC における記憶による応答調節の理論も支持するかもしれない。Andersson らはさらに、辺縁系の過剰反応性の関与を示唆し、MCS における顕著な外部刺激の抑制不能としての MCS を伴う過敏性を推論的に記述した[46]。
NIRS 装置から放たれた近赤外線は頭皮から約20mm以内の大脳皮質まで視覚的アクセスを提供する。しかし、大脳辺縁系の深い部分までアクセスできない。NIRS は高い時間解像及び fMRI、PET 及び SPECT、これらは大脳辺縁系までアクセス可能、等の他の機能イメージング方法論と比較して、自然な状態での実行の可能性の利点を有する。しかしながら、大脳皮質と大脳辺縁系の結合、臭気情報処理及び MCS 症状との関連はこの障害(disorder)の病理の明確化に重要である。これらの結合及び症状との関連に関した、NIRS 及び他の方法論を使用した嗅覚刺激中のさらなる研究が必要である。
我々の研究にはいくつかの限界がある。第一に、小さなサンプルサイズ(被験者数)により選択バイアスに対し脆弱となる。これはより大きな被験者数を含めることにより緩和しうる。しかしながら、NIRS イメージングデータに関して、MCS を伴う患者と対照群の差は明確であり、以前の研究、ACC [13], PFC [16] 及び OFC [17] における類似した知見により支持される。第二に、我々の知る限り、これが NIRS イメージングを使用した MCS を伴う患者における臭気閾値レベルでの嗅覚刺激中の前頭前野での臭気閾値と rCBF における変化との関連を調査する最初の症例-対照研究である。MCS にとって幅広い範囲の快/不快又は弱い/強い刺激に関連したいくつかの臭気物質を使用したさらなる評価は、この障害の病理の理解に向けた貴重な情報を提供するだろう。第三の限界は、MCS を同定及び定義する標準化された客観的な基準の欠如である。ほとんどの MCS の定義はもっぱら定性的であり、患者及び医師からの苦痛の症状及び環境曝露の主観的な報告に頼っている。従って、数人の被験者は、問診票(QEESI)のスコア、血液検査のデータ及び精神又は慢性の障害等の状態により臨床医の裁量に基づき除外した。
結論として、小さなサンプルサイズにもかかわらず、この実験的な症例-対照研究は、臭気閾値に関する MCS を伴う患者と対照群との有意な差は観察されなかった、そして、臭気認識閾値又は普通に知覚される臭気レベルでの嗅覚刺激に応じて、対照群よりも MCS を伴う患者で、PFC 及び OFC における rCBF のより大きな増加が観察されたことを実証した。これらの脳の応答は、過去の危険な化学物質への曝露中の認知及び記憶処理システムが関与するかもしれない。過去の曝露イベント中に有害又は危険と認識された化学物質による大脳辺縁系を介した化学物質過敏の作用機序に関するさらなる研究が必要である。

注:i) 引用中の文献番号「[45]」は次に示す論文です。 「Emotional processing in anterior cingulate and medial prefrontal cortex」 ii) 引用中の文献番号「[13]」、「[16]」はそれぞれ次に示す論文です。 「Functional Neuroimaging of Anxiety: A Meta-Analysis of Emotional Processing in PTSD, Social Anxiety Disorder, and Specific Phobia」、「On the relationship between emotion and cognition. 一方、引用中の文献番号「[17]」の論文は紹介しません。論文をご参照下さい。 iii) 引用中の「PFC」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「OFC」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「NIRS」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 拙訳中の「大脳辺縁系」についてはトラウマの視点からここを参照して下さい。加えて次の資料を参照して下さい。 「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 viii) 拙訳中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 ix) 引用中の「APQ」、「TAS-20 DIF」は、それぞれ「Autonomic Perception Questionnaire」[拙訳:自律知覚アンケート]、「トロント・アレキサイミア尺度(TAS-20)とその下位尺度の感情同定の困難さ (DIF:difficulty in identifying feelings)」のようです。ちなみに、a) 上記 TAS-20 については例えば次の資料を参照して下さい。 「日本語版 The 20-item Toronto Alexithymia Scale(TAS-20)の信頼性,因子的妥当性の検討」 b) 化学物質過敏症と TAS-20 を含む失感情症の関連については拙エントリのここを参照して下さい。 x) 拙訳中の「記憶」に関連する「記憶の分類」等についてはここの v) 項を参照して下さい。加えて、これに関連する臭気の文脈における「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 xi) 拙訳中の「NIRS」(近赤外線分光法)については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 xii) 拙訳中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 xiii) 引用中の「PET」(陽電子放射断層撮影)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「MR画像を利用した脳PET画像解析」 ivx) 引用中の「SPECT」(スペクト又は単一光子放射断層撮影)については、例えば次の資料を参照して下さい。 「SPECTの定量化と標準化」 vx) 引用中の文献番号「[46]」の論文の要旨は次に紹介します。

論文要旨「Brain responses to olfactory and trigeminal exposure in idiopathic environmental illness (IEI) attributed to smells -- an fMRI study.[拙訳]特発性環境不耐症(IEI)における嗅覚及び三叉神経の匂いによる曝露への脳の応答-機能的磁気共鳴画像法の研究」(注:全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

OBJECTIVE:
Idiopathic environmental intolerance (IEI) to smells is a prevalent medically unexplained illness. Sufferers attribute severe symptoms to low doses of non-toxic chemicals. Despite the label, IEI is not characterized by acute chemical senses. Theoretical models suggest that sensitized responses in the limbic system of the brain constitute an important mechanism behind the symptoms. The aim was to investigate whether and how brain reactions to low-levels of olfactory and trigeminal stimuli differ in individuals with and without IEI.

METHODS:
Brain responses to intranasally delivered isoamyl acetate and carbon dioxide were assessed in 25 women with IEI and 26 non-ill controls using functional magnetic resonance imaging.

RESULTS:
The IEI group had higher blood-oxygenated-level-dependent (BOLD) signal than controls in the thalamus and a number of, mainly, parietal areas, and lower BOLD signal in the superior frontal gyrus. The IEI group did not rate the exposures as more intense than the control group did, and there were no BOLD signal differences between groups in the piriform cortex or olfactory regions of the orbitofrontal cortex.

CONCLUSIONS:
The IEI reactions were not characterized by hyper-responsiveness in sensory areas. The results can be interpreted as a limbic hyperreactivity and speculatively as an inability to inhibit salient external stimuli.


[拙訳]
目的:
匂いに対する特発性環境不耐症(IEI)は、一般的な医学的に説明できない病気である。罹患者は重篤な症状を低用量の非毒性化学物質に帰する。ラベリングにもかかわらず、IEI は、急性の化学感覚により特徴づけれない。理論モデルは、脳の大脳辺縁系で感作された応答は、症状の背後にある重要な機構を構成することを示唆する。本研究の目的は、IEI を伴う個々人と伴わない個々人で低レベルの嗅覚及び三叉神経刺激への脳の反応が異なるのかどうか、そしてどのように異なるのかを調査することであった。

方法:
25人の IEI を伴う女性(IEI グループ)及び26人の病気でない対照群において、鼻腔内に送達した酢酸イソアミル及び二酸化炭素への脳の反応を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて評価した。

結果:
IEI グループは、視床野及びいくつかの主に頭頂野において、対照群よりも高い血中酸素濃度依存(BOLD)シグナルを有し、上前頭回において低い BOLD シグナルを有した。IEI グループは、これらの曝露が対照群よりもより強烈であると評価しなく、梨状皮質又は眼窩前頭皮質の嗅覚領域において BOLD シグナルの差はなかった。

結論:
IEI 反応は感覚野における過剰応答によって特徴づけれなかった。これらの結果は大脳辺縁系の過剰反応性及び推論的にサリエント(顕著)な外部刺激の抑制不能として解釈することができる。

注:i) 拙訳中の「大脳辺縁系」についてはトラウマの視点からここを参照して下さい。加えて次の資料を参照して下さい。 「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 ii) 引用中の「辺縁系の過剰反応性」に対するセラピーに関連するかもしれない「辺縁系セラピー」についてはリンク集を参照して下さい。ただし、MCS 又は化学物質過敏症の文脈ではありませんが。加えて引用中の「辺縁系の過剰反応性」に関連するかもしれない、ストレスの影響の視点からの辺縁系の一部である「扁桃体が過剰に反応しない」よう、適度にブレーキをかけて制御する前頭前野についてはここを参照して下さい。 iii) 拙訳中の「機能的磁気共鳴画像法」及び「血中酸素濃度依存(BOLD)シグナル」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iv) 拙訳中の「サリエント」に関連する「セイリエンス」又は「サリエンシー」について、 (a) 情動又はセイリエンス・ネットワークの視点からの前者について、 ①資料「情動」における記述の一部(P102)を次に引用(『 』内)します。 『この「セイリエンス」という用語は,内臓を含む身体に「顕著な」変化が生じており,身体の恒常状態であるホメオスタシスが乱されている状態という意味で用いられている。』 ②貝谷久宜、熊野宏昭、越川房子編著の本、「マインドフルネス -基礎と実践-」(2016年発行)中の古賀美恵、金山祐介、灰谷知純、杉山風輝子、熊野宏昭著の文書「マインドフルネス瞑想の構成要素としての注意訓練による脳内変化」の マインドフルネス瞑想と関連する脳内ネットワーク の「(3)セイリエンス・ネットワーク(SN)」における記述の一部(P9)を次に引用(『 』内)します。 『セイリエンス・ネットワークは、島(Insula)、とくに前島部(Anterior Insula; AI)と ACC からなり、個人内部(自己関連認知、身体感覚など)および外界の刺激のなかから、適切な行動に導くために最も関連性の高い刺激を識別する役割を担っている。』(注:i) 引用中の「島」については次のWEBページを参照して下さい。 「島 - 脳科学辞典」 ii) 引用中の「ACC」は前部帯状回皮質[Anterior Cingulate Cortex]のことです。) ③上記セイリエンス・ネットワーク(Salience Network)のより詳細については、次の英文又は和文の資料をそれぞれ参照して下さい。 「Salience Network」、「Anticipation process of the human brain measured by stimulus-preceding negativity (SPN)」の「Insular cortex is a key region of salience network」項、「情動を生み出す脳神経基盤と自律神経機能」の「4.情動における身体の関与とセイリエンスネットワーク」項 なお、引用はしませんが、pdfファイル中の熊野宏昭著の文書「マインドフルネス瞑想のメカニズムに脳科学はどこまで迫ったか」(P30~P37)の「マインドフルネス瞑想と脳の変化」項も参照して下さい。 (b) 一方、後者については次のWEBページを参照して下さい。 「サリエンシー - 脳科学辞典」 v) ちなみに、この論文に関連するかもしれない嗅覚と化学物質不耐症との関連についての論文の要旨を次に紹介します。

論文要旨「Short-term olfactory sensitization involves brain networks relevant for pain, and indicates chemical intolerance.[拙訳]短期間の嗅覚感作は、痛みに関連する脳ネットワークが関与し、そして化学物質不耐症を示す」を次に引用します。

Chemical intolerance is a medically unexplained affliction that implies deleterious reactions to non-toxic everyday chemical exposure. Sensitization (i.e. increased reactivity to repeated, invariant stimulation) to odorous stimulation is an important component in theoretical explanations of chemical intolerance, but empirical evidence is scarce. We hypothesized that (1) individuals who sensitize to repeated olfactory stimulation, compared with those who habituate, would express a lower blood oxygenated level dependent (BOLD) response in key inhibitory areas such as the rACC, and higher signal in pain/saliency detection regions, as well as primary and/or secondary olfactory projection areas; and (2) olfactory sensitization, compared with habituation, would be associated with greater self-reported chemical intolerance. Moreover, we assessed whether olfactory sensitization was paralleled by comparable trigeminal processing - in terms of perceptual ratings and BOLD responses. We grouped women from a previous functional magnetic imaging study based on intensity ratings of repeated amyl acetate exposure over time. Fourteen women sensitized to the exposure, 15 habituated, and 20 were considered "intermediate" (i.e. neither sensitizers nor habituaters). Olfactory sensitizers, compared with habituaters, displayed a BOLD-pattern in line with the hypothesis, and reported greater problems with odours in everyday life. They also expressed greater reactions to CO2 in terms of both perceived intensity and BOLD signal. The similarities with pain are discussed.


[拙訳]
化学物質不耐症は、非毒性のありふれた化学物質の暴露に対する有害な反応を含意する医学的に解明されていない苦痛である。悪臭刺激に対する感作(すなわち、反復不変刺激に対する反応性の増大)は、化学物質不耐症の理論的説明において重要な要素であるが、経験的なエビデンスはほとんどない。我々は次を仮定した。(1)馴化された人と比較して、反復嗅覚刺激に対する感作を示す個体は、吻側前帯状皮質等の重要な阻害領域において低い酸素レベル依存性(BOLD)応答を示し、そして一次及び/又は二次嗅覚投影領域はもちろん、痛み/サリエンシー検出領域において、高い信号を示すだろう そして、(2)馴化と比較した嗅覚感作は、より大きな自己報告された化学物質不耐症に関連する。さらに、知覚評価および BOLD 応答の観点から、嗅覚感作が同程度の三叉神経処理と並行しているかどうかを評価した。時間の経過とともに酢酸アミルの反復暴露の強度評価に基づいた、以前の機能的磁気イメージング研究から女性を我々はグループ化した。14人の女性が暴露に対して感作し、15人は馴化し、そして20人を「中間」(すなわち、感作も馴化もない)と思われた。嗅覚感作した人は、馴化した人と比較して、この仮説に沿った BOLD パターンを示し、そして日常生活におけるより大きな悪臭の問題を報告した。知覚強度と BOLD 信号の両方の観点から、CO2 に対するより大きな反応も彼女らは示した。痛みとの類似点が議論された。

注:i) 引用中の「BOLD」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 ii) 拙訳中の「吻側前帯状皮質」に関連する「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 iii) 拙訳中の「サリエンシー」については、次のWEBページを参照して下さい。 「サリエンシー - 脳科学辞典」 加えて、上記「サリエンシー」に関連するかもしれない「セイリエンスネットワーク」についてはここを参照して下さい。 iv) 拙訳中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「CO2」は、二酸化炭素のことです。 vi) 拙訳中の「痛み」に関連する、受容ベースのセラピーの文脈における「痛みの定義」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 vii) 拙訳中の「馴化」とは、ある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。 viii) この論文では、感作(sensitization)と馴化(habituation)とで対比しているのが、本エントリ作者にとっては興味深いです。

④論文「Chemical intolerance: involvement of brain function and networks after exposure to extrinsic stimuli perceived as hazardous.[拙訳]化学物質不耐症:危険と知覚される外因性刺激への曝露後の脳機能及びネットワークの関与」(注:全文はここを参照して下さい)

この論文(2019年発表)の要旨を次に引用します。

BACKGROUND:
Chemical intolerance (CI) is a chronic condition characterized by recurring and severe symptoms triggered by exposure to low levels of odorous or pungent substances. The etiology of CI has been a controversial subject for a long time. The aim of this review is to summarize findings on the neurological processing of sensory information during and after exposure to low levels of odorous or pungent substances in individuals with CI, focusing on the brain function and networks.

METHODS:
Scientific studies on CI published between 2000 and 2019 in academic peer-reviewed journals were systematically searched using medical and scientific literature databases. Only peer-reviewed articles reporting original research from experimental human studies directly associated with CI, and involving related neurological responses or brain imaging after exposure to odorous or pungent substances (i.e., in chemical provocation tests), were considered.

RESULTS:
Forty-seven studies were found to be eligible for a full-text review. Twenty-three studies met the selection criteria and were included in this review. Evidence indicated that differences between subjects with CI and healthy controls were observed by brain imaging during and after exposure to odorous or pungent substances. Differences in brain imaging were also observed between initial exposure and after exposure to these substances. Neurological processing of sensory information after exposure to extrinsic stimuli in the limbic system and related cortices were altered in subjects with CI. A previous documentable exposure event was likely to be involved in this alteration.

CONCLUSIONS:
This review documents consistent evidence for the altered neurological processing of sensory information in individuals with CI. Further neurophysiological research exploring the processing of extrinsic stimuli and cognition of sensation through the limbic system and related cortices in CI, and the appearance of symptoms in individuals with CI, are required.


[拙訳]
背景:
化学物質不耐症(CI)は、低レベルの臭気物質又は刺激物質への曝露によって誘発される、再発及び重度の症状を特徴とする慢性疾患である。 CI の病因は長い間物議を醸す主題であった。このレビューの目的は、脳機能及びネットワークに焦点を当てて、CI を伴う個々人の低レベルの臭気物質又は刺激物質への曝露中及び曝露後の感覚情報の神経学的処理に関する調査結果を要約することである。

方法:
2000年から2019年の間で学術的に査読された(peer-reviewed)ジャーナルに発表された CI に関する科学研究は、医学及び科学文献データベースを使用して体系的に検索された。CI に直接関連し、及び臭気物質又は刺激性物質への曝露後(すなわち、化学的刺激試験において)に関連する神経学的応答又は脳のイメージングを伴う実験的ヒト研究からのオリジナルの研究を報告する査読付き論文のみが考慮された。

結果:
全文レビューの対象となる47件の研究が見出された。23件の研究が選択基準を満たし、このレビューに含まれた。臭気物質又は刺激物質への曝露中及び曝露後の脳のイメージングにより、CI と健常対照の被験者間の違いが観察されたことを、エビデンスは示した。脳のイメージングにおける違いは、これらの物質への最初の曝露及び曝露後でも観察された。大脳辺縁系及び関連皮質における外因性刺激への曝露後の感覚情報の神経学的処理は、CI を伴う被験者において変化した。以前の文書化可能な曝露事象は、この変化において関与しそうである。

結論:
CI を伴う個々人における感覚情報の神経学的処理の変化に関する一貫したエビデンスを、このレビューは文書化する。CI における大脳辺縁系及び関連皮質を介した外因性刺激の処理及び感覚の認知、そして CI を伴う個々人における症状の出現を探究するさらなる神経生理学的研究が必要である。

注:(i) 拙訳中の「大脳辺縁系」についてはここを参照して下さい。 (ii) 拙訳中の「大脳辺縁系及び関連皮質における外因性刺激への曝露後の感覚情報の神経学的処理は、CI を伴う被験者において変化した」ことにもしかして関連するかもしれない、トラウマの視点からの、 a) 「トラウマを負ったあと、周りの世界は、危険と安全の知覚が改変された、異なる神経系によって経験される」ことについては他の拙エントリのここを、 b) 「トラウマを負った人々は、自分の体の内部で絶えず危険に感じている」ことについては他の拙エントリのここここを、 c) (トラウマを負った人々は)「危険な状態にあることを知らせる情動脳の警報ベルが鳴り続けると、どれほどの洞察をもってしてもそれを黙らせることはできない」ことについてはここ及びここ(特に後者における引用の「騎手と馬」項)を、 d) (脅威を感じる状況において、脳が前頭前野の高次機能を遮断する)低位回路の状態では、「前頭前野の機能が遮断されてしまうと、夜中に聞こえた物音が、侵入者がコソコソと階段を上る音ではなく、水道管の中を単にお湯が流れている音であるということを判断できなくなってしまう」ことについてはここを それぞれ参照して下さい。 (iii) 拙訳中の「神経生理学」についてはここを参照して下さい。加えて、MCS におけるこれに関連する引用中の「神経生理学的研究」の例については他の拙エントリのここを参照して下さい。さらに後者にも関連する論文(本文)中の「Conclusions」項における記述を次に引用します。なお、引用中の「CI」は化学物質不耐症の略です。

This review highlights evidence from studies conducted during the past two decades on our understanding of brain function and networks after exposure to extrinsic stimuli and how these relate to CI status. As the review indicates, our understanding of the mechanisms of CI has gradually increased by using chemical provocation tests along with brain imaging techniques, and these studies have made multiple contributions to elucidate the mode of CI. There is consistent evidence that altered neurological processing of sensory information contributes to CI status. However, neurophysiological research exploring the processing of extrinsic stimuli and cognition of sensation through the limbic system and related cortices in the onset of CI is required. Future research elucidating the mechanisms of CI will impact clinical practice and thus contribute to a decreased prevalence of CI in society.


[拙訳]
外因性刺激への曝露後の脳機能及びネットワークの理解に関して、過去20年間に行われた研究からの証拠を、そしてこれらが CI の状態にどのように関連するかを、このレビューは強調する。レビューが示すように、脳のイメージング技術を伴う化学的誘発試験を使用することにより、CI のメカニズムの我々の理解は徐々に増加し、そしてこれらの研究は CI の様態を解明するために複数の寄与をした。感覚情報の神経学的処理の変化が CI の状態に寄与するという一貫した証拠がある。しかしながら、CI の発病における外因性刺激の処理、そして大脳辺縁系及び関連皮質を介した感覚の認知を探究する神経生理学的研究が必要である。CI のメカニズムを解明する将来の研究は、臨床診療に影響を及ぼすだろう、従って、社会における CI の有病率の低下に寄与する。

注:i) 拙訳中の「大脳辺縁系」についてはトラウマの視点からここを参照して下さい。加えて次の資料を参照して下さい。 「ストレス反応の身体表出における大脳辺縁系 - 視床下部の役割」 一方、情動の視点より例えば次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖する脳、感動する脳」の「情動と脳」及び「恐怖情動の神経回路」項 ii) 拙訳中の「神経生理学」についてはここ及びここを参照して下さい。 iii) 引用中の「大脳辺縁系及び関連皮質」に関連するかもしれない「大脳皮質-扁桃体ループ」について、虫明元著の本、「前頭葉のしくみ からだ・心・社会をつなぐネットワーク」(2019年発行)の 第7章 基底核,扁桃体,小脳と前頭葉-手続き的学習と認知的柔軟性 の「7.3 前頭葉と扁桃体による脅威,恐怖からの学習」項における記述の一部(P209)を以下に引用(『 』内)します。 『扁桃体の基底外側複合体は感覚系から入力を受け,扁桃体基底核と中心核,内側核に送ります.前頭葉などの大脳皮質にも出力しており,大脳皮質-扁桃体ループを形成して,さまざまな感覚刺激を情動的な出来事に関連づけ,情動的意味を付与して,刺激やイベントの記憶の形成に関わります.情動的意義は脅威と報酬の両方に関わります.恐怖条件づけの際,感覚情報は扁桃体の基底外側複合体,とくに外側核へと送られ,そこで刺激の記憶と関連づけられます.嫌悪的な出来事の連合は,持続的な興奮性シナプス後電位によりシナプス応答性を上げる長期増幅を介して行われます.』(注:引用中の「情動」については次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 さらにメンタライジング等の視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「恐怖条件づけ」については次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖条件づけ - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「脅威」に相当する用語「Threat」が、上記論文(全文)の Fig. 2 中に記述されています。ここを参照して下さい。)

なお引用はしませんが、論文(全文)中には「Fig. 2 Sensory and cognition model of the interrelationships among stimulus factors, limbic system, cortices, symptoms, and responses.」があり、この図中には次の用語が有ります。すなわち、Limbic system(大脳辺縁系、ちなみにトラウマの視点からここを参照)の Symptoms/responces(症状/応答)としての Threat(脅威)※1、Autonomic(自律神経、ちなみにソマティック・エクスペリエンシング又はポリヴェーガル理論の視点からの「闘争-逃走反応」と「凍りつき」については共に他の拙エントリのここを参照)、Endocrine(内分泌、ちなみにストレス応答[反応]におけるSAM系、HPA系については共に他の拙エントリのここを参照)、Attention(注意、ちなみに認知行動療法の視点からの「注意の偏り」については他の拙エントリのここを参照)です。一方、 a) この図中には Sensory Disruption(感覚障害)の対象となる、 Chemicals(化学物質)、Noise(音)、Vibration(振動)、EMF(電磁波)、Light(光)、Heat/cold(暑さ/寒さ)が挙げられていることは本エントリ作者にとって興味深いです。ところで、上記感覚に関連する「外受容感覚・固有感覚・内受容感覚を統合するメカニズム」については次の資料を参照して下さい。 「予測的符号化・内受容感覚・感情」の特に Figure 3.(P6) 加えて同資料の Figure 4.(P7)では様々な脳領域を含む「予測的符号化の神経メカニズム」について示されています。 さらに上記「外受容感覚・固有感覚・内受容感覚を統合するメカニズム」に関連するかもしれない「内受容感覚の内的モデルとその制御」や「予測的符号化」については他の拙エントリのここ及びここを参照して下さい。なお、論文(全文)中の「Neurological responses to chemical exposure」項において脳領域として、「ACC」、「amygdala」(扁桃体)、「orbitofrontal cortex」(OFC)、「insular cortex」(島皮質)等が言及されています。これに対し感情心理学の視点からの「コア・アフェクト」又は「内受容感覚」に関連して、他の拙エントリのここにおける引用では脳領域として、「島」、「ACC」、「OFC」が言及されています。加えて、他の拙エントリのここにおける引用では脳領域として、「扁桃体」が言及されています。さらに、「感情の変化は脳の電気化学的な変化と直接的に関連することを示唆する」ことについては※2を参照して下さい。一方、「脳は多くのネットワークでさまざまな部分が結び合わされている」ことについては次の資料を参照して下さい。 「まえがき」の「ネットワークとしての前頭葉」項 なお、上記ネットワークに関する「情動処理に関連する脳内ネットワーク」については例えば資料「情動を生み出す脳神経基盤と自律神経機能」を、 加えて「共感にかかわる神経ネットワーク」については例えば資料「共感の理論と脳内メカニズム」を それぞれ参照して下さい。 b) また、論文(全文)「Emotion regulation in patients with somatic symptom and related disorders: A systematic review[拙訳]身体症状症および関連症群を伴う患者の情動調節:システマティック・レビュー」の「Discussion」項において次に引用する二つ(それぞれ『 』内)の記述があります。 『Currently, increasing findings converge to show that disintegrated processing of emotions between higher-order and subcortical structures play a role in dysregulated autonomic, immune, and HPA functioning and contribute to chronic somatic symptom [36,60,146].[拙訳]高次構造と皮質下構造との間の情動の崩壊した処理が、自律神経、免疫、及び HPA 機能の調節不全において役割を担い、そして慢性の身体症状に寄与することを、目下の増加する知見の収束は示す。』(注:i) 引用中の文献番号の紹介は省略します。 ii) 引用中の「HPA」は上記「HPA系」を参照して下さい。)、『The findings of this review, supported by the recent developments in neuroscience, contribute to current progress in science by moving beyond body–mind separation for understanding SSD.[拙訳]神経科学における最近の進展により支持される本レビューの知見は、身体症状症および関連症群(SSD)を理解するための心身分離を超える動きによる科学における現在の進歩に寄与する。』(注:1) 引用中の「SSD」は上記「somatic symptom and related disorders」[身体症状症および関連症群、参照]の略です。文献番号の紹介は省略します。 2) 拙訳中の「神経科学」は「心理学」との垣根が低くなりつつあることについては、例えば次の資料を参照して下さい。 「神経科学からの人間理解」の「14.神経科学からの人間理解について」項) ところで引用はしませんが、論文(全文)の「Discussion and outlook」項において、「odors」(臭気)に関連する「emotional memories」(情動的記憶)について言及されていますが、これに相当する脳科学の視点からの「情動的記憶」についてはここ及び次のWEBページを参照して下さい。 「情動的記憶 - 脳科学辞典

※1:上記「脅威」に関連するトラウマの視点からの「脅威感」について、白川美也子監修の本、「トラウマのことがわかる本 生きづらさを軽くするためにできること」(2019年発行)の 第1章 生きづらさをまねくトラウマの症状 の「脅威感 眠れない、食べられない、過剰に緊張・警戒する」項における記述の一部(P16)を次に引用(『 』内)します。『危機に面したときに眠気が吹き飛び、「過覚醒」といわれる状態になるのはごく自然な変化です。問題は、危機が去っても脅威感が消えず、その状態が続くこと。長引くほど体のバランスを崩しがちです。』(注:引用中の「危機が去っても脅威感が消えず、その状態が続くこと」に関連するかもしれない、トラウマを負った後の様々な状態についてはここを参照して下さい)

※2:上記「示唆」について、ステファン・G・ホフマン著、有光興記監訳の本、「心の治療における感情 -科学から臨床実践」へ-」(2018年発行)*34の 第8章 感情の神経生物学 の「まとめ」における記述の一部(P160)を次に引用(『 』内)します。『認知や感情に関する神経科学の文献は,感情の変化は脳の電気化学的な変化と直接的に関連することを示唆している。感情と重要な関連性を持つ神経生物学的部位には,扁桃体,PFC の腹側部や背側部,ACC の背側部,内側 PFC の背側部,島がある。』[注:a) 引用中の「PFC」は「前頭前皮質」の、「ACC」は「前帯状皮質」のそれぞれ略です。以下も参照して下さい。 b) 同章の P157 には図「Figure 8.1 恐怖及び不安の認知-神経生物学モデル(Hofmann, Ellard, and Siegle 2012 より)」があり、この図の引用は省略しますが、代わりに論文〔全文、(上記 Hofmann, Ellard, and Siegle 2012)「Neurobiological Correlates of Cognitions in Fear and Anxiety: A Cognitive-Neurobiological Information Processing Model」〕における Figure 1 を参照して下さい。この図の拙訳はありませんが、この図には脳領域として「Amygdala」(扁桃体)、「Hippocampus」(海馬)、「Insular Cortex」(島皮質)、PFC(prefrontal cortex、前頭前皮質)、ACC(anterior cingulate cortex、前帯状皮質)が挙げられています。(これらとの関連性は本エントリ作者にとって不明ですが)より最新の上記資料「予測的符号化・内受容感覚・感情」の Figure 3.(P6)も参照すると良いかもしれません。 c) 突発性環境不耐症(IEI: Idiopathic Environmental Intolerance)に対する論文(全文)「Idiopathic Environmental Intolerance: A comprehensive model」の「Sources of Symptoms in IEI」項において、上記「内受容感覚」(又は内受容、interoception)に関連する次に引用〔【 】内〕する記述があります。 【Building on this framework, we suggest that the symptoms of IEI result from two main processes (Figure 1): (i) benign physiological disturbances that produce imprecise sensory signals, which are then amplified and shaped by high precision priors within the system; and (ii) pairing of the resulting symptoms with environmental stimuli that eventually enables those stimuli to elicit symptoms in the absence of physiological disturbance or distinctive interoceptive input, via a process of interoceptive conditioning.《拙訳》このフレームワークに基づいて、IEI の症状は 2 つの主なプロセスに起因することを、我々は示唆する(Figure 1):(i) 不正確な感覚信号を生成する良性の生理学的障害であり、その後、システム内で高精度の事前(priors)によって増幅及び形成される。;そして、 (ii) 内受容条件づけのプロセスを介する、生理学的障害又は特有の内受容入力の非存在下において、最終的にそれらの刺激が症状を引き出すことを可能にする環境刺激を伴ってもたらされる症状の組み合わせ。】[注:1) 引用中の「Figure 1」は、上記「論文(全文)中の「Figure 1」〔P49〕を参照して下さい。 2) 拙訳中の「事前(priors)」は上記資料「予測的符号化・内受容感覚・感情」の Figure 1. 〔P3〕における「事前分布」を参照して下さい。] なお上記突発性環境不耐症に対する論文(全文)の要旨については他の拙エントリのここを参照して下さい。

また、上記「脅威」、「自律神経」及び「神経生理学」とポリヴェーガル理論との関係については他の拙エントリのここここここここ及びここをはじめとして、他の拙エントリのここも参照して下さい。加えて、「ポリヴェーガル理論は進化論と神経生理学に基づく自律神経系の適応反応に関する新しい理論である」ことについては次の資料を参照して下さい。 「ポリヴェーガル理論からみた精神療法について」の要約 その上に、上記「神経生理学」に関連する「神経生物学」とポリヴェーガル理論との関係については他の拙エントリのここも参照して下さい。さらに、ポリヴェーガル理論(「生き残るための対価」)の視点からのアロスタティック負荷(アロスタティックロード)については他の拙エントリのここを参照して下さい。一方、 a) 他の拙エントリのここにおける引用においては、上記「神経生物学」に言及した上記コア・アフェクトを簡単に説明する次の記述(『 』内)があります。 『コア・アフェクトは身体と脳の機能により成立する神経生物学的な実体であり,常に連続的に生じていると考えられている。』 b) マインドフルネスにも関連する情動制御における神経生理学的基盤の研究例は次の資料を参照して下さい。 「情動制御における神経生理学的基盤の解明」 加えて、機能性身体症候群における精神生理学的評価の研究例は次の資料を参照して下さい。 「機能性身体症候群における精神生理学的評価と心理的評価を用いた病態の検討」 その上に、中枢性疲労の神経生理学的評価の研究例は次の資料を参照して下さい。 「看護師の夜勤勤務および仮眠・断眠中のHRVにおける中枢性疲労の神経生理学的評価」 c) 学会誌「臨床神経生理学」で発表されたラベンダー精油の吸入についての資料例は次を参照して下さい。 「ラベンダーの吸入が脊髄神経運動ニューロンに与える影響」、「アロマテラピーが上肢での脊髄神経機能の興奮性に与える影響について」 加えて、共感の神経基盤についての資料例は次を参照して下さい。 「他者の表情観察を通した認知的共感と情動的共感の神経基盤 -成人女性を対象として-」 その上に、小児てんかんにおける臨床神経生理学についての資料例は次を参照して下さい。 「小児てんかんにおける臨床神経生理学,  特にMEGによる焦点検索について」 さらに、認知症疾患への臨床神経生理学の応用についての資料例は次を参照して下さい。 「認知症疾患への臨床神経生理学の応用」 d) 「神経生理学とリハビリテーション」についての資料例は次を参照して下さい。 「神経生理学とリハビリテーション概論」 また、上記リハビリテーションにおいて運動機能回復に貢献するかもしれない、「心と身体の関係を神経生理学で解明」したことについては次のWEBページを参照して下さい。 「やる気がリハビリテーションでの運動機能回復に貢献 心と身体の関係を神経生理学で解明」 ところで、上記「リハビリテーション」に関連する「自律神経系への短期リハビリテーション効果を心拍変動(HRV)でみる」ことについては、次の資料を参照して下さい。 「バイオフィードバック/ニューロフィードバックの臨床応用」の「自律神経系への短期リハビリテーション効果を心拍変動(HRV)でみる」項 e) また、「PTSDに対する認知行動療法の神経生理学的基盤に関する研究」についての資料例は次を参照して下さい。 pdfファイル「心的トラウマ研究 第12号 平成28年11月」中の資料「PTSDに対する認知行動療法の神経生理学的基盤に関する文献研究」(P41~P49) f) 「自閉スペクトラム症における感覚の特徴」における「神経生理学的アセスメント」については次の資料を参照して下さい。 「自閉スペクトラム症における感覚の特徴」の「2. 神経生理学的アセスメント」項 g) 情動に関して神経生理学として一つ大切なことについては他の拙エントリのここにおける引用の「6.1.4 社会構築的情動説」項を参照して下さい。 h) 上記学会誌に関連するかもしれない「神経生理学」に関係する学会については次のWEBページを参照して下さい。 「日本生理心理学会」、「設立の目的・沿革 - 日本臨床神経生理学会」 加えて、後者の「日本臨床神経生理学会」に関連する(臨床神経生理グループは)「てんかん患者においては皮膚電気活動が低下していることを証明した」ことについては次のWEBページを参照して下さい。 「臨床神経生理グループ」 i) 内受容感覚のロードマップに関する論文(他の拙エントリのここを参照)は「神経生理学」にも関連しているかもしれません。 j) 上記「神経生理学」の一方で、上記「Fig. 2」中の記述である Autonomic(自律神経)、Endocrine(内分泌)、Immunological(免疫学)に関連する「精神神経内分泌免疫学」については次のWEBページを参照して下さい。 「研究会について - 精神神経内分泌免疫学研究会」の「精神神経内分泌免疫学とは」項 加えて、次の資料を参照すると良いかもしれません。 「大学生における精神神経内分泌免疫学的反応と主観的健康感に対する eudaimonic well-being と hedonic well-being の分化的関連性」 また、これらに関連する資料「ストレスによる情動変容の誘導における炎症の役割」や論文(全文)「Evidence for a Large-Scale Brain System Supporting Allostasis and Interoception in Humans」[注:特に「Discussion」項、なお本項には「perceiving」(参照)、「autonomic nervous system」、「immune system」及び「endocrine system」(共に上記を参照)に関する記述もあります]もあります。後者の論文(全文)のタイトル中の「Allostasis」(他の拙エントリのここの (xiii) 項を参照)に関連する(視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚などの感覚入力についての記述も含む)「身体予算管理」については他の拙エントリのここを、加えてこれに関連する「アロスタティックロード」(allostatic load)についての論文例は他の拙エントリのここを それぞれ参照して下さい。

加えて、論文にどこか類似しているかもしれない(例:共に大脳辺縁系及び関連皮質における変化が関与すること)論文(システマティック・レビュー)を次に紹介します。
・論文要旨「Perspectives on multisensory perception disruption in idiopathic environmental intolerance: a systematic review.[拙訳]突発性環境不耐症における多感覚の知覚の障害の視点:システマティック・レビュー」(注:全文はここを参照して下さい)

PURPOSE:
Multiple chemical sensitivity (MCS) also known as idiopathic environmental intolerance/illness (IEI) encompasses a cohort of subjective symptoms characterized by susceptibility to a wide spectrum of environmental compounds, causing symptoms involving various organs and a decrease in quality of life. The aim of this systematic review is to summarize evidence about MCS, with focus on indexed studies analyzing sensory pathway-related disorders.

METHODS:
Medical databases were searched for English language articles related to the topic, published between 1965 and 2017 in academic, peer-reviewed journals. Particular focus was concentrated on articles depicting disturbances involving sensory organs. References of the relevant articles were examined to identify additional significant documents.

RESULTS:
Fifty-eight studies were eligible for full text review. Of these, 34 studies met the selection criteria and were included in this analysis. Many variables, such as different diagnostic criteria, lack of homogeneous symptom questionnaires and the general incidence of personality traits in control subjects, biased studies as confounding factors. However, moderate evidences show that sensory pathways are somewhat altered, especially with respect to information processing in the limbic system and related cortical areas. Recent studies suggested the presence, in MCS cohorts, of attention bias, sensitization and limbic kindling, as well as recently revealed subclinical organic alterations along sensory pathways.

CONCLUSIONS:
Evidences are consistent with MCS/IEI to be the result of a neural altered processing of sensorial ascending pathways, which combined with peculiar personality traits constitutes the underpinning of a multisensory condition needing multidisciplinary clinical approach.


[拙訳]
目的:
多種化学物質過敏状態(MCS)は特発性環境不耐症/病[illness](IEI)としても知られ、広範囲の環境化合物に対する感受性を特徴とする主観的な症状のコホートを包含し、様々な臓器に関与する症状及び生活の質における低下を引き起こす。このシステマティック・レビューの目的は、感覚経路関連障害を分析するインデックス付き研究に焦点を合わせて、MCS に関するエビデンスを要約することである。

方法:
1965年から2017年の間に学術的に査読された(peer-reviewed)ジャーナルで発行された、本トピックに関連する英語の論文を医学データベースで検索した。特定の焦点は、感覚器官を含む障害を描写する論文に集中した。関連する論文の参照を調べて、追加の重要な文書を特定した。

結果:
58件の研究が全文レビューの対象として適切であった。これらのうち34件の研究が選択基準を満足し、この分析に含まれた。異なる診断基準、均質な症状アンケートの欠如、及び対照被験者におけるパーソナリティ特性の一般的な発生率等の多くの変数は、交絡因子として研究にバイアスをかけた。しかしながら、特に大脳辺縁系及び関連する皮質領域における情報処理に関して、感覚経路が多少変化していることを、中程度のエビデンスは示す。MCS コホートにおいて、最近明らかとなった感覚経路に沿った準臨床的な器質的な変化はもちろん、注意バイアス、感作及び辺縁系キンドリングの存在を、最近の研究は示唆する。

結論:
感覚上行経路神経の変化した処理の結果であるというエビデンスは MCS/IEI と一致しており、これと特異的なパーソナリティ特性と組み合わせて、集学的臨床アプローチを必要とする多感覚状態の基盤を構成する。

注:i) 拙訳中の「注意バイアス」については主に社交不安症の視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 拙訳中の「大脳辺縁系」についてはトラウマの視点からここを参照して下さい。 iii) 引用中の「辺縁系キンドリング」に関連するトラウマの視点からの「扁桃体のキンドリング」についてはここを参照して下さい。一方 MCS の視点からの、Bell らが提唱するキンドリング(kindling)は、例えば資料「化学物質過敏症 ―歴史,疫学と機序―」の「1)神経学的機序」項において簡単な説明と共に、次の論文(全文)が参照されています。 「Testing the neural sensitization and kindling hypothesis for illness from low levels of environmental chemicals.」(PubMed 要旨はここを参照) また、用語「term=Bell+IR[Author]++kindling」で PubMed 検索した結果をここに示す(注:なお、論文要旨「Neural sensitization model for multiple chemical sensitivity: overview of theory and empirical evidence.」の全文はここを参照して下さい)ように、上記 Bell らが提唱するキンドリングの研究は本エントリの大幅改訂日である2019年10月26日において、PubMed 検索可能な論文ベースでは約20年間進展していないと考えます。加えて、Gilbert ME が提唱しているかもしれない mcs(multiple chemical sensitivity)におけるキンドリングの研究(論文要旨「Does the kindling model of epilepsy contribute to our understanding of multiple chemical sensitivity?」を参照)は、用語「term=Gilbert+ME[Author]+kindling」で PubMed 検索した結果を[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Gilbert+ME[Author]+kindling:title=ここ]に示すように、本エントリの大幅改訂日である2019年10月26日において、PubMed 検索可能な論文ベースでは20年以上も進展していないと考えます。ただし、これらは主流の医学におけるキンドリングの研究(例えばここを参照)を否定するものではないと考えます。

上記①~④の論文(ここここここ及びここ参照)、並びに(論文参照)では、嗅覚過敏に関して記述されている一方で、次の論文要旨 [A1] はアロマセラピーの耐容性に関して記述されています。その下に、アロマセラピーや芳香等に関する複数の論文を紹介します。なおアロマセラピー系の論文は [A] 系列で、これ以外の論文は [O] 系列でそれぞれ表示します。また、アロマセラピーはアロマテラピーとも称されますが、本エントリでは引用を除きアロマセラピーで統一しています。

[A1] 論文要旨「The feasibility of aromatherapy massage to reduce symptoms of Idiopathic Environmental Intolerance: a pilot study.[拙訳]特発性環境不耐症(IEI)の症状を減少させるためのアロマセラピーマッサージの実現可能性:パイロット研究」の要旨を次に引用します。ちなみに、この要旨において本エントリ作者が強調するのは、「特発性環境不耐症を伴う被験者に対し、アロマセラピーは十分に耐容性があること」です。

OBJECTIVES:
Idiopathic Environmental Intolerance (IEI) is an acquired disorder with multiple recurrent symptoms, which is associated with diverse environmental factors that are tolerated by the majority of people. IEI is an illness of uncertain aetiology, making it difficult to treat using conventional medicine. Therefore, there is a need for novel therapies to control the symptoms of IEI. The objective of this study was to evaluate the feasibility and impact of aromatherapy massage for individuals with IEI.

DESIGN:
Non-blinded crossover trial.

SETTING:
IEI patients who attended a clinic in Sapporo city were recruited, and sixteen patients were enrolled. Participants were clinically examined by an experienced medical doctor and met the criteria included in the working definition of IEI disorder.

INTERVENTIONS:
During the active period, participants received four one-hour aromatherapy massage sessions every two weeks. During the control period, the participants did not receive any massages.

MAIN OUTCOME MEASUREMENTS:
Scores on the IEI-scales trigger checklist, symptoms, life impact, and the State Anxiety Inventory were assessed before and after each period. Short-term mood enhancement was evaluated using the Profiles of Mood Status (POMS) before and after sessions.

RESULTS:
Due to period effects, evaluation of the results had to be restricted to the first period, and the result showed no effect of intervention. All six sub-scales of the POMS improved after each session (mean score differences: 4.89-1.33, P<0.05).

CONCLUSIONS:
Aromatherapy was well tolerated by subjects with IEI; however, aromatherapy, as applied in this study, did not suggest any specific effects on IEI condition.


[拙訳]
目的:
特発性環境不耐性(IEI)は、多数の再発症状を有する後天性障害(disorder)であり、これは大多数の人々が許容する多様な環境要因に関連する。 IEI は不確実な病因の病気であり、従来の薬を使用して治療することを困難にしている。従って、IEI の症状を制御するための新規治療法が必要である。この研究の目的は、IEI を伴う個々人のアロマセラピーマッサージの実現可能性と影響を評価することであった。

設計:
非盲検のクロスオーバー試験。

設定:
札幌市内の診療所に通院した IEI 患者を募集し、16人の患者が登録された。参加者は、経験豊富な医師によって臨床的に検査され、IEI 障害の作業定義に含まれる基準を満たした。

介入:
活動期間中、被験者は 2 週間ごとに 1 回 4 時間のアロマセラピーマッサージを受けた。対照期間中、被験者はマッサージを受けなかった。

主なアウトカム測定:
IEI 尺度トリガーのチェックリスト、症状、生活への影響、及び状態不安インベントリのスコアは、各期間の前後で評価された。短期間の気分の改善は、セッション前後の気分状況のプロファイル(POMS)を用いて評価した。

結果:
期間効果のため、結果の評価は最初の期間に制限されなければならず、その結果は介入の効果を示さなかった。 POMS の 6 つのサブスケールは全て、各セッション後に改善した(平均スコアの差:4.89-1.33、P <0.05)。

結論:
アロマセラピーは IEI を伴う被験者には十分に耐容性を示した。しかしながら、この研究で適用されたアロマセラピーは、IEI 状態に特異的な効果を示唆しなかった。

注:i) 標記「パイロット研究」は、研究の初期段階で、研究計画が適切かどうかを確かめたり、修正の必要がないかを調べるために行なう、小人数の被験者を対象とした研究のことです。

論文要旨に関連して、「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」の「3.4.4. 化学物質過敏状態が引き起こされるメカニズム」項における記述の一部(P53)を次に引用します。

興味深いことに、Araki らが行った介入研究では、 多くの化学物質過敏症の患者さんは香水や芳香剤の臭いを不快としているにもかかわらず、天然の植物から得られる精油の香りには寛容でした39)。精油が受け入れられたのは、天然(自然)な香りであるという受け止めがその背景にあったからではないかと考えられます40)。

注:i) 引用中の文献番号「39)」、「40)」はそれぞれ上記論文(ここを参照)、次の資料です。 「荒木敦子、岸玲子, いわゆる化学物質過敏症 その国際的動向とアロマテラピーを使った症状緩和研究. Aroma Research, 2013. 14(2): 111-115. 」 ii) この引用に関連して同項において、化学物質過敏症における「臭い刺激によるノシーボ効果で身体症状を呈する可能性」についての記述があります。引用はしませんが一次情報である同を参照して下さい。ちなみに、a) 「ノシーボ効果」は「ノセボ効果」とも称されます。 b) 上記「臭い刺激によるノセボ効果」に関連する「におい研究におけるノセボ効果」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。 iii) 一方、 引用中の「天然の植物から得られる精油の香りには寛容でした」(アロマセラピーにおける寛容さ)に関連したアロマセラピーに関するシステマティックレビューの一例(2011年発行)及び標記「アロマセラピーは十分に耐容性があること」に関連する「室内空気中の豊富な芳香剤の吸入による影響」についての論文要旨をそれぞれ以下に引用します。

[A2] 論文要旨「The Effects of Aromatherapy on Postpartum Women: A Systematic Review.[拙訳]産後の女性に関するアロマセラピーの効果:システマティックレビュー」(2019年発行)

BACKGROUND:
The postpartum period is the most crucial but also the most fragile stage of most pregnancies. The health benefits of aromatherapy have recently become more widely accepted among medical experts. Although a number of studies have examined these health benefits, no systematic reviews have been conducted to assess the effects of aromatherapy on the psycho-physiological health of postpartum women.

PURPOSE:
This systematic review was conducted to evaluate the effectiveness of aromatherapy interventions on the psycho-physiological health of postpartum women, to determine the methods that were used to measure intervention effectiveness, and to identify the types of interventions that were used.

METHODS:
We searched for studies that evaluated the effects of aromatherapy on postpartum women published in the Chinese or English languages before March 2018. We used online databases such as the Taiwan Journal Index, Centre for European Policy Studies, Cumulative Index for Nursing and Allied Health Literature, Cochrane Library, PubMed, and Social Sciences Citation Index. The search keywords used were "women," AND "postpartum," OR "postnatal" AND "aromatherapy," OR "aroma," OR "essential oils." Only randomized controlled trials including humans as study participants were included. The methodological quality of the trials was assessed using the modified Jadad scale. The quality of the full-text studies was assessed by three reviewers.

RESULTS:
The 15 studies that were included in this systematic review were performed in Iran, England, and the United States and included 2,131 participants in total. The numbers of participants in each study ranged between 35 and 635. The review found that the effective duration of aromatherapy varied according to the essential oils that were selected. The visual analog scale was the most frequently used measure of postpartum pain. Most of the studies found that the aromatherapy intervention improved postpartum physiological and psychological health, with positive effects shown on anxiety, depression, distress, fatigue, mood, nipple fissure pain, physical pain, post-cesarean-delivery pain, post-cesarean-delivery nausea, postepisiotomy pain, postepisiotomy recovery, sleep quality, and stress. Most of the studies reported no serious intervention-related side effects.

CONCLUSIONS:
This systematic review may serve as a reference for healthcare workers in caring for postpartum women. Aromatherapy may be applied as a noninvasive complementary intervention to promote physio-psychological comfort in postpartum women.


[拙訳]
背景:
産後の期間は最も重要ですが、ほとんどの妊娠の中でも最も脆弱な段階である。アロマセラピーの健康上の利点は、最近、医療専門家の間でより広く受け入れられるようになっている。多くの研究がこれらの健康上の利点を検討しているが、産後の女性の心理生理学的健康に関するアロマセラピーの効果を評価するためのシステマティックレビューは実施されていなかった。

目的:
このシステマティックレビューは、産後の女性の心理生理学的健康に関するアロマセラピー介入の有効性を評価し、介入の有効性を測定するために使用された方法を決定し、そして使用された介入の種類を同定するために実施された。

方法:
2018年3月までに中国語又は英語で出版された産後の女性に対するアロマセラピーの効果を評価した研究を、我々は検索した。Taiwan Journal Index、Centre for European Policy Studies、Cumulative Index for Nursing and Allied Health Literature、Cochrane Library、PubMed、及び Social Sciences Citation Index 等のオンラインデータベースを我々は使用した。使用された検索キーワードは、"women," AND "postpartum," OR "postnatal" AND "aromatherapy," OR "aroma," OR "essential oils." であった。研究参加者としてのヒトを含むランダム化比較試験のみが含まれていた。試験の方法論的な質は、修正された Jadad スケールを使用して評価された。全文研究の質は、3人のレビュー担当者によって評価された。

結果:
このシステマティックレビューに含まれていた15の研究は、イラン、イギリス、及び米国で実施され、合計2,131人の参加者が含まれていた。各研究の参加者の数は35~635の範囲であった。選択された精油(essential oils)によってアロマセラピーの有効期間が異なることが、本レビューで見出された。ビジュアルアナログスケールは、分娩後疼痛の最も頻繁に使用される尺度であった。ほとんどの研究ではアロマセラピーの介入により、不安、抑うつ、苦痛、疲労、気分、乳頭亀裂の痛み、身体の痛み、帝王切開後の痛み、帝王切開後の吐き気、会陰切開後の痛み、会陰切開後の回復、睡眠の質、及びストレスに関するポジティブな効果を伴う分娩後の生理的及び心理的健康が改善した。ほとんどの研究では、深刻な介入関連の副作用は報告されていない。

結論:
このシステマティックレビューは、産後の女性のケアをする医療従事者の参考になるかもしれない。アロマセラピーは、産後の女性の生理心理的な快適さを促進するための非侵襲的な補完的介入として適用されるかもしれない。

注:i) ちなみに、メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。 ii) 拙訳中の「ランダム化比較試験」については例えば次の資料を参照して下さい。 「データの取り扱いについて」の「ランダム化比較試験(RCT)」シート(P9) iii) 拙訳中の「ビジュアルアナログスケール」については例えば次の資料を参照して下さい。

[A3] 論文要旨「Aromatherapy for Managing Pain in Primary Dysmenorrhea: A Systematic Review of Randomized Placebo-Controlled Trials.[拙訳]原発性月経困難症における痛み管理のためのアロマセラピー:プラセボ対照ランダム化比較試験のシステマティックレビュー」(2018年発行、全文はここを参照)

Aromatherapy, the therapeutic use of essential oils, is often used to reduce pain in primary dysmenorrhea. Eleven databases, including four English (PubMed, AMED, EMBASE, and the Cochrane Library) and seven Korean medical databases, were searched from inception through August 2018 without restrictions on publication language. Randomized controlled trials (RCTs) testing aromatherapy for pain reduction in primary dysmenorrhea were considered. Data extraction and risk-of-bias assessments were performed by two independent reviewers. All of the trials reported superior effects of aromatherapy for pain reduction compared to placebo (n = 1787, standard mean difference (SMD): -0.91, 95% CI: -1.17 to -0.64, p < 0.00001) with high heterogeneity (I² = 88%). A sub-analysis for inhalational aromatherapy for the alleviation of pain also showed superior effects compared to placebo (n = 704, SMD: -1.02, 95% CI: -1.59 to -0.44, p = 0.0001, I² = 95%). With regard to aromatherapy massage, the pooled results of 11 studies showed favorable effects of aromatherapy massage on pain reduction compared to placebo aromatherapy massage (n = 793, SMD: -0.87, 95% CI: -1.14 to -0.60, p < 0.00001, I² = 70%). Oral aromatherapy had superior effects compared to placebo (n = 290, SMD: -0.61, 95% CI: -0.91 to -0.30, p < 0.0001, I² = 0%). In conclusion, our systemic review provides a moderate level of evidence on the superiority of aromatherapy (inhalational, massage, or oral use) for pain reduction over placebo in primary dysmenorrhea.


[拙訳]
アロマセラピー、精油の治療的使用は、しばしば原発性月経困難症における痛みを軽減するために使用される。 4つの英語(PubMed、AMED、EMBASE、Cochrane Library)と7つの韓国語の医療データベースを含む11のデータベースが、出版言語の制限なしで、最初から2018年8月まで検索された。原発性月経困難症の痛み緩和のためのアロマセラピーを試験するランダム化比較試験(RCT)が考慮された。データ抽出及びバイアスのリスク評価は、2人の独立したレビュー担当者によって実施された。


全ての試験でプラセボと比較した痛み緩和に対する高い異質性(I² = 88%)を伴うアロマセラピーの優れた効果が報告された(n = 1787、標準化平均差(SMD):-0.91、95%信頼区間:-1.17~-0.64、p <0.00001)。痛み緩和のための吸入アロマセラピーのサブ分析も、プラセボと比較して優れた効果を示した(n = 704、SMD:-1.02、95%信頼区間:-1.59~-0.44、p = 0.0001、I²= 95%)。アロマセラピーマッサージに関して、11の研究のプールされた結果は、プラセボのアロマセラピーマッサージと比較して痛みの軽減に対するアロマセラピーマッサージの好ましい効果を示した(n = 793、SMD:-0.87、95%信頼区間:-1.14~-0.60、p < 0.00001、I²= 70%)。経口アロマセラピーは、プラセボと比較して優れた効果があった(n = 290、SMD:-0.61、95%信頼区間:-0.91~-0.30、p < 0.0001、I²= 0%)。結論として、原発性月経困難症におけるプラセボよりも痛みを軽減するためのアロマセラピー(吸入、マッサージ、又は経口の利用)の優越性に関する中程度のレベルのエビデンスを、我々のシステマティックレビューは提供する。

注:i) 引用中の「n = 1787」、「n = 793」、「n = 290」は共に人数を指します。 ii) 拙訳中の「ランダム化比較試験」については例えば次の資料を参照して下さい。 「データの取り扱いについて」の「ランダム化比較試験(RCT)」シート(P9) iii) なおアロマセラピーの「副作用」について上記全文の「4. Discussion」項における記述の一部を次に引用します。 『Most of the studies reported no serious intervention-related side effects.[拙訳]ほとんどの研究では、介入に関連した重大な副作用は報告されなかった。』

[A4] 論文「The Effectiveness of Aromatherapy for Depressive Symptoms: A Systematic Review.[拙訳]抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性:システマティック・レビュー」(2017年発行、全文はここを参照)

Background. Depression is one of the greatest health concerns affecting 350 million people globally. Aromatherapy is a popular CAM intervention chosen by people with depression. Due to the growing popularity of aromatherapy for alleviating depressive symptoms, in-depth evaluation of the evidence-based clinical efficacy of aromatherapy is urgently needed.

Purpose. This systematic review aims to provide an analysis of the clinical evidence on the efficacy of aromatherapy for depressive symptoms on any type of patients.

Methods. A systematic database search was carried out using predefined search terms in 5 databases: AMED, CINHAL, CCRCT, MEDLINE, and PsycINFO. Outcome measures included scales measuring depressive symptoms levels.

Results. Twelve randomized controlled trials were included and two administration methods for the aromatherapy intervention including inhaled aromatherapy (5 studies) and massage aromatherapy (7 studies) were identified. Seven studies showed improvement in depressive symptoms.

Limitations. The quality of half of the studies included is low, and the administration protocols among the studies varied considerably. Different assessment tools were also employed among the studies.

Conclusions. Aromatherapy showed potential to be used as an effective therapeutic option for the relief of depressive symptoms in a wide variety of subjects. Particularly, aromatherapy massage showed to have more beneficial effects than inhalation aromatherapy.


[拙訳]
背景。抑うつは世界的に3億5千万の人々に影響を及ぼす最大の健康関心事の1つである。アロマセラピーは、抑うつを伴う人々によって選択される人気のある CAM(補完代替療法)の介入である。抑うつ症状を緩和するためのアロマセラピーの人気が高まっているため、アロマセラピーのエビデンスに基づく臨床効果の詳細な評価が急務である。

目的。このシステマティック・レビューは、あらゆるタイプの患者にもたらす抑うつ症状に対するアロマセラピーの効果に関する臨床的エビデンスの分析を提供することを目的とする。

方法。AMED、CINHAL、CCRCT、MEDLINE 及び PsycINFO の5つのデータベースにおいて、あらかじめ定義された検索用語を使用して、体系的なデータベース検索を実施した。アウトカム基準には、抑うつ症状のレベルを測定する尺度が含まれた。

結果。12のランダム化比較試験が含まれ、吸入アロマセラピー(5試験)及びマッサージアロマセラピー(7試験)を含むアロマセラピー介入の2つの投与方法が同定された。 7件の研究が抑うつ症状における改善を示した。

制限。含まれた試験の半分の質は低く、そして試験間の投与プロトコールはかなり異なった。これらの研究の中で、異なる評価ツールも採用された。

結論。アロマセラピーは、幅広い種類の被験者において抑うつ症状の軽減のための有効な治療選択肢として使用される可能性を示した。特に、アロマセラピーマッサージは、吸入アロマセラピーよりも有益な効果を有することが示された。

注:i) 表示形式を変更して引用しています。 ii) 拙訳中の「ランダム化比較試験」については例えば次の資料を参照して下さい。 「データの取り扱いについて」の「ランダム化比較試験(RCT)」シート(P9) iii) ちなみに、アロマセラピーの抗不安効果についてはここを参照して下さい。

[A5] 論文要旨「A systematic review on the anxiolytic effects of aromatherapy in people with anxiety symptoms.[拙訳]不安症状を伴う人々におけるアロマセラピーの抗不安効果についてのシステマティックレビュー」(2011年発行)

PURPOSE:
We reviewed studies from 1990 to 2010 on using aromatherapy for people with anxiety or anxiety symptoms and examined their clinical effects.

METHODS:
The review was conducted on available electronic databases to extract journal articles that evaluated the anxiolytic effects of aromatherapy for people with anxiety symptoms.

RESULTS:
The results were based on 16 randomized controlled trials examining the anxiolytic effects of aromatherapy among people with anxiety symptoms. Most of the studies indicated positive effects to quell anxiety. No adverse events were reported.

CONCLUSIONS:
It is recommended that aromatherapy could be applied as a complementary therapy for people with anxiety symptoms. Further studies with better quality on methodology should be conducted to identify its clinical effects and the underlying biologic mechanisms.


[拙訳]
目的:
不安又は不安症状を伴う人々にアロマセラピーを使用することについての 1990年から 2010年までの研究を我々はレビューし、その臨床効果を調査した。

方法:
本レビューは、不安症状を伴う人々へのアロマセラピーの抗不安効果を評価するジャーナル記事を抽出するための利用可能な電子データベース上で実施された。

結果:
不安症状を伴う人々の間でのアロマセラピーの抗不安効果を調査する 16 のランダム化比較試験に結果は基づいた。ほとんどの研究は、不安を抑えるポジティブな効果を示した。有害事象は報告されなかった。

結論:
アロマセラピーは、不安症状を伴う人々のための補完的な治療として適用できるだろうことが推奨される。その臨床効果とその基礎となる生物学的メカニズムの明確化のために、方法論に関するより良い品質のさらなる研究が実施されるべきである。

注:i) ちなみに、メディカル・アロマセラピーに関連する様々な日本語の資料の紹介及びアロマセラピーの精油分析例については、共にここを参照して下さい。加えて、抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性については次項を参照して下さい。 ii) 拙訳中の「ランダム化比較試験」については例えば次の資料を参照して下さい。 「データの取り扱いについて」の「ランダム化比較試験(RCT)」シート(P9) iii) ちなみに、抑うつ症状に対するアロマセラピーの有効性についてはここを参照して下さい。

[A6] 論文要旨「Adverse effects of aromatherapy: a systematic review of case reports and case series.[拙訳]アロマセラピーの有害効果:症例報告と症例シリーズのシステマティックレビュー」(2012年発行)

AIM:
This systematic review was aimed at critically evaluating the evidence regarding the adverse effects associated with aromatherapy.

METHOD:
Five electronic databases were searched to identify all relevant case reports and case series.

RESULTS:
Forty two primary reports met our inclusion criteria. In total, 71 patients experienced adverse effects of aromatherapy. Adverse effects ranged from mild to severe and included one fatality. The most common adverse effect was dermatitis. Lavender, peppermint, tea tree oil and ylang-ylang were the most common essential oils responsible for adverse effects.

CONCLUSION:
Aromatherapy has the potential to cause adverse effects some of which are serious. Their frequency remains unknown. Lack of sufficiently convincing evidence regarding the effectiveness of aromatherapy combined with its potential to cause adverse effects questions the usefulness of this modality in any condition.


[拙訳]
目的:
このシステマティックレビューは、アロマセラピーに関連する有害効果に関するエビデンスを批判的に評価することを目的とする。

方法:
5つの電子データベースを検索して、関連するすべての症例報告と症例シリーズを同定した。

結果:
42の主要な報告が選択基準を満たした。合計で、71人の患者がアロマセラピーの有害効果を経験した。有害効果は軽度から重度までの範囲で、1人の死亡者が含まれていた。最も一般的な有害効果は皮膚炎であった。ラベンダー、ペパーミント、ティーツリーオイル、及びイランイランは、有害効果の原因となる最も一般的な精油であった。

結論:
アロマセラピーは、その一部が深刻な有害効果を引き起こす可能性を有する。それらの頻度は不明のままである。有害効果を引き起こす可能性と兼ね備えるアロマセラピーの有効性に関する十分に説得力のあるエビデンスの欠如は、いかなる状態においてもこの方法の有用性に疑問を投げかける。

注:ちなみに、拙訳中の「有害効果」に関連する一部の精油には「光毒性」があることについて、佐々木薫監修の本、「最新4訂版 アロマテラピー図鑑」(2019年発行)の PART 1 アロマテラピーの基礎知識と利用方法 の 精油の扱い方 の 精油を使うときの約束 の「光毒性の精油には注意」における記述(P023)を次に引用します。

光毒性とは、特定の精油にあり、肌につくと紫外線と反応して、しみや赤くはれるなどのトラブルを起こす性質のこと。トリートメントオイル、化粧品、入浴剤、湿布を作るとき、使用するときには注意しましょう。光毒性をもつ精油は希釈した場合でも、肌につけた直後、紫外線にさらされないように注意します。肌についてしまったら、必ず丁寧に洗浄を。柑橘系果実類の果皮から圧搾法で採った精油に多く、ベルガモットに含まれるベルカプテンなどの成分が代表的ですが、柑橘系精油がすべて光毒性をもつわけではありません。

注:i) この引用部の直下にある「光毒性があるおもな精油」のリストを次に形式を変更して次に引用(『 』内)します。 『●アンジェリカルート ●ブラッドオレンジ ●クミン ●ベルガモット ●グレープフルーツ ●レモン』 ii) また、「精油を飲んではいけない」ことについて、同精油を使うときの約束の「精油を飲んではいけません」における記述(P023)を次に引用(【 】内)します。 【精油を飲んだり口に入れたりすることは大変危険です。海外では専門家の指導下での内服療法もありますが、決して飲用しないでください。口、唇、粘膜にも、希釈したものであっても使用を避けてください。】

[O1] 論文「Recognizing odors associated with meaningful places.[拙訳]意味のある場所に関連した臭いの認識」 ちなみに、全文はここを参照して下さい。

Thirty-two undergraduates inhaled odors while outlining episodes, set in 8 living rooms, involving either themselves or the actual inhabitants. They rated odors, rooms, and episodes on 7-point scales and were tested for odor recognition. Episodes were content analyzed, and the frequency of categories was assessed. Separate factor analyses determined relationships between rating scales and content analysis categories. Regression analysis showed greater odor recognition when participants judged the odor to fit the imagined episode but less recognition when an unpleasant odor was incongruously paired with a warm episode. Odor recognition also was greater when the narrative outlines described familiar characters figuring out the scenes. Results supported the congruity hypothesis, whereby odors become markers for meaningful scenes with which they fit.


[拙訳]
自分自身又は実際の住民が関与する 8 つのエピソードを概説しながら、リビングルームにセットされた臭いを 32人の学部生が吸入した。彼らは臭い、部屋、及びエピソードを 7 点スケールで評価し、そして臭気の認識を調査された。エピソードは内容が分析され、カテゴリーの頻度が評価された。評価スケールと内容分析カテゴリーとの間の関係を分離された要因の分析は決定した。想像したエピソードに合う臭いを彼らが判定した時により大きな臭いの認識を、しかし、不快な臭いが心温まるエピソードと不釣り合いで対になった時により小さい認識を回帰分析は示した。ナラティブの輪郭でありふれた人物が場面に登場すると説明した時に臭いの認識がより大きくなった。これらの結果は適合性仮説を支持し、これにより、臭いが彼らが合う有意義な場面のマーカーとなる。

注:i) 引用中の「ナラティブ」(物語)に該当する「ナラティヴ」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) この論文の解説について、渡邉映理著の本、『「香り」の文化と癒やし -いのる、くらす、あそぶ。古代から現代まで-』(2016年発行)の 第7章 高齢化社会と「香り」 の『7.2 「香り」と感情、記憶の結びつき』における記述の一部(P093~P094)を次に引用します。

(前略)嗅覚というのは、他の感覚と情報の伝達経路が異なっている。私たちが鼻で香りを受け取ると、鼻腔の奥にある嗅細胞に存在する「嗅覚レセプター(受容体)」が信号を受け取り、香り物質は、電気信号に変換される。その後、嗅球を通って、直接、感情を司る扁桃体、記憶を司る海馬など、大脳辺縁系に到達することが分かっている。
この、大脳にある「大脳辺縁系(海馬・扁桃体など)」は、“情動脳”とも呼ばれ、記憶や感情を司る脳として知られている。つまり、においの情報を処理する場所と、感情を司る場所が同じ「大脳辺縁系」なので、「においによって記憶や感情が呼び覚まされる」ということが起こるのである。
最近、実際に、32名の大学生が試験対象者になり、実際に居住者がいる 8 つのリビングのにおいをかぎながら、ある物語を聞くという実験がカナダで行われている15)。対象者はにおい、物語、リビングルームに、快、不快などの感情に関する評価をつけたあと、もう一度同じにおいをかいだ。その結果、においが物語から想像される出来事と合っている場合は、対象者は後でそのにおいを区別することができたが、「不愉快なにおい」が「心温まるような出来事」の話とセットになっていて、生じる感情と合っていない場合は、対象者はにおいを区別することができなかった。例えば、私たちは、おいしそうなパンのにおいが漂っている部屋で、「この部屋に住んでいる若い奥様はパン作りが上手である」というような話を聞いた場合は、そのパンのにおいを話の内容とともに記憶することができるが、不快な、かびのにおいがするような部屋で同じ話を聞いても、そのにおいと話の内容が結びつかないので、そのにおいを記憶することが難しいのである。
また、対象者らは、聞いた物語の内容が「その場面を理解しやすいような、ありふれた場面の描写」である場合は、そのとき嗅いだリビングルームのにおいをもう一度嘆いたときに、そのにおいをより明確に区別することができた。このことは、物語を聞いて場面を想像したり記憶したりすることと、においを認識することに結びつきがあることを示している。この実験により、においは、そのにおいがよくマッチしている、「意味のある場面」を思い出すための「目印」になる、ということが示された15)。(後略)

注:i) 引用中の文献番号「15)」は上記論文です。 ii) 引用中の「においによって記憶や感情が呼び覚まされる」ことに関連する「プルースト現象」については、ここを参照して下さい。 iii) 引用中の「大脳辺縁系」、「情動脳」、「扁桃体」については、トラウマの視点からは共にここここを参照して下さい。 iv) 一方、引用中の「大脳辺縁系」、「海馬」、「扁桃体」については、トラウマの視点からは共にここを参照して下さい。 v) 引用中の「快、不快」については、次のWEBページを参照して下さい。 「快・不快 - 脳科学辞典

[O2] 論文「Effects by inhalation of abundant fragrances in indoor air - An overview.[拙訳]室内空気中の豊富な芳香剤の吸入による影響 - 概要」 ちなみに、全文はここを参照して下さい。

Odorous compounds (odors) like fragrances may cause adverse health effects. To assess their importance by inhalation, we have reviewed how the four major abundant and common airborne fragrances (α-pinene (APN), limonene (LIM), linalool (LIL), and eugenol (EUG)) impact the perceived indoor air quality as odor annoyance, sensory irritation and sensitization in the airways. Breathing and cardiovascular effects, and work performance, and the impact in the airways of ozone-initiated gas- and particle phase reactions products have also been assessed. Measured maximum indoor concentrations for APN, LIM and LIL are close to or above their odor thresholds, but far below their thresholds for sensory irritation in the eyes and upper airways; no information could be traced for EUG. Likewise, reported risk values for long-term effects are far above reported indoor concentrations. Human exposure studies with mixtures of APN and LIM and supported by animal inhalation models do not support sensitization of the airways at indoor levels by inhalation that include other selected fragrances. Human exposure studies, in general, indicate that reported lung function effects are likely due to the perception rather than toxic effects of the fragrances. In general, effects on the breathing rate and mood by exposure to the fragrances are inconclusive. The fragrances may increase the high-frequency heart rate variability, but aerosol exposure during cleaning activities may result in a reduction. Distractive effects influencing the work performance by fragrance/odor exposure are consistently reported, but their persistence over time is unknown. Mice inhalation studies indicate that LIM or its reaction mixture may possess anti-inflammatory properties. There is insufficient information that ozone-initiated reactions with APN or LIM at typical indoor levels cause airway effects in humans. Limited experimental information is available on long-term effects of ozone-initiated reaction products of APN and LIM at typical indoor levels.


[拙訳]
芳香のような臭いのする化合物(odors)は、健康に悪影響を及ぼすかもしれない。吸入によるその重要性を評価するために、4つの主要な豊富で一般的な空気媒介の芳香[α-ピネン(APN)、リモネン(LIM)、リナロール(LYL)、オイゲノール(EUG)]が、気道における臭いの不快さ、感覚刺激及び感作としての知覚された室内空気品質に、いかに影響するかを評価した。呼吸及び心臓血管への影響、作業のパフォーマンス及び気道におけるオゾンにより開始する気相及び粒子反応生成物の影響も評価している。測定された最大の APN、LIM 及び LIL 室内濃度は、臭い閾値に近い又は閾値を超えた。しかし、目及び上気道における感覚刺激閾値をはるかに下回っていた。EUG の情報は調べることができなかった。同様に、報告された長期的影響のリスク値は報告された屋内濃度よりはるかに上回っていた。APN と LIM の混合物の研究及び動物吸入モデルで支持される研究は、他の選択された芳香を含む室内レベルでの吸入による気道の感作を支持しなかった。ヒトへの曝露研究では、一般的に、報告された肺機能効果は芳香の毒性効果よりも知覚によるものらしいことを示した。一般的に、芳香曝露による呼吸数と気分に与える影響は結論がでていない。芳香は高周波心拍変動性を増加させるかもしれないが、清掃活動中のエアロゾルの曝露は減少をもたらすかもしれない。作業のパフォーマンスに影響を与える芳香/臭い曝露による気を散らせる効果は一貫して報告されたが、経時的な持続性は不明である。マウスでの吸入研究は LIM 又はその反応混合物には抗炎症特性があるかもしれないことを示す。典型的な室内レベルでの APN 又は LIM のオゾンによる開始反応はヒトにおいて気道効果を引き起こすという情報は不十分である。典型的な屋内レベルでの APN 及び LIM のオゾン開始反応生成物の長期間の影響に関する、限定された実験情報は利用可能である。

注:引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

[O3] 論文要旨「The Influence of Olfactory Contexts on the Sequential Rating of Odor Pleasantness.[拙訳]連続した臭いの快評価に及ぼす嗅覚文脈の影響」

When we sequentially evaluate the characteristics of sensory stimuli, our evaluation of a current stimulus is influenced by those preceding it. One such effect is called hedonic contrast, whereby stimuli are rated more negatively (negative contrast) or positively (positive contrast) if they are preceded by more or less pleasant stimuli. The present study investigated the characteristics of hedonic contrast for olfaction and compared these characteristics with those of a more oft-studied modality, vision. The results from two experiments indicated that both positive and negative contrasts occurred in the sequential rating of picture pleasantness, whereas only negative contrast occurred for olfactory ratings. Notably, overrating of hedonically negative odors following a positive olfactory context was observed even when participants had already rated these same negative odors beforehand; conversely, this did not occur for positive contrast for either sense. These findings indicate that negative odors are more strongly influenced than positive ones, and the rating of positive stimuli may be adjusted to the preceding rating independent of stimulus context. The findings of this study revealed the unique characteristics of hedonic contrast for the olfactory senses.


[拙訳]
我々が感覚刺激の特徴を連続的に評価するとき、我々の現在の刺激の評価は、それに先立つ評価によって影響される。そのような効果の1つは快・不快対比と呼ばれ、より多くの又は少なくの快刺激が先行した時に、これにより、刺激がよりネガティブ(ネガティブの対比)又はよりポジティブ(ポジティブの対比)と評価された。本研究では、嗅覚に対する快・不快対比の特徴を調査し、これらの特徴をより頻繁に研究されたモダリティ、視覚と比較した。連続的な画像の快・不快度の評価においてポジティブ及びネガティブの対比の両方が生じたのに対し、嗅覚の評価に対しては、ネガティブの対比のみが生じたことを、2つの実験から得られた結果は示した。特に参加者が既にこれらのネガティブな臭いを予め評価していた時も、ポジティブな臭いの文脈に続く、快・不快度的にネガティブな臭いの過剰評価が観察され、逆に言えば、どちらの感覚でのポジティブの対比に対しては生じなかった。ネガティブな臭いがポジティブな臭いよりも強く影響を受け、そしてポジティブな刺激の評価は、刺激文脈に独立した先行する評価に合わせて調節されるかもしれないことを、これらの知見は示す。この知見は嗅覚に対する快・不快度対比の独特な特徴を明らかにした。

注:i) この引用全体に関連して、次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「快不快の対比における嗅覚と視覚の比較」 ii) 本論文の著者である綾部早穂(Ayabe-Kanamura S)氏が代表を務める科学研究費助成事業として実施していた、においのトラウマ記憶に関する研究課題については次のWEBページを参照して下さい。 「においのトラウマ記憶に関する実態調査ならびに実験的検討

[ご参考3]SHS患者の脳科学的アプローチ
次の 資料「シックハウス症候群の診断基準の検証に関する研究(P28)」の P28~P30 に、標題に関する記述があります。その一部(P30)を次に引用します。

・症例群は、匂い(特に自覚的により強い刺激を感じる匂い)による負荷に対して嗅覚中枢が過剰に反応しやすくなっている可能性を示唆した。患者では嗅覚過敏が特徴の一つとしてみられるが、その現象が脳血流変動でも示唆された。[中略]

・また、上記の結果から、シックハウス症状の要因を室内空気汚染のみに求めることには、臨床上大きな問題があると考えられた。

注:i) 標題中の「SHS」はシックハウス症候群のことです。また、引用中の「症例群」は患者である被験者の方々に相当するようです。 ii) この資料の作成者は坂部医師のようです。 iii) シックハウス症候群については、他の拙エントリの(8)項参照。 iv) [ご参考2]と本項の引用における実験の重なりの例として、この pdfファイル P30 のマップは、[ご参考2]で要旨を引用した前者の論文の Figure 4 における JC(7) のマップと一致するようです。 iv) 臭いとシックハウス症候群との関係については、日本臨床環境医学会編の本、「シックハウス症候群マニュアル 日常診療のガイドブック」(2013年発行)の Ⅲ.対応 の 3.環境学的対応 の 3-2 環境改善型予防医学の実践-「ケミレスタウン・プロジェクト」 の「3)臭いと SHS」項における一部の記述(P61)を次に引用します。

臭いと SHS とは密接な関係がある.SHS の苦情の際,患者は多くの場合臭いも訴えるからである.

注:上記3項の執筆者は森千里、戸高恵美子です。

(※2の範囲はここまでです)

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[ご参考]日本臨床環境医学会役員名簿
2014年10月1日現在の日本臨床環境医学会役員名簿は、第24回日本臨床環境医学会学術集会 ご案内の P63 に示されています。

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【追記1】
葵東様のブログのエントリ「化学物質過敏症患者を苦しめる有害な気体」を拝見したところ、 i) 有害な気体の曝露濃度をどのようにお考えになっているのか? ii) 少なくとも、一部の有害な気体では、臭い※2に反応しているのではないか? 等が、本エントリ作者には気になります。

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【追記2】
一般的に(極めて微量[例えば参照]ではなく)「一定以上の濃度の有害物質に曝露すると生じる急性症状」は(化学物質過敏症ではなく)急性の中毒症状と呼ばれると拙ブログ作者は考えます。

例えば、ホルムアルデヒド(ホルマリン)の吸入による曝露濃度と中毒症状の関係例がWEBページ「消毒剤の毒性、副作用、中毒 4.ホルマリン(Formalin,Formaldehyde)」の「ホルマリンガス濃度と症状」において示されるように、ホルムアルデヒドでは濃度 5ppm 以上で喉に刺激を感ずることを含む中毒症状が出現するようです。

加えて、一酸化炭素の濃度と毒性の関係例として、資料「一酸化炭素 - 日本中毒情報センター」の「[毒性]」項における記述の一部を次に引用します。

300 ppm 以下では軽度の頭痛程度であるが、400 ppm 以上で数時間曝露されると循環・呼吸系にも影響が出始め、1000 ppm を超えると重篤な症状が現れる。5000 ppm では 5 分で死に至る。(後略)

注:ちなみにこの資料によると、一酸化炭素は無味無臭の気体とのこと。

さらに、硫化水素中毒における曝露濃度については、例えば次の資料を参照して下さい。「なくそう! 酸素欠乏症・硫化水素中毒

一方、標記追記において示された(中毒の)曝露濃度と、上記化学物質過敏症における誘発試験の曝露濃度を比較すると良いかもしれません[特にホルムアルデヒド(ホルマリン)]。ちなみに、化学物質過敏症又は MCS の誘発試験において適用されるホルムアルデヒドの濃度例についてはここを参照して下さい。

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【追記3】
WEBページ「現場にアタック 良い香りには裏がある? 化学物質過敏症の危険」を拝見したところ、タイトルにもあるように、このページには、「主に香りに反応するのが化学物質過敏症である」ともとれる内容が示されていると本エントリ作者は考えます。

本エントリにおいて上記にご説明したように、(臭わない)超微量の化学物質には反応せずに、香り(又は臭い※2参照)のみに反応するのは、臨床環境医が提唱するMCSでも化学物質過敏症でもないと本エントリ作者は考えます。ただし、本エントリ作者がこの臨床環境医に相当しないと考える医師又は医学研究者の方々の一部が、化学物質が刺激となって生じる感覚モデルに注目しています。ここ項を参照して下さい。加えて、香りと記憶の結びつきに関連する「プルースト現象」及び「嗅覚の学習記憶」については共にここを参照して下さい。

ちなみに、a) MCSに対する日本臨床環境医学会を含む世界の医学会等の見解は拙エントリのここを参照して下さい。 b) 一方、「香水の自粛のお願いに化学物質過敏症を持ち出さないほうがいい」ことについてのエントリ「香水の自粛のお願いに化学物質過敏症を持ち出さないほうがいい - NATROMのブログ」もあります。

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【追記4】
【追記3】に関連して、2017年6~7月にかけてミニ情報に記載した香気物質に関連する記事において、表示形式及び文章の追加を含んで改訂したものを以下に示します。さらに、自然界由来の揮発性有機化合物、情動記憶、「プルースト現象」、PTSD と臭気との関連、「ルール支配行動」、感覚の認知、「放逸」等についても以下に記述します。最初に自然界由来の揮発性有機化合物(VOC)については、次の資料を参照して下さい。 「VOCと地球環境 大気中揮発性有機化合物の実態解明を目指して」の「自然界由来のVOCの実態を次々に明らかに」項

(1)柚子ジュースと柔軟剤との関連についての一考察について
日本には柚子ジュースがあります。例えば、果汁の使用割合が 5~10%のものです。加えて、ポン酢にも柚子果汁入りの商品が複数あります。ちなみに、柚子果汁中のリモネン分析結果例は資料の「5. 食品の分析結果例」を参照して下さい。この資料には、柚子果汁のみならず、温州みかん、スダチ等の分析結果例があります。なお、柑橘類香気成分についての簡単な説明は、例えばここの「02 柑橘類香気成分とは」を参照して下さい。一方、一部の柔軟剤において香り成分として、d - リモネンが分析により検出されることがあります(参照)。天然由来のリモネンについては※1も参照して下さい。加えて、リナロール(参照)や、ゲラニオール(天然由来のゲラニオールについては※3も参照)も一部の柔軟剤における香り成分として検出されることがあります(参照)。
仮に、おいしく柚子ジュースを飲めるのに、柔軟剤を用いて洗濯した他人の服から放出されるリモネンに対して、「柔軟剤中のリモネンガー」とおっしゃる方々がいるのならば、能動喫煙は平気なのに、受動禁煙(参照)に対して、「副流煙ガー」とおっしゃる方々と同程度に、不可解なことをおっしゃる方々がいるもんだという感想を拙ブログ作者は持ちます。
なお、 a) 資料の図1において、香辛料に含まれる主な香気成分が紹介されており、リモネンもこの中に含まれます。加えて、渡邉映理著の本、『「香り」の文化と癒やし -いのる、くらす、あそぶ。古代から現代まで-』(2016年発行)の 第5章 食品の「香り」と癒やし の『5.4 香辛料と「香り」』における記述の一部(P073)を次に引用(『 』内)します。 『どこの家庭にもあると思われる黒コショウ(ブラックペッパー)はスパイスの代表であるが、香り成分はリモネン、サビネン、ピネン、ミルセンなどモノテルペン化合物であり(後略)』 さらに、カレー粉からもリモネンが検出されています(参照) b) オレンジジュースをはじめとした、複数のジュースに対するヘッドスペース-GC-MSを用いた香気成分分析結果例はここを参照して下さい。これによると、オレンジジュースからはリモネン(limonene)のみならず、リナロール(linalool)も検出されているようです。加えて、レモン精油成分の組成については例えば資料を参照して下さい。 c) 例えばここの資料(b)の表-1によると、カビからリモネン(limonene)が発生するようです。従って、上記「柔軟剤中のリモネンガー」と主張する人は、柔軟剤由来のリモネンとカビ由来のリモネンとを区別する必要があるかもしれません。加えて、山椒、薔薇及びチューリップの香気成分としてリモネンが検出されることがあります。次項の⑭、⑮及び⑯をそれぞれ参照して下さい。

(2)①かつおだし、②コーヒー、③煎茶、④紅茶、⑤ウーロン茶、⑥ジャスミン茶、⑦発酵乳、⑧味噌、⑨醤油、⑩カレー粉、⑪清酒、⑫ホップ由来(ビール)、⑬甲州種ワイン、⑭海藻、⑮山椒、⑯薔薇、⑰チューリップ、⑱ラベンダー、⑲ユリ の香気成分及び⑳大気中フィトンチッドの成分についてのご紹介*35
例えばそれぞれ、①参照、②参照、③参照、④参照、⑤参照、⑥参照、⑦参照、⑧参照、⑨参照、⑩参照、⑪参照、⑫参照、⑬参照、⑭参照、⑮参照、⑯参照、⑰参照、⑱参照、⑲参照及び⑳資料の「表 2-1」(P24)、「表 2-2」(P26)、「表 2-3」(P27)を参照。(注:一部の柔軟剤から検出されることもあるリナロール[linalool、参照]が、上記資料によると③煎茶、④紅茶、⑤ウーロン茶、⑥ジャスミン茶、⑩カレー粉、⑫ホップ由来(ビール)、⑮山椒、⑯薔薇、⑰チューリップ、⑱ラベンダー、⑲ユリ そしてオレンジジュースからも検出されることがあるようです、ちなみに、天然由来のリナロールについては※2も参照して下さい。)

一方、一部の柔軟剤に含有するリナロールに関連する報告があります。この報告は細胞株を用いたものですが、この報告が該当するヒトの細胞にも適用できて、かつ柔軟剤を用いて洗濯した他人の服から放出されるリナロールの吸引により、TRPA1チャネル(参照参照)が活性化するのであれば(注:仮定の話です)、リナロールが検出される上記、③煎茶~⑲ユリ、そしてオレンジジュースによりTRPA1チャネルが活性化しても不思議ではないと拙ブログ作者は考えます。

※1:天然由来のリモネンについて、平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第8章 天然由来の香りの分子 の ●柑橘系の香り(シトラス系の分子) の「(+)-リモネン (+)-limonene」における記述の一部(P152)を次に引用(【 】内)します。 【オレンジ(スイート)、ジュニパーべリー、ティーツリー、ペパーミント、ユーカリ、レモン、ローズマリー、ベルガモット、フランスキンセンス、ネロリ等に広く含まれるシトラス系の代表的な香りの分子です。柑橘類から採れるアロマ精油の主成分です。】(注:引用中の「(+)-リモネン」は「d-リモネン」とも呼ばれます。これは光学異性体を踏まえた表記です。例えば次の資料を参照して下さい。 「リモネン」) 加えて、塩田清二監修の本、「アロマセラピー学」(2017年発行)の 第Ⅱ章・アロマセラピーを使う の 第2節 精油の種類、芳香の嗅ぎ方、ブレンドオイルの作り方(著者は長島司) の 1.精油の種類 の (1) 精油各種 」の「② 柑橘精油」(P145~P146)で、次に示すリモネンの割合の高い精油が紹介されています。 a) (表13)において、精油【オレンジ】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:果皮)の成分分析において、リモネンの含有量が 94% とのデータがあります。 b) (表14)において、精油【ベルガモット】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:果皮)の成分分析において、リモネンの含有量が 40% とのデータがあります。 c) (表15)において、精油【レモン】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:果皮)の成分分析において、リモネンの含有量が 65% とのデータがあります。 さらに、次のWEBページにおいては、ユズ(柚子)及びカボスに、リモネンが含まれていることが示されています。 「ユズ、スダチ、カボス」の「ユズ」項及び「カボス」項

※2:天然由来のリナロールについて、平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第8章 天然由来の香りの分子 の ●花の香り(フローラル系の分子) の「リナロール linalool」における記述の一部(P155)を次に引用(【 】内)します。 【リナロールは、イランイラン、ゼラニウム、ジャスミン、ネロリ、バラなどの花だけでなく、ラベンダー、ローズマリー、ベルガモット、フランキンセンスなどにも広く存在する香りの分子です。】 加えて、上記以外にも塩田清二監修の本、「アロマセラピー学」(2017年発行)の 第Ⅱ章・アロマセラピーを使う の 第2節 精油の種類、芳香の嗅ぎ方、ブレンドオイルの作り方(著者は長島司) の 1.精油の種類 の「(1) 精油各種」(P141~P153)の、 a) (表2)において、精油【コリアンダーシード】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:果実)の成分分析において、リナロールの含有量が 64% とのデータがあります。 b) (表8)において、精油【マジョラム】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:葉)の成分分析において、リナロールの含有量が 27% とのデータがあります。 c) (表28)において、精油【カルダモン】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:草実)の成分分析において、リナロールの含有量が 5% とのデータがあります。 一方、上記と重なりますが、リナロールの含有量が 5% 以上のものとして、 i) (表3)において、精油【ゼラニウム】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:葉)の成分分析において、含有量が 7% とのデータがあります。 ii) (表10)において、精油【ラベンダー】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:葉)の成分分析において、含有量が 25% とのデータがあります。 iii) (表14)において、精油【ベルガモット】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:果皮)の成分分析において、含有量が 40% とのデータがあります。 iv) (表16)において、精油【イランイラン】(抽出方法:低温圧搾法、抽出部位:花)の成分分析において、含有量が 9% とのデータがあります。 v) (表19)において、精油【ジャスミン】(抽出方法:溶剤抽出、抽出部位:花)の成分分析において、含有量が 5% とのデータがあります。 vi) (表20)において、精油【ネロリ】(抽出方法:水蒸気蒸留、抽出部位:花)の成分分析において、含有量が 29% とのデータがあります。

※3:天然由来のゲラニオールについて、 a) 平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第8章 天然由来の香りの分子 の ●柑橘系の香り(シトラス系の分子) の「ゲラニオール geraniol とネロール nerol」における記述の一部(P157)を次に引用(【 】内)します。 【ゲラニオールとネロールは右上の二重結合に関して幾何異性体の関係にあります。ゲラニオールはトランス体でネロールはシス体です。(中略)ゲラニオールは、甘くバラのようなフローラルで幾分シトラスな香りを持ちます。ネロールも甘いバラの香りですがネロリやモクレンを思わせます。ゲラニオールはゼラニウム、バラ、ネロリなどに含まれます。ネロールはバラやネロリなどに含まれます。】(注:引用中の「トランス体」及び「シス体」に関連する「シスとトランス異性体」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「資料」の「シスとトランス異性体とは?」項[P492])。 b) 山椒及びビールの香気成分としてゲラニオール(geraniol)が分析されたことについてはそれぞれ次の資料を参照して下さい。 「ヘッドスペースガス分析法を用いた産地別山椒果実の香気分析」の Table 1(P323)、「ビールに特徴的な香りを付与するホップ由来香気成分」の第2表(P159)

(3)「カビ臭の原因物質」、「香料の化学」及び「人体から発生するにおい物質」のご紹介
標記「カビ臭の原因物質」に関しては、例えば(a)資料、(b)資料、(c)資料、(d)資料及び(e)WEBページを参照して下さい。加えて標記「香料の化学」についてはWEBページを参照して下さい。ちなみに、後者のWEBページにおいては、ニオイのある化学種について次に引用(『 』内)する記述があります。 『ニオイのある化学種は約40万種以上あるといわれています。さまざまな分子構造の違いがニオイというものを形作っています。』 さらに、標記「人体から発生するにおい物質」について、斉藤幸子、小早川達編の本、「味嗅覚の科学 人の受容体遺伝子から製品設計まで」(2018年発行)の 第2章 味・におい物質とその受容機構 の 2.1 味物質とにおい物質 の「d. 人体から発生するにおい物質」における記述(P59)を以下に引用します。ただし、引用中の化学構造式における下付き文字は半角文字を代用します。

d. 人体から発生するにおい物質
不快な口臭の原因となるにおい物質は,食べかすなどを細菌が分解することで生成するメチルメルカプタン,硫化水素,ジメチルスルフィド(表2.4)などの含硫化合物である.また,40代以降で脂臭いような不快臭(加齢臭とも呼ばれる)が認められるようになるのは trans-2-ノネナール(CH3(CH2)5CH=CHCHO,18829-56-6)が体臭中に増加するためである(Haze et al., 2001).疾病によって人体から発生するにおい物質もある.糖尿病性ケトアシドーシスではアセトン(CH3COCH3,67-64-1)などのケトン類が呼気に検出されるが,疾病により体外へ排出される汗,呼気.尿などに生じる揮発性物質の中でにおいが強いものは 主にトリメチルアミン(表2.4)などの含窒素化合物,ジメチルスルフィドなどの含硫化合物,揮発性のカルボン酸である(Shirasu & Touhara, 2011).

注:i) この引用部の著者は吉井文子です。 ii) 引用中の「表2.4」の引用は省略します。ただし、引用中の「ジメチルスルフィド」の CAS No. は「75-18-3」であり、引用中の「トリメチルアミン」の CAS No. は「75-50-3」です。なお、上記「CAS No.」(CAS 登録番号)については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「CAS 登録番号 (CAS RN®) とは - 化学情報協会 よくあるご質問」 iii) 引用中の「Haze et al., 2001」は次の論文です。 「2-Nonenal newly found in human body odor tends to increase with aging.」 iv) 引用中の「Shirasu & Touhara, 2011」は次の論文です。 「The scent of disease: volatile organic compounds of the human body related to disease and disorder.」 v) 引用中の「糖尿病性ケトアシドーシス」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「糖尿病の急性合併症のはなし」の「糖尿病ケトアシドーシス」項 vi) ちなみに、 a) 悪臭防止法に基づく悪臭物質の規制基準については、例えば次の資料を参照して下さい。 「悪臭防止法に基づく悪臭物質の規制基準」 なお、この資料中にリストアップされている悪臭物質には、引用中の「メチルメルカプタン」、「硫化水素」、「トリメチルアミン」が含まれます。一方、これらの物質の嗅覚閾値濃度の例は共にここを参照して下さい。 b) 上記「硫化水素」の中毒における曝露濃度についてはここを参照して下さい。 c) 引用中の「人体から発生するにおい物質」に関連するかもしれない「ヒト皮膚から放散する微量生体ガス」については次の資料を参照して下さい。 「ヒト皮膚から放散する微量生体ガスと臨床環境

(4)「森林浴」及び「森林セラピー」に関連する様々な資料のご紹介
参照参照参照参照参照 ちなみに、大気中フィトンチッドの成分についてはここの⑰を参照して下さい。

(5)メディカル・アロマセラピー及びアロマセラピー精油の成分に関連する様々な資料のご紹介*36
標記前者の資料を次に紹介します。 「アロマセラピーによる医療」、「ベルガモット精油の蒸気が自律神経系および情動に及ぼす効果」 加えて、メディカル・アロマセラピーに関連する論文例はここを参照して下さい。

加えて、後者の資料を次に紹介します。 「アロマテラピーに関する研究第一報 慣用精油10種類の成分と作用に関する知見

(6)「プルースト現象」、「味覚と嗅覚の連合学習」、「ニューロ・ガストロノミー」(NEUROGASTRONOMY、参照)、PTSD と臭気との関連、「ルール支配行動」、感覚の認知、瞑想における問題、「放逸」についての様々なご紹介
ちなみに、「プルースト現象」(又は「プルースト効果」)とは、においとの遭遇を契機として、過去に経験した出来事があたかもそれを追体験しているかのように、ありありと思い出されることを言うようです。この「プルースト効果」について、三品昌美編の本、「分子脳科学 分子から脳機能と心に迫る」(2015年発行)の 7章 嗅覚系:感覚入力から行動に至る分子基盤と神経回路 の「7.7 嗅覚の学習記憶と嗅覚神経回路の可塑性」における記述の一部(P83)を次に引用します。

7.7 嗅覚の学習記憶と嗅覚神経回路の可塑性
匂いの感覚は決して固定されたものではない.たとえば,匂いの感度や弁別能は訓練によって向上する.ワインのソムリエ,化粧品会社や香料会社の調香師などの専門家は,訓練を通じてわずかな匂いを検出でき,匂いの微妙な違いを区別できるようになった人である.また,匂いに対する情動・行動応答も状況によって変化する.ある匂いを報酬(甘い水など)と関連づけると,動物はその匂いが好きになって匂いに対して誘引行動をとるようになる.反対に,同じ匂いを侵害刺激(電気ショックなど)と関連づけると,動物はその匂いを嫌いになって匂いに対して忌避行動をとるようになる.食べ物の好き嫌いも,小さいころの嗅覚味覚体験によって大きく左右されると考えられている.嗅覚行動は生物の生存に直結しているので,匂い環境の変化に応じて適切な嗅覚行動を新たに獲得していくことは生物にとって必須の能力であり,嗅覚神経回路には高い可塑性が求められる.
また,匂いの記憶は強い記憶として残る.言語材料による記憶に比べ,匂いの記憶は長期間持続し,忘れにくいことが知られている.さらに,古い記憶を呼び起こすきっかけとしての匂い記憶の役割も大きい21).有名な例は,フランスの作家プルーストの『失われた時を求めて』の,マドレーヌを紅茶にひたして口の中に入れたときに幼い日々の記憶がまざまざとよみがえったというくだりである.以来,匂いをきっかけとした強力な記憶想起は「プルースト効果」と呼ばれている.視覚,触覚などさまざまな感覚が古い記憶を呼び起こすきっかけとなるが,匂いによる想起は情動的,つまり物事のディテールとともにそのときの感情も一緒に思い起こし,あたかも過去のことを追体験したように感じる,ということが多いようである.匂いによる記憶想起の際には扁桃体-海馬複合体が強く活性化されるという観察がある.
これらのことから,嗅覚系はその学習記憶機構,神経回路の可塑性,情動記憶との結びつきなど,多くの興味深い題材を含んでいる.(後略)

注:(i) この引用部の著者は山口正洋です。 (ii) 引用中の「プルースト効果」については例えば次のWEBページ、資料を参照して下さい。 「においと記憶」、「ニオイの感覚研究の最近の展開 ―ニオイの感覚は経験・学習に依存する―」の「3.2 ニオイにより喚起される自伝的記憶」項 加えて、これと類似した「プルースト現象」については、例えば次のWEBページ、資料を参照して下さい。 「プルースト現象における記憶想起の特徴について」、「においによる自伝的記憶の無意識的想起の特性:プルースト現象の日誌法的検討」、「半構造化面接法によるプルースト現象の特徴の検討」、「嗅覚刺激による自伝的記憶の無意図的想起:匂いの同定率・感情価・接触頻度の影響」、「匂い手がかりによって喚起される自発的記憶特性質問紙(OEAMQ)の開発」、「嗅覚と自伝的記憶に関する研究の展望 ――想起過程の再考を中心として――の「2. 自伝的記憶における匂い手がかりの有効性を検討した研究」項 ちなみに、 a) 酒の匂いに関連するフラッシュバックについては、他の拙エントリのここにおけるリンク先の資料の <症例3> の ③ i. 項(P5)において、「酒の匂いでフラッシュバックしやすい。」との記述があります。 b) 上記プルースト効果とフラッシュ・バックのような症状との関連について、平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第1章 生活を彩る香り の「1-2 香りの持つ不思議な力」における記述の一部(P18)を次下に引用(『 』内)します。 『よく記憶のフラッシュ・バックということが言われますが、「香り」が引き金になり、フラッシュ・バックを起こすのがプルースト効果です。これまでに筆者が周囲の人達に聞いたところ、皆さん類似した経験を持っているようです。後でも述べますが、他の感覚と嗅覚は大きく異なり、「におい」は大脳新皮質を経ないで、記憶を支配する海馬領域や感情を支配する扁桃体に直接的に伝わるため、いわゆるフラッシュ・バックのような症状を示すと考えられています。』 c) においとトラウマ記憶との関連については、次の資料を参照して下さい。 「においのトラウマ記憶に関する実態調査ならびに実験的検討」 (iii) 引用中の「扁桃体」、「海馬」については、トラウマの視点からは共にここを参照して下さい。 (iv) 引用中の「ある匂いを報酬(甘い水など)と関連づけると,動物はその匂いが好きになって匂いに対して誘引行動をとるようになる.反対に,同じ匂いを侵害刺激(電気ショックなど)と関連づけると,動物はその匂いを嫌いになって匂いに対して忌避行動をとるようになる.」に関連するかもしれない「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 (v) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 (vi) 引用中の「情動記憶が想起」に関連する「記憶想起」については、次のWEBページを参照して下さい。 「記憶想起 - 脳科学辞典」 (vii) 引用中の「情動記憶」に関連する「匂いなどに遭遇することによって,情動記憶が想起される」ことについて、三品昌美編の本、「分子脳科学 分子から脳機能と心に迫る」(2015年発行)の 10章 扁桃体を中心とした前脳領域による恐怖記憶制御 の「10.1 情動記憶とは」における記述の一部(P111)及び「10.2 恐怖記憶モデル系」における記述の一部(P111)を以下に引用します。加えて、これに関連するかもしれない「匂いの知覚は情動により支配される」についてはここここを参照して下さい。さらに、これに相当する「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。 「情動的記憶 - 脳科学辞典」 (viii) 引用中の「嗅覚」について、髙木繁治監修の本、「病気を見きわめる 脳のしくみ事典」(2017年発行)の 第1部 脳のしくみ事典 第5章 五感が伝わるしくみ の「嗅覚のしくみ」における記述の一部(P69)を次に引用(『 』内)します。 『「におい」を感知する嗅覚は、五感の中で唯一、大脳新皮質ではなく、大脳辺縁系と直接つながっています。大脳辺縁系は感情や欲など本能的なことを担当する部位だけに、一度不快と感じたにおいはその後も理屈抜きに嫌いになったり、においで昔の出来事を思い出したりするという現象につながります。』 (ix) 引用中の「嗅覚の学習記憶」に関連するかもしれない、 a) 「育まれるにおいの快不快」については、北岡明佳編著の本、「いちばんはじめに読む心理学の本5 知覚心理学 心の入り口を科学する」(2011年発行)の 10章 嗅覚 の 4 においの快不快 の「(1) 育まれるにおいの快不快」における記述の一部(P170~P171)を以下に引用します。 b) 「においの好み」について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第2章 人間のにおいの感じ方 の「2-7 カナダ、イヌイットの嗅力」における記述の一部(P40)を次に引用(『 』内)します。 『②においの好みについて イヌイットの人びとのにおいの好みについても興味深い結果が得られた。日本人が特に不快と感じている「イソ吉草酸」のにおいについて、イヌイットは意外とそうではない結果が得られている。』(注:1) 同本の P40~P41 によると、日本におけるイソ吉草酸のにおいは「靴下の蒸れたにおい」と表現され、代表的な悪臭物質として扱われているようです。これに対し、イヌイットにおいては、好物であるクジラの皮に近いマクタックという食べ物のにおいに近いことが関係しているようです。 2) 「イソ吉草酸」の嗅覚閾値濃度についてはここを参照して下さい。)

10.1 情動記憶とは(中略)

情動記憶とは,情動の変化を伴った体験の記憶である.情動記憶とは一種の条件づけ記憶であり,情動体験した際の「情動」と体験時に五感で感じた「状況(文脈)」とが関連づけられた記憶である.情動体験した場所を再訪する,あるいは情動体験時の音や匂いなど(cue)に遭遇することによって,情動記憶が想起される.本章では,情動記憶の中でも最も研究が進んでいる「恐怖記憶」にフォーカスして,恐怖記憶制御のメカニズムと,恐怖記憶制御において中心的な役割を果たしている扁桃体,海馬,前頭前野皮質の役割を解説する.

10.2 恐怖記憶モデル系
恐怖記憶制御は昆虫から高等生物に至る生物に備わる本能的行動の一つである.恐怖体験を記憶することで,一種の防御反応として,危険を回避することが可能となる.恐怖記憶は,恐怖体験時の「恐怖」とそのときの「文脈」とが関連づけられた条件づけ記憶である.恐怖体験した文脈や,文脈中の手がかり(音や匂い)に遭遇すると,恐怖記憶が想起され,恐怖反応を表出する.

注:(i) この引用部の著者は喜田聡です。 (ii) 引用中の「扁桃体」、「海馬」については、トラウマの視点からは共にここを参照して下さい。 (iii) 引用中の「前頭前野皮質」に関連した「前頭皮質」については、PTSD又は複雑性PTSDの視点からここを参照して下さい。 (iv) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えてメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 (v) 引用中の「情動記憶が想起」に関連する、 a)「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。 「情動的記憶 - 脳科学辞典」 ちなみに、「情動記憶」又は「情動的記憶」は非陳述記憶に分類されることについては、次のWEBページを参照して下さい。 「陳述記憶,非陳述記憶」 b) 加えて、これに関連する「記憶想起」については、次のWEBページを参照して下さい。 「記憶想起 - 脳科学辞典」 (vi) 引用中の「恐怖記憶」及び「条件づけ記憶」に関連する「恐怖条件づけ」については、次のWEBページを参照して下さい。 「恐怖条件づけ - 脳科学辞典

(1) 育まれるにおいの快不快(中略)

においに対する快不快反応に大きな個人差が見られることは,生育環境や食生活の中でにおいの知覚学習が行われている結果と考えられる。新川ら(1988)は,ワカサギと茎ワカメを切って水に浸し濾過して作った溶液のにおいに対して,海辺で育った人は「磯や海苔のにおい」と受けとめ,さほど不快ではないと感じたのに対して,育った環境の近くに海岸がなかった人は「腐敗,下水のにおい」と受け止め,不快と感じるケースが多かったと報告している。日常的なにおいに対する反応を日本人とドイツ人で比較した研究(Ayabe-Kanamura et al., 1998)では,18種類のにおいの強さ,馴染みの程度,快不快度,そのにおいのするものが食べられると思うか,何のにおいか(同定)について回答を求めた。日本人とドイツ人の間で見られた反応の差異は,快不快度と食べられるかの評定において顕著だった。たとえば,かつおぶしのにおいに対して,日本人の68%は「かつおぶし」と同定し,快不快度については,平均的には快でも不快でもない程度と評定し,95%の人が「このにおいのするものは食べられる」と回答した。一方,ドイツ人の60%は「何かが腐ったにおい」と同定し,非常に不快と評定し,41%の人しか「食べられる」と回答しなかった。そのにおいが「何」のにおいかという情報はにおいに対する嗜好判断に影響し,そのにおいが「何」のにおいかという受け止め方や好き嫌いは後天的要因の影響を強く受けることがわかる。
身体に無害という観点から,アメリカで国防省がサポートした「におい爆弾」開発プロジェクトがあり,普遍的に嫌われるにおい物質を探し出す研究が行われた(Science Observer, 2002)。腐敗した有機体のにおいがもっとも嫌われる傾向があったが,文化・地域・人種に共通な絶対的な悪臭の発見には至らなかった。自分にとって利益のあるものはそのにおいまでもがいいにおいであり,不利益をもたらすものであればそのにおいは悪いにおいなのである。自分にとって利益のあるものが他の人にとっても利のあるものとは限らないので,必然的ににおいに対する嗜好もバラエティーに富む。人間以外の動物では,生体に不利益もしくは危害をもたらすものは,人間のように個体によって異なるというケースはほとんどなく,生得的な反応が観察されるであろう。人間にもこのような要素がないと否定はできないが,学習的要因の影響が強く,生得的反応は遮蔽されてしまっていると考えられる。

注:(i) この引用部の著者は綾部早穂です。 (ii) 引用中の「Ayabe-Kanamura et al., 1998」は次の論文です(PubMed では検索できないようです)。 「Ayabe-Kanamura, S., Schicker, I., Laska, M., Hudson, R., Distel, H., Kobayakawa, T., & Saito, S. 1998 Differences in perception of everyday odors: A Japanese-German cross-cultural study. Chemical Senses, 23,31-38.」 (iii) 引用中の「Science Observer, 2002」は次の雑誌のコラムです「Science Observer(雑誌中のコラム)2002 Science that stinks. American Scientist, 90(3), 225.」 (iv) 引用中の「知覚」については、次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 (v) 引用中の「快不快」については、次のWEBページを参照して下さい。「快・不快 - 脳科学辞典」 (vi) 引用中の「学習的要因」に関連して、同章における記述の一部(P176)を次に引用(『 』内)します。 『嗅覚は「原始的な感覚」であると言われ,生得的に決定されている要素が強いと考えられていることが多いが,実際には,経験や学習によって後天的に形成されるトップダウン的要因も大きいことがわかるであろう。』 (vii) 上記綾部早穂が実施したにおいのトラウマ記憶に関する研究課題例については、次のWEBページを参照して下さい。 「においのトラウマ記憶に関する実態調査ならびに実験的検討」 (viii) 引用中の「においに対する嗜好」に関連するかもしれない、魚のソースを好むか好まないのかについては、ここを参照して下さい。加えて、ヨーロッパ人と日本人の間には、香りに対する快不快度がまったく異なる匂いがあることについて、伏木亨編の本、「食の文化フォーラム36 匂いの時代」(2018年発行)の 第Ⅰ部 匂いの科学 の 第1章 匂いの遺伝子と脳 の「9 匂いの経験と記憶」における記述の一部(P30)を次に引用(『 』内)します。 『また、ヨーロッパ人と日本人の間には、香りに対する快不快度がまったく異なる匂いがある。たとえば、カビ臭い教会の匂いやアニスの匂いは日本人よりヨーロッパ人が好むのに対して、納豆やほうじ茶の匂いは日本人のほうが好む。これは、その匂いを経験して育ったかどうかが影響していることを示している。つまり、ヒトは、匂いの価値を経験依存的に意味記憶として脳に蓄えているのである。』(注:この引用部の著者は東原和成です) (ix) 引用中の「におい爆弾」について、新村芳人著の本、「嗅覚はどう進化してきたのか 生き物たちの匂い世界」(2018年発行)の 第3章 匂いを感じるしくみ の「匂いの快・不快」における記述の一部(P68)を次に引用(『 』内)します。 『米国で匂い爆弾の開発プロジェクトがあり、これに使用するための匂いの探索が行われた。腐敗した有機体の匂いが最も嫌われることが示されたが、絶対的な悪臭の発見には至らなかったという。』 (x) 引用中の「生育環境や食生活の中でにおいの知覚学習が行われている」ことに関連する「嗅覚の学習記憶と嗅覚神経回路の可塑性」についてはここを参照して下さい。 (xi) 引用中の(においに対する嗜好は)「学習的要因の影響が強く」に関連する、 a) 「ニオイの感覚は経験・学習等に依存する」については次の資料を参照して下さい。 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」の「2.3 ニオイの感覚」項、「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」の「4. 考察」項 b) 加えて、「ウンチの匂いは、赤ちゃんにとっては忌避すべき匂いではない」ことについては上記綾部早穂が第一著者である次の資料を参照して下さい。 「2歳児のニオイの選好 -バラの香りとスカトールのニオイのどちらが好き?-」 なお、この資料に関する短い紹介について、 1) 伏木亨編の本、「食の文化フォーラム36 匂いの時代」(2018年発行)の 総括 「匂いの時代」とは の「6 匂いの好悪や価値判断は学習が重要」における記述の一部(P192~P193)を次に引用(【 】内)します。 【筑波大学などの研究によると、排泄物の匂いとバラの匂いの好悪の判断は後天的な教育や経験に依存しており、二歳児以下では好悪の違いが明らかではないことが示されている。実験は筑波大学と産業技術総合研究所のグループによって行われ、「二歳児のニオイの選好」として『感情心理学研究』誌に発表されている[綾部ら 二〇〇三]。二つの箱の中に、一方はバラのニオイの主要成分であるβフェニルエチルアルコールのニオイを充満させ、もう一方にはウンチの主成分であるスカトールのニオイを満たした実験系を設定した。箱の中では子どもにとってとくに好き嫌いがないような何種類もの短いビデオが画面に写されており、両方の箱でのビデオ視聴を経験させた後で、次にどちらの箱でのビデオ鑑賞を選ぶかという設定である。二歳児は二つの場所の選択肢に有意な差がなかった。】(注:この引用部の著者は伏木亨です) 2) 新村芳人著の本、「嗅覚はどう進化してきたのか 生き物たちの匂い世界」(2018年発行)の 第3章 匂いを感じるしくみ の「匂いの快・不快」における記述の一部(P67~P68)を次に引用(【 】内)します。 【ウンチの匂いは誰にとっても悪臭ではないか、と思うかもしれない。しかし、ウンチの匂いは、赤ちゃんにとっては忌避すべき匂いではない。筑波大学の綾部早穂らは、2歳前後の幼児29人を被験者として次のような実験を行った。段ボール箱で二つのビデオ上映ボックスを用意し、一方にはバラの香り(フェネチルアルコール)、他方にはウンチの匂い(スカトール)を充満させておく。幼児がそれぞれのボックスで同じ内容のビデオを見たあと、どちらのボックスでもう一度ビデオを見たいかを選んでもらう。すると、母親の9割近くはウンチのボックスをより不快に感じたにもかかわらず、幼児はどちらのボックスを選択するかは半々で、特定の好みは見られなかった。ウンチの匂いを不快に感じるのは、生まれた後の学習によって身につけたものだと考えられる。ウンチの匂いは、トイレという、汚くて避けるべき場所といつも一緒に現れる。そうすると、いつのまにか脳はウンチの匂いを避けるべきものと感じるようになってしまうのだ。これを「連合学習」という。】 c) さらにこれらに関連するかもしれない、味覚と嗅覚の連合学習について、斉藤幸子、小早川達編の本、「味嗅覚の科学 人の受容体遺伝子から製品設計まで」(2018年発行)の 第1章 味・においの知覚と認知 の「1.4.3 味覚と嗅覚の連合学習」における記述(P48~P49)を次に引用します。

1.4.3 味覚と嗅覚の連合学習
味覚が嗅覚に影響を与える場合にも,嗅覚が味覚に影響を与える場合にも,それらの間に一致(調和)が重要であることはすでに述べたとおりである.この一致(調和)は化学的な要因というよりも,日常の食経験によって学習されるものであると考えられている(Frank & Byram, 1988 など).そこで,Stevenson らは,学習心理学の観点から行った種々の実験から,嗅覚が味覚の特性を獲得するのは古典的条件づけに基づくものであることを明らかにした(レビューとして Stevenson, 2009).簡単に述べると,味覚と嗅覚間の学習は 意識しない対提示によって獲得されること,要素の事前提示によって学習は遅延することなどの古典的条件づけに典型的な特性を備えながら,比較的少ない対提示数で獲得できる,消去抵抗が強いなどの特徴も備えている.後者の特徴は,食物嫌悪学習や PTSD など 生体の生存に重要な学習においてもみられるため,味覚と嗅覚の間の学習は生物学的に重要な学習であることが示唆される(坂井, 2009).また味覚と嗅覚の連合の結果生じる知覚は,感覚モダリティの違いを超越して統合されるため,「学習された共感覚(learned synesthesia)」と名づけられた(Stevenson & Tomiczek, 2007).
最近 Stevenson らはこのような学習を認知心理学の概念を使って,「再統合性の学習(redintegrative learning)」とも呼んでいる(Stevenson, 2009 ; Prescott & Stevenson, 2015).嗅覚の一手がかりから,その食物のもつ風味全体の記憶を再統合し,脳内に再生するという考えである.たとえば嗅覚の場合.鼻孔から吸気に伴って届けられた化学物質によって生起する前鼻腔性嗅覚は外界の認知,口腔から呼気に伴って届けられた化
学物質によって生起する後鼻腔性嗅覚は食物の認知にそれぞれ関連すると考えられてきた(たとえば Rozin, 1982)が,前鼻腔性嗅覚も味覚と交互作用を示すことを明らかにする研究も多い(たとえば Sakai et al., 2001 ; 最近のレビューは鈴木, 2016 を参照).このような矛盾こついても,再統合性の学習という概念から解釈できる.つまり,前鼻腔性に喚起されたにおい表象が,そのにおい表象を含む風味の記憶を再統合させることによって,風味表象を活性化し,その結果味覚が増強されて感じられるのである.
さらに.この概念には単に感覚モダリティ間の統合という意味だけでなく.先に述べた注意や食物イメージの喚起という機能も含まれるため.これまでは他の研究とされてきた,風味と栄養間の学習,風味と薬効間の学習,食物嫌悪学習.食物安全学習など広い現象も含有できる.つまり,風味知覚は食物のもつ感覚特徴というよりも,食物そのものを表すものであるともいえるだろう.再統合性の学習という観点からの味覚と嗅覚の連合に関する研究は、この節のはじめの部分に述べたギブソンのアフォーダンスにもつながる分野へと発展している.

注:i) 次項を含めてこの引用部の著者は坂井信之です。 ii) 同章の「1.4 味覚・嗅覚の相互作用」において、引用中の「ギブソンのアフォーダンス」を説明する次に引用(『 』内)する記述(P44)があります。 『ギブソンは,本節で述べるような味覚・嗅覚の相互作用によって形成される風味知覚は,単に味覚や嗅覚などの化学感覚ではなく,人の味わうという能動的な能力の表れで,それ自体にアフォードされた(あるいは食物をアフォードする)ものであると考えた(Gibson, 1966).』[注:引用中の「Gibson, 1966」は次の本です。 「Gibson, J.J. (1966). The senses considered as perceptual systems. Houghton Mifflin.(ギブソン, J. J. 佐々木 正人・古山 宣洋・三嶋 博之(監訳)(2011). 生態学的知覚システム――感性をとらえなおす―― 東京大学出版会」] 加えて、引用中の「アフォーダンス」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「ギブソン生態心理学の基礎」 iii) 引用中の「Frank & Byram, 1988」は次の論文です。 「Taste-smell interactions are tastant and odorant dependent」 iii) 引用中の「Stevenson, 2009」は次の本です。 「Stevenson, R. J. (2009). The psychology of flavour. Oxford : Oxford University Press.」 iv) 引用中の「坂井, 2009」は次の資料です。 「坂井信之 (2009). 食における学習性の共感覚 日本味と匂学会誌, 16, 171-178.」 v) 引用中の「Stevenson & Tomiczek, 2007」は次の論文です。 「Olfactory-induced synesthesias: a review and model.」 vi) 引用中の「Prescott & Stevenson, 2015」は次の本です。 「Prescott, J., Stevenson, R. (2015). Chemosensory integration and the perception of flavor. In R. L. Doty (Ed.), Handbook of olfaction and gustation (3rd ed., pp. 1007-1026). New Jersey : Wiley blackwell.」 vii) 引用中の「Rozin, 1982」は次の論文です。 「"Taste-smell confusions" and the duality of the olfactory sense.」 viii) 引用中の「Sakai et al., 2001」は次の論文です。 「Enhancement of sweetness ratings of aspartame by a vanilla odor presented either by orthonasal or retronasal routes.」 ix) 引用中の「鈴木, 2016」は次の資料です。 「鈴木 隆 (2016). 嗜好品と香り/嗜好品の香り 嗜好品文化研究, 1, 2-10.」 x) 引用中の「風味」については、次の資料を参照すると良いかもしれません。 「風味の快楽」 xi) 引用中の(味覚と嗅覚の連合学習)における「古典的条件づけ」に関連する、「嗅覚嫌悪条件付け」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

一方、上記プルースト現象(Proust phenomenon)に関連する、 a) 新しい風味の科学である標記「ニューロ・ガストロノミー」(NEUROGASTRONOMY)における嗅覚路での、想起できる記憶に再フォーマットすることを含む「においイメージの処理」について、ゴードン・M・ジェファード著、小松淳子訳の本、「美味しさの脳科学 NEUROGASTRONOMY においが味わいを決めている」(2014年発行)の 第9章 においのイメージは点描画 の「においのイメージから知覚へ」における記述の一部(P131)を以下に引用します。 b) 臭い想起記憶(odor-evoked memory)についての論文の要旨を以下に紹介します。

においのイメージから知覚へ

嗅覚以外のどの感覚でも、脳は経時的な処理段階によって、刺激を検出・識別し、緊急の要求を満たすために最も重要な情報を抽出する。嗅覚路でも同様に、「においのイメージは」一連の段階を経て処理される。(中略)
第一段階は嗅球におけるにおいの初期イメージの処理だ。糸球体モジュールの層でイメージが形成される。次いで、側方抑制を行う微少回路の強力なシステムがこのイメージを強調する。強調されたイメージは嗅皮質に送られる。嗅皮質では、広範囲にわたる神経結合を持つ微少回路がイメージを内容参照可能記憶、つまり事物の内容そのものを想起できる記憶に再フォーマットする。この記憶表象が新皮質の最高次の中枢に送られ、そこで複雑な皮質微少回路が意識的知覚を生じさせる。これが最終段階だ。
要約して言えば、点描イメージを形成し、局所で処理し、全体的にフォーマットし、記憶に表象し、情動によって強調し、意識的に知覚するわけだ。(後略)

注:i) 引用中の「嗅球」及び「糸球体」については、マウスにおいてですが例えば次の資料を参照して下さい。 「味とにおいの奏でる食のハーモニー(味わいの脳科学)」の「図3 マウスの嗅覚系」 加えて、上記以外にも引用中の「嗅皮質」を含めて例えば次のWEBページを参照して下さい。 「嗅球 - 脳科学」 ii) マウスでのにおいにおける引用中の「イメージ」「記憶」及び「情動」については、共に例えば次の資料を参照して下さい。 「嗅覚の匂い受容メカニズム」の「図4 マウスの嗅覚における脳へのシグナル伝達部位」 iii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

①「The Role of Odor-Evoked Memory in Psychological and Physiological Health.[拙訳]心理的及び生理的な健康における臭い想起記憶の役割」(全文はここを参照して下さい)

This article discusses the special features of odor-evoked memory and the current state-of-the-art in odor-evoked memory research to show how these unique experiences may be able to influence and benefit psychological and physiological health. A review of the literature leads to the conclusion that odors that evoke positive autobiographical memories have the potential to increase positive emotions, decrease negative mood states, disrupt cravings, and reduce physiological indices of stress, including systemic markers of inflammation. Olfactory perception factors and individual difference characteristics that would need to be considered in therapeutic applications of odor-evoked-memory are also discussed. This article illustrates how through the experimentally validated mechanisms of odor-associative learning and the privileged neuroanatomical relationship that exists between olfaction and the neural substrates of emotion, odors can be harnessed to induce emotional and physiological responses that can improve human health and wellbeing.


[拙訳]
この記事では、臭い想起記憶の特別な特徴、そしてこれらのユニークな体験がいかにして心理的及び生理学的健康に影響を及ぼし、恩恵を受ける可能性があるかもしれない臭気想起記憶研究における現在の最高技術について論ずる。ポジティブな自伝的記憶を想起する臭いは、ポジティブな情動を増強し、ネガティブな気分状態を低下させ、渇望を崩壊させ、炎症の全身性マーカーを含むストレスの生理学的指標を低下させる可能性を有する結論を、文献のレビューは導く。治療的適用において考慮する必要があるだろう嗅覚知覚要因及び個体差特性も論じる。嗅覚連合学習の実験的に確認されたメカニズム及び嗅覚と情動の神経基盤との間に存在する特権を与えられた神経解剖学的な関係を通して、いかにして臭いをヒトの健康及びウェルビーイングを改善しうる情動的及び生理的な応答の誘発に利用することが可能かを、この記事は説明する。

注:i) 引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「ウェルビーイング」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「Well-being 研究」 加えて、これに関連する「主観的ウェルビーイング」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「大学病院におけるマインドフルネス認知療法の取り組み 不安障害,ウェルビーイングを中心に」 iv) ちなみに、引用はしませんが、論文の「1. Introduction」において、Proust phenomenon は odor-evoked memory でもあることが示されています。

加えて、PTSD と臭気との関連についての論文の要旨を次に紹介します。
①「Odor-induced recall of emotional memories in PTSD-Review and new paradigm for research.[拙訳]PTSD の評価及び研究の新パラダイムにおける情動的記憶の臭気誘発回想」

It is clinically well known that olfactory intrusions in PTSD can be a disabling phenomena due to the involuntary recall of odor memories. Odorants can trigger involuntary recall of emotional memories as well have the potential to help diminishing emotional arousal as grounding stimuli. Despite major advances in our understanding of the function of olfactory system, the study of the relation of olfaction and emotional memory is still relatively scarce. Odor memory is long thought to be different than other types of memories such as verbal or visual memories, being more strongly engraved and more closely related to strong emotions. Brain areas mediating smell memory including orbitofrontal cortex and other parts of medial prefrontal cortex, hippocampus and amygdala, have been implicated in learning and memory and are part of a neural circuitry that is involved in PTSD. The olfactory cortex itself also plays an important role in emotional processing. Clinical observations support the notion that odor-evoked memories can play a role in the symptomatology of PTSD. This paper reviews a re-emerging body of science linking odor processing to emotional processing in PTSD using the calming and grounding effect of odors as well as the use of odors in augmented exposure therapy. This results in converging evidence that olfaction is an excellent model for studying many questions germane to the field of human emotional memory processing.


[拙訳]
PTSD における嗅覚の侵入は、臭気記憶の非自発的回想による不自由な現象であり得ることは臨床的に周知である。臭気は情動的記憶の非自発的回想を誘発することができ、また、グラウンディング刺激としての情動的覚醒を減少させるのを助ける可能性がある。嗅覚系の機能の理解に大きな進歩があったにもかかわらず、嗅覚と情動記憶との関係の研究は未だ比較的少ない。臭気記憶は、強く刻み込まれ、強い情動に密接に関連しており、言語記憶又は視覚記憶等の他の種類の記憶とは異なると長い間考えられている。眼窩前頭皮質及び内側前頭前皮質、海馬及び扁桃体の他の部分を含むにおいの記憶をメディエイトする脳領域は、学習及び記憶に関与しており、そして PTSD において関与する神経回路の一部である。嗅覚皮質自体も、情動的な処理において重要な役割を果たす。PTSD の症候学において、臭気誘発記憶が役割を果たし得るという考えを、臨床観察は支持する。増強された曝露療法における臭気の使用のみならず、臭気の落ち着き及びグラウンディング効果を利用した PTSD における情動処理と臭気処理とが結びついた科学の再興する主体を、この論文はレビューする。嗅覚がヒトの情動的記憶の処理の分野に密接に関連した多くの疑問の研究にとって優れたモデルであることのエビデンスの収束を、これはもたらす。

注:i) 引用中の「PTSD」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 ii) 引用中の「情動的記憶」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動的記憶 - 脳科学辞典」 加えて、引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、PTSD又は複雑性PTSDの視点からは、ここここを参照して下さい。 iii) 引用中の「グラウンディング」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「内側前頭前皮質」については、他の拙エントリのここここを参照して下さい。 vi) 引用中の「海馬」及び「扁桃体」については、共にここを参照して下さい。

②「Odour as a determinant of persistent symptoms after a chemical explosion, a longitudinal study.[拙訳]化学爆発後の持続性症状の決定的要因としての臭気、縦断研究」

Foul-smelling environmental pollution was a major concern following a chemical workplace explosion. Malodorous pollution has previously been associated with aggravated physical and psychological health, and in persons affected by a trauma, an incidence-related odour can act as a traumatic reminder. Olfaction may even be of significance in the development and persistence of post-traumatic stress symptoms (PTSS). The present longitudinal study assessed whether perceived smell related to malodorous environmental pollution in the aftermath of the explosion was a determinant of subjective health complaints (SHC) and PTSS among gainfully employed adults, when the malodorous pollution was present, and after pollution clean-up. Questionnaire data from validated instruments were analysed using mixed effects models. Individual odour scores were computed, and the participants (n=486) were divided into high and low odour score groups, respectively. Participants in the high odour score group (n=233) reported more SHC and PTSS than those in the low odour score group (n=253), before and even after the pollution was eliminated. These associations lasted for at least three years after the pollution was removed, and might indicate that prompt clean-up is important to avoid persistent health effects after malodorous chemical spills.


[拙訳]
悪臭のする環境汚染は、化学職場の爆発の後での大きな懸念事項だった。悪臭のする汚染は、以前の身体的及び心理的な健康状態の悪化に関連しており、そして心的外傷の影響を受けた人では、(事故)発生関連の臭いが心的外傷性のリマインダー(訳注:思い出させるもの)として働く可能性がある。嗅覚は、心的外傷後ストレス症状(PTSS)の発症及び持続において本当に重要であるかもしれない。本縦断研究では、爆発後における悪臭のする環境汚染に関連する知覚された匂いが、悪臭のする汚染が存在した時、そして汚染の清掃の後に、有給で雇用された成人の間での主観的健康苦情(SHC)及び PTSS の決定的要因であるかどうかを評価した。検証された機器からのアンケートデータは、混合効果モデルを用いて解析された。個々人の臭気スコアは計算され、そして被験者(n=486)は、高い臭気スコアグループと低いグループにそれぞれ分類された。高い臭気スコアグループの被験者(n=253)は、汚染除去前そして除去後でさえも、低い臭気スコアグループの被験者(n=233)よりも、より多くの SHC 及び PTSS を報告した。これらの関連は、汚染が除去されてから少なくとも3年間持続し、そして悪臭のする化学物質放出後の持続性の健康影響を避けるために迅速な清掃が重要であることをひょっとして示しているかもしれない。

注:i) 引用中の「n=486」、「n=233」及び「n=253」は共に人数を指します。 ii) 「心的外傷後ストレス症状」に関連する「PTSD」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 iii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

一方、「ルール支配行動」について、熊野宏昭著の本、「マインドフルネスそしてACTへ」(2011年発行)の 第二章 言葉が自分を作り上げる の「バーチャルな現実によるコントロール」における記述の一部(P40~P42)を次に引用します。

バーチャルな現実によるコントロール(中略)

一方でわれわれは、人から聞いた話や、自分で考えた予想によって行動をコントロールすることができます。例えば、「おばあちゃんが、あの辺りは危ないから近づかないほうがいいと言っていたから、一度も行ったことがない」といった場合です。これは予め見通しを与えるフィードフォワードによるコントロールと言ってもよく、自分で経験したことがない状況にも対応できますので、とても効率のよいものです。このように、「ある状況で特定の行動をすると、それに応じた結果が得られる」という言葉による見通しのことを「ルール」と呼び、これによってコントロールされた行動のことを「ルール支配行動」といいます。
しかし、ちょっと考えてみれば、この方法がいつもうまくいくとは限らないことも分かるでしょう。自分で経験していないから、本当に正しいのかどうか実は分からないからです。この事情を説明したのが「百聞は一見にしかず」という有名な言葉で、実際にやってみるのと考えていたのとはまったく違った結果になることがあるということを意味しています。しかし、このような言葉があること自体、一度思い込むとなかなか修正できないということも意味しているのです。
例えば、高いところはダメだと思い込んでしまった高所恐怖症の患者さんのように、です。言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出されるので、行動の制御が可能になるのですが、その同じ理由で、修正することも難しくなるわけです。
その上、先に説明したように、ちょっと違った情報が入ってくるだけで、「ルール」そのものがガラッと変わってしまうということも大きな問題です。例えば、素晴らしい自然が満喫できて、休みの日などによく出かける山があったとしましょう。そこには滝などもあり、マイナスイオンが身体によいということも聞いて知っており、とてもリラックスできる気がしていつも立ち寄るようにしていました。ところが、ある日、その滝の近くにはマムシがいるという情報を得てしまいました。そうなると、それからは怖くて滝に近づくことができなくなり、その山に行くのも嫌になってしまうかもしれません。その山や滝自体は何も変わっていないのに、です。
このように、「ルール支配行動」は、大変効率のよい行動のコントロールの仕方ですが、事実と一致していないことがあったり、間違っている場合でもなかなか修正が難しかったり、逆にちょっとしたことで「ルール」自体が大きく変わってしまうといった問題点があるといえるでしょう。

注:i) 引用中の「言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出される」ことによる問題を少なくするための「コンプリヘンシブ・ディスタンシング」(言葉の世界全体から距離を取ること)については、他の拙エントリのここを、 加えて「脱フュ―ジョン」については、他の拙エントリのリンク集を それぞれ参照して下さい。 ii) 引用中の「バーチャルな現実によるコントロール」に関連する「バーチャルな現実をつくり出す」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて「バーチャルな世界と現実の世界の区別がつかない状況に人間を陥れることになった」については、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスはなぜ効果を持つのか」の「マインドレスになる基盤とは?」項 iii) 引用中の「高いところはダメだと思い込んでしまった高所恐怖症の患者さんのように、です。言葉を使うことでバーチャルな現実が作り出される(後略)」に関連するかもしれない、『「怒り、怒り」「痛み、痛み」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます怒りや痛みが増幅する』ことについて、プラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第二章 慈悲の章 の『感覚に言葉でラべルを貼る、「ラべリング技法」の問題点』における記述(P138~P141)を次に引用します。

感覚に言葉でラべルを貼る、「ラべリング技法」の問題点
魚川 なるほど。「現実をありのままに見る(如実知見する)」はずの瞑想が、過度の集中によって、むしろ日常的な現実の否認に繋がってしまうわけですね。この「解離」や「回避」の症状については、ウィパッサナー瞑想においてしばしば推奨される、「言語によるラベリング」という技法の問題点も、プラユキ先生は指摘されていましたね。
プラユキ 痛みを感じたら「痛み、痛み」、怒りを感じたら「怒り、怒り」などと、生じてきた感覚に言葉でぺタぺタとラベルを貼っていく(ラベリングする)瞑想技法のことね。もちろん、この瞑想技法で効果を上げている人もたくさんいるから、それを否定するつもりはありません。ただ、私のところに、このラベリング瞑想をすることで身心の調子を崩してしまった方が、少なからず相談にいらしているのは事実です。
なぜ問題が生じてしまうのかというと、一般に私たちにとって言葉というのが、単なる記号表現である「シニフィアン」(“ネ・コ”という音の連鎖や文字の集まり)としてだけではなくて、記号内容であるところの「シニフィエ」(“ネコ”という音声や文字から浮かぶイメージや概念)と分かち難く結びついた、「シーニュ(記号)」(シニフィアンとシニフィエの複合体)として用いられるものだからです。
つまり、多くの人にとって、シニフィアンは発話された時点でシニフィエを巻き込んで認知されるわけですね。例えば、「怒り」というシニフィアンを「ラベル」として心の中でも発話すれば、同時に腹立たしい感情にまつわる記憶イメージといったようなシニフィエが、喚起されることは自然であるわけです。そうすると、怒りに囚われたくないからラベリング瞑想をしているのに、「怒り、怒り」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます憎悪の感情や立腹した記憶などが、心に満ちてくることも起こり得る。
魚川 それはよくわかります。この瞑想の前提としては、「怒り」や「痛み」などを言葉で同定して明晰に捉えることで、そこから距離をとって観察すれば、無常なる怒りや痛みといった感覚は、時間が経てば自然に消えることが知られる、ということになっているわけですが、実際には必ずしもそうはいかないことがある。「怒り、怒り」「痛み、痛み」と心の中で繰り返せば繰り返すほど、ますます怒りや痛みが増幅する、という経験をしたことのある瞑想者は、少なからず存在するでしょう。
プラユキ もちろん、シニフィアンをあくまでシニフィアンとしてのみ使うことができて、そこで同時に喚起されるシニフィエに囚われないような人であれば、ラベリング瞑想が前提どおりに上手く機能するでしょう。この対談の文脈で言えば、言葉をあくまで「たかが言葉」として理解・使用することができて、そこに付随する「されど言葉」の側面には囚われずにいられるような人のことですね。ただ、これは非常に難しいと思います。
魚川 私たちが生きている「現実」の物語の世界において、シニフィアン(「たかが言葉」)とシニフィエ(「されど言葉」)は不可分ですからね。ラベリング瞑想で効果を上げられる人というのは、「怒り」というシニフィアンを発しても、それを「たかが言葉」として扱い、同時に喚起される怒りの感情というシニフィエ、即ち、「されど言葉」の作用には囚われずにいられる人、ということになりますから、これはなかなか難しい。
プラユキ はい。そして、そのようなラベリング瞑想の陥葬に落ちてしまった人が、結果として呈することになるのが、解離や回避といった状態なんです。つまり、怒りや痛みをラベリングすればするほど、その認知が際立っていくことになるので、対象を何とか抑圧しようとして、経験を否認したり回避したりしてしまう。あるいは現実に生起するネガティブな感覚をラベリングによって「客観視」しようとするあまり、そこから自己を疎外してしまい、離人症などの病的な解離現象を生ずることもあります。
魚川 ラベリングによって怒りや痛みといったネガティブな感覚を「客観視」しようとして、言語による対象化を進めると、その言わば反作用として、「客観視する自己」の疎外が生じてしまうことがある。「仏教瞑想の本質は『無我性』の直観にある」という話が前章で出ましたけれども、こうなってくると、瞑想がむしろ一種の「我の強化」に貢献してしまうことにもなりますね。
プラユキ そういうことも起こり得ます。

注:(i) この本の著者の一人である魚川祐司氏が表現する引用中の「物語の世界」について、同本の序章における記述の一部(P21)を次に引用(『 』内)します。 『魚川 はい。ミャンマーの瞑想センターでは、ウィパッサナー(観察・気づき)の瞑想を行うことで、欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知の仕方――私の言葉で表現すれば、「物語の世界」――から身を離して、欲望によって条件づけられることのない、ありのままの現象を認知する(如実知見する)ことを、まずは目指します。』(注:a) 引用中の「物語の世界」に関連する『心の観察とは言うなれば「私」や「物語」の仮想性(虚構性)を看破していく作業』についてのツイートは次を参照して下さい。 「ツイート」 b) 引用中の『「物語の世界」――から身を離して』に関連する「物語を作り出さない」ことについては次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「マインドフルネスと生活」項 c) 引用中の「物語」を終わらせることについてのツイートがあります。 d) 引用中の[仏教思想の視点からの]「条件づけ」について、ウ・ジョーティカ著、魚川祐司訳の本、『自由への旅 「マインドフルネス瞑想」実践講義』(2016年発行)の 第五章 第一と第二の洞察智 の【Q&A】における記述の一部(P246~P247)を以下に引用します。 e) 引用中の「欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知」に関連するかもしれない、アドラー心理学の視点からの『人は誰もが同じ世界に生きているのではなく、自分が「意味づけ」した世界に生きている』ことについて、WEBページ「意味づけを変えれば未来は変えられる」における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『アドラー心理学の特徴として挙げられるのが、人は誰もが同じ世界に生きているのではなく、自分が「意味づけ」した世界に生きていると考えることです。同じ経験をしても、意味づけ次第で世界はまったく違ったものに見え、行動も違ってきます。』 f) 一方、引用中の「欲望」に関連する「欲」の裏返しが「嫌悪」であることについて、ジョン・カバットジン著、貝谷久宜監訳、鈴木孝信訳の本、「マインドフルネスのはじめ方 今この瞬間とあなたの人生を取り戻すために」(2017発行)の P122~P124 に示されています。この中の記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『嫌悪は,物事はこうあったらいいのに,という望みの裏返しです。』) (ii) 引用中の『「怒り」というシニフィアンを発しても、それを「たかが言葉」として扱い、同時に喚起される怒りの感情というシニフィエ、即ち、「されど言葉」の作用には囚われずにいられる』に関連する「コンプリヘンシブ・ディスタンシング」(言葉の世界全体から距離を取ること)については、他の拙エントリのここを、 加えて「脱フュ―ジョン」については、他の拙エントリのリンク集を それぞれ参照して下さい。 (iii) 引用中の「ウィパッサナー瞑想」の別名である「ヴィパッサナー瞑想」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネス認知療法」の「マインドフルネス実践の方法論上の特徴」項 加えて、これに関連する「本来のウィパッサナーのヴィジョン」について、同本の P143 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『即ち、「怒り」や「痛み」という「対象」を「私」が観察するのではなくて、「怒り」や「痛み」のみならず、「私」までも含まれた、現象の流れが生成消滅しているプロセスの全体を、平等に観察する気づき(sati)の目から見るというのが、本来のウィパッサナーのヴィジョンであるということです。』 (iv) 引用中の「距離をとって観察すれば」、「客観視する自己」及び上記 (iii) 項における引用中の「プロセスの全体を、平等に観察する気づき」に関連するかもしれない、「観察する(観察者としての)自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。加えて、上記「観察する(観察者としての)自己」が機能し、マインドフルな状態と密接に関連する「あることモード」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。一方、「あることモード」と対比される「することモード」で(マインドフルネス)瞑想を行うことはいかがなものかと、本エントリ作者は考えます。 (v) 引用中の「現実をありのままに見る」に関連する「あるがままに物事を見る」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 (vi) 引用中の「我」及び上記 (iii) 項における引用中の「私」に関連する「経験我」については、魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の P90 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『つまり、覚者であれ一般の凡夫衆生であれ、そこで感官からの情報が認知されることによって経験が成立する場としての「個体性」であれば、それぞれが有している。それがここで言う「経験我」だが、ただしそれは、原因・条件によって生成消滅する(縁生の)感官からの情報によって形成されているものであるから、もちろん無常・苦・無我という三相の性質を有しており、時々刻々と変化・流動している。』(注:引用中の「無常・苦・無我」については、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「法則性: 無常・苦・無我ということ」項) 加えて、これらに関連する「プロセスとしての自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 (vii) 引用中の『言葉をあくまで「たかが言葉」として理解・使用する』に関連するかもしれない、a) マインドフルネス認知療法の視点からの「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」及び/又は「思考は解釈や価値判断を含むが,解釈や価値判断はそれ自体が事実というわけではない」については、共に次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの促進困難への対応方法とは何か」の「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」項 b)「全ての感情や自己イメージは、心の中の一過性の出来事にすぎない」ことについては、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「心理臨床への示唆」項 (viii) 引用で示されている「瞑想での問題点」における他の一例について、プラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第三章 自由の章 の「智慧へと上って慈悲に下る、大切なのはこの循環」における記述の一部及び『「状態と意味に対する微細な囚われ」が瞑想の罠』における記述(P194~P200)を以下に引用します。 (ix) 引用中の「されど言葉」に関連するかもしれない「妄想と現実の区別がつかなくなる」ことへの対策例については、次のWEBページを参照して下さい。 「ストレスに負けない! 自分を客観視する方法」 ちなみに「されど言葉」は良くない意味で使用されていますが、良い意味でも使用されます。この例について、プラユキ・ナラテボー著の本、「苦しまなくて、いいんだよ。 心やすらかに生きるためのブッダの知恵」(2011年発行)の 第4章 言葉の力で、苦しみを超える の『言葉の影響力に配慮する「慈悲」』における記述の一部(P148~P149)を以下に引用します。ちなみに、同本の P144 には、言葉は、「凶器」又は「包丁」にもなる「刃物」と同じ二面的な性質を持っているとの主旨の記述があります。

注:次の引用はウ・ジョーティカ著、魚川祐司訳の本、『自由への旅 「マインドフルネス瞑想」実践講義』(2016年発行)の 第五章 第一と第二の洞察智 の【Q&A】における記述の一部(P246~P247)です。

(前略)眼に関しては中立的な感覚、不苦不楽受だけを感じます。それは快でも不快でもありませんが、あなたがそれを快か不快として解釈すると、それは別のプロセス、つまり精神的プロセスになります。自分が見たものを好む時、それはもはや眼の意識(眼識)ではありません。この繋がりは別の意識です。あなたが何かを見る時、純粋に見るのが眼識で、その時には、あなたは自分が何を見ているのかすら知りません。ただ純粋に見ることがあるだけなのです。自分が見ているものを確認するのは別の段階で、それからあなたは、自分がそれを好むかどうかを決定するのです。(中略)

見る時に、私たちはただ色だけを見る。眼識とは色だけなのです。それは男や女や、その他のものを見たりはしない。ただ色だけを見るのです。次の段階は心で起こる。つまりは解釈です。心が解釈をする時、それはもはや見る意識ではなく、心の意識なのです。過去の経験ゆえに、何かを見ると、あなたは自分が何を見ているかわかります。以前にそれを好きだったから、あなたはいまそれが好きなのです。何か全く新しいものを見たら、あなたにはそれが何だかわかりませんし、好きも嫌いもありません。ただ、「これは何だ?」と考えるだけです。ですから、それは過去の条件付けなのです。例えば、ミャンマーでは多くの人たちが、この魚のソース、底魚のペーストを好んでいます。べたべたして、とても臭い。人々はこれが大好きですが、私はこれが大嫌いです。つまりこれが条件付けです。(中略)

あなたが何かを見てそれを好む時、それは過去の条件付けによるものです。何かを見ても、それが何だかわからなければ、あなたはただ「これは何だ?」という意識をもつだけですね。(後略)

注:引用中の「精神的プロセス」、「心が解釈をする」に拙ブログ的に対応するかもしれない「情動」については、リンク集(用語:「情動と理性」、すぐ右の脚注も参照)及び次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えて、メンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。

智慧へと上って慈悲に下る、大切なのはこの循環(中略)

魚川 (中略)「マインドフルネス」に関して申しますと、『グーグルのマインドフルネス革命――グーグル社員5万人の「10人に1人」が実践する最先端のプラクティス』(サンガ)という本に、グーグルでの「マインドフルネス」の実践をリードするビル・ドウェイン氏と、アンディー・ブディコム氏との対談が収録されているのですが、そこでは「マインドフルネス」を仕事のパフォーマンスや認知能力のためだけに実践するのではなくて、慈悲や思いやりといった、他人に対する共感の力も同時に育むことの重要性が語られています。
ブディコム氏は、「ぼくにとって、マインドフルネスは温かい気持ちをもたらすものです。その温かい気持ちは、皆さんの人生において、人と人とのつながりをがらりと変えるものです。ぼくが重要だと思っているのはそのことです」(p163)と言っていますが、彼は瞑想のそうした側面が、現在の西洋における「マインドフルネス」ムーブメントにおいては、ちょっとなおざりにされているのではないかと、懸念も示していますね。
プラユキ そうですね。「仕事に役立つ」ことはもちろん悪くないんだけど、そこだけを考えてしまった時に出てくる弊害というのも、やはり念頭に置いておかなくてはならないと思います。

「状態と意味に対する微細な囚われ」が瞑想の罠
プラユキ それに関連してもう一つ申しますと、この対談で何度も指摘してきた「集中力重視」の問題点が、「気づさの実践」であるはずの「マインドフルネス」にも、同様に見られる場合があります。例えば、二〇一四年十一月六日のNHK「おはよう日本」で「マインドフルネス」が特集されて、そこに第一章でも言及した熊野宏昭先生も登場されたんですが、その番組について熊野先生は、「取材時には何度も、観察すること、注意を分割することの重要性を説明したが、ほとんど触れられず、『集中する』という言葉が目立った。マインドフルネスが集中瞑想よりも観察瞑想との関連が深いことを、紹介してもらえなかったのはとても残念」と、ツィッターで感想を投稿されていたんですね(https://twitter.com/hikumano1/status/530329533778366464)。「マインドフルである」ということは、「集中している」というよりは「覚醒している」ということで、気づきの自覚的な意識を保ち、心を開いてあるがままに see する感じなんだけど、まだまだ心をコントロールして look at する「集中」のニュアンスが強いようですね。
魚川 「マインドフルネス」が単に「集中すること」ではなくで、「現象をありのままに、価値判断を差し挟まずに観察すること」であるというのは、前出のビル・ドウェインさんにせよ、その他の「ブーム」を牽引する英文仏教書の著者たちにせよ、きちんと言っていることだとは思うのですが、それが「集中すること」だけに還元されがちなのは、どうしてなんでしょう?
プラユキ 一つには、日本には元々、観察とか気づさの意識というのは、瞑想技法として、あまり入ってこなかったという可能性はあるかもしれない。もちろん、ないわけではないのだけれども、「集中系」の瞑想というのは、三昧好きな日本人に好まれがちな傾向がある。
ただ、日本だけの問題でもやはりないと私は思っていて、例えば、「マインドフルネス」ブームの一つのきっかけとなった『マインドフルネスストレス低減法』(春木豊訳、北大路書房)の著者である、ジョン・カバットジンさんという方がいらっしゃいますね。彼はマインドフルネスについて、英語で“paying attention in a particular way; on purpose in the present moment, nonjudgementally”と説明しているんです。「現在の瞬間において判断せずに、特定の仕方で意図的に注意を払うこと」というわけだけど、ここで「意図的に(on purpose)」と言うのが、私としては問題だと思うんです。
私だったら、ここで「意図的に」という言葉は使わずに、「自覚的に」と表現します。というのは、「自覚的に」であれば、ただそこで目覚めているというか、ありのままに見るという感じになるけれども、「意図的に」と言ってしまうと、観察に何かしらの方向性というか、まさに「意図」が、不可避的に加わることになってしまう。
もちろん、言っている本人としてはそういうつもりはなく、単に「散漫な意識では駄目だよ」ということに注意を促したいのかもしれないけれども、そこにやはり、状態と意味に対する、すごく微細な囚われがあると思う。つまり、「通常の意識」ではいけなくて、何かしらの瞑想的な意識、意味のある特定の状態をつくらなければならない、という方向づけの「意図」がそこにある。それが、「対象にきちんと集中して心を制御しなきゃ」という態度に帰結するんじゃないかと、私としては思うんですね。
魚川 それはわかります。本来的な瞑想のヴィジョンは「状態に左右されないこと」であるにもかかわらず、ついつい瞑想によって「特定の状態」や「意味のある境地」を目指してしまうんですよね。とはいえ、ならば意識的には何もせずに、ただ生きていればそれでいいのかというと、もちろんそんなことはなくて、やはり「瞑想をする」わけですから、この「状態と意味に対する微細な囚われ」を避けるのは、たいへん難しいことになる。
プラユキ そうですね。オープン・ハートでかつオープン・エンド(open-end)でいるのはなかなか難しい。そこはやはり、瞑想者の様子をきちんと見て、適切なアドバイスを与える指導者の力量が問われるところかと思います。

注:i) 引用中の「オープン・エンド」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「オープンエンド」 ii) 引用中の『「通常の意識」ではいけなくて、何かしらの瞑想的な意識、意味のある特定の状態をつくらなければならない、という方向づけの「意図」がそこにある。』に関連するかもしれない、『「することモード」から「あることモード」へ』については、拙エントリのここを参照して下さい。加えて、これに関連するかもしれない、「「無心(第二の心)のマインドフルネス」及び『「シンキング・マインド」又は「日常の心」や「見聞覚知の主体」を手放したマインドフルネス』については、例えば拙エントリのここを参照して下さい。

言葉の影響力に配慮する「慈悲」(中略)

現実は、「たかが……にすぎない」では実際済まないものです。言葉の世界を共有している私たちは、その一つひとつの言葉に絶えず影響を受け、傷つき、傷つけ、気分はアップ&ダウンを繰り返しています。そうした現実を無視して言葉をおざなりに用いていては、自分も相手も傷つけ、苦しませ、この世を苦しみで満たすことに加担することになるでしょう。(中略)

そうした言葉の威力、強大を影響力をまざまざと感じ、相手への気配りを忘れず、細心の注意と思いやりを持って、一つひとつ適切な言葉を選んで丁寧に発していく。それが「されど言葉」の意味するところであり、慈悲の心で感じ、活用すべきものとした根拠です。(後略)

注:引用中の「慈悲」については、例えばツイートを参照して下さい。

「言葉」の問題についての引用に加えて、「六根六境」(一二処)等によるヒト(衆生)の「認知」の問題について、魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の 第五章 「世界」の終わり――現法涅槃とそこへの道 の『執著による苦と「世界」の形成』における記述の一部(P114~P115)及び『我が「世界」像の焦点になる』における記述の一部(P119~P121)をそれぞれ以下に引用します。

執著による苦と「世界」の形成(中略)

そして、「世界」がそうであるように、苦も六根六境への執著を原因として生じていることは、経典の各所で語られている。
例えば相応部の 『プンナ経(中略)』には、次のような記述がある。

プンナよ、眼によって認知される諸々の色で、好ましく、求められていて、意に適う、可愛の諸形態で、欲を伴い貪りに染まったものがある。もし比丘が、それを歓喜して迎え入れ、執著していると、そのように歓喜して迎え入れ、執著している彼に喜悦が生じる。そしてプンナよ、この喜悦が集起することから苦が集起するのだと、私は言う。

同様のことが、眼によって認知される色以外の、耳・鼻・舌・身・意によって認知される声・香・味・触・法についても言われており、つまり六根によって認知される六境に、執著して喜悦することが苦の原因であるという趣旨が説かれている。そして次に、苦を滅する方法はその逆であって、六根によって認知される六境を歓喜して迎え入れ、執著するということをやめれば、喜悦も滅するから、そうすれば苦は滅尽するのだとも説かれる。
このように、六根六境への執著によって苦は生起し、そしてそれと同時に「世界」も生起することになるわけだが(後略)

注:i) 引用中の「世界」の説明例として、「煩悩を伴う認知によって形成される」があるようです(同本の P114 参照)。加えて、これに関連する「物語の世界」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「執著」は「固執」や「とらわれ」を意味しているようです。 iii) 引用中の「比丘」は修行者のことのようです。 iv) 引用中の「六根」における「意」(思考)については、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「苦」(dukkha)についての文章が、同本の P51 にあり、その部分を次に引用(『 』内)します。 『dukkha という言葉を訳す時、現在の英訳では、しばしば unsatisfactoriness という単語が使われる。日本語に訳せば「不満足」ということになるが、これは dukkha のニュアンスを正しく汲み取った適訳だと思う。というのも、[中略]dukkha(苦)はしばしば anicca(無常)と関連付けられながら語られるが、このことは、「苦」という用語が単に苦痛のみを意味しているわけではなくて、むしろ欲望の対象にせよその享受にせよ、因縁によって形成された無常のものである以上、欲望の充足を求める衆生の営みは、常に不満足に終わるしかないという事態をこそ意味することを、示しているからである。例えば空腹の絶頂にある時に、美味しい食事を出されれば、私たちは喜んでそれを享受する。しかし、どんなに美味しい料理であっても、一時間も食べ続ければ見るのも厭になってくるし、にもかかわらず、それで半日もすれば私たちはまた空腹になる。(中略)美人にも三日で飽きてしまう。』(注:引用中の「因縁」については、例えば他の拙エントリのここにおける引用の「第3項 縁起について」を参照して下さい) 加えて、資料「無心(no mind)とマインドフルネス(mindfulness)」の【「四つの課題」の現代的解釈】において、dukkha(ドゥッカ)についての説明があり、次に引用(『 』内)します。 『原語の「ドゥッカ」という言葉は「思いどおりにならないこの人生の現実」と理解するべきだと思います。』 さらに、精神医学的な視点を加味した「苦」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

我が「世界」像の焦点になる[中略]

かつて私が、ミャンマーの瞑想センターでウィパッサナーの実践を行っていた時に、指導する僧侶からしつこく言われたのは、「一つ一つの現象のありのままを見よ、イメージを作るな」ということであった。
例えば、私たちは日常生活でごく自然に「異性」を認識し、それに執著することがあるけれども、その「異性」というのは実際のところ、感覚入力を素材として捏ね上げられたイメージなのであって、比喩的に言い換えれば「物語」に過ぎないものである。
実際、私たちが認識している「美しい顔」は、よく分析してみれば眼に入っている色の組み合わせに過ぎないし、その「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない。つまり、私たちが持つ「美しい異性」という認識は、そのような感覚入力を素材として構成された単なるイメージ、もしくは物語に過ぎないわけだ。だから、ちょっと構成の仕方を変えてみれば、第一章で紹介したように、マーガンディヤの美しい娘を「糞尿に満ちたもの」というイメージで捉えることもできてしまう。
では、なぜ私たちは、そのような「ありのまま(如実)」でないイメージを形成し、物語の「世界」を立ち上げてしまうのか。それは、本章で引用した経典に繰り返し語られていたように、私たちが、五蘊・十二処・十八界といった認知を形成する諸要素に欲望を抱き、それに執著して実体視する(「我」だとみなす)からである。
感覚入力によって生じる認知は、それを「ありのまま」にしておくならば、無常の現象がただ継起しているだけのことで、そこに実体や概念は存在せず、したがって「ある」とか「ない」とかいうカテゴリカルな判断も無効になっていて、だから(それ自体が分別である)六根六境も、その風光においては「滅尽」している。つまり、そこでは「世界」が立ち上がっていない。これは既に言語表現の困難なところだが、敢えて短く言い表せば、「ただ現象のみ」というのが、「如実」の指し示すところなのである。
ただ、私たち衆生はその生来の傾向として、対象を希求する渇愛[中略]を有しており、そこから対象を好んだり嫌ったりする「癖」(貪欲[中略]と瞋恚[中略])もついてしまっていて、そして何よりそのことに無自覚(愚痴[中略],あるいは無明[中略])だ。
だから私たちは、ただ継起しているだけの現象に欲望を抱き、それを好んだり嫌ったりする執著(嫌うこともまた、逆方向の執著の形である)をして、それを起点に物語を作る。欲望なしの認知であればただの「色」であるものが、欲望によって、「美しい顔」のイメージに形成しあげられてしまうわけだ。
そして、そのような欲望によって織り上げられた様々なイメージの中にあって、それらが「世界」という像を結ぶ際の焦点として機能するのは、もちろん「我」という仮象である。五蘊も十二処も十八界も、それらが「私の」認知だと捉えられた時に、はじめて統合の中心を得て、「世界」という物語を形成する要素として機能する。六根六境が生成する個々の認知を、「それは私のものであり、それは私であって、それは私の我である」と捉えることがなかったならば、それらは統合の中心を失って、ただ継起していくだけになり、「世界」という像を結ぶことはない。そこに残るのは、「ただ現象のみ」なのである。
このような、渇愛・煩悩・我執に基づいてイメージを形成し、それによって現象を分別して多様化・複雑化させ、「物語」を形成する作用のことを、さきほど紹介した言葉で papañca と言ってもよいだろう。そして、この papañca の滅尽ないし寂滅が、「世界の終わり」であり、また「現法涅槃」の境地であるということも、さきほど述べたとおりである。
実際、パーリ経典に基づいた実践を行っている上座部圏の瞑想センターで、修行者たちの一つの目標になるのもこの境地である。「一つ一つの現象のありのままを見よ、イメージを作るな」と、私がしつこく言われたのも、この papañca という物語形成の作用を止めて、苦なる「世界」に繋縛され続けることを終了させるための、親切な指導だったわけだ。

注:i) 引用中の「脚注番号」の引用は省略します。 ii) 引用中の「単なるイメージ、もしくは物語に過ぎない」ことに関連する、マインドフルネスの視点からの a) 「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」及び/又は「思考は解釈や価値判断を含むが,解釈や価値判断はそれ自体が事実というわけではない」については、共に例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの促進困難への対応方法とは何か」の「思考を一過性の精神的出来事としてとらえる」項 b) 加えて「全ての感情や自己イメージは、心の中の一過性の出来事にすぎない」ことについては、次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「心理臨床への示唆」項 iii) 引用中の「papañca」についての説明例として、同本の P118 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『ただ、papañca は原義としては拡大・拡散することであり、そこから分化や多様化といった事態も示す。英語で言えば、expansion, diffuseness, manifoldedness といったニュアンスである。要するに、本来は分別されていないものを分別して境界づげ、そこに多様性を持ち込んで、拡散・複雑化させるはたらきを papañca と呼ぶものだと、とりあえずは考えておいてよい。そして、本来は分別されていないものに分別を与えて複雑化するのであるから、それは妄想、幻想(illusion)、迷執(obsession)といった含みも持つことになる。』 iv) 引用中の「貪欲」、「瞋恚」、「愚痴」(これらは「三毒」と呼ばれます)については、共に例えば次のWEBページを参照して下さい。 『「貪欲」』 v) 引用中の「無明」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 『「癡によりて愛あれば、すなわち我が病生ず。」』 vi) 引用中の「執著」は「固執」や「とらわれ」を意味しているようです。例えば上記 v) 項も参照して下さい。 vii) 引用中の「十二処」は「六根」と「六境」を合せたものです。これらはここを参照して下さい。加えて、引用中の「十八界」は、「十二処」に六識(眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識)を加えたものを言うようです。 viii) 引用中の「五蘊」については、同本の P220 の脚注(18)に説明があり、次に引用(『 』内)します。 『仏教では、人間(衆生)を「色(物体・身体)、受(感覚・感受)、想(表象作用)、行(意志・欲求)、識(認識・判断)」という五つの要素に分析して述べることがあり、それらをまとめて「五蘊」と呼んでいる。』 すなわち、上記五蘊・十二処・十八界は、人間(衆生)の認知の方法をそれぞれ分類したもののようです。 ix) 引用中の「渇愛」についてはプラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第二章 慈悲の章 の「渇愛は滅尽させるべきものか、させなくていいのか」における記述の一部(P115)を次に引用(『 』内)します。 『プラユキ 渇愛というのは、喉が渇いた人が水を求めるような、欲望の対象を希求する根源的な煩悩のことだよね。』 この「渇愛」は「欲愛」、「有愛」、「無有愛」の3つから構成されます。これに関連する、四聖諦中の集諦における「感覚的快楽への渇愛」、「存在への渇愛」「非存在への渇愛」については、次の資料を参照して下さい。 「仏教瞑想と幸福感」の「涅槃という幸福」項 x) 引用中の「マーガンディヤの美しい娘」については、同本の P27 における記述の一部を次に引用(【 】内)します。 【さて、再び『スッタニパータ』に戻ろう。次は第四章の「マーガンディヤ」である。この経はゴータマ・ブッダの「この糞尿に満ちた(女が)何だというのだ。私はそれに足さえも触れたくない」という過激な言葉を含む偈ではじまる。経の本文には文脈が記されていないので少し戸惑うが、註釈によれば、これはマーガンディヤというバラモンが美人の娘を連れてゴータマ・ブッダに婿になってくれるよう頼んだ際に、彼がそのように語って拒絶したということらしい。】(注:a) 引用中の脚注は省略しています。 b) 引用中の『スッタニパータ』は経典の名称です。) xi) 引用中の「ウィパッサナー瞑想」の別名である「ヴィパッサナー瞑想」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネス認知療法」の「マインドフルネス実践の方法論上の特徴」項 xii) 引用中の「我」に関連する「経験我」については、魚川祐司著の本、『仏教思想のゼロポイント 「悟り」とは何か』(2015年発行)の P90 における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『つまり、覚者であれ一般の凡夫衆生であれ、そこで感官からの情報が認知されることによって経験が成立する場としての「個体性」であれば、それぞれが有している。それがここで言う「経験我」だが、ただしそれは、原因・条件によって生成消滅する(縁生の)感官からの情報によって形成されているものであるから、もちろん無常・苦・無我という三相の性質を有しており、時々刻々と変化・流動している。』(注:引用中の脚注の引用は省略しています) 加えて、これらに関連する「プロセスとしての自己」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 xiii) 引用中の『その「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』に関連する a) 「言葉は心が作ったもの」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 b) 認知心理学の視点からの聴覚の知覚について、服部雅史、小島治幸、北神慎司著の本、「基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議」(2015年発行)の CHAPTER2 感じる の 3 いろいろな感覚 の「QUICK REVIEW」における記述の一部(P43)を次に引用(『 』内)します。 『聴覚は空気振動による音波の知覚である。音の意味や,雑音か騒音かといった評価,音色や音楽の好みは主観的要因に大きく左右される。』(注:引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」) xiv) 引用中の『私たちが認識している「美しい顔」は、よく分析してみれば眼に入っている色の組み合わせに過ぎない』に関連する「見る時に、私たちはただ色だけを見る。眼識とは色だけなのです。それは男や女や、その他のものを見たりはしない。ただ色だけを見るのです。次の段階は心で起こる。つまりは解釈です。」についてはここを参照して下さい。加えて、引用中の『私たちが認識している「美しい顔」は、よく分析してみれば眼に入っている色の組み合わせに過ぎないし、その「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』に関連して、嗅覚の匂い受容メカニズムとしての「匂い物質は,(中略)嗅覚受容体と結合する」については、次の資料を参照して下さい。 「嗅覚の匂い受容メカニズム」の「2.嗅覚受容体の情報伝達メカニズム」項 (すなわち、「匂いは嗅覚受容体と結合した匂い物質によって形成されているものに過ぎない」[イメージを作るな]と言えるかもしれません) 加えて、匂いに関連するプルースト現象及び嗅覚の学習記憶については、共にここを参照して下さい。さらに、味わいと脳のかかわりにおける、におい分子が脳で空間的なパターンとして「においイメージ」に変換されることについて、ゴードン・M・ジェファード著、小松淳子訳の本、「美味しさの脳科学 NEUROGASTRONOMY においが味わいを決めている」(2014年発行)の「解説」における記述の一部(P351)を次に引用(『 』内)します。 『「第Ⅱ部 においを描く」では、著者の専門分野である、においと味わい、脳とのかかわりが解き明かされる。具体的には、食物のにおい分子→鼻のにおい(嗅覚)受容体→嗅球(糸球体モジュール)→嗅皮質→眼窩前頭皮質という経路である。このプロセスで注目すべきは、におい分子が脳で空間パターンとして「においのイメージ」に変換される仕組みにある。さまざまなにおい分子の組み合わせが、まるで点描画の顔のように、パターンとして知覚される。但し、三原色・一次元の光の波長で表される色とは異なり、においは何百種類の受容体・多次元ときわめて複雑だ。』(注:a) この引用部の著者は、この本の出版プロデューサーの真柴隆弘です。加えてこの引用に関連するここを参照して下さい。 b) 引用中の「一次元の光の波長」の補足説明として、同本の P89 に次に引用(『 』内)する記述があります。『色を知覚させる光の波長は一次元で変化する』 c) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」) 一方、引用中の『「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』に対比されるかもしれない、「音を苦痛な邪魔なものとして感知する」についてはここここを参照して下さい。 xv) 引用中の「無常」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「マインドフルネスの理解と実践」の「法則性: 無常・苦・無我ということ」項 xv) 引用中の『苦なる「世界」に繋縛され続ける』に関連するかもしれない、『「外的な強制」に隷属』について、プラユキ・ナラテボー、魚川祐司著の本、「悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門」(2016年発行)の 第三章 自由の章 の『「思いどおりに振る舞うこと」が自由ではない』における記述の一部(P177~P179)を次に引用します。

「思いどおりに振る舞うこと」が自由ではない(中略)

魚川 そうですね。ただ、この I want to というのは曲物で、「こうしたい」と言う時に、それが本当に「自分がしたい」ことなのかというのは、仏教的に考えると、なかなか判断の難しいところでしょう?
プラユキ それはたしかに。そもそも仏教は無我説だからね。
魚川 ええ。『仏教思想のゼロポイント』では、「カレーが食べたい」とか「あの異性とデートをしたい」とか、そんな例を出しましたけれども、何であれ私たちの心に浮かぶ「こうしたい」という欲望は、少し時間をとって内観してみればわかるように、「私がコントロールして浮かばせた」ものではなくで、「勝手に浮かんでくる」ものであるわけです。そして、それが「勝手に浮かんでくる」からには、それなりの原因や条件(因縁)があるというのが仏教的な考え方ですね。
したがって、私たちが「自分のもの」だと考えて、そのままナイーヴに従ってしまいがちな思いや欲望というのも、それが浮かんでくる背景には、「自分のもの」ではない原因や条件が存在している。例えば「あのバッグが欲しい」とか、「この人と付き合いたい」などと考えた時に、その背景には、テレビなどのメディアによる情報や、過去の家族関係からくるトラウマなどが、原因や条件として、作用していたりするわけです。そうなると、「私がこうしたい」ということの実相は、本当に「内的な欲求」であるのか、あるいはむしろ一種の「外的な強制」に当たるのかは、区別がつけにくくなってくる。
プラユキ 何が I have to であって、何が I want to であるかということは、実は見極めにくいということだよね。そこで大切になるのが、やはり気づきの視点であると思います。
先ほどの仏教的な自由の理解に、「内的な思考パターン、感情や記憶、心のクセ等に支配されていないこと」と書きましたけれども、原因や条件に従って「勝手に浮かんでくる」欲望に対して、気づきの視点を持たないまま「これが私のしたいことだ!」とナイーヴに従ってしまったら、それはたしかに「外的な強制」にむしろ隷属していることになる。つまり、「煩悩(我)に支配されている」状態になるわけですね。仏教用語では、こういうのを「放逸」と言います。
しかし、そこで気づきの力が育っていれば、そこで縁によって生じた煩悩の命ずるところに、そのまま従ってしまうことはない。「あのバッグを買わないと我慢できない」とか、「あの人と付き合えなければ死んでしまう」とか、そういう強烈な衝動の支配力にストップをかけて、「これは本当に私を幸福にしてくれるのか」と、冷静に判断して選択する心のスペースができるわけです。仏教的な意味での自由というのは、基本的にこの「選択できる余地」をつくるものなんだと思いますね。

注:i) 引用中の「I have to」及び「I want to」の前提について、同章の P177 における記述の一部(P177~P179)を次に引用(【 】内)します。 【現代の女性というのは、I have to(こうすべき)と I want to(こうしたい)のあいだで、言わば引き裂かれた状態になっている。『何歳までにこれをしなきゃ』『仕事はこうだ』『結婚はこうだ』と、意識の上では様々な I have to に雁字溺めになって、そこで頑張っているのだけど、心の底にはきちんと I want to も持っていて、それが満たされないことで苦しみも抱えている。】 ii) 引用中の「因縁」については、例えば他の拙エントリのここにおける引用の「第3項 縁起について」を参照して下さい。 iii) 引用中の「放逸」に関連するかもしれない「信念システム」については、他の拙エントリのここ及びここを参照して下さい。

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【追記5】
におい物質の嗅覚閾値、日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること及び低濃度と高濃度でにおいの質の異なるにおい物質(分子)があること等について以下に記述します。

(1)におい物質の嗅覚閾値濃度の例
岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の表2(P25~P26)から標記例の抜粋を次にリストアップします。ちなみに、この表の元となった文献を次に示します。 「永田好男、竹内教文:三点比較式臭袋法による臭気物質の閾値測定、大気汚染学会講演要旨集、p.528, (1988)」 加えて、嗅覚閾値のリストの例は次のWEBページに示します。 「技術資料 嗅覚閾値

・ホルムアルデヒド:0.5ppm(500ppb)
・トルエン:0.33ppm(330ppb)
・リモネン:0.038ppm(38ppb)
・メチルメルカプタン:0.00007ppm(70ppt)
・トリメチルアミン:0.000032ppm(32ppt)
・ジオスミン(カビ臭):0.0000065ppm(6.5ppt)
・スカトール(糞便臭):0.0000056ppm(5.6ppt)
・イソ吉草酸:0.000078ppm(78ppt)
・硫化水素:0.00041ppm(410ppt)
・塩素:0.049ppm(49ppb)
・アンモニア:1.5ppm
・ベンゼン:2.7ppm
・アセトン:42ppm
・酢酸エチル:0.87ppm(870ppb)

注:リナロールの嗅覚閾値濃度例について、塩田清二監修の本、「アロマセラピー学」(2017年発行)の 第Ⅱ章・アロマセラピーを使う の 第2節 精油の種類、芳香の嗅ぎ方、ブレンドオイルの作り方(著者は長島司) の「2.芳香の嗅ぎ方」における記述の一部(P153)を次に引用します。 『精油成分の「香り閾値」は、香りの専門家パネラーによる検定結果から、リナロールでおよそ 6ppb(parts per billion)、ゲラニオールで 40ppb と、香りを知覚できる濃度は極めて低く、極微量の分子が空間を漂っていても、香りを感じることができる。』 加えて、金木犀の香りであるα-ヨノンの嗅覚閾値濃度例について、上記引用の直下の記述の一部(P153)を次に引用します。 『金木犀の香りであるα-ヨノンはリナロールよりも30倍低い 0.2ppb であり、一般の精油に比べて金木犀は、花が咲いている場所からかなり離れていても香りを感じることができることの理由である。』

(2)香りとは何か? に対する答えについて
標記について、藤森嶺編著の本、「香りが見える理由」(2012年発行)の 1. 香りを見るためには の「1. 香りとは」における記述の一部(P8~P9)を次に引用します。

1. 香りとは
香りとは何かと問われてどのような答をすることができますか?という問いかけに対して、以下のような答えが考えられる。
①空気中に漂っている物質であるから揮発性の物質(分子)の筈である。
②揮発性というのはその分子が軽いということであるから、分子量は小さい。実際には分子量300以下、炭素数で見れば15個以下程度である。
③香気物質に含まれている元素は炭素、水素、酸素、窒素、硫黄であり、多くの香気物質は炭素、水素、酸素から構成されている。炭素結合では当然単結合、二重結合、三重結合が存在する。官能基は水酸基、カルボニル基など多種類である。鏡像異性体は匂いが異なることが知られている。
④食品に含まれている香料の量は微量であり、10ppm以下であることが多い。
⑤花の精油、コーヒー、茶などどのような天然の香りも非常に多くの香気成分(500~1000種類)が混合して一つの香気になったものである。
⑥香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである。(後略)

注:i) この引用部の著者は藤森嶺です。 ii) 引用中の「香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである」に関連する、 a) 香気物質の匂いの閾値例についてはここを参照して下さい。 b) 「人間の嗅覚は大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残していること」についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の「香気物質はそれぞれ匂いの閾値があり、大量にあっても弱い匂いのものから、極微量でも強い匂いを感ずるものまでいろいろである」に関連する、「日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること」についてはここを参照して下さい。

(3)におい物質の嗅覚閾値濃度の視点からの、人間の嗅覚は大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残していること
標記について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第1章 においとは何か の「1-6 化学物質がにおい始める濃度(現代人にも残っている大昔の嗅力」における記述の一部(P23~P24)を次に引用します。

(前略)表2に記載した永田氏の嗅覚閾値のデータをみると、化合物の種類により嗅覚閾値の値が高かったり低かったり、大きく異なっていることがわかる。その中で、嗅覚閾値が比較的低濃度の物質は、薄いにおいでも人間が感じるにおいであり、人間にとって鋭敏なにおい化合物といえる。
表のデータを見ると、非常に面白いことがわかる。表中の嗅覚閾値が低濃度の化合物は、どれも大昔に人間が生きていくために、必要なにおいであったといえる。
例えば、表2の中の嗅覚閾値が低濃度の物質は、アルデヒド類、メルカプタン類、アミン類、ジオスミン、スカトールなどだが、アルデヒド類はいわば焦げ臭の代表といわれるにおいであり、大昔の人びとにとってほ山火事が発生したとき、このにおいに早く気が付き、逃げなくてはならなかったのである。また、メルカプタン類は腐敗した食べ物から発散するにおいであり、消費期限が、記載されていなかった大昔には、食べ物が腐っているかどうかは自分の鼻でくんくん嗅ぎ分けなくてはならなかった。アミン類は魚の腐敗臭であり、ジオスミンはカビ臭である。スカトールは糞便臭であり、狩猟の際には人間はこのにおいを嗅ぎながら、動物を追いかけたのである。このように現代の人間においても、人間が生きていくために必要な嗅覚の能力の余韻を残しているとみることもできる。
これに対し、表2の中のベンゼン(嗅覚閾値 2.7ppm)トルエン(嗅覚閾値 0.33ppm)、アセトン(嗅覚閾値 42ppm)などは比較的嗅覚閾値が高い化学物質である。言い換えれば、人間にとっては濃度が高くなければ感じない物質であり、感度が低い物質である。大昔の人間は、これらの化合物に感度が低くても、生きていくことには支障が少なかったのである。このように、人間の嗅覚は、大昔の人間の生活の影響を現在においてもまだ残しているといえる。(後略)

注:引用中の「表2」についてはここを参照して下さい。

(4)日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること
標記について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第1章 においとは何か の「1-1 においは低濃度多成分の混合体」における記述の一部(P14~P15)を次に引用します。

(前略)焼き肉のにおいでも、タバコのにおいでも、花のかおりでも、私たちが日常生活で嗅いでいるにおいは、これらの化合物の混合物といえる。単一の化合物で構成されるにおいは、私たちの身の回りではほとんどない。学校の理科の教室で嗅ぐ試薬のにおいか、工場で使う薬品臭ぐらいのものかもしれない。
このように、においとは多成分の混合体であることが、においの第一の特徴である。

注:i) 標記「日常生活で嗅いでいるにおいは低濃度多成分の混合体であること」に関連する「花の精油、コーヒー、茶などどのような天然の香りも非常に多くの香気成分(500~1000種類)が混合して一つの香気になったものである」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「これらの化合物」に相当する、「ニオイのある化学種が約40万種以上ある」ことについてはここを参照して下さい。加えて、同本の P14 にも、次に引用(『 』内)する同様な記述があります。 『約40万種類の化合物はにおいを持っているといわれている』

(5)低濃度と高濃度で匂いの質の異なる香気物質(分子)があること
標記について、平山令明著の本、『「香り」の科学』(2017年)の 第7章 匂いを測る の「7-1 匂い物質の量と匂いの強さ」における記述の一部(P137~P138)を次に引用します。

(前略)私達は複数の嗅覚受容体を持っていますが、それぞれに対して特定の匂い分子が結合する親和性は異なります。すなわち、特定の匂い分子と受容体が相互作用し、その匂いが認識されるためには、最小の濃度(閾値)以上の匂い分子が必要になります。匂い分子の濃度が低い状態では、結合できる受容体の種類が少なくなり、濃度が高くなると結合できる受容体の種類が多くなります。その結果、低濃度では感じなかった質の匂いを高濃度では感じることになります。このように低濃度と高濃度で匂いの質の異なる分子はいくつも知られています(表7-1)。最も有名なものはインドールです。インドールは濃度が高いと糞臭のような嫌な臭いですが、薄くすると一変して白い花を思わせる甘い香りになります。実はジャスミンの花の中にはインドールが含まれ、ジャスミンの個性を出す上で重要な役割を果たしています。

注:引用中の「表7-1」を形式を変えて次に引用します。

表7-1 濃度によって香りの質が大きく変化する分子

ジメチルサルファイド 濃い:磯の香り 薄い:磯の香りを残しながら、ストロベリージャム、コンデンス・ミルクのような香り、野菜を料理している匂い
インドール 濃い:不快な糞臭 薄い:ジャスミンやクチナシの花のような香り
フルフリルメルカプタン 濃い:悪臭 薄い:ナッツを焦がした匂い、コーヒー豆を炒った時の匂い
デカナール 濃い:油臭い悪臭 薄い:オレンジの果実の匂い
アルデヒド C-11 濃い:脂肪臭 薄い:バラの花のような香り
α-イオノン 濃い:木の匂い 薄い:スミレの花のような香り
スカトール 濃い:糞臭 薄い:清涼感のある香り
γ-ノナラクトン 濃い:ココナツの匂い 薄い:フルーティ、フローラルそしてムスクのような香り

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【追記6】
悪臭苦情等について本の引用等により以下に紹介します。ちなみに、悪臭苦情の統計データについては次のWEBページを参照して下さい。 「悪臭防止法施行状況調査(悪臭苦情の統計データ)

(1)コーヒーのかおりに対する悪臭苦情について、岩崎好陽著の本、「においとかおりと環境」(2010年発行)の 第3章 悪臭公害の現状 の「3-3 コーヒーのかおりでも悪臭苦情」における記述の一部(P49)を次に引用します。

私たちが生活している中で、一見快いかおりと思われている、コーヒーの焙煎のかおり、ほうじ茶を煎るかおり、パンを焼く香ばしいかおりなども悪臭苦情の対象になっている。私はコーヒーのかおりもほうじ茶のかおりも大好きで、お店の前を歩くのは楽しいと思っているが、それでも悪臭苦情が発生する。ときどき嗅ぐときは快くても、毎日かがされると、不快になることもあるらしい。図14にコーヒー製造工場に対する悪臭苦情件数の経年変化を示した。毎年10件以上の思臭苦情が寄せられる。(後略)

注:引用中の「図14」の引用は省略しますが、1996年~2008年において、10~27件のコーヒー製造工場に対する悪臭苦情があります。

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【追記7】
聴覚過敏及び/又は雑音過敏等について論文要旨等により以下に紹介します。

(1)雑音過敏についての論文要旨「Noise sensitivity, rather than noise level, predicts the non-auditory effects of noise in community samples: a population-based survey.[拙訳]雑音レベルというよりも雑音過敏性が地域サンプルにおける雑音の非聴覚的効果を予測する:集団ベースの調査」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

BACKGROUND:
Excessive noise affects human health and interferes with daily activities. Although environmental noise may not directly cause mental illness, it may accelerate and intensify the development of latent mental disorders. Noise sensitivity (NS) is considered a moderator of non-auditory noise effects. In the present study, we aimed to assess whether NS is associated with non-auditory effects.

METHODS:
We recruited a community sample of 1836 residents residing in Ulsan and Seoul, South Korea. From July to November 2015, participants were interviewed regarding their demographic characteristics, socioeconomic status, medical history, and NS. The non-auditory effects of noise were assessed using the Center of Epidemiologic Studies Depression, Insomnia Severity index, State Trait Anxiety Inventory state subscale, and Stress Response Inventory-Modified Form. Individual noise levels were recorded from noise maps. A three-model multivariate logistic regression analysis was performed to identify factors that might affect psychiatric illnesses.

RESULTS:
Participants ranged in age from 19 to 91 years (mean: 47.0 ± 16.1 years), and 37.9% (n = 696) were male. Participants with high NS were more likely to have been diagnosed with diabetes and hyperlipidemia and to use psychiatric medication. The multivariable analysis indicated that even after adjusting for noise-related variables, sociodemographic factors, medical illness, and duration of residence, subjects in the high NS group were more than 2 times more likely to experience depression and insomnia and 1.9 times more likely to have anxiety, compared with those in the low NS group. Noise exposure level was not identified as an explanatory value.

CONCLUSIONS:
NS increases the susceptibility and hence moderates there actions of individuals to noise. NS, rather than noise itself, is associated with an elevated susceptibility to non-auditory effects.


[拙訳]
背景:
過度な雑音はヒトの健康に影響を及ぼし、日々の活動を妨害する。環境雑音は精神の病気を直接引き起こさないかもしれないが、潜伏性の精神障害の発症を加速させ、激化させるかもしれない。雑音過敏(NS)は、非聴覚的な雑音効果のモデレータ(調節するもの)であると考えられている。本研究では、NS が非聴覚効果と関連しているかどうかを評価することを我々は目的とした。

方法:
我々は、韓国のソウルおよびウルサンに住む1836人の住民の地域サンプルを募集した。2015年7月から11月にかけて、参加者は、その人口統計学的特徴、社会経済的地位、病歴、及び NS に関するインタビューを受けた。雑音の非聴覚的効果は、 Center of Epidemiologic Studies Depression(CES-D 抑うつ尺度)、Insomnia Severity index(不眠重症度指標)、State Trait Anxiety Inventory(状態-特性不安尺度)の状態サブ尺度及び Stress Response Inventory(ストレス反応尺度)の変更形式を用いて評価した。雑音マップから個々の雑音レベルを記録した。 ひょっとして精神疾患に影響を及ぼすかもしれない因子を同定するために、3モデルの多変量ロジスティック回帰分析を実施した。

結果:
参加者は、19~91歳(平均:47.0±16.1歳)で、そして 37.9%(n = 696)は男性であった。高い NS を伴う参加者は、糖尿病及び高脂血症と診断され、そして向精神薬を使用する可能性がより高かった。

多変量解析では、雑音関連変数、人口統計学的要因、病気、及び在住期間を調整した後でさえ、高 NS グループにおける被験者はうつ病及び不眠症を経験する可能性が 2倍以上であり、そして低 NS グループにおける被験者と比較して不安を有する可能性が 1.9倍であった。雑音曝露レベルは説明的な値として同定されなかった。

結論:
NS は感受性を高め、それゆえに雑音に対する個人の行動をモデレート(調節)する。 NS は雑音そのものというよりも、非聴覚的効果に対する上昇した感受性と関連する。

注:i) 引用中の「CES-D 抑うつ尺度」については、次の資料を参照して下さい。 「CES-D 抑うつ尺度の心理測定法的特性」 ii) 引用中の「不眠重症度指標」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「睡眠障害に対するプロトコールに基づく薬物治療管理」 iii) 引用中の「状態-特性不安尺度」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「自律訓練法の習得と完全主義傾向との関連」 iv) この論文に関して、岡田尊司著の本、「過敏で傷つきやすい人たち HSPの真実と克服への道」(2017年発行)の 第一章 「過敏性」とは何か の「過敏性は心身の不調にどう影響するか」における記述の一部(P28~P29)を以下に引用します。 v) ちなみに、音に対する過敏性の説明例として、同本(上記 iv) 項参照)の 第三章 過敏性のメカニズムと特性を知る の「過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ」における記述の一部(P73~P74)を以下に引用します。

過敏性は心身の不調にどう影響するか(中略)

先ほども少し紹介しましたが、韓国のソウルおよびウルサンの二つの都市の住人二千人(最終回答者数一八三六人)を対象にした大規模な調査によると、音への敏感さを0~10の11段階で評価して6以上だと答えた人は、44%に上っていたのですが、実は、この調査結果には、その先があるのです。
6以上と答えた、過敏な傾向があると感じている人と、5以下と答えた、あまり過敏でないと感じている人を比較すると、驚くべきことが判明したのです。
過敏な傾向があると感じている人はそうでない人に比べて、糖尿病の罹患率が1.54倍、脂質異常症が1.62倍、向精神薬を服用したことがある人の割合が1.78倍、うつ病と診断されている人の割合が2.24倍にも上ったのです。
また、強いストレスを感じていると判定される割合は1.89倍、不眠に悩まされている人は2.05倍、不安に苦しんでいると答えた人は1.93倍でした。これらの結果はすべて、統計学的にも有意差が認められたのです。
さらに、音に過敏な傾向が強いスコア8以上の人では、平均レベルの人に比べて、うつ病のリスクが2.64倍、不安が2.41倍、ストレスが2.61倍であるという結果になりました。(後略)

注:i) 同本のタイトルにおける「HSP」は Highly Sensitive Person(敏感すぎる人)の略語です。

過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ(中略)

音に対して過敏な人は、そうでない人よりも、音に対して過剰なまでに注意を払い、音を苦痛な邪魔なものとして感知する傾向があります。しかも、音に敏感な人は、騒音や雑音に馴れるということが難しく、逆にどんどん過敏になっていきます。音を意識し始めると、騒音とは言えないレベルのかすかな音までも苦痛の種と感じてしまうのです。
ある女性の方が、こんな体験を語ってくれました。その方も長年、過敏な聴覚に苦しんでいるのですが、あるとき、旅行をしてホテルに滞在したのです。
ところが、どこからともなく聞こえてくる音が耳について眠れません。たまりかねて、ホテルの従業員に連絡したのですが、駆けつけてきた従業員は、部屋の中に立ち尽くしたまま、首をかしげ、こう言ったというのです。「お客様、私には何の音も聞こえませんが」と。
確かに、その音は、とても低い音域のものでした。長い時間耳を澄まして、従業員の方は、やっと、「何か振動のようなものが感じられます」と言ってくれたそうです。
この女性は音楽方面で活躍されていて、その意味で聴覚過敏な傾向を生かしているとも言えますが、一般の人には聞こえないような音まで聞こえてしまうのですから、苦労も絶えないのです。(後略)

注:i) 引用中の「音に対して過敏」に関連する「聴覚過敏」の論文例についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「敏感」及び「馴れる」に関連する『「感作」と「馴化」の対比』についてはここを参照して下さい。ちなみに、馴化についてはリンク集を参照して下さい。 iii) 引用中の「音を苦痛な邪魔なものとして感知する」に対比されるかもしれない、『「美しい声」は、単に鼓膜を震わせている音波によって形成されているものに過ぎない』及びこれに関連するに認知心理学の視点からの聴覚の知覚については、共にここここを参照して下さい。 iv) 引用中の「音に対して過敏な人」に関連する、「音に対して過敏な傾向をもつ人におけるストレス全般に過敏な傾向」について、同章(ここの v) 項参照)の「過敏性のもっとも良い指標は、音に対する敏感さ」における記述の一部(P74)を以下に引用(『 』内)します。 『先にも触れたように、音に過敏な傾向をもつ人では、精神疾患だけではなく身体疾患の罹患リスクも上昇してしまいます。そのことは、音に過敏な人は交感神経が興奮しやすく、ストレスホルモン(副腎皮質ホルモン)であるコーチゾルの分泌が亢進していることとも関係し、ストレス全般に過敏な傾向を表していると言えるでしょう。』(注: a) 引用中の「先にも触れた」についてはここを参照して下さい。 b) 引用中の「交感神経が興奮しやすく」に関連する交感神経系が亢進する時の経路については他の拙エントリのここを参照して下さい。 c) 引用中の「コーチゾル」(コルチゾール)については次のWEBページを参照して下さい。 「ストレス - 脳科学辞典」の「視床下部-下垂体-副腎系」項)

(2)MCS と雑音過敏及び聴覚過敏との関連についての論文要旨「Noise sensitivity and hyperacusis in patients affected by multiple chemical sensitivity.[拙訳]多種化学物質過敏状態(MCS)により影響を受けた患者における雑音過敏及び聴覚過敏」を次に引用します。

PURPOSE:
The aim of this study was to investigate the presence of noise sensitivity and hyperacusis in patients suffering from multiple chemical sensitivity (MCS), a chronic condition characterized by several symptoms following low-level chemical exposure. Moreover, distortion product otoacoustic emissions (DPOAE) were performed to further study cochlear function.

METHODS:
A questionnaire-based survey was performed. Eighteen MCS patients, selected with strict diagnostic criteria, and 20 healthy age- and gender-matched subjects filled Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire (WNS) and Khalfa's Hyperacusis Questionnaire (HQ). Results were compared with scores from the quick Environmental Exposure Sensitivity Index (qEESI), a routinarily used questionnaire to screen MCS symptoms, and with DPOAE values. An analysis of variance (ANOVA) was performed between MCS and control subjects scores; moreover, Spearman's rank correlation test was performed between questionnaire results.

RESULTS:
ANOVA testing on DPOAE values showed any significant difference between groups, while WNS, HQ and qEESI scores were significantly higher in MCS group compared to controls. Correlation analysis showed strong positive correlation between WNS, HQ and qEESI in MCS subjects.

CONCLUSIONS:
For the first time, auditory-related perceptual disorders were studied in MCS. A strong association between WNS, HQ results and MCS symptoms severity has been highlighted. These findings suggest that decreased sound tolerance and noise sensitivity could be considered as possible new aspects of this syndrome, contributing to its peculiar phenotype. Furthermore, as DPOAE values did not differ from healthy subjects, present findings might suggest a 'central' source for such disorders in this group of patients.


[拙訳]
目的:
この研究の目的は、低レベルの化学物質曝露後のいくつかの症状により特徴づけられる慢性疾患である、多種化学物質過敏状態(MCS)を患う患者における雑音過敏及び聴覚過敏の存在を調査することであった。それに加えて、蝸牛機能をさらに研究するために、歪成分耳音響放射(DPOAE)を実施した。

方法:
アンケートに基づく調査を実施した。厳格な診断基準で選択された18人の MCS 患者、及び20人の年齢と性別がマッチする健康な被験者が、Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire (WNS)及び Khalfa's Hyperacusis Questionnaire(HQ)(訳注:両方アンケートです)に記入した。結果は、MCS 症状をスクリーニングするために通常使用される問診表 quick Environmental Exposure Sensitivity Index(qEESI)と DPOAE 値とのスコアが比較された。分散分析(ANOVA)を、MCS と対照被験者とのスコア間で実施した。さらに、アンケート結果間でスピアマンの順位相関試験を実施した。

結果:
DPOAE 値に関する ANOVA 試験は、グループ間に有意差を示したが、WNS、HQ 及び qEESI スコアは、対照グループと比較した MCS グループにおいて有意に高かった。MCS 被験者における WNS、HQ 及び qEESI 間に強い正の相関を相関分析は示した。

結論:
初めて聴覚関連の知覚障害が MCS において研究された。WNS、HQ の結果と MCS 症状の重症度との間に強い関連性が強調されている。これらの知見は、低下した耐音性及び雑音感受性が、この症候群の潜在的な新しい側面として考えることができ、その特有な表現型に寄与することを示唆している。さらに、DPOAE 値が健康な被験者と異ならないので、本知見は、このグループの患者におけるこのような障害の「中枢性」の原因をひょっとして示唆するかもしれない。

注:i) 引用中の「Weinstein's Noise Sensitivity Questionnaire」については、次の資料を参照して下さい。 「新幹線騒音・振動による主観的健康の低下」 加えて、引用中の「Khalfa's Hyperacusis Questionnaire」については、次の資料を参照して下さい。 「一般大学生における聴覚過敏の実態とリスク要因」 ii) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典

(3)聴覚過敏について
①標記に関する論文要旨「Characteristics of hyperacusis in the general population.[拙訳]一般集団における聴覚過敏の特徴」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

There is a need for better understanding of various characteristics in hyperacusis in the general population. The objectives of the present study were to investigate individuals in the general population with hyperacusis regarding demographics, lifestyle, perceived general health and hearing ability, hyperacusis-specific characteristics and behavior, and comorbidity. Using data from a large-scale population-based questionnaire study, we investigated individuals with physician-diagnosed (n = 66) and self-reported (n = 313) hyperacusis in comparison to individuals without hyperacusis (n = 2995). High age, female sex, and high education were associated with hyperacusis, and that trying to avoid sound sources, being able to affect the sound environment, and having sought medical attention were common reactions and behaviors. Posttraumatic stress disorder, chronic fatigue syndrome, generalized anxiety disorder, depression, exhaustion, fibromyalgia, irritable bowel syndrome, migraine, hearing impairment, tinnitus, and back/joint/muscle disorders were comorbid with hyperacusis. The results provide ground for future study of these characteristic features being risk factors for development of hyperacusis and/or consequences of hyperacusis.


[拙訳]
一般集団での聴覚過敏における様々な特徴をより良く理解する必要がある。本研究の目的は、人口統計、生活習慣、知覚された一般的な健康や聴力、聴覚過敏に特異的な特徴及び行動、そして合併症に関する聴覚過敏を伴う一般集団における個々人の調査であった。大規模な集団ベースのアンケート調査からのデータを用いて、聴覚過敏のない人(n = 2995)と比較した、医師診断(n = 66)及び自己報告(n = 313)の聴覚過敏を伴う個々人を調査した。高齢、性別が女性、及び高等教育は聴覚過敏と関連し、そして音源を回避しようとし、音の環境に影響を及ぼすことができ、そして医療を求めていることは共通の反応と行動であった。心的外傷後ストレス障害、慢性疲労症候群、全般不安症、うつ病、疲労困憊、線維筋痛症、過敏性腸症候群、片頭痛、聴覚障害、耳鳴り、そして背部/関節/筋肉障害には、聴覚過敏が合併していた。聴覚過敏の発症のリスク要因及び/又は聴覚過敏の帰結であるこれらの特徴の主要点の将来研究に対する根拠をこれらの結果は与える。

注:i) 引用中の「n = 2995」、「n = 66」及び「n = 313」は共に人数を示します。 ii) この全文の「Introduction」項における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『Hyperacusis has also shown comorbidity with other medically unexplained symptoms, including fibromyalgia,[23,24,25] chronic fatigue syndrome (CFS),[24,26] as well as other environmental intolerances such as multiple chemical sensitivity, nonspecific building-related symptoms, and symptoms attributed to electromagnetic fields.[27,28,29,30][拙訳]聴覚過敏は、線維筋痛症、慢性疲労症候群(CFS)はもちろん多種化学物質過敏状態(MCS)、非特異的なシックビルディング関連症状、そして電磁界に帰する症状等の他の環境不耐性を含む他の医学的に説明できない症状との合併も示している。』(注:i) 拙訳では文献番号の記述を省略しました。文献番号の詳細はこの論文を参照して下さい。 ii) 引用中の「医学的に説明できない症状」については次のWEBページを参照して下さい。 『「医学的に説明できない症状」って?』) iii) 引用中の「心的外傷後ストレス障害については他の拙エントリのリンク集を(用語:「PTSD」)参照して下さい。 iv) 引用中の「慢性疲労症候群」については例えばWEBページを参照して下さい。 v) 引用中の「全般不安症」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vi) 引用中の「うつ病」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 vii) 引用中の「線維筋痛症」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 viii) 引用中の「過敏性腸症候群」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「ここ一番で襲ってくる腹痛 過敏性腸症候群の対処法」 ix) 引用中の「片頭痛」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「Ⅱ 片頭痛」 x) 引用中の「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」 xi) 引用中の「音の環境に影響を及ぼすこと」の例について、この全文の「Figure 1」において、次に引用する(『 』内)記述があります。 『by closing a door to a noisy environment[拙訳]雑音環境に対しドアを閉めることによる』

②標記における治療法に関する論文要旨「Tinnitus and hyperacusis therapy in a UK National Health Service audiology department: Patients' evaluations of the effectiveness of treatments.[拙訳]英国の国民健康保険サービス聴覚学部門における耳鳴り及び聴覚過敏の治療法:治療法の効果の患者の評価」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

OBJECTIVE:
To assess patients' judgements of the effectiveness of the tinnitus and hyperacusis therapies offered in a specialist UK National Health Service audiology department.

DESIGN:
Cross-sectional service evaluation questionnaire survey. Patients were asked to rank the effectiveness of the treatment they received on a scale from 1 to 5 (1 = no effect, 5 = very effective).

STUDY SAMPLE:
The questionnaire was sent to all patients who received treatment between January and March 2014 (n = 200) and 92 questionnaires were returned.

RESULTS:
The mean score was greatest for counselling (Mean = 4.7, SD = 0.6), followed by education (Mean = 4.5, SD = 0.8), cognitive behavioural therapy - CBT (Mean = 4.4, SD = 0.7), and hearing tests (Mean = 4.4, SD = 0.9). Only 6% of responders rated counselling as 3 or below. In contrast, bedside sound generators, hearing aids, and wideband noise generators were rated as 3 or below by 25%, 36%, and 47% of participants, respectively.

CONCLUSION:
The most effective components of the tinnitus and hyperacusis therapy interventions were judged by the patients to be counselling, education, and CBT.


[拙訳]
目的:
専門家の英国の国民健康保険サービス聴覚学部門において提供されている耳鳴り及び聴覚過敏の治療法の効果の患者の判断を評価する。

設計:
横断的サービス評価アンケート調査。患者は、受けた治療の効果を 1~5 のスケールでランク付けするよう求められた(1 = 効果なし、5 = 非常に効果的)。

学習サンプル:
このアンケートは、2014年1月から3月にかけて治療を受けたすべての患者(n = 200)に送付され、92のアンケートが返送された。

結果:
平均スコアが最も高かったのはカウンセリング(平均 = 4.5、標準偏差 = 0.6)であり、教育(平均 = 4.5、標準偏差 = 0.8)、認知行動療法[CBT](平均= 4.4、標準偏差 = 0.7)、そして聴力検査(平均= 4.4、標準偏差 = 0.9)と続いた。回答者の 6%のみがカウンセリングを 3以下として評価した。対照的に、ベッドサイドサウンドジェネレータ、補聴器、及び広帯域のノイズジェネレータは、それぞれ参加者の25%、36%及び47%が 3以下として評価した。

結論:
患者により判断された耳鳴り及び聴覚過敏の治療の介入の最も有効な要素はカウンセリング、教育及び CBT であった。

注:i) 引用中の「n = 200」は人数を示します。 ii) 引用中の「サウンドジェネレータ」及び「ノイズジェネレータ」に関連するかもしれない「TRT(tinnitus retraining therapy)療法」[耳鳴り順応療法]については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「TRT(tinnitus retraining therapy)療法」 iii) 引用中の認知行動療法については他の拙エントリのここを参照すると良いかもしれません。

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注:本エントリは仮公開です。予告のない改訂(削除、修正、追加、公開日や修飾の変更等)を行うことがあります。

*1:注:[ご参考1]~[ご参考3]を参照する前に、特に脳機能の説明を参照した方が良いかもしれません。

*2:前頭前野には眼窩前頭皮質が含まれます

*3:馴化はある刺激を繰り返し与えているうちに、反応が徐々に見られなくなっていくことです。一方、他の拙エントリにおいては、ここここここ及びここを参照して下さい

*4:対象となる疾患・障害例:化学物質過敏症、シックハウス症候群、PTSD、複雑性PTSD[含愛着障害]、強迫症(強迫性障害)、社交不安症、パニック症(パニック障害)、ADHD 注:これらの疾患・障害と見紛う場合やグレーゾーンを含むことがあります

*5:これら以外の次のキーワードもこのリンクを参照して下さい。「爬虫類脳」、「哺乳類脳」、「情動脳」、「理性脳」、「煙探知機」、「監視塔」、「洞察」

*6:ちなみに、「情動」又は情動関連キーワードについては、ここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここ及びここを参照して下さい

*7:ちなみに、「PTSD」を含む引用はここを参照して下さい

*8:「ニオイのある化学種数」についてはここを参照して下さい

*9:「プルースト現象」は「プルースト効果」とも称されます

*10:存在することを仮定した場合の話です

*11:嗅覚や刺激閾値及び室内濃度指針値を含みます

*12:ちなみに、中毒症状が出現するホルムアルデヒドの曝露濃度についてはここを参照して下さい

*13:すなわち、超微量又は極めて微量のことです

*14:すなわち、臭う場合には上記超微量より多い量(濃度)だからです

*15:すなわち本エントリ作者の見解として、例えば室内において、「(臭わない超微量である)8ppbのホルムアルデヒドに反応する人がいる」との主張は不思議で、立証が必要と思います。一方、「室内濃度指針値80ppbを大幅に超える、臭う800ppbのホルムアルデヒドに反応する人がいる」との主張は特に不思議とは思いませんが、(臭い※2に反応していないならば)これは化学物質過敏症ではなく、シックハウス症候群の症状とするのが妥当ではないかと思います。ただし、※2[ご参考3]で引用した意見があります。ちなみに、ホルムアルデヒド及びトルエンの曝露濃度のまとめはここを参照して下さい。

*16:この著者が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*17:この著者の方々が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*18:この著者の方々は臨床環境医ではないようですが、先行研究を参考にして誘発試験を実施したようなので、本エントリで言及します。ちなみに、この負荷試験では、疾患概念である化学物質過敏症の存在に対するエビデンス積み上げに失敗しています。

*19:該当する記述においては、次の資料が参照されています。 「シックハウス症候群・化学物質過敏症の診断に関する合意事項

*20:この資料の著者の方々が本エントリで定義する臨床環境医に相当するかどうかは、本エントリ作者には不明です

*21:加えて、記憶や経験に基づく認知処理を伴う又は個人差を伴う嗅覚を主とした、嗅覚における一般的な説明は次を参照すれば良いかもしれません。 a) 「ニオイの感覚研究の最近の展開 -ニオイの感覚は経験・学習に依存する-」 b) 「におい刺激に対する感覚強度に及ぼす認知的要因の影響:短時間・断続的に提示されるにおい刺激に対して」 c) 「認知的要因が特定悪臭物質の快不快に及ぼす影響:臭気順応計測システムによる計測」 d) 「嗅覚のメカニズム ~ヒトはどのように匂いを感知するのか~」の「3.匂いの感じ方の個人差」項 e) 「食行動やにおいに関わる感情-nature-nurture 問題の新たな地平を探る」の 綾部早穂先生による話題提供の報告部

*22:ちなみに、医学分野を特定しないマインドフルネスの背後にある心理神経的メカニズムについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、マインドフルネスによる脳の機能と構造への効果についてのシステマティックレビュー例については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

*23:ちなみに、 a) 「自己洞察」の視点から「メタ認知」を紹介しています。 b) WEBページ「メタ認知 - 脳科学辞典」中の「神経基盤」項において、次に引用する(『 』内)記述があります。 『(前略)内側前頭前野とメタ認知の関連が指摘されている[19]。 』 ただし、引用中の文献番号「[19]」は次の論文です。 「Metacognition: computation, biology and function.

*24:特に、リンクされている pdfファイル「低用量の有機溶剤を条件刺激とする嗅覚嫌悪条件づけ手続き」の「1 はじめに」項を参照して下さい

*25:自閉症スペクトラム障害、ASD:Autistic Spectrum Disorder とも称され、アスペルガー症候群とも一部が重なります。他の拙エントリのここを参照して下さい。

*26:一方、化学物質過敏症関連として、科学研究費助成事業に次の研究が採択されています。期間は2016~2018年度、研究代表者は内山巌雄です。この分野の発展も本エントリ作者には楽しみです「化学物質に対する非特異的な過敏状態の解明とその改善方法に関する研究

*27:続報は次の論文のようです。「Disrupted effective connectivity between the amygdala and orbitofrontal cortex in social anxiety disorder during emotion discrimination revealed by dynamic causal modeling for FMRI.

*28:ただし、扁桃体と前頭前野の結合性を含みます

*29:一方、論文にはなっていないようですが、「いわゆる化学物質過敏症」患者を対象として、心地よい匂いと不快な臭いを嗅いでいる時の安静時脳活動を測定し、不快な臭いが安静時の脳活動に与える影響について、資料『「化学物質過敏症」を訴える集団における微量化学物質影響のリアルタイムモニタリング』の「4. 研究結果」における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『(3) 心地よい匂いと不快な臭いを嗅いでいる時の安静時脳活動を測定し、不快な臭いが安静時の脳活動に与える影響を調べた結果、不快条件で背外側前頭前野(DLPFC)の活動が有意に高くなっていた。また fMRI 画像の各 voxel に存在する低周波領域(0.01-0.1Hz)の信号を定量化した ALFF を用いて評価した場合、両側の前島皮質(anterior insula)の活動が認められた。前島皮質は、痛みなどの情動反応と関連している領域であり、嫌いな臭いが有訴者の不快な持続的情動反応として生じていることが示唆された。』(注:i) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 ii) 引用中の「前島皮質」に関連する、 a) 「セイリエンス・ネットワーク」についてはここを参照して下さい。 b)「島」については、次のWEBページを参照して下さい。「島 - 脳科学辞典」)

*30:ちなみに、この論文が発表されたジャーナルのインパクトファクターについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。

*31:ちなみに、次の資料(他の拙エントリのここ参照)の「6.臨床検査」において、この論文についての短い説明があります。この部分を次に引用します(『 』内)。 『Azuma ら14) は、一般的な嗅覚検査キットを用いていわゆる化学物質過敏症患者での嗅素反応時の脳血流量の変動を、近赤外分光法(NIRS: Near-Infrared Spectroscopy)を用いて健常者と比較している。いわゆる化学物質過敏症患者では、嗅素負荷時と回復時における脳血流の活性化部位について、負荷時は前頭前皮質(prefrontal cortex: PFC)、回復時は眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex: OFC)の領域が健常人に比して強く活性化していることが証明されている。』 注:a) 文献番号「14)」は、もちろんこの論文です。 b) 論文の「Discussion」の最後に結論が記述されています。参考までに次に引用します(『 』内、拙訳を含む)。『In conclusion, despite the small sample size, this experimental study detected an activation that remained even after olfactory stimulation, specifically in the PFC of patients with MCS. We propose that recovery from such activation is delayed in patients with MCS and that their chemical-sensitive state remains due to the repeated daily exposure, leading them eventually to develop intolerance to these odorants. Our study demonstrates that NIRS imaging objectively reflects the status of patients with MCS.[拙訳]結論として、小さなサンプルサイズ(被験者数)にもかかわらず、この実験的研究は、特に MCS を伴う患者の PFC において、嗅覚刺激後さえも残存する活性化を検出した。MCS を伴う患者におけるこのような活性化からの回復が遅れ、そしてこれらの臭気物質への不耐に最終的に導く日常の繰り返し曝露による化学物質過敏状態の存続を我々は提案する。NIRS イメージングは MCS を伴う患者の状態を客観的に反映することを我々の研究は実証する。』

*32:要旨はここで引用しています

*33:要旨はここで引用しています

*34:この本においては、「感情」は「emotion」(他の拙エントリのここを参照)の訳語です

*35:加えて、様々なフルーツの香気成分の概略については次の資料を参照すると良いかもしれません。 「水溶性フルーツ香料の開発」の「1.7 各果実について」項(P.5~P.6)

*36:アロマセラピーはアロマテラピーとも呼ばれます