krns-linkのブログ

まだ仮公開で、今後も本公開までドタバタします。コメント欄は有りません。ちなみに、拙ブログ作成者は医療関係者ではありません。拙ブログは訪問者の方々がお読みになるためのものですが、鵜呑みにしない等、自己責任でお読み下さい(念のため記述)。

「仏陀の癒しと心理療法」の感想

はじめに

拙ブログはリンクと引用を中心に構成されており、ブログ作者による自由な文章記述の余地は少なくなっています。しかし、自由な文章記述の部分をより多くしたエントリを作成しようと思い立ち、次に紹介する本の読書感想を主体とした本エントリを作成しました。ただし、拙ブログの基本的な編集方針とは異なるため本エントリは期間限定の臨時公開とします。ちなみに、a) 本エントリにおいて、「あるがまま」と「ありのまま」を使い分けていることがあります。この場合には、前者は「森田療法」(参照)を考慮しており、後者は考慮していません。ただし、引用においては、原文を優先させています。 b) 本エントリ削除後に改訂作業してからの復活又は他の拙エントリ公開・改訂における、本エントリの一部記述の採用があるかもしれません。

(2019年8月16日追記:様々な状況を考慮すると、本エントリの公開終了を検討する段階には至っていません)

≪主な改訂の履歴≫
2016年3月6日、5月28日、6月4日、10日、26日、9月1日、13日、2017年1月11日、2月12日、3月17日、4月24日、6月25日、8月21日、10月2日、6日、2018年1月22日、2月18日、3月31日、5月10日、11月24日、12月9日、2019年8月16日:文章の追記をはじめとした改訂を行いました。

読書の感想

精神科医及びカウンセラーについて

平井孝男著の本、「仏陀の癒しと心理療法 20の症例にみる治癒力開発」(2015年発行)を読んだ感想及び精神科医及びカウンセラーについて以下に記述します。

ちなみに、本エントリ作者の見解では、優秀な精神科医・(心理)カウンセラーは特に面接術*1が優れており*2、よろず相談(例えばここを参照。*3)として、様々な悩み・苦しみの相談に彼らが気軽に応じてくれるならば、例えば、(1)[「自分で考える」、「自分で決める」、「自分で行動する」、「自分の行動の責任は自分がとる」、「自分がほんとうのところ何を求めているのか」(引用参照)]、(2)[(何事にも)「ほどほどの感覚でいく」、「ほどよい加減を考えていく」(ここにおける引用の「患者は中道が困難」項を参照)]、(3)[「症状を受け止め、症状を持ちながら生活する」(引用参照)]に関連した相談をはじめとして、様々な特性を有して、悩み・苦しみ又は生活に支障がある方々の相談にも適しているかもしれないと考えます。ちなみに、精神疾患において、未診断(放置)、誤診及び/又は誤治療により、長期間にわたり治療が進まなく、ご本人及び/又はご家族が困っていることを示す引用例はここここ及びここに示します。

注:上記『「自分で考える」、「自分で決める」、「自分で行動する」、「自分の行動の責任は自分がとる」』に関連するかもしれない、 a) 「何よりもご自身に努力をお願いしなければなりません」についての引用はここを参照して下さい。 b) 加えて、不安定な愛着から回復しつつあるケースでは、「自分の主体的な意思で自分のことを決め、自分で実行する力を身につけていく」状況であることについての引用はここを参照して下さい。

特性例としては、例えば、(1)臨機応変な対人関係が苦手」、(2)「暗黙や言外という概念の理解が困難」 *4ここ参照)[これに関連して、想像力に障害がある〔ここの③想像力の障害 及びここの(3)想像力のズレによる常同反復・こだわり をそれぞれ参照*5〕、経験が目の前にあるもので飽和し余白もない自分を振り返る余裕がない〔ここの「いっぱいいっぱいになりやすく、自分を振り返る余裕がない」項参照〕]、(3)『「曖昧な関係」「判断を保留」という言葉の理解が困難』(ここのリンク先参照)、(4)冗談やからかいが通じない」、(5)「微妙な空気を読むことが困難」(ここここここ及びここ参照)、(6)両極端で二分法的な認知に陥ってしまう」[これに関連して、「敵か味方か」といった極端な認識をしてしまう〔ここのリンク先参照〕、ハイコンストラスト知覚特性高過ぎるプライドと劣等感が同居している〔ここの「④高過ぎるプライドと劣等感が同居」項参照〕]、(7)仕事の優先順位がわかりにくい」[これに関連して「細かなことに著しくこだわる」]、(8)興味の偏りが著しい」、(9)「助けを求めるのが苦手」(ここ及びここ参照)、(10)物事を何でも簡単に信じてしまう」、(11)「誤学習してしまう」(ここここ及びここ参照)、(12)「森を見ずに木又は葉を見てしまう」[木又は葉を見ただけで、森を見ずに安易な判断をしてしまう](ここ参照)[これに関連して、物事をありのままに見ないで、自分が望むように見てしまう〔注:観察する自己を強調する場合は、(45)を参照〕、確証バイアスにとらわれている主観的な世界から全く脱却できない見通す力がない並列処理(マルチタスク)が困難一事が万事〔ここここ参照〕、視点の切換えが困難「定点観測者」となってしまう自分のルールや価値観、やり方が世界標準だと思いこんでいる揚げ足を取ってしまう又は重箱の隅をつついてしまうシングルレイヤー思考特性である視野狭窄である〔ここの『「とらわれ」というワナ』項参照〕]、(13)「ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない」(ここ及びここここ参照)、(14)自分が他者からどのように思われるか気にしない」、(15)余計なことを言う」、(16)実際の経験によらなければ学べない」[「人の振り見て我が振り直せ」が困難]、(17)「コミュニケーションの問題がある」(ここここここここここ及びここ参照)[これに関連して「交渉ごとが苦手」〔ここここ参照〕*6]、(18)認知様式が主にボトムアップ型で全体へとまとまりあがりにくい」[これに関連して「理念形成が困難」〔ここ参照〕]、(19)「見知らぬ場所や新しい環境が苦手」(ここここ *7参照)、(20)「アサーティブな主張が困難」(ここの「アサーティブな生き方」及び「アサーション」関連参照)、(21)「認知のかたよりがある」(ここの P13 、加えて、ここここここ及びここ参照)、(22)不適応的スキーマを有し、これを手放すことができず活性化してしまう*8(23)「多動性・衝動性及び/又は不注意が著しい」(ここ及びここ参照)[これに関連して「注意の配分が苦手」]、(24)情動調節の不全がある」、(25)心的等価モードになってしまう」、(26)「トラウマを負ったことによるフラッシュバック又はタイムスリップ現象(リンク集参照)に圧倒又は翻弄される」[これに関連して「記憶が消えなくて苦しむ」]、(27)「怒りのコントロールが困難」(ここここ及びここ参照)[これに関連して、少しの情動喚起で闘争モードになってしまう〔ここ及びここ参照〕、自己愛的な激しい怒りにとらわれる]、(28)「クレーマーになってしまう」(ここ及びここ参照)、(29)「枠組みのない又は構造化されていない状況が苦手である」(ここの「枠組みのない状況が苦手である」項及びここを参照)、(30)「(生活上の何らかの破綻に端を発し)鬱憤をぶちまけてしまう」(ここ参照)[これに関連して、「理想化後にこき下ろしてしまう」〔ここ及びここ参照〕]、(31)目的論的モードでの行動を取ってしまう」[これに関連して「暴発や行動化を起こしやすい」〔ここの「⑤怒りや破壊的な感情にとらわれて、暴発や行動化を起こしやすい」項を参照〕]、(32)7つの激しい感情が噴出してしまう」、(33)投影同一視をしてしまう」、(34)「自己と他者の境界が暖味になる」(ここの「②自分の視点にとらわれ、自分と周囲の境目があいまい」項及びここの「自己と他者の境界が暖味になる」項を参照)[これに関連して、「相手が自分と同じ道を歩いていると思いこんでいる」〔ここここのLesson4 *9を参照〕、「自分の基準でしか、相手を見ることができなくなる」〔ここの「自己と他者の境界が暖味になる」項を参照〕、「自他未分である」]、(35)「過大なアラジンの魔法のランプ願望がある」(ここの「アラジンの魔法のランプ願望」項を参照)[これに関連して「非現実的な救済願望がある」〔ここの⑥項を参照〕]、(36)「心から安心することができなくなる」(ここの「心から安心することができない」項を参照)]、(37)「思い通りにならないと攻撃されていると思ってしまう」(ここの「思い通りにならないと攻撃されていると思う」項を参照)[これに関連して、『「妄想・分裂ポジション」に陥ってしまう』、『病的な「躁的防衛」をしてしまう』〔共にここの「思い通りにならないと攻撃されていると思う」項を参照〕、その瞬間瞬間に生きている]、(38)「生理的症状と心理的症状の相互混乱がある」(ここの⑤項を参照)*10[これに関連して「自分の感覚によりネガティブな気持ちになってしまう」〔ここここ *11参照〕]、(39)「愛着が安定しない」*12[これに関連して、例えば、人に気ばかりつかってしまう、自分をさらけ出すことに臆病になってしまう、人と交わることを心から楽しめない、本心を抑えてでも相手に合わせてしまう、いつも醒めていて何事にも本気になれない、拒否されたり傷つくことに敏感になってしまう*13損だとわかっていて意地を張ってしまう〔以上はここ参照〕、ストレスに敏感、不安を感じやすい、人に信頼を持ちにくい*14気分が不安定〔以上はここここ *15参照〕]、(40)規則正しい時間を作ったり守ったりすることは極めて苦手である又は睡眠時間が極端に短かったり乱れている」、(41)「離隔(離人感や体外離脱体験など)がある」(ここの「症候学」項及び/又はここで紹介されている本*16参照)、(42)「区画化(健忘や人格交代など)がある」(ここの「症候学」項及び/又はここで紹介されている本*17参照)[これに関連して「激烈な記憶の断裂がある」〔ここの②項を参照〕]、(43)「失感情症(アレキシサイミア)である」(ここ及びここ参照)、(44)『「非定型うつ病」のような気分変動がある。すなわち、本人にとって都合の悪いことに対面すると気分が沈み込んだ状態が続くものの、よいことや楽しい出来事があると、それまでの不調がウソのようにたちまち元気になる。』(ここ参照)[これに関連して、(非定型うつ病の特徴としての)「拒絶過敏性がある」〔ここ参照〕*18]、(45)『「平静の祈り」で示されるような深い叡智が欠如していて、受容と変化のバランスがとれない』(ここ参照)[これに関連して、「観察する自己が機能せず、ものごとをあるがままに見ることができない」〔ここ参照〕〔注:森を見ずに木又は葉を見るや視野狭窄を強調する場合は、(12)を参照〕]、(46)「精神内界における悪循環(とらわれ)や思想の矛盾がある」*19ここの「森田療法の基本的理論」項、ここの「思想の矛盾」項、及びここを参照)[これに関連して「精神交互作用の悪循環に陥る」]、(47)破局的思考・解釈をしてしまう」(ここここここを参照)[これに関連して、「何らかの身体的な徴候や感覚がきっかけとなって、破局的な思考が引き起こされる」ことについてはここここを参照)]、(48)「人格の低下がある」*20ここ参照)、(49)「注意制御機能が低下している」(ここここを参照)、(50)「過敏等により、ストレス応答が非常に生じやすくなっている」[聴覚過敏及び/又は雑音過敏についてはここを、発達障害における感覚過敏についてはここを、これらを含めたより幅広い過敏については『岡田尊司著の本、「過敏で傷つきやすい人たち HSPの真実と克服への道」(2017年発行)』[注:タイトル中の「HSP」は Highly Sensitive Person(敏感すぎる人)の略語です(同本の P7 より)。ただし、HSPという概念を提唱したエレイン・N・アーロン博士とは、この用語の定義が一致しないようです。]をそれぞれ参照して下さい。加えて、これに関連するかもしれない「身体感覚増幅」(ちょっとした身体感覚が大きく増幅されて気になる症状として感じてしまうこと、これに類似するかもしれない(46)関連の「精神交互作用の悪循環に陥る」も参照して下さい)についてはリンク集を参照して下さい。一方、 a) 柴山雅俊監修の本、「解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病」(2012年発行)の P36~P37 によると、解離性障害(解離症)における過敏についての次に引用(『 』内)する二つの記述(P36~P37)があります。 『知覚過敏を伴う 気配や周囲の人に過敏になっているため、聴覚や視覚などの知覚に過敏症状が出ることも多い。』、『周囲の気配や刺激に対し、必要以上に敏感になっている状態で、気配への過敏と対人への過敏があります。』(注:気配への過敏については同本の P16~P17 を、対人への過敏については同本の P18~P19 をそれぞれ参照して下さい。加えて「知覚」については次のWEBページを参照して下さい。 「知覚 - 脳科学辞典」) b) ストレス応答については例えばここを参照して下さい。なお、ストレス応答が行動面において表出される場合は、上記(27)の①項を重視した方が良いかもしれません。] が挙げられます。さらに、仏教思想の視点からは「放逸」(煩悩に支配されている状態)や(言葉の世界全体から距離を取れていない)「されど言葉」も挙げられます。加えて後者に関連する、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の視点からの「言葉の世界全体から距離を取る」があります。

さらに、身体症状(注:様々な精神疾患又は身体疾患において現れるので、鑑別が必要)又は転換性障害(変換症)[例えば他の拙エントリのここ及びWEBページ参照]の症状(注:特にてんかん[癲癇]との鑑別が必要)についても、必要に応じて相談すれば良いかもしれません。加えて、鉄欠乏性貧血も精神科医の中で話題となっているようです。他の拙エントリのここを参照して下さい。

一方で、精神科医が患者の悩みも苦しみもすべて解消してくれるかのような、過大な期待に対するリスクもあり、「悩める健康人」の「うつ」におけるこのリスクについては、井原裕著の本、「精神科医と考える 薬に頼らないこころの健康法」(2017年発行) の はじめに の「うつを治せる精神科医はいない」における記述の一部(P19~P21)を次に引用します。

うつを治せる精神科医はいない

「私にできることといえば、患者さんに『こうすれば治るかも』と提案するだけ。治すのは私ではない。あなた自身です」
私は、うつの初診患者さんに、こう申し上げることがあります。患者さんは驚きます。不安になります。「大丈夫だろうか」、そう思います。でも、私は、こう返答せざるをえません。
「大丈夫ではありません。あなたがこれまでと同じような生活を続けていたら、うつはなかなか治らないでしょう。『先生、治してください』とおっしゃる前に、生活を変える、習慣を変える、行動を変える、それが必要です。このままではいけない。私は、気休めや、慰めを言うつもりはありません。今のあなたに必要なのは、『癒し』ではありません。『危機感』です。何よりも『危機感』をもって、現状を変えなければなりません」
うつの患者さんの大半は、生活習慣が乱れています。働き盛りならば、短時間睡眠、不安定な睡眠・覚醒リズム、アルコールの乱用、シニア世代なら運動不足、極端な孤独など。しかし、この生活習慣については、皆さんはほとんど危機感を抱いておられない。残念ながら生活習慣の問題を是正することなく、ただ薬を飲んでもうつは治りません。
生活習慣の改善は、患者さん自身が取り組むことが必要です。「医者に丸投げ」ではなく、何よりもご自身に努力をお願いしなければなりません。他力本願では治るはずの人も治りません。
では、精神科医は何をするのか。それは、患者さんと話し合って、「できることから始めましょう」と提案することなのです。問題は錯綜しています。患者さんは混乱しておられます。でも、順を追って解きほぐせるところから解きほぐしていきましょう。寝不足の人は十分眠っていただく。その場合、「6時起床、23時就床」などと具体的に目標を決めたほうがいいでしょう。酒を飲みすぎている人は、量を半分にする、1日おきにする、あるいは、いっそのこと断酒していただく。最初の数日はただ生活習慣の是正だけを行う。それだけで疲労はとれ、脳はクリアになります。そうなったところで、うつをもたらした事情をひとつずつ解決していきましょう。
事情はさまざまです。過重労働、多重債務、人間関係など。これらは、混乱した頭では解決策が浮かびません。しかし、脳を休めた後であれば、「あの人に頼もう」とか、「弁護士に相談しよう」などといった建設的な打開策が浮かんできます。
患者さんのなかには、素晴らしい精神科医に巡り会えて、自分の悩みも苦しみもすべて解消してくれるかのような、法外な期待をしている人がいます。でも、医者に期待したってしょうがない。なによりもあなた自身の可能性にかけてみましょう。(後略)

加えて、不安定な愛着から回復しつつあるケースでは、「理不尽な支配やとらわれから自由になり、ありのままの自分を受容する」のみならず「自分の主体的な意思で自分のことを決め、自分で実行する力を身につけていく」状況であることについて、岡田尊司著の本、「愛着アプローチ 医学モデルを超える新しい回復法」(2018年発行)の 第三部 両価型愛着・二分法的認知改善プログラム の 第三回のワーク 愛着と両価型 の 心理教育・愛着と両価型愛着について の「安定型になるためには」における記述の一部を(P233~P234)を次に引用します。

(前略)実際に、不安定な愛着から回復したケースで、何が起きているのかを見ていくと、どうすればいいのかが見えてきます。それは、両価型に特徴的な以下の課題を克服することです。

①振り返りの力を高めて、自分や相手を客観的に見られるようになる。
②自分を律する力を高めて、気持ちや行動が過剰反応しない冷静さを身につける。
③理想的な状態やこうあるべきだという基準や期待にとらわれすぎず、ありのままの相手やありのままの自分を肯定的に受け入れる心の柔軟性を手に入れる。
④愛着関係で自分の身に起きたことを整理し、自分なりの理解や納得を得ることで、未解決だった心の傷やそれによるとらわれから、少しずつ自由になる。
⑤自分のことは自分で決め、自分で行動する力を身につける。

自分を振り返り、自分も含めた物事を客観的に見る力を高めるとともに、現実の愛着関係で起きたことを整理し、そこで負った傷によって知らず知らず気持ちが過剰反応してしまう状態に、自分なりの納得とコントロールを取り戻すことが求められるのです。それによって、理不尽な支配やとらわれから自由になり、ありのままの自分を受容し、自分の主体的な意思で自分のことを決め、自分で実行する力を身につけていくのです。(後略)

注:引用中の「愛着」については、 引用中の「ありのままの相手やありのままの自分を肯定的に受け入れる心の柔軟性」「自分を振り返り、自分も含めた物事を客観的に見る力を高める」

読書の感想(箇条書き)

ここからは、この本の理解・感想等を思いついたままに箇条書きします。ただし、本エントリ作者は医学のみならず仏教にも初心者であること、本エントリ作者の筆力に限界があること等により、奥の深い記述は期待しないで下さい。さらに、用語の整理があまりできていないかもしれません。

①心の病の患者であろうとなかろうと、我々凡夫は誰でも様々なやその背後にある欲求・煩悩・執着・こだわりを抱えて生きている。これらが強くなり過ぎると、心の病に陥る可能性が高くなる。視点を変えると、心の病は、苦を受け止めることができなくなり、苦の悪循環が生じる結果(ここの「四諦と異常意識からの脱却」項参照)でもある。

②これらの苦を受け止める(ここの「苦を受け止めるとは?」項参照)ことに加えて、ほとんどの心の病は、根底に過度の欲望・執着・こだわりが潜んでいるので、後者の治療とは、それらを「ほどほどの欲求・執着・こだわりに変化させること」、執着・こだわりにふりまわされている状態から、執着・こだわりを自由にプラスになるように使いこなすという「主体性の回復」と言える(ここの「四諦とは?」参照)。視点を変えると上記「苦の悪循環」を良循環に転換できるように助けることが治療の目的となる(ここの「心の病は、苦の悪循環の結果」項参照)。ちなみに、スキーマ療法によると、早期不適応的スキーマがさまざまな状況において活性化されることで、例えばパーソナリティ障害の症状がもたらされるようだ。早期不適応的スキーマを手放し、ヘルシーモードを育み強化することが治療につながるようだ。

③従って、心の病は特別なものではなく、我々凡夫がいつでも陥るリスクを有するものである。視点を変えると、大事なことは、(人間の)心は身体と同様に、健康な部分と病的な部分(例えば、神経症部分、うつ的部分、心身症的部分、統合失調症的部分、依存症的部分、境界例部分など)があって、病的な部分が増えて、生活に支障が出てくると病気と呼ばれるだけで、健常者と病者の間に境はなく、程度問題だということである。(P216)
これに関連しないかもしれないが、ちなみに、自閉スペクトラム症はその名の通りスペクトラム(連続体)であり、一般人(定型発達者)から、発達凸凹非障害自閉症スペクトラム)、自閉スペクトラム症自閉症スペクトラム障害)まで、様々な方々が存在する。このことを示す図は、例えば次の資料「発達障害から発達凸凹へ」の図1(P12)を参照して下さい。

④不幸にも、心の病に陥った場合にも、上記のような位置どりの精神科医又はカウンセラーをうまく選定し、かかることは有力な選択肢の1つである。ただし、精神科医又は/及びカウンセラーに援助してもらっても、悩みの解決は自分でするものという自覚を忘れないようにしないと治療が進展しないリスクがある(例えば、ここの「[事例G解説]」参照)。

⑤中道(極端でないこと、ここにおける引用中の「第2項」参照)が大事である。中道を見つけられない又は中道から逸脱すると周りの方々を振り回すことにもなりかねない。その例はここ及びここ参照して下さい。

仏陀は合理的な人生態度を探求したと思われ(ここ参照)、加えて、記録に残る最古の優秀なカウンセラーでもある可能性が高いのではないか(ここ参照)。

神経症においては、必要に応じて「精神相互作用」(別名である「精神交互作用」としてここを参照)に注意する。

⑧心の病の水準*21と苦諦との関係は次の通り。統合失調症(例えばここ参照)等の精神病水準では苦諦すら認識できず、境界例水準では苦諦は実感できてもそれに直面できず、ましてや集諦は認識できない。神経症(例えばここ参照)水準では、苦諦、集諦、滅諦までは理解できても、道諦の実践ができないといったことになるかもしれないとのこと(P296)。注:四諦(苦諦、集諦、滅諦、道諦)についてはここを参照して下さい。

精神疾患の診断における注意点:a) 今この患者の健康部分はどの程度か、病的部分で優勢なのはどれとどれかといったところを診ること。 b) 診断は暫定的で仮のものであっていつ変わるかわからない。(P216)

⑩(気付きの生かし方に関連して)気付いていったいくつかの点を今後にどう生かしていくかという点に焦点を絞る。この時の基本になる考えは、プロテスタント神学者ラインホールド・ニーバーの祈り(又は平静の祈り:ここ参照)である。(P265)

⑪薬は悪循環から良循環への刺激因子すなわち応援部隊である。薬は万能ではなく方便・手段である。薬も、応機説法と同様に、その時その病人にあった薬を処方するのが大事である。(P316~P317)

⑫(苦や欲求や執着や煩悩への気付き後に関連して)煩悩そのものの有り様と、その煩悩の背景を成す欲求や執着を良く見て、適切な態度を取って欲しい。(P418) 加えて、この点についての箇条書き(P418)を次に引用します。この引用はここにおける引用の「治療者としてなすべきこと」項と関連します。

①執着はほどほどにすることが一番心が安らぐことが多い。
②しかし、何かに徹底して執着しこだわり続けるという態度があってもいい。
③極端に執着する態度と、何の欲望も執着ももたないという態度の中に無数の選択肢がある。
④どの選択肢をとっても辛さは残る。
⑤その中で一番納得する選択・決断をすることが大事。
⑥患者はこの決断が苦手。
⑦治療者はこの決断を助け、患者の選択・決断能力を引き出すのが役目である。
⑧この選択・決断の繰り返しの中で患者は成長する。

余談

以下に示すように、この本の記述の一部を複数引用します。

(a)仏陀の癒しと心理療法からの引用

(1) 四諦、中道、縁起について、平井孝男著の本、「仏陀の癒しと心理療法 20の症例にみる治癒力開発」(2015年発行)の 第1章 四諦・中道・縁起一仏陀の基本的教え の 第2節 仏陀から学んだこと-基本的な教え(四諦、中道、縁起) の「第1項 四諦ついて」、「第2項 中道について」及び「第3項 縁起について」における記述(P29~P38)を次に引用します。

第1項 四諦について
四諦とは?
第1節でも述べたように、治療者として最初に仏陀から教わったのは、四諦という教えであった。四諦とは、言うまでもなく、苦諦(この世や人生は苦であるという真理)、集諦(苦をもたらす根本原因は、世の無常と欲望に対する執着にあるという真理)、滅諦(苦を滅するためには煩悩をコントロールし、執着を断つことが必要であるという真理)、道諦(滅諦に至るためには、八正道の正しい修行方法によるべきであるという真理)のことである。(注:減とは、パーリ語で nirodha の漢訳語であるが、本来は消滅というより、心や感覚器官を制しておさめるというようにインドでは考えられている。したがって、減とは、苦や欲望の消滅ではなくて、ほしいままに動き回る欲望をコントロールし、苦しみを閉じ込めてしまうことだと考えておく方がいいであろう。決して欲望の否定ではない)
結局、ほとんどの心の病は、根底に過度の欲望・執着・こだわりが潜んでおり、治療とは、それらを「ほどほどの欲求・執着・こだわりに変化させること」、執着・こだわりにふりまわされている状態から、執着・こだわりを自由にプラスになるように使いこなすという「主体性の回復」と言える。

四諦による治療の明確化
筆者が危機的状況にあったころ、インドに行く機会を得、その縁で初めて仏典に触れることになり、そこでこの四諦の教えに出会ったのが、仏陀との初めての出会いであることは既に述べたとおりである。当時、欲望や我執に苦しめられていた筆者にとっては、非常に有り難い教えとして、自分の中に沁み込んできた。
この四諦を知った後、筆者は、常に欲求や煩悩や苦を中心にして、人間や病気や治療のことを考えられるようになり、その結果それらに関する見方が、次のように単純化された。
その第一命題は、人間は生まれてから死ぬまで、欲望や煩悩を常に持たされている存在であるということである。
そしてそうした欲望は、たいてい満たされないことが多く、また満たされたとしてもそれは束の間の時間であり、人間は絶えず欲求不満の状態に置かれる。
さらに、この不満といった苦の状態が強く、しかも長く続くと憂鬱、苦悩、絶望といった抑鬱状態に陥るであろうし、また今は満たされていても将来満たされないのではないかと心配したり一層悪いことが起きるのではないかと心配すると不安状態になるであろう。さらに人間は幾つもの相反する欲望を同時に持たされることが多く、それらに引き裂かれて葛藤状態になることが多い。
そして、このような抑鬱感、不安、葛藤といった重い苦(日常抱く欲求不満は軽い苦と呼んでいいのかもしれない)をなんとか受け止められると健全と言えるのであろうが、これを受け止められないといわゆる病的状態に陥ると言える(ちなみに、筆者はこの病的状態を、神経症的反応、うつ病的反応、心身症的反応、精神病的反応、直接逃避、行動化的反応、依存的反応等と勝手に分類しているが、治療を進める上でとても便利だと感じている)。

苦を受け止めるとは?
ところで、この「苦を受け止める」というのは、どういうことかというと、まず第一に苦があるのは人間として当然のことであると認識することであり、第二に苦を抱えながら日常生活や対人関係をなんとかこなし、第三に身体も健全さを保ち、第四に自分の苦の有り様と苦の原因である執着との関係をよくわかっていてしかも執着を程よくコントロールできており、第五に自分の苦に対する対策や見通しをある程度立てられることであり、最後に抑鬱、不安、葛藤というのは否定的な面だけではなく、自分や世界についての認識を深めるものであり、生活や創造の源泉なのだというように捉えていることだと考えられる。
逆に受け止められないということは、この六つのことができないと同時に、病的症状が出現する事態だと考えられる。

治療者としてなすべきこと
このように考えると、治療者のなすべきこととして、以下の事が挙げられることになる。
①まず患者がいかなる症状や苦に悩まされているか。
②その苦の背後にはいかなる欲求・煩悩があり、執着があるか。
③その欲求・煩悩・執着はほどほどか、強すぎるか(臨床的事態になる時はたいてい過度の執着がある)。
④その過度の執着からいかにして脱していくか、いかにして執着をほどほどにしていくか。執着に振り回されている状態からいかにして執着を有益なものとして使いこなせるようにするか。執着に振り回されない主体性を引き出していくか。
⑤苦をいくらかでも和らげると同時に、苦を受け止めていくためにはどうしていったらよいか。
といったことを、患者と共に考えていくこと、という根本原理が見えてきたのであった。
以上のように単純化できてからは、かなり事態が複雑になっている患者と出会っても、絶えずこの四諦の教えに戻って考えてみることで、問題の整理がついたように思われた。

四諦と異常意識からの脱却
また、それだけではなくこの四諦の教えは、患者の異常意識を和らげるのに役だった。というのは先述したように、患者は抑鬱、不安、葛藤といった苦を当り前だと考えたり、それを引き受けるといったことができず、それらを異常と考えたり、それを持っている自分は異常な人間になったのではという恐れを感じていることが多い。つまり、苦諦という第一聖諦を認識できていない。
人間は今挙げたような苦しみがとても辛いので「それらが常のものでない。常と異なるものであって欲しい」と考えてしまいやすい。そして異常な現象としての苦の消滅を願うが、なかなかそれが消えないと、今度は「このような異常な苦を持った自分が異常な人間になった」と感じやすい。そして、それは異常意識となってその人間に襲いかかり、今度はその異常意識がその人間を苦しめるのである。ここに不幸な悪循環が生ずる(病気とは悪循環の一つの結果だと考えていい)。
それゆえ、治療場面でこの点について話し合うことで、患者が「自分の苦しみは人間に共通するものだ」「お釈迦様も同じような苦を背負っていたのだ」と認識できれば、それだけでも患者の苦しみは和らぎ、苦を引き受けやすくなってくるのである。
患者は、苦を排除するという不可能なことをしようとするので、かえって異常意識や苦を強めてしまうのであろう。

第2項 中道について
中道とは?
次に、苦を和らげそれを引き受けやすくするには、煩悩のコントロールや執着からの脱却という滅諦が治療目標となるわけであるが、それを実現させていくものとして、道諦つまり八正道がある。そして、この正しい道というのが、筆者には中道を指すものと思われる。中道は、極端を排するということで、例えば極端な快楽を排すると同時に極端な苦行をも排するといった考えである。これは簡単に到達した結論ではなく、釈迦が死線をさまようような激しい苦行の末に悟った貴重な教えである。

患者は中道が困難
さて、中道という観点から患者を眺めてみると、いかに患者が中道から離れ極端に偏しているか、また執着に捕らわれているかがよくわかる。例えば自己反省はとても大事なことであるが、これが極端になるとあらゆることに自責的になりうつ状態に陥るであろうし、逆にまったく自己に対する反省がなく他責的ばかりだと、例えば被害妄想や境界例のようになってしまうであろう。
また確認は必要な行為であるが、行き過ぎると強迫のような状態になるであろうし、逆に見直しをまったくしないで行動すると、衝動行為のようになってくるであろう。
さらに欲求を抑えることは大事であるが、抑え過ぎてまったく引きこもったりしてしまったり(自閉状態が主になった統合失調症など)するのも問題であるし、逆にまったく抑制が効かない(躁状態など)というのも問題である。
また仕事に励むことは大事だが、行き過ぎると過労死や過剰適応を主とする心身症等になるであろうし、仕事をまったくしないのも、退却症等さまざまな病気の状態と言えるであろう。
執着にしても、まったく執着しない状態だと生産的で創造的な人生が送れなくなるだろう。他方、執着し過ぎると体も心も人間関係も壊れてしまうし、病気になるだろう。ほどほどに執着し、執着を上手くコントロールし使い分けることで物事や難事業の達成が得られる。怒りもほどほどであれば身を守り、適度な自己主張に昇華するのである。
こうした例は挙げていけば切りがないが、患者を診る時の重要な視点として、患者がどのような極端に偏しているかを見ていくと、問題が大変わかりやすくなってくる。そして、患者との間で、このことが話し合われると、「ほどほどの感覚でいくこと」「ほどよい加減を考えていくこと」が、絶えず大事な治療目標となってくる。

中道の主体性――ほどほど感覚の重要性
ただ、この道諦、正道、中道すなわち「ほどほど感覚」というのは、言うほど実現が簡単なことではない。つまり中道というのは、単に中間ということではなくて、極端を排するといったことであり、したがって極端と極端との間には無数の中道があり、これが正しい中道だという基準は全然ないのである。そこで、中道やほどほどをどのあたりにするかは、結局自分で決めねばならず、そのためにはその人の主体性が強く要求されるわけである。またその判断の結果はもちろん本人が引き受けていかねばならない。そう考えると、そこの中道を実現させていくのは大変重大な決断になるであろう。

中道とは自由自在である
また、さらに連想を進めると、この中道というのは、絶対化を排して常に相対化を進めること、とらわれから脱した自由な思考や行動を目指すこと、そしてそこに主体的な決断を醸成していくことであると考えられる。したがって、最終的には「中道」という教えにもとらわれない生き方が、一番中道的であるとも言えるのであろう。そして結局それが治療であり自由自在の生き方となると思われる。主体性の後退した患者は、この自由な生き方や中道が苦手で、どうしても一つの固定観念に偏したり、極端になってしまいやすいのである。

第3項 縁起について
縁起とは?
さて、苦を和らげ引き受けていくことから、道諦、正道、中道、自由と考えていく中で、とらわれからの脱却が大きな課題となってきたようであるが、そのことに関連してさらに影響を受けたものとしては、縁起と空の教えであった。
縁起とは、因縁生起のことで、他との関係が縁となって生起するということである。また因とは結果を生ぜしめる内的な直接原因のことを言い、縁とは外からこれを助ける間接原因のことを言う。
仏陀はさらにそのことを「相応部経典」の中で「(一切の存在の有り様は)すなわち相依性にある」と述べており「一切の存在の有り様は関係の中に成り立っている」ということを強調しているようである。となると、一切は関係であるということだから、存在するものには実体がないという空の教えに近付くことになるように思えた。

病状と関係性
この縁起と空の教えは臨床において以下の考えへと筆者を導いていった。それは、病気や健康といったものがまったく実体を持たない相対的な概念であると同時に、病名や病態は関係の中でいくらでも変化するといったことであった。
例えば妄想や幻聴を訴える患者と出会った時、医者によってはその妄想がどんどんひどくなる場合もあれば、逆にそれらが減少していく場合もある。このような例は無数に挙げることができるし、また医者の態度だけではなく家族や周りの関わり方でも、随分と患者の状態が変わってくる。つまり病状とは、患者と医者(さらには両者を取り巻く人々)の合作なのだが、残念なことにまだ現在では、患者だけが診断され、患者を取り巻く関係性の診断がなされているところは少ないようである。
いずれにせよこの関係性ということから考えていくと、かなり難治の患者が来ても、そうなってきた因縁を探ることにより、いくらかでも悪縁を除き、良縁を呼び込むといった態度で接していくと道が開けてくると言える。しかし、逆に言えば易しそうに見えてもこちらの態度いかんで難治例になってくることが多い。昨今の境界例やパーソナリティ障害などの難事例は、特にそれが言えそうである。
また、健康にも病気にも実体はないわけだから、悪化しても良くなっても、そのことを考えておけば、そんなに一喜一憂しなくてすむであろう。したがってそれらにとらわれることなく自由性を保持できるとも言える。そして治療者が自由であればあるほど、患者の治癒力が開発されていきやすいのは言うまでもないであろう。

注: i) 引用中の「八正道」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「八正道」、『苦を滅する道「八正道」 スカトー寺副住職 プラユキ・ナラテボー②』 ちなみに、八正道の一つである「正念」の「念」は、現代の「マインドフルネス」(例えば、他の拙エントリのここ及び次の資料「日本の心理臨床におけるマインドフルネス」をそれぞれ参照して下さい)に相当するようです。ただし、仏教用語としての「念」と臨床心理学用語としての「マインドフルネス」は同一ではないと本エントリ作者は考えます。 ii) 引用中の「境界例」及び「パーソナリティ障害」については、共に他の拙エントリのリンク集(用語:「境界性パーソナリティ障害」)を参照して下さい。 iii) 引用中の「苦」について、仏教思想の視点からは他の拙エントリのここ及びWEBページ「間違えられた苦の原因 スカトー寺副住職 プラユキ・ナラテボー①」を参照して下さい。加えて次項も参照して下さい。

(2) 臨床現場における患者の苦しみについて、平井孝男著の本、「仏陀の癒しと心理療法 20の症例にみる治癒力開発」(2015年発行)の 第2章 心の病と苦 の 第2節 臨床における苦-苦と病の関係 の「第1項 患者の苦しみ」における記述(P63~P65)を次に引用します。

苦一覧
それでは、肝心の臨床現場における患者の苦しみはどうなっているのだろうか。思いつくままに挙げてみると、
①不安、恐怖、強迫、パニック、心配、気がかり、気苦労、心労、危惧、懸念、対人恐怖、醜形恐怖など
②憂鬱、絶望感、無気力、無感動、自己否定、自信喪失、罪悪感、自罰感情、劣等感、希死念慮、自殺願望、思い煩い、憂悶、むなしさなど
③イライラ、怒り、モヤモヤ、不満、不快、瞋、憤り、憤怒、むかつき、家庭内暴力など
④迷い、葛藤、困惑、不決断、逡巡、迷妄、惑乱など
⑤焦り、焦慮、いらだち、焦燥など
⑥身体的苦痛、不眠、食欲不振、過食、頭痛、身体的痛み、麻痺、しびれ、かゆみ、ふらつき・めまい、便秘・下痢、疲労・だるさ・倦怠感、動悸、呼吸困難、過呼吸、吐き気、嘔吐、発熱、体力低下、視力低下、聴力低下、性機能低下など
⑦健忘、思考機能低下、認知機能低下など
⑧解離、分裂、ばらばら、狼狽、自己喪失、脱落意識など
⑨幻聴、妄想、幻覚、作為体験(させられ体験)、異常体験など
⑩他者からの誤解、無理解、拒絶、見捨てられ感など
⑪目標喪失、先が見えないなど
⑫こだわり、とらわれ、執着など
⑬依存、アルコール依存、薬物依存、買い物依存、セックス依存、ギャンブル依存、過食、拒食など
自傷行為、他者への破壊的行為、自己統制困難など
⑮自立困難、過度の依存、一人で居られない、外出困難、日常生活の能力低下、就労不能、金銭管理の無能力など
⑯経済的困窮、貧困、借金など
といったところが浮かんでくるが、これはほんのちょっとした例で、患者の苦はそれこそ先の華厳経の苦のごとく多いものである。

心の病は、苦の悪循環の結果
ところで、これら①から⑯は相互に関連しており、それぞれが原因とも結果ともなりえる。例えば、不安→動悸→恐怖→過呼吸パニック発作→恐怖定着→外出恐怖→外出困難→日常生活能力低下→自信喪失→うつ状態→未来に対する過度の不安、といった具合である。それから言えばこういう悪循環や負のスパイラルの果てに病気が発生するのであろう。これは、心の病だけでなく、身体疾患にも言えることである。
それで、専門家(医師、臨床心理士、カウンセラーなど)に相談することになり、運が良ければ、悪循環や負のスパイラルが断ち切られ良循環が引き出されるのだろう。
ただ、この悪循環の結果は、ある程度の不安定さを有しながら固定化していることが多い。症状や問題点というのは、その患者の歴史の総決算かもしれない。だから、不用意に性急に手を加えると平衡状態が崩壊して一層悪い事態を招くときがある。それゆえ、治療という介入は慎重にせねばならない。

(3) 平井孝男著の本、「仏陀の癒しと心理療法 20の症例にみる治癒力開発」(2015年発行)の 第1章 四諦・中道・縁起一仏陀の基本的教え の 第2節 仏陀から学んだこと-基本的な教え(四諦、中道、縁起) の「第5項 応機説法-仏陀の説法の仕方」における記述の一部(P40~P43)を次に引用します。

仏陀の説法の仕方
以上のように、仏陀は、四諦、中道、縁起という素晴らしい教えを説いたが、一般の衆生、特に追い込まれている患者はなかなかそのことを理解できないことが多い。また理屈ではわかっても実生活でそれを生かせなかったりということが、往々にして生じやすい。
しかし、仏陀は教えの内容だけが素晴らしかったのではなくて、教えの説き方そのものにも素晴らしい技を発揮しており、ここでも学ぶことが多かった。
その説き方の基本は「応機説法」とよばれるもので、これは「その場(人)に応じて法を説く」といったことである。仏陀はあるバラモンに対して「私はこのことを説くということが、私には無い。諸々の事物に対する執着を執着であると確かに知って、諸々の見解における過誤を見て、固執することなく、省察しつつ内心の安らぎを得た」と答えているが、ここの所は大変大事な個所である。
というのは先にどんなものにも実体がないということや、何事にもとらわれない自由な態度が重要だと言ったが、仏陀はまさに何も説かないと同時に、何でも説く、その場その人に応じて、自由自在に説く内容を変えていったと思われるし、時には何も答えないというかたちで応えていったこともあるのであろう。
仏陀の教えの説き方の要約は以下のとおりである。
①相手の立場に立つこと
②相手のレベルや言葉で考えること
③知らないうちに相手に考えさせ反対の立場に導くこと
といったものであるが、この辺の事情をペック(十九世紀ヨーロッパの仏教学者)は「質問に対する仏陀の態度もまた重要である。問われるままに質問に答えるとは限らず、むしろ仏陀は教化によって問うものに回心を呼びおこし、内面的な心霊変化を生じさせるのであって、これによって、問う者は自分の質問の意味からまったく引きはなされ、その質問を思いついた思考のあらゆる前提が、仏陀の言葉によって自分の内部によって呼び起こされた高次の知恵に対しては、対象を失い、意義を失って消失する、ということがわかる」と述べている。この仏陀の態度は一言で言えば、御説を垂れるというよりは、相手に考えさせるといったことだと思われる。

応機説法の例-バラモンの非難に対する応答
この例として、弟子を仏陀にとられたバラモンが、仏陀を非難した時の問答を挙げてみる。仏陀は、バラモンの非難に直接答えずに次のように問い返した。
仏「バラモンよ、汝の家に来客のあることがあるか」
バ「もちろんある」
仏「では、その時には、食事をふるまう時もあるか」
バ「もちろんその通りだ」
仏「では、その時、その客がその御馳走をいただこうとしなかったら、その御馳走は誰のものになるであろうか」
バ「それは私のものになるよりしかたがない」
仏「バラモンよ。今、汝は悪口雑言を浴びせ掛けてきたが、私はそれを受け取らない。したがって、その悪口雑言は、もう一度翻って汝の物に成るよりほかないではないか」
このような問答によって導かれたバラモンは深く反省し、仏陀に帰依していったということである。

心理療法と応機説法
この例でわかるように、相手の立場に立って相手に考えさせていくほうが、しっかりと教えが身につくということを仏陀はよくわかっていたと思われる。
これは臨床でもよくうなずけることで、患者の「これは病気ですか」とか「治りますか」といった重大質問に直接答えるよりも、相手に考えさせていく方がより患者の理解が深まり、身につくように思われる。また、そう考えさせていくことで、実は自分が精神病ではないか、精神病だと治らないのではないかといったかなり核心的な怯えを明るみに出して話し合うことも可能になることが多い。
また対話によって相手に考えさせるというやり方と同時に、相手に直接、体験させるというやり方をとる場合もある。

キサー・ゴータミーに対する応機説法
この例としては、我が子を亡くして嘆きの底にあったキサー・ゴータミーのそれが挙げられる。彼女は、赤ん坊を亡くして半狂乱の状態にあったのだが、仏陀はそれに対し「芥子の実を二、三粒もらってきたら生き返らせてあげよう」という驚くべき約束をする。ただし「その芥子粒は今まで死者を出したことのない家からもらってくるように」ということを言い添えるのを忘れなかった。
村を巡る彼女に村人たちは喜んで芥子粒を提供しようとするが、第二の条件に対してはどこで聞いても「うちはあるじがなくなったばかりで……」とか「うちでは先祖から数え切れないほどの人が死んで、今は私一人きりです」といった返答しかなかった。結局彼女は芥子粒をもらうことはできなかったが、村を巡る体験の中で「結局、死者を出したのは、私の家だけではない。生きている者は必ず死ぬのだ」ということを実感し、精神的な安らぎを得たのであった。
この応機説法、相手に考え体験させるといったやり方は、先述したように、筆者の日常臨床の基本であるが、ここで自験例を挙げる。

注:引用中の「ここで自験例を挙げる。」における自験例の引用は省略しています。

(4) 合理主義者としての仏陀として、平井孝男著の本、「仏陀の癒しと心理療法 20の症例にみる治癒力開発」(2015年発行)の 第1章 四諦・中道・縁起一仏陀の基本的教え の 第2節 仏陀から学んだこと-基本的な教え(四諦、中道、縁起) の 第6項 救済者、超越者としての仏陀 の「合理主義者としての仏陀」項における記述(P50)を次に引用します。

ところで、今まで述べてきた、四諦、中道、縁起、応機説法等は、よく考えてみれば、きわめて合理的で、しかも常識的な教えのように思われる。すべて、人間やこの世の世界に関する根本的な理屈を述べているようである。その意味で、仏陀は、この錯綜した世界の中に明確な因果律をもたらすと共に、合理的な人生態度を探求していった最初の人であるように思われる。

(5) 精神科の位置づけ例として、平井孝男著の本、「仏陀の癒しと心理療法 20の症例にみる治癒力開発」(2015年発行)の 第5章 求不得苦とうつ病・ヒステリー の 第2節 ヒステリーと求不得苦-事例G の「第2項 身体が麻痺してしまった主婦-事例G」における記述の一部(P129~P130)を次に引用します。

(前略)さて、Gさんは実母に連れられて私の元を受診したが、明らかに精神科に連れて来られたことに不満そうであった。そこで私は〈病院にかかるだけでも辛いのにましてや精神科に、しかも自分の意志ではないのに連れてこられたら、それは辛いですよね〉と言うと、「そうなんです」と少しうなずいてくれた。
これは行けると思い〈ここは名前は精神科・神経科心療内科となっていますが、悩み事のよろず相談所と考えたらいい。ここは援助するところで、精神科医は悩み事相談のプロですから〉と説明すると、また少し心を開いてくれたようであった。そして〈とりあえず事情を聞かせてくれませんか〉と言うと、少しずつ応じてくれた。そこでなるべく本人の身体症状や現在の生活や対人関係に焦点を合わせて詳しく聞いていくと、本人は堰を切ったように喋り始めた。(後略)

加えて、悩み事のよろず相談所的な例としての、身体表現性障害において現実生活が少しでも生きやすいものとなるように応援していくことについて、青木省三著の本、「精神科治療の進め方」(2014年発行)の「はじめに」、「症例2」及び「おわりに」を含む「第12章 身体表現性障害」における記述の一部(P142~P150)を次に引用します。

はじめに――生活背景の幅広い理解が必要

器質的な原因がなく、ストレスなどの心因(心理社会的な要因)によって身体症状が現れる病気は身体表現性障害、なかでも、多彩な身体症状が現れるものは身体化障害と呼ばれている。心因としては、個人の心の悩みや葛藤などを考えやすいが、実際には、現実生活の悩みや苦労が大きく影響していると考えられる場合が少なくない。そのため、その人の心理だけでなく、家族や職場などの生活背景を幅広く理解することが不可欠となる。また、対応も個人精神療法だけは不充分で、生活支援やリハビリテーションなど、幅広い支援が必要となる。本章では、三つの症例を提示し、診かた、対応の仕方について考えてみたい。(中略)

2 生活基盤の不安定さが症状を生み出すことがある

〔症例2〕30代前半の女性、Bさん
Bさんは、20歳前半、結婚した頃に、眩暈(めまい)で倒れ、近医を受診し、メニエール病と診断された。なかなか症状が改善せず、耳鼻科を転々と受診したが、最終的に異常はないと言われたということであった。1年後に、精神科外来を受診し、自律神経失調症といわれ、内服を開始したが、症状はあまり変わらなかった。そのため、数ヵ所の精神科クリニックを転々と受診し、4年後に別の精神科外来を受診した。倦怠感、眩暈、ふわふわ感、ふらつき、肩・首が凝り、嘔気、食欲不振、頭痛などの訴えが続き、これまでの身体精査で異常がないことから、身体表現性障害と診断され、通院治療となった。

母親は統合失調症で長期入院中、Bさんは単身であり、客観的な情報を提供する親族がなく、家族背景、生活背景の正確な情報は得られなかった。Bさんの話によると、「20代前半で結婚し、2子をもうけたが、夫婦関係や子育てがストレスとなり、30歳頃に離婚となった。夫は、うつ病アルコール依存症で入院歴あり、またBさんに言葉の暴力もあった。離婚後は、Bさんは家事・育児ができず、子育ても夫に任せて、一人暮らしをしている」ということであった。

どのように考え、どうしたか
この3年間、Bさんは主治医との診察と並行して、心理士による心理面接を受けていた。また、主治医は、身体症状のために仕事につけず、家に閉じこもりがちとなるBさんに、作業所への通所を勧め、不定期ながら作業所に通所していた。心理面接を担当していた心理士は、いくつかの点で、Bさんの理解と対応に迷うことがあった。

① 身体愁訴について
面接では、さまざまな身体的な不定愁訴を訴える。たとえば、「この3日間だるくて1日中横になっている、動けない。食欲もなく、無理やり食べている。原因がわからなくてすごく不安」などと訴える。また、日々の身体的不調をメモしてきて、それを見ながら話す。これはBさんが、実際に困っていることで、これがなければ病院で話すことがないという意味で、まさにカナーの言う「入場券としての症状」である。
だが、この身体症状の訴えに対して、どのように対応するかはなかなか難しい。身体症状に面接の焦点を当てると、Bさんは身体症状を話すことが人と繋がる手段となってしまう。しかし、逆に身体症状の訴えを聞かないと、Bさんは聞いてくれないと不満をつのらせるだけでなく、身体症状が悪化してしまう。聞きすぎてもいけないし、聞かなくてもいけないのである。
Bさんの身体の不調の訴えについては「今はとても苦しい時期。しんどいけど頑張っていきましょう」と、できる限りさらっと受け止めていくようにした。

② 背景にある心理について
Bさんは「子どもの運動会に行こうと思っていたが、体調が良くならないから行けない」とか、「お正月にも会いたかったけど、元夫があまり快く思っていなくて会えない」などと、子どもとの交流のできないことを話すことがあり、身体症状の背景には、母親役割の喪失感、自身に対する無力感、居場所のなさなどがあると感じられた。
だが、このような心理的な問題を面接で取り上げていくかどうかについては迷った。Bさんの日常生活を見ていると、子どもについて心配はしているが、まだまだ子どもに関わる力があるとは言えない。また、それを言葉で話し合うことが、Bさんを混乱させ、よけいに不安や抑うつを強めるのではないかと考えた。そのため、子どもの話題は避け、話し合う時機が来るのを待つことにした。

③ 現実生活での対処法に焦点を当てる
日常生活の困り事、たとえば作業所での人間関係など、いろいろと溜め込んで疲れ、思い悩んでいることが多く、それを一人で繰り返し終わりなく考え込んでしまうことが多かったので、それについて、具体的にどうするかについて話し合った。
たとえば、「作業所で苦手な人がいる。(声の大きい年配の女性を)避けていたけどよく話しかけられる。気になってしまう。その人の声を聞くたびにしんどいと思う。作業中は話しかけられることはないが、休憩時間に話しかけられる」というような訴えに対して、「休憩時間に少し距離をとって過ごすことと、悪い人ではないし言われたことを気にしないようにしよう」などと具体的に助言した。
それだけでなく、Bさんが普段しんどくなった時にしていること、たとえばホットミルクを飲むことやしょうが湯を飲むこと、友だちに電話相談したりすることなどを大切にし、現実に少しでも気持ちが楽に過ごせるように配慮した。    
Bさんのように、複雑な家族的、経済的な問題を持ち、そのうえで身体症状を訴えてくる場合、身体症状は治療や援助を受けるための「入場券」(カナー)という役割をもつ。だが、身体症状への対応は、前述したように難しい。聞きすぎても聞かなくてもよくない。面接の焦点を身体症状から、現実生活での困っていることに移していくことが大切になる。そして、現実生活が少しでも生きやすいものとなるように応援していくことが大切になるのである。

★生活の基盤が不安定な場合は、まずは生活を安定させていくケースワークが大切となる。(中略)

おわりに――身体症状への対応と、人間関係や日常生活への対応と

身体表現性障害の患者は、身体症状でSOS信号を送っている。だが、当初は真剣に対応していた周囲の人たちも、検査をしても異常がなく「悪いところはないから、大丈夫です」と言われることが続くにつれて、対応が変化し「しっかりしなさい」「もっと頑張れ」とプレッシャーをかけるようになる。そのため、周囲の人との関係が悪くなりやすい。それだけではなく、長引く身体症状は、仕事を失うなどの経済的な問題も生み出しかねない。人間関係においても経済的にも不利をもたらしかねないのである。だから、身体表現性障害の患者への対応に際しては、身体症状への対応も大切なのだが、同時に、患者の人間関係や日常生活に目を配り、それらが悪い方向に向かないように、少しでもよい方向に向かうように配慮することがとても大切になると考えている。

注:引用中の「身体表現性障害」及びこれに概ね相当する「身体症状症」については、次のWEBページをそれぞれ参照して下さい。 「身体表現性障害 - 脳科学辞典」、「身体症状症(旧:身体表現性障害) - KOMPAS」 ii) 引用中の「三つの症例」において、この引用では「〔症例2〕」のみを採用し、他の二つの症例の引用は省略しています。 iii) 引用中の『「入場券」(カナー)』については、例えば次の資料を参照して下さい。 「小児の心身症」の 2)小児の心身症の理解 の「① 入場券としての症状」項

(6) スキーマ療法における早期不適応的スキーマについて、「こころの科学 185号(2016年1月)」の特別企画「パーソナリティ障害の現実」中の伊藤絵美著の文書「スキーマ療法」(P63~P67)より記述の一部(P63~P65)を次に引用します。

はじめに
スキーマ療法(schema therapy)とは、米国の心理学者ジェフリー・ヤングが構築した、認知行動療法(CBT)を拡張した統合的な心理療法である。ヤングはパーソナリティ障害の治療のために、従来、うつ病や不安障害を対象としていたCBTを拡張し、そこにアタッチメント理論、対象関係論、ゲシュタルト療法、感情焦点化療法、構成主義などを加えて融合し、スキーマ療法を構築した。
二〇〇三年にヤングらによる包括的な治療マニュアルが出版されたこと(1)、そして二〇〇六年に境界性パーソナリティ障害(BPD)に対するスキーマ療法のエビデンスが質の高いRCT(無作為化比較試験)によって示されたことにより(2)、スキーマ療法は世界中に知れわたることになり、現在、BPDをはじめとしたパーソナリティ障害に対する、そしてパーソナリティ障害に限らず「生きづらさ」を抱えるクライアントに対する治療法・援助法として広く実践されるようになっている。
本論ではスキーマ療法について紹介し、次にBPDにスキーマ療法を適用した事例を報告する(中略)

スキーマ療法とは(中略)

これはCBTの基本モデルを拡張したものである。CBTでまず扱うのは、「自動思考」という浅いレベルの認知であり、その時々に頭をよぎる瞬間的な思考やイメージである。一方、スキーマ療法で扱うのは、すでにその人の頭の中にあるその人なりの「価値観」「深い思い」「マイルール」といった深いレベルの認知である。それを心理学的にはスキーマと呼ぶ。なかでも、人生の早期(幼少期や思春期)に形成され、当初はその人の適応に役立っていたかもしれないが、その後その人をかえって生きづらくさせるスキーマのことを「早期不適応的スキーマ(Early Maladaptive Schema)」と呼ぶ。スキーマ療法が対象とするのは、まさにこの早期不適応的スキーマである。そのようなスキーマがさまざまな状況において活性化されることで、ネガティブで強烈な自動思考や気分・感情や身体反応が生じ、自分を大事にするための行動が取れなくなってしまう。
ヤングら(1)は一八の早期不適応的スキーマを定式化した。それを以下に挙げるが、これらのスキーマは、「愛されたい」「安心したい」「褒められたい」「有能でありたい」「自律的でありたい」といったすべての人間が有する欲求(中核的感情欲求)が適切に満たされない場合に形成されると仮定されている。①見捨てられ、②不信・虐待、③情緒的剥奪、④欠陥・恥、⑤社会的孤立、⑥失敗、⑦損害と疾病に対する脆弱性、⑧無能・依存、⑨巻き込まれ、⑩服従、⑪自己犠牲、⑫評価と承認の希求、⑬否定・悲観、⑭感情抑制、⑮厳密な基準、⑯罰、⑰権利要求・尊大、⑱自制と自律の欠如。
スキーマ療法には「モードモデル」と呼ばれるもう一つのモデルがある。これは、その時にどのスキーマが活性化され、それにどのように対処したかによって、その人の「今・ここ」での体験や感情状態が変化することに注目したモデルである。モードは以下の四種類に分けられ、それぞれに複数の個別のモードが分類される。具体的には、①非機能的チャイルドモード(脆弱なチャイルドモード、怒れるチャイルドモード、衝動的・非自律的チャイルドモードなど)、②非機能的コービングモード(従順・服従モード、遮断・防衛モード、過剰補償モード)、③非機能的ペアレントモード(懲罰的ヘアレントモード、要求的ペアレントモード)、④ヘルシーモード(幸せなチャイルドモード、ヘルシーアダルトモード)である。
パーソナリティ障害の特徴は、彼ら・彼女らが多くの早期不適応的スキーマを強烈にもっていることである。それだけ人生早期に中核的感情欲求が満たされず、傷ついてきたということになるのだろう。また、モードモデルに基づけば、常にそれらの早期不適応的スキーマのどれかが彼ら・彼女らの中で活性化し、それに対して健全な対処ができないので、非機能的チャイルドモード、非機能的コービングモード、非機能的ペアレントモードに陥りやすいという特徴がある。そして、「幸せなチャイルドモード」と「ヘルシーアダルトモード」からなる「ヘルシーモード」が非常に脆弱であり、人生を楽しんだり、自分を助けたりすることがきわめて難しい。
したがってパーソナリティ障害に対するスキーマ療法の目的は、①早期不適応的スキーマを理解し、手放すこと(1)、②自分を幸せで健全な方向に導いてくれる新たな「ハッピースキーマ」を手に入れること(4)、③非機能的なモードを減らし(「非機能的チャイルドモード」の場合はそれを癒し)、ヘルシーモードを育み強化すること、とくに「ヘルシーアダルトモード」を自分の中に確立し、自己を統合すること(3)の三点となる。これらを目的として行われるスキーマ療法において最も重視されるのが「治療的再養育法(limited reparenting)」という治療関係を用いた技法である。これは、セラピストが治療という限られた設定の中で「よき親」としてクライアントとかかわり、クライアントのこころの傷ついた部分に対する再養育を試みる、という技法である。クライアントは治療的再養育法を通じて幼少期に得られなかった健全なアタッチメントを供給され、そこを足がかりにして心理的発達が促される。また、治療的再養育法によって、クライアントの早期不適応的スキーマや非機能的チャイルドモードが癒され、ハッピースキーマやヘルシーモードが徐々に育まれていく。この治療的再養育法は非常にパワフルな技法で、これがスキーマ療法の最大の武器であると筆者は考えている。(後略)

注:(i) 標記「スキーマ療法」については、次の Facebook、WEBページ、資料を参照して下さい。「日本スキーマ療法研究会」、『根本的な「生きづらさ」と向き合うスキーマ療法』、「書評 自分でできるスキーマ療法ワークブック」 加えて、スキーマ療法の基盤となる心理療法等について、編者、監訳者及び訳者は※※を参照の本、「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」(2017年発行)の 第5章 スキーマ療法で用いるさまざまな技法 の「スキーマ療法のアプローチ」における記述の一部(P121)を次に引用(『 』内)します。 『スキーマ療法は,認知行動療法ゲシュタルト療法,アタッチメント理論,対象関係論,構成主義,そして精神分析における諸学派を基盤とする統合的な心理療法である。』(注:1) この部分の著者はミシェル・ヴァン・フレースワイク,ジェニー・ブレールセン,ジョゼフィーン・ブルー,スザンヌ・ヘイセンです。 2) 引用中の「アタッチメント」は「愛着」とも呼ばれます。 3) 引用中の「対象関係論」については次の資料を参照すると良いかもしれません。 「総説 :イギリス対象関係論」) (ii) 引用中の「早期不適応的スキーマ」の形成について、同本の 第2章 スキーマ,コーピングスタイル,そしてモード の「早期不適応的スキーマ」における記述の一部(P42)を次に引用(『 』内)します。 『Youngらは,不適応的スキーマは幼少期において満たされなかった重要な感情欲求を反映しており,ネガティブな体験に対して適応した結果形成されるものと仮定している。』(注:この部分の著者はハニー・ヴァン・ジェンダレン,マーリーン・レーケボア,アーノウド・アーンツです) 加えて、引用中の「早期不適応的スキーマ」における5つの領域については次の資料を参照して下さい。 「慢性化した抑うつ症状を訴える男性に対する統合的認知行動療法 ――スキーマ療法を併用した症例報告――」の「3. 統合的心理療法としてのスキーマ療法」項 (iii) 引用中の「モードモデル」に関連する「スキーマモード」については、同章の「スキーマモード」における記述の一部(P49)を次に引用(『 』内)します。 『Youngら(2005)によると,スキーマモードは,「常に変化し続けながら,その瞬間その瞬間にその人を支配する心的状態」である。スキーマが長期的で安定した「特性(trait)」であるのに対し,モードは短期的な「状態(state)」である。』 (iv) 「バカボンのパパ」が引用中の「ヘルシーアダルトモード」のお手本であることについてのツイートはここを参照して下さい。 (v) (早期不適応的)スキーマの外在化に関して、同文書の「事例-BPDに対するスキーマ療法の展開」項における記述の一部(P66)を以下に引用します。 (vi) (早期不適応的)「スキーマ」が活性化した際に生じる身体感覚について、ウェンディ・ビヘイリー著、伊藤絵美、吉村由未監訳の本、「病的な自己愛者を身近にもつ人のために あなたを困らせるナルシシストとのつき合い方」(2018年発行)の 第4章 障壁を乗り越える――コミュニケーション上の問題やその他の障害 の「自分の感覚を理解する――脳と身体からのメッセージ」における記述の一部(P113~P115)を以下に引用します。 (vii) 引用中の「スキーマ」と様々に関係する、 a) この「スキーマ」と記憶との関連については同章の「早期不適応的スキーマ」における記述の一部(P42)を次に引用(『 』内)します。 『さまざまな体験は,生後ほどなくして自伝的記憶に蓄積され,それがスキーマとなると考えられている。』(注: 1) 文献の引用は省略しています。 2) 引用中の「自伝的記憶」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「重要な自伝的記憶の想起がアイデンティティの達成度に及ぼす影響」) b) 上記スキーマモードにおけるチャイルドモードの一種である「怒れるチャイルドモード」、「激怒するチャイルドモード」、そして「脆弱なチャイルドモード」について、同章の表 2.2 における記述の一部(P51)を形式を変更して次にそれぞれ引用(『 』内)します。 『怒れるチャイルドモード:このモードにある人は,自らの中核的欲求が満たされないために,激しい怒りや苛立ちを感じている。見捨てられ感,屈辱,裏切られた気分などを感じていることもある。怒りを爆発させる小さな子どものように,言語的にも非言語的にも非常にわかりやすく怒りを表出する。』、『激怒するチャイルドモード:このモードにある人は,「怒れるチャイルドモード」と同じ理由で怒りを感じているが,コントロールを失っている。小さな子どもがかんしゃくを起こして親を困らせるのと同じように,人や物を傷つけたり壊したりといった攻撃的かつ有害なやり方で怒りを噴出させる。』、そして『脆弱なチャイルドモード:このモードにある人は,自分の欲求を満たしてくれる人は誰もおらず,人は皆最終的には自分を見捨てるだろうと考えている。他者とは信用できず,自分を虐待してくるものと信じている。自分には価値がなく,他者から拒絶される存在であると思い込んでいる。自分自身を恥ずかしく感じ,疎外感を抱くこともよくある。寂しさと,安心できる居場所がないとの思いから、傷つきやすい子どものようにセラピストにすがりつき,助けを求める。』 c) 同本の 第9章 ヘルシーアダルトモードの強化のためのマインドフルネスとACTの利用 の「スキーマと記憶」における記述の一部(P205)を次に二つ引用(『 』内)します。 『不適応的スキーマとそれに基づく非機能的な戦略は,潜在記憶に頼る部分が大きいことが示唆される。』、『潜在記憶の多くは,身体感覚,感情,知覚,認知,表象,行動傾向,行動反応と関連している。たとえば,われわれは初対面の相手に対して,特に理由もわからずに好感あるいは嫌悪感を抱くことがあるだろう。』(注:1) この部分の著者はピエール・クジノーです。 2) 引用中の「潜在記憶」に大まかに対応する「非陳述記憶」については次のWEBページを参照して下さい。 「記憶の分類 - 脳科学辞典」の「非陳述記憶」項 3) 引用中の「表象」については他の拙エントリのここを参照して下さい。) d) 上記スキーマモードの分類とは異なる分類については、伊藤絵美著の本、「つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。」(2017年発行)の Lecture スキーマ療法とは何か の『「スキーマモード」という新たなモデル』における記述及び「モードモデルにもとづくスキーマ療法の進め方」における記述の一部(P152~P158)を以下に引用します。 (viii) ちなみに、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の技法をスキーマ療法の作業モデルに組み込むことの有用性について、同本の 第9章 ヘルシーアダルトモードの強化のためのマインドフルネスとACTの利用 の「終わりに」における記述の一部(P216)を次に引用(『 』内)します。 『スキーマ療法,マインドフルネス,ACTの3つは,魅力的で,非常によく構成された治療モデルである。われわれはスキーマ療法の作業モデルに組み込むことが非常に有用であることを見出した。』(注:1) 引用中の「マインドフルネス」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 2) 引用中の「ACT」については他の拙エントリのここを参照して下さい。) (ix) 引用中の「BPDにスキーマ療法を適用した事例」の部分は以下を除き引用していません。 (x) 引用中の文献番号「(1)」、「(2)」、「(3)」、「(4)」はそれぞれ次の本又は論文です。「Young, J.E., Klosko, J.S., Weishaar, M.E.: Schema therapy: a practioner's guide. Guilford Press, 2003.(伊藤絵美監訳『スキーマ療法-パーソナリティ障害に対する統合的認知行動療法アプローチ』金剛出版、二〇〇八年)」、「Outpatient psychotherapy for borderline personality disorder: randomized trial of schema-focused therapy vs transference-focused psychotherapy.」、「Arntz, A., Jacob, G.: Schema therapy in practice: an introductory guide to the schema mode approach. Wiley-Blackwell, 2013.(伊藤絵美監訳『スキーマ療法実践ガイド-スキーマモード・アプローチ入門』金剛出版、二〇一五年)」、「伊藤絵美編著、津高京子、大泉久子、森本雅理『スキーマ療法入門-理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎と応用』星和書店、二〇一三年)」 (xi) 引用はしていませんが、BPDの患者に対しスキーマ療法を本格的に展開するためのお膳立てが必要です。お膳立ての内容例は引用元文書の非引用部に示されています。 (xii) 引用中の「自動思考」について、伊藤絵美著の本、「折れない心がメモ一枚でできる コーピングのやさしい教科書」(2017年発行)の「Lesson① STEP3 自動思考をつかまえる」における記述の一部(P030)を以下に引用します。 加えて、自動思考、スキーマ等の認知は、構成概念であることについてのツイートがあります。 (xiii) ちなみに、上記「お膳立て」に関連するかもしれない、 a)「コンテインメント」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 b) 「認知行動療法」における成果を上げられる段階に至るまでが大変なことについて、岡田尊司著の本、『パーソナリティ障害がわかる本 「障害」を「個性」に変えるために』(2014年発行)の 第3編 パーソナリティ障害の治療と克服 の (3)主な治療法 の「③認知行動療法」における記述(P314~P315)を以下に引用します。 c) さらに、人生の危機に直面した方々に対し、科学としての医学には限界があることについて、医療少年院に勤めた経験がある岡田尊司著の本、「生きるための哲学」(2016年発行)の「はじめに 生きづらさを抱えた人に」における記述の一部(P3~P5)を以下に引用します。加えて、幼少期のトラウマ治療法である「STAIR&NST」(感情と対人関係の調整スキル・トレーニングとナラティブ・ストーリー・テリング)では、第1段階の STAIR が 第2段階の NST の準備(お膳立て)になっているようです。この視点からの「STAIR&NST」の説明は、野呂浩史企画・編集の本、「トラウマセラピー・ケースブック 症例にまなぶトラウマケア技法」(2016年発行)中の 大滝涼子,加藤知子著の文書「感情と対人関係の調整スキル・トレーニングとナラティブ・ストーリー・テリング 幼少期のトラウマによる PTSD のための認知行動療法」の「2.STAIR&NST の誕生と治療構造」における記述の一部(P134~P135)を以下に引用します。 (xiv) 引用中の「損害と疾病に対する脆弱性スキーマを説明例として、上記本「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」の P45 の表 2.1 において、次に形式を変えて引用する(『 』内)記述があります。 『損害や疾病に対する脆弱性スキーマ:このスキーマをもつ人は,自分や重要他者が今にも避けられない大惨事にみまわれるに違いないと信じている。』(注:この部分の著者はハニー・ヴァン・ジェンダレン,マーリーン・レーケボア,アーノウド・アーンツです) 加えてこのスキーマ等の活性化により、身体的な徴候や感覚がきっかけとなって、破局的な思考が引き起こされる方の事例として、上記本の 第7章 スキーマ療法,マインドフルネス,そして ACT の「事例1」における記述の一部(P184~P185)を以下に引用します。

(前略)わたしたちの頭のなかでは、朝から晩まで、さまざまな考えやイメージが浮かんでは消えていくことが繰り返されて、これを心理学では「自動思考」と呼びます。

スキーマ分析はクライアントにとって痛みの伴う作業だが、このようにこれまでスキーマとはわからずに内在化されていたつらい思いが、スキーマとして外在化され、客観視できるようになると(スキーマの自我違和化)、それだけでかなり楽になる人が多い。(後略)

注:引用中の「スキーマ分析」及び「外在化」にも関連する、「スキーマ療法におけるケースフォーミュレーション」が不可欠なことについては、の Ⅱ スキーマ療法におけるケースフォーミュレーション の「1. CFの重要性とその効果」における記述の一部(P185)を以下に引用します。なお、上記「CF」はケースフォーミュレーションの略です。

前述の通り CBT において CF は不可欠であり, CBT の発展型である ST でも同様に CF は不可欠である。CBT も ST も「解決志向」ではなく「問題解決志向」のアプローチである。すなわち最初から解決を目指すのではなく(解決志向),むしろ解決に向けてまずは目の前にある問題に焦点を当て,問題についての情報を収集し,問題のメカニズムを明確化,共有するところから始めるのである(問題志向)。この「共有」というのが非常に重要で,セラピストだけがクライアントの抱える問題を理解するのではなく,クライアントと共に CF の作業を進め,理解したことは全て共有するプロセスを通じて,両者の共通理解を練り上げていくこと自体が治療的に機能する。特に CBT も ST も理解したことを外在化する(紙などの媒体に書き出す)作業を重視しており,CF の成果が目に見えるものとなることの効果が大きい。今まで自分の中でもやもやしていた正体不明の「生きづらさ」が,外在化され,眺められる形になるからである。
実際に筆者が担当する ST のケースでも,CF を通じて自己理解が深まった時点で,だいぶ回復が進むことが少なくない。自分の抱える生きづらさを,自らの成育歴を振り返り,それがいかなるスキーマ(EMS)やモードにつながっているか,そのことで日々どのようなストレス体験をするに至っているのか,といったことを,単に頭で理知的に理解するだけでなく,感情を含めて「腑に落ちる」体験となる。(中略)

さらに BPD 当事者には幼少期や思春期に被虐待体験などトラウマを有する人が多く,CF を通じて,「自分はよく生き延びてきた」「こんな大変な中,死なずによく頑張ってきた」というように,自己認識が肯定的なものに変化し,セルフコンパッションが進むこともよくある。このように ST における CF は「問題の理解」を促進するのみならず,CF それ自体がさまざまな効果を生み出すのである。

注:i) 引用中の「CBT」、「ST」はそれぞれ「認知行動療法」、「スキーマ療法」の略です。 ii) 引用中の「EMS」は「早期不適的スキーマ」(参照)の略です。 iii) 引用中の「モード」ついてはここを参照して下さい。 iv) 引用中の「BPD」は境界性パーソナリティ障害(他の拙エントリのリンク集を参照)の略です。

(前略)スキーマが活性化すると、たとえば以下のような身体感覚が生じます。
・心拍数の増加
・血圧の上昇
・体温の上昇
・呼吸数の増加
・額や手のひらの発汗
・吐き気や胃の痛み
・喉の硬直や詰まり
・口の渇き
・唇の震え
・手足のピリピリ感
・首、背中、関節に突然生じるこわばり
・めまい
・涙が止まらなくなる
・眠気
・身体の一部の痛み、または麻痺
・頭が真っ白になる
・感覚過敏あるいは感覚鈍麻:聴覚、嗅覚、視覚、味覚、触覚

なぜこのような反応が生じるのでしょうか? それは、スキーマが感覚システムと「共謀」して、脳と身体がメッセージを送り合うからです。その結果、内的な反応ががあなたに「警報」を発します。しかしその警報は誤報であることが少なくなく、あなたはその誤報に基づいて、不要な自己防衛行動をとることになってしまいます。ここでの問題は「脳は騙されうる」ということです。脳にとって、今感じている胃痛が、ウィルス感染によるものか、長期にわたるナルシシストとの闘いからくるものなのかを区別することは、容易ではありません。(後略)

注:i) 引用中の「ナルシシスト」とは、この引用元の本「スキーマ理論におけるコーピング反応について」の「監訳者まえがき」の Pvi によると「周囲の人を傷つける、不健全な自己愛の持ち主」とのことです。 ii) 引用中の「自己防衛行動」に関連するかもしれない(麻痺を含む)「闘争-逃走反応」について、この引用元の本「スキーマ理論におけるコーピング反応について」の 第2章 パーソナリティ構造を理解する の「スキーマ理論におけるコーピング反応について」における記述の一部(P65~P66)を次に引用します。

人間の本質として、私たちの脳は、危険を知らせる脅威に対し、「闘争-逃走反応」によって応じるように配線されています。ただしこの呼び方は正確ではなく、脅威に対する反応には、実際には以下の三種類が挙げられます。一つ目は「闘争」で、これは闘ったり反撃したりすることです。二つ目は「逃走」で、危険から逃げるか、さもなければ危険を回避しようとします。三つ目は「麻痺」で、脅威に屈したり服従したりすることを言います。通常スキーマが活性化すると、強烈な感情や思考、そして身体反応が生じ、それがその人にとって大きな脅威となります。同時に人生早期の不適応的な体験によって形成された自己破壊的な行動が生じます。スキーマに埋め込まれた記憶と類似する現在の状況が、脳と身体に対して強烈なメッセージを伝えます。脳は脅威を認識し、スキーマと闘うか、スキーマから逃げるか、あるいはスキーマ服従するか、そのどれかの方法で反応しようとします。どの反応であっても、それはスキーマが私たちを支配する力を維持する方向に機能します。それは「内なる怪人」のようなものです。怪人との闘いは泥沼化する一方です。先にも述べたように、スキーマはあなた自身がその背景に気づかないまま、半ば無意識的に活性化します。あなたが気づくのは、目の前の「意味ありげな状況刺激」から自分が何らかの危険や脅威を読み取って、自らが反応してしまっているということだけです。(後略)

注:i) 標記「(不適応的)スキーマ」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「闘争-逃走反応」については複雑性PTSDの視点から他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。加えて、トラウマの視点からは他の拙エントリのここここを参照して下さい。) iii) さらに、引用中の「麻痺」に関連するかもしれないポリヴェーガル理論(又は多重迷走神経理論、他の拙エントリのここの「最初に」を参照)の視点からの「不動状態」、「凍りつき」については次の資料を参照して下さい。 「多重迷走神経理論による神経性過食症理解の可能性について」の「1.背側迷走神経系」項(P350) iv) 標記「スキーマ理論におけるコーピング反応」に類似する、(スキーマ療法[ST]における早期不適応的スキーマ[EMS、ここを参照]の理論モデルの重要な概念としての)「スキーマに対するコーピング」について、林直樹、下山晴彦、「精神療法」編集部編の本、「精神療法増刊第6号 ケースフォーミュレーションと精神療法の展開」(2019年発行)中の伊藤絵美著の文書「パーソナリティ障害:Young のスキーマ療法」の Ⅰ はじめに:スキーマ療法概論 の「2. スキーマ療法の理論モデル」における記述の一部(P182)を次に引用します。

(前略)ST では,より生きづらい人,人と関わることがより難しい人,自分のことがより受け入れられない人は,より多くの EMS をより強烈に有する,と想定する。そして「より生きづらい人」の中心に位置づけられるのが、BPD をはじめとするパーソナリティ障害を持つ人であると考える。EMS の理論モデルには他に「スキーマに対するコーピング」という重要な概念がある。これは,EMS に対して「服従する(スキーマの言いなりになる)」か「回避する(スキーマが活性化する状況を避ける)」か「過剰補償する(スキーマと逆の行動を過剰に取る)」か,というスキーマに対する不適応的なコーピングのことで,この3つはストレッサーに対して「麻痺する」「逃走する」「闘争する」という3つのストレス反応に対応している。EMS に対して不適応的なコーピングを取ることで,EMS はますます強化され,その人はますます生きづらくなる,というのが ST の理論である。(後略)

注:i) 引用中の『「麻痺する」「逃走する」「闘争する」』についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「BPD をはじめとするパーソナリティ障害」については次のWEBページを参照して下さい。 「パーソナリティ障害 - 脳科学辞典」 なお上記「BPD」は境界性パーソナリティ障害のことです。

スキーマモード」という新たなモデル

スキーマ療法は当初、上記の「早期不適応的スキーマ」のモデルにもとづいて構築されましたが、後に「スキーマモード」という新たなモデルが追加されました。スキーマモードとは、「今現在、その人はどのような感情状態にあるか」ということを表した用語です。ある状況であるスキーマが活性化されると、それによってさまざまな自動思考が生じ、さまざまな気分・感情が発生します。その時々の自動思考や気分・感情をひっくるめて、それをモードと呼ぶことにしたのです。さまざまな状況や場においてさまざまな自動思考や気分・感情が私たちには生じますから、モードは無数にあると考えられます。その無数にあり得るモードを次の五つに分類しました。

◎傷ついた子どもモード
自分の内なる「子ども」の部分が傷ついて、悲しんだり、さみしがったり、おびえたり、怒ったり、すねたりしているモードです。

◎傷つける大人モード
幼少期に自分を傷つけてきた大人の声が自分のなかに残っており、その声がモードとなって自分を攻撃したり、要求したりするのが、このモードです。

◎いただけない対処モード
早期不適応的スキーマから自分を救おうとするのですが(例:寝逃げをする、相手に逆ギレする、酒に逃げる、過剰に仕事に没頭する、誰ともつきあわない)、それが結果的に自分助けになっていない場合、それを《いただけない対処モード》と呼びます。

◎ヘルシーモード(幸せな子どもモード)
自分の内なる「幸せな子ども」のことです。大人の私たちでも、安全な環境のなかで、遊んだり、楽しんだり、喜んだり、リラックスしたり、誰かに世話をしてもらったりすると、このモードに入ります。

◎ヘルシーモード(ヘルシーな大人モード)
「健全な大人の自我機能」がこのモードです。このモードが自分のなかに司令塔としてしっかりと機能していれば、その人は自分の体験をマインドフルに受け止め、必要な自分助けをすることができます。他者とも健全な関係を結び、助け合うことができます。

モードモデルにもとづくスキーマ療法の進め方

この新たなモードモデルにもとづいてスキーマ療法を進める場合は、以下のような流れになります。

(1)自分が今どのモードに入っているのかに気づけるようになる必要があります。認知行動療法でセルフモニタリングの練習が十分にできていれば、モードへの気づさはさほど難しくありません。
(2)イメージのなかで各モードに対して適切な対応をします。それを「モードワーク」と呼びます。具体的には次のように行います。

◎傷ついた子どもモードに対して
その子どもの感情を理解し、受け止め、適切に癒します。たとえば、さみしがってしくしく泣いている子どもモードであれば、そのモードに対して、「さみしかったんだね。それはつらかったね。さみしい思いをさせちゃってごめんね。でももう大丈夫だよ。私がついているから。私がー緒にいるから」と言うことができます。治療的再養育法のー環として、セラピストや他の養育者のイメージがそのように声かけをしてあげることもできます。

◎傷つける大人モードに対して
《傷つける大人モード》の言いなりになると、ますます傷つくので、基本的には出て行ってもらいます。たとえば「お前のようなダメ人間は生きている意味がない。死んでしまえばいい」といった声を、《傷つける大人モード》が投げつけてきた場合、「なんてひどいことを言うの! あなたの言い分を聞けば聞くほど傷つくばかりだから、もうこれ以上聞きたくない! 出て行って! もう二度と来ないで!」と言って《傷つける大人モード》を追い出すことができます。
これもセラピストや他の養育者のイメージが前面に出て行き、「私の大事な○○ちゃんに何てひどいことを言うの! ○○ちゃんがこんなことをあなたに言われる筋合いはない。生きている意味がない人間なんてこの世に一人もいないんだ! そんなこともわからないのであれば、もう出て行ってちょうだい。そして二度と○○ちゃんのところには来ないでよ!」と《傷つける大人モード》を撃退することができます(治療的再養育法)。

◎いただけない対処モードに対して
一見自分助けのように見えながら、実際には助けになっていないというのがこのモードの特徴です。したがってこのモードに入りかけたこと、あるいは入ってしまったことに気がついたら、「対処しようとしているのはわかるけれども、そのやり方では、本当の助けにはならないんだよね。だから引退してくれる?」と言って、このモードに退いてもらう必要があります。
当初、クライアントはなかなかこのモードから離れられないことが多いので、ここでも治療的再養育法を用いて、セラピストや他の養育者のイメージが、このモードに対して、「○○ちゃんを助けてくれようとしているのはわかるけれども、残念ながら結果的に助けになっていないんだよね。なのでもうそろそろ引退してくれないかな。今までお疲れ様でした」と言って退いてもらうことができます。

◎幸せな子どもモードに対して
これはヘルシーなモードですから、このモードが出てきたら、「よかったね」「安心しているんだね」「楽しいんだね」と見守ってあげるとよいでしょう。治療的再養育法の一環としては、セラピストや他の養育者がイメージのなかで「一緒に遊ぼうか」と声をかけて一緒に遊ぶこともできます。

◎ヘルシーな大人モードに対して
このモードに限っては、このモードに対して何かをするというのではなく、スキーマ療法におけるさまざまな取り組みを通じて、とにかくこのモードを育み、強化していくに限ります。認知行動療法やマインドフルネスを習得すること自体がこのモードを強めてくれます。またセラピストなどによる治療的再養育法を何度も見聞きすることで、それをモデルとして自分のなかにこのモードをつくっていくこともできます。
このモードが強くなればなるほど、クライアント自身で、《傷ついた子どもモード》を癒し、《傷つける大人モード》を退け、《いただけない対処モード》に引退してもらい、《幸せな子どもモード》を温かく見守れるようになります。
実際には「早期不適応的スキーマ」のモデルと「スキーマモード」のモデルを適宜組み合わせてスキーマ療法を進めていきます。たとえば上記のモードワークを何度も繰り返すことにより、「早期不適応的スキーマ」の代わりとなる「ハッピースキーマ」が形成されたりすることはよくあることです。(後略)

注:i) 引用中の「早期不適応的スキーマ」、「スキーマモード」、「治療的再養育法」及び「ハッピースキーマ」については、共にここを参照して下さい。 ii) 引用中の「いただけない対処モード:に関連する「遮断・防衛モード」及び「遮断・自己鎮静モード」について、編者、監訳者及び訳者は※※を参照の本、「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」(2017年発行)の 第2章 スキーマ,コーピングスタイル,そしてモード の表 2.2 における記述の一部(P51)を形式を変更して次にそれぞれ引用(『 』内)します。 『遮断・防衛モード:このモードにある人は,強い感情は危険で手に負えないものと信じており,それらを遮断する。社会的接触を断ち,感情を遮断しようとする(解離が生じることもある)。空虚感や退屈した気分,離人感などが生じる。他者を一定の距離以上寄せつけず,冷淡で悲観的な態度をとる。』、『遮断・自己鎮静モード:このモードにある人は,ネガティブな感情を感じないようにするために気晴らしになるものを探し求める。自己鎮静化行動(例:眠ることや薬物依存),あるいは自己刺激的な活動(例:仕事やインターネット,スポーツ,セックス等に没頭する)を行うことによって感情を遮断する。』(注:この部分の著者は共にハニー・ヴァン・ジェンダレン,マーリーン・レーケボア,アーノウド・アーンツです。)

認知行動療法

間違った信念に基づく自動思考や否定的思考を、問題が生じるたびにチェックし、そう思ってしまう根拠や本当にそうなのかを問い直すことで修正を図っていきます。患者のセルフヘルプを重要視し、自らが行う宿題を与え、記録させます。
境界性パーソナリティ障害の場合、自分は欠陥品なので、どうせ見捨てられてしまうという信念を抱いています。そのためにしがみつき行動や試しが繰り返されます。根底にある信念を自覚させ、それが妥当性を欠いたものであることを悟らせることで、行動が次第に変化していきます。
また、境界性パーソナリティ障害によく見られる二分法的な思考の修正も図られます。二分法的な思考が改善すると、行動も衝動的で両極端なものから、安定したものに変わっていきます。
ただ、愛着が非常に不安定なケースでは、自分の「偏った」認知を指摘されたり、修正する作業が、自分を否定されているように感じてしまい、つらい作業になりがちです。ドロップアウトすることも多いと言えます。認知行動療法を、機械的で、冷たく、受け止めてもらえなかったと感じる人もいます。不安定なタイプの人ほど、感情面に深い傷を負っており、もっと手前の段階の手当てを必要としているからです。ある意味、認知行動療法が成果を上げられる段階に至るまでが大変なのです。治療が続けられるように、共感的な対応の部分も大事だと言えるでしょう。

注:i) 引用中の「認知行動療法」については例えば次の資料を参照して下さい。 「認知行動療法の紹介」、「認知行動療法を使ってこころのスキルアップ」 加えて、この「認知行動療法」におけるうつ病に対する資料を次に紹介します。 「うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)」 ちなみに、上記引用中の「認知行動療法」は、主に精神科医アーロン・ベックによって創始された認知療法のことであると本エントリ作者は考えます。他の拙エントリのここも参照して下さい。 ii) 引用中の「ある意味、認知行動療法が成果を上げられる段階に至るまでが大変なのです」に関連するかもしれない、「境界性パーソナリティ障害(BPD、他の拙エントリのリンク集を参照)に対して、従来の標準的な認知行動療法(CBT)ではとうてい間に合わない」ことについて、伊藤絵美著の本、「つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。」(2017年発行)の 私はなぜこの本を書いたのか長いまえがき の「標準的な認知行動療法では間に合わない」における記述の一部(P018)を次に引用(『 』内)します。 『しかしBPDに対しては、従来の標準的なCBTではとうてい間に合わないし(後略)』 加えて、認知行動療法においても、セルフモニタリングによる気づきが必要なことについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「自動思考」についてはここ及び資料「うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)」の P5 をそれぞれ参照して下さい。 iv) 引用中の「信念」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、これに関連する「信念の強化」については他の拙エントリのここを参照して下さい。

はじめに 生きづらさを抱えた人に(中略)

私は重い試練を抱え、人生の危機に直面した人々と向かい合ってきた。その中で、ひしと感じるようになったことは、科学的アプローチや科学としての医学だけでは、人は救われないということである。重い困難ほど、それを乗り越えるためには、形而上の精神的な営みが必要だと教えられた。そうした局面に立たされたとき、科学的合理主義には明らかな限界がある。合理的な理屈をいくら振り回しても、気持ちを汲むことも、助けになることもできず、事態をこじらせるだけで、なんの役にも立たないことも多い。(後略)

2.STAIR&NST の誕生と治療構造
ここで紹介する STAIR(Skills Training in Affect and Interpersonal Regulation:感情と対人関係の調整スキル・トレーニング)と,NST(Narrative Story Telling:ナラティブ・ストーリー・テリング)は,前述したような幼少期の虐待に始まる複雑性トラウマを持つ成人患者のための治療法として,Dr.Marylene Cloitre によって開発された。
この治療は,STAIR と NST の 2 つの異なる介入で構成されている。前半の STAIR に関しては DBT(Dialectical Behavior Therapy:境界性パーソナリティ障害のための弁証法的行動療法)を基に,後半の NST は PE(Prolonged Exposure Therapy:PTSD のための持続エクスポージャー療法)の理論を基に作られ,これらを掛け合わせて改良されたものと考えられる。
この 2 つの段階を踏む治療構造は,Herman(1992)10) の段階的治療の概念である,第1段階:安全,安定化,生活能力の強化,第2段階:トラウマ記憶の処理,第3段階:大きなコミュニティへの統合とも整合性がある。治療前半の STAIR では,現在の生活での対人関係や感情調整の問題に直接働きかけるもので,患者が一段ずつ階段を上っていくように段階的に取り組んでいく。ここで最初の目的は,まず感情への気づき,また,否定的な感情の扱い方や苦痛を調整するスキルを構築することである。2 つ目には,幼少期に学んだ対人関係のパターンが今現在にも影響を与え続けていることを学びながら,対人関係のスキーマを同定し,患者自身がより安定して自分の感情をコントロールできるスキルや,健全な対人関係を築くためのスキルを獲得していくことを目的としている。
そのようなスキルを習得した上でトラウマの語りの段階,NST に取り組むのがこの治療法の大きな特徴である。第1段階の STAIR での取り組みが,より強い感情が関わってくる第2段階の NST の準備になるとも言える。この準備なしにトラウマのナラティブに取り組むと,トラウマ体験の語りとともに生じる感情に圧倒されて,大きな回避や解離が生じたり,治療自体をドロップアウトしてしまうケースもある。STAIR の段階で身につけたスキルをもってトラウマのナラティブに取りかかることで初めて,トラウマについての語りが可能となり,その出来事と関連する体験や感情の整理をしっかりと進められるようになる。(後略)

注:i) 引用中の文献番号「10)」は次の本です。「Herman J: Trauma and Recovery. Basic Books, New York, 1992.」 ii) 引用中の「境界性パーソナリティ障害」及び「PTSD」については、共に他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 iii) 引用中の「スキーマ」については、ここ及び他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「ナラティブ」に該当する「ナラティヴ」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の「弁証法的行動療法」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「持続エクスポージャー療法」については例えば次の資料を参照して下さい。 「PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル(治療者用) [持続エクスポージャー療法/PE 療法]

事例1

39歳のマリーは,13歳と15歳の2人の娘の母親である。(中略)彼女は,自分の健康全般について不安を訴え,治療を受けに来た。彼女は頭痛に悩まされており,不整脈を抱えていた。(中略)

彼女は,Youngスキーマ質問票において、「損害や疾病に対する脆弱性スキーマ」と「失敗スキーマ」の項目で非常に高い得点を示した。そこまで高くはないが「自分に対する罰スキーマ」にもそれなりの得点がみられた。これらのスキーマの引き金を探すのはさほど難しくなかった。マリーの場合,何らかの身体的な徴候や感覚がきっかけとなって,これらのスキーマに基づく破局的な思考が引き起こされていた。(中略)

マリーは,不確かなことに対しては非常に攻撃的になりやすく,何かに対して結論を出す際はそれがいっさい妥協のない「きっぱりとしたもの」であることを求めた。このことに焦点を当て始めた頃,われわれは治療方針を変更することにした。マリーは,人間の知識や力に限界があるのは当たり前だということが,いかに自分とっては受け容れがたいものであるかということに気がついた。彼女はまた,自分が何もしないようにすることは,何かをしようとするよりもはるかに難しいと気がついた。たとえば,マリーにとっては「庭にたたずみ,ただ鳥の声を聞く」ことよりも,「新しい医療サイトを探すためにネットサーフィンをする」ことのほうがはるかにたやすいのである。そこで,治療にマインドフルネスが導入された。彼女は,日々の不可解な身体感覚との闘いの中に,少しずつ平穏な瞬間を得ることができるようになっていった。そしてついに、マリーは感情の波に激しくなりそうなまさにその瞬間にも,穏やかな意識を保つことができるようになった。(後略)

注:i) この引用における著者はエルウィン・パーフィです。 ii) 引用中の「マインドフルネス」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) ちなみに、 a) この「マインドフルネス」が強烈に活性化されたスキーマに対抗しうるものについては、上記本、「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」の 第8章 スキーマ療法におけるマインドフルネスとアクセプタンスの重要な役割 の「まとめと今後の展望」における記述の一部(P200)を次に引用(『 』内)します。 『マインドフルネスは,強烈に活性化されたスキーマに対抗しうるものであり(図 8.1 を参照),われわれが自分の体験に距離を置き,十分に内省的であることを可能にしてくれる。つまり,マインドフルネスは感情の荒波に溺れそうになったわれわれを助け出してくれるのである。』(注: 1) この引用部の著者はエッカード・ローディガーです。 2) 引用中の「図 8.1」の引用は省略します。) b) 引用中の「損害や疾病に対する脆弱性スキーマ」の説明としての、上記本、「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」の P45 の表 2.1 において、次に形式を変えて引用する(『 』内)記述があります。『損害や疾病に対する脆弱性スキーマ:このスキーマをもつ人は,自分や重要他者が今にも避けられない大惨事にみまわれるに違いないと信じている。』(注:この部分の著者はハニー・ヴァン・ジェンダレン,マーリーン・レーケボア,アーノウド・アーンツです) なおこのスキーマとも関連するかもしれない、認知療法の視点からの「不安に伴う認知」について、林直樹、下山晴彦、「精神療法」編集部編の本、「精神療法増刊第6号 ケースフォーミュレーションと精神療法の展開」(2019年発行)中の井上和臣著の文書「不安障害:認知療法のケースフォーミュレーション」の「Ⅵ 認知的概念化:不安障害一般」における記述の一部(P147)を次に引用(【 】内)します。 【不安に伴う認知は,「大変なことが起こりそうだ,しかし,私にはどうすることもできない」と平易に表現できる。危険や脅威の過大視とともに自らの対処能について過少視があることも,見逃せない不安障害の特徴である。不安=危険・脅威/資源・工夫という,不安の方程式は心理教育として活用できる。】(注:引用中の「不安障害」に関連する「不安症」については次のWEBページを参照して下さい。 「不安症 - 脳科学辞典」) 加えて、上記「損害や疾病に対する脆弱性スキーマ」のみならず、「情緒的剥奪スキーマ」、「自制と自立の欠如スキーマ」は、成人の自閉スペクトラム症自閉症スペクトラム障害)の方々にとって、特徴的なスキーマ(注:スキーマの名称は若干異なりますが)であるとの主旨の記述がある資料は次を参照して下さい。 「成人の自閉症スペクトラム障害患者に対する認知行動療法の開発および効果研究の「4. 研究成果」項 加えて、上記後二者のスキーマを説明する記述としては、上記本、「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」の P45 の表 2.1 において、次に形式を変えて引用する(『 』内)説明があります。『情緒的剥奪スキーマ:このスキーマをもつ人は,他者は自分の基本的な欲求(例:サポート,養育,共感,保護)を決して満たしてくれない,あるいは不適切な満たし方をする存在であるととらえている。孤立感や淋しさを抱きやすい。』、『自制と自立の欠如スキーマ:このスキーマをもつ人は,欲求不満耐性がなく,自分の感情や衝動をコントロールすることができない。不満や不快(痛み,葛藤,過度の努力など)に耐えることができない。』(注:この部分の著者はハニー・ヴァン・ジェンダレン,マーリーン・レーケボア,アーノウド・アーンツです) c) スキーマと記憶との関連はここを参照して下さい。 d) この資料にも関連する成人の自閉症スペクトラム障害自閉スペクトラム症)患者のためのスキーマ療法についての複数の論文要旨を以下に引用します。

①「Early Maladaptive Schemas and Autism Spectrum Disorder in Adults[拙訳]早期不適応的スキーマと成人における自閉スペクトラム症

This study investigated the differences in early maladaptive schemas between adult outpatients with high-functioning autism spectrum disorder (n = 48) and a non-clinical controls (n = 86). Both groups completed the Young Schema Questionnaire. There were significant differences between the groups in all the early maladaptive schemas, except self-sacrifice and approval/recognition seeking. Logistic regression analysis revealed that early maladaptive schemas such as insufficient self-control, emotional deprivation, and vulnerability to harm and illness significantly discriminated between the groups, suggesting that some early maladaptive schemas are more important than others for depicting the characteristics of adults with autism spectrum disorder.


[拙訳]
高機能自閉スペクトラム症を伴う成人の外来患者(n = 48)と非臨床対照群(n = 86)間との早期不適応的スキーマの差異を、本研究は調査した。 両グループが Young スキーマ質問票への記入を完了した。自己犠牲及び評価と承認の希求を除く、全ての早期不適応的スキーマにおいてグループ間で有意差があった。自制の欠如、感情抑制、損害や疾病に対する脆弱性等の早期不適応的スキーマはグループ間で有意に弁別され、自閉スペクトラム症を伴う成人の特徴を描写するためのいくつかの早期不適応的スキーマが他よりも重要であることの示唆が、ロジスティック回帰分析により明らかになった。

注:i) 引用中の「n = 48」及び「n = 86」は共に人数を示します。 ii) 引用中の「早期不適応的スキーマ」についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の「自制の欠如」に関連する「自制と自立の欠如スキーマ」についてはここを参照して下さい。 iv) 引用中の早期不適応的スキーマの一種である「感情抑制」については上記本、「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」の P45 の表 2.1 によると、「感情抑制スキーマ:このスキーマをもつ人は,どんな感情でもそれを表出することは,他者を傷つける,恥ずかしさを感じる,報復を受ける,見捨てられることになると信じている。そのため,自らの感情や衝動を抑制する。堅苦しく,理性や良識を重視する。」とのこと。 v) 引用中の早期不適応的スキーマの一種である「損害や疾病に対する脆弱性」についてはここを参照して下さい。 vi) 引用中の「自閉スペクトラム症」については、拙エントリを参照して下さい。

②「Individual Schema Therapy for high-functioning autism spectrum disorder with comorbid psychiatric conditions in Young Adults: Results of a Naturalistic Multiple Case Study[拙訳]若年成人における合併した精神医学的状態を伴う高機能自閉スペクトラム症のための個別スキーマ療法:自然主義的な複数のケーススタディの結果」

Schema Therapy (ST) approaches to high-functioning autism spectrum disorder (HF-ASD) in young people have yet to demonstrate differential effectiveness, and there is little evidence that young people with HF-ASD adapt ST. We conducted a pilot study and case series for HF-ASD in adolescents. We first included patients with HF-ASD (N = 8) into a 4-week baseline phase; this phase functioned as a no-treatment control condition. Then patients began a 5-20-week exploration phase during which symptoms and underlying schemas were explored; this phase functioned as a dysfunctional emotional and behavioural control condition. Next, the treatment phase, the patients received up to 25 sessions of individual ST. In this four-case series, all four participants reported severe maladjustment at baseline and achieved remission by the end of treatment. Conclusions: ST shows promise as a treatment for young adults with HF-ASD.


[拙訳]
若者における高機能自閉スペクトラム症(HF-ASD)へのスキーマ療法(ST)アプローチは、未だ示差的有効性を示していなく、そして HF-ASD を伴う若者が ST に適応するというエビデンスはほとんどない。青年期の人における HF-ASD のためのパイロット研究と症例シリーズを、我々は実施した。我々は最初に HF-ASD(N = 8)を伴う患者を4週間のベースライン段階に入れた。この段階は無治療対照状態として機能した。その後、患者は5~20週間の症状と根底にあるスキーマが探究される探究段階を開始した。この段階は、機能不全の情動的及び行動的対照状態として機能した。次の治療段階で、患者は個々の ST の25回のセッションを受けた。この4ケースシリーズでは、4人の参加者全員がベースラインで重度の不適応状態を報告し、治療の最後までに寛解を達成した。結論:ST は、HF-ASDを伴う若い成人のための治療法として有望であることを示す。

注:i) 引用中の「N = 8」は被験者数を示します。 ii) 引用中の「高機能」とは、知的障害を伴わないことのようです。例えば次の資料を参照して下さい。 「自閉スペクトラム症の理解と支援」の「高機能自閉症アスペルガー障害」シート(P3)

=====

※※:本「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」の編者;M.ヴァン・ヴリースウィジク、J.ブロアーゼン、M.ナドルド 監訳者;伊藤絵美吉村由美 訳者;風岡公美子、小林仁美、津髙京子、森本雅理

=====

***** 臨時の記事 *****
スペースの関係上、ミニ情報においては書ききれない記事等をあえてここに記述します。掲載期間は数日~数カ月を予定していますが、状況に応じてさらに延びるかもしれません。

(1)未成年患者に付き添う非常に高飛車な親への診察室における対応例について(2018-04-26 に公開)
未成年患者に付き添う非常に高飛車な親への診察室における対応例について、井原裕著の本、「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」(2012年発行)の「症例3 名門校の女子生徒 中学3年で妊娠して直ちに退学」における記述の一部(P68~P77)を以下に引用します。また、この引用では脚注はまとめて別途表示しています。

あらあら、先生はお若いわねえ
谷古宇奈央さんは、15歳の女子中学生。川口市内の公立中学の3年生。アンケート用紙には、「この夏に転校したばかりで、学校になじめない」とあった。

井原:(待合室へのマイクでの呼び出し)「やこうなおさん、やこうなおさん、1番診察室にお入りください」

上品な身なりの長身のお母様と一緒に来院。ご本人は、お母様よりさらに長身で、170センチはゆうにある美しい女性。髪も長く、とても中学生とは思えない大人びた雰囲気である。しかし、診察は少々緊張した雰囲気で始まった。

母親:おはようございます。谷古宇奈央の母でございます。あらあら、先生はお若いわね。私ども、井原教授の診察を受けたくて参りましたのよ。教授のご名望を伺って、わざわざ獨協まで参りましたの。あなたは、研修医、助手さん、それとも……*1。
井原:わ、わたくしが井原でございます。若造で申し訳ございません。いや、その……若そうに見えるだけで、実際は結構な年なんでございますが……。ま、ま、とにかくどうぞおかけください。お二人とも、どうぞそちらの椅子のほうに……。
母親:あら、先生が井原教授なの? 随分伺っていたお話と違うわねえ。京王医大の蓮見教授からお話は伺っておりましたのよ。もっと年配の白髪の立派な方かと思ったわ。大丈夫かしら。
井原:すみません。貫禄がなくて……。多分、蓮見教授のおっしゃっていた井原はわたくしのことだと思います。獨協に井原という医師はわたくしだけですから。
母親:オッホッホ。県内で中学生、高校生を一番たくさん診ているベテランだと伺っていたわ。人は見かけによらないわねえ。ああら、失礼いたしました。ごめんなさい。
井原:いえいえ、すべてはわたくしの不徳のいたすところで……。
母親:先生のことは、少しお調べさせていただいたわ。東北大学をご卒業になっていらっしゃるのね。まっ、東大や京王じゃないのが残念ね。それにケンブリッジにご留学あそばしたとのこと。私の甥は、オックスフォードのマートン・コレッジ*2に留学しておりましたのよ。歴史学を専攻しておりましたわ。そうそう、ちょうど甥が留学する5年ほど前に徳仁親王マートンにいらっしゃったわ。皇太子は、まあ甥のご学兄ってところかしらね。あなたは、ケンブリッジはどちら? キングス、それともセント・ジョーンズ?
井原:お詳しいですね。わたくしはロビンソンです。
母親:ロビンソン? 聞いたことないわねえ。
井原:新しいコレッジなんです(注8)。

医学会の権威のご推薦だからここに来たのよ

井原:でも、まあそんな話はやめませんか? 当院の外来は患者様も多数お見えになります。まだお待ちになっている方もいらっしゃいます。時間は無限ではございません。先を急がせていただいてもようございますか?
母親:あら、蓮見先生のご高配を賜っていたのだから、少しお時間をとっていただけると思っていたのに……。
井原:申し訳ありません。ご期待に添える自信はございません。わたくしどもはすべての患者様に公平にご奉仕させていただく義務がございます。その点は、どうぞご理解くださいますようお願いいたします。
母親:ちょっと待って。何を言っているの、何を!*3 あなたねえ、どっこの無名の医者だか知らないけど、医学界の権威の蓮見教授のお顔に泥を塗るつもりなの? 私たちは蓮見教授のご推薦だからここに来たのよ。普通の患者とは違うのよ。無礼なまねは許しませんよ。蓮見教授には直ちに獨協の学長に電話させます。
井原:まあ、申し訳ございません*4。蓮見先生にも電話でお伝えいたしました。蓮見教授はご高名な方だから、都内のセレブリティの患者様を多数ご覧になっていらっしゃる。その縁で、わたくしのところにも資産家のご子息やご令嬢がお越しになります。ただ、当院は、セレブの方専用の病院ではないのです。基本的には、地域の一般の皆様のための病院です。
母親:だから何度も言ったでしょ。私たちは、そんなこともあるだろうと思ってわざわざ事前に蓮見教授にお願いして、先生に紹介状を書いていただいたのよ。おたくの病院がただの平凡な病院だなんて言われなくてもわかっているわよ。見ればわかりますよ。まったくみすぼらしい!
井原:みすぼらしいかもしれませんが、多くの患者様にご利用いただいている病院です。当院は、それこそ生活保護を受けている人もお越しになるんです。セレブの方も、生活保護の方も同じ診察室で同じ診療をさせていただく。セレブの方のための特別外来をご用意させていただいているわけではございません。恐れ入りますが、その点は、当院の事情をご考慮くださいますようお願い申し上げます*5。
母親:いいかげんにしなさい。あなた、私に喧嘩を売ってるつもりなの! 生活保護と同じはないでしょう。いくらなんでもひどい言い方ねえ。ふざけるのもほどほどにしなさい。私たちを何だと思っているの? 川口の谷古宇よ。谷古宇開発の谷古宇よ。あなた、知らないわけではないでしょう。
奈央:お母様。もう、おやめになって。
母親:あんたは黙ってなさい!
井原:まあまあ。わたくしもこの土地にはよそ者ですので、あまり事情に通じているわけではございません。その辺は、患者さんや皆さんにいろいろ教えていただかなければならない点もある。不行き届きなところがあって申し訳ありません。

院長を出しなさい、院長を!

母親:いまさら、何を謝っているのよ、何を! しらじらしいにもほどがあるわ。私たちを何だと思っているのよ! もう、許せない! (携帯電話をかけながら)ええっと、小森谷法律事務所は……、まったく、これだから三流大学はだめよ*6。私たちは普段は京王医大病院がかかりつけよ。この子は、生まれは郁愛病院よ。京王の系列の。産婦人科の越塚教授もお見えの病院だわ。私ども、獨協の病院なんて来たくなかったの*7。やっぱりお医者さんは、東大出か京王出でないとねえ……。谷古宇家の者をあまりに程度の低い医者にみせるわけにはいきませんからね……。「ああ、もしもし。小森谷法律事務所ですか。小森谷先生、いらっしゃる。私、川口の谷古宇です。……だから、川口の谷古宇と言えばわかるわよ。さっさと小森谷先生につなぎなさい。……えっ、ご不在? ああん、もう、イライラする。わかったわ。事務所に戻ったら、すぐに谷古宇まで電話するよう言ってちょうだい。いいわね?」。今、顧問弁護士にも電話しましたわ。先生、あんまり失礼なことをなさるようなら、ただではすみませんよ。これは、ドクター・ハラスメントでしょ。こっちは蓮見先生の紹介状までもって、礼節を尽くしたのよ。それが、いきなり「ご期待に添えない」はないでしょう。
井原:申し訳ありませんが、過大なご期待はお控えください。いきなり弁護士も悪くないけれど、当院には「患者様相談窓口」というのをご用意しておりますので、診療内容等のご意見はそちらにどうぞ。それと申し訳ありませんが、院内では携帯電話のご使用はお控えください。医療機器に影響を及ぼすおそれがございますので……*8。
母親:もうっ、いったい、あんた、何様のつもり! 携帯電話をどう使おうと私の勝手でしょう。「相談窓口」に怒鳴り込んでやるわよ!
井原:いいえ、勝手ではございません。わたくしどもは、「患者様を中心とした医療」のために、患者様の安全を第一に考えております。その際に携帯電話は、医療機器に影響を及ぼす恐れがありますので、医療安全上の問題としてとらえております。どうかご使用をお控えください。
母親:あんた、いったい誰なのよ。院長なの? 学長なの? そんな立派な人? ただの下っ端の医者でしょ。いったいぜんたいなんの権利があって、そんないっぱしの口をきくのよ。あんたなんかと話しててもらちがあかないわ。おい、こら、院長を出しなさい、院長を*9。あんたなんかと話してもどうしようもない。院長にすぐ来るように言いなさい!

日ごろから厳しく警察署に指導していただいています

井原:少し声を落としてください。これでは待合室にまで聞こえてしまいます。わたくしは、当院の医療安全管理室の副室長という立場でございます。病院全体の安全に関して、一定の責任を担うよう病院長から命ぜられております。今日の谷古宇様のご要望についても、わたくしから病院長に報告いたしますから、さらにご意見がおありでしたら、どうぞわたくしにおっしゃってください。
母親:ああん、もう、まったく……*10。
井原:ただ、お願いですから少し声を小さくしてください。これではほかの患者様がおびえてしまいます。外来受付のところに、「患者様およびご家族の皆様へ」というポスターが掲示してあったでしょう。そこに記したとおり、他の患者様の安全な医療の妨げとなるようなことをなさる場合は、退去していただくこともございます。
母親:退去って、出てけってこと。
井原:わたくしどもは、とにかく患者様の安全を第一に考えさせていただいております。それは、病院長以下当院一同の基本的な姿勢であるとともに、越谷保健所や越谷警察署に日ごろから厳しく指導していただいているところでもございます*11。院内で安全管理上の重大な事態が発生した時には、わたくしが警察署や保健所に電話することもございます。どうぞ当院の方針にご理解をお願いしたく存じます。どうかご協力のほどをお願い申し上げます。
母親:……。
井原:それとも、本日の診察は中止いたしましょうか? わたくしどもの病院は、どうやら谷古宇様にご想像いただいているような病院ではなさそうですね。わたくしも、谷古宇様のご期待に応えられるほどの大した医者じゃございません。
母親:わかったわよ。私は黙ってりゃいいんでしょ、黙ってりゃ。ここまで来たんだから診察は受けますよ。
井原:とにかく時間は限られております。先に進ませていただいてようございますか? お嬢様のために、時間を有効に使いましょう*12。さて、谷古宇奈央さん、今日はいかがいたしましたか?(後略)

脚注:
*1 精神科教授は、皆、こういう経験をしている。困ったことに、肩書きだけ見て過大評価する人はいる。
*2 'College' は、米語発音では「カレッジ」だが、イギリスでは「コレッジ」と発音される。オックスフォードやケンブリッジへの留学経験者は、しきりと「コレッジ」「コレッジ」と発音したがる。
*3 直前の説明をもう少し穏やかに行っておれば、これほど過激なリアクションはなかったかもしれない。ただ、この婦人は、一度は恫喝して支配・服従関係を明確にしたいほうなので、好機をうかがっていたのであろう。
*4 このあたりでは、こちらとしてはまだ「下手にでて、なだめに回ろう」と思っている。しばらくは、防戦一方で、ガードを固めて、相手の出方をみてやろうという心づもりである。
*5 このあたりも、まだまだこちらとしては専守防衛である。相手方もそろそろ落ち着いてくれても不思議はないのだが、このご婦人は刀を振り上げすぎて、簡単に鞘に返せなくなっている。
*6 そろそろ万策尽きるだろうと思っていたところで、突然携帯電話で弁護士呼び出しである。これは明らかなルール違反なので、当方としては反撃に転じる絶好の機会となる。こっちもそろそろ臨戦態勢に入ってきた。
*7 獨協については、お母様に誤解がある。医大こそ1973年設立で新しいが、学園自体は古い名門であり、1881年の獨逸学協会にさかのぼる。1883年に西周を初代校長として、獨逸学協会学校が設立された。それが学園の母体である。
*8 さて、戦闘開始だ。まずは、院内規約を杓子定規に提示する。エキサイトしている人は、規則を盾に正論で来られると間違いなく逆上する。そして、その拍子にかならず失言する。失言をとらえて切り込んでいく。
*9 「院長を出せ!」。ついに出た! そろそろ出るかと思っていたのだ。いったい私は、何度この言葉を聞かされただろう。何度も聞かされているだけに、対応も慣れている。いつものセリフを静かに告げるだけである。
*10 「病院長から命ぜられている」「病院長に報告する」、これだけで相手は意気阻喪である。相手も、そろそろ「向こうはプロだ」と思い始めている。
*11 「保健所や警察署に日ごろからご指導いただいている」、これは、苦情処理を担当しているすべての病院関係諸氏にはぜひとも覚えていただきたいセリフである。実際、保健所や警察とのパイプはもっておくこと。
*12 お母様はどうであれ、本日の主役は奈央さんご自身である。診察は続けなければならない。戦闘モードから通常モードに、こちらの心理も切り替えていく。
(注8) 'Robinson College' は、1981年創設のケンブリッジの最新のコレッジのひとつ。赤レンガの建築と美しい庭園で知られる。

注:(i) 引用中の「支配・服従関係」に関連するかもしれない、 a) スキーマモード(これに関連するスキーマ療法における「モードモデル」についてはここを参照)における「自己誇大化モード」について、編者、監訳者及び訳者は※※を参照の本、「スキーマ療法最前線 第三世代CBTとの統合から理論と実践の拡大まで」(2017年発行)の 第2章 スキーマ,コーピングスタイル,そしてモード の表 2.2 における記述の一部(P51)を形式を変更して次にそれぞれ引用(『 』内)します。 『自己誇大化モード:このモードにある人は,自分は他者より優れており特権が与えられていると信じている。他者の考えにはおかまいなしにに,自分だけはやりたいことができ,ほしいものを手に入れるべきだと主張する。自尊心の増大のために,自分を誇示したり他者を中傷したりする。』(注:この部分の著者はハニー・ヴァン・ジェンダレン,マーリーン・レーケボア,アーノウド・アーンツです。) b) ナルシシスト(不健全な自己愛をもつ人)及びスキーマ療法の視点からの「権利要求モード」について、ウェンディ・ビヘイリー著、伊藤絵美、吉村由未監訳の本、「病的な自己愛者を身近にもつ人のために あなたを困らせるナルシシストとのつき合い方」(2018年発行)の 第5章 注意を向ける の ナルシシストのもつ四つの「仮面」とその付き合い方 の「権利要求モード」における記述の一部(P146~P147)を以下に引用します。 (ii) 加えて、次に紹介する上記以外の自己愛に関連する本もあります。 『市橋秀夫監修の本、「自己愛性パーソナリティ障害 正しい理解と治療法」(2018年発行)』 (iii) 上記引用全体に関連するかもしれない、不健全な自己愛(又は不健康な自己愛)を含む患者側の治療妨害要因としての人間の基本的弱点について、平井孝男著の本、「心の援助にいかす精神分析の治療ポイント 波長合わせと共同作業、治療実践の視点から」(2019年発行)の 第5章 こころの病は治るのか? の「2 個々の治療妨害要因」における記述の一部(P254~P257)を以下に引用します。 (iv) 引用中の「苦情処理」に関連するかもしれない感情の修羅場たる医療トラブルの現場における「こころの専門家の関与」について、井原裕著の本、「激励禁忌神話の終焉」(2009年)の 第11章 危機管理と精神科医 の「こころの専門家の関与」における記述の一部(P194~P196)を以下に引用します。

権利要求モード
「権利要求モード」をもつナルシシストは、自分だけは特別な「マイルール」を作ってもよく、自分の望むものは望むときに与えられてしかるべきだと信じています。彼女(ここでは女性にしてみます)は、自分は他者より上位にいるように振る舞い、特別扱いされるのが当然だと思っています。彼女には「ギブ・アンド・テイク」という考え方を受け入れる余地はありません。彼女は人から「ノー」と言われることを嫌い、相手に無理な要求をするのに何のためらいも感じないようです。彼女は他人の気持ちに関心がなく、「共感」の価値を理解することができません。(後略)

2 個々の治療妨害要因

(1) 患者側の治療妨害要因
[人間の基本的弱点]
〈治療を妨害するものって抵抗だけなんですか〉
「主には抵抗なんでしょうが、根本には人間的弱点というか根源的煩悩というか人間の良くない癖・有害な点が非常に大きく広がっています。いわば抵抗を生み出す根本のようなものです。それは今までに挙げた抵抗と重なるかもわかりませんが、思いつくまま挙げてみます。
・気づき・自覚の妨害(特に自分の弱点、欠点、煩悩・欲求、防衛機制、攻撃性、恥等の無自覚)
・自分を大事にしない(過剰で破壊的な自己否定、不規則・不健康な生活、自己破壊傾向等)
・不健康な自己愛(不適切で過剰な自己中心、他者配慮性の無さ、過剰な万能感・称賛欲求等)
・破壊性や怒りのコントロールの無さ(常に思い通りにいかないと不満。破壊行動)
・相互性や対話力の無さ(対話困難。理解可能な話し方が困難。質問に答えない。討論不能
・その他の主要な弱点
現実認識ができていない。自己愛的幼児的万能感が強くそれを自覚・コントロールできない。相手を自分の思うように動かそうとしやすい。目標を持てていない。自分の『したいこと』『できること』『有益なこと』がわかっていない。わかっていても実践できていない。予想をして行動しない。行き当たりばったりである。常に不平・不満を言っている。苦を受け止められない。あることに過度に捉われすぎている。逆に過度に無頓着である。すぐ行動しない。グズグズする。決断できない。悪いほうばかり考える。逆に良いことばかり考える。目先のことしか考えない。瞬間に釘付けになる。広い長期的視野で考えない。ということぐらいで止めますが、おそらく挙げだしたら無限に多くなってしまうと思います」

[人間に弱点の多い理由]
〈何故、こんなに人間って弱点が多いのでしょうか〉
「まず人間として生まれてしまったら様々な欲求を持たされているということでしょう。欲求・欲動・欲望という言葉に反発を感じる人は、希望・理想・願い・祈りという言葉に言い換えてもいいかもしれませんが、いずれにしろ何らかの方向性へと向かうベクトル(フロイトの言う欲動)を持たされています。
例えば、生まれた時から順番にその欲求を挙げていくと、腹いっぱいオッパイを吸いたい、清潔でいたい(汚れたらオムツを早く変えて欲しい)、側にいて欲しい、(不快を感じたら)噛みつきたい、何でも手に取りたい、等々乳児期でも多くの欲動を持たされています。
そして大きくなるに従い、誉められたい、叱られたくない、両親から愛されたい、良い友達が欲しい、友達より優りたい、勉強でもスポーツでも一等になりたい、何かを達成したい、先生から評価されたいから、注目されたい、異性の友達が欲しい、性的欲動の自覚、恋人が欲しい、いい学校に入りたい、知識を身に着けたい、運動が上手になりたい、車が欲しい、旅行したい、いい仕事がしたい、困っている人の役に立ちたい、家が欲しい、賞が欲しい、有名になりたいなど、それこそもっと無限の欲求が出てくるでしょう。
老年期になれば、健康でいたい、早く病気が治って欲しい、長生きしたい、死ぬ時までにいろんなことを済ませたい、死ぬときは安楽な気持ちで死にたい、苦しまずに死にたい、極楽や天国に行きたいといった具合です」
〈人間の一生が欲望の歴史であることはわかりました。でも引きこもっている人や何の欲求も持ちたくないと言っている人はどうなるんですか〉
「引きこもっている人は、静かにしておいて欲しい、そっとして欲しいと思っているかもしれないし、なんとか抜け出したいと思っているかもしれません。
何の欲求も持っていないと言う人は『欲求を持ちたくない』という欲求を持っていると言えるでしょう。それから、そういう人であっても痛みなどの生理的苦痛がひどくなったら、そう言うかどうかは別にして、痛み除去の気持ちが自然に湧くんじゃないですか」

[欲求→欲求不満→苦→弱点の発生と増大]
〈欲求が何故弱点の発生につながるのですか〉
「欲求はいつもいつも満たされるとは限りません。むしろ満たされないことが多く、欲求不満をうまく受け止められないと欲求不満は膨らんで苦や苦痛が大きくなります。そして苦を受け止められない場合には、弱点が発現するか今までの弱点が強くなります。いずれにせよ、欲求に果てが無いように、弱点・抵抗も無限です」
〈たくさんありすぎてうんざりしてきました〉
「しかし、こうした一見妨害要因のように見える点もこれを自覚し適切に使うと治療促進要因に変わるかもしれません」(後略)

注:i) 引用中の〈 〉内は問いを、「 」内はこれに対する応答をそれぞれ表すようです。 ii) 引用中の「抵抗」については他の拙エントリのここここを参照して下さい。 iii) 引用中の「苦」について、仏教思想の視点からは他の拙エントリのここ及びWEBページ「間違えられた苦の原因 スカトー寺副住職 プラユキ・ナラテボー①」を参照して下さい。加えてここも参照して下さい。 iv) 引用中の「防衛機制」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「防衛機制 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「まず人間として生まれてしまったら様々な欲求を持たされているということでしょう」に関連するかもしれない「欲望(煩悩)によって条件づけられた現象の認知の仕方」については拙エントリのここを参照して下さい。

こころの専門家の関与

しかし、医療事故を別の側面からみれば、様相は一変する。それは医療事故には、被害者と加害者がいるということ、怒りがあり、悲しみがあり、失望があり、当惑があるということである。「危機」管理における「危機」とは、何よりも人のこころのなかに起こるなにものかである。異常事態発生時に人のこころをどうとらえ、どう対応していくか。この一点においてこころの専門家としての精神科医がにわかに注目されることとなる。
したがって、「危機管理に精神科医の関与を!」という場合、それは精神科医の対人スキルゆえである。精神科医には、タフ・ネゴシエーターとしての役割、トラブル・シューターとしての役割が期待されている。実際、稿神科医は他の診療科のスタッフに比して、心理戦の経験を豊富に有している。症例検討会を通して個性の多様性に精通し、過酷な診療を通して対人折衝のスキルを磨いてきている。この日々の臨床の経験が、人間の感情の修羅場たる医療トラブルの現場で発揮できるはずだと、考えられているのである。
たとえば、医療事故が訴訟に発展するとき、それは一見して経済裁判の様相を呈しているが、実態は人格裁判である*11-03。患者側から損害賠償の請求を目的として起こされるが、実際は、医療者個人に対する憎悪・敵意に端を発している。前章でも触れたが、金が欲しくて訴えるのではない。恨みを晴らすために訴えるのである*11-04。
このことは、われわれ精神科医にとっては、「相手の陰性感情にどう対応するか」という精神療法学のおなじみの問題に帰着する。「転移」「抵抗」「投影同一視」「理想化とこきおろし」などの臨床の基本問題が、すべて多少のモディファイを受けつつ、医療安全の医師・患者関係に現れる。医師一般にとって脅威に映る事態は、精神科医にとってはかならずしもそうではない。ふだんの診療で行っているとおり、精神療法の定石に則った対応を適切に行えば、訴訟という最悪の結果は回避できるはずである。患者とのコミュニケーションの重要性を、精神科医以上に指摘できる人はほかにいない。
どの病院でも困った問題となっている苦情処理は、前章で述べたように、精神科医がリーダーシップを発揮せねばならない課題である。実際、それは、適切に対応しなければ訴訟に発展する。そのほかの精神科医の活躍の場としては、危機的事態発生時の心理的混乱の調整、医療被害者・事故発端者への支援、真実説明・謝罪表明文化の構築などが考えられる。

注:i) 引用中の文献番号「*11-03」は次の本です。 【深谷翼 『精神科医療事故の法律知識』 星和書店、一九九三年】 ii) 引用中の文献番号「*11-04」は次の資料です。 【井原裕 「カルテ開示のリスクマネージメント」 『臨床精神医学』 第三六巻増刊号 (精神科医療のリスクマネージメント)、七二-七六頁、二〇〇五年】 iii) 引用中の「転移」に関連する「感情転移」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「感情転移」 iv) 引用中の「抵抗」については他の拙エントリのここここを参照して下さい。 v) 引用中の「投影同一視」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「理想化とこきおろし」については他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、これに関連する「アラジンの魔法のランプ願望」については他の拙エントリのここにおける引用の「アラジンの魔法のランプ願望」項を参照して下さい。 vii) 精神療法学のおなじみの問題に関連して、上記 iii) ~ vi) 項以外に「誤学習」(例えば拙エントリのここ及びリンク集、そして次の資料を参照して下さい。 「学童期~思春期に現れる教育的・社会的困難への支援 ―心理学の立場から―」の P43)及び「ナルシシズム」(不健全な自己愛)に関連する「ナルシシスト」(参照)が含まれるかもしれません。 viii) 引用中の「精神療法の定石に則った対応を適切に行えば」に関連するかもしれない「精神科臨床の真剣勝負の場では、毎日のように、患者の激しい感情に対応しなければならない。しかし、考えようによっては、これこそリスク回避法のトレーニングである」ことについて、井原裕著の本、「激励禁忌神話の終焉」(2009年)の 第10章 接遇に慎重な配慮を要する人々 の「病気を憎んで、患者を憎まず」項における記述の一部(P185)を次に引用(『 』内)します。 『精神科臨床の真剣勝負の場では、毎日のように、患者の激しい感情に対応しなければならない。しかし、考えようによっては、これこそリスク回避法のトレーニングである。精神療法のイロハをふまえた対応を、時宜を逸することなく行えば、最悪の結果は避けられるはずである。医療安全に関するいかなる取り組みにおいても、第一に取り組まなければならないこと、それは患者とのコミュニケーションに力を注ぐことである*10-02。』(注:引用中の文献番号「*10-02」は次の資料です。 【井原裕 「カルテ開示のリスクマネージメント」 『臨床精神医学』 第三六巻増刊号 (精神科医療のリスクマネージメント)、七二-七六頁、二〇〇五年】) 一方、引用中の「タフ・ネゴシエーター」にも関連する、引用中の「苦情処理」又はこれに類似した「クレーム処理」において、「どこか一ヵ所でもほころびがあれば、組織全体が敗北する」ことについて、同項における記述の一部(P186)を次に引用(『 』内)します。 『少数のタフ・ネゴシエーターを育てると同時に、全体の底上げも必要である。一人ひとりがある程度は難しい対人折衝ができるレベルに達しなければならない。どこか一ヵ所でもほころびがあれば、組織全体が敗北する。』

=====

***** ミニ情報と密接にリンクする臨時の記事 *****
スペースの関係上、ミニ情報においては書ききれないミニ情報と密接にリンクする記事等をあえてここに記述します。掲載期間は基本的に対応するミニ情報の記事と連動します。

(1)化学物質過敏症に関連する当事者研究におけるヒントについての一考察には至らない何かの提示、その他
【雑誌 そだちの科学 2019年4月号 中の藤川洋子著の文書『発達障害との現在・過去・未来』[P135~P138]】(参照)に登場するB君を参考にして、化学物質過敏症を題材としてアレンジした(大学入学時まで「化学物質過敏症」であると訴えていた)Cさんについての問い()を次に設定します(注:Cさんを含めて拙ブログ作者の創作です)。

[ア]問い:Cさんが必修科目(半期に12種類の実験をこなし、そのレポートを提出することが求められる)「化学実験」の単位を留年せずに取得する可能性を高めるには、「化学実験」に対しどのように臨めば良いか?

[イ]Cさんの設定:1) 「びくびく型」である。 2) B君と同じ大学入学時まで「化学物質過敏症」であると訴えていた(その後は問いの対象)。 3) 合理的配慮として、同大学に存在するアクセシビリティ・コミュニケーションセンター内の(Cさん自身が整えた)「環境が整った個室」を利用できることを、Cさんは既に獲得している。

[ウ]ひょっとしてヒントになるかもしれない何か:上記「化学実験」中に急性の体調不良(原因は下記〔a〕、〔b〕又はその他)となったCさんが取り得る選択肢とそのメリット・デメリットについて以下に例示します。
(i) 救急車で運ばれる(メリット:一番安全かもしれません。デメリット:①「化学実験」の単位を取得できないばかりか、急性の体調不良が化学物質過敏症による症状とされたならば、Cさんが希望する留年後の再チャレンジも大学側が怖気づいて許可されなく、退学勧告を受けるリスクがあるかもしれません。②原因が〔b〕ならばメリットに欠けるかもしれません。)

(ii) 上記「環境が整った個室」内に逃避し、心配して駆けつけた教員も環境汚染のリスクにより個室に入れなく、当日の「化学実験」の再チャレンジもできない(デメリット:①「化学実験」の単位を取得できなく留年する。②一旦「環境が整った個室」に入ると、外は「汚染社会」[エントリ「化学物質過敏症に関する私の発言について - NATROMのブログ」の「●臨床環境医による化学物質過敏症の治療法の問題点」項を参照]なので、果たして「環境が整った個室」から出ることができるのか? ③原因が中毒によるもの又はその他の緊急性がある症状ならば、救急車で運ばれるタイミングが遅れる。一方、原因が〔b〕ならばほとんどメリットが無いと考えます。)

(iii) 原因が〔b〕の場合における実験から一時離脱しての(数十分程度の)リアルタイム対処[リンク元のミニ情報記事を参照](メリット:仮にリアルタイム対処により症状が軽減し、実験に復帰できるならば「化学実験」の単位を留年せずに取得できる[ただしデメリット①の満足が必要]。デメリット:①急性の体調不良が生じて実験から一時離脱したとしても、(数十分程度の)リアルタイム対処後に再チャレンジできることを「合理的配慮」として獲得する必要がある。②原因が中毒によるもの又はその他の緊急性がある症状ならば、救急車で運ばれるタイミングが遅れる。)

・体調不良の原因
〔a〕化学物質の直接的な作用(化学的ストレス)によるもの。例えば中毒、化学物質過敏症(対象は中毒を引き起こさない微量な化学物質)。
〔b〕(〔a〕ではなく)『「ニューロセプション」(又は神経知覚、参照)が「命が脅かされている」と誤検知した』(ここも参照)ことによるもの(これに関連する「闘争-逃走」反応については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい)。加えて上記反応に続くかもしれない(深い)「シャットダウン」(参照)又は「凍りつき」(参照)を含む。特に上記「びくびく型」の方にはこれらの反応があてはまりやすいかもしれません。一方、スキーマ療法における「損害や疾病に対する脆弱性スキーマ」[ここここを参照]をはじめとする(不適応的)スキーマが活性化[ここここを参照、加えてこの活性化により生じる「闘争-逃走ー麻痺」反応についてはここを参照]した場合も含みます。

・補足
[1] ひょっとすると上記「びくびく型」の方の体調不良の原因であるかもしれない、予期不安を伴う「パニック発作」(参照)や「過換気症候群」(参照)については、上記一考察には至らない何かの対象外です。一方、アレルギー疾患(例えば参照)も対象外です。記述はありませんがこれら以外にも、上記一考察には至らない何かの対象外である多種多様な疾患があります。
[2] 上記「メリットとデメリット」に関連する「現実の物事はすべて完璧なことなど、あり得ないし、メリットとデメリットというものは、どんなものにも混在している。逆に言えば、どんな悪いことにもよい面があり、実際、最悪に思えたことが、大きなチャンスにつながるということも、しばしば経験される」ことについては拙エントリのここを参照して下さい。
[3] 上記Cさんの設定では『「化学物質過敏症」であると訴えていた』ですが、この設定を『「化学物質過敏症」であると確定診断された』に変更する場合には、以下に提示する問いを追加する必要があると考えます。

問い():化学物質過敏症と確定診断する際に、本当に上記〔b〕を含む『他の既存の考え得る疾患(含グレーゾーン)である可能性を充分に「除外診断」された』※※のかどうか? ただし、極めて微量の原因化学物質を使用して、二重盲検法による誘発(負荷)試験[例えば参照]により診断した場合を除く。

※:上記「問い」に関連する、『誰かに強いられることなく「なぜ?」「どうして?」といった「問い」を発することによって学ぶのが学問である』ことについては、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「2019年度 入学式式辞 - 大阪府立大学」の『学域生へ。「勉強」と「学問」の違い、自主・自立を』項

※※:上記『他の既存の考え得る疾患(含グレーゾーン)である可能性を充分に「除外診断」された』に関連する『他の既存の考え得る疾患である可能性を「除外診断」する必要がある』ことについては次の研修会資料を参照して下さい。 「科学的エビデンスに基づく新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル改訂新版」の『「化学物質過敏症」の訴えへの対応』シート(P42) 加えて上記「充分」かどうかは、どれだけの「鑑別対象の疾患」(含グレーゾーン)を挙げて、どのような理由(思考過程を含む)で除外されたのかを検証しないと判明しないと考えます。ちなみに、Sparks らによる化学物質過敏症の病因についての見解(資料「環境因子による病をもつ患者の看護学的考察」の表1[P89]を参照)において③と④を同時に満足するならば、①の「環境中の様々な化学物質に反応し、身体的あるいは精神生理学的な症状を呈する」ではないと考えます。

(2)ミニ情報【主張『化学物質過敏症を含めたシックハウス症候群については、本「シックハウス症候群マニュアル 日常診療のガイドブック」(2013年発行)を参照すれば最新で充分な情報を得ることができる』及び「上記本の鑑別診断のためにリストアップされた精神疾患の種類が少な過ぎる」ことについての一考察、その他】における記述の一部の分担
ミニ情報において書ききれない標記記事における記述の一部を以下に分担して記述します。

本「シックハウス症候群マニュアル 日常診療のガイドブック」(参照)の 5.鑑別疾患 の「5-3 精神心理」項(P41~P44)において、シックハウス症候群と鑑別すべき精神疾患についての解説があります。ここでリストアップされているのは①「身体表現性障害」、②気分障害(ただし、解説されているのは「大うつ病性障害」のみ)、③不安障害のカテゴリ(ただし、リストアップされているのは「パニック障害」「広場恐怖」「特定の恐怖症」のみ)、④精神病性障害としての「統合失調症」、「妄想性障害」です。なお、同項の「2)身体表現性障害」において上記「身体表現性障害」と「自律神経失調症」とに関連する記述の一部(P41)を次に引用(【 】内)します。 【身体表現性障害とは,臓器の機能や構造には全く異常がないのに,身体症状だけを呈する精神疾患であり,脳機能との結びつきでは「心因=大脳皮質の働き」の関与が想定される.この中には,以前から「自律神経失調症」と呼ばれてきた全身の不定愁訴や軽度の不安・抑うつなどを呈する病態(鑑別不能型身体表現性障害)も含まれている。】(注:[i] なお、本エントリ作者にとっては引用中の≪脳機能との結びつきでは「心因=大脳皮質の働き」の関与が想定される≫の意味が本エントリ作者には理解できませんでした。仮に「大脳皮質の働きは意識的なもの」だとするならば、本エントリ作者はますます混乱しそうです。 [ii] また、 a) 引用中の「自律神経失調症」に関連する「自律神経機能の制御を担う中枢」は大脳皮質下にある「視床下部」[WEBページ「ストレス - 脳科学辞典」の「視床下部」項を参照]であるとされています。 b) ポリヴェーガル理論(他の拙エントリのここの「最初に」を参照)の視点からの(腹側迷走神経複合体が機能していることによる、交感神経系あるいは背側迷走神経系が防衛反応に陥ることが防がれ、自律神経の状態が抑制的に保たれている範囲である)「耐性領域」[又は Window of Tolerance、資料「ポリヴェーガル理論からみた精神療法について」の「4.Window of Tolerance(耐性領域・耐性の窓)について」項〔P332〕を参照、加えて他の拙エントリのここも参照]についても、「主に大脳皮質の働き」によるものとは本エントリ作者は思えません。)

ちなみに、上記本におけるシックハウス症候群についての上記以外の特記事項を三つ次に示します。
[A]上記本の I.シックハウス症候群の概念 の 3.概念合意事項 の 3-1 シックハウス症候群の概念 の「表Ⅰー5 臨床分類」(P6)において、シックハウス症候群が1型~4型に分類されていますが、より最新の「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」ではこのような分類はありません。ちなみに、上記「表Ⅰー5 臨床分類」の引用はありませんが、代わりに「シックハウス症候群の診断・治療法及び具体的対応方策に関する研究」からダウンロード可能な pdfファイル「200840008A0002.pdf」中の「表1 臨床分類」[P22]を参照して下さい。

[B]上記本の Ⅱ.診断の手順 の 6.化学物質過敏症との相違 の 3-1 シックハウス症候群の概念 の「2) 発症機構に関する考え方」において、化学物質による神経原性炎症の関与を含む、用語「化学キンドリング」を使用する化学物質過敏症の発症についての次に引用(【 】内)する記述(P48)があります。 【曝露初期の段階で“Sensitization”という化学物質に感作される状態,次いで曝露が継続されることにより“Triggering”と呼ばれる過敏性症状が誘導される状態も知られている.一般的なアレルギーの成立と類似している.それによると,低濃度化学物質の反復曝露が情動機能と関連の深い大脳辺縁系(パーペッツ回路)への影響として抑制性ニューロンの GABA 受容体を阻害し,この部位における局所的ニューロンの興奮性を誘導,結果的にいわゆる「化学キンドリング」を引き起こし,種々の大脳辺縁系症状・情動反応をもたらすことが提示されている.化学物質の「反復性曝露」が発症に最も重要であり,「反復性曝露」による神経細胞シナプスの可塑性変化あるいは神経細胞の条件づけの結果として不定愁訴が生じるという考え方が主流となりつつある。】
このような用語「化学キンドリング」※1を使用した(化学物質過敏症において)『化学物質の「反復性曝露」が発症に最も重要』であることを含む記述は、化学物質過敏症(又は本態性環境不耐症)についての記述も有する、より最新の「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」にはありません。加えて、資料「Chemical Sensitivity-The Frontier of Diagnosis and Treatment」(2016年発行)の日本語要約には次に引用(『 』内)する記述があります。 『しかしながら, 化学物質過敏症状を訴える患者が存在することは明らかであるにも関わらず, その病態解明が未だ進展していないために, 取り扱う臨床家・医療機関によって患者への対応は大きく異なっているのが実状である。その最大の理由として, 環境中の大量ではなく, 極めて微量な化学物質との因果関係の証明が非常に困難であることがあげられる。』
一方、化学物質過敏症の発症としての上記本の引用中の「化学物質に感作される状態」及び「過敏性症状が誘導される状態」が、上記本の引用中の「一般的なアレルギーの成立と類似している」こととは異なる可能性が高い、記述≪過敏症とは「健常被験者には耐えられる一定量の刺激への曝露により、客観的に再現可能な症状または徴候を引き起こす疾患をいう」と定義されていますので、化学物質過敏症は過敏症の定義からはずれます。今後は、過敏症としてアレルギー学者が扱う研究課題ではなく、心理学者、神経学者が扱う研究課題になるということです。≫を含む引用は他の拙エントリのここを参照して下さい。

ちなみに標記本の引用(上記【  】内)における、 a) 「大脳辺縁系」についてはトラウマの視点から他の拙エントリのここを、 b) 「パーペッツ回路」については例えばWEBページ「情動系神経回路 - 脳科学辞典」の「情動系神経回路同定の歴史」項を、 c) 「情動」については他の拙エントリのここを、 d) 「GABA 受容体」についてはWEBページ「GABA受容体 - 脳科学辞典」を それぞれ参照して下さい。 e) 加えて、『「反復性曝露」による神経細胞シナプスの可塑性変化あるいは神経細胞の条件づけの結果として不定愁訴が生じる』において、条件付け(又は学習)は単一試行モデルでも説明できる例(味覚嫌悪学習、[深い]シャットダウン)については、他の拙エントリのここ及び※1を参照して下さい。なお、上記条件付け(又は学習)の結果として不定愁訴が生じるならば、この現象は「化学キンドリング」とは無関係であると考えます。

※1:化学物質過敏症において、よしんば上記「化学キンドリング」が存在するならば、極めて微量の化学物質の直接的な作用により「化学キンドリング」はもたらされる必要があると考えます。上記「化学キンドリング」によりもたらされたと見紛うかもしれない、上記ポリヴェーガル理論の視点からの、以下に一例を示す現象は、極めて微量の化学物質を舞台として「間接的」にもたらされると考えます。
例:ニューロセプション(又は神経知覚)が『「猛毒の」至る所に存在する極めて微量の化学物質への曝露により、命が脅かされている』と「誤検知」した[他の拙エントリのここを参照](又はスキーマ療法の視点から[不適応的]スキーマの一種である「損害や疾病に対する脆弱性スキーマ」が大いに活性化した[ここここ、及びここを参照])ために、「闘争-逃走反応」が生じた(他の拙エントリのここここ、及びここを参照)。しかし状況がそのどちらも許さななかった(すなわち、至る所に存在する極めて微量の化学物質に対して、闘うことも逃げることもできなかった)ために、(深い)シャットダウン[又はこれに相当する凍りつき、麻痺、虚脱、機能停止、解離※2、気を失う等]に陥った(他の拙エントリのここ及びここを参照)。[極めて微量の化学物質の直接的な作用ではなく](深い)シャットダウンに陥ったために、 a) 様々な身体症状等が出現した(例えば、下痢や吐き気等の下腹部の問題、低周波音に過敏、線維筋痛症、血圧の不安定。他の拙エントリのここを参照)。 b) 又は上記(深い)シャットダウンに伴い自律神経が調節不全を起こしたために、耐性領域[資料「ポリヴェーガル理論からみた精神療法について」の「4.Window of Tolerance(耐性領域・耐性の窓)について」項〔P332〕を参照]の範囲を超えた「過覚醒/圧倒」、又は「低覚醒/シャットダウン・無力感」という状態をくり返している※3[他の拙エントリのここを参照、加えて資料「犯罪被害者への心理支援の実践 -リソースや身体志向の視点から-」の Figure3.[P115]を参照]。このような現象は「わずか一回の暴露により、何かが結びつき、特定の生理学的状態になるように誘発する単一試行条件付けモデル」で説明できるかもしれないことについては他の拙エントリのここを参照して下さい。

※2:上記「解離」に関連して「低覚醒状態は背側迷走神経複合体の活動によるとされる」ことについて、WEBページ「解離症 - 脳科学辞典」の「病態メカニズム」項における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『こうした過覚醒に対する反応として副交感神経優位の解離状態が生じ、低覚醒や離隔をきたすという。この低覚醒状態は背側迷走神経複合体(dorsal vagal complex, DVC)[12]の活動によるとされる。』(注: i) 引用中の文献番号「[12]」は次の論文です。 「The polyvagal theory: phylogenetic substrates of a social nervous system.」 ii) 引用中の「背側迷走神経複合体」に関連する「背側迷走神経系」については例えば次の資料を参照して下さい。 「多重迷走神経理論による神経性過食症理解の可能性について」の「1.背側迷走神経系」項) 加えて、(はなはだしい解離により)「脳のほぼ全領域で活動が著しく低下している状況では従来のトークセラピーが役に立たない」ことについて、べッセル・ヴァン・デア・コーク著、柴田裕之訳、杉山登志郎解説の本、「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」(2016年発行)の 第4章 命からがら逃げる――サバイバルの分析 の「離人症――自己から分離する」項における記述の一部(P120)を次に引用(【 】内)します。 【私はユートのスキャン画像を見たあと、頭が働かなくなった患者に対して、まったく異なる接し方をし始めた。明らかに彼らは、脳のほぼあらゆる部位の活動が低下しているので、考えたり、深く感じたり、思い出したり、今何が起こっているかを理解したりすることができない。そういう状況では、従来のトークセラピーは事実上、役に立たない。】(注:引用はしませんが、上記引用に関連する『上記ユートの反応は「離人症」で、トラウマによって生じるはなはだしい解離の一症状である』ことについては、同項の P119 を参照して下さい。)

※3:上記「過覚醒/圧倒」、又は「低覚醒/シャットダウン・無力感」という状態をくり返している場合には、「心臓副交感神経」をはじめとする「腹側迷走神経複合体」(参照)はあまり又はほとんど機能していないかもしれません。

[C]上記本の Ⅱ.診断の手順 の 3.検査法 の 3-2 日常生活曝露 の「3) VOCモニタによるリアルタイム評価」の図Ⅱ-2の内容を説明する記述の一部(P28)を次に引用(【 】内)します。 【グラフ下側の曲線がTVOCの濃度を示す.それに対して,グラフ上側の曲線は心拍変動を周波数解析した高周波成分(HF)を示しており,心臓副交感神経の活動を反映している.】(注:i) 上記「図Ⅱ-2」の引用は省略しますが、代わりにWEBページ「シックハウス症候群の診断・治療法及び具体的対応方策に関する研究」からダウンロード可能な pdfファイル「200738021A0005.pdf」中の「図2 An example of time-series data of TVOC concentration and HRV (Subject a).」[P98]を参照して下さい。 ii) 引用中の「TVOC」は「総揮発性有機化合物」の略称です。 iii) 引用中の「心臓副交感神経」は上記「ポリヴェーガル理論」(他の拙エントリのここの「最初に」を参照)の視点からは(疑核に起始する)上記「腹側迷走神経複合体」の一部に相当すると考えます。参考として次の資料を参照して下さい。 「バイオフィードバックにおける心拍変動の可能性」の特に「2.2 HF成分の特徴」項、「ポリヴェーガル理論からみた精神療法について」の「Ⅰ.ポリヴェーガル理論とは」項)
このように、上記「3) VOCモニタによるリアルタイム評価」における記述は、非主流の「トータルボディロード」(参照[特に図1.〔P1305〕])ではなく、主流の(闘争ー逃走反応を含む)ストレス応答(又はストレス反応、参照)を拡張する上記ポリヴェーガル理論を前提としていると考えます。

(3)ミニ情報【バイオフィードバックにおける心拍変動についての資料を考慮した「化学物質過敏症における曝露濃度と心拍変動のリアルタイムモニタリング」についての一考察】における記述の一部の分担
ミニ情報において書ききれない標記記事における記述の一部としての、リンク元における論文(全文)に対し、拙ブログ作者が興味を持った二つの事項について次に記述します。

[A]上記論文の「2.4. HRV Analysis」項において、心拍変動の分析(HRV Analysis)について文献番号[20]で参照しているガイドラインHeart rate variability[拙訳]心拍変動」があります。このガイドラインの「Physiological correlates of HRV component」項における記述の一部(P365)を次に引用(『 』)します。 『Under resting conditions, vagal tone prevails[71] and variations in heart period are largely dependent on vagal modulation[72]. The vagal and sympathetic activity constantly interact. As the sinus node is rich in acetylcholinesterase, the effect of any vagal impulse is brief because the acetylcholine is rapidly hydrolysed. Parasympathetic influences exceed sympathetic effects probably via two independent mechanisms: a cholinergically induced reduction of norepinephrine released in response to sympathetic activity, and a cholinergic attenuation of the response to a adrenergic stimulus.[拙訳]安静条件下では、迷走神経の緊張が優勢であり[71]、心臓周期における変動は迷走神経の調節に大きく依存する[72]。迷走神経と交感神経の活動は常に相互作用する。洞結節にはアセチルコリンエステラーゼが豊富に存在するため、アセチルコリンは速やかに加水分解されるので、迷走神経刺激の効果は短い。副交感神経系の影響は、おそらく2つの独立したメカニズムを介して、交感神経系の影響を超える。すなわち、交感神経系の活動に応答して放出されるノルエピネフリンの減少のコリン作動性による引き起こし、そしてアドレナリン刺激への応答のコリン作動性の減弱である。』 (注:引用中の「迷走神経」は腹側迷走神経複合体の一部であると考えます。ちなみに、引用中の「副交感神経系の影響は(中略)交感神経系の影響を超える」ことに関連するかもしれない「迷走神経ブレーキ」については上記「腹側迷走神経複合体」を含めて次の資料を参照して下さい。 「ポリヴェーガル理論からみた精神療法について」の「2.社会的関わりシステムと腹側迷走神経複合体」項)

[B]上記論文の「4.4. Case Studies」項において、各被験者に対する予防策についての記述があり、これを次に引用(『 』)します。 『Moreover, from this information, preventive measures were proposed for each subject. There is no common MCS treatment protocol accepted across medical disciplines. Gibson et al. surveyed perceived treatment efficacy for conventional and alternative therapies reported by a person with MCS. As a result, participants rated chemical avoidance, creating a chemical-free living space, and prayer as the three most useful interventions [25]. On the other hand, cognitive therapy, such as mindfulness, are being explored as treatment option for MCS [26,27].[拙訳]さらに、この情報から、各被験者に対する予防策が提案された。医療分野を超えて受け入れられる一般的な MCS 治療プロトコルはない。Gibsonらは、MCS を伴う人から報告された従来療法及び代替療法に対する治療効果の認識を調査した。その結果、参加者は化学物質の回避、ケミカルフリーな生活空間の創出、及び祈りの3つを最も有用な介入法として評価した[25]。一方、マインドフルネス等の認知療法は、MCS の治療選択肢として探求されている[26,27]。』(注:i) 引用中の文献番号「[25]」は次の論文です。 「Perceived treatment efficacy for conventional and alternative therapies reported by persons with multiple chemical sensitivity.」 ちなみに、この論文を紹介する日本語のエントリ『メモ「自己申告ベースのMCSに効く治療法」』があります。 ii) 引用中の文献番号「26」は次の論文です。 「A controlled study of the effect of a mindfulness-based stress reduction technique in women with multiple chemical sensitivity, chronic fatigue syndrome, and fibromyalgia.」 ただし、上記「mindfulness-based stress reduction」(マインドフルネスストレス低減法[例えば参照])は認知療法には含まれないと考えます。 iii) 引用中の文献番号「27」は次の論文です。 「Mindfulness-based cognitive therapy for multiple chemical sensitivity: a study protocol for a randomized controlled trial.」 ちなみに、この論文の続きに相当する論文についての簡単な紹介は他の拙エントリのここ及びここを参照して下さい。)

(4)ミニ情報【論文「Changes in fatigue, autonomic functions, and blood biomarkers due to sitting isometric yoga in patients with chronic fatigue syndrome.[拙訳]慢性疲労症候群CFS)を伴う患者での座位のアイソメトリックヨガによる疲労、自律神経機能、及び血液バイオマーカーにおける変化」のご紹介】における記述の一部の分担
ミニ情報において書ききれない標記記事における記述の一部としての、リンク元における論文(全文)に対し、拙ブログ作者が興味を持った二つの事項について次に記述します。

リンク元の「CFS を伴う患者は交感神経過活動と低い心臓迷走神経緊張により特徴づけられる ANS 変化」における脳科学的なディスカッションについては、論文(全文)「Fatigue correlates with the decrease in parasympathetic sinus modulation induced by a cognitive challenge[拙訳]疲労は認知課題により誘発される副交感神経洞性調節における減少と相関する」の「Discussion」項における記述の一部を以下に引用します。なお、 a) 引用中の「KPT」(Kana Pick-out Test、仮名拾い試験、一重課題と二重課題とがある)については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「小児慢性疲労症候群患児の脳活動状態を明らかに -注意配分時に広範囲の前頭葉を過剰活性させてしまう-」の「要旨」項 b) 補足説明のために有用かもしれない「疲労すると変化すること」の例としての「自律神経機能」についてはここを参照して下さい。

During the KPT dual-task session, there was a decrease in parasympathetic sinus modulation compared with pre-KPT rest with eyes open (Figure 2b) and fatigue sensation was associated with the decrease in parasympathetic sinus modulation and increase in sympathetic sinus modulation in this session (Figure 3b). This relation between the alteration of autonomic activity and fatigue sensation during the dual task may be related to interactions among the neural substrates of the KPT, fatigue and autonomic nerve function. We and another study group have used functional magnetic resonance imaging to show that the dorsolateral prefrontal cortex and cingulate cortex are activated during the KPT [25,26]. We have also used positron emission tomography to evaluate regional cerebral blood flow, and showed that the orbitofrontal cortex is associated with fatigue sensation assessed by VAS [27]. As for autonomic nerve function, a central autonomic network that controls sympathetico-vagal balance is comprised of the orbitofrontal cortex, medial prefrontal cortex, anterior cingulate cortex, insula, amygdala, bed nucleus of the stria terminalis, hypothalamus, periaqueductal gray matter, pons and medulla oblongata [28,29]. The anterior cingulate cortex plays a particularly crucial role in the central control of sympathetico-vagal balance [30]. There are anatomical and functional connections between the dorsolateral prefrontal cortex and medial prefrontal cortex, including the anterior cingulate cortex and the orbitofrontal cortex [31-34]. This indicates that there are interactions between the activities of task-dependent regions, fatigue sensation-related regions and autonomic nerve function-associated regions. Sympathoexcitatory subcortical threat circuits are normally under the inhibitory control of the medial prefrontal cortex [35-37]. During the KPT, wider prefrontal areas including the dorsolateral prefrontal cortex and part of the medial prefrontal cortex were more active in the single-task session than in the dual-task session [26]. More extension activation of prefrontal regions, which reflect mental effort, is also related to fatigue during a verbal working memory task [38]. These results suggest that fatigue which induces greater prefrontal activity corresponds to mental effort to accurately answer the questions and results in decreases in parasympathetic nerve activity and inhibitory capacity for sympathoexcitatory response.

In the present study, we focused on the difference in autonomic nerve activity between eyes open and eyes closed conditions. Previously, sympathetic hyperactivity was observed in the eyes closed condition after a fatigue-inducing task had been performed for 30 min [10] and 8 h [11]. Although sympathetic and parasympathetic sinus modulation were similar in pre-KPT rest with eyes open and pre-KPT rest with eyes closed, sympathetic nerve activity was higher and parasympathetic nerve activity was lower in post-KPT rest with eyes open than in post-KPT rest with eyes closed. Because attention level is different between eyes open and eyes closed conditions, sympathetic nerve activity is thought to be higher in eyes open condition than in the eyes closed condition [15]. However, before performing the KPT, the extent of the difference in sympathetic sinus modulation between eyes open and closed conditions was not observed because the brain network, including the prefrontal and anterior cingulate cortices, which play an important role in the regulation of autonomic nerve activity [39], was not driven; thus, control capacity by these brain regions was sufficient to inhibit the increase in sympathetic sinus modulation and decrease in parasympathetic sinus modulation in the eyes open condition. Because these brain regions are activated during the KPT [25,26], the increase in sinus sympathetic modulation and decrease in parasympathetic sinus modulation in the eyes open condition could not be adequately inhibited after the KPT. Inhibition of parasympathetic sinus modulation and the correlation between this activity and fatigue sensation was especially prevalent in this condition, suggesting that a brief mental task can be used to evaluate the change in autonomic nerve activity with fatigue if the eyes open condition is used. However, fatigue sensation was also associated with a decrease in parasympathetic sinus modulation in the post-KPT rest with eyes closed. Therefore, the extent to which parasympathetic nerve activity is inhibited in the recovery phase of the resting state in the eyes-closed condition may depend on the extent of fatigue.


[拙訳]
KPT 二重課題セッション中、開眼での KPT 前の安静と比較して副交感神経洞性調節における減少があり(Figure 2b)、そして疲労感覚はこのセッションでの副交感神経洞性調節における減少と交感神経洞性調節における増加に関連した(Figure 3b)。二重課題中の自律神経活動の変化と疲労感覚との間のこの関係は、KPT の神経基質、疲労及び自律神経機能間の相互作用に関連しているかもしれない。我々と他のもう一つの研究グループは、機能的磁気共鳴画像法を使用して、KPT 中に背外側前頭前皮質及び帯状皮質が活性化されることを示した[25,26]。我々はまた、局所脳血流を評価するための PET(ポジトロン断層撮影)を使用し、そして眼窩前頭皮質が VAS によって評価される疲労感覚に関連していることを示した[27]。自律神経機能に関しては、交感神経-迷走神経バランスを制御する中枢自律神経ネットワークは、眼窩前頭皮質、内側前頭前皮質、前帯状皮質、島、扁桃体線条体基底核視床下部、中脳水道周囲灰白質、橋および延髄で構成される[28,29]。前帯状皮質は、交感神経-迷走神経のバランスの中枢制御において特に重要な役割を果たしている[30]。背外側前頭前野と内側帯状前頭前野の間には、前帯状皮質眼窩前頭皮質を含む解剖学的及び機能的な結合がある[31-34]。このことは、課題依存領域、疲労感覚関連領域、及び自律神経機能関連領域の活動間に相互作用があることを示している。交感神経興奮性の皮質下脅威回路は通常、内側前頭前皮質の抑制・制御下にある[35-37]。 KPT の間、背外側前頭皮質及び内側前頭前皮質の一部を含むより広い前頭前野は、二重課題セッションよりも一重課題セッションでより活動的であった[26]。精神的努力を反映する前頭前野のより多くの延長活性化は、言葉の作業記憶課題中の疲労にも関連している[38]。より大きな前頭前野活動を誘発する疲労は、質問に正確に答えようとする精神的努力に対応し、そして副交感神経活動及び交感神経興奮応答の抑制能力における低下をもたらすことを、これらの結果は示唆する。

本研究では、開眼状態と閉眼状態の自律神経活動における違いに、我々は焦点をあてた。以前には、30分[10]及び8時間[11]の疲労誘発課題の実行後の、閉眼状態における交感神経の活動亢進が観察された。交感神経及び副交感神経の洞性調節は、KPT 前の開眼での安静と KPT 前の閉眼での安静で類似していたが、KPT 後の閉眼での安静よりも KPT 後の開眼での安静の方が、交感神経の活動がより高くかつ副交感神経の活動がより低かった。開眼状態と閉眼状態とでは注意レベルが異なるため、交感神経の活動は閉眼状態よりも開眼状態の方が高いと考えられた[15]。しかしながら、自律神経活動の調整において重要な役割を果たす前頭前及び前帯状皮質を含む脳ネットワークが駆動されなかったために、KPT の実行前は、眼の開閉状態間の交感神経洞性調節における違いの程度は観察されなかった[39]。従って、これらの脳領域による制御能力は、開眼状態での交感神経洞性調節における増加と副交感神経洞性調節における減少を抑制するために十分であった。これらの脳領域は KPT [25,26]中に活性化されるため、開眼状態での交感神経洞性調節における増加及び副交感神経洞性調節における減少は、KPT 後には十分に抑制できなかったのだろう。副交感神経洞性調節の阻害、及びこの活動と疲労感覚との相関は、この状態で特に一般的であり、開眼状態が使用されるならば、疲労を伴う自律神経活動における変化を評価するために、短い精神的課題が使用できることを示唆する。しかしながら、疲労感は閉眼での KPT 後の安静での副交感神経洞性調節における減少とも関連していた。従って、閉眼状態の安静状態の回復段階における副交感神経活動が抑制される程度は、疲労の程度に依存するかもしれない。

注:i) 引用中の「Figure 2b」、「Figure 3b」の引用及び引用中の様々な脳領域についての脚注は共に省略します。前者は論文(全文)をお読み下さい。 ii) 引用中の文献番号「[10]」は次の論文です。 「Autonomic nervous alterations associated with daily level of fatigue.」 iii) 引用中の文献番号「[11]」は次の論文です。 「Mental fatigue caused by prolonged cognitive load associated with sympathetic hyperactivity.」 iv) 引用中の文献番号「[15]」は次の論文です。 「Influence of sound and light on heart rate variability.」 v) 引用中の文献番号「25」は次の論文です。 「The neural substrates associated with attentional resources and difficulty of concurrent processing of the two verbal tasks.」 vi) 引用中の文献番号「26」は次の論文です。 「Activation of dorsolateral prefrontal cortex in a dual neuropsychological screening test: an fMRI approach.」 vii) 引用中の文献番号「[27]」は次の論文です。 「Medial orbitofrontal cortex is associated with fatigue sensation.」 viii) 引用中の文献番号「28」は次の本です。 「Benarroch EE. In: Clinical Autonomic Disorder. 2. Low PA, editor. Philadelphia: Lippincott-Raven; 1997. The central autonomic network; pp. 17–23.」 ix) 引用中の文献番号「29」は次の本です。 「Loewy AD. In: Central Regulation of Autonomic Functions. Loewy AD, Spyer KM, editor. New York: Oxford Univ Press; 1990. Central autonomic pathways; pp. 88–103. 」 x) 引用中の文献番号「[30]」は次の論文です。 「Human cingulate cortex and autonomic control: converging neuroimaging and clinical evidence.」 xi) 引用中の文献番号「31」は次の論文です。 「Functional connectivity of the anterior cingulate cortex within the human frontal lobe: a brain-mapping meta-analysis.」 xii) 引用中の文献番号「32」は次の論文です。 「Cortico-cortical connectivity of the human mid-dorsolateral frontal cortex and its modulation by repetitive transcranial magnetic stimulation.」 xiii) 引用中の文献番号「33」は次の論文です。 「Dorsolateral prefrontal cortex: comparative cytoarchitectonic analysis in the human and the macaque brain and corticocortical connection patterns.」 ivx) 引用中の文献番号「34」は次の論文です。 「Cingulate cortex of the rhesus monkey: II. Cortical afferents.」 vx) 引用中の文献番号「35」は次の論文です。 「Medial prefrontal cortex determines how stressor controllability affects behavior and dorsal raphe nucleus.」 vxi) 引用中の文献番号「36」は次の論文です。 「Beyond heart rate variability: vagal regulation of allostatic systems.」 vxii) 引用中の文献番号「37」は次の論文です。 「On the importance of inhibition: central and peripheral manifestations of nonlinear inhibitory processes in neural systems.」 vxiii) 引用中の文献番号「[38]」は次の論文です。 「Objective evidence of cognitive complaints in Chronic Fatigue Syndrome: a BOLD fMRI study of verbal working memory.」 ixx) 引用中の文献番号「[39]」は次の論文です。 「Central and autonomic nervous system interaction is altered by short-term meditation.※1 xx) 拙訳中の「VAS」については例えば次の資料を参照して下さい。 「疲労感VAS(Visual Analogue Scale)検査の記入方法について」 xxi) 拙訳中の「機能的磁気共鳴画像法」については例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 xxii) 拙訳中の「ポジトロン断層撮影」(又は陽電子放射断層撮影)については例えば次の資料を参照して下さい。 「PET検査Q&A」 xxiii) ポリヴェーガル理論[Polyvagal theory、他の拙エントリのここの「最初に」を参照]の視点からの、拙訳中の「迷走神経」と「副交感神経」との関連は例えば次の資料を参照して下さい。 「多重迷走神経理論による神経性過食症理解の可能性について」の「Ⅰ.多重迷走神経理論 Polyvagal theoryについて」項[P350] 加えて拙訳中の「副交感神経活動及び交感神経興奮応答の抑制能力」に関連するかもしれない、ポリヴェーガル理論における「迷走神経ブレーキ」については例えば次の資料を参照して下さい。 「ポリヴェーガル理論からみた精神療法について」の「2.社会的関わりシステムと腹側迷走神経複合体」項 xxiv) 拙訳中の「交感神経興奮性の皮質下脅威回路は通常、内側前頭前皮質の抑制・制御下にある」に関連する、トラウマの視点からの「もし扁桃体が脳の煙探知機なら、前頭葉(それもとくに、目のすぐ上に位置する内側前頭前皮質)は、高い場所から現場の眺めを提供してくれる監視塔と考えればいい」ことについては他の拙エントリのここにおける引用の「ストレス反応を制御する――監視塔」項を参照して下さい。 xxv) 上記「脳科学」に関連する論文例はここを参照して下さい。

※1:上記論文よりも新しい、autonomic nervous system と Meditation に関連する論文例は次を参照して下さい。 「The Influence of Buddhist Meditation Traditions on the Autonomic System and Attention.」(全文はここを参照) ちなみに、 Meditation による扁桃体の活動における変化については例えば次の論文を参照して下さい。 「Meditation-induced neuroplastic changes in amygdala activity during negative affective processing.」(全文はここを参照)

上記「疲労すると変化すること」の例としての「自律神経機能」について、 a) 例えば次の資料があります。 「嗜好性を活かした疲労予防・回復研究」、「思春期の易疲労性と疲労回復性の定量評価法を活用した抗疲労研究」 b) 加えて、渡辺恭良、水野敬著の本、「おもしろサイエンス 疲労と回復の科学」(2018年発行)の 第2章 疲労のメカニズムとその計測 の「19 疲労すると変化すること」項における記述の一部(P59~P60)を次に引用します。

自律神経機能

皆さんは、疲労すると変化することについて、良く自分のこととしてわかっていると思います。疲労すると変化するものを計測すれば、疲労度の指標になります。以下に、それをまとめます。
もっとも成功しているものは、自律神経機能計測です。皆さんが疲労したり、体調が悪くなったりした時、全身調整機能である自律神経機能は確実に機能低下します。この体調調整機能の指標が自律神経機能と言い換えても過言ではありません。自律神経機能は、私たちの全身の神経免疫内分泌代謝機能を調節し、恒常性の維持を行っている中心の機能なのです。
自律神経系には、交感神経系と副交感神経系の二つの成分があり、それぞれ緊張系と癒やし・リラックス系の成分として、独立して動いているというより、お互いに関連しバランスを取って、心身の様々な活動に合わせて調整機能を発揮しています。疲労すると、特に双方のパワー値が低下し、また、副交感神経系の機能低下が強く、バランスが交感神経系優位の緊張パターンが続き、睡眠の質が悪くなり、ますます疲労を助長する負のスパイラルに入ります。
この交感神経系と副交感神経系とは、心電脈波や指先の加速度脈波を周波数解析することによりそれぞれの成分として検出できるので、低周波数成分(0・02-0・15Hz)は主に交感神経系成分、高周波数成分(0・15-0・40Hz)は主に副交感神経系成分として考えることができます。これらの年齢・性差に基づく標準パワー値やバランス比で疲労度を計測するデータベースが作られ、これに基づき、疲労度計が開発されました。(後略)

注:i) 引用中の「低周波数成分」及び「高周波数成分」については共に心拍変動(HRV)の視点から次の資料を参照して下さい。 「バイオフィードバックにおける心拍変動の可能性」の「2.1 HRV の主要な成分」項(P81) ii) 引用中の「神経免疫内分泌代謝機能」に関連するかもしれない資料は次を参照して下さい。 「疲労・倦怠感および慢性疲労症候群の病態

上記「慢性疲労症候群」における「脳科学」についての論文例としての論文「Static and dynamic functional connectivity in patients with chronic fatigue syndrome: use of arterial spin labelling fMRI.」(PubMed要旨全文)の論文要旨を次に引用します。

Studies using arterial spin labelling (ASL) have shown that individuals with chronic fatigue syndrome (CFS) have decreased regional cerebral blood flow, which may be associated with changes in functional neural networks. Indeed, recent studies indicate disruptions in functional connectivity (FC) at rest in chronically fatigued patients including perturbations in static FC (sFC), that is average FC at rest between several brain regions subserving neurocognitive, motor and affect-related networks. Whereas sFC often provides information of functional network reorganization in chronic illnesses, investigations of temporal changes in functional connectivity between multiple brain areas may shed light on the dynamic characteristics of brain network activation associated with such maladies. We used ASL fMRI in 19 patients with CFS and 15 healthy controls (HC) to examine both static and dynamic changes in FC among several a priori selected brain regions during a fatiguing cognitive task. HC showed greater increases than CFS in static FC (sFC) between insula and temporo-occipital structures and between precuneus and thalamus/striatum. Furthermore, inferior frontal gyrus connectivity to cerebellum, occipital and temporal structures declined in HC but increased in CFS. Patients also showed lower dynamic FC (dFC) between hippocampus and right superior parietal lobule. Both sFC and dFC correlated with task-related fatigue increases. These data provide the first evidence that perturbations in static and dynamic FC may underlie chronically fatigued patients' report of task-induced fatigue. Further research will determine whether such changes in sFC and dFC are also characteristic for other fatigued individuals, including patients with chronic pain, cancer and multiple sclerosis.


[拙訳]
慢性疲労症候群CFS)を伴う個々人では、機能的神経ネットワークにおける変化に関連するかもしれない局所脳血流が減少することを、arterial spin labelling(ASL)を用いた研究は示した。実際に、慢性疲労の患者における安静時の機能的結合性(FC)の混乱を、最近の研究は示した。上記混乱には静的 FC(sFC)、すなわち神経認知、運動及び感情関連ネットワークを補助するいくつかの脳領域間の安静時 FC、におけるパータベーション(perturbations)を含む。sFC は慢性病における機能的ネットワーク再編成の情報をしばしば提供するがゆえに、複数の脳領域間の機能的結合性における時間的変化の研究は、このような病気に関連する脳ネットワーク活性化の動的特性に光を当てるかもしれない。CFS を伴う19名の患者及び15名の健常対照者(HC)において ASL fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、疲労認知課題中の FC における先験的に選択したいくつかの脳領域間の静的及び動的な両変化を調査した。島と側頭-後頭部構造との間及び楔前部と視床/線条体との間の静的 FC(sFC)において、HC は CFS よりも大きな増加を示した。さらに、小脳、後頭及び側頭構造への下前頭回の結合性は、HC では低下したが、CFS では増加した。海馬と右上頭頂小葉との間でのより低い動的 FC(dFC)も患者群では示した。sFC と dFC の両方は課題関連疲労の増加と相関した。静的及び動的 FC におけるパータベーションが、慢性疲労患者の課題誘導疲労の報告の根底にあるかもしれないという最初の証拠を、これらのデータは提供する。sFC 及び dFC におけるこのような変化が、慢性疼痛、がん及び多発性硬化症を伴う患者を含む他の疲労した個々人にも特徴的であるかどうかを、さらなる研究が決定するだろう。

注:i) 引用中の「arterial spin labelling」(ASL)については例えば次の資料を参照して下さい。 「Arterial spin labeling による MR 血流イメージング」 ii) 引用中の「fMRI」(機能的磁気共鳴画像法)については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iii) 引用中の様々な脳領域の脚注は全て省略します。 iv) 拙訳中の「慢性疼痛」については例えば次の資料を参照して下さい。 「慢性疼痛治療ガイドライン」 v) 拙訳中の「多発性硬化症」については次のWEBページを参照して下さい。 「多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)

(5)ミニ情報【慢性疲労症候群CFS)の方面からも機能性身体症候群の病態生理の解明が進展することの期待についてのご紹介、その他】における記述の一部の分担
ミニ情報において書ききれない標記記事における記述の一部としての、渡辺恭良、水野敬著の本、「おもしろサイエンス 疲労と回復の科学」(2018年発行)における標記機能性身体症候群の病態を総合的に理解するための脳科学研究も進めていること以外にも、疲労研究から、健康科学全体を見据え、「Precision Health」という旗を掲げながら、一方で、現在の健康診断の先進的な改革「健康革命」や「健康関数」という総合的健康度合いを表す指標を確立することについて、「未病」、「恒常性(ホメオスターシス)を保つ機能である免疫-神経-内分泌系の調節機能の低下」や『「健康科学」には混乱があること』を含めて、[A] 同本の 第1章 疲労と慢性疲労、疾患 の「1 健康科学と疲労」における記述の一部(P8~P10)を以下に引用します。

健康とは(中略)

健康が損なわれ、様々な疾病に向かって行く時、私たちは、おぼろげな異常を感じて、いわゆる東洋医学中医学)で言うところの「未病」(まだ病気にはなっていないが、かなり病気に近い状態)となります。未病は明確な疾病ではないので、診断の付くような指標、すなわち、疾患バイオマーカー(ある疾患の有無や進行状態を示す目安となる指標。例えば血圧や血中タンパク質など)が有意に出ていない状態であると言えます。むしろ、「未病」は、特に目立った症状が無くても、「元気がない・活力が出ない」状態であると言われてきました。

健康科学

しかし、後ほど述べるように、「元気がない・活力が出ない」あるいは、「意欲が低下している」ことを裏返しにすると、「だるい・疲れを感じている」、ないしは、「もうこれ以上無理ができない」状態とも言えます。実際に、未病状態では、私たちの体の恒常性(ホメオスターシス)を保つ機能である、免疫-神経-内分泌系の調節機能が低下していると考えられています。
このことは、図1に示すように、健康を損なうような自覚症状がある際(未病の際)で、まだ疾病バイオマーカーが有意に検出されない時期に、健康に押し戻す、あるいは、健康である時期に健康増進を図り、未病になることをも予防することが「健康科学」の神髄であると言えます。すなわち、図1により、「健康科学」には、「未病から病気にならないようにする科学」と「健康から未病に陥らないようにする科学」、そして、「健康である状況を増進する科学」を含んだ三つの要素があることになります。
「健康科学」の意味は広く、「先んじた介入により病気にならないようにする『先制医療』」の概念より広いものを指すことになります。
「健康科学」は、一つのブームになっていますが、根拠が定かでないものや、体系立っていないがために、脈絡がわからないものなど、非常に混乱があります。また、多数の大学に健康科学研究科や健康科学専攻がありますが、教育するための良いスタンダードな教科書も十分ではない有様です。私たちは、個々人の「健康の度合い」をしっかり定義づけられ、「個別健康の最大化」を図るための科学・医学を進めるために、「Precision Health」という概念を提唱してきました。これは、一方でゲノム情報や遺伝子転写物、エビゲノム情報、タンパク質、代謝物、環境因子などのオミックス統合解析を進めている「Precision Medicine」に匹敵する重要なコンセプトです。超健康~健康~未病~疾患の間をシームレスに研究し、健康維持・増進に最適なソリューションを提供するための必須基盤を与える科学です。

注:i) 引用中の「図1」の引用は省略しますが、代わりに次の資料のシートを参照して下さい。 「健康科学イノベーション」の「健康科学とは? 健康と疾病の連続性」シート ii) 引用中の「健康」については、慢性疲労症候群にも言及している次のWEBページを参照して下さい。 「健康とは何か:力、資源としての健康 - 健康を決める力 ヘルスリテラシー」(注:上記「慢性疲労症候群」の言及はこのWEBページ中の「3)病気の身体的、精神的、社会的側面」項を参照して下さい) iii) 引用中の「Precision Medicine」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「Precision Medicineの到来 ―またまた黒船来航―」 なお、 a) 「toxicology」(毒物学)における上記「Precision Medicine」については、論文「Principles of precision medicine and its application in toxicology.」(PubMed要旨全文)を参照して下さい。 b) 加えて がんについての上記「Precision Medicine」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「プレシジョンメディシン」 iv) 引用中の『先制医療』については、例えばアルツハイマー病の視点から次のWEBページを参照して下さい。 『先制医療 「集団の予防」から「個の予防」へ』 v) 「マイクロバイオーム解析」を含む引用中の「オミックス統合解析」については例えば次の資料を参照して下さい。 「【ウェブ講座⑩】 統合オミックス解析のはなし」 vi) ストレスの視点からの引用中の「ホメオスターシス」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「ストレスについて」 vii) 引用中の「免疫-神経-内分泌系の調節機能」に関連する「神経、内分泌、免疫クロストーク」については次のWEBページを参照して下さい。 「Minds over Cytokines

[B] 加えて、同の「おわりに」における記述の一部(P132)を次にに引用します。

(前略)これまでの研究成果から、急性疲労から慢性疲労に至る分子・神経機構の作業仮説ができ、この仮説に沿って研究を進め、適宜修正を行いながら、疲労~慢性疲労、また、慢性疲労症候群などの病態の分子神経メカニズムの全貌を明らかにしたいと考えています。また、多くの抗疲労研究や抗疲労物質・手段の開発研究も引き続き推進していきます。
疲労研究から、健康科学全体を見据え、「Precision Health」という旗を掲げながら、一方で、現在の健康診断の先進的な改革「健康革命」や「健康関数」という総合的健康度合いを表す指標を確立し、それにより、ヘルスケア産業の大きな塊を形成していきたいと願っています。(後略)

注:引用中の「Precision Health」についてはここを参照して下さい。


=====

注:本エントリは本文を含めて臨時公開です。予告のない改訂(削除、修正、追加、公開日や修飾の変更等)又は全削除を行うことがあります。

*1:精神科医と面接との関係について、井原裕著の本、「激励禁忌神話の終焉」(2009年発行)の「第7章 精神科医は薬のソムリエにあらず」における記述の一部(P141~P142)を次に引用します(【 】内)。【「精神科的診察においては、面接を通して病歴の聴取も診察も治療も行われる」と説く土居にとって、臨床とはすなわち面接である。精神科医にとって、いい面接をすることがプロの仕事である。同じことは、笠原も次のように述べている。「生物学的精神医学を専攻するにしろ、心理・社会的アプローチのほうにより多くの関心を抱くにしろ、精神科医である以上、そのアイデンティティのかなり中核部分に『面接術』とでもいったものがあるだろう。面接をしない精神科医というのは丁度、手術をしない外科医のようなものだろうから」】(注:a) 引用中の文献番号の記述は省略しています。 b) 次に紹介するツイートは、この引用に通ずるものがあると本エントリ作者は考えます。 「ツイート」)

*2:精神科医には診断技術や薬の処方技術も求められます

*3:ちなみに、似た位置取りの精神科医の著作からの引用例は、他の拙エントリのここを、他の精神科医を紹介するWEBページ例はここを参照して下さい

*4:追加のキーワード:「常識がない」「気が利かない」「協調性がない」「チームワークがとれない」「感覚(思考)がずれている」「どこかおかしい」「理解できない」

*5:前者の項目には「予定の変更ができない」等が、後者の項目には「いったん好きなことをはじめると、明日の予定にかかわりなくやめられなくなる」(これに似た例:「話し出すと止まらない」(参照)、『「こだわり」を「ノルマ」にしてしまう』(参照)、「たとえやらないと自分にとって不利になることであっても、納得のいかないことはできない」等が含まれます

*6:注:コミュニケーション能力の障害のみならず、社会性の障害、想像力の欠如などがスムーズな人間関係を作りにくくしていることが交渉ごとが苦手に大きく影響しています

*7:前者のリンクは引用元の本の紹介で、後者のリンクは引用です

*8:これに関連して、成人の自閉スペクトラム症ASD)の方々にとって特徴的な早期不適応的スキーマであるかもしれない、「不充分な自己コントロール」、「情緒的はく奪」、「災害や疾病に対する脆弱性」を有する〔資料の「4. 研究成果」項を参照〕

*9:前者のリンクは引用元の本の紹介で、後者のリンクは引用です

*10:これには、「喉の渇きや空腹により死にたくなること」を含みます。

*11:前者のリンクは引用元の本の紹介で、後者のリンクは引用です。この引用には『私、疲れてると、すぐ「死にたい」ってなるんです』を含みます。

*12:より詳しくは、愛着スタイルが「自律型」又は「安定-自律型」ではない(ここ参照)。愛着の問題はトラウマ(ここ参照)と密接な関係があります(ここここ参照)

*13:ここも参照すると良いかもしれません

*14:ここの「③心から人を信じたり、人に安心感が持てない」項も参照して下さい

*15:前者のリンクは引用元の本の紹介で、後者のリンクは引用です

*16:例えば、P20~P21、P26~P27、P38~P41

*17:例えば、P28~P29、P46~P49

*18:このWEBページ中の「トラウマ」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ちなみに、「非定型うつ」に似た?「新型うつ」は、ASDの二次障害とも考えられるとの意見があります〔ここを参照〕

*19:ここでの「思想」は観念や認識を含む概念です

*20:顕著な人格の低下は無治療の統合失調症に見られるようです

*21:神経症水準、境界例水準、精神病水準の順に状態が悪くなります。ここを参照して下さい。