krns-linkのブログ

まだ仮公開で、今後も本公開までドタバタします。コメント欄は有りません。ちなみに、拙ブログ作者は医療関係者ではありません。拙ブログは訪問者の方々がお読みになるためのものですが、鵜呑みにしない等、自己責任でお読み下さい(念のため記述)。

ADHDについて、その他

(1) 岩波明医師、田中康雄医師に関連した本エントリ内リンク
岩波明医師(ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ[とここ]、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ 及び ここ
加えて、 a] 他の拙エントリ「MCS(多種化学物質過敏状態)リンク集」におけるリンクはここを参照して下さい。
b] 他の拙エントリ「自閉スペクトラム症における身体症状、その他」におけるリンクはここここここここここここここここここここを参照して下さい。
c] 他の拙エントリ「シックハウス症候群(又はMCS) 心身医学の見地からに関する文書について - 【その他余談】」におけるリンクはここを参照して下さい。
d] 他の拙エントリ「一部拙エントリの補足説明について(その2)」におけるリンクはここここここここここを参照して下さい。
e] 他の拙エントリ「一部拙エントリの補足説明について(その3)」におけるリンクはここここを参照して下さい。
f] 他の拙エントリ「一部拙エントリの補足説明について(その5)」におけるリンクはここここここここここここここを参照して下さい。
田中康雄医師(ここ、 ここ、 ここ、 ここここ 及び ここ
加えて、 a] 他の拙エントリ「自閉スペクトラム症における身体症状、その他」におけるリンクはここここここここここを参照して下さい。
b] 他の拙エントリ「シックハウス症候群(又はMCS) 心身医学の見地からに関する文書について - 【その他余談】」におけるリンクはここここを参照して下さい。
宮尾益知医師(ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ 及び ここ
注:上記とは別の他の拙エントリ「自閉スペクトラム症における身体症状、その他」におけるリンク集はここを参照して下さい。

(2) 用語、文章の本エントリ内リンク[注:自閉スペクトラム症(ASD)とADHDの両者に関連するものはここを、(ADHDと)ASDとの併存の相乗効果についてはここを それぞれ参照)
ADHDについてのリンク集、 成人ADHDの有病割合、 多動・衝動性及び不注意、 注意の配分が苦手(ここここ *3 及び ここ *4
「Sluggish cognitive tempo(SCT)」(ここここ)、 センセーション・シーキング(ここここ)、 「ADHD の病態モデル」、 インターネット依存、ギャンブル依存
空間的にも時間的にも近いところにフォーカスしやすい(目の前にあるものだけに注意が向く、そして、時間認識においては少し前のことでも抜けやすく、また先の展望をもつことが苦手である)(ここここ
日常生活や学校において問題となりやすい点、 ADHDに必要なスキル、 認知の歪みと補償方略、 認知行動療法
ハロウェルらによるADHD診断基準、 デフォルト・モード・ネットワーク、 トリプル・ネットワーク、 情動調節
傷つきやすい(ここここ)、 併存障害、 薬物治療、 自己理解、 タイプ別の支援法
実行機能の障害、報酬系の障害、時間感覚(タイミング)の障害、時間知覚、注意機能の障害、デフォルトモードネットワークの障害、ADHDそのものが多様な病態をもつ、 過集中
実行機能、 「詰めが甘い」(ここここ)、 「頼まれると断れない」(ここここ)、 「プロセスの始まりと終わりでつまづく」(ここここ
ワーキングメモリ=記憶のバッファが小さい(ここここ)、 ADHD の病態、 刹那主義と自暴自棄、 ADHDの病理の本質
時間の見積もりの甘さによる段取りの悪さや会話のタイミングの悪さ,時間を忘れる
 「内省の困難」、 「躁的防衛に親和性をもつ」、 微分回路優位、 「クリエイティビティとADHD症状はトレードオフの関係」
ED[感情調整不全又は情動調節障害]([前者]ここ、[後者]ここ)、 感覚過敏を中心とする感覚の異常、 狩猟民族、ムードメーカー、猪突猛進型、 ワーカホリック

注:次は他の拙エントリ記事に対するリンクです。
ADHDに気づかず何十年も苦しむ、 インターネット依存症 *5
ADHDの長所(ここここ 及び ここ)、 (ADHDにおける)>「数時間単位の気分変動」

(3) 用語、文章の本エントリ内リンク(女性のADHD関連、女性に特化したADHDとASDの区別を含む)
女性のADHDについてのリンク集、 ミスばかりで自分が嫌になっている、 気配りができず、同性に嫌われる(ここ 及び ここ)、 時間がないのに用事をつめこんでしまう(ここ 及び ここ
子どもを叱りすぎて虐待を疑われる、 治療後に、部屋が片付きすぎて混乱する、 内気で恥ずかしがり屋、 思考の多動
診断基準は男子の特徴を反映、 診断基準が当てはまらない特徴、 「いい加減」な生き方を探していく、 そつなくふるまうことはあきらめる
多動の特性が「おしゃべり」にあらわれる、 押しの強い男性との間には少し距離をとる、 安易に重大な決断をしてしまう、 恋愛にのめり込みやすい
フォローしてくれる友達・同僚をみつける、 求められる“女性像”に苦しむ、 女性ホルモンの影響がある、 体調変化への対応
「ガールズトーク」についていけない、 自尊感情が低い、 “過剰適応”でカバーされてしまう *6、 ADHDとASDの区別 *7
注:ADHDの女性の事例についてはここをを参照して下さい。

(4) 用語、文章の本エントリ内リンク(自閉スペクトラム症[ASD]とADHDの両者に関連)
ADHDとASDの併病割合、 ADHDとASDの区別、 自閉スペクトラム症及び/又はADHDを伴う日本の青年のインターネット中毒の有病割合

(5) 用語、文章の本エントリ内リンク[(ADHDと)ASDとの併存の相乗効果について]
(ADHDと)ASDとの併存の相乗効果、 動機の不足、 より極端な形で症候が表れる可能性

注:他の拙エントリおける発達障害に関するリンクは他の拙エントリのここを参照して下さい。

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前書き


≪診断名及び診断基準に関する用語について、その他≫
ADHDに対する漢字表記名は、注意欠如・多動症、注意欠如・多動性障害又は注意欠陥・多動性障害(後2者は旧名)等です。一方、自閉スペクトラム症(又はASD、PDD、アスペルガー症候群等)については他の拙エントリのここを参照して下さい。

また、本エントリにおける「regulation」の訳語としての「調節」に関連しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。

≪主な改訂の履歴≫
2020年4月9日、7月14日、18日、24日、9月28日、10月8日、12月1日、2021年3月27日、2022年11月8日、12日、2023年4月6日、5月8日、5月31日、6月4日、8月2日、10月2日、10日、13日、11月28日:文章の追記、変更及び削除等の改訂を行いました。

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ADHDの基本について

標記基本について次に紹介します。先ず、ADHDについての資料、WEBページ、(拙ブログ外の)エントリ、note 等は次のリンク集を参照して下さい。 「注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典」(注:ここの「診断・鑑別診断」項にADHDの診断基準[DSM-5]が示されています)、『今村明先生に「ADHD」を訊く』、「注意欠如・多動症(ADHD)特性の理解」、「大人の ADHD ストーリー」、「ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療」、「ADHDの支援・治療」、「注意欠如・多動症の症状の紹介」、「ADHDにおける診断の実際」、「成人期ADHDの診断と治療」、「ADHD(注意欠如・多動症)について」、「ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 - e-ヘルスネット」、『大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!』、『「発達障害と脳」の最新研究! 計画的に行動できない、目の前のことを優先しがち……「ADHD」の背後にある「脳のしくみ」とは?』、「周囲の人に理解してもらうには - アピタル」、「締め切りは早め、遅め、どっちに設定する? - apital」、「ごみ屋敷とADHD - アピタル」、「貧困はADHDを生み出す? - アピタル」、「ADHDの原因は分かっているのか? - アピタル」、『ADHDの人は増えている? 「診断」をひもとく - アピタル』、「仕事にすぐ飽きてしまう ADHDサラリーマンの悩み - アピタル」、「苦手な見直し作業、スモールステップで乗り切ろう - アピタル」、「記憶できる電話番号は何桁? 脳の負担減で集中力アップ - アピタル」、『同時にいくつも仕事 「ガントチャート」で長期的に計画 - アピタル』、「記憶できる電話番号は何桁? 脳の負担減で集中力アップ - アピタル」、『自称ADHDに陰口を言う人 「あなたは完璧ですか?」 - アピタル』、「うんざりする書類の山、ADHDの人が新年度の提出物を乗り切るコツ - アピタル」、『「片付けられない」人の対処法 計画とアラームと必然性で乗り切って - アピタル』、『「なぜか遅刻してしまう」人の対処法 脱線する自分を止める合言葉を - アピタル』、「やる気出ない・日中ぼんやり・ミスばかり ADHD脳とのつきあい方 - アピタル」、『夏休みの計画立てが苦手? 日程や予算、肝心な点を「まず決定」 - アピタル*8、「【3212】両親からADHDの傾向があると言われています - Dr 林のこころと脳の相談室」(このサイトのホームページ)、「未服薬の成人期の注意欠如・多動性障害患者に対する認知行動療法」、「ADHDと行動経済学は相性がいい - すずろーぐ」、「ADHDと現在バイアス - すずろーぐ」、「内海健『ADDの精神病理』から考える。その① - すずろーぐ」、「内海健『ADDの精神病理』から考える。その② - すずろーぐ」、「STEP 1-1:注意について知る|覚醒ネットワーク - 大人のADHDのためのマインドフルネス」、「Step 1-2:注意について知る|実行ネットワーク - 大人のADHDのためのマインドフルネス

ご参考:中島美鈴 記事一覧 - apital(ちなみに、これらのWEBページは期間限定公開のようです)。

加えて、 i) ADHDのある人にとっても「生活リズムを整えるのも大事」なことについては他の拙エントリのここを参照して下さい。 2) 愛着障害ADHDを含む発達障害との鑑別の困難性については他の拙エントリのここを参照して下さい。 3) 加えて、自閉スペクトラム症(ASD)のみならず、ADHDも「スペクトラム」であることについては次のWEBページを参照して下さい。 『発達障害「専門医の多くが誤診してしまう」理由 そもそも白黒つけられる簡単な症状ではない(ページ2)』の『「グレーゾーン」の患者も多くいる』項 4) 一方、『ASDのみならずADHDの方々にも症状として「感覚過敏を中心とする感覚の異常が挙げられる」こと』については他の拙エントリのここを参照して下さい。

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ADHDの本における様々な引用
次に、基本としての主にADHDの本における様々な引用を以下に紹介します。

(a)主に、岩波明著の本、「大人のADHD -もっとも身近な発達障害」(2015年発行)からの複数の引用を以下に紹介します。
① 同の 第2章 症状 の「成人の約3~4%がADHD」における記述の一部(P42)を次に引用します。

(前略)成人においでは、総人口の2~5%がADHDと診断されるとしているものが多い。ケスラーらによる米国の大規模調査においでは、成人の4.4%がADHDであると推定している。彼らの研究ではADHDは男性で多く、離婚率、失業率が高く、他の精神疾患の合併が高率であった。
一方でDSM-5においでは、成人のADHDは総人口の2.5%と比較的低い値が記されている。以上をまとめると、確定的な結論は得られていないものの、ADHDは成人の約3~4%に認められると考えるのが妥当であろう。 (後略)

注:(i) 引用中の「ケスラーらによる米国の大規模調査」に関連する論文要旨を次に紹介します。 「The prevalence and correlates of adult ADHD in the United States: results from the National Comorbidity Survey Replication.」 (ii) ちなみに、 a) 成人ADHDの有病割合が「2.5%」と記されている論文を次に示します。 「Prevalence and correlates of adult attention-deficit hyperactivity disorder: meta-analysis.」 b) 拙訳はありませんが、成人ADHDの有病割合は世界保健機関によって3.4%と記されている論文を次に示します。要旨:「Cross-national prevalence and correlates of adult attention-deficit hyperactivity disorder.」(全文はここを参照) c) 拙訳はありませんが、2010年4月から2020年3月までの日本での小児、青年、成人の ADHD の診断における傾向についての論文(全文)は次を参照して下さい。 「Trends in Diagnosed Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Among Children, Adolescents, and Adults in Japan From April 2010 to March 2020.

② 同の 第2章 症状 の「成人における症状」における記述の一部(P53~P58)を次に引用します。

(1)多動と衝動性
成人になると、目に見える形での多動症状はおさまってくることが多いが、手足を落ち着かなく動かす傾向や、じっと座っていることが必要な状況で、内的な緊張感、落ち着きのなさが高まることなどがしばしば認められる。
ADHDの成人の一部は、このような内面の「多動・衝動性」を経験していることが多い。彼らはストレスの強い状況では、内的な焦燥感、切迫感によってパニック状態となり、唐突な行動をとり始めることもみられる。
一方で、自らの多動傾向をうまくコントロールしている人も多い。職場でいつも歩き回ったり、一方的に話をしたりするのは、多動傾向のなごりかもしれない。また、会議や学会などで、必ず発言を求めたり、たて続けに質問をしたりするのは、多動の現れであることも多い(図表2-1に成人における多動症状について示した)。
また衝動性に関しては、「いらいらして怒りっぽい」「衝動的な行動や判断が多い」などという点に現れることがある。さらに、「危険な運転を好む」「アルコールやギャンブルに依存しやすい」などの問題行動につながりやすい(図表2-2に、成人における衝動性について示した)。

(2)不注意
通常、ADHDの注意障害は成人になっても継続する。成人期の注意障害に関する具体的な例としては、かばんやパソコンをひんぱんに置き忘れる、鍵や携帯電話をなくしてしまう、外出中に混乱して目的地の場所がわからなくなる、服の着こなし方が不自然だったり、靴下が左右揃っていなかったりすることなどがあげられる。片付けが苦手なケースも多く、しばしば、自室や会社のデスク回りにものが積み上げられている。段取りをたてることが苦手なだめ、主婦においでは、炊事や育児を苦手とする人が多い。
ADHDの成人においでは、不注意の症状によって、忘れっぽさ、集中力不足、あるいは自らのスケジュール管理が困難であることなどがみられる。仕事上の約束を守れないことも多い。
その結果として、対人的な交渉、接触が苦手となり、そのような状況を自ら避けるようになりやすい。このため、能力はあるにもかかわらず、「信頼できない」「あてにできない」と否定的に評価されやすいことに加えて、このようなストレス状況からうつ状態などに至ることも起きやすくなる。図表2-3に、成人における不注意症状ついて示した。多くのADHD患者は、本来は人なつっこく対人関係に大きな問題はみられないが、思春期以降、対人場面において相手の話を十分に理解していないことや、仕事上の約束を守れないことが繰り返されて、安定した対人関係を維持することが困難となりやすい。このため、本来はADHDでありながらも、対人関係の問題が大きな問題となり、自らアスベルガー症候群ではないかと受診する人が少なくない。
一方、成人期においでは、自分の特性を理解し十分なスキルを獲得しているADHDの人は、不得手な状況に対して、自分なりの対応策を講じていることもみられる。彼らはさまざまな方略を工夫して身につけているため、自分の症状をコントロールし、対処することが可能となっている。
ADHDの人の職場における問題点として、すぐに取り組むべき仕事があるにもかかわらず、周辺にある興味をひくことに関心が向いてしまい、肝心の業務がなかなか進まないことがあげられる。このため、上司からは自分の指示をきちんと聞いていないと厳しく評価されることがしばしばある。
成人期では、注意障害が生活の中でさまざまな形となって出現するが、同時に感情面でも不安定となり、気分の浮き沈み、怒りを爆発させる、イライラ感などを示す例も少なくない。この結果、ADHDにおいでは、不安障害、気分障害などの他の精神疾患が併存することが多くなる。このようなケースにおいでは、本来のADHDが見逃されやすく、正しい診断がなされないため、適切な治療を受けていないことがしばしばみられる。

(3)その他の問題
これまで述べたように、ADHDの症状は、成人になると小児期のものと変化がみられる。成人期になると症状は直接的な形で出現することは少なくなるからである。この理由としては、本人なりに社会生活に適応しようとした結果であることが多い。
けれども一方で、成人期のADHDにおいでは、さまざまな行動上の問題が出現しやすい。リスキーな自己破壊的な行動に行きつくこともみられ、その結果として司法的な問題に至る例もみられる。このような問題行動は、境界例境界性パーソナリティ障害)のパターンと類似している。(後略)

注:(i) 引用中の「図表2-1」、「図表2-2」及び「図表2-3」は引用していません。同を参照して下さい。 (ii) 引用中の「不安障害、気分障害」及び「境界例境界性パーソナリティ障害)」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ただし、境界例境界性パーソナリティ障害)は用語「境界性パーソナリティ障害」に相当し、気分障害は用語「うつ病」又は用語「双極性障害」に相当します[気分障害うつ病等と双極性障害等の総称ですが、現在(DSM-5)では両者は分離されています]。 (iii) 引用中の「自らアスベルガー症候群ではないかと受診する人が少なくない」に関連するかもしれない、ADHDアスペルガー症候群(又は自閉スペクトラム症、ASD)との見分け方についてはここ及びここ(注:後者は特に女性の場合です)を参照して下さい。 (iv) 引用中の「多動と衝動性」や「不注意」とは異なる「ADHD の臨床症状全般に着目した新しい分類の提唱」について『「不注意優勢型」「多動・衝動性優勢型」「混合型」の 3 型への分類に対し、成人において大部分が「不注意優勢型」であるため,有用性は高いものとはいえない』ことを含めてここを参照して下さい。 (v) この引用に関連して、同の 第3章 社会生活 の「生活上の問題」より、「図表3-1 成人期のADHDの特徴的な所見」をはじめとした記述の一部(P71)を以下に引用します。 (vi) 引用中の「不注意」に関連する、 a) 「注意の配分が苦手」について、同の はじめに の「注意の配分が苦手」における記述(P11~P12)を以下に、 b) 「Sluggish cognitive tempo(SCT)は,ADHD の不注意症状と関連する」ことについて、岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第5章 発達障害に関連する様々な病態 の「G Sluggish cognitive tempo」における記述の一部(P115)を以下に それぞれ引用します。加えて上記「不注意」についてはここも参照すると良いかもしれません。 (vii) 引用中の「衝動性」に関係する、 1)「衝動的な行動でトラブルを招く」ことについて、田中康雄、笹森理絵著の本、『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(2014年発行)の 第3章 人の話がわからない、他人の思いが理解できない…… の 12. 衝動的な行動でトラブルを招く の「自分では止められない」及び「善意が招く失敗」の記述の一部(P141~P146)を以下に、 2) 引用中の「リスキーな自己破壊的な行動に行きつくこと」にも関連するかもしれない「衝動性との関連から ADHD との関連性も指摘されている」ことについて、同「第5章 発達障害に関連する様々な病態」の C インターネット依存,ギャンブル依存 の「センセーション・シーキング」における記述(P107~P108)を以下に、そして「遅延報酬の回避が著しくなると,生活は極めて刹那的となる。今この瞬間の刺激と快楽を求める傾向が強くなり,将来の報酬のために投資する活動,つまりは持続的な努力や貯金といった現在よりも将来の価値を優先する活動を行うことが難しくなる。これは浪費的な消費活動,肥満,危険なスポーツや自動車やバイク,自転車の運転,妊娠や性感染症,犯罪被害のリスクの高い性的活動,違法な薬物の使用や触法,犯罪行為などに繋がってしまう。」ことについてはここを参照して下さい。 3) 『衝動性となるために「考察よりも行動を優先する必要がある」』ことについて「ADHD の認知構造上の課題としては,ワーキングメモリ=記憶のバッファが小さいことがあげられる」ことや「空間的・時間的近眼性」を含めて、岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第2章 診断と検査 の F 診断における留意点 の 発達障害のメカニズム の「2)ADHD の成り立ち」における記述の一部(P62~P63)を以下に それぞれ引用します。 (viii) 引用中の「多動と衝動性」や「不注意」以外にも『「傷つきやすい」という点もADHDの人の大きな特性なのではないか』と考えることについて、岩瀬敏郎著の本、「発達障害の人が見ている世界」(2022年発行)の 序章 発達障害って、なんだろう? の「注意散漫でミスを連発してしまうADHDの人」における記述の一部(P16~P17)を以下に引用します。  (ix) 引用中の「成人期になると症状は直接的な形で出現することは少なくなるからである。この理由としては、本人なりに社会生活に適応しようとした結果であることが多い。」ことに関連するかもしれない、 a) 「Females with ADHD may develop better coping strategies than males with ADHD and, as a result, can better mask or mitigate the impact of their ADHD symptoms.[拙訳]ADHDを伴う女性は、ADHDを伴う男性よりも優れた対処戦略を立てるかもしれなく、その結果として、ADHD症状の影響をより良く覆い隠したり又は軽減したりすることができる。」ことについては拙訳はありませんが次の論文(全文)を参照して下さい。 「A Review of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Women and Girls: Uncovering This Hidden Diagnosis」の「Clinical Points」項 b) 「特に ADHD ではこれまでの経験から症状をマスクする術を身につけている者も多い」ことについて、「成人期の発達障害の診療」、「見逃される発達障害」、「すべての精神科来院患者において検討されるべき事項」や「現在存在する精神疾患の問題について,複雑な構造を読み解いていく必要がある」ことを含めて、岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第2章 診断と検査 の E 併存障害 の「成人期の発達障害の診療」と「見逃される発達障害」における記述(P54~P55)を以下に引用します。

(前略)成人のADHDにおいて、日常生活や学校において問題となりやすい点について、図表3-1に示した。(後略、図表3-1は次を参照)

図表3-1 成人期のADHDの特徴的な所見
(1) 職場や学校
・落ち着かずにそわそわする
・貧乏ゆすり、指を机で叩くことなどがやめられない
・不用意な発言が目立ち、思ったことをすぐに言動に移す
・集中できない、ケアレスミスが多い
・ものをなくす、忘れる
・締め切りを守れない、段取りが下手で完結できない

(2) 家庭生活
・別のことに気をとられ家事がおろそかに、家事の効率が悪い
・衝動買い、金銭感覚が苦手
・部屋が片付けられない
・朝起きられない、外出の準備が間に合わない

(3) 対人関係
・おしゃべりがとまらない、自分のことばかり話す
・衝動的な発言、つい叱責してしまう
・約束を守れない、約束を忘れる
・集中して話を聞けない
・映画館やレストランで落ち着かない

注: [A] 引用中の「対人関係」において『「良かれ」と思ってやったことが、良くなかったこともある』ことについて、岩波明著の本、「最新医学からの検証 うつと発達障害 ――どう見分けるのかが正しいか――」(2019年発行)の 2章 日本に400万人以上いる「ADHD」の誤解と真実 の「具体的には、どういった症状がある?」における記述の一部(P85)を次に引用(【 】内)します。 【○「良かれ」と思ってやったことが、良くなかったことがある……これは、「思い込みの激しさ」を示すものです。熟慮せず、情報も集めないまま「思いつき」の段階で「これがいい!」と思い込んで動くため、大きな間違いも犯しやすくなります。人の話をよく聞かないで判断する、「早わかり」の傾向が強いのです。】(注:(i) 引用中の『熟慮せず、情報も集めないまま「思いつき」の段階で「これがいい!」と思い込んで動く』に、 a) 類似する「思いつきで行動する」ことについて、岩波明著の本、「医者も親も気づかない女子の発達障害 ――家庭・職場でどう対応すれば良いか――」(2020年発行)の 3章 ADHDASD……女子はなぜ見逃されやすいのか? の ①ADHDの「多動・衝動性」、「不注意」とは の「◆思いつきで行動する」における記述の一部(P134)を三分割して次に引用(それぞれ≪ ≫内)します。 ≪ADHDの人は思いつきで、計画なしに行動に移します。情報を集めもせず、先のことを考えもせずに、その場のインプレッションで決めてしまうのです。≫、≪また、同じく思いつきで、一度決めたことをコロコロ変えたりもします。「慎重さ」からは、程遠い存在なのです。≫、≪一瞬の印象で、Aがいいと思えばAに、Bがいいと思えばBに衝動的に飛びつきます。≫ b) 関連する「人の話を聞かない」ことを含む「早合点する」ことについて、同『①ADHDの「多動・衝動性」、「不注意」とは』の「◆人の話を聞かない」における連続する記述の一部(P125~P126)を二分割して次に引用(それぞれ【 】内)します。 【ADHDにおいて、日常生活で特に問題になりやすいのは、人の話を聞かないことです。自分の言いたいことだけを一方的に話し続けて、ぜんぶ言い終わるまで止まりません。思いついたことを最後まで話さずにいられないのです。相手の話にかぶせて話してしまうこともたびたびです。】、【また、珍しく話を聞いていたかと思うと、今度は早合点します。ひとこと二言聞いただけで相手の話を理解したつもりになり、突っ走ってしまうのです。】 (ii) 引用中の「大きな間違いも犯しやすくなります」の例になるかもしれない「羽田空港に向かわなくてはいけないのに、成田空港に着いてしまった」というエピソードについて、同『①ADHDの「多動・衝動性」、「不注意」とは』の「◆普通ではありえない間違いをする」における記述の一部(P139~P140)を次に引用(《 》内)します。 《以前、羽田空港に向かわなくてはいけないのに、成田空港に着いてしまった」というエピソードを、ADHDの患者さんから聞きました。東京六大学出身で、正常以上の知能を持っている人でしたが、これほどの間違いをしでかすのです。》) [B] 引用中の「成人期のADHDの特徴的な所見」に関連する「成人における特徴をふまえて、成人のADHDに対する診断基準も作成されている」ことについてはここを参照して下さい。 [C] 引用中の「締め切りを守れない、段取りが下手で完結できない」ことに関連する「時間の見積もりの甘さ」について、内海健兼本浩祐編著の本、「発達障害の精神病理Ⅳ -ADHD編-」(2023年発行)の 第Ⅰ部 エキスパート編 の 第2章 認知心理学的側面から見たADHD の「Ⅳ.時間処理」における記述の一部(P25)を次に引用します。

外界から入力される刺激と自己の内部構造とのタイムリーな調整が行動の基礎を形成することから,時間認識と時間管理は,複雑な認知や日常生活において効果的に脳機能を用いる上で極めて重要である。ADHDでは,時間の見積もりの甘さによる段取りの悪さや会話のタイミングの悪さ,時間を忘れる,といったように,「時間的な経験やリズム」が非ADHDと異なる15)ことが,しばしば生活上の問題として現れる。(後略)

注:i) この引用部の著者は義村さや香です。 ii) 引用中の文献番号「15)」は次の論文です。 「ADHD and Temporality: A Desynchronized Way of Being in the World

注意の配分が苦手
ADHDでは、病名とは矛盾するが、「注意力」が「欠如」しているわけではない。一時的には「過剰」に注意集中することもみられる。しかし、通常ADHDの人たちは、集中力を持続することが苦手で、ケアレスミスやものを置き忘れることも多い。
彼らの現実の生活の中で、もっとも問題となる点は、注意の配分が不得手であることである。たとえば、会話をしている状況を考えてみよう。
この場合、目の前の相手に対して大部分の注意を向けているのであるが、一方で、多くの人は、自然に周囲の他の人物や事物にも、一定の注意を払っている。したがって、ふいに予想外の出来事が起きでも、ある程度の対応は可能となる。
これに対してADHDの人の場合は、目の前の相手に「集中」してしまうため、あるいは頭の中で別のことを思い浮かべやすいため、予想外のアクシデントが生じると、混乱しやすい傾向を持つ。それまで話していたことが頭の中から飛んでしまい、動揺してパニック状悪になることも起きやすい。ADHDの人にとっては、さまざまな意見が飛び交うディスカッションの場面などは、不得手な状況なのである。
一方で、周囲の状況によっては、彼らはかなりの能力を発揮することもできる。実際、私自身ワンマンプレーに徹することができる職場環境において、目覚しい成果をあげているADHDの人を何人か知っている。この場合、過剰に集中する傾向がプラスの面として現れるのである。

注:引用中の「注意の配分が苦手」に関連する「注意機能」についてはここを参照して下さい。

SCT とは
Sluggish cognitive tempo(SCT)は,ADHD に併存することが多い症状である.SCT においては,「白昼夢,ぼうっとしている,意識の混乱,不活発性,緩慢な動作,無気力,無関心,眠気,考えに耽る,思考が霧がかり遅い,倦怠感」などの症状がみられる.実際,ADHD の当事者では,「授業中にぼーっとして白昼夢をみていた」「仕事中にぼんやりしていて注意された」という訴えを聞くことが多い.また夜間に十分に睡眠をとっても,日中の眠気がみられることもまれではない.これらは単なる寝不足やだらしなさ 自己管理のなさとみなされることが多いが,ADHD に特有の所見であることを知る必要がある.

SCT と発達障害との併存
SCT は,ADHD の不注意症状と関連し ADHD の約半数に併存していることから,ADHD 症状の一部と考えられていた時期もあったが,ADHD 以外の人にも SCT が存在することが示され,現在では ADHD と SCT は別個の病態であると考えられている.
ADHD に SCT が併存した場合,ADHD のみをもっている当事者に比べてより重篤な機能障害を生じ,日常生活における様々な場面で困難さを示しやすい.特に,不注意症状が重篤になる可能性があるので注意が必要である.改めて SCT の症状について認識を深め,学校や職場における対応を変えていく必要があると考えらえる.(後略)

注:i) この引用部の著者は岩波明中村亮介です。 ii) 引用中の「Sluggish cognitive tempo」については次の資料を参照してすると良いかもしれません。 「ADHD 併存症状である Sluggish Cognitive Tempo の成人版尺度の開発 ――抑うつとの弁別を目的として

自分では止められない
発達系の課題がある人、とくにADHDタイプは、周囲の人から見て衝動的と思われる行動をとることがあります。
あるADHDタイプの人と歩いていたら、遠くのほうでこれから乗るエレベーターのドアが開くのか見えました。そこまでずいぶん距離があるので、周りの人たちはそれは見送ろうと考えて、歩くペースは変えませんでした。ところが、そのADHDタイプの人は突然、駆け出し、エレベーターから降りてきた人たちを蹴散らすように乗り込んだのです。幸い、その猛ダッシュに巻き込まれて怪我をするような人はいませんでしたが、その突然の動きに、僕はびっくりしました。
あとで理由を尋ねると、「エレベーターが開いた瞬間に、『閉じる前に乗らなくちゃ』と思ったら、もう走りだしていた」と彼は話していました。「エレベーターのドアが開いたら乗る」ということで頭がいっぱいになり、それ以外のことは考えられなかったようです。エレベーターにたどり着くまで、同行の人たちや降りてきた人たちのことは、意識の外に抜け落ちてしまったのです。
彼自身もあとで「またやっちゃった」と反省していました。これまでもたびたび同じ失敗を繰り返し、周りの人から注意されたり、時には厳しく叱られることもありました。「今後は気をつけてね」と注意しても、それは彼の特性なので、簡単に改まるものではありません。(中略)

そこまで極端な行動でなくても、発達系の課題を持つ人は、周りから「後先を考えないで思いつきで行動した」と見られることがよくあります。その行動がよい結果をもたらすこともたまにはありますが、多くの場合は本人にとっても、また周りの人にとっても不本意な結果を招いてしまいがちです。悪い結果が出てから、周囲の人に「こんなことは予想できたのに」と言われることも少なくありません。
どうして後先を考えずに行動してしまうのでしょう。理由のひとつに、半歩先の見通しが立てられないことがあります。周りの人から見たら、まだ準備や段取りが不充分で行動に移す段階ではなくても、せっかちに動きだしてしまうのです。ある行動を思いついた瞬間、飛びつくように動いてしまうといった印象です。

善意が招く失敗
ADHDタイプの多くは、「よかれ」と思って行動して、落胆する結果に終わるといった体験があるようです。一般的には、何か行動を起こすときは、それによってもたらされる損得や効果を考えて、「ここはよく考えてから動いたほうが賢明だ」と発想するものですが、ADHDタイプの人はそれが困難です。沈着冷静な態度で「あわてずに待つ」「じっくり考える」ということが苦手なので、傍からは思いつきで行動しているよ
うに見えます。(後略)
僕が知るかぎり、その行動は「これはいいことだ。みんなも喜ぶ」という善意が発端になっていることが少なくありません。
某商店で働いているADHDタイプの方からこんな話を聞きました。
――開店前に、ある売り場を通りかかったら、商品の置き方が少しおかしいように見えました。担当商品ではなかったのですが、「こうしたほうが、商品が目立つだろう」と考えて、商品を並べ替えてしまったので
す。担当者に知らせようかと思いましたが、「開店間際で忙しいだろう」と判断し、そのままにしておきました――。
売り場に戻ってきた担当者は、商品ディスプレイの様子が変わっていたので驚きました。当然、勝手に商品を置き替えた彼は上司に叱られました。
彼が商品を並べ替えたのは「こっちのほうが見映えがいい」と考えたからで、善意に基づく行動です。売り場担当者を困らせようとしたわけではありません。それが理解してもらえなかったわけです。
ちなみに、そのような困惑や失望は、発達系の課題を持つ人たちが子どものころから経験していることです。
じつは彼が勝手に商品を動かした理由がもうひとつあります。上司は常々、「職場で改善点に気づいたときは、自分から率先して行動しましょう」と話していたのです。彼は言葉どおりに受け取り、上司の方針に忠実に行動したわけです。
ところが彼は上司から「担当者に相談しないで、勝手に商品を動かしたらダメじゃないか」と叱られて混乱しました。いつも言われている「率先して行動する」方針と矛盾するからです。
このように、他人から見て衝動的と思える行動も、本人のなかでは筋が通っており、じつは善意に基づいていることがわかります。実際には臨機応変が求められているのですが、発達系の課題を持つ人はふたつの方針・ルールが同時に存在すると状況判断が難しくなります。よかれと思った行動が、結果的には他人に不快感を与え、本人も「自分勝手な人」と見られてしまうので、戸惑うのです。(後略)

センセーション・シーキング
センセーション・シーキングとは,「多様で,新しく,複雑で,強烈な」経験や感情を求め,そのために,様々なリスクを積極的にとろうとする行動様式である.その具体的な行動パターンとしては,スカイダイビング,スキューバダイビング,高速運転,飛行機の操縦などスリルや冒険を求める行動のほか,サイケデリックな体験,違法薬物の使用,性的放縦など常識的ではない,非日常的な行動も含んでいる.
センセーション・シーキングは,インターネット依存,ギャンブル依存などのベースにある特性の一つであり,また衝動性との関連から ADHD との関連性も指摘されている.臨床的には,上記のような問題行動がみられた場合,ADHD を疑うことが必要であろう.

注:i) この引用部の著者は中村暖、岩波明です。 ii) 引用中の「サイケデリック」については次のWEBページを参照して下さい。 「サイケデリック

2)ADHD の成り立ち(中略)
ADHD の認知構造上の課題としては,ワーキングメモリ=記憶のバッファが小さいことがあげられる(図2).これは,空間認識および時間認識の両者にいえることであり,空間認識においては目の前にあるものだけに注意が向き,その注意からはずれたものは記憶から抜けやすい(当然ながら、認知特性の問題であって眼科的な問題でない).時間認識においては少し前のことでも抜けやすく,また先の展望をもつことが苦手である.まとめると,空間的にも時間的にも近いところにフォーカスしやすい.たとえるなら「空間的・時間的近眼性」という用語が ADHD 特性を一言でよく表していると考える.
定型発達者では,作業に取り掛かる際にまず全体を見渡して,ある程度の計画を立て,見通しをもってから開始する.しかし,「空間的・時間的近眼性」という ADHD 特性を抱えた者の場合,特性上そうした方策を取ることは困難であり,まず目についたところから順に手をつけていく,という方策を取らざるをえない.定型発達者がトップダウンの方策を採用するというなら,こちらはボトムアップの方策である.この場合,取り掛かるのは早いので行動力,積極性は評価されうるが,目についたところを順に埋めていくという方策なので,効率が悪く抜けが生じるなど,遂行上の課題となりやすい.
時間軸からみると,やるべきことはその場でやらないと忘れてしまうことから,物事をなすためには考察よりも行動を優先する必要があり,これが衝動性となる.また,空間的近眼性をカバーするためには,移動距離を伸ばす必要があり,これが多動性を引き起こしていると考えられよう.(後略)

注:i) この引用部の著者は柏淳、岩波明です。 ii) 引用中の「図2」についての引用は省略します。 iii) 引用中の「ワーキングメモリー」については次のWEBページを参照して下さい。 「ワーキングメモリー - 脳科学辞典」 加えて、「ADHDとワーキングメモリーの関連」については次のWEBページを参照して下さい。 「"ADHDタイプ"の方の対処策①」の「ADHDとワーキングメモリーの関連」項 iv) 引用中の「先の展望をもつことが苦手である」や「まず目についたところから順に手をつけていく」ことに関連するかもしれない(ADHDにおいて)「完成図を思い浮かべたことがない」ことについて、同「2)ADHD の成り立ち」[ここの (vi) 3) 項を参照]の Note 当事者の視点から の「●完成図を思い浮かべたことがない」における記述の一部(P63)を次に引用(『 』内)します。 『時間的近眼性が強いと,先のことを想像してそこまでの過程を組み立てることがむずかしい.定型発達者は画を招くときも仕事の計画を立てるときも,最終的にどんな画になるのかを想像し,そこに近づけるために段階的に計画を立てつつ作業を進めていく.ADHD ではその完成図を描くことが困難であり,そのことは計画性やチーム作業が求められる現代のオフィスワークでは困難に直結する.』(注:この引用部の著者は柏淳、岩波明です)

注意散漫でミスを連発してしまうADHDの人(中略)

「不注意」も「多動性・衝動性」も多くの場合、成長とともに緩和されていきます。ただし、大人になっても一定程度は残ることがあり、努力で改善することに限界があるのです。
この2つの特性は、アメリカ精神医学会が発行する『DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)』にも載っているものなのですが、私はこれに加えてもうひとつ、「傷つきやすい」という点も、ADHDの人の大きな特性なのではないかと考えています。(後略)

成人期の発達障害の診療
発達障害を主訴に来院される方のみでなく,すべての精神科来院患者において検討すべき事項を図1にまとめた.どんな状況であれ,精神科医は診察室に患者を迎えた場合,①知的障害を含む発達障害の特性,➁成育過程におけるトラウマの問題やパーソナリティ形成,③現在存在する精神疾患の問題について,複雑な構造を読み解いていく必要がある.
精神科の臨床場面では,発達障害のために来院し,併存障害として精神疾患の存在が問題になるのみならず,精神疾患のために来院したが,その背景に発達特性に関する課題が存在し,それらが現在の問題と密接に関連している場合も多い.

見逃される発達障害
精神科医が,診察室で発達障害の当事者と出会う場面には以下の 4 つがある.
①本人が発達障害を疑って受診する
➁本人ではなく,家族や周囲,支援者などが発達障害を疑って受診する
③精神症状を主訴に来院したが,医師が発達障害を疑う
精神疾患として通院中に,後に発達障害が判明する
このうち,①②では当事者サイドが発達障害を疑って来院しており,医師は発達障害か否かの closed question に答えることになる.それに対して③④では,医師サイドが発達障害を疑わない限り診断にたどり着くことはない.成人期の発達障害の場合,一定の知的水準をもつ者,特に ADHD ではこれまでの経験から症状をマスクする術を身につけている者も多い.その場合,積極的にこちらから症状や発達歴を聴取しないと,通常の診察のなかでは見落とされることも多いので注意が必要である.

注:i) この引用部の著者は柏淳、岩波明です。 ii) 引用中の「図1」における引用は省略します。 iii) 引用中の(ADHD における)「症状をマスクする術」に関連する(自閉スペクトラム症における)「カモフラージュ」については他の拙エントリのここを参照して下さい。

ADHDとASD(PDD)の併病割合に関連して、同の「第5章 ADHDとASD」における記述の一部(P125~P126)を次に引用します。

(前略)吉田らは、高機能のPDD53例のうち36例(68%)がADHDの診断基準(DSM-Ⅳ)をみたし、不注意優勢型が多かったと報告した。ゴールドシュタインらもPDD27例のうち16例(59%)がADHDの診断基準(DSM-Ⅳ)を満たし、サブタイプでは混合型が9例、不注意優勢型が7例であった。このように、ADHDとASD(PDD)は症状における類似性が大きく、診断が難しいケースもたびたびみられる。
またストルムらは、高機能のPDD101例の精神症状を検討した結果、95%に注意障害があり、50%に衝動性の問題があると報告した。この結果は、PDDとADHDにおける精神症状の類似性を示している。シンティッヒらは、83人のASDの児童を対象とし、彼らがDSM-ⅣによるADHDの診断基準を満たすかどうか検討を行った。この結果、対象患者の53%はADHDの診断基準に合致し、多動とコミュニケーションの障害、不注意と常同行為に関連性がみられたとしている。
以上の報告のように、高機能のASD(PDD)にはADHD様の症状が高頻度に認められることは明らかである。(後略)

注:i) 引用中の「DSM-Ⅳ」は第4版ですが、ちなみに、最新の第5版については、次のWEBページを参照して下さい。『注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典の「診断・鑑別診断」項』 ii) ちなみに、DSM-5(DSM-Ⅴ)では、ADHDとASD等の併存が認められることになったことを記すWEBページ例を次に示します。「ADHDなのか、アスペルガー症候群なのか - アピタル」 iii) 引用中の「サブタイプ」に関連して、同本の P29 には次に引用(『 』内)する記述があります。 『この基準では、「不注意優勢型」「多動性-衝動性優勢型」「混合型」という三つのサブグループが設定された。』(注:引用中の「この基準」は、DSM-Ⅳのことです)

④ 同の 第5章 ADHDとASD の「ADHDとASDの区別」における記述の一部(P142~P144)を次に引用します。

ここでは、両疾患で共通してみられる行動上の特徴に関して、それぞれの疾患の問題点から解釈を行った結果を述べたい(以下の内容は、京都大学の十一元三教授の示唆による)。

(1)「毎回し忘れる、毎日目にして気づかない」
日常生活や仕事において、毎日必ずしなければならないことは少なからずある。たとえば、出社時に会社でタイムカードを押すことなどがあげられる。ADHDでは、タイムカードの押し忘れは、不注意に起因するものであるが、ASDでは、この行動が社会的に重要であるという認識が欠けているために起こる。

(2)「話し出すと止まらない」
発達障害の患者では、周囲にかまわず一方的に自分の考えを主張したり、興味のある分野の話ばかりする人がしばしばみられる。ADHDにおいでは、これは衝動性の現れであり、思いついた事を言わずにおられないことが原因である。一方、ASDでは、自分が自由勝手に話をしていいのかどうか、状況を認識できていないために起こることが多い。私の担当患者でも、外来の受診時に、自分の好きな80年代のアイドルのエピソードを延々と話し続けるASDの人がいた。

(3)「話がとぶ」
前項と関連するが、発達障害の人の話の内容は説明不足で、話題が飛ぶことがよくみられる。ADHDにおいでは、やはり衝動性の結果起こるものであり、一足飛びに説明しようとするため話が飛躍しやすい。ASDにおいでは、話をしている相手が理解しているかどうか考慮しようとしないので、奇異な内容が含まれやすい。

(4)「順番や会話に割り込む」
このような他の人に配慮しない行動パターンは、ADHDでもASDでもしばしばみられる。ADHDは内的な衝動性によって、がまんできなかったり、待てなかったりするためである。一方で、ASDにおいでは、他者への意識の希薄さから、勝手な行動をとりやすい。つまり、他人の存在を十分に認識していないということである。

(5)「なれなれしい」
発達障害の患者は、対人関係に障害がある一方、他者と必要以上になれなれしかったり、「距離」が近かったりすることがある。ADHDの人は、元来ひとなつっこく、あどけない行動をとることが多い(けれども、安定した関係を継続することは難しい)。ASDにおいでは、社会的な距離間がわからずに、必要以上になれなれしく接することが起こる。

(6)「懲りない」
発達障害の人は、何度も同様にミスを繰り返すことが多い。ADHDにおいでは、不注意の反映であるとともに、目の前の「快刺激」を優先しやすい結果である。ASDにおいでは、自らの行動を制止する社会的な必要性を感じていないことが原因である。このような原因で、ASDの人によるストーカー行為が起こることがある。

注:(i) 上記引用以外にも、「空気を読めない」ことの原因におけるADHDとASDの違いについては他の拙エントリのここここを参照して下さい。 (ii) 加えて、引用中の「話がとぶ」に関連する(ADHDタイプにおける)「話題が転々として対話にならない」ことについてはここを参照して下さい。 (iii) その上に、引用中の「話し出すと止まらない」に関連するかもしれない「会話がすれ違う、かみ合いにくい」ことについて、岩波明著の本、「医者も親も気づかない女子の発達障害 ――家庭・職場でどう対応すれば良いか――」(2020年発行)の 3章 ADHDASD……女子はなぜ見逃されやすいのか? の ②ASDの「空気が読めない」、「強いこだわり」とは の「◆会話がすれ違う、かみ合いにくい」における連続する記述の一部(P149~P150)を三分割して次に引用(それぞれ『 』内)します。 『「会話がすれ違う、かみ合いにくい」という特性は、ASDにもADHDにも見られるものですが、その原因が異なっています。』、『ADHDの人は、「自分が思いついたことを、最後まで言わずにはいられない」という衝動性に特徴があります。このため、どうしても話題が自分の興味に偏ってしまい、話がかみ合わなくなります。』、『一方、ASDはというと、他人に対する無関心や配慮のなさが原因となります。彼らは相手のことを気にすることなく、自分の好きなことだけをまくしたてるのです。』 (iv) さらに、標記「ADHDとASDの区別」の視点も含めて、 a) 引用中の「毎回し忘れる、毎日目にして気づかない」についてのより詳細について、岩波明著の本、「最新医学からの検証 うつと発達障害 ――どう見分けるのかが正しいか――」(2019年発行)の 3章 「アスペルガー」はもう古い?「ASD」の誤解と真実 の「ケアレスミスや物忘れは、なぜ起こる?」における記述の一部(P142~P143)を以下に引用します。 b) 加えて、引用中の「衝動性」に関連する「衝動性はADHDだけの特徴ではなく、ASDにもしばしば見られる」ことについて、同本の 2章 日本に400万人以上いる「ADHD」の誤解と真実 の「いじめの加害者になることは多い?」における記述の一部(P99)を以下に引用します。 c) その上に、上記引用全体に関連するかもしれない「同じ症状に対して、ADHDとしての見立ても、ASDとしての見立てもできる」ことについて、岩波明監修の本、「おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線」(2020年発行)の 第1章 成人期発達障害とは何か の 4 ADHDとASDの関係 の「ADHDとASDの関係はグラデーション」における記述の一部(P40~P41)を以下に引用します。 d) さらに、二つのことが一緒にできないことに対するADHDとASDの区別について、そだちの科学 2020年10月号 中の杉山登志郎著の文書『発達障害の「併存症」』(P13~P20)の「ASDとADHD」における記述の一部(P16~P17)を以下に引用します。 e) また、「ASDとADHDの特性はかなり違いますが、結果的に困りごとが同じになる」ことの例としての「仕事が終わらない」ことと「コミュニケーション下手」について、太田晴久監修の本、「大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本」(2021年発行)の 1章 大人の発達障害とは の「ASDとADHDの違い」における記述の一部(P20~P21)を引用順を含む形式を変更して以下に引用します。 f) これら以外にも、上記 d) 項と関連するかもしれない「ASDの人も、ADHDの人と同じで、マルチタスクが苦手なことが多い」ことについてはここを参照して下さい。一方、女性の視点からのADHDとASD(又はアスペルガー症候群)との(症状の)違いの例はここを参照して下さい。 (v) また、一方的に話してしまう、(ニュアンスがわからなく)「話が通じない」ことや人間関係のトラブル、「段取りが苦手」なことについてはここここを参照して下さい。 f)

ケアレスミスや物忘れは、なぜ起こる?

単純なデータ入力、タイムカードを押す、報告書を提出するなどは、どれもごく簡単なことですが、日常生活や仕事において、必ずしなければならないことでもあります。
しかし、その簡単な作業でミスをしたり、忘れたりすることが、会社などで問題になることがあります。学校の成績が優秀な人でも、発達障害を抱えていると、こうしたことが起こりやすいのです。
ケアレスミスは、本来は、不注意の問題を抱えるADHDによく見られる症状です。一方、ASDの人にもケアレスミスは少なくありません。簡単な書類を作成するだけのはずなのに、抜け、漏れなどのミスをすることは珍しくありません。
ASDの場合、原因は、不注意とは別のところにあるようです。一見、不注意のためのように見えたとしても、その実、「わかっていても、やらない」こともあるのです。
ASDの特徴に「特定の対象に強い興味を持つ反面、興味がないことはやらない」という性質があります。こだわりが強く、状況に応じた柔軟な対応ができません。
そこでしばしば、タイムカードを押すといった行為などが、「社会的に重要である」という認識が欠けているのです。そのために、毎日しなければならないことであっても、よく忘れてしまうのです。
彼らは、「やらないとまずい、怒られる」とも、考えていないことがあります。「やりたくないからやらない」と、そこにはあまり躊躇がありません。
日常的な物忘れも、よくみられます。上司が「やってほしい」と頼んだことも、平気で忘れているように見えます。
ただし、短期記憶が苦手なADHDの人とは違い、ASDの人は、記憶力が悪いというのではなく、「やること、やらないことを自分の好みで取捨選択をしている」という傾向が強いようです。
それを「わざと(意識的に)やっている、あるいはやらないでおく」と言うべきなのかはわかりませんが、彼らには、自分で「これは覚えなくていいことだ」と決めつけてしまう傾向がみられます。この際、感情の揺れはあまりみられません。(後略)

注:i) 引用中の『タイムカードを押すといった行為などが、「社会的に重要である」という認識が欠けている』ことに関連するかもしれない、「ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない」ことについては他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) ADHDにおける引用中の「物忘れ」、「短期記憶が苦手」について、共に岩波明著の本、「最新医学からの検証 うつと発達障害 ――どう見分けるのかが正しいか――」(2019年発行)の 2章 日本に400万人以上いる「ADHD」の誤解と真実 の『「物忘れ」は、ド忘れとどう違う?』における記述の一部(P120~P121)を次に引用します。

「物忘れ」は、ド忘れとどう違う?

ド忘れは一般的に「よく知っているはずのことを、思い出せない」ことを意味しています。また、物忘れは、ADHDにひんぱんに見られる症状です。
子ども頃は、帽子やカバン、鍵、授業で使う体操服や必要なプリントを持って行かなかったりします。大人になってもそれは続き、外出時にスマホや携帯電話を忘れる、ノートパソコンを持って行かない、外出中に目的地の場所がわからなくなる、といったことがしばしばみられます。
ここにも不注意の問題が絡んでいるのですが、もう1つ言えるのは、ADHDの人は短期記憶があまり得意ではない、記憶がなかな定着しないということです。話し言葉で聞いたことを、スルーしてしまうことがよくあります。
短期記憶とは、数秒間しか保持できない一時的な記憶で、新しい記憶が入ってくることですぐに忘れる記憶です。数年から数十年と保持できる長期記憶とは区別されます。日常、計算や読み書きをする上でも、一時的に記憶を保持する能力は欠かせません。そのため、短期記憶は「ワーキングメモリ」(作働記憶)とも言われます。
ADHDの人は、この短期記憶が保持できないことが珍しくありません。特に、人に言われた話し言葉が記憶に定着せず、すぐに忘れてしまう傾向が強いようです。
例えば、職場の上司に「この仕事を進めておいてくれ」と命じられた時のことを想定しましょう。その場では「はい」と返事するでしょうし、本人もしっかり覚えたつもりでいます。それなのに数秒後には指示をされたことを忘れてしまい、後で上司にひどく叱られることになるのです。
この問題を防ぐには、「聞いたことはすぐに紙にメモをする」などの対策が必要です。
また、ほんの数秒前のことが覚えられないために、同時並行で物事を進める、いわゆる「マルチタスク」的な状況も苦手としています。(後略)

注:(i) 引用中の『「マルチタスク」的な状況も苦手としています』に類似する「マルチタスクが苦手」について、同『①ADHDの「多動・衝動性」、「不注意」』の「◆マルチタスクが苦手」における記述の一部(P142)を以下に引用します。加えて上記『「マルチタスク」的な状況も苦手としています』に関連する、 a) 「マルチタスクも混乱の種になる」ことについてはここを、『「聞く-話す」のマルチタスクができない』ことについてはここを それぞれ参照して下さい。 b) 『「マルチタスク」を要求する社会の流れがますます加速すると、今後、ADHDの頻度は、もっと増えてくることも危惧される』ことについては他の拙エントリのここここを参照して下さい。 (ii) 引用中の「ADHDの人は短期記憶があまり得意ではない」ことに類似する『「ほんの数秒の」記憶が苦手』なことについて、岩波明著の本、「医者も親も気づかない女子の発達障害 ――家庭・職場でどう対応すれば良いか――」(2020年発行)の 3章 ADHDASD……女子はなぜ見逃されやすいのか? の ①ADHDの「多動・衝動性」、「不注意」とは の『◆「ほんの数秒の」記憶が苦手』における記述の一部(P140~P141)を以下に引用します。 (iii) 引用中の『ほん数秒前のことが覚えられないために、同時並行で物事を進める、いわゆる「マルチタスク」的な状況も苦手としています』に関連するかもしれない「ASDの人も、ADHDの人と同じで、マルチタスクが苦手なことが多い」ことについて、同章(上記 (ii) 項を参照)の ②ASDの「空気が読めない」、「強いこだわり」とは の「◆会話がすれ違う、かみ合いにくい」における連続する記述の一部(P148)を二分割して次に引用(それぞれ【 】内)します。 【ASDの人も、ADHDの人と同じで、マルチタスクが苦手なことが多いのです。】、【ADHDの人は「数秒前のことが覚えていられない」からですが、ASDの人は、「決められた手順を正しくこなす」のが得意な一方で、アドリブがききません。複数の人が丁々発止のやりとりをしている中で、雰囲気を壊さず会話に参加するようなことは、なかなか難しいと思います。】 (iv) 引用中の「ワーキングメモリー」については次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「"ADHDタイプ"の方の対処策①」の「ADHDとワーキングメモリーの関連」項

◆「ほんの数秒の」記憶が苦手
忘れ物はADHD特有の不注意から来ているものですが、もうひとつ言えるのは、ADHD人は短期記憶があまり得意でない、ということです。
短期記憶とは、数秒間しか保持できない一時的な記憶であり、新しい記憶が入ってくることですぐに忘れられる記憶です。一方、数年から数十年間保持できる記憶を長期記憶といいます。
短期記憶とは、計算や読み書きなど、日常生活に必要な作業を行うのに欠かせません。そのため短期記憶は、「ワーキングメモリ(作業記憶)」とも呼ばれます。
ADHDの人は、この短期記憶を保持することが苦手なことが多いです。
特に、人に言われた言葉が記憶として定着しません。これが原因で、職場では「指示されたことを忘れてしまう」というトラブルが頻発します。(後略)

マルチタスクが苦手
「数秒前のことを覚えていられない」という特性から、同時並行で複数のものごとを進める、いわゆる「マルチタスク」も苦手です。
一つひとつの作業は問題なくても、別の作業がそこに加わると、とたんに慌ててしまいます。例えば、不意に新しい用事を頼まれたり、電話が鳴ったりするだけで、目の前の仕事がこなせなくなるのです。(後略)

いじめの加害者になることは多い?(中略)

また、衝動性はADHDだけの特徴ではなく、ASDにもしばしば見られます。ADHDの場合は、内面の衝動性のコントロールができないことによりますが、ASDの場合は「社会的にしてはいけないこと」の意識が希薄であることが関連しています。(後略)

注:引用中の「衝動性はADHDだけの特徴ではなく、ASDにもしばしば見られます」ことに類似するかもしれない「衝動的な言動は ADHD の特徴であるが,ASD でも頻繁に認められる」ことについて、岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第2章 診断と検査 の A 診断基準 の DSM-5 の 1)共通事項 の「b. ASDADHD の併存」における記述の一部(P33)を次に引用(『 』内)します。 『さらに衝動的な言動は ADHD の特徴であるが,ASD でも頻繁に認められる.ASD の場にそぐわない発言は衝動性の現れとみなされることがあり,また不適応から衝動的な行動に至ることもある.』(注:この引用部の著者は柏淳、岩波明です)

実際に臨床例を見ると、同じ症状に対して、ADHDとしての見立ても、ASDとしての見立てもできます。たとえば、「勉強・仕事に時間がかかる」ということに対して、ADHDでは「実行機能障害からくる段取りの悪さ」と考えられますし、ASDでは「正確性にこだわり、確認時間が過剰にかかる」と考えられます。「教室・職場で興奮しやすい」に対しては、ADHDでは情動がうまく制御できないせいであり、ASDでは集団に適応するのに過剰な緊張が生じるせいです。
「指示が入りにくい」は、ADHDでは注意障害からくる聞きもらしがあるかもしれませんし、ASDでは指示の意味が了解できないからかもしれません。「他人とトラブルになりやすい」という点は、ADHDでは衝動的(短気)に判断し、周囲の承認を待てないということがありますし、ASDではマイペースな判断をしたり、周囲の了解を求めないということがあります。
このように、同じ症状にも両義的な理解が可能なのです。ただし、よく聞き込むと、ADHDかASDかでけっこう違いがあります。(後略)

注:i) この引用部の著者は小野和哉です。 ii) 引用中の「情動」については、次のWEBページを参照して下さい。「情動 - 脳科学辞典」 加えて、メンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。

ASDとADHD(中略)

一方、ASD/ADHDは注意の障害がその中心である。この注意の障害の中核は、注意の転導性ではなく、臨床的な視点からみる限り注意のロック機能(sustained attention)(11) の障害と考えられる。注意の固定が困難で、さらに固定をした時に今度はそれを外すのが難しいという病理がその中心にある。この両者は同時に起きてくるが、前者が優位のものをADHD、後者が優位のものをASDと呼んでいるに過ぎない。両者とも二つのことが一緒にできないことが最も基本的な臨床上の困難になってくる。(後略)

注:i) 引用中の文献番号「(11)」は次の論文です。 「Localization of a human system for sustained attention by positron emission tomography」 ii) 引用中の「衝ASD/ADHDは注意の障害がその中心である」ことに関連する『「不注意」は ADHD の基本的な症状であるが,ASD でも出現する頻度は高い』ことについて、岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第2章 診断と検査 の A 診断基準 の DSM-5 の 1)共通事項 の「b. ASDADHD の併存」における記述の一部(P33)を次に引用(【 】内)します。 【たとえば「不注意」は ADHD の基本的な症状であるが,ASD でも出現する頻度は高い.ASD の場合,興味のないことに無関心となりやすく,それが一見して不注意に見えるためである.】(注:この引用部の著者は柏淳、岩波明です)

ASDとADHDの違い(中略)

困りごとは同じでも原因が違う場合がある
ASDとADHDの特性はかなり違いますが、結果的に困りごとが同じになることがあります。(中略)

同じ「仕事が終わらない」でも…

ASDの場合
完璧を求めたり、細かいところにこだわりすぎたりして、時間内に作業が終わらなくなる

ADHDの場合
優先順位が決められなかったり、あちこち注意が向いたりして、やるべきことを先延ばしにしてしまう(中略)

同じ「コミュニケーション下手」でも…

ASDの場合
言語以外のコミュニケーションを理解しづらく、空気を読めないため、場にそぐわない発言をしてしまう

ADHDの場合
注意力散漫で、話があちこちとんだり、空気は読めても衝動的に発言したりしてしまう(後略)

注:引用中の「コミュニケーション下手」に関連するかもしれない「対人関係,社会的コミュニケーションの障害は ASD の基本的な特性であるが,ADHD においてもこのような症状を示す例は少なくない」ことについて、岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第2章 診断と検査 の A 診断基準 の DSM-5 の 1)共通事項 の「b. ASDADHD の併存」における記述の一部(P33~P34)を次に引用(『 』内)します。 『一方,対人関係,社会的コミュニケーションの障害は ASD の基本的な特性であるが,ADHD においてもこのような症状を示す例は少なくない.これは ADHD は生来自閉的な特性をもつケースがあることに加えて,元来人なつっこく対人関係に問題がなかったケースにおいても,実生活のなかで様々な失敗を繰り返すうちに,思春期以降に対人関係に臆病となり,ひきこもりに近い状態を示す例がみられるためである.このようなケースは ASD と誤診されやすい.』(注:この引用部の著者は柏淳、岩波明です)

ADHDとASDの人の仕事の内容の違いについて、岩波明著の本、「最新医学からの検証 うつと発達障害 ――どう見分けるのかが正しいか――」(2019年発行)の 2章 日本に400万人以上いる「ADHD」の誤解と真実 の 「不注意、集中力の障害」は普通の人の「うっかり」とどう違う? の『◆ADHDには専門職が多く、ASDには定型的な事務職が多い」項における記述の一部(P110)を次に引用します。

(前略)以前、烏山病院に通院している発達障害の患者を対象に、仕事の内容を調べたことがありました。すると、ADHDの人は専門職が多く、ASDの人は定型的な事務職が多いという結果が出ました。
ADHDは静かなデスクワークが苦手で、マルチタスクも混乱の種になります。自分の裁量でできる仕事、例えばイラストレーター、作家、コピーライター、プログラマーなどの分野も多かったのです。
一方ASDは、決まった作業を続けることは比較的得意で、デスクワークも苦にはなりませんが、周囲に突然話しかけられたり、新しく指示をされたりすると、やはり混乱しやすいという特性を持っています。(後略)

注:補足としてのADHDにおける上記「不注意」に関連する「注意機能」について、同項における記述の一部(P109)を次に引用します。

ADHDの注意機能については、特定の事柄に注意を向け続けることができない「持続性」の障害に加えて、周囲のさまざまな事柄に注意を配分できない「分配性」の障害、そして必要に応じて注意の対象を切り替えることができない「転換性」の障害もあります。
要するに、「周囲全体にそれとなく注意を向けること」や「いくつかの事柄にうまく注意を分散すること」が苦手なのです。対象が複数あると、注意の切り替えがなかなかうまくいきません。
一方で、「注意欠如多動性障害」という病名とは矛盾していますが、ADHDの人は、注意力が全く欠如しているわけではありません。逆に、特定の事柄には、過剰に集中することもみられます。
とはいえ、通常ADHDの人たちは不注意で、ケアレスミスが多いのは事実です。また課題をこなしているときに予想外のアクシデントが起こると、注意を向ける方向がわからずにパニックを起こすことも珍しくありません。(後略)

最初に一方的に話してしまうことについて、田中康雄、笹森理絵著の本、『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(2014年発行)の 第3章 人の話がわからない、他人の思いが理解できない…… の「9.一方的に話してしまう」項における記述の一部(P115~P119)を次に引用します。

9.一方的に話してしまう
なぜか相手を怒らせがち
発達系の課題がある人には、独特の話し方が見られます。それが、「相手の気持ちを察することが難しい」「周囲の空気が読めない」と言われてしまう原因のひとつになっています。
なかでも目立つのが、一方的な話し方。自分の思いや考えが一気に口からあふれ出てくるように話してしまい、相手が口をはさむ余地がなく、対話になりません。
他人の意見が自分と異なる場合でも、相手の気持ちを推し量ったり、周囲の状況をうかがいながら話すことができません。そのため、つっけんどんで一方的に口論をしかけるような話し方になってしまうのです。
話を聞く側は、自分が非難されたと感じて驚き、そのつっけんどんな言い方が不快で、感情を害することもあるでしょう。
ところが本人は、相手を怒らせようとか、周りをシラケさせようとか、悪意をもって話しているわけではありません。相手の気持ちや周囲の状況が把握できないことが原因ですから、議論好きな人が、相手を言い負かしたくて議論をふっかけるのとは違う性質のものです。
相手と向き合って会話する場合だけでなく、ツイッターやLINEなどネット上のコミュニケーションにおいても、発達系の課題がある人たちの発言は同様に一方的になりがちです。周囲の発言からその場の状況を読み取ることが苦手なので、一方的な発言を続けてしまい、それが読む人たちに不快感を与えてしまいます。
発達系の課題を持つ人にかぎらず、ツイッターやLINEで短い言葉を交わしあって、お互いの考えを伝えるのは、なかなか難しいことです。会って話すときや、長い文章で相手に自分の思っていることを伝えるのに比べると、情報量は十分とはいえず、しかも必要な情報が途中で抜け落ちてしまっていることもあります。
それで、見当違いな反応をしてしまうと、「空気が読めていない」と一蹴されてしまうことがあるのです。

「聞く-話す」のマルチタスクができない
誰かと対話するとき、僕たちはまず相手が話す内容を理解しようと努めます。言葉づかいや表情から相手の意図を探り、話の内容が理解できたと確信したところで、自分の意見を述べます。相手も同様に、こちらの意見を理解したうえで意見を述べていると考えます。ふだん何気なく話しているようでも、そのようにお互いに折り合いをつけながら対話しているのです。つまり、相手の話を聞いて理解する、自分の考えをまとめて発言する、というふたつの機能をほぼ同時に進めています。
発達系の課題がある人のなかでも、とくにPDDタイプは、そのように複数の作業を並行して同時に進める「マルチタスク」が基本的に得意ではありません。他人との会話でも、聞くときは聞く、話すときは話す、というシングルタスクになりがちです。会話の相手がこの特性を理解していないと、「話のわからないヤツだな」という印象を持つようです。
反対に、ADHDタイプは過度にマルチタスクなところがあって、PDDとは別の理由で相手に話しづらさを感じさせます。
会話している最中に、目や耳から何か別の刺激が入るとそちらへも反応し、四方八方へ同時に注意が向かっているのです。落ち着きのない人がよく「注意散漫」といわれますが、ADHDタイプは気が散って注意が散漫になっているのではなく、外界のあらゆる刺激に等しく注意が向けられている、全方位に注意を分散させてしまうのです。

話題が転々として対話にならない
ADHDタイプの人は、会話の最中に相手の口にしたひと言が、自分にとって関心の強い事柄だと、過敏に反応し、そこから自分が思いついたことに話題を変えてしまうことがあります。枝葉末節なことでも、自分が関心のあるキーワードが聞こえると意識を奪われてしまうのです。
たとえば「このあいだラーメン屋の角を曲がったところにある喫茶店に入ったら……」と相手が話したら、「ラーメンといえばさあ、きのう食べたカップラーメンがすごくおいしかったよ」と自分の関心領域に話題を移してしまうことが少なくありません。相手は、自分が話そうとした内容から大きくズレてしまって困るというわけです。
このように、ADHDタイプは、次々と何かが思い浮かんでしまうので、いま考えていることが次の瞬間には塗り替えられてしまいます。

注:i) この引用部の著者は田中康雄です。 ii) 引用中の「PDD」についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の『「聞く-話す」のマルチタスクができない』(ただし、PDDタイプのみ)に関連する「並列処理の困難」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 一方、引用中の「ADHDタイプの人は、会話の最中に相手の口にしたひと言が、自分にとって関心の強い事柄だと、過敏に反応し」に関連する「ADHDの当事者は、相手のほんの一言に反応して、思いついたことを一方的に話し続けてしまいがち」であることについて、岩波明著の本、「最新医学からの検証 うつと発達障害 ――どう見分けるのかが正しいか――」(2019年発行)の 2章 日本に400万人以上いる「ADHD」の誤解と真実 の 「活動的」「活発」は普通の人とどう違う? の「◇ADHDの話し方……なぜズレるのか?」における記述の一部(P112~P113)を次に引用します。

ADHDの人は、話し方も、普通の人より早口で、落ち着きなく過剰さを感じさせることが多いと思います。
さらにいうと、話の要点がズレることも、よくあります。ADHDの当事者は、相手のほんの一言に反応して、思いついたことを一方的に話し続けてしまいがちです。
休職していたADHDの患者が「就職説明会に行ってきた」と言うので、「何社ぐらいの説明を受けましたか?」と尋ねました。彼は、こちらの質問には答えず「自分はこういう仕事をしたいから就職説明会に行ったんだ」という話を延々と続けました。
彼は、自分の考えを伝えたいという衝動を抑えられなかったのです。話の合間で、もう一度、同じ質問をすると、彼はやっと「1社だけです」と教えてくれました。

このようにADHDの人には、話の要点を捉えずに、自分の関心に従って、たった一言に強く反応してしまうという傾向がみられます。
そのために、相手が何を聞こうとしているかを理解しようとしないで、話がズレてしまいがちになるのです。本人は、その点に自覚がないことも多く、話もどんどん長くなるのです。(後略)

上記は主にADHDとASDとの違いについてでしたが、ここでは(ADHDと)ASDとの併存の相乗効果について、内海健兼本浩祐編著の本、「発達障害の精神病理Ⅳ -ADHD編-」(2023年発行)の 第Ⅰ部 エキスパート編 の 第3章 ADHDのある人の「動機」の構造 の「Ⅲ.ASDとの併存の相乗効果」における記述(P46~P48)を次に引用します。

1. 興味・関心の限局

ADHDのある人はその遅延報酬障害のために,利用できる動機づけの方法,つまりは「やる気のもと」が,多数派の人たちよりも不足しやすい。そしてADHDと同じように動機づけに関する障害である自閉スペクトラム症が併存する場合,動機づけの不足はより深刻なものとなりやすい14)。
自閉スペクトラム症の症候の一つは興味や関心の限局しやすさであり,その結果,常同的,反復的な行動が生じやすくなる。つまりは新しい活動に取り組む際に,その活動自体への興味,関心を持てる場合が少なく,動機づけが不足した状態で取り組むことがやはり多くなってしまうのだ。
こうした興味・関心の限局と遅延報酬障害が併存した場合,興味を持てない活動に取り組む場合には,動機の不足が決定的なものとなりやすく,その活動が嫌いになってしまうlリスクが高くなる。
逆に,強い関心のある活動に取り組む場合には,過集中傾向とあいまって,生活の妨げとなるような著しい没頭が生じやすくなってしまう。

2. 社会的報酬への反応の減弱

また自閉スペクトラム症のもう一つの症候は社会的コミュニケーションの困難であるが,近年その背景にある病理は,社会的動機づけの障害であると考えられるようになってきている4)。つまり自閉スペクトラム症のある人は「みんながやっているから僕もやりたい」,「お父さんや先生の期待に応えたい」といった,社会性を背景とした動機づけに対する反応が弱いのだ。
この社会的動機づけ障害も,活動の動機の不足に繋がることとなり,遅延報酬障害との相乗的な悪影響が見られることとなる。また社会的動機づけの不足のために,家族などと生活のペースをあわせようとしないことが多くみられ,これもまた過集中傾向に対するブレーキがかかりにくい要因となってしまう。ご飯の時間でもゲームをやり続ける,寝る時間になってもインターネットから離れようとしないといった状況が起こりやすくなってしまうのだ。

3. 報酬期待の弱さ

また自閉スペクトラム症のある人には社会的報酬であるか,非社会的搬酬であるかにかかわらず,報酬期待自体が弱いとする研究もある5)。であるとすれば,ある活動に対して事後的な報酬で動機づけを行うことの効果が得られにくく,活動自体の魅力の有無がより大きな影響を与えるのかもしれない。遅延報酬障害が併存する場合,報酬期待が更に減弱することも考慮する必要があるかもしれない。
このようにADHD自閉スペクトラム症が併存している事例では,それぞれの障害の特性が相加的,相乗的に働くことで より極端な形で症候が表れる可能性があることを念頭において支援にあたる必要があるだろう。

注:(i) この引用部の著者は吉川徹です。 (ii) 引用中の文献番号「4」は次の論文です。 「The social motivation theory of autism」 (iii) 引用中の文献番号「5」は次の論文です。 「Social and Nonsocial Reward Anticipation in Typical Development and Autism Spectrum Disorders: Current Status and Future Directions」 (iv) 引用中の文献番号「14」は次の文書です。 「吉川徹:自閉スペクトラム症のある人の「動機」の構造-社会的動機づけと選好形成-,鈴木國文,清水光恵,内海健(編):発達障害の精神病理Ⅲ,星和書店,東京,2021.」 (v) 引用中の「強い関心のある活動に取り組む場合には,過集中傾向とあいまって,生活の妨げとなるような著しい没頭が生じやすくなってしまう」ことに関連する、「逆に、特定の事柄には、過剰に集中することもみられます」についてはここを、「時として非常に集中できる」ことについてはここを それぞれ参照して下さい。加えて、「過集中のために業務の一部が面白くなると、それだけに熱中し、ほかの業務をおろそかにすることがある」ことについて、中島美鈴著の本、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(2018年発行)の 第6章 周囲の人ができること の 上司のあなたができること の「広い視野を失っているとき」における記述の一部(P215)を次に引用します。

過集中のために業務の一部が面白くなると、それだけに熱中し、ほかの業務をおろそかにすることがあります。
長時間熱心に仕事をしているのに仕事が進んでいない場合には、声をかけます。明らかにこの傾向が顕著な場合は、ひとりで業務をさせず、過集中を起こさない人とペアで仕事をさせることも選択肢に入れましょう。
注意をするときは、「やめなさい」ではなく、いつまでにどの仕事をというように、手をつけていない作業が残っていることを認識させ、優先順位を明確にして、具体的な仕事の進め方を指示しましょう。視野が狭い、視野を広く持てという言い方では何が問題視されているのか伝わらないことが多いので、具体的に状況を伝えたうえで、仕事の遂行計画を練り直させてもよいでしょう。(後略)

⑥ 同の 第6章 診断 の「国際的な診断基準」における記述の一部(P146)を一部の図表も含めて次に引用します。

(前略)成人におけるADHDは、当然のことながら、基本的には小児における症状を引き継いだものである。けれども、両者はまったく同一とは言えない。というのは、成人においてはADHDの症状が存在していても、それを回避したり、あるいは別の方法で補ったりする対処方法を身につけているケースが多いからである。
このような成人における特徴をふまえて、成人のADHDに対する診断基準も作成されている。その一つである、ハロウェルらによる診断基準を図表6-3に示した。(後略)


図表6-3 ハロウエルらの診断基準
A.次のうち少なくとも15項目において、慢性的な障害をみる。
1. 力が出しきれない、目標に到達していないと感じる(過去の成果にかかわらず):客観的に見て非常に成功していても、本人は迷路に入り込んでしまったような感覚から抜け出せず、本来の可能性を発揮できない。
2. 計画、準備が困難:学校などの枠組み、そばで世話をやいてくれる親の存在などがないと毎日の生活がおぼつかない。
3. 物ごとをだらだらと先送りしたり、仕事にとりかかるのが困難。
4. たくさんの計画が同時進行し、完成しない。
5. タイミングや場所や状況を考えず、頭に浮かんだことをパッと言う傾向。
6. 常に強い刺激を追い求める:常に何か目新しいもの、集中できるものといった外界の刺激を探し求める。
7. 退屈さに耐えられない。
8. すぐ気が散り、集中力がない。読書や会話の最中に心がお留守になる。時として非常に集中できる。
9. しばしば創造的、直感的かつ知能が高い。
10. 決められたやり方や「適切な」手順に従うのが苦手。
11. 短期で、ストレスや欲求不満に耐えられない。
12. 衝動性:言葉あるいは行動面、金銭の使い方、計画の変更、新しい企画や職業の選択における衝動性。
13. 必要もないのに、際限なく心配する傾向。
14. 不安感:生活が安定しているように見えても、常に不安定な感じ。時には自分のまわりが崩壊するするような感覚。
15. 気分が変わりやすい:2、3時間の感覚でさしたるさしたる理由もなく気分が変わりやすくなることがある。
16. 気ぜわしい:うろうろ歩き回る、貧乏揺すりや指鳴らし、座っている間しょっちゅう姿勢を変える、足を組み直す、じっとしているといらいらしてくる。
17. 耽溺の傾向:酒、麻薬などの薬物依存、ギャンブル、買い物、過食、働き過ぎなど、一つの活動にのめりこむ。
18. 慢性的な自尊心の低さ。
19. 不正確な自己認識。
20. ADDまたは躁うつ病うつ状態、薬物中毒(アルコール依存症を含む)、あるいは衝動や気分が抑制しにくいなどの家族歴がある。
B.幼少期にADDだった。
C.他の医学的あるいは精神医学的状態では説明のつかない状態にある。
(この診断基準では、「ADD]は「ADHD]を含む概念として用いられている)

出典:エドワード・M・ハロウェル他『へんてこな贈り物――誤解されやすいあなたに――注意欠陥・多動性障害とのつきあい方』インターメディカル

注:i) 引用中の「図表6-3」は形式を変更して引用しています。 ii) 引用中の「ハロウェルらによる診断基準」は国際的な診断基準ではありません。 iii) 引用中の「2、3時間の感覚で」は誤りで、「2、3時間の間隔で」が正しいのかもしれません。 iv) 引用中の「衝動や気分が抑制しにくい」は不自然で、「衝動や気分を抑制しにくい」が自然かもしれません。 v) ちなみに、引用中の「ADD」は旧診断基準であるDSM-Ⅲによると「注意欠陥障害(Attention Deficit Disorder)」です(同の P29 を参照)。 vi) 引用中の「成人におけるADHD」に関連する『「大人のADHD」仮説』について内海健兼本浩祐編著の本、「発達障害の精神病理Ⅳ -ADHD編-」(2023年発行)の 第Ⅰ部 エキスパート編 の 第1章 ADHDが「医療化」するということ――「大人のADHD」再考 の「Ⅱ.「大人のADHD」仮説」における記述の一部(P5~P14)を以下に引用します。 vi) 引用中の「物ごとをだらだらと先送りしたり、仕事にとりかかるのが困難。」や「たくさんの計画が同時進行し、完成しない。」に関連するかもしれない「さっと決められないと,いつまでもぐずぐずしてしまう。やるかやらないかの選択肢の前で,なにもせぬまま時間だけが経っていく(procrastination)。」や「ADHDの人の中には,頼まれると断れない人がいる。(中略)結果的にスケジュールが破綻する。」ことについて「プロセスの始まりと終わりでつまづく」ことを含めて、同本の 第Ⅲ部 精神病理編 の 第9章 不注意の精神病理――「大人のADHD」の症候学 の Ⅶ.「大人のADHD」の精神病理 の「プロセスの始まりと終わりでつまづく」における記述(P224~P225)を以下に引用します。

Ⅱ.「大人のADHD」仮説

成人を対象とする精神科臨床のなかで,その人の困り事がpure ADHDだけで説明可能な患者,つまり標準的なADHD治療だけで困り事が大きく改善するといった患者はほぼいない,というのが筆者の見解である。「大人のADHD」患者はうつ状態,不眠を主訴として精神科を受診することが多く,たいてい適応障害と診断される。うつ状態や不眠は仕事を離れ,薬物治療をするとすみやかに回復する。その後ADHDが見つかり,主診断がADHDに変更され,「ADHD患者」になるとADHD治療薬を主とする治療が開始される。主治医が変更してもいったん「ADHD」診断がつくと治療方針は変わらないのが常である。しかもADHD治療薬の症状緩和効果は一定程度あるのでますます変わりにくい。ところが患者の生活への満足度が大きく向上するケースは稀と言っていいのではないか。その理由として,患者の個別性,多様性が十分に考慮された治療がなされていないことが大きいと考えている。ADHDやその他の発達障害はその遺伝的背景の多様性がきわめて大きい。加えて,定型向けの環境の中で集団に合わせることを強いられる長い学校生活の中で,そしてさまざまな価値感を持つ家庭生活の中で成長する間,それぞれの人格が形成される。またどの程度,その人の特性に合わせたサポートが受けられたかも人それぞれである。成人期で初めてADHDと診断される患者の治療の成否はその多様性にどのようにアプローチするかが鍵だと信じている。その際に筆者が重要と考えるのは,以下の3つの視点である。

視点1:ライフコースあるいは生活史
ADHD特性は児童期に始まり成人期まで持続する6,7)。とはいえ,ADHD症状に注目すると,臨床群および非臨床弾のいずれも,年齢とともに軽症化し6,8),児童期にはフルに診断基準を満たしたケースの大部分で,成人後,閾下レベルまで症状は改善する6)。一万,児童期には閾下レベルだった人が,成人後,仕事や家庭生活における機能障害が顕著となり医療化するケースが増えている。次に示すのは50歳を過ぎて初めてADHD診断と治療を受けた症例である。

○症例 A氏
定年まであと数年を残した会社員男性。管理職となった10年ほど前から超多忙な毎日を送るうちに,飲酒量も増え,仕事でミスが増え,仕事中も何をやっているのかわからない感覚にとらわれるようになった。自分でうつを疑い,初めて心療内科クリニックを受診したところ,ADHDと診断されて中枢刺激薬による治療を受け,数年経った。ところが職場でケアレスミスを指摘される頻度はむしろ増える傾向にあり,産業医の助言で診断の妥当性についてのセカンドオピニオンを求めてきた。本人はADHDと診断されてから調べるうちに,思い当たることが多く,診断には納得しているという。効果については昼間の眠気がなくなったことを挙げた。

ADHD診断が妥当かという点は,すでに両親は他界しており,本人からだけの情報という限界はあるものの,小,中,高校時代のエピソードから多動衝動性を伴わない純粋なADHD不注意症状が一貫していることがわかる。弟は多動性・衝動性が激しく,中学生時代から非行を繰り返していたといい,ADHDの家族歴も濃厚である。ADHDと診断された後にあらためて振り返ってみて,自身のことを「何をやっても中途半端」「惰性で学校に行っていが勉強は一夜漬け」「特にこれといって打ち込むものもなく」「何事も達成したことは一度もない」「言われたことをしているだけ」と評する。これもADHDの人によくあるプロフィールと重なる。それでも,一夜漬け程度の勉強で進学校に入学できるくらい成績はそこそこ良く,親からも学校からも勉強や行動面で指摘を受けた覚えはないという。DSM-5では,症状基準の他,複数の状況で症状が存在するという状況基準,生活面での機能障害があるという機能障害基準,
そして年齢基準をすべて満たさなくては,診断に該当しない。仮に,筆者が子どもの時のA氏を診察する機会があったとして,ADHD症状は認められるものの,完全に診断基準を満たさないことからADHD診断閾下と結論した可能性がある。
今日のエビデンスから,診断の閾値は絶対的ではないことはわかっているが,一般にADHDの人では,ADHD症状が強いと困難度が高く,軽いと困難度は低い。そして年齢とともにADHD症状の程度は軽減することを踏まえると,A氏がなぜ50歳を過ぎてADHD患者として医療化したのかという点は,ライフコースの観点からの考察に値する。単に,診察時点で症状がDSM-5の症状リストを網羅しているからというだけでその人のADHD症状を治療するのか良いとは限らないからである。実際にはそうした過剰な医療化があまりにも多いのは問題である。A氏の変節点をみてみよう。

大学を卒業後,今の会社に入職し,20年ほどは特段問題なく過ごしてきた。職場での評価が変わったのは,昇進後である。「期待はずれ」「この給料なら若く有能な人が2人雇える」などとあからさまに言われる。確かに言われる通りだと自分でも納得してしまう。

要因として考えられるのは,要求される業務の質と量の変化であろう。IQの高いADHDの人は学業成績がよいので 児童期には周囲が支援ニーズに気づかないことはよくある。ところが日本の組織で働くとなると事情はまったく違ってくる。まだ平社員で大きな組織の中での役割が比較的シンプルで明確であれば問題はあまり目立たないかもしれない。しかし管理職(executive)に求められるのは,まさにさまざまな業務の進捗を統括する組織内の実行機能(executive function: EF)である。EFはIQとは別物で,EF不全はADHDに特異的ではないが,平均~高IQのADHD成人患者の訴えには「段取り良く行動できない」「取り掛かりが遅くなる」「優先順位を決められない」というEF不全が非常に多い9)。そして日本の学校成績はIQには鋭敏だが,EFを反映しないし,EFを育てる教育はしない。A氏自身,「言われたことをしているだけで精一杯」とEF不全を自覚している。知能検査のワーキングメモリ課題の低成績もEF不全の反映と考えられた。A氏の場合,彼のポジションから期待される役割とEFレベルが合っていない(履歴書からはわからない)という人-環境のミスマッチが医療化の一因となったのは間違いない。しかしながら検査で示唆される認知機能不全に比して,「できない」という訴えが強すぎる患者は少なくない。その場合,生活習慣の変化にも目を向ける必要がある。

高校生の頃から機会飲酒をたびたびし,大学生になると毎晩のように同級生と飲み歩き,バイト代を飲み代に使っていたという。飲酒習慣は会社に入ってからも続き,昇進後,飲酒量はいっそう増え,毎晩ビール,ワイン,ウイスキーを大量に飲んで酔いっぶれて眠る毎日であったという。

50歳を超えての医療化には加齢や長年の飲酒習慣に関連する脳萎縮や梗塞など脳の変化による認知機能の低下も考えておく必要があるだろう。「不注意症状はADHDに特異的ではない」からだ。A氏はADHDに多い飲酒問題を長く抱えていた。その後の脳MRI検査で軽度脳萎縮を指摘された。それを機に,A氏は認知症の家族の介護をしてきたことから,あらためて自らの生活習慣や転職も含めた働き方について向き合っていこうと考えるようになった。そのうえで,今後の治療計画を,ADHDだけでなくメンタルヘルス全般や認知機能を含めて,見直すこととなった。
主訴に仕事上のミスが語られ,現在,ADHDの不注意症状が認められ,かつ児童期にも遡れるようであれば それ以外の情報が不十分であっても通常診療ではADHDと診断されうるだろう。ここで,複数の要因が関係するADHDにおいては,従来の医療モデルのように症状軽減を目指す治療だけでは不十分で,生活がその人にとって満足いくものとなりうることを目指すホリスティックな視点が必要であることを確認したい。環境がその人の特性に合っているかどうかは,年齢に関係なく大切な視点である。合っていないと,その人の弱みは強調され,やがてホメオスタシスは破綻し,心身を病む10)。A氏のように50歳になるまではなんとか適応を維持できた人が医療化するのに,環境側の変化が大きな意味を持ってくる。
発達障害はライフコースを通して持続するという側面が強調されやすいためか,どのライフステージにあっても金太郎飴のように同じ症状の現れ方をするものと誤解されやすい。それはあくまでも多人数を平均して説明する研究上の話である。一人ひとりの発達軌跡を追跡すると,同じ人でも時期によって症状は大きく変動する11)。Posnerら5)は,ADHDの背景にある行動抑制,モチベーション,セットシフティング,そしてワーキングメモリなどにみられるEF不全は状況依存的にその程度が変勤しやすいことを強調している。実際,「大人のADHD」のなかには,A氏のように管理下で与えられた仕事をこなしていればよかった立場から,executiveな役目への昇進が契機となり顕在化したケースや,逆に,目新しい刺激に満ちたプロジェクトから解放され,通常業務に配置されたことでモチベーションを失い顕在化するケースもある。成人のADHD顕在化には大量飲酒やその他の物質使用の問題が結びついているのも特徴であろう11,12)。

視点2:併存精神障害および併存精神症状
「大人のADHD」が気分障害やアルコール依存や薬物依存,不安症,ASDなど他の精神医学的障害を併せ持っていることは実臨床ではほぼ100%と言っても言い過ぎではない。(中略)

とりわけ,「大人のADHD」の多くが訴える「気分」の浮き沈みをどうとらえるかは大変悩ましい。しかも,彼らの訴えは,不注意や多動・衝動性の中核症状そのものではなく,「気分」の浮き沈みそのものであったり,実際に「気分」の浮き沈みが生活に直接の悪影響を及ぼしていることが多い。彼らの訴える感情の不安定さは,位相性の気分変動を呈する双極性障害で説明可能な場合もある一方で,位相性がはっきりしない広義の双極スペクトラムと捉えるべきか,あるいは出来事への過剰反応としてADHDの部分症状(衝動性)として捉えるべきか,迷うケースもまた多い。ADHDにおける双極性障害の有病率は7.4~80.0%14)と報告によって幅が広いことからもわかるように,ADHDにみられる気分の変動をどのように捉えるかについては研究者によって異なり,まだ一定の見解がないのも事実である15)。
筆者の経験では双極性障害では説明できない「気分」の「浮き沈み」(不安定性)も少なくない。最近のADHDの文献では,感情調整不全(emotional dysregulation:ED)と命名され,ADHD特異的ではないけれども重要な臨床的問題と考えられている16)。次に,典型的なEDを呈する症例を示す。

○症例 B子さん
気分の落ち込みで精神科を受診した40代女性。今の会社には数年前から入ったが,現在の上司と折り合いが悪く,ある出来事を引き金にひどく気分が落ち込み不眠が続いているという。初診時はSSRI少量を処方したが,1週間後に再診したときにはもう症状は消失しており,服薬なしで通常の生活に戻っていた。上級職との話し合いの場で今の上司とのやりづらさを理解してもらえた。また夫のかねてからの希望もあり,今の会社での引継ぎが終われば退職し,夫と地元に戻って新しい仕事を始める方向で気持ちが切り替わったという。そう話すB子さんは初診時と比べて表情豊かで頭の回転の速い人という印象である。
過去に胃部の激痛で救急受診したことは何度かある。ただし,症状は一時的で,翌日から通常の生活に戻ったという。精神科の既往は,数年前に不眠で受診した際,ADHDと診断されメチルフェニデートを内服したことがある。内服時は幾分頭の中のうるさい感じが和らいで仕事がすすみやすかったように記憶しているが,数回通院したのちに中断した。当時から,対人関係などで感情が爆発しそうになると,その場限りの電話相談を常用していたが,今もそれは続けているという。いわゆる定期的なカウンセリングとは違い,一方的にしゃべっているのを聞いてもらうだけなのでスッキリするという。ただし,費用がかかりすぎるようにも思う。
小学校時代はおしゃべりが過ぎると教師によく叱られた。宿題は一度も持って帰らなかった。両親は商売で忙しく,本人は帰宅後,家の手伝いをしていたので,学校のことは嘘でごまかせた。中高は友だちと放課後カラオケに寄ったり,それなりに楽しく過ごした。大学ではサークル活動にだけ熱中した。卒業後,2,3年サイクルで退職,転職を繰り返していた。前の会社では新しいプロジェクトの立ち上げに全力投球で取り組み,その成果を社内で高く評価され昇級し,別の部署に配属後,仕事への情熱がなくなり,退職した。

「大人のADHD」のなかには,B子さんのように慢性的な併存障害がなく,ストレス反応が耐えがたいときに単発的に飛び込んでくる人は多い。そしてストレス反応がおさまると遠ざかるのだがまた忘れたころになってやってきて,またいなくなるというのを繰り返す。それはそれでよいのかどうかについては,追跡研究にもとづく治療予後についてのエビデンスがないのでわからない。B子さんの場合,受診と受診の間は,問題なく,むしろうまくやっていると言う。実際のところは家族や職場の同僚,上司からの情報がないので,本当かどうかはわからない。電話相談を頻繁に利用しているところをみると微妙である。

B子さんと,今何が起きていて,どう対応するのがよいのか,既往歴を振り返り,整理することにした。子どものときに不注意や多動・衝動性といったADHDの中核症状が確かにあった。現在は大分軽減し,それらで支障となっていることはあまりない。その一方で,他者の言動で感情が大きく左右され,振れ幅が大きすぎてコントロールが難しい,あるいは自分でコントロールできない不安を感じている。こうした数々の悩みはEDの問題で,ADHDと関連していることを伝えた。B子さんの対処法,すなわち,単発的な相談や医療の利用では再発予防は期待できないこと,継続的なADHD薬物治療は中核症状だけでなくEDに対しても一定の効果が期待できるかもしれないこと16),を説明した。そしてEDに焦点化した心理治療を併用すると,予防に役立つかもしれないことを伝えた。主治医としてはコストとベネフィットを考えてED治療をすすめるが,最終的にはB子さんの意思決定を尊重すると伝えた。B子さんは後者を選んだ。その選択がよかったかどうかは,今後の彼女の生活の質の変化を見守るしかない。

視点3:スペクトラムと診断閾下
一般医学では,カテゴリカルな診断分類とディメンジョナルなアプローチの異なるアプローチを組み合わせて用いている。(中略)

自閉症の概念がスペクトラムにシフトしてきた経緯にも児童精神医学に根付くディメンジョナルな視点の一例をみることができる17)。(中略)

ASDの診断基準をフルには満たさないけれども,非ASDとの境界近くに位置する人たちには臨床的なニーズはないのだろうか。こうした疑問は研究者たちからよりも,むしろ臨床家の間で関心が高くなりつつある。従来の分類に依拠した保険診療の枠内での対応は手さぐり状態だからだ。疫学研究によると,メンタルヘルスの問題がたとえ診断閾下(subthreshold)であっても,経験した児童青年の予後はそうでない同輩と比べて,成人後に生活上の問題が多く,治療ニーズも高いことがわかっている19)。ASD診断閾下の児童青年の情緒や行動などメンタルケアのニーズが高いこともわかっている17)。ASD閾下とASDとは症状が近似するだけでなく,遺伝率(heritability)も近似するという報告20)もあり,診断境界の妥当性の科学的根拠は希薄となりつつある。
近年,ADHDの診断閾下ケースに対する関心も高まってきた。subclinical,subsyndromal,subthresholdなど呼び方も定義もさまざまであるがADHD診断閾下もADHD同様,精神障害併発のリスクが高い21)。A氏もB子さんも現行の診断基準に従うと,児童期は診断閾下と推測される。二人とも児童期にはそれなりに適応していた。(中略)

現行のADHD診断について,著者らは鑑別について明確な指針を設けないと,原因が何であれEF不全を来たす状態のゴミ箱診断になりかねないと警鐘を鳴らしている11)。

注:(i) この引用部の著者は神尾陽子です。 (ii) 引用中の文献番号「5」は次の論文です。 「Attention-deficit hyperactivity disorder」 (iii) 引用中の文献番号「6」は次の論文です。 「The age-dependent decline of attention deficit hyperactivity disorder: a meta-analysis of follow-up studies」 (iv) 引用中の文献番号「7」は次の論文です。 「Personality traits among ADHD adults: implications of late-onset and subthreshold diagnoses」 (v) 引用中の文献番号「8」は次の論文です。 「Decline in attention-deficit hyperactivity disorder traits over the life course in the general population: trajectories across five population birth cohorts spanning ages 3 to 45 years」 (vi) 引用中の文献番号「9」は次の論文です。 「Executive functioning in high-IQ adults with ADHD」 (vii) 引用中の文献番号「10」は次の論文です。 「Evidence-based support for autistic people across the lifespan: maximising potential, minimising barriers, and optimising the person-environment fit」 (viii) 引用中の文献番号「11」は次の論文です。 「Late-Onset ADHD Reconsidered With Comprehensive Repeated Assessments Between Ages 10 and 25」 (ix) 引用中の文献番号「12」は次の論文です。 「Is Adult ADHD a Childhood-Onset Neurodevelopmental Disorder? Evidence From a Four-Decade Longitudinal Cohort Study」 (x) 引用中の文献番号「14」は次の論文です。 「The prevalence of psychiatric comorbidities in adult ADHD compared with non-ADHD populations: A systematic literature review」 (xi) 引用中の文献番号「15」は次の論文です。 「A systematic review of rates and diagnostic validity of comorbid adult attention-deficit/hyperactivity disorder and bipolar disorder」 (xii) 引用中の文献番号「16」は次の論文です。 「Adult attention-deficit hyperactivity disorder: key conceptual issues」 (xiii) 引用中の文献番号「17」は次の資料です。 「未診断自閉症スペクトラム児者の精神医学的問題」 (xiv) 引用中の文献番号「19」は次の論文です。 「Adult Functional Outcomes of Common Childhood Psychiatric Problems: A Prospective, Longitudinal Study」 (xv) 引用中の文献番号「20」は次の論文です。 「Autism spectrum disorders and autistic like traits: similar etiology in the extreme end and the normal variation」 (xvi) 引用中の文献番号「21」は次の論文です。 「Subthreshold attention deficit hyperactivity in children and adolescents: a systematic review」 (xvii) 引用中の「自閉症の概念がスペクトラムにシフトしてきた」ことに関連するかもしれない「広汎性発達障害自閉症スペクトラム障害の違い」については次の資料を参照して下さい。 「発達障害から発達凸凹へ」の「図1 広汎性発達障害自閉症スペクトラム障害の違い」(P12) (xviii) 引用中の「ED」についてはここも参照して下さい。 (xix) (ADHDの)「DSM-5の症状リスト」については例えば次の資料を参照して下さい。 「注意欠如・多動症(ADHD)特性の理解」の「Table 1 ADHD の診断基準(DMS‒5)」(P29) (xx) 引用中の「ADHDにおける双極性障害の有病率は7.4~80.0%14)と報告によって幅が広いことからもわかるように,ADHDにみられる気分の変動をどのように捉えるかについては研究者によって異なり,まだ一定の見解がないのも事実である」ことに関連するかもしれない、 a) 『ADHDにみられる「気分変動」を双極性障害の症状とみなしてしまう間違いも多いようである』ことについて、岩波明著の本、「職場の発達障害」(2023年発行)の 第2章 ADHDをめぐる誤解――職場でどう接するか の「うつ病などの合併」における記述の一部(P63)を次に引用(【 】内)します。 【また、ADHDにみられる「気分変動」を双極性障害の症状とみなしてしまう間違いも多いようである。このような場合、気分安定薬と呼ばれるタイプの薬剤が漫然と投与され、あまり効果がみられない例が多い。】(注:引用中の「気分安定薬と呼ばれるタイプの薬剤が漫然と投与され、あまり効果がみられない例が多い」に関連するかもしれない「双極症とADHDの見極めは重要である。なぜなら、ADHDの治療に用いられる主剤に、精神刺激薬があるからだ。これらの薬剤は躁症状悪化のリスクに賛否両論あり、リチウムのような気分安定薬を併用しない限り、双極症の患者には通常投与されない」ことについて、デイヴィッド・ミクロウィッツ著、加藤忠史監訳、宗未来、酒井佳永、山口佳子訳の本、「本人と家族のための双極症サバイバルガイド」(2023年発行)の 第3章 医学的評価について――正しい診断をつけてもらうためには? の その診断は本当に正しいのだろうか?私は他の病気ではないだろうか? の「注意欠如・多動性障害(ADHD)について」における記述の一部(P075)を以下に引用します。) b) 「ADHDと類似した双極性障害症状」について、内海健兼本浩祐編著の本、「発達障害の精神病理Ⅳ -ADHD編-」(2023年発行)の 第Ⅱ部 臨床編 の 第5章 ADHDにおける観念連鎖の自律性について――Subclinical Bipolar Disorder仮説 の Ⅱ.文献概観と予備的考察 の「1. ADHD双極性障害の連関」における記述の一部(P90~P91)を以下に引用します。

注意欠如・多動性障害(ADHD)について(中略)

ADHDは通常、幼少期に発症する疾患で、集中困難が特徴的である。多動性や衝動性を伴うADHDの子どもは、そわそわして落ち着き無く、誰かの質問中にもかかわらず待ちきれずに答えを突然口にしたり、椅子にじっと座っていられずに飛び回ったり、おしゃべりばかりしていたりする。これらの症状は躁状態によく似ており、小児期に発症した双極症をADHDと区別すること、あるいは成人の双極症であるのか、それとも小児期に診断されたADHD症状が大人になっても残遣しているのかを区別することは、非常に難しい。両疾患が合併する可能性もある。先行研究では、双極症の成人患者に合併するADHDの割合は9.5-48%の間にあると推定されている。そのばらつき(信頼区間)の大きさは、地域や研究手法の違いもあるが(Harmanciら、2016; Kesslerら、2006)、両者の診断見極めの難しさも物語ってもいるかもしれない。
双極症とADHDの見極めは重要である。なぜなら、ADHDの治療に用いられる主剤に、精神刺激薬があるからだ。これらの薬剤は躁症状悪化のリスクに賛否両論あり、リチウムのような気分安定薬を併用しない限り、双極症の患者には通常投与されない。(後略)

注:i) 引用中の「Harmanciら、2016」は次の論文です。 「Comorbidity of Adult Attention Deficit and Hyperactivity Disorder in Bipolar and Unipolar Patients」 ii) 引用中の「Kesslerら、2006」は次の論文です。 「The prevalence and correlates of adult ADHD in the United States: results from the National Comorbidity Survey Replication

(前略)ADHDと類似した双極性障害症状としては,軽躁病・躁病エピソードの中の「注意散漫(ADHDの中核症状でもある)」「困った結果につながる可能性が高い活動に熱中すること(ADHDの衝動行為と類似)」「気分が異常かつ持続的に高揚し,開放的または易怒的となる(ADHDでも易刺激性や不機嫌は見られる)」「睡眠欲求の減少(ADHDでは多動の結果として入眠時間が遅くなる場合がある)」「多弁(ADHDでも認められる)」と抑うつエピソードにおける「思考力や集中力の減退低下(外面上ADHDの不注意と間違われやすい)」が挙げられる。DSM-5で別々の章に位置づけられていながら症候論的にこれほど似ている組み合わせは「ADHD双極性障害」以外にはないだろう。両者の鑑別が容易ではなく併存が見落とされやすいのも納得がいく。(後略)

注:i) この引用部の著者は芝伸太郎です。 ii) 引用中の「DSM-5」については例えば次の資料を参照して下さい。 「DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)

プロセスの始まりと終わりでつまづく

ADHDがつまずきやすいのは,プロセスが途切れる時である。それにはいくつかの切断点がある。代表的なものは,物事にいざ取り掛かる時である。すっと入れればよいのだが,少しでもためらうと,様相が一転する。立ち止まっているうちに,選択肢が出てくると,決められなくなる。比較検討したり,様子をみたりすることば性分にあわない。さっと決められないと,いつまでもぐずぐずしてしまう。やるかやらないかの選択肢の前で,なにもせぬまま時間だけが経っていく(procrastination)。
彼らはまた,切迫しないと課題にとりかかれない。通常は,物事は計画的に進めるべきであると教わる。しかし,性分にはあわない。それゆえ,なかなか手がつかない。かといって,課題のことを忘れているわけではなく,どこかで気になっている。それがまた課題を重たいものにしてしまう。こうした特性に対して,あえて一夜漬けを奨励する専門家もいる。ある程度能力が高い場合には,有効な対処法となりうる。
ADHDの人の中には,頼まれると断れない人がいる。はずみで引き受けてしまう。引き受けるか断るかを吟味するその宙吊りの状態が苦痛である。あるいは断るよりやってしまう方が楽であるという人もいる。結果的にスケジュールが破綻する。また,引き受けたことは,かりに当初はおもしろそうに見えても,結局は約束事であり,やらねばならぬことである。魅力は失せ,だんだんと負担になっていく。
あるいはプロセスが終わりかけ,そろそろまとめの作業に入る頃も要注意である。山場をすぎて,熟が冷めると,途端に減速したり,手が止まったりする。まとめることはいわゆる積分回路の担当であり,苦手であることが多い。いわゆる「詰めが甘い」と呼ばれる特性である。
プロセスから出た後も要注意である。往々にして,次の行動に移れない。とりわけ大きなイベントのあとでは,不活性な時間が長く続くことがある。対策としては,小さなイベントをその後に予定しておくなどの方法がある。

事例G
20代男性。アーチストとして活動している。物をなくす,スケジュールがこなせない,頻繁に遅刻するなどのことで,周囲からも勧められて,抗ADHD薬の服用をを希望して受診した。服薬後は,不注意症状は明らかに減少した。また作品のキャプションや小論文なども,手際よくまとめることができるようになった。
他方,制作については,他人の評価が気になって,アイデアが出ず,作品もフラットなものになってしまったとのことであった。結局,服薬はデスクワークの多い時に,スポットで行うことになった。

ADHD的な生き方は,プロセスのさなかで輝く。「自分」などという重力場のようなものなどは,あまり出てこない方がよいのだろう。他方,実際の生活では,そうもいっていられない。そしてまた,意識や注意にリズムがあるように,プロセスの中にいつまでも浸り続けるわけにはいかない。これは彼らが社会の中で生きる上でのジレンマである。

注:i) この引用部の著者は内海健です。 ii) 引用中の「抗ADHD薬の服用をを希望して受診した。服薬後は,不注意症状は明らかに減少した。また作品のキャプションや小論文なども,手際よくまとめることができるようになった。他方,制作については,他人の評価が気になって,アイデアが出ず,作品もフラットなものになってしまったとのことであった。」に関連する「クリエイティビティとADHD症状はトレードオフの関係にある」については次のエントリを参照して下さい。 「内海健『ADDの精神病理』から考える。その② - すずろーぐ」の「ADHD症状とクリエイティビティのトレードオフ」項 iii) 引用中の「積分回路」についてはここ及び次の資料を参照して下さい。 『「人間の壊れるとき」に関わる微分 -人間の病理性と創造性の狭間を問う-』の「2. メイン概要」項

⑦ 同の 第7章 治療 の「疾患の理解が重要」における記述の一部(P174)を次に引用します。

成人のADHDの治療の前提として重要であるのは、ADHDという疾患の理解である。つまり、①自分自身のADHDによる行動特性を理解し、②その行動特性を肯定的に受け入れて、さらに、③その行動特性を変化させるために立ち向かう気持ちを持つ、ことである。
多くの患者はこれまでの人生において、「だらしがない」「真剣に物事に取り組もうとしていない」などと周囲から非難され、自己否定的な思いにとらわれている。けれどもこういった点が本人の「やる気」の問題ではなく、ADHDという疾患によるものであることを認識することで、仕事や人生への取り組み方に大きな変化が生じる。これは本人だけでなく、周囲の家族の問題も大きい。家族がADHDを理解することによって、本人の受けるストレスが減り、精神症状が安定する例も多い。

⑧ 同の 第7章 治療 の「心理社会的治療」における記述の一部(P196~P198)を図表も含めて次に引用します。

(前略)
ADHDの治療薬は、「不注意」「多動、衝動性」などの臨床症状に有効性は高く、注意力、集中力の改善をもたらすが、これだけで必ずしも彼らの生活全般が改善するわけではない。成人のADHD患者は、さまざまな症状によって不適応状態になりがちであるが、彼らなりの「方法」で状況を乗り切っていることが多く、自分なりの対処行動はパターン化されているため、簡単に変えることは難しい。
図表7-6に、成人期のADHDでみられる認知面での問題点(歪み)について示した(樋口輝彦他編『成人期ADHD診療ハンドブック』じほう)。また図表7-7には、ADHDの人がしばしば用いる対処行動(補償方略)について示した(同前)。
認知行動療法は、患者本人にこのような自らの認知面での問題点について自覚してもらい、そのパターンを変えるようにすることで、適切な対処行動を身につけていこうとする治療法である。患者本人が自らの認知の歪みと悪循環となっている行動パターンに気がつき、対処方法を治療者とともに考案することを繰り返すことが必要となる。
ADHDの治療のゴールとしては、長期的には症状の改善にとどまらず、生活上の困難さを改善すること、さらに患者の能力を十分に発揮できるような状態をもたらすことが必要である。特に、症状が慢性化し社会的な不適応が長期にわたるケースにおいては、薬物療法のみでは十分でなく、認知行動療法などの併用が望ましい。


図表7-6 成人期のADHD患者に一般的にみられる認知の歪み

過度の一般化:特定のミスから一般的な結論を出したり、元々のミスと関係があろうがなかろうが、その結論を他に状況に適用すること

魔術的思考:問題解決を自分が制御できないこと(例えば、運)に過度に頼ること(「適切な用量の薬物療法を受ければ、すべての問題を解決できる」)

相対的思考:他人と比較して自分がどれほど上手くできているかで自分を評価する(「試験で時間を延長してもらう必要があるのはクラスで私だけだ。私は大学についていけないだろう」)

公平さの誤認:すべての点で人生は公平であるべきだという信念(「教科書を1章分読むのに、ルームメイトよりも時間がかかるなんて公平じゃない」)

全か無か思考:起きたことを二分して、黒か白のようにみる傾向(「私のスーパーバイザーがいくつかの項目で『改善の必要がある』と書いていた。私がやったことは全くダメに違いない」)

読心術的推論・占い:確固たる証拠もないのに、他者が当人を否定的に捉えており、状況が悪化するだろうと推論すること(「きっと同僚は私を信用できないと思っている」)

べき思考:自分自身や行動の一側面に関する非現実的で非適応的な規則をつくる(「座って考えたりせずに私はスケジュールの優先順位を付けるべきだ」)

不適切な非難:不公平な自分や他者への叱責とその他の要因の見落とし(「彼女は私がADHDであることを理解すべきであり、デートをすっぽかしたことを怒るべきではない」)


図表7-7 成人期のADHD患者に一般的にみられる補償方略

予期的回避/先延ばし:未解決の課題の困難度を拡大視してしまい、自分がその課題を完遂する能力に疑いをもつ。結果として、先延ばし行動を合理化する。

瀬戸際政策:課題を完遂することを最後の最後まで待つ傾向。締め切りが差し迫ってやっと完遂する

課題のジャグリング:その前から始めた計画の進展がないにもかかわらず新しくて刺激的なことに取り組み、「精力的で生産性が高い」と感じる。

疑似成功感:優先順位の低く簡単な課題をいくつか終わらせて、優先順位の高い難しい課題(例えば、仕事の報告書を書き終える)を回避する

禁欲主義的思考:生活上の望ましい変化の見込みを過度に悲観的にとらえることで、平然と置かれた状況を受け入れる

注:i) 引用中の図表は引用者により形式を変更しています。 ii) 引用中の「信念」に関しては、例えば次のWEBページを参照して下さい。『考え方の根っこにある「信念のルーツ」をひもとく - apital

加えて、同の 第7章 治療 の「認知行動療法」における記述の一部(P198~P200)を図表の一部も含めて次に引用します。

認知行動療法を行うにあたり、成人のADHDに特化した認知行動モデルが、サフレンらによって提唱されているが、これを図表7-8に示した(樋口輝彦他編『成人期ADHD診療ハンドブック』じほう)。この認知行動モデルでは、生活上の機能障害が生じるのには、二つの経路があると仮定されている。一つはADHDの症状によって、行動面における対処法を有効に活用できないために、さまざまな機能障害が起きるという経路である。もう一方の経路では、ADHDの主症状によって失敗経験を繰り返すために否定的な認知や信念を持ちやすくなり、その結果として抑うつや不安などの精神症状が出現し、結果として機能障害が起こるというものである。
このような機能障害を防ぐためには、ADHDの症状を投薬によってコントロールするとともに、具体的な生活場面における対処方法を身につけ習慣化していくような継続的な努力が必要となる。これには、患者と治療者の共同作業が重要である。
認知行動療法の最終的なゴールは、①自己マネージメントのスキルや対処行動を身につけ、症状をコントロールできるようにする、②自尊心、自己肯定感を持てるようになる、③注意力や感情調整のスキルを向上させる、ことなどである。
また小貫らは、ADHDに必要とされる社会生活上のスキルとして図表7-9に示すものをあげている(小貫悟、名越斉子、三和彩『LD・ADHDへのソーシャルスキルレーニング』日本文化科学社)。これらは小児を対象に検討されたものであるが、成人のADHDにも共通しており、認知行動療法などを通じて改善をはかることが必要となる。


図表7-9 ADHDに必要なスキル

1.集団参加行動
ルール理解・遵守、役割遂行、状況理解
2.言語的コミュニケーション
聞き取り、表現、質問と回答、話し合い、会話
3.非言語的コミュニケーション
表情認知、ジェスチャー、身体感覚
4.情緒的行動
自己の感情理解、他者の感情理解、共感
5.自己・他者認知
自己認知、他者認知、自己-他者認知

注:i) 引用中の「図表7-8」の引用は省略しています。 ii) 図表7-9は引用者により形式を変更して引用しています。 iii) 引用中の「信念」に関しては、例えば次のWEBページを参照して下さい。『考え方の根っこにある「信念のルーツ」をひもとく - apital』 iv) 引用中の「共感」については次のWEBページを参照して下さい。「共感 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「サフレン」が筆頭著者である引用中の「認知行動療法」についての論文(全文)例は、拙訳はありませんが次を参照して下さい。 「Cognitive Behavioral Therapy vs Relaxation With Educational Support for Medication-Treated Adults With ADHD and Persistent Symptoms」 vi) 引用中の「認知行動療法」に関連するかもしれない(大人のADHDにおける)「うまく生活していくための原則」について、中島美鈴著の本、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(2018年発行)の 第3章 ADHDの診断と治療 の 薬に頼らないADHD治療 の「うまく生活していくための原則」における記述(P112~P115)を次に引用します。

ADHDの診断を受けた人やADHDタイプの人がうまく生活していくためには、三つの原則があります。
ひとつ目の原則は、自分のADHDの特性を受け入れることです。
自分の特性を受け入れるには、まず一般的なADHDの症状について知る必要があります。その次に、その中で自分にあてはまる症状は何かを見つけていき、今の困りごとがどの症状で説明できるかを理解していくことになります。
こうして、これまでは「怠けだ」とか「だらしない」と思っていた自分の行動について、本人も、周囲の人も、本人の失敗を怠け癖や教育の不足といったことで責めるのではなく、できないことは実はADHDのために起こっていたのだと受け入れて、理解していきます。このような心理教育を受けることで、ADHDについての理解はより一層深まることになります。このプロセスで大事なのは、本人の自尊感情を傷つけないということです。
二つ目は、その人に合った対処法があるということです。
ADHD症状が生活にもたらす影響は多岐にわたるかもしれません。しかし、遅刻をしない、忘れ物もしない、人の話を最後までよく聞くことができる、仕事も計画的に進められる、先延ばししないで物事を何でもテキパキとこなすことができる、家は常に片づいている、早寝早起き、栄養のバランスのとれた食事を摂ることができている…‥ADHDの人がこのような生活を目指して、すべての困りごとに対処策を講じる必要はあるでしょうか。
たとえば、そもそも自炊はしない主義の人なら食事を作ることを目標とせず、外食店を複数確保することの方がフィットします。それでも栄養面にこだわるのなら、外食店やお店のメニューを取捨選択すればよいのです。
忘れ物が多く、工夫をしても完壁に忘れ物をしないようにするのは無理という人なら、バッグや行先に備えをしてリカバリーするという方法もあります。
こうするべきという正解はありません。自分が生きやすくなる方法を考えるのが基本です。それが一番囲っていて、改善したいと思う部分から始め、そのやり方も個々のライフスタイルに合わせたやり方でよいのです。                         1
三つ目は「普通」になることを目指さないということです。周囲の人であれば、ADHDの診断を受けている人やADHDタイプの人に自分と「同じ」を求めないということです。
ここで言う「普通」とは、ADHDではない人基準の「普通」です。違うのだということをお互いに受け入れることで、神経をすり減らすのをやめることができます。
そして、ADHDの診断を受けている人やADHDタイプの人には、ADHDではない人にはない特性があります。得意不得意のでこぼこがあったとして、それを平らにならすことは、大変苦しいことですし、もったいないことです。自分らしさを削り取ってしまいます。
ADHDの人の中には「自分はマイナスだ。これをどんなにがんばってもがんばってもやっと0になるだけ。普通の人がなんにも意識しないで0ができるのに!」と言う人もいます。こんなふうに考えながら日々生きていくには、人生はあまりに長過ぎます。
「私には、ほかの人にはまねできないよいところがある。でも苦手なことのせいで、ずいぶん足をひっぼられて、本来のよいところまで埋もれてしまうこともある。自分を活かすために、ちょっとだけ苦手なところを埋め合わせるんだ。それさえできれば、私はうーんとプラスなんだ」と考えることはできないでしょうか。
自分の何が良いところなのかを自覚できないと感じている人もいると思いますが、ほかの人にはものすごく苦痛に感じることが、自分にはまったく苦にならないことだったという経験を持つ人もいるのではないかと思います。
周りの人から「よくそんなこと続くね」とか「真似できないわ」と言われたようなことがそれにあたります。自分のよいところ、自分にしかできないことは、もうすでにやれていることかもしれません。そうしたものを、ぜひ見つけていただきたいと思います。そうして、自分を信じ、対処法は自分が活躍するための補助的なものであると認識して実践していくことが大事です。
このように、ADHDに悩む人や、そういう人を抱える周囲の人がADHDの心理教育を受けるということは、知識や情報を増やすこと以上に、自尊感情を取り戻し、豊かにするという点でとても意味があることなのです。

(b)中村和彦編著の本、「大人の ADHD 臨床 アセスメントから治療まで」(2016年発行)からの複数の引用を以下に紹介します。
① 同の 第4章 大人の ADHD の鑑別診断 の「1. ADHD の概念」における記述(P42~P43)を次に引用します。

1.ADHD の概念

本邦において 2005 年 4 月に施行された「発達障害者支援法」の発達障害の定義には ADHD が含まれているが(法第 2 条第 1 項),DSM や ICD などの国際的診断分類における歴史的経緯を見ると,ADHD は児童期の症候群的な色彩が色濃く反映され,明確には発達障害として扱われてこなかった。ところが,成人期でも ADHD 症状を認める報告が相次ぎ,児童期に特化した症候群的位置づけの変化を余儀なくされつつある。すなわち,成人期にも ADHD が認められるかという問題を契機に,ADHD発達障害として扱うべきかどうかという問題に直面することとなった。
そもそも,発達障害という概念を認めた趣旨は,後天的な発症起点がある程度明らかであり,寛解と再発を繰り返す一般的な精神障害と峻別すべき疾患群を認める必要性があるからである。すわなち,生来的な脳機能の障害であり,生涯にわたりその人の社会的な適応に強い影響を及ぼし続けていく可能性のある偏りや傾向を有する疾患群を包含する概念が,現在の発達障害概念であると思われる。確かに,自閉スペクトラム症*(自閉症スペクトラム障害,Autism Spectrum Disorder: ASD)と比較すると,ADHD は症候群的要素が強いことは否めないが,今日では生来的な脳機能障害に起因することはほぼ明らかになりつつある。また ADHD は,世代によって顕在化する症状の変化はみられるものの,寛解と再発を繰り返す一般の主要な精神障害とは明らかに一線を画するべきものであり,むしろ終生その人個人の生活に影響を与え続ける因子の 1 つとして捉えるべきである。したがって,発達障害という用語がふさわしいかどうかは別途検討が必要であるが,少なくともそのような疾患群を包含する概念の存在は精神医学的診断分類を考えていく上で重要なことであり,ADHD発達障害に属するものと考えられ(三上・松本, 2009; 齊藤, 2007),DSM-5 では,ADHD は Neurodevelopmental disorder(神経発達症)の項目に含まれている。
そうであるならば,発達障害は中枢神経系の障害という生物学的基盤を有することから,児童期に特化した疾患ではない。当然のことながら,発達障害を有する子どもは思春期を迎え,やがて青年期に至り,人生のさまざまな場面で問題が顕在化し得ると考えられる。すなわち,ADHD発達障害と捉えるからこそ,当然に成人期以降にも問題となり得ると考えられる。
また,成人期 ADHD の90%以上に不注意症状を認めるとする報告があり,成人期 ADHD では,不注意症状が中心となる(朝倉ら, 2003; Kessler et al., 2010; Wilens et al., 2009)。これは,就学期に必要とされる能力が記憶力中心であったのに対し,仕事の場面では実行機能に関わる事務処理能力が中心となり,業務に優先順位をつけ効率よく処理することにつまずき,日常生活に支障をきたすことで受診につながることが理由の 1 つとして考えられる。なお,本邦での受診理由としては,自分は ADHD ではないだろうかと考え,医療機関を訪れるケースが少なくないことが特徴の 1 つである(朝倉, 2011; 朝倉ら, 2003)。患者は,自分白身で思い当たる節があり医療機関を受診するのであって,多くは不注意,多動性-衝動性といった ADHD における中核症状,もしくはそれと類似した症状を呈している。先にも述べたが多動性,不注意,衝動性というキーワードのみで安易に ADHD と診断することは,不適切な薬物療法を招くことにもなりかねないだめ,適切な診断を行うことが重要である。そのためには,類似した症状を呈する身体疾患,他の精神疾患ASD との鑑別を行うことは必須であると考えられる。

注:i) この引用部の著者は山田圭吾・三上克央・松本英夫です。 ii) 引用中の「*」は DSM-5 による病名を示します。 iii) 引用中の「三上・松本, 2009」は次の本です。 「三上克央・松本英夫 2009 診断基準(ICD, DSM).市川宏伸・鈴村俊介(編集):日常診療で出会う発達障害のみかた.pp.2-10,中外医薬社.」 iv) 引用中の「齊藤, 2007」は次の本です。 「齊藤万比古 2007 注意欠陥/多動性障害は発達障害圏の中に包括し得るのか? 精神医学,49:571-573.」 v) 引用中の「朝倉ら, 2003」は次の資料です。 「Adult AD/HDの臨床的研究 -臨床的特徴と診断における問題点を中心に-」 加えて、「朝倉, 2011」は次の資料です。 「朝倉新 2011 診療所におけるAdult AD/HDの臨床について.児童青年精神医学とその近接領域,52:406-410.」 vi) 引用中の「Kessler et al., 2010」は次の論文です。 「Structure and diagnosis of adult attention-deficit/hyperactivity disorder: analysis of expanded symptom criteria from the Adult ADHD Clinical Diagnostic Scale」 vii) 引用中の「Wilens et al., 2009」は次の論文です。 「Presenting ADHD symptoms, subtypes, and comorbid disorders in clinically referred adults with ADHD」 viii) 引用中の「DSM-5」のみならず「ICD-11」(例えば参照)においても「ADHD は Neurodevelopmental disorder(神経発達症)の項目に含まれている」ことについては次の資料を参照すると良いかもしれません。 「ICD-11における神経発達症群の診断について ――ICD-10との相違点から考える――

加えて、「ADHD の病態モデル」について、大阪大学大学院連合小児発達学研究科監修の本、「発達障がい 病態から支援まで」(2022年発行)の 1 序論・総論 の 1.2 症候学と経過 の 1.2.2 注意欠如・多動症ADHD) の「b. ADHD の病態モデル」における記述(P6~P7)を次に引用します。

ADHD の病態には実行機能系と報酬系の機能障害が 2 系統あることから,その病態モデルは dual pathway model と呼ばれた.のちに、時間管理機能の障害も加え 3 系統の triple pathway model と発展している.近年,情動の制御異常も加えられるようになっている.前頭前野によるトップダウンシステム(感情,行動,思考を制御)の不十分さ,辺縁系ボトムアップ扁桃体の過活動により,刺激に対して怒りや逃避のような原始的な反応)の強さのアンバランスともいえるかもしれない.しかし,いずれの機能障害も揃っている.ADHD 児者はむしろ少ないとされる3).
1) 実行機能系の機能障害
高次のトップダウンの認知処理過程である実行機能系の機能障害は抑制欠如になる.前頭前野におけるドパミンノルアドレナリンの調節が不十分で,作業記憶や認知機能が障害される.目的達成のため,計画,順序立て(衝動的な行動を抑制),シフティング(課題を柔軟に切り替える)などまとめる作業に障害がある.目的達成や課題遂行ができず,他に注意がそれて,衝動的な行動になる.
2) 報酬系機能障害
いわゆる「待つことが嫌い」な遅延報酬の嫌悪があり,将来的に獲得できる報酬を見据えるよりも目先の報酬を優先させてしまう.報酬系の賦活不全のほか,報酬への感受性の異常も指摘される.待つことの苦手さがゆえに,衝動的な行動になる.
3) 時間管理機能の障害
時間感覚(タイミング)が乏しいがゆえに,順序立てができない.起床困難,遅刻,何か夢中になるとどれだけ時間が過ぎ去ったか時間感覚のずれなどにもなる.
4) 情動の制御異常
情動刺激への反応のトップダウンの制御に困難があると考えられ,易刺激性・易怒性,道徳性コントロールの欠如となる場合もある.

注:i) この引用部の著者は小坂浩隆です。 ii) 引用中の文献番号「3)」は次の論文です。 「Beyond the dual pathway model: evidence for the dissociation of timing, inhibitory, and delay-related impairments in attention-deficit/hyperactivity disorder」 iii) 引用中の「情動の制御異常」に関連する「情動調節障害」についてはここも参照して下さい。 iv) 引用中の「遅延報酬の嫌悪」に関連する「遅延報酬の回避が著しくなる」ことについて、内海健兼本浩祐編著の本、「発達障害の精神病理Ⅳ -ADHD編-」(2023年発行)の 第Ⅰ部 エキスパート編 の 第3章 ADHDのある人の「動機」の構造 の Ⅱ.ADHDの「こじれ方」 の「3. 刹那主義と自暴自棄」における記述(P44~P45)を以下に引用します。加えて、上記「遅延報酬の嫌悪」に関する問題かもしれない「内省の困難」について、同本の 第Ⅲ部 精神病理編 の 第9章 不注意の精神病理――「大人のADHD」の症候学 の Ⅶ.「大人のADHD」の精神病理 の「内省の困難」における記述(P214~P217)を以下に引用します。

3. 刹那主義と自暴自棄

遅延報酬の回避が著しくなると,生活は極めて刹那的となる。今この瞬間の刺激と快楽を求める傾向が強くなり,将来の報酬のために投資する活動,つまりは持続的な努力や貯金といった現在よりも将来の価値を優先する活動を行うことが難しくなる。これは浪費的な消費活動,肥満,危険なスポーツや自動車やバイク,自転車の運転,妊娠や性感染症,犯罪被害のリスクの高い性的活動,違法な薬物の使用や触法,犯罪行為などに繋がってしまう。
こうした生活のスタイルは周囲からは自棄的に見られ,やけになっているように受け止められる。「どうせ自分の人生は将来ろくなことにならないんだから,今この瞬間が刺激的で楽しければそれでいいんだ」というように。やけっぱちの状態からの回復には,周囲の人々や支援者の根気のよい関わりが必要となることが多い。しかしこうしたやけっぱちに見える状態は,質の良い対人関係を損ない,同じような自暴自棄的な人達との関係しか得られなくなったり,時には強い孤立の状態に追い込まれてしまうことにも繋がる。また回復のプロセスの中での当事者の負担も非常に大きなものとなりやすい。支援者には繰り返される自棄的な失敗を越えて,継続して関わり続ける姿勢が求められる。
ここまで見てきたように,ADHDのある人がこじれていくとき,そこにはある種のカスケードがあるのだ。最初は生得的な実行機能,遅延報酬,時間処理の障害から始まった小さな小川が,連なる滝のように悪い方へ悪い方へ連鎖し,結果としてADHDのある人達のQOLを著しく低下させることとなる。この源流にあたる個々の生得的な特性は,それ自体は単なる個体差,多様性の表れであると考えることもできるのだが,下流では大きな困難の大河となって流れていく。このように考えるとADHDの病理の本質は,その生得的な特性よりも,むしろそこから始まる悪循環を停められない,避けられないことにこそあるのかもしれないとも思われてくる。

注:この引用部の著者は吉川徹です。

内省の困難

他人から批判されることを恐れる一方,立ち止まって自分自身を振り返ることもまた苦手である。軽やかで,瞬発力があり,出たとこ勝負,行き当たりばったりの方が性分に合う。内省は彼らの本領になじまない。
内省は,それが次に役立てられるにしても,自分のいたらぬところ,まちがったところを見出すためのものである。それゆえ,たいていは「自分が悪い」という帰結に至る。この自己否定の影がちらつくと,彼らは即座に内省を振り払う。
この機制は,ADHDにおける神経学的に主要なpathwayの一つである報酬系の問題であると説明されるかもしれない。すなわち,「内省によって将来より大きなリターンを得ることよりも,内省という面倒な作業を回避するという目の前の利得の方が優先される」という具合に,である(遅延報酬嫌悪)。ただし,これは定型者とADHD特性のある個体の間で,内省という作業に伴う労苦が同程度であるということが前提となる。おそらくはADHDの方が圧倒的にハードなタスクとなるだろう。また,実際,内省がリターンを生むかどうかは,かならずしも保証されていない。まったく内省しないのは,あまりよい結果をもたらさないだろう。ただし,彼らの求めるスリルが内省にはない。
もう一つ,神経学的な説明の候補としては,実行機能系のpathwayがある。バークレイ13)によると,実行機能とは「目的を達成するために,一定期間にわたって,自己制御(self-regulation)のために用いられる一揃いのさまざまな精神的機能」のことである。非常に幅の広い概念であり,内省もそこに含まれるだろう。ただし,バークレイのいう実行機能は,プライマリーには行動抑制(behavioral inhibition)のことであり,のちにワーキング・メモリーが加えられた。
ADHDにとって内省が厄介なのは,それが「自分」をそこにひきずりこむということである。自分というものの質量の軽い彼らにとっては,全面的に反省モードに浸される危険がある。すんだことはすぐに忘れて,つぎに行く方が,本来,彼らの性分に合っている。
とくに他人から指摘を受けることに対しては忌避感が強い。ADHD特性のある個体にとって,もっともdistractiveであり混乱させる要因となるのは,他人である。あわてて弁明したり,意固地になったり,聞いているようにみえてまったく聞いていなかったりなど,内省回避のためのさまざまな反応を示す。

事例A
40代男性。昇任したあと,仕事のやり方に問題があると後輩に批判されてから,出社できなくなり,クリニックを受診して「うつ状態」と診断された。
普段は活動的であり,いつもバタバタと走り回っている。仕事上のミスは目立たないが,一見テキパキこなしているようにみえて,それほど効率がよいわけではない。割り切りが早く,あまり物事を深めることはない。人から何か指摘を受けると,慌てたように矢継ぎ早に弁解を繰り出し,長口舌となり,相手が喋るタイミングを与えず,不興を買う。
自宅療養中は,行動抑制はまったくみられず,家事,子育て全般を引き受け,家族からはありがたがられていた。ところが,リワーク・プログラムが導入された際に,「ふりかえり」というセッションがあり,どうにもつらくなって,通院を中断した。最終的には職階の見直しと仕事内容の調整によって,復職にこぎつけた。

逆説的だが,内省が過剰になる事例もある。とくに多動/衝動性を伴う事例では,ある年齢までは屈託なく,当たり前とやっていたことが,人から批判されたり,人を傷つけるものであるとわかったりしたことなどが契機となる。一転して内向的となり,時として痛ましいほどに内省的なモードに染め上げられることもある。この場合,内省は先に向けて展開する契機をほとんど持っていない。

事例B
20代女性。幼稚園から小学校低学年までは,気が強く,明るく,活発だった。その後,学校の人間関係で悩んでいるように見受けられ,「人が離れていく」「(自分が以前とは)別の人になっちゃった」などと漏らすようになり,以前とはうってかわって陰気になった。中学時代には教員と相性が悪く,そのころから「みんな私が悪い」というのが口癖のようになった。
大学に入ると,同級生との関係で「気持ちのコントロールができなくなり」,ラボに通うことができなくなった。気分の沈みや身体的な不調が遷延し,口癖のように自分を責めるが,ふとした言葉の端や表情に,気性の激しさが垣間見られることがある。頭の中では,考えがつねにわいてきて,ぐるぐる回っている。好きなもの以外は,タスクに集中できず,自分の考えが入ってくる。空気の流れ,振動,音,人がいるという雰囲気,目の端に人が映ること,目のヘリへの刺激などがdistractionのきっかけとなる。

注:(i) この引用部の著者は内海健です。 (ii) 引用中の文献番号「13)」は次の本です。 「Barkley, R. A.: Executive Functions: What They Are, How They Work, and Why They Evolved. Guilford Press, New York, 2012.」 (iii) 引用中の「distraction」とは「横道に逸れること」であることについて、同『第9章 不注意の精神病理――「大人のADHD」の症候学』の「Ⅰ. 注意という機能について」における記述の一部(P201)を次に引用(『 』内)します。 『ジェイムスによると,注意の機能とは,焦点化(focalization),そして集中(concentration)であり,注意の障害とは気が散ること,横道に逸れること(concentration)である注3)。』(注:a) この引用部の著者は内海健です。 b) 引用中の「注3)」における記述内容[P201]を次に引用[【 】内]します。 【注3) ジェイムズの記述の中には,distractionの結果としての混濁した意識様態も取り上げられており,ADDの臨床像と重なる。】 c) 引用中の「ジェイムスによると,注意の機能」に関連するかもしれない「注意という語は日常的に用いられる用語ですが、心理学の立場からは、すでに今から100年ほど前に、ウィリアム・ジェームスによって説明されている」ことについて次のWEBページを参照して下さい。 『「チ」 - 「中高生のための認知心理学基本用語」』の「注意(attention>」項) (iv) 引用中の「内省」に関連するかもしれない、 1) 「We find that reflective thinking is a significant predictor of conspiracy beliefs, such that individuals who think reflectively are less likely to believe in both generic and specific con-spiracy theories.[拙訳]反省的思考は陰謀論信念の重要な予測因子であり、反省的思考をする個々人は一般的な陰謀論と特定の陰謀論の両方を信じる可能性が低いことがわかった。」ことについては次の論文(全文)を参照して下さい。 「Reflective thinking predicts lower conspiracy beliefs: A meta-analysis」の「4.4 Conclusion」項 ちなみに、上記「反省的思考」(Reflective thinking)についてはWEBページ『D・ショーンの「行為の中の省察」とデューイの「反省的思考」』にリンクされている資料『D・ショーンの「行為の中の省察」とデューイの「反省的思考」』を参照すると良いかもしれません。 2) 加えて、「The implications of these findings suggest that reflective thinking does not amplify factors that strengthen belief in conspiracy theories. Instead, fostering reflective thinking appears to be an effective strategy for reducing conspiracy beliefs.[拙訳]これらの知見の含意は、熟慮的思考が陰謀論における信念を強める要因を増幅しないことを示唆する。それどころか、熟慮的思考を養うことが陰謀論信念を減らすための有効な戦略であるように思われる。」ことについては拙訳はありませんが次の論文要旨を参照して下さい。 「The moderating role of reflective thinking on personal factors affecting belief in conspiracy theories」 ちなみに、同論文要旨に関連する Preprint の日本語訳版「陰謀論信念に影響を与える個人要因に対する熟慮的思考の調整機能の検討」はWEBページ「陰謀論信念に影響を与える個人要因に対する熟慮的思考の調整機能の検討」にリンクされています。 (v) 引用中の「他人から指摘を受けることに対しては忌避感が強い」ことに関連するかもしれない『躁的防衛の基本的な機制(メカニズム)は「否認」である。否認の対象となるのは,先述したように,羞恥であり,そして自分の弱さである。とりわけ,人から指摘を受けたり,批判されたりすることを忌避している。』ことについて「あえていうなら,ADHDは躁的防衛に親和性をもつ」ことを含めて、同『Ⅶ.「大人のADHD」の精神病理』の「躁的防衛」における記述(P222~P224)を次に引用します。

先に「内省の困難」の項で,自己否定の影がちらつくと内省を振り払うと述べたが,ADHDの場合,基本心性は罪悪感の手前にある羞恥にある。それゆえ,対象関係論の文脈では,ADHDは罪悪感を核とする抑うつポジション未然である。もちろん,あくまで対象関係論の文脈での話であり,通常心理として彼らが罪悪感を持たないということではない。
あえていうなら,ADHDは躁的防衛に親和性をもつ。ただしプライマリーには罪悪感への防衛ではなく,彼らの本性に近い。あえて防衛であるというなら羞恥に対するものだろう。とはいえ,このことは罪悪感より羞恥が未熟な感情であるということを意味するものではない注7)。
それほど屈折せず成長した場合には,このポジションについていわれる支配(control),征服感(triumph),軽蔑(contempt)といった対人的な側面16)は目立たない。仮に児童のADHDについてよくいわれる「ひとなつこくて,承認欲求が強い」というタイプを原型とするなら,その裏返しとして「恥ずかしがり」の心性があり,そこから「痩せ我慢」といった形で,躁的防衛に親和的な性格形成がなされるだろう。
躁的防衛の基本的な機制(メカニズム)は「否認」である。否認の対象となるのは,先述したように,羞恥であり,そして自分の弱さである。とりわけ,人から指摘を受けたり,批判されたりすることを忌避している。

事例F
50代男性。技師としてある部門のリーダーを務めている。彼自身の分析によると,子どもの頃は父親に厳しくしつけられ,権威というものにコンプレックスがあるという。自分が英語を苦手とするのは,父が英語の教員であったからだと言い,技師になる際も,当時は日本語だけで通用していた分野を選択した。
それなりに腕はよく,マイペースで手際もテキパキとしているが,手技が古くなってもそれを墨守して,なかなか変えようとはしなかった。英文の文献は一切読まない。対人交流はワンパターンで,上から言われたことは,型通りに遵守する。
気性は基本的に陽気であり,仲間相手に冗談や軽口を繰り出し,自分で笑っている。人の話を最後まで聞かずに返答し,時々見当違いの事態を引き起こす。部下からは「脊髄反射」,「粗忽」などと評されている。もともと立ち止まって物事を深く考えることは苦手のようである。そうしなければならない時には,若干抑うつ的なたたずまいになるが,長くは続かない。思いつきで打開策を繰り出し,急場を凌いでいる。まわりはそれに振り回される。いつも大学ノートを小脇に携え,大きな文字で,そのつどto do listを作成し,会議では,部下を前にして,それを独り言のように述べ,漏れがないかチェックしている。

注:i) この引用部の著者は内海健です。 ii) 引用中の「注7)」における記述内容[P222]を次に引用(『 』内)します。 『注7) この偏見は,欧米の文化にかなり根強い。ブルーチェクは,「欧米のshameをネガティブにみる文化では,恥に対して,counter-shame behaviorあるいはナルシシズム的解決が図られる」と述べている。(Broucek, F. J.: shame and its relationship to early narcissistic developments. The international journal of Psychoanalysis, 63(3): 369-378, 1982)』 iii) 引用中の文献番号「16)」は次の本です。 「Segal, H.: Introduction of the Work of Melanie Klein. The Hogarth Press. London. 1972.」 iv) 引用中の「否認」に関連する『躁的防衛は軽躁の精神病理によく当てはまる。その根幹をなす機制が「否認」である』ことについては引用中の「対象関係論」を含めて他の拙エントリのここを参照して下さい。 v) 引用中の『「内省の困難」の項』についてはここを参照して下さい。

② 同の 第5章 大人の ADHD の併存障害 の「1. 併存症と性差」及び「2.ADHD と併存障害」における記述の一部(P56~P58)を次に引用します。

1.併存症と性差

小児・児童期の ADHD と異なり,成人期の ADHD は有病率に大きな性差はなく,性差を考えることは重要ではないようにみえるが 成人の ADHD の診断および治療を行う際には性差を考慮することは非常に重要である。現在でも女性の不注意優勢型は過少診断されており(Rucklidge, 2008),欧米では ADHD と診断された 15~21 歳のうち,処方を受けた人の 89% が男性であるなど,治療の機会にも性差が認められている(McCarthy et al., 2009)。成人期の ADHD の男女の比較では,複数の心理的な評価,一般的身体的評価の結果で女性の方が評価が低く,治療反応においても女性の方が低かったとの報告がある(Robison et al., 2008)。一方で,最近の報告では成人期の ADHD では女性が男性ほど全体として障害が強くないことも報告されているが,女性は年齢にかかわらず,対処能力,うつ病,不安において男性よりも多くの問題を抱える傾向が報告されている(Rucklidge, 2008; Rucklidge, 2010)。910名の成人 ADHD を対象とした研究では,気分障害(61% vs. 49%),不安症(32% vs. 22%),摂食障害(16% vs. 1%)の併存は女性に多く,物質関連障害は(45% vs. 29%)の併存は男性に多かった(Gross-Lesch et al., 2013)。一方,双極性障害で性差は認められなかったと報告されている(Hesson & Fowler, 2015)。

2.ADHD と併存障害

成人 ADHD 群と,年齢を一致させた成人の健常群との生涯有病率の比較では,健常群 45.6%に対し,ADHD 群では 71.1%に他の精神疾患が存在し,ADHD 群が精神科併存症をもつ比率が有意に高いことが報告されている(図 5-1,Sobanski et al., 2007)。中でも,ADHD 群では大うつ病を初めとする気分障害の併存率が高い。米国で行われた The National Comorbidity Survey Replication(NCS-R, 全米併存症調査)において,DSM-Ⅳに基づいて行われた成人 ADHD 患者の併存障害の疫学的調査では,成人期の ADHD気分障害の Odds ratio(OR)は 2.7~7.5, 不安症の OR は 1.5~5.5,薬物関連障害の OR は 1.5~7.9,間欠爆発症*(間欠性爆発性障害)の OR は 3.7 であった(Kessler et al., 2006)。一方で,Neuroticism(神経質)が低い ADHD 患者ほど,併存障害が少ない(Di Nicola et al., 2014)。
また,成人期の ADHD の併存に関して特徴的なのは複数の併存障害をもつ可能性が高いことである(Fayyad et al., 2007)。さらに,ADHD が重症であればあるほど,併存症をもつ可能性が高い(Biederman et al., 1993; Kooij et al., 2001)。成人の ADHD 患者の約50~87%が併存症をもち,約 3 分の 1 が 2 つ以上の併存障害をもつことが報告されている(Biederman et al., 1993; Kooij et al., 2001)。成人期に新規に診断された ADHD 患者が初診時に診断される併存障害の数は,平均 2.4 診断と報告されている(Pineiro-Dieguez et al., 2014)。新たに成人の ADHD と診断する際に高率で存在する併存障害は,適切な診断を行うための大きな障壁となる。
初診時における ADHD の下位分類と併存障害の合併率を比較すると,混合型が 72.4%と,多動性-衝動性優勢型(69.6%),不注意優勢型(65.3%)よりも有意に併存障害が多いことが報告されている(Pineiro-Dieguez et al., 2014)。
齊藤・渡部(2008)は,子どもの ADHD の併存障害を行動障害群,情緒障害群,神経習癖群,発達障害群の 4 群に分けられるとした。成人期の ADHD の併存障害ではさらにそれを分割して 6 群に分ける方が,併存障害を理解する上で有効と考えられた(Kooij et al., 2012)。さらに,(1) DSM-5 では自閉スペクトラム症*(自閉症スペクトラム障害 Autism Spectrum Disorder : ASD)と ADHD の併存が認められたこと, (2) ADHD に身体的な併存障害の存在が強く示唆されることから,これらを先の 6 つの併存障害に加えて整理し,7 つの併存障害を中核として併存障害を考えることが ADHD の診断と治療を考える上でさらに有用である(図 5-2)。
併存障害の存在は ADHD の診断の困難さに大きく影響するだけでなく,これらの要因が治療の過程,治療抵抗性,治療反応性,病識,自己制御,治療への参加にも影響を与える(Newcorn et al., 2007)。さらに,併存障害の存在はしばしば ADHD の症状をマスクし,ADHD の診断を困難にすることもある(Kooij et al., 2012)。臨床家は ADHD と併存障害の関連をよく理解した上で患者を評価しなければならない。患者は複数の併存障害をもつ場合もあり,その複雑さを十分理解する必要がある。併存障害をもった ADHD を診断する際に最も重要なことは,ある症状が 1 つの障害に由来するものなのか,あるいは併存する障害の症状と重複して考えることができるものなのかを見極めることである(Adler et al., 2008)。例えば,活動性の亢進を ADHD多動症状として評価すべきか,同時に双極性障害の症状としても考えるかで,併存障害と診断される可能性は大きく変わってくる。横断的な評価だけでなく,縦断的かつ包括的な臨床的判断が,併存障害の診断には求められる。

注:i) この引用部の著者は齊藤卓弥です。 ii) 引用中の「*」は DSM-5 による病名を示します。 iii) 引用中の「図 5-1」、「図 5-2」は共に引用を省略しますが、後者における成人期の ADHD 併存障害の 7 つの中核群は、「衝動制御・パーソナリティ障害」、「不安症」、「身体障害」、「薬物関連障害」、「抑うつ性障害」、「双極性障害」、「神経発達症」です。ちなみに、「抑うつ性障害」、「神経発達症」はそれぞれ「うつ病」、「発達障害」の別名です。 iv) 引用中の「Rucklidge, 2008」は次の論文です。 「Gender differences in ADHD: implications for psychosocial treatments」 加えて、引用中の「Rucklidge, 2010」は次の論文です。 「Gender differences in attention-deficit/hyperactivity disorder」 v) 引用中の「McCarthy et al., 2009」は次の論文です。 「Attention-deficit hyperactivity disorder: treatment discontinuation in adolescents and young adults」 vi) 引用中の「Robison et al., 2008」は次の論文です。 「Gender differences in 2 clinical trials of adults with attention-deficit/hyperactivity disorder: a retrospective data analysis」 vii) 引用中の「Gross-Lesch et al., 2013」は次の論文かもしれません。 「Sex- and Subtype-Related Differences in the Comorbidity of Adult ADHDs」 viii) 引用中の「Hesson & Fowler, 2015」は次の論文かもしれません。 「Prevalence and Correlates of Self-Reported ADD/ADHD in a Large National Sample of Canadian Adults」 ix) 引用中の「Sobanski et al., 2007」は次の論文です。 「Psychiatric comorbidity and functional impairment in a clinically referred sample of adults with attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD)」 x) 引用中の「Kessler et al., 2006」は次の論文です。 「The prevalence and correlates of adult ADHD in the United States: results from the National Comorbidity Survey Replication」 xi) 引用中の「Di Nicola et al., 2014」は次の論文です。 「Adult attention-deficit/hyperactivity disorder in major depressed and bipolar subjects: role of personality traits and clinical implications」 xii) 引用中の「Fayyad et al., 2007」は次の論文です。 「Cross-national prevalence and correlates of adult attention-deficit hyperactivity disorder」 xiii) 引用中の「Biederman et al., 1993」は次の論文です。 「Patterns of psychiatric comorbidity, cognition, and psychosocial functioning in adults with attention deficit hyperactivity disorder」 xiv) 引用中の「Kooij et al., 2001」は次の論文です。 「The effect of stimulants on nocturnal motor activity and sleep quality in adults with ADHD: an open-label case-control study」 加えて、引用中の「Kooij et al., 2012」は次の論文です。 「Distinguishing comorbidity and successful management of adult ADHD」 xv) 引用中の「Pineiro-Dieguez et al., 2014」は次の論文かもしれません。。 「Psychiatric Comorbidity at the Time of Diagnosis in Adults With ADHD: The CAT Study」 xvi) 引用中の「齊藤・渡部(2008)」は次の本です。 「齊藤万比古・渡辺京太(編集) 2008 注意欠如・多動性障害-ADHD-の診断・治療ガイドライン第 3 版.じほう」 xvii) 引用中の「Newcorn et al., 2007」は次の論文です。 「The complexity of ADHD: diagnosis and treatment of the adult patient with comorbidities」 xviii) 引用中の「Adler et al., 2008」は次の論文かもしれません。 「Diagnosing and treating adult ADHD and comorbid conditions」 xix) 引用中の「成人期の ADHD の併存」に関連するかもしれない「成人の ADHD の併存症」についてはここを参照して下さい。 xx) 引用中の「成人期の ADHD の併存に関して特徴的なのは複数の併存障害をもつ可能性が高いこと」や「併存障害の存在は ADHD の診断の困難さに大きく影響するだけでなく,これらの要因が治療の過程,治療抵抗性,治療反応性,病識,自己制御,治療への参加にも影響を与える」ことにひょっとして関連するかもしれない「大人での臨床症状はより複雑になる」ことについてはここを参照して下さい。 xxi) 引用中の「性差」に関連するかもしれない「男女別の ADHD 有病率」について、大阪大学大学院連合小児発達学研究科監修の本、「発達障がい 病態から支援まで」(2022年発行)の 1 序論・総論 の 1.5 疫学(有病率) の 1.5.4 ADHD の疫学 の「b. ADHD の併存症の有病率」における記述の一部(P32~P33)を次に引用します。

ASD の男女比と同様,ADHD の男女比も以前に考えられていたより小さいという証拠が蓄積されてきている.DSM-Ⅳ-TR では ADHD の男女比は 4:1~9:1 と記載されていたが,DSM-5 の記載は小児で 2:1,成人で 1.6:1 と大幅に変更されている.診断基準も,DSM-Ⅳ-TR では「通常 7 歳までに症状が明らかになる」とされていたところ,DSM-5 では 12 歳未満の発症に変更されている.この背景には,特に女児では多動などの行動として現れる症状が比較的少なく,低年齢での診断が困難なケースもある一方で,不注意などの症状が学童期における困難さとして顕在化するケースがあることが挙げられる.
先述のメタアナリシス29)には ADHD のサブタイプごとの男女比が記されている(表 1.5.1).これによると,不注意優位型では男女比は比較的小さく,1.0:1~2.2:1,混合型では男女比が大きく 2.0:1~5.6:1,ADHD 全体では 1.6:1~2.4:1 となっている.興味深いことに,いずれのサブタイプにおいても成人の男女比は児童青年期に比べて小さくなっている.未診断であった女性が ADHD 症状による困難に気づき,自ら受診することで,女性の有病率が男性の有病率に“追いつく”と考えることができる30).また,診断基準が主に児童青年期の男児を対象とした研究に基づいているため,この診断基準に記載された一部の行動(例えば,走り回ったり高いところへ登ったりする)が当てはまらなくなり,一部の成人男性が診断基準を満たさなくなるということも考えられる.明確な理由は定かではないが,成人では有病率の男女比が小さくなるということは,やはり児童青年期において女児の ADHD を過小評価している可能性が考えられる.

注:i) この引用部の著者は西村倫子です。 ii) 引用中の「表 1.5.1」の引用は省略します。 iii) 引用中の文献番号「29)」は次の論文です。 「The prevalence of DSM-IV attention-deficit/hyperactivity disorder: a meta-analytic review」 iv) 引用中の文献番号「30)」は次の論文です。 「Gender differences in adults with attention-deficit/hyperactivity disorder: A narrative review」 v) 引用中の「ASD の男女比」については他の拙エントリのここを参照して下さい。

加えて、成人の ADHD の併存症について、大阪大学大学院連合小児発達学研究科監修の本、「発達障がい 病態から支援まで」(2022年発行)の 1 序論・総論 の 1.5 疫学(有病率) の 1.5.4 ADHD の疫学 の「d. ADHD の併存症の有病率」における記述の一部(P34)を次に引用します。

(前略)ADHD をもつ成人は,約 80% が少なくとも 1 つの併存症をもつ39).成人の ADHD と併存する精神疾患として,うつ病,不安障害,双極性障害,物質関連障害,パーソナリティ障害が知られている.うつ病の併存率は ADHD をもつ人の 18.6~53.3% と報告されており,ADHD のあらわれとしての快楽感の低さへの対応としてうつ症状が現れる可能性がある.不安障害の併存率は 50% に近い。ADHD を併存する不安障害の患者は,より重度の不安症状を示し,不安症の発症年齢が早く,そのほかにも精神疾患を併存する頻度が高い傾向が報告されている.双極性障害の併存率は 9.5~21.2% であり,双極Ⅱ型障害よりⅠ型障害が多いとされている.また,ADHD が併存すると双極性障害の発症年齢が早まることが示唆されている.アルコール,ニコチン,大麻,コカインの使用といった物質関連障害は ADHD と併存する最も一般的な疾患であり,ADHD をもたない人に比べて約 2 倍の有病率である.ADHD と物質関連障害の併存は,臨床的により重篤な経過をたどるので,早期の支援や治療によって未然に防ぐことが非常に重要である.ADHD とパーソナリティ障害の併存に関する文献は多くないが,ADHD 成人の 50% 以上にみられ,25% の人が 2 つ以上のパーソナリティ障害をもっているとも報告されている.ADHD で感情調節障害を主な症状とする人では,併存症の有病率は特に大きく(74%),不注意を主な症状とする人の併存症の有病率(32%)の2倍以上であるとも報告されている.これらの精神疾患の併存に加え,成人の ADHD の身体的な併存症として,肥満,睡眠障害,喘息の併存に一貫したエビデンスがある40).

注:i) この引用部の著者は西村倫子です。 ii) 引用中の文献番号「39)」は次の論文です。 「Adult ADHD and comorbid disorders: clinical implications of a dimensional approach」 iii) 引用中の文献番号「40)」は次の論文です。 「Adult ADHD and Comorbid Somatic Disease: A Systematic Literature Review

その上に、ADHD において「大人での臨床症状はより複雑になる」ことについて、大阪大学大学院連合小児発達学研究科監修の本、「発達障がい 病態から支援まで」(2022年発行)の 1 序論・総論 の 1.2 症候学と経過 の 1.2.4 子どもから大人への連続性 の b. 大人での臨床症状はより複雑になる の「2) ADHD」における記述(P11)を次に引用します。

大人になると,離席などの明確な行動は減るが,そわそわ感,イライラ感,興味がないことの締切事項を先送りして間に合わないなど別のかたちで中核症状が現れやすい.トラブルや周囲の叱責を避けるために,その場しのぎの返答(言い訳・虚言)に至ることも多い.学生時代では留年,停学や中退が高率で,就職してからも転職・解雇の可能性が高い.社会経済学的地位も有意に低い.ほかにも,交通事故などで医療受診が多い.遅刻や欠勤が多い.失敗による自尊心の喪失が強い.インターネット依存・ゲーム依存傾向がある.アルコール依存・ギャンブル依存のベースが ADHD 症状であることも多い.昼夜のリズムが乱れやすい.借金問題を抱えている.人間関係の構築が苦手.傾聴スキルが乏しいなどが挙げられる5).さらに,気分障害,不安障害,物質依存障害,反社会性障害,摂食障害罹患率も健常児に比べて有意に高いことが横断的にも縦断的にも報告されている9).一方,気分障害圏,不安障害圏,物質使用障害圏患者の各 10% 前後に ADHD の診断がつく10).このように,本来の知的レベルにそれほど差はないと想定されるが,大人になってからの状況(アウトカム)の差は歴然としている.

注:i) この引用部の著者は小坂浩隆です。 ii) 引用中の文献番号「5)」は次の論文です。 「Symptoms in individuals with adult-onset ADHD are masked during childhood」 iii) 引用中の文献番号「9)」は次の論文です。 「Common psychiatric and metabolic comorbidity of adult attention-deficit/hyperactivity disorder: A population-based cross-sectional study」 iv) 引用中の文献番号「10)」は次の論文です。 「Cross-national prevalence and correlates of adult attention-deficit hyperactivity disorder」 v) 引用中の「インターネット依存」や「ギャンブル依存」について、共に岩岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第5章 発達障害に関連する様々な病態 の「C インターネット依存,ギャンブル依存」における記述の一部(P105~P107)を次に引用します。

インターネット依存
1)定義
インターネット依存(ネット依存)はインターネットの過剰な使用が持続し,自らのコントロールが困難になる状態で,その対象としてオンラインゲームやオンラインギャンブル,ソーシャルネットワーキング・サービス(SNS)などが含まれる.現時点で統一的な診断基準は存在していないが, DSM-5 においては,「今後の研究のための病態」として,「インターネットゲーム障害(internet gaming disorder:IGD)」が掲載されている.この診断基準では,依存の対象はネット接続によるオンラインゲームに限定されており,その他のものは含まれていない.(中略)
これに対して,2022年発効の ICD-11 における「ゲーム障害」では,オンラインだけでなくオフラインゲームも対象に含めている.
わが国におけるインターネット依存は,厚生労働省の報告では,中高生で 93 万人,成人では 421 万人と推定されている.国際的には,インターネット依存は,日本をはじめとして,韓国,中国などの東アジアにおいて頻度が高い.特に韓国ではオンラインゲームに関するインターネット依存の頻度が高率で,国をあげて依存者のキャンププログラム,入院治療などの対策に取り組んでいる.韓国における中学生を対象とした調査では,21.8% にインターネット依存がみられたとしている.同様の調査において,アメリカでは 9.4%,中国では 14%,香港では 26.7% という結果であった.
2)発達障害との関連
インクーネット依存では,ADHDASD ともに合併頻度が高いことが明らかになっているが,特に併存しやすいのは ADHD である.むしろ ADHD がベースにあり,インターネット依存をもたらすとも考えられる.この点については,ADHD の特性である行動制御の障害が,適切な利用時間でネットを切り上げることを困難にし,過剰使用につながっていると考えられる.イタリアにおけるオンラインのゲーマー 4,260 例を対象とした調査においては,対象者の 19.3% が ADHD のスクリーニング検査である ASRS のパート A のカットオフ得点を超える得点を示した.
ASD についてもインターネット依存との関連性が明らかになっている.ASD では興味のある特定の事柄に関するネット情報の収集に没頭したり,現実社会での対人交流の苦手さからネット上の仮想空間での交流を求めたりする傾向がみられるため,インターネット依存に陥りやすい.発達障害がベースにあるインターネット依存においては,発達障害の特性に対するアプローチによって適応能力の改善を促すことが依存の改善と不可分である.

ギャンブル依存
1)定義
ギャンブル依存とは,競馬やパチンコなどのギャンブルにのめり込んでコントロールができない状態となり,日常生活や社会生活に重大な支障が生じている状態を指す.DSM-5 では「ギャンブル障害」という名称が使用されている.
かつてギャンブル依存症(ギャンブル障害)は,意志薄弱による行動上の問題とみなされ,医療の枠組みのなかでとらえられていなかったが,近年ようやく「依存症」の 1 つの形態として認識されるようになった.ギャンブル依存症DSM-Ⅲ で「病的賭博」という名称で定義されたのが最初で,その後 DSM-Ⅳ までは「衝動制御障害」のカテゴリーに分類されていた.しかし,他の物質依存と共通する点も多いことから,DSM-5 では「ギャンブル障害」に病名が変更となり「物質関連障害および嗜癖性障害群」に含まれることになった.ギャンブル依存症には,他の精神疾患の併存が多いことが知られており,発達障害のなかでは ADHD との関連性が大きい.わが国においてキャンプル依存症の対策は行政レベルで始まりつつあるが,当事者による自助グループの活動もさかんになりつつある.
2)ギャンブル依存症ADHD
ギャンブル依存症の患者で ADHD を合併する患者の割合について,チェンバーレイン(Chamberlain)らは 21.4% と報告している.別のレビューにおいては,ギャンブル依存症の 9.3% に ADHD が併存していたと報告されている.このようにキャンプル依存症と ADHD は高率に併存しているが,ADHD 特性である衝動性の高さがギャンブルの抑制を困難にすると考えられ,ADHD 自体がギャンブル依存症のリスクファクターと考えられる.また,ADHD では幼少期より失敗体験を繰り返しているケースもみられ,生きていくことのつらさの解消としてギャンブルに依存しているケースも相当数存在しているのであろう.
ギャンブル依存症の患者が受診した際に,ギャンブル関連の問題に焦点を当てるのは当然のことであるが,背景に発達障害,特に ADHD がないかを確認するのは重要である.生活歴などがしっかりと確認されないまま,「ギャンブル依存症」とだけ診断されてしまうと,以降は「ギャンブル依存症」への対応が主になってしまい ADHD の治療が行われないことが多い.そのため初期の見立てがその患者の予後を決める可能性もあることを念頭に置いて,初診時には時間や手間を惜しまず発達障害などの併存について十分に情報を集める必要がある.
ADHD を併存している場合には,ADHD 治療薬の使用によって,衝動性の制御や ADHD 特性の改善による社会適応の向上が図られることで,ギャンブル依存自体の回復に有効なケースもみられる.

注:i) この引用部の著者は中村暖、岩波明です。 ii) 引用中の「ゲーム障害」に類似するかもしれない「ゲーム行動症」(ICD-11)や引用中の「ギャンブル依存症」に類似するかもしれない「ギャンブル行動症」(ICD-11)については共に次の資料を参照すると良いかもしれません。 「物質使用症又は嗜癖行動症群」 iii) 引用中の「ギャンブル依存症には,他の精神疾患の併存が多い」ことに関連する「ギャンブル障害の併存症」については次の資料を参照すると良いかもしれません。 「ギャンブルへの依存とストレス

さらに、ノルウェーの国家データベースをもとにした、ADHD および非 ADHD に分けて示される、精神疾患の有病率について、て「大人での臨床症状はより複雑になる」ことについて、岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第2章 診断と検査 の E 併存障害 の「ADHD における併存障害」における記述(P56~P57)を次に引用します。

図3はノルウェーの国家データベースをもとに,精神疾患の有病率を ADHD および非 ADHD に分けて示した.各疾患とも,ADHD 群では 3.8~8.3 倍有病率が高いことがわかる.有病率でいえばうつ病,不安障害,物質関連障害が 20% 以上という高い値を示しているが,冒頭で述べた環境ストレス状況が抑うつ症状や不安症状を生みやすいことは容易に想像できる.
ADHD にせよ ASD にせよ,特性に基づく困難からうつ病や不安障害をきたして精神科を訪れる人が後を絶たない.現代の臨床現場の実態を反映しているといえよう.この図で特徴的なのは,双極性障害とパーソナリティ障害において ADHD 群で 8 倍以上も有病率が高いことである.この両疾患については,ADHD と ED を共有する,動的平衡の強い疾患群であり,鑑別診断を行うとともに,併存する可能性についても検討が必要である.

注:(i) この引用部の著者は柏淳、岩波明です。 (ii) 引用中の「図3」についての引用は省略しますが、代わりに拙訳はありませんが論文(全文)「Gender differences in psychiatric comorbidity: a population‐based study of 40 000 adults with attention deficit hyperactivity disorder」の「Figure 1 Adjusted* prevalences of psychiatric disorders in men and women with and without ADHD.」を参照して下さい。ちなみに、上記「Figure 1」における病名の英語と引用中の「うつ病,不安障害,物質関連障害」や「双極性障害とパーソナリティ障害」との対応は次の通りです。 「うつ病:Depression」、「不安障害:Anxiety」、「物質関連障害:SUD、Substance use disorder」、「双極性障害:Bipolar disorder」、「パーソナリティ障害:Personality disorder」 (iii) 引用中の「ED」は「情動調節障害(emotional dysregulation:ED)」の略です。また、上記「情動調節障害」について、同第2章 診断と検査の D 鑑別診断 の「2)ADHD の鑑別診断」における記述の一部(P51)を二分割して以下に引用(それぞれ『 』内)します。ただし、これらの引用部の著者は柏淳、岩波明です。 『ADHD の鑑別診断について述べるにあたり,まず情動調節障害(emotional dysregulation:ED)の概念について説明しておきたい.感情や情動は外的刺激により変動するが,通常は一定の範囲内にコントロールされている.このコントロールがうまくいかず,通常受け入れられる情動反応の範囲に収まらない反応を示すものを情動調節障害とよんでいる.この症状は ADHDDSM-5 診断基準には採用されていないが,Wender-Utah 基準には組み込まれており,ADHD の病態において重要な要素と考える研究者も多い.』(注:引用中の「ADHDDSM-5 診断基準」については例えば次の資料を参照して下さい。 「注意欠如・多動症(ADHD)特性の理解」の「Table 1 ADHD の診断基準(DMS‒5)」[P29])、『複雑性 PTSD の自己組織化の障害(disturbance in self organization:DSO)においては感情制御困難(affective dysregulation)という用語が用いられているが,実質的にほぼ同内容のものと考えられる.』(注:引用中の「複雑性 PTSD の自己組織化の障害」については例えば次の資料を参照して下さい。 「複雑性 PTSD の診断と特徴,および治療」の「複雑性 PTSD の診断と特徴」項) 加えて、「PTSD でみられる過覚醒症状は ADHD の過集中状態と重なり,ADHD の不注意症状は,解離反応と共通点がみられる」ことについて、同第2章 診断と検査の D 鑑別診断 の 3)トラウマ関連障害 の「a. 複雑性 PTSD」における記述の一部(P52)を次に引用(【 】内)します。 【PTSD でみられる過覚醒症状は ADHD の過集中状態と重なり,一方で ADHD の覚醒水準の低さと関連した不注意症状は,ストレス下での解離反応と共通点がみられる.】(注:a) この引用部の著者は柏淳、岩波明です。 b) 引用中の「PTSD でみられる過覚醒症状」については次のWEBページを参照して下さい。 「過覚醒 / 覚醒亢進」 c) 引用中の「解離」については他の拙エントリのここここを、そして上記「解離」に関連する「解離症」については次のWEBページを それぞれ参照して下さい。 「解離症 - 脳科学辞典」 d) ポリヴェーガル理論[他の拙エントリのここの「最初に」を参照]の視点からの上記「過覚醒」と引用中の「覚醒水準の低さ」に関連する「低覚醒」を繰り返すことについては次の資料を参照して下さい。 「犯罪被害者への心理支援の実践 -リソースや身体志向の視点から-」の「Figure3. ポリヴェーガル理論」[P115])

③ 同の 第6章 大人の ADHD薬物療法 の 3. 大人の ADHD の薬物治療実践 の「(3) 成人 ADHD に対する薬物治療」における記述(P82~P86)を次に引用します。

ADHD は12歳までには,何らかの症状がみられているはずであり,成人になってから生じるとは考えられない。しかし,成人になってからその存在に気づくことはありえる。ADHD については,マスメディアを中心に報道される回数が増加しており,自ら ADHD を疑って受診する場合は多い。ADHD に対する薬物治療についても,小児に比べて,自ら希望する場合が多い。ここではいくつかの例に分けて,症例を紹介する。症例については,個人の情報保護に配慮して記述していることをお断りする(市川, 2013)。

a.うすうす気づいていた場合――29歳(初診時)・男性
主訴:
勤め先で同僚や上司に言われたことをすぐに忘れてしまう。仕事にミスが多い,片づけが苦手である。落ち込んで 元気がなく,不眠が出現した。自分は ADHD ではないだろうか?
診断:
本人,母親から,幼少時の話を聴く。忘れ物が多かったが 先生に叱られることはなく,友人は多かった。多動性や衝動性はなく,成績もよいため,学校では問題にならなかったと思われる。
WAIS-R(Wechsler Adult Intelligence scale-revised, ウェクスラー成人知能検査改訂版):FIQ98(VIQ105, PIQ88)言語性と動作性得点のバラツキは大きい。個別得点のバラツキも大きく,発達障害の可能性を示唆する。
診断基準に照らし合わせて,不注意優勢型の ADHD と診断する。
経過:
本人の希望もあり,ATM を投与することとする。
ADHD 治療薬(ストラテラ®)の使用開始(2週ごとに増量):40→60→80→60(mg/日)
ADHD-RS(ADHD Rating Scale-Ⅳ,ADHD 評価スケール):21(不注意得点)+3(多動・衝動性得点)→10+3(60mg/日)→4+0(80mg/日)
不注意項目の改善が著明である。
主観的には「集中力が高まり,自覚的に落ち着いている」「机の上がきれいになる」「仕事に取り組む態度に自信を感じている」が,同時に「食欲が低下した」ため,副作用と判断し,60mg(1日量)に戻す。
考察:
この例は,会社の上司が発達障害を知っており,本人に受診を勧めた。会社の産業保健師発達障害のわかるクリニックを紹介して来院。本人も ADHD を疑っていたため,治療を自ら求めていた。(中略)

c. 他の診断を受けていた場合――24歳(初診時)・女性
主訴:
イライラ,不安,不眠,胸部不快感,易怒性。
初診時は不安,不眠への治療が行われたが,大きな効果はなかった。気分の変動が激しく,双極性障害とされたが,著変はなかった。その後,統合失調症,パーソナリティ障害などの診断のもと治療が行われたが著明な改善なく,6 年後に著者を受診した。
当初診断:双極性障害
さまざまな診断のもとに,向精神薬が投与されていたが効果は乏しく,7 年後,著者を受診,不注意優勢の ADHD の存在を確認。
バルプロ酸(気分安定楽),ブロマゼパム抗不安薬).ストラテラストラテラのみ服用
診断:
著者来院時は,スーパーマーケットの相談販売などに従事していた。自己不全感,漠然とした不安感が強かった。母は高齢で幼少時の情報は得られない。兄弟によると,変わった子どもで友たちはいなかった。本人の記憶では,挨拶ができないマイペースな子どもであった。このことは小学校の生活の記録の記述からも裏付けられた。
診断基準に照らし合わせて,不注意優勢型の ADHD と診断する。
経過:
ADHD 治療薬(ストラテラ®)の使用開始(2週ごとに増量):20→40→60→105(mg/日)
ADHD-RS:25+8(服用前)→18+6(60mg/日)→10+3(105mg/日)
副作用の訴えなし
主観的には,「時間を守れる」「積極的に取り組める」「家庭を大切にする」。
客観的には,「清潔感が向上」。
AQ-J:34(35以上で PDD の可能性が高い)
ADHDASDと診断する。
考察:
発達障害が幼少時から存在しており,気づかないまま社会・家庭生活に入り,自己不全感,自己有能感の低下が生じた。さらに置かれる環境や対応が厳しい状況が続き,二次的症状を呈して医療機関を受診したが「根底にある発達障害の存在に気づかなかった」と判断された。

3 例を通じて,ADHD によると思われる症状の改善に努めた結果,自己不全感,劣等感が改善されたと判断された。二次的に生じた自己有能感の低下が改善されたことにより,社会的取り組みに積極的になっている。服薬による副作用については,食欲低下,消化器症状,不眠,頭痛などがみられた。
成人になって来院した例は,不注意の目立つ例が多く,同時に ASD の診断をつけられるものが多かった。二次的症状を呈する例の中には,他の診断を受けていたものもある。さらに症例を重ねる必要があるが,自己不全感を持つ例や他の診断を受けている例の中に,根底に ADHD 的要素を持つ患者の存在を考慮することは意味がありそうである。二次的な症状ばかりに目を向けず,根底にある自己不全感,自己評価の低さを改善することが必要になると思われた。ADHD 治療薬の服用は自己不全感や自己評価の低さを改善するきっかけを与える可能性がある。一方で,ADHD の存在を確認しないで ADHD 治療薬を投与するのは,厳に慎むべきである。

注:i) この引用部の著者は田中英三郎・市川宏伸です。 ii) 引用中の「市川, 2013」は次の資料です。 「市川宏伸 2013 おとなの ADHD 診療の動向. 精神科治療学,28 : 133-137.」 iii) 引用中の「ATM」は医薬品のアトモキセチン(一般名、ちなみに商品名はストラテラここを参照])の略です。 iv) 引用中の「ADHD-RS」について、大阪大学大学院連合小児発達学研究科監修の本、「発達障がい 病態から支援まで」(2022年発行)の 1 序論・総論 の 1.3 診断 の 1.3.1 神経発達症とその診断 の「d. 注意欠如・多動症ADHD)」における記述の一部(P14)を次に引用します。

(前略)ADHD の診断補助尺度として,DSM-5 の 18 の症状項目(不注意 9 項目,多動性-衝動性 9 項目)に対応した,ADHD 評価スケール(ADHD Rating Scale : ADHD-RS)を用いることができる.ADHD-RS は,薬物療法の効果測定にも広く用いられており,簡易に実施できることが利点である13).その一方で,専門家ではない養育者,教員が質問紙の回答者になるので,評価している行動特徴が ADHD 由来なのか,他の精神疾患由来なのか判別できないのが難点である.そのため,ADHD-RS を用いるときには,別途診察で 1 つ 1 つの症状の具体例を確認し,ADHD 以外の理由では説明がつきにくいことを確認することが肝要である.子どもではほかに Conners 3 14),成人では成人期の ADHD 自己記入式症状チェックリスト(Adult ADHD Self-Report Scale : ASRS)15) あるいは Conners' Adult ADHD Rating Scales(CAARS)16),Conners' Adult ADHD Diagnostic Interview for DSM-Ⅳ(CAADID)17) などの評価尺度で症状をある程度定量化できる.どの評価尺度を用いても,質的な評価を加えて ADHD と診断することが本人の利益になるかどうか検討することが大切である.(後略)

i) この引用部の著者は桑原斉・池谷和です。 ii) 引用中の文献番号「13)」は次のシステマティック・レビューです。 「Methylphenidate for children and adolescents with attention deficit hyperactivity disorder (ADHD)」 iii) 引用中の文献番号「14)」は次の本です。 「Conners CK : The Conners 3rd edition (Conners 3).Multi-Health System 2008」 iv) 引用中の文献番号「15)」は次の論文です。 「Validity of pilot Adult ADHD Self- Report Scale (ASRS) to Rate Adult ADHD symptoms」 v) 引用中の文献番号「16)」は次の論文です。 「Determining the Accuracy of Self-Report Versus Informant-Report Using the Conners' Adult ADHD Rating Scale」 vi) 引用中の文献番号「17)」は次の論文かもしれません。 「Conners' Adult ADHD Diagnostic Interview for DSM-IV™」 vii) 引用中「DSM-5 の 18 の症状項目(不注意 9 項目,多動性-衝動性 9 項目)」については例えば次の資料を参照すると良いかもしれません。 「注意欠如・多動症 (ADHD) 特性の理解」の「Table 1 ADHD の診断基準(DMS‒5)」(P29)

④ 同の 第7章 大人の ADHD心理療法・行動療法 の 2. 大人の ADHD に対する心理療法の実際 の「(1) 大人の ADHD に対する心理療法の支援の考え方」における記述の一部(P90)を次に引用します。

(前略)a. 生活の障害と自己理解
ADHD神経心理学的障害であるが,心理療法を実施する際には,大人の ADHD は慢性疾患であること,そして生活の障害であることを念頭に置く必要がある。したがって,ADHD 症状だけでなく,自らの特徴を明確に把握すること,さらに与えられている環境(職場,家庭,友人関係など),もしくはこれから進もうとする環境について理解することも大切である。さらに,これまでの問題がどのように起きてきたか,患者の短所についての自己理解を深めることは特に大人の ADHD 臨床では重要であるが,一方でしっかりと患者の長所を支援者と患者ともに把握することも,これからより適応的な生活を目指すために同様に重要となる。(後略)

注:i) この引用部の著者は金澤潤一郎です。

加えて、大人の ADHD におけるタイプ別の支援法について、同の 第7章 大人の ADHD心理療法・行動療法 の「3.タイプ別の支援法」における記述(P096~P101)を次に引用します。

3.タイプ別の支援法

ここでは CAARS™(Conners' Adult ADHD Rating Scales)や CAADID™(Conners' Adult ADHD Diagnostic Interview for DSM-Ⅳ™)などの大人の ADHD 症状評価を行ったうえで,ADHD のサブタイプに応じた心理療法について論ずる。紹介する事例は,個人が特定されないよう,複数の事例を組み合わせていることをおことわりしておく。心理療法に関する詳しい治療構成要素は Safren ら(2005),診断から心理療法に至る過程や事例については Ramsay & Rostain(2008)の翻訳本を参照願いたい。

(1) 併存する気分障害や不安障害によって受診したが,根本に未診断の不注意優勢型 ADHD がある場合

30代後半・女性
抑うつ症状を主訴として訴えたが,精神科病院で「ADHD 疑い」と伝えられ,大学のカウンセリング・センターを紹介された。問題歴として,小学校や中学校の間は忘れ物や授業中に「ボーっとする」などの不注意症状は認められたが,離席や対人関係のトラブルなど多動性-衝動性症状はほとんど認められなかった。高校では忘れ物が増え,宿題や課題が多くなるにつれて優先順位をつけることやスケジュールを管理することが難しくなってきたが,知的能力が比較的高いこと(診断時,WAIS-Ⅲ[Wechsler Adult Intelligence Scale-Third Edition]の FIQ = 115)に加え,本人の学業面での努力や友人・家族・教師の助けもあって学業成績は比較的良好であった。しかし大学の高等学年になり,卒業論文や実習など,より高度な自己マネージメントカが必要となると成績を保てなくなった。自尊心の低下に伴う抑うつ症状に悩まされながらも何とか大学を卒業し,卒業後まもなく結婚,出産。自らの生活の管理だけでも精一杯にもかかわらず,夫(未診断だが ADHD 傾向が強い)の生活管理に家事と子どもの育児(顕著な多動性が認められる)も重なり,主にスケジュール管理の困難さと抑うつ症状を訴え受診した。

この女性のケースは併存症状が比較的少ない,不注意優勢型 ADHD 患者ともいえるだろう。ADHD 症状(優先順位の判断ミス,先延ばし,スケジュール管理の苦手さ)が他人には怠け,無責任などとみえてしまい,主に仕事上(家事)の問題を呈する場合が多い。多動性-衝動性症状よりも不注意症状の方が日常生活に悪影響を及ぼすため(Stavro et al., 2007),多動性-衝動性症状がほとんどなく,不注意症状のみが認められ,なおかつそれほど重度ではない場合であっても,精神的併存症や生活障害の点では注意が必要となる。
周囲からすれば,児童期から学業成績は良好であったにもかかわらず,成人するにつれて「一気に生活が難しくなった」とみえるかもしれないが,本人としては「ずっと頑張ってきたが,ついに支えきれなくなった。私は何と無力で愚かなんだ」と自尊心が低い場合が多い。この女性のように専業主婦や就労しながら家事と育児に従事している女性は,自分自身のために費やす時間を確保することが難しい。その「心の疲労」も頭の整理(スケジュール管理や優先順位をつけること)を阻害していることが多い。
抑うつ症状や不安症状,睡眠の問題などの併存障害が中程度以上の場合には,向精神薬も併用して治療することが効果的であろうが,この女性のケースでは,傾聴しながら,支援のポイントを不注意症状が生活に与える悪影響に限局した心理療法を実施するだけでも効果がみられた。
先延ばしや,8割方課題を終わらせると他のことに興味の対象が移ってしまい優先順位がつけられなくなる疑似成功感をもつ患者には,個人に適した「やることリスト」を作ること,「やることリスト」を活用して視覚的に優先順位つけを行うことなど,補償方略(日常生活上の行動的対処法)に特化した関わりを中心とすることが重要である。この女性の場合,薬物療法は実施せず,平日用と週末用の「やることリスト」を作成し,紙に書き出すことで視覚化して優先順位(A「最優先」,B「A と C の中間」,C「必要ないが覚えておくこと」の評価をする)をつける練習を行った。さらに無理のか範囲で,本人のための時間である「セルフ・ケアの時間(30分間,喫茶店で紅茶を飲む)」を設けてもらい,頭と心の整理を促進してもらうこととした。
学童期に有能であった人に多いかもしれないが,自分が抱えることができる能力を超えて,仕事や余暇活動を抱えすぎてしまって重要な課題を完遂することができなくなる患者には,これらの補償方略の中でもスケジュール管理など,「自己管理」にタイプ分けされる補償方略の習得が特に有効な手段となる。
これらの点を丁寧に取り扱うことでセルフ・モニタリング能力が高まり,「悪かったのは自分ではなく,やり方(取り組み方)だったのだ」と自覚することで,併存する軽度の抑うつ症状や不安症状の改善を図るとともに,生活機能の改善が期待できる。

(2) 混合型 ADHD で怒りなど対人関係上の困難さがある患者の場合
DSM-5 で併存診断が可能となった自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder : ASD)が併存する場合,あるいは ASD 傾向が強い場合も考えられる。特に面接初期で支援者に敵意が向くことや,これまでに支援を受けていた専門家との関係がこじれている場合も多い。以下に簡単に事例を挙げる。

40代・男性
主訴は他人とすぐに口論になること,それが原因で退職を繰り返していたことであった。学童期から知的な能力には問題がなかったが 友人関係,教師や両親との関係が不良であった。授業中は落ち着きがなく,「退屈」と言って授業をほとんど聞いていなかった。しかし,勉学自体は嫌いではなく,家庭学習では教科書を中心に自ら勉学に励んでいたため,成績は並程度を維持していた。植物に関することが大好きで,学校が終わると図鑑など専門書を読むことが多く,友人と遊んだとしても自己中心的な態度を指摘されるためにあまり長続きすることはなかった。大学は,恋人に学業の面でも対人関係の面でも支えてもらいながら卒業した。卒業後はアルバイトの延長で料理人となった。黙々と料理をするのは好きで得意だが,自分のペースを乱されることが好きではないために店長と決別。その後,30代で独立して店長兼シェフとなる。しかし,接客が苦手なことや,アルバイトとの関係もうまくいかず,しばらくして閉店した。その後は,いくつかの会社で主に営業職として従事するが,顧客や上司と「そりが合わず」に退職した。本人も退職を繰り返すことで抑うつ状態となり,妻や小学生の長男にも強い口調で怒りを表出してしまうことで悩んで受診。「ADHD 混合型と自閉スペクトラム症傾向」と診断され,これまで医師による短時間の面談は行っていたが,「患者が医師の指示に従わない」ということで,心理士に紹介されてきた。薬物療法としては睡眠導入剤と少量の抗精神病薬を処方されていた。

心理士との初回面談では堰を切ったように40分以上.本人の困り感や,自分が思う問題点について話し続けた。心理上はできる限り「自分が話したいことを話したい」という患者の態度を強化しつつ,ある患昧で患者主体のペースで面接を進めながら,ゆったりと情報収集を行った。このような場合,支援者が指示的な関わりをしてもうまくいかない場合が多く,患者中心のペースの中で,学んでほしい要素(例えば,セルフ・モニタリング,機能分析,優先順位のつけ方,感情表出の仕方など)をいかに学習してもらうかが大切である。
この患者の場合,これまでの対人関係の問題について機能分析や損益分析を行いながら,心理士がそれらを紙に書き出してまとめていった。患者の話したことをある程度まとめて示してみせると,患者自身で「つまり,私は○○すればよいかもしれないですね」など、解決策を自発的に見いだしていった。患者の提案に対し,ときには修正やアドバイスも行いながらではあったが,患者と心理士が協働して患者の抱える問題に取り組む関わり(協働的実証主義)を継続することが,この患者との面談で心理士が最も注意を払った点であった。
心理士の勧めもあり,この患者は発達障害をもつ者が集まる当事者会に積極的に参加するようになった。その場でも,大小の対人関係の問題が起きてくるため,その機会を活用して心理面接を進めた。つまり,当事者会で起きた出来事と,患者自身がその後その点に関して考えたことを面接で語ってもらい,それについて認知的再構成法,問題解決療法など認知行動療法の技法を取り入れながら,患者と心理士と協働で臨床心理学的観点から出来事をどうとらえ直し,今後にどう活かすのかを話し合っていった。この方法であれば「支援者(心理士)から何か正解を教わった」という感覚にはなりにくく,患者が自発的に自らの問題に取り組みやすくなる。このような取り組みを重ねる中で,面接当初に感じていた「他人は私を見下している」「他人が犯したミスは予測して予防するべきだ」のような怒りに関連した考え方(認知)に気づき,次第にそれらの考えにとらわれないようになり,最終的にはどのような状況で怒りが起きやすいかを予測し,自ら対処できるようになっていった。
ADHD自閉スペクトラム症との併存がある場合(あるいは併存が疑われる場合),特に口頭による心理療法だけでは効果が薄くなる傾向が強い。むしろ,支援者が強調したいことや患者に学んでほしいことを体験してもらうこと,あるいは患者が体験した出来事を支援者が学んでほしいポイントに焦点化して話し合っていくことなど,ある意味での受け身(機会応用型)の心理療法に重点を置いたほうが奏功しやすい。このケースのように,患者が患者会デイケアなどで自らの体験を語ったり,他人の体験を聞いたりする機会がある場合,そこで起きたことや患者が感じたことを心理療法の中で改めて語ってもらい,支援者と共に整理することも効果的である。
また,この患者のように共同生活する者がいる場合,家庭や職場など周囲との人間関係も大切になってくるため,患者がどのように変わるとよいかという観点よりも,本人の特性は大きく変わらなくてもよいが他者(家庭や職場の人間関係)や状況とどのように折り合っていくかを患者と家族が支援者と共に話し合っていくことで 患者を否定することなく,周囲の者も含めた包括的なより良い生活を目指す視点を育むことが可能となる場合も多い。

注:i) 引用部の著者は金澤潤一郎です。 ii) 引用中の「Safren ら(2005)」は次の本です。 「Safren, S. A., Perlman, C. A., Sprich, S., & Otto, M. W. 2005 Mastering your adult ADHD: A cognitive behavioral treatment program: Therapist guide. Oxford University Press; NY.[板野雄二(監訳) 2011 大人の ADHD認知療法――セラピストガイド.日本評論社.]」 iii) 引用中の「Ramsay & Rostain(2008)」は次の本です。 「Ramsay, R. & Rostain, A. 2008 Cognitive-Behavioral Therapy for Adult ADHD: An integrative psychosocial and medical approach. Routledge; NY.[武田俊信・板野雄二(監訳),武田俊信・金澤潤一郎(翻訳) 2012 成人の ADHD に対する認知行動療法.金剛出版.]」 iv) 引用中の「Stavro et al., 2007」は次の論文です。 「Executive functions and adaptive functioning in young adult attention-deficit/hyperactivity disorder.」 v) 引用中の「CAARS™」及び「CAADID™」については共に例えば次のカタログを参照して下さい。 「心理検査カタログ2019」 vi) 引用中の「認知的再構成法」については例えば資料「うつ病と認知行動療法入門 ─日常診療に役立つうつ病の知識─」の「3.認知再構成法」項、資料「こころのスキルアップ・プログラム 認知療法・認知行動療法の視点から」の「認知再構成法」項を、 加えて引用中の「問題解決療法」に関連する「問題解決のコツ」ついては例えば同「資料」の「問題解決のコツ」項を それぞれ参照して下さい。 vi) 引用中の「協働的実証主義」については例えば次の資料を参照して下さい。 「うつ病と認知行動療法入門 ─日常診療に役立つうつ病の知識─」の Table 1.の④項(P240)、「認知行動療法における身体性をめぐる一考察」の「2.認知行動療法の発展」項

(c)上記以外のADHDについての記述として、 i) 「ADHDは昔から狩猟民族といわれている」こと、そして「ムードメーカー」や「猪突猛進型」について、田中康雄著の本、『ADHDとともに生きる人たちへ 医療からみた「生きづらさ」と支援』(2019年発行)の Ⅱ ADHDのいま の「才能として発揮される特性」における記述の一部(P58~P60)を以下に引用します。

才能として発揮される特性(中略)

あと、環境的要因も考えねばなりません。単に活発なグループだったお子さんが、社会の枠が厳しくなってくるとどんどん追い詰められてしまい、病理性のあるグループのほうに押しやられていくということもあります。一方で、社会が不安定なときには、こういう子どもたちが救世主になる。ムードメーカーですね。こういう後先考えない、ハイパーアクティブで猪突猛進型の人がいることで、社会がバアッと変わる。
ADHDは昔から狩猟民族といわれています*24。もうバアッと走り抜けていって、その後には何もなかった、みたいな。明治維新のときの坂本龍馬などもそうですね。激動のときにはこういう非常にアクティブでエネルギッシュな方がバアッと走っていくのだけれども、持続性がない。バアッと行って革命を起こしはするのだけれども、継続するのは自閉スペクトラム症の方だったりします。農耕民族といわれている自閉スペクトラム症の方が、あとをコツコツ引き受けてくれるわけです。(後略)

注:i) 引用中の文献番号「*24」は次の本です。 「トム・ハートマン(田中康雄監修、梅輪由香子訳)『なぜADHDのある人が成功するのか』明石書店、二〇〇六年」 ii) 引用中の「狩猟民族」、「農耕民族」については共に、田中康雄、笹森理絵著の本、『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(2014年発行)の 第3章 人の話がわからない、他人の思いが理解できない…… の 12. 衝動的な行動でトラブルを招く の「PDDタイプは農耕民族、ADHDタイプは狩猟民族」における次に引用(【 】内)する記述(P150)【ある精神科の先生が、「PDDタイプは農耕民族、ADHDタイプは狩猟民族」と話されていましたが、まったくそのとおりだなと思います。PDDタイプはじっくりとひとつのことを究める力があり、ADHDタイプは活動のエネルギーが人一倍あるという意味で、どちらのタイプも、その特性を強みに転換できるはずです。】[注:引用中の「PDD」についてはここを参照して下さい]及び次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「意外に多い“大人の”発達障害の対処法」の(ページ2の)『子どものころに「○○博士」と呼ばれたタイプ』項 加えて、引用中の「狩猟民族」に関連する「狩猟民的な認知特性」について「微分回路」や「積分回路」を含めて、内海健兼本浩祐編著の本、「発達障害の精神病理Ⅳ -ADHD編-」(2023年発行)の 第Ⅲ部 精神病理編 の 第9章 不注意の精神病理――「大人のADHD」の症候学 の Ⅶ.「大人のADHD」の精神病理 の「微分回路優位」における記述の一部(P217~P219)を次に引用します。

微分回路優位

微分回路」とは,中井14)が統合失調症親和者の「先取り」的な構えを論じた際に導入された用語である。系統発生的にはより古い認知機能であり,変化の方向性を探知し,先手を打って予防的対策を講じるのに用いられる。他方で,そのつど発生した予測誤差に振り回されやすく,ノイズの吸収力はない。現実吟味力が持続せず,すぐに冷めてしまう。いわゆる「狩猟民的な認知特性」と分類されている。この特性は,むしろADHDの理解にこそ有用である。中井の原義をそのまま踏襲して適用できる。
微分回路は,有利に働くこともあれば,不利益を与えるものにもなる。うまく機能すれば,それは勘のよぎ 臨機応変で果断な行動,感覚的なセンスのよさなどとして発揮されるだろう。対人場面でも発揮されるが,うまく機能する文化とそうでないものがある。

事例C
40代男性。双極性障害として治療を受けていたが,のちに,発達歴からADHDと診断された事例。現場の仕事の時には,陣頭指揮をとり,手際や勘がよく,生き生きと活躍する。とりわけ重大な案件があるときには,真っ先に声がかかり,本人も意気込んで取り組んでいる。定期の異動により,デスクワーク主体のポストに移ると,途端に生気がなくなる。状態が悪化すると,休職にいたることもある。そうした時には部屋に引きこもり,オーディオやプラモデルなどに凝って,金銭を費消し,家族から不興をかっている。

微分回路は,微かな兆候から全体を直観する機能である。長丁場には向かない。さまざまな要素を総合してマネジメントすることにも向いていない。これらはいわゆる「積分回路」の役割である。また,対人的な場面では,相手の言葉や表情に込められた兆候的なものに振り回されやすい。

事例D
30代男性。小学校までは多動傾向がみられた。大学生になって一人暮らしを始めたが,いわゆる「ゴミ屋敷」状態の中で暮らしていた。就職後は,対人関係で不調を繰り返し,そのつど通院して,抗うつ薬の処方を受けている。とりわけ批判的な上司に弱く,そうした人の表情や言葉に対しては,極めて過敏になる。口癖のように「怒らないでください」と懇願し,「怒ってなどいない」とかえって叱られるという。

対応する上司が配慮していても,言葉の端やちょっとした表情にネガティヴな感情が瞬間的に表出されることがあるだろう。しかし,それは積分回路的には認知されない。上司にしてみれば,コントロールして話しているにもかかわらず,「怒っている」といわれるのは不本意であり,腹立たしくもなる。他方,ADHD特性のある個体からしてみれば,瞬間的に現れたものの方に真実がある。
微分回路的な認知は,部分から歪んだ全体像を作り上げてしまうリスクを伴う。とりわけ,人間のように,矛盾を抱え,絶え間なく変化し続けるものは,彼らの認知をミスリードしやすい。そうして発生した誤解は,しばしば家族や友人などの重要な他者との関係に甚大な影響を与えることにもなる。
こうした「木を見て森をみず」,「一事が万事」という認知は,ASDにおいてもみられる。ただASDの場合には,どちらかというと理屈っぽい一般化であるのに対して,ADHDにおいては,感覚的ないし感情的な染め上げと言った方が適切である。たとえば,給食かつらいという一点で不登校になったり,ちょっとした対人的な齟齬が起きただけで死にたくなったりもする。

注:i) この引用部の著者は内海健です。 ii) 引用中の文献番号「14)」は次の本です。 「中井久夫分裂病と人類.東京大学出版会,東京,1982.」 iii) 引用中の「木を見て森をみず」や「一事が万事」については共に他の拙エントリのここここを参照して下さい。 iv) 引用中の「微分回路」について「積分回路」を含めて、ムック「文藝別冊 中井久夫 増補新版 精神科医が遺したことばと作法」(2022年発行)中の村澤真保呂著の文書『言葉なき樹木たちの囁き――中井久夫「世界における索引と徴候」をめぐって』(P187~P196)の「1.日常的世界とメタ認知」における記述の一部(P189)を次に引用(【 】内)します。 【微分回路というのは、微細な変化からひとつの傾向性や将来像を把握する能力(先取り的認知)であり、逆に積分回路というのは過去の体験の蓄積により現在や未来を把握する能力である。たとえば幼児は、青年とくらべると「微分回路」が優位であり、逆に老人にあっては「積分回路」が優勢である。】 v) 引用中の「微分回路的な認知」に関する、引用中の「先手を打って予防的対策を講じる」ことに関連するかもしれない「先取り的回路」を含めて本「中井久夫集 Ⅱ 2009 - 2012 患者と医師と薬とのヒポクラテス的出会い」(2019年発行)の 統合失調症の経過研究の間に考えたこと の「5」における記述の一部(P42~P43)を次に引用します。

一般に、人間は内外の認知に当たって通常は比例回路的であるスキャン的覚醒状態 scanning arousal を用い、異常な現象を発見すると集中的覚醒状態 concentrated arousal に切り換えるらしい。後者は、過剰な情報に圧倒されると、そのことを気づかないまま、状況に支配されて、受動的に振り回される。その状態を航空業界で「スノウ」というが、神田橋條治、星野弘の両氏が患者が「頭の中が忙しい」「頭の中が騒がしい」と表現する事態に相当するだろう。
集中的覚醒状態においては、徴侯的認知(微分回路的認知)が限度以上に突出して積分的認知のほうが潰乱あるいは重大な影響をこうむるのではないか。徴候的認知回路自体は人類史上、古くから災害の予知などに有用であったと思われる。先取り的回路で、微細な変化をキャッチし、経験の多大な蓄積を必要としない。しかし、疲労しやすく、微細な変化に過剰に反応するので、もっぱら微分回路的認知を用いて環境あるいは自己内界のスキャニングを行おうとすると認知は潰乱しはじめる。山で道に迷ったときの外界の相貌の突然変化がこのことを教えてくれる。(後略)

注:引用中の「集中的覚醒状態においては、徴侯的認知(微分回路的認知)が限度以上に突出して積分的認知のほうが潰乱あるいは重大な影響をこうむるのではないか」に関連するかもしれない「微分回路の独走には積分回路の麻痺が平行しているのではないか」については次の資料を参照して下さい。 『「人間の壊れるとき」に関わる微分 -人間の病理性と創造性の狭間を問う-』の「2. メイン概要」項

(d)自閉スペクトラム症(又はASD、PDD)とADHDの(症状の)違いについて
一方、標記違いについて、 a) (ニュアンスがわからなく)「話が通じない」ことの視点から、田中康雄、笹森理絵著の本、『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(2014年発行)の 第3章 人の話がわからない、他人の思いが理解できない…… の「10.他人の感情がわからない」項における記述の一部(P126~P128)を以下に、 b) 「人間関係のトラブル」の視点から、宮尾益知監修の本、「ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 大人の発達障害 日常生活編」(2017年発行)の 第3章 日常生活で起きやすい代表的なトラブルと対応策 ADHD編 の「同じようなトラブルでも原因が違う 似ているようで違うASDとADHDの行動パターン」における一部の記述(P58)を以下に、 c) 「段取りが苦手」なことについて、岩波明著の本、「最新医学からの検証 うつと発達障害 ――どう見分けるのかが正しいか――」(2019年発行)の 3章 「アスペルガー」はもう古い?「ASD」の誤解と真実 の『「段取りが苦手」は、なぜ?』における記述の一部(P140)を以下に、 d) やるべきことを〝後回し〟することの原因について、岩瀬敏郎著の本、「発達障害の人が見ている世界」(2022年発行)の 第2章 行動の困りごと の 02 周りの人といつもやることがズレています。 の「やるべきことを〝後回し〟。ASDとADHDで異なる原因とは」における記述の一部(P128)を以下に それぞれ引用します。

ニュアンスがわからない
「この人には言葉が通じない」
職場や学校でそう言われている人はいないでしょうか。本人に面と向かって言わなくても、「この人とは話にならない」という共通認識ができている場合もあります。
こういう方は、相手の話された言葉とそれに伴う感情を理解し、咀嚼するのが不得意なのでしょうが、それは発達障害や発達系の課題を持つ人にもよく見られる特性なのです。
僕たちは他人と話すとき、表情や態度、話し方、話す内容、言葉づかいなどをヒントに、言葉そのものには表れなくても、裏側にある思考や感情をおおよそ理解することができます。「ニュアンス」とか「含み」とかいわれるものです。
たとえば、「バカだなぁ、お前は」と言われたとしましょう。相手が親や兄弟、または本当に仲のいい友だちなら、その口調はどこか愛情や優しさを含んだものになります。何か失敗して落ち込んでいるときなら、慰めてくれたのかもしれません。
ところが、見ず知らずの人に「バカだなぁ、お前は」と言われたらどうでしょうか。しかも相手がいかにも軽蔑するような表情だったとしたら、腹が立ってケンカになってもおかしくありません。
つまり、僕たちは言葉そのものだけでなく、相手との関係や状況、相手の表情や発言のタイミング、声の抑揚などによって、その言葉に込められた感情をキャッチしているわけです。
飼い猫がミルクの器をひっくり返して、飼い主が「バカだねぇ、お前は」と言えば、そこには「こぼしてしまったところを拭くのは面倒だけど、こんなことをするところが本当にかわいいなぁ」という気持ちが感じられます。テレビでお笑いタレントのコントを観ながら「バカだねぇ」と笑ったら、それは「面白い」という意味です。
発達系の課題がある人、とくにPDDタイプは、相手の発言を言葉どおりにそのまま受け取ってしまう特性があります。だから、自分の周りにいる人たちが、先ほどの例のように同じ「バカ」でも、状況に応じて意味を使い分けているようなことに、自信をなくし、戸惑うのです。
たとえば、「バカだなぁ」は、言葉どおりに「愚か」「劣っている」と受け止めてしまいます。すると、周囲は親しみを込めて言ったつもりでも、PDDタイプの人は急に怒りだしたり、落ち込んだりするのです。
一方、ADHDタイプの人は、相手の発言を注意深く聞いていないことが多いので、微妙な口調の違いまで察知できない場合があります。会話しながら別のことを考えていたり、自分が関心のないところは聞いていなかったり、他の刺激に気を取られていたりして、耳から入ってくる情報が虫食い状態になることが多いのです。ストーリーや文脈は途切れ途切れで、断片的な話を聞いているようなものです。
このようにPDDタイプとADHDタイプは、「話が通じない」理由は違っても、周囲からすると「ちょっと困った人」であることに変わりはありません。

注:i) この引用部の著者は田中康雄です。 ii) 引用中の「PDD」についてはここを参照して下さい。

人間関係のトラブルでも原因が違う(中略)

ASDの人が人間関係のトラブルを起こすのは、コミュニケーションの特性と社会性の欠如という特性のためなのです。一方、ADHDの人の場合は、衝動性や注意力の欠如という特性が作用するのです。つまり、ASDの人はミスをしても、何がミスなのか理解できない場合が多く、ADHDの人はミスに気がついたときには、後の祭りという場合が多いのです。(後略)

「段取りが苦手」は、なぜ?

気が散りやすいADHDの人と違い、ASDの人は「決まりきったことを正確にこなしていく」ことは比較的得意としています。
たとえば、「作業Aの後に作業Bをする」など、決まりきった手順に強いこだわりがあり、それを守っている限りは、彼らは平均以上の仕事ぶりを見せるのです。ただし、急な計画変更や、誰かの代わりに努めるよう命じられると、とたんにオロオロしてどうしてよいかわからなくなることが、しばしばみられます。
作業の進行が「ゆっくり」でいいなら、落ち着きを取り戻して新たに段取りを考えることもできるかもしれません。
しかし突然イレギュラーな要素が入り込み、せかされて処理をしないといけない状況においては、それまでの段取りが乱されてどうしていいのかわからなくなるのです。こうしたことが、「段取りの悪さ」というかたちで表に出てきます。
つまりASDの人は、不意打ちに弱いのです。考えや気持ちを切り替えれない、融通が利かない、ともいえるでしょう。(後略)

やるべきことを〝後回し〟。
ASDとADHDで異なる原因とは

やらなければいけないことを後回しにしてしまうというのは、ASDとADHDに共通して見られがちな特性です。ただし両者で原因が異なることがあります。
ASDの人の場合は、〝優先順位がつけられない〟という特性によることが少なくありません。Oさん(30歳・女性)は仕事がいくつか重なると、どこから手をつけていいかわからなくなります。
一方、ADHDのDさん(25歳・男性)の場合、大急ぎで片付けなければならない重要な仕事をやっていても、別件の電話がかかってきたりメールが入ったりすると、ついそちらの処理のほうに気持ちが向いてしまいます。とりあえずこちらを終わらせようと判断し、結局、重要案件のほうは時間切れ。満足な形に仕上げることができません。このようにASDとADHDの人は、違う原因から優先しなければならない仕事を後回しにしがちなことがあります。結果、期限ぎりぎりになったり締め切りオーバーになったりして、周囲に迷惑をかけてしまうことが多く、本人たちも悩んでいます。

加えて、同の 第2章 症状 の 小児における症状 の「(1)多動と衝動性」における記述の一部(P48~P50)を次に引用します。

(前略)一方、ADHDの人は、総じて人なつっこいことが多く、集団に入り込むことは比較的得意である。それにもかかわらず、対人場面でミスを重ねたり、あるいは不適切な発言を繰り返したりすることによって、次第に浮いた存在となりやすい傾向がある。このため、「少し変わった子供」とみなされることが多い。
行動面の衝動性は、他の児童や家族に対する攻撃性となってみられることが多い。普段はおとなしいADHDの子供が些純なやりとりから「きれて」つい手を出してしまい、他の子供に暴力的となるケースもみられている。このような攻撃性は、就学前から問題となるケースが存在している。
つまりADHDの子供は爆発的であることが多く、イライラしやすい。彼らは、比較的小さな引き金で、怒りを爆発させることがある。それに加えて情緒不安定のため、気分や行動は変わりやすく予想しにくいのである。また、衝動性と不注意のため、事故や怪我が多発することが多い。よく「ものにぶつかる」ことも多い。
ここで注意が必要である点は、ASD(自閉症スペクトラム障害)の児童においでも、ADHDと同様の衝動的、攻撃的な行動がしばしばみられる点である。ADHDにおいでは、内面の衝動性をコントロールできないため、攻撃的な行動を伴いやすいが、ASDでは、社会性のなさが同様の行動をもたらすことがある。ASDにおいては、「社会的にしてはいけないこと」の認識が希薄なだめ、常識からはずれた行動を起こしやすいのであるが、行動のみからはADHDとASDの区別は難しい。
次に示すのは、成人のASDのケースで、デイケアに通所中の女性患者の例である。彼女は国立大学を卒業し教師の資格も持っている高学歴の人であったが、職場で孤立することを繰り返し、精神科の通院を続けていた。
彼女は、通所中の精神科デイケアでしばしばトラブルを起こした。目の前できまりを守らない人をみると、彼女はがまんができないのだった。たとえば、デイケアのグループで話し合いをしているときに、一方的に不規則な発言をしているメンバーがいると、彼女はすぐに注意をした。それでも相手の発言が収まらないと、クールな表情のまま、突然、相手を殴りつけるのである。
電車の中でも、騒いでいる男性に「うるさい」と言って手を出してトラブルとなり、警察沙汰になったことがあった。つまり、彼女の中では、「人前で騒ぐこと」は「殴ること」よりも、重大な「悪」であり、それを正すために殴ってこらしめても構わないと認識していたのであった。このような感性を、一部のASDの人は持っているのであるが、ADHDにおける衝動性とは異なったものであることは認識しておくべきである。(後略)

注:i) 引用中の「ADHDとASDの区別は難しい」ことに関連する「ASDとADHDの症状には類似性が大きい」ことについてはここここを参照して下さい。 ii) ADHDとASDとの区別における引用中の「衝動性」については、岩波明著の本「発達障害」(2017年発行)の 第3章 ASDとADHDの共通点と相違点 の「ADHDとASDの問題行動」における記述の一部(P92~P93)を次に引用します。

(前略)あるADHDの女性のケースである。彼女は、「他人の気持ちがわからない。周囲の空気が読めないので失敗することが多い」と訴えていた。さらに自分には、このように対人関係がうまくいかないのは、ADHDだけではなくアスペルガー症候群の症状もあるからだと主張した。
ただよくよく聞いてみると、実際は、彼女はその場で感じたことや思ったことをすぐ口にしてしまう、それが周囲の人を傷つけることがしばしばみられるということであった。つまり、問題は彼女の対人関係ではなく衝動性であった。彼女が「他人の気持ちがわからない」ということではなく、その能力があるのにかかわらず、わかろうとしていないということなのである。

(e)「ADHDの診断を再構築し、多様な病態を解明する」ことについて
標記について、林(高木)朗子、加藤忠史編の本、『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』(2023年発行)の 第7章 脳研究から見えてきた注意・欠如・多動症ADHD)の病態 の「ADHDの診断を再構築し、多様な病態を解明する」における記述(P154~P157)を次に引用します。

ADHDは、これまで一貫して、不注意、多動性-衝動性によって診断されてきました。そしてADHDの子どもや大人には、薬物療法が相当な効果があることも示されています。それらの薬が効く仕組みは病態モデルをもとにした説明が可能になっているので、ADHDは医学的にそのメカニズムが確立された神経発達症であるという認識を持ってしまいがちです。
しかし、実際にそうでしょうか。不注意、多動性-衝動性というのは、さまざまな精神症状やその他の神経発達症によっても生じます。薬の効果でさえ、ADHDに特異的に効果が現れると言い切れるものではありません。実行機能の障害などは多くの精神疾患で報告されており、ADHD治療薬がその実行機能障害を改善する可能性もないとは言えません。そして何より、ADHDそのものが多様な病態をもつので、成人期まで持続する真の神経発達症を同定する方法を確立しなければならないのです。
このようなADHDの再分類・再定義は、薬剤の選択をする上でも重要です。ここまで読んでこられた皆さんは、精神刺激薬を使用するか非精神刺激薬を使用するかは、実行機能や報酬系の障害の虔合いを測定し、それに合わせた薬剤選択をすれば良いとお気づきかもしれません。現在の不注意、多動性-衝動性という診断の枠組みでは、いずれの症状にも実行機能、報酬系の障害が同程度に関連していて、症状を評価しても薬剤選択の指標とはなりません。しかし、それぞれの症状を構成するさらに細かい側面を見ていくと、実行機能と報酬系のどちらの障害が強いのかなどを見極める指標が見つかる可能性もあります。

このような研究を進めていく上で大切なことは、多くの子どもや大人のデータを蓄積し、その臨床経過を適切にフォローすることです。私が所属する国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的・発達障害研究部では、より簡便な評価、プラットフォームの確立を目指しています。
ADHD自閉スペクトラム症の特性だけでなく、知的機能、適応行動に加え、不安・抑うつ・躁症状などについても評価しています。これらの精神症状は、ADHDの症状に関連するだけではなく、経時的な反復評価をすることで、思春期以降に出現することの多い二次障害が生じる原因を明らかにすることができるでしょう。
神経心理学的検査でも複数の研究を組み合わせています。実行機能を評価するテストで、正解時に与えられる社会的報酬(ここでは笑顔)の頻度を操作することで、実行機能課題成績がどのように変化するかを調べています。ADHDの子どもへの行動療法では、好ましい行動をしたときに適切にほめるなどのフィードバックを与えることが大切とされています。しかし、子どもの望ましい行動に対して、常にフィードバックが与えられる環境にあるわけではありません。既存の研究では、正答に対して社会的報酬あるいは金銭などの非社会的報酬が(確実に)与えられる状況のみが検討されてきましたが、私たちは、それらの報酬が与えられる頻度を変えることでどのような影響が生じるかを検討しています。
また、先ほど記したように、ADHDでは時間感覚(タイミング)の障害が知られています。タイミングを合わせる機能は感覚-運動同期と呼ばれますが、時間知覚には、時間の長さを弁別したり、再生したりといった別の側面もあり、小脳や大脳基底核、補足運動野や前頭前野など異なる脳領域が関与していることが分かっています。私たちはこれらの時間知覚をすべて評価することで、時間感覚障害の全貌を明らかにしたいと考えています。
もう一つ、社会性の発達の基盤となる注意機能の障害についても研究しています。相手が見た方向を見るという共同注視という現象があります。共同注視が見られないことは、自閉スペクトラム症の子どもでもっとも早期に現れる兆候ともされています。この現象は、意思とは無関係に生じる反射的な現象であることが知られていますが、私たちが調べたところ、この反射的共同注視には、情動などにかかわる扁桃体が関与していました7-16。ADHDの子どもの多くには、多かれ少なかれ自閉スペクトラム症の特性を併存しますし、ADHDによっても注意機能の障害は生じます。私たちは、情動的表情と視線方向を同時に提示することで、その反応についてのデータを蓄積しており、さらに脳構造や脳機能画像との関連も調べています。
このように見ていくと、一つの研究を遂行するのには、多くの研究者が力を合わせ、粘り強く進めていく必要があることがお分かりになると思います。私たちのもとでは、ADHDのペアレント・トレーニングの普及やその効果の検証、親子相互交流療法の実践および研究など、心理社会的な治療についての研究開発も進めています。他方では、神経発達症の齧歯類モデルの開発とそれを用いた治療法開発も進めています。
頻度も高く、またその診断・治療も活発に行われているADHDですが、まだまだ分からないこと、解決すべきことは多くあります。当事者がよりよく暮らせて、二次的な困難を感じずに済むよう、またご家族や周囲の人が自信を持ってよりよい関わりができるように日々研究開発を進めています。

注:(i) この引用部の著者は岡田俊です。 (ii) 引用中の文献番号「7-16」は次の論文です。 「Involvement of medial temporal structures in reflexive attentional shift by gaze」 (iii) 引用中の「実行機能障害」、そして引用中の「報酬系の障害」に類似する「報酬系障害」、引用中の「時間感覚(タイミング)の障害」に関連する「時間処理障害」、引用中の「時間知覚」については共にWEBページ「成人注意欠如多動性障害におけるfMRIを用いた報酬待機時間および報酬量に関連する脳神経基盤の検討」からダウンロード可能な博士論文「成人注意欠如多動性障害におけるfMRIを用いた報酬待機時間および報酬量に関連する脳神経基盤の検討」[A30518.pdf (1.8 MB)]のそれぞれ「第一項 実行機能障害」、「第二項 報酬系障害」、「第三項 時間処理障害」、「2) 時間知覚(時間弁別・時間再生)」をそれぞれ参照すると良いかもしれません。加えて、上記「実行機能障害」に類似する「遂行機能障害」については次の資料を参照すると良いかもしれません。 「注意欠如・多動症の成人期への連続性と不連続性 脳画像研究・神経心理学的研究を中心に」の「Ⅱ.成人期における連続性に関連する神経心理学的機能と脳部位」項 その上に、上記「時間知覚」については次の資料を参照して下さい。 「注意欠如・多動症における時間知覚の最新知見」 ちなみに、上記「実行機能障害」に関連する(ADHDは)「脳の実行機能のはたらきがうまくいかない」ことへの対策としての「睡眠」については次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 『寝床に入っても眠れない、悪循環から抜け出すコツは「遅寝早起き」? - apital』 (iv) 引用中の「親子相互交流療法」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「PCITについて 親子相互交流療法 - PICT JAPAN」 (v) 引用中の「精神刺激薬」に類似するかもしれない「刺激性治療薬」や引用中の「非精神刺激薬」に類似するかもしれない「非刺激性治療薬」については共に次の資料を参照して下さい。 「3. ノルエピネフリン伝達を介した ADHD 病態生理」の抄録 (vi) 引用中の「実行機能の障害」、「報酬系の障害」や「時間感覚(タイミング)の障害」以外である「デフォルトモードネットワークの障害」について、上記「第7章 脳研究から見えてきた注意・欠如・多動症ADHD)の病態」 ADHDはなぜ生じるのか? 4つの仮説 の「(4)デフォルトモードネットワークの障害 ――新しい刺激に過剰に反応する」における記述(P143)を次に引用(『 』内)します。 『さらに、デフォルトモードネットワークがADHDに関係しているという指摘もあります7-11。人間の脳は、何も考えていないとき(安静時)でも、脳の複数の領域が同期して活動していることが知られています。それら複数の領域で構成されるデフォルトモードネットワークの活動により、新しい刺激に対して備える〝構え〟をつくることで適切に反応できます。しかし、ADHDの人はデフォルトモードネットワークの活動が低いために構えが不十分で、新しい刺激に対して過剰に反応してしまうというのです。』(注:a) 引用部の著者は岡田俊です。 b) 引用中の文献番号「7-11」は次の論文です。 「Altered spontaneous low frequency brain activity in attention deficit/hyperactivity disorder」 c) 引用中の「デフォルトモードネットワーク」(default mode network、DMN)については下記を除いて拙訳はありませんが次の論文[全文]を参照すると良いかもしれません。 「Dark control: The default mode network as a reinforcement learning agent」 ちなみに、上記論文[全文]の「2. TOWARD A FORMAL ACCOUNT OF DEFAULT MODE FUNCTION: HIGHER‐ORDER CONTROL OF THE ORGANISM」項においては次に引用する記述があります。 【We argue that DMN implication in many of the most advanced human capacities can be recast as prediction error minimization informed by internally generated probabilistic simulations—"covert forms of action and perception" (Pezzulo, 2011)—, allowing maximization of action outcomes across different time scales. Such a purposeful optimization objective may be solved by a stochastic approximation based on a brain implementation of Monte Carlo sampling.[拙訳]最も高度な人間の能力の多くにおける DMN の含意は、内部で生成された確率的シミュレーション、-行動及び知覚の変換型(Pezzulo, 2011)によって通知された予測誤差の最小化として再計算することができ、そして異なる時間スケールにわたって行動のアウトカムを最大化することができると、我々は主張する。このような意図的な最適化の目標は、モンテカルロサンプリングの脳実装に基づく確率的近似によって解決されるかもしれない。】[注:引用中の「Pezzulo, 2011」は次の資料〔全文〕です。 「Grounding Procedural and Declarative Knowledge in Sensorimotor Anticipation」] d) 上記「default mode network」に関する「Scientists have a tendency to name brain networks in line with their own interests. What I am calling "the interoceptive network" is really a system of brain regions that are important for body-budgeting and interoception, as well as for sending sensory and motor predictions throughout the rest of the brain.(中略)More conventionally, these regions are distributed within two intrinsic brain networks called the salience network and the default mode network, both of which contain most of the limbic tissue in the cerebral cortex.[拙訳]​科学者は、脳のネットワークを自分の興味に沿って命名する傾向がある。​私が 「内受容ネットワーク」と呼んでいるものは、実際には脳の領域のシステムであり、身体予算管理及び内受容に重要であるだけでなく、感覚及び運動の予測を脳の他の部分に送るためにも重要である。(中略)​より一般的には、これらの領域は、大脳皮質の辺縁系組織の大部分を含む、顕著性ネットワークとデフォルトモードネットワークと呼ばれる2つの固有の脳ネットワーク内に分布している」ことについては次のWEBページを参照して下さい。 「Other names for the interoceptive network」 ちなみに、上記拙訳中の「内受容ネットワーク」については他の拙エントリのここを参照して下さい。 (vii) 引用中の「ADHDの再分類・再定義」に関連する「ADHD の臨床症状全般に着目した新しい分類の提唱」について『「不注意優勢型」「多動・衝動性優勢型」「混合型」の 3 型への分類に対し、成人において大部分が「不注意優勢型」であるため,有用性は高いものとはいえない』ことを含めて、岩波明編の本、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(2023年発行)の 第1章 大人の発達障害とは何か の B ADHD の概念と臨床症状 の「ADHD の分類」における記述(P14)を次に引用します。

ADHD においては,不注意と多動・衝動性の両面の症状がみられるケースもあるが,どちらか一方の症状が目立つ例もある.この点に着目し,以前から,「不注意優勢型」「多動・衝動性優勢型」「混合型」の 3 型に分類されてきたが,DSM-5 でも,この分類については継承している.ただし,こうした分類については,成人において大部分が「不注意優勢型」であるため,有用性は高いものとはいえない.
われわれは ADHD の臨床症状全般に着目し,表4に示すように新しい分類を提唱している.「自閉型」は ASD 症状が顕著なタイプ,「気分障害型」は情動面が不安定でうつ状態,軽躁状態を示すタイプ,「衝動型」は衝動的な問題行動が優位なタイプ,「奇矯型」はエキセントリックな言動が目立つタイプである.今後この分類の妥当性の検討が必要であるが,治療や予後を考えるうえで参考になるものと思われる.

注:i) この引用部の著者は引用中の「表4」を含めて岩波明です。 ii) 引用中の「表4」における連続する記述を六分割して次に形式を変更して引用(それぞれ『 』内)します。 『表4 成人期 ADHD のサブタイプ』、『標準型:Standard type』、『自閉型:Autistic type』、『奇矯型:Eccentric type』、『衝動型:Explosive type』、『気分障害型:Affective type』 iii) 引用中の「DSM」については次のWEBページを参照して下さい。 「精神疾患の診断・統計マニュアル (DSM) - 脳科学辞典

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女性のADHDの基本について

加えて、標記基本について次に紹介します。先ず、「成人の ADHD の診断および治療を行う際には性差を考慮することは非常に重要である」ことについてはここを、女性のADHDに対するWEBページ、資料等は以下を それぞれ参照して下さい。『ADHD、10の特徴「退職、結婚などを衝動的に決断する」』、『「女の子なのになぜできない」発達障害の女性を襲う"二重の苦しみ" 』、「児童精神科クリニックからみた成人 ADHD の診断と支援 ─特に女性の ADHD について─」、「なぜ女子の発達障害は、大人になるまで発覚しにくいのか」 加えて、これに関連する一連のWEBページ(上手に悩むとラクになるシリーズ)があり、以下にそれぞれ紹介します。 『恋愛はいつも「二番目の女」 - アピタル』、「飲み過ぎてしまうのはなぜか - アピタル」、「わかっているのにやめられない事のやめ方 - アピタル」、「決意だけは人一倍あるのですが - アピタル」、「立ち止まることを忘れてしまう - アピタル」、「気が乗らない仕事にやる気をだす方法 - アピタル」、『仕事を途中で投げ出さないために「時間を見積もる」 - アピタル』、「おっくうな年賀状を年内に出し終えるには - アピタル」、『手帳のプロに学ぶ「計画を立て続ける」コツ - アピタル』、「どうしてもゲームがやめられません - アピタル」、「どうしても早起きできません - アピタル」、「悪循環から抜け出す糸口をつかむには - アピタル」、「過食や過飲をやめたいのです - アピタル」、「でかける前はいつもバタバタ、遅刻や忘れ物をなくすには - アピタル」、「計画倒れに終わらない、計画の立て方 - アピタル」、「大人のADHD治療で推奨されているものは? - アピタル」、「ADHDの人はうつ病になりやすい? - アピタル」、「対人関係や依存症…ADHDの大人が陥りやすい諸問題 - アピタル」、「大人のADHD、毎日努力しても報われないのはなぜ? - アピタル」、「ADHDの自分にうんざり… そんな時こそ自分を味方に - apital」、『「二番目の女」のままで心のスキマは満たされる? - アピタル』、『その恋愛は「誰」本位? 脱ぎ捨てられた靴下が語るもの - アピタル』、「恋愛は追うより追われた方が幸せ? 視点を変えてみる - アピタル」、「白黒ハッキリさせたい恋愛に、答えが出ないときは - アピタル」、「恋愛関係のモヤモヤ、秘めた本音をぶつけてみると・・・ - アピタル」、「身勝手だった彼 あまのじゃくへの処方箋は - アピタル」、「現実逃避をやめた二人 本音で向き合い見つけた居場所 - アピタル」、「母の振る舞いが目について……消えない親子の確執 - アピタル」、「母に愛されなかった私 揺らぐ自尊心、失ったプロポーズ - アピタル」、「計画に追われイラだっていた母、隠れていた家族への愛情 - アピタル」、「心配性の姉、マイペースの妹 役割を変えてみる - アピタル」、「夕食はいつも夜11時… 新婚生活に悩む女性のADHD - アピタル」、『時間管理が苦手な私…夕食づくり、時短の「三つの秘訣」 - アピタル』、「華やかな新婚生活 ADHDの人に潜むお金の落とし穴 - アピタル」、「ADHDの人は数字が苦手? 家計は現金管理で乗り切る - アピタル」、「赤ちゃんの夜泣きと育児に参加しない夫 新米ママの苦悩 - アピタル」、「育児から逃げる夫、疲弊する妻 意識のズレを埋めるには - アピタル」、「夫とケンカして家を出た妻 娘の夜泣きに疲れ果て… - アピタル」、「娘の夜泣きで眠れないママ 寝かしつけの習慣を見直す? - アピタル」、「赤ちゃんの夜泣きを直したい 叱るより有効なのは… - アピタル」、「愛犬のしつけから考える 赤ちゃん夜泣き対策のポイント - アピタル」、「赤ちゃんが夜泣き 眠り方を教えるって、どうしたら? - アピタル」、「子育ては私がやらなくちゃ? 母から意識を変えていく - アピタル」、『夫の実家を頼るのは育児放棄? 自分を苦しめる「美学」 - アピタル』、「孤独に押しつぶされそうなADHDママに必要なものは? - アピタル」、「ママ友の言動にモヤッとする 心の中をのぞいてみると… - アピタル」、「子どものダラダラ食べにイライラ ADHDママの対処法 - アピタル」、「小学校の入学準備に青ざめる ADHDママの苦悩 - アピタル」、『わかりにくい資料から「必要なこと」を読み取るコツ - アピタル』、『「完成させたくない病」をこじらせていませんか? - アピタル』、「食事が遅い子どもにイライラ ADHDママの時間管理術 - アピタル」、「片付け、掃除、先延ばし やる気スイッチを押すコツとは - アピタル」、「時間内に仕事が終わらない 陥りがちな五つの落とし穴 - アピタル」、「あなたの机は大丈夫? 意外にできていないあの作業 - アピタル」、「その仕事のこだわり、必要ですか 独りよがりの落とし穴 - アピタル」、『「ネットサーフィンしたい」 あなたの欲求断ち切ります - アピタル』、「仕事の完成度、無駄に高いレベルを目指してませんか? - アピタル」、「やること詰め込みすぎ? 一目でわかる時間管理のコツは - アピタル」、『「たまには遊んでいい」 そんな自己肯定感が実は難しい - アピタル』、「忙しい年末年始 優先順位がつけられないときどうすれば - アピタル」、「管理職のマネジメント業務、仕事時間の何%が理想? - アピタル」、『モノを定位置に戻す工夫 「1ステップ」収納のすすめ - アピタル』、「家にハサミ6本? モノをなくさないために発想の転換を - アピタル」」、『モノを定位置に戻す工夫 「1ステップ」収納のすすめ - アピタル』、『「幸せってなんだっけ」 年間計画を達成する四つの秘訣 - アピタル』、『夢実現への道筋は見えてますか? カギは「月間目標」 - アピタル』、『「いつかするは一生しない」 先延ばしパターンから卒業 - アピタル』、『「予定がいっぱい」でも、夢実現への時間を確保するには - アピタル』、「急な案件が入っても計画を崩さない 事前に必要なことは - アピタル」、「苦手な早起き まずは1週間、最適睡眠時間を探してみて - アピタル」、『出勤前のバタバタどうする 「それ、本当に朝必要?」 - アピタル』、『朝食の準備、娘の送り出し…「起きてもいいことがない」 - アピタル』、『「朝起きないとやばい状況」ぎりぎり派への対処のカギ - アピタル』、「散らかった部屋、義母の一言 スマホに逃げ込み夜更かし - アピタル」、『「捨てるか残すか、判断はイマ」気付けば罪悪感の宝庫に - アピタル』、「クローゼットの衣類たちとの戦い 1日分を1セット作戦 - アピタル」、『捨てるの邪魔する「もったいない」 自尊心が低い証拠 - アピタル』、「私が仕事、損?漠然とした将来への不安、現実的に悩みに - アピタル」、「理想の職場、どう探す?ハードの条件とソフトな条件とは - アピタル」、「自分の働き方に募る不安 仕分け作業で心をコントロール - アピタル」、「なぜ私はあの人みたいになれない?いや、なる必要はない - アピタル」、「受け入れがたい自分の特性 もし他人が同じ特性なら? - アピタル」、『他人のSNSに嫉妬を感じたら 「できるかな」まず自問 - アピタル』、「今月もレシートためちゃった 苦手の勝負減らし金銭管理 - アピタル」、「本当の自分を知られたら怖い もうばれてるから大丈夫 - アピタル」、『夏休みの宿題の上手な進め方 コツは「10分ブロック」 - アピタル』、『夏休みも残り半月 「時間はある、何でもできる」は幻想 - アピタル』、『勉強開始は「楽勝」で、効果的なご褒美 やる気のカギに - アピタル』、「仕事が自分に向いていない…悩んだら同僚を観察、コツを盗む - アピタル」、「仕事にやりがいを感じたい 自分の過去から手がかり見つける - アピタル」、『集団やマニュアルが苦手… 大事なのは職業ではなく「職場環境」 - アピタル』、「波乱に満ちた夕食の献立づくり 大まかな選択肢でネット購入を - アピタル」、『今に追われて明日のことを忘れる 「ついでに」やって負担感減らす - アピタル』、「年末で忙しくてやるべきこと忘れる 予防のカギは記憶メモの外部委託 - アピタル」、「気がつけばもうすぐお正月…家族内にあるアリとキリギリスの関係とは - アピタル」、『現実逃避に走る「キリギリス夫婦」 泥沼から抜け出すための作戦とは - アピタル』、「我が子が理不尽な目に遭ったなら…人生の荒波を乗り越える力を備える - アピタル」、『「子どもが勉強しません」 大人にはわかる大切さを伝えるひけつとは - アピタル』、『子どものやる気を起こすには 魔法のボタンを押す「ツボ」を知る - アピタル』、『長年たまった夫婦のイライラ、怒り爆発を防ぐには「口にして味わう」 - アピタル』、『「もったいない」子どものモノを断捨離するコツ ルールを胸に刻む - アピタル』、『「子どもが勉強しません」 大人にはわかる大切さを伝えるひけつとは - アピタル』、『「空腹?それとも…」食べ過ぎをやめられない、自分への3つの質問 - アピタル』、『夫婦の話し合い「さけて現実逃避」より「修行のように」のすすめ - アピタル』、「さっさと宿題をしない我が子にイライラする 親はどうしたらいい? - アピタル」、『親同士の付き合いは苦手? 「自分はダメ」スキーマがもたらす苦しさ - アピタル』、『親同士の付き合い、ADHDを隠し「無難に」振る舞えばうまくいく? - アピタル』、『1年の目標はなぜ達成しにくいのか 「目標の立て方」にある落とし穴 - アピタル』、『その「年間目標」達成できる? 高すぎ・あいまい・無理しすぎはNG - アピタル』、『親はうたた寝、風呂も入らず子はゲーム 「気づけば真夜中」を見直す - アピタル』、『帰宅後に電池切れで動けない 「やる気エンジン」を1回だけかけよう - アピタル』、『「邪魔が入って手を止める」ときのコツ 「嫌な作業」を終えてから - アピタル』、「やる気出ない・日中ぼんやり・ミスばかり ADHD脳とのつきあい方 - アピタル」、『嫌な気持ち、酒でごまかす? 「本当に欲しいもの」は満たされない - アピタル』、『「ママなんて大嫌い!」思春期の娘と感情の衝突 親はどう返すべき? - アピタル』、『「約束に遅刻しそう」はママのせい? 親子問題の責任の所在を見直す - アピタル』、『まめじゃない私、人間関係が続かない 「人気者はどうしてる」を盗む - アピタル』、『「自分の人生って何…」40代の中年の危機 ぐるぐる思考を整理する - アピタル*9

※:一方、「ADHD女子」のリンク集については次のWEBページを参照して下さい。 「ADHD女子 - OTONA SALONE

加えて、女性のADHDに関連する論文の引用例はここを参照して下さい。

女性のADHDの本における様々な引用
次に、女性のADHDの特徴を簡単に紹介した後に、女性のADHDの本における様々な引用を以下に紹介します。前者について、榊原洋一、高山恵子著の本、「最新図解 女性のADHDサポートブック」(2019年発行)の 知っていますか? 女性のADHD の「女性のADHDとは?」における記述の一部(P2~P3)を形式を変更して以下に引用します。なお、以下には同本からの様々な引用があります。

特徴1 ADHD特性が目立ちにくい
女性の場合、「多動性・衝動性」の特性よりも、「不注意」の特性のある人が多いために目立ちにくい

特徴2 “男の子に多い障害”というイメージから見過ごされやすい
ADHDの男女差は、大人で2:1と女性にも多い

特徴3 周囲から“適応”しているようにも見える
男性よりも周りの人に合わせようとする意識が高く、無理に適応しているために困難が気づかれにくい

特徴4 内面的なトラブルを抱えやすい
他人との衝突やトラブルといった対外的な問題よりも、心の病や体調不良などの内面的な問題を抱えやすい

特徴5 ホルモンの影響を受けやすい
月経、妊娠・出産、更年期などといった女性ホルモンの変動によって、症状のコントロールがしにくくなる

特徴6 ほかの病気や障害を発症しやすい
ストレスや生きづらさから、別の病気を発症しやすく、それによって根本のADHDが隠されてしまうこともある(後略)

(a)宮尾益知監修の本、「女性のADHD」(2015年発行)等(ここも参照)からの複数の引用又は項目を以下に紹介します*10
① 同の『1 「片付けられない」だけでない』における5つのよくある悩みの項目を次に示します。
「ミスばかりで自分が嫌になっている」「気配りができず、同性に嫌われる」「時間がないのに用事をつめこんでしまう」「子どもを叱りすぎて虐待を疑われる」「治療後に、部屋が片付きすぎて混乱する」

② 同の 2 受診先は「小児神経科」か「精神科」 の「【受診】近隣の小児神経科や精神科を探す」における記述の一部(P32~P33)を次に引用します。

医療機関探しのポイント
発達障害の主治医を探すときには、近隣の相談窓口などに問い合わせ、自宅から近い医療機関を紹介してもらうとよいでしょう。有名な医師や病院を求めて遠方まで通おうとすると、いずれ負担が重くなります。(中略)

成人期
「発達外来」は大人に対応していない場合もある。大人の場合、「精神科」や「心療内科」にかかり、二次的な障害も含めて診察してもらうとよい。
●精神科・心療内科(なかにはくわしい医師がいる)
●発達外来(成人もみている場合がある)

注:引用中の「成人期」に関して、同本 P33 には次に示す記述があります。「子どもと大人では、発達障害をみる診療科が異なります。」

③ 同の 2 受診先は「小児神経科」か「精神科」 の「【診断】診断基準だけでは全貌がみえてこない」における記述の一部(P42~P43)を次に引用します。

診断基準が示していること
診断基準は、ADHDと診断して対応するための基準です。それはADHDの平均的・中核的な特性をまとめたものであり、また、主に男子のケースを基準としています。(中略)

ADHDの診断基準

中核的な特性
不注意・多動性・衝動性という中核的な特性を、複数のエピソードによって規定している。それ以外の個人差の大きい特性は書かれていない

主に男子の特徴
ADHDは主に子どもの発達障害として研究されてきた。女子よりも男子が多いため、診断基準は男子の特徴を反映したものになっている

生活上の困難
診断基準が示しているエピソードは、基本的に生活上の困難として表現されている。特性のよい面は書かれていない(中略)

診断基準が当てはまらないが、ADHDの女性にみられる特徴
内気で恥ずかしがり屋。自分から動いたりしゃべったりしない

動作や反応が遅い。なにをするにも時間がかかる

いろいろ考えすぎて、時間がないなかに用事をつめこんでしまう

昼間はいつも眠そうにしている。夜は考えこんでしまって眠れず、睡眠も浅い

なかなか決断できず、結果的に、衝動的な判断をしてしまう

まわりの人に認められたいと思っている。自分に対する評価に気にしてしまう(中略)

基準をはみ出す特徴もある
ADHDの子どもや大人には、診断基準で示されていない特徴もみられます。第1章で紹介した「女性どうしの付き合いで気配りができない」「用事をつめこみすぎる」といった悩みはADHDの女性に多くみられますが、診断基準ではふれられていません。(後略)

注:i) 引用と同じ本の同じ項目に対する他の視点からの引用は他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「恥ずかしがり屋」に関して、同本 P43 には次に示す記述があります。「ADHDの女性には、多動性・衝動性というイメージからは程遠く、じっとしていて恥ずかしがり屋の人がいる」 iii) 引用中の「診断基準」の例は次のWEBページに示します。『注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典の「診断・鑑別診断」項』 iv) 引用中の「昼間はいつも眠そうにしている。夜は考えこんでしまって眠れず、睡眠も浅い」に関連するかもしれない「睡眠障害」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「睡眠障害 - 脳科学辞典」、『田ヶ谷浩邦先生に「睡眠障害」を訊く』、「睡眠障害の基礎知識」 v) ちなみに、引用はしませんが、同本の P44 には、「COLUMN そもそも診断基準が女性に合っていない?」があります。

④ 同の 1 「片付けられない」だけじゃない の『【女性のADHDの特性】「多動性」「衝動性」は性格に見える』における記述の一部(P24~P25)を次に引用します。

年代別・「多動性」「衝動性」の現れ方(中略)

女性ではおしゃべりや買い物などの場面で目立ちます。

深く考えずに行動しがち。とくに衣服や日用品では、目に入ったものが欲しくなる。(中略)

成人期
仕事や恋愛などの重要なものごとでも、衝動的に判断してしまう。とり返しのつかない事態に
●相変わらず悪口や暴言が減らない
●急に思いついて退職する
●結婚や離婚の判断が早い(中略)

元気な少女だと思われている
ADHDの男の子は「落ち着きのない子」「乱暴な子」などと叱られてしまいがちですが、女の子では、多動性や衝動性がそこまで強く現れることは多くありません。
乱暴というほど激しい言動はみられず、「元気な子」「移り気な子」などと思われている子が多いでしょう。女性はADHDに気づかれにくいのです。

問題になることはじつは少ない
女の子で多動性や衝動性が問題になることは少なく、人間関係で大きなトラブルが起こることは、めったにありません。
ただし、自分勝手にしゃべりすぎたりして人間関係で軽いしこりをつくることはあります。それゆえ、女性どうしのグループになじみにくいという特徴はあります。その結果、付き合いにくい性格の子だと思われてしまいます。(後略)

注:引用中の「おしゃべり」及び「自分勝手にしゃべりすぎ」に関連するかもしれない、 a) 『女性のADHDの多動の特性が「おしゃべり」にあらわれる』ことについて、宮尾益知著の本、「女性のための発達障害に基礎知識」(2020年発行)の 第六章 ADHDの女性は多動性が「おしゃべり」にあらわれやすい の『多動の特性が「おしゃべり」にあらわれる』における記述の一部(P96~P97)を以下に引用します。 b) 『ADHDの女性に見られる「おしゃべり」は決して悪気があってのことではないにもかかわらず、相手の癇に障ったり、心を傷つけたり、場の空気を悪くする結果になることが少なくない』ことについて、同章の「悪気はないのに同性から疎まれる理由」における記述(P99~P101)を以下に引用します。

多動の特性が「おしゃべり」にあらわれる(中略)

男の子の場合、特性による行動が「手や足」にあらわれやすいのに対して、女性は「おしゃべり」にあらわれることがよくあります。「一方的にしゃべる」「しゃべりだすと止まらない」「人の話に割り込む」「夢中になり過ぎてまわりが見えなくなる」などの多弁傾向は、言葉が達者になるにつれてはっきりとあらわれます。これはちょっとした刺激にもすぐに反応して、思いついたことがつい口から出てしまうために起こると考えられています。そのため内容にとりとめがなく、またオチもありません。
これらは女の子が成長し、人間関係を築いていく上でネックとなることが少なくありません。女の子は男の子と比べてコミュニケーション能力が総じて高く、さまざまなおしゃべりを通じて人との関係性を深めていくことが多いものです。ところがADHDの女の子は、自分がしゃべりたいことを一方的に話しがちなため、「自己チューな子」「協調性がない子」とまわりから敬遠され、友だちかできにくい場合があります。

悪気はないのに同性から疎まれる理由
ADHDの女性に見られる「おしゃべり」は、決して悪気があってのことではありません。単になにも考えずに思ったままを話していることが多く、素直で正直であるともいえます。
ただ、それが相手の癇に障ったり、心を傷つけたり、場の空気を悪くする結果になることが少なくありません。そうしたケースをいくつか見てみましょう。

〈TPOをわきまえない〉
とにかくしゃべりたい一心で、TPOもわきまえずにだれかに話しかけてしまうことがあります。そのため、セミナーやミーティングなど人の話に耳を傾けなければならないような場面でも、隣や後ろの人に話しかけてしまうなどの行動をとってしまいます。

〈人の話に割り込む〉
ほかの人が話している間に割って入り、自分が話したいことを一方的に話し始めてしまうことがあります。割って入られたほうからすれば、自分たちの話の腰を折られ脈絡のない話を聞かされることになるので、いやがられたり疎まれたりしがちです。

〈思ったことが口に出る〉
自分が感じたことを、そのまま口にしてしまうことがあります。ふだんと違う髪形にしてきた友だちに「その髪型へんだね」と言ったり、お気に入りの服を着てきた同僚に「その色似合わないよ」と感想を述べたりします。その言葉を相手がどう感じるかという視点に乏しいため、悪気はなくても相手を傷つけたり、怒らせたりしてしまいます。

〈うわさ話や悪口を言う〉
うわさ話をうのみにして、それをほかのだれかに話したり、その場にいないだれかの悪口を、ほんの思いつきで口にすることがあります。これも本人に他意はなく、思いついたから口にしたという程度のものですが、そこに居合わせた人からすればいい気持ちはせず、周囲から警戒されてしまうことがあります。

〈仕切りたがる〉
自分の言いたいことや考え方を周囲に押しつけるような行動に出て、その場を仕切ろうとする場合があります。逆に、人の話にはあまり耳を貸さないため、周囲から「自己チューな人」と思われがちです。

注:引用中の「同性から疎まれる」に関連するかもしれない『「ガールズトーク」についていけないことがADHDの女性にも当てはまる』ことについて、宮尾益知著の本、「女性のための発達障害に基礎知識」(2020年発行)の 第六章 ADHDの女性は多動性が「おしゃべり」にあらわれやすい の『ADHDの女性も「ガールズトーク」が苦手』における記述の一部(P98~P99)を次に引用します。

(前略)ASD(とくにアスベルガー症候群)の女性はガールズトークについていけず、グループ内で浮いてしまったり、仲間外れにされてしまうことが多いと二章で述べました。これはADHDの女性にも当てはまります。
多動性からくる「おしゃべり」に加えて、場の空気を読まない、思いついたことをすぐ口にする、仕切りたがるなどの行動をついとってしまうのです。そのため、露骨にいやな顔をされたり、嫌われてしまうことがあります。
こうしたことが度重なると、「自分はこれでいいのかな」と考えたり、人付き合いが怖くなってしまうこともあり、それを大人になっても引きずる場合があります。

注:引用中の「ASD(とくにアスベルガー症候群)の女性はガールズトークについていけず、グループ内で浮いてしまったり、仲間外れにされてしまうことが多いと二章で述べました」ことについては他の拙エントリのここを参照して下さい。

⑤ 同の 4 「過去の自分」を許せれば落ち着く の『【現在を肯定する】「いい加減」な生き方を探していく』における記述の一部(P78~P79)を次に引用します。

適度な手抜きを覚えていく
ADHDの女性は特性を受け止めるなかで、他の女性や、世間が求める女性像を意識してしまい、完璧主義に陥る場合があります。
そのような視点では、ADHDの治療・対応はなかなかうまくいきません。自分にとってちょうどよい生き方を探り、現実的な目標を立てる必要があります。
完璧をめざす人にとって、それは手抜きのように思えるかもしれません。しかし、手抜きだと感じられるくらいの「いい加減」な生き方こそが、ADHDの女性には必要なのです。
適度な手抜きを覚え、無理なくすごせるようになりましょう。(中略)

肯定的になる3つのコツ
自分を肯定し、無理なく生きるためのコツが3つあります。自分の時間を持つこと、人を頼ること、生活習慣を整えることです。いずれもけっして特別なことではなく、日々を丁寧に生きようとすれば、自然に実現していきます。

⑥ 同の 5 生活面では「人間関係」がテーマに の『【同性との関係】そつなくふるまうことはあきらめる』における記述の一部(P87)を次に引用します。

要求に応えようとすると苦しくなる
ADHDの女性は、同じ女性から「だらしない」「もっと気をつかって」「女性なんだから」などと注意されることがあります。
相手は、自分が女性として実践してきたことを、ADHDの女性にも伝えようとしています。親切心から、女性が求められる要素を教えようとしているのでしょう。
しかしそれは多くの場合、ADHDの女性にとっては難しい要求となります。その要求に応えようとすると、苦しくなります。
不注意や多動性、衝動性といった特性がある場合、世間の求める女性像よりも、むしろ男性像に近い行動パターンになりがちです。
そういう特徴を自分らしさとして理解し、大切にしていくほうが、生活は安定します。(中略)

「がさつで女性らしくない」と考えるのではなく「竹を割ったようにさっぱりした性格」と考えたい(後略)

⑦ 同の 5 生活面では「人間関係」がテーマに の『【同性との関係】フォローしてくれる友達・同僚をみつける』における記述の一部(P88)を次に引用します。

向き不向きがある
誰にでも、適性のある活動と、そうではない活動があります。ADHDの女性の場合、副社長として人を補佐するよりも、社長として人を引っぱっていくほうが、適性があります。(中略)

少しサポートがあるだけでも違う
ADHDの女性にとって、自分をサポートしてくれる人の存在はきわめて重要です。ちょっとした声かけひとつで、くらしやすさが大きく変わってきます。
とはいっても、友達のなかからサポート役を選ぼうなどという身勝手な考え方をしてはいけません。それでは理解もサポートも得られないでしょう。
日々の生活のなかで、自分を気にかけてくれる人や世話を焼いてくれる人を、大切にしましょう。そして、その相手が自分を大切に思ってくれるように、自分も相手をサポートしましょう。支え合える関係を築いていくのです。

注:i) 引用中の「社長として人を引っぱっていくほうが、適性があります」に関連して、ADHDの女性がリーダー向きの理由としては、同ページに「アイデアを出すことや、行動力を発揮することが得意」と記述されています。 ii) 引用中の「世話を焼いてくれる人」に関連して、次ページ(P89)に『世話を焼いてくれる仲間がみつかっても、その人が「ああしなさい」「こうしなさい」と指示しがちなタイプだと、うまく関係が築けないことがあります。正しい方法を教え込もうとするタイプよりも、よく気にかけてくれるタイプのほうが、よい付き合いができるでしょう。』と記述されています。

⑧ 同の 5 生活面では「人間関係」がテーマに の『【異性との関係】押しの強い男性との間には少し距離をとる』における記述の一部(P90)を次に引用(『 』内)します。 『ADHDの女性は、押しの強い男性に恋愛感情を抱くと、相手に依存してしまい、振り回されることがあります。そういう相手との付き合い方には注意が必要です。』 加えて、これに関連するかもしれない「自尊感情の低さが弱みに」について、同PART 3の 恋愛や結婚で気をつけること の「コラム 自尊感情の低さが弱みに」における記述(P151)を次に引用します。

ADHDの人は、子どものから周囲に認められてこなかったために自尊感情が低い傾向があります。
そうした背景があるために、自分の存在価値を認めてくれるような素振りをみせる異性に心をひかれてしまうのかもしれません。自分を好きだと言ってくれる人に依存しすぎてしまい、何でもいうことを聞いてしまうケースもあります。
相手が悪意をもって近づいてくる場合もあることを心得ておく必要があります。

また、上記にも関連する「恋愛や結婚で気をつけること」について、同PART 3の「恋愛や結婚で気をつけること」における記述の一部(P150~P151)を次に引用します。

恋愛にのめり込みやすい
ADHDの特性の一つに、熱しやすく冷めやすい傾向があります。そうしたタイプの人のなかには、ささいなことがきっかけで異性を好きになってしまい、すぐに深い関係をもってしまう人がいます。
たとえば、優しいことばをかけられただけで夢中になったり、少々強引な男性が頼もしく、魅力的に見えてしまったりして、相手がどのような人物かよくわからないまま、つきあってしまうケースもあります。
誠実な人ではなく、複数の女性と交際していたり、金銭目的で近づいてきたりすることも考えられます。
しかし、いったん好きになってしまうと、「自分が利用されているだけかもしれない」と、冷静に判断することができず、のめり込んでしまうおそれがあるのです。
アメリカの研究では、ADHDの人は低年齢で性交渉の経験をもちやすく、避妊をせずに病気にかかってしまったり、予期せぬ妊娠をしてしまったりする割合が高いと報告されています。アメリカの結果をそのまま日本に持ち込むことはできませんが、ADHDの特性がベースにあることで、こうした恋愛にかかわるリスクが高まる可能性があることは否定できません。

安易に重大な決断をしてしまう
さらに、相手のことをまだよく知らないまま、気持ちが先走り、結婚を決断してしまうといったケースもあります。
ADHDの人は、途中で立ち止まって考えることが苦手なので、いったん走りはじめると、歯止めがかからなくなる傾向があります。
その結果、結婚後に、自分が思っていたのとは違った人だったとわかり、後悔することもあるでしょう。そうなったとたんに気持ちが急速に冷めて、今度は離婚に気持ちが傾いてしまいます。
人生の重大な決断をするときには、いろいろな情報を集めて、一定期間じっくり考えるべきですが、気持ちにブレーキがかけられず、慎重に段階を踏むことができなくなってしまう可能性があります。

ブレーキ役となる相談相手を
自分の気持ちに歯止めがかけられないときに、相談にのってもらえる身近な人がいることが望まれます。同性のきょうだいや友だちなどがふさわしいでしょう。日ごろから自分が信頼している存在で、いざというとき、ブレーキ役になってくれるような人が求められます。
また、自分で決断を下したいという気持ちがあっても、その場で決めるのではなく、ひとます1日だけ先延ばしにするようにしましょう。
一晩寝て、翌日、少し冷静になってもう一度考え直すと、違ったこたえが出るかもしれません。

⑨ 一方、上記とも重複する部分があるかもしれませんが、女性に多い「不注意優勢型」、「求められる“女性像”」をはじめとした「女性のADHDの問題点」について、榊原洋一、高山恵子著の本、「最新図解 女性のADHDサポートブック」(2019年発行)の PART 1 ADHDの基礎知識 の 女性のADHDが注目されている の「女性のADHDの問題点」及び「求められる“女性像”に苦しむことも」における記述(P32)を次に引用します。

女性のADHDの問題点
女性に多い「不注意優勢型」は、大人になってわかるケースも多く、問題が深刻化しやすいといえます。
一つめの問題は、本人が特性を客観的に把握することができないために、苦手なことにチャレンジをして失敗したり、人間関係でつまづいたりしやすくなということです。
その結果、就労や結婚、家庭生活などがうまくいかなくなり、思い通りの生活・人生が送れなくなる場合もあります。
二つ目の問題は、困っているにもかかわらず、支援を受ける機会が失われてしまうということです。
子どものときに医師から診断を受け、周囲から適切な支援を受けていれば、日常生活の困難は軽減します。
しかし、放置された場合は悩みが増え、自信を失うことになります。
これらの問題は、本人のストレスを増やし、自尊感情を低下させていきます。そして、不安障害やうつ病などの合併症(36ページ参照)を引き起こすリスクを高めることになってしまうのです。

求められる“女性像”に苦しむことも
日本では、女性は奥ゆかしく、きれい好きで、気が利くなどといったことを求められる風潮があります。
しかし、ADHDの特性があると、整理整頓が苦手だったり、細かいところに気がつきにくかったりすることがあります。そのため、家事を段取りよく片づけたり、家計を守ったりすることが難しい場合があります。
また、仕事でも、事務作業や雑務を地道にこなすことが苦手なため、職場によっては風当たりが強くなりかねないでしょう。
家事や子育てを女性が引き受けることが当たり前とされがちな社会では、ADHDのある女性は非常に生きづらいといえます。
周囲からもとめられるような、“理想の女性像”にこたえられないと思い込み、自分を否定的にとらえてしまう人も少なくないのが現実です。

注:引用中の「日本では、女性は奥ゆかしく、きれい好きで、気が利くなどといったことを求められる風潮があります」に関連する、『いわゆる「やまとなでしこ」が、いまだに日本女性の理想像』であることについては他の拙エントリのここを参照して下さい。

⑩ 加えて、「女性ホルモンの影響」、「ライフスタイルへの影響が大きい」、「“過剰適応”でカバーされてしまう」ことを含む「女性のADHDの特徴」について、同PART 1の 女性のADHDの特徴 の「女性ホルモンの影響がある」、「ライフスタイルへの影響が大きい」、「“過剰適応”でカバーされてしまう」(中略)、及び「自尊感情が低い」における記述(P38~P41)を次に引用します。

女性ホルモンの影響がある
女性のADHDの人のなかに、ホルモンの変化によって、症状や体調に大きな影響が現れることを感じていると話す人は少なくありません。
「生理中はイライラし症状が重くなる」「妊娠中は症状が軽く気持ちが安定する」といった声も聞かれます。
女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンがあり、分泌量は月経周期や年齢によって変化します。
アメリカのある研究では、女性はこれらの分泌量が多いとき、ADHDの特性の一つである衝動性の高い行動が起きにくくなるということが報告されています。これは逆に、エストロゲンやプロゲステロンが低下する時期は、ADHDの症状が増強しやすいとも考えられるのです。

ライフスタイルへの影響が大きい
不注意が多く、忘れっぽく、整理整頓が苦手で、物や時間の管理がうまくできないADHDの女性は、周囲に期待されがちな「女性としてのふるまい」がうまくできないことに自信を喪失しやすく、男性以上に深刻な悩みを抱えやすいといえます。
たとえば結婚後、“夫を支え家庭を守る妻”という役割を担おうとするものの、夫の身辺の世話や家事がうまくこなせなかったりして、無力感にさいなまれてしまうことがあります。
子育てにおいては、“よい母親”になろうと努力をするものの、子どもが自分の思い通りに行動しない、期待通りの成長をみせないといったことで、「母親としての役割を十分に果たせなかった」と自分を否定的にとらえてしまう人もいます。

“過剰適応”でカバーされてしまう
海外の研究でも、ADHDのある女性はADHDのある男性に比べ、特性をカバーしようと努力する傾向が強いことがわかっています。
適応能力が高いことは、一見、社会生活を送るうえでよいことのように思えますが、それは見かけのメリットでしかありません。
たとえば、本人が無理をして適応することで、対外的にはうまくいくかもしれませんが、ADHDであることが周囲の人からわかりにくくなります。
さらに、自分を周りに適応させようと並々ならぬ努力をすれば、それだけ大きなストレスを抱えることになります。
このような状態を「過剰適応」といい、適応障害や不安障害、うつ病などといった合併症を引き起こすリスクを高めてしまいます。(中略)

自尊感情が低い
海外で行われた調査では、ADHDの男の子(男性)と比べて、女の子(女性)は全体的に自分に自信がなく、他人よりも能力が劣っていると感じている人が多いことがわかっています。
女性の場合はとくに、自分を価値のない人間だと思い込みやすい傾向があり、その結果、自尊感情も低くなりがちであると指摘されています。

注:引用中の「合併症」について、同PART 3の 合併症が前面に出るケース の「合併症に隠されるADHD」における記述の一部を次に引用(『 』内)します。 『ADHDのある女性は、男性と比べて子どもも大人も適応能力が高い人が多く、無理に周りに合わせようとする傾向があるために、“生きづらさ”を抱え込んでしまうケースが多いと考えられています。その結果、思い悩んだり傷ついたりしながらストレスをためて、うつ病や不安障害などを合併しやすくなるのです。』 加えて、「ADHDの合併症」について、同PART 1の ADHDの合併症 の「ADHDに続発しやすい障害」における記述(P36)を次に引用します。

ADHDに続発して起こる二次的な障害を「合併症」といいます。これは、もともとADHDと一緒に現れる「併存症」とは異なるものです。
合併症には、“外面化”するものと“内面化”するものがあります。
“外面化”とは対外的に問題が生じることで、代表的な障害としては、反抗挑戦性障害や行為障害(素行障害)があげられます。
一方の“内面化”とは、自己の内部(心身)に問題が生じることで、身体的な不調、過度な不安や恐怖、うつ病やひきこもりなどがあげられます。女性の場合、二次的な障害は“内面化”するケースが多いといわれています。

注:引用中の「合併症」の例として、上記「ADHDの合併症」(P36~P37)でリストアップされているものを次に提示します。 「不安障害」、「うつ病」、「複雑性PTSD」、「摂食障害」、「反抗挑戦性障害」、「行為障害(素行障害)」

⑪ その上に、「家庭での困り事」及び「学校や職場での困り事」について、同の PART 3 女性のADHDの向き合い方と対処法 の「家庭での困り事」及び「学校や職場での困り事」における記述の一部(P98~P100)を次に引用します。

家庭での困り事(中略)

家事や物の管理が苦手
ADHDの人は複数の作業を並行して段取りよくこなすことが得意ではありません。
こうした特性をもつ人が、最も苦手とするものの一つが家事です。
洗濯機を回している間に掃除をすませたり、食事の下ごしらえをしながら、取り込んだ洗濯物をたたんだりといったように、時間を有効に使って、家事を手早く終わらせることができないのです。
また物の管理が苦手なために、家のカギや携帯電話などの大切なものをどこかに置き忘れてしまったり、きちんと片づけられないために部屋が散らかってしまったりします。物がなくなったり、どこに置いたかわからなくなったりすることが多く、常に物をさがさなければならなくなります。

忘れやすさがまねく失態
忘れっぽい特性が失態をまねくケースもあります。
家賃や公共料金の支払いが遅れてしまったり、子どもの学校に提出する書類を準備できなかったり、大切な行事や家族との約束を忘れてしまったりといった失態をして、周囲からの信頼を失う場合もあります。
鍋を火にかけていたことを忘れて、危うく火事を引き起こしそうになるケースや、炊飯器のスイッチを入れ忘れて、食卓にごはんが間に合わなくなるといったこともあります。

家族関係がこじれやすい
人の話を最後まで聞かずに早合点してしまったり、自分の勝手な思い込みで誤解をしてしまったりすることも多く、夫や子ども、姑などとの関係が悪くなってしまう人もいます。
また、いったん怒りが沸点に達すると冷静になることができず、子どもを感情的に叱ったり、夫と激しいバトルをくり広げたりするケースも少なくありません。
一時的な感情に流されやすく、怒りの勢いに任せて、安易に別居や離婚を決めてしまう人もいます。
海外のある研究では、ADHDの人は離婚率が高く、婚姻期間も短いと報告されています。(中略)

学校や職場での困り事(中略)

重い腰がなかなか上がらない
ADHDの人の特徴の一つに、“取りかかりの悪さ”があります。やらなければならない課題や仕事がなかなかはじめられず、そのまま時間を過ごしてしまい、あとで時間が足りなくなって、期限が守れないことがあります。
興味のある課題であれば率先して取りかかれるのですが、関心の薄い課題や、終わりの見えづらい根気のいる仕事の場合は、とくに重い腰が上がりません。
一方で、見通しが甘くなりがちな面があります。
ほかの人から見ると、明らかに時間のかかる課題や作業を、短時間でこなせると思い込み、予定通り終わらせられずに後悔するといったことがしばしば起こります。また、自分ではこなせるつもりでも、不測の事態に備えて、かかる時間を多めに見積もるといった配慮ができないため、手一杯の仕事を安易に引き受けたり、ギリギリの期日に追われたりしやすく、ストレスを抱えがちになります。

うっかりミスが多い
ADHDのある人は注意力を保つことが困難なため、うっかりミスをしやすい面があります。
たとえば、上司から注意されたことを気にとめておくことができず、同じミスを何回もくり返してしまうケースがあります。上司がADHDの特性を知らなければ、自分の指摘を真剣に受け止めなかったのだと思い、“いい加減な人”“信頼できない人”と評価してしまうでしょう。
あるいは、自分に反発しているのではないかと誤解されて、職場で難しい立場に立たされることになるかもしれません。

聞くことを忘れてしまう
状況判断や場の空気を読むことが苦手な面もあり、他人のことばや反応などを自分の都合のよいように解釈してしまう側面もあります。
たとえば、自分がよいと思った企画や意見を提示したときに、他人から明確に否定されないと、みんなが支持してくれたと思い込んで勝手に計画を進め、あとで叱責を受けてしまうこともあります。(後略)

⑫ さらに「体調変化への対応」について、同PART 3の「体調変化への対応」における記述の一部を、「コラム PMS(月経前症候群)とPMDD(月経前不快気分障害)」を含めて次に引用(P76~P79)します。

体調変化への対応(中略)

体調の変化に弱い
ADHDのある人は、ちょっとした体調の変化にもうまく対応しきれないことがあります。たとえば、空腹を感じていたり、睡眠不足だったり、疲れがたまっていたりするだけで、自己コントロールが利きにくくなり、ADHDの特性がいつもより強く出てしまうのです。
ですから、体調管理には人一倍気をつけなければなりません。
日ごろから、夜十分に睡眠がとれるよう早く就寝する、規則正しい生活リズムをつくる、疲労を避けるために遊びやゲームに長時間費やさないようにするといったことに心がけるようにしましょう。

月経周期によって体調が変化することも
ADHDのある女性は、月経のサイクルに合わせて、女性ホルモンの分泌量が変化し、その影響で症状の現れ方も大きく変動する場合があることがわかっています。
女性ホルモンの分泌量が低いときなどに、ADHDの症状が強く現れるという海外の研究報告もあります。
また、ADHDの女性のなかには、重症のPMSやPMDD(中略)に悩まされる人も少なくありません。
どのタイミングでどのような症状が強く現れるかには、個人差があるため、自分の体調変化を記録するなどして知っておくようにします。
つらい時期がいつやってくるか前もってわかると、乗り切るための対策をとりやすくなります。
本当につらいときは無理をせず、体を休めましょう。(中略)

コラム PMS(月経前症候群)とPMDD(月経前不快気分障害)
PMSは、月経前の3~10日間続く精神的・身体的症状のことです。
精神的症状としては、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害などが、また、身体的症状としては、腹痛、頭痛、腰痛、むくみなどがみられます。こうした症状が、月経周期にともなって毎月現れるのが特徴で、思春期の女性には特に多いともいわれています。
一方、とくに精神症状が強いケースでは、PMDDの場合があります。PMDDでは、生理前に「感覚過敏」がひどくなる人がいます。不快な音、匂い、光、触覚は、イヤホンで音楽を聴く、マスクをする、サングラスかけるなど、我慢せずにできるだけ遮断をしたり、取り除いたりするような工夫をして対応しましょう。
ADHDの女性の場合、ホルモン変化による体調コントロールがうまくいかず、PMSやPMDDを発症しやすい可能性があります。どちらもストレスによって悪化するため、心身に負担をかけないようにし、リラックスして過ごすことが予防につながります。
また、運動によって症状を緩和することが期待できるといわれています。ストレッチやウォーキング、ジムなどでの軽いランニングやヨガなど、無理なく続けられるものから取り入れてみてもよいでしょう

注:i) 上記体調の変化の例について、上記「体調変化への対応」の「注意したい体調変化と対処法」における記述の一部(P76)を次にリストアップします。 「疲れ、だるさ」、「空腹」、「暑さ、寒さ」、「寝不足、日中の眠気」、「月経による不調」 ii) 引用中の「月経前症候群」については次のWEBページを参照して下さい。 「月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)」 ii) 引用中の「月経前不快気分障害」については次のWEBページや YouTube を参照して下さい。 「月経前不快気分障害(PMDD)の症状と原因-月経前症候群(PMS)とは違う?」、「月経前不快気分障害[臨床]生理の前に落ち込んだりイライラしたりする女性たち」 iii) 引用中の「ヨガ」(ヨーガ)については例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「ストレッチ」に関連する「ストレッチングのエビデンス」については、次の資料を参照して下さい。 「ストレッチングのエビデンス」 加えて上記「ストレッチ」を含む「ストレスを解消する」ことについて、同PART 3の ストレスを解消する の「自分に合った方法がベスト」及び「ストレッチがおすすめ」における記述の一部(P144)を次に引用します。

自分に合った方法がベスト
悩み事があったり、仕事などが多忙で心の余裕がなくなったりすると、ストレスはたまりやくなります。日常生活においてストレスを避けることはできませんが、ためすぎないようにするのが大切です。
いろいろ試してみて、自分に合ったストレス解消法をみつけましょう。
たとえば、好きな趣味に没頭する、時間をかけて入浴する、好きな音楽を聴くなど、自分にとって楽しこと、気分がリラックスできることをさがします。
また、できるだけ、ノルマを課さないもの、競争のないものを選びましょう。新たなストレスの“種”を生み出さないように気をつけます。
また、飲食やショッピング、ゲームやスマートフォンなどに依存することで、ストレスを解消する方法はおすすめできません。生活時間や金銭を多くつぎ込むことはしないようにしましょう。

ストレッチがおすすめ
ストレス解消だけではなく、健康にも効果のある運動はおすすめです。ウォーキングや軽いジョギングなどで汗を流すことで、気分もリフレッシュされますし、肥満予防などの効果を期待できます。
外に出かけるのがおっくうなのであれば、室内で軽い運動に取り組むのもよいでしょう。
とくにおすすめしたいのがストレッチです。ふだん、あまり使わない筋肉をゆっくり伸ばすと気分がリラックスするだけではなく、血流もよくなり、健康増進につながります。
ADHDのある人は、そうでない人と比べて常に緊張しやすく、首や肩の凝りに悩まされている人が少なくありません。
簡単なストレッチを行うことで、筋肉だけでなく心の緊張もほぐれます。
ストレッチであれば、仕事の合間の休憩時間にも気軽に取り組めます。同じ姿勢をずっと続けていて体が緊張しているときや、気持ちが焦っているときに自ら落ち着かせたいと思ったときなどにも効果があります。
いつでもどこでもできる、簡単なストレッチを覚えておくと、便利です。

⑬ 女性のADHDストーリーとしての「“大丈夫”と支えてくれる人のあかげで自信をもつことができた」ことについて、同PART 3の 女性のADHDストーリー③ “大丈夫”と支えてくれる人のあかげで自信をもつことができた の「子どもが診断を受けたことで自分のADHDにも気がついた」及び「気持ちが不安定になりやすく人と信頼関係が結びにくい」における記述(P94~P95)を次に引用します。

子どもが診断を受けたことで自分のADHDにも気がついた
わたしは日常生活でつまづくことが多く、人と理解し合えないことがよくありましたが、それが障害の特性からくるものであるとは思っていませんでした。
自分がADHDであると知ったのは、母親になって子どものようすが気になり、医療機関を受診したのがきっかけでした。発達障害の専門医にADHDと診断されたわが子が自分と重なって見え、その場で相談したところ、私自身にもADHDがあることがわかったのです。
子どものころから何をやってもうまくいかず、漢字や歴史の年号が覚えられない、習字を習っているのに一向に文字がうまく書けない、片づけが苦手、にぎやかな場所に行くと話し相手の声が耳に入ってこないといった悩みを、ずっと抱えていました。
音楽の専門学校に進み、卒業後は、アパレル関係の会社でフルタイムのアルバイトとして勤めましたが、職場で仕事がうまくこなせないプレッシャーからうつ病になり、退職しました。
体調が回復してから別の仕事をはじめましたが、人間関係につまづき再び退職。その後もいくつかの仕事に就きましたが、どれも短期間しか続きませんでした。
仕事がうまくできなくなる原因は、わたし自身の飽きっぽさにあります。仕事をはじめたばかりは新鮮で楽しいのですが、やがて飽きて関心が薄れていき、仕事の覚えも悪くなるのです。その結果、周りの人からも距離をおかれるようになり、人間関係もうまくいかなくなるといった調子でした。

気持ちが不安定になりやすく人と信頼関係が結びにくい
これまでを振り返ってみると、わたしにとって、とりわけ大きな悩みとなったのは人間関係だったと思います。
子どものころから“親友”をもつことに憧れていたのですが、少し親しくなった人にはつい愚痴や人の悪口などのネガティブな話ばかりしてしまい、楽しい話題が提供できません。そのような関係からは、とても友情を育むような進展は望めませんでした。
いまも、子どもの同級生の親とはなんとかうまくやっていかなければと思っているのですが、わたしの場合、相手との距離がうまくとれず、過度に親しくなったかと思うと、急に相手にいやな感情が芽生え、冷たい態度をとったり、悪口を言ってしまったりすることがあるのです。こうした態度のせいで、周囲の人から「気分屋だね」と言われてしまうこともあり、たびたび落ち込みます。
そうしたなか、わたしを支えてくれるのは夫です。夫はわたしの話を否定することなく聞いてくれ、「大丈夫、気にするな」と励ましてくれます。身近な家族にそう言ってもらえることで、少しずつ自信もつくようになりました。
薬を飲むようになってからは、毎日平常心で過ごすことができるようになっています。こうしてみると、薬を飲んでいなかったころの自分は、ささいなことが引き金となって、怒りの炎が燃え上がり、興奮状態になるような面があったと思います。薬を飲むことで、そうした感情の起伏を抑えることができていると実感しています。
現在の職場では、わたしが不得意なことを周りの人たちが理解して、フォローしてくれるので助かっています。
子どものころは、自分が“すごくできる人”だという思い込みがあり、そんな自分を理解できない周りが悪いと考えていました。
しかし、いまは欠点もある自分を周りの人が温かく支えてくれていることに感謝しています。

一方、女性の視点からのADHDとASD(又はアスペルガー症候群)との(症状の)違いに関連して、 a) 「グループ内のルールが理解できない」ことについて、宮尾益知監修の本、「ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場内での悩みと問題行動を解決しサポートする本」(2017年発行)の「友人との間で起きるトラブルと対応策」における記述の一部(P90~P91)を以下に、 b) 加えて「気配りができない」及び「時間がないのに用事をつめこんでしまう」ことについて、同の 1「片づけられない」だけじゃない の 【よくある悩み】気配りができず、同性に嫌われる の「アスペルガー症候群の場合」における記述の一部(P15)を以下に、 そして、同 1「片づけられない」だけじゃない の『【よくある悩み】時間がないのに用事をつめこんでしまう』における記述の一部(P17)を以下に それぞれ引用します。

グループ内のルールが理解できない

特に女性の場合は、友人との間でトラブルになりやすい傾向があります。女性には、社会人になっても特有のグループができやすいものです。グループ内には序列や会話、ファッションなど一定のルールがあり、暗黙の了解があります。例えば、グループ内の会話は他には話さないとか、休日にはグループで遊びに行くなど……。
しかし、ASDの特性のある女性の場合は、暗黙の了解が理解できずに、仲間はずれにされたり、イジメにあってしまうこともあります。
また、ADHDの女性の場合は、ルールは理解しているのに不用意な発言や自分勝手な発言をして、グループ内で嫌われてしまうこともあります。どちらのケースであっても発達障害の女性にとっては、なぜ自分が嫌われているのか理解できない場合が多いようです。(後略)

アスペルガー症候群の場合
ADHDの女性は相手の気持ちがわかっていても、気配りでミスをしがちです。アスペルガー症候群の場合、他の人の気持ちがわからず、関わり方にも悩みます。

注:この引用は「気配り」に関するものです。なお、引用中の「ADHDの女性」に関連する「女性どうしの会話ややりとりでは、気配りを求められるケースが多い」ことについて、上記 【よくある悩み】気配りができず、同性に嫌われる の「自己中心的だと非難されてしまう」における記述(P15)を次に引用します。

他の人をないがしろにしているつもりはないのに、結果として言動が一方的になり、まわりから「自己中心的だ」と非難されてしまいます。
このような悩みは、同じADHDでも男性より女性に多くみられます。女性どうしの会話ややりとりでは、気配りを求められるケースが多いようで、ささいなことから関係悪化につながったという例がよくあります。

アスペルガー症候群の場合
時間を量の概念で考えることが苦手です。時間を数値としてとらえ、予定の時刻ちょうどに活動しようとして、1分ずれただけでもパニックになることがあります。

注:i) この引用は「時間の管理」に関するものです。 ii) この引用は「アスペルガー症候群」に対するものですが、上記『【よくある悩み】時間がないのに用事をつめこんでしまう』には、女性のADHDに対する次に引用する記述の一部(P17)もあります。

女性では思考の多動がとくに目立つ場合も
時間がまもれない、予定がこなせないという悩みは、ADHDの男女に共通してみられるものです。
ただし、女性では、一見落ち着いているようで、実は時間にルーズというタイプの人がよくみられます。
言動の多動性は弱く、思考の多動性が強く出ているのです。

(b)岩波明著の本、『発達障害と生きる どうしても「うまくいかない」人たち』(2014年発行)の 第一章 発達障害とは何か の「ADHDの四〇代女性」における記述(P50~P53)を次に引用します。加えて、同本の第三章 発達障害の多発家族 の「ASDとADHDが併存している二〇代女性」における記述(P135~P137)を以下に引用します。

ADHDの四〇代女性
次に示すのは、発達障害の専門外来を受診した四〇代の女性例である。初診時、彼女は次のように語った。
「うつ病だと思ってクリニックに受診をして、産後も通っていました。うつが悪化したので、昨年秋に先生に薬を出してほしいと言ったら、うつ病じゃないと思うと言われました。そしていろいろテストを受けて、軽度発達障害の疑いがあるということでした。でも確実な診断はわからないので、こちらの先生にお願いしてるとのことで、今日来ました」
彼女は自分の悩みを次のように述べた。
「日頃は集中力が持てない。すぐ忘れる、片づけができない、計画ができない。いろいろあります」
「現在の悩みは、人との会話がうまくできないことです。質問に対して違うことを言ったり、ずれてる時がある」
「物覚えが悪く、料理も毎日レシピを見ないとできない、思考回路が悪い、ほかにも、いろいろあります」
担当医からの紹介状には次のように記載されていた。

[病名]発達障害(アスベルガー症候群)の疑い
[症状経過]リストカット、摂食障害で平成一七年ごろより、心療内科に通院、その後、当院転医となりました。一時期は落ち着き、通院なしの期間もありました。結婚していますが、二歳の息子の育児や料理ができない(調味料の数が多いと混乱し、メニューがたてられない)ことが現在の問題です。

また、心理士からの経過報告には次のように述べられていた。

主訴は、“子育てが大変で 家事もほとんどできない。夫は協力してくれているが、夫に感情を持てない。子供を乳児院に預けたほうがいいのではないか、と考えるくらい、思いつめてしまう”。
[生活歴など]岡山県出身。子供の頃はいじめられていた。また、鉄砲玉と言われ、忘れ物も多かった。母親から、授業参観に行ったら患者一人教室でウロウロしていたとのこと。苦手科目は算数。
中学に入って、二年生で友人ができたが、独占欲が強かっだのか友人関係が安定せず、友人がほかの子と遊ぶと自分の具合が悪くなり、神経性胃炎になった。
高校卒業後、コンピューターの専門学校に進学し卒業。二二歳で就職(商社の経理)、二三歳で父の転勤についていき、東京に転居。これまでと同じ会社の東京店に入社した。だが、事務を一人でやらなくてはいけなくてミスが怖くなったこと、正社員として縛られるのが嫌になったこと、バイトをして友人を作りたくなったことなどをきっかけに退職している。
ファミリーレストランで一ヵ月アルバイトをした後、二六歳から二八歳まで皿洗い、三〇歳までは居酒屋のアルバイトをしていた。三〇歳から三七歳までは一般事務でパソコン入力のアルバイトをしたが、単純作業で、小さい会社で社長と社員がいい人だったので、長く続いた。
[家族]三年前に結婚し退職。現在、専業主婦。夫、長男と三人暮らし。長男は一歳半検診、二歳健診で、こだわりの強さや、グルグル回るものをずっと見つめていることなどを指摘され、保健師のすすめで、市が主催する発達障害の子供のグループに月二回通所している。
岡山県の実家には両親がおり、「自分自身、実家への依存が強く、現在は月一回実家に帰っているが、本当は、できれば夫と別居して実家で両親と一緒に住みたい」という気持ちを訴える。
この症例の経過をみると、小児期から鉄砲玉と言われるなど落ち着きがなく、忘れ物、落とし物が多かった点から、「多動」と「不注意」がみられたことがわかる。また就職後も、集中力不足のため単純作業が十分にこなせないことから、成人後も「不注意」の症状が持続しているといえる。以上の症状と経過より、ADHDと診断が可能であり、比較的典型的なケースと思われる。三五歳、三九歳時にうつ状態となったため精神科を受診したが、これまで、正しい診断、治療とも行われていなかった。

ASDとADHDが併存している二〇代女性
ここでASDとADHDが併存しているケースを取り上げる。
寺内さんは、二九歳の女性である。小児期より孤立しやすかった。友達はほとんどできず、仲間に入れてもらおうとして断られることも多かった。また、グループで何かをすることが苦手だった。
人との暗黙の了解というものがわからなかった。自分としては周囲に気を使っているつもりだったが、気遣いが的外れで相手に通じないことも多かっだ。
いつもいじめの被害者だった。それに加えて小児期からケアレスミスが多く、また落ち着かずにじっとしていられないこともしばしばみられた。さらにこの頃より、確認癖も出現している。
子供の頃からずっと、今でも、感覚の過敏さが続いていた。スクーターの排気音、甲高い笑い声、エアコンの音などが苦手だった。光にも過敏で、蛍光灯もLEDも嫌いだった。さらに電車などで他人の身体と触れるのも苦手で、隣に座った人のヒジなどが触れそうになるとすぐに避けるようにしている。
中学生のときに、不安感が強くなり、初めて精神科を受診している。一時、不登校にもなった。大学卒業後は就職したが、対人関係が不得手で、どこでも仕事が長続きしなかった。
過去の嫌なことを思い出し、どうしていいのかわからなくなってパニック状態となることもよくある。
自ら発達障害ではないかとある精神科クリニックを受診したが、発達障害の診断は否定された。次に示すのは、受診したクリニックから他院の発達障害外来に宛てた紹介状の一部である。

「……これまでの病歴や心理検査からは発達障害ははっきりせず、境界例~精神病水準を疑っています。ご本人に発達障害は考えにくいとお伝えしたところ、納得されず貴院への転院を希望されました」

寺内さんは、これまでの通院先においでは発達障害についてきちんと診断されなかったが、ASDとADHDの両方の症状がみられている。対人関係の障害、確認癖、感覚過敏などはASDの症状であるが、不注意と多動はADHDの症状であり、彼女においでは両疾患が併存していると考えられた。
このように同一個人におけるASDとADHDの併存は、臨床の現場ではしばしばみられるものである。しかし一方で、ASDとADHDの症状には類似性が大きく、両者を混同することも珍しくない。ASDによる社会性の障害をADHDの不注意によるものと誤解すること、あるいはADHDの衝動性をASDの対人関係の未熟さによるものと見誤ることもあり、惧重な評価が必要である。

注:i) 引用中の「境界例」及び一部が「境界例」と重なる「境界性パーソナリティ障害」については、共に他の拙エントリのリンク集(用語:「境界性パーソナリティ障害」)を参照して下さい。 ii) 引用中の「境界例~精神病水準」に関連するかもしれない「かつて境界例とは、精神病圏と神経症圏の境界にあるものを示していた」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「ASDとADHDの併存は、臨床の現場ではしばしばみられる」に関連する「ADHDとASD(PDD)の併病割合」についてはここを参照して下さい。 iv) 引用中の「ASDとADHDの症状には類似性が大きく、両者を混同することも珍しくない」に関連する「ADHDとASDの区別」についてはここを参照して下さい。

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ADHDに関する様々な論文(要旨)の紹介について

標記論文又は論文要旨を次に紹介します。
以下に標記論文を紹介します。ちなみに、線維筋痛症を伴う患者における成人 ADHD のスクリーニングについての論文は他の拙エントリのここを参照して下さい。

[その1]発達障害と化学物質又はインターネット依存症との関係に関する複数の論文要旨を以下に紹介します。
①「Maternal Chemical and Drug Intolerances: Potential Risk Factors for Autism and Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD).[拙訳]母親の化学物質及び薬物不耐:自閉症と ADHD の潜在的なリスク要因」を次に引用します。

PURPOSE:
The aim of this study was to assess whether chemically intolerant women are at greater risk for having a child with autism spectrum disorders (ASD) or attention deficit hyperactivity disorder (ADHD).

METHODS:
We conducted a case-control study of chemical intolerance among mothers of children with ASD (n = 282) or ADHD (n = 258) and children without these disorders (n = 154). Mothers participated in an online survey consisting of a validated chemical intolerance screening instrument, the Quick Environmental Exposure and Sensitivity Inventory (QEESI). Cases and controls were characterized by parental report of a professional diagnosis. We used a one-way, unbalanced analysis of variance to compare means across the 3 groups.

RESULTS:
Both mothers of children with ASD or ADHD had significantly higher mean chemical intolerance scores than did mothers of controls, and they were more likely to report adverse reactions to drugs. Chemically intolerant mothers were 3 times more likely (odds ratio, 3.01; 95% confidence interval, 1.50-6.02) to report having a child with autism or 2.3 times more likely (odds ratio, 2.3; 95% confidence interval, 1.12-5.04) to report a child with ADHD. Relative to controls, these mothers report their children are more prone to allergies (P < .02), have strong food preferences or cravings (P < .003), and have greater sensitivity to noxious odors (P < .04).

CONCLUSION:
These findings suggest a potential association between maternal chemical intolerance and a diagnosis of ADHD or ASD in their offspring.


[拙訳]
目的:
本研究の目的は、化学物質に不耐な女性は自閉スペクトラム症(ASD)又は注意欠如・多動症(ADHD)を伴う子供達を持つ大きなリスクにさらされているかどうかを評価することであった。

方法:
我々は ASD(n=282)又は ADHD(n=258)を伴う子供達及びこれらの障害(disorders)がない子供達(n=154)の母親における化学物質不耐の症例対照研究を実施した。母親は妥当性が確認された化学物質不耐スクリーニング法(validated chemical intolerance screening instrument)と問診票(QEESI)から構成されたオンライン調査に参加した。症例群と対照群は専門家の診断の親からの報告で特徴づけた。我々は、3グループ間での平均値を比較するために不釣り合い型一元配置分散不平衡分析を使用した。

結果:
ASD 又は ADHD を伴う子供達の母親は、対照群の母親よりも有意に高い化学物質不耐の平均スコアを持ち、薬の副作用をより報告しがちだった。化学物質不耐の母親は 3倍自閉症の子供を持つと報告(オッズ比:3.01、95%信頼区間:1.50~6.02)又は2.3倍 ADHD の子供を持つと報告(オッズ比:2.3、95%信頼区間:1.12~5.04)した可能性が高かった。対照群と比較して、症例群の母親は自分の子供がアレルギーになり易い(P < 0.02)、食品の好みや切望を強く有する(P < 0.003)、有害な臭いへの高い感度を有する(P < 0.04)と報告した。

結論:
これらの知見は、母親の化学物質不耐とその子孫における ADHD 又は ASD の診断との潜在的関連性を示唆している。

注:i) 引用中の「(n=282)」、「(n=258)」、「(n=154)」は共に人数を示しています。 ii) 拙訳中の「対照群の母親」とは ASD 及び ADHD を伴わない子供達を持つ母親のことです。 iii) 引用者は統計学に詳しくないこともあり、本エントリでの統計学の解説はありません。 iv) ちなみに、ADHDについては他の拙エントリの※1においてリンク集があります。さらに、ADHD の本に対する引用については[追加1]及び[追加2]を参照して下さい。

②「The Prevalence of Internet Addiction Among a Japanese Adolescent Psychiatric Clinic Sample With Autism Spectrum Disorder and/or Attention-Deficit Hyperactivity Disorder: A Cross-Sectional Study.[拙訳]自閉スペクトラム症及び/又はADHDを伴う日本の青年の精神医学的サンプル中のインターネット中毒の有病割合:横断研究」を以下に引用します。

Extant literature suggests that autism spectrum disorder (ASD) and attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD) are risk factors for internet addiction (IA). The present cross-sectional study explored the prevalence of IA among 132 adolescents with ASD and/or ADHD in a Japanese psychiatric clinic using Young's Internet Addiction Test. The prevalence of IA among adolescents with ASD alone, with ADHD alone and with comorbid ASD and ADHD were 10.8, 12.5, and 20.0%, respectively. Our results emphasize the clinical importance of screening and intervention for IA when mental health professionals see adolescents with ASD and/or ADHD in psychiatric services.


[拙訳]
現存の文献は、自閉スペクトラム症(ASD)及び注意欠如・多動症(ADHD)がインターネット依存症(IA)のリスク因子であることを示唆する。本横断研究では、Young's Internet Addiction Test を用いて日本の精神科クリニックで ASD 及び/又は ADHD を伴う 132人の青年の中で IA 有病割合を調査した。 ASD 単独、ADHD 単独、及び ASD と ADHD との併病を伴う青年の中で、IA の有病割合はそれぞれ 10.8、12.5及び 20.0%であった。精神科医療を受けている ASD 及び/又は ADHD を伴う青年をメンタルヘルス専門家が見る時、我々の結果は、IA のスクリーニング及び介入の臨床的重要性を強調する。

注:i) 引用中の「Young's Internet Addiction Test」(注:インターネット依存度テストの一つです)については、次のWEBページを参照して下さい。「ネット依存のスクリーニングテスト」 ii) 引用中の「ASD と ADHD との併病」に関連する「ADHDとASDの併病割合」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

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[その2]注意欠如・多動症の脳ネットワークに関する複数の論文要旨を以下に紹介します。
①論文要旨「Intrinsic Functional Connectivity in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Science in Development.[拙訳]注意欠如・多動症における本質的な機能的結合性:発達における科学」(全文はここを参照して下さい)を次に引用します。

Functional magnetic resonance imaging (fMRI) without an explicit task, i.e., resting state fMRI, of individuals with Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD) is growing rapidly. Early studies were unaware of the vulnerability of this method to even minor degrees of head motion, a major concern in the field. Recent efforts are implementing various strategies to address this source of artifact along with a growing set of analytical tools. Availability of the ADHD-200 Consortium dataset, a large-scale multi-site repository, is facilitating increasingly sophisticated approaches. In parallel, investigators are beginning to explicitly test the replicability of published findings. In this narrative review, we sketch out broad, overarching hypotheses being entertained while noting methodological uncertainties. Current hypotheses implicate the interplay of default, cognitive control (frontoparietal) and attention (dorsal, ventral, salience) networks in ADHD; functional connectivities of reward-related and amygdala-related circuits are also supported as substrates for dimensional aspects of ADHD. Before these can be further specified and definitively tested, we assert the field must take on the challenge of mapping the "topography" of the analytical space, i.e., determining the sensitivities of results to variations in acquisition, analysis, demographic and phenotypic parameters. Doing so with openly available datasets will provide the needed foundation for delineating typical and atypical developmental trajectories of brain structure and function in neurodevelopmental disorders including ADHD when applied to large-scale multi-site prospective longitudinal studies such as the forthcoming Adolescent Brain Cognitive Development study.


[拙訳]
注意欠如・多動症(ADHD)を伴う個々人の明白な課題無しの機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、すなわち安静時 fMRI が急速に発展している。初期の研究では、この分野における大きな関心事である、僅かな程度の頭部の動きに対してさえも、この方法の脆弱性は認識されていなかった。発展する分析ツールのセットに加えて、このアーチファクトのソースを処理するための様々な戦略が、最近の努力により実行されている。大規模なマルチサイトリポジトリである ADHD-200 コンソーシアムのデータセットの利用により、ますます洗練されたアプローチが促進されている。並行して、研究者は公表された知見の再現性を明示的に試験し始めている。このナラティブなレビューにおいて、方法論的な不確実性に言及している一方で、広範で中心的な仮説を我々は述べる。現在の仮説は、ADHD におけるデフォルト、認知制御(前頭-頭頂)及び注意(背側、腹側、セイリエンス)ネットワークの相互作用を含意する;報酬関連回路及び扁桃関連回路の機能的結合性も、ADHD の次元的側面に対する基質として支持される。これらをさらに詳細に特定し、最終的にテストし得る前に、分析空間の「トポグラフィ」のマッピング、すなわち、取得、分析、人口統計及び表現型パラメータにおける変動への結果の感受性の決定、へのチャレンジを引き受けなければならない分野を、我々は力説する。オープンに利用可能なデータセットを伴ってこのようにすることにより、今度の Adolescent Brain Cognitive Development study 等の大規模なマルチサイトで前向き縦断研究に適用された時の、ADHD を含む神経発達症における脳の構造及び機能の定型的及び非定型的発達軌跡の描写に対する必要な基礎が提供されるだろう。

注:i) 引用中の「機能的磁気共鳴画像法(fMRI)」については、例えば次の資料を参照して下さい。「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 ii) 引用中の「アーチファクト」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「Q10. MRI脳画像で病巣とアーチファクトを見分けるコツ」 iii) 引用中の「認知制御(前頭-頭頂)[中略]ネットワーク」に関連する半側空間無視の視点からの「前頭-頭頂を結ぶ神経経路」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「半側空間無視という病態」 iv) 引用中の「注意(背側、腹側[中略])ネットワーク」に関連する半側空間無視の視点からの「背側注意ネットワーク」及び「腹側注意ネットワーク」については、共に例えば次の資料を参照して下さい。 「半側空間無視という病態」 v) 引用中の「注意([中略]セイリエンス)ネットワーク」関連するマインドフルネスの視点からの「セイリエンスネットワーク」について、貝谷久宜、熊野宏昭、越川房子編著の本、「マインドフルネス -基礎と実践-」(2016年発行)中の古賀美恵、金山祐介、灰谷知純、杉山風輝子、熊野宏昭著の文書「マインドフルネス瞑想の構成要素としての注意訓練による脳内変化」の マインドフルネス瞑想と関連する脳内ネットワーク の「(3)セイリエンス・ネットワーク(SN)」における記述の一部(P9)を次に引用(『 』内)します。 『セイリエンス・ネットワークは、島(Insula)、とくに前島部(Anterior Insula; AI)と ACC からなり、個人内部(自己関連認知、身体感覚など)および外界の刺激のなかから、適切な行動に導くためにも最も関連性の高い刺激を識別する役割を担っている。』(注:引用中の「島」については次のWEBページを参照して下さい。 「島 - 脳科学辞典」) vi) 引用中の「報酬関連回路」に関連する愛着形成障害や ADHD における報酬系の脳科学については、例えば次の資料を参照して下さい。 「被虐待者の脳科学研究」の「Ⅳ.愛着形成障害の脳科学」項 vii) 引用中の「扁桃関連回路」に関連するトラウマの視点からの「扁桃体」については、例えば他の拙エントリのここここ、及びここを参照して下さい。 viii) 引用中の「神経発達症」に関連する「神経発達症群」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「発達障害について」の「1. はじめに」項 ix) この引用全体に関する説明について、内山登記夫編集、宇野洋太/蜂矢百合子編集協力の本、「子ども・大人の発達障害診療ハンドブック 年代別にみる症例と発達障害データ集」(2018年発行)の Part 3 発達障害データ集 の 9. 発達障害の脳画像 の b. ADHD の脳画像 の「③安静時 fMRI 研究」における記述(P241~P242)を次に引用します。

課題を行う必要がなく,神経ネットワークの解析が可能な安静時 fMRI(resting state fMRI)の研究が近年注目されている.ADHD では、default mode network の前後の領域(内側前頭前皮質,後部帯状皮質,楔前部)の機能的結合の低下や,default mode, frontoparietal, attention network の相互作用の異常,報酬に関係する,眼窩前頭前皮質,腹側前頭前皮質,腹側線条体を含むネットワークの異常が報告されており,これらのシステムの成熟が遅延または変化していると考えられている3).

注:i) この引用部の著者は水野賀史、島田浩二、友田明美です。 ii) 引用中の「default mode network」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「心身医学における安静時機能的 MRI 研究」 iii) 引用中の「frontoparietal」前頭-頭頂に関連する半側空間無視の視点からの「前頭-頭頂を結ぶ神経経路」については、例えば次の資料を参照して下さい。 「半側空間無視という病態」 iv) 引用中の「attention network」(注意ネットワーク)に関連する半側空間無視の視点からの「背側注意ネットワーク」及び「腹側注意ネットワーク」については、共に例えば次の資料を参照して下さい。 「半側空間無視という病態」 v) 引用中の「報酬」に関連する愛着形成障害や ADHD における報酬系の脳科学に及び引用中の「腹側線条体」ついては、例えば共に次の資料を参照して下さい。 「被虐待者の脳科学研究」の「Ⅳ.愛着形成障害の脳科学」項 vi) 引用中の「眼窩前頭前皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 vii) 引用中の「腹側前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。 「前頭前野 - 脳科学辞典

②論文要旨「Aberrant Time-Varying Cross-Network Interactions in Children With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and the Relation to Attention Deficits[拙訳]注意欠如・多動症を伴う子供における異常な時間変化ネットワーク間の相互作用及び注意欠如との関係」(全文はここを参照)を以下に引用します。なお、この標記論文の簡単な紹介についての引用はここを参照して下さい。

Background: Attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD) is thought to stem from aberrancies in large-scale cognitive control networks. However, the exact nature of aberrant brain circuit dynamics involving these control networks is poorly understood. Using a saliency-based triple-network model of cognitive control, we tested the hypothesis that dynamic cross-network interactions among the salience, central executive, and default mode networks are dysregulated in children with ADHD, and we investigated how these dysregulations contribute to inattention.

Methods: Using functional magnetic resonance imaging data from 140 children with ADHD and typically developing children from two cohorts (primary cohort = 80 children, replication cohort = 60 children) in a case-control design, we examined both time-averaged and dynamic time-varying cross-network interactions in each cohort separately.

Results: Time-averaged measures of salience network-centered cross-network interactions were significantly lower in children with ADHD compared with typically developing children and were correlated with severity of inattention symptoms. Children with ADHD displayed more variable dynamic cross-network interaction patterns, including less persistent brain states, significantly shorter mean lifetimes of brain states, and intermittently weaker cross-network interactions. Importantly, dynamic time-varying measures of cross-network interactions were more strongly correlated with inattention symptoms than with time-averaged measures of functional connectivity. Crucially, we replicated these findings in the two independent cohorts of children with ADHD and typically developing children.

Conclusions: Aberrancies in time-varying engagement of the salience network with the central executive network and default mode network are a robust and clinically relevant neurobiological signature of childhood ADHD symptoms. The triple-network neurocognitive model provides a novel, replicable, and parsimonious dynamical systems neuroscience framework for characterizing childhood ADHD and inattention.


[拙訳]
背景:注意欠如・多動症(ADHD)は、大規模な認知制御ネットワークにおける異常に由来すると考えられている。しかしながら、これらの制御ネットワークを含む異常な脳回路ダイナミクスの正確な性質はほとんど理解されていない。認知制御の顕著性に基づくトリプル・ネットワークモデルを使用して、顕著性、中央実行、及びデフォルトモードのダイナミックなネットワーク間の相互作用が ADHD を伴う子どもにおいて調節不全であるという仮説を、我々は検証し、そしてこれらの調節不全が不注意にいかに寄与するかを、我々は研究した。

方法:症例対照デザインでの、140人の ADHD を伴う子ども及び定型発達の子どもの、2つのコホート(第一コホート = 80人の子ども、追試コホート = 60人の子ども)からの、機能的磁気共鳴画像データを使用して、各コホートで別々に時間平均及びダイナミックな時間変化のネットワーク間の相互作用の両方を、我々は調査した。

結果:顕著性ネットワーク主体のネットワーク間の相互作用の時間平均測定値は、ADHD を伴う子どもでは定型発達の子どもと比較して有意に低く、そして不注意症状の重症度と相関した。ADHD を伴う子どもは、持続性の低い脳の状態、脳の状態の平均存続期間が有意に短いこと、そして断続的に弱いネットワーク間の相互作用を含む、より変化しやすいダイナミックなネットワーク間の相互作用のパターンを示した。重要なことに、ネットワーク間の相互作用のダイナミックな時間変化の測定値は、機能的接続性の時間平均測定値よりも不注意症状と強く相関した。決定的なことに、ADHD を伴う子どもと定型発達の子どもの2つの独立したコホートにおいてこれらの調査結果を、我々は再現した。

結論:顕著性ネットワークと中央実行ネットワーク及びデフォルトモード・ネットワークとの時間変化する関与の異常は、子どもの ADHD 症状の強固で臨床的に関連する神経生物学的サインである。トリプル・ネットワークの神経認知モデルは、子どもの ADHD 及び不注意を特徴づけるための、新しく、再現可能な、そして簡潔なダイナミックシステム神経科学フレームワークを提供する。

注:i) 引用中の「顕著性ネットワーク」、「中央実行ネットワーク」(中央実行形ネットワーク)、「デフォルトモード・ネットワーク」は共にここ及び次のWEBページを参照して下さい。 『「予測」を調べると心と体の関係が見えてくる ─予測からみた心と体の相互作用』の「心と体をつなぐ島皮質」項 加えて、上記「顕著性ネットワーク」(セイリエンス・ネットワーク)については他の拙エントリのここを、「デフォルトモード・ネットワーク」については他の拙エントリのここをそれぞれ参照すると良いかもしれません。 ii) 引用中の「トリプル・ネットワーク」についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の「機能的磁気共鳴画像」に関連する「機能的磁気共鳴画像法」については例えば次の資料を参照して下さい。 「機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用」 iv) さらに、標記全文の「Conclusion」項における記述を次に引用します。

Our study demonstrates a robust neurobiological signature of ADHD using a theoretically-informed systems neuroscience model and suggests that dysregulation of cross-network interactions is a key feature of the disorder. Crucially, the replication of the study findings across two independent cohorts further suggests that the triple-network model of SN-centered deficits in dynamic functional interactions encompassing CEN and DMN provides a novel and parsimonious framework for investigating attention and cognitive deficits in ADHD.


[拙訳]
理論的な情報に基づいたシステムの神経科学モデルを使用して ADHD の強固な神経生物学的サインを、我々の研究は実証し、ネットワーク間の相互作用の調節不全が障害の重要な特徴であることを、我々の研究は示唆する。決定的なことに、2つの独立したコホートにわたる研究結果の再現は、CEN と DMN を含む動的な機能的相互作用における SN 主体の欠如のトリプル・ネットワーク・モデルが、ADHD における注意及び認知の欠如を調査するための新規及び簡潔なフレームワークを提供することをさらに示唆する。

注:i) 引用中の「CEN」は「中央実行ネットワーク」(中央実行形ネットワーク)の略です。ここ及び次のWEBページを参照して下さい。 『「予測」を調べると心と体の関係が見えてくる ─予測からみた心と体の相互作用』の「心と体をつなぐ島皮質」項 ii) 引用中の「DMN」は「デフォルトモード・ネットワーク」の略です。ここ及び次のWEBページを参照して下さい。 『「予測」を調べると心と体の関係が見えてくる ─予測からみた心と体の相互作用』の「心と体をつなぐ島皮質」項 iii) 引用中の「SN」は「顕著性ネットワーク」(又はセイリエンス・ネットワーク)の略です。ここ及び次のWEBページを参照して下さい。 『「予測」を調べると心と体の関係が見えてくる ─予測からみた心と体の相互作用』の「心と体をつなぐ島皮質」項 iv) 引用中の「トリプル・ネットワーク・モデル」についてはここを参照して下さい。

加えて、標記論文の簡単な紹介について、田中康雄著の本、『ADHDとともに生きる人たちへ 医療からみた「生きづらさ」と支援』(2019年発行)の Ⅱ ADHDのいま の「ADHDの障害モデル」における記述の一部(P52~P53)を次に引用します。

(前略)最近はさらに、ADHDは脳内のネットワークの障害である、という仮説もあります。これは障害の脳局在論からの転回ともいえるのです。なかでもカイ(Cai, W.)らは、ADHDは広範な認知制御ネットワークの障害という仮説を立てています*22。認知制御ネットワークには、顕著性ネットワーク(Salience Network)、中央実行形ネットワーク(Central Executive Network)、デフォルトモード・ネットワーク(Default Mode Network)という三つのネットワークがあり、これをトリプル・ネットワーク・モデル(Triple network model)と呼びます。そのうえで、ADHDではトリプル・ネットワーク・モデルが調整不全に陥っているという仮説です。(後略)

注:引用中の文献番号「*22」は標記論文です。

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[その3]ワーカホリック(仕事中毒)と大人のADHDとの関係に関する論文要旨等を以下に紹介します。
以下に
①論文要旨「The Relationships between Workaholism and Symptoms of Psychiatric Disorders: A Large-Scale Cross-Sectional Study.[拙訳]ワーカホリックと精神障害の症状との関係:大規模な横断研究」を次に引用します。

Despite the many number of studies examining workaholism, large-scale studies have been lacking. The present study utilized an open web-based cross-sectional survey assessing symptoms of psychiatric disorders and workaholism among 16,426 workers (Mage = 37.3 years, SD = 11.4, range = 16-75 years). Participants were administered the Adult ADHD Self-Report Scale, the Obsession-Compulsive Inventory-Revised, the Hospital Anxiety and Depression Scale, and the Bergen Work Addiction Scale, along with additional questions examining demographic and work-related variables. Correlations between workaholism and all psychiatric disorder symptoms were positive and significant. Workaholism comprised the dependent variable in a three-step linear multiple hierarchical regression analysis. Basic demographics (age, gender, relationship status, and education) explained 1.2% of the variance in workaholism, whereas work demographics (work status, position, sector, and annual income) explained an additional 5.4% of the variance. Age (inversely) and managerial positions (positively) were of most importance. The psychiatric symptoms (ADHD, OCD, anxiety, and depression) explained 17.0% of the variance. ADHD and anxiety contributed considerably. The prevalence rate of workaholism status was 7.8% of the present sample. In an adjusted logistic regression analysis, all psychiatric symptoms were positively associated with being a workaholic. The independent variables explained between 6.1% and 14.4% in total of the variance in workaholism cases. Although most effect sizes were relatively small, the study's findings expand our understanding of possible psychiatric predictors of workaholism, and particularly shed new insight into the reality of adult ADHD in work life. The study's implications, strengths, and shortcomings are also discussed.


[拙訳]
ワーカホリックであること調査する研究は多数あるにもかかわらず、大規模な研究が欠けている。本研究は、16,426人の労働者(平均年齢 = 37.3歳、標準偏差 = 11.4、範囲 = 16~75歳)の中で、精神障害の症状とワーカホリックであることを評価するオープンな Web ベースの横断調査を活用しました。被験者は、大人の ADHD 自己報告尺度(Adult ADHD Self-Report Scale)、強迫インベントリ改訂版(Obsession-Compulsive Inventory-Revised)、病院の不安と抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale)、加えて、人口動態及び仕事関連の変数を調査する追加の質問を実施された。ワーカホリックであることと全ての精神障害の症状との相関は正で有意だった。ワーカホリックであることは3ステップの階層的重回帰分析における従属変数から構成した。基本的な人口統計(年齢、性別、交際ステータス及び教育)はワーカホリックであることにおける 1.2% の分散を説明した。ところが、仕事の人口統計(仕事の状況、地位、部門、年収)は分散の追加の5.4%を説明した。年齢(負の相関)及び管理職(正の相関)が最も重要であった。精神障害の症状(ADHD、強迫症、不安及びうつ)は分散の 17.0% を説明した。ADHD と不安はかなり寄与した。ワーカホリック状態の有病率は原サンプルでは 7.8% であった。補正されたロジスティック回帰分析において、全ての精神症状はワーカホリックであることと正に相関していた。ワーカホリックの場合での分散の全体における独立変数は 6.1% ~ 14.4% を説明した。ほとんどの効果量は比較的小さいものの、この研究の調査結果により、ワーカホリックであることの潜在的な精神的予測因子の理解が拡大され、そして、特に仕事人生における大人の ADHD の現実に新たな洞察を与えた。この研究の意義、強み、不足も論じた。

注:この論文の調査を実施した研究機関である大学、UNIVERSITY OF BERGEN のWEBサイトに次のWEBページがあります。「Workaholism tied to psychiatric disorders[拙訳]精神障害と結びついたワーカホリックであること」 このページにおける一部の記述を次に引用します。 さらに、この要旨の本文の「Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and workaholism」項から記述の一部を以下に引用します。

Workaholics score higher on all clinical states

The study showed that workaholics scored higher on all the psychiatric symptoms than non-workaholics. Among workaholics, the main findings were that:
•32.7 per cent met ADHD criteria (12.7 per cent among non-workaholics).
•25.6 per cent OCD criteria (8.7 per cent among non-workaholics).
•33.8 per cent met anxiety criteria (11.9 per cent among non-workaholics).
•8.9 per cent met depression criteria (2.6 per cent among non-workaholics).

“Thus, taking work to the extreme may be a sign of deeper psychological or emotional issues. Whether this reflects overlapping genetic vulnerabilities, disorders leading to workaholism or, conversely, workaholism causing such disorders, remain uncertain,” says Schou Andreassen.


[拙訳]
ワーカホリックの人の全ての臨床状態に関する高いスコア(得点)

この研究によって、全ての精神的な症状に関して、ワーカホリックでない人よりもワーカホリックの人はスコアが高いことが示された。主要な結果は次の通り。
・32.7% は ADHD の基準に適合した。(ワーカホリックでない人は 12.7%)
・25.6% は強迫症の基準に適合した。(ワーカホリックでない人は 8.7%)
・33.8% は不安の基準に適合した。(ワーカホリックでない人は 11.9%)
・8.9% はうつの基準に適合した。(ワーカホリックでない人は 2.6%)

”このように、極端に仕事をすることはより深い精神的又は情動の問題の兆候かもしれない。これがオーバーラップした遺伝的な脆弱性を反映している、ワーカホリックであることをもたらす障害又は逆に障害を引き起こすワーカホリックであることかどうかは不明確のままである”と Schou Andreassen は言う。

注:引用中の「強迫症」、「不安」及び「うつ」については共に他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ただし、「強迫症」は用語「強迫性障害(強迫症)」、「不安」は用語「不安障害(不安症)」、「うつ」は用語「うつ病」をそれぞれ利用して下さい。

Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and workaholism
These findings are in line with established knowledge of the co-occurrence of ADHD and addictions in general [26], although the present study is the first ever to associate work addiction with ADHD, thus providing support for the second hypothesis. Although ADHD is often associated with unemployment and being unable to conduct normal work [26], the present authors’ hypothesized that ADHD would be related to workaholism partly for this very same reason. Individuals with ADHD may have to work harder and longer to compensate for their work behavior caused by neurological deficits. They may also be at risk of taking on projects and tasks impulsively–resulting in more work than they can realistically do within normal working hours. Some, but far from all, with this disorder are also very hyperactive [8,26]. Hence they may choose and thrive better in jobs with frequent deadlines and higher levels of work stress, conditions that may alleviate their inner restlessness (e.g., self-medication).

The present authors also propose that such people are unable to relax, and may keep on working nonstop–if they find a task interesting and demanding enough (e.g., hyper-focus). Furthermore, it is hypothesized that these workaholic ADHD types push themselves in their job in order to disprove conceptions of them by others as being lazy or unintelligent. History portrays many highly successful entertainers, inventors and entrepreneurs, authors and scientists as well as business leaders with ADHD traits–often associated with hard working talent and abundant creativity [52]. Given that the first academic writings on workaholism appeared in the early 1970s [53], it is arguably surprising that the present study is the very first that empirically link symptoms of ADHD with workaholism. This may be because ADHD is often thought of as a child disorder from which sufferers grow out of before reaching adulthood [26]. This is now known not to be the case, and ADHD is probably under-diagnosed in adults [26]. Instead, such adult individuals are often diagnosed with bipolar disorder, anxiety, depression, borderline personality disorder, etc. [26]. The current findings are also in accordance with several popular workaholic typologies portrayed in recent years [31].


[拙訳]
ADHD とワーカホリック
本研究は、ADHD と仕事依存症を関連付けることが初めてであるが、これらの知見は一般に ADHD と依存症との共起の確立された知識に即しており[26]、このように第二の仮説のためのサポートを提供する。ADHD はしばしば失業及び通常の仕事ができないことと関連する[26]ものの、著者らは部分的にこれと同じ理由で、ADHD はワーカホリックと関連するであろうと著者らは仮定した。ADHD を有する個々は、神経学的な欠陥により引き起こされる仕事の行動を補うために、よりハードにより長く仕事をしなければならないかもしれない。彼らは現実的な通常の勤務時間内に行うことができることより衝動的に多くの仕事につながるプロジェクトやタスクを引き受けるリスクを有する可能性もある。全員とは程遠いが、この障害を有するある方々は、非常に活動的でもある[8,26]。それゆえに、しばしば最終期限及び高レベルの仕事のストレスを伴う職業の彼ら内面の不穏状態を軽減するかもしれない状況において、彼らは選択し、より成功するかもしれない(例えば、自己治療)。

本著者らはまた、そのような方々がリラックスできないこと及びタスクが十分におもしろい及び忙しい(例えば、過集中)と彼らが気づくならば、無休息で仕事をやり続けるかもしれない。さらに、これらのワーカホリック ADHD タイプは、怠惰又は愚鈍としての他者による概念の反証のために彼らを仕事に駆り立てると仮定される。ADHD の特性、ハードワーキング才能と豊かな創造力にしばしば関連付けられるビジネス・リーダーはもちろん、多くの非常に成功したエンターテイナー、発明者、起業家、作家及び科学者を歴史は描写する[52]。ワーカホリックに関する最初のアカデミックな執筆が1970年代の初頭に登場した[53]ならば、ワーカホリックを伴う ADHD の症状に経験的に関連する本研究がまさに最初であることはおそらく驚くべきことである。これは、ADHD は子どもの障害で、大人になる前に解消されるとしばしば考えられるからかもしれない[26]。これは現在、真相ではないと知られ、ADHD はおそらく大人において過少診断される[26]。かわりにこのような大人はしばしば双極性障害、不安症、うつ病、境界性パーソナリティ障害等と診断される。現在の調査結果は近年において描写されるいくつかの一般的なワーカホリックの類型論にも一致する。

注:i) 引用中の「anxiety」は不安症と拙訳しました。一方、引用中の「双極性障害」、「不安症」、「うつ病」及び「境界性パーソナリティ障害」については、共に他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ただし、「不安症」は用語「不安障害(不安症)」を利用して下さい。 ii) 引用中の文献番号「[8]」、「[26]」、「[31]」、「[52]」及び「[53]」に相当する論文、資料又はWEBページはそれぞれ次の通りです。「American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association; 2013.」、「Underdiagnosis of attention-deficit/hyperactivity disorder in adult patients: a review of the literature.」、「A guidebook for workaholics, their partners and children, and the clinicians who treat them New York: New York University Press; 2014.」、「Famous People With ADHD and ADD」及び「Oates W. Confessions of a workaholic New York: World Pub. Co; 1971.」

[その4] ADHD における情動調節に関する論文要旨を以下に紹介します。
① 論文要旨「Emotion dysregulation in attention deficit hyperactivity disorder.[拙訳]ADHD における情動調節不全」を次に引用します。

Although it has long been recognized that many individuals with attention deficit hyperactivity disorder (ADHD) also have difficulties with emotion regulation, no consensus has been reached on how to conceptualize this clinically challenging domain. The authors examine the current literature using both quantitative and qualitative methods. Three key findings emerge. First, emotion dysregulation is prevalent in ADHD throughout the lifespan and is a major contributor to impairment. Second, emotion dysregulation in ADHD may arise from deficits in orienting toward, recognizing, and/or allocating attention to emotional stimuli; these deficits implicate dysfunction within a striato-amygdalo-medial prefrontal cortical network. Third, while current treatments for ADHD often also ameliorate emotion dysregulation, a focus on this combination of symptoms reframes clinical questions and could stimulate novel therapeutic approaches. The authors then consider three models to explain the overlap between emotion dysregulation and ADHD: emotion dysregulation and ADHD are correlated but distinct dimensions; emotion dysregulation is a core diagnostic feature of ADHD; and the combination constitutes a nosological entity distinct from both ADHD and emotion dysregulation alone. The differing predictions from each model can guide research on the much-neglected population of patients with ADHD and emotion dysregulation.


[拙訳]
注意欠如・多動症(ADHD)を伴う多くの個々人も情動調節の困難を有することは、長い間認識されているが、この臨床的に困難だがやりがいのある分野(domain)をどのように概念化するかのコンセンサスには到達していない。定量的及び定性的な両方の方法を使用して、現在の文献を著者らは調べる。 3つの重要な知見が出現した。第一に、情動調節不全は、ADHD において生涯を通じて広く認められ、そしてこれが障害の主要な一因である。第二に、ADHD における情動調節不全は情動刺激の方向づけ、認識及び/又は注意配分における欠陥から生じるかもしれなく、これらの欠陥は線条体-扁桃体-内側前頭皮質のネットワーク内の機能不全を意味する。第三に、現在の ADHD の治療法はしばしば情動調節不全も改善する一方で、この症状の組合せに関する焦点は、臨床的な疑問及び新たな治療的アプローチを激励しうるだろうことをリフレームする。著者は、その後、情動調節と ADHD との間の重なりを説明するために、3つのモデルを考慮する。すなわち、情動調節不全と ADHD とは、お互いに関連するが、別の特質である;情動調節不全は ADHD の中核的な診断の特徴である;及び組み合せは、ADHD のみ及び情動調節不全のみとは異なる疾病分類学的な実体を構成する。各モデルの異なる予測は、大きく無視された ADHD 及び情動調節不全を伴う患者総数に関する研究を導くことができる。

注:i) 引用中の「情動調節」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

[その5] ADHD 症状と女性の生理サイクルに関する論文要旨を以下に紹介します。
① 論文要旨「Reproductive steroids and ADHD symptoms across the menstrual cycle.[拙訳]月経周期を通しての生殖ステロイドと ADHD 症状」(全文はここを参照)を次に引用します。

Although Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder shows (ADHD) male predominance, females are significantly impaired and exhibit additional comorbid disorders during adolescence. However, no empirical work has examined the influence of cyclical fluctuating steroids on ADHD symptoms in women. The present study examined estradiol (E2), progesterone (P4), and testosterone (T) associations with ADHD symptoms across the menstrual cycle in regularly-cycling young women (N=32), examining trait impulsivity as a moderator. Women completed a baseline measure of trait impulsivity, provided saliva samples each morning, and completed an ADHD symptom checklist every evening for 35days. Results indicated decreased levels of E2 in the context of increased levels of either P4 or T was associated with higher ADHD symptoms on the following day, particularly for those with high trait impulsivity. Phase analyses suggested both an early follicular and early luteal, or post-ovulatory, increase in ADHD symptoms. Therefore, ADHD symptoms may change across the menstrual cycle in response to endogenous steroid changes.


[拙訳]
注意欠如/多動症(ADHD)は男性優位性を示すが、女性は青年期に大きく障害され、そしてさらなる併存疾患を示す。しかしながら、女性の ADHD 症状に対する周期的に変動するステロイドの影響を調査した経験的研究はない。本研究では、調節因子としての特性衝動性を検討することにより、規則的にくり返している若い女性(N=32)における月経周期を通しての ADHD 症状とエストラジオール(E2)、プロゲステロン(P4)及びテストステロン(T)との関連を、本研究で調査した。女性の特性衝動性のベースライン測定を完了し、毎朝唾液サンプルを提供し、そして 35日間毎晩の ADHD 症状チェックリストの記入を完了した。P4 又は T のどちらかのレベルの増加と関連した E2 のレベルの減少が、特に高い特性衝動性を伴う患者で、翌日のより高い ADHD 症状と関連することを、結果は示した。フェーズ分析は、初期卵胞期と初期黄体期、又は排卵後の ADHD 症状の両方の増加を示唆した。従って、ADHD 症状は内因性ステロイドの変化に応答して月経周期を通じて変化するかもしれない。

注:i) 拙訳中の「エストラジオール」、「プロゲステロン」については共に例えば次のWEBページを参照して下さい。 「齊藤先生に聞く!【30】エストラジオール、プロゲステロンについて」 ii) 拙訳中の「テストステロン」については例えば次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「内分泌学:テストステロンの疾患リスクへの影響は女性と男性とで異なる」 iii) 拙訳中の「卵胞期」、「黄体期」、「排卵」については共に例えば次のWEBページを参照して下さい。 「月経周期で移り変わる女性のココロとカラダ」 iv) 拙訳中の「内因性ステロイド」に関連する「ステロイドホルモン」については例えば次の資料を参照すると良いかもしれません。 「ステロイドホルモンと脂質代謝」の例えば図1(P24) v) 拙訳中の「ベースライン」については例えば次のWEBページを参照して下さい。 「ベースライン baseline」 vi) 標記論文を簡単に紹介する記述例として、榊原洋一著の本、「子どもの発達障害誤診の危機」(2020年発行)の 第8章 発達障害は男性に圧倒的に多いのか? の「ホルモン変動によって症状が大きく変化」における記述の一部(P222)を次に引用(『 』内)します。 『さらに最近(2018年)ベッサン・ロバーツらは、注意欠陥多動性障害の衝動コントロール不全による症状が、女性の生理サイクルに従って変動することを明らかにしました。血液中の女性ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の変動に同期して、注意欠陥多動性障害を有する女性の衝動性が、排卵後と月経のあとに高くなることがわかったのです。こうした性ホルモンの変動は、月経前緊張症候群と呼ばれるイライラ感の亢進やうつ症状を主徴とする精神疾患として知られています。』(注:引用中の「月経前緊張症候群」に関連する「月経前不快気分障害」又は「月経前症候群」については例えばここにおける引用及び次のWEBページを参照して下さい。 「月経前不快気分障害(PMDD)の症状と原因-月経前症候群(PMS)とは違う?」)

一方、「ADHDのMRI研究について、脳形態画像、DTI、fMRI、安静時fMRIに分け、概説した。ほとんどの研究において、ADHDと定型発達児の差異を調べるアプローチを採用しているが、その結果は一貫しないことも多く、多サンプルを用いた研究においでは、一定の有意な結果は得られているものの、その効果量は概して小さい」ことについてその一要因の可能性としての「ADHDはDSMに従って主に臨床症状に基づいてカテゴリカルに診断されており、病態に多様性があるADHDがまとめて一つの疾患として扱われてきた。そのため、同じADHDの診断であっても、研究によって病態の異なる群を含んでおり、そのことが研究結果に影響を与えて一貫性が得られない要因となっている可能性がある」ことを含めて、鷲見聡編の本、「発達障害のサイエンス 支援者が知っておきたい医学・生物学的基礎知識」(2022年発行)の 第8章 ADHDの脳画像 ――可視化される脳機能の偏り の「7. おわりに」における記述(P193~P195)を次に引用します。

本章では、ADHDのMRI研究について、脳形態画像、DTI、fMRI、安静時fMRIに分け、概説した。ほとんどの研究において、ADHDと定型発達児の差異を調べるアプローチを採用しているが、その結果は一貫しないことも多く、多サンプルを用いた研究においては、一定の有意な結果は得られているものの、その効果量は概して小さい。これらの原因として、ADHDの多様性、MRI機種や撮像条件、解析アプローチの違い、といったさまざまなことが考えられうる。
ADHDはDSMに従って主に臨床症状に基づいてカテゴリカルに診断されており、病態に多様性があるADHDがまとめて一つの疾患として扱われてきた。そのため、同じADHDの診断であっても、研究によって病態の異なる群を含んでおり、そのことが研究結果に影響を与えて一貫性が得られない要因となっている可能性がある。
このような問題に立ち向かうぺく、アメリカ国立衛生研究所はResearch Domain Criteriaを提唱している(32)。これは、病態生理学研究に基づいて診断のフレームワークを新たこ組み直そう、という考え方である。われわれはこの考えに即して、上述のアメリカの大規模縦断研究であるABCD Studyのサンプルを利用し、教師なし機械学習★を用いてADHDをサブタイプに分類し、各サブタイプの神経生物学的基盤を明らかにする取り組みを開始している。
また、国内においては、われわれが所属する連合小児発達学研究科のネットワークを活用し、福井大学、大阪大学、千葉大学とで共同して多サンプルを確保できる体制の構築に取り組んでいる。機関ごとにMRI装置の機種や計測パラメータが異なるため、機種間差による影響を補正する必要があるが、近年、補正のための有効な方法として開発されたトラベリングサブジェクト法を利用する(33)。このアプローチでは、すべての機関で同じ被験者の脳画像を取得することで、機種間の測定バイアスのみを算出して補正することが可能になる。集積したADHDのMRIデータを、トラベリングサブジェクト法で機種間差を補正したうえで解析し、さらに、遺伝子、神経伝達物質・アミノ酸、認知機能検査、視線計測、質問紙調査などの多角的なデータとの関連を調べることで、ADHDの神経生物学的基盤と臨床的特徴を明らかにするのとともに、最終的にはその病態に基づいた臨床に資するバイオマーカーの開発を目指している。このような取り組みは ADHDの多様性への理解と個々の特徴に合った精度の高い診療、教育・介入方法の開発に寄与することが期待される。

注:i) この引用部の著者は山下雅俊、水野賀史です。 ii) 引用中の文献番号「(32)」は次の論文です。 「Medicine. Brain disorders? Precisely?」 iii) 引用中の文献番号「(33)」は次の論文です。 「Harmonization of resting-state functional MRI data across multiple imaging sites via the separation of site differences into sampling bias and measurement bias」 iv) 引用中の「★」は次に引用(『 』内)する脚注(P194)です。 『★教師なし機械学習は機械学習の一つに分類される手法であり、その目的はデータ内に存在する未知のパターンを探索することにある。教師なし機械学習の一つであるクラスタリングのアルゴリズムには、それぞれのデータポイントの距離間に対して数学的な関係性を識別し、これらの関係に従って、データをサブグループ(クラスター)に自律的に分類する能力がある。これまでの研究では、クラスタリングのアルゴリズムが多様性を伴う精神疾患などのグループ解析に有効であることが報告されている。』(注:引用中の「機械学習」については次の資料を参照すると良いかもしれません。 「変わりゆく機械学習と変わらない機械学習」) 加えて、引用中の「教師なし機械学習」については次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「機械学習」の「②教師なし学習」項 v) 引用中の「ADHDのMRI研究」については、引用中の「ADHDの多様性、MRI機種や撮像条件、解析アプローチの違い」を含めて次の資料を参照して下さい。 「ADHDのMRI研究 ―ADHDの神経生物学的基盤の解明に向けて―」 vi) 引用中の「Research Domain Criteria」については、引用中の「臨床に資するバイオマーカー」に関連する「検査に活用できるバイオマーカー」を含めて次の資料を参照して下さい。 『「診断」という「線」を引くこと』 一方、「インゼルのResearch Domain Criteriaは、臨床的には使えないもの」との記述を有する2021年2月1日発行のWEBページは次を参照して下さい。 「古茶大樹先生 ~精神科診断における疾患と類型について~」 vii) 引用中の「臨床に資するバイオマーカー」については次のWEBページを参照して下さい。 「脳機能発達研究部門 - 子どものこころの発達研究センター」の「情動認知発達研究部門」項 viii) 引用中の「DSM」については次のWEBページを参照して下さい。 「精神疾患の診断・統計マニュアル (DSM) - 脳科学辞典」 ちなみに、「DMS-5」による「ADHD の診断基準」については例えば次の資料を参照して下さい。 「注意欠如・多動症(ADHD)特性の理解」の「Table 1 ADHD の診断基準(DMS-5)」(P29)

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注:本エントリは仮公開です。予告のない改訂(削除、修正、追加、公開日や修飾の変更等)を行うことがあります。

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*1:ADHDの本における様々な引用を含みます

*2:女性のADHDの本における様々な引用を含みます

*3:ただし、目覚しい成果をあげる場合も記述されています

*4:ただし、全方位に注意を分散させてしまうことにより一方的に話してしまうことがある場合も記述されています

*5:注:ASDとADHDの両者に関連するかもしれない他の拙エントリの記事に対するリンクです

*6:これに関連する、「ADHDを伴う女性は、(ADHDを伴う男性よりも)ADHD症状の影響をより良く覆い隠したり又は軽減したりすることができる」ことについてはここを、「特に ADHD ではこれまでの経験から症状をマスクする術を身につけている者も多い」ことについてはここここを それぞれ参照して下さい

*7:加えて、ADHDとASDが併存している女性の事例についてはここここを参照して下さい

*8:ちなみに、女性のADHDに対するアピタルサイトを主に対象としたWEBページはここを参照して下さい

*9:ちなみに、上記アピタルサイトにおける女性に限らないADHDに関するWEBページは※1を参照して下さい

*10:ちなみに、女性の発達障害についての本には「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」があります。より詳細な紹介はここにおける脚注を参照して下さい。