krns-linkのブログ

まだ仮公開で、今後も本公開までドタバタします。コメント欄は有りません。ちなみに、拙ブログ作成者は医療関係者ではありません。拙ブログは訪問者の方々がお読みになるためのものですが、自己責任でお読み下さい(念のため記述)。

発達障害における身体症状、その他

(1) 本エントリ内の自閉スペクトラム症ADHD関連以外の発達障害に関する病名のリンク
ソーシャルコミュニケ―ション障害又は社会的(語用論的)コミュニケーション症 *2[ちなみに、関連する「コミュニケーションの障害」*3ここここここここここ 及び ここ参照]
発達性協調運動障害(ここここ

(2) 杉山登志郎医師、本田秀夫医師、内海健医師及びローナ・ウィング医師に関連した本エントリ内リンク
杉山登志郎医師: ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ 、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ 及び ここ
本田秀夫医師*4ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ 及び ここ
内海健医師: ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ 、 ここ、 ここここ、 ここここ、 ここ 及び ここ
ローナ・ウィング医師: ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ 及び ここ
米田衆介医師: ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここ、 ここここ及びここ、 ここ、 ここ、 ここ 及び ここ

(3) 「自閉スペクトラム症アスペルガータイプ)」の方々の性格傾向としても示すことが可能かもしれない用語又は文章の本エントリ内リンク
臨機応変な対人関係が苦手、 自分の関心・やり方・ペースの維持を最優先、 融通がきかない、 少しだけこだわりが強い、 個性的な性格傾向

(4) その他用語、文章の本エントリ内リンク(自閉スペクトラム症関連)

注:「コミュニケーションの障害」はリンク集(1)を参照して下さい。

ウィングの「三つ組み」仮説(ここここここ 及び ここ)、 交渉ごとが苦手、 筋肉の緊張が取れにくい、 疲れを感じられない
運動制御関連特性群、 不器用さ、姿勢の悪さ、運動学習の障害、 姿勢、平衡機能の問題(ここ 及び ここ)、 バランス動作が苦手
心身症又は身体表現性障害、 新型うつとの関係、 選択的注意、 積極奇異型、受身型、孤立型
誤学習(ここここ 及び ここ)、 森を見ずに木又は葉を見てしまう[木又は葉を見ただけで、森を見ずに安易な判断をしてしまう](ここ
[これに関連するかもしれない「経験が目の前にあることで飽和する」(ここ 及び ここ)、「並列処理(マルチタスク)の困難 」、「一事が万事」(ここここ)、「視点の切換えの困難」[続く]
[続き]「揚げ足を取ってしまう」、「シングルレイヤー思考特性」、「(想像力の障害としての)経験が目の前にあるもので飽和し余白がない」]
子どものときも困っていた、 クレーマーになる、 怒りをコントロールする、 ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない
情報処理過剰選択仮説(この一部の「ハイコントラスト知覚特性」、「シングルレイヤー思考特性」)、 彼を知り己を知れば百戦危うからず孫子の兵法より)、 自他未分
「物事を何でも簡単に信じてしまう」又は「相手を簡単に信用してしまう」、 ごまかしが下手で誠実、 助けを求めるのが苦手、 仕事の優先順位がわかりにくい
興味の偏りが著しい、 細かなことに著しくこだわる、 冗談、からかい及び皮肉等が通じない、 微妙な空気を読むことが困難(ここここ 及び ここ
余計なことを言う、 暗黙や言外という概念の理解が困難 *5、 協調性に問題がある、 自分が他者からどのように思われるか気にしない
オープンクエスチョンには答えに窮する、 記憶が消えなくて苦しむ、 特性を活かす、 常識にとらわれない発想を力に
健康な生活、 規則正しい時間を作ったり守ったりすることは極めて苦手、 アサーティブに生きる、 ぼちぼち生きる
実際の経験によらなければ学べない、 状況の意味を読み取るためにたくさんの練習が必要、 共感とシステム化、 他者の感情よりも客観的な事実を重視
認知様式と社会的コミュニケーション *6、 認知様式はボトムアップ処理で全体へとまとまりあがらない、 理念形成の困難、 一方的に話してしまう[これに関連して『「聞く-話す」のマルチタスクが苦手』
字義に拘泥、 見知らぬ場所や新しい環境が苦手(ここここ)、 夫婦関係と発達障害、 カサンドラ症候群(のリンク先 及び ここ参照)
アレキシサイミア(失感情症)、 マインドブラインドネス、 Dr 林のこころと脳の相談室、 アスペルガー障害であることがわからないまま大人になる
*7 ADHDとASDの併病割合、 ADHDとASDの区別、 (青年における)インターネット依存症

(5) その他用語、文章の本エントリ内リンク(女性のアスペルガー症候群関連)
「ガールズトーク」についていけない、 (職場での)コミュニケーションが苦手、 難治性の心身症、 体調不良
距離が近づくと豹変する、 診断基準がそもそも男性向け?、 女性当事者の手記にはヒントが満載

(6) その他用語、文章の本エントリ内リンク(ADHD関連)
ADHD についてのリンク集、 成人ADHDの有病割合、 多動・衝動性及び不注意、 注意の配分が苦手ここ *8及び ここ *9
日常生活や学校において問題となりやすい点、 必要なスキル、 認知の歪みと補償方略、 認知行動療法
ハロウェルらによるADHD診断基準、 デフォルト・モード・ネットワーク、 ADHDとASDの併病割合、 ADHDとASDの区別
併存障害、 脳内神経回路(含報酬系)、低ドーパミン仮説、 薬物治療、 自己理解
ワーカホリック、 情動調節、 ADHDに気づかず何十年も苦しむ、 (青年における)インターネット依存症 *10

(7) その他用語、文章の本エントリ内リンク(女性のADHD関連)
女性のADHD、 ミスばかりで自分が嫌になっている、 気配りができず、同性に嫌われる(ここ 及び ここ)、 時間がないのに用事をつめこんでしまう(ここ 及び ここ
子どもを叱りすぎて虐待を疑われる、 治療後に、部屋が片付きすぎて混乱する、 内気で恥ずかしがり屋、 思考の多動
診断基準は男子の特徴を反映、 診断基準が当てはまらない特徴、 「いい加減」な生き方を探していく、 そつなくふるまうことはあきらめる
フォローしてくれる友達・同僚をみつける、 押しの強い男性との間には少し距離をとる、 ADHDとASDの区別

(8) ちなみに、Dr 林のこころと脳の相談室における項のリンク先に関連した文章を次に示します。
(a) 『「敵か味方か」等の極端な考え方をする』  (b) 『「曖昧な関係」「判断を保留」という言葉の理解が困難』

(9) 他の拙エントリおける発達障害に関するリンク
時間単位の気分変動*11発達障害ADHD)、 ≪ご参考≫(注:発達障害関連は一部の項目のみ)、 第四の発達障害 *12、 発達障害愛着障害との鑑別(ここ 及び ここ
情動調節(自閉スペクトラム症) *13、 対人操作性、 重ね着症候群、 強迫性障害と発達障害との関連
レスポンデント学習、オペラント学習、 とらわれ、 (認知療法における)スキーマ、信念、方略

ご参考:上記以外にも他の拙エントリの「リンク集」にも、本エントリに関連した用語又は文章のリンクがあります。

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前書き

他の拙エントリの項目「≪補足説明2≫」に関連して、発達障害*14における身体化(somatization)及びその他の本エントリ作者の関心事に関して以下に記述します。ただし、第四の発達障害(発達性トラウマ症候群)に関しては、他の拙エントリの項目「≪補足説明3≫」を参照して下さい。ちなみに、a) 本エントリはこの拙エントリ同様に、独断と偏見があるかもしれませんが、MCS(多種化学物質過敏状態)又は化学物質過敏症を考慮して作成しています*15。 b) 大人の発達障害に関するWEBページ例を次に紹介します。「大人の発達障害 ハートネット」 c) 自閉スペクトラム症ADHDの両者に関連する pdfファイルを次に紹介します。「発達障害について:最近の話題」 d) 加えて、発達障害に関するエントリを次に紹介します。『「よく発達した発達障害」の話*16 e) 大人の発達障害の診断、アセスメントについては、次のエントリを参照して下さい。 「岩坂先生の講演を聴きました。」 f) 一方、大人の発達障害をどう支援するのかの基本的な考え方については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。 「市民公開講座」の「2.大人の発達障害をどう支援するか」項

ちなみに、本エントリ作成のプロセスは他の拙エントリのここで示すものと似ている点があります。

≪診断名及び診断基準に関する用語について、その他≫
本エントリにしばしば登場する診断名に関する用語が複数あるのでこれらの関係例を次に示します。①アスペルガー症候群又はアスペルガー障害は、自閉スペクトラム症[又は自閉症スペクトラム障害](ASD、Autistic Spectrum Disorder)のアスペルガータイプに相当します。②広汎性発達障害(PDD、Pervasive Development Disorder)は自閉スペクトラム症の旧名です。③高機能自閉症アスペルガー症候群にほぼ相当します。

一方、ADHDに対する漢字表記名は、注意欠如・多動症、注意欠如・多動性障害又は注意欠陥・多動性障害(旧名)等です。

また、本エントリにおける「regulation」の訳語としての「調節」に関連しては、他の拙エントリのここを参照して下さい。

また、本エントリには診断基準「DSM:アメリカ精神医学会の精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」に関連する記述があります。本エントリでは第4版(DSM-Ⅳ)と第5版(DSM-5)*17についての記述があります。

≪主な改訂の履歴≫
2015年8月25日:長文化されたこともあり、目次の追加を含み大幅に改訂しました。
2015年12月8日、26日:タイトル、リンク集の追加を含めてさらに改訂しました。
2016年1月9日、2月26日:文章の追記を含めてさらに改訂しました。
2016年5月28日、6月1日、4日、10日、16日、26日、8月1日、7日、21日、9月26日、28日、10月10日、13日、21日、23日、31日:項目の新規作成、文章の追記を含めてさらに大幅に改訂しました。
2017年1月4日、23日、2月11日、3月10日、4月15日、20日、26日、27日、30日、5月3日、10日、6月4日、11日、17日、19日、21日、25日、7月4日、13日、24日:文章の追記を含めてさらに改訂しました。

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身体症状

身体症状(心身症、身体表現性障害)の例として、宮岡等、内山登紀夫著の本、「大人の発達障害ってそういうことだったのか」(2013年発行)の【合併と鑑別-身体表現性障害】における記述の一部(P117~P119)を以下に引用します。加えて「心身症の状態と共存」について、古荘純一著の本、「発達障害とはなにか 誤解を解く」(2016年発行)の 第3章 支援者の誤解をとく の「7 心身症を抱えた人たちにどう対応するか?」における記述の一部(P105~P107)を以下に引用します。さらに、以下の「その他」(e)[1] における及び項にも女性のアスペルガー症候群における身体症状に関する引用があります。(発達凸凹に続発する)これらの身体症状は、多分二次障害に含まれると本エントリ作者は考えます。ちなみに、a) 上記「心身症」及び「身体表現性障害」については、それぞれ次のWEBページを参照して下さい。「心身症 - 脳科学辞典」、「身体表現性障害 - 脳科学辞典」、「身体症状症(旧:身体表現性障害) - KOMPAS」 b) 加えて、心身相関等について紹介している、及び心因性や心身一元論等について紹介している次のWEBページもそれぞれあります。 「こころとからだ - 日本心身医学会」、「精神科とのクロストーク 身体表現性障害 精神科の立場から

【合併と鑑別-身体表現性障害】
身体表現性障害の心気的な症状は非常に多いが、身体に関するこだわり方が違う

宮岡 次は身体表現性障害についてです。いわゆる心気的な症状としてはどんなものが多いですか。
内山 身体表現性障害の心気的な症状は非常に多いと思います。
宮岡 たくさんありますよね。そのなかで特に何が多いのでしょうか。
内山 子どもの場合では、頭痛や腹痛など不登校の子がよく口にするような普通の身体症状です。成人でも頭痛、腹痛は多いです。なかにはビツァール(奇妙)な感じがする人もいますね。特に所見がないのに、ずっと筋肉が痛いとか、肩が痛いとか、いわゆる不定愁訴です。
宮岡 「筋肉が柔らかくなったような気がする」という患者さんもいますよね。
内山 そうそう、あります。
宮岡 そうすると、簡単に「セネストパチー(体感症)」と診断してしまう人がいるんですよね。
内山 ああ、そうか。そうかもしれないですね。
宮岡 私は若いころからセネストパチーにはこだわっていて、「このレベルではセネストパチーと言ってはいけない」と、よく病棟で言っていました。セネストパチーは体感の幻覚であり、言葉で表現できない感覚です。ただ、セネストパチーとも普通の心気症状ともいえない症状があって、なんとなくすっきりしない気がしていたんです。でも発達障害との関係もありうるなと思って、いまうかがってみました。普通の中高年でみられる心気症には、食欲がないとか、消化器症状や動悸、疲れやすいなどがありますが、分布はそんなに変わらないのですか。
内山 あまり変わりがないと思いますね。頭痛がしたり、動悸がしたり、お腹がゴロゴロ。いろいろ症状を訴えるけど、話を変えれば案外、変えられるんですよね。
宮岡 こだわりが弱いということなのでしょうか。アスペルガーはこだわりが強いはずですよね。
内山 身体に関するこだわりはあんまりないみたいですよ。統合失調症の場合は、すごく執拗に訴える人がいますよね。ああいうタイプの人はアスペルガーにはあまりいない気がします。毎回、毎回、たとえば頭痛をいろいろ複雑な表現で訴えるので、薬は処方しますが、効かないです。「効かないね。やめておこうか」と言うと、「はい、やめておきます」です(笑)。
宮岡 「なんとかしてください」という強い要求はあまりないかもしれませんね。
内山 境界性パーソナリティ障害統合失調症でしつこく訴える人はたくさんいますが、アスペルガーではあまりいません。それほど経験が豊富ではないので、たまたま診たケースがそうだっただけかもしれないですけど、すごく強く訴える人は少ないですよ。
宮岡 それと、感覚過敏が重なっている場合がありますよね。
内山 そうですね、感覚過敏が重なっているので、「ああ、過敏だよね」という話をして、「ちょっと休んでみようか」「薬を変えようか」とか言うと、案外すぐ納得します。マイナー(抗不安薬)やリスパダール一ミリグラムを半錠、三日に一回使うとか、その程度でなんとかなる人も多いですね。
(後略)

注:i) 引用中の「リスパダール」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「リスパダール」 ii) 引用中の「境界性パーソナリティ障害」、「統合失調症」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 iii) 引用中の「感覚過敏」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) ちなみに、a) 心身症と感覚過敏に関連するアレキシサイミア(alexithymia、失感情症)については、ここを参照して下さい。 b) 加えて、他の疾患による「身体症状」については、他の拙エントリのリンク集[用語:「身体化(身体症状)」]を参照して下さい。

7 心身症を抱えた人たちにどう対応するか?
第5章では、発達障害にはさまざまな精神疾患の合併が多いことについてふれるが、実際に診察をして感じることは、当事者がいわゆる「心身症」の状態を呈していても、自身は、その事実に気づいていないかあまり気にしておらず、「心身症の状態と共存(ある当事者の言葉)」していると思えることである。すなわち、発達障害の人は日常的に心身の不調を抱えながら生活しているのである。支援にあたり、当事者が「心身症の状態と共存」していることに留意する必要がある。
心身症について日本心身医学会は、「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症うつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」と定義している。ここでは、心身症を「身体の(軽い)病気」「その発症や経過に心理・社会的因子が大きく影響している」という概念で、考えてみたい。
筆者は、発達障害の人が3-3図のように「心身症と共存状態」を呈しているととらえている。
発達障害の人は、脳機能の特性から「不快な身体刺激」を感じやすいため、対人的なストレスに加えて、不快な身体刺激や過剰に感じやすい刺激もストレスの原因となる。簡単に言えば、「よりストレスを感じやすい」ということである。通常は、合理的にストレスを処理して適応反応を示すことで、ストレスを解消しているが、発達障害の人は「ストレス耐性が弱い」と表現されることもある。その場合、影響の出方として身体反応、行動化、心理反応のルートがある。最も影響が少ないのが身体反応としての表現(頭痛、腹痛、疲労感など)であり、ストレスに関してうまく適応反応できていないものの、心身症の状態を呈しながらも、それと「共存する」ことで、日常生活が可能となっていると、筆者は考えている。(後略)

注:i) 引用中の「3-3図」の引用は省略しています。 ii) 引用中の「行動化」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「境界性パーソナリティ障害」 引用中の3-3図(図自体の引用省略)によると「行動化」は共存困難に分類されています。一方、「心理反応」は3-3図(図自体の引用省略)によると共存困難な精神症状につながるようです。

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感覚過敏と鈍麻

標記については、例えば、他の拙エントリの「(a)項」、「※2の[ご参考1]*18≪余談1≫及びWEBページ「発達障害 解明される未知の世界」、『「発達障害」の世界を映像化*19をそれぞれ参照して下さい。一方、女性ASDにおける感覚過敏と体調不良との関係についての記述はここここを参照して下さい。なお、自閉スペクトラム症における「選択的注意」を含む感覚異常全般については、小野和哉著の本、「最新図解 大人の発達障害サポートブック」(2017年発行)の 1章 社会の中で「生きにくさ」を感じている人たち の「複数の障害を併せもつことも」における記述の一部(P29)を次に引用します。

(前略)感覚異常
私たちには目、耳、鼻、舌、皮膚などの感覚器があり、そこで得られた知覚情報を脳などで認識しています。
また脳には、人間にとって大切な情報とそうでないものを選別する機能があります。たとえば、少し騒がしい場所にいても、雑音の中から自分が会話をしている相手の声を聞き分けられることができるのは、そうした選別機能があるからです。このような機能を「選択的注意」といいます。
しかし、発達障害のある人は、この機能がうまく働かないため、すべての音を同じように認識してしまいます。そのような「感覚のアンバランス」が、聴覚だけではなく、視覚、嗅覚、味覚、触覚などでも起こるのです。その結果、ふつうの人とは違った見え方、聞こえ方、感じ方をしてしまうと考えられています。

注:聴覚における引用中の「選択的注意」に関連する「カクテルパーティー効果」については、次のWEBページを参照して下さい。 『脇本准教授、京都新聞連載心理学コラムの今回のテーマは「カクテルパーティー効果」

加えて、アスペルガー症候群と診断された著者(綾屋紗月氏)が感覚過敏と鈍麻をはじめとした個人的な体験を詳細に記述した本があります。この本から嗅覚過敏に関する記述の一部を抜き出して引用します。つまり、綾屋紗月、熊谷晉一郎著の本、「発達障害当事者研究――ゆっくりていねいにつながりたい」(2008年発行)の 2章 外界の声を聞く の 2「身体外部の刺激」が飽和する の「①嗅覚」における記述の一部(P59)を次に引用します。

①嗅覚(中略)

私は小さいときから「AさんとCさんは同じ匂い」「BさんとDさんとEさんは同じ匂い」と記憶のなかでグループ分けしていた。だれにも「うん、そうだよね」と言ってもらえないので、理由がわからなかったのだが、最近、それは服に残っている洗剤の香料の匂いだと判明した(服についたタバコの匂いでグルーピングすることもある)。(後略)

この本によると、綾屋紗月氏の感覚における特性として、『「大量の身体感覚を絞り込み、あるひとつの<身体の自己紹介>をまとめあげるまで」の作業が、人よりゆっくりである』(P23)とまとめているようです。ちなみに、「あるひとつの<身体の自己紹介>」の例が「おなかがすいた」(P15)のようです。

加えて、この本によると、綾屋紗月氏の感覚過敏には圧覚も含まれます。この圧覚についての記述の一部を抜き出して引用します。つまり、綾屋紗月、熊谷晉一郎著の本、「発達障害当事者研究――ゆっくりていねいにつながりたい」(2008年発行)の 2章 外界の声を聞く の 2「身体外部の刺激」が飽和する の「⑤圧覚」における記述の一部(P61)を次に引用します。

⑤圧覚
低気圧がくると体も頭も重くなり、思考力が落ちて、歩くのもやっとになる。乗り物酔いは当たり前。飛行機では特に乗っているあいだ中、細かく機内の気圧が変わるので体の調整が追いつかず、沖縄や北海道までの二時間の旅で、「もう許してください」と乞いたくなるぐらい完全に飛行機酔いでぐらぐらになってしまう。当然、海外への長旅に出かけようとは思えない。(後略)

さらに、この本には、綾屋紗月氏による「感覚過敏・感覚鈍麻という言説の再検討」があります。これについて、綾屋紗月、熊谷晉一郎著の本、「発達障害当事者研究――ゆっくりていねいにつながりたい」(2008年発行)の 2章 外界の声を聞く の 「6 感覚過敏・感覚鈍麻という言説の再検討」 における記述の一部(P73)を次に引用します。

6 感覚過敏・感覚鈍麻という言説の再検討(中略)

私の感覚だと、「感覚鈍麻」といわれている状態は、細かくて大量である身体内外の感覚が、なかなか意味や行動としてまとめあがらない様子のことを指しているのだと思う。たとえば、私自身は身体の空腹感や体温変化をまとめあげるのに時間がかかる。ほかにも尿意がまとめあがりにくいため時間で決めてトイレにいく人や、新陳代謝の感覚に関してまとめあがりにくく不衛生になりがちな人、生理の感覚がまとめあがらず、人に指摘されて恥ずかしい思いをする人などの経験談を、自閉圏当事者の集まりで聞いたことがある。
このようなときには目に見える行動や表出がなく、一見ボーッとしているように見えるため、「感覚鈍麻」とみなされるのであろうが、むしろ1章でも述べたように、細かくて大量な、あちらこちらからの身体感覚にとらわれている可能性が高い。一方「感覚過敏」といわれている状態は、多くの人が潜在化しがちな身体内外からの感覚を絞り込めず、そのまま拾ってしまい、それらをパニックなどのかたちで表出してしまう様子を指しているのだろう。たとえばエアータオルの音に耳を塞いで逃げ出したり、街中のたくさんの看板に怯えたりすることなどが、これに当たると思われる。
とはいえ、感覚過敏と感覚鈍麻のあいだには、それほど本質的な違いはない。どちらも「身体内外から細かくて大量の情報を感受し、それを絞り込み、まとめあげることがゆっくりであるために生じている」という一言で説明がつくのである。(後略)

ちなみに、ASDのみならずADHDの方々にも感覚過敏が現れることに関する記述として、熊谷高幸著の本、「自閉症と感覚過敏 特有な世界はなぜ生まれ、どう支援すべきか?」(2017年発行)の 1章 長いあいだ見逃されてきた特性 の「○自閉症スペクトラムADHDとLDへのつながり」における記述の一部(P17)を次に引用します。

(前略)ADHDの人々の中には、実際、感覚過敏をもつ者が多い。また、自閉症ADHDの両方の診断を受ける者は多く、同じ家族の中に自閉症の人とADHDの人が含まれる場合もよくある(ケネディ 二〇〇四など)。(後略)

注:i) 引用中の「ケネディ 二〇〇四」は次の本です。 「ケネディ、ダイアン・M(田中康雄監修、海輪由香子訳)『ADHD自閉症の関連がわかる本』明石書店 二〇〇四」 ii) 引用中の「自閉症ADHDの両方の診断を受ける」に関連する「ADHDとASD(PDD)の併病割合」については、ここを参照して下さい。 iii) 上記記述の「LD」は学習障害(Learning Disorder 又は Learning Disability)のことです。

パニックの謎

例として、杉山登志郎著の本、「発達障害のいま」(2011年発行)の 第六章 発達障害とトラウマ の「パニックの謎が解明」より記述の一部(P148~P149)を以下に引用します。

タイムスリップ現象によって、筆者は今まで不可解であった引き金刺激によるパニックという現象に関する謎が解けた。ある知的障害をともなった自閉症青年は扇風機が置いてある状態でパニックを起こした。彼は擦過音に対する著しい聴覚過敏症を抱えており、扇風機があるときに彼の嫌いな音を出したものと考えられた。その後、扇風機が置いてあるのを見るとそれによってタイムスリップが生じ、たとえその扇風機が不快音を出していなくとも、出しているのと同じ状況になるのである。
過敏性の問題は、最初は生理学的な異常である。ところがこのタイムスリップ現象が介在することによって変わる。つまり過敏性に絡む怖い体験に関連した記憶事象によって、過去の不快体験の記憶の鍵が開いてフラッシュバックが生じるのである。こうして知覚過敏症は、徐々に生理的な問題から、状況を引き金とした心理的な問題へ展開する。

注:引用中の「タイムスリップ現象」、「フラッシュバック」については、共に他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ちなみに、タイムスリップ現象はフラッシュバックと類似した現象です(ここ参照)。

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認知の穴

認知の穴に関連する複数の記述例を以下に紹介します。

まず、杉山登志郎著の本、「発達障害の子どもたち」(2007年発行)の 第四章 自閉症という文化 の『自閉症的認知と自閉症の「認知の穴」』項における記述の一部(P85~P87)を次に引用します。

筆者は最近、非高機能、高機能グループともに、広汎性発達障害の児童青年が示す問題行動の大部分は、非常に狭い視野で周囲の世界を眺め、判断し、行動するところから生じる、誤学習の結果ではないかと考えるようになった。筆者はこれを「自閉症の認知の穴」と呼んでいる。(中略)

世界を代表する高機能自閉症者にして動物学者、さらに牧場の設計者であるテンプル・グランディンは、わが国での講演で、次のようなエピソードを紹介していた。
彼女は犬がなぜ犬なのか、あるとき不思議に思ったという。犬といってもセントバーナード犬のように巨大な犬もいれば、チワワのような小型の犬もいる。毛の長いものも、毛の短いものも、ヘアレスドッグまでいる。さらにシェパードのように鼻の長いものもあればシーズーのように鼻の短いものもいる。なぜこれらが犬という共通の言葉で言われるのか。彼女のとった戦略はすべての犬の写真を丹念に見ることであった。その結果、グランディンは犬に共通項があることを見いだしたという。それは犬の鼻の穴の形であった。そこはすべての犬に共通していたのである!
このエピソードには自閉症者の認知の特徴がとてもよく現れている。大まかであいまいな認知がとても苦手で、細かなところに焦点が当たってしまい、われわれがついぞ見えないところに、深い認知が生まれるのである。

注:i) 引用中の「非常に狭い視野で周囲の世界を眺め」に関連する「目の前にあることで経験が飽和する」又は「俯瞰する機能がない」については、ここここ及びここを参照して下さい。 ii) 加えて、「非常に狭い視野で周囲の世界を眺め」に関連する「木を見て森を見ず」について、本の 第四章 自閉症という文化 の「自閉症の体験世界」項における記述の一部(P81)を次に引用します。

喩えれば、木を見て森を見ずということは、我々もしばしば体験することではあるが、自閉症の場合には、木を見ても、一枚一枚の葉が見えてしまう。あの葉は葉脈がきれいだ、あの葉は端っこが虫に食われている、あの葉は半分黄色くなっているなど、一枚一枚の葉が個別に識別されてしまうと、森どころか、木の全体像も見えているかどうか分からない状況となる。

注:i) 引用中の「木を見て森を見ず」に関連するかもしれない、脳の認知様式としてのトップダウン処理とボトムアップ処理については、ここを参照して下さい。 ii) 引用中の「木を見て森を見ずということは、我々もしばしば体験することではあるが、自閉症の場合には、木を見ても、一枚一枚の葉が見えてしまう。」に関連する引用は、ここここ及びここを参照して下さい。加えて、内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の 9章 認知行動特性 の「文脈からのデカップリング*20の障害」(P163~P174)において、例えば『「木をみて森をみず」-虫瞰図的世界』、『「一事が万事」』、「視点の切換えの困難」の各項目があります*21。これらの項目についてそれぞれ以下に引用します。先ず、『「木をみて森をみず」-虫瞰図的世界』項における記述の一部(P163~P164)を次に引用します。

「木をみて森をみず」-虫瞰図的世界(中略)

Φにはもう一つ,文脈からデカップリングする機能がある.<いま-ここ>の状況から離脱して,俯瞰してみる機能である.潜望鏡,あるいは物見櫓のような役割を果たす.
前章で述べたように,この機能がないと,文脈がわからない.あるいは文脈のなかに迷い込んでしまうことになる.
定型者は,<いま-ここ>を相対化する視点をどこかにもっている.現場にかかずらっているときでも,一息つけば,全体の見取り図を描くことが可能である.没頭しているときにも,頭の片隅のどこかに鳥瞰図がある.
それに対して,ASD の世界は現前にはりついている.いま目の前にあることだけで,経験が飽和してしまう.鳥瞰図ならぬ「虫瞰図」(ニキ・リンコ9)とでも呼べるような世界である.高所からみる視点をもたず,つねに至近距離で人やものとかかわることになる.それゆえ近景しか目に入らない.
虫瞰図的な世界では,「木をみて森をみず」といった事態に陥りやすい.あるいは木を指しているのに,葉をみてしまう.さらには指に,爪のマニキュアに注意が行く.こうして部分にとらわれる.ドナ・ウィリアムズは,経済的に苦しいからということで,レポートに提出する紙を節約するために,使い古しのタイプ用紙に白い修正液を塗って,その上に手書きで書いて提出した.新しい紙を用意するより,修正液を使う方がはるかに高くつくことに気づかなかった.
ある学生は,憲法と語学と専門科目の三つの試験を翌日にひかえていたが,憲法の勉強をし始めると,それに夢中になり,書店で専門書を買い求めて徹夜で読みふけった.別の学生は,重要な課題提出の期日が迫っていたが,学園祭の模擬店に出品する工芸品の製作を始めたところ,材料を問屋街に出かけて買い求め,夜なべをして作り続けた.自分でもそんなことをしている場合ではないとわかっていながら,やめられず,到底売りさばくことのできない数の作品を出品することになった.

vignette
24歳女性.精神科クリニックで「境界例」と診断され,気分安定薬が処方された.ネットで調べたところ,肝障害という副作用が気になりだし,それ以後,毎日判で押したように,職員食堂でシジミのみそ汁を注文するようになった.だが,配膳ロで受け取ってテーブルまで運ぶ際に,こぼさないようにお椀の喫水線だけを見続けていたため,毎回のように,人やものにぶつかってこぼした.(後略)

注:i) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 ii) 引用中の文献番号「9」は次の本からの参照です。 「ニキ・リンコ,藤家寛子『自閉っ子,こういう風にできています!』花風社,2004, pp.65-66」 iii) 引用中の「Φ」は、「他者の志向性(みつめる,呼びかける,触れる)によって触発されたしるし(痕跡)」のことのようです。認知行動特性とかかわるΦの主な機能の一つとして、引用中の「文脈からデカップリングする」ことが挙げられています。また、「Φ」は仮定です。ただし、「Φ」の詳細な説明は本エントリでは困難であり、本を読むことを推奨します。ちなみに、引用した本のこの「Φ」を含む書評例を次のエントリに示します。 「<熊木による書籍紹介> 『自閉症スペクトラムの精神病理』内海健(医学書院)」 iv) 引用中の『「境界例」』及び一部が「境界例」と重なる「境界性パーソナリティ障害」については、共に他の拙エントリのリンク集(用語:「境界性パーソナリティ障害」)を参照して下さい。 v) 引用中の「俯瞰してみる機能」に関連して、俯瞰する機能がなければ困難である「マルチタスク」について、「並列処理が困難」項(ここ参照)における記述の一部(P165~P166)及び宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第1章 アスペルガー症候群とは? の「アスペルガー症候群の特徴」における記述の一部(P42)をそれぞれ以下に引用します。 vi) 加えて、標記「木をみて森をみず」の裏返しである「一事が万事」に関連して、『「一事が万事」』項(ここ参照)における記述(P170~P172)を以下に引用します。

並列処理の困難
俯瞰する機能がなければ,日常の実務において,さまざまな困難がもたらされる.そのうちの代表的なものが,情報の同時処理,言い換えるならマルチタスクが苦手であることである.もちろん多くの人にとって,マルチタスクはむずかしいものではあるが,全体を見渡すことができれば,なんとかこなせるものである.

vignette
22歳男性.学生生活で孤立感を深めていたが,あるとき,「人間になるための修業」と一念発起して,パン屋でアルバイトを始めた.
見習いが終わり,店長から,「パンを包むときほ,商品の名前を言いながら,お客さまの顔をみて,笑顔で会釈するように」と指示されてから,客の方をみることがうまくいかず.混乱し始めた.客がもってきたトレイにトングがなかったときには,素手でパンをつかみ,「バゲットは半分に切ってくれ」と客に言われたときには,バゲットの両端を素手でつかみ,膝を支点にして折ったりした.(後略)

注:i) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 ii) 標記「並列処理が困難」に関連する「並列的な処理」については、ここを参照して下さい。

アスペルガー症候群の特徴(中略)

二つのことを同時にできません。社会生活を送るうえで、二つのことを同時進行させなければいけないことはよくあります。話を聞きながらメモをとる、電話をしながら書類を見るなどです。しかし、アスペルガー症候群の人は、「話を聞くこと」や「書くこと」を別々に集中しないとそれぞれができません。話をして同時にメモをとることには困難を感じています。その結果、会議や交渉のときには蚊帳の外にいるような気分になってしまいます。

「一事が万事」
「木をみて森をみず」の裏返しが「一事が万事」であり,木が森になる.ASD 者の経験は,目の前にあることで飽和する.それゆえ,些細と思われることでも,いったん引っかかると,すべてを放棄してしまうことにもつながる.

vignette
26歳男性.大学院生.前年,研究が初期段階でうまくいかず,学年が始まってまもない時期に,誰にも相談せず早々と留年を決めた.今年度も,ゼミでの最初の経過報告を前に,些細なことに引っかかって,再び留年しよう考えていた.
ところが同級生から,全然うまくいってなくとも,報告会に出続けることによって単位を取得できた先輩の話があり,「ともかく出ること」を勧められた.それ以降,その助言に従ってゼミの出席を続け,論文をなんとか仕上げて無事卒業した.

この青年の場合,「一事が万事」で,すぐにあきらめる傾向があったが,知人の助言に従う素直さをもち合わせていた.「ともかくも出ること」は,彼にとって「理念」として機能した.
「一事が万事」の認知スタイルにおいては,一つの間違いがすべてとなる.それがその人の経験を染め上げてしまい,ネガティブなことで,世界が飽和する.いいかえれば,絶望しやすいということである.すぐに留年のような重大事を決めてしまうように,思いつめると,突拍子もない解決を図ろうとすることもある.

vignette
22歳女性.予想に反して,留学試験に不合格となった.そのあとから,後輩たちに馬鹿にされることで頭がいっぱいになり,死ぬしかないと思いつめた.インターネットで調べて,犬のリードを購入し,ドアノブに掛けて首を縊ったところ,にわかに意識が遠くなり始めた.「人はこんなに簡単に死ぬのだ」と驚き,あわててリードをはずした.もう一度試みたところ,同じように意識が遠くなり始め,死ぬことを断念した.そののち,別の大学の留学試験にあっさり合格して,そそくさと旅立っていった.

vignette
24歳男性.大学院生.強迫性障害にて治療中.「煙草の副流煙で具合が恵くなった」などと,微細な体調の変化に対して因果関係を思いついてほ,それに執拗にこだわる.就職が決まっていなかったが,大学という環境が自分に悪いのだと主張し,就職のためには留年する方が有利であるという周囲の助言を聞き入れなかった.だがいったん卒業すると,今度は就職に不利になってしまったと,誰を責めるともなく訴えた.
彼は,中学生のおり,一人いた友人とちょっとしたことから仲違いしたあと,世界がおしまいになるとパニックになったことがある.その際,引っ越しをすると強硬に主張し両親を説き伏せたのだが,そのエピソードが自慢げに語られた.

こうした「一事が万事」は,自発的にせよ,偶然にせよ,場面が変わったら途端に解決することがある.解決というより,解消であり,問題自身がなくなる.
希死念慮まで口にして,もしかしたら最悪のこともありうるかもしれないと危惧を抱かせた患者が,その次の診察の際には,そんなこともありましたかというような風情でやってくる場合がある.ともすれば,操作性を感じてしまうが,ASD の場合には,そのつどそのつどがすべてであることを思い起こすべきである.

注:i) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 ii) 引用中の「目の前にあることで飽和する」に関連して、内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の 9章 認知行動特性 の「視点の切り替えの困難」における記述(P172)を次に引用します。上記関連は、これ以外にもここ及びここを参照して下さい。

視点の切り替えの困難
目の前のことで飽和してしまう認知スタイルにとって,視点を切り替えることはむずかしい.とりわけ状況が煮詰まってくると,にっちもさっちもいかなくなる.中根晃16は視点の転換の困難を ASD の重要な認知特性として挙げている.

vignette
21歳女性.回収日の前夜にゴミを出している人がいることを知り,それをまねたところ,運悪く見咎められ,強い叱責を受けた.それ以来,自分のまわりのゴミになる可能性のあるものを溜めないようにと捨て始め,それがエスカレートして,ついには数足あったスニーカーが,1足しか残らないようなことにまでなった.それまで捨ててしまうと外出もできなくなる.それでも捨てるのを止められそうもないというところまできて,仕方なく一時的に実家に退避した.しばらくして戻ったときには,こだわりは消失して,捨てたものを思い返しては嘆息していた.

注:i) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 ii) 引用中の文献番号「16」は次に示す資料です。 「中根晃:児童精神病理学のアプローチ.児童青年精神医学とその近接領域36:121-129, 1995」

加えて、本田秀夫著の本、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』(2013年発行)の 第2章 特性から理解する自閉症スペクトラム の「こだわりの心理的メカニズム」における記述の一部(P50~P51)を次に引用します。

自閉症の心理学的研究で有名な、ロンドン大学のウタ・フリス(Uta Frith)という人は、自閉症のこだわりを説明する心理学的仮説として、「中枢性統合」という概念を提唱しています。これは、物事を構成する個々の部分よりも、まず全体像をざっと把握する機能という意味です。自閉症スペクトラムの人たちは、まず全体像を把握してから部分を見るのではなく、個々の部分しか見えず、それらの部分同士の関係や全体像が見えないのではないか、というのがフリスの仮説です。
細かい部分に過度に注目してしまうことが、生活の中ではこだわりとして表れると考えられます。たとえば、外出の際に、目的地に早くたどり着くことが最も重要なのに道順に強くこだわってしまうのは、早く着くという大局的な目的がよくわからずに、目先の道順に気持ちがとらわれてしまうから、ということです。

注:i) 引用中の「自閉症スペクトラムの人たちは、まず全体像を把握してから部分を見るのではなく、個々の部分しか見えず、それらの部分同士の関係や全体像が見えないのではないか」に関連するかもしれない「シングルレイヤー思考」については、ここを参照して下さい。 ii) 一方、引用中の「全体像が見えない」に関連する「全体を包括的に見ることが難しい」については、ここを参照して下さい。

一方、「木を見て森を見ず」が「揚げ足取り」につながることについては、田中康雄、笹森理絵著の本、『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(2014年発行)の 第3章 人の話がわからない、他人の思いが理解できない…… の『「議論好き」への対応』項における記述の一部(P123~P124)を次に引用します。

議論好きと見られがちなPDDタイプで、相手のささいな言い間違えにもすぐに反応する人もいます。状況的には「揚げ足取り」で、多くの人は「あ、言い間違えたな」と気づいても、相手の言わんとする意図のほうを理解しようとするので、そこはあえて反応しません。
ところが、PDDタイプは細かなことに関心が行ってしまい、「木を見て森を見ず」の傾向があります。これは、彼らなりの独特の正義感や価値観があるからで、正確にものごとを把握しないと、気持ちの収まりがつかないのです。

注:この引用部の著者は田中康雄です。

加えて、シングルレイヤー思考特性については、米田衆介の本、「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 第二章 アスペルガー障害の本質 の「シングルレイヤー思考特性」項における記述(P71~P76)を次に引用します。

シングルレイヤー思考というのは、ふつうの人では多重的・並列的におこなわれる情報処理が、一度に一つの水準だけで処理される傾向です。
たとえば、ここに一冊の本があったとします。ふつうの人がこれを見たときには、どのような情報処理が頭のなかで起こっているのでしょうか?
本に固有の性質はいろいろあります。その本のタイトルと内容、色やかたち、匂いや手触り、推定される重量、著者はどんな人なのか、大体の値段、誰の持ち物なのか、その本がそこに置かれていることの文脈、その本を手に取ることで他者はどう思うか……。
これらの無数の情報を、健常者はバックグラウンドで暗黙に情報処理しています。これは「並列処理」という言い方もできます。ただし、たんに並列であるというだけでなく、バックグラウンドで自動的に処理される思考であるという点を強調して、ここでは「多層性を持った思考」と呼ぶことにします。
このような「多層性を持った思考」によって処理される情報には、物理的な特性の側面(色、かたち、手触り、匂い、重量など)だけでなく、文化的な価値(著者はどんな人なのか)や経済的な価値(大体の値段)、所有関係(誰の持ち物なのか)、社会的でシンボリックな作用(その本がそこに置かれていることの文脈、その本を手に取ることで他者はどう思うか)などの無数の側面が含まれます。
ところが仮に、このようなバックグラウンドでの情報処理がおこなわれず、本の物理的な特徴以外の部分が無視されてしまったとしたら、たいへん困ったことになるのです。
たとえば、図書館で本を読んでいるときに、本の大きさにだけ着目して、「この本は手頃な大きさで怪いから、向こうの机に放り投げることもできそうだ」と考えたとしても、実際に本を放り投げる健常者はほとんどいないでしょう。その本は自分の本ではないので、持ち主の怒りを買うのは間違いないと思われますし、そもそも本を投げて返すという行動自体が周囲の人に対して無礼だからです。
あるいは、手に取ったものがたいへんカラフルで美しい表紙の雑誌だったとしましょう。ところが、その雑誌がエロティックな内容のものだったとしたら、健常者は状況によっては手に取らないでしょう。あるいは少なくとも、女性の前でその雑誌を広げてみせることはないでしょう。この場合、健常者の意識下では、「この雑誌をこの場で手に取ったら、他の人を不快にするだろう」という暗黙の情報処理がおこなわれているのです。
たった一冊の本を前にしてさえ、このような複雑な情報処理がバックグラウンドでおこなわれています。しかし、シングルレイヤー思考では、一度に一つの水準だけで処理される傾向がありますから、様々な日常的判断が妨げられることになります。このため、先の例で言えば、アスベルガー者は悪気もなく実際に本を放り投げたり、エロティックな雑誌を女性の前で広げてしまったりするのです。
個々の事柄のあいだに優先順位を付けにくくなることも、シングルレイヤー思考のあらわれとして説明してもよいでしょう。優先順位の決定は、複数の属性の層(レイヤー)にわたって解決しなければならない問題です。
たとえば、健常者が職場でどの仕事から仕上げていくかを考えるときには、仕事の納期、仕事の難しさ、顧客との関係など、さまざまな要素を考慮に入れているはずです。その結果、「納期まで時間があるけど、顧客がうるさいからこの仕事を一番にやろう」とか、「単純な作業ですぐにできるから、締め切りが近いけど後にまわそう」という判断が生まれるわけです。
少し抽象的に表現すれば、ある事柄について一定の層で考えながら、同じことの他の側面を別の層でも同時に考え、しかもそれぞれの側面の持つ重要性を比較できることが、優先順位の判断ができるための要件です。逆にこれができないと、リアルタイムで事柄の重要性を判断することはできません。だから、このような並列的な処理を必要とするような判断は、シングルレイヤー思考の特性を持つアスベルガー者には、難しい作業ということになります。
さらに、シングルレイヤー思考にはもう一つ困ったことがあります。ふつうの人々が犯すエラーを犯さないことがある、ということです。「エラーが起きないならいいではないか」と思われるに違いありませんが、そうではありません。ふつうの人は、自然と重層的に思考するので、層と層の間、すなわち異なった思考の次元の問で混線が起きても、あまり自分では意識しないことがあります。これに対して、アスベルガー者の場合には、それぞれの次元で独立に問題を検討する傾向があります。
たとえば、ある特定の人物の行為について評価する場合を例に挙げて考えてみましょう。ある人が規則違反をしたときに、アスベルガー者の場合には、その行為そのものを取り上げて評価し、その人のそれ以外の属性には注意しない可能性が高くなります。
これは、規則という次元で考えたときには適切で正しい判断です。しかしふつうの人は、行為者が身内なのか他所者なのかというような、異なった次元の問題を容易に混線させてしまいます。そして身内の場合は見逃したり、それどころか規則を曲げてでも擁護するかもしれません。それに対して、他所者が同じことをした場合には、激しく攻撃するかもしれません。
このようなひいきが正しいかどうかはさておき、集団に対する帰属意識を持てる健常者にとっては、それが自然な判断なのです。ところが、シングルレイヤー思考のアスベルガー者には、このような「大人の論理」は理解できません。そしてその論理を否定した結果として、アスベルガー者が集団から排除される可能性が高くなるのです。

注:i) 引用中の「シングルレイヤー思考」特性は「情報処理過剰選択仮説」(引用参照)の一要素です。 ii) 引用中の「並列的な処理」に関連する「並列処理の困難」については、ここを参照して下さい。 iii) 引用中の「個々の事柄のあいだに優先順位を付けにくくなる」に関連する引用はここを参照して下さい。 

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放置(未療育)

例として、杉山登志郎著の本、「発達障害の子どもたち」(2007年発行)の 第四章 自閉症という文化 の「自閉症への治療教育」における記述の一部(P94)及び内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の 終章 臨床デバイス の「4.医療が害をなさないこと」における記述の一部(P263)をそれぞれ以下に引用します。

自閉症への治療教育(中略)

自閉症グループの発達障害は、社会的な行動を一つ一つ積み上げることが適応を向上させる唯一の道である。したがって、他の発達障害と同様、彼らへのもっとも誤った対応はといえば放置に他ならない。(後略)

4.医療が害をなさないこと(中略)

とりわけ ASD の場合には,定型者仕様になっている社会のシステムと齟齬を起こしやすいことに注意する必要がある.医療ももちろん定型者仕様になっている.
もう少し積極的にいうなら,彼らの発達を阻害しているものを見出し,取り除くことである.何かを加えるというより,引き算の発想のほうがうまくいくことが多い.ただし,それは何もしないということではない.放置は最悪ともいわれる1.たとえば社会的スキルを獲得することも,阻害要因を取り除くという引き算としての意味がある.

注:i) 引用中の文献番号「1」は、次の本からの参照です。 「杉山登志郎自閉症の精神病理と治療』(杉山登志郎著作集1)日本評論社,2011, p.211」 ii) 引用中の「定型者」は発達障害及び非定型発達者ではない(一般の人)という意味のようです。

一方、療育の要点の例を、杉山登志郎著の本、「発達障害のいま」(2011年発行)の 終章 療育、治療、予防について の「早期チェック」項における記述の一部(P240)を次に引用します。

療育の要点は、もともとの問題を軽減させることと、同時に二次障害を作らないことである。

注:引用中の「二次障害」については、二次障害を参照して下さい。

加えて、未療育であった四十代前半男性アスペルガー障害の患者の方に関連して、林公一著の本、「サイコバブル社会 膨張し融解する心の病」(2010年発行)の 第二章 アスペルガー障害 の「大人になったアスペルガー障害」項における記述の一部(P59~P64)を次に引用します。

大人になったアスペルガー障害

ケース7
私は四十代前半の男です。私の抱える問題は、人間関係の構築・維持が困難ないしはほぼ不可能というものです。
私に自覚はないのですが、幼少期から現在に至るまで「常識がない」「気が利かない」「協調性がない」「チームワークがとれない」「感覚(思考)がずれている」「どこかおかしい」「理解できない」などと言われ続けてきました。
協調性については、幼稚園の頃から言われていたようです。「友達が外にいるときは一人で中で遊び、みんなが中に入るときには一人で外で遊んでいた」と、母から聞かされています。外ではいろいろな物を拾って集めていたらしいです。また小学校の頃から通知表には「協調性に問題がある」の旨が、毎年毎学期記入されていたと記憶しています。
私自身は、友達と楽しく遊びたいという気持ちは人一倍あったと思います。けれども、みんなで遊ぼうとするとき、なぜルールをはっきり決めずに遊びがスムースにできるのか、私にはまったくわかりませんでした。仲良く遊ぶために最初にルールを細かく決めようと提案してすごく嫌われた思い出もあります。
そんなこともあって私は、授業時間よりも休み時間のほうが嫌いでした。授業の内容はすいすいとわかりましたし、成績もとても良かったです。といっても、授業中も、先生からの注意を無視している、態度が悪いと怒られることもよくありました。私としてはそんなつもりはまったくなかったのですが、先生が自分を注意しているということに気づかなかったのです。誰に向かって言っているのだろうと思いながら聞いていたら、「○○、聞いてるのか!」と突然私の名前を呼ばれ、あまりの驚愕に泣いてしまったこともありました。
私としては、小学校以来ずっと、自分の協調性を修正する努力をしてきたつもりですが、考えて行動したことの多くは裏目になり、考えずに行動すれば相手の望む形から外れるということばかりを繰り返してきました。「書かれていない・言われていない内容を読み取る」という、聞くところによる『世間一般の常識』行為が、努力不足もあるのかもしれませんが、私にはどうやってもできません。そのような超能力まがいの行為が、本当に常識なのでしょうか?
この思考のずれからでしょうか、幼少期から現在に至るまで、親友と呼べる友好関係を築けたことはありません。兄弟は小中高時代からの友人らと未だ交流があるのに、私にはそういう友人は一人もいません。小中学校の頃は友人を作れないことで悩みもしましたが、大学(いわゆる一流大学です)に入ってからは特に対人関係への関心を求められないので、友人がいないことは気にせずにいました。そして第一希望の一部上場会社に入り、自分も親も安心していました。
けれども、職場ではうまくいきませんでした。対人関係の問題から、せっかくの一流会社を退職せざるを得なくなり、それからも何度か職場を変わっています。どれも二~三年で上司が私との付き合いに疲れ果て、退職勧告を出すという流れです。今の職場も三年目(ただし現在の上司との付き合いは一年)ですし、つい先日には「懲戒解雇だ」のメールを上司から送りつけられているので、遠からず退職勧告が出されるものと予想しています。
今の上司によると、私が上司をバカにしているとのことでした。表向きは神妙にしていても、腹の奥では舌を出していると考えているようです。
私にそのような他意はありませんし、そう器用に感情と顔を作ることは私にはできません。誤解を解こうと説明しても、言い訳や、その場で思いついた嘘としか思ってもらえず、そんなことを繰り返すうちに、また自分が悪く思われるのではないかという先取り不安が出てきて、人と接すると緊張してしまい思うように言葉が出てこなくなってしまっています。この職場も長くいられないなと考え、落ち込むばかりです。
職場を離れなくてはならないのは非常に残念ですし、私の年齢では再就職も非常に厳しいです。しかし、残るにせよ転職するにせよ、このままではいつもと同じ流れになるのは予想できます。
私の対人能力の低さは、やはり私の努力不足に起因しているのでしょうか。私は努力がまだまだ足りないのでしょうか。

この人は、「大人になったアスペルガー障害」である。
幼少時、友達とうまく遊べない。ひとり遊びを好んでいた。収集癖。どれもアスペルガー障害によく見られる特徴である。「先生が自分を注意しているのがわからなかった」というのは、アスペルガー障害の人が学校などでよく経験する問題である。社会性の障害とも言えるし、コミュニケーションの障害とも言える。本人はそんな気はないのだが、教師からみれば、態度の悪い生徒と映る。評価は悪くなる。長じて、上司との関係にも共通したものが見られている。指示を無視している。上司の目にはそう映るのであろう。
アスペルガー障害の人は、学校の成績はむしろ良いことが多い。一流の大学に進学できる学力を身につけることも稀ではない。なんだかんだ言っても現代の日本では学歴が重視されるから、社会性に多少の問題があっても、成績が良ければ大目に見られる。
この人も希望の会社に就職した。しかしそこでアスペルガー特有の社会性の障害が露呈し、退職に追い込まれた。再就職先でも、再々就職先でも、同じようなことが繰り返された。本人は一生懸命努力している。しかしそれは報われない。
それが職場であれ、どこであれ、人が複数集ればそこは社会である。そして社会には暗黙のルールがある。交わされる言葉には言外の意味がある。そうしたものを、人は、ごく自然なものとして身につけている。しかしアスペルガーの人にはこれができない。暗黙や言外という概念を、そもそも理解できないのである。だからこの人も言っている。「そのような超能力まがいの行為が、本当に常識なのでしょうか?」と。これではスムースな社会生活は到底期待できない。
すべてはアスペルガー障害が原因である。
いや違う。
アスペルガー障害であることがわからないまま、大人になってしまったことが原因である。
アスペルガー障害をはじめとする発達障害の特徴。それは先に挙げたウィングの三つ組、すなわち、社会性の障害・コミュニケーションの障害・想像力の障害である。さらに不注意や衝動性が加わることもあるのも先に述べた通りである。
アスペルガー障害であることがわからないまま大人になってしまうと、いや、より正確にいうと、アスペルガー障害としての適切な療育を受けないまま大人になってしまうと、さらに二次的障害が加わる。それは、自分には何の悪気もなく、懸命に生きているのにもかかわらず、人とはうまくいかず、低い評価を受け、さらにはのけ者にまでされる、そうしたことの結果としての抑うつ感、自信喪失、対人緊張などである。心身症のような形で体の症状が出ることもあるし、うつ病と間違えられることもある。この人にも症状が出ている。「人と接すると緊張してしまい思うように言葉が出てこなくなってしまっています。この職場も長くいられないなと考え、落ち込むばかりです」、アスペルガーの二次的障害である。幼少時に診断がつき、適切な療育が行なわれれば、ここまで悩むことはなかったであろう。より適切な生き方・適応の仕方をとることができたであろう。(中略)
ただし、決して手遅れではない。この人も、今からでもある程度の軌道修正は可能である。アスペルガー障害を知り、正しく理解すれば可能である。逆に、たとえば、うつ病と誤診されたりすると先は暗い。うつ病の治療をいくらしても、この人の職場適応が良くなるわけではない。
理解に手遅れということはまずないものである。(後略)

注:i) 引用中の「ウィングの三つ組」についてはここ及びここを参照して下さい。 ii) 引用中の「退職勧告」に関連する「三〇回も仕事をクビになった」についての引用はここを参照して下さい。 iii) 引用中の「アスペルガー障害であることがわからないまま」に関連して、孫子の兵法的な視点からの記述例はここを参照して下さい。 iv) ちなみに、a) 上司に恵まれているアスペルガー障害と考えられる労働者の例については項のリンク先を参照して下さい。 b) 成人後にアスペルガー症候群の傾向ありと診断され、通院し、環境調整等が実施されて、状況が改善しつつある例を示すWEBページを次に紹介します。『「発達障害と向き合って」』 c) 一方、本引用はアスペルガー障害の見落としにより、ご本人が長期間困っている例ですが、境界性パーソナリティ障害において誤診・誤治療により、ご本人・ご家族が長期間困っている例については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 d) 加えて、ADHDであることに気づかず何十年も苦しんだ例を、宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第2章 上司の理解が期待される時代 の「小学校から中学、高校へ……、そして就職」における記述の一部(P60)を次に引用します。

(前略)注意欠陥多動性障害ADHD)であることに気づかず何十年も苦しんでいた人が医療機関を受診しても、具体的な症状を訴える際、「眠れない、仕事ができない、疲れてしまう」といった愁訴だけを話し、肝心の発達の問題に関する質問をお医者さんからされなかったために、結局、自分のつらさのなにを伝えたらよいかわからなかったという方もいるのです。(後略)

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有病率

鷲見聡著の本、「発達障害の謎を解く」(2015年発行)の [第1章] 疫学研究からみた発達障害 の 自閉症スペクトラムはどこまで増加するのか の「4.サポート体制を考える」における記述の一部(P33)を次に引用します。

「ASDの有病率が2パーセントに増加している」と筆者が初めて述べたのは、2005年秋の小児精神神経学会であった。それ以降、「100人に2人」に対応できる支援の充実が急務であると、機会があるごとにアピールしてきた。ところが今、その自説を撤回しなければならない事態に至っている。浜松の4パーセントという速報値の他に、横浜などでも4パーセントを超える値が見積もられている。それらは暫定的な報告であり、科学的な視点からはまだ結論に到達していない。しかし、発達支援の視点からは、子ども100人に4人以上のASD児がいると想定して、支援体制の構築に着手するべきである。長期的な疫学研究の結論を待ってから動くのでは、”時すでに遅し”になりかねない。
大人の集団におけるASDの頻度は、まだ具体的な調査結果が得られていない。100人に4人というASDの子どもたちの中には、成人に達する時までには社会適応ができる例が相当数いて、大人での頻度のほうが低いと考えたい。しかし逆に、子ども時代には困難さが顕在化せず、大人になってから初めて支援が必要になる場合もあるかもしれない。

注:i) ここで言及している有病率における一次情報は、次の二つです。 ①土屋賢治「自閉症スペクトラムの早期診断と出生コホート研究」『そだちの科学』18号、22-31頁、2012年 ②清水康夫「発達に問題のある学童についての精神医学的診断および特別支援教育に関する疫学研究:横浜市港北区における調査」『厚生労働科学研究費補助金 発達障害児とその家族に対する地域特性に応じた継続的な支援の実施と評価 平成25年度研究総括・分担研究報告書 研究代表者本田秀夫』2014年 ちなみに、有病率の単位はパーセントです。 ii) 次に示すように後者の報告書はネットにおいて入手可能なようです。WEBページ「発達障害児とその家族に対する地域特性に応じた継続的な支援の実施と評価」における次の pdfファイル a) 201317022A0001.pdf b) 201317022A0002.pdf iii) ちなみに、第四の発達障害に関連して虐待の相談件数に言及した引用を、十一元三著の本、「子供と大人のメンタルヘルスがわかる本 精神と行動の異変を理解するためのポイント40」の「コラム4 虐待・トラウマとその影響」(P101)の一部から次に行います。

虐待の相談件数は我が国で急増しています。平成二年の一〇〇〇件余りと比べ、平成二四年には六万五〇〇〇件を上回り、虐待で命を落とす子供は一週間に一人と言われています。

注:ちなみに、平成27年度における全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数(速報値)は次の pdfファイルに示されています。 「児童相談所での児童虐待相談対応件数

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その他

(a)ASDの判断

ASDかどうかの判断に向けた検討に関しては、先天性であるとされていること、以下に引用するウイングの「三つ組み」障害(認知の穴を含む)、感覚過敏と鈍麻及び不器用さ、姿勢の悪さ、運動学習の障害を含む協調運動の障害を目安にすると良いかもしれません*22。ただし、(c)項に示すような二次障害を続発すると、話が複雑化するかもしれません。

ちなみに、 i) 身体症状は、発達障害以外にも、例えば、様々な精神疾患*23においても見られるようなので、これの有無は発達障害の判断に向けた検討には適さない可能性が高いです。 ii) 女性のアスペルガー症候群については、(e)項を参照して下さい。

最初に米田衆介著の本、「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の『ウイングの「三つ組み」仮説』項における記述の一部(P57~P58)を次に引用します。

ウイングの「三つ組み」仮説
従来、自閉症を理解するための枠組みとして有名なものに、前節のローナ・ウイングが提唱した「三つ組み」仮説があります。ウイングは、自閉症スペクトラムの症状を、次のように三つに分けて論じています。
①社会的相互交渉の障害
他者とうまく関われない。たとえば、そもそも他者との関係に興味がない、あるいは興味があっても奇妙であるなど。
②コミュニケーションの障害
会話や意思の伝達が苦手、あるいはできない。
③想像力の障害
直接目に見えること、具体的に明言されたこと以外に気がつかない。たとえば、”場の空気”や、”暗黙の前提”がわからない。

これは、たいへんわかりやすい、優れたまとめ方です。ただし、この分け方は症状を現象レベルで分類したものですから、その限りにおいて有効性が主張されているのであって、必ずしも本質的なものが提起されているわけではないのです。

さらに詳しい内容例として、a) 宮尾益知監修の本、「ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場内での悩みと問題行動を解決しサポートする本」(2017年発行)の「基本的な特性-ASD=自閉症スペクトラム障害自閉症アスペルガー症候群)」における記述の一部(P10)以下に引用します。 b) 備瀬哲弘著の本、「発達障害でつまづく人、うまくいく人」(2011年発行)の 第2章 発達障害自閉症スペクトラム の『診断の基準は「三つ組みの障害」』項における記述の一部(P38~P41)を以下に引用します。ちなみに、『ウイングの「三つ組み」仮説』の引用の注意書きは、この引用の注意書きの一部に含まれます。加えて、この三つ組みの障害の全てに関連する、「交渉事が苦手」については、宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第1章 アスペルガー症候群とは? の「アスペルガー症候群の特徴」における記述の一部(P39~P40)を以下に引用します。

(前略)ASD=自閉症スペクトラム障害は、「社会的なやり取りの障害」「コミュニケーションの障害」「こだわり行動」という3つの特性(三つ組みの特性)を持っています。3つの特性があり知的な遅れや言葉の遅れのないASDは、アスペルガー症候群と呼ばれる場合があります。

ASDの基本的な3つの特性
1 人との関わり方が苦手(社会的なやり取りの障害)
・人と目を合わせない
・名前を呼ばれても反応しない
・相手や状況に合わせた行動が苦手
・自己主張が強く一方的な行動が目立つ

2 コミュニケーションの障害(コミュニケーションがうまくとれない)
・言葉のおくれ
・言われた言葉をそのまま繰り返す
・「いってらっしゃい」「ただいま」など方向性のある言葉をまちがう
・相手の表情から気持ちを読み取れない
・たとえ話を理解することが苦手

3 想像力が乏しい・こだわりがある(こだわり行動)
・言われたことを表面的に受け取りやすい
・自分だけのルールにこだわる
・決まった順序や道順にこだわる
・急に予定が変わるとパニックをおこす(後略)

注:引用部の表示形式は、引用者により変更しています。

診断の基準は「三つ組みの障害」(中略)

私が実際に患者さんを診る場合、イギリスの精神科医ローナ・ウィングが提唱した「三つ組みの障害」、すなわち、「社会性の障害、コミュニケーションの質的な障害、想像力のズレによる常同反復・こだわり」の三つがあるのか、それがあって、しかもそれによって社会生活に支障が出ているのかということを確認します。
この「三つ組みの障害」について、もう少しわかりやすく説明すると、以下のようになります。

(1)社会性の障害
仕事やプライベートで周囲の人と波長を合わせて行動したり、ルールを守ったり、マナーやエチケットに配慮したりすることに困難さが見られます。たとえば、次のような生活上の支障が出てきます。
・身だしなみや服装で注意を受けることがある
・「空気が読めない」と言われたり、明らかに不適切な発言をしたという反応を受ける
・自分の所属する組織や地域の「暗黙の了解」や、冠婚葬祭のマナーなどがわからない
・雑談や飲み会のどこがおもしろいのかわからない。その場にいると苦痛や不安を感じてしまう
・一つの仕事に集中しているときはいいのだが、二つ、三つと仕事が重なると、どう段取りしていいのかわからなくなってしまう

(2)コミュニケーションの質的な障害
その場に応じた表情や態度、言葉を使って他者とかかわり合うことが苦手です。中にはそういう場に置かれると、不安や恐怖を感じる人もいます。
・話している相手と視線を合わせられない
・相手の表情で、その気持ちを推し量ることができない
・言葉を文字通りそのまま真に受けることが多く、「冗談が通じない」とか「遠まわしな言い方が理解できない」と指摘されたりする
・「あなたはどう思う」と聞かれると、わけがわからなくなって頭が真っ白になる
・本音と建前を使い分けられないためウソがつけない。ついてもすぐにバレることが多い。頭に浮かんだことを口に出さずにいられないことがある

(3)想像力のズレによる常同反復・こだわり
ルールや規則を絶対と感じている自分という存在があるので、あいまいなことだらけの社会とうまくバランスをとるため、こだわった動き方をします。それが、周囲の人には不可解と映ったり、困った行動だという印象を与えます。また、特定のものへの強い興味や順番、位置へのこだわりがあります。たとえば、以下のようなことが見られます。
・物事や人には都合があって、突然、予定が変更になるということに納得できない
・通勤電車では、同じ車両の同じ場所に座れないと気持ちが悪い。そして、電車から降りるときは一番でないと気がすまない
・いったん好きなことをはじめると、明日の予定にかかわりなくやめられなくなる
・白紙の紙を渡されると、どこから文字をかいていいのかがわからない
・たとえやらないと自分にとって不利になることであっても、納得のいかないことはできない
・物事には決まったやり方あって、それを少しでもはずれると気に入らない

これが、ローナ・ウィングが提唱した「三つ組みの障害」と、診察の中で患者さんからよく聞く行動の特性です。発達障害の「主な三つの特徴」という意味で、「三主徴」と呼んでいます。
こうした三主徴があるからといっても、それだけですぐに発達障害という診断がくだるわけではありません。そうした行動特性があることで自分自身が非常に困っている人や、先述した医師のように、はからずも周りを振り回したり、場合によっては迷惑をかけているといった人が対象となります。

注:i) 一次情報における太字は本引用では反映されていません。 ii) 引用中の「先述した医師」に対する記述は同本の P23 にあります(引用はしません)。 iii) 引用中の「空気が読めない」に関連した「微妙な空気を読むことが困難」については、ここを参照して下さい。 iv) 引用中の「冗談が通じない」に関連した<「冗談やからかいが通じない」については、ここを参照して下さい。 v) 引用中の「二つ、三つと仕事が重なると、どう段取りしていいのかわからなくなってしまう」に関連した引用については、ここを参照して下さい。 vi) 引用中の『「暗黙の了解」(中略)がわからない』に関連した「暗黙や言外という概念の理解が困難」については、ここを参照して下さい。 vii) 引用中の『「あなたはどう思う」と聞かれると、わけがわからなくなって頭が真っ白になる』に関連した引用についてはここを参照して下さい。 viii) 引用中の「コミュニケーションの質的な障害」に関しては、リンク集(用語:「コミュニケーションの障害」)を参照して下さい。加えて、これに関連する女性のアスペルガー症候群における「ガールズトークができない」についてはここを参照して下さい。

アスペルガー症候群の特徴(中略)

交渉ごとが苦手です。交渉ごとは、相手の気持ち、立場などを想像して行うわけですから、社会性の障害、コミュニケーション能力の障害、想像力の欠如などがスムーズな人間関係をつくりにくくしています。自分がイニシアティブをとって交渉することはできますが、交渉時に、相手とどこかで折り合いをつけることは難しいと思います。(後略)

さらに、社会性関連の1つ、コミュニケーション関連の3つ及び想像力関連の1つの引用を以下に紹介します。最初に、社会性に関連して内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の「6章 反転しない世界」における記述の一部を(P99~P103)次に引用します。この引用には、「一方通行路」項を含み、主に「対人相互性の障害」とされるものとしての「自他未分」という共通の精神病理に由来する反転機構の不在について説明しています。

自他未分のなかにある ASD 者は,人との間で生きるにあたって,さまざまな困難を抱えることになる.定型者からみれば,いわゆる「対人相互性の障害」とされるものである.
この現象はさまざまな形で,広範囲にわたってみられるものであり,これから3章にわたって述べていく.いずれも「自他未分」という共通の精神病理に由来するものが,①反転機構の不在,②地続き性,③被影響性という三つの局面に分けて論じる.ただし,この区分は厳密なものではなく,相互に関連している.あくまで便宜的なものである.

一方通行路
ASD の世界では,自己と他者が明確に区分けされていない.こちらからのかかわりは,届かない.あるいは素通りしてゆく.ぶつかって跳ね返ってくるような,あるいはお互いにあいうつような反応がない.他方,彼らからみた世界は,どこまで行っても他者に突き当たらない.そこには,他者からの反響がない.他者の視点を得ることによって,世界が陰影のある立体的な像を結ぶこともない.

それに,視覚イメージはわざわざ目まで迎えに行かなければならなかった.映像の方から,私をめがけて飛び込んでくることはなかった.さらに,私の視覚は,大切なものを自動的により分けてくれるということがなかった.何もかもが無差別に,鮮明かつ克明に見えていた1.

「みる」という志向性が成り立つためには,それがどこかに突き当たり,跳ね返ってこなければならない.それを受けとめ,それに応答するものが必要なのである.
かりに「みる」という志向性が立ち上がりかけたとしても,ASD の無分節の世界のなかで,それはどこにも突き当たることなく,そのまなざしの萌芽は,その行程の途中で,自らを見失ってしまうことになる.この構造は,他者にその淵源をもつ反転機構が備わっていないことによる.それはまさに世界に「奥行き」を与えるものでもある.
反転機構の不在は,ASD において,いたるところに見出される.一般に「対人相互性の障害」と呼ばれるものの基本型がここにある.

こうした反転機構の不在や対人相互性の障害を,ミラー・ニューロンの働きと結び付ける議論があるが,端的に誤りである.ミラー・ニューロンとは,自分が活動するときと,他の個体が活動するのをみているときの双方で,活動電位を発生させる神経細胞である2.それに該当するのは模倣であり,反転でも相互性でもない.

たとえば,「ここ」と「そこ」,「行く」と「来る」がうまく判別できないようなことが起こる.志向性のベクトルがどちらを向いているかわからない.というより,志向性そのものに気づきにくいからである.それ以前に,「自分」という基点がはっきりしていない.それゆえ反転もできない.
ある専門医は,立て込んでいる外来で,初診の来訪者を呼び入れたところ,入室するなり「お待たせしました」と言った事例を紹介している.このように「したこと」と「されたこと」の区別がつきにくい.というより,繰り返しになるが,志向性そのものに気づかないのである.
たとえば相手を傷つけても何の呵責を感じない場合もあれば,迫害されて傷つかないこともある.第2章(p.29)では,弟に暴力を振るい続けていたことが,就職してからようやく「虐待」だったことに気づいてパニックに陥った例を示した.当時の彼は,いじめているという意識がまったくなかったのである.逆に,多くの自伝のなかで語られているように,いじめを受けても,なかなか相手の悪意を感じられないこともある.「与える」と「もらう」がわからないこともある.「もらう」がわからかということは,負債がわからないということである.相手に負担をかけていることがわからない.臨床場面では,何の躊躇もなく便宜を求め,それに応じると際限がなくなるというようなことが起こりえる.

vignette
21歳男性.専門学校生.体感異常を主訴に受診.いたるところに強迫的なこだわりを示す.こだわることが非合理(ばかばかしい)であるとか非現実的(度が過ぎている)という認識はなく,執拗に訴え続ける.だが,介入を求めているわけでもなければ,こちらの助言を聞き入れることもない.
他方で微細な処方の調整や,細々とした便宜を求め,混み合っているときでも,それにかまわず話し続ける.診療予約の入っていない日にもしばしば受診して,やはり長々と話していく.治療者からみれば,あえて臨時の診察を要するような内容ではない.
交友に乏しいわけではないようだが,話を聞いているかざり,おしなべて,「人は利用するもの」,あるいは「情報を得るためのもの」という原則で貫かれている.女性に対しては,性関係以外には関心がない.実家に住む母親には,ことあることに電話で不満をぶちまけるが,母親はおろおろとしながら応対するばかりである.診療で要求が通らないと,母親を呼び寄せ,自分の代わりに治療者に懇願させる.さほど豊かでもない収入から仕送りを捻出している父が,「規則正しい生活をする」ように求めると,煙たがり,「父は金を出していることを盾にとって命令する」と治療者に訴え,「僕の治療にそんなことは必要ないと伝えてほしい」と要求する.
その後,本人としては不本意に思う企業ではあったが,就職を果たした.診療では,いかに仕事の内容や上司がくだらないかを滔々と語った.ただ,「対外的にイメージがよい会社なので 女をゲットするのには都合がよい」と臆面もなく述べ,さらに,「給料で物が自由に買えるのもメリットである」と言いながら,購入したブランド品を取り出した.いささか辟易とした治療者が「お母さんには何を買ってあげた?」と聞くと,「えっ?」と言うなりのけぞって,しばし絶句した.

定型者との間では自明のものである診療の枠組みが,ASD 者との間では共有されないことがある.定型者の場合,枠を侵犯しても,どこかでそれを自覚しており,そのことがこちらにも伝わってくる.だが彼のようなタイプの ASD 者の場合,普段のやり方がそのまま診療の場にもち込まれる.あまりにも平然としているので,手をこまねいているうちに,みるまに場が侵食されていく.
治療構造は患者のコントロール下におかれ,治療者は下僕のように,あるいは物のように扱われているような気持ちにさせられる.いや,物のように,であるとか、下僕のように,ではない.まさに物となり,下僕になる.実際にこうした関係になると,怖じ気がくるほどに,侵害された気持ちになる.
ただし,当の本人には,支配しているという意識はない.治療構造を侵食している自覚もなく,当然のことをしているまでである.あらたまって,彼に悪意があるのかと自問してみると,そうではないことに気づかされる.

たとえば上記の青年は,一方的で,治療者の指示や助言を受け付けない受療態度が続いたため,指摘したところ,にわかに泣き始めた.そして,自分は先生に診察で言われたことを,家に帰ったらすぐに書きとめ,ことあるごとに見返しているのだと,鞄からノートを取り出してみせた.(後略)

注:i) 引用中の強調は本エントリ作者により省略しています。 ii) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 iii) 引用中の文献番号「1」は次の本からの参照です。 「Gerland, G. : A Real Person : Life on the outside. Souvenir Press, London, 1997, p.65(ニキリンコ訳『ずっと「普通」になりたかった』花風社,2000,p.70)」 iv) 引用中の文献番号「2」は次の論文です。 「The mirror-neuron system.

加えて、コミュニケーション関連として金沢大学子どものこころの発達研究センター監修、竹内慶至編の本、「自閉症という謎に迫る 研究最前線報告」(2013年発行)の 第1章 自閉症は治るか――精神医学からのアプローチ(著者:棟居俊夫) の「落語と自閉症」における記述(P27~P32)から一部を次に3つ引用します。ただし、これら以外にも注として、内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」からの引用が風数あります。

(その1)

・字義に拘泥すると(中略)

言語の意味の字義拘泥は、自閉症が初めて学会に報告された時以来の、代表的な自閉的言語特徴だ。小学五年生の時にアスペルガー障害と診断された男子高校生と父親との、朝の洗面所での会話を例に挙げよう。この高校生は髪に寝癖がつきやすく、朝、鏡の前で髪をなんとか撫でつけようと苦戦中。それを見た父親が、整髪料スプレーを手にもって彼に話しかける。
父「手伸ばせ」
男子 両手で万歳する
父「こんなこともわからんのか?」
「手伸ばせ」は、手を伸ばしてスプレーに近づけ、父親が整髪用のムースを出すのを手のひらで受け止めなさい、という文字どおりでない意味を含んでいる。(後略)

注:引用中の「字義に拘泥」に関連する「自閉症の人の認知特性を象徴する、有名な日常生活の中でのエピソード」については、ここを参照して下さい。加えて、内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の 10章 ことばの発生 の「ASD は言葉を道具として用いている」における記述の一部(P179~P181)、及び同本の 1章 「心の理論」のどこがまちがっているのか? の『「心の理論」による代償』における記述の一部(P22~P23)をそれぞれ以下に引用します。前者より後者の方が会話の文脈がより複雑になっており、後者は直観の欠如を推論によって補うことの男女間での違いについても言及しています。

ASD は言葉を道具として用いている(中略)

「お塩とれる?」
「とれるよ」3

「お電話番号をうかがってもいいですか?」
「いいです」4

これは通常「字義通り性 literacy」と呼ばれる ASD に典型的にみられる言語性の病理である.「お塩とれる?」という問いかけは,あなたの手元付近にある塩の入った入れ物をとって,私に渡して下さい」という依頼である.「お電話番号をうかがってもいいですか?」とは,「あなたの電話番号を教えてください」という要望であり,状況によっては,相手が自分を受け容れてくれるかどうかをテスティングしている場合もあるだろう.(後略)

注:引用中の文献番号「3」、「4」はそれぞれ次の本からの参照です。 【Frith, U. : Autism Explaining the Enigma, 2nd edition, Blackwell, 2003, p.119(冨田真紀、清水康夫、鈴木玲子訳『自閉症の謎を解き明かす』東京書籍,2009, p.230)】、【Gerland, G. : A Real Person : Life on the outside. Souvenir Press, London, 1997, p.172(ニキ・リンコ訳『ずっと「普通」になりたかった』花風社,2000, p.186)】

「心の理論」による代償(中略)

直観の欠如を推論によって補うことについては,男女の間で大きな違いがある.代償がより活発で,実効性をもつのは女性の方である.(中略)

男性 ASD の場合は,全般にこの代償に乏しい.それゆえ病理がそのまま露呈される.あるいは代償の仕方が不器用で,かえって病理が目立つこともある.
このように,代償機能については性差が著明に出る.とくに男性治療者が女性 ASD をみるときには,心の直観の欠如に気づかないことが多い.ただし,性差はあくまで程度の差である.

vignette
32歳女性.つきあっていた男性が,彼女に対して引き気味になっていることは,周囲の目にも明らかだったが,そのことに彼女は一向に気づかず,頻繁にメールを送り続けていた.返信がないことをなじると,男性は「ゴミ箱に入っていたみたい」と答えた.
彼女はにわかに激昂し,男性は震え上がったが,次の瞬間,彼女の口からついて出たのは,「どうしてすぐにサーバーやメールソフトの会社に連絡して修復しないの!」という非難だった.男性が「僕,PC に弱いから」と弁解すると,「それなら私がやってあげる」と申し出た.男性が謝絶すると,今後は自分の送るメールのタイトルの後に番号をふって,ロストしたらわかるようにすると提案した.

彼女が激昂したのは,男性が自分から引いていることを感じたからではない.そうした直観は働いていない.また,「ゴミ箱に入っていたみたい」という男性の応答の,言外に含まれている意味を感じ取ったわけでもない.言葉は字義通りに受けとめられている.そして,メールをロストしたままにしているという不合理をとがめだてているのである.その際,メールは彼女の送ったものだけが対象になっているわけではない.男性が受け取るもの全般を指している.こうした事態を放置しているのは,彼女の推論(=心の理論)ではありえない行動なのである.
ここで 女性は彼女なりの「心の理論」を投入している.メールがロストした人はどう振舞うのかという推論から,相手が非合理な行動をとっているという結論を導き出している.あるいはまだその手前にいるかもしれない.つまり自他の区別がまだついていない可能性はある.(後略)

注:i) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 ii) 引用中及び標記「心の理論」は共に次のWEBページを参照して下さい。 「心の理論 - 脳科学辞典」 iii) 引用中の「直観」とは、直接に対象をとらえる認識能力であり、推論を介することのない、ダイレクトな認識のことのようです。 iv) 引用中の「自他未分」はリンク集を参照して下さい。

(その2)

・会話の協力に苦労(中略)

会話の協力に苦労し、相手に十分な情報を与えないために相互理解に手間取るということは自閉症ではしばしば起きる。アスペルガー障害と診断されたばかりの東京在住の30代の女性。能登半島を観光で訪れるのに、能登空港に着陸した直後筆者にメールしてきた。いわく、
女性「能登にきた。東京とあまり変わらないね」
筆者「空港だけだ。昼間クルマで走ったら仰天するぞ。人がほとんどいない。あるのは道路だけだ」(注:筆者は能登のやさしい風土が大変好きです)
女性「温度のことだよ……」
筆者も早とちりだが、まさか、気温のことを言っているとは思わなかった。これが「思ったよりも寒くない。東京とあまり変わらないね」と書いてきてくれれば誤解せずにすんだ。メッセージの受け手に十分な情報をこの女性は与えていない。
彼女は温度・湿度・気圧に非常に敏感で、デジタルの小型の湿度温度計を持ち歩いている。訪れた場所の温度は彼女には最重要項目の一つなのだ。筆者はそんな話とはまったく思わなかった。(後略)

(その3)

・状況を文脈と関連づけれない(中略)

やはり筆者の知り合いで、アスペルガー障害と診断されたばかりの20代の女性。クルマで高速道路を走っているときに、「長い下り坂(改行)2キロ減速」という看板の意味をどう理解したか聞いた。彼女は「速度を2キロ落として走ると思った」と答えた。
看板の書き手は、見る人が2キロを坂の長さに関連づけることを期待している。彼女はペーパードライバーで高速の運転経験は教習所のときだけだ。減速2キロというのが非現実的な選択で、安全な下り坂走行にはならないことを推定できなかったのだろう。(後略)

さらに想像力の関連として内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の 5章 現前の呪縛-想像力の問題 の「みえているのがすべて」における記述の一部(P84~P85)を次に引用します。

(前略)ASD の体験世界には,そこにみえているもの以上のものがない.それで飽和してしまっている.その結果,向こう側や手前,あるいは死角になっているところに想像が及ばない.
目の前のこと(=現前)にはりついていることの,もっとも劇的な例として,ニキ・リンコの例が挙げられる.彼女は八歳になるまで自分には背中がないと思っていたという.

グニラが「向こう側」「内部」を発見したのと同じ八歳のとき,私は自分の「裏側」,つまり背中を発見したのでした.それは同時に,自分はみんなと同じことができなければならないらしいという発見でもありました4.

みえているもので経験が飽和するとき,そこには余白がない.余白がないがゆえに,今見えている視覚像を組み替えて操作することができない.ここに ASD の基本障害の一つとされる想像力の問題の基本パターンがある.
想像力の障害は,ローナ・ウィングの「三つ組」の一角をなしている.あらためて確認すると,社会的相互作用 social interaction(対人相互性),コミュニケーション Communication,想像力 imagination の障害である5.このなかで一番わかりにくいのが「想像力の障害」だろう.通常は,限定された物への執着,常同的な行動,変化への抵抗などの,いわゆる「こだわり」の強さのことだとされている.
ウィング自身も,想像力の障害とこだわりとは表裏一体であるという.想像が狭くて貧困なことが,こだわりの強さにつながると考えている.
ウィングは,最近の論文のなかで,三つ組のすべてに「社会的」という形容詞をつけている.社会的相互作用,社会的コミュニケーション,社会的想像力のトリアス(三徴)である6.その際,社会的想像力の障害とは,自分自身の行動が自分自身や他者にもたらす結果について考えたり予測したりする能力の低さのことを指す.
だが,こだわりにせよ,行動の結果の予測にせよ,目につきやすい指標として有用ではあっても,それらは ASD の示す想像力の障害の一部にすぎない.この障害のもっとも根底にあるのは,ここに示したように,経験が目の前にあるもので飽和してしまうこと,そして余白のないことである.

注:i) 引用中の強調は本エントリ作者により省略しています。 ii) 引用中の文献番号「4」は、次の本からの参照です。 「ニキ・リンコ:訳者あとがき.グニラ・ガーランド『ずっと「普通」になりたかった』ニキ・リンコ訳,花風社,2000,p.282」 iii) 引用中の文献番号「5」、「6」はそれぞれ次の論文です。 「Asperger's syndrome: a clinical account.」、「Autism spectrum disorders in the DSM-V: better or worse than the DSM-IV?

一方、本田秀夫医師によるツイッター及び自閉症スペクトラムに関するWEBサイトを以下に示します。「hihojan10 」、「自著とその周辺 自閉症スペクトラム」、「自閉症スペクトラムの理解と支援」。さらに、「発達障害とは―大人の発達障害、検査・診断はどのように行うのか」。このサイトの中の次のWEBページ(「自閉症スペクトラムとは―特徴と症状、どんな人が当てはまるのか?」)では次に引用するように、自閉症スペクトラムの特徴が簡易に説明されています。さらに、本田秀夫医師によるADHDに関する資料は※1に含まれています。

自閉症スペクトラム」とは「臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心・やり方・ペースの維持を最優先させたいという本能的志向が強いこと」を特徴とする発達障害の一種です。「少し変わった人」程度で済んで、問題なく日常生活を送れることも十分にあります。

イメージとしては「融通がきかない」「少しだけこだわりが強い」というものです。ポジティブな方向にいけば、「ブレずに自分のペースをきちんと守り、コツコツがんばり続けること」ができる人になります。しかし、不適切な環境におかれてしまうと日常生活に様々な障害を及ぼしてしまうことがあります。

注:i) 引用中の『「自閉症スペクトラム」』と自閉スペクトラム症とでは意味が異なるかもしれません? 専門用語が統一されていなく、紛らわしいのは困ります。 ii) 本田秀夫医師による著作本の引用例はここ及びここを参照して下さい。 iii) さらに、本田秀夫医師監修の本の紹介はここを参照して下さい。この本は、アスペルガー症候群自閉スペクトラム症アスペルガータイプ)の症状の一部にしか該当しないものの「臨機応変な対人関係が苦手」という特性のみが目立って「ソーシャルコミュニケ―ション障害」※2と診断された著者の手記のようです。

ちなみに、加藤進昌著の本、『ササッとわかる「大人のアスペルガー症候群」との接し方』(2009年発行)の『アスペルガー症候群の人は「病気」?それとも「個性」?』における記述の一部(P84)を次に引用します。

アスペルガー症候群の特性である「がんこ」「こだわりがある」「空気が読めない」「反復的な作業が得意」「記憶力がいい」「仲間と群れない」といった症状は、個性的な性格傾向ということもできます。

注:i) 引用中の「空気が読めない」に関連する「微妙な空気を読むことが困難」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「こだわりがある」に関連するかもしれない「細かなことに著しくこだわる」についてはここを参照して下さい。

さらに、不器用さ、姿勢の悪さ、運動学習の障害について、米田衆介の本、「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 第二章 アスペルガー障害の本質 の「運動制御関連特性群」項における記述の一部(P87~P88)及び同本の 第五章 さまざまな不適応とその対策 の「身体的な不器用さの問題による不器用」項における記述の一部(P190)をそれぞれ以下に引用します。

運動制御関連特性群

アスペルガ―者の間で、不器用さ、姿勢の悪さ、運動学習の障害が認められることは、よく知られています。
臨床的には、とくに動作や姿勢の保持にともなって、脱力することの難しさが観察されます。検者(検査する人)がアスペルガ―者の関節部分を持って動かしたり、あるいは患者の手先を持って支えた状態から上肢を落下させて、そのときの筋肉の状態を見ると、筋肉の緊張が取れにくいことがわかります。また、片足立ちのようなバランス動作も苦手であることが見られます。平均台のような動的バランスよりも、止まったまま片足立ちをするような静的なバランス動作のほうが苦手なようです。
以前、診療所の患者さんに、太極拳の動作を模倣してもらったことがありますが、一連の新しい動作を連続してまねをすることには困難があるようです。片腕だけだとか、足だけとか、一つ一つの動作を模倣することはできますが、全身の動きがバラバラで、関節ごとの相対的な位置関係を正確に把握できる例がごく少数です。まして、動的なバランスのなかで、柔らかい動きをするような動作は困難です。

身体的な不器用さの問題による不器用

意味も手順もわかっていて、体が動かないケースもあります。だいたいアスペルガー者の八割か九割は、少なくとも体育が苦手であったか、手先が不器用であるかのどちらかです。もちろん、その両方の場合もあります。「発達性協調運動障害」というのは、体を器用に使って、全身的に協調のとれた滑らかな動作をする能力が生まれつき欠けている状態ですが、アスペルガー者には、この発達性協調運動障害に近い症状が伴われていることが多いのです。
ただし、身体的には不器用であっても、通常は単一のスキルに関しては、通常より多い量の訓練を課すことによって、多少の改善が見られます。たとえば、初めは泳げなくても、長い期間水泳の練習ばかりをしていると、さすがに初心者よりは上手に泳げるようになる、というようなことです。(後略)

注:引用中の「発達性協調運動障害」(発達性協調運動症)は、自閉スペクトラム症とは独立したものです。ただし、両者は発達障害(神経発達症群)に含まれます。次の pdfファイルの DSM-5 における診断名を参照して下さい。 「第1章 発達障害を理解しよう 」 ちなみに、子どもに関する記述が中心ですが、広汎性発達障害における運動発達遅滞に関連する pdfファイルを次に紹介します。 「運動発達遅滞を主訴に来院した広汎性発達障害」 加えて、a) 上記「発達性協調運動障害」に関連する(例えば症状の一部が重なる)、(アスペルガー者における)「協調運動の障害」を含む引用は、ここを参照して下さい。 b) 上記「発達性協調運動障害」について、花園大学心理カウンセリングセンター監修、橋本和明編の本、「発達障害との出会い」(2009年発行)より、田中康雄著の「第1講 発達障害を支援するコツ」の「発達障害の特性を知る」項における記述の一部(P17)を次に引用します。

<発達性協調運動障害>は、運動面の不器用さのことです。幼稚園の頃に、右手と右足が同時に出てしまう、三輪車がこげない、小学校に上がると、縄跳びができない、跳び箱、逆上がりもできない、コンパスがうまく使えない、リコーダーがうまく吹けない、といったような子どもたちです。

ちなみに、ASDは大きく次の3つのタイプに分類できます。この分類について、宮尾益知監修の本、「ASD(アスペルガ―症候群)、ADHD、LD 女性の発達障害 女性の悩みと問題行動をサポートする本」(2017年発行)の「女性の発達障害は、気づかれにくい!?」における記述の一部(P10)を次に引用します。加えて、さらに詳細には、備瀬哲弘著の本、「発達障害でつまづく人、うまくいく人」(2011年発行)の 第7章 「性格の偏り」のため、さらに生きづらくなっている人たち の「アスペルガー症候群の三つの性格タイプ」における記述の一部(P149~P150)を次に引用します。

女性の発達障害は、気づかれにくい!?(中略)

例えばASD(アスペルガー症候群)には、大きく3つのタイプに分けることができます。
1●積極奇異型
知らない人にも平気で話しかけたり、なれなれしく接したりする。
2●受身型
自分から積極的に接触を図ろうとしないが、誘われれば付き合うタイプ。女性に多いといわれています。
3●孤立型
他人と話したり関わったりすることに苦痛を感じ一人でいることを好む。
一般的に子どものときは1のタイプが多く、思春期から大人になるにつれて2や3のタイプに性格が変化していくケースがあります。女性の場合は、小学校中学年ぐらいから2や3のタイプに性格が変化していくケースが多いといわれています。女性の場合は、子どもの時から特性による問題行動が少ないこともあり、周囲からなかなか気づいてもらえず、「生きづらさ」を感じている場合が多いのです。

アスペルガー症候群の三つの性格タイプ(中略)

ローナ・ウィングはアスペルガー症候群の性格傾向を「積極奇異型」、「受動型」、「孤立型」と三つに分類して、同じアスペルガー症候群であっても、人当たりについては大きな違いがあると述べているのです。
「積極奇異型」というのは、人付き合いを自分から積極的に求めて動きます。相手に対する関心や興味がとても高いので、納得がいくまで人にあれこれ質問をしたり、根堀り葉堀り相手のことを聞いたりします。
初対面の人やまだ親密ではない人に対して、相手のプライベートな部分に土足で踏み込んでいくようなことはしないのが、社会人としての暗黙の了解です。ところが、このタイプの人は、相手の領域に踏み込みすぎるところがあって、その結果、人からは「変わっている」とか「うるさい」などという評価を受けてしまいます。
その経験から、人に対して否定的で対立的な態度を取るようになっていきます。(中略)あるいは、本来は積極奇異型であった人も、小さい頃から人間関係でネガティブな評価を受け続けてきたため、人付き合いには興味があっても、あまり自分から求めなくなるといった人も出てきます。
「受身型」は、発達障害の典型的なタイプですが、人付き合いにはもともと積極的ではありません。ただ、求められると穏やかに人と接します。いつもニコニコしておとなしい印象で、周りから浮いているというより、一人でぽつんといて、あまり目立たないというような評価を受けることが多いようです。(中略)
「孤立型」というのは、そもそも人付き合いが苦手で、求められても応じない傾向があります。そのため、周りの人を拒絶しているような印象を持たれますが、ただ本人としては、一人でマイペースに過ごすことを好んでいるだけなのです。(後略)

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(b)発達凸凹

発達凸凹の定義については、例えば、次の pdfファイル「発達障害 発達凸凹 こんな力を持っています」の「発達凸凹について」項を参照して下さい。さらに、名付け親の杉山登志郎著の本、「発達障害のいま」(2011年発行)の 第二章 発達凸凹とは の「発達障害はマイナスとは限らない」項における一部の文章(P62~P63)を次に引用します。

さらにこの発達凸凹が「マイナスとは限らない」という問題である。最近になって、偉人や天才として顕彰されたきた人のなかに、とくに自閉症スペクトラムと考えられる人が数多く存在するという指摘がなされるようになった。発達凸凹という視点から見れば、むしろ多くの優秀な人々がさまざまな凸凹を有していることも明らかである。

ちなみに、i) 発達凸凹を図を使用して説明すると、例えば、次の pdfファイル「発達障害から発達凸凹へ」の図1(P12)を参照して下さい。 ii) 発達凸凹と類似な用語として、本田秀夫医師(ここ参照)は「非障害自閉症スペクトラム」を提唱しています。

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(c)二次障害

先ず、発達障害における二次障害の説明として、黒木俊秀編著の本、「発達障害の疑問に答える」(2015年発行)の 第2章 検診や診断・治療はどうなっていますか の「COLUMN 二次障害って何ですか?」における記述の一部(P83~P84)を次に引用します。

基本の発達障害に合併する、あるいは続発する情緒や行動の障害を「二次障害」と呼びます。時には、二次障害として、もう一つ、精神疾患の診断がつけられ、専門的な治療の対象となることもあります。(中略)

集団生活のなかで浮いた存在になってしまい、いじめを受けた結果、ひどいトラウマを抱える子どももいます。何年も前の辛いいじめの記憶が、今日のことのように蘇り(フラッシュバック体験)、そのたびに混乱する発達障害の大人もいます。医学的な病態はまだよく解明されていないのですが、過敏性腸症候群摂食障害などの心身症も、発達障害には合併しやすいと言われています。

なぜ二次障害に注意しておきたいかというと、本来の発達障害よりも二次障害のほうが社会生活を送る上では大きな困難を来しやすいからです。二次障害(うつ病やパニック症/パニック障害など)の症状が現れて初めて、支援(医療)機関にアクセスする場合も少なくありません。治療の難しい精神疾患(二次障害)の基礎に発達障害(基本障害)が隠れていることもあります。(後略)

注:i) この引用の著者は黒木俊秀です。 ii) 引用中の「心身症」に関しては身体症状を、「トラウマ」に関しては他の拙エントリのリンク集[用語:「トラウマ」]を、「フラッシュバック体験」に関しては他の拙エントリのリンク集[用語:「フラッシュバック」又は「タイムスリップ現象」*24]をそれぞれ参照して下さい。 iii) 引用中の「摂食障害」及び「うつ病」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 iv) ちなみに、この引用においては直接的な言及はありませんが、「時間単位の気分変動」については、他の拙エントリの「ここ」を、「ムードスウィング(軽いがサイクルの早い躁うつ様の気分の波)」については、他の拙エントリのここをそれぞれ参照して下さい。

この二次障害(併存症、合併症)は多種多様で、本エントリにおいては一定程度のまとめには至っていませんが、暫定的に以下に複数示します。 i) pdfファイル「児童青年精神医学入門 その2:発達障害 その1」の「知的な遅れの無いASDの併存症」、「ASDの併存症は多い」及び「気分障害とHFPDD」シートを参照して下さい。 ii) 米田衆介著の本、「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 「精神疾患との関係」項における記述の一部(P139)を以下に引用します。 iii) ちなみに、第四の発達障害(発達性トラウマ症候群)については他の拙エントリの≪補足説明3≫を参照して下さい。

精神疾患との関係(中略)

一つ一つの精神疾患について解説するときりがありませんが、この他にも、「パニック障害」「社会不安障害」などの合併もあります。こうした症状も、社会適応をめざすうえでは、困難の原因となります。

注:i) 以上で示した二次障害の一部に対する説明用のリンクは他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 ii) 引用中の「気分障害」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ただし、気分障害は用語「うつ病」又は用語「双極性障害」に相当します[気分障害うつ病等と双極性障害等の総称ですが、現在(DSM-5)では両者は分離されています]。

ちなみに、ADHDにおける二次障害(併存障害)についてはここを参照して下さい。

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(d)自己理解

[1] 佐々木正美総監修、梅永雄二監修の本、「完全図解 アスペルガー症候群」(2011年発行)の「本人の気持ち 成人では、わかってホッとする人も」における記述の一部(P213)を次に引用します。

自己理解が欠かせない
アスペルガー症候群の人が豊かな生活を送るためには、自己理解が欠かせません。自分のもつ特性を理解することで、それまで傷つけられてきた自尊感情が回復しはじめます。そして、必要な支援を理解することもできます。

[2] 杉山登志郎著の本、「発達障害の子どもたち」(2007年発行)の 第五章 アスペルガー問題 の「一八歳以上の発達障害」項における記述の一部(P120~P121)を次に引用します。

『成人の発達障害の方への対応のコツについても触れておきたい。今、あちらこちらから悲鳴が上がっているのを聞くからである。発達障害の治療においてもっとも必要なことは、障害に関する正確な知識を提供し、新たな自己認識を手助けすることであると思う。成人になって初めて診断を受けた事例を見ると、「よくここまで何もなく……」という不適応事例と、無駄に年を取っていないと実感させられる適応事例とに二分できる。
不適応事例はほとんどがうつ病など併発症を持ち、被害的な対人関係を抱える事例も多い。このような事例では、障害の診断に対する受け入れは速やかである者が多い。ほぼすべてが目から鱗という感じで自己のハンディキャップについて納得をされる。つまり自己自身との関係修復は比較的容易である。
ところが、他者との関係の修復には困難がつきまとう。その理由は、他者との関係においては過去の現実に生じた迫害体験から容易にタイムスリップが起きてしまい、修正がなかなかできないからではないかと思う。さらに適応事例といえども強い生きにくさを覚えており、診断を受けたことで初めて自分とのそして他者との適切な付き合い方を知ったと述べる方が大半である。前章で述べたように、この方々は、認知の穴をたくさん持っている。一見不思議な判断や行動はほとんどが誤解か、誤った学習の結果である。それらに対する修正をかなり指示的に、繰り返していくことで適応はずいぶんと向上するのである。

注:i) 引用中の「タイムスリップ」については、を参照して下さい。 ii) 引用中の「認知の穴」については、認知の穴を参照して下さい。 iii) 引用中の「誤解か、誤った学習」に似た「誤学習」についてはリンク集(4)を参照して下さい。

[3] 杉山登志郎著の本、「発達障害のいま」(2011年発行)の 第九章 未診断の発達障害、発達凸凹への対応 の『「大人の発達障害」になる前に』項における記述の一部(P223)を次に引用します。

それではこのグループが、社会的に問題がなければ何もないのだろうか。
いくつか気をつけておくべきことはある。キーワードは代償である。つまり凸凹レベルであっても、凸凹レベルであればなおさらのこと、健常と呼ばれている人々とは異なった戦略で、いわば脳のなかにバイパスを作って、適応を計るということをおこなっている。
このときにしばしば誤学習が入り込み、本人はそれに気づかないといったことが実にしばしば起こる。単純な例を挙げれば、人に評価されるためには目立つのが良いことと、無理して役職に立候補しまくって、逆に顰蹙を買うといった例である。
本人が普通の生活をしている上で、マイナス面に対する多くの補いを、意識、無意識におこなっているので、どうしても無理がかかりやすい。したがって、正面からこのような谷間の部分を認識することは非常に大切になる。孫子の兵法にもあるではないか、彼を知り己を知れば百戦危うからずと。この場合、難しいのはもちろん己を知ることなのだ。

注:i) 引用中の「このグループ」とは発達凸凹のことのようです。 ii) 引用中の「誤学習」についてはリンク集(4)を参照して下さい。

[4] 備瀬哲弘著の本、「発達障害でつまづく人、うまくいく人」(2011年発行)の 第9章 発達障害とうまく付き合うために自分でできること の「発達障害は発達して変わっていく」項における記述の一部(P182~P183)を次に引用します。

前述したように、私のクリニックでは職場でのトラブルがほとんどないという人が半分以上います。トラブルがほとんどない人がどのように社会生活を送っているかということはとても興味深いことです。どうやら知的に高い人は自分で工夫されて、本人なりのマニュアルがあって、それを適時使いながら、知的な部分で補えているところがあるようです。
そこで、うまくいっている人とうまくいっていない人との差は何だろうなと見てみると、まずは周りの人に理解があることが前提になりますが、本人が認識してどのように工夫しているかということが大きいようです。今後、それを私のクリニックのプログラムに落とし込めたら、私たちも希望を持って診療に当たれるかなと思っています。
神田橋條治先生は、「発達障害は治らないけど、発達して変わっていくから、悲観するなよ」という主旨のことをおっしゃっていて、実際に診ていると、本人が職場や生活上の工夫するポイントなどを絞って実行していけば、時間とともに混乱もなくなり対処していけるようになります。

注:ちなみに引用しませんが、この章では発達障害とうまく付き合うために自分でできることが(項目名)「生活のリズムを崩さない」、「リラックス時間をつくる」をはじめとして具体的に記述されています。

[5] 田中康雄、笹森理絵著の本、『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(2014年発行)の 第1章 「大人の発達障害」の正体 の「偉業を成し遂げた人に発達障害は多い」項における記述の一部(P49)を次に引用します。

発達障害を持つ人が社会でよりよく生きるためには、自分の特性を理解し、その対処法や生活の工夫に目を向けることが第一になります。自分ひとりで生活改善が進まなければ、周囲の人たちに手伝ってもらうこともできます。

注:i) この引用部の著者は田中康雄です。 ii) ちなみに引用しませんが、同本の第2章、第3章に発達系の課題を持つ人の特性と生きづらさの解消法について記述されています。

ちなみに、ADHDにおける自己理解についてはここを参照して下さい。

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(e)女性のアスペルガー症候群

他の拙エントリにおける引用の「疫学」項にも示したように、MCSは女性に多く発症するとされることも考慮して、本項では女性のアスペルガー症候群に関する引用又はリンクをまとめて紹介します。

[1] 宮尾益知監修の本、「女性のアスペルガー症候群」(2015年発行)からの複数の引用を含む記述を以下に示します。ちなみに、この本の内容構成は、「第1章 女性はなにより人間関係に悩む」、「第2章 体調不良のひどさにも困っている」、「第3章 どこで診断・治療を受けられるか」、「第4章 今日からできる生活面の対策」、「第5章 さけては通れない、性の問題」 です*25

本の「巻頭チェック」における記述の一部(P6)を次に引用します。

近年、アスペルガー症候群がよく知られるようになりました。しかし、みなさんが知っていることは、じつはほとんどが男性のアスペルガー症候群の情報です。女性の場合は悩みごとも対応法も男性と異なるのですが、それはあまり知られていません。

本の『よくある悩み 「ガールズトーク」についていけない』における記述の一部(P14)を次に引用します。

アスペルガー症候群の女性の悩みとしてもっとも多いのが、「ガールズトーク」ができない、楽しめないということです。

注:i) 引用中の『「ガールズトーク」ができない』に関連するWEBページを次に紹介します。『「ガールズトークが苦手」女性のアスペルガー症候群 複雑な悩み』 ii) 引用中の『「ガールズトーク」ができない』に関連する『「ガールズトーク」の会話についていけない』について、宮尾益知監修の本、「ASD(アスペルガ―症候群)、ADHD、LD 女性の発達障害 女性の悩みと問題行動をサポートする本」(2017年発行)の 第4章 成長とともに大きくなる人間関係の悩みと対策 の「思春期前後に複雑になる人間関係をひきずる」における記述の一部を以下に引用します。加えて、引用中の『「ガールズトーク」ができない』に関連するかもしれない a) 「他愛もない会話といったことがとても苦痛」について、福西勇夫、福西朱美著の本、「マンガでわかるアスペルガ―症候群の人とのコミュニケーションガイド」(2016年発行)の「コラム 女性のアスペルガー症候群患者はとくに苦労している?」における記述の一部(P76)を以下に引用します。

思春期前後に複雑になる人間関係をひきずる(中略)

発達障害の女の子が感じる思春期の劣等感(中略)

特に女の子は、この年頃になると同性だけの仲の良いグループができて、一緒に行動をすることが多くなります。女の子特有のグループ内だけに通じる「ガールズトーク」が盛んに行われるようになります。「ガールズトーク」は、授業や家族同士の会話とは違い、さまざまな話題が目まぐるしく変わります。
特性のある女の子の場合は、会話についていけなかったり、グループ内の一体感を求められることに違和感を感じて、他の子どもとの違いを認識し始めることも多いようです。(後略)

注:引用中の「この年頃」は「思春期前後」との意味のようです。

女性のアスペルガー症候群患者はとくに苦労している?(中略)

一般的には、女性は男性に比べて、雰囲気や共感、婉曲な言い回しなど、アスペルガー症候群の人が苦手とするコミュニケーションを多用する傾向にあります。こうした傾向の強いグループでは、アスペルガー症候群の人は、他愛もない会話といったことがとても苦痛であり、グループの中で浮いた存在になってしまいがちです。ともすると余計なひと言が原因で敬遠されてしまうこともあります。
聴き役に徹するようにするなど、苦労して適応しているという方もいらっしゃいます。
ところが男性とのコミュニケーションではそれほど気を使わずに済み、話が通ることも多く、精神的に楽になります。
また相手が女性の場合でも、はっきりした裏表のないコミュニケーションを好む相手の場合は、同様に居心地はそう悪くありません。

一方「ガールズトーク」に関連して、職場におけるコミュニケーションが苦手の視点から、宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第6章 女性の社員がアスペルガーだと思ったら の「ASDの女性はコミュニケーションが苦手」項における記述の一部(P164~P166)及び備瀬哲弘著、「大人の発達障害 アスペルガー症候群、AD/HD、自閉症が楽になる本」(2009年発行)の 第2章 発達障害の3つの特徴 の「CASE1」項における記述の一部(P44~47)をそれぞれ以下に引用します。

ASDの女性はコミュニケーションが苦手

仕事でも人間関係でも、職場で重要なのはコミュニケーションです。女性はこの能力がおしなべて高い傾向があります。またパーソナリティの評価から仕事の評価まで、コミュニケーションの能力が重視されるので、この能力が低い女性は職場の評価が一気に下がり、社内での居場所を失くしていきます。実は、ASDの女性にはそこに大きな問題があります。
コミュニケーションの問題とは、他者の意図を理解することが苦手ということです。(中略)それほど敵対的な人間観ができあがっていない人の場合には、「会話を楽しめない」「受け答えが人より遅い」「女性のグループに属せない」などになります。
恋愛やファッションの話題は女性同士の人間関係の潤滑油になります。しかし、ASDの女性は他の女性と一緒になって同じように盛り上がることが苦手です。
そもそも会話をするということは、男女にかぎらず、一つの話題を通してセルフプレゼンテーションを行い、同時にその話題に共感してもらうことです。そこにはお互いを理解しあい関係性を構築していくという目的が潜んでいます。そのように、明確な目的を持って行われる話し合いではなく、他愛のないおしゃべりであっても、それを通してお互いに関係性を築いていくのです。他愛のないおしゃべりのような会話は、結論や意見を求めているのではなく、共感や同調を求めます。そのような会話を通して、全体の空気(会社や職場、学校や友だちなどのグループ)への参加ができるのです。
ところが、ASDの女性は他愛のないさまざまな話についていくことができず、会話が弾まないのです。興味のある話題以外はなにを話されているのかイメージできず、想像することに負荷がかかりどんどんつまらなく感じます。話の内容がまったくわからず苦痛を感じます。礼儀として話を聞くことはできますが、興味が持てず、自分の興味との共通点も見つからないので話についていけません。
会話の流れにそって受け答えすることはできますが、非言語的な(うなずく、アイコンタクトなど)情報のやりとりも苦手なので、本当に理解しているというメッセージを発することができません。また、受け答えのスピードも遅いため、会話が弾まないのです。(後略)

CASE1 他人との雑談が苦痛だという驚くほど無口な女性事務員(良美さん、29歳、事務職)

「他人との雑談が苦痛」――初診時に良美さんの問診票には、その一言だけが書かれていました。
診察の中で質問を重ねていきましたが、非常におとなしく、とても無口な方でした。彼女のおとなしさに、私が驚いたほどです。
言葉を換えながら、私はたくさんの質問をしていきましたが、首をかしげるか、うなずくかのみで、彼女はほとんど言葉を発しません。
自らが希望して、診察を受けに来たのです。ここまで応答が乏しい方は、私にとってもあまり経験がありません。それくらい無口な女性でした。
そうした応答であったために、残念ながら初診時には、彼女の困っていることを私は完全に把握することができませんでした。
「会社内で、休憩時問におしゃべりをすることが難しい」
良美さんの発した数少ない言葉から、そんな悩みがわかりました。
無口ではあるものの、とても落ち着いて座り、表情は穏やかでした。時折、小さな声で「きゃはは」と、場面にそぐわず唐突に笑い声を上げることに違和感を抱きました。
その笑い声は、良美さんが他者に与える印象に大きく影響しているものと思われます。深く悩み、苦しんでいる印象は微塵も受けませんでした。
表情は穏やかで、微笑んではいるものの、診察の間中、視線はほとんど合いません。両肩にはカを入れていることがわかります。
「自ら希望して診察に臨んだものの、他人と対面しながら言葉でやり取りをすることに苦痛を感じているのかもしれない」
そう思った私は、彼女に日記を書くような要領で、日々の困ることを書き留めてくるように宿題を出しました。
「あまり書いてこないかな……」
そんな私の不安を見事に裏切り、1週間後に差し出されたノートには、診察時の口数の少なさとは打って変わって、たくさんの「困ること」が書き連ねてありました。
良美さんの「困ること」とは、次のようなものでした。

●仕事に関する会話では問題ない。困っておらず、注意されたこともない。
●休憩時間に同僚の若い女の子たちが雑談していると緊張してしまう。
●話しかけられたらどうしよう、と休憩の間中、トイレにこもっていたことがある。
●実際に話しかけられると、頭が真っ白になってしまう。とりあえず笑った顔をしているが、ずっと笑った顔をするだけで一言も話せずに黙り込んでしまうことがほとんど。「何か話したら?」と大きな声で注意する先輩もいた。
●突然、「何、笑ってるのよ!」と、相手を怒らせてしまったことが何回もある。
●この傾向は、少なくとも小学4年生くらいから続いている。
●小学5年生のころ、「あの子、変わってるよね」と聞こえよがしにいわれたことがあり、それ以来、緊張するようになっている。
●今も「あの子、変わってるね」といわれている気がしてつらい。
●上手に雑談ができればいいと思うこともあるが、まったく雑談しないですむ職場のほうがいい。

困っていることを彼女の精神的な症状として理解できるかどうか、より詳細な情報を得たいと考えて、面接をくり返しました。しかし、診察中の言葉を媒介としたやり取りでは、やはりうなずくか、首を横に振るだけのコミュニケーションです。話はそれ以上深まることはありませんでした。
そして3回受診しただけで、その後はぷつりと来院されなくなりました。言葉でのやり取りが多く必要となる診察が負担だったのかもしれません。(後略)

本の「心身の症状 朝が苦手で、ベッドから起き上がれない」における記述の一部(P31)を次に引用します。

アスペルガー症候群の女性の多くが、睡眠障害をはじめとする体調不良に悩んでいます。
朝起き上がれないくらいの疲労感がしばしばあります。(中略)

神経系の機能不全がストレスで悪化
アスペルガー症候群の女性には、自律神経失調症のような身体症状がよくみられます。体質的に、神経系の機能不全が起こりやすいようです。(中略)
機能不全が起こりやすいうえに、生活上の困難によるストレスも強いため、神経系の働きが不安定になりがちです。

月経の前後は症状がさらにひどくなる
月経の前後には、症状がより不安定になる傾向があります。月経の前に体調不良が起こる「月経前症候群」が起こりやすく、症状も重いといわれています。

注:i) 引用中の「身体症状」については、身体症状を参照して下さい。 ii) 引用中の「睡眠障害」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「睡眠障害 - 脳科学辞典」、『田ヶ谷浩邦先生に「睡眠障害」を訊く』、「睡眠障害の基礎知識」 iii) 引用中の「自律神経失調症」については、次の pdfファイル「自律神経失調症」、及び他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「月経前症候群」については次を参照して下さい。「月経前症候群

本の「COLUMN 女性の発達障害と重なりやすい病気」の「女性は胃腸の不調や貧血などが多い」における記述の一部(P40)を次に引用します。

女性に多い病気として第一にあげられるのは、心身症です。胃腸の不調や貧血、疲労感などが起こり、何度も内科を受診します。
しかし対処療法的に薬を飲むだけでは状態がよくならず、アスペルガー症候群に気づくまで、悩み続けてしまいます。難治性の心身症にかかっているという自覚がある場合は、アスペルガー症候群かもしれません。要注意です。
ほかに摂食障害(三八ページ参照)や境界性パーソナリティ障害性同一性障害などの心の病気もみられます。社会性が育ちにくいという特性が、人間関係などの悩みにつながり、各種の心の病気に関わっているようです。

注:引用中の「摂食障害」及び「境界性パーソナリティ障害」については、他の拙エントリの「リンク集」を参照して下さい。

注:i) 引用中の「難治性の心身症」に関して、本の「診断 内科や婦人科では心身症と言われやすい」における記述の一部(P49)を以下に2つ引用します。 ii) 加えて、女性ASD(アスペルガー症候群)の体調不良に関連して、宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第6章 女性の社員がアスペルガーだと思ったら の「感覚が鋭敏なASD女性の小さな変化をチャンスにする」における記述の一部(P173)及び宮尾益知監修の本、「ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場内での悩みと問題行動を解決しサポートする本」(2017年発行)の「第3章 職場でのトラブル -実例と対応策【ASD/アスペルガー症候群の場合】 の「感覚の偏り、体調面からトラブルになる」における記述の一部(P42~P44)をそれぞれ以下に引用します。 iii) ちなみに、引用中の「心身症」については、次のWEBページを参照して下さい。「心身症 - 脳科学辞典

「難治性の心身症」と言われている人は要注意
心身症と診断され、治療を受けてもなかなか改善しないと、「難治性の心身症」だと言われることがあります。そのような診断を受けている人のなかに、じつはアスペルガー症候群の人がいます。
アスペルガー症候群であれば、心身症の治療だけでは、体調不良が根本的に改善することは、なかなかありません。特性への配慮も必要となります。
そのため、治療をしても睡眠障害や頭痛などが残り、やがて難治性の心身症と診断されるのです。

注:引用中の「睡眠障害」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「睡眠障害 - 脳科学辞典」、『田ヶ谷浩邦先生に「睡眠障害」を訊く』、「睡眠障害の基礎知識

他の病気だと診断される
内科や婦人科のほかに、精神科でも、発達障害を専門的にみている医療機関でないと、別の病気だと診断される場合があります。しかし、その診断で治療を受けていても、状況はなかなか改善しません。

感覚が鋭敏なASD女性の小さな変化をチャンスにする(中略)

ASD女性の女性は体調不良になりやすく、そのうえパニックを起こしてストレスを抱えてしまうと、不眠になり朝が苦手になります。眠れない、起きられないという睡眠障害から、ひどい疲労感を感じてだるくて起きられなくなったり、吐き気や頭痛、便秘、下痢などに加え、深刻な自律神経失調症のような身体症状が見られるようになります。(後略)

注:引用中の「睡眠障害」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「睡眠障害 - 脳科学辞典」、『田ヶ谷浩邦先生に「睡眠障害」を訊く』、「睡眠障害の基礎知識

感覚の偏り、体調面からトラブルになる(中略)

なぜ、こんな行動をとるのか?(体調不良)(中略)

また、女性の特性は、男性と現れ方が違う場合もあります。例えば、気温や天候によっても体調を崩したり、怒りや悲しみ、つらさといったストレスが外に向かって爆発するのではなく、内側に向かい、突然泣き出したり体調不良になってしまう場合があります。

注:引用中の「女性の特性」は、「女性ASDの特性」を意味します。

本の「診断 女性はなかなか診断が得られない」における記述の一部(P44~P45)を次に引用します。

女性の場合、医療機関にかかっていても、アスペルガー症候群を見過ごされることがよくあります。(中略)

女性は診断が出にくい
アスペルガー症候群を含むASDは、女性よりも男性に多いといわれています。医療の現場でも、一般にも、女性のASDがあまり知られておらず、そのため女性はなかなか診断が得られないことがあります。

本の「診断 心療内科などで専門医にかかる」における記述の一部(P44)を次に引用します。

自分自身や家族に発達障害の可能性を感じたら、児童精神科や心療内科などで専門医にかかりましょう。(中略)

大人の場合
発達障害の診療経験がある精神科か心療内科へ。心療内科には体調不良にもくわしい医師が多いため、より安心。内科や婦人科では、体調不良はみてもらえても、発達障害は見過ごされがち。

本の「COLUMN 診断基準がそもそも男性向け?」における記述(P56)を次に引用します。

アスペルガー症候群は男子の症例報告
アスペルガー症候群は、アスペルガーという精神科医が発見した症候群です。アスペルガーは二〇世紀なかばに、数名の男子に同じ特徴を見出し、報告しました。のちにそれがアスペルガー症候群と名付けられたのです。
つまり、アスペルガー症候群はもともと男子の特徴をまとめたものだということです。研究がはじまった当初から、女子の特徴はよく知られていませんでした。

女子の症例や研究はまだ多くない
その後、アスペルガー症候群の診断基準が確立されてからも、症例の中心は男性でした。男性の方が女性よりも数倍多いとされてきました。しかし、女性の研究が進み、男女では特性の現れ方が違うという説が出てきました。
男性では幼少期から特性がみられるが、女性では思春期まで特性が目立たず、また、思春期になっても社会性の乏しさが男性ほど顕著ではないなどと、報告されはじめたのです。
まだ仮説段階の話ではありますが、アスペルガー症候群の診断基準や対応法は男性に合わせたもので、女性向けにはなっていないのかもしれません。今後の研究に期待がかかります。

本の「COLUMN 女性当事者の手記にはヒントが満載」の「参考になる手記」における記述(P98)を次に引用します。

●ドナ・ウィリアムズ『自閉症だったわたしへ』
●グニラ・ガーランド『ずっと「普通」になりたかった。』
●テンプル・グランディン『我、自閉症に生まれて』
●ルディ・シモン『アスペルガーの女性がパートナーに知ってほしい22の心得』
●リアン・ホリデー・ウィリー『アスペルガー的人生』

ウィリアムズやグランディンは、この分野の先駆者的存在。自閉スペクトラム症の特性がありながら、理解や支援を得てすごしてきた日々を、自伝に記しています。
ガーランドやウィリーも同様で、理解者を得て生活の仕方を学び、発達障害の特性があると気づかれないくらいにまで、社会生活のスキルを身につけました。
シモンは自身の体験や、同じ境遇にいる当事者の話をもとに、アスペルガー症候群の女性の特徴や悩み、対応法をまとめています。

加えて、a) 備瀬哲弘著、「大人の発達障害 アスペルガー症候群、AD/HD、自閉症が楽になる本」(2009年発行)の 第5章 「ちょっと変」を疑似体験して知る の「本を読んで隣人を知る」項における記述の一部(P163)を b) 内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の「はじめに」における記述の一部(P2)を それぞれ以下に引用します。

最近では、アスペルガー症候群や高機能広汎性発達障害という診断を受けた人たちが、自分たちの世界を雄弁に語り始めています。
たとえば、ドナ・ウィリアムズによる『自閉症だったわたしへ』(新潮文庫)。この本は、世界的なベストセラーになりました。
また、日本では翻訳家として活躍しているニキ・リンコさんがいます。その著書『俺ルール! 自閉は急に止まれない』や『自閉っ子におけるモンダイな想像力』(ともに花風社)で、PDDに独特の世界観や身体感覚を、ユーモアをたっぷりまじえながら、非常にわかりやすく、明るく語っています。

注:i) 本のタイトル中の「AD/HD」はADHDのことです。 ii) 引用中の「ニキ・リンコさん」は女性です。

(前略)成人例を診ることの利点は,彼ら彼女たちが自らについて語るということにある.そればかりか,書く能力に秀でていることさえある.実際,ドナ・ウィリアムズ(Donna Williams),グニラ・ガーランド(Gunilla Gerland),藤家寛子,森口奈緒美らの自伝からは,ありふれた解説書のたぐいを読むよりも,はるかに学ぶことが多い.(後略)

注:i) 引用中の「成人例」とは、「成人 ASD」のことのようです。 ii) 引用中の「藤家寛子,森口奈緒美らの自伝」における、藤家寛子の自伝例は【『ほかの誰かになりたかった-多重人格から目覚めた自閉の少女の手記』花風社,2004】、森口奈緒美の自伝例は【『平行線-ある自閉症者の青年期の回想』ブレーン出版,2002】です。

一方、上記手記やASDに関連した本として次を紹介します。 a) 村田沙耶香著の本、「コンビニ人間」(2016年発行)の女性主人公はアスペルガー症候群を感じさせる人であるとの意見を含む書評のエントリは次を参照して下さい。 「書評『コンビニ人間』村田 沙耶香(文藝春秋)」 b) 星野あゆみ著、本田秀夫監修の本、「発達障害のわたしのこころの声 生活・仕事で困っている理由 & 困らない工夫」(2015年発行)によると、「ソーシャルコミュニケ―ション障害」※2や「非言語性学習障害」の診断名もあるようです。例えば、アスペルガー症候群の症状の一部にしか該当しない(こだわりの特性が目立たない)ものの「臨機応変な対人関係が苦手」という特性のみが目立って「ソーシャルコミュニケ―ション障害」※2と診断されることもあるようです。

※2:ちなみに、最新の疾患名は「社会的(語用論的)コミュニケーション症」です*26。英語では「Social (Pragmatic) Communication Disorder:SCD」です。この疾患に関連するかもしれない、実用的で社会的なコミュニケーションについての引用はここ及びここを参照して下さい。加えて、この疾患に関連するかもしれないウィングの「三つ組み」仮説におけるコミュニケーションの障害については、リンク集(4)を参照して下さい。用語は『ウィングの「三つ組み」仮説』を使用して下さい。

加えて、「ドナ・ウィリアムズによる『自閉症だったわたしへ』」を引用している本の例が、内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」*27(2015年発行)です。この本における引用例として、主に女性の自閉症スペクトラムの特性としての「距離が近づくと豹変する」*28等を説明している部分、すなわち、同本の 13章 鑑別診断-統合失調症と境界性パーソンリティ障害 の「距離が近づくと豹変する」、「感情の渦」及び「易変性」における記述(P252~P256)をまとめて次に引用します。

距離が近づくと豹変する
成人 ASD,とりわけ女性例の臨床にたずさわっていると,臨界的な距離とでもいうべきものがあることに気づかされる.人との心的な距離感が保たれているときには,整然とした,あるいは杓子定規なふるまいをする人が,いったん近しい関係に入ると,手のひらを返したように不安定性を示すことがある.
心的距離がつまってくると,自他未分をベースとした彼女たちの世界のなかに,それを掻き乱す他者が割り込んでくることになる.他者のふるまいが,自分とは別の系として切り離すことができず,共振し,逐一影響を与えるようになる.
混乱するおもな要因として,「こころの動き」と「感情」の二つがまずは挙げられるだろう.こころというものは,彼女らにしてみれば,妙な動きをするものである.曖昧であり,予想がつきにくい.直観的に把握できないので,しばしば推論で代償する.距離が保たれている場合には,局外者として無難に推測することは可能である.むしろ得意とする場合もある.
ところが近い関係になると,推測に必要な距離がなくなる.他者に近づくにつれ,それによってみえてきた部分にとらわれたり,拡散する多数の情報によって撹乱されたりするようになる.定型者にとっては,近しい関係とはなれ親しんだものでもあり,あるいは微妙なこころの機微が働く文化的に豊かな次元である.だが,彼女たちにとってみれば,耐えがたき曖昧なゾーンとでもいうべきものとなる.
たとえば,相手が自分のことをどう思っているのかということが気にかかったとする.これは,他人のこころであり,原理的にこちらにはわからないことである.そこで,相手にたずねて,ネガティヴな気持ちがないことを確認したとする.そのときには少し安心するかもしれない.だが,いったん疑惑にかられると,それは際限のないものとなる.ちょっとでもそれにそぐわぬことがあれば,たちまち落ち着かなくなる.疲れた顔をしていたり,メールの返信が少し遅くなったりしただけでも,確認せざるをえない.確認しても,問題は解消しないし,さらに疑念が頭をもたげる.相手もうんざりしてくる.
定型者がこれに類似した状態になるのは,例外的な状況である.恋愛などはその典型だろう.ASD 者は,恋もしていないのに恋をしているかのような状態となる.

感情の渦
混乱するもう一つの要因は,感情である.「感情の読み取り障害」説があるように,ASD 者は概して感情を苦手とする.中核的な例では,そもそも感情というものがよくわからず,無反応であるのが基本である.そうした態度はしばしば相手を怒らせるが,本人はそれに気づかない.すると相手は馬鹿にされたように感じ,よけいに怒りを増幅させる.
成人 ASD では,感情によって混乱させられるという特性がそこに加わる.感情は,まだ微弱にめばえ始めたばかりの,彼女たちの自他の分節を解除してしまう.過剰に共振してしまい,自己が消滅する脅威となる.彼女らを混乱させられるのは,他者から向けられた感情だけではない.自分のなかに沸き起こった感情もまた,制御がむずかしく,自己を押し流すものとして脅威となる.
感覚的なものを鋭敏にキャッチする彼らのセンサーに対して,感情は曖昧であり,得体の知れないものに映る.その際注目すべきことは,怒りや暴力的なものよりも,むしろやさしさや愛情の方が彼女らを混乱させる場合があるということである.この点について,参考になるのがドナ・ウィリアムズの記述である.彼女によると,暴力や自傷はかえって自分を落ち着かせるものであり,身体の傷はこころを傷つけない.逆にやさしさや親切は身がすくむという.

他人は,自分の虐待や一般に不幸と思われるものから自分の殻にこもっていると勘違いしているが,やさしいやわらかな感情に触れて来るものの方がこわいのだ13.

親切の方がはるかに微妙でつかみにくく,しかも心を乱されるものだった.抱きしめられると,まず最初に目が回り出す14.

ドナにとって,抱きしめられるという体験は,抱くという行為に込められている志向性(愛情)がよくわからないという戸惑いと,ぷよぷよした肉体にくるまれる即物的な異様な感覚の混合したものなのだろう.
感情は,言語による対象化がむずかしいものである.本来むずかしいところに,ASD の言語は身体に浸透していないため,感情を整流すること対して無力である.
「投影同一視」と呼ばれる力動も,起こりやすい.通常の投影は,自他の分節を前提として起こるものである.たとえば自分が相手に対して怒りを抱いているのにもかかわらず,それを抑圧し,相手が怒りを抱いていて,自分を攻撃してくるのではないかと恐れるとのような機制である.それに対して,ASD では,怒っているのが自分なのか相手なのか,そもそも区別がつかなくなる.これが投影同一視と呼ばれるものの正体である.

易変性
ASD が BPD と誤診される重要な特性として,易変性がある.状況に即応して変化する人たちがいる.これは,俗に「質量が軽い」と評した ASD の被影響性による.
相手の状態によって,自分の状態がそのつど変わる.その時々の断片的な文脈に染まりやすい.場合によっては,憑依されたようになる.ただし,回復するのも速い.
ASD 者は大域的な把握が苦手である.状況をふわっとまとめることができない.それゆえ細部に振り回されやすい.このことを裏返せば,定型者に対して,彼女らは解像度の高いセンサーをもっているということである.それゆえ,われわれがアバウトに,いつもと変わらないはずと思っていることに対しても,微細な違いや変化のうごめきを感じ取っていることはありうる.

vignette
30歳女性.受診している際に,医師が緊急の電話でやむをえず中座して戻ってきたところ,それまでの落ち着いた態度から,にわかに「先生は冷たい」と非難し始めた.医師が面喰らって,中座したことを詫びたところ,そうではなく,ドア越しに聞こえてきた電話で話しているトーンがいかにも冷淡だったと言って,さらに非難した。

BPD の臨床特性として,理想化とこき下ろしの交代という現象がある.これもまた,そのつど相手の状態によって振り回される彼女らの自己のあり方による.いわゆるスプリッティングとわれるものである。
すでに述べたように,ASD 者は,他者に全能性を託しやすい.とりわけ医師のような存在は,そのようにとらえられがちである.理想化にはしばしばそうした機制が関与している.それゆえ,いったん理想化が崩れると,パニックに陥るということが起こりうる.それも,定型者には見落とされるような微細なことが引き金になりうる.

注:i) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 ii) 引用中の「BPD」は境界性パーソナリティ障害のことです。 iii) 引用中の「投影同一視」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iv) 引用中の「理想化とこき下ろし」については、例えば、他の拙エントリのここの「アラジンの魔法のランプ願望」項、ここを参照して下さい。 v) 引用中の文献番号「13」、「14」は、それぞれ【Williams, D. : Nobody Nowhere.Doubleday. 1992, p.92(河野万里子訳『自閉症だったわたしへ』新潮文庫,2000,p.243)】、【同書.p.64(邦訳,p.175)】です。 vi) 引用中の「スプリッティングとわれるものである。」は、もしかすると「スプリッティングといわれるものである。」のタイプミスかもしれません。

さらに、i) 女性の発達障害当事者による自伝風小説の出版に関する「ツイート」があります。 ii) 女性のアスペルガー症候群に特化した関連資料については≪余談5≫ [3]に、女性のアスペルガー症候群を含む関連資料については≪余談5≫ [4]にそれぞれ示します。 iii) ここのリンク先には、女性のアスペルガー症候群自閉スペクトラム症)に関する記述があります。 iv) 女性のアスペルガータイプの人(未診断、診断されるほどでは無い人を含む)向けの会話のための本は、他の拙エントリのここで紹介しています。 v) 女性のアスペルガータイプ症候群等に対する支援・配慮に関するWEBページを次に紹介します。「自閉症障害 男子に比べ診断が困難 女子の支援配慮を

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(f)杉山登志郎医師に関するネット情報

本エントリにおける複数の引用元の杉山登志郎医師に関するネットで入手できる情報については、他の拙エントリのを参照して下さい。

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余談

≪余談1≫感覚過敏・易疲労性に関係した不適応

米田衆介著の本「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 第五章 さまざまな不適応とその対策 の「四 感覚過敏・易疲労性に関係した不適応」項における記述の一部(P199~P203)を次に引用します。

すでによく知られていることですが、アスペルガー者のうち少なくない割合の人々が、感覚過敏や疲れやすさを訴えることがわかっています。こうした疲れやすさを「易疲労性」といいますが、その大部分は、前項であげた自己統制の問題とも関係しています。
しかしそれだけではなく、著しい感覚過敏が主な疲労の原因となっていることがあります。何よりも感覚過敏は、少なくないにもかかわらず周囲に理解されにくい不適応のパターンであることから、ここで別に項目を立てて少し詳しく説明します。
アスペルガー者では、しばしば聴覚や触覚、ときには視覚・嗅覚・味覚などの感覚で過敏さが見られることがあります。このような感覚過敏は、情報処理の過剰選択(第二章参照)という仮説から言えば、ハイコントラスト知覚の特性そのものです。つまり、ある程度以上に強い刺激が入ってきた場合、メーターの針が振り切れるように最大刺激として感覚されてしまい、容易にはその感覚を無視できなくなってしまうということです。
ただし、たとえば聴覚の過敏と言っても、すべての音に過敏であることは稀です。もちろん、一定のレベルより大きな音にのみ過敏というような単純な過敏さもありますが、もう少し複雑な場合には、泣き声や怒声など特定の意味を持った音にのみ過敏であるような場合もあるのです。後者の場合には、たんに聴覚そのものの過敏というよりも、もう少し高いレベルでの意味処理が関係した過敏性ということになります。
本章第一節で述べた関係過敏も、感覚過敏と連続性のある現象です。このような状態では他者と同じ場面にいること自体に強く反応してしまうこともあります。とくに関係過敏の場合には、一定のカテゴリーに属する場所だけで過敏さの症状があらわれることもあります。たとえば電車や診察室では問題がないのに、学校でだけ他人がいることに圧倒されるということもあり得るのです。
このような場合、過敏性というよりは、「特定の状況に対する学習性の反応」と捉えることもできます。ここで重要なことは、感覚過敏と学習性の反応の間には臨床的な連続性があり、はっきりとは切り離せないということです。

<対策>生活リズムを維持すること
易疲労性について言えば、多くの原因が関わっていると考えられます。とくに自己モニターの障害が重要な役割を果たしています。前節でも少し述べましたが、自己モニターの障害があると、自分の疲労をコントロールできないという問題が生じるからです。疲れていても気がつかないので、自発的に休息できないといったことです。
しかしそれだけではなく、感覚過敏の特性があることによって、アスペルガー者本人が、日常的に少し緊張した状態に置かれ続けるため、結果的に疲労するという側面も無視できません。ふつうの人でも、耐えがたいほど大きい騒音のなかで過ごしたり、激しく揺れる乗り物に乗っていたら疲れると思いますが、平常の生活でそれと同じことが起こるようなものです。
さらに協調運動の障害のために、姿勢を維持したり作業するにあたって常に無駄な力を使っていることも、疲労の原因になります。このような訴えをするアスペルガー者は実際、肩がこる・頭が痛い・首が痛い・背中が痛い・長時間まっすぐ座っていられないなどと訴えることが多くあります。ひとたびこのような身体的訴えが生じると、自分自身もその違和感が気になってたまらず、身体感覚の異常に捕らわれてしまって仕事ができなくなることも珍しくありません。
このような症状があるので、アスペルガー者の易疲労性は、稀に慢性疲労症候群(原因不明のひどい疲れが長時間続き、日常生活に支障をきたす病気)や線維筋痛症(体に原因不明の耐えがたい痛みが持続的に続く病気)と誤診されることがあります。また、うつ病抑うつ神経症と診断されていることもあります。しかしそれらの治療には反応せず、生活リズムのコントロールや、適度な運動によって改善することがあるのが特徴です。
このような過敏性・易疲労性によって働けなくなる場合への対処としては、原因となる不快な刺激を除く、休息時間を確保する、身体の自己コントロールを改善するための介入などが考えられます。
とくに最後に挙げた身体の自己コントロールの改善のためには、規則的な生活リズムの維持、太極拳のような意識して身体をゆっくりと正確にコントロールするタイプの運動の学習、ランニング・水泳など全身の循環を改善し筋肉のこわばりをほぐす運動、温泉やマッサージ等による末梢循環の改善などが、案外、効を奏することがあります。とくに、規則的な生活リズムの維持は、疲労を軽減するために大変有効なのですが、自己モニター障害のために、アスペルガー者自身は効果があまり自覚できないようで、なかなかその価値が理解できないことが多いようです。ただし、価値が理解できても、自己制御の困難の問題がありますから、実際に生活リズムを維持することが、非常に困難な場合も珍しくありません。

注: i) 引用中の「協調運動の障害」に関しては、必要に応じて発達性協調運動障害を参照して下さい。 ii) 引用中の「疲れていても気がつかないので、自発的に休息できないといったことです。」に関しては、 a) 佐々木正美著の本、「アスペルガーを生きる子どもたちへ」(2010年発行)の 第1部 あなたがあなたらしく生きるために の「疲れを自覚できない人たち」における記述の一部(P26~P27) b) 宮尾益知監修の本、「女性のアスペルガー症候群」の「対応9 体調不良 ひとりになって休める時間をつくる」項における記述の一部(P76) c) 備瀬哲弘著、「大人の発達障害 アスペルガー症候群、AD/HD、自閉症が楽になる本」(2009年発行)の 第5章 「ちょっと変」を疑似体験して知る の「シャワーの水圧が痛い」項における記述の一部(P172~175) d) 内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の 11章 私的言語と感覚過敏 の「感覚過敏」における記述の一部及び「疲れやすさ」における記述(P213~P216) をそれぞれ以下に引用します。 iii) 引用中の「ハイコントラスト知覚」と「本章第一節で述べた関係過敏」に対しては、米田衆介著の本、「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 第二章 アスペルガー障害の本質 の「ハイコントラスト知覚特性」項における記述の一部(P76~P79)と、 第五章 さまざまな不適応とその対策 の「関係過敏による不適応の二つのタイプ」項における記述の一部(P173~P174)をそれぞれ以下に引用します。 iv) 引用中の「生活リズムを維持すること」に関連した「健康な生活」についてはここを参照して下さい。

疲れを自覚できない人たち(中略)

こういう人がいました。ある講演会で、前の方に何人か当事者の方が座っていらっしゃったのですが、ひとりの人が、「佐々木先生は疲れることがありますか」と聞くのです。「いつも疲れていますよ」と答えましたら、「疲れというものはどのようにして感じているのですか?」と質問されたのです。答えようがないのです。ああ、疲れたなあと自然に感じてしまうものなのですから。
それで、「疲れというのは、どのように努力をして感じられるかというようなものではなくて、自然に感じられてしまうのです」と言うと、「私は感じられないのです」とおっしゃるのです。
この方は、いつも倒れるくらい働いてしまうのだそうです。そして、倒れたら何日も休む。ですから、「倒れる前に適宜休んでください」と職場で言われているそうなのですが、それができない。どうしたら倒れる前に休むことができるようになるのでしょうか - こういう質問だったのです。
そうしたら、彼の後ろのほうに座っている方が手を挙げて、「私もわからない」と言うのです。それで、こちらの方にどうするのかうかがってみると、「この仕事についてはこれだけの時間でやる」と決めた分以上は続けない。あるいは一時間したら必ず休む。その人は「機械的に休む」というのです。
最初に質問した人も休日は休むのですが、「ここまでやったらあとはやらなくていい」という仕事はなかなかありませんね。一般の人は、ここまでやってあとは翌日、と「適当な」ところで区切りをつけることになりますが、彼らはそれを延々とやってしまうというのです。そして倒れてしまう。こういう人を私はあまり数は知らなかったのですが、最近ときどき出会うようになりました。

注:引用中の(疲れを)「私は感じられないのです」と関連する引用はここ及びここを参照して下さい。

ひとりになって休める時間をつくる
アスペルガー症候群の人は、休むことが下手です。よくも悪くも真面目で、がんばりすぎてしまいます。ひとりになり、休息をとることを、習慣にしてください。(中略)

真面目にがんばりすぎる
目標や決まりをもうけると、それを守ろうとして必死にがんばる。妥協することが苦手で、疲れをためてしまう。

シャワーの水圧が痛い
PDDの人は、感覚の偏りが多いことがよく知られています。
偏りは、過敏になる方向でも、鈍くなる方向でも現れます。特定の音や光などの視覚刺激、触覚に関しては、過敏なことがよく見られます。(中略)

逆に、鈍感なこともあります。多く見られるのは、「疲れ」の感覚の鈍さです。
驚かれる読者も多いと思いますが、PDDの人の中には「疲れ」の感覚を実感しにくいという人がいます。私の印象では、少なくない割合です。
実際、PDDの人のお話をうかがっていると、
「朝、目は開いたが、体が動かなかった」
といった言葉がよく出てきます。
「前日まで、お仕事が忙しく、疲れがたまっていたのではないですか?」
とお聞きしても、
「疲れ? まったく感じていなかった」
「すごく元気で、楽しく過ごしていた」
「嫌な出来事はなかった」
と答えるのです。そのため、こちらは質問の角度を変えてみます。どういう生活をしていたのか、具体的に質問してみるのです。そうすると、
「半年間、土日も休まず仕事をしていました」とか、
「3ヵ月間、月の平均残業時間が113時間だった」とか、
「3日間、飲まず食わずで徹夜していた」とか、
疲れないわけがない理由が出てくるのです。
そういう状況が背景にあれば、疲れを自覚していないわけがないと、普通は思います。
「それまでに疲れが出ていたんじゃないですか?」
と私が聞いても、
「疲れ? なかったですね。急に体が動かなくなったんです」
と、異口同音です。当初、「そんなこと、本当にあるのかな?」と、私は半信半疑でした。
しかし、その原因が身体感覚の「鈍さ」にあると考え直すと、なぞが解けます。「疲れている」という身体感覚が鈍いため、「疲れていましたか?」と聞かれても、本人はよくわからないのです。
もしくは、「疲れている」ことは、頭が痛いこと、微熱があること、肩がこること、などというふうな定義づけがなされているとわかりやすいのかもしれません。
急に倒れたり、体が動かなくなったりして初めて、頭の中に「苦しい」「きつい」と再入力されるのでしょう。(後略)

注:引用中の「疲れ? まったく感じていなかった」と関連する引用はここ及びここを参照して下さい。

感覚過敏について(中略)

vignette
19歳女性.大学の教室で集中できないのは,人の動きや話し声のためだと思って,図書館で勉強するようにしたが,あまり変わらなかった.ところがある時,カフェで読書をしたところ,すごくはかどることに気づいた.
照度計を購入して測定してみると,教室が500ルクスだったのに対し,カフェは50ルクスだった.また,教室では蛍光灯が使われており,その白々とした明るさとちらつきが疲れさせるものであることにも気づいた.
それ以後,部屋の家具やカーテンを暗い色調に替え,照明を間接光にするなど環境整備に気をくぼるようになった.母によると,高校時代は月に10日も稼働できる日がなかったが,この頃は,たまに寝込む程度になったとのことである.(中略)

疲れやすさ

感覚過敏は疲れる.カフェでの読書で,明るさへの過敏に気づいた女性は,高校時代には,月に10日ほどしか稼働できなかった.原因は感覚過敏だけではないだろうが,さまざまなアイテムを利用したり,環境調整をするなどの対策によって,疲労の改善がはかられたことは事実である.
ただし,当人は疲れやすいのだが「疲労」を実感していない.あらためて自分に問い合わせてみて,はじめてわかる場合もあるが,依然としてわからないことも多い.
ASD では,身体からのフィードバックが機能していないようにみえることがしばしばある.あたかも,疲労との信号が発生していないかのようである.たとえば,原因の思い当たらない寝込みがある.ただただ,布団から起き上がれないのだ.始まりは唐突であることが多い.改善するときもまた,唐突である.疲労感がともなわず,気分性も希薄である.
しかしよく聞いてみると,活動しすぎていることがある.単発的なイベントの場合もある.あるいは,日々の疲労と休息の収支バランスの感覚がないために,いきなり限界を超えて,起き上がれなくなる.活動量自体はたいしたことがなくとも,繁華街への外出,飲み会,対人業務の多い仕事,帰省など,彼ら彼女たちの感覚への過剰な負荷があったのではないかと推測されることもある.聴き取るときには,心への負担よりも,感覚への負荷に見当をつけるとよい.ただし当人には,それらと寝込みの間に関連があることはなかなか腑に落ちない.
言語化すれば,「疲れ」や「だるさ」などと表現されることもあるが,われわれになじみのある例のあの感覚ではなさそうである.言語化しても,納得しているわけではない.またうつ病者に感じられる「生気的」な感覚でもない.頭痛など,痛みをともなうこともしばしばある.だが,身体が病んだり疼いたりしているという感じがない.局所になにかがしこっているような,異物のような感覚であることが多い.セネストパチーまでそう遠くない印象を与える.
アレキシサイミア alexithymia という,心身症に関連する性格傾向とされた類型がある.感情がことばに乗らないあり方をいう.この場合は「感情」があることが前提にされているが,多くの場合,感情そのものが抜け落ちたかのようなあり方を示す.ことばが心身に起きた事態を,感情としてすくい取れないとき,感情自体が失われ,そのかわりに異様な身体感覚だけが取り残されることになる.ASD でしばしばみられる様態である.
身体の消耗が疲労として覚知されると,休息する.原初的な情動が揺すぶられ,感情や気分となって表出される.こうした過程が ASD では滞っているのではないだろうか.

注:i) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 ii) 引用中の「アレキシサイミア」については、心身症の視点からは次のWEBページを参照して下さい。「心身症 - 脳科学辞典」の「心身症の背景となる心理・性格的要因」項 加えて、自閉症スペクトラム症における「アレキシサイミア」と「内受容感覚」との関連については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 一方、PTSD又は複雑性PTSDの視点からは、他の拙エントリのここを参照して下さい。加えて、化学物質過敏症とアレキシサイミア(失感情症)の関連については、WEBページ「半揮発性有機化合物をはじめとした種々の化学物質曝露によるシックハウス症候群への影響に関する検討」の下部のリンクから一括ダウンロード可能なファイル 201625016A0004.pdf 中の資料「1.化学物質に対する感受性変化の要因及び半揮発性有機化合物の健康リスク評価」(P28~P42)の「C1 化学物質に対する感受性変化の要因」項(P30~P31)を参照して下さい。なお、この項中の「TAS20」については次の資料を参照して下さい。 「Relationship between alexithymia and coping strategies in patients with somatoform disorder」(注:タイトル以外は日本語の資料です) iv) ちなみに、a) 『慢性疼痛における「失感情症・失体感症傾向への対応」』については、他の拙エントリのここにおける引用の「(2)失感情症・失体感症傾向への対応」項を参照して下さい。 b) アレキシサイミアと内受容感覚の関係に関連する資料「アレキシサイミアにおける、自己意識・メタ認知に関する統合的脳機能画像研究」の「4. 研究成果」において次に引用する(『 』内)記述があります。 『情動の体験の認知については、特に内受容感覚も認知の鋭敏さが不安を増大させる影響があることを明らかにし、さらにfMRIで脳活動を撮像することによって、内受容感覚への気づきに重要な島皮質の活動が、アレキシサイミア群で低下していることが明らかになった。』 (注:引用中の「情動」についてはここを、「内受容感覚」についてはここを、「fMRI」についてはここを、「島」についてはhttps://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B3%B6:title=ここ]をそれぞれ参照して下さい) v) 引用中の「セネストパチー」についてはここを参照して下さい。

ハイコントラスト知覚特性
物事を「白か黒か」で把握するような知覚ないし認識のあり方を、ハイコンストラスト知覚と呼びます。ハイコントラストの意味は、ある境目となる入力の大きさの周囲で、それよりも少しでも入力が大きければ最大値に振り切れてしまうような感覚特性のことです。当然、少しでも小さければ、最小値に振り切れるという場合も同じことです。このような境目の値のことを「しきい値」と呼びます。要するに「白か黒か」「0か1か」「あるかないか」のような、両極端しかない捉え方をする、ということです。
ハイコントラストな基準が適用されると、思考は自然と明晰になります。その明晰さは、正確性や論理性につながることもあります。アスペルガー者の場合に時々見られる、非常に形式的で論理的な問題解決スタイルは、このようなハイコンストラストな思考の傾向と関係しています。
そういう形式的で論理的な思考は、それ自体では悪いものではありません。問題は、こういう特性があると、どうしてもグレーゾーンでの解決が難しくなるということです。それは、グレーゾーンというものを、そもそも知覚できていないからだと考えられます。だからアスペルガー者に対して、「そこんとこ、適当に……」と言ったところで、グレーゾーンにあたる「適当」というのが何か認識できないのですから、うまくいくはずがありません。
さらに、ハイコントラスト知覚には、もう一つ困ったことがあります。たとえば、空腹の感じ方を考えてみてください。健常者は、「空腹か満腹か」の二つだけで自分の欲求を判断したりはしないでしょう。「小腹が空いた」「腹七分目だ」などといった表現もあるとおり、空腹と満腹の中間にあるグレーゾーンでの判断も生じ得ます。
ところが、空腹の感じかたがハイコントラストで、「空腹」「満腹」の二つしかないという場合は、「少し腹が減ったから少しだけ食べる」ということにはならず、腹が減れば満腹になるまで食べてしまい、一度満腹になればふらふらになるまで食べないという極端なことになります。これでは適切な自己コントロールができず、体調を崩すもとにもなりかねません。アスペルガー者の自己制御の困難さの一因は、ここにもあると考えられます。
なお、このようなハイコントラスト知覚によって、感覚過敏性(特定の刺激を感じすぎる状態)の一部を説明することができます。たとえば、ハイコントラストな聴覚を持っていれば、ほとんどの音は大きすぎるか小さすぎるかになってしまいます。要するに、いつでもメーターが振り切れているようなものです。同じことが視覚、嗅覚、味覚、触覚、温度覚、平衡感覚、空腹や疲労感のような内部感覚などにも言えます。そういう知覚の世界に生きているとしたら、アスペルガー者にとって、生きていくことはよほどたいへんなことになるでしょう。

注:引用中の「ハイコントラスト知覚特性」は「情報処理過剰選択仮説」(引用参照)の一要素です。

関係過敏による不適応の二つのタイプ
関係過敏による不適応には、大きく分けて二つの極があります。一つは感覚過敏の延長上にある関係過敏で、もう一つは他者からの評価にかかわる関係過敏です。両極は、互いに連続し移行するものです。したがって中間のあらゆる形態があり得ますが、両極を比較した場合には、それぞれ非常に異なっています。
まず、一つの極である感覚過敏に近い意味での関係過敏から説明します。これは、人が多い、人の声がざわざわしている、自分の近くに物理的に接近されるなどの刺激で強い不安を感じたり、激しく疲労してしまうような状態です。この場合には、それらの刺激を回避するために、社会的場面からの引きこもりが起こると理解できます。
このタイプの関係過敏は、感覚過敏の延長上にありますので、単純な性質を持っています。この場合には、刺激の社会的な意味と同時に、刺激の物理的な性状が重大な問題になります。その人ごとに、弱点となるタイプの感覚刺激があるのです。もちろん、純粋に物理的な刺激への反応であれば、それは社会的能力に関連した不適応ではなくなってしまいますので、それについては後述する「感覚過敏・易疲労性に関係した不適応」で論じます。ここで問題にするのは、その背景に他者の気配を含むような感覚的刺激に限られます。
具体的に言えば、個別の誰かが気になるというよりも、「人の多いところが耐えられない」というような種類の過敏性です。たとえば、「授業に出ると、何だか人が多くて疲れる、それに、自分だけが場違いのような気がするのでいたたまれない」というような訴えは、この類型と言ってよいと思います。さらに、「そんなふうに場違いなのは、自分が挙動不審だから気味悪がられているんだろう」などというあたりまでは、妄想と言うほどでもないので、関係過敏による念慮に入れておいてよいでしょう。
一方、反対の極は、むしろ通常の対人過敏に近いもので、他者からの評価に対するこだわりに始まって、「きっと自分はこう思われているから」という強い思い込みをともなって、社会的場面の回避に至るものです(後略)。

注:引用中の「感覚過敏」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

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≪余談2≫知的テーマの追求

[1] WEBページ「獨協医科大学越谷病院 こころの診療科」の「広汎性発達障害アスペルガー障害、高機能自閉症など)」項における記述を次に引用します。

対人関係におけるコーチングが治療の中心となります。広汎性発達障害の患者さんにとって、得意なことは、ある知的テーマについて深く追求すること、苦手なことは、人のこころを察することです。したがって、得意なことをどんどんやって自信を深めていただき、同時に、苦手な対人場面での行動について、一緒に考えていきましょう。

[2] ブログエントリ「神田橋條治による発達障害理解 すずろーぐ☆」の「■発達障害のひととの交流について」項における記述(引用)を次に引用します。

情緒的な関係で支えられるのが苦手。知的なものは肉体と密着していないので、それをよすがに生きていくひとは風変わりな人として完成していく。

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≪余談3≫少数派

発達障害の問題は少数派の問題でもあるかもしれません。以下にこれに関連する記述を引用します。

本田秀夫著の本、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』(2013年発行)の 第3章 線引きが難しい自閉症スペクトラムの境界線 の「ストレスに晒されやすい自閉症スペクトラムの人たち」における記述の一部(P79~P80)を次に引用します。

現代社会、特にわが国の近年の状況は、一見、個性を重視しているかのように見える部分もありますが、実は、多数派からはみ出す人たちを差別し、排除しようとする心理的メカニズムは、むしろ強まっています。いじめの深刻化などは、まさにその象徴と言えます。
中でも、「空気を読めない人」に対する風当たりがとても強まっています。以前なら、「他人が何と言おうが自分の信念を曲げない」というのはプラスの評価だったのに、最近は、そのような個性が「空気を読めない」というマイナスのニュアンスを帯びた評価に変化しつつあり、差別や排除の対象となる場面が多くなっています。
臨機応変な対人関係の調整が苦手で、こだわりを持ちやすい自閉症スペクトラムの人たちは、そのような差別や排除の対象となるリスクが高くなります。
自閉症スペクトラムの人たちは、少数派の人種として人種差別を受けているのと同様な状態に晒されているのだと言えます。特定の人種がたくさん住む国で、多数派の人種の価値観に基づいた制度や文化が浸透し、それ以外に対して排他的な風潮が生じると、少数派の人種は社会的に抑圧されます。これが人種差別です。
その人種特有の文化を維持することは、その人種の人たちにとっては健康的な生活を維持するために不可欠です。それを制限されると、当然、恒常的な心理的ストレスに晒されることになります。
同様に、現代社会における自閉症スペクトラムの人たちは、恒常的な心理的ストレスに晒されやすい状況に置かれていると考えられます。そのような状況に置かれ続けた人たちが併存群となって、自閉スペクトラム障害の一部を占めているのです。(後略)

注:i) 引用中の「併存群」は、非障害自閉症スペクトラム発達凸凹参照)に他の問題が併存すると障害に該当してくる人たちのようです。 ii) 引用中の「空気を読めない」に関連する「微妙な空気を読むことが困難」についてはここを参照して下さい。

加えて、金沢大学子どものこころの発達研究センター監修、竹内慶至編の本、「自閉症という謎に迫る 研究最前線報告」(2013年発行)の 第3章 自閉症の多様性を「測る」――脳科学からのアプローチ(著者:菊知充、三邉義男) の「共に生きる社会を目指して」における記述(P135~P136)を次に引用します。

私は、いままでに大人を中心に精神科医として仕事をして、自閉症の成人期にあたる方々をたくさん見てきました。
仕事をする中で、しばしば悲しく感じることがあります。それは、おそらくは就学前の幼児期には無邪気で屈託のない性格であった彼らが、いつの間にか(おそらく就学期間中にあるいは就労中の不適応の果てに)すっかり自信を失ってしまっていることです。
この根源にあるのは、これまでに述べてきたような、生まれもっての多様性が、周囲にマイノリティ(社会的少数者)として否定的にあつかわれる環境であり、これこそが彼らを苦しめていると感じています。彼らは、ただ普通に仕事して、穏やかな生活をしたいだけなのに、それがうまくいかなくて困っているのです。実直な彼らは、歳を重ねるに従い、日々を生きるだけで大いに罰を受けているような気持ちが深まっていきます。多くの場合、親が期待しているような、普通の社会生活ができていないことに、自己嫌悪を感じて苦しんでいるのです。
とくに言いたいのは、知的障害のない自閉症のケース(高機能自閉症アスペルガー症候群)です。彼らの中には、知的障害がないがゆえに「定型=普通の発達」とみなされ、特別な配慮もなく、定型と同じ発達を遂げるように期待されつづけてきた人もいます。しかし多くの場合、周囲の期待に応えられず、そのために周囲から落胆され、自己嫌悪に陥ってしまうのです。

一方、この少数派のエンパワーメントに関連して、米田衆介著の本「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」の 第七章 アスペルガー障害を生きのびるということ の『「アスペ力」に目をむける』項における記述の一部(P252)を次に引用します。

(前略)「アスペ力」は、際立った論理性や数理的な能力などの特殊な力を指す言葉ではありません。他者の感情よりも客観的な事実を価値の基準として重視する、ある意味で超俗的な生活態度、あるいは実体のない感情や心に左右される社会を相対化する視点とでも考えるのがよいのではないでしょうか。(中略)

アスペルガー者にはアスペルガー文化があります。
重要なのは、アスペルガー者を健常者に見せかけることではなく、アスペルガー文化をエンパワーメントすることなのです。すでに社会の一部となっているアスペルガー文化や、生まれつつある当事者活動の文化などを通じて、一般社会のなかでアスペルガー的な世界観を積極的に主張していくことが必要なのだと思われます。そのような世界観のキーワードは、「事実の重視」「情報の共有」「他者の高いスキルへの惜しみない賞賛」「自分の間違いを教えてくれる人への感謝」「異質であることの尊重」「無用な同調性の排除」「具体的な目的のための結束」「目的の手段としての自己」「社会的フォルマリズム」などなどです。このような見解は間違いなく少数意見ですが,遠くない将来に、その状況が変わっていくことを心から祈っています。

注:i) 引用中の「エンパワーメント」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「エンパワメント/エンパワーメント(empowerment)」 ii) ちなみに、引用中の「他者の感情よりも客観的な事実を価値の基準として重視する」ことに基づいて行動するデメリットの例についてはここ及びここを参照して下さい。

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≪余談4≫その他のミニ余談

その他の様々なミニ余談を以下に示します。

[1] アスペルガー症候群の人は「子どものとき」も困っていた?
加藤進昌著の本、『ササッとわかる「大人のアスペルガー症候群」との接し方』(2009年発行)の『アスペルガー症候群の人は「子どものとき」も困っていた?』における記述の一部(P28)を次に引用します。

大人になるまで気づかれないアスペルガー症候群の人も、本人自身は子どものころから「困り感」をかかえながら生きています。

人によって、アスペルガー症候群の症状の出方はさまざまですが、本人は、成長の過程で「自分は他の人たちとどこかが違っている」「なんとなく生きづらい」と、感じているものです。(後略)

[2] クレーマーになる
杉山登志郎著の本「発達障害のいま」(2011年発行)の 第九章 未診断の発達障害、発達凸凹への対応 の「大人の発達障害の特徴」項の記述の一部(P234~P235)を次に引用します。

10. クレーマーになる
これは最悪の形態の一つである。あらかじめいえば、クレーマーの全員が発達凸凹ではない。大きく分けると、発達凸凹系のクレーマーと、虐待系のクレーマーに大別できると思う。もちろんこの両者が重なることがあって、そうなると最強のクレーマーができあがる。
なぜこんなことが断言できるかというと、親子並行治療をおこなった親の側に、かつてクレーマーとして地域の学校などに名をはせていたお母さんが何人もいたからである。本に書いてあることを頭から信じ、行間にあるものを読まない。対人的な相互交流ができず、情緒的なやりとりができない。これまでの対人関係で被害的になっていて、実際にだまされたりしたことも多い。しかも正確無比な記憶をもっていて、ちょっとした言葉の違いや、相手が言った「子どものためにすべてをおこなうのが学校の役目」などという言葉を真に受けしかも盾にする。世間的な常識は期待できない。これらが総合されると、恐るべきクレーマーに転ずることは了解いただけると思う。
本人が正論と考えている常識的には無理なことを一方的にまくし立てれば、言われた側は引いてしまいその一部が実現する。するとこれがクレーマー側に誤学習の機会を与える。つまりこのような一方的な要求こそ、相手に通じると思い込むようになる。もう一つ、発達凸凹×虐待タイプのクレーマーの場合、気分の上下がしばしばあって(とくに双極Ⅱ型)、普段はうつになっているのだが、ときどき訪れる(季節の変わり目が多い)軽躁状態になったとき、突然に恐るべきクレーマーに変身するというパターンがある。

注:i) 引用中の「誤学習」については、リンク集(4)を参照して下さい。一方、これに関連するかもしれない用語「レスポンデント学習、オペラント学習」については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。 ii) 引用中の「双極Ⅱ型」は、おそらく双極性Ⅱ型障害のことであり、これについては他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。[用語:「双極性障害」] iii) ちなみに、境界性パーソナリティ障害においてもクレーマーに関連する記述があります。他の拙エントリのここを参照して下さい。

[3] 怒りをコントロールする
備瀬哲弘著の本、「大人のアスペルガー症候群が楽になる本」の「7 怒りをコントロールする」項における記述(P293~P294)を次に引用します。

当事者が取り組みべきポイント7 怒りをコントロールする
ケース・スタディでもあったように、アスペルガー症候群の当事者の中には、とても怒りっぽい人がいます。
怒りは、他人を遠ざけます。「できれば近づきたくない人」として、疎まれたり嫌われたりする原因になります。そうなると、理解や配慮をお願いすることはできません。
自分の性格に関して指摘を受けることは、だれでも耳が痛いことでしょう。しかし、現実に問題がある場合には、それから目を背けていては、適切な理解と配慮は得られません。
性格傾向はもちろん十人十色ですが、とりわけ人との関係を悪化させるのは怒りです。社会生活を営むうえで、怒りはなんとしてもコントロールすべきなのです。
感情がコントロールできずに怒鳴ってしまうのであれば、唐突に席を立って、トイレで顔を洗うほうがずっとましです。そのうえで、落ち着いたら非礼を詫びましょう。
これは、世の中を渡っていくためのソーシャルスキル(社会的技術)です。
理屈では自分が正しいと思うこともあるでしょう。しかし、正しいか否かは問題ではありません。
怒りを面に出さないようにコントロールすることはとても重要なのです。

[4] ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない
注:ちなみに、標記項目に関連して、a) 引用 b) 文章『「その業者とは今後も付き合いが続くのに、怒らせたあとどうするつもりなのか」が理解できませんでした。』を含むWEBページはにおけるリンク先、 c) 文章「三〇回も仕事をクビになった」を含む引用はここ もそれぞれ参照して下さい。

米田衆介著の本「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 第三章 さまざまな症状とそれが生じる理由 の「六 ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない」項における記述の一部(P116~P118)を次に引用します。

六 ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない
アスベルガー者は、たとえば遅刻や挨拶をしないとどうなるかが予測できていないことがあります。難しい言い方をすれば、社会的な規範からの小さな逸脱の結果が予測できないというわけです。島田さんの場合、それは職場への遅刻、身だしなみなどにあらわれていました。
実はほとんどのアスベルガー者は、法律や条令など、明確な言葉で定義されている社会規範についてはふつうの人以上に厳格で、どちらかと言えば潔癖なルールへのこだわりすら示すことが多いのです。
ところが、必ずしもはっきりとは示されない日常生活レベルでの弱い社会規範については、まったく無視してしまうことがあります。例を挙げれば、顔を洗わない、歯を磨かない、髪を洗わないなどの「些細な」不潔などを非社会的であると認識しないか、認識しても意に介さないことなどです。
論理的に言えば、多少不潔であっても異臭がするほどでなければ、他人に迷惑をかけていないとも言えます。しかし、ふつうの人はそう考えてくれません。「汚い身なりで自分の前に出てくるということは、自分を軽んじる行為である」という無意識の論理がふつうの人にはあるからです。アスベルガー者にこれがよくわからないのは、例の”猿山原理”がわからないからです。
このようないわゆる非常識は、就労すると、とくに目立つようになります。この種の非常識を別の言い方で説明すると「行為そのものの物質的な結果と、その社会的なインパクトとの区別がよくわかっていない」ということになるでしょう。
遅刻を例にとって、このことを説明してみましょう。五分遅刻するという場合、そのことによる労働時間の実質的な減少は誤差の範囲でしかありません。したがって、そのことの物質的な影響は小さいのです。しかし社会的なインパクトとして考えた場合、遅刻がたび重なった場合には、その物質的影響にまったく見合わないような、強い否定的な評価を受けることになります。職場で信用されなくなる、場合によったらリストラの対象にされるなどといったようなことです。アスペルガー者は、そのことを直感的には認識できないのです。この人たちが「社会的なルールがわかっていない」と他人から言われる原因は、この辺にもあります。

注:i) 引用中の「”猿山原理”」に関連するかもしれないブログを次に示します。「自閉症スペクトラムと猿山の関係について」 ii) 引用中の「島田さんの場合」の詳細について、米田衆介著の本「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 第一章 「アスペルガー者」とはどんな人たちなのか の「一 あまりにマイペースな島田さん」項における記述の一部(P18~P26)を以下に引用します。 iii) 引用中の「ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない」に関連する「想定される結果をみずから想像することが苦手」については、宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第4章 不適応を予防するには移行期の学習が大事 の『私たちの想定より早い段階で「わからなさ」が始まる』項における記述の一部(P86~P90)を以下に引用します。ちなみに、この引用には「見知らぬ場所や新しい環境が苦手」についての説明が含まれます。

島田一郎さんは、二七歳のシステムエンジニアです。四年制大学の工学部で学び、必修単位を落としたため卒業は一年遅れましたが、その後IT系の企業に入社しました。技術的な面では、より実践的な訓練を受けてきた専門学校卒の同僚たちと比べても遜色がない、と自分自身思っています。しかし上司からは評価されていません。
精神科を受診した初日は、職場の先輩Tさんと一緒にやってきました。島田さんはまず、受診のきっかけをこのように話しました。
「先月から、なんだか会社に行く気がしなくなって……。先週からは、ずっと休んでいるんです。会社からは、医者に行って診断書をもらってこいと言われたし、大学のときの友達から『おまえ、アスベルガーじゃねえの?』と言われて、気になったので……」

職場の同僚の印象は
受診についてきた先輩に話を聞きました。上司に言われて仕方なく、といった様子です。島田さんの職場での問題について聞くと、次のような苦情が次から次へと飛び出してきました。
「島田は、本当は悪い奴じゃないんですよ、たぶん。まあ、鈍いっていうか、イライラさせられるのは事実ですけどね。こっちの話は通じないし、どうでもいいところにこだわって変な質問をしてくるし……。しかも、同じことを何回も連続で聞いてくるんですよ。全然、教えた仕事を覚えてないみたいなんです。ふつう、むかつきますよね。それも、申し訳なさそうに聞くならまだしもですけど、当然だ、みたいな態度で聞いてくるんですよ。仕方ないから教えてあげてますけど。
仕事を覚えないって言ったのは、指示しても、言葉尻に引っかかって見当違いのことばかりするからです。その仕事全体に、どういう目的があるかがわからないみたいで。こちらも説明はしているんですが、どうもわかってもらえないようです。給料をもらっている以上、仕事はしてほしいんですけど……。任せるとかえって仕事が増えるので、任せられないんです。
僕たちは我慢していますが、会社の外部との対応はさせられません。言葉は丁寧なんですけど、取引先にも、とんでもなく失礼なことを平気でしちゃうんですよ。たとえば、ふつうは相手の間違いとかをストレートに指摘しないじゃないですか? でも平気で『そちらのミスですよね』なんて言うんです。『その言い方はまずいだろ』と教えるんですが、意味がわからないみたいで、ぽかんとしてるんですよ。
あと、訪問先で会議室に案内してくれた相手が、謙遜して『散らかっていて、汚いところですが』とか言うじゃないですか? そしたら平気な顔で「片付けましょうか?』とかね。よく”空気が読めない”とか言うことがありますけど、そういうレベルじゃなくて、本当にありえないようなことなんで……。僕たちも、どうしたらいいのか、困っているんです。
せめて外見だけでもちゃんとしてくれればいいんですけど、いつも寝癖がついてて……。ネクタイも毎日同じだから変に薄汚れているし、たぶん週に二回ぐらいしか風呂入ってないと思います。さすがにそれは、本人には指摘できなかったですけど。
机の上なんて、ゴミの山になっていて、とても仕事をする机には見えないです。書類を紛失したり、提出が遅れたりがしょっちゅうで。あと、遅刻ですね。まあ一応先輩として、『理由もなく遅刻はするな』って説教したら、まるで全人格を否定されたような顔をしてました。ああいうの、今の若い人ありますよね? なんか逆に恨まれるのも、ちょっとやばいかなーって思って、あとで合コンに誘ってやったんですが断ってきて……。すっかり拗ねちゃってて、可愛げがないんですよ、あいつ。気持ちが通じないっていうか、まあ、ここだけの話ですけど、ぶっちゃけ一緒に働きたくないタイプだって思いますよ」
先輩にはかなり酷い言い方をされていますが、実際島田さんのそうした言動のために、取引に失敗したり仕事の進行に差し支えが生じているので、会社としては現実的な損害を受けているようです。
はじめはやる気の問題だと思って、叱ったりおだてたりといろいろ工夫してみたものの、まったくうまくいかなかったそうです。仕方がないので、仕事量を減らして様子を見ていたところ、先週になって本人が連絡もなく休むようになったので、最近よく聞く”職場のうつ”ではないかと心配して、上司が指示して本人を受診させたということです。

仕事の現状
問診してみると、島田さん本人も職場で相当な困難を感じていることがわかりました。ここで、受診時の会話を少し再現してみましょう。
医師 仕事はうまくいっていますか?
島田 仕事はちゃんとやっています。指示された作業は何とかできていますから。
医師 そうですか。
島田 ただ、顧客との打ち合わせでは、相手の言っていることがわからないので、しつこく聞こうとすると、怒らせてしまいます。上司に、今後は打ち合わせに出なくていいと言われました。自分としては一生懸命やったので、そこまでされるのは酷いと
思います。
職場では「いちいち指示されなくても、自分で考えてやれ」と言われてます。でも、どう考えていいかわからないんです。ちゃんとマニュアルがあればできるんですが。
曖昧な指示について上司に質問しても「自分で考えろ」と言われてしまうので、仕事がさっぱり進みません。仕方がないので、何とか自分なりに考えておこなった仕事の成果を持って行くと、見当違いだったみたいで、「何を考えてるんだ!」と小一時間も説教されました。もうどうしていいのか、さっぱりわかりません。
医師 作業の目的とか、全体の状況から考える、ということはできていると感じますか?
島田 うーん、難しいですね。よく「作業全体の意味をしっかり考えろ」とか「進捗をきちんと報告しろ」とか言われてますが……。確かに個々の作業に注目すると、全体のことを忘れてしまうところはあります。
医師 報告のほうは?
島田 なにを報告していいのか、わからないんです。タイミングっていうか。ちゃんと作業ができていれば、いちいち報告しなくてもいいような気がします。時間の無駄ですし。
医師 書類なんかの提出が遅れるみたいだけど……。
島田 どう書いていいかわからなくて。考えているうちに、締め切りを過ぎてしまいます。人事考課の季節になると、自分自身の目標を書いて提出するんですが、別に書くこともないので先延ばしにしてしまうんです。とくにプログラミング技術そのも
のが好きなわけではないので、心にもないことを書くのもどうかと思うし……。
医師 人間関係はどう?
島田 あまり、仲のいい人はいません。入社して三年たつので後輩もできたんですが、今では後輩のほうが大切な仕事を任されているんで、面白くはないですよね。後輩は調子がいいんで、上司に気に入られているんです。たぶん、私は嫌われていると思
います。
医師 最近は会社を休んでいたの?
島田 このところ、疲れやすくて。なんか、出社するのが面倒で。
医師 何か、会社に行きにくくなるきっかけがあった?
島田 どうせサービス残業しているんだし、疲れてるから朝起きるのが面倒で、最近は五分、一〇分遅刻してたんです。そうしたら先輩に、「そんな態度なら、会社を辞めろ!」と言われて。
医師 どんな先輩?
島田 今日ついてきた人なんですけど、なんか細かい人です。どうでもいいことで怒ったり、さっきまで怒っていたと思ったら今度は合コンに誘ったり、よくわからないです。たぶん、気まぐれなんだと思いますけど、なんか、ライバルと思われてるのか
もしれないです。
医師 合コンには行かなかったの?
島田 ええ、女子は苦手なんで、断りました。なんか、先輩が自分を笑いものにしようとしてるのかなって思ったもので。さっきまで怒っていたのに、不自然だったから。まさかそこまで悪意ではないとは思うけど、ちょっと嫌がらせみたいな感じで。

このように訴える人たちが、毎日のように私の診療所を受診してきます。確かにうつ病を疑うこともできます。しかし、よくよく調べてみると、ご飯はおいしく食べられるし、趣味のオンラインゲームについては楽しそうに話せるし、夜はぐっすり眠っています。何よりも、自責的なところがありません。
また、統合失調症かどうかも鑑別すべきですが、かなり被害的とはいえ、考えのまとまりには問題がないし、対人関係以外の知的な作業そのものには少しも困難を感じていません。どうやら、うつ病でも統合失調症でもないようです。(後略)

注:i) 引用中の「”空気が読めない”」に関連する「微妙な空気を読むことが困難」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「どうでもいいところにこだわって」に関連するかもしれない「細かなことに著しくこだわる」についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の「うつ病」、統合失調症については、他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

私たちの想定より早い段階で「わからなさ」が始まる(中略)

ASDの人たちは相手の意図を汲みとったり、想定される結果をみずから想像することが苦手ということでもあります。なにをしてよいかわからなくなったとき、これはどういう意味なんだろう? 自分はなにを求められているのだろう? 彼らは状況(その中には、相手の表情など非言語的な要素がたくさん含まれています)から類推することが苦手です。そのことは、通常の社会生活において、コミュニケーションの質的障害となっています。
その場の状況を読むことや、他人の表情などから、そのときの会話で言われている本当の意味を推論すること、自分に要求されているものはなになのか? それはどのようにしたらよいのか? そのとおりにならなかったらどうすればよいのか? わからないことは誰に尋ねればよいのか? はたして聞いてよいのか? ASDの人たちはそれらがわからず途方にくれているということです。
文脈を理解することが苦手ということは、ASDの人たちの問題の中心といっていいでしょう。ASDの人たちはなじみがない、見知らぬ場所や新しい環境が苦手です。彼らの苦手なことはそれに尽きると言ってもよいのです。

[5] 情報処理過剰選択仮説
米田衆介著の本「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 第二章 アスペルガー障害の本質 の「三 情報処理過剰選択仮説とは」項における記述の一部(P64~P68)を次に引用します。

三 情報処理過剰選択仮説とは
情報処理過剰選択仮説とは、脳のなかで問題解決のためにおこなわれる並列的な複数の処理の流れの間で、「特定の処理のみが優先されて、他の処理が抑制されてしまう」という偏りがアスペルガー障害の本質なのではないか、と考える仮説です。もっと簡単に言うと、要するに「いろいろな側面から認識できることを、一面からしか見たり感じたり覚えたりできないところに本質的な問題があるのでは?」という理解の仕方です。中身としては、前述の「弱い中枢性の統合」を含むますが、それよりも広い範囲の概念です。
この情報処理過剰選択仮説にもとづくと、すべてのアスペルガー者に共通の「中核的特性」は、次の三種類にまとまられます。これらをここでは「情報処理過剰選択特性群」と呼ぶことにします。

・シングルフォーカス特性……注意、興味、関心を向けられる対象が、一度に一つと限られていること
・シングルレイヤー思考特性……同時的・重層的な思考が苦手、あるいはできないこと
・ハイコントラスト知覚特性……「白か黒か」のような極端な感じ方や考え方をすること

これら三種類の特性は、すべてのアスペルガー者に共通して認められるものです。これらは重なり合いながらも、かなりの場合は区別可能ですので、特性を詳細に検討するためには分けて考えたほうが理解しやすいと思われます。
この他に、すべてではないとしても、かなり多くのアスペルガー者に見られる特性があります。そうした特性は非常に多様ですが、主要なものは限られています。これを周辺的な特性として、以下にまとめておきます。

・記憶と学習に関する特性群……エピソード記憶の障害、手続き記憶の障害
・注意欠陥・多動特性群……不注意、衝動性など
・自己モニター障害特性群……自分の身体的・精神的状態に気がつけない
・運動制御関連特性群……不器用、姿勢の悪さ、運動学習の障害
・情動制御関連特性群……気分変動、”やる気がコントロールできない”など

「周辺的な特性(周辺特性)」に含まれるものの一部は、情報処理過剰選択特性群の三つの特性から直接に導かれるものです。しかし、なかには関連性が明確でないものも含まれるので、一応は周辺的特性として、分けて考えたほうがよいでしょう。
重要な点は、これらの周辺的な特性には大きな個人差があり、人によってあらわれ方や程度が著しく異なるということです。たとえば、気分が安定しているが不器用な人もあれば、器用だが不注意な人もいるといった具合です。ひとくちにアスペルガー障害と言っても多様なあらわれ方があることの原因の一つは、これら周辺特性の強さが、ケースによってまちまちであることにあります。
それから、これら周辺的な特性群は、互いにある程度独立したものなのですが、同時にそれそれが互いに関連していて、完全には分離できないということにも注意しておいてください。たとえば記憶と注意、注意と自己モニター、自己モニターと運動制御、運動制御と情動制御というふうに、それぞれの機能は互いに強く関連している可能性が高いのです。もちろん、ここに例として挙げた組み合わせ以外の、特性群同士の組み合わせについても同様なことが言えます。
患者さんの生活のなかで起こる現実の問題が、このような中核的特性・周辺的特性の組み合わせと、環境との相互作用のなかからあらわれてくると理解すると、しだいに問題の全体像が浮かび上がってくるでしょう。(後略)

注:i) 引用中の「弱い中枢性の統合」、「ハイコントラスト知覚特性」に関してはそれぞれここここを参照して下さい。 ii) 引用中の「情動」については次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から、他の拙エントリのここを参照して下さい。

[6] 物事を何でも簡単に信じてしまう
標題は次のWEBページにおける記述の一部を切り出したものでもあります「【3129】人の話を聞けない・何でも簡単に信じてしまう・異様な緊張・顔が覚えられない・・など」(注:ホームページはここ)。複数の資料において、これに類似した記述を抜き出し、以下にそれぞれ引用します。
① この引用中において「これまでの対人関係で被害的になっていて、実際にだまされたりしたことも多い。」との記述があります。

田中康雄著の本、「もしかして私、大人の発達障害かもしれない!?」(2011年発行)の 第3章 毎日の「困った!」はこうして解決 の「CASE12 お金の管理が苦手」項における記述の一部(P181)を次に引用します。、

●相手を信用してしまう
人がよすぎて疑うことをしないで、悪徳業者や詐欺の言葉巧みな説明を鵜呑みにして被害に遭うことがあります。また、人から頼まれると断れず、信用されるとがんばってしまったりして、お金を貸したり連帯保証人などになり大変な思いをする人もいます。

③ 次の pdfファイル「成人期の発達障害の臨床的問題」の P54 における記述の一部を次に引用します。

人をだまそうとしない、ごまかしが下手で誠実
(だまされやすい)

④ 宮尾益知監修の本、「女性のアスペルガー症候群」(2015年発行)の「第1章 女性はなにより人間関係に悩む」における「よくある悩み」の見出しの中に『人にだまされ、性的な被害にあう』(P22)があります。

[7] 助けを求めるのが苦手
岡田尊司著の本、「アスペルガー症候群」(2009年発行)の 第七章 アスペルガー症候群とうまくつきあう の 第四節 弱い部分を上手にフォローする の「助けを求めるのが苦手である」における記述の一部(P161)を次に引用します。

アスペルガー症候群では、子どもであれ大人であっても、深刻な問題や苦しい状況が生じているのに、必要な助けを求めることができずに、自分の中で何とかしようとして、限界を超えるまで我慢し、追い詰められてしまうということが多い。ソーシャル・スキルのある人ならば、問題が生じると、早め早めに相談し、助けを求めることで、問題解決をはかると同時に、自分のストレスを減らすことができるが、このタイプの人は、それが器用にできない。(中略)

大人では、うつ状態や不安障害、心身症という形で表面化しやすい。近年、うつ状態や不安障害で精神科を受診する人に、アスペルガー症候群などの軽度発達障害があるケースが目立つようになっている。(後略)

注:i) 引用中の「軽度発達障害」は知的障害を伴わない発達障害のことを指すようです。ただし、これは決して障害自体が軽いことの意味ではありません。 ii) 引用中の「心身症」に関しては「身体症状」項を、「不安障害」に関しては他の拙エントリのリンク集[用語:「不安障害(不安症)」]をそれぞれ参照して下さい。

[8] 仕事の優先順位がわかりにくい
加藤進昌著の本、「あの人はなぜ相手の気持ちがわからないのか もしかしてアスペルガー症候群!?」(2011年発行)の 第2章 アスペルガー症候群の特性を理解しよう の『仕事の「優先順位がわかりにくい」アスペルガー症候群の人』における記述の一部(P96)を次に引用します。

私たちは、仕事を効率よく進めていくために、仕事内容に優先順位をつけることがあります。「この仕事は急ぎだから、先にやってしまおう」「これは、まだ余裕があるから、後にしよう」……私たちは、日常的に、優先順位の高い仕事から処理していくことができます。
しかし、アスペルガー症候群の人は、この「優先順位をつける」という作業が、なかなか上手にこなせず苦労しています。
次から次へと入ってくる情報は、アスペルガー症候群の人にとっては、「同じ重みを持った情報」です。あっちの仕事より、こっちの仕事の方が優先順位が高いという感覚を持つことは、アスペルガー症候群の人には困難です。

[9] 興味の偏りが著しい
杉山登志郎著の本「発達障害のいま」(2011年発行)の 第九章 未診断の発達障害、発達凸凹への対応 の「大人の発達障害の特徴」項の記述(P230)を次に引用します。

5.興味の偏りが著しい
自閉症スペクトラムの場合、当然ではあるが、興味のあることとないことの間に著しい落差があって、興味がないことを完全に無視するということが実に多い。逆に興味のあることについては、相手の気持ちにかまわずべらべらと博識を披露したりする。典型は、デートの席で、女の子相手に地球温暖化の要因と氷河期の発生における暗黒星雲仮説についてだけ話をしてぶられた、といったエピソードである。恋愛でぶられつづけるのも辛いが、困るのは入社試験の面接である。
この代償パターンは何かというと、ハウツー本の信奉者である。女の子との付き合いにおいて「彼女の気持ちをつかむ一〇の言葉」あるいは、入社試験の面接で、「入社面接のコツはこれだ」といった本のとおりに一字一句受け答えをして、さらにふられる、あるいは試験に落ちることを繰り返すのである。

注:引用中の「興味のあることについては、相手の気持ちにかまわずべらべらと博識を披露したりする」に関連する「自分に関心のある話題に限局しがち」については、ここを参照して下さい。 ii) 引用中の「代償」についてはここを参照して下さい。

[10] 細かなことに著しくこだわる
杉山登志郎著の本「発達障害のいま」(2011年発行)の 第九章 未診断の発達障害、発達凸凹への対応 の「大人の発達障害の特徴」項の記述(P230~P231)を次に引用します。

6.細かなことに著しくこだわる
これは優先事項がおのずから分からないというハンディの克服の結果としてしばしば生じるパターンである。その結果、強迫性障害と言わざるをえないレベルまで進むことがあるが、きれい汚いにこだわるなどのよくある強迫性障害と違って、思い込みから来る誤った考え方に固執したり、未来の事象に対してそうなったら困ると心配するあまり、その方向に突っ込むという困った悪循環を生じることがある。
前者の例として、エチオピアの子どもたちは毎日ランニングを続けており、エチオピアはアフリカでもっとも犯罪が少ない国であると聞いて、ランニングが子どもの倫理観を向上させると話を直結させ、全校生徒に毎朝グランドを走ることを義務づけたアスぺ系の校長がいた。別にエチオピアの子どもたちは好きで走っているわけではなく、学校が遠距離で、交通の便が悪いから走らざるをえないだけなのであるが。
後者の例としては、健康診断で悪い結果が出ることを心配するあまり、必ず健康診断のときに緊張から本当に血圧が上がってしまい、血圧が上がらないで健康診断を受けるためにはどうしたらよいかと焦りまくり、健康診断になるとよけいに血圧が上がってしまって、という悪循環を作った、これもアスぺ系の青年などが思い浮かぶ。

注:i) 引用中の「アスぺ系」というのは、アスペルガー症候群の系統という意味でしょうか? ii) 引用中の「ハンディの克服」に関連するかもしれない用語「代償」についてはここを参照して下さい。

[11] 冗談、からかい及び皮肉等が通じない
宮尾益知の本、『「わかってほしい! 大人のアスペルガー症候群」 <社会と家庭での生き方を解消する!正しい理解と知識>』(2010年発行)の 第1章 「なんとなく生きづらい」と感じるのはどうしてか? の「冗談やからかいが通じない」項における記述の一部(P19)及び宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第1章 アスペルガー症候群とは? の「アスペルガー症候群の特徴」項における記述の一部(P39~P40)をそれぞれ以下に引用します。

冗談やからかいと、本気の発言とは、どこが違うのでしょう。
一般的に、相手との関係、状況判断、もののいい方などによって、本気か冗談かが決まります。アスペルガー症候群の人は、そのような、言葉の背後にある非言語的な部分を感じ取ることが苦手ですから、ある意味でいえば文字どおりにとってしまう真っ正直な人たちです。(後略)

注:引用中の「ある意味でいえば文字どおりにとってしまう」に関連するかもしれない引用はここ及びここを参照して下さい。

(前略)また、言葉のウラを読む想像力も少ないため、たとえ話や皮肉も通じません。アスペルガー症候群の人にとって、言葉はそのまま「事実を伝達する道具」なので、相手の言った言葉を文字どおりに受けとってしまいます。(後略)

注:引用中の「相手の言った言葉を文字どおりに受けとってしまいます」に関連するかもしれない引用はここ及びここを参照して下さい。

[12] 微妙な空気を読むことが困難
先ず、宮尾益知の本、『「わかってほしい! 大人のアスペルガー症候群」 <社会と家庭での生き方を解消する!正しい理解と知識>』(2010年発行)の 第1章 「なんとなく生きづらい」と感じるのはどうしてか? の『微妙な空気を読むことが困難で「KY」だと言われる』項における記述の一部(P26)を次に引用します。

アスペルガー症候群の人が、周囲の状況がわからない理由の1つは、全体を包括的に見ることが難しいためです。それがどのような状況であるかの説明がなされていないために、とんちんかんな行動や反応をしてしまうことになります。ですから、
「アイツ、KY(空気の読めない人)だよな」
「いつも的外れなことをいう人だ」
などといわれてしまうわけです。(後略)

注:i) 標記「微妙な空気を読むことが困難」に関しては、ここ及びここを参照して下さい。 ii) 引用中の「空気の読めない人」に関連して、a) 岩波明著の本、「大人のADHD -もっとも身近な発達障害」(2015年発行)の 第5章 ADHDとASD の「ASDとは?」における記述の一部(P121)、 b) 佐々木正美著の本、「アスペルガーを生きる子どもたちへ」(2010年発行)の 第1部 あなたがあなたらしく生きるために の「空気を読めない?」における記述の一部(P16~P18)、 c) 田中康雄著の本、「もしかして私、大人の発達障害かもしれない!?」(2011年発行)の 第2章 「私ってそうかな」と思ったら の「あの人はいつも……なぜ?」項における記述の一部(P82~P83) d) 井原裕著の本、「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」(2012年発行)の『症例4 「自分はアスペルガーではないか」と心配になって受診した名門校秀才』における記述の一部(P99~P103)を以下に引用します。ただし、最後の引用においては脚注はまとめて別途表示しています。

ASDとは?(中略)

ASDにおいては、対人関係などその場の状況に応じて対応が必要とされる状況は不得手である。その一方で、数字の記憶やカレンダー計算、パズルなど一定のルールのある作業は得意とすることが多い。
児童精神科医の本田秀夫氏は、軽症の成人ASDのイメージを次のように記載している。このような人物は、われわれの周囲にもいそうである。

雑談はあまり好まず、自分に関心のある話題に限局しがちである。関心のない話題ではあまり周囲に合わせようとせず、興味がないことが露骨にわかってしまう。関心のある活動には他者の目を気にせずに熱中する。

状況判断能力に乏しく、場違いな言動で周囲をハラハラさせることや、空気を読まないと評されることがしばしばある。他者の考えに無頓着で、自分が他者からどのように思われるかも気にしない……

(本田秀夫『子どもから大人への発達精神医学』金剛出版)

空気を読めない?(中略)

あるとても高機能の青年が、著名な大学の大学院を卒業して、企業の研究所に就職したのですが、周りの人との関係にさまざまな難しさを感じて、仕事を辞めなければならないところまで追い込まれている、という相談があったのです。最近はよく似たケースの相談が増えてきました。
彼は、私が定期的におこなっている勉強会に来ていたのです。彼はみんなの前で自由に発言をしたのです。自分はアスベルガー症候群と診断されている、そして自分はこういうことで困っている……。
「それでは、私のほうから職場の人に説明をして、お願いできることがあったら頼んでみましょうか。それがどれほどのお役に立つかわかりませんが」。私はそのように申し出たのです。そして、この機会にご家族にもしっかり理解してもらったほうがいいということで、ご両親や職場の上司にも同席していただいて、ゆっくりお話し合いをしようということになったのです。
私は車で出かけ、その会場に数分前に着いていたのですが、駐車場が混んでいたために、部屋までたどり着いた時には、約束の時間に一分遅れていたらしいのです。すると、そのアスベルガー症候群の青年がいきなり、「佐々木先生、一分遅刻しましたね」と言ったのです。
彼は、時間に対して非常に正確なたけなのです。「ああ、本当ですね。一分遅れましたね」と私は言いました。その青年は、正確に事実を事実として言っただけなのです。
ところが、会社の上司と青年のお父さんは、「だしぬけに、なんて失礼なことを言うんだ」「おまえの問題がなければ、先生にここに来ていただく筋合いのものでもなんでもないのに、わざわざお見えいただいている先生に対して、『一分遅刻しましたね』とは、なんて礼儀知らずだ」というわけです。一般の人の言う「空気が読めない」ということの典型例でしょうね。
普通の人にとっては、「お忙しい中を自分のためにおいでいただき、ありがとうございます」などと言うのが礼儀だろうというわけです。しかし、彼にとって私がどれくらい忙しいか、知らないのは当然なのです。彼にとっては、正しい事実を言っただけなのですね。

「あの人はいつも……なぜ?」(中略)

アスペルガー症候群と診断されたPさんは、「空気を読む」のが大の苦手です。
期限間近の金曜日の夕方になって、チームみんなでやっている仕事に急な変更がありました。週明けの納品に間に合わせるには、チーム全員が残業しないと間に合いません。
みんなが手分けして作業分担を決めているうちに、定時になりました。Pさんはいつも通り、帰り支度を始めます。当然、みんなからはブーイングの嵐です。
Pさんは、この状況を「これから緊急の仕事は全員に分担されるのだな」と読み取ることができません。
明確な説明がなければ、「私の作業分担は何かな」と指示を待ったり、「私も、何か手伝うことはありますか?」と自分から声をかけることも思いつかないのです。
だからいつものように帰ろうとしたわけです。

症例4 「自分はアスペルガーではないか」と心配になって受診した名門校秀才

「自閉性障害の3要素があります!」

保泉重信さんは、名門進学校の生徒。お母様と共に来院した。高校3年の8月。受験勉強もそろそろピッチをあげなければならない頃であった。

井原:(待合室へのマイクでの呼び出し)「ほずみしげのぶさん、1番診察室にお入りください」

保泉重信さんは、長身・痩軀の若者。首を縮めるようにして入室。話すとき、目をしばたきながら話す。話し方はかなり早口だが、読点のない文章のような、メリハリのない単調な話し方である*1。お母様は、うしろからついてきた。いかにも「何でここに来なけりゃいけないのか」といった投げやりな感じである。

井原:保泉重信さんとお母様ですね。お待たせしました。どうぞ椅子におかけください。先ほど、初診のアンケートを読ませていただきました。ご記入くださってありがとうございます。高校3年生で、「うつ、不安」ですか。そして、えっと「アスペルガーではないか?」ということですか*2。なるほど。そう思ったのは、お母様、それとも……。
母親:私ではありません。本人です。私は「アスペルガー」って何のことかわからなくて、「アルツハイマー」と勘違いしていて、「受験勉強でなかなか覚えられないって言ったって、まさかぼけたわけじゃあるまいし」ぐらいにしかとらえていなかったんです。この子は、この何カ月かアスペルガー関係の本を読みあさっていて、「自分はこれだ」と言うんです。私は半信半疑でしたけど、あんまりうるさく言うんで、一度専門家に診てもらおうということになりました。
井原:なるほどね。重信さん、いったいどの辺がです?
重信:社会性の障害、コミュニケーションの障害、想像力の障害です。
井原:はあっ?
重信:ですから、社会性の障害、コミュニケーションの障害、想像力の障害です*3。
井原:何だって?
重信:自閉性障害の3要素が自分にはあって、知能は低くない。こうなると高機能自閉症アスペルガー症候群だけど、自分の場合、言語の発達に問題はなかったから、そうなるとアスペルガー症候群か。
井原:ううん、なんだかすごい説明だね。教科書に書いてあるとおりだぞ。医学生の答案なら合格点をやれるな。でも、具体的にはどういうことなんだろうね。
重信:集団行動が苦手である。言葉はそんなに問題ないけど、脈絡なく難しい言葉を使ってしまう。人の気持ちを察するのが苦手で、場の空気を読むのがうまくない。とにかく、友達にもしょっちゅう「KYだ」と言われます*4。
井原:ううむ。あまりにも模範解答すぎるなあ。お母さん、どう思いますか。
母親:普通だと思うんですけどね。私は、こんなもんだと思っていました。一つ上の姉がいるんだけど、姉と比べてこの子は少し変わっていましたよ。でも、まあ、うちのお父さんだって変わった人だしねえ。男の人はこんなもんですよ。
井原:なるほどねえ。まあ、具体的に詳しい話は、お母さん、あとから伺います。ちょっとご本人からお話を伺ってみてもいいでしょうか。
母親:いいですよ。私は外で待ちましょうか?
井原:そうですね。ドアの向こうの椅子でお待ちください。すぐにお呼びしますので。

事件好きが高じてアスペに凝りだす

井原:いつごろ、アスペのこと知ったんだい?
重信:結構最近です。2年の3学期ごろですかね。図書館で少年事件のこととか本でいろいろ読んでいたんです。浅草の「レッサーパンダ事件」(注9)とか、大阪で姉妹を殺した「死刑でいいです」事件(注10)とか。そこでアスペルガー症候群のことが出ていて、「これって、マジ、俺のことジャン」と思ったんです*5。
井原:いろいろ本を読んでみた?
重信:読みました。本は2、3冊ですけど、ネットでわかることはひととおり調べました*6。病院もいろいろ調べました。僕、凝り性なんで、調べるなら徹底的に調べたいんです。先生のこともネットでチェックしました。
井原:ええっ。手ごわいなあ。
重信:獨協越谷のホームページ見ましたけど、「人のこころを察することが苦手」ってのは、まさにそのとおりですね。
井原:具体的にはどういうところが?
重信:要するに、そのとき相手がどういう思いでいるかがわからないんですよ。人のジョークとかからかいとかがよくわからない。それに場の雰囲気が読めなくて、その場にふさわしい言動とかができない。どうしても浮いてしまう。顰蹙を買ってしまう。まあ、そんなところですね*7。(後略)


脚注:
*1 発語の音楽的成分(抑揚、リズム、強弱、緩急など)を「プロソディ」と呼ぶ。プロソティの障害は、一般には、運動性失語など器質性障害に顕著だが、統合失調症慢性期にもあり、広汎性発達障害にも軽度に認められる。
*2 「自分は○○障害ではないか?」と言って、自ら受診する患者は非常に多い。「アスペルガー症候群」のほかには、「注意欠陥/多動性障害」「双極性障害」「社交不安障害」などがある。
*3 まるで医学部の口頭試問のようなやりとりである。この極度に字義どおりの返答こそ、アスペルガーらしい。しかも、本人はその堅い返答の奇矯さに気づいていない。
*4 アスベルガー症候群を含む広汎性発達障害は、その全員がいわゆる「KY(空気か読めない)」である。KYでなければ、広汎性発達障害とはいえない。しかし、KYが全員広汎性発達障害というわけではない。
*5 凄惨な事件についての本を、当初は他人事だと思って興味本位で読んでいたら、そこに自分に似た記述を発見して驚いたらしい。自分が事件を起こす人たちと同類ではないかと、本気で心配しているのかもしれない。
*6 アスペルガー症候群の患者たちは、「興味・関心の偏り」という特性を逆手にとって、診察までにかなりの勉強をしてきている。こちらの知識のなさを指弾することすらあるので、なかなか手ごわい。
*7 知的なアスペルガー少年の常として、かなり冷静な自己分析ができている。しかし、他者に比しての自己の工キセントリシティを認識できるということと、その認識にしたがって行動できることとは別問題である。
(注9) レッサーパンダ帽男事件。平成13年4月に東京浅草にて、レッサーパンダの帽子をかぶった当時29歳の男が、たまたま前方を歩いていた19歳女性を包丁で刺して、失血死させた事件。男に軽度の知的障害と発達障害があるとされた。
(注10) 大阪姉妹殺害事件。平成17年11月に大阪市で当時21歳の男が当時27歳と19歳の女性を刺殺した事件。男はその5年前にも実母を金属バットで撲殺している。被告人は、「人を殺すにも物を壊すのも同じ」「反省はしないけど死刑でいいです」と供述。広汎性発達障害ではなく人格障害であるとして、裁判長は完全責任能力を認め、死刑判決。平成21年に執行された。

注:引用中の「自閉性障害の3要素」に相当する『ウィングの「三つ組み」仮説』については、リンク集を参照して下さい。

[13] 余計なことを言う
宮尾益知の本、『「わかってほしい! 大人のアスペルガー症候群」 <社会と家庭での生き方を解消する!正しい理解と知識>』(2010年発行)の 第3章 職場やまわりの人に溶け込めないのはなぜ? の「余計なことをいってしまい、浮いた存在になる」項における記述の一部(P89)を次に引用します。

いってもいいこと、いけないことはどうやって決めるのでしょうか。
物事をいってもいいか悪いかは、相手がその言葉にどう反応して、どんな気持ちになるかを考えないとわかりません。
相手をいやな気分にさせてしまったり、その場の雰囲気に合わないことや余計なことをいってしまうのは、アスペルガー症候群の人の特徴だといえます。

例えば、「やせましたね」という言葉は、ダイエットをしている人には喜ばれるでしょうが、重い病気の人には禁句です。(後略)

注:i) 引用中の「いっても(中略)いけないこと」に関連する「事実であっても口にしてはならないことを言ってしまう」については、ここ及びここを参照して下さい。 ii) 標記「余計なことを言う」に関連するかもしれない「微妙な空気を読むことが困難」については、ここを参照して下さい。

[14] オープンクエスチョンには答えに窮する
姜昌勲著の本、『あなたのまわりの「コミュ障」な人たち』(2012年発行)の 第1章 精神科医が見た「コミュ障」という困った人たち の「アスペルガー特性 あいまいなことが苦手 混乱してしまう人たち」項における記述の一部(P84~P85)を次に引用します。

(前略)彼らは、目に見えないことをイメージするのが非常に苦手です。逆に、すでに視覚化されているものに対する記憶力は優れています。また、抽象的なコミュニケーションは苦手です。「最近、調子どう?」というような「オープンクエスチョン」には答えに窮してしまいます。

オープンクエスチョンというのは、何を答えてもいい、回答の自由度が高い質問です。「最近、調子どう?」というのはその典型ですね。これと対照的なものに、「クローズドクエスチョン」があります。これは、「あなたは男ですか?」、というような「Yes or No」で回答できるような質問です。
普通の人なら、だいたいどちらの質問にも、柔軟に答えることができますが、アスペルガー特性を持つ人にとっては違います。「何を答えてもいい」状況になると、途端に混乱してしまうのです。

注:引用中の「抽象的なコミュニケーションは苦手」に関連した「抽象的で曖昧な表現が理解できない」ことについて、宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第1章 アスペルガー症候群とは? の「アスペルガー症候群の特徴」における記述の一部(P39)を次に引用します。

(前略)抽象的で曖昧な表現が理解できないのです。「どうしてそうするの」と尋ねると「どう」とは“?”となり、「そうするの」で“?”と一つひとつ悩んでしまいます。これは想像力を働かせることができないからなのです。(後略)

注:引用中の「想像力を働かせることができない」ことを含む『ウィングの「三つ組み」仮説』についてはリンク集を参照して下さい。

[15] 実際の経験によらなければ学べない
テンプル・グランディン、ショーン・バロン著、門脇陽子訳著の本、「自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール」*29の 第3幕 人間関係の暗黙のルール10ヵ条 の「③人は誰でも間違いを犯す。一度の失敗ですべてが台無しになるわけではない。」 における記述の一部(P210~P211)を次に示します。

テンプルの考えもショーンと一致する――
社会性を磨き、人間関係のルールを理解できるようになるには、実社会に出て行って経験を積むことが必要です。それは、リスクを引き受け、ときには失敗することを意味します。それを思うと不安になるかもしれませんが、あえて受け入れ、前に踏み出さなければなりません。一五年前に知り合った自閉症のある青年は、毎日、部屋にこもって雑誌を片っ端から読んでいました。情報を十分に蓄えさえすれば、社会的思考が身につくと思っていたのです。実社会を肌で体験し、人間関係の舞台に上がる方法を身につけなければならないことを、彼はわかっていなかったのです。
実際にやらなければ身につきません。たとえ失敗しても、舞台に立って演じなければ何も身につきません。これは、とりわけ自閉症スペクトラム障害のある人にあてはまるルールかもしれません。定型発達の人は観察や読書、他人の経験を通して学ぶことができるので、このルールがことばにして教えられることはあまりないかもしれません。でも、自閉症スペクトラム障害のある大半の人は、実際の経験によらなければ学べないのです。

注:i) 著者のテンプル・グランディン氏の他の著作例と能力例はそれぞれここここで紹介されています。 ii) この引用に関連するかもしれないことわざを利用した文章を次に示します。『「人の振り見て我が振り直せ」が困難』 iii) ちなみに、この本における「人間関係の暗黙のルール」の項目については、本項の脚注を参照して下さい。

[16] 状況の意味を読み取るためにたくさんの練習が必要
テンプル・グランディン、ショーン・バロン著、門脇陽子訳著の本、「自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール」の 第2幕 二つの思考・二つの道 の「思考は行動に影響する」 における記述の一部(P120~P121)を次に示します。

(前略)自閉症スペクトラム障害のある人の中には、たった一度の体験で状況の意味を読み取れる人もいれば、たくさんの練習が必要な人もいます。私は一度だけ仕事をクビになったことがありますが、その一度の体験で、最優先なのは職を維持することで、そのためには何でもしなくてはならないということを学びました。最近、三〇回も仕事をクビになったという、アスペルガー症候群のある男性の話を聞きました。顧客に対して、あなたはデブだとか不細工だとか、事実であっても口にしてはならないことを言ってしまうせいなのですが、彼はいまだに自分の行動が不適切であるのを理解していません。(後略)

注:i) 引用中の「私」は著者のテンプル・グランディン氏のことです。ちなみに、彼女の他の著作例と能力例はそれぞれここここで紹介されています。 ii) 引用中の「事実であっても口にしてはならないことを言ってしまう」に関連する「余計なことを言う」については、ここを参照して下さい。 iii) ちなみに、この本における「人間関係の暗黙のルール」の項目については、ここの脚注を参照して下さい。

[17] 記憶が消えなくて苦しむ
佐々木正美著の本、「アスペルガーを生きる子どもたちへ」(2010年発行)の 第1部 あなたがあなたらしく生きるために の「記憶が消えない苦しみ」における記述の一部(P37~P38)を次に引用します。

記憶が消えない苦しみ(中略)

直接お会いしたことはないのですが、アメリカ自閉症協会の理事でもあり、広報を担当していらしたチャールズ・ハートさんは、自閉症の息子さんの父親であり、『Without Reason』(邦題『見えない病』晶文社、一九九二年)という本を書いている人です。その中で「自閉症の人の最も基本的な特性は何か、と言われたら、ものごとを忘れることができなくて苦しんでいる人だ、と言いたい」と記していらっしゃいます。
自閉症の娘さんの母親である、イギリスのローナ・ウィングさんは「想像力、イマジネーションが働きにくくて苦しんでいる人というような理解をされているが、自分がいちばん言いたいのは、苦しめられたことや傷つけられたことを忘れなくて苦しんでいる人たちなのだ」と表現されています。
傷つけないでください、苦しめないでください――これは、何もかもすべて過保護に甘やかしてほしいという意味ではありません。忘れてしまいたいようなつらい体験が、消え去ることも薄れることもなく蓄積されているというのは、どれだけ苦痛であるか理解してあげてほしいということをおっしゃっているのです。(後略)

加えて、標記「記憶が消えなくて苦しむ」に関連する「いつまで経っても忘れることができない」について、杉山登志郎著の本、「発達障害のいま」(2011年発行)の 第六章 発達障害とトラウマ の『三つの問題』項における記述の一部(P142)を次に引用します。

それにしても子ども虐待をはじめとする迫害体験がなぜこれだけ重大な結果を引き起こすのか。
これには自閉症スペクトラム独自の体験世界と、さらにそれに関連する独自の記憶の病理であるタイムスリップ現象が関係している。あらかじめこれらの要因を含めて整理をすると、自閉症スペクトラムとトラウマとの関連には次の三つの問題がある。

1. 自閉症スペクトラム障害の場合、普通に生活をしていても、怖い世界が広がっていて、トラウマ的になりやすい。これはとくに知的な障害をもつ子どもにおいて著しい。
2. 自閉症スペクトラム障害の場合、タイムスリップという、トラウマにおけるフラッシュバック類似の記憶の病理が介在し、普通なら年月が経てば忘れてしまうようなことがいつまで経っても忘れることができない。長い時間が過ぎたあとに、些細なきっかけで再現に至ることも多い。
3. とくに診断が遅れやすい知的な遅れのない自閉症スペクトラム障害の場合、子ども虐待の高リスクとなり、もともとの発達障害の基盤にトラウマが掛け算になることも多い。

注:引用中の「タイムスリップ現象」「フラッシュバック」は他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。

[18] 特性を活かす
岡田尊司著の本、「アスペルガー症候群」(2009年発行)の 第九章 進路や職業、恋愛でどのように特性を活かせるのか の 第一節 アスペルガー症候群の強みとなる特性とは の「優れた部分を伸ばそう」における記述の一部(P216~P217)を次に引用します。

アスペルガー症候群の人は、対人関係を楽しむことが少ない分、仕事や趣味で大きな喜びを味わうことができる。このタイプの人が恵まれた人生を歩むためには、喜びや生き甲斐を見出せる仕事や趣味に出会えることが不可欠である。そのためには、あまり「平均的な」ものを目指さない方がよい。その人のユニークな特性を活かすことにこそ、活路が見出されるのである。
アスペルガー症候群やその傾向をもった人が、社会で活躍しているケースをみると、よき理解者に恵まれ、弱い点にとらわれずに、むしろその人の特性を活かして、強い点を伸ばしていったということに尽きるように思う。苦手なところを改善することも重要だが、あまりにもその部分にこだわりすぎることは、かえって劣等感ばかりを強め、もっと豊かな可能性を邪魔してしまうことにもなりかねない。欠点よりも優れた部分に着目し、そこを足がかりに自信をつけていくことを考えた方が、可能性を花開かせることになる。(後略)

注:i) 標記「特性を活かす」一方法としての「知的テーマの追求」については≪余談2≫を参照して下さい。 ii) この記述以降に、アスペルガー症候群の人が備えている強みの傾向として、10 の項目が紹介されています。引用しませんがこれらの項目を次に列挙します。

①高い言語的能力がある ②優れた記憶力と豊富な知識がある ③視覚的処理能力が高い ④物への純粋な関心がある ⑤空想する能力がある ⑥秩序や規則を愛する ⑦強く揺るぎない信念をもつ ⑧持続する関心、情熱をもつ ⑨孤独や単調な生活に強い ⑩欲望や感情におぼれない

さらに、佐々木正美、梅永雄二監修の本、「大人のアスペルガー症候群」(2008年発行)の「常識にとらわれない発想を力に」における記述の一部(P70)を次に引用します。

アスペルガー症候群の人は「非常識だ」と注意されることが多く、それゆえに傷ついています。しかし、それは常識にとらわれない、突出した力をもっているということでもあります。
ほかの人にはない力を仕事にいかすことができれば、成功につながっていきます。
実際に、記憶力と興味のかたよりをいかして大学の研究員になった人や、独特の発想をいかして画家になった人などがいます。
長所をいかして大成したアスペルガー症候群の人は、世界中に大勢いるのです。

[19] 健康な生活
ブログエントリ『杉山登志郎先生の講演を聴きました!「発達障害への薬物療法」 』における記述の一部を次に引用します。

最も大切なのは健康な生活、養生訓というのは大いに納得。といいますか、最近は井原裕先生をはじめ、どの先生も規則正しい健康な生活の重要性を説いています。

注:i) 引用中の「井原裕先生」が登場するWEBサイト(ここ 及び ここ)において、健康な生活に関する次のWEBページがそれぞれあります。「生活習慣の改善こそうつの予防・治療。十分な睡眠と控えめな飲酒を」、うつ病の怪 「悩める健康人」が薬漬けになった理由(P4) ii) 上記エントリタイトル中の「杉山登志郎先生」に関する本エントリ内のリンク集はここを参照して下さい。 iii) この引用中にも「<対策>生活リズムを維持すること」との記述があります。 iv) 一方、健康な生活を送るのに支障となるリスクがある睡眠障害については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「睡眠障害 - 脳科学辞典」、『田ヶ谷浩邦先生に「睡眠障害」を訊く』、「睡眠障害の基礎知識」 v) なお、女性のアスペルガー症候群における「朝が苦手」については、ここを参照して下さい。 vi) ちなみに、a) うつ病における行動活性化療法のテクニックを応用した生活リズムを整える方法例を次のWEBページに示します。「うつで休職、しかも一人暮らし……どうすればいい? - apital」、『うつからの脱出に大切な「身支度」と「見た目」 - apital』。一方、行動活性化療法に関する情報は、例えば他の拙エントリのここを参照して下さい。 b) 標記エントリタイトルの「杉山登志郎先生」に関連して、杉山登志郎先生による「日常生活が規則正しく送れている」との記述についての引用はここを参照して下さい。 vii) 加えて、引用中の「健康な生活」に関連する「健康三原則」について、姜昌勲著の本、『あなたのまわりの「コミュ障」な人たち』(2012年発行)の 第4章 セルフケア 周囲に振りまわされない自分をつくる の「健康三原則」項における記述の一部(P196~P197)を次に引用します。

(前略)いろいろ考え実践し、僕が行き着いたのは「健康三原則」です。これは、精神科の患者さんにも、内科や外科の患者さんにも、さらに、すべての一般の人たちにも当てはまることなので、紹介しましょう。(中略)

規則正しい生活をする:生活のリズムが乱れることによってメンタルの調子が悪くなることもある

アサーティブに生きる:我慢せずに上手に自分の気持ちを伝え心の健康を保つ

運動をする:メンタルとフィジカルは相互補完的に作用している

注:i) 引用の後半部に「セルフケアのためのシンプルな健康三原則」を記述しました。この部分は形式を変更して表示しています。 ii) 引用中の「アサーティブ」(又は「アサーション」)とは、簡単に言えば、「上手な自己主張」、すなわち「相手を尊重しながら自分の言いたいこともはっきりと伝える方法」のことで、詳細は例えば次の pdfファイル及びWEBページを参照して下さい。 「3.コミュニケーション向上のために(アサーション)」、「27 アサーション・トレーニングの理論と実際」、「ストレスコーピング」の「 アサーショントレーニング」項

補足として、姜昌勲著の本、『あなたのまわりの「コミュ障」な人たち』(2012年発行)の 第4章 セルフケア 周囲に振りまわされない自分をつくる の「ぼちぼち生きる 腹六分のすすめ」項における記述の一部(P204)を次に引用します。

「健康三原則」について最後に述べましたが、一番大切なのは、健康三原則にせよコミュニケーションにせよ、すべては「つきつめて頑張ろうとし過ぎない」ことです。
「ぼちぼち」でいいのです。「ぼちぼち」とは、「腹六分の生き方」といい換えることもできるでしょう。

注:引用中の「健康三原則」についてはここを参照して下さい。

ちなみに、双極性障害(他の拙エントリのリンク集参照)の治療法としての対人関係・社会リズム療法(次の pdfファイル参照。「双極性障害の疾患教育と対人関係・社会リズム療法」、「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために」の「5. 双極性障害の精神療法」[P23~P24])は、このツイートによると、社会リズムを安定化させること、対人関係トラブルや変化への適応として、どんな人のメンタルヘルスにもプラスのようです。

加えて、ASD 及び 複雑性 PTSD の患者における、治療に必要なことの視点からの規則正しい日常生活について、杉山登志郎著の本、「発達障害薬物療法 ASDADHD複雑性PTSDへの少量処方」(2015年発行)の 第8章 EMDR を用いた簡易精神療法 の Ⅱ 複雑性 PTSD への簡易精神療法 の「1.安全な場所の確認」における記述の一部(P106~P107)を次に引用します。

(前略)さらに日常生活が規則正しく送れているかの確認が必要になる。そもそも ASD は時間的なパースペクティブがとれず,規則正しい時間を崩すことは大得意でも,作ったり守ったりすることは極めて苦手である。複雑性 PTSD の成人の場合も,おそらく警戒警報鳴りっぱなし恒常的になっているということなのだろうか,睡眠時間がばらばらであったり,著しい短時間睡眠であったり,多量の眠剤を飲んでようやく寝て,朝はまったく起きてこられなくてといった生活をしている者がむしろ一般的である。少し考えてみればわかるのだが,睡眠時間が極端に短かったり乱れていたりしては、どんな名医であっても抑うつや気分変動の治療は不可能である。ましてトラウマ処理などできるはずもない。ただ、この不眠の要因が,侵入症状としての悪夢ということもよくある。(後略)

[20] 構造化
梅永雄二監修・著の本、『よくわかる! 自閉症スペクトラムのための環境づくり 事例から学ぶ「構造化」ガイドブック』(2016年発行)の 第1章 見える化する「構造化」 の 構造化って何? の「1.日常のなかにある構造化」及び2.自閉症スペクトラムの特性と構造化」における記述の一部(P8~P11)、及び内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の 終章 臨床デバイス の「構造化について」における記述の一部(P268~P269)をそれぞれ以下に引用します。加えて、次のWEBページを参照すると良いかもしれません。 「言っても身に付かない子どもには - apital

1.日常のなかにある構造化
「構造化」というのは、何かの活動を行う際に、その活動が容易に行えるように環境を整えることといってもいいでしょう。
例えば、自動車が往来している道路を渡る際に、左右を確認しなければなりませんね。右と左をきちんと見て、自動車が来ていれば渡らずに「止まる」という行動を取ります。そして、車が来ていないことが確認できれば、「渡る」という行動を取るわけです。
しかしながら、左右を確認するというのは、どのくらいの距離に車が来ていれば危険で、どのくらい離れていれば安全であると判断するのは、難しい場合があります。自動車のスピードにもよるし、幼児や高齢者は道路を渡るスピードも異なるでしょう。
しかし、信号機があればどうでしょうか。歩道側の信号機の色が青であれば、その反対側の信号機は赤となるため、自動車は停止します。その結果、道路を安全に渡ることができます。この信号機の「青」や「赤」といったサインが構造化の最たるものかもしれません。(中略)

2.自閉症スペクトラムの特性と構造化
それでは、自閉症スペクトラムの人へのわかりやすい構造化というものはどのようなものでしょうか。
米国ノースカロライナ大学で開発された、自閉症児者支援の最先端といわれる「TEACCH Autism Program」(以下TEACCHプログラム)では、「構造化」はいくつかの分野に分けて説明されています。(後略)

注:i) この本では、構造化の基本的な説明のみならず、20もの構造化事例が示されています。本エントリでは説明しませんので、具体的な説明を必要とする読者様は、この本をお読み下さい。 ii) 引用中の「TEACCHプログラム」については、ここを参照して下さい。

構造化について
ASD には一定の環境の構造化が必要である.枠がゆるいと,統制がとれなくなりがちである.(中略)

構造化が苦手であるというのは,彼らの認知特性に由来している.ASD の場合,大づかみに状況を俯瞰し,方向づけること,そしてとりあえずの目標や行動のための指針を作ることに難がある.作った場合には融通がさかず,硬直したものになりがちである.時間的に俯瞰してスケジュールを組み立てるのも苦手である.
このあたりの対策については,多くの成本に記載されているので,詳述はしない.情報の絞り込み,状況の可視化,行動のライン化,大まかな方向付け,時間の区切りのキューなどが挙げられるだろう.こうした工夫は確かに役に立つことが多い.ただ,こちらが提供するのは,あくまで工夫である.構造化が強いと,牽強付会的になるだけでなく,実際に浸透しすぎる場合があることに注意すべきだろう.
また,なかには構造化が合わない事例もある.そのようなときには,本田6が指摘したように,一夜漬けや一発勝負の方が向いている可能性を検討してみるとよい.

注:i) 引用中の文献番号「6」は、【本田秀夫『自閉症スペクトラム-10人に1人が施える「生きづらさ」の正体』SBクリエイティブ,2013,p.200】のことです。 ii) ちなみに、以下の引用で示すように、自閉症スペクトラム障害の子どもを支援するために開発された療育プログラムであるTEACCHも構造化と関連しています。佐々木正美著の本、「アスペルガーを生きる子どもたちへ」(2010年発行)の 第2部 TEACCHを正しく理解する の「TEACCHはあくまで個別対応」における記述の一部(P109~P110)を次に引用します。

(前略)
ローナ・ウイングさんがTEACCHの業績について次のように言っています。
自閉症の人のほうから私たちの世界に入ってくることはできない。でも、私たちのほうから自閉症の人の世界や文化に近づくことは、努力次第でできるのではないか。そしてそうした人だけが、一人ひとりに寄り添うようにして、私たちの世界に導いてくることができるのです」――どのようにして近づくか、入っていくか、そしてこちらの世界に導いてくるかを具体的に教えてくれたのがTEACCHであるというのです。
なるほどうまいことを言うものだと思いました。その方法が個人の機能に合わせて「構造化する」ということなのです。自閉症のことをよくわかった人でないと、なかなかそういう表現をうまく言えませんね。
この人たちはこういうことならこんなにできる。こんなにできることがあるというようなことを私たちが理解する。私がTEACCHに出会って本当に触発されたのは、「この人はこんなことができないのだ」というより、「こんなことができるのだ」ということを考えていく方法だからなのです。自閉症のままで、できるだけ自立的な活動をして幸福に生きることができるように、それを応援するのがTEACCHなのです。
これは最初に「構造化」ありきではなくて、そのために「必要な構造化をする」ということです。(後略)

注:引用中の「TEACCH」については、同本の「はじめに」の viページ における説明を次に引用します。ちなみに、引用はしませんが、「TEACCH」のより詳細な説明は同本の「第2部 TEACCHを正しく理解する」で紹介されています。

TEACCH(Treatment and Education of Austistic and related Communication handicapped CHildren)プログラムとは、アメリカのノースカロライナ大学のエリック・ショプラー教授らによって一九六〇年代から始められた、自閉症スペクトラム障害の子どもを支援するために開発された療育プログラム。子どもの特性に目を向け、視覚的な手がかり(たとえば絵や文字、写真、実物)などによって得意な面を伸ばすような工夫がされている。

[21] 共感とシステム化
上地雄一郎著の本、「メンタライジング・アプローチ入門 愛着理論を生かす心理療法」(2015年発行)の 第2章 メンタライジングとは何か の 4 類似の概念との比較 の (6)共感 の 「3) Baron-Cohen」項における記述の一部(P35~P36)を次に引用します。

自閉症研究者であり,誤信念課題をも作成した Baron-Cohen の考える「共感」(emphasizing)は,「システム化」(systemizing)と対置される概念です。Baron-Cohen(2003)によれば,共感とは,「他者の情動と思考を同定し,適切な情動を伴わせてそれらに反応しようとする動因(drive)」(Baron-Cohen, 2003, p.2)です。そして,共感は,他者を理解し,他者の行動を予測し,他者と情緒的につながるか共鳴するために行われるものです。このように,Baron-Cohen の言う共感は,思考と情動の両方に向けられるものですが,他者の情動によって引き起こされた適切な情動を伴うという条件が付けられています。例えば,精神病質の人が自分の欲望を満たそうとして他者の思考と感情を冷徹に判断する場合については,これを共感とは言わないのです。共感は,他者をケアしようとする生来的な傾向から生じると,Baron-Cohen は述べています。
次に,共感と対置される「システム化」というのは,「システムを分析し,探求し,構成しようとする動因」(Baron-Cohen, 2003, p.3)です。Baron-Cohen(2005)によれば,人間の脳が分析できるシステムは,①技術的システム(例えば,コンピューター),②自然的システム(例えば,潮の満ち引き),③抽象的システム(例えば,数学),④社会的システム(例えば,選挙),⑤組織的システム(例えば,図書館),⑥運動的システム(例えば,音楽の技術),です。システム化は,あるシステムの動きを理解し,予測するために行われます。
Baron-Cohen(2005)は,共感とシステム化の相違を以下のように述べています。

突き詰めれば規則的・定型的・決定論的である現象には,システム化が有効である。…人の行動に刻一刻と生じる変化を予測するとなると,システム化はほとんど役に立たない。人間の行動を予測するためには,共感が必要とされる。システム化と共感とは,まったく種類の異なるプロセスである(Baron-Cohen, 2005, p.476)。

そして,(Baron-Cohen, 2003)は,共感とシステム化を脳機能の特徴と結びつけ,共感は一般に女性において優位な脳機能と関連しており,システム化は一般に男性において優位な機能に関連していると指摘しています。そうすると,共感-システム化のバランスがとれている人とそうでない人を考えることができます。自閉症者は,しばしば共感の健著な機能不全がシステム化の優位と併存することを特徴としています(Baron-Cohen et al., 2005)。
メンタライジングは自己と他者の精神状態を認識することですから,Baron-Cohen の言う共感の「適切な情動を伴わせて反応すること」という部分はメンタライジングの守備範囲ではないことになります。しかし,適切な情緒的反応をするためには,メンタライジングが不可欠ですから,適切な情緒的反応の部分もメンタライジングと無関係ではありません。(後略)

注: i) 引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「メンタライジング」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「共感」についての説明例は、次のWEBページを参照して下さい。「共感 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「自閉症者は,しばしば共感の健著な機能不全がシステム化の優位と併存することを特徴としています」に関連した記述を以下に引用します。

さらに、岡田尊司著の本、「アスペルガー症候群」(2009年発行)の 第四章 アスペルガー症候群の脳で何が起きているのか の『Sタイプの脳と「超男性脳」仮説』における記述の一部(P115)を次に引用します。

アスペルガー症候群では、共感性の能力が乏しい一方、システム化の能力が優れていることを、先に述べたが、共感性を担う脳の領域は、内側前頭葉(前部帯状回など)である。一方、システム化を担う脳の領域は、外側前頭葉(背外側前頭前野)である。心を扱う領域は,前頭葉の内側面にあり、モノを扱う領域は、外側面に広がっている。
ところで、男性では、女性に比べて、システム化の能力が高く、共感性の能力が劣っていることが知られている。男性は、心や顔色を読み取り、人間関係の機微を感じ取る能力において、女性にかなわない。女性はEタイプ(E=empathy 共感)、男性はSタイプ(S=system システム)の脳をもつ傾向がある。その意味で、自閉症スペクトラムの脳は、より極端な男性脳であるといえる。実際、アスペルガー症候群を含む自閉症スペクトラムは、圧倒的に男性に多いだけでなく、極端なSタイプを示す傾向が見られる。こうして生まれた理論が、超男性脳仮説である。

ちなみに、Rogers の心理療法における共感に関して、上地雄一郎著の本、「メンタライジング・アプローチ入門 愛着理論を生かす心理療法」(2015年発行)の 第2章 メンタライジングとは何か の 4 類似の概念との比較 の (6)共感 の「1) Rogers」項における記述の一部(P46~P47)を次に引用します

今日のカウンセリング・心理療法における共感の重視が Rogers のクライエント中心療法(人間中心アプローチ)の影響であることを否定する人はいないでしょう。Rogers の心理療法においては,共感は,心理療法によってパーソナリティ変化が生じるための必要十分条件の1つに数えられており,その中でもとくに重要な3つの条件(無条件の肯定的関心,共感的理解,自己一致)の1つです。Rogers の言う共感は,平易に定義すると「クライエントの私的世界を,あたかも自分自身の私的世界であるかのように感じ取ること,しかし決して『あたかも…かのように』という感覚を見失わずにそうすること」(Rogers, 1957; 佐治・岡村・保坂, 2007, pp.45-46)です。より詳しく定義するなら,共感とは「相手の内的照合枠(internal frame of referrence)を,正確に,それ固有の状動的要素や意味とともに知覚することであり,その際に,自分があたかも相手であるかのように,しかも決して『あたかも…かのように』という質を失わずに,知覚すること」(Rogers, 1959; 岡村, 2007, p.89 より引用)と表現されます。さらに後になると,共感は,「相手の私的な知覚世界に入ってその襞にまで通じるようになること…相手の内部で流れている瞬間瞬間に感じ取られている意味,すなわち相手が体験しつつある恐れ・怒り・優しさ・混乱などどんなものでも,それらをその都度感じ取ること」(Rogers, 1975; 岡村, 2007, p.90 より引用)と説明されています。これらの定義において, Rogers が一貫して強調しているのが「感じ取ること」です。つまり,クライエントの体験を実感的に理解することが重視されているわけです。そして,情動だけでなく「意味」を感じ取ることも重視されていることから,Rogers の言う共感は情動的な側面と認知的な側面を両方とも含んでいると考えられます。また,「あたかも…かのように」という性質の強調は,クライエントの体験を自分自身の体験と混同せず,クライエント視点から理解しているのが共感であるということです。以上のことから,Rogers の言う共感は,「他者の精神状態のメンタライジング」と言い換えてもよく,しかも洗練されたメンタライジングが目標とされていることがわかります。

注:i) 引用中の「メンタライジング」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) ちなみに、引用中の「認知的な側面」についての補足説明になるかもしれないので、「認知療法」についてのWEBページを次に示します。「認知療法とは

加えて、米田衆介著の本「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」(2011年発行)の 第五章 さまざまな不適応とその対策 の「感情はどこまでも個人的なもの」項における記述の一部(P205)を次に引用します。

アスペルガーの当事者の一人が、次のように語ったのを私は聞いたことがあります。
「他の(発達障害でない)人たちは、共感という一つの大きな魔法にかかっていて、自分だけが魔法の影響を受けなくなる呪いをかけられているみたいです。そのためにみんなからのけ者にされているような感じがします。みんなは、ありもしない魔法のお城で楽しそうに暮らしているのに、自分にはみんなが幻覚を見ていて、自分だけが正気でいるようにしか思えない。でも、そう思うのが自分だけだとすると、論理的に考えて、私のほうが狂っているはずだということは自覚しています」
このように、一般の人とは世界の仕組みに関する認識において大きな隔たりがあるために、「理解してもらえた」と思う機会がどうしても少なくなるのが、感じ方・考え方が異なるという苦境の一つの側面です。

注:この引用には、ここに示すように少数派が関連しているようです。

[22] 認知様式と社会的コミュニケーション
金沢大学子どものこころの発達研究センター監修、竹内慶至編の本、「自閉症という謎に迫る 研究最前線報告」(2013年発行)の 第3章 自閉症の多様性を「測る」――脳科学からのアプローチ(著者:菊知充、三邉義男) の「自閉症の認知様式と社会的コミュニケーション」における記述(P116~P122)を次に引用します。

私たちが物事を認知するときの脳の処理のしかた(認知様式)には、トップダウン処理とボトムアップ処理の二つがあります。
「曖昧で膨大な情報から、行動の目的に応じた情報の選択を行う」認知様式がトップダウン処理で、前頭前野が関与しているといわれています。ボトムアップ処理は「一つ一つのすべての情報を綿密に組み合わせて全体を理解する」認知様式で、主に脳の後方部に位置する後頭葉や側頭葉、頭頂葉が関与していると考えられています。
ところで、脳の役割は大きく二つに分けられます。外部からの情報を受け入れて情報処理する「入力」の役割と、自らが判断し行動するための「出力」の役割です。脳の後方部に位置する後頭葉や側頭葉、頭頂葉は、主にこの「入力」で重要な役割を果たしています。
自閉症の人の認知様式は、ボトムアップ処理であるといわれています。このことに関して、国立精神・神経医療研究センターの神尾陽子先生が、2007年に語彙判断課題を用いた言語プライミング効果を調べて報告しています。言語プライミング効果とは、簡単に言うと、事前に、その後に見せる言葉と関連のある言葉を見せておくと、その後に見た別の言葉の情報処理が早くなる現象で、トップダウン処理の効果が反映される現象です。
例えば、一瞬だけでも「くるま」という文字を見せておくと、後で見せられる文字の中でも、意味の近い「じてんしゃ」という文字については認識にかかる時間が早くなります。一方で「くま」という文字を見せておいた場合には、それとまったく関連のない「じてんしゃ」という文字の認識にかかる時間は早くはなりません。
こうした言語プライミング効果といわれる現象は、定型発達の人には明確に認められますが、自閉症の人には、あまり認められていません。つまり、定型発達の人は、日常生活の中で取り入れる膨大な情報をトップダウン処理して、一連の関連した情報を自動的に取捨選択して、文脈に応じて早い速度で処理できるのですが、自閉症の人はそれがうまくできないということです。
実用的で自然な社会的コミュニケーションは、曖昧で膨大な情報で成り立っています。社会的コミュニケーションには、「曖昧で膨大な情報から、行動の目的に応じた情報を選択する処理」が不可欠なのです。しかし、自閉症の人はトップダウン式の処理が苦手で、「一つ一つのすべての情報を綿密に組み合わせて全体を理解しようとするボトムアップ式の認知」が得意なため、実用的で自然な社会的コミュニケーションが困難になるのです。
我々の調査でも、ボトムアップ式の認知様式が自閉症の人には幼少期から存在していることを確認しています。言語的な認知機能を例に挙げて説明しましょう。
言葉と言葉の概念的関連性から全体のイメージを形づくることが必要な課題では、定型発達者に比べて自閉症の人の方が明らかに劣っていることがわかりました。
課題は、概念の連想ゲーム「なぞなぞ」です。例えば「空腹になると泣く」「ミルク」「よく寝る」などの言葉から、概念的にもっとも近い言葉を答えるテストで、答えは「赤ちゃん」です。
このような課題は、提示された個々の言葉だけでは特定の規則性を見つけることができず、正しい答えに到達できません。曖昧で、規則性のない概念的な共通点を探さなければならないこの問題(概念的類推課題)は、トップダウン式の処理に向いているテストに近いといえるでしょう。このようなテストは、自閉症の人には苦手のようです。
一方、同じように言葉を使う課題でも、「文字の音読」では、自閉症の人の方が優れているケースが少なからずあります。「文字の音読」は、記号(文字)と音(読み)が一対一対応になっていて曖昧さがありません。とくに日本語は、文字どおりに規則的に読めば正解です。こうした課題は、自閉症スペクトラム障害者の人が得意なボトムアップ式の処理が優位に働く可能性があります。

自閉症の人の認知特性を象徴する、有名な日常生活の中でのエピソードがあります。
自閉症の子どもが、母親に「お風呂のお湯を見てきて」と言われました。子どもは、お風呂のお湯を観察して戻ってきました。
母親は「お湯加減を見て、調節をしてほしい」という意味で言ったのですが、子どもは文字どおり「お湯」を「見て」きたのです。定型発達者からみると的外れですが、自閉症の脳の特徴から考えれば、ごく自然な反応なのです。「お風呂」「お湯」「見る」という一つ一つの言葉に対してボトムアップ処理の認知を脳が優先して実行し、その背景にある「湯加減を調節する」という真意は理解できないのです。我々のデータは、このような認知の傾向が、幼少期から既に存在することを示しています。
しかし、悪いことばかりでもありません。彼らが得意とするボトムアップ処理の認知様式が、文字や算数への興味を促進し、それを学習する機会を増やす可能性もあります。彼らは、因果関係に明確な規則性のある構造(例えば、二つの歯車をかみ合わせたときの回転速度の変化)においては、時として、飽くなき関心と優れた力を発揮します。その特性こそが、自閉症の人々の中から有能で孤高なる科学者や芸術家が生まれる一因なのかもしれないのです。

注:i) 引用中の「自閉症の人の認知特性を象徴する、有名な日常生活の中でのエピソード」に関連した「字義に拘泥」についてはここを参照して下さい。 ii) 引用中の「悪いことばかりでもありません。彼らが得意とするボトムアップ処理の認知様式」に関連するかもしれない「われわれがついぞ見えないところの深い認知」についてはここを参照して下さい。 iii) 引用中の「ボトムアップ処理」に関連して、内海健著の本、「自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐひとたちのために」(2015年発行)の 1章 「心の理論」のどこがまちがっているのか? の「推論だけで作動するシステム」における記述の一部(P21)を次に引用します。

(前略)定型者が直観的な全体把握から部分へという認知パターンをとるのが主流であるのに対し,ASD 者では部分から全体へと向かう.いわゆる「ボトムアップ型」である.そのため時間がかかるし,かならずしも全体へとまとまりあがるとはかぎらない.

注:i) 引用中の「かならずしも全体へとまとまりあがるとはかぎらない.」に関連して、「全体へとまとまりあがらなかった」ことからもたらされるかもしれない「木を見て森を見ず」(又は「認知の穴」)については、ここを参照して下さい。 ii) 引用中の「定型者が直観的な全体把握から部分へという認知パターンをとるのが主流」に関連して、このような「トップダウン型」認知が機能しなく「ボトムアップ型」認知が採用された場合の弱点例として、同本の 9章 認知行動特性 の「ボトムアップ型の優位」における記述の一部(P156~P157)を以下に引用します。 iii) 加えて、トップダウン型の情報処理のプロセスが作動するための「理念形成」の困難について、同本の 9章 認知行動特性 の「理念形成の困難」における記述の一部(P158~P160)を以下に引用します。

(前略)定型者の場合も,トップダウン型認知が機能しないときには,ボトムアップ型が採用される.たとえば経験のない新たな局面に遭遇したときなどである.しかし,繰り返すうちに慣れが生じ,そのうちにトップダウン型が機能し始める.(中略)ボトムアップ型の認知は,ノイズの処理が苦手である.なぜなら,関連ある刺激とそうでないものをあらかじめ仕分けることができず,逐一ひっかかってしまうからである.トップダウンの場合には,あらかじめ拾うべき情報が決まっており,それ以外はノイズとして切り捨てられる.

理念形成の困難
トップダウン型の情報処理のプロセスが作動するためには,「理念」が必要である.理念などというと,なにか仰々しく響くかもしれないが,ごく日常的なことである.
経験が束ねられ,まとまるとき,そこには個々の要素を集めただけではない何かが生まれる.それは大域的なみえであり,大づかみな把握である.あるいは状況に対するさしあたりの判断である.理念とはこうした類のものである.
たとえば,個々の顔面筋の動きからはわからない「表情」というまとまり,クラス全体の「雰囲気」,どう行動するべきかという「指針」などが挙げられる.グニラに欠けていたのは,自分にふりかかったことを,そのつどの小さな違いを捨てて,「いじめ」という理念で括ることだった.

私は誰かに十回いじめられても,終われば何事もなかったかのように立ち上がって歩み去ることができた6.

理念は個々の認知や行動において要請されるだけではない.もっと大域的なものも,生活する上で必要になる.たとえばそれは「常識」,「仕事」,「社会」といったようなものである.
そもそも「常識とは何か」,「仕事とは何か」,「社会とは何か」とたずねられたら,すぐに答えられるものではない.しかし,定型者にとってそれらは自明なものであり,あらたまって考えてもみないことである.そして,それらは理念として,われわれの行動をまとめ上げるべく機能している.
たとえば「常識で判断しろ」といわれれば,それなりの対応を考えるであろうし,やりたくないことでも「さあさあ,仕事」,「はいはい,仕事ですね」などと割り切れもする.「社会人らしく」などといわれると,何となく襟を正さねばならないと感じる.
ASD が職場で事例化するときには,段取りが悪かったり,マルチタスクが苦手だったり,不器用だったり,といったことが問題となることが多いだろうが,こうした技能の問題とは別に,「そもそも仕事というものがどういうものかわかっていないのではないか」などと評される場合がある.理念が機能していないことをうかがわせる.

vignette
23歳男性.学童期から,どこか自分が人と違っているという意識があり,「自分は世の中でやっていけない人間なのです」,「人として何かが欠けている.子どもにも抜かれている」と訴える.これまで何度となく,汎不安と自殺するのではないかという恐怖にさいなまれてきた.
大学の最終学年になると,「自分は絶対に社会ではやっていけない,落伍して浮浪者のようになる」という思いが極度に強くなり,たとえば周囲の会話のなかに「失敗」という言葉を耳にはさんだだけでも,飛び上がらんばかりの衝撃を受けた.
あまりにも思い詰めるため,緊急避難的に入院したが,不安・焦燥のかたまりのような状態がやわらぐことはなかった.就職への恐怖を繰り返し訴えるため,あえて理由をたずねたところ,「宴会芸をやらされると思うと,気が狂いそうになります」と真顔で答えた.

ここでは,社会(就職)が「宴会芸」に短絡している.統合失調症で時折みられる「具象化傾向」と呼ばれる症状に似た言語性の病理である.「仕事」という理念が機能していないので,「宴会芸」のような個別のものに仮託されている.
なお,この青年は,就職浪人になってから,周囲のアドバイスに耳を貸すようになり,各種の資格をとることに専念して,そののちビル管理の仕事に就職した.

注: i) 引用中の「vignette」は「短い事例報告」の意味です。 ii) 引用中の文献番号「6」は、次の本からの参照です。 「Gerland. G. : A Real Person : Life on the outside, Souvenir Press, London, 1997, p.90(グニラ・ガーランド『ずっと「普通」になりたかった』ニキ・リンコ訳,花風社,2000, p.96)」

[23] マインドブラインドネス
上地雄一郎著の本、「メンタライジング・アプローチ入門 愛着理論を生かす心理療法」(2015年発行)の 第2章 メンタライジングとは何か の 4 類似の概念との比較 の (5)心の理論と関連する概念 の 「3) マインドブラインドネス」項における記述(P46)を次に引用します。

心の理論と関連するもう1つの概念として「マインドブラインドネス」(mindblindness)があります。これは,Baron-Cohen(1995)が自閉症の中核的欠損を強調するために導入した用語です。心の理論にみられるように,行動を理解する際に思考,信念,認識,願望,意図のような精神状態を考慮できることを「精神主義的」(mentalistic)と呼びますが,精神主義的な理解や説明を行う能力が欠如していることをマインドブラインドネスというのです。自閉症は,個人によって程度の違いはありますが比較的不変のマインドブラインドネスを伴っており,それは先天的な脳機能障害によるものです。しかし,Fonagy と共同研究者たちは,後天的・発達的な要因によるメンタライジングの機能不全をもマインドブラインドネスに含めており,先天的なマインドブラインドネスと区別するために「力動的マインドブラインドネス」(dynamic mindblindness)と呼んでいます(Allen et al., 2008)。

注: i) 引用中の「心の理論」に関する資料例は次に引用します。『「心の理論」とコミュニケーション』 ii) 引用中の「メンタライジング」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

[24] 夫婦関係と発達障害
以下のWEBページを参照して下さい。

夫婦関係と発達障害(上)母離れできない夫、妻の苦痛 - yomiDr.
夫婦関係と発達障害(中)「エリート」も多いアスペルガー - yomiDr.
夫婦関係と発達障害(下)「言外の意味」どう伝えるか - yomiDr.
「夫婦関係と発達障害」反響編(上)心身共に疲れ果てた妻、マイペースな夫 - yomiDr.
「夫婦関係と発達障害」反響編(下)それぞれの障害に気づく…個性認められるように - yomiDr.

ちなみに、及びのリンク先における用語「カサンドラ症候群」については次のWEBページを参照して下さい。【『夫と意思疎通ができずに妻が陥る「カサンドラ症候群」 発達障害の夫に悩み、鬱にも』

[25] 発達障害とパーソナリティ障害
発達障害とパーソナリティ障害との関係に関して、「こころの科学 185号(2016年1月)」の特別企画「パーソナリティ障害の現実」の「エッセイ パーソナリティ障害をめぐって」中の文書より引用します。

市橋秀夫著の文書「私の診てきたパーソナリティ障害」(P78~P79)における記述の一部(P79)を次に引用します。

半数くらいのパーソナリティ障害に、過去の症例を含めて、発達障害の合併を認めないわけにはゆかない。(後略)

②本田秀夫著の文書「パーソナリティ? それとも発達?」(P82~P83)における記述の一部(P82~P83)を次に引用します。

人物評に使われる言葉はたくさんある。「明るい」「強気だ」「疑い深い」「顕示欲が強い」「堅苦しい」「消極的」「空気を読まない」「そそっかしい」「運動が得意だ」「勉強が苦手だ」などの言葉を組み合わせることによって、人物像が語られる。(中略)

冒頭に挙げた人物評に用いられる言葉の中で最も議論を呼ぶのが、「空気を読まない」と「そそっかしい」であろう。これらは、一般の人たちからはパーソナリティを表す言葉と捉えられているが、度が過ぎる場合の診断は「社会的(語用論的)コミュニケーション症」「自閉スペクトラム症」「注意欠如・多動症ADHD)」などの発達障害である。(中略)

精神障害の分類の中で、パーソナリティ障害と発達障害とは再編成が必要なのだと筆者は思う。一般の人からみればどれもパーソナリティと言ってよさそうなのに、「空気を読まない」「そそっかしい」のように「発達」の軸から研究されているものと、「疑い深い」「顕示欲が強い」「堅苦しい」「消極的」のようにパーソナリティとして扱われているものがあり、これまでは概念の出自が違うために別々に論じられてきた。これらはもっと統合的に検討すべきだ。何らかの生来的な特性をもち、さまざまな経験を通じた環境との相互作用の結果として認知、感情、対人行動、興味、志向性などの総合的な個性が獲得され、成人期に個性として固定するまでのプロセス全体を発達とパーソナリティ形成の両面から捉え直し、再整理するのである。(後略)

注:i) 引用中の『「社会的(語用論的)コミュニケーション症」』及び『「注意欠如・多動症ADHD)」』について、前者はリンク集(1)を、後者は注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典、リンク集の(6)(7)をそれぞれ参照して下さい。 ii) 引用中の「空気を読まない」に関連する「微妙な空気を読むことが困難」についてはここを参照して下さい。

[26] 二次障害的新型うつと自閉症スペクトラム(ASD)の関係
標記について、宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第2章 上司の理解が期待される時代 の「二次障害的新型うつとASDの印象は似ている」における記述の一部(P54~P56)を次に引用します。

二次障害的新型うつとASDの印象は似ている(中略)

しかし、2000年代以降、新しいタイプといわれるうつ病が登場したのです。それが新型うつです。新型うつといわれるうつ病の特徴は、すべては他人のせいで、困難な状況から逃げてしまい、社会や組織のルールに反発し、職場に適応しない代わりに、職場以外の場ではまったく問題が見られないようなタイプです。
そして、問題はその新型うつの対応に悩む職場が増えていることなのです。この新型うつは「逃避型抑うつ、ディスチミア親和型」とも呼ばれていますが、その特徴をみると自閉症スペクトラム(ASD)の人が適応に失敗し傷ついたときの反応の多くと非常に類似しています。新型うつはASDの二次障害とも考えられるのです。たとえば、ASDの人たちは「いけない」と書いてあること以外は「してよい」と思っています。そして、自分の行動が他者からどのように映るかを考えることが苦手です。デジタルな思考なので、仕事は仕事、遊びは遊びと分けて考えることが容易なのです。「休んでいい」の「休み」は「休養」という限定された意味ととらず、「なにをしてもいい休み時間」のように理解(誤解)しているのかもしれません。
この「新型うつと自閉症スペクトラム(ASD)の関係」はまだ明確になっていませんが、社員のメンタルヘルス対策の中に、自閉症スペクトラム(ASD)かもしれないという発想があれば、その二次障害的なうつ病にも対応できる可能性があります。

注:i) 引用中の「新型うつ」については、例えば次のWEBページ及び以下の iv) 項を参照して下さい。 「Q4. 新型うつ病が増えていると聞きます。新型うつ病とはどのようなものでしょうか?」(ちなみにこの資料のリンク元は次のWEBページです)、「若手社員の「新型うつ」は単なるうつ病ではない! パニック障害の権威が職場の偏見と治療の誤解に警鐘」 ii) 引用中の「仕事は仕事、遊びは遊びと分けて考えることが容易」に関連するかもしれない「休日は元気である。休職ともなれば、趣味に興じたり、海外旅行に出かけたりと、自分の生活を謳歌している。」についてはここを参照して下さい。 iii) 「ASDの二次障害的新型うつ」において、ASDを見落として「新型うつ」のみ診断するのは、木を見て森を見ずであると本エントリ作者は考えます。これに関連して、成人の発達の問題、複雑性PTSD、そして境界性パーソナリテイ障害において、最終的な結果としての症状だけを見て、そこだけに対処療法が施されることについてはそれぞれ他の拙エントリのここここここここ、そしてここを参照して下さい。 iv) ちなみに、「新型うつ」又は「非定型うつ病」に関連して、本エントリ作者が興味深い複数の記述を以下に紹介します。 a) 原雄二郎、鄭理香著の本、「職場で出会うユニーク・パーソン 発達障害の人たちと働くために」(2017年発行)の 第1章 あなたの周りのユニーク・パーソン の 1 精神科の診断とユニーク・パーソン の「(3)「新型うつ病」的なケースとユニーク・パーソン」における記述の一部(P10~P11)を、 b) 福西勇夫、福西朱美監修の本、「新型うつを知る本」(2013年発行)の 2章 従来のうつとは、ここが違う の「過去の辛い体験を抱え込む人、表に出す人」における記述の一部(P52)を、 c) 林公一著の本、「擬態うつ病新型うつ病 実例からみる対応法」(2011年発行)の 四章 新型うつ病 の『Case 11 解説 「新型うつ病」は、うつ病でない』における記述の一部(P100~P102)を それぞれ以下に紹介します。

Aさん、二十代男性、独身。あるメーカーで経理事務を担当していた。几帳面で負けず嫌いのところがあった。仕事の出来不出来がはっきりしており、日頃から会社に対する不満を口にしていた。
ある日、Aさんが他部署からの問い合わせにぞんざいな口調で対応していたため、上司が注意したところ、会社を休むようになってしまった。後日、Aさんから、「うつ状態のため休養を要す」という診断書とともに休職願が郵送されてきた。結局Aさんは数カ月の休職に入ったが、この間、傷病手当金の手配や交通費の精算など、社内規定を熟知した行動をとった。上司がたまに電話を入れると不在のことが多く、後日、悪びれる様子もなく、「主治医から気晴らしが必要だと言われているので友人とゴルフに行っています」と述べた。
それからしばらく連絡が取れなかったが、上司が組合からの傷病見舞金を渡すために久しぶりに会うと、真っ黒に日焼けしており、「仕事のことはできるだけ忘れたほうがよいと主治医に言われたので、療養をかねてバリ島でダイビングの免許を取ってきました」と悪びれずに述べた。(中略)

たくさんのケースに接する立場の産業医から見ると、このようなケースはよく経験しますし、決して珍しいことではありません。このようなケース以外にも、「常識的な」対応ではうまくいかない相談ケースが、増えてきているように感じています。実際、「新型うつ病」というフレーズや考え方が世間に受け入れられて広まっているところからすると、このようなケースに困っている職場がそれだけ多いということでしょう。そこまでいかなくても、「変わった人がいるな」「あの人は宇宙人だから」といった同僚がいるなど、ほとんどの職場に常識では推し量れない、ユニークな人たちがたくさんいます。これまでそのような人たちに出会ったことがない人のほうが、少ないかもしれません。

過去の辛い体験を抱え込む人、表に出す人(中略)

従来型のうつの人は、たとえ大きなトラウマとなるような体験を抱えていても、それを表に出すようなことはなかなかありません。自分の記憶の奥底に封じ込めて抑圧し、その体験に触れることもせずにいます。
これは、このタイプが自罰的で、どんなことでも「自分のせいで起こったことだから」と考えてしまう傾向があるためです。
たとえば職場の皆の前で上司にパワハラまがいの暴言を吐かれたとしても、「自分が失敗したから、上司を怒らせてしまったのだ」と考え、いくら傷ついていても、それを表に出さずじっと耐え忍びます。
これに対して新型うつの人は、心に傷が残るような体験をするとトラウマから突然フラッシュバックを起こして苦しんだりします。いきなり涙が止まらなくなったり、息苦しくなったりなど、わかりやすい症状として、苦しさが外に表れてくるのです。男性の上司にひどくののしられしたり大声で怒鳴られたりした人は、同じような年代の男性が大きな声で話すのを聞いただけで、震えや呼吸困難になることもあります。(後略)

注:i) 次のWEBページにも「新型うつ」におけるフラッシュバックについての記述があります。 若手社員の「新型うつ」は単なるうつ病ではない! パニック障害の権威が職場の偏見と治療の誤解に警鐘(P3) ii) この引用は、本エントリ作者にとって、自閉スペクトラム症圏特有の病理とされる「タイムスリップ現象」を説明しているように見えてしまいます。ちなみに、この「タイムスリップ現象」及び引用中の「フラッシュバック」については、共に他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ちなみに、タイムスリップ現象はフラッシュバックと類似した現象です(ここ参照)。

Case 11 解説 「新型うつ病」は、うつ病でない

最近、「新型うつ病」という病名が急激に広まってきました。マスコミにもよく登場しています。ある記事によれば、新型うつ病は次のように紹介されています。

新型うつ病」の特徴
1.「私はうつ病です」と自分から言う。自己主張が強い。
2.自己中心的で、他罰的傾向がある。自分は周囲から理不尽な目に遭っている被害者であると主張する。
3.休日は元気である。休職ともなれば、趣味に興じたり、海外旅行に出かけたりと、自分の生活を謳歌している。
4.しかし医師を受診した時にはうつ病の症状が見られる。
5.周囲の人はその言動に困惑し、対応に苦慮することが多い。(中略)

100ページの囲みの中にあるような特徴の人々、「逃避型抑うつ」「未熟型うつ病」「ディスチミア親和型うつ病」など、専門家が研究段階の名前として提唱した病名が適合する人々が、「うつ病の一種、しかし従来のうつ病とは違う」という意味で、「新型うつ病」と呼ばれるようになった。(後略)

注:i) 表示形式を変更して引用しています。 ii) 引用中の「100ページの囲みの中」とは引用中の「新型うつ病」の特徴の5項目を指します。 iii) ちなみに、a) 「新型うつ」にありがちな身体症状について、福西勇夫、福西朱美監修の本、「新型うつを知る本」(2013年発行)の巻頭カラーにおける記述の一部を以下に引用します。 b) うつ病患者に占める「新型うつ」「プチうつ」などの非定型うつ病の範疇とされる人の割合について、同本の 1章 「ワガママ」と新型うつはどう違う? の「従来のうつ病基準に当てはまりにくい」における記述の一部(P10)を次に引用(『 』内)します。 『けれど最近では、日本のうつ病患者のうち、7割近くが「新型うつ」「プチうつ」など、非定型うつ病の範疇とされる人だと言われています。』 注:引用中の「プチうつ」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。 「プチうつ気分解消法」 ちなみに、 1) このWEBページによると「プチ」というのは、病気が軽いからではなく、うつの時間が短いということのようです。 2) うつの時間が短いに関連する時間単位又は数日単位の気分変動については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 3) 引用はしませんが「新型うつ」において、「生活リズムの乱れは悪化につながる」ことについての記述が、福西勇夫、福西朱美監修の本、「新型うつを知る本」(2013年発行)の P132~P133 にあります。この生活リズムの乱れに対する健康な生活についてはここを参照して下さい。 iv) 引用中の「休職ともなれば、趣味に興じたり、海外旅行に出かけたりと、自分の生活を謳歌している。」にひょっとして関連するかもしれない、「自分が他者からどのように思われるかも気にしない」についてはここを参照して下さい。

(前略)ありがちな身体症状

鉛様疲労
体に鉛が入ったように重い

過眠
一日に10時間以上眠り続ける

過食
お菓子などをどか食い、自宅にある食べ物を一気に食べ尽すなど

自律神経系統の乱れ
頭痛、めまい、吐き気、動悸、呼吸困難、胃痛、下痢や便秘、微熱など(後略)

注:形式を変更して引用しています。

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≪余談5≫資料紹介

以下に発達障害に関する日本語の資料を紹介します。ただし、ADHDに関する資料は※1でも紹介しています。

[1] 青年期発達障害における心身医学的症状の変遷について

[2] 軽度発達障害児の感覚統合機能評価の妥当性に関する研究

注:i) リンクタイトルの「軽度発達障害」は知的障害を伴わない発達障害のことを指すようです。ただし、これは決して障害自体が軽いことの意味ではありません。 ii) この資料には「姿勢、平衡機能の問題」を含む紹介があります。

[3] アスペルガー症候群を持つ女性の恋愛と性の課題 -3つの症例を通して-

注:i) この pdfファイル中の「タイムスリップ現象」及び「フラッシュバック」については、他の拙エントリの「リンク集」を参照して下さい。 ii) この pdfファイル中の「ハイコントラスト知覚特性」に関する本エントリにおける引用はここを参照して下さい。 iii) この pdfファイル中の問題への対処として大切であると本エントリ作者が考える部分を次に引用します。ちなみに、男女を問わず大切であると本エントリ作者は考えます。 iv) 一方、以下に引用するように、この pdfファイル中にはまるで疲れを感じられない(引用参照)ように理解できる記述があります。 v) さらに引用はしませんが、この pdfファイル中には「Cさん」の例において感覚過敏に関する記述があります。ちなみに、アスペルガー症候群の感覚過敏に関する資料は一例として、他の拙エントリのここで紹介しています。

そして大切なことは、彼女たちが各自の特性を理解し、自分自身の取り扱いマニュアル作成に行きつくことである。

3例ともに、「適当に」は理解できず、 自分が「元気」なのか「疲労しているのか」という内部感覚もわからず、頑張って行動し続けてある時突然動けなくなるというパターンを繰り返した。

注:この引用は上記疲れに関する記述です。これと同様な内容の記述を含む引用はここここ及びここを参照して下さい。

[4] ライフステージに応じた自閉症スぺプトラム者に対する支援のための手引き
標記 pdfファイルの 「3. 青年期・成人期:男性」項(P8~P10)及び「4. 青年期・成人期:女性」項に自閉症スぺプトラム者の男性及び女性の特徴が示されています。この項以外にも、自閉症スぺクトラム者の女性に関連する記述があります。

ちなみに、この pdfファイルの「4. 青年期・成人期:女性」項の P10~P11 に次のように記述されており、この引用と重なる部分があります。

いわゆる「ガールズトーク」や「井戸端会議」のような一般に女性が好むようなおしゃべりを苦手と感じるので、仲間集団や地域のコミュニティにも加わりにくいこともあります。

[5] Dr 林のこころと脳の相談室(注:ホームページはここ
【1498】曖昧な対人関係を理解できずトラブルを繰り返す部下は病気でしょうか
【1682】アスペルガー症候群の診断を受けることにはどんなメリットがあるでしょうか
【2696】私は中度の自閉症スペクトラムなのでしょうか
【3129】人の話を聞けない・何でも簡単に信じてしまう・異様な緊張・顔が覚えられない・・など
【3148】妹は人をイライラさせることばかりするのですが、性格でしょうか
【3219】発達障害と診断された私の症状です
【3288】自分の発達障害を受け容れ、何とか生きていこうとしています
【3398】自分とうまく付き合っていくための手がかりがほしい

[6] 成人後に診断を受けた軽度発達障害者の現状に関する研究

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≪余談6≫論文紹介

以下に発達障害に関する英語の論文を紹介します。

[その1]
以下に発達障害と化学物質又はインターネット依存症との関係に関する複数の論文要旨を紹介します。

①「Maternal Chemical and Drug Intolerances: Potential Risk Factors for Autism and Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD).[拙訳]母親の化学物質及び薬物不耐:自閉症と ADHD の潜在的なリスク要因」

PURPOSE:
The aim of this study was to assess whether chemically intolerant women are at greater risk for having a child with autism spectrum disorders (ASD) or attention deficit hyperactivity disorder (ADHD).

METHODS:
We conducted a case-control study of chemical intolerance among mothers of children with ASD (n = 282) or ADHD (n = 258) and children without these disorders (n = 154). Mothers participated in an online survey consisting of a validated chemical intolerance screening instrument, the Quick Environmental Exposure and Sensitivity Inventory (QEESI). Cases and controls were characterized by parental report of a professional diagnosis. We used a one-way, unbalanced analysis of variance to compare means across the 3 groups.

RESULTS:
Both mothers of children with ASD or ADHD had significantly higher mean chemical intolerance scores than did mothers of controls, and they were more likely to report adverse reactions to drugs. Chemically intolerant mothers were 3 times more likely (odds ratio, 3.01; 95% confidence interval, 1.50-6.02) to report having a child with autism or 2.3 times more likely (odds ratio, 2.3; 95% confidence interval, 1.12-5.04) to report a child with ADHD. Relative to controls, these mothers report their children are more prone to allergies (P < .02), have strong food preferences or cravings (P < .003), and have greater sensitivity to noxious odors (P < .04).

CONCLUSION:
These findings suggest a potential association between maternal chemical intolerance and a diagnosis of ADHD or ASD in their offspring.


[拙訳]
目的:
本研究の目的は、化学物質に不耐な女性は自閉スペクトラム症(ASD)又は注意欠如・多動症(ADHD)を伴う子供達を持つ大きなリスクにさらされているかどうかを評価することであった。

方法:
我々は ASD(n=282)又は ADHD(n=258)を伴う子供達及びこれらの障害(disorders)がない子供達(n=154)の母親における化学物質不耐の症例対照研究を実施した。母親は妥当性が確認された化学物質不耐スクリーニング法(validated chemical intolerance screening instrument)と問診票(QEESI)から構成されたオンライン調査に参加した。症例群と対照群は専門家の診断の親からの報告で特徴づけた。我々は、3グループ間での平均値を比較するために不釣り合い型一元配置分散不平衡分析を使用した。

結果:
ASD 又は ADHD を伴う子供達の母親は、対照群の母親よりも有意に高い化学物質不耐の平均スコアを持ち、薬の副作用をより報告しがちだった。化学物質不耐の母親は 3倍自閉症の子供を持つと報告(オッズ比:3.01、95%信頼区間:1.50~6.02)又は2.3倍 ADHD の子供を持つと報告(オッズ比:2.3、95%信頼区間:1.12~5.04)した可能性が高かった。対照群と比較して、症例群の母親は自分の子供がアレルギーになり易い(P < 0.02)、食品の好みや切望を強く有する(P < 0.003)、有害な臭いへの高い感度を有する(P < 0.04)と報告した。

結論:
これらの知見は、母親の化学物質不耐とその子孫における ADHD 又は ASD の診断との潜在的関連性を示唆している。

注:i) 引用中の「(n=282)」、「(n=258)」、「(n=154)」は共に人数を示しています。 ii) 引用中の「対照群の母親」とは ASD 及び ADHD を伴わない子供達を持つ母親のことです。 iii) 引用者は統計学に詳しくないこともあり、本エントリでの統計学の解説はありません。 iv) ちなみに、ADHDについては次の※1においてリンク集があります。さらに、ADHD の本に対する引用については[追加1]及び[追加2]を参照して下さい。

②「The Prevalence of Internet Addiction Among a Japanese Adolescent Psychiatric Clinic Sample With Autism Spectrum Disorder and/or Attention-Deficit Hyperactivity Disorder: A Cross-Sectional Study.[拙訳]自閉スペクトラム症及び/又はADHDを伴う日本の青年の精神医学的サンプル中のインターネット中毒の有病割合:横断研究」

Extant literature suggests that autism spectrum disorder (ASD) and attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD) are risk factors for internet addiction (IA). The present cross-sectional study explored the prevalence of IA among 132 adolescents with ASD and/or ADHD in a Japanese psychiatric clinic using Young's Internet Addiction Test. The prevalence of IA among adolescents with ASD alone, with ADHD alone and with comorbid ASD and ADHD were 10.8, 12.5, and 20.0%, respectively. Our results emphasize the clinical importance of screening and intervention for IA when mental health professionals see adolescents with ASD and/or ADHD in psychiatric services.


[拙訳]
現存の文献は、自閉スペクトラム症(ASD)及び注意欠如・多動症(ADHD)がインターネット依存症(IA)のリスク因子であることを示唆する。本横断研究では、Young's Internet Addiction Test を用いて日本の精神科クリニックで ASD 及び/又は ADHD を伴う 132人の青年の中で IA 有病割合を調査した。 ASD 単独、ADHD 単独、及び ASD と ADHD との併病を伴う青年の中で、IA の有病割合はそれぞれ 10.8、12.5及び 20.0%であった。精神科医療を受けている ASD 及び/又は ADHD を伴う青年をメンタルヘルス専門家が見る時、我々の結果は、IA のスクリーニング及び介入の臨床的重要性を強調する。

注:i) 引用中の「Young's Internet Addiction Test」(注:インターネット依存度テストの一つです)については、次のWEBページを参照して下さい。「ネット依存のスクリーニングテスト」 ii) 引用中の「ASD と ADHD との併病」に関連する「ADHDとASDの併病割合」についてはリンク集を参照して下さい。

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[その2]
以下に大人のADHDにおけるデフォルト・モード・ネットワーク(DMN:Default Mode Network)に関する論文を紹介します。

①次の論文の要旨を以下に引用します。「Dysfunctional modulation of default mode network activity in attention-deficit/hyperactivity disorder.[拙訳]ADHDにおけるデフォルト・モード・ネットワークの調節不全」

The state regulation deficit model posits that individuals with attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD) have difficulty applying mental effort effectively under suboptimal conditions such as very fast and very slow event rates (ERs). ADHD is also associated with diminished suppression of default mode network (DMN) activity and related performance deficits on tasks requiring effortful engagement. The current study builds on these 2 literatures to test the hypothesis that failure to modulate DMN activity in ADHD might be especially pronounced at ER extremes. Nineteen adults with ADHD and 20 individuals without any neuropsychiatric condition successfully completed a simple target detection task under 3 ER conditions (2-, 4-, and 8-s interstimulus intervals) inside the scanner. Task-related DMN deactivations were compared between 2 groups. There was a differential effect of ER on DMN activity for individuals with ADHD compared to controls. Individuals with ADHD displayed excessive DMN activity at the fast and slow, but not at the moderate ER. The results indicate that DMN attenuation in ADHD is disrupted in suboptimal energetic states where additional effort is required to optimize task engagement. DMN dysregulation may be an important element of the neurobiological underpinnings of state regulation deficits in ADHD.


[拙訳]
注意欠如・多動症(ADHD)を伴う個々人は、非常に速い及び非常に遅い事象発生率(ERs)等の最適以下の条件下で効果的に心理的な努力を適用することが困難であることを、状態調節欠陥モデルは前提とする。ADHD はデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)活動の減少した抑制、及び努力を要するエンゲージメントが要求されているタスクにおいて関係する動作障害、にも関連している。現在の研究は、ADHD における DMN 活動の調節の失敗は、ひょっとすると ER の両端で特に明白なのかもしれない仮説を検証する2つの文献に基づく。19人の ADHD を伴う大人と神経精神医学的な異常がない20人(対照群)はスキャナー内で3つの ER 条件下(刺激間隔が2、4及び8秒)での簡単な目標検知タスクを成功裏に終了した。タスクに関連した DMN の不活性化は両グループで比較された。対照群と比較して、ADHD を伴う個々人の DMN 活動に与える ER の分別効果があった。ADHD を伴う個々人は速い及び遅い ER で過剰な DMN 活動を示したが、中間の ER では示さなかった。この結果により、タスクのエンゲージメントの最適化するための追加の努力が要求される部分の最適以下の条件下での精力状態において、ADHD での DMN 減弱が乱されたことが示された。 DMN の調節不全は、ADHD における状態調節障害の神経生物学的基盤の重要な要素であるかもしれない。

注:i) 引用中の「非常に速い及び非常に遅い事象発生率」は、概ね「非常に短い及び非常に長い間隔での事象発生」との意味かもしれません。 ii) 引用中の「ER の両端」は「非常に速い」及び「非常に遅い」 を指すのかもしれません。 iii) 引用中の「スキャナー内」は fMRI のスキャナー内部のことかもしれません。 iv) ちなみに、この論文に関連するかもしれない記述を以下に紹介します。 a) 宮尾益知監修の本、「女性のADHD」(2015年発行)の「COLUMN 落ち着きに関わる脳機能「DMN」とは」における記述の一部(P64)を次に引用します。 b) 中村和彦編著の本、「大人の ADHD 臨床 アセスメントから治療まで」(2016年発行)の 第6章 大人の ADHD の薬物療法 の 1. ADHD の薬理学的背景 の「(3) Default-mode network」における記述の一部(P78)をそれぞれ以下に引用します。

じっくり考える機能の障害?
従来、脳は体の活動時に働き、安静時には休んでいるといわれていましたが、安静時には安静時のネットワークが働いていることがわかってきました。そのネットワークが DMN です。
ADHDの人は、この DMN と活動時のネットワークの切り替えがうまくいかず、困っているのではないかという仮説があります。
安静時に活動時のネットワークが働くため、考えがまとまらず、多動になるのだという考え方です。反対に、活動時に DMN が働いてしまうために、集中できず、注意散漫になるというわけです。
この考え方はまだ仮説ですが、ADHDの人の悩みや苦しみを理解するうえで、ひとつの参考になります。静かにしたいときに静かにできないのだと考えると、本人のつらさがよくわかります。

注:引用中の「DMN」は、Default Mode Network(デフォルトモードネットワーク)の略です。これにおける活動の減少を含むデフォルトモードネットワークについては、他の拙エントリのここを参照して下さい。

(3) Default-mode network(中略)

しかし近年,より全脳的なネットワークである Default-mode network(DMN)と ADHD の関連が注目されつつある。脳は意識的な仕事を行っているときだけ活動し,何もしない安静状態ではただ休んでいると考えられてきた。しかし,一見認知活動を何も行っていないと仮定される安静状態においても,なんらかの活動を自動的に行っている脳の部位が存在することが fMRI の研究などから明らかになった。活動中には鎮静化しており,休息時には活発に興奮する神経細胞群が脳内に存在するのである。このような働きに関連する脳の部位としては後部帯状皮質,内側前頭皮質,内側頭頂皮質,下頭頂皮質などがある。安静状態の脳内ではこれらの領域間に機能的なネットワークが形成されており,これを DMN と呼ぶ。DMN は内省や将来の出来事への準備に関与していると推定されている。ADHD を対象として fMRI を用いた DMN の研究では,安静状態の前頭-後頭部の機能的結合低下が示唆された(Castellanos et al., 2008; Uddin et al., 2008)。これが 安静状態から活動状憩に移行した際に,後に続く行動面で見られる実行機能の弱さの原因となっている可能性がある。また脳波を用いた DMN 研究からは,安静から課題への移行時に DMN の脳活動が減衰されないまま次の活動に移ってしまうというという報告がなされた(Helps et al., 2010)。これは ADHD において,安静状態から活動状態への切り替えに機能不全が存在するためかもしれない。

注:i) この引用部の著者は田中英三郎・市川宏伸です。 ii) 引用中の「次の活動に移ってしまうというという報告」は誤植で、「次の活動に移ってしまうという報告」が正しいと本エントリ作者は考えます。

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[その3]
以下にワーカホリック(仕事中毒)と大人のADHDとの関係に関する論文を紹介します。

①次の論文の要旨を以下に引用します。「The Relationships between Workaholism and Symptoms of Psychiatric Disorders: A Large-Scale Cross-Sectional Study.[拙訳]ワーカホリックと精神障害の症状との関係:大規模な横断研究

Despite the many number of studies examining workaholism, large-scale studies have been lacking. The present study utilized an open web-based cross-sectional survey assessing symptoms of psychiatric disorders and workaholism among 16,426 workers (Mage = 37.3 years, SD = 11.4, range = 16-75 years). Participants were administered the Adult ADHD Self-Report Scale, the Obsession-Compulsive Inventory-Revised, the Hospital Anxiety and Depression Scale, and the Bergen Work Addiction Scale, along with additional questions examining demographic and work-related variables. Correlations between workaholism and all psychiatric disorder symptoms were positive and significant. Workaholism comprised the dependent variable in a three-step linear multiple hierarchical regression analysis. Basic demographics (age, gender, relationship status, and education) explained 1.2% of the variance in workaholism, whereas work demographics (work status, position, sector, and annual income) explained an additional 5.4% of the variance. Age (inversely) and managerial positions (positively) were of most importance. The psychiatric symptoms (ADHD, OCD, anxiety, and depression) explained 17.0% of the variance. ADHD and anxiety contributed considerably. The prevalence rate of workaholism status was 7.8% of the present sample. In an adjusted logistic regression analysis, all psychiatric symptoms were positively associated with being a workaholic. The independent variables explained between 6.1% and 14.4% in total of the variance in workaholism cases. Although most effect sizes were relatively small, the study's findings expand our understanding of possible psychiatric predictors of workaholism, and particularly shed new insight into the reality of adult ADHD in work life. The study's implications, strengths, and shortcomings are also discussed.


[拙訳]
ワーカホリックであること調査する研究は多数あるにもかかわらず、大規模な研究が欠けている。本研究は、16,426人の労働者(平均年齢 = 37.3歳、標準偏差 = 11.4、範囲 = 16~75歳)の中で、精神障害の症状とワーカホリックであることを評価するオープンな Web ベースの横断調査を活用しました。被験者は、大人の ADHD 自己報告尺度(Adult ADHD Self-Report Scale)、強迫インベントリ改訂版(Obsession-Compulsive Inventory-Revised)、病院の不安と抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale)、加えて、人口動態及び仕事関連の変数を調査する追加の質問を実施された。ワーカホリックであることと全ての精神障害の症状との相関は正で有意だった。ワーカホリックであることは3ステップの階層的重回帰分析における従属変数から構成した。基本的な人口統計(年齢、性別、交際ステータス及び教育)はワーカホリックであることにおける 1.2% の分散を説明した。ところが、仕事の人口統計(仕事の状況、地位、部門、年収)は分散の追加の5.4%を説明した。年齢(負の相関)及び管理職(正の相関)が最も重要であった。精神障害の症状(ADHD、強迫症、不安及びうつ)は分散の 17.0% を説明した。ADHD と不安はかなり寄与した。ワーカホリック状態の有病率は原サンプルでは 7.8% であった。補正されたロジスティック回帰分析において、全ての精神症状はワーカホリックであることと正に相関していた。ワーカホリックの場合での分散の全体における独立変数は 6.1% ~ 14.4% を説明した。ほとんどの効果量は比較的小さいものの、この研究の調査結果により、ワーカホリックであることの潜在的な精神的予測因子の理解が拡大され、そして、特に仕事人生における大人の ADHD の現実に新たな洞察を与えた。この研究の意義、強み、不足も論じた。

注:この論文の調査を実施した研究機関である大学、UNIVERSITY OF BERGEN のWEBサイトに次のWEBページがあります。「Workaholism tied to psychiatric disorders[拙訳]精神障害と結びついたワーカホリックであること」 このページにおける一部の記述を次に引用します。 さらに、この要旨の本文の「Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and workaholism」項から記述の一部を以下に引用します。

Workaholics score higher on all clinical states

The study showed that workaholics scored higher on all the psychiatric symptoms than non-workaholics. Among workaholics, the main findings were that:
•32.7 per cent met ADHD criteria (12.7 per cent among non-workaholics).
•25.6 per cent OCD criteria (8.7 per cent among non-workaholics).
•33.8 per cent met anxiety criteria (11.9 per cent among non-workaholics).
•8.9 per cent met depression criteria (2.6 per cent among non-workaholics).

“Thus, taking work to the extreme may be a sign of deeper psychological or emotional issues. Whether this reflects overlapping genetic vulnerabilities, disorders leading to workaholism or, conversely, workaholism causing such disorders, remain uncertain,” says Schou Andreassen.


[拙訳]
ワーカホリックの人の全ての臨床状態に関する高いスコア(得点)

この研究によって、全ての精神的な症状に関して、ワーカホリックでない人よりもワーカホリックの人はスコアが高いことが示された。主要な結果は次の通り。
・32.7% は ADHD の基準に適合した。(ワーカホリックでない人は 12.7%)
・25.6% は強迫症の基準に適合した。(ワーカホリックでない人は 8.7%)
・33.8% は不安の基準に適合した。(ワーカホリックでない人は 11.9%)
・8.9% はうつの基準に適合した。(ワーカホリックでない人は 2.6%)

”このように、極端に仕事をすることはより深い精神的又は情動の問題の兆候かもしれない。これがオーバーラップした遺伝的な脆弱性を反映している、ワーカホリックであることをもたらす障害又は逆に障害を引き起こすワーカホリックであることかどうかは不明確のままである”と Schou Andreassen は言う。

注:引用中の「強迫症」、「不安」及び「うつ」については共に他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ただし、「強迫症」は用語「強迫性障害(強迫症)」、「不安」は用語「不安障害(不安症)」、「うつ」は用語「うつ病」をそれぞれ利用して下さい。

Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and workaholism
These findings are in line with established knowledge of the co-occurrence of ADHD and addictions in general [26], although the present study is the first ever to associate work addiction with ADHD, thus providing support for the second hypothesis. Although ADHD is often associated with unemployment and being unable to conduct normal work [26], the present authors’ hypothesized that ADHD would be related to workaholism partly for this very same reason. Individuals with ADHD may have to work harder and longer to compensate for their work behavior caused by neurological deficits. They may also be at risk of taking on projects and tasks impulsively–resulting in more work than they can realistically do within normal working hours. Some, but far from all, with this disorder are also very hyperactive [8,26]. Hence they may choose and thrive better in jobs with frequent deadlines and higher levels of work stress, conditions that may alleviate their inner restlessness (e.g., self-medication).

The present authors also propose that such people are unable to relax, and may keep on working nonstop–if they find a task interesting and demanding enough (e.g., hyper-focus). Furthermore, it is hypothesized that these workaholic ADHD types push themselves in their job in order to disprove conceptions of them by others as being lazy or unintelligent. History portrays many highly successful entertainers, inventors and entrepreneurs, authors and scientists as well as business leaders with ADHD traits–often associated with hard working talent and abundant creativity [52]. Given that the first academic writings on workaholism appeared in the early 1970s [53], it is arguably surprising that the present study is the very first that empirically link symptoms of ADHD with workaholism. This may be because ADHD is often thought of as a child disorder from which sufferers grow out of before reaching adulthood [26]. This is now known not to be the case, and ADHD is probably under-diagnosed in adults [26]. Instead, such adult individuals are often diagnosed with bipolar disorder, anxiety, depression, borderline personality disorder, etc. [26]. The current findings are also in accordance with several popular workaholic typologies portrayed in recent years [31].


[拙訳]
ADHD とワーカホリック
本研究は、ADHD と仕事依存症を関連付けることが初めてであるが、これらの知見は一般に ADHD と依存症との共起の確立された知識に即しており[26]、このように第二の仮説のためのサポートを提供する。ADHD はしばしば失業及び通常の仕事ができないことと関連する[26]ものの、著者らは部分的にこれと同じ理由で、ADHD はワーカホリックと関連するであろうと著者らは仮定した。ADHD を有する個々は、神経学的な欠陥により引き起こされる仕事の行動を補うために、よりハードにより長く仕事をしなければならないかもしれない。彼らは現実的な通常の勤務時間内に行うことができることより衝動的に多くの仕事につながるプロジェクトやタスクを引き受けるリスクを有する可能性もある。全員とは程遠いが、この障害を有するある方々は、非常に活動的でもある[8,26]。それゆえに、しばしば最終期限及び高レベルの仕事のストレスを伴う職業の彼ら内面の不穏状態を軽減するかもしれない状況において、彼らは選択し、より成功するかもしれない(例えば、自己治療)。

本著者らはまた、そのような方々がリラックスできないこと及びタスクが十分におもしろい及び忙しい(例えば、過集中)と彼らが気づくならば、無休息で仕事をやり続けるかもしれない。さらに、これらのワーカホリック ADHD タイプは、怠惰又は愚鈍としての他者による概念の反証のために彼らを仕事に駆り立てると仮定される。ADHD の特性、ハードワーキング才能と豊かな創造力にしばしば関連付けられるビジネス・リーダーはもちろん、多くの非常に成功したエンターテイナー、発明者、起業家、作家及び科学者を歴史は描写する[52]。ワーカホリックに関する最初のアカデミックな執筆が1970年代の初頭に登場した[53]ならば、ワーカホリックを伴う ADHD の症状に経験的に関連する本研究がまさに最初であることはおそらく驚くべきことである。これは、ADHD は子どもの障害で、大人になる前に解消されるとしばしば考えられるからかもしれない[26]。これは現在、真相ではないと知られ、ADHD はおそらく大人において過少診断される[26]。かわりにこのような大人はしばしば双極性障害、不安症、うつ病、境界性パーソナリティ障害等と診断される。現在の調査結果は近年において描写されるいくつかの一般的なワーカホリックの類型論にも一致する。

注:i) 引用中の「anxiety」は不安症と拙訳しました。一方、引用中の「双極性障害」、「不安症」、「うつ病」及び「境界性パーソナリティ障害」については、共に他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ただし、「不安症」は用語「不安障害(不安症)」を利用して下さい。 ii) 引用中の文献番号「[8]」、「[26]」、「[31]」、「[52]」及び「[53]」に相当する論文、資料又はWEBページはそれぞれ次の通りです。「American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association; 2013.」、「Underdiagnosis of attention-deficit/hyperactivity disorder in adult patients: a review of the literature.」、「A guidebook for workaholics, their partners and children, and the clinicians who treat them New York: New York University Press; 2014.」、「Famous People With ADHD and ADD」及び「Oates W. Confessions of a workaholic New York: World Pub. Co; 1971.」

[その4]
以下に ADHD における情動調節に関する論文を紹介します。

① 次の論文の要旨を以下に引用します。「Emotion dysregulation in attention deficit hyperactivity disorder.[拙訳]ADHD における情動調節不全」

Although it has long been recognized that many individuals with attention deficit hyperactivity disorder (ADHD) also have difficulties with emotion regulation, no consensus has been reached on how to conceptualize this clinically challenging domain. The authors examine the current literature using both quantitative and qualitative methods. Three key findings emerge. First, emotion dysregulation is prevalent in ADHD throughout the lifespan and is a major contributor to impairment. Second, emotion dysregulation in ADHD may arise from deficits in orienting toward, recognizing, and/or allocating attention to emotional stimuli; these deficits implicate dysfunction within a striato-amygdalo-medial prefrontal cortical network. Third, while current treatments for ADHD often also ameliorate emotion dysregulation, a focus on this combination of symptoms reframes clinical questions and could stimulate novel therapeutic approaches. The authors then consider three models to explain the overlap between emotion dysregulation and ADHD: emotion dysregulation and ADHD are correlated but distinct dimensions; emotion dysregulation is a core diagnostic feature of ADHD; and the combination constitutes a nosological entity distinct from both ADHD and emotion dysregulation alone. The differing predictions from each model can guide research on the much-neglected population of patients with ADHD and emotion dysregulation.


[拙訳]
注意欠如・多動症(ADHD)を伴う多くの個々人も情動調節の困難を有することは、長い間認識されているが、この臨床的に困難だがやりがいのある分野(domain)をどのように概念化するかのコンセンサスには到達していない。定量的及び定性的な両方の方法を使用して、現在の文献を著者らは調べる。 3つの重要な知見が出現した。第一に、情動調節不全は、ADHD において生涯を通じて広く認められ、そしてこれが障害の主要な一因である。第二に、ADHD における情動調節不全は情動刺激の方向づけ、認識及び/又は注意配分における欠陥から生じるかもしれなく、これらの欠陥は線条体-扁桃体-内側前頭皮質のネットワーク内の機能不全を意味する。第三に、現在の ADHD の治療法はしばしば情動調節不全も改善する一方で、この症状の組合せに関する焦点は、臨床的な疑問及び新たな治療的アプローチを激励しうるだろうことをリフレームする。著者は、その後、情動調節と ADHD との間の重なりを説明するために、3つのモデルを考慮する。すなわち、情動調節不全と ADHD とは、お互いに関連するが、別の特質である;情動調節不全は ADHD の中核的な診断の特徴である;及び組み合せは、ADHD のみ及び情動調節不全のみとは異なる疾病分類学的な実体を構成する。各モデルの異なる予測は、大きく無視された ADHD 及び情動調節不全を伴う患者総数に関する研究を導くことができる。

注:i) 引用中の「情動調節」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。

[その5]
以下に ADHD における認知行動療法の効果に関する論文を紹介します。

① 次の論文の要旨を以下に引用します。「The Efficacy of Cognitive Behavioral Therapy for Adults With ADHD: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials.[拙訳]ADHD を伴う大人のための認知行動療法のにおける効果:ランダム化比較試験のシステマティックレビュー及びメタアナリシス」

OBJECTIVE:
To systematically review the literature on published randomized controlled trials (RCTs) of cognitive behavioral therapy (CBT) for adult ADHD and to establish the effectiveness of CBT in reducing ADHD symptoms.

METHOD:
A systematic review of nine RCTs and two subsequent meta-analyses of eight of the studies were conducted.

RESULTS:
Just nine studies were identified, of generally good quality but with some limitations. Four trials (total N = 160) compared CBT with waiting list controls, and three trials (total N = 191) compared CBT with appropriate active control groups. Meta-analyses showed that CBT was superior to waiting list with a moderate to large effect size (standardized mean difference [SMD] = 0.76, 95% confidence interval [CI] [0.21, 1.31], p = .006) and superior to active control groups with a small to moderate effect size (SMD = 0.43, 95% CI [0.14, 0.71], p = .004).

CONCLUSION:
These results give support to the efficacy of CBT in reducing symptoms of ADHD post-intervention.


[拙訳]
目的:
大人の ADHD のための認知行動療法(CBT)の発行されたランダム化比較試験(RCT)に関する文献をシステマティックにレビューし、ADHD の症状の軽減における CBT の有効性を確立する。

方法:
9 つの RCT 及び 2 つのその後の 8 つの研究のメタアナリシスのシステマティック・レビューを実施した。

結果:
ちょうど 9 つの研究、一般的に良い品質のものが、いくつかの制限を伴って同定された。 4 つの試験(合計 N = 160)は、CBT と待機リスト対照群とを比較し、そして、3 つの試験(合計 N = 191)は、CBT と適切なアクティブ対照グループとを比較した。CBT は待機リストより中等から大きい効果量(標準化平均差[SMD] = 0.76、95%信頼区間[CI] [0.21、1.31]、P = 0.006)を伴って優れていたこと、そして、小さいから中等の効果量(SMD = 0.43、95%CI [0.14、0.71]、p = 0.004)を伴うアクティブ対照群よりも優れていたことを、メタアナリシスは示した。

結論:
ADHD の介入後の症状軽減における CBT の有効性を、これらの結果は支持した。

注:i) 引用中の「N = 160」、「N = 191」は共に人数を示しています。 ii) 引用中の「アクティブ」は待機ではなく何らかの治療をしていることを示しているのかもしれません。

※1:ADHD についてのリンク集(拙ブログ外)
注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典(注:ここの「診断・鑑別診断」項にADHDの診断基準[DSM-5]が示されています)、今村明先生に「ADHD」を訊く大人の ADHD ストーリーADHDの支援・治療大人のADHDの診断基準 - apitalADHDコーチング - apital大人ADHDの人が同じ失敗を繰り返さないために - apital周囲の人に理解してもらうには - apital締め切りは早め、遅め、どっちに設定する? - apitalごみ屋敷とADHD - apital貧困はADHDを生み出す? - apital *30【3212】両親からADHDの傾向があると言われています - Dr 林のこころと脳の相談室(このサイトのホームページ

ご参考:中島美鈴 記事一覧 - apital(ちなみに、これらのWEBページは期間限定公開のようです)。

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[追加1]ADHDの本に対する引用
以下に、標記引用を複数紹介します。一方、ADHDにおける感覚過敏についてはここを参照して下さい。

(a)主に、岩波明著の本、「大人のADHD -もっとも身近な発達障害」(2015年発行)からの複数の引用を以下に紹介します。
本の 第2章 症状 の「成人の約3~4%がADHD」における記述の一部(P42)を次に引用します。

(前略)成人においでは、総人口の2~5%がADHDと診断されるとしているものが多い。ケスラーらによる米国の大規模調査においでは、成人の4.4%がADHDであると推定している。彼らの研究ではADHDは男性で多く、離婚率、失業率が高く、他の精神疾患の合併が高率であった。
一方でDSM-5においでは、成人のADHDは総人口の2.5%と比較的低い値が記されている。以上をまとめると、確定的な結論は得られていないものの、ADHDは成人の約3~4%に認められると考えるのが妥当であろう。 (後略)

注:i) 引用中の「ケスラーらによる米国の大規模調査」に関連する論文を次に紹介します。The prevalence and correlates of adult ADHD in the United States: results from the National Comorbidity Survey Replication. ii) ちなみに、①成人ADHDの有病割合が「2.5%」と記されている論文を次に示します。Prevalence and correlates of adult attention-deficit hyperactivity disorder: meta-analysis. ②成人ADHDの有病割合は世界保健機関によって3.4%と記されている論文を次に示します。要旨:Cross-national prevalence and correlates of adult attention-deficit hyperactivity disorder.本文

本の 第2章 症状 の「成人における症状」における記述の一部(P53~P58)を次に引用します。

(1)多動と衝動性
成人になると、目に見える形での多動症状はおさまってくることが多いが、手足を落ち着かなく動かす傾向や、じっと座っていることが必要な状況で、内的な緊張感、落ち着きのなさが高まることなどがしばしば認められる。
ADHDの成人の一部は、このような内面の「多動・衝動性」を経験していることが多い。彼らはストレスの強い状況では、内的な焦燥感、切迫感によってパニック状態となり、唐突な行動をとり始めることもみられる。
一方で、自らの多動傾向をうまくコントロールしている人も多い。職場でいつも歩き回ったり、一方的に話をしたりするのは、多動傾向のなごりかもしれない。また、会議や学会などで、必ず発言を求めたり、たて続けに質問をしたりするのは、多動の現れであることも多い(図表2-1に成人における多動症状について示した)。
また衝動性に関しては、「いらいらして怒りっぽい」「衝動的な行動や判断が多い」などという点に現れることがある。さらに、「危険な運転を好む」「アルコールやギャンブルに依存しやすい」などの問題行動につながりやすい(図表2-2に、成人における衝動性について示した)。

(2)不注憲
通常、ADHDの注意障害は成人になっても継続する。成人期の注意障害に関する具体的な例としては、かばんやパソコンをひんぱんに置き忘れる、鍵や携帯電話をなくしてしまう、外出中に混乱して目的地の場所がわからなくなる、服の着こなし方が不自然だったり、靴下が左右揃っていなかったりすることなどがあげられる。片付けが苦手なケースも多く、しばしば、自室や会社のデスク回りにものが積み上げられている。段取りをたてることが苦手なだめ、主婦においでは、炊事や育児を苦手とする人が多い。
ADHDの成人においでは、不注意の症状によって、忘れっぽさ、集中力不足、あるいは自らのスケジュール管理が困難であることなどがみられる。仕事上の約束を守れないことも多い。
その結果として、対人的な交渉、接触が苦手となり、そのような状況を自ら避けるようになりやすい。このため、能力はあるにもかかわらず、「信頼できない」「あてにできない」と否定的に評価されやすいことに加えて、このようなストレス状況からうつ状態などに至ることも起きやすくなる。図表2-3に、成人における不注意症状ついて示した。多くのADHD患者は、本来は人なつっこく対人関係に大きな問題はみられないが、思春期以降、対人場面において相手の話を十分に理解していないことや、仕事上の約束を守れないことが繰り返されて、安定した対人関係を維持することが困難となりやすい。このため、本来はADHDでありながらも、対人関係の問題が大きな問題となり、自らアスベルガー症候群ではないかと受診する人が少なくない。
一方、成人期においでは、自分の特性を理解し十分なスキルを獲得しているADHDの人は、不得手な状況に対して、自分なりの対応策を講じていることもみられる。彼らはさまざまな方略を工夫して身につけているため、自分の症状をコントロールし、対処することが可能となっている。
ADHDの人の職場における問題点として、すぐに取り組むべき仕事があるにもかかわらず、周辺にある興味をひくことに関心が向いてしまい、肝心の業務がなかなか進まないことがあげられる。このため、上司からは自分の指示をきちんと聞いていないと厳しく評価されることがしばしばある。
成人期では、注意障害が生活の中でさまざまな形となって出現するが、同時に感情面でも不安定となり、気分の浮き沈み、怒りを爆発させる、イライラ感などを示す例も少なくない。この結果、ADHDにおいでは、不安障害、気分障害などの他の精神疾患が併存することが多くなる。このようなケースにおいでは、本来のADHDが見逃されやすく、正しい診断がなされないため、適切な治療を受けていないことがしばしばみられる。

(3)その他の問題
これまで述べたように、ADHDの症状は、成人になると小児期のものと変化がみられる。成人期になると症状は直接的な形で出現することは少なくなるからである。この理由としては、本人なりに社会生活に適応しようとした結果であることが多い。
けれども一方で、成人期のADHDにおいでは、さまざまな行動上の問題が出現しやすい。リスキーな自己破壊的な行動に行きつくこともみられ、その結果として司法的な問題に至る例もみられる。このような問題行動は、境界例(境界性パーソナリティ障害)のパターンと類似している。(後略)

注:i) 引用中の「図表2-1」、「図表2-2」及び「図表2-3」は引用していません。必要に応じて一次情報を参照して下さい。 ii) 引用中の「不安障害、気分障害」及び「境界例(境界性パーソナリティ障害)」については他の拙エントリのリンク集を参照して下さい。ただし、境界例(境界性パーソナリティ障害)は用語「境界性パーソナリティ障害」に相当し、気分障害は用語「うつ病」又は用語「双極性障害」に相当します[気分障害はうつ病等と双極性障害等の総称ですが、現在(DSM-5)では両者は分離されています]。 iii) 引用中の「自らアスベルガー症候群ではないかと受診する人が少なくない」に関連して、ADHDとアスペルガー症候群との見分け方については、ここ及びここを参照して下さい。 iv) 引用中の「不注意」に関連して、同本の はじめに の「注意の配分が苦手」における記述(P11~P12)を以下に引用します。 v) この引用に関連して、同本の 第3章 社会生活 の「生活上の問題」より、「図表3-1 成人期のADHDの特徴的な所見」をはじめとした記述の一部(P71)を次に引用します。

(前略)成人のADHDにおいて、日常生活や学校において問題となりやすい点について、図表3-1に示した。(後略)


図表3-1 成人期のADHDの特徴的な所見
(1) 職場や学校
・落ち着かずにそわそわする
・貧乏ゆすり、指を机で叩くことなどがやめられない
・不用意な発言が目立ち、思ったことをすぐに言動に移す
・集中できない、ケアレスミスが多い
・ものをなくす、忘れる
・締め切りを守れない、段取りが下手で完結できない

(2) 家庭生活
・別のことに気をとられ家事がおろそかに、家事の効率が悪い
・衝動買い、金銭感覚が苦手
・部屋が片付けられない
・朝起きられない、外出の準備が間に合わない

(3) 対人関係
・おしゃべりがとまらない、自分のことばかり話す
・衝動的な発言、つい叱責してしまう
・約束を守れない、約束を忘れる
・集中して話を聞けない
・映画館やレストランで落ち着かない

注意の配分が苦手
ADHDでは、病名とは矛盾するが、「注意力」が「欠如」しているわけではない。一時的には「過剰」に注意集中することもみられる。しかし、通常ADHDの人たちは、集中力を持続することが苦手で、ケアレスミスやものを置き忘れることも多い。
彼らの現実の生活の中で、もっとも問題となる点は、注意の配分が不得手であることである。たとえば、会話をしている状況を考えてみよう。
この場合、目の前の相手に対して大部分の注意を向けているのであるが、一方で、多くの人は、自然に周囲の他の人物や事物にも、一定の注意を払っている。したがって、ふいに予想外の出来事が起きでも、ある程度の対応は可能となる。
これに対してADHDの人の場合は、目の前の相手に「集中」してしまうため、あるいは頭の中で別のことを思い浮かべやすいため、予想外のアクシデントが生じると、混乱しやすい傾向を持つ。それまで話していたことが頭の中から飛んでしまい、動揺してパニック状悪になることも起きやすい。ADHDの人にとっては、さまざまな意見が飛び交うディスカッションの場面などは、不得手な状況なのである。
一方で、周囲の状況によっては、彼らはかなりの能力を発揮することもできる。実際、私自身ワンマンプレーに徹することができる職場環境において、目覚しい成果をあげているADHDの人を何人か知っている。この場合、過剰に集中する傾向がプラスの面として現れるのである。

③ ADHDとASD(PDD)の併病割合に関連して、本の「第5章 ADHDとASD」における記述の一部(P125~P126)を次に引用します。

(前略)吉田らは、高機能のPDD53例のうち36例(68%)がADHDの診断基準(DSM-Ⅳ)をみたし、不注意優勢型が多かったと報告した。ゴールドシュタインらもPDD27例のうち16例(59%)がADHDの診断基準(DSM-Ⅳ)を満たし、サブタイプでは混合型が9例、不注意優勢型が7例であった。このように、ADHDとASD(PDD)は症状における類似性が大きく、診断が難しいケースもたびたびみられる。
またストルムらは、高機能のPDD101例の精神症状を検討した結果、95%に注意障害があり、50%に衝動性の問題があると報告した。この結果は、PDDとADHDにおける精神症状の類似性を示している。シンティッヒらは、83人のASDの児童を対象とし、彼らがDSM-ⅣによるADHDの診断基準を満たすかどうか検討を行った。この結果、対象患者の53%はADHDの診断基準に合致し、多動とコミュニケーションの障害、不注意と常同行為に関連性がみられたとしている。
以上の報告のように、高機能のASD(PDD)にはADHD様の症状が高頻度に認められることは明らかである。(後略)

注:i) 引用中の「DSM-Ⅳ」は第4版ですが、ちなみに、最新の第5版については、次のWEBページを参照して下さい。『注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典の「診断・鑑別診断」項』 ii) ちなみに、DSM-5(DSM-Ⅴ)では、ADHDとASD等の併存が認められることになったことを記すWEBページ例を次に示します。「ADHDなのか、アスペルガー症候群なのか - apital」 iii) 引用中の「サブタイプ」に関連して、同本の P29 に次の引用する記述があります。

この基準では、「不注意優勢型」「多動性-衝動性優勢型」「混合型」という三つのサブグループが設定された。

注:引用中の「この基準」は、DSM-Ⅳのことです。

本の 第5章 ADHDとASD の「ADHDとASDの区別」における記述の一部(P142~P144)を次に引用します。

ここでは、両疾患で共通してみられる行動上の特徴に関して、それぞれの疾患の問題点から解釈を行った結果を述べたい(以下の内容は、京都大学の十一元三教授の示唆による)。

(1)「毎回し忘れる、毎日目にして気づかない」
日常生活や仕事において、毎日必ずしなければならないことは少なからずある。たとえば、出社時に会社でタイムカードを押すことなどがあげられる。ADHDでは、タイムカードの押し忘れは、不注意に起因するものであるが、ASDでは、この行動が社会的に重要であるという認識が欠けているために起こる。

(2)「話し出すと止まらない」
発達陸害の患者では、周囲にかまわず一方的に自分の考えを主張したり、興味のある分野の話ばかりする人がしばしばみられる。ADHDにおいでは、これは衝動性の現れであり、思いついた事を言わずにおられないことが原因である。一方、ASDでは、自分が自由勝手に話をしていいのかどうか、状況を認識できていないために起こることが多い。私の担当患者でも、外来の受診時に、自分の好きな80年代のアイドルのエピソードを延々と話し続けるASDの人がいた。

(3)「話がとぶ」
前項と関連するが、発達障害の人の話の内容は説明不足で、話題が飛ぶことがよくみられる。ADHDにおいでは、やはり衝動性の結果起こるものであり、一足飛びに説明しようとするため話が飛躍しやすい。ASDにおいでは、話をしている相手が理解しているかどうか考慮しようとしないので、奇異な内容が含まれやすい。

(4)「順番や会話に割り込む」
このような他の人に配慮しない行動パターンは、ADHDでもASDでもしばしばみられる。ADHDは内的な衝動性によって、がまんできなかったり、待てなかったりするためである。一方で、ASDにおいでは、他者への意識の希薄さから、勝手な行動をとりやすい。つまり、他人の存在を十分に認識していないということである。

(5)「なれなれしい」
発達障害の患者は、対人関係に障害がある一方、他者と必要以上になれなれしかったり、「距離」が近かったりすることがある。ADHDの人は、元来ひとなつっこく、あどけない行動をとることが多い(けれども、安定した関係を継続することは難しい)。ASDにおいでは、社会的な距離間がわからずに、必要以上になれなれしく接することが起こる。

(6)「懲りない」
発達障害の人は、何度も同様にミスを繰り返すことが多い。ADHDにおいでは、不注意の反映であるとともに、目の前の「快刺激」を優先しやすい結果である。ASDにおいでは、自らの行動を制止する社会的な必要性を感じていないことが原因である。このような原因で、ASDの人によるストーカー行為が起こることがある。

注:標記「ADHDとASDの区別」に関連して、一方的に話してしまう、ニュアンスがわからない及び社会性のなさの各視点から以下にそれぞれ引用します。一方、女性の視点からのADHDとアスペルガー症候群の違いの例はここを参照して下さい。

まず、田中康雄、笹森理絵著の本、『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(2014年発行)の 第3章 人の話がわからない、他人の思いが理解できない…… の「9.一方的に話してしまう」項における記述の一部(P115~P119)を次に引用します。

9.一方的に話してしまう
なぜか相手を怒らせがち
発達系の課題がある人には、独特の話し方が見られます。それが、「相手の気持ちを察することが難しい」「周囲の空気が読めない」と言われてしまう原因のひとつになっています。
なかでも目立つのが、一方的な話し方。自分の思いや考えが一気に口からあふれ出てくるように話してしまい、相手が口をはさむ余地がなく、対話になりません。
他人の意見が自分と異なる場合でも、相手の気持ちを推し量ったり、周囲の状況をうかがいながら話すことができません。そのため、つっけんどんで一方的に口論をしかけるような話し方になってしまうのです。
話を聞く側は、自分が非難されたと感じて驚き、そのつっけんどんな言い方が不快で、感情を害することもあるでしょう。
ところが本人は、相手を怒らせようとか、周りをシラケさせようとか、悪意をもって話しているわけではありません。相手の気持ちや周囲の状況が把握できないことが原因ですから、議論好きな人が、相手を言い負かしたくて議論をふっかけるのとは違う性質のものです。
相手と向き合って会話する場合だけでなく、ツイッターやLINEなどネット上のコミュニケーションにおいても、発達系の課題がある人たちの発言は同様に一方的になりがちです。周囲の発言からその場の状況を読み取ることが苦手なので、一方的な発言を続けてしまい、それが読む人たちに不快感を与えてしまいます。
発達系の課題を持つ人にかぎらず、ツイッターやLINEで短い言葉を交わしあって、お互いの考えを伝えるのは、なかなか難しいことです。会って話すときや、長い文章で相手に自分の思っていることを伝えるのに比べると、情報量は十分とはいえず、しかも必要な情報が途中で抜け落ちてしまっていることもあります。
それで、見当違いな反応をしてしまうと、「空気が読めていない」と一蹴されてしまうことがあるのです。

「聞く-話す」のマルチタスクができない
誰かと対話するとき、僕たちはまず相手が話す内容を理解しようと努めます。言葉づかいや表情から相手の意図を探り、話の内容が理解できたと確信したところで、自分の意見を述べます。相手も同様に、こちらの意見を理解したうえで意見を述べていると考えます。ふだん何気なく話しているようでも、そのようにお互いに折り合いをつけながら対話しているのです。つまり、相手の話を聞いて理解する、自分の考えをまとめて発言する、というふたつの機能をほぼ同時に進めています。
発達系の課題がある人のなかでも、とくにPDDタイプは、そのように複数の作業を並行して同時に進める「マルチタスク」が基本的に得意ではありません。他人との会話でも、聞くときは聞く、話すときは話す、というシングルタスクになりがちです。会話の相手がこの特性を理解していないと、「話のわからないヤツだな」という印象を持つようです。
反対に、ADHDタイプは過度にマルチタスクなところがあって、PDDとは別の理由で相手に話しづらさを感じさせます。
会話している最中に、目や耳から何か別の刺激が入るとそちらへも反応し、四方八方へ同時に注意が向かっているのです。落ち着きのない人がよく「注意散漫」といわれますが、ADHDタイプは気が散って注意が散漫になっているのではなく、外界のあらゆる刺激に等しく注意が向けられている、全方位に注意を分散させてしまうのです。

話題が転々として対話にならない
ADHDタイプの人は、会話の最中に相手の口にしたひと言が、自分にとって関心の強い事柄だと、過敏に反応し、そこから自分が思いついたことに話題を変えてしまうことがあります。枝葉末節なことでも、自分が関心のあるキーワードが聞こえると意識を奪われてしまうのです。
たとえば「このあいだラーメン屋の角を曲がったところにある喫茶店に入ったら……」と相手が話したら、「ラーメンといえばさあ、きのう食べたカップラーメンがすごくおいしかったよ」と自分の関心領域に話題を移してしまうことが少なくありません。相手は、自分が話そうとした内容から大きくズレてしまって困るというわけです。
このように、ADHDタイプは、次々と何かが思い浮かんでしまうので、いま考えていることが次の瞬間には塗り替えられてしまいます。

注:i) この引用部の著者は田中康雄です。 ii) 引用中の『「聞く-話す」のマルチタスクができない』(ただし、PDDタイプのみ)に関連する「並列処理の困難」については、ここを参照して下さい。

加えて、田中康雄、笹森理絵著の本、『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(2014年発行)の 第3章 人の話がわからない、他人の思いが理解できない…… の「10.他人の感情がわからない」項における記述の一部(P126~P128)を次に引用します。

ニュアンスがわからない
「この人には言葉が通じない」
職場や学校でそう言われている人はいないでしょうか。本人に面と向かって言わなくても、「この人とは話にならない」という共通認識ができている場合もあります。
こういう方は、相手の話された言葉とそれに伴う感情を理解し、咀嚼するのが不得意なのでしょうが、それは発達障害や発達系の課題を持つ人にもよく見られる特性なのです。
僕たちは他人と話すとき、表情や態度、話し方、話す内容、言葉づかいなどをヒントに、言葉そのものには表れなくても、裏側にある思考や感情をおおよそ理解することができます。「ニュアンス」とか「含み」とかいわれるものです。
たとえば、「バカだなぁ、お前は」と言われたとしましょう。相手が親や兄弟、または本当に仲のいい友だちなら、その口調はどこか愛情や優しさを含んだものになります。何か失敗して落ち込んでいるときなら、慰めてくれたのかもしれません。
ところが、見ず知らずの人に「バカだなぁ、お前は」と言われたらどうでしょうか。しかも相手がいかにも軽蔑するような表情だったとしたら、腹が立ってケンカになってもおかしくありません。
つまり、僕たちは言葉そのものだけでなく、相手との関係や状況、相手の表情や発言のタイミング、声の抑揚などによって、その言葉に込められた感情をキャッチしているわけです。
飼い猫がミルクの器をひっくり返して、飼い主が「バカだねぇ、お前は」と言えば、そこには「こぼしてしまったところを拭くのは面倒だけど、こんなことをするところが本当にかわいいなぁ」という気持ちが感じられます。テレビでお笑いタレントのコントを観ながら「バカだねぇ」と笑ったら、それは「面白い」という意味です。
発達系の課題がある人、とくにPDDタイプは、相手の発言を言葉どおりにそのまま受け取ってしまう特性があります。だから、自分の周りにいる人たちが、先ほどの例のように同じ「バカ」でも、状況に応じて意味を使い分けているようなことに、自信をなくし、戸惑うのです。
たとえば、「バカだなぁ」は、言葉どおりに「愚か」「劣っている」と受け止めてしまいます。すると、周囲は親しみを込めて言ったつもりでも、PDDタイプの人は急に怒りだしたり、落ち込んだりするのです。
一方、ADHDタイプの人は、相手の発言を注意深く聞いていないことが多いので、微妙な口調の違いまで察知できない場合があります。会話しながら別のことを考えていたり、自分が関心のないところは聞いていなかったり、他の刺激に気を取られていたりして、耳から入ってくる情報が虫食い状態になることが多いのです。ストーリーや文脈は途切れ途切れで、断片的な話を聞いているようなものです。
このようにPDDタイプとADHDタイプは、「話が通じない」理由は違っても、周囲からすると「ちょっと困った人」であることに変わりはありません。

注:この引用部の著者は田中康雄です。

さらに、本の 第2章 症状 の 小児における症状 の「(1)多動と衝動性」における記述の一部(P48~P50)を次に引用します。

(前略)一方、ADHDの人は、総じて人なつっこいことが多く、集団に入り込むことは比較的得意である。それにもかかわらず、対人場面でミスを重ねたり、あるいは不適切な発言を繰り返したりすることによって、次第に浮いた存在となりやすい傾向がある。このため、「少し変わった子供」とみなされることが多い。
行動面の衝動性は、他の児童や家族に対する攻撃性となってみられることが多い。普段はおとなしいADHDの子供が些純なやりとりから「きれて」つい手を出してしまい、他の子供に暴力的となるケースもみられている。このような攻撃性は、就学前から問題となるケースが存在している。
つまりADHDの子供は爆発的であることが多く、イライラしやすい。彼らは、比較的小さな引き金で、怒りを爆発させることがある。それに加えて情緒不安定のため、気分や行動は変わりやすく予想しにくいのである。また、衝動性と不注意のため、事故や怪我が多発することが多い。よく「ものにぶつかる」ことも多い。
ここで注意が必要である点は、ASD(自閉症スペクトラム障害)の児童においでも、ADHDと同様の衝動的、攻撃的な行動がしばしばみられる点である。ADHDにおいでは、内面の衝動性をコントロールできないため、攻撃的な行動を伴いやすいが、ASDでは、社会性のなさが同様の行動をもたらすことがある。ASDにおいては、「社会的にしてはいけないこと」の認識が希薄なだめ、常識からはずれた行動を起こしやすいのであるが、行動のみからはADHDとASDの区別は難しい。
次に示すのは、成人のASDのケースで、デイケアに通所中の女性患者の例である。彼女は国立大学を卒業し教師の資格も持っている高学歴の人であったが、職場で孤立することを繰り返し、精神科の通院を続けていた。
彼女は、通所中の精神科デイケアでしばしばトラブルを起こした。目の前できまりを守らない人をみると、彼女はがまんができないのだった。たとえば、デイケアのグループで話し合いをしているときに、一方的に不規則な発言をしているメンバーがいると、彼女はすぐに注意をした。それでも相手の発言が収まらないと、クールな表情のまま、突然、相手を殴りつけるのである。
電車の中でも、騒いでいる男性に「うるさい」と言って手を出してトラブルとなり、警察沙汰になったことがあった。つまり、彼女の中では、「人前で騒ぐこと」は「殴ること」よりも、重大な「悪」であり、それを正すために殴ってこらしめても構わないと認識していたのであった。このような感性を、一部のASDの人は持っているのであるが、ADHDにおける衝動性とは異なったものであることは認識しておくべきである。(後略)

本の 第6章 診断 の「国際的な診断基準」における記述の一部(P146)を一部の図表も含めて次に引用します。

(前略)成人におけるADHDは、当然のことながら、基本的には小児における症状を引き継いだものである。けれども、両者はまったく同一とは言えない。というのは、成人においてはADHDの症状が存在していても、それを回避したり、あるいは別の方法で補ったりする対処方法を身につけているケースが多いからである。
このような成人における特徴をふまえて、成人のADHDに対する診断基準も作成されている。その一つである、ハロウェルらによる診断基準を図表6-3に示した。(後略)


図表6-3 ハロウエルらの診断基準
A.次のうち少なくとも15項目において、慢性的な障害をみる。
1. 力が出しきれない、目標に到達していないと感じる(過去の成果にかかわらず):客観的に見て非常に成功していても、本人は迷路に入り込んでしまったような感覚から抜け出せず、本来の可能性を発揮できない。
2. 計画、準備が困難:学校などの枠組み、そばで世話をやいてくれる親の存在などがないと毎日の生活がおぼつかない。
3. 物ごとをだらだらと先送りしたり、仕事にとりかかるのが困難。
4. たくさんの計画が同時進行し、完成しない。
5. タイミングや場所や状況を考えず、頭に浮かんだことをパッと言う傾向。
6. 常に強い刺激を追い求める:常に何か目新しいもの、集中できるものといった外界の刺激を探し求める。
7. 退屈さに耐えられない。
8. すぐ気が散り、集中力がない。読書や会話の最中に心がお留守になる。時として非常に集中できる。
9. しばしば創造的、直感的かつ知能が高い。
10. 決められたやり方や「適切な」手順に従うのが苦手。
11. 短期で、ストレスや欲求不満に耐えられない。
12. 衝動性:言葉あるいは行動面、金銭の使い方、計画の変更、新しい企画や職業の選択における衝動性。
13. 必要もないのに、際限なく心配する傾向。
14. 不安感:生活が安定しているように見えても、常に不安定な感じ。時には自分のまわりが崩壊するするような感覚。
15. 気分が変わりやすい:2、3時間の感覚でさしたるさしたる理由もなく気分が変わりやすくなることがある。
16. 気ぜわしい:うろうろ歩き回る、貧乏揺すりや指鳴らし、座っている間しょっちゅう姿勢を変える、足を組み直す、じっとしているといらいらしてくる。
17. 耽溺の傾向:酒、麻薬などの薬物依存、ギャンブル、買い物、過食、働き過ぎなど、一つの活動にのめりこむ。
18. 慢性的な自尊心の低さ。
19. 不正確な自己認識。
20. ADDまたは躁うつ病、うつ状態、薬物中毒(アルコール依存症を含む)、あるいは衝動や気分が抑制しにくいなどの家族歴がある。
B.幼少期にADDだった。
C.他の医学的あるいは精神医学的状態では説明のつかない状態にある。
(この診断基準では、「ADD]は「ADHD]を含む概念として用いられている)

出典:エドワード・M・ハロウェル他『へんてこな贈り物――誤解されやすいあなたに――注意欠陥・多動性障害とのつきあい方』インターメディカル

注:i) 引用中の「図表6-3」は形式を変更して引用しています。 ii) 引用中の「ハロウェルらによる診断基準」は国際的な診断基準ではありません。 iii) 引用中の「2、3時間の感覚で」は誤りで、「2、3時間の間隔で」が正しいのかもしれません。 iv) 引用中の「衝動や気分が抑制しにくい」は不自然で、「衝動や気分を抑制しにくい」が自然かもしれません。 v) ちなみに、引用中の「ADD」は旧診断基準であるDSM-Ⅲによると「注意欠陥障害(Attention Deficit Disorder)」です(同本の P29)。

本の 第7章 治療 の「疾患の理解が重要」における記述の一部(P174)を次に引用します。

成人のADHDの治療の前提として重要であるのは、ADHDという疾患の理解である。つまり、①自分自身のADHDによる行動特性を理解し、②その行動特性を肯定的に受け入れて、さらに、③その行動特性を変化させるために立ち向かう気持ちを持つ、ことである。
多くの患者はこれまでの人生において、「だらしがない」「真剣に物事に取り組もうとしていない」などと周囲から非難され、自己否定的な思いにとらわれている。けれどもこういった点が本人の「やる気」の問題ではなく、ADHDという疾患によるものであることを認識することで、仕事や人生への取り組み方に大きな変化が生じる。これは本人だけでなく、周囲の家族の問題も大きい。家族がADHDを理解することによって、本人の受けるストレスが減り、精神症状が安定する例も多い。

本の 第7章 治療 の「心理社会的治療」における記述の一部(P196~P198)を図表も含めて次に引用します。

(前略)
ADHDの治療薬は、「不注意」「多動、衝動性」などの臨床症状に有効性は高く、注意力、集中力の改善をもたらすが、これだけで必ずしも彼らの生活全般が改善するわけではない。成人のADHD患者は、さまざまな症状によって不適応状態になりがちであるが、彼らなりの「方法」で状況を乗り切っていることが多く、自分なりの対処行動はパターン化されているため、簡単に変えることは難しい。
図表7-6に、成人期のADHDでみられる認知面での問題点(歪み)について示した(樋口輝彦他編『成人期ADHD診療ハンドブック』じほう)。また図表7-7には、ADHDの人がしばしば用いる対処行動(補償方略)について示した(同前)。
認知行動療法は、患者本人にこのような自らの認知面での問題点について自覚してもらい、そのパターンを変えるようにすることで、適切な対処行動を身につけていこうとする治療法である。患者本人が自らの認知の歪みと悪循環となっている行動パターンに気がつき、対処方法を治療者とともに考案することを繰り返すことが必要となる。
ADHDの治療のゴールとしては、長期的には症状の改善にとどまらず、生活上の困難さを改善すること、さらに患者の能力を十分に発揮できるような状態をもたらすことが必要である。特に、症状が慢性化し社会的な不適応が長期にわたるケースにおいては、薬物療法のみでは十分でなく、認知行動療法などの併用が望ましい。


図表7-6 成人期のADHD患者に一般的にみられる認知の歪み

過度の一般化:特定のミスから一般的な結論を出したり、元々のミスと関係があろうがなかろうが、その結論を他に状況に適用すること

魔術的思考:問題解決を自分が制御できないこと(例えば、運)に過度に頼ること(「適切な用量の薬物療法を受ければ、すべての問題を解決できる」)

相対的思考:他人と比較して自分がどれほど上手くできているかで自分を評価する(「試験で時間を延長してもらう必要があるのはクラスで私だけだ。私は大学についていけないだろう」)

公平さの誤認:すべての点で人生は公平であるべきだという信念(「教科書を1章分読むのに、ルームメイトよりも時間がかかるなんて公平じゃない」)

全か無か思考:起きたことを二分して、黒か白のようにみる傾向(「私のスーパーバイザーがいくつかの項目で『改善の必要がある』と書いていた。私がやったことは全くダメに違いない」)

読心術的推論・占い:確固たる証拠もないのに、他者が当人を否定的に捉えており、状況が悪化するだろうと推論すること(「きっと同僚は私を信用できないと思っている」)

べき思考:自分自身や行動の一側面に関する非現実的で非適応的な規則をつくる(「座って考えたりせずに私はスケジュールの優先順位を付けるべきだ」)

不適切な非難:不公平な自分や他者への叱責とその他の要因の見落とし(「彼女は私がADHDであることを理解すべきであり、デートをすっぽかしたことを怒るべきではない」)


図表7-7 成人期のADHD患者に一般的にみられる補償方略

予期的回避/先延ばし:未解決の課題の困難度を拡大視してしまい、自分がその課題を完遂する能力に疑いをもつ。結果として、先延ばし行動を合理化する。

瀬戸際政策:課題を完遂することを最後の最後まで待つ傾向。締め切りが差し迫ってやっと完遂する

課題のジャグリング:その前から始めた計画の進展がないにもかかわらず新しくて刺激的なことに取り組み、「精力的で生産性が高い」と感じる。

疑似成功感:優先順位の低く簡単な課題をいくつか終わらせて、優先順位の高い難しい課題(例えば、仕事の報告書を書き終える)を回避する

禁欲主義的思考:生活上の望ましい変化の見込みを過度に悲観的にとらえることで、平然と置かれた状況を受け入れる

注:i) 引用中の図表は引用者により形式を変更しています。 ii) 引用中の「信念」に関しては、例えば次のWEBページを参照して下さい。『考え方の根っこにある「信念のルーツ」をひもとく - apital

本の 第7章 治療 の「認知行動療法」における記述の一部(P198~P200)を一部の図表も含めて次に引用します。

認知行動療法を行うにあたり、成人のADHDに特化した認知行動モデルが、サフレンらによって提唱されているが、これを図表7-8に示した(樋口輝彦他編『成人期ADHD診療ハンドブック』じほう)。この認知行動モデルでは、生活上の機能障害が生じるのには、二つの経路があると仮定されている。一つはADHDの症状によって、行動面における対処法を有効に活用できないために、さまざまな機能障害が起きるという経路である。もう一方の経路では、ADHDの主症状によって失敗経験を繰り返すために否定的な認知や信念を持ちやすくなり、その結果として抑うつや不安などの精神症状が出現し、結果として機能障害が起こるというものである。
このような機能障害を防ぐためには、ADHDの症状を投薬によってコントロールするとともに、具体的な生活場面における対処方法を身につけ習慣化していくような継続的な努力が必要となる。これには、患者と治療者の共同作業が重要である。
認知行動療法の最終的なゴールは、①自己マネージメントのスキルや対処行動を身につけ、症状をコントロールできるようにする、②自尊心、自己肯定感を持てるようになる、③注意力や感情調整のスキルを向上させる、ことなどである。
また小貫らは、ADHDに必要とされる社会生活上のスキルとして図表7-9に示すものをあげている(小貫悟、名越斉子、三和彩『LD・ADHDへのソーシャルスキルトレーニング』日本文化科学社)。これらは小児を対象に検討されたものであるが、成人のADHDにも共通しており、認知行動療法などを通じて改善をはかることが必要となる。


図表7-9 ADHDに必要なスキル

1.集団参加行動
ルール理解・遵守、役割遂行、状況理解
2.言語的コミュニケーション
聞き取り、表現、質問と回答、話し合い、会話
3.非言語的コミュニケーション
表情認知、ジェスチャー、身体感覚
4.情緒的行動
自己の感情理解、他者の感情理解、共感
5.自己・他者認知
自己認知、他者認知、自己-他者認知

注:i) 引用中の「図表7-8」の引用は省略しています。 ii) 図表7-9は引用者により形式を変更して引用しています。 iii) 引用中の「信念」に関しては、例えば次のWEBページを参照して下さい。『考え方の根っこにある「信念のルーツ」をひもとく - apital』 iv) 引用中の「共感」については、次のWEBページを参照して下さい。「共感 - 脳科学辞典

(b)中村和彦編著の本、「大人の ADHD 臨床 アセスメントから治療まで」(2016年発行)からの複数の引用を以下に紹介します。
本の 第4章 大人の ADHD の鑑別診断 の「1. ADHD の概念」における記述(P42~P43)を次に引用します。

1.ADHD の概念
本邦において 2005 年 4 月に施行された「発達障害者支援法」の発達障害の定義には ADHD が含まれているが(法第 2 条第 1 項),DSM や ICD などの国際的診断分類における歴史的経緯を見ると,ADHD は児童期の症候群的な色彩が色濃く反映され,明確には発達障害として扱われてこなかった。ところが,成人期でも ADHD 症状を認める報告が相次ぎ,児童期に特化した症候群的位置づけの変化を余儀なくされつつある。すなわち,成人期にも ADHD が認められるかという問題を契機に,ADHD を発達障害として扱うべきかどうかという問題に直面することとなった。
そもそも,発達障害という概念を認めた趣旨は,後天的な発症起点がある程度明らかであり,寛解と再発を繰り返す一般的な精神障害と峻別すべき疾患群を認める必要性があるからである。すわなち,生来的な脳機能の障害であり,生涯にわたりその人の社会的な適応に強い影響を及ぼし続けていく可能性のある偏りや傾向を有する疾患群を包含する概念が,現在の発達障害概念であると思われる。確かに,自閉スペクトラム症*(自閉症スペクトラム障害,Autism Spectrum Disorder: ASD)と比較すると,ADHD は症候群的要素が強いことは否めないが,今日では生来的な脳機能障害に起因することはほぼ明らかになりつつある。また ADHD は,世代によって顕在化する症状の変化はみられるものの,寛解と再発を繰り返す一般の主要な精神障害とは明らかに一線を画するべきものであり,むしろ終生その人個人の生活に影響を与え続ける因子の 1 つとして捉えるべきである。したがって,発達障害という用語がふさわしいかどうかは別途検討が必要であるが,少なくともそのような疾患群を包含する概念の存在は精神医学的診断分類を考えていく上で重要なことであり,ADHD は発達障害に属するものと考えられ(三上・松本, 2009; 斉藤, 2007),DSM-5 では,ADHD は Neurodevelopmental disorder(神経発達症)の項目に含まれている。
そうであるならば,発達障害は中枢神経系の障害という生物学的基盤を有することから,児童期に特化した疾患ではない。当然のことながら,発達障害を有する子どもは思春期を迎え,やがて青年期に至り,人生のさまざまな場面で問題が顕在化し得ると考えられる。すなわち,ADHD を発達障害と捉えるからこそ,当然に成人期以降にも問題となり得ると考えられる。
また,成人期 ADHD の90%以上に不注意症状を認めるとする報告があり,成人期 ADHD では,不注意症状が中心となる(朝倉ら, 2003; Kessler et al., 2010; wilens et al., 2009)。これは,就学期に必要とされる能力が記憶力中心であったのに対し,仕事の場面では実行機能に関わる事務処理能力が中心となり,業務に優先順位をつけ効率よく処理することにつまずき,日常生活に支障をきたすことで受診につながることが理由の 1 つとして考えられる。なお,本邦での受診理由としては,自分は ADHD ではないだろうかと考え,医療機関を訪れるケースが少なくないことが特徴の 1 つである(朝倉, 2011; 朝倉ら, 2003)。患者は,自分白身で思い当たる節があり医療機関を受診するのであって,多くは不注意,多動性-衝動性といった ADHD における中核症状,もしくはそれと類似した症状を呈している。先にも述べたが多動性,不注意,衝動性というキーワードのみで安易に ADHD と診断することは,不適切な薬物療法を招くことにもなりかねないだめ,適切な診断を行うことが重要である。そのためには,類似した症状を呈する身体疾患,他の精神疾患や ASD との鑑別を行うことは必須であると考えられる。

注:i) この引用部の著者は山田圭吾・三上克央・松本英夫です。 ii) 引用中の「*」は DSM-5 による病名を示します。

本の 第5章 大人の ADHD の併存障害 の「1. 併存症と性差」及び「2.ADHD と併存障害」における記述の一部(P56~P58)を次に引用します。

1.併存症と性差
小児・児童期の ADHD と異なり,成人期の ADHD は有病率に大きな性差はなく,性差を考えることは重要ではないようにみえるが 成人の ADHD の診断および治療を行う際に性差を考慮することは非常に重要である。現在でも女性の不注意優勢型は過少診断されており(Rucklidge, 2008),欧米では ADHD と診断された 15~21 歳のうち,処方を受けた人の 89% が男性であるなど,治療の機会にも性差が認められている(McCarthy et al., 2009)。成人期の ADHD の男女の比較では,複数の心理的な評価,一般的身体的評価の結果で女性の方が評価が低く,治療反応においても女性の方が低かったとの報告がある(Robison et al., 2008)。一方で,最近の報告では成人期の ADHD では女性が男性ほど全体として障害が強くないことも報告されているが,女性は年齢にかかわらず,対処能力,うつ病,不安において男性よりも多くの問題を抱える傾向が報告されている(Rucklidge, 2008; Rucklidge, 2010)。910名の成人 ADHD を対象とした研究では,気分障害(61% vs. 49%),不安症(32% vs. 22%),摂食障害(16% vs. 1%)の併存は女性に多く,物質関連障害は(45% vs. 29%)の併存は男性に多かった(Gross-Lesch et al., 2013)。一方,双極性障害で性差は認められなかったと報告されている(Hesson & Fowler, 2015)。

2.ADHD と併存障害
成人 ADHD 群と,年齢を一致させた成人の健常群との生涯有病率の比較では,健常群 45.6%に対し,ADHD 群では 71.1%に他の精神疾患が存在し,ADHD 群が精神科併存症をもつ比率が有意に高いことが報告されている(図 5-1,Sobanski et al., 2007)。中でも,ADHD 群では大うつ病を初めとする気分障害の併存率が高い。米国で行われた The National Comorbidity Survey Replication(NCS-R, 全米併存症調査)において,DSM-Ⅳに基づいて行われた成人 ADHD 患者の併存障害の疫学的調査では,成人期の ADHD の気分障害の Odds ratio(OR)は 2.7~7.5, 不安症の OR は 1.5~5.5,薬物関連障害の OR は 1.5~7.9,間欠爆発症*(間欠性爆発性障害)の OR は 3.7 であった(Kessler et al., 2006)。一方で,Neuroticism(神経質)が低い ADHD 患者ほど,併存障害が少ない(Di Nicola et al., 2014)。
また,成人期の ADHD の併存に関して特徴的なのは複数の併存障害をもつ可能性が高いことである(Fayyad et al., 2007)。さらに,ADHD が重症であればあるほど,併存症をもつ可能性が高い(Biederman et al., 1993; Kooij et al., 2001)。成人の ADHD 患者の約50~87%が併存症をもち,約 3 分の 1 が 2 つ以上の併存障害をもつことが報告されている(Biederman et al., 1993; Kooij et al., 2001)。成人期に新規に診断された ADHD 患者が初診時に診断される併存障害の数は,平均 2.4 診断と報告されている(Pineiro-Dieguez et al., 2014)。新たに成人の ADHD と診断する際に高率で存在する併存障害は,適切な診断を行うための大きな障壁となる。
初診時における ADHD の下位分類と併存障害の合併率を比較すると,混合型が 72.4%と,多動性-衝動性優勢型(69.6%),不注意優勢型(65.3%)よりも有意に併存障害が多いことが報告されている(Pineiro-Dieguez et al., 2014)。
齊藤・渡部(2008)は,子どもの ADHD の併存障害を行動障害群,情緒障害群,神経習癖群,発達障害群の 4 群に分けられるとした。成人期の ADHD の併存障害ではさらにそれを分割して 6 群に分ける方が併存障害を理解する上で有効と考えられた(Kooij et al., 2012)。さらに,(1) DSM-5 では自閉スペクトラム症*(自閉症スペクトラム障害 Autism Spectrum Disorder: ASD)と ADHD の併存が認められたこと, (2) ADHD に身体的な併存障害の存在が強く示唆されることから,これらを先の 6 つの併存障害に加えて整理し,7 つの併存障害を中核として併存障害を考えることが ADHD の診断と治療を考える上でさらに有用である(図 5-2)。
併存障害の存在は ADHD の診断の困難さに大きく影響するだけでなく,これらの要因が治療の過程,治療抵抗性,治療反応性,病識,自己制御,治療への参加にも影響を与える(Newcorn et al., 2007)。さらに,併存障害の存在はしばしば ADHD の症状をマスクし,ADHD の診断を困難にすることもある(Kooij et al., 2012)。臨床家は ADHD と併存障害の関連をよく理解した上で患者を評価しなければならない。患者は複数の併存障害をもつ場合もあり,その複雑さを十分理解する必要がある。併存障害をもった ADHD を診断する際に最も重要なことは,ある症状が 1 つの障害に由来するものなのか,あるいは併存する障害の症状と重複して考えることができるものなのかを見極めることである(Adler et al., 2008)。例えば,活動性の亢進を ADHD の多動症状として評価すべきか,同時に双極性障害の症状としても考えるかで,併存障害と診断される可能性は大きく変わってくる。横断的な評価だけでなく,縦断的かつ包括的な臨床的判断が,併存障害の診断には求められる。

注:i) この引用部の著者は齊藤卓弥です。 ii) 引用中の「*」は DSM-5 による病名を示します。 iii) 引用中の「図 5-1」、「図 5-2」は共に引用を省略しますが、後者における成人期の ADHD 併存障害の中核群は、「衝動制御・パーソナリティ障害」、「不安症」、「身体障害」、「薬物関連障害」、「抑うつ性障害」、「双極性障害」、「神経発達症」の7つです。ちなみに、「抑うつ性障害」、「神経発達症」はそれぞれ「うつ病」、「発達障害」のことです。

本の 第6章 大人の ADHD の薬物療法 の 1. ADHD の薬理学的背景 の「(1) 臨床症状と脳内神経回路の関連」における記述の一部(P74~P76)及び「(2) 低ドーパミン仮説」における記述の一部(P76~P77)をそれぞれ次に引用します。

(1) 臨床症状と脳内神経回路の関連
ADHD の 3 大症状である多動性,衝動性,不注意は,前頭葉の機能異常が大きく関連していると考えられている。前頭葉は大脳半球前部に位置し,ドーパミン感受性神経を豊富に有している。その機能を一言で表現するならば 脳全体の司令塔といえるであろう。具体的な働きとしては,運動とその調整,報酬予測とそれに基づく意思決定,実行機能(何をするか,どのようにするかを企画し,それに従って実行する。その後,それでよかったか自己評価する一連の働き)などが挙げられる。また前頭葉は,皮質-線条体-視床-皮質回路(Cortico-Striato-Thalamo-Cortical loop:CSTC 回路)を介して,大脳皮質下領域と神経回路を形成している。この CSTC 回路は,運動,報酬系,実行機能,情動などに関係していることが知られている。
特定の ADHD 症状が 前頭葉のどの神経回路と関連しているかについての仮説を解説する(Stahl, 2008)。図 6-1 に ADHD 症状と神経回路の関連を表した模式を示した。まず補足運動野や運動前野の神経回路の機能不全が,多動性と関連しているかもしれない。次に眼窩前頭皮質の神経回路が,衝動性と深く関わっていることが知られている。これは ADHD に見られる衝動性だけでなく,その他の精神疾患による衝動性とも共通しており,CSTC 回路内の視床における刺激選別の障害が一因かもしれない。また眼窩前頭皮質は,CSTC 回路を介して大脳辺縁系の側坐核とも神経回路を形成している。この側坐核を含む回路は,ドーパミン分泌を介して“楽しそうだ”,“面白そうだ”といった感情を引き起こし,次の行動を決定する。この一連の反応は,意思決定において強い即時的な影響力を及ぼすため,情報を集め判断するという認知のプロセスを飛ばしてしまうことがある。したがって,側坐核を含む神経回路に機能不全がある場合,非合理的で自己破壊的な行動を衝動的に選択してしまう。最後に,背側前帯状皮質および背外側前頭前皮質の神経回路と不注意症状の関連が示唆されている。背側前帯状皮質の神経回路は,選択的注意に関する機能を担っている。選択的注意とは,多様な情報が渦巻く環境条件下で その個人にとって重要だと認識された情報のみを選択し,それに注意を向ける機能である。例えば,パーティ会場のあちこちで賑やかに談笑が行われ,かなり騒々しい状態になっても,誰かとの話に夢中になっているときには,周囲の話し声やざわめきはあまり気にならないというものである。この選択的注意が障害されると,重要でない刺激に撹乱されて気が散ってしまい,一見すると不注意に映ってしまう。背側前帯状皮質の神経回路において,情報処理がうまくいかない場合に選択的注意が障害されると考えられている。背外側前頭前皮質の神経回路は,実行機能と関連し,この部分の障害で注意の持続が困難になると考えられている(表 6-1)。

注:i) この引用部の著者は田中英三郎・市川宏伸です。 ii) 引用中の「図 6-1」の引用は省略します。一方、引用中の「表 6-1」は表示形式を変更して以下に引用します。 iii) 引用中の「報酬系」については、次のWEBページを参照すると良いかもしれません。「行動嗜癖 - 脳科学辞典」の「報酬系回路」項 iv) 引用中の「実行機能」については、次のWEBページを参照して下さい。「実行機能 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「情動」については、次のWEBページ「情動 - 脳科学辞典」及びメンタライジングの視点から他の拙エントリのここを参照して下さい。 vi) 引用中の「ドーパミン」については、次のWEBページを参照して下さい。「ドーパミン - 脳科学辞典」 v) 脳神経回路及びその機能に関する注は、次の引用における注も含めて参照して下さい。

表 6-1 ADHD 症状と脳神経回路の関連仮説
[症状]多動性、[神経ネットワーク]補足運動野/運動前野→被殻→視床→補足運動野/運動前野、[機能]運動制御
[症状]衝動性、[神経ネットワーク]眼窩前頭皮質→尾状核→視床→眼窩前頭皮質、[機能]報酬系
[症状]不注意、[神経ネットワーク]背側前帯状皮質→線条体→視床→背側前帯状皮質、[機能]選択的注意
[症状]不注意、[神経ネットワーク]背外側前頭前皮質→線条体→視床→背外側前頭前皮質、[機能]実行機能

注:i) 引用者により表示形式を変更して引用しています。 ii) 引用中の「多動性」、「衝動性」及び「不注意」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典」の「症状」及び「診断・鑑別診断」項 iii) 引用中の「運動前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「運動前野 - 脳科学辞典」 iv) 引用中の「補足運動野」については、次のWEBページを参照して下さい。「補足運動野 - 脳科学辞典」 v) 引用中の「眼窩前頭皮質」に関連する「前頭眼窩野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭眼窩野 - 脳科学辞典」 vi) 引用中の「報酬系」については、次のWEBページを参照すると良いかもしれません。「行動嗜癖 - 脳科学辞典」の「報酬系回路」項 vii) 引用中の「背側前帯状皮質」に関連する「前帯状皮質」については、次のWEBページを参照して下さい。「前帯状皮質 - 脳科学辞典」 viii) 引用中の「背外側前頭前皮質」に関連する「前頭前野」については、次のWEBページを参照して下さい。「前頭前野 - 脳科学辞典」 ix) 引用中の「実行機能」については、次のWEBページを参照して下さい。「実行機能 - 脳科学辞典

(2) 低ドーパミン仮説
Forssberg ら(2006)は PET による画像解析を行い ADHD でドーパミン神経の機能低下があることを報告した。ADHD では皮質下を中心とした脳の大部分においてドーパミンの生合成低下が認められ,これは不注意症状の重症度と相関を示した。Volkow ら(2007)も PET による画像解析で脳内の細胞外ドーパミン濃度の動態を検討した。その結果,ADHD では尾状核におけるドーパミン反応が減弱し,これは不注意症状と相関していることが示された。したがって ADHD では脳内,特に皮質下領域を中心にドーパミン神経活性の低下があり,その程度が臨床症状と相関していることが明らかになった。ADHD の生物学的基盤としてドーパミン放出減少,あるいはドーパミン合成低下があるため,シナプス間隙のドーパミン濃度が慢性的に減少した状態となり,結果として後シナプスへの伝達低下が生じていると考えられる。

●覚醒システムの障害と tonic/phasic ドーパミン調節モデル
ADHD では,覚醒システムに乱れが生じることがある。例えば,日中の覚醒度の低下は,不注意,認知機能低下,眠気などを引き起こす。またこの眠気を抑えるために,代償的に多動となることもある。逆に,過覚醒は,刺激に対して過敏となり,集中力低下や衝動性などを引き起こす。このような覚醒システムの障害は,tonic/phasic ドーパミン調節モデルとの関連が推測されている(Sikstrom & Soderlund, 2007)。
tonic/phasic ドーパミン調節モデルとは,ドーパミンの神経伝達に関する理論である。ドーパミンの神経細胞体の発火に依存して神経終末からドーパミンが放出されるシステムを phasic dopamine response と呼ぶ。これはドーパミントランスポーターによって神経終末にドーパミンが取り込まれることでその一連の活動が終息する。これとは別に,細胞外の定常レベルに存在するドーパミンが前シナプスのドーパミン自己受容体を刺激して,ドーパミンの放出に抑制をかけるシステムを tonic dopamine response と呼ぶ。ADHD ではこのバランスが崩れているのではないか考えられている。日中の覚醒度低下時は,tonic dopamine response が低下し,自己受容体を介した抑制が十分働かず,相対的に phasic dopamine response が亢進している。他方,過覚醒時には,phasic dopamine response 自体が過剰になっている。tonic/phasic ドーパミン調節が失調することで,ADHD では覚醒度の低下と過覚醒という両極どちらへでも振れやすくなり,いずれにしても多動性,衝動性,不注意といった症状を呈するようになる。

注:i) この引用部の著者は田中英三郎・市川宏伸です。

本の 第6章 大人の ADHD の薬物療法 の 3. 大人の ADHD の薬物治療実践 の「(3) 成人 ADHD に対する薬物治療」における記述(P82~P86)を次に引用します。

ADHD は12歳までには,何らかの症状がみられているはずであり,成人になってから生じるとは考えられない。しかし,成人になってからその存在に気づくことはありえる。ADHD については,マスメディアを中心に報道される回数が増加しており,自ら ADHD を疑って受診する場合は多い。ADHD に対する薬物治療についても,小児に比べて,自ら希望する場合が多い。ここではいくつかの例に分けて,症例を紹介する。症例については,個人の情報保護に配慮して記述していることをお断りする(市川, 2013)。

a.うすうす気づいていた場合――29歳(初診時)・男性
主訴:
勤め先で同僚や上司に言われたことをすぐに忘れてしまう。仕事にミスが多い,片づけが苦手である。落ち込んで 元気がなく,不眠が出現した。自分は ADHD ではないだろうか?
診断:
本人,母親から,幼少時の話を聴く。忘れ物が多かったが 先生に叱られることはなく,友人は多かった。多動性や衝動性はなく,成績もよいため,学校では問題にならなかったと思われる。
WAIS-R(Wechsler Adult Intelligence scale-revised, ウェクスラー成人知能検査改訂版):FIQ98(VIQ105, PIQ88)言語性と動作性得点のバラツキは大きい。個別得点のバラツキも大きく,発達障害の可能性を示唆する。
診断基準に照らし合わせて,不注意優勢型の ADHD と診断する。
経過:
本人の希望もあり,ATM を投与することとする。
ADHD 治療薬(ストラテラ®)の使用開始(2週ごとに増量):40→60→80→60(mg/日)
ADHD-RS(ADHD Rating Scale-Ⅳ,ADHD 評価スケール):21(不注意得点)+3(多動・衝動性得点)→10+3(60mg/日)→4+0(80mg/日)
不注意項目の改善が著明である。
主観的には「集中力が高まり,自覚的に落ち着いている」「机の上がきれいになる」「仕事に取り組む態度に自信を感じている」が,同時に「食欲が低下した」ため,副作用と判断し,60mg(1日量)に戻す。
考察:
この例は,会社の上司が発達障害を知っており,本人に受診を勧めた。会社の産業保健師が発達障害のわかるクリニックを紹介して来院。本人も ADHD を疑っていたため,治療を自ら求めていた。(中略)

c. 他の診断を受けていた場合――24歳(初診時)・女性
主訴:
イライラ,不安,不眠,胸部不快感,易怒性。
初診時は不安,不眠への治療が行われたが,大きな効果はなかった。気分の変動が激しく,双極性障害とされたが,著変はなかった。その後,統合失調症,パーソナリティ障害などの診断のもと治療が行われたが著明な改善なく,6 年後に著者を受診した。
当初診断:双極性障害?
さまざまな診断のもとに,向精神薬が投与されていたが効果は乏しく,7 年後,著者を受診,不注意優勢の ADHD の存在を確認。
バルプロ酸(気分安定楽),ブロマゼパム(抗不安薬).ストラテラ→ストラテラのみ服用
診断:
著者来院時は,スーパーマーケットの相談販売などに従事していた。自己不全感,漠然とした不安感が強かった。母は高齢で幼少時の情報は得られない。兄弟によると,変わった子どもで友たちはいなかった。本人の記憶では,挨拶ができないマイペースな子どもであった。このことは小学校の生活の記録の記述からも裏付けられた。
診断基準に照らし合わせて,不注意優勢型の ADHD と診断する。
経過:
ADHD 治療薬(ストラテラ®)の使用開始(2週ごとに増量):20→40→60→105(mg/日)
ADHD-RS:25+8(服用前)→18+6(60mg/日)→10+3(105mg/日)
副作用の訴えなし
主観的には,「時間を守れる」「積極的に取り組める」「家庭を大切にする」。
客観的には,「清潔感が向上」。
AQ-J:34(35以上で PDD の可能性が高い)
ADHD+ASDと診断する。
考察:
発達障害が幼少時から存在しており,気づかないまま社会・家庭生活に入り,自己不全感,自己有能感の低下が生じた。さらに置かれる環境や対応が厳しい状況が続き,二次的症状を呈して医療機関を受診したが「根底にある発達障害の存在に気づかなかった」と判断された。

3 例を通じて,ADHD によると思われる症状の改善に努めた結果,自己不全感,劣等感が改善されたと判断された。二次的に生じた自己有能感の低下が改善されたことにより,社会的取り組みに積極的になっている。服薬による副作用については,食欲低下,消化器症状,不眠,頭痛などがみられた。
成人になって来院した例は,不注意の目立つ例が多く,同時に ASD の診断をつけられるものが多かった。二次的症状を呈する例の中には,他の診断を受けていたものもある。さらに症例を重ねる必要があるが,自己不全感を持つ例や他の診断を受けている例の中に,根底に ADHD 的要素を持つ患者の存在を考慮することは意味がありそうである。二次的な症状ばかりに目を向けず,根底にある自己不全感,自己評価の低さを改善することが必要になると思われた。ADHD 治療薬の服用は自己不全感や自己評価の低さを改善するきっかけを与える可能性がある。一方で,ADHD の存在を確認しないで ADHD 治療薬を投与するのは,厳に慎むべきである。

注:i) この引用部の著者は田中英三郎・市川宏伸です。 ii) 引用中の「ATM」は医薬品のアトモキセチン(一般名、ちなみに商品名はストラテラ[ここを参照])の略です。

本の 第7章 大人の ADHD の心理療法・行動療法 の 2. 大人の ADHD に対する心理療法の実際 の「(1) 大人の ADHD に対する心理療法の支援の考え方」における記述の一部(P90)を次に引用します。

(前略)a. 生活の障害と自己理解
ADHD は神経心理学的障害であるが,心理療法を実施する際には,大人の ADHD は慢性疾患であること,そして生活の障害であることを念頭に置く必要がある。したがって,ADHD 症状だけでなく,自らの特徴を明確に把握すること,さらに与えられている環境(職場,家庭,友人関係など),もしくはこれから進もうとする環境について理解することも大切である。さらに,これまでの問題がどのように起きてきたか,患者の短所についての自己理解を深めることは特に大人の ADHD 臨床では重要であるが,一方でしっかりと患者の長所を支援者と患者ともに把握することも,これからより適応的な生活を目指すために同様に重要となる。(後略)

注:i) この引用部の著者は金澤潤一郎です。

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[追加2]女性のADHDの本に対する引用
注:ADHDの本における女性に関する記述を含みます。ちなみに、女性のADHDに関連するWEBページは次に示します。『ADHD、10の特徴「退職、結婚などを衝動的に決断する」』 加えて、これに関連する一連のWEBページ(主婦の隠れたADHDシリーズ)があり、次にそれぞれ紹介します。「密かに多い ADHD で悩む主婦 - apital」、『わがままなのか「脳の特性」なのか - apital』、「やりたくないことに重い腰を上げるには - apital」、「カード破産が多い? ADHD - apital」、「ADHDと片づけられなさ - apital」、「片づけを始められない理由 自分はどのタイプ? - apital」、「ADHD主婦のお片付け術 - apital」、「飽きっぽい自分とのつき合い方 - apital」、『「早くしなさい!」と我が子を叱る前に』、「ADHD特性と子育て - apital」、「ADHDの親の育児のコツ - apital」、「ADHDの親の二度寝克服法 - apital」、『「それはそれ!」「これはこれ!」』、「ADHDの人間関係 - apital」、「ADHDの人は空気が読めない? - apital」、「分かっちゃいるけど守れない - apital」、「仲間はずれにされたら - apital」、「誤解されたときのアフターケア - apital」、「やる気が続かないときの打開策 - apital」、『たくさんの家事を「ついで」にこなすには? - apital』」、「見逃される子育て世代のADHD - apital」、「家庭内で怒りが爆発してしまうのはなぜ? - apital」、「子育て中のイライラにどう対処する? - apital」、「言っても身に付かない子どもには - apital」、「してもらいたいことを子どもに効果的に伝えるには - apital」、「子どもへのご褒美をどうやって行動に結びつけるか - apital」、「気になることを見逃すことも大切 - apital」、『「~しないで」は子どもを困らせることがあります』、『子どもが「困った行動」を繰り返すのはなぜか』、「注意するときは、できることを具体的に - apital」、「社会人になってからうまくいきません - apital」、「どうして職場でつまずくのか - apital」、「最近女友達がそっけない - apital*31

(a)宮尾益知監修の本、「女性のADHD」(2015年発行)からの複数の引用又は項目を以下に紹介します*32
本の『1 「片付けられない」だけでない』における5つのよくある悩みの項目を次に示します。
「ミスばかりで自分が嫌になっている」「気配りができず、同性に嫌われる」「時間がないのに用事をつめこんでしまう」「子どもを叱りすぎて虐待を疑われる」「治療後に、部屋が片付きすぎて混乱する」

本の 『2 受診先は「小児神経科」か「精神科」』 の「【受診】近隣の小児神経科や精神科を探す」における記述の一部(P32~P33)を次に引用します。

医療機関探しのポイント
発達障害の主治医を探すときには、近隣の相談窓口などに問い合わせ、自宅から近い医療機関を紹介してもらうとよいでしょう。有名な医師や病院を求めて遠方まで通おうとすると、いずれ負担が重くなります。(中略)

成人期
「発達外来」は大人に対応していない場合もある。大人の場合、「精神科」や「心療内科」にかかり、二次的な障害も含めて診察してもらうとよい。
●精神科・心療内科(なかにはくわしい医師がいる)
●発達外来(成人もみている場合がある)

注:引用中の「成人期」に関して、同本 P33 には次に示す記述があります。「子どもと大人では、発達障害をみる診療科が異なります。」

本の 『2 受診先は「小児神経科」か「精神科」』 の「【診断】診断基準だけでは全貌がみえてこない」における記述の一部(P42~P43)を次に引用します。

診断基準が示していること
診断基準は、ADHDと診断して対応するための基準です。それはADHDの平均的・中核的な特性をまとめたものであり、また、主に男子のケースを基準としています。(中略)

ADHDの診断基準

中核的な特性
不注意・多動性・衝動性という中核的な特性を、複数のエピソードによって規定している。それ以外の個人差の大きい特性は書かれていない

主に男子の特徴
ADHDは主に子どもの発達障害として研究されてきた。女子よりも男子が多いため、診断基準は男子の特徴を反映したものになっている

生活上の困難
診断基準が示しているエピソードは、基本的に生活上の困難として表現されている。特性のよい面は書かれていない(中略)

診断基準が当てはまらないが、ADHDの女性にみられる特徴
内気で恥ずかしがり屋。自分から動いたりしゃべったりしない

動作や反応が遅い。なにをするにも時間がかかる

いろいろ考えすぎて、時間がないなかに用事をつめこんでしまう

昼間はいつも眠そうにしている。夜は考えこんでしまって眠れず、睡眠も浅い

なかなか決断できず、結果的に、衝動的な判断をしてしまう

まわりの人に認められたいと思っている。自分に対する評価に気にしてしまう(中略)

基準をはみ出す特徴もある
ADHDの子どもや大人には、診断基準で示されていない特徴もみられます。第1章で紹介した「女性どうしの付き合いで気配りができない」「用事をつめこみすぎる」といった悩みはADHDの女性に多くみられますが、診断基準ではふれられていません。(後略)

注:i) 引用と同じ本の同じ項目に対する他の視点からの引用は他の拙エントリのここを参照して下さい。 ii) 引用中の「恥ずかしがり屋」に関して、同本 P43 には次に示す記述があります。「ADHDの女性には、多動性・衝動性というイメージからは程遠く、じっとしていて恥ずかしがり屋の人がいる」 iii) 引用中の「診断基準」の例は次のWEBページに示します。『注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典の「診断・鑑別診断」項』 iv) 引用中の「昼間はいつも眠そうにしている。夜は考えこんでしまって眠れず、睡眠も浅い」に関連するかもしれない「睡眠障害」については、例えば次のWEBページを参照して下さい。「睡眠障害 - 脳科学辞典」、『田ヶ谷浩邦先生に「睡眠障害」を訊く』、「睡眠障害の基礎知識」 v) ちなみに、引用はしませんが、同本の P44 には、「COLUMN そもそも診断基準が女性に合っていない?」があります。

本の 『1 「片付けられない」だけじゃない』 の『【女性のADHDの特性】「多動性」「衝動性」は性格に見える』における記述の一部(P24~P25)を次に引用します。

年代別・「多動性」「衝動性」の現れ方(中略)

女性ではおしゃべりや買い物などの場面で目立ちます。

深く考えずに行動しがち。とくに衣服や日用品では、目に入ったものが欲しくなる。(中略)

成人期
仕事や恋愛などの重要なものごとでも、衝動的に判断してしまう。とり返しのつかない事態に
●相変わらず悪口や暴言が減らない
●急に思いついて退職する
●結婚や離婚の判断が早い(中略)

元気な少女だと思われている
ADHDの男の子は「落ち着きのない子」「乱暴な子」などと叱られてしまいがちですが、女の子では、多動性や衝動性がそこまで強く現れることは多くありません。
乱暴というほど激しい言動はみられず、「元気な子」「移り気な子」などと思われている子が多いでしょう。女性はADHDに気づかれにくいのです。

問題になることはじつは少ない
女の子で多動性や衝動性が問題になることは少なく、人間関係で大きなトラブルが起こることは、めったにありません。
ただし、自分勝手にしゃべりすぎたりして人間関係で軽いしこりをつくることはあります。それゆえ、女性どうしのグループになじみにくいという特徴はあります。その結果、付き合いにくい性格の子だと思われてしまいます。(後略)

本の 『4 「過去の自分」を許せれば落ち着く』 の『【現在を肯定する】「いい加減」な生き方を探していく』における記述の一部(P78~P79)を次に引用します。

適度な手抜きを覚えていく
ADHDの女性は特性を受け止めるなかで、他の女性や、世間が求める女性像を意識してしまい、完璧主義に陥る場合があります。
そのような視点では、ADHDの治療・対応はなかなかうまくいきません。自分にとってちょうどよい生き方を探り、現実的な目標を立てる必要があります。
完璧をめざす人にとって、それは手抜きのように思えるかもしれません。しかし、手抜きだと感じられるくらいの「いい加減」な生き方こそが、ADHDの女性には必要なのです。
適度な手抜きを覚え、無理なくすごせるようになりましょう。(中略)

肯定的になる3つのコツ
自分を肯定し、無理なく生きるためのコツが3つあります。自分の時間を持つこと、人を頼ること、生活習慣を整えることです。いずれもけっして特別なことではなく、日々を丁寧に生きようとすれば、自然に実現していきます。

本の 『5 生活面では「人間関係」がテーマに』 の『【同性との関係】そつなくふるまうことはあきらめる』における記述の一部(P87)を次に引用します。

要求に応えようとすると苦しくなる
ADHDの女性は、同じ女性から「だらしない」「もっと気をつかって」「女性なんだから」などと注意されることがあります。
相手は、自分が女性として実践してきたことを、ADHDの女性にも伝えようとしています。親切心から、女性が求められる要素を教えようとしているのでしょう。
しかしそれは多くの場合、ADHDの女性にとっては難しい要求となります。その要求に応えようとすると、苦しくなります。
不注意や多動性、衝動性といった特性がある場合、世間の求める女性像よりも、むしろ男性像に近い行動パターンになりがちです。
そういう特徴を自分らしさとして理解し、大切にしていくほうが、生活は安定します。(中略)

「がさつで女性らしくない」と考えるのではなく「竹を割ったようにさっぱりした性格」と考えたい(後略)

本の 『5 生活面では「人間関係」がテーマに』 の『【同性との関係】フォローしてくれる友達・同僚をみつける』における記述の一部(P88)を次に引用します。

向き不向きがある
誰にでも、適性のある活動と、そうではない活動があります。ADHDの女性の場合、副社長として人を補佐するよりも、社長として人を引っぱっていくほうが、適性があります。(中略)

少しサポートがあるだけでも違う
ADHDの女性にとって、自分をサポートしてくれる人の存在はきわめて重要です。ちょっとした声かけひとつで、くらしやすさが大きく変わってきます。
とはいっても、友達のなかからサポート役を選ぼうなどという身勝手な考え方をしてはいけません。それでは理解もサポートも得られないでしょう。
日々の生活のなかで、自分を気にかけてくれる人や世話を焼いてくれる人を、大切にしましょう。そして、その相手が自分を大切に思ってくれるように、自分も相手をサポートしましょう。支え合える関係を築いていくのです。

注:i) 引用中の「社長として人を引っぱっていくほうが、適性があります」に関連して、ADHDの女性がリーダー向きの理由としては、同ページに「アイデアを出すことや、行動力を発揮することが得意」と記述されています。 ii) 引用中の「世話を焼いてくれる人」に関連して、次ページ(P89)に『世話を焼いてくれる仲間がみつかっても、その人が「ああしなさい」「こうしなさい」と指示しがちなタイプだと、うまく関係が築けないことがあります。正しい方法を教え込もうとするタイプよりも、よく気にかけてくれるタイプのほうが、よい付き合いができるでしょう。』と記述されています。

本の 『5 生活面では「人間関係」がテーマに』 の『【異性との関係】押しの強い男性との間には少し距離をとる』における記述の一部(P90)を次に引用します。

ADHDの女性は、押しの強い男性に恋愛感情を抱くと、相手に依存してしまい、振り回されることがあります。そういう相手との付き合い方には注意が必要です。

⑨ 女性の視点からのADHDとアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症、ASD)との違いに関して、本の『【よくある悩み】気配りができず、同性に嫌われる』における記述の一部(P15)及び『【よくある悩み】時間がないのに用事をつめこんでしまう』における記述の一部(P17)をそれぞれ次に引用します。

アスペルガー症候群の場合
ADHDの女性は相手の気持ちがわかっていても、気配りでミスをしがちです。アスペルガー症候群の場合、他の人の気持ちがわからず、関わり方にも悩みます。

注:この引用は「気配り」に関するものです。

アスペルガー症候群の場合
時間を量の概念で考えることが苦手です。時間を数値としてとらえ、予定の時刻ちょうどに活動しようとして、1分ずれただけでもパニックになることがあります。

注:i) この引用は「時間の管理」に関するものです。 ii) この引用に関連して、同 P17 に次に引用するADHDの記述があります。

女性では思考の多動がとくに目立つ場合も
時間がまもれない、予定がこなせないという悩みは、ADHDの男女に共通してみられるものです。
ただし、女性では、一見落ち着いているようで、実は時間にルーズというタイプの人がよくみられます。
言動の多動性は弱く、思考の多動性が強く出ているのです。

(b)岩波明著の本、『発達障害と生きる どうしても「うまくいかない」人たち』(2014年発行)の 第一章 発達障害とは何か の「ADHDの四〇代女性」における記述(P50~P53)を次に引用します。加えて、同本の第三章 発達障害の多発家族 の「ASDとADHDが併存している二〇代女性」における記述(P135~P137)を以下に引用します。

ADHDの四〇代女性
次に示すのは、発達障害の専門外来を受診した四〇代の女性例である。初診時、彼女は次のように語った。
「うつ病だと思ってクリニックに受診をして、産後も通っていました。うつが悪化したので、昨年秋に先生に薬を出してほしいと言ったら、うつ病じゃないと思うと言われました。そしていろいろテストを受けて、軽度発達障害の疑いがあるということでした。でも確実な診断はわからないので、こちらの先生にお願いしてるとのことで、今日来ました」
彼女は自分の悩みを次のように述べた。
「日頃は集中力が持てない。すぐ忘れる、片づけができない、計画ができない。いろいろあります」
「現在の悩みは、人との会話がうまくできないことです。質問に対して違うことを言ったり、ずれてる時がある」
「物覚えが悪く、料理も毎日レシピを見ないとできない、思考回路が悪い、ほかにも、いろいろあります」
担当医からの紹介状には次のように記載されていた。

[病名]発達障害(アスベルガー症候群)の疑い
[症状経過]リストカット、摂食障害で平成一七年ごろより、心療内科に通院、その後、当院転医となりました。一時期は落ち着き、通院なしの期間もありました。結婚していますが、二歳の息子の育児や料理ができない(調味料の数が多いと混乱し、メニューがたてられない)ことが現在の問題です。

また、心理士からの経過報告には次のように述べられていた。

主訴は、”子育てが大変で 家事もほとんどできない。夫は協力してくれているが、夫に感情を持てない。子供を乳児院に預けたほうがいいのではないか、と考えるくらい、思いつめてしまう”。
[生活歴など]岡山県出身。子供の頃はいじめられていた。また、鉄砲玉と言われ、忘れ物も多かった。母親から、授業参観に行ったら患者一人教室でウロウロしていたとのこと。苦手科目は算数。
中学に入って、二年生で友人ができたが、独占欲が強かっだのか友人関係が安定せず、友人がほかの子と遊ぶと自分の具合が悪くなり、神経性胃炎になった。
高校卒業後、コンピューターの専門学校に進学し卒業。二二歳で就職(商社の経理)、二三歳で父の転勤についていき、東京に転居。これまでと同じ会社の東京店に入社した。だが、事務を一人でやらなくてはいけなくてミスが怖くなったこと、正社員として縛られるのが嫌になったこと、バイトをして友人を作りたくなったことなどをきっかけに退職している。
ファミリーレストランで一ヵ月アルバイトをした後、二六歳から二八歳まで皿洗い、三〇歳までは居酒屋のアルバイトをしていた。三〇歳から三七歳までは一般事務でパソコン入力のアルバイトをしたが、単純作業で、小さい会社で社長と社員がいい人だったので、長く続いた。
[家族]三年前に結婚し退職。現在、専業主婦。夫、長男と三人暮らし。長男は一歳半検診、二歳健診で、こだわりの強さや、グルグル回るものをずっと見つめていることなどを指摘され、保健師のすすめで、市が主催する発達障害の子供のグループに月二回通所している。
岡山県の実家には両親がおり、「自分自身、実家への依存が強く、現在は月一回実家に帰っているが、本当は、できれば夫と別居して実家で両親と一緒に住みたい」という気持ちを訴える。
この症例の経過をみると、小児期から鉄砲玉と言われるなど落ち着きがなく、忘れ物、落とし物が多かった点から、「多動」と「不注意」がみられたことがわかる。また就職後も、集中力不足のため単純作業が十分にこなせないことから、成人後も「不注意」の症状が持続しているといえる。以上の症状と経過より、ADHDと診断が可能であり、比較的典型的なケースと思われる。三五歳、三九歳時にうつ状態となったため精神科を受診したが、これまで、正しい診断、治療とも行われていなかった。

ASDとADHDが併存している二〇代女性
ここでASDとADHDが併存しているケースを取り上げる。
寺内さんは、二九歳の女性である。小児期より孤立しやすかった。友達はほとんどできず、仲間に入れてもらおうとして断られることも多かった。また、グループで何かをすることが苦手だった。
人との暗黙の了解というものがわからなかった。自分としては周囲に気を使っているつもりだったが、気遣いが的外れで相手に通じないことも多かっだ。
いつもいじめの被害者だった。それに加えて小児期からケアレスミスが多く、また落ち着かずにじっとしていられないこともしばしばみられた。さらにこの頃より、確認癖も出現している。
子供の頃からずっと、今でも、感覚の過敏さが続いていた。スクーターの排気音、甲高い笑い声、エアコンの音などが苦手だった。光にも過敏で、蛍光灯もLEDも嫌いだった。さらに電車などで他人の身体と触れるのも苦手で、隣に座った人のヒジなどが触れそうになるとすぐに避けるようにしている。
中学生のときに、不安感が強くなり、初めて精神科を受診している。一時、不登校にもなった。大学卒業後は就職したが、対人関係が不得手で、どこでも仕事が長続きしなかった。
過去の嫌なことを思い出し、どうしていいのかわからなくなってパニック状態となることもよくある。
自ら発達障害ではないかとある精神科クリニックを受診したが、発達障害の診断は否定された。次に示すのは、受診したクリニックから他院の発達障害外来に宛てた紹介状の一部である。

「……これまでの病歴や心理検査からは発達障害ははっきりせず、境界例~精神病水準を疑っています。ご本人に発達障害は考えにくいとお伝えしたところ、納得されず貴院への転院を希望されました」

寺内さんは、これまでの通院先においでは発達障害についてきちんと診断されなかったが、ASDとADHDの両方の症状がみられている。対人関係の障害、確認癖、感覚過敏などはASDの症状であるが、不注意と多動はADHDの症状であり、彼女においでは両疾患が併存していると考えられた。
このように同一個人におけるASDとADHDの併存は、臨床の現場ではしばしばみられるものである。しかし一方で、ASDとADHDの症状には類似性が大きく、両者を混同することも珍しくない。ASDによる社会性の障害をADHDの不注意によるものと誤解すること、あるいはADHDの衝動性をASDの対人関係の未熟さによるものと見誤ることもあり、惧重な評価が必要である。

注:i) 引用中の「境界例」及び一部が「境界例」と重なる「境界性パーソナリティ障害」については、共に他の拙エントリのリンク集(用語:「境界性パーソナリティ障害」)を参照して下さい。 ii) 引用中の「境界例~精神病水準」に関連するかもしれない「かつて境界例とは、精神病圏と神経症圏の境界にあるものを示していた」については、他の拙エントリのここを参照して下さい。 iii) 引用中の「ASDとADHDの併存は、臨床の現場ではしばしばみられる」に関連する「ADHDとASD(PDD)の併病割合」については、ここを参照して下さい。

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注:本エントリは仮公開です。予告のない改訂(削除、修正、追加、公開日や修飾の変更等)を行うことがあります。

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*1:又は感覚のアンバランス

*2:「社会的(語用論的)コミュニケーション症」は、「ソーシャルコミュニケ―ション障害」の最新名です

*3:社会的(語用論的)コミュニケーション症のみならず自閉スペクトラム症の関連キーワードでもあります

*4:次の(3)項は本田秀夫医師に関連したリンク集でもあります

*5:追加のキーワード:「常識がない」「気が利かない」「協調性がない」「チームワークがとれない」「感覚(思考)がずれている」「どこかおかしい」「理解できない」

*6:認知様式としてはトップダウン処理とボトムアップ処理があります

*7:ここはASDとADHDの両者に関係するリンク集です

*8:目覚しい成果をあげる場合が示されています

*9:全方位に注意を分散させてしまうことにより一方的に話してしまうことがあります

*10:これはASDとADHDの両者に関係するリンクです

*11:これに関する注意点の例はツイートを参照して下さい

*12:又は発達性トラウマ症候群(発達性トラウマ障害)

*13:ちなみに、化学物質不耐症における情動調節はここ を参照して下さい。

*14:本エントリでは、主に大人の自閉スペクトラム症のアスペルガータイプ(アスペルガー症候群)を念頭において作成されています。加えて、WEBページ『「発達障害は親のせい」はデマ。発達障害の診断は、これからを考えるためのステップ』で示されているように、「これからを考えるための重要なステップ」として、「発達障害の診断」があることに本エントリ作者は賛成します。ちなみに、星野仁彦著の本、「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」(2015年発行)の「アスペルガー症候群(AS)」(P74~P75)において、次に引用する(『 』内)アスペルガー症候群の症状が示されています。 『①社会性の問題 ②コミュニケーションの問題 ③想像力の欠如(こだわり傾向)の問題 ④感覚過敏・過鈍性の問題 ⑤協調運動の不器用さの問題』 このうち、①~③はウィングの「三つ組み」(リンク集参照)に相当します。一方、大人のADHDについては、※1[追加1]及び[追加2]を参照して下さい。

*15:従って、嗅覚過敏(他の拙エントリの「※2」参照)とはあまり関係しないADHDの優先度は若干低くなっています。

*16:このエントリを読むと、ひょっとしてADHDもスペクトラム(連続体)なのかもしれないと本エントリ作者は思いました。ちなみに、ASDのスペクトラム(連続体)については、例えば次の pdfファイルを参照して下さい。「発達障害から発達凸凹へ」の「2. ASD の臨床」項

*17:ちなみに、DSM-5に関するWEBページの例は次に示します。「DSM-5と精神医学的診察についての私見

*18:ちなみに、[ご参考1]はASDのアスペルガータイプ、[ご参考2]及び[ご参考3]はMCS又はシックハウス症候群に関する記述です

*19:両WEBページにおいては、慣れ(馴化、habituation)、ADHD及び学習障害(LD)についての内容も含みます。ちなみに、化学物質不耐症において、感作と馴化を対比させた論文については他の拙エントリのここを参照して下さい。

*20:デカップリングには、分離や不連動との意味があるようです

*21:これら以外にも「並列処理の困難」、「スケジューリングが苦手」等の項目があります。

*22:参考として、[a]米田衆介著の本、「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか? 大人の発達障害を考える」においては、さまざまな症状とそれが生じる理由の項目として、 ①話を適切に要約できない ②他人の「曖昧な」指示を理解できない ③なぜか相手を怒らせてしまう ④相手に合わせることができない ⑤可愛げがない ⑥ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない が挙げられています。ちなみに、上記「⑥ミスや失敗が何を引き起こすかわかっていない」は、ここにその内容を引用しています。加えて、[b]備瀬哲弘著の本、「大人のアスペルガー症候群が楽になる本」においては、アスペルガー症候群の当事者が取り組むべき共生のためのポイントの項目として、①他者からの「理解と配慮」が必要かを検討する ②自己診断に固執しない ③受診動機を整理する ④他人の視線で自分についてモニターする ⑤苦手な面は目標設定を下げる ⑥立場によって「理解と配慮」は異なる ⑦怒りをコントロールする が挙げられています。ちなみに、上記「⑦怒りをコントロールする」は、ここにその内容を引用しています。さらに、[c]杉山登志郎著の本、「発達障害のいま」においては、大人の発達障害の特徴の項目として、 ①二つのことが一度にできない ②予定の変更ができない ③スケジュール管理ができない ④整理整頓ができない ⑤興味の偏りが著しい ⑥細かなことに著しくこだわる ⑦人の気持ちが読めない ⑧過敏性をめぐる諸々の問題 ⑨特定の精神科的疾患の注意[引用者の注:うつ病が多い] ⑩クレーマーになる が挙げられています。ちなみに、上記「⑤興味の偏りが著しい」、「⑥細かなことに著しくこだわる」及び「⑩クレーマーになる」は、それぞれここここ及びここにその内容を引用しています。

*23:精神疾患の例:境界性パーソナリティ障害や統合失調症(これらは引用及び疾患の説明としての他の拙エントリのリンク集[用語:「境界性パーソナリティ障害」又は「統合失調症」]をそれぞれ参照)、解離性障害・複雑性PTSD(これらは共に他の拙エントリのリンク集[用語:「解離(解離性障害)」又は「複雑性PTSD」]参照)、PTSD(他の拙エントリのリンク集[用語:「PTSD」]参照)、パニック症の残遺症状(他の拙エントリのリンク集[用語:「パニック障害の残遺症状」]参照)、「仮面うつ病」(WEBページ「プライマリケア医への助言:うつ病診療のコツ」参照)

*24:タイムスリップ現象はフラッシュバックと酷似した現象のようです

*25:一方、本の「第1章 女性はなにより人間関係に悩む」における「よくある悩み」の見出しは、引用した『「ガールズトーク」についていけない』(P14)の他に、『友達に嫌われても、理由がわからない』(P16)、『「女の子らしくしなさい」と叱られる』(P18)、『急に感情がダウンするときがある』(P20)、『人にだまされ、性的な被害にあう』(P22)があります。加えて、星野仁彦著の本、「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」(2015年発行)の「プロローグ あなたの心に、こんなモヤモヤはありませんか?」(P7~P8)において、次に示す項目が示されています。ちなみに、この本ではADHD及びアスペルガー症候群をカバーしているようです。 「家事がうまくできません」「片づけができません」「お金や書類の管理ができません」「子育てが苦手です」「夫とうまくいきません」「女性同士の人間関係がうまくいきません」「忘れもの、なくしものをよくします」「時間が守れません」「パート、アルバイト、仕事がうまくいきません」「飲酒や衝動買いがやめられません」「男性との距離感がわかりません」「生理前になるとイライラします」及び「キレたり、落ち込んだり、パニックになったりします」

*26:語用論については、a) 次のWEBページを参照して下さい。 「語用論 - 脳科学辞典」 b) 加えて、金沢大学子どものこころの発達研究センター監修、竹内慶至編の本、「自閉症という謎に迫る 研究最前線報告」(2013年発行)の 第1章 自閉症は治るか――精神医学からのアプローチ(著者:棟居俊夫) の「落語と自閉症」における記述(P33)から次に引用します(『 』内)。『語用論は、ことばと状況文脈の関連づけ、ことばに込められた話し手の意図、それに会話者同士の協力といった現象を取り扱う。』 c) さらに、「語用論」が苦手であれば、はっきり言わなければわからないことについては、引用はしませんが、宮尾益知、滝口のぞみ著の本、「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」(2017年発行)の 第5章 ASDの部下は叱られることが大嫌い の『「語用論」が苦手ではっきり言わなければわからない』項(P103~P106)において説明があります

*27:この本の13章の境界性パーソナリティ障害の鑑別においては、女性例に特化しているようです。その他の部分でも、上記女性の著者を含む本を引用する等、女性例を重視しているようです。

*28:注:この本の著者は男性医師です。一方、以下の引用で示す内容は、この13章のタイトルにもあるように、境界性パーソンリティ障害(BPD)的な様態に見えるかもしれません。

*29:ちなみに、この本の裏表紙に記載されている「人間関係の暗黙のルール」の項目は次の通りです。 1 ルールは絶対でない。状況と人によりけりである。 2 大きな目でみれば、すべてのことが等しく重要なわけではない。 3 人は誰でも間違いを犯す。一度の失敗ですべてが台無しになるわけではない。 4 正直と社交辞令を使い分ける。 5 礼儀正しさはどんな場面にも通用する。 6 やさしくしてくれる人がみな友人とはかぎらない。 7 人は、公の場と私的な場とでは違う行動をとる。 8 何が人の気分を害するかをわきまえる。 9 「とけ込む」とは、おおよそとけ込んでいるように見えること。 10 自分の行動には責任をとらなければならない。

*30:ちなみに、apital サイトにおける女性を主に対象としたADHDに関するWEBページは、[追加2]を参照して下さい

*31:ちなみに、apital サイトにおける女性に限らないADHDに関するWEBページは、※1を参照して下さい

*32:ちなみに、女性の発達障害についての本には「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」があります。より詳細な紹介はここにおける脚注を参照して下さい。